説明

非形質転換哺乳動物の乳腺における組換えタンパク質の製造法

本発明は非遺伝子導入マウスの乳腺から生物医薬品的に関心のあるタンパク質を製造する方法に関する。当該タンパク質をコードする遺伝子をアデノウイルスベクターを用いて乳腺上皮細胞に移入する。そのようなベクターは△E1△E3のような複製が欠損したアデノウイルスに基づいてもよく、又はアデノウイルスをコードするすべての又は殆どすべての配列が除去されたアジュバントに基づいてもよい。当該方法によって乳汁中に高い濃度の組換えタンパク質が生産でき、それによってその生物活性の形で、生物医薬品的に関心のあるタンパク質の大規模な製造が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳腺をバイオリアクターとして用い、組換えアデノウイルスを遺伝子移転のベクターとして用いて医薬品的価値がある生物活性を有するタンパク質の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの疾患の治療には生物活性のあるタンパク質の投与が必要である。これらの医薬品は長時間を要し、費用がかかるだけでなく、AIDS及び肝炎の原因のような感染性外的病因因子の伝播の危険性を伴うプロセスで血液又は組織から精製できる。
【0003】
DNA組換え技術の発展により、医薬品的価値があるタンパク質の製造のための宿主系としてバクテリア及び酵母を比較的安価に使用することが可能になった。それにもかかわらず、多くの場合、これらのタンパク質の生物活性はこれらの系のトランスレーション後の非効率なプロセッシングのために影響される。このために、多数の生物活性のあるタンパク質の製造には、高度な真核細胞の生合成装置を要する。この観点から、バキュロウイルス及び哺乳動物細胞に基づく系が実行可能な戦略になっている。それにもかかわらず、動物細胞の醗酵は高くつき、技術を要する工程である。
【0004】
遺伝子導入動物の乳腺のバイオリアクターとしての使用は上記の問題の可能性のある解決として確認されている。遺伝子導入の主な利点は、自然の生殖によって創始動物から新しい遺伝子導入母集団を創造する可能性に依存している。この技術の有望な見通しにもかかわらず、現在、より一般的な形でその使用を妨げている限界がある。具体的には、遺伝子導入動物が大きな農場の動物の中で生じた場合は、非常に限られた数の遺伝子導入世代Gの製造に多くの時間と努力を要する。遺伝子導入Gの僅かの割合だけが乳汁中に関心のあるタンパク質を商業段階に入るのを可能にする合理的な濃度で発現する。市場に入ることを可能にする適切な製造能力に達するまで、交配によって高濃度の発現を有するG系を繁殖するためにさらに長い時間が必要である。このスケールアップの期間中、遺伝子導入の子孫が最初の創始動物の濃度で外因性タンパク質を発現しない危険性もある。替わりの経路として、体細胞のクローニングによって、上記の制限の幾つかを克服できるが、この技術の高いコストと非効率性のために、それをより日常的で広く試みることができない。
【0005】
生物工場としての遺伝子導入哺乳動物の使用は、外因性遺伝子が、乳汁分泌中に乳腺上皮組織中だけに発現を可能にする制御配列に結合している、複合体発現カセットの構築を意味する。多くの場合、これらの制御配列は効率的に働かず、その結果、少量の組換えタンパク質が他の組織で合成され、動物の健康に有害な影響を与える。
【0006】
成長した動物における乳腺上皮(MGE)への遺伝子の直接移入は非常に有望な戦略である。この技術は、生物医薬品の製造コストを低減するだけでなく、これらを得るための必要な時間をかなり減らすことができる。MGEのin vivoでの形質転換は、動物の遺伝的背景に無関係に、且つ最小の技術的要求によって、多くの動物で行うことができる。
【0007】
Archerらの初期の研究(Proc Natl Acad Sci USA.1994,91(15):6840−4)で、ヒトの成長ホルモン(hGH)の遺伝子をヤギの乳腺上皮に移入するためにレトロウイルスベクターの使用の可能性が検討された。乳汁中にhGHが検出されたが、非常に低濃度であり、この発現は初日後、最初の濃度に低下した。
【0008】
米国特許第5,215,904号及び国際公開番号WO99/43795には、発明者がMGEの形質転換にレトロウイルスベクターを使用した方法が記載されている。MGEへの遺伝子の導入のための別法として欧州特許第725141,A4号には受容体介在エンドサイトーシス及び米国特許第5,780,009号にはポリカチオン及び/又は脂質に基づく複合体の使用が記載されている。これらの研究によって、処理した動物の乳汁中に関心のあるタンパク質を得ることを可能にするが、現時点までに報告された効率は非常に低く、得られたタンパク質濃度はmLあたりngの範囲であり、それはこの方法が、製造法において有用になるための重大な制約である。
【0009】
アデノウイルスベクターは活発に分裂しているかいないかにかかわらず、広範囲の細胞型を感染できる。一般的に、アデノウイルスベクターに含まれている導入遺伝子の発現は非常に健全である。感染すると、ウイルスはエピソーム(episomal)に留まり、従って発現は位置の影響を受けない。しかし、アデノウイルスベクターからの導入遺伝子の発現は約10日後に失われる。これは主として、発現したタンパク質に対して微生物によって生じた高い免疫反応による。
【0010】
より延長された遺伝子発現を得るために、ウイルスをコードする配列の殆ど又は全部が除かれた新しいアデノウイルスベクターが開発された(Robin J.Parksら、Proc Natl Acad Sci USA.1996,93(24):13565−70)。これらのベクターの増幅は生産細胞を必要なアデノウイルスタンパク質の全部を「in trans」で提供する第二のウイルスで同時感染することで達成される。この新世代のベクターはヘルパー依存性又はガットレス(gutless)と命名され、それらは、それぞれ、複製と包装に必要な要素、逆方向反復単位(ITR)及び包装配列だけを保持している。これらのベクターのクローニングの能力は36Kbまでであり、in vivo遺伝子治療アッセイにおいて非常に安定であることが示されている。
【0011】
アデノウイルスベクターがin vivoでマウスの乳腺上皮細胞に遺伝子を移入する能力がYangと共同研究者(Cancer Lett.1995,98(1):9−17)によって示されている。それ以降現在までに、MGEへの遺伝子の移入のためのアデノウイルスの使用について複数の研究が報告されているが、関心のある遺伝子の乳汁中での発現を標的にした研究は皆無である。
【0012】
アデノウイルスを生物活性のある化合物の製造のための道具として使用する可能性は国際公開番号WO97/17090に開示されている。それにもかかわらず、本文献ではMGEの形質転換の可能性が述べられているものの、実験データ及び結果はすべて組織培養サンプルのin vivoでの形質転換に焦点をあてており、それらには、乳腺上皮細胞から構成されたものはない。
【0013】
EGMのアデノウイルスによる感染を記載している国際出願公開番号WO97/17090に開示されている発明の唯一の具体化は乳汁産生ウシの乳腺への組換えアデノウイルスベクターの注入を意味する。それにもかかわらず、この方法では、感染のレベル、従って組換えタンパク質の製造レベルはかなり低く、従ってMGEのアデノウイルスによる形質転換が乳汁中での生物活性医薬品の製造のための実行可能な別法を構成できることを裏付ける証拠を提供していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は非遺伝子導入マウスの乳汁中に高濃度の異種タンパク質を製造すること可能にする方法に関する。より具体的には本発明はMGEの細胞に外部遺伝子を移入するための△E1△E3型ヘルパー依存性のアデノウイルスベクターの使用に関する。このようにして形質転換された細胞は生物活性のあるタンパク質を合成し、乳汁中に分泌する。
【0015】
従って、非遺伝子導入哺乳動物の乳汁中に大量の生物活性のあるタンパク質の複合体を製造するための簡単で、且つ効率的な手段を提供することは本発明の範囲内である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本明細書において提案する方法は乳腺上皮細胞のin vivoでの効率的な形質転換を可能にする。当該細胞は必要なすべての遺伝子物質にアクセスするので、処理した動物の乳汁に生物医薬品的タンパク質を分泌できる。具体的には、本発明では、異物のDNAをMGEの細胞内へ移入するためにアデノウイルスベクターが使用される。感染すると、ウイルスのDNAは感染細胞の核の中でエピソームに留まり、これがウイルスのベクターに含まれるトランスジーンの発現を可能にする。
【0017】
本発明の方法は、乳頭の経路を通して直接アデノウイルスベクターを含む溶液を滴下することを意味する。動物は好適には反芻動物(例えばウシ、ヒツジ又はヤギ)である。動物は乳腺産生又は乳汁産生のホルモン誘導に従わせてもよく、替わりに自然の乳汁産生動物を使用してもよい。感染後、導入遺伝子は乳腺分泌細胞の中に移入され、転写、トランスレーションされ、乳汁中に分泌される前に必要なトランスレーション後の工程に従わせられる。搾乳によって、当該トランスフェクションされた動物は関心のある生物医薬品の異物のタンパク質の製造のための生きた工場になる。
【0018】
ウイルスベクターは、関心のあるタンパク質をコードするDNAを含む発現カセット、効率的な分泌のためのコード遺伝子又は異種遺伝子からのシグナルペプチド配列、プロモーター配列(これは必ずしも乳腺上皮に特異的でなくてもよい)、分割(cleaving)配列及びポリアデニル化信号を含まなければならない。ウイルスベクターは好適には2及び5型のヒトアデノウイルスに基づく。替わりに、遺伝子E1及びE3を欠くか又はアデノウイルスをコードする全ての配列を欠くアデノウイルスベクターを使用してもよい(ヘルパー依存性又はガットレス(gutless))。
【0019】
本発明に記載したように、複製が欠損した(例えば△E1△E3)アデノウイルスベクターの使用によって、免疫応答性動物中で約10日後に、乳汁中に高濃度の組換えタンパク質の発現が可能になる。当該ベクターは物理的及び化学的特性化又は治療的処理のために少量必要なタンパク質に特に適している。これはエリスロポエチン及び組織プラスミノーゲン賦活剤の場合である。
【0020】
替わりに、提案した方法に記載したように、大量のタンパク質が必要な場合は、ヘルパー依存アデノウイルスが最もよい選択である。これらのベクターはMGE中で非常に安定で、免疫応答性動物で5ヶ月もの長さに亘って乳汁中に組換えタンパク質の発現を可能にすることが示されている。ガットレス(gutless)ベクターの安定性は組換えタンパク質の免疫原性に依存して改善でき、又は免疫抑制動物を用いることによって改善できる。ガットレス(gutless)ベクターは、加えてより大きなクローニング能力があり(36Kbまで)、多数の発現カセットの挿入が可能である。
【0021】
発現カセット
本発明のアデノウイルスベクターは、かならずしもMGEに特異的である必要はないプロモーター、関心のある遺伝子のコード配列、分割(cleaving)及びポリアデニル化配列からできた発現カセットを含む。
【0022】
当該発現カセットを構築するために、構成的プロモーターを使用できる。当該プロモーターは形質転換細胞に異種であってもよい。当該プロモーターの例には、早期直接ヒトサイトメガロウイルス、アクチン、早期SV40、ミオシン及びRoux Sarcoma Virusが含まれる。乳腺にタンパク質の発現を自然に駆動するプロモーターは特に興味深い。そのようなプロモーターの例にはαS1カゼイン、αS2カゼイン、βラクトグロブリン、κ−カゼイン、乳漿酸性タンパク質及びα−ラクトアルブミンが含まれる。
【0023】
コード配列は発現レベルの増強のためのイントロンを含むか又は含まない相補的DNA(cDNA)であってもよい。替わりに、且つベクターのクローニング能力に依存して、遺伝子からのイントロンを含むゲノムDNAを使用できる。この構造はcDNA駆動発現と比較した場合、より良好な発現レベルが得られるので好ましい。
【0024】
本明細書で提案した系を用いて、乳汁中に任意の異種タンパク質を実際に発現できる。ヒト又は動物で、治療又は予防的価値のあるタンパク質は特に有用である。本発明を用いて得られるタンパク質の例には抗原類(例えば肝炎B表面抗原)、成長因子類(例えばヒト成長ホルモン、上皮成長因子、インスリン様成長因子、コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージ刺激因子、神経成長因子、エリスロポエチン)、抗体、サイトカイン(例えばインターロイキン6はたはインターロイキン2)、α1抗トリプシン、ヒト血清アルブミン、βグロブリン、組織プラスミノーゲン賦活剤、腫瘍抑制タンパク質(例えば、p53)、Cタンパク質及びインターフェロンであるが、これらに限定されない。
【0025】
本発明によって生産されるこの異種タンパク質のそれぞれは、乳汁中への分泌を方向付けるシグナルペプチドと結合していなければならない。タンパク質が自然に分泌される場合、当該シグナルペプチドは異種タンパク質からであってもよい。もしもタンパク質が分泌できない場合は、遺伝子構造は当該タンパク質の分泌を可能にする異種シグナルペプチドを含まなければならない。
【0026】
メッセンジャーRNAの安定性は遺伝子の3’端に位置する領域によって大きく支配される。この領域は分割(cleaving)及びポリアデニル化配列を含まなければならない。これらの配列は異種であることができるが、より一般的にはグロブリン遺伝子、ウシ成長ホルモン、Herpes Simplexチミジンキナーゼ又はSV40ウイルスの早期領域由来のものが用いられる。
【0027】
アデノウイルスベクター
ヒト由来のアデノウイルスベクターは反芻動物種の乳腺上皮細胞を効率的に感染できること、分泌上皮におけるその安定性はウイルスのゲノムから発現されるタンパク質の免疫原性の程度に大きく依存し、このタンパク質がウイルス起源のタンパク質及び生物医薬品タンパク質の両方を含むことが示されている。複製欠損アデノウイルスベクター(例えば△E1△E3)は組換えタンパク質の高いレベルの発現を促進できるが、感染細胞に対してウイルスタンパク質によって誘導された強い免疫反応のために安定性が低下している。
【0028】
ヘルパー依存性又はガットレス(gutless)ベクターはそのゲノムにウイルス遺伝子を含まず、従って感染細胞に対する免疫反応は非常に少なく、それは組換えタンパク質自身の免疫原性によってのみ測定される。発明者らはこれらのベクターは非常に安定で、処理した動物の乳汁中に生物医薬品タンパク質の発現を可能にすることを示した。
【0029】
複製欠損アデノウイルスベクターは文献に報告された従来の技術によって構築できる(Tong−Chuan Heら、Proc. Natl.Acad.Sci USA 1998,95(5):2509−14).ウイルス粒子の包装及び増幅はHEK−293細胞又はアデノウイルスの欠損を補うことができる任意の細胞系の中で実施される。ヘルパー依存性アデノウイルスベクターはRobin J.Parksら(Proc.Natl.Acad.Sci USA 1996,93(24):13565−70)に従って構築できる。これには、ヘルパーアデノウイルスとの同時感染が必要で、そのようなヘルパーウイルスはベクターの正しい包装に必要なすべてのタンパク質を「in trans」で提供しなければならない。いずれの場合も、ベクターは細胞から3回の凍結と融解のサイクルで抽出される。アデノウイルスベクターに含まれている発現カセットの機能性は培養乳腺上皮細胞の感染によってin vitroでアッセイできる。この感染に依存して、関心のあるタンパク質が培養培地に検出できる。これに関して特に有用なのは、マウス起源の乳腺上皮細胞HC11又はKIM2及びウシ起源のMAC−Tである。
【0030】
乳腺上皮細胞の効率的な感染と干渉する可能性のある細胞の破片及び不完全粒子を除去するために、CsCl勾配中で2回の遠心分離によってウイルス粒子を精製することを推奨する。ヘルパー依存性アデノウイルスベクターの精製のためには、ヘルパー依存性アデノウイルスに含まれる可能性のある汚染物を清浄するためにCsCl勾配中での遠心分離が必須である。この方法で精製したアデノウイルスは高濃度のCsClが細胞と組織のウイルス感染に干渉する可能性があるので透析される。一度透析されると、アデノウイルスは−80℃で貯蔵でき、その力価に顕著な変化はない。
【0031】
動物
本発明はすべての哺乳動物に適用できる。それにもかかわらず、乳汁製造能力が高いために反芻動物が好ましい。性的成熟の初期段階の動物を使用できる。これらの動物は乳腺産生及び乳汁産生を誘導するためにホルモン治療プログラムに従わされる。一般的に、自然に乳汁産生している動物は乳汁生産のレベルが高く、従ってホルモン誘導乳汁産生動物よりもトランスジーンのレベルは高い。
【0032】
注入
アデノウイルスベクターを含む溶液を注入する前に、動物は槽中の乳汁容器を除去するために搾乳されなければならない。ついで、乳腺のマッサージによって、溶液が腺胞の全体に達し、乳腺が一杯になるまで、乳頭の経路を通して乳腺に等張溶液を注入し、搾乳によって溶液を除去する。この段階を2,3回繰り返し、乳腺の全体の洗浄を確認し、腺胞及び管路組織の拡張を確認する。等張溶液はPBS,NaCl0.9%,グルコース5%、HBS組織培養培地であってよい。
【0033】
ウイルス粒子を含む溶液の注入は乳頭の経路を通して直接行われる。担体の液体としては、グルコース5%、PBS,NaCl0.9%,HBS又は組織培養培地(例えばDMEM)のような等張溶液を使用できる。注入溶液中のウイルス濃度は変化してよいが、1x10PFU/ml以上が望ましい。注入の至適容量は乳腺のサイズに応じて変わるが、例えばヤギについては乳腺あたり50から300mlの間で変わることができる。
【0034】
乳頭の経路を通して注入するために、カニューラに繋がったシリンジを使用できる。注入はゆっくりと行うべきで、注入中及び注入後、溶液が乳腺上皮のすべてに均一に分布していること確実にするためにマッサージが必要である。
【0035】
異種タンパク質の採取
処理動物からの乳汁は手によるか、又は自動採乳の従来の方法で得られる。カゼイン及び脂肪を乳漿から分離し、その大部分を−20℃で保存するが、少量の分画を一般に知られている分析技術(例えばELISA、ウェスタンブロティング及び生物活性)によって関心のあるタンパク質を検出し、定量するために使用する。関心のあるタンパク質のかなりの量を含む乳漿は混合し、異質タンパク質の精製の活性原料として用いる。精製工程は目的のタンパク質に依存してかなり変化できる。
【0036】
このように、本発明による乳汁中の組換えタンパク質の高レベルの製造のための方法は次の段階を要する。
1.所望の遺伝子の発現カッセットを含む組換えアデノウイルスの構築。この段階は次を含む。
a)組換えアデノウイルスゲノムの構築
b)細胞系293におけるウイルス粒子の製造
c)アデノウイルスベクターの増幅と精製
2.乳腺上皮細胞の感染。この段階は次を含む。
a)自然の乳汁産生のない動物を使用する場合、乳腺産生と乳汁産生の誘導
b)ウイルス粒子を含む溶液の乳腺への注入
3.組換えタンパク質の回収。この段階は次を含む。
a)処理動物の搾乳
b)採取乳汁中の異種タンパク質の検出と定量
c)異種タンパク質の精製
本発明をよりよく理解するための例示的な実施例を次に示す。
【実施例】
【0037】
実施例1:hGH及びhEPOの遺伝子を含むアデノウイルスベクター(△E1△E3)の構築
複製が欠損したアデノウイルスベクターをAdeasy系(Tong−Chuan Heら;Proc Natl Acad Sci USA.1998,95(5):2509−14)に基づき、プラスミドpAdTrack−CMV(図1)を移入ベクターとして用いて構築した。AdEasyに基づくこの系は、組換えアデノウイルスを作るための早くて、容易な選択を構成する。最初に発現カセットが移入ベクター中にクローニングされ、ついで菌株BJ51832中の同種組換えによってウイルスゲノム中に移入される、2つの段階のプロセスを必要とする。アデノウイルスゲノムはついで、PacIエンドヌクレアーゼで消化され、細胞系293又は911中にトランスフェクションされる。発明者の場合、感染性ビリオン及び究極の増幅は移入ベクターpAdTrack−CMV中に含まれている緑の蛍光タンパク質(GFP)の同時発現でモニターされた。
【0038】
実施例2:ヘルパー依存性アデノウイルスベクターの構築
ヘルパー依存性アデノウイルスベクターをプラスミドpSH−1の多数のクローニングサイト中にエリスロポエチンの遺伝子を含む発現カセットをクローニングすることによって構築した。得られたプラスミドに包装を可能にするための適切なサイズを付与する目的で、それを菌株BJ5183(図2)中での同種組換えによってpStuffer−26ベクターに移入した。同種組換えの結果、28Kbを超すプラスミドが生成した。PacIエンドヌクレアーゼで消化し、プラスミドを293−Cre細胞系にトランスフェクションし、その後、ヘルパーアデノウイルスAdInvΨL−GFPで感染させた。293−Cre細胞系におけるCreリコンビナーゼの発現はヘルパーアデノウイルス中で包装配列を援護しているLox P部位間の組換えを促進し、ヘルパーアデノウイルスは包装される能力を失うが、複製し、従ってヘルパー依存性アデノウイルスベクターのゲノムを含むウイルス粒子の形成に必要な「in trans」のウイルスタンパク質を提供する能力を維持する。
【0039】
実施例3:アデノウイルス感染初期の乳腺上皮培養細胞からのヒト成長ホルモン(hGH)及びヒトエリスロポエチン(hEPO)の発現
アデノウイルスベクター中に構築されたhGH及びhEPOの発現カセットの正常な機能性を調べるために、乳腺上皮細胞を感染させた。細胞をEGF(10ng/ml)及びインスリン(10μg/ml)を補給したDMEM中で培養した。80%のコンフルエンス(confluence)で、細胞あたり20粒子の比率で、細胞培養にアデノウイルスベクターを加えた。24時間後培地を同じ培地に変えたが、EGFとインスリンを補給した。FCSは補給しなかった。48時間後、培地を採取し、1ml中に含まれているタンパク質をトリクロロ酢酸で沈殿させ40μの水に再懸濁し、20μlを電気泳動と、ついでウエスタンブロティングに用いた。
【0040】
実施例4:マウスの乳汁中でのヒト成長ホルモン(hGH)及びヒトエリスロポエチン(hEPO)の発現
アデノウイルスのMGE感染能力及び関心のあるタンパク質の乳汁中への分泌促進能力をマウスでアッセイした。各マウス5匹の3実験群を作った。妊娠17日目のB6D2F1雌マウスに実験群によって、ウイルスを含む製剤100μを注入した:I.hGH遺伝子を含むアデノウイルス(△E1△E3)2.5x10GTU/ml;II.hEPOの遺伝子を含むアデノウイルス(△E1△E3)1x10GTU/ml;III.生理食塩水。
【0041】
分娩2日目後、処理したマウスの搾乳を開始した。採取した乳汁を分離緩衝液(10mM Tris−HCl pH8,10mM CaCl)で1:5に希釈し、カゼインを4°Cで、30分間15000gの冷遠心分離により、乳漿から分離した。
【0042】
乳汁サンプル中のhGHの含量はウエスタンブロティングで検出し、ELISA(hGH ELISA,Boehringer Mannheim,Cat.NO.1585878)(図3)で定量した。hEPOの含量もウエスタンブロティングで検出し、ELISA(CIGB製造 ELISA)(図4)で定量した。
【0043】
実施例5:ヤギでの乳汁産生の誘導
乳腺への遺伝子の移入のための組換えアデノウイルスベクターはすべての哺乳動物の種で実際に使用できる。しかし乳汁の生産能力が高いために反芻動物が好ましい。乳腺産生及び乳汁産生がホルモンで誘導できる、性的成熟の早期の段階の動物を用いることができる。乳汁産生の自然相にある動物もまた、用いることができる。例えば用いる動物がヤギの場合、ホルモン誘導は1,3,5,7,9,11,13日目のエストラジオール(0.25mg/kg、i.m)及びプロゲステロン(0.75mg/kg、i.m)の投与によってできるが、プレドニソロン(0.4mg/kg、i.m)は5日目から開始する複合乳腺組織の毎日のマッサージを行って、14日目から16日目まで投与しなければならない。
【0044】
実施例6:ヤギの乳腺へのヒト成長ホルモンhGHの遺伝子を含む組換えアデノウイルス(△E1△E3)の注入
処理中のストレスを減らすために、乳汁産生相のヤギに10mgのジアゼパムを筋肉内投与した。槽からできるだけ多くの乳汁を除くために動物を広範に搾乳した。乳腺を37℃で200mlの生理食塩水で2回リンスし、ついで搾乳した。すべての注入はカテーテルに繋いだ50mlシリンジで乳頭の経路を通して直接行った。注入は注入複合乳腺組織のマッサージを同時にしながら、ゆっくりと行った。ヤギでは、複合乳腺組織は独立の2つの部分に分かれており、この内の1つにはアデノウイルスベクターを含む溶液を注入し、もう1つには生理食塩水だけを投与し、陰性内部コントロールとして用いた。各乳腺に10GTU/mlのウイルス負荷を含む200mlの溶液を注入した。これは各乳腺に合計2x1011のウイルス粒子が投与されたことを意味する。注入後、溶液の均一な分布を容易にし、溶液がすべての管路と腺胞に達するようにするために、複合乳腺組織をマッサージした。注入した液体は翌日搾乳によって除去した。
【0045】
実施例7:ヤギの乳腺へのエリスルポエチンの遺伝子を含む組換えヘルパー依存性アデノウイルスの注入
処理中のストレスを減らすために、乳汁産生相のヤギに10mgのジアゼパムを筋肉内投与した。槽からできるだけ多くの乳汁を除くために動物を広範に搾乳した。乳腺を37℃で200mlの生理食塩水の注入で2回リンスし、ついで搾乳した。すべての注入はカテーテルに繋いだ50mlシリンジで乳頭の経路を通して直接行った。注入複合乳腺組織のマッサージを同時にしながら、ゆっくりと注入した。ヤギでは、複合乳腺組織は独立の2つの部分に分かれており、この内の1つにはアデノウイルスベクターを含む溶液を注入し、もう1つには生理食塩水だけを投与し、陰性内部コントロールとして用いた。各乳腺に10GTU/mlのウイルス負荷を含む200mlの溶液を注入した。これは各乳腺に合計2x1011のウイルス粒子が投与されたことを意味する。注入後、溶液の均一な分布を容易にし、溶液がすべての管路と腺胞に達するようにするために複合乳腺組織をマッサージした。注入した液体は翌日搾乳によって除去した。
【0046】
実施例8:アデノウイルスベクターを注入したヤギの乳汁中のhGH及びhEPOの検出
注入した動物からの乳汁は注入48時間後から始め、手による搾乳で採取した。1日2回の搾乳を行い、1回は朝、1回は午後に行った。採取した乳汁の大部分はタンパク質の後の精製のために−70℃で貯蔵し、少量のサンプルを各ロット中のhGH及びhEPOの検出と定量のために用いた。
【0047】
hGH及びhEPOの検出は次のように行った。150□lの乳汁サンプルに、4容量の分離緩衝液(10mM Tris−HCl,10mM CaCl)を加え、乳漿を脂肪とカゼインから分離するために、4℃で、15000gで30分間遠心分離した。乳漿の分画を回収し、10μlに含まれているタンパク質を12.5%のアクリルアミドゲル上でSDA−PAGEによって、分離した。タンパク質をニトロセルロースフィルターに移し、hGHに対するポリクロナール抗体(1/500)で標識した。免疫反応性帯をAmersham Pharmacia Biotech(図5B)社製の化学発光システム(ECL)で可視化した。
【0048】
hGHの定量はBoehringer Mannheim社のhGH ELISA(Cat.NO.1585878)で定量した。手順はすべて製造業者の指示に従った。hEPOの定量はGenetic Engineering and Biotechnology,Havana,CubaのCenter製サンドイッチELISAで行った。
【0049】
△E1△E3型のアデノウイルスベクターを注入した動物で、hGHは最初の3日中に、0.3mg/mlに達し、注入後11日目まで検出された(図5C)。
【0050】
ヘルパー依存性アデノウイルスベクターを接種した動物の場合はhEPOの濃度はまた、かなり高かった(図6)。これらのベクターの使用によって、最初の5週間中0.2mg/mlよりも優れた発現レベルが得られ、注入後145日目に5ng/mlに達するまで僅かに減少した。
【0051】
提案した溶液の利点
本発明で提案した方法はタンパク質構造の生物医薬品製造の増大するニーズに対して、溶液を構成する。具体的には、本発明はその生物活性がトランスレーション後の複雑なプロセッシングと密接に結びつき、従って高級生物の生合成機械に依存しているタンパク質の大規模生産を可能にする。本明細書で提案した方法によって、そのようなタンパク質の生産を速く、簡単で、経済的に達成できることを可能にする。この意味で、本発明は市場の変化に対して、短期間に速い回答を可能にし、その適用には大きな技術的要求は含まれず、反応容量はニーズによって容易に調整できる。
【0052】
加えて、本発明は異なった種の乳腺のトランスレーション修飾後の研究の替わりとして、時間と資源の節約を可能にする。研究中のタンパク質のコード配列がアデノウイルスベクターに含まれていることを考慮に入れて、これは幅広い範囲の種の乳腺に移入でき、このようにして、同じタンパク質はそれが作られる種に従うか、又は依存すると言う差別化された修飾の研究を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】hGH及びhEPOの遺伝子を含むアデノウイルスベクター△E1△E3の構築に用いられる戦略を示す。
【図2】hEPOの遺伝子を含むヘルパー依存性アデノウイルスゲノムの構築に用いられる戦略を示す。
【図3】ヒトサイトメガロウイルスプロモーターの制御下で、乳腺あたり、hGH遺伝子を含むアデノウイルス△E1△E3を2.5x10GTU注入されたマウスの乳汁中のhGHの発現の定量。A)ウエスタンブロティング定量:陰性対照(C−)はhGHの発現カセットを欠くアデノウイルスを注入されたマウスの乳汁を示し、レーン2,3,4,5,6,7,8,9は対応した乳汁産生日に採取された乳汁サンプルを含む。B)分娩後の日数との関連での乳汁中のhGH濃度
【図4】ヒトサイトメガロウイルスプロモーターの制御下で、乳腺あたり、hEPO遺伝子を含むアデノウイルス△E1△E3を1x10GTU注入されたマウスの乳汁中のhEPOの発現の定量。A)ウエスタンブロティング定量:陰性対照(C−)はhEPOの発現カセットを欠くアデノウイルスを注入されたマウスの乳汁を示し、レーン2,3,4,5,6,7,8,9は対応した乳汁産生日に採取された乳汁サンプルを含む。B)分娩後の日数との関連での乳汁中のhEPO濃度
【図5】ヒトサイトメガロウイルスプロモーターの制御下で、乳腺あたり、hGH遺伝子を含むアデノウイルスベクター△E1△E3を2x1011GTU注入されたヤギの乳汁中のhGHの存在を示す。A)注入後、最初の10日内に採取した乳汁サンプルの電気泳動:陰性対照はhGHの発現カセットを欠くアデノウイルスベクターを注入された乳腺からの乳汁に対応する。B)ヤギの乳汁中のhGHの発現を示すウエスタンブロティング定量:陰性対照はhGHの発現カセットを欠くアデノウイルスベクターを注入された乳腺からの乳汁に対応する;陽性対照は細菌細胞から精製された組換えhGHに対応する。C)注入後の日数との関連での乳汁中のhGH濃度
【図6】ヒトサイトメガロウイルスプロモーターの制御下で、hEPOの遺伝子を含むヘルパー依存性アデノウイルスベクターを注入されたヤギの乳汁中のhEPO濃度を示すELISAの結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデノウイルスベクターを用いる乳腺上皮細胞(MGE)の形質転換を介する、ヒトでない哺乳動物の乳汁中での異種タンパク質の次の段階を含む製造法:
a)性的成熟の初期の段階中での哺乳動物の乳汁分泌の誘導
b)ウイルスの注入に先立つ乳腺内部の乳汁の除去と完全な洗浄
c)乳腺の容量の完結まで、関心のある異種タンパク質をコードする遺伝子を運ぶアデノウイルスベクターを含む溶液の、乳頭の経路を通しての注入
d)注入後4時間から24時間の間に乳腺を排出すること
e)注入48時間後に開始する、乳腺に含まれる乳汁の採取
f)関心のある異種タンパク質の乳汁からの精製。
【請求項2】
アデノウイルスベクターがアデノウイルス遺伝子の大多数を含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記アデノウイルスベクターがアデノウイルス遺伝子の大多数又はすべてを欠き、ウイルス粒子の形成に必要なすべての必要なタンパク質をイン・トランス(in trans)で提供するヘルパーアデノウイルスを要求する請求項1記載の方法。
【請求項4】
関心のある異種タンパク質がヒト成長ホルモン、上皮成長因子、インスリン様成長因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、神経成長因子、エリスロポエチン、FVIII及びFIXのような凝固因子、抗体、インターロイキン−6又はインターロイキン−2のようなサイトカイン、α1−抗トリプシン、ヒト血清アルブミン、β−グロブリン、組織プラスミノーゲン賦活剤、p53、Cタンパク質又はインターフェロンのような腫瘍抑制タンパク質からなる群から選ばれる請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−503560(P2006−503560A)
【公表日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−543918(P2004−543918)
【出願日】平成15年10月20日(2003.10.20)
【国際出願番号】PCT/CU2003/000011
【国際公開番号】WO2004/034780
【国際公開日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【出願人】(304012895)セントロ デ インジエニエリア ジエネテイカ イ バイオテクノロジア (46)
【Fターム(参考)】