説明

非接触型データ受送信体

【課題】 外力に対する耐久性および耐薬品性に優れ、薄型化が可能であるとともに、金属を少なくとも含む物品に接しても、ICチップの作動起電力を十分上回る起電力が誘起されて使用できる非接触型データ受送信体を提供する。
【解決手段】 凹部15aを設けた筐体15、凹部15a内に収蔵されたインレット14、および、筐体15とインレット14との間に位置する空間15bを除いた凹部15a内にインレット14を覆うように設けた磁性材料を含む第二の被覆体18から構成された非接触型データ受送信体10を提供する。第二の被覆体18の外面18aの周端部18bが、筐体15の周端部15bに揃うように配する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFID(Radio Frequency IDentification)用途の情報記録メディアのように、電磁波を媒体として外部から情報を受信し、また外部に情報を送信できるようにした非接触型データ受送信体に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触型データ受送信体の一例であるICラベルは、ベース基材と、その一方の面に設けられ互いに接続されたアンテナおよびICチップとから構成されるインレットを備えており、リーダ/ライタからの電磁波を受信すると共振作用によりアンテナに起電力が発生し、この起電力によりICラベル内のICチップが起動し、このICチップ内の情報を信号化し、この信号がICラベルのアンテナから発信される。
ICラベルから発信された信号は、リーダ/ライタのアンテナで受信され、コントローラーを介してデータ処理装置へ送られ、識別などのデータ処理が行われる。
【0003】
このようなICラベルなどの非接触型データ受送信体は、例えば、物品管理の用途などに用いられる。特に、非接触型データ受送信体を、種類の多い物品や、部品点数の多い機械部品などの管理に適用すれば、物品自体を目視することなしに識別することができるため、物品の選定作業や在庫管理などの効率を上げることができるので、非常に有効である。
【0004】
非接触型データ受送信体を物品の管理に用いる場合には、これを対象となる物品に直接貼付する。そのため、物品の用途によっては、非接触型データ受送信体が外部からの衝撃により損傷を受けて、その通信機能が損なわれることがある。そこで、インレットをケースに収蔵したり、樹脂で被覆したりして保護構造を設けて、外部からの衝撃に耐え得る構造の非接触型データ受送信体が提案されている。
【0005】
このような構造の非接触型データ受送信体の製造方法としては、以下のようものが挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
例えば、原反シート上にインレットを設け、この原反シートにインレットを覆うように、熱圧着や樹脂接着剤などにより原反シートと同質のカバーシートを貼り合わせた後、原反シート、インレットおよびカバーシートからなる積層体を、その積層方向に円形に打ち抜いて、インレットが樹脂に埋め込まれた円盤状の非接触型データ受送信体を得る方法(以下、説明を簡略化するために「第一の方法」と称する。)が挙げられる。
【0006】
また、射出成形用の金型内にインレットを挿入した後、金型内に溶融した熱可塑樹脂を流入させるか、もしくは熱硬化性樹脂を流入させて加熱することにより、インレットが樹脂に埋め込まれ、金型によって所定の形状に形成された非接触型データ受送信体を得る方法(以下、説明を簡略化するために「第二の方法」と称する。)が挙げられる。
【0007】
ところで、第一の方法では、原反シートが、円形に打ち抜く際の張力や圧力に耐えられる程度の最低限の厚みが必要であるため、非接触型データ受送信体を薄型化することが難しいという問題があった。加えて、原反シートおよびカバーシートには、ICチップの厚みを吸収する部分がないため、ICチップの圧力負荷が増大するという問題があった。また、原反シートとカバーシートの密着性が悪い上に、打ち抜きにより成形した結果、両者の接合端面が露出してしまうため、外力が加えられると、原反シートとカバーシートの接合面にて、両者が剥離して、インレットが露出するおそれがあった。さらに、原反シートとカバーシートの接合面から、内部に水分や薬品が浸透し易いので、この方法で製造された非接触型データ受送信体は、耐水性や耐薬品性に劣っていた。
【0008】
また、第二の方法では、射出成形時に必要以上にインレットに圧力がかかり、ICチップまたはアンテナが損傷するおそれがあった。また、この方法にて非接触型データ受送信体の薄型化を図るために、ベース基材の厚みを薄くすると、金型内に樹脂を流入させた際に、樹脂の圧力によりベース基材に亀裂が入ってしまうので、薄型化が難しいという問題があった。
【0009】
また、このような非接触型データ受送信体を金属物品の表面に載置した場合、リーダ/ライタから発生した磁束が金属物品の表面では平行になるため、金属物品の表面に載置された非接触型データ受送信体のアンテナを通過する磁束が減少し、アンテナに誘起される起電力が低下するため、ICチップが作動しなくなる。
【0010】
そこで、金属物品の上に載置しても、ICチップが作動するようにするために、フェライトコアにアンテナを巻いて、このアンテナの軸心が金属製物品の表面の磁束の方向と平行になるように配置し、アンテナ面を通過する磁束を増大させて、誘導起電力を増大させようとする方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0011】
また、アンテナを平面状に形成して、そのアンテナの下面に設けた磁芯部材に磁束を通過させることによって、平面状に形成したアンテナ内に磁束を通過させて、アンテナに誘導起電力を発生させるとともに、磁芯部材の下面に導電部材を設けて、載置する物品からICラベルへの影響を防止しようとする提案がある(例えば、特許文献3参照。)。
【0012】
しかしながら、特許文献2では、誘導起電力を増大させるために、アンテナを通過する磁束を増大させようとしてアンテナの径を大きくすると、ICラベルの厚さが増大するという問題がある。
一方、特許文献3は、ベース基材の一方の面に磁芯部材と導電部材を設けるために、この場合もICラベルの厚さが増大するという問題がある。
【特許文献1】特開2003−331243号公報
【特許文献2】特開2003−317052号公報
【特許文献3】特開2003−108966号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、外力に対する耐久性および耐薬品性に優れ、薄型化が可能であるとともに、金属を少なくとも含む物品に接しても、ICチップの作動起電力を十分上回る起電力が誘起されて使用できる非接触型データ受送信体を提供することを目的とする。
本発明におけるインレットとは、ICチップおよび/またはアンテナが形成された基材のことである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、凹部を設けた筐体、前記凹部内に収蔵されたインレット、および、前記筐体と前記インレットとの間に位置する空間を除いた前記凹部内に前記インレットを覆うように設けた磁性材料を含む被覆体から構成された非接触型データ受送信体を提供する。
【0015】
かかる構成によれば、筐体とインレットとの間に位置する空間を除いた凹部内にインレットを覆うように磁性材料を含む被覆体を設けたので、金属を少なくとも含む物品に接した場合でも、磁束が被覆体を通ってアンテナに捕捉されるため、アンテナにICチップを作動させるのに十分な誘導起電力を発生させることができる。しかも、被覆体がアンテナおよびICチップの保護膜として機能する。
【0016】
前記被覆体の外面の周端部が、前記筐体の周端部に揃うように配されていることが好ましい。
【0017】
かかる構成によれば、インレットは、筐体の凹部内にて、その外周全てが被覆体により覆われるから、非接触型データ受送信体に外力が加えられることにより、筐体と被覆体の界面にて両者が剥離し、インレットが露出したり、損傷したりすることがない。
【発明の効果】
【0018】
本発明の非接触型データ受送信体によれば、筐体とインレットとの間に位置する空間を除いた凹部内にインレットを覆うように磁性材料を含む被覆体を設けたので、金属を少なくとも含む物品に接した場合でも、磁束が被覆体を通ってアンテナに捕捉されるため、アンテナにICチップを作動させるのに十分な誘導起電力を発生させることができる。しかも、被覆体がアンテナおよびICチップの保護膜として機能する。
また、被覆体の外面の周端部を、筐体の周端部に揃うように配すれば、インレットは、筐体の外周端がなす平面よりも凹部の内側に配されているから、インレットは、筐体の凹部内にて、その外周全てが被覆体により覆われるから、筐体と被覆体を異なる材質で形成しても、非接触型データ受送信体に外力が加えられることにより、筐体と被覆体の界面にて両者が剥離し、インレットが露出したり、損傷したりすることがない。また、非接触型データ受送信体は、筐体と被覆体の界面にて両者が剥離することがないので、内部に水分や薬品が浸透することもなく、耐水性や耐薬品性に優れている。また、筐体を熱可塑性樹脂で形成すれば、外力に対する耐久性および耐薬品性を十分に確保しつつ、薄型の構造にすることもできる。さらに、筐体を熱可塑性樹脂で形成すれば、外力に対する耐久性および耐薬品性を十分に確保し、薄型の構造にすることができるだけでなく、表面が湾曲した形状にすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施した非接触型データ受送信体について詳細に説明する。
【0020】
(非接触型データ受送信体の第一の実施形態)
図1は、本発明に係る非接触型データ受送信体の第一の実施形態を示す概略断面図である。
図1中、符号10は非接触型データ受送信体、11はベース基材、12はアンテナ、13はICチップ、14はインレット、15は筐体、16は被覆体、17は第一の被覆体、18は第二の被覆体をそれぞれ示している。
【0021】
この実施形態の非接触型データ受送信体10は、凹部15aを設けた断面形状が矩形状の筐体15と、凹部15a内に収蔵されたインレット14と、凹部15a内にインレット14を覆うように設けた被覆体16とから概略構成されている。また、この被覆体16は、筐体15とインレット14との間に位置する空間15b内に配された第一の被覆体17と、筐体15とインレット14との間に位置する空間15bを除いた凹部15a内にインレット14を覆うように、すなわち、ベース基材11のアンテナ12およびICチップ13が設けられている面(以下、「一方の面」という。)11aとは反対の面(以下、「他方の面」という。)11bを覆い、凹部15aにおける他方の面11bよりも筐体15の外周端15c側の空間を満たすように設けた、磁性材料を含む第二の被覆体18から概略構成されている。
【0022】
また、インレット14は、ベース基材11と、その一方の面11aに設けられ、互いに接続されたアンテナ12およびICチップ13とからなるものである。非接触型データ受送信体10において、インレット14を構成するアンテナ12とICチップ13が互いに接続されるとは、アンテナ12の端部がICチップ13の両極端子にそれぞれ接続されることである。また、非接触型データ受送信体10において、アンテナ12は、ベース基材11の一方の面11aに所定の間隔をおいてICチップ13を介してコイル状に設けられている。さらに、ICチップ13の厚みは、アンテナ12の厚みよりも厚くなっている。
【0023】
また、非接触型データ受送信体10において、第二の被覆体18の外面18aの周端部18bが、筐体15の周端部15cに揃うように配されていることが好ましい。
このようにすれば、インレット14は、筐体15の凹部15a内にて、その外周全てが第一の被覆体17および第二の被覆体18、または、第一の被覆体17もしくは第二の被覆体18のいずれか一方により覆われるから、非接触型データ受送信体10に外力(特に、側方からの)が加えられることにより、筐体15と被覆体16の接触面(界面)にて両者が剥離し、インレット14が露出したり、損傷したりすることがない。
【0024】
ベース基材11としては、少なくとも表層部には、ガラス繊維、アルミナ繊維などの無機繊維からなる織布、不織布、マット、紙などまたはこれらを組み合わせたもの、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維などの有機繊維からなる織布、不織布、マット、紙などまたはこれらを組み合わせたものや、あるいはこれらに樹脂ワニスを含浸させて成形した複合基材や、ポリアミド系樹脂基材、ポリエステル系樹脂基材、ポリオレフィン系樹脂基材、ポリイミド系樹脂基材、エチレン−ビニルアルコール共重合体基材、ポリビニルアルコール系樹脂基材、ポリ塩化ビニル系樹脂基材、ポリ塩化ビニリデン系樹脂基材、ポリスチレン系樹脂基材、ポリカーボネート系樹脂基材、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合系樹脂基材、ポリエーテルスルホン系樹脂基材などのプラスチック基材や、あるいはこれらにマット処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、電子線照射処理、フレームプラズマ処理、オゾン処理、または各種易接着処理などの表面処理を施したものなどの公知のものから選択して用いられる。これらの中でも、ポリエチレンテレフタレートまたはポリイミドからなる電気絶縁性のフィルムまたはシートが好適に用いられる。
【0025】
アンテナ12は、ベース基材11の一方の面11aにポリマー型導電インクを用いて所定のパターン状にスクリーン印刷により形成されてなるものか、もしくは、導電性箔をエッチングしてなるものである。
【0026】
本発明におけるポリマー型導電インクとしては、例えば、銀粉末、金粉末、白金粉末、アルミニウム粉末、パラジウム粉末、ロジウム粉末、カーボン粉末(カーボンブラック、カーボンナノチューブなど)などの導電微粒子が樹脂組成物に配合されたものが挙げられる。
【0027】
樹脂組成物として熱硬化型樹脂を用いれば、ポリマー型導電インクは、200℃以下、例えば100〜150℃程度でアンテナ12をなす塗膜を形成することができる熱硬化型となる。アンテナ12をなす塗膜の電気の流れる経路は、塗膜をなす導電微粒子が互いに接触することによる形成され、この塗膜の抵抗値は10-5Ω・cmオーダーである。
【0028】
また、本発明におけるポリマー型導電インクとしては、熱硬化型の他にも、光硬化型、浸透乾燥型、溶剤揮発型といった公知のものが用いられる。
【0029】
光硬化型のポリマー型導電インクは、光硬化性樹脂を樹脂組成物に含むものであり、硬化時間が短いので、製造効率を向上させることができる。光硬化型のポリマー型導電インクとしては、例えば、熱可塑性樹脂のみ、あるいは熱可塑性樹脂と架橋性樹脂(特にポリエステルとイソシアネートによる架橋系樹脂など)とのブレンド樹脂組成物に、導電微粒子が60質量%以上配合され、ポリエステル樹脂が10質量%以上配合されたもの、すなわち、溶剤揮発型かあるいは架橋/熱可塑併用型(ただし熱可塑型が50質量%以上である)のものや、熱可塑性樹脂のみ、あるいは熱可塑性樹脂と架橋性樹脂(特にポリエステルとイソシアネートによる架橋系樹脂など)とのブレンド樹脂組成物に、ポリエステル樹脂が10質量%以上配合されたもの、すなわち、架橋型かあるいは架橋/熱可塑併用型のものなどが好適に用いられる。
【0030】
一方、アンテナ12をなす導電性箔としては、銅箔、銀箔、金箔、白金箔、アルミニウム箔などが挙げられる。
【0031】
ICチップ13としては、特に限定されず、アンテナ12を介して非接触状態にて情報の書き込みおよび読み出しが可能なものであれば、非接触型ICタグや非接触型ICラベル、あるいは非接触型ICカードなどのRFIDメディアに適用可能なものであればいかなるものでも用いられる。
【0032】
筐体15をなす材質は、特に限定されるものではないが、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂などの樹脂、セラミックス、ガラスなどが挙げられる。
筐体15の厚みは、凹部15a内にインレット14および被覆体16を収蔵できる程度であればよく、出来る限り薄いことが好ましい。
【0033】
筐体15をなす熱可塑性樹脂としては、例えば、塩化ビニル、酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、アクリル酸エステル−塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル−塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル−塩化ビニル共重合体、メタクリル酸エステル−エチレン共重合体、ポリ弗化ビニル、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール、セルロース誘導体(セルロースアセテートブチレート、セルロースダイアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、ニトロセルロース)、スチレンブタジエン共重合体、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、あるいは、スチレン系ゴム、フッ素系ゴム、シリコン系ゴム、エチレン・プロピレン共重合体ゴムなどのポリマー系の合成ゴム材料などが挙げられる。
【0034】
筐体15をなす熱硬化性樹脂または反応型樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミン樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂などが挙げられる。
【0035】
筐体15をなすセラミックス、ガラスとしては、特に限定されるものではなく、インレット14および被覆体16を収蔵できる程度の凹部15aを形成可能なものであればいかなるものでも用いられる。
【0036】
このような筐体15をなす材質の中でも、所定の形状に成形することが容易であるなどの点から樹脂が好ましく、樹脂の中でも、厚みの薄いシート状の基材を用いて筐体15を成形しても、凹部15aに亀裂が入り難いことなどから、熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0037】
第一の被覆体17をなす材質としては、熱可塑性樹脂、反応型樹脂、熱硬化性樹脂などの樹脂が挙げられる。
熱可塑性樹脂または反応型樹脂としては、筐体15をなすものと同様のものが用いられる。
熱硬化性樹脂としては、例えば、筐体15の凹部15a内にインレット14を収蔵した状態で、インレット14を覆うように被覆することができるものでれば、特に限定されるものではないが、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、第一の被覆体17をなす熱硬化性樹脂としては、筐体15が熱可塑性樹脂からなる場合、硬化温度が、この熱可塑性樹脂の融点よりも低いものが用いられる。
【0038】
非接触型データ受送信体10の外力に対する耐久性および耐薬品性を向上させるために、筐体15と第一の被覆体17の密着性を高めるためには、両者の材質を同一のものとすることが望ましい。しかしながら、筐体15と第一の被覆体17の材質を同一にすると、インレット14を被覆するために、第一の被覆体17をなす樹脂を凹部15a内に充填した際に、第一の被覆体17をなす樹脂の熱(熱硬化性樹脂の場合、硬化温度、熱可塑性樹脂の場合、溶融されているため溶融温度)によって、筐体15が変形するか、もしくは流体となってしまうので好ましくない。また、第一の被覆体17が熱可塑性樹脂であると、固化するまでの時間が短く、凹部15a内に充填し難いので、第一の被覆体17をなす材質としては、反応型樹脂または熱可塑性樹脂が好ましい。さらに、反応型樹脂は固化した際に、分子構成に疎密が出来易いので、第一の被覆体17をなす材質としては、熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0039】
第二の被覆体18は、少なくとも磁性微粒子からなるフィラーを樹脂に含有してなる複合体から構成されている。このような第二の被覆体18において、非接触型データ受送信体10をベース基材11の他方の面11b側から見て、第二の被覆体18を構成する多数の磁性微粒子は、少なくともその一部が互いに重なり、連接した1つの磁性体を形成している。
【0040】
また、磁性微粒子としては、粉末状の磁性体粉末、または、この磁性体粉末をボールミルなどで微細化して粉末を成形した後、この粉末を機械的に扁平化して得られた扁平状のフレークなどからなる磁性体フレークが挙げられる。これらの中でも、磁性微粒子としては、扁平状のものが好ましい。磁性微粒子が扁平状であれば、非接触型データ受送信体10をベース基材11の一方の面11a側から見て、第二の被覆体18を構成する多数の磁性微粒子が、少なくともその一部が互いに重なり、連接した1つの磁性体を形成しやすい。したがって、より磁束が磁性体層を通ってアンテナに捕捉され易くなる。
【0041】
さらに、磁性体粉末としては、例えば、センダスト(Fe−Si−Al合金)粉末、カーボニル鉄粉末、パーマロイなどのアトマイズ粉末、還元鉄粉末などが挙げられる。磁性体フレークとしては、例えば、前記磁性体粉末をボールミルなどで微細化して粉末を成形した後、この粉末を機械的に扁平化して得られたフレークや、鉄系またはコバルト系アモルファス合金の溶湯を水冷銅板に衝突させて得られたフレークなどが挙げられる。これらの中でも、磁性微粒子としては、センダストからなる磁性体粉末または磁性体フレークが好ましく、センダストからなる磁性体フレークがより好ましい。磁性微粒子が、センダストからなる磁性体粉末または磁性体フレークであれば、これらを構成要素として含む第二の被覆体18の飽和磁束密度および透磁率が高くなるので、より磁束が磁性体層を通ってアンテナに捕捉され易くなる。
【0042】
なお、第二の被覆体18をなす磁性微粒子の形状は、その全てが粉末状あるいは扁平状のいずれか一方である必要はない。第二の被覆体18には、粉末状の磁性微粒子と扁平状の磁性微粒子が混在していてもよく、このように形状の異なる磁性微粒子が混在していても、本発明の非接触型データ受送信体は十分に効果を発揮する。
【0043】
第二の被覆体18をなす複合体を構成する樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂などが挙げられる。
【0044】
熱可塑性樹脂としては、例えば、塩化ビニル、酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、アクリル酸エステル−塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル−塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル−塩化ビニル共重合体、メタクリル酸エステル−エチレン共重合体、ポリ弗化ビニル、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール、セルロース誘導体(セルロースアセテートブチレート、セルロースダイアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、ニトロセルロース)、スチレンブタジエン共重合体、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、あるいは、スチレン系ゴム、フッ素系ゴム、シリコン系ゴム、エチレン・プロピレン共重合体ゴムなどのポリマー系の合成ゴム材料などが挙げられる。
【0045】
熱硬化性樹脂または反応型樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミン樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂などが挙げられる。
【0046】
また、第二の被覆体18をなす複合体には、被貼付体に粘着性を付与するために、各種粘着剤が含まれていてもよい。
【0047】
また、第二の被覆体18をなす複合体を形成するために用いられる磁性塗料に含まれる添加剤としては、粘度調整剤、消泡剤、レベリング剤などが挙げられる。
【0048】
さらに、この磁性塗料に含まれる溶媒としては、シクロヘキサノン、アセトン、ベンゼン系、エチル系などの有機溶媒が挙げられる。
【0049】
第二の被覆体18をなす複合体は、磁性微粒子からなるフィラーと、樹脂と、添加剤と、溶媒とを含む磁性塗料を塗布、乾燥することによって、磁性微粒子がほぼ均一に分散した形態に成形される。
【0050】
非接触型データ受送信体10の外力に対する耐久性および耐薬品性を向上させるために、筐体15と第二の被覆体18の密着性を高めるためには、筐体15をなす材質と、第二の被覆体18をなす樹脂を同一のものとすることが望ましい。
【0051】
このように、この実施形態の非接触型データ受送信体10によれば、筐体15とインレット14との間に位置する空間15bを除いた凹部15a内にインレット14を覆うように磁性材料を含む第二の被覆体18を設けたので、金属を少なくとも含む物品に接した場合でも、磁束が第二の被覆体18を通ってアンテナ12に捕捉されるため、アンテナ12にICチップ13を作動させるのに十分な誘導起電力を発生させることができる。しかも、第一の被覆体17がアンテナ12およびICチップ13の保護膜として機能する。
【0052】
さらに、第二の被覆体18の外面18aの周端部18bを、筐体15の周端部15cに揃うように配すれば、インレット14は、筐体15の凹部15a内にて、その外周全てが第一の被覆体17および第二の被覆体18、または、第一の被覆体17もしくは第二の被覆体18のいずれか一方により覆われるから、非接触型データ受送信体10に外力(特に、側方からの)が加えられることにより、筐体15と被覆体16の接触面(界面)にて両者が剥離し、インレット14が露出したり、損傷したりすることがない
なお、非接触型データ受送信体10は、筐体15の外周端15b側の面に、接着剤または粘着剤を介して、対象となる物品(被着体)に貼付するので、物品に貼付された状態では筐体15と被覆体16の界面が外方に露出しないので、使用時にはより十分な耐薬品性を確保できる。また、非接触型データ受送信体10は、筐体15と被覆体16の接触面(界面)にて両者が剥離することがないので、内部に水分や薬品が浸透することもなく、耐水性や耐薬品性に優れている。また、筐体15を熱可塑性樹脂で形成すれば、外力に対する耐久性および耐薬品性を十分に確保しつつ、薄型の構造にすることもできる。さらに、筐体15を熱可塑性樹脂で形成すれば、外力に対する耐久性および耐薬品性を十分に確保し、薄型の構造にすることができるだけでなく、表面が湾曲した形状にすることもできる。
【0053】
なお、この実施形態では、断面形状が矩形状の筐体15を用いた非接触型データ受送信体を例示したが、本発明の非接触型データ受送信体はこれに限定されない。本発明の非接触型データ受送信体あっては、インレットを収蔵する筐体の形状は、対象となる物品(被貼付体)の形状、非接触型データ受送信体が貼付される場所などに応じて適宜決定される。
また、この実施形態では、筐体15の凹部15aの内側面と、インレット14との間に空間が設けられていない非接触型データ受送信体10を例示したが、本発明の非接触型データ受送信体はこれに限定されない。本発明の非接触型データ受送信体あっては、筐体の凹部の内側面と、インレットとの間に空間が設けられていてもよい。この場合、少なくとも凹部15a内に収蔵したインレット14と凹部15a内の底面との間の空間を満たすように、第一の被覆体17が設けられていればよい。
【0054】
また、この実施形態では、アンテナ12およびICチップ13が設けられている側の面を筐体15の凹部15aの内面側に向けてインレット14を配した非接触型データ受送信体10を例示したが、本発明の非接触型データ受送信体はこれに限定されない。本発明の非接触型データ受送信体あっては、アンテナおよびICチップが設けられている側の面を筐体の凹部の外側に向けてインレットを配してもよい。このようにインレットを配すれば、アンテナおよびICチップにかかる樹脂圧を下げることができるので、樹脂圧によるアンテナおよびICチップの損傷を抑制することができる。
【0055】
また、この実施形態では、インレット14のアンテナ12およびICチップ13が設けられている面を、筐体15の凹部15a内の底面側に配したが、本発明の非接触型データ受送信体はこれに限定されない。本発明の非接触型データ受送信体あっては、インレットのアンテナおよびICチップが設けられている面を筐体の周端部側に配してもよい。
【0056】
(非接触型データ受送信体の製造方法)
次に、図2〜図4を参照して、非接触型データ受送信体の製造方法の一実施形態について説明する。
以下に記すように、図2(a)に示すようなインレット14を製造する。
まず、ベース基材11の一方の面11aに、所定の厚み、所定のパターンをなすアンテナ12を設ける。
【0057】
この工程では、アンテナ12をポリマー型導電インクで形成する場合、スクリーン印刷法により、ベース基材11の一方の面11aに、所定の厚み、所定のパターンとなるようにポリマー型導電インクを印刷した後、このポリマー型導電インクを乾燥・硬化させることにより、所定の厚み、所定のパターンをなすアンテナ12を形成する。
【0058】
また、アンテナ12を導電性箔で形成する場合、以下のような手順に従う。
ベース基材11の一方の面11aの全面に導電性箔を貼り合わせた後、シルクスクリーン印刷法により、この導電性箔に耐エッチング塗料を所定のパターンに印刷する。この耐エッチング塗料を乾燥・固化させた後、エッチング液に浸して、耐エッチング塗料が塗布されていない銅箔を溶解除去し、耐エッチング塗料が塗布された銅箔部分をベース基材11の一方の面に残存させることにより、所定のパターンをなすアンテナ12を形成する。
【0059】
次いで、アンテナ12に設けられた接点12b,12bと、ICチップ13に設けられた接点(図示略)を、導電性ペースト、または、はんだからなる導電材を介して電気的に接続して、ICチップ13をベース基材11の一方の面11aに実装する。
【0060】
また、インレットの製造工程とは別に、図2(b)に示すように、シート状の基材20を用意する。
次いで、図2(c)に示すように、基材20の少なくとも一部が凹部20cをなすように、基材20を変形させる。
【0061】
基材20を変形させて、凹部20cを形成する方法としては、一方の面20a側から基材20に所定の形状の金型などを押し当てるとともに、基材20を熱変形させる方法、他方の面20b側から基材20を減圧もしくは真空に吸引して、所定の形状の型に密着させる方法などが用いられる。
基材20に所定の形状の金型などを押し当てるとともに、基材20を熱変形させる方法では、基材20に向けて斜めに金型を押し当てて基材20を変形させたり、基材20と接触する部分の形状が丸みを帯びた金型を用いれば、凹部20cの形状を半球状に形成したり、被貼付体への取り付け面となる部分を斜めにすることができる。また、同様に、基材20を減圧もしくは真空に吸引して、所定の形状の型に密着させる方法によっても、いかなる形状の凹部20cを形成することができる。
【0062】
次いで、図3(a)に示すように、基材20の凹部20c内に、適量の第一の被覆体をなす樹脂21を充填する。
なお、第一の被覆体をなす樹脂の充填量は限定されるものではなく、インレット14を樹脂21に接するように凹部20c内に収蔵した際に、凹部20cとインレット14との間の空間が樹脂21で満たされる程度の量であればよい。また、樹脂21の充填量は、インレット14を構成するアンテナ12やICチップ13の大きさなどに応じて、適宜調整される。
【0063】
次いで、図3(b)に示すように、アンテナ12およびICチップ13が設けられている面を内側にして、インレット14を樹脂21に接するように、基材20の凹部20c内に収蔵する。
この工程では、凹部20cの開口端20dがなす平面よりも、凹部20cの内側になるようにインレット14を配する。
【0064】
次いで、図3(c)に示すように、インレット14のアンテナ12およびICチップ13が設けられている面とは反対の面を覆い、凹部20cにおけるこの面よりも開口端20d側の空間を満たすように、第二の被覆体をなす磁性塗料22を充填する。
なお、磁性塗料を凹部20cに充填するには、スクリーン印刷法などの印刷法が用いられる。
【0065】
次いで、室温で放置するか、または所定の温度にて所定の時間、第一の被覆体をなす樹脂および磁性塗料を加熱して乾燥・固化することにより、第一の被覆体と第二の被覆体からなる被覆体を形成する。
【0066】
次いで、図4に示すように、基材20、インレット14および第一の被覆体23と第二の被覆体24からなる被覆体25が一体化された領域毎に、基材20を分割し、基材20からなる筐体26を形成し、非接触型データ受送信体30を得る。
【0067】
(非接触型データ受送信体の第二の実施形態)
図5は、本発明に係る非接触型データ受送信体の第二の実施形態を示す概略断面図である。
図5において、図1に示した非接触型データ受送信体10と同一の構成要素には同一符号を付して、その説明を省略する。
この実施形態の非接触型データ受送信体40が、上述の非接触型データ受送信体10と異なる点は、筐体41の断面の形状が円弧状をなしている点である。
【0068】
この非接触型データ受送信体40にあっても、インレット14は、筐体41の外周端41bがなす平面よりも凹部41aの内側に配されている。
【0069】
(非接触型データ受送信体の第三の実施形態)
図6は、本発明に係る非接触型データ受送信体の第三の実施形態を示す概略断面図である。
図6において、図1に示した非接触型データ受送信体10と同一の構成要素には同一符号を付して、その説明を省略する。
この実施形態の非接触型データ受送信体50が、上述の非接触型データ受送信体40と異なる点は、筐体51の外周端51bは線状をなしており、外周端51b側から非接触型データ受送信体50を見ると、平面50aはほぼ第二の被覆体18のみで形成されている点である。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の非接触型データ受送信体は、金属金型などの工業用品の物品識別用タグなどにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明に係る非接触型データ受送信体の第一の実施形態を示す概略断面図である。
【図2】本発明に係る非接触型データ受送信体の製造方法の一実施形態を示す概略断面図である。
【図3】本発明に係る非接触型データ受送信体の製造方法の一実施形態を示す概略断面図である。
【図4】本発明に係る非接触型データ受送信体の製造方法の一実施形態を示す概略断面図である。
【図5】本発明に係る非接触型データ受送信体の第二の実施形態を示す概略断面図である。
【図6】本発明に係る非接触型データ受送信体の第三の実施形態を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0072】
10,30,40,50・・・非接触型データ受送信体、11・・・ベース基材、12・・・アンテナ、13・・・ICチップ、14・・・インレット、15,26,41,51・・・筐体、15a・・・凹部、16,25・・・被覆体、17,23・・・第一の被覆体、18,24・・・第二の被覆体、20・・・基材、21・・・樹脂、22・・・磁性塗料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部を設けた筐体、前記凹部内に収蔵されたインレット、および、前記筐体と前記インレットとの間に位置する空間を除いた前記凹部内に前記インレットを覆うように設けた磁性材料を含む被覆体から構成されたことを特徴とする非接触型データ受送信体。
【請求項2】
前記被覆体の外面の周端部が、前記筐体の周端部に揃うように配されていることを特徴とする請求項1に記載の非接触型データ受送信体。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−302083(P2006−302083A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−124865(P2005−124865)
【出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【出願人】(000110217)トッパン・フォームズ株式会社 (989)
【Fターム(参考)】