説明

非接触型ID識別装置

【課題】強い外力を受けてもアンテナコイルのリード部の被覆に損傷を生じる虞が生じないようにすること。
【解決手段】ICチップ1と、その接続端子1a、1bにリード部2a、2bを接続しているアンテナコイル2と、これらを粘着剤3を介して接合保持する基材フィルム4と、基材フィルム4に保持されるICチップ1及びアンテナコイル2を基材フィルム4と反対側から被覆する剥離紙5とからなる非接触型ID識別装置において、アンテナコイル2から延長するリード部2a、2bの内、接続端子1a、1bを越えて延長する部位が通過するICチップ1の辺1cに近接してポリエチレン製の平坦化材6を配した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多くのサービス産業、物品販売業、製造業、物流業又は金融業等の種々の分野で、物品や人物に関する個体の自動認識の手段として用いられる非接触型ICタグ又は非接触型ICカード等の非接触型ID識別装置であって、そのアンテナコイルのリード部がICチップのエッジ部に接触して被覆に損傷を生じさせ、該リード部とICチップとを短絡させ、通信性能の劣化やICチップの破壊の虞を生じさせることとなるのを回避し得る非接触型ID識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触型ID識別装置は、ICチップとアンテナコイルとを主要構成要素とするが、更にこれらは何らかの支持材で支持される。例えば、これらは、一面に粘着剤を配した基材フィルムに該粘着剤を介して粘着接合されると共に、他面から剥離紙で被覆されるものがある。その他の種々のシート類で挟持状態に保持されるものもある。ICチップの四辺には該チップの切り出しの際に鋭利な切断端部が生じ、さらには、その縁にミクロなバリが存在していることがあり、このようなICチップ及びアンテナコイルが、以上のように、基材フィルムと剥離紙等で保持される際、その他の種々の場合に、両側から何らかの理由で若干の圧力が加わることがあり、そのような場合に、該ICチップのコイル接続用端子に接続したアンテナコイルのリード部が該ICチップの鋭利な切断端部若しくはそこに存在する鋭利なバリに強く押し付けられ、場合により、該リード部の絶縁被覆に損傷が生じ、該ICチップとの間に短絡を生じる虞があった。
【0003】
このような問題に対する対策に関しては、特許文献1の提案がある。
これは、表面に絶縁保護膜が形成されたICチップと、該ICチップの入出力端子に形成されたバンプと、該バンプに直接接続された巻線コイルとを備えたICモジュールにおいて、該バンプ上に配した巻線コイルを加熱してその絶縁皮膜を溶融又は昇華させ、生じたその絶縁皮膜材料を前記バンプの周囲及び外周エッジ部に付着させ、前記絶縁保護膜とは異なる絶縁層を形成することとしたICモジュールである。
【0004】
ICチップの外周エッジ部に十分な絶縁保護膜が形成されれば、エッジ部に生じている可能性のあるバリを被覆し得、巻線コイルのリード部である絶縁導線が何らかの理由でここに強く接触することがあっても、その絶縁被膜の損傷の虞はなくなるので、前記問題点は解消される。しかし、このようにバンプの上に配した巻線コイルを構成する絶縁導線を加熱し、その絶縁被膜を溶融又は昇華させただけでは、該ICチップの外周エッジ部の絶縁膜のない部位に極めて薄い膜を作る可能性はあり得ると考えられるが、その部位に存在する可能性のあるバリを十分にカバーしきれるほどに該部位に該被覆材料を付着させることは困難であると思われる。
【0005】
特許文献2の提案は、マイクロプロセッサを含むICチップと巻線型のアンテナコイルとからなり、該巻線型のアンテナコイルを介して外部のリーダ装置との間で電力の授受及び情報の交換を行う非接触型ID識別装置に於いて、該ICチップのエッジ部を保護膜で被覆して曲面状に形成したものである。
【0006】
従ってこの特許文献2の技術によれば、外力が加わり、アンテナコイルのリード部とICチップのエッジ部とが圧接状態になったとしても、該エッジ部に存在するかもしれないバリが保護膜で被覆され、該部位が曲面状となっているため、該リード部の被覆はそのバリ等により損傷を受けることはない。そのためその損傷に起因する短絡の問題が生じることはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−92570号公報
【特許文献2】特開2009−129024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ICチップの辺(エッジ部)にアンテナコイルのリード部が強く接する可能性を回避することにより、該リード部の被覆にICチップの辺に存在しうるバリ若しくはそれ自体が鋭利な切断端部である辺によって損傷が生じる虞を解消し、ICチップとアンテナコイルのリード部との間の短絡問題の発生の余地を無くした非接触型ID識別装置を提供することを解決の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1は、マイクロプロセッサを含むICチップ及びアンテナコイルを備え、該ICチップと外部のリーダ・ライタ装置との間の電力の授受及び情報の交換を該アンテナコイルを介して行う非接触型ID識別装置において、
該ICチップのコイル接続用端子に接続するアンテナコイルのリード部の内、該接続端子を越えて延びる部位の通過する該ICチップの辺に接して又は近接して、該ICチップの上面を延長する態様で非導電性かつ非磁性の平坦化材を配設した非接触型ID識別装置である。
【0010】
本発明の2は、本発明の1の非接触型ID識別装置において、前記平坦化材を、該ICチップのコイル接続用端子に接続するアンテナコイルのリード部の内、該アンテナコイルと該コイル接続用端子の間の部位の通過する該ICチップの辺に接して又は近接して該ICチップの上面を延長する態様で非導電性かつ非磁性の平坦化材を追加配設したものである。
【0011】
本発明の3は、本発明の1又は2の非接触型ID識別装置において、前記平坦化材と、これを接して又は近接して配した前記ICチップの辺との間の間隔を、前記アンテナコイルのリード部の線径の1/2未満の寸法としたものである。
【0012】
本発明の4は、本発明の2の非接触型ID識別装置において、前記ICチップの二つの平行な辺に各々接して又は近接して配設される前記二つの平坦化材の両側部間に、該ICチップの他の二つの辺に接して又は近接して配設される、該二つの平坦化材と同質の部材を一体に接続したものである。
【0013】
本発明の5は、本発明の1、2、3又は4の非接触型ID識別装置において、前記平坦化材の厚さを、前記ICチップの厚さ以上で該厚さの1.2倍未満としたものである。
【0014】
本発明の6は、本発明の1、2、3、4又は5の非接触型ID識別装置において、前記平坦化材の幅を、前記ICチップの幅以上で、該ICチップの幅の1.5倍未満としたものである。
【0015】
本発明の7は、本発明の1、2、3、4、5又は6の非接触型ID識別装置において、前記平坦化材の長さを、前記ICチップの長さの1/2以上で、該ICチップの長さ未満としたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の1の非接触型ID識別装置によれば、アンテナコイルのリード部の内、ICチップのコイル接続端子を越えて延びる部位が、その上を通過するICチップの辺に、前記平坦化材の作用で、容易に接することが無くなり、リード部の該部位の被覆が鋭利な切断端部となっている該辺や該辺に存在しうるバリで損傷を受ける虞を回避することができる。そのため、アンテナコイルのリード部とICチップとの短絡及びこれに起因する通信不能やICチップの損傷の虞を解消することができる。なお、適用対象の非接触型ID識別装置であるICタグやICカード等が可撓性である場合に特に有効である。
【0017】
本発明の2の非接触型ID識別装置によれば、ICチップの辺の内、アンテナコイルのリード部の通過する2辺のいずれにも接して又は近接して平坦化材を配したため、該リード部の対応する部位は、いずれの辺においても、対応する平坦化材の作用により、容易に接することはなくなり、該辺に存在する可能性のあるバリでその被覆に損傷を受ける虞を回避することができる。アンテナコイルのリード部の内、アンテナコイルからICチップのコイル接続端子までの間の部位は、アンテナコイルとコイル接続端子との両方で支持されるため、その間に位置するICチップの辺に接する可能性は高くはないが、強い外力がかかった場合などには、接触する虞がないとは言えない。本発明の2では、このような場合にもリード部の該当する部位を対応する辺に接触させないようにすることができる。
【0018】
本発明の3の非接触型ID識別装置によれば、ICチップのアンテナコイルのリード部がその上を通過することとなる辺と、これに接して又は近接して配する平坦化材との間の間隔を十分狭くしたため、アンテナコイルのリード部の対応する部位がそれらの辺に接する可能性を殆どなくすることができるものである。
【0019】
本発明の4の非接触型ID識別装置によれば、ICチップのアンテナコイルのリード部がその上を通過することとなる二つの辺に接して又は近接して配する二つの平坦化材をその両側部間を接続する同質の部材で一体に構成したため、該ICチップに安定した状態で確実にセットすることが可能になる。
【0020】
本発明の5の非接触型ID識別装置によれば、平坦化材の高さが、これを接して又は近接して配したICチップの辺と同等かこれより高くなるため、該辺の上を通過するアンテナコイルのリード部が該辺に接触し難くなり、その被覆が該辺に存在しうるバリによって損傷を受ける可能性が一層低下することになる。
【0021】
本発明の6の非接触型ID識別装置によれば、平坦化材の幅をICチップの幅以上としておくことにより、対応する辺の上を通過するアンテナコイルのリード部に対して確実にそれが該辺に接触しないように作用するようにしたものである。
【0022】
本発明の7の非接触型ID識別装置によれば、平坦化材の長さを前記のように設定したことにより、対応する辺の上を通過するアンテナコイルのリード部に対して確実にそれが該辺に接触しないように作用するようにしたものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ICチップの1辺に平坦化材を配した実施例1の非接触型ID識別装置の平面説明図。
【図2】図1のA−A線一部切欠拡大断面図。
【図3】実施例1の非接触型ID識別装置中のICチップと平坦化材との位置関係及び相互の寸法関係等を説明する説明用斜視図。
【図4】外力を受けてアンテナコイルのリード部がICチップの該当する辺及び平坦化材側に屈曲した状態を示す、実施例1の非接触型ID識別装置の一部切欠拡大断面図。
【図5】ICチップの2辺に平坦化材を配した実施例2の非接触型ID識別装置の平面説明図。
【図6】ICチップ、アンテナコイルのリード部及び二つの平坦化材のみを示した実施例2の非接触型ID識別装置の正面説明図。
【図7】ICチップの周囲を囲む形態の平坦化材を配した実施例3の非接触型ID識別装置の平面説明図。
【図8】図7中のICチップ、これを囲む平坦化材及びリード部の拡大平面図。
【図9】ICチップ、アンテナコイルのリード部及び該ICチップの周囲を囲む態様の平坦化材のみを示した実施例3の非接触型ID識別装置の正面説明図。
【図10】(a)従来の非接触型ID識別装置の平面説明図、(b)外力が加わってリード部の一部がICチップの辺に接触状態になっている状態を示す従来の非接触型ICチップのICチップとアンテナコイルのリード部のみを示す拡大正面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明を実施するための形態を、実施例に基づいて図面を参照しながら詳細に説明する。
<実施例1>
【0025】
この実施例1は、図1〜図4に示すように、基本的に、ICチップ1と、その接続端子1a、1bにリード部2a、2bを接続しているアンテナコイル2と、これらを粘着剤3を介して接合保持する基材フィルム4と、該基材フィルム4に保持されるICチップ1及びアンテナコイル2を該基材フィルム4と反対側から被覆する剥離紙5とからなる非接触型ID識別装置において、該アンテナコイル2から延長するリード部2a、2bの内、前記接続端子1a、1bを越えて延長する部位が通過する前記ICチップ1の辺1cに近接して非導電性かつ非磁性の平坦化材6を配したものである。
【0026】
なお、前記リード部2a、2bが、以上のように、ICチップの接続端子1a、1b及びその先の辺1cを越えて延長しているのは、該接続端子1a、1bの近くで該リード部2a、2bを切断することにより、該接続端子1a、1bに与えることとなる機械的ストレスを避けるため、及びその作業手順上乃至それに用いる治工具の構造上短く切断するのが困難であるためである。
【0027】
前記ICチップ1は、マイクロプロセッサを内蔵し、前記アンテナコイル2を介して外部のリーダ・ライタ装置との間で電力の授受及び情報の交換を行うための基本的要素であり、これ自体はよく知られた公知の要素である。通常、平面から見て正方形又は長方形である。この実施例1のICチップ1は、平面から見て正方形であり、その各辺1c、1d、1e、1fの長さは1000μmである。図3に示すように、この実施例1では、ICチップ1は、アンテナコイル2のリード部2a、2bの延長方向を長さLと称し、これに直交する方向を幅Wと称し、高さ方向を厚さTと称することにする。従って、この実施例1のICチップ1の長さL及び幅Wは1000μmであることになる。また厚さTは、200μmである。なお、通常、ICチップ1の辺1c、1d、1e、1fにはチップに切り出される際に生じる微小なバリや半導体チップ特有の鋭利な切断端部が存在している。
【0028】
前記アンテナコイル2は、ポリウレタン被膜又はポリエステル被膜等の絶縁被膜を外周に施した銅線であり、この実施例1では、ポリウレタン被膜を有する線径Dlが70μmの銅線を用いている。リード部2a、2bも該アンテナコイル2をそのまま延長したものであるから、同様の被膜を有する同様の線径Dlの銅線である。該アンテナコイル2の最外径Daはこの実施例1では、25mmである。
【0029】
前記基材フィルム4は、絶縁性のプラスチックフィルムであり、この実施例1では、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートの可撓性フィルムを用いた。該基材フィルム4の一面には、前記のように、粘着剤3が配してある。この粘着剤3は、この実施例1では、50μmの厚さに配したものである。
【0030】
前記剥離紙5は、この実施例1では、グラシン紙にシリコーン樹脂を用いた剥離層を形成したものを採用している。この剥離紙5の厚さは75μmである。
なお、この剥離紙5、前記基材フィルム4及びこれに配した粘着剤3でアンテナコイル2、平坦化材6及びICチップ1を被覆して構成する非接触型ID識別装置の径Dmはこの実施例1では28mmに設定した。
【0031】
前記平坦化材6は、絶縁性のプラスチックで構成したものである。この実施例1では、ポリエチレンの平面から見て長方形の板材を採用した。その厚さtは前記ICチップ1の厚さTと同様に200μmとし、幅wも該ICチップ1の幅Wと同様に1000μmとし、更にその長さlは、600μmとした。幅、長さ及び厚さは、ICチップ1について前記したのと同様の観点から決めた表示となっている。
【0032】
該平坦化材6は、前記し、図1〜図4に示すように、前記アンテナコイル2から延長するリード部2a、2bの内、前記接続端子1a、1bを越えて延長する部位が通過する前記ICチップ1の辺1cに近接して配する。この実施例1では、該辺1cと対面する平坦化材6の辺との間の間隔Gを20μmとした。この間隔Gは0であることが好ましいが、アンテナコイル2のリード部2a、2bの線径Dlとの関係で、0≦G<0.5Dlの範囲にあれば、外力が加わってリード部2a、2bがICチップ1乃至前記平坦化材6側に押し付けられても、殆ど該リード部2a、2bに前記辺1cに存在しうるバリや鋭利な角による被膜の損傷の虞がないことを実験的に確かめている。また外力によってリード部2a、2bが、同様に、ICチップ1乃至前記平坦化材6側に押し付けられても、間隔Gが以上の範囲内であれば、ICチップ1の端部(辺1c)のシリカ等の絶縁膜が損傷を生じる虞のないことも実験的に確かめている。なお、この実施例1のリード部2a、2aの線径Dlは、前記のように、70μmであるから、前記間隔G:20μmは0.5Dlを下回っており、前記バリによる損傷の虞を良好に回避できる範囲にある。
【0033】
このほか、ICチップ1の厚さTと平坦化材6の厚さtとの関係、ICチップ1の幅Wと平坦化材6の幅wとの関係、ICチップ1の長さLと平坦化材6の長さlとの関係について実験し、以下の関係にある場合には、非接触型ID識別装置にその内部のICチップ1が破壊されない程度の外力が加わった程度では、その内部のアンテナコイル2のリード部2a、2bの被膜は、内部のICチップ1の辺1cに存在することのあるバリ等によって損傷を受けるようなことは殆どない、ということを確かめている。
【0034】
以上の関係は、以下のとおりである。ICチップ1の辺1cと平坦化材6の対応する辺との間隔Gとリード部2a、2bの線径Dlとの関係も併せて再記する。
(1) T≦t<1.2T …式1
望ましくは、 T≦t<1.1T …式2
(2) W≦w<1.5W …式3
(3) 0.5L≦l<L …式4
(4) 0≦G<0.5Dl …式5
(T:ICチップ1の厚さ、W:ICチップ1の幅、L:ICチップの長さ、t:平坦化材6の厚さ、w:平坦化材6の幅、l:平坦化材6の長さ、G:ICチップ1と平坦化材6の間隔、Dl:リード部2a、2bの線径(図3参照))
【0035】
この実施例1では、平坦化材6の厚さtは、前記のように、ICチップ1の厚さTと同様に200μmであり、前記式1及び式2の範囲内の値である。平坦化材6の幅wもICチップ1のそれと同様に1000μmであり、前記式3の範囲内である。また平坦化材6の長さlは、前記のように、600μmであり、ICチップ1の長さLの1000μmの60%の長さであり、前記式4の範囲内である。また平坦化材6とICチップ1との間隔Gも、前記のよう20μmであり、リード部2a、2bの線径Dlは70μmであるから、前記式5の範囲内となっている。
【0036】
以上のとおりで、前記厚さt、幅w、長さl及び間隔Gの値は、以上の式1〜式5の範囲内であり、この実施例1の非接触型ID識別装置は、前記のようなレベルの外力が加わってもリード部2a、2bの被膜は損傷を生じることはなく、それ故、ICチップ1の損傷が生じたり、通信不能になることはないはずであるが、それを試験結果によって示す。また、比較のために、平坦化材6を用いていない点のみが異なる比較例(従来例、図10(a)、(b)参照)についても同一の試験を行いその結果を表1に示す。
【0037】
試験は実施例1の非接触型ID識別装置1000個及び比較例の非接触型ID識別装置1000個について次のように行う。
それぞれの非接触型ID識別装置を金属テーブル上に配置した上で、該非接触型ID識別装置のICチップ1及び平坦化材6の境界付近(比較例については、実施例1のICチップ1の辺1cに対応するICチップの辺)を直径3mmの鋼球を用いて11.5Nの荷重で加圧し、次いでおのおのの非接触型ID識別装置について、(1)共振周波数の変化が7%を越えたか否かのネットワーク・アナライザによる計測、(2)(1)のテストで共振周波数の変化が7%を越えなかった非接触型ID識別装置について、リーダ・ライタ装置との通信距離が規格値(55mm)を下回ることになったか否かの試験を行う。
【0038】
【表1】

【0039】
表1によれば、平坦化材6を用いていない比較例では、1000個の非接触型ID識別装置の内、30個が7%以上の共振周波数の変化を生じる結果となり、更に、そのような大きな共振周波数の変化の無かった970個の非接触型ID識別装置の中に、通信距離が規格値を下回ることとなった非接触型ID識別装置が5個、見いだされた。前記のような鋼球による加圧で、全体として、3.5%が不良品となったことが分かる。この比較例は、図10(a)に示す従来例であるが、前記のように、鋼球で加圧されることにより、図10(b)に示すように、アンテナコイル2のリード部2a、2bが屈曲し、ICチップ1の辺1cに圧接状態となるため、該辺1cに存在していることのあるバリ等によって被膜に損傷を生じたり、場合によっては、ICチップ1の辺1cの絶縁膜が破損して該リード部2a、2bとICチップ1との間に短絡が生じることが前記不良の原因であると考えられる。
【0040】
これに対して、実施例1の非接触型ID識別装置では不良品は皆無である。平坦化材6の効果は明らかである。平坦化材6が前記所定の位置に位置すると、図4に示すように、アンテナコイル2のリード部2a、2bが該平坦化材6によってICチップ1の辺1cに強く接触することとなるのが防止される結果になるからであると理解できる。また、これは、先に述べたように、ICチップ1の厚さTと平坦化材6の厚さtとの関係、ICチップ1の幅Wと平坦化材6の幅wとの関係、ICチップ1の長さLと平坦化材6の長さlとの関係について実験して得た前記式1〜式5に適合する範囲にそれぞれを設定した結果でもある。実験は、種々の設定例に関して、同様の試験を繰り返して見いだしたものである。以上の式1〜5の範囲を逸脱しても全く不都合であるということはなく、一定の効果は得られるが、完全な効果ではない。
【0041】
なお、式1〜5の範囲を逸脱した場合に関して若干補足する。
式1に関して、平坦化材6の厚さtが1.2Tを若干越えたとしても、アンテナコイル2のリード部2a、2bの損傷回避効果は必ずしも得られなくなるわけではないが、非接触型ID識別装置の厚さを薄く保持することができなくなる問題がある。
式3に関して、平坦化材6の幅wが1.5Wを越えても、アンテナコイル2のリード部2a、2bの損傷回避効果の観点では問題はないが、必要以上に大きくなるものであり、非接触型ID識別装置の小型化に悪影響を与える結果となる。
式4に関して、平坦化材6の長さlがLを越えたとしても、これも、アンテナコイル2のリード部2a、2bの損傷回避効果の観点では問題はないが、必要以上に長くなるものであり、非接触型ID識別装置の小型化に悪影響を与える結果となる。
以上に述べなかった範囲を逸脱した場合でも、アンテナコイル2のリード部2a、2bの損傷回避に関して一定程度以上の効果は得られるが、逸脱しなかった場合のような完全な効果は得られにくくなる。
【0042】
<実施例2>
この実施例2は、図5及び図6に示すように、実施例1と同様に、ICチップ1と、その接続端子1a、1bにリード部2a、2bを接続しているアンテナコイル2と、これらを粘着剤3を介して接合保持する基材フィルム4と、該基材フィルム4に保持されるICチップ1及びアンテナコイル2を該基材フィルム4と反対側から被覆する剥離紙5とからなる非接触型ID識別装置において、該アンテナコイル2から延長するリード部2a、2bの内、前記接続端子1a、1bを越えて延長する部位が通過する前記ICチップ1の辺1cに近接して非導電性かつ非磁性の平坦化材6を配し、かつ該平坦化材6の近接するICチップ1の辺1cと平行な他の辺1dに近接して同様な材質で同様なサイズの平坦化材7を配設したものである。
【0043】
前記ICチップ1、接続端子1a、1b、辺1c、1d、1e、1f、アンテナコイル2、そのリード部2a、2b、基材フィルム4、粘着剤3及び剥離紙5は、実施例1のそれらと全く同様である。
【0044】
前記平坦化材6の構成も、実施例1のそれと全く同様である。
【0045】
前記平坦化材7は、前記し、かつ図5及び図6に示すように、該平坦化材6と全く同様の構成のそれを該平坦化材6を配したICチップ1の辺1cと平行な他の辺1dに近接して配したものである。該平坦化材7とICチップ1の該辺1dとの間隔も平坦化材6とICチップ1の対応する辺1cとの間隔Gと同様に20μmである。平坦化材7の機能乃至作用も平坦化材6と全く同様である。
【0046】
なお、ICチップ1のこの辺1d及び平坦化材7の対応する辺の上は、アンテナコイル2のリード部2a、2bの内、ICチップ1の端子部1a、1bとアンテナコイル2との間の部位が通過する。これらの部位は、リード部2a、2bの内、該端子部1a、1bを越えて延長する部位と比較すると、それぞれ両端が、アンテナコイル2及び端子部1a、1bで支持されているため、外力が加わっても対応するICチップ1の辺1dに強く接触する可能性は比較的低い。従ってリード部2a、2bのこの部位の被膜に該辺1dに存在することのあるバリ等で損傷が生じ、ICチップ1との間で短絡が生じる虞は高くはないが、可能性が無いわけではない。この実施例2では、この辺1dに近接して、以上のように、更に、平坦化材7を配したものであり、一層、不良の発生する可能性を低下させたものである。
【0047】
<実施例3>
この実施例3は、図7〜図9に示すように、実施例1、2と同様に、ICチップ1と、その接続端子1a、1bにリード部2a、2bを接続しているアンテナコイル2と、これらを粘着剤3を介して接合保持する基材フィルム4と、該基材フィルム4に保持されるICチップ1及びアンテナコイル2を該基材フィルム4と反対側から被覆する剥離紙5とからなる非接触型ID識別装置において、ICチップ1の周囲を囲むように、その内側に該ICチップ1の平面形状と相似形で僅かに大サイズの空隙を有する平坦化材8を配し、該アンテナコイル2から延長するリード部2a、2bをその上を通過させるように配したものである。
【0048】
前記ICチップ1、接続端子1a、1b、辺1c、1d、1e、1f、アンテナコイル2、そのリード部2a、2b、基材フィルム4、粘着剤3及び剥離紙5は、実施例1、2のそれらと全く同様である。
【0049】
前記平坦化材8は、該平坦化材6、7と全く同様の材質、即ち、ポリエチレンで構成した部材であり、前記し、かつ図7及び図8に示すように、アンテナコイル2のリード部2a、2bの通過する二辺、即ち、ICチップ1の端子部1a、1bの手前側では、前記実施例2の平坦化材7、端子部1a、1bを越えた先の側では、前記実施例1、2の平坦化材6とそれぞれ全く同様の構成部材を、同様の態様で、辺1c、1dに近接して配し、それらの二つの部材を各々その両側部間で、全く同様の材質の部材により一体に接続したのと同様の構成とする。
【0050】
即ち、該平坦化材8は、その中央の空隙内にICチップ1を位置させるべく配し、その空隙の、ICチップ1の辺1cに近接する部位の辺は、該辺1cに20μmの間隔で近接し、ICチップ1dに近接する部位の辺も、該辺1dに20μmの間隔で近接し、両側のICチップ1の辺1e、1fに近接する部位の辺も同様に20μmの間隔で近接するように位置関係を設定できるように構成したものである。該平坦化8の厚さは200μmであり、それぞれICチップ1の辺1c、1dに近接する側の長さは600μmであり、幅は、1400μmとなっている。両側の部位の幅は、概ね200μmである。
【0051】
従ってこの実施例3は、実施例2と殆ど同様に作用し、非接触型ID識別装置に外力が加わってもアンテナコイル2のリード部2a、2bには、損傷の発生する虞は殆どなく、非接触型ID識別装置に不良を発生させる可能性は極めて低いものとなる。
【0052】
なお、この実施例3は、ICチップ1の周囲の比較的大きなスペースを使用するので、一層の小型化を要する場合には適さない。しかし他の実施例1、2より一層安定した状態で平坦化材8をセットできる利点はある。
なお、以上の実施例1、2、3において、平坦化材6、7、8としていずれもポリエチレンの薄板を採用したが、このほかに、ドーピングしないシリコンウエハからチップと同様にダイシングしたチップ形状物、アルミナセラミックスの薄板、上面がプラスチックで下面が金属等の合わせ薄板などでも同様の効果を得ることを確認している。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、多くのサービス産業、物品販売業、製造業、物流業又は金融業等の種々の分野で、物品や人物に関する個体の自動認識の手段として用いられる非接触型ICタグ又は非接触型ICカード等の非接触型ID識別装置の製造の分野などで有効に使用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 ICチップ
1a、1b 接続端子
1c、1d、1e、1f ICチップの辺
2 アンテナコイル
2a、2b リード部
3 粘着剤
4 基材フィルム
5 剥離紙
6 平坦化材
7 平坦化材
8 平坦化材
Da アンテナコイルの最外径
Dl アンテナコイルのリード部の線径
Dm 非接触型ID識別装置の径
L ICチップの長さ
T ICチップの厚さ
W ICチップの幅
l 平坦化材の長さ
t 平坦化材の厚さ
w 平坦化材の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロプロセッサを含むICチップ及びアンテナコイルを備え、該ICチップと外部のリーダ・ライタ装置との間の電力の授受及び情報の交換を該アンテナコイルを介して行う非接触型ID識別装置において、
該ICチップのコイル接続用端子に接続するアンテナコイルのリード部の内、該接続端子を越えて延びる部位の通過する該ICチップの辺に接して又は近接して、該ICチップの上面を延長する態様で非導電性かつ非磁性の平坦化材を配設した非接触型ID識別装置。
【請求項2】
前記平坦化材を、該ICチップのコイル接続用端子に接続するアンテナコイルのリード部の内、該アンテナコイルと該コイル接続用端子の間の部位の通過する該ICチップの辺に接して又は近接して該ICチップの上面を延長する態様で非導電性かつ非磁性の平坦化材を追加配設した請求項1の非接触型ID識別装置。
【請求項3】
前記平坦化材と、これを接して又は近接して配した前記ICチップの辺との間の間隔を、前記アンテナコイルのリード部の線径の1/2未満の寸法とした請求項1又は2の非接触型ID識別装置。
【請求項4】
前記ICチップの二つの平行な辺に各々接して又は近接して配設される前記二つの平坦化材の両側部間に、該ICチップの他の二つの辺に接して又は近接して配設される、該二つの平坦化材と同質の部材を一体に接続した請求項2の非接触型ID識別装置。
【請求項5】
前記平坦化材の厚さを、前記ICチップの厚さ以上で該厚さの1.2倍未満とした請求項1、2、3又は4の非接触型ID識別装置。
【請求項6】
前記平坦化材の幅を、前記ICチップの幅以上で、該ICチップの幅の1.5倍未満とした請求項1、2、3、4又は5の非接触型ID識別装置。
【請求項7】
前記平坦化材の長さを、前記ICチップの長さの1/2以上で、該ICチップの長さ未満とした請求項1、2、3、4、5又は6の非接触型ID識別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−165084(P2011−165084A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29391(P2010−29391)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(594133858)スターエンジニアリング株式会社 (20)
【Fターム(参考)】