説明

非対称全二重伝送装置

【課題】2本の信号線を備えたシールド付差動伝送路を用いて、上下非対称の信号を安価な装置で確実に全二重伝送可能な「非対称全二重伝送装置」とする。
【解決手段】2本の信号線とこれを覆う外皮導線からなるシールド付信号伝送路を用い、2本の信号線により差動信号で第1の信号を送信し、受信部でこれを受信する。この2本の信号線における差動信号受信部側で、他の信号をSS変調部で変調して第1のディファレンシャルモードチョークを介し2本の信号線にコモンモードで出力する。この信号を第2のディファレンシャルモードチョークを介して受信し、SS復調部で復調して入力する。受信側にコモンモードチョークを備え、2本の信号線により第1の信号を差動信号送信部から差動信号受信部に伝送し、同時に同じ2本の信号線を用いて第1の信号よりもデータ量の少ない第2の信号を、SS変調復号信号入力部に逆方向に伝送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は従来よりデータの高速信号伝送手段として広く用いられているLVDSによって双方向伝送を行うに際して、例えばカメラのデータの高速伝送に対して、カメラの制御信号のような高速伝送を必要としない場合のように、非対称伝送を行うとき、上下別回線を用いることなく全二重伝送を行うことができるようにした非対称全二重伝送装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりデータの高速信号伝送手段として、数100Mbps以上の高速の信号伝送を行うために、振幅を数100mVに減らした入出力信号レベルの仕様として、LVDS(Low voltage differential signaling)方式の信号伝送手段が用いられている。この手法は低電圧差動伝送を行うものであり、パラレル信号を低電圧差動のシリアル信号に変換して伝送を行う。この手法では低振幅としたことによって雑音の影響を受けやすくなる点を、シングル・エンド伝送ではなく差動伝送にすることによって解決している。このLDVSの技術はノイズ及び不要輻射を低減し、伝送線を削減することができ、機器内部接続を初め、液晶ディスプレイやデジタルインターフェースとして、標準的な規格となっている。
【0003】
このようなLVDSによって信号の授受を行う2つの機器間で双方向に伝送を行う、LDVSの双方向伝送に際しては、例えば車両に搭載して車外を撮影するカメラと、このカメラの撮影データを取り込んでモニタに表示し、同時にカメラ操作信号をカメラに対して出力する制御ユニットとの間で前記のようなLDVSの双方向伝送を行うとき、上下別回線を用いて常時双方向伝送を行う全二重伝送方式によって実現することができ、その外、1つの回線を時分割で上下伝送に切り換える半二重伝送方式によっても実現することができる。
【0004】
なお、画像等の情報の入出力を行うデジタルカメラ等と、このカメラにデータ要求信号線およびデータ出力信号線を介して接続し、画像等の情報を授受する端末との間において、さらに信号線を増やすことなく、端末からカメラの画像データ送信以外の動作を制御することができるようにした技術は特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2003−230041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のように、データの高速信号伝送手段として用いられているLVDSによって双方向伝送を行うに際して、上下別回線を用いた全二重伝送を行う方式と、1つの回線を時分割で上下伝送に切り換える半二重伝送方式が存在するが、例えばカメラとこのカメラの画像データを受信し、またカメラに対して制御信号を送信するカメラ制御ユニットとの間の伝送において、カメラからカメラ制御ユニットへの伝送は主として映像信号であって、300〜700Mbpsであり、逆方向はカメラ制御信号として数Kbpsに過ぎず、非対称伝送となっている。
【0006】
そのため、カメラとカメラ制御ユニットとの間で、上下別回線を用いると、カメラ制御信号のデータ量が極めて少ないので過剰な設備となり、設備がオーバーヘッド状態となってコストパーフォーマンスの面で大きな損失を生じる。その対策として1つの回線を時分割で上下伝送に切り換える半二重伝送方式を用いると、時分割処理のための特殊な伝送LSIを用いる必要があり、汎用品を用いることができないことから高価なものとならざるを得ない。
【0007】
また、例えば車両には車両制御等のために極めて多数の信号線が用いられており、それらの重量が大きくなると共に、互いの線のノイズの影響をできる限り無くすためにも、信号線を減少させることが重要となっている。そのため、機器間を全二重伝送するときでも、できる限り信号線を増加させることなく、データの送受信を行うことができる手法の開発が望まれている。
【0008】
したがって本発明は、2つの機器間を信号線2本とシールド線を用いる伝送において、例えばカメラからのデータの高速伝送に対して、カメラの制御信号のような高速伝送を必要としない場合のように、信号伝送の上下が非対称であるとき、通常のシールド付伝送線を用いて、制御ユニット側から機器に対する信号伝送、及び機器から制御ユニットに対する信号伝送を同時に行うことができる全二重伝送を可能とし、安価な装置で確実に機器の作動を行うことができるようにした非対称全二重伝送装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る非対称全二重伝送装置は、前記課題を解決するため、2本の信号線とこれを覆う外皮導線からなるシールド付信号伝送路を用い、前記2本の信号線により差動信号で第1の信号を送信する差動信号送信部と、前記差動信号送信部からの第1の信号を受信する差動信号受信部と、前記2本の信号線における前記差動信号受信部側に接続し、SS変調用信号をSS変調部で変調して第1のディファレンシャルモードチョークを介し2本の信号線にコモンモードで出力するSS変調用信号出力部と、前記2本の信号線における前記差動信号送信部側に接続し、第2のディファレンシャルモードチョークを介して前記第2の信号を受信しSS復調部で復調して入力するSS復調信号入力部と、前記2本の信号線から差動信号受信部に入力するコモン信号を阻止するコモンモードチョークとを備え、前記2本の信号線により第1の信号を差動信号送信部から差動信号受信部に伝送し、同時に同じ2本の信号線を用いて前記第1の信号よりもデータ量の少ない第2の信号を、SS変調信号出力部からSS変調復号信号入力部に逆方向に伝送することを特徴とする
【0010】
本発明に係る他の非対称全二重伝送装置は、前記非対称全二重伝送装置において、前記第1のディファレンシャルモードチョークと2本の信号線との各接続部において、該接続部と第1のディファレンシャルモードチョークとの間にDCカットコンデンサを備え、前記SS復調信号を入力する前記第2のディファレンシャルモードチョークと2本の信号線との各接続部において、該接続部と第2のディファレンシャルモードチョークとの間にもDCカットコンデンサを備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る他の非対称全二重伝送装置は、前記非対称全二重伝送装置において、前記2本の信号線における、SS信号を入力する前記第2のディファレンシャルモードチョーク接続部と、差動信号送信部との間に、差動信号送信部に入力するコモン信号を阻止するコモンモードチョークを備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る他の非対称全二重伝送装置は、前記非対称全二重伝送装置において、前記第2のディファレンシャルモードチョークが接地するアース線におけるSS信号復調部の接続部と、該第2のディファレンシャルモードチョークとの間にDCカットコンデンサを備えたことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る他の非対称全二重伝送装置は、前記非対称全二重伝送装置において、前記SS変調部と前記第1のディファレンシャルモードチョークとの間にDC電源を接続して前記2本の信号線にDC電源電流を出力し、前記第2のディファレンシャルモードチョークからSS復調部へ至る信号線から前記電源電流を入力することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る他の非対称全二重伝送装置は、前記非対称全二重伝送装置において、前記SS変調部と前記DC電源接続部との間にDVカットコンデンサを備え、前記第2のディファレンシャルモードチョークからSS復調部へ至る信号線において、電源電流を入力する部分とSS復調部の接続部との間にもDCカットコンデンサを備えたことを特徴とする。
【0015】
本発明に係る他の非対称全二重伝送装置は、前記非対称全二重伝送装置において、前記2本の信号線におけるコモンモードチョークと前記第1のディファレンシャルモードチョーク接続部との間の各線にDCカットコンデンサを備え、前記2本の信号線における前記第2のディファレンシャルモードチョーク接続部と差動信号送信部との間の各線にもDCカットコンデンサを備えたことを特徴とする。
【0016】
本発明に係る他の非対称全二重伝送装置は、前記非対称全二重伝送装置において、前記外皮導線の片側端部を差動信号受信部における回路と共に接地し、前記外皮導線の他側端部を差動信号送信部における回路と共に接地したことを特徴とする。
【0017】
本発明に係る他の非対称全二重伝送装置は、前記非対称全二重伝送装置において、前記差動信号送信部からは、DC抑圧変調部で変調した信号を送信し、前記差動信号受信部ではこれを受信してDC抑圧復調部で復調することを特徴とする。
【0018】
本発明に係る他の非対称全二重伝送装置は、前記非対称全二重伝送装置において、前記外皮導線の片側端部を差動信号受信部に至る前にDCカットコンデンサを介して接地すると共に、他側端部を差動信号送信部に至る前にDCカットコンデンサを介して接地し、前記SS変調部と前記第1のディファレンシャルモードチョークとの間にAC電源を接続して前記2本の信号線にAC電源電流を出力し、前記第2のディファレンシャルモードチョークからSS復調部へ至る信号線から前記電源電流を入力することを特徴とする。
【0019】
本発明に係る他の非対称全二重伝送装置は、前記非対称全二重伝送装置において、前記AC電源接続部と前記第1のディファレンシャルモードチョークとの間にDCカットコンデンサを備え、前記第2のディファレンシャルモードチョークとAC電源入力部との間にもDCカットコンデンサを備えたことを特徴とする。
【0020】
本発明に係る他の非対称全二重伝送装置は、前記非対称全二重伝送装置において、前記2本の信号線に対する前記第1のディファレンシャルモードチョーク接続部と前記第2のディファレンシャルモードチョークとの間の各信号線に、それぞれの接続部に近接してDCカットコンデンサを備えたことを特徴とする。
【0021】
本発明に係る他の非対称全二重伝送装置は、前記非対称全二重伝送装置において、前記差動信号送信部からは、DC抑圧変調部で変調した信号を送信し、前記差動信号受信部ではこれを受信してDC抑圧復調部で復調することを特徴とする。
【0022】
本発明に係る他の非対称全二重伝送装置は、前記非対称全二重伝送装置において、前記全二重伝送装置を車両搭載機器に用いたことを特徴とする。
【0023】
本発明に係る他の非対称全二重伝送装置は、前記非対称全二重伝送装置において、前記全二重伝送装置をカメラと該カメラから送信される映像信号を処理し、カメラに制御信号を出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
2つの機器間を信号線2本とシールド線を用いる伝送において、例えばカメラからのデータの高速伝送に対して、カメラの制御信号のような高速伝送を必要としない場合のように、信号伝送の上下が非対称であるとき、通常の2本の信号線の周囲をシールド被覆したシールド付伝送線を用いて、制御ユニット側から機器に対する信号伝送、及び機器から制御ユニットに対する信号伝送を同時に行うことができる全二重伝送を可能とし、安価な装置で確実に機器の作動を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は2本の信号線とそのシールド線を用いて、上下非対称の信号を安価な装置で確実に全二重伝送するという目的を、2本の信号線とこれを覆う外皮導線からなるシールド付信号伝送路を用い、前記2本の信号線により差動信号で第1の信号を送信する差動信号送信部と、前記差動信号送信部からの第1の信号を受信する差動信号受信部と、前記2本の信号線における前記差動信号受信部側に接続し、SS変調用信号をSS変調部で変調して第1のディファレンシャルモードチョークを介し2本の信号線にコモンモードで出力するSS変調用信号出力部と、前記2本の信号線における前記差動信号送信部側に接続し、第2のディファレンシャルモードチョークを介して前記第2の信号を受信しSS復調部で復調して入力するSS復調信号入力部と、前記2本の信号線から差動信号受信部に入力するコモン信号を阻止するコモンモードチョークとを備え、前記2本の信号線により第1の信号を差動信号送信部から差動信号受信部に伝送し、同時に同じ2本の信号線を用いて前記第1の信号よりもデータ量の少ない第2の信号を、SS変調信号出力部からSS変調復号信号入力部に逆方向に伝送することにより実現した。
【実施例1】
【0026】
本発明の実施例を図面に沿って説明する。図1は本発明の第1実施例を示し、図示の例においては車両用に搭載したカメラの画像を取り込んでモニタに表示するときのように、カメラとこれを制御する制御ユニットとの間で差動伝送を行うときの例を示している。即ち、カメラ制御ユニット側(ECU側)に設けている映像信号を受信する差動信号受信部(差動Rx)1と、カメラ側に設けている映像信号を送信する差動信号送信部(差動Tx)2との間を、平衡伝送で映像データを送信するための2本の通信線と、これらの線の外周をシールドするシールド線によって接続している。このシールド線は差動信号受信部1と差動信号送信部2において各受信回路及び送信回路の接地電極と共に接地している。
【0027】
上記差動信号送信部2から差動信号受信部1に対する映像信号は、通常300〜700Mbpsと大容量の高速通信を行うものであり、この通信線においては主たるデータ伝送となる。この伝送路においては、例えばLVDS伝送では規格により100Ωと規定されているような終端抵抗4を設けている。
【0028】
本発明においては、前記のような例えばカメラの映像信号を送信する差動信号送信部2から、これを受信する差動信号受信部1に対し平衡伝送している伝送路を用いて、カメラの制御信号を車両側の制御ユニット側からカメラに対して、1〜16Kbps程度で信号を送信するため不平衡伝送路を追加設定して互いに逆方向の信号とするものであり、その不平衡伝送路では送信側でSS(スプレッドスペクトラム)変調を行い、受信側でこれをSS復調を行うようにしたものである。
【0029】
図1に示す例においてはカメラ制御ユニット側(ECU側)からカメラ側にカメラ制御信号を送信するため、SS変調用信号出力部13からカメラ制御信号をコモン伝送信号として出力し、SS変調部9でSS変調を行い、ディファレンシャルモードチョーク10を介して前記シールド付差動伝送路6の2本の信号線に出力する。SS変調部9によるSS変調は現在広く用いられているスペクトラム拡散(Spread Spectrum)通信を行うものであり、広いスペクトラム(周波数分布)を有し、単位周波数当たりの電力が小さくなるため低電力密度であり、そのため相手に干渉を与える可能性が少なく、被干渉耐性がある。また、進行伝送中にノイズが混入しても、復元時にノイズが拡散されるため、通信への影響が少ないという特性を備えており、本発明のような映像信号を平衡伝送している伝送路中に信号を逆方向に出力してこれを受信するのに特に適している。
【0030】
SS変調による通信には変調された情報信号を疑似雑音発生器に加え、2相または4相の移送変調で伝送する直接拡散方式(DS式)、疑似雑音発生器で周波数をホップさせる周波数跳躍方式(FH式)、疑似雑音符号系列により送信機を断続するパルス変調方式である時間跳躍方式(TH式)、これらの方式を適宜組み合わせて用いるハイブリッド方式等が存在するが、本発明においてはこの中でも構成が簡単であり、製作が容易で安価な直接拡散方式(DSSSS:Direct Sequential Spread Spectrum)で充分機能させることができる。
【0031】
図1においてSS変調部9で変調したカメラ制御信号はディファレンシャルモードチョーク10を介して信号線に出力する。また、シールド付差動伝送路6におけるこのディファレンシャルモードチョーク10を結合する部分より差動信号受信部1側にコモンモードチョーク3を設けている。本発明においてはこのようにコモンモードチョークコイル及びディファレンシャルモードチョークを用いることにより同じ伝送路を上下2つの信号を伝送を確実に行わせようとするものであるので、以下にこれらのチョークコイルについて説明する。
【0032】
信号の伝送路には周知のように、図5(a)に示すような2本の信号線において互いに逆方向に伝送するディファレンシャルモード(ノーマルモード)と、同図(b)に示すような、2本の信号線において互いの同方向に伝送するコモンモードとが存在し、コモンモードにおいては接地用のGND線をもつこととなる。このような伝送路において、ノイズはそれぞれ各図に示すようなノイズ源から入り込み、コモンモードにおいては接地部分において浮遊容量をもつこととなる。
【0033】
図6に示すようなディファレンシャルモードとコモンモードの伝送路におけるノイズ対策として、チョークコイルを通すことによりノイズを減少させる手法が広く用いられている。この手法においては同図(a)のディファレンシャルモードでのチョークコイルはディファレンシャルモードチョークコイルを用い、同図(b)のコモンモードにおいてのチョークコイルはコモンモードチョークコイルを用い、それぞれのチョークコイルの巻き線方向が異なっている。
【0034】
これらのコイルの作動原理を図7に示している。即ち同図(a)には2本の信号線において互いに同方向に信号が伝送するコモンモードにおいて、コアに対する巻き線方向を異ならせた場合を示し、同図(b)には2本の信号線において互いに逆方向に信号が伝送するディファレンシャルモードにおいて、コアに対する巻き線方向を異ならせた場合を示している。
【0035】
この場合は同図にコアの矢印で示すように、同図(a)のコモンモードにおいてはコアに発生する磁束は急激な電流変化に対しては電流を阻止するブレーキの役割を果たし、したがってこのようなノイズが入ってきたときにはこのチョーク作用によってノイズの進入を阻止することができる。それに対して同図(b)のディファレンシャルモードにおいてはコアに発生する磁束は互いに打ち消しあい、送受信する信号に影響を与えることが無くなる。したがってコモンモードにおいては前記のようなコモンモードチョークを用いてノイズ対策を行い、その際回路図では同図(c)のように記載し、巻き線方向が異なるコイルを用いていることを示している。
【0036】
一方図7(d)には2本の信号線において互いに同方向に信号が伝送するコモンモードにおいて、コアに対する巻き線方向を同方向とした場合を示し、同図(e)には2本の信号線において互いに逆方向に信号が伝送するディファレンシャルモードにおいて、コアに対する巻き線方向を同方向とした場合を示している。
【0037】
この場合は同図(d)のコモンモードにおいて、コアに発生する磁束は互いに打ち消しあい、送受信する信号に影響を与えることがない。それに対して同図(e)のディファレンシャルモードにおいてはコアに発生する磁束は急激な電流変化に対しては電流を阻止するブレーキの役割を果たし、したがってノイズが入ってきたときにはこのチョーク作用によってノイズの進入を阻止することができる。したがってディファレンシャルモードにおいては前記のようなディファレンシャルモードチョークを用いてノイズ対策を行い、その際回路図では同図(f)のように記載し、巻き線方向が同じ方向であることを示している。
【0038】
図1のSS変調部9からのSS信号は、上記のような作動を行うディファレンシャルモードチョーク10を介してSS変調部9からの信号を、差動信号送信部2から差動信号受信部1に映像信号を伝送している差動伝送路に出力する。このSS信号はカメラ側に設けた同様のディファレンシャルモードチョーク5を介してSS復調部8で復調し、コモンモード伝送復号信号としてSS復調信号入力部14で入力し、これをカメラの制御信号とする。なお図3の例では、SS復調部8の回路とは並列に終端抵抗7を設けている。
【0039】
また、SS変調部9からの出力を信号伝送線にディファレンシャルモードチョークコイル10から結合する部分に、DCカットコンデンサ11を設けると共に、信号伝送線から分岐させてディファレンシャルモードチョーク5を介してSS復調部8に出力する部分にも、DCカットコンデンサ12を設けている。更に、SS変調部9からのSS信号を、ディファレンシャルモードチョークコイル10及びDCカットコンデンサ11をそれぞれ介して信号線に接続している部分と、カメラ制御ユニットの差動信号受信部1に設けた終端抵抗10との間にコモンモードチョーク3を設けている。
【0040】
上記のように構成した図1の実施例においてはカメラ側からカメラ制御ユニット側への差動映像信号は、シールドされた2本の信号線により平衡伝送される。また、カメラ制御ユニット側のSS変調用信号出力部13からのカメラ制御信号は、前記のようにディファレンシャルモードチョークコイル4とDCカットコンデンサ11を介して前記差動伝送路に出力するが、DCカットコンデンサ11により直流成分がカットされて信号線に出力する。それによりSS信号が映像信号中に混入して映像信号にノイズが混入することを防止できる。
【0041】
またディファレンシャルモードチョーク10によって、信号線を差動伝送している映像信号がノイズとしてカメラ制御信号の伝送系統に入ってくることを、前記図7(e)の態様によって防止することができる。なお、このディファレンシャルモードチョーク10は、カメラ制御信号がコモンモードにより伝送しているので、この信号に対して影響を与えないことは図7(d)のとおりである。これらのDCカットコンデンサ11、ディファレンシャルモードチョーク10の機能は、カメラ制御信号を受信するSS復調部8の入力段に設けたDCカットコンデンサ12及びディファレンシャルモードチョーク5においても同様である。
【0042】
シールド付差動伝送路6のカメラ制御ユニット側に設けたコモンモードチョーク3においては、前記のようにカメラ制御信号がSS変調されて差動伝送路にコモンモード伝送で入ってくる時これを阻止し、カメラ制御信号のカメラ側への送信を確実にすると共に、カメラ制御信号が映像信号へのノイズとなることを、前記図7(a)の態様により確実に防止する。なお、このコモンモードチョークは、通常の映像信号に対して影響を与えないことは図7(b)のとおりである。
【0043】
上記のようにして、本発明においては、2つの機器間を信号線2本とシールド線を用いる伝送において、前記のようにカメラからの映像信号の高速伝送に対して、カメラの制御信号のような高速伝送を必要としない場合のように、信号伝送の上下が非対称であるとき、通常の2本の信号線を備えたシールド付伝送線を用いて、制御ユニット側から機器に対する信号伝送、及び機器から制御ユニットに対する信号伝送を同時に行うことができる全二重伝送を、それぞれノイズとなることなく確実に伝送することができる、非対称全二重伝送装置とすることができる。
【0044】
本発明は更に種々の態様で実施することができ、前記図1の例においてはシールド付差動伝送路6における映像信号を送信する伝送路に、コモンモード伝送信号であるSS変調信号を伝送することによるノイズの影響を、カメラ制御ユニットにおける差動信号入力部1側に設けたコモンモードチョーク3によって防止する例を示したが、そのほか図2に示すように、差動信号送信部2側にも設け、カメラ側の制御回路に対する影響を防止するようにしても良い。また図2に示す例においては、ディファレンシャルモードチョーク5からSS復調部8への信号線にDCカットコンデンサ12を更に設けている。
【0045】
更に図3に示す例においては、カメラに対するDC電源電流をカメラ制御信号と共にカメラ側に送信する例を示している。即ちDC電源17を、SS変調した信号をDCカットコンデンサ20を介して出力している部分に接続している。この電源電流はSS変調信号と共にディファレンシャルモードチョーク10、シールド付差動伝送路6の信号線、ディファレンシャルモードチョーク5を通り、SS復調部8への信号のDCカットコンデンサ22の手前側から、カメラ電源部18に出力し、カメラに作動電流を供給している。
【0046】
図3に示す例においては、図1及び図2に示したディファレンシャルモードチョーク10と作動伝送路の信号線に対する接続部に設けたDCカットコンデンサ11の代わりに、その接続部とコモンモードチョーク3との間の各伝送線にDCカットコンデンサ19を設け、同様にディファレンシャルモードチョーク15と作動伝送路の信号線に対する接続部に設けたDCカットコンデンサ12の代わりに、その接続部と差動信号送信部2との間の各伝送線にDCカットコンデンサ21を設けており、このような回路によっても同様の作動を行うことができる。このように電源電流も特に別の線を用いることなく、供給することができるようになる。
【0047】
また、図3に示す例においては、カメラの映像信号に対してDC抑圧変調部24でDC信号を抑圧する変調を行い、これを差動信号送信部2から送信しする。これを受信する差動信号受信部1ではDC抑圧復調部23で復号し、カメラの撮影映像として用いる。このような差動伝送路6を伝送する差動信号に対してDC成分を抑圧する変調を予め行っておくことにより、更にSS変調信号の影響を少なくすることができる。
【実施例2】
【0048】
前記図1〜3の例においては、シールド付作動伝送路6のシールドの両端をそれぞれ差動信号受信部1と差動信号送信部2とに接続し、各部内の回路の接地端子と共に設置した例を示したが、その外に例えば図4に示すように、差動信号受信部1及び差動信号送信部2に至る手前側でシールドを剥がし、各端部においてシールド外皮DCカットコンデンサ30を介して接地するように構成する。その際にはこのシールド外皮DCカットコンデンサ30をバイパスする抵抗を設けても良い。
【0049】
前記図3に示した例においては、DC電源17からカメラに電源電流を供給する例を示したが、図4の実施例においてはAC電源35を用い、SS変調出力信号ととにDCカットコンデンサ31、ディファレンシャルモードチョーク10を通して差動伝送路と接続している。また、この接続部とカメラ側のディファレンシャルモードチョーク5が接続する部分の間の伝送線には、各々の接続部に近接してDCカットコンデンサ32及び34を設けており、カメラ側におけるディファレンシャルモードチョーク5からの出力がカメラ電源18に至る前の信号線にDCカットコンデンサ33を設けている。更にカメラ電源18は接地する。
【0050】
上記のような伝送路を構成することにより、特に車両搭載カメラに対して本発明を適用するときのように、グランド間で大きな電位をもつグランドオフセットの問題が顕著となり、そのグランドオフセットは数Vに達する場合もあるが、この実施例ではDCカットコンデンサの配置により送受信全体にわたってACカップルを構成し、シールド外皮のAC接地、及びAC電源電流の供給により更に確実にDCグランドループを無くすことができ、車載機器としても安心して用いることができる。
【0051】
このときACグランドループの形成によってSN比が低下することが懸念されるが、カメラからカメラ制御ユニットの高速伝送は差動伝送であり、またカメラ制御ユニットからカメラへの低速伝送はSS変調としたので、前記SN比の低下を改善することができる。
【0052】
また、図4に示す例においても、前記図3の例と同様に、カメラの映像信号に対してDC抑圧変調部24でDC信号を抑圧する変調を行い、これを差動信号送信部2から送信している。これを受信する差動信号受信部1ではDC抑圧復調部23で復号し、カメラの撮影映像として用いる。このような差動伝送路6を伝送する差動信号に対してDC成分を抑圧する変調を予め行っておくことにより、更にSS変調信号の影響を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施例のシステム構成図である。
【図2】同実施例の他の態様のシステム構成図である。
【図3】同実施例の更に他の態様のシステム構成図である。
【図4】本発明の他の実施例のシステム構成図である。
【図5】ディファレンシャルモードとコモンモードのノイズの態様を示す図である。
【図6】ディファレンシャルモードとコモンモードのノイズをカットするためのチョークコイルの差動態様を示す図である。
【図7】ディファレンシャルモードチョークとコモンモードチョークの、ディファレンシャルモードノイズとコモンモードのイズに対する差動態様を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 差動信号受信部
2 差動信号送信部
3 コモンモードチョーク
4 終端抵抗
5 ディファレンシャルモードチョーク
6 シールド付差動伝送路
7 終端抵抗
8 SS復調部
9 SS変調部
10 ディファレンシャルモードチョーク
11 DCカットコンデンサ
12 DCカットコンデンサ
13 SS変調用信号出力部
14 SS復調信号入力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の信号線とこれを覆う外皮導線からなるシールド付信号伝送路を用い、
前記2本の信号線により差動信号で第1の信号を送信する差動信号送信部と、
前記差動信号送信部からの第1の信号を受信する差動信号受信部と、
前記2本の信号線における前記差動信号受信部側に接続し、SS変調用信号をSS変調部で変調して第1のディファレンシャルモードチョークを介し2本の信号線にコモンモードで出力するSS変調用信号出力部と、
前記2本の信号線における前記差動信号送信部側に接続し、第2のディファレンシャルモードチョークを介して前記第2の信号を受信しSS復調部で復調して入力するSS復調信号入力部と、
前記2本の信号線から差動信号受信部に入力するコモン信号を阻止するコモンモードチョークとを備え、
前記2本の信号線により第1の信号を差動信号送信部から差動信号受信部に伝送し、同時に同じ2本の信号線を用いて前記第1の信号よりもデータ量の少ない第2の信号を、SS変調信号出力部からSS変調復号信号入力部に逆方向に伝送することを特徴とする非対称全二重伝送装置。
【請求項2】
前記第1のディファレンシャルモードチョークと2本の信号線との各接続部において、該接続部と第1のディファレンシャルモードチョークとの間にDCカットコンデンサを備え、
前記SS復調信号を入力する前記第2のディファレンシャルモードチョークと2本の信号線との各接続部において、該接続部と第2のディファレンシャルモードチョークとの間にもDCカットコンデンサを備えたことを特徴とする請求項1記載の非対称全二重伝送装置。
【請求項3】
前記2本の信号線における、SS信号を入力する前記第2のディファレンシャルモードチョーク接続部と、差動信号送信部との間に、差動信号送信部に入力するコモン信号を阻止するコモンモードチョークを備えたことを特徴とする請求項1記載の非対称全二重伝送装置。
【請求項4】
前記第2のディファレンシャルモードチョークが接地するアース線におけるSS信号復調部の接続部と、該第2のディファレンシャルモードチョークとの間にDCカットコンデンサを備えたことを特徴とする請求項1記載の非対称全二重伝送装置。
【請求項5】
前記SS変調部と前記第1のディファレンシャルモードチョークとの間にDC電源を接続して前記2本の信号線にDC電源電流を出力し、
前記第2のディファレンシャルモードチョークからSS復調部へ至る信号線から前記電源電流を入力することを特徴とする請求項1記載の非対称全二重伝送装置。
【請求項6】
前記SS変調部と前記DC電源接続部との間にDVカットコンデンサを備え、
前記第2のディファレンシャルモードチョークからSS復調部へ至る信号線において、電源電流を入力する部分とSS復調部の接続部との間にもDCカットコンデンサを備えたことを特徴とする請求項5記載の非対称全二重伝送装置。
【請求項7】
前記2本の信号線におけるコモンモードチョークと前記第1のディファレンシャルモードチョーク接続部との間の各線にDCカットコンデンサを備え、
前記2本の信号線における前記第2のディファレンシャルモードチョーク接続部と差動信号送信部との間の各線にもDCカットコンデンサを備えたことを特徴とする請求項5記載の非対称全二重伝送装置。
【請求項8】
前記外皮導線の片側端部を差動信号受信部における回路と共に接地し、
前記外皮導線の他側端部を差動信号送信部における回路と共に接地したことを特徴とする請求項1記載の非対称全二重伝送装置。
【請求項9】
前記差動信号送信部からは、DC抑圧変調部で変調した信号を送信し、前記差動信号受信部ではこれを受信してDC抑圧復調部で復調することを特徴とする請求項1記載の非対称全二重伝送装置。
【請求項10】
前記外皮導線の片側端部を差動信号受信部に至る前にDCカットコンデンサを介して接地すると共に、他側端部を差動信号送信部に至る前にDCカットコンデンサを介して接地し、
前記SS変調部と前記第1のディファレンシャルモードチョークとの間にAC電源を接続して前記2本の信号線にAC電源電流を出力し、
前記第2のディファレンシャルモードチョークからSS復調部へ至る信号線から前記電源電流を入力することを特徴とする請求項1記載の非対称全二重伝送装置。
【請求項11】
前記AC電源接続部と前記第1のディファレンシャルモードチョークとの間にDCカットコンデンサを備え、
前記第2のディファレンシャルモードチョークとAC電源入力部との間にもDCカットコンデンサを備えたことを特徴とする請求項10記載の非対称全二重伝送装置。
【請求項12】
前記2本の信号線に対する前記第1のディファレンシャルモードチョーク接続部と前記第2のディファレンシャルモードチョークとの間の各信号線に、それぞれの接続部に近接してDCカットコンデンサを備えたことを特徴とする請求項10記載の非対称全二重伝送装置。
【請求項13】
前記差動信号送信部からは、DC抑圧変調部で変調した信号を送信し、前記差動信号受信部ではこれを受信してDC抑圧復調部で復調することを特徴とする請求項10記載の非対称全二重伝送装置。
【請求項14】
前記全二重伝送装置を車両搭載機器に用いたことを特徴とする請求項1記載の車両搭載機器用非対称全二重伝送装置。
【請求項15】
前記全二重伝送装置をカメラと該カメラから送信される映像信号を処理し、カメラに制御信号を出力することを特徴とする請求項1記載のカメラ用非対称全二重伝送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−165043(P2009−165043A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2668(P2008−2668)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(000101732)アルパイン株式会社 (2,424)
【Fターム(参考)】