説明

非接触データ通信機能を備えた装着型電子機器、及び非接触データ通信システム

【課題】非接触データ通信機能を備えた装着型電子機器であって、ケース体その他の部分
に導電性部材を用いても通信機能の低下を抑制できる構造を提供する。
【解決手段】ケース部101の内部にはムーブメント104及び文字板107が配置され
ている。ムーブメント104の外周側には環状の磁性部材108が配置され、磁性部材1
08の環状凹溝108a内にループ状のアンテナ111が配置されている。磁性部材10
8の外周側には絶縁部材109が配置されている。磁性部材108はケース部101より
も高い透磁率を備えた軟磁性体で構成されている。これによって、ケース部101を金属
などの導電性素材で構成した場合でも、通信感度及び通信距離の低下を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非接触データ通信機能を備えた装着型電子機器、及び非接触データ通信システ
ムに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気カードは、テレフォンカードを始めとして、各種クレジットカード、各小売店が発
行するポイントカード、高速道路のハイウェイカード、その他幅広い用途のカードとして
広く普及してきた。しかし、容易に偽造されてしまう危険があることが社会的な問題とも
なった。そのため、偽造防止の観点、及び個人機密情報の保持、更には記憶容量の増大な
どを目的として、ICカードが普及しつつある。
【0003】
しかし、ICカードであっても読取・書込み機に接触させてデータの授受を行う必要が
あるために、取引時、即ちICカードデータの読取・書込み時に、ICカードを相手また
は読取・書込み機に渡す必要があるため、偽造や機密保持に関して安全とは言い切れなか
った。
【0004】
これに対して近年出現した非接触ICカードは、読取・書込み機と非接触でデータの授
受ができるため、読取・書込み動作の簡便性、及び、安全性が改善したものではあるもの
の、カード型であるために、依然として紛失の危険はあり、また、使用時には都度ポケッ
ト等から取り出すことが必要など煩雑な面もある。
【0005】
そのため、最近、ユーザーが常時携帯する腕時計に上記の非接触ICカード機能を内蔵
した製品が実用化されている。この腕時計は、非接触ICカードに内蔵された構造、すな
わち、アンテナと、このアンテナを介して外部と非接触データ通信を行う送受信手段とを
備えた非接触データ通信部を腕時計のケース体内に組み込んだものである。
【0006】
図14には、このように構成された腕時計10の構造を示す。腕時計10には、裏蓋付
きの腕時計における胴に相当するケース部1Aと裏蓋に相当する底部1Bとを一体的に備
え合成樹脂で構成されたワンピース型のケース体1が設けられ、このケース体1の底部1
Bの内面上に、フレキシブル配線基板上に構成されたループ状のアンテナ11が配置され
ている。このフレキシブル配線基板には、送受信回路などを内蔵した通信モジュール10
ICが実装されている。なお、この腕時計10において、表示窓2はケース体1に取り付
けられ、また、ケース体1内に時間情報を表示するための時間情報表示処理部であるムー
ブメント4が配置され、このムーブメント4の前面側に文字板7が取り付けられ、文字板
7を介してムーブメント4に秒針61、分針62及び時針63が取り付けられている。ム
ーブメント4には巻真(操作軸)5が接続され、巻真5の先には、ケース体1の外側に配
置された竜頭(外部操作部材)6が接続されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の非接触ICカード機能を内蔵する腕時計においては、ケース
体の内部にアンテナを配置することから、ケース体を絶縁材で構成しなければならず、従
来から腕時計のケース体素材として頻繁に使用されている金属材料などの導電性素材を用
いることができないので、外観デザインに大きな制約が課せられ、特に、高級感に欠ける
安価なイメージを拭い去ることができないという問題点があった。
【0008】
また、ケース体に絶縁材を用いても、ケース体の内外に導電性部材が取り付けられてい
る場合、外部から発せられた電波や腕時計自体から発せられた電波によって当該導電性部
材に渦電流(ループ電流)が生ずる場合があり、この渦電流によるエネルギー損失が、通
信特性の劣化(例えば通信距離の低下)を招く。このため、ケース体の外部に取り付けら
れる回転ベゼルや飾り縁、或いは、ケース体の内部に取り付けられる文字板や中枠などの
ように環状の導電性部材を用いることができないという問題点があった。
【0009】
さらに、上記腕時計などのような装着型電子機器においては、非接触ICカードのよう
に紛失の危険性や出し入れなどの煩雑さがない反面、外部送受信装置の受信位置に接触さ
せたり、十分に近づけたりすることが困難になるため、非接触ICカードよりも通信距離
を伸ばす必要があるが、装着型電子機器として携帯・装着しやすい大きさにすると、非接
触ICカードよりも平面寸法が小さくなるので、逆に通信距離が低下してしまうというジ
レンマがある。
【0010】
そこで本発明は上記問題点を解決するものであり、その課題は、非接触データ通信機能
を備えた装着型電子機器であって、ケース体その他の部分に導電性部材を用いても通信機
能の低下を抑制できる構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明の非接触データ通信機能を備えた装着型電子機器は、
非接触データ通信を行うためのアンテナ及び送受信手段を含む非接触通信部と、前記非接
触通信部を収容するケース体と、前記ケース体の内部に配置され若しくは前記ケース体の
一部として構成された軟磁性体で構成された磁性部材とを有し、前記磁性部材は、前記非
接触データ通信に用いられる電磁波の磁界変動成分を前記ケース体の内部において前記ア
ンテナの近傍位置に集束するように構成されていることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、軟磁性体で構成された磁性部材によって、非接触データ通信に用い
られる電磁波に伴う磁界変動成分が、ケース体の内部においてアンテナの近傍位置に集束
するので、機器の構成部品による通信への影響を低減することができ、導電性素材の存在
等による通信感度や通信距離の低下を抑制することができる。したがって、ケース体の少
なくとも一部を導電性素材で構成したり、その他の導電性部材を用いたりすることが可能
になり、外観デザインの自由度を高めることができ、高級感を演出でき、また、内部構造
の部品素材の選択幅も広がるなど、機器設計全体の自由度を広げることができる。さらに
、機器を大型化することなく通信機能を高めることが可能になるので、機器の携帯性を確
保しつつ、通信距離を増大させて使用しやすくすることができる。
【0013】
ここで、装着型電子機器は、腕時計、ダイビングコンピュータ、腕時計型のストップウ
ォッチ、腕時計型の通信機器(例えば計時機能のないもの)、懐中時計などを含む。
【0014】
また、本発明の別の非接触データ通信機能を備えた装着型電子機器は、非接触データ通
信を行うためのアンテナ及び送受信手段を含む非接触通信部と、前記非接触通信部を収容
するケース体とを有し、前記アンテナと前記ケース体との間に、前記ケース体よりも高い
透磁率を備える軟磁性体で構成された磁性部材が配置されていることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、アンテナとケース体との間に、ケース体よりも高い透磁率を備える
軟磁性体で構成された磁性部材が配置されていることにより、非接触データ通信時の電磁
波に伴う変動磁界成分がケース体よりも磁性部材の内部を通過しやすくなるので、ケース
体による通信状態への影響を低減することができ、磁性部材の形状や位置を適宜に設定す
ることにより、アンテナの通信感度や通信出力を高めることができ、通信距離を確保する
ことも可能になる。
【0016】
本発明において、前記ケース体は、少なくとも一部が導電性素材で構成されていること
が好ましい。この発明によれば、ケース体の少なくとも一部が導電性素材で構成されてい
ると、非接触データ通信時の電磁波の変動磁界によってケース体に渦電流が発生し、その
分だけ通信感度及び通信距離が低下するが、本発明の場合には、ケース体よりも高い透磁
率を備えた磁性部材がアンテナとケース体との間に配置されていることにより、ケース体
を通過する変動磁界が低減され、その分、渦電流損も低減されるので、導電性素材で構成
したことによる通信感度及び通信距離の低下を抑制できる。この場合、外観デザイン上、
ケース体における少なくとも表示部の周囲部分(前面側部分)を金属で構成することが望
ましい。
金属で構成することによって、剛性感、高級感を出すことができる。
【0017】
本発明において、前記磁性部材と前記ケース体との間に絶縁部材が配置されていること
が好ましい。この発明によれば、磁性部材とケース体との間に絶縁部材が配置されている
ことにより、ケース体の導電性素材で構成されている部分の影響をさらに低減させること
ができる。また、絶縁部材を緩衝材として用いることにより、特に磁性部材の破損を防止
できるなど、落下等による衝撃で各部が損傷を受ける可能性を低減できるので、機器の耐
衝撃性を向上させることが可能になる。絶縁部材を緩衝材として機能させるには、軟質合
成樹脂やゴムなどの弾性素材を用いることが望ましい。
【0018】
本発明において、前記磁性部材は前記アンテナの延在方向に沿って伸びるように構成さ
れていることが好ましい。この発明によれば、磁性部材がアンテナの延在方向に伸びるよ
うに構成されていることにより、機器の大型化を抑制しつつ、電磁波の変動磁界成分をア
ンテナ近傍により集中させることができるので、ケース体のうち導電性素材で構成された
部分による影響をさらに低減させることができる。
【0019】
本発明において、前記磁性部材は、前記アンテナを取巻くように略環状に構成されてい
ることが好ましい。この発明によれば、磁性部材がアンテナを取巻くように略環状に構成
されていることにより、周囲のケース体が導電性素材で構成されていても、アンテナの通
信感度及び通信出力を確保することができる。特に、アンテナがループ状の導電線を備え
ている場合(いわゆるループアンテナやコイル状に構成されたアンテナなどである場合)
、導電線のループ形状に沿って磁性部材が環状に構成されていることにより、周囲空間の
電磁波の磁界変動と、導電線に生ずる電位差(誘導起電力)との相関度合を高めることが
できるので、通信感度及び通信距離を効率的に向上させることができる。
【0020】
次に、本発明のさらに別の非接触データ通信機能を備えた装着型電子機器は、非接触デ
ータ通信を行うためのアンテナ及び送受信手段を含む非接触通信部と、前記非接触通信部
を収容するケース体と、前記非接触データ通信に用いられる電磁波が前記ケース体の内部
に伝播可能に構成された表示部とを有し、前記アンテナはループ状に構成された導電線を
備え、前記導電線のループ軸が前記表示部を通過するように設置され、前記導電線周りの
少なくとも一部に、前記ケース体よりも高い透磁率を備える軟磁性体で構成された磁性部
材が隣接配置されていることを特徴とする。
【0021】
この発明によれば、表示部を介してケース体の内外に電磁波が伝播可能となるように構
成し、ループ状の導電線を備えたアンテナをループ軸が表示部を通過するように設置した
上で、導電線周りの少なくとも一部にケース体よりも高い透磁率を備える軟磁性体で構成
された磁性部材を隣接配置させることにより、アンテナ近傍に電磁波に伴う変動磁界成分
を集束させることができるので、機器のケース体やその他の部材による影響を低減するこ
とができ、通信感度や通信距離を向上させるができる。
【0022】
ここで、ループ状の導電線を含むアンテナとは、いわゆるループアンテナに限らず、コ
イル状の導電線を有するアンテナなども含むものである。また、そのループ軸とは、導電
線のループ形状(コイル形状)の軸線(仮想線)を言う。
【0023】
本発明において、前記ケース体は、少なくとも一部が導電性素材で構成されていること
が好ましい。この発明によれば、ケース体の少なくとも一部が導電性素材で構成されてい
たとしても、上記のように磁性部材によって磁界変動成分がアンテナ近傍に集中するので
、ケース体の導電性素材中に発生する渦電流による損失を低減することができ、通信感度
や通信距離の低下を抑制できる。
【0024】
本発明において、前記磁性部材は、前記導電線周りの少なくとも180度の範囲に配置
されていることが好ましい。この発明によれば、磁性部材が導電線周りの少なくとも18
0度の範囲に配置されていることによって、非接触データ通信時の電磁波に伴う磁界変動
成分を導電線周りに大幅に集中させることができるので、より広い範囲において導電性素
材が存在することによる通信状態への影響を低減することができ、通信感度や通信距離を
さらに向上させることができる。この場合、磁性部材としては、導電線の延長方向と直交
する平面で切断した場合の断面形状が、コ字状、U字状、V字状などのように、導電線周
りの180度を越える範囲にて一体に構成されているものであることが望ましい。これに
よって、部品点数の低減や機器の小型化などを図ることができる。
【0025】
本発明において、前記磁性部材は、前記表示部の側に開いた形状を備えていること(例
えば、上記コ字状、U字状、V字状などの断面形状の開口部が表示部の側に向いているこ
と)が好ましい。この発明によれば、アンテナの表示部の側を除く方向に磁性部材が配置
されているので、アンテナ放射特性及びアンテナ受信特性の表示部側への指向性を高める
ことができるとともに、アンテナの表示部以外の周囲位置に存在するケース体の影響をよ
り効果的に低減することができるとともに、アンテナの表示部の側には磁性部材が存在し
ないので、内部構造の厚さを低減することが可能になり、機器の薄型化を図ることが可能
になる。
【0026】
本発明において、前記磁性部材とその周囲の部材との間に絶縁部材が配置されているこ
とが好ましい。この発明によれば、磁性部材とその周囲の部材(ケース体やアンテナ以外
の内部構造に含まれる部品)との間に絶縁部材が配置されていることにより、周囲の導電
性素材で構成されている部分の影響をさらに低減させることができる。また、絶縁部材を
緩衝材として用いることにより、特に磁性部材の破損を防止できるなど、落下等による衝
撃で各部が損傷を受ける可能性を低減できるので、機器の耐衝撃性を向上させることが可
能になる。絶縁部材を緩衝材として機能させるには、軟質合成樹脂やゴムなどの弾性素材
を用いることが望ましい。
【0027】
本発明において、前記磁性部材は前記導電線の延長方向に沿って伸びるように構成され
ていることが好ましい。この発明によれば、磁性部材がアンテナの延在方向に伸びるよう
に構成されていることにより、機器の大型化を抑制しつつ、周囲の導電性素材で構成され
た部分による影響を低減させることができる。
【0028】
本発明において、前記磁性部材は、前記導電線のループ形状に沿って略環状に構成され
ていることが好ましい。この発明によれば、磁性部材が導電線のループ形状に沿ってアン
テナを取巻くように略環状に構成されていることにより、周囲のケース体が導電性素材で
構成されていても、その影響を十分に低減させることができ、アンテナの通信感度及び通
信出力を確保することができる。
【0029】
本発明において、情報を前記表示部に表示させる情報表示処理部を有し、前記磁性部材
は、前記ケース体内において前記情報表示処理部を位置決めしていることが好ましい。こ
の発明によれば、磁性部材によって情報表示処理部(アナログ時計の場合には指針を制御
・駆動するためのムーブメント、デジタル時計の場合には液晶パネルなどの表示体を制御
・駆動するための制御・駆動回路に相当する。)がケース体内において位置決めされるの
で、他の位置決め構造や位置決め部品(中枠など)が不要になり、部品点数の増加を抑制
し、構造を簡易化できるので、製造コストの低減や機器の小型化を図ることができる。
【0030】
本発明において、情報を前記表示部に表示させる情報表示処理部を有し、前記アンテナ
は、前記ケース体内において前記情報表示処理部を取り囲むように略環状に構成されてい
ることが好ましい。ループ状のアンテナは、ループ径が大きく、ループによって取り囲ま
れる開口面積に通信感度や通信出力が影響を受けるので、ループ径或いは開口面積をなる
べく大きくすることが通信感度及び通信距離の向上にとって好ましい。この発明によれば
、アンテナが情報表示処理部を取り囲むように構成されていることにより、機器の大型化
を抑制しつつ、ループ径及び開口面積を大きくすることができ、通信感度及び通信距離を
向上させることが可能になる。
【0031】
本発明において、前記ケース体は、前記表示部の反対側に配置された裏蓋部と、前記表
示部及び前記裏蓋部を取り付けたケース部とを有し、前記裏蓋部は絶縁材で構成されてい
ることが好ましい。裏蓋部が絶縁材で構成されていることによって、アンテナのループ軸
の通過する前面側の表示部と裏蓋部の双方において電磁波が遮蔽されなくなるので、通信
感度及び通信距離をさらに向上させることができる。
【0032】
本発明において、前記ケース体は、前記表示部の反対側に配置された裏蓋部と、前記表
示部及び前記裏蓋部を取り付けたケース部とを有し、前記裏蓋部は前記磁性部材の少なく
とも一部を構成していることが好ましい。この発明によれば、裏蓋部が磁性部材の一部を
構成していることによって、その分、ケース部の内側に配置される磁性部材の容積を低減
できるので、機器の小型化を図ることができる。
【0033】
次に、本発明の非接触データ通信システムは、上記いずれかに記載の非接触データ通信
機能を備えた装着型電子機器と、前記非接触通信部と非接触データ通信を行う外部送受信
装置とを有することを特徴とする。
【0034】
この発明によれば、装着型電子機器において少なくとも一部が金属等の導電性素材で構
成されたケース体その他の部品(特に環状の導電性部材)を用いても、外部送受信装置と
の非接触データ通信を支障なく行うことができる。また、通信圏を広げることができるの
で、利用しやすいシステムを構成できる。
【0035】
なお、上記の装着型電子機器は、非接触データ通信の通信状態、通信内容、通信結果な
どを表示する表示手段を有することが好ましい。この表示手段は、時間情報の表示、通話
状態の表示なども表示可能に構成されたものであることが望ましい。
【発明の効果】
【0036】
以上、説明したように本発明によれば、ケース体などの構造部分に金属などの導電性素
材を用いても非接触データ通信機能への影響を低減でき、装着型電子機器の外観デザイン
や質感を向上することができるとともに、非接触データ通信時の使用感を向上することが
できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る非接触データ通信機能を備えた電子機器を備えた通信システムの第1実施形態の使用態様を示す概略説明図である。
【図2】通信システムにおける外部送受信装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】第1実施形態の腕時計の非接触データ通信部の概略構成を示すブロック図である。
【図4】第1実施形態の時間情報表示処理部の概略構成を模式的に示す説明図である。
【図5】第1実施形態の本体構造を模式的に示す概略縦断面図である。
【図6】第1実施形態の内部構造を模式的に示す概略斜視図である。
【図7】本発明に係る第2実施形態の電子機器の本体構造を模式的に示す概略縦断面図である。
【図8】本発明に係る第3実施形態の電子機器の本体構造を模式的に示す概略縦断面図である。
【図9】本発明に係る第4実施形態の電子機器の本体構造を模式的に示す概略縦断面図である。
【図10】本発明に係る第5実施形態の電子機器の本体構造を模式的に示す概略縦断面図である。
【図11】通信システムの通信手順を示すシーケンス図である。
【図12】第1実施形態におけるアンテナ構造を示す概略斜視図である。
【図13】第3実施形態におけるアンテナ構造を示す概略斜視図である。
【図14】従来の非接触データ通信機能を備えた時計の構造を模式的に示す概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
次に、添付図面を参照して本発明に係る非接触データ通信機能を備えた装着型電子機器
の実施形態について詳細に説明する。以下に説明する各実施形態は、いずれも非接触デー
タ通信機能を備えた装着型電子機器の具体的構成として腕時計を示すものである。ただし
、本発明は、腕時計に限らず、ダイビングコンピュータ、腕装着型ストップウォッチ、計
時機能を有しない腕装着機器など種々の装着型電子機器を含み、腕に装着するもの以外で
あっても、懐中時計などのように身体に装着して携帯可能なものであれば、如何なるもの
にも同様に適用できるものである。
【0039】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態の腕時計型電子機器100を対象とした非接触データ通信システム
の全体構成を示す斜視図である。この非接触データ通信システムは、腕時計型電子機器1
00と、この腕時計型電子機器100と非接触データ通信を行うことのできる外部送受信
装置510とを有する。図示例では、外部送受信装置510は、電車やリフトへの搭乗時
等に通過すべき通門位置(改札口等)に設置されるゲート装置500に組み込まれたもの
を示してある。
【0040】
上記腕時計型電子機器100と外部送受信装置510との間の非接触データ通信は、一
般的に13.56[MHz]又は125[kHz]の搬送波(キャリア信号)を用い、双
方の装置の送信出力を低く制限して行われる微弱無線通信である。したがって、外部送受
信装置510から数センチ程度の距離の範囲が通信可能範囲になるので、ゲートGを通過
する直前に、双方向データ通信を行うためにユーザは腕時計型電子機器100を外部送受
信装置510のアンテナに近接させる必要がある。
【0041】
(外部送受信装置の構成)
図2は、ゲート装置500内に組み込まれた外部送受信装置510の構成を示すブロッ
ク図である。この外部送受信装置510において、制御装置511は外部送受信装置51
0全体を制御する。送信回路512は、制御装置511の制御下で送信制御信号を生成し
出力する。受信回路513は、アンテナ515の受信信号を高周波回路514を介して受
け取り、この受信信号から受信データを復調して制御装置511に出力する。高周波回路
514は、上記送信制御信号に基づいて送信信号を生成してアンテナ515を介して腕時
計型電子機器100に送信するとともに、アンテナ511によって受信された腕時計型電
子機器100からの受信信号を受信回路513に出力する。
【0042】
なお、図2には、上記腕時計型電子機器100とともに、後述する第2実施形態に係る
腕時計型電子機器200をも示してあるが、この腕時計型電子機器200については後述
する。
【0043】
(非接触通信部の構成)
図3は、腕時計型電子機器100の非接触データ通信機能を有する非接触通信部110
の構成を示すブロック図である。この腕時計型電子機器10の非接触通信部110におい
ては、アンテナ111と、このアンテナ111を介して通信を行う送受信手段110RF
とを有する。アンテナ111は、所定方向に向いたループ軸111sを備えた周回状のル
ープ形状に構成されている。この非接触通信部110は、例えば、ISO14443等の
非接触ICカード規格を用いて構成することができる。
【0044】
送受信手段110RFは、上記アンテナ111の両端に接続された同調用コンデンサ1
12と、集積回路(IC)等からなる通信モジュール110ICの一部(送受信回路部分
)とから構成されている。
【0045】
通信モジュール110ICは、上記アンテナ111に接続された整流回路113と、ア
ンテナ111に接続され、アンテナ111で受信された受信信号を復調して受信データを
出力する受信回路114と、アンテナ111に接続され、送信データを変調して送信信号
を生成し、アンテナ111へ送る送信回路115と、発振回路等から出力されたクロック
信号を元に所定の基準信号を生成する基準信号生成回路116と、基準信号生成回路11
6から送出された基準信号を受け、受信データのデータ列から受信データ内容を取り出す
とともに、送信データ内容を受けて送信データを形成する変換処理回路117と、変換処
理回路117から受信データ内容を受けるとともに、変換処理回路117へ送信データ内
容を出力する中央制御回路118と、中央制御回路118の制御下において送信データの
暗号化及び受信データの解読を行う暗号処理回路119と、ID番号やデータ内容の記録
を行う不揮発性メモリ等からなるメモリ110Mとを有している。
【0046】
ここで、整流回路113はアンテナ111にて受信された搬送波(キャリア信号)から
電力を取り出し、これを、電源ラインを通じて各回路へと送るように構成されている。な
お、このような受信信号から生成した電力を供給する電力供給形態ではなく、機器に内蔵
された電池等の電源から電力を供給するように構成してもよい。また、メモリ110Mは
EEPROMやフラッシュメモリ等の書き換え可能メモリであることが好ましい。また、
腕時計型電子機器内に固定されたメモリの代りに、或いは、当該固定されたメモリに加え
て、メモリカードなどのリムーバブルメディアを設けてもよい。また、暗号処理回路11
9は、DES(Data Encryption Standard)、RSA(R.L.Riverst,A.Shamir,L.A
delman)等の暗号処理機能を備えている。
【0047】
(時間情報表示処理機能部分の構成)
図4は、腕時計型電子機器100の本体機能を実現するための構造(時間情報表示処理
表示部)を示す概略ブロック図である。腕時計型電子機器100は上記のような非接触デ
ータ通信機能のみを備えたものであっても構わないが、本実施形態の場合、腕時計型電子
機器本来の時間情報表示機能をも有している。この機能を実現する構成には、ウォッチC
PU14と、指針駆動部18とが含まれている。
【0048】
ウォッチCPU14は時計機能(時間情報表示機能)全体を制御するものであり、例え
ば、指針などの時間情報表示手段の駆動制御、後述する巻真などの外部操作手段による操
作に応じた表示態様や内部時間の制御などを行う。
【0049】
また、指針駆動部18は、駆動回路18Aと駆動機構18Bとを含む。駆動機構18B
には、ステッピングモータ310と、駆動回路18Aから供給される駆動パルスによって
磁力を発生する駆動コイル311と、この駆動コイル311によって励磁されるステータ
312と、ステータ312の内部において励磁される磁界により回転するロータ313と
を備えている。ステータ312には、駆動コイル311で発生した磁力によって異なった
磁極がロータ313の回りにある対向部315,316に発生するように、磁気飽和部3
17が設けられている。また、ロータ313の回転方向を規制するために、ステータ31
2の内周の適宜の位置には内ノッチ318が設けられている。この構成において、駆動コ
イル311によってステータ312が励磁されると、コギングトルクがロータ313に発
生し、ロータ313は適宜の位置に停止する。ステッピングモータ310のロータ313
の回転は、かなを介してロータ313に噛合された5番車351、4番車352、3番車
353、2番車354、日の裏車355及び筒車356を有する輪列350によって各指
針に伝達される。
【0050】
上記4番車352の軸には秒針361が接続され、2番車354には分針362が接続
され、さらに、筒車356には時針363が接続されており、ロータ313の回転に連動
してこれらの各針によって時刻(時間情報)が表示される。
【0051】
駆動回路18Aは、ウォッチCPU14からの駆動指令に従ってステッピングモータ3
10に様々な波形の駆動パルスを供給する回路である。この駆動回路18Aは、pチャネ
ルMOSトランジスタ333a、nチャンネルMOSトランジスタ332a、pチャンネ
ルMOSトランジスタ333b及びnチャンネルMOSトランジスタ332bによって構
成されたブリッジ回路を備えている。ステッピングモータ310の駆動用コイル311は
、pチャンネルMOSトランジスタ333a及びnチャンネルMOSトランジスタ332
aの接続点と、pチャンネルMOSトランジスタ333b及びnチャンネルMOSトラン
ジスタ332bの接続点との間に介挿されている。これらのMOSトランジスタ332a
,332b,333a及び333bの各ゲート電極にウォッチCPU14から制御パルス
が印加されることにより、駆動コイル311に駆動パルスが供給され、ロータ313が駆
動される。
【0052】
(腕時計型電子機器の構造)
次に、本実施形態の腕時計型電子機器100の構造について図5及び図6を参照して説
明する。図5は、腕時計型電子機器100の本体構造を模式的に示す概略断面図であり、
図6は、腕時計型電子機器100の内部構造のうち、アンテナ111、磁性部材108及
び絶縁部材109、並びに、ムーブメント104を模式的に示す概略斜視図である。
【0053】
この腕時計型電子機器100は、ケース部101と、このケース部101の前面側開口
部に取り付けられた表示窓102と、ケース部101の背面側開口部に取り付けられた裏
蓋103と、ケース部101内に配置されたムーブメント(時計情報表示処理部)104
と、ムーブメント104に対して接続された巻真(操作軸)105と、巻真105の外端
に取り付けられた竜頭(外部操作部材)106と、表示窓102の内側に配置された文字
板107と、文字板107の背面側に配置された環状のアンテナ111と、アンテナ11
1を取巻くように構成された環状の磁性部材108と、磁性部材108とケース部101
の内面及び裏蓋103の内面との間に介挿された絶縁部材109とを備えている。
【0054】
ここで、ムーブメント(時間情報表示処理部)104には、上記図4を参照して説明し
たウォッチCPU14、駆動回路18A及び駆動機構18Bが内蔵されている。ムーブメ
ント104には、必要に応じて、電池や大容量キャパシタ等の電源が内蔵されていてもよ
い。また、上記表示窓102、文字板107及び上記の秒針361、分針362及び時針
363等の指針部分によって表示部が構成される。
【0055】
磁性部材108は、純鉄、電磁軟鉄、珪素鋼、パーマロイ、フェライトその他の各種合
金などの高透磁率で保磁力が比較的小さい磁性材料で構成されている。
磁性部材は全体として略環状に構成され、その周回方向と直交する平面で切断した断面形
状は、前面側(文字板(表示板)107の側)に開いたコ字状に形成されている。ただし
、この断面形状は、アンテナ111の内側、外側、底部側に存在し、前面側には開口した
形状でさえあれば、U字状、V字状など任意である。
そして、この断面形状によって構成された環状凹溝108a内にはアンテナ111が配置
されている。また、磁性部材108には、周回方向の所定位置に切り欠き部108bが設
けられ、この切り欠き部108bを上記巻真105が通過している。
【0056】
アンテナ111は、図12に示すように、導電線111aが巻回されてなるコイル体で
構成される。このアンテナ111の導電線111aの両端は、基板110SB上の配線パ
ターンに設けられた接続パッド110BPに接合されることにより、基板110SB上に
実装された通信モジュール110ICに対して導電接続されている。また、基板110S
B上の配線パターンには同調用コンデンサ112もまた実装されている。
【0057】
絶縁部材109は、磁性部材108の外周面及び底面を覆うように断面L字状に構成さ
れ、磁性部材108と接触する面とは反対側の外周面及び底面がケース部101の内面及
び裏蓋103の内面に接触している。絶縁部材109は弾性を備えた軟質の合成樹脂やゴ
ム等の弾性素材で構成されていることが好ましい。
【0058】
この実施形態において、上記磁性部材108は、アンテナ111を内周側、外周側、底
面側の三方から覆うように構成されている。また、磁性部材108は絶縁部材109を介
してケース部101の内面によって平面方向に位置決めされ、同様に絶縁部材109を介
して裏蓋103の内面によって上下方向(厚さ方向)にも位置決めされている。そして、
磁性部材108の内周面によってムーブメント104が位置決めされている。すなわち、
磁性部材108は、ケース体の内部においてムーブメント104を位置決めする部材(中
枠など)としての機能を有していることとなる。
【0059】
また、アンテナ111は図中において多数回巻回されたコイル状に構成されているが、
数周巻回されたループ状に形成されていてもよく、ループ状のアンテナとしてのターン数
や形状は任意である。より具体的には、搬送波の周波数が13.56[MHz]である場
合には2〜3ターンのループアンテナでよく、また、周波数125[kHz]の場合には
数百ターンの巻数が必要となる。
【0060】
ループ状のアンテナはループ径及び開口面積が大きい程アンテナゲインが向上するので
、アンテナ111はケース体101内のなるべく外周側に形成することが好ましい。本実
施形態では、ムーブメント104の外周側において環状の磁性部材108がケース部10
1の内面に沿って形成され、この磁性部材108の環状凹溝108a内にアンテナ111
のループが形成されている。したがって、アンテナ111は、ケース部101の外径にほ
ぼ近いループ径を備えたものとなっている。
【0061】
なお、図5に示すように、アンテナ111の導電線111aの両端に接続された同調用
コンデンサ112及び通信モジュール110ICを実装した基板110SBは、ムーブメ
ント104内の適宜の位置に配置される。
【0062】
また、本実施形態では、上記アンテナ111とケース体外部との間の電磁波の伝播を可
能にするために、文字板107は、合成樹脂やセラミックスなどの絶縁体で構成されてい
る。これによってケース体の前面に配置された表示部が電磁気的な開口部となるので、非
接触データ通信が可能になる。また、ケース部101と裏蓋103もまた絶縁性素材で構
成することが好ましいが、後述するように、上記磁性部材108が設けられていることに
よって、ケース部101と裏蓋103を金属などの導電性素材で構成することもできる。
ここで、ケース部101及び裏蓋103の一部のみを導電性素材で構成しても構わない。
【0063】
なお、後述するように非接触データ通信時の通信内容を表示する場合には、図5及び図
6に2点鎖線にて示すように、基板108上に液晶表示パネル等からなる表示体110D
Pを実装し、この表示体110DPの表示面を露出させる開口部を文字板107に設ける
ことが好ましい。これによって、文字板107の開口部から露出する表示体110DPの
表示面に表示された表示内容を視認することが可能になる。
【0064】
(腕時計型電子機器100の動作)
次に、腕時計型電子機器100の動作について説明する。図11は、腕時計型電子機器
100と外部送受信装置510との間の非接触データ通信の手順を示すシーケンス図であ
る。
【0065】
図11に示すように、外部送受信装置510は、通常、調歩同調プロトコルによりポー
リング信号(通信要求)を繰り返し(所定周期で)送信している(ステップS101)。
より具体的には、外部送受信装置510の制御装置511は、送信回路512にポーリン
グ信号を生成させ、高周波回路514及びアンテナ515を介してポーリング信号を送信
し続けている。腕時計型電子機器100は、外部送受信装置510の通信圏内に入って上
記ポーリング信号を受信すると、通信を開始する。通信に際しては、最初に相互認証のた
めのデータを外部送受信装置510へ送り(ステップS102)、これによって相互認証
期間T01に移行する。外部送受信装置510は、腕時計型電子機器100が自己の通信
圏内に入ったことを検出し、相互認証のためのデータを腕時計型電子機器100に送信す
る(ステップS103)。このデータを受信した腕時計型電子機器100は、相互認証が
完了した旨の応答データを外部送受信装置510へ送信する(ステップS104)。
【0066】
上記のようにして相互認証が完了すると、読み込み期間T02へ移行し、外部送受信装
置510は、腕時計型電子機器100からデータを読み込むべく、読み込み要求データを
送信する(ステップS105)。これにより、腕時計型電子機器100は、読み込み要求
データに対応するメモリ110M(図3参照)内のメモリアドレスから対応するデータを
読み出し、外部送受信装置510に送信する(ステップS106)。
【0067】
上記のようにして腕時計型電子機器100からのメモリデータが外部送受信装置510
にて受信されると、判定期間T03へ移行する。この判定期間T03においては、外部送
受信装置510は、受信したデータから乗車券、プリペイドカードなどのデータ種類や有
効期限などを認識し、当該内容が受け入れ可能なものか否かを判定する(ステップS10
7)。
【0068】
上記判定が完了すると、外部送受信装置510は書き込み期間T04に移行し、乗車の
有無や払い出し額などのデータを腕時計型電子機器100に送信する(ステップS108
)。これにより、腕時計型電子機器100は、上記データを受信した旨を知らせるための
応答データを外部送受信装置510へ送信する(ステップS109)。
【0069】
以上の手順によって通信は完了し、腕時計型電子機器100は内部処理期間T05に移
行する。この期間T05においては、メモリ110Mの対応するメモリアドレスに、上記
ステップS108にて送られてきたデータ内容を書き込み、必要事項の記録(乗車記録)
や更新(残高データなど)を行う。一方、外部送受信装置510は、この期間T05にお
いて、上記ステップS109にて腕時計型電子機器100から送信された応答データを確
認し、その後、次のポーリング処理に備えることとなる(ステップS110)。
【0070】
なお、上記の相互承認期間T01、読み込み期間T02、判定期間T03、書き込み期
間T04及び内部処理期間T05を含む相互処理期間T10においては、例えば、上記図
5及び図6に2点鎖線で示す表示体110DPを設けた場合、この表示体110DPに通
信状態、通信処理段階、或いは、通信処理内容(乗車記録などの記録や残高データ若しく
は払い出しデータなど)の表示を行うようにしてもよい。また、後述する第2実施形態の
ように液晶表示パネルなどの表示体が時間情報をも表示するように構成されている場合に
は、相互処理期間T10において時間情報の表示を一時的に停止してもよい。このとき、
時間情報の代りに、上記通信状態、通信処理段階、或いは通信処理内容などを表示するよ
うにしても構わない。
【0071】
以上説明した実施形態においては、図5及び図6に示すように、ケース体の内部に磁性
部材108を配置したので、表示部を介してケース体の内部と外部との間を伝播する電磁
波がケース部101や裏蓋103による影響を受け難いように構成されている。すなわち
、ケース部101や裏蓋103の少なくとも一部を導電性素材で構成したときでも、非接
触データ通信に用いられる電磁波に伴う変動磁界成分がアンテナ111の近傍に集中する
ので、周囲の導電体の影響を受け難くなる。これは、磁性部材108がアンテナ111の
導電線111a周りの磁気回路の一部を構成するようになっていて、しかも磁性部材10
8はケース部101よりも高い透磁率を備えているので、変動磁界成分の磁束が磁性部材
108内により多く通過するようになるからである。特に、本実施形態では、アンテナ1
11のループ状の導電線111aと、ケース部101、裏蓋103及びムーブメント10
4との間に磁性部材108が介在しているので、ケース部101、裏蓋103及びムーブ
メント104が導電性素材で構成されていても、その影響を十分に低減できる。例えば、
変動磁界成分の磁束が磁性部材108内を通過して、その分、ケース部101や裏蓋10
3を通過しにくくなっていることにより、変動磁界成分によってケース部101や裏蓋1
03に渦電流が生じ難くなり、その結果、渦電流損による通信感度及び通信距離の低下を
抑制できる。
【0072】
また、磁性部材108は、アンテナ111を、ループ状の導電線111a周りの180
度を越える角度範囲に亘って覆っていることによって、変動磁界成分に起因する磁束を磁
性部材108内により集中させやすく構成されている。すなわち、導電線111a周りの
磁性部材108を通過する磁気回路の磁気抵抗が周囲よりも低くなるように構成されてい
るので、変動磁界成分に起因する磁束は磁性部材108内を通り易くなり、その結果、磁
束は磁性部材108内に集中する。
【0073】
特に、本実施形態では、アンテナ111と側方(外周側)のケース部101との間、ア
ンテナ111と下方の裏蓋103との間、及び、アンテナ111と内側のムーブメント1
04との間にそれぞれ磁性部材108が配置されているので、ケース部101、裏蓋10
3或いはムーブメント104が導電性素材で構成されていても、アンテナよりも側方、下
方又は内側に分布する変動磁界成分が磁性部材108内に集束するので、ケース部101
や裏蓋103の影響をより低減することが可能になっている。
【0074】
本実施形態では、電磁波が伝播してくるとともに電磁波が伝播していく表示部の側には
基本的に導電性の部材は配置しないようにする必要がある。例えば、本実施形態では文字
板107を絶縁体で構成している。また、磁性部材108は表示部の側に開くように構成
されており、アンテナ111の表示部の側には磁性部材108が配置されていないので、
アンテナ111の電磁波放射特性及び電磁波受信特性において表示部の側により強い指向
性を持たせることが可能になる。また、アンテナ111の表示部の側には磁性部材108
が配置されていないことにより、アンテナ111を表示部の側に近づけて配置させること
が可能になるので通信感度や通信距離においてより有利であるとともに、ケース体の厚さ
を低減し、腕時計型電子機器100の本体を薄型化することが可能になっている。
【0075】
さらに、本実施形態の場合には、磁性部材108とケース部101及び裏蓋103との
間に絶縁部材109が介在しているので、ケース部や裏蓋による影響をさらに低減できる
とともに、この絶縁部材109は緩衝材としても機能するので、磁性部材108などが損
傷を受けることが防止され、機器の耐衝撃性を向上させることができる。特に、磁性部材
108は高透磁率フェライト等の焼結材などの脆性材で構成されることが多いため、この
ような脆性材で構成された磁性部材108の損傷を防止する上で絶縁部材109は非常に
効果的である。
【0076】
本実施形態の磁性部材108は、ケース体内でムーブメント104(及び文字板107
)を位置決めするための部材(中枠)として機能するように構成されているので、従来の
腕時計構造に比べてほとんど部品点数を増加させることもなく、本体構造の寸法を増大さ
せることもなく構成することができる。換言すれば、従来の腕時計においてその中枠を磁
性部材で構成し、この中枠内にアンテナを配置することによって、従来構造にほとんど変
更を加えることなく非接触データ通信機能を備えた装着型電子機器を構成することができ
る。
【0077】
[第2実施形態]
次に、図7を参照して本発明に係る装着型電子機器の第2実施形態について説明する。
ここで、第2実施形態では腕時計型電子機器200が上記第1実施形態の腕時計型電子機
器100と若干異なるだけであり、通信相手の外部送受信装置510の構成などは全く同
様であるので、それらの説明は省略する。
【0078】
この第2実施形態の腕時計型電子機器200は、図7に示すように、基本的に第1実施
形態と同様の、ケース部201、表示窓202、裏蓋203、ムーブメント204、巻真
205、竜頭206及び文字板207を有している。ただし、本実施形態では、裏蓋20
3が合成樹脂等の絶縁性素材で構成されている。
【0079】
ケース体の内部においては、第1実施形態とほぼ同様に構成されたコイル状の導電線を
含む環状のアンテナ211が配置され、このアンテナ211とその外側のケース部201
との間には磁性部材208の外リング部208Aが配置され、また、アンテナ211とそ
の内側のムーブメント204との間には磁性部材208の内リング部208Bが配置され
ている。外リング部208Aと内リング部208Bとは共に環状に構成され、また、巻真
205を通過させることの可能な切り欠き部208bを共に備えている。なお、上記磁性
部材208とケース部201及び裏蓋203との間には、第1実施形態と同様の絶縁部材
209が配置されている。
【0080】
アンテナ211の導電線のループ軸(このアンテナはコイル状の導電線を有しているの
で、ループ軸はコイル軸と一致する。)は、一方で表示窓202や文字板207を含む表
示部を通過し、他方で裏蓋203を通過するが、この実施形態では裏蓋203が絶縁性素
材で構成されているので、ループ軸は両側で共に絶縁性の部材を通過するように構成され
ている。このため、例えケース部201全体が導電性素材で構成されていても、比較的良
好に通信を行うことができる。
【0081】
また、この実施形態では、磁性部材208がアンテナ211の裏蓋203側に配置され
ていないが、裏蓋203が絶縁性素材で構成されていることにより、通信への影響は少な
い。この構造では、アンテナ211とケース部201との間には外リング部208Aが配
置され、アンテナ211とムーブメント204との間には内リング部208Bが配置され
ていることにより、通信に用いられる電磁波に伴う変動磁界成分は、アンテナ211の両
側に配置された外リング部208Aと内リング部208Bに集中的に磁束が通過するよう
に構成されるので、ケース部201やムーブメント204の少なくとも一部が導電性素材
で構成されていても、大きな影響を受けずに通信を行うことができる。
【0082】
[第3実施形態]
次に、図8を参照して、本発明に係る装着型電子機器の第3実施形態について説明する
。ここで、第3実施形態では腕時計型電子機器300が上記第1及び第2実施形態の腕時
計型電子機器100,200と若干異なるだけであり、通信相手の外部送受信装置510
の構成などは全く同様であるので、それらの説明は省略する。
【0083】
この第3実施形態の腕時計型電子機器300は、図8に示すように、基本的に第1実施
形態と同様の、ケース部301、表示窓302、裏蓋303、ムーブメント304、巻真
305、竜頭306及び文字板307を有している。
【0084】
腕時計型電子機器300は、ムーブメント304の外周側に、ループ状の導電線を備え
たアンテナ321が構成され、このアンテナ321を取り囲むように環状の磁性部材30
8が配置されている。磁性部材308は、アンテナ321とケース部301との間、及び
、アンテナ321と裏蓋303との間に配置されるように、断面L字型に構成されている
。磁性部材308とケース部301及び裏蓋303との間には断面L字型の環状の絶縁部
材309が配置されている。
【0085】
アンテナ321は、図13に示すように、環状の基板321SBの上に構成された導電
体パターンからなるループ状の導電線321aで構成されている。この導電線321aは
、図示例では基板321SBの表裏両面上にそれぞれ2周ずつ巻回されるように構成され
ている。ここで、基板321SBの裏面上に形成された導電線321aは、基板321S
Bの表面上に形成されたものに対してスルーホール321THを介して導電接続されてい
るが、図中には表れていない。導電線321aの両端は同調用コンデンサ322に接続さ
れるとともに、通信モジュール320ICに接続されている。
【0086】
上記のように構成された基板321SBは、図8に示すように磁性部材308の断面L
字型の内面上に配置され、これによって、アンテナ321とケース体301との間に磁性
部材308が配置され、同時に、アンテナ321と裏蓋303との間にも磁性部材308
が配置されていることとなる。このため、上記各実施形態と同様に、通信に用いられる電
磁波に伴う変動磁界成分をアンテナ321の近傍に集中させることができるので、ケース
部301や裏蓋303が導電性素材で構成されていても、これらの影響を低減することが
でき、支障なく通信を行うことが可能になる。
【0087】
[第4実施形態]
次に、図9を参照して、本発明に係る装着型電子機器の第4実施形態について説明する
。ここで、第4実施形態では腕時計型電子機器400が上記第1及び第2実施形態の腕時
計型電子機器100,200と若干異なるだけであり、通信相手の外部送受信装置510
の構成などは全く同様であるので、それらの説明は省略する。
【0088】
この第4実施形態の腕時計型電子機器400は、図9に示すように、基本的に第1実施
形態と同様の、ケース部401、表示窓402、裏蓋403、ムーブメント404、巻真
405、竜頭406及び文字板407を有している。
【0089】
この実施形態では、ムーブメント404の外周側に、第3実施形態と同様の環状の基板
421SBが配置され、この基板421SB上には第3実施形態と同様のループ状の導電
線421aを備えたアンテナ421が形成されている。上記と同様の同調用コンデンサや
通信モジュールもまた基板421SB上に実装されている。
【0090】
アンテナ421とケース部401との間には環状の磁性部材408が配置され、この磁
性部材408とケース部401との間にはさらに環状の絶縁部材409が配置されている
。この実施形態では、この磁性部材408は、アンテナ421とケース部401との間に
のみ配置されている。
【0091】
また、この実施形態では、裏蓋403が、蓋枠部403Aと、この蓋枠部403Aやケ
ース部401に対して上記磁性部材408と同様により高い透磁率を備えた磁性材部40
3Bとを有している。そして、磁性部材408の背面側の端面と磁性材部403Bの内面
とは相互に接触している。
【0092】
本実施形態では、アンテナ421の周りに磁性部材408と裏蓋403の磁性材部40
3Bとで構成される高透磁率の磁気回路が隣接して構成され、これによって、ケース部4
01を導電性の素材で構成しても、その通信上の影響が低減されるようにしている。
【0093】
なお、この実施形態において、裏蓋403を合成樹脂などの非磁性部材であってしかも
絶縁性の素材で構成してもよい。この場合には、裏蓋403の存在は電磁的に無視できる
ので、磁性部材408による効果のみが得られ、ケース部401に導電性素材を用いても
支障なく通信を行うことができる。
【0094】
[第5実施形態]
次に、図10を参照して、本発明に係る第5実施形態の腕時計型電子機器600につい
て説明する。この実施形態でも、図1及び図2に示す外部送受信装置510との非接触デ
ータ通信を行うように構成されているので、外部送受信装置510の構成についての説明
は省略する。
【0095】
腕時計型電子機器600は、金属等の導電性部材からなるケース部601と、ケース部
601の前面側開口部に取り付けられた表示窓602と、ケース部601の背面側開口部
に取り付けられた、絶縁体よりなる裏蓋603と、ケース部601の内部に配置された回
路基板604とを備えている。また、この回路基板604上には、時計用IC605と、
液晶パネル等からなる表示体606と、クロック生成用の水晶発振器607とが実装され
、また、化学2次電池やキャパシタ等からなる蓄電池608が装着されている。すなわち
、この腕時計型電子機器600は表示体606を備えたデジタル表示型の腕時計型電子機
器となっている。
【0096】
回路基板604の表面上にはループ状の導電線621aを備えたアンテナ621が形成
され、また、回路基板604の裏面上には、第1実施形態と同様の通信モジュール620
ICが実装されている。
【0097】
この実施形態では、ケース部601の前面側に、ケース部601よりも高い透磁率を備
える軟磁性体で構成された環状の磁性部材628が絶縁体609を介して固定され、この
磁性部材628の内側に表示窓602や表示体606を含む表示部が配置されている。磁
性部材628は断面コ字型に構成されており、このコ字型の内部に、上記回路基板604
上に形成されたアンテナ621が配置されるように構成されている。したがって、アンテ
ナ621とケース部601との間には磁性部材628が配置され、しかも、この磁性部材
628は、アンテナ621から見て表示部側(内側)に開いた形状を備えている。
【0098】
この実施形態では、ケース部601に導電性の素材を用いた場合であっても、磁性部材
628が配置されていることによりアンテナ621を介して行われる非接触データ通信が
ケース部601に影響されにくくなっている。
【0099】
このとき、裏蓋603は導電性素材で構成されていてもよいが、通信感度や通信距離を
さらに向上させるためには、合成樹脂などの絶縁性素材で裏蓋603を構成することが好
ましい。
【0100】
本実施形態では、磁性部材628が表示部の周囲外面に露出している。しかし、上記第
1乃至第4実施形態と同様に、磁性部材628をケース体の内側に配置するように構成し
ても構わない。また、本実施形態の磁性部材628の形状や配置(すなわちケース体の一
部を構成するようにした構造)を上記第1乃至第4実施形態の機器構造に用いてもよく、
さらに、上記第1乃至第4実施形態の磁性部材の形状や配置を本実施形態の電子機器(例
えばデジタル表示型の電子機器)に用いても構わない。
【0101】
尚、本発明の非接触データ通信機能を有する装着型電子機器は、上述の図示例にのみ限
定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得るこ
とは勿論である。例えば、上記各実施形態の電子機器はいずれも腕時計の機能を備えたも
のであるが、ダイバーズコンピュータ、ストップウォッチ、さらには、計時機能を有しな
い電子機器においても、本発明を同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0102】
100 腕時計型電子機器101 ケース部102 表示窓103 裏蓋104 ムー
ブメント105 巻真106 竜頭107 文字板108 磁性部材109 絶縁部材1
10 非接触通信部110IC 通信モジュール111 アンテナ111a 導電線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非接触データ通信を行うためのアンテナと、磁性部材と、前記アンテナ及び前記磁性部
材を収容するケース体と、を有し、
前記ケース体は、導電材で構成されており、
前記磁性部材は、前記ケース体の前記導電材より高い透磁率を備え、
前記ケース体と、前記アンテナと、の間には、前記磁性部材を位置決めする絶縁部材が
配置されていることを特徴とする非接触データ通信機能を備えた装着型電子機器。
【請求項2】
前記磁性部材は、前記非接触データ通信に用いられる電磁波の磁界変動成分を前記アン
テナの近傍位置に集束するように、前記アンテナと、前記ケース体と、の間に配置されて
いることを特徴とする請求項1に記載の非接触データ通信機能を備えた装着型電子機器。
【請求項3】
前記ケース体の他端側に配置され情報を表示する表示部を有し、
前記磁性部材は、前記アンテナの前記表示部側には配置されていないことを特徴とする
請求項1乃至請求項2のいずれかに記載の非接触データ通信機能を備えた装着型電子機器

【請求項4】
前記磁性部材は、前記アンテナの導電線と、前記ケース体と、の間に配置されているこ
とを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の非接触データ通信機能を備
えた装着型電子機器。
【請求項5】
前記磁性部材は、前記アンテナのコイル状導電線と、前記ケース体と、の間に配置され
ていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の非接触データ通信
機能を備えた装着型電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−119002(P2012−119002A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−5188(P2012−5188)
【出願日】平成24年1月13日(2012.1.13)
【分割の表示】特願2001−236578(P2001−236578)の分割
【原出願日】平成13年8月3日(2001.8.3)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】