説明

非接触式振動測定方法およびそれを実施する装置

【課題】より容易、迅速かつ効率的な物体の非接触式振動測定を可能にする方法および装置を提供することである。同時に、物体の振動測定の精度の向上も意図される。
【解決手段】ホルダ5に取り付けられた少なくとも1台のレーザ干渉計6a,6b,6cを物体8上の前記測定点9を測定するための測定位置M1に移動させ、物体上の測定点に向かって前記レーザ干渉計から測定ビーム7a,7b,7c及び物体から散乱反射された前記測定ビームから振動データを算定し、この振動データを評価して、測定点の評価された振動データとして出力する。物体上の少なくとも1つの任意に前設定された既知の測定点を用いたレーザ干渉計の位置の較正が少なくとも1度行われ、任意の測定位置M1,M2における物体に対するレーザ干渉計の相対位置を算定するための変換関係が前記較正に基づいて作成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホルダに取り付けられた少なくとも1台のレーザ干渉計を物体上の測定点を測定するための測定位置に移動させ、物体上の測定点に向かってレーザ干渉計の測定ビームを送出し、物体から散乱反射された測定ビームを検出し、送出された測定ビームおよび散乱反射された測定ビームから算定された振動データを測定点に対応させるとともに、振動データを評価して測定点の評価された振動データとして出力する、物体の非接触式振動測定を行うための方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術において、物体の揺れ、特に物体の振動を、被測定物体の表面の一定の測定点に加速度センサを取り付けて測定することが知られている。この場合、振動の測定は加速度センサの測定値に依拠して間接的に行われ、こうして、得られた測定値は局所分解されて表されるかあるいはそれぞれの測定点に対応させるかすることができる。
【0003】
ただし、物体のこうした振動測定のやり方は要求条件を満たさないことが多い。というのも、たとえば物体表面への加速度センサの取り付けは物体の振動特性を偽化することがあり、それゆえ、測定値は評価に適していないからである。これはたとえば物体の表面が軟質である場合に当てはまり、その場合には、加速度センサの取り付けが表面の歪みを引き起こし、これによって物体の振動特性が基本的に変わってしまうからである。その他の場合には、加速度センサの取り付けは確かに可能であるが、その代わり、加速度センサの取付け、そのケーブル配線ならびに加速度センサの位置決めと配向に高い労働コストと時間が必要である。同じことは加速度センサによって得られた測定値の解釈と評価についても当てはまる。
【0004】
それゆえしばらく前から、光学的な、したがって非接触的な方法で物体の振動測定を可能にする振動測定法も存在している。この場合、通例、物体上の異なった測定点をコヒーレント光で順次に照射する1つまたは複数のレーザ干渉計つまりレーザ振動計が使用される。今や、物体が振動すると、物体の表面は振動運動を遂行し、その際、物体の表面によって反射されたレーザ干渉計の光の周波数はドップラー遷移によって変化する。かくて、この周波数変化から、物体表面の当該測定点の変位ならびに速度および加速度値を計算することができる。こうして、個々の測定点の振動データをまとめれば、物体の振動特性が得られる。
【0005】
この種の方法やこの種の装置はたとえば特許文献1から公知であり、ここで開示された方法によれば、プログラム制御された移動式ホルダに取り付けられたレーザ干渉計がその都度、物体上の個々の被測定点に向けて移動させられる。その際、物体上の個々の測定点のポジションは物体の数値構造データから予め計算される。
【0006】
さまざまな測定位置(ここでは、位置なる名称は三次元空間位置またはそこでは向きあるいはその両方を含む総括的な語句として用いられている、つまり姿勢位置と呼ぶことができるものである)における測定には、さらに、物体との間の前もって設定された定距離が維持される。この測定位置が確保されると、レーザ干渉計の測定ビームが被測定点に向けられる。これに応じて振動データが検出され、測定点の局部データと相関させられて、表示または評価あるいはその両方が行われる。続いて、ホルダはレーザ干渉計を新たな測定位置に移動させて、さらに別の測定点が測定される。こうして順次にすべての測定点が測定される。
【0007】
この場合、その都度個々の測定点のために個々に移動が行われて、測定が行われなければならないのは不都合である。物体全体の測定はこれによってかなり遅くなるが、それは各々の測定に際してホルダがその都度新たな測定位置に移動させられなければならないからである。その際、そもそも振動測定を実施し得るためには、物体との間の同一距離も常に維持されなければならない。たとえば高い周波数の物体の運動を測定しようとすれば、十分な精度の物体の振動特性を得るために、さらに多くの測定点が必要である。新たな測定箇所でも、またも物体との同一距離が維持されなければならないことから、時間のかかるその都度の距離のチェックが必要である。その上さらに、移動式のホルダあるいはレーザ干渉計は、測定点との間の同一距離が維持されなければならないために、すべての測定点を測定し得るには大きな移動範囲を必要とする。
【0008】
さらに、物体の数値構造データから算出された測定点をそのまま利用するのは問題がある。というのも、実条件下での物体に対するレーザ干渉計の相対位置は理論的な位置からずれていることがしばしばあり、加えてさらに、特にホルダあるいはレーザ干渉計を少しずつ頻繁に動かしている場合には、物体に対するホルダの相対位置決めと方向(向き)決めにおける誤差が大きくなり、物体に対して相対的なその他の相対測定位置がますます不正確になるからである。
【0009】
さらに、かなりの物体において、すべての測定点につきレーザ干渉計との間の定まった同一距離を保証することは困難である。なぜなら、物体がその表面に突起部などを有する場合この突起がホルダやレーザ干渉計の位置決め・方向決めの可能空間を制限することがあるからである。時には、かなりの測定点が測定不可能となってしまうこともある。
【特許文献1】欧州公開特許第1431740号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記実状に鑑み、本発明の目的は、より容易、迅速かつ効率的な物体の非接触式振動測定を可能にする方法および装置を提供することである。同時に、物体の振動測定の精度の向上も意図される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明による非接触式振動測定方法は、物体の少なくとも1つの測定点を定めるステップと、ホルダに取り付けられた少なくとも1台のレーザ干渉計を前記物体上の前記測定点を測定するための測定位置に移動させるステップと、前記物体上の前記少なくとも1つの測定点に向かって前記レーザ干渉計の少なくとも1本の測定ビームを送出するステップと、前記物体から散乱反射された前記測定ビームを検出するステップと、前記送出された測定ビームおよび散乱反射された測定ビームから振動データを算定するステップと、前記振動データを前記測定点に対応させるステップと、前記振動データを評価して、前記測定点の評価された振動データとして出力するステップとからなり、さらに、前記物体上の少なくとも1つの任意に前設定された既知の測定点を用いた前記レーザ干渉計の位置の較成が少なくとも1度行われ、任意の測定位置における前記物体に対する前記レーザ干渉計の相対位置を算定するための変換関係が前記較正に基づいて作成される。
【0012】
上述した本発明による非接触式振動測定方法を実施する非接触式振動測定装置は、測定ビームの送出ならびに物体から散乱反射された前記測定ビームの検出を行うための手段を有した少なくとも1台のレーザ干渉計と、前記レーザ干渉計が取り付けられた移動可能なホルダと、前記ホルダの移動を制御するための制御ユニットと、前記測定ビームの送出と検出を行う手段ならびに前記ホルダと連携する、振動データを記録・評価するためのデータ取得評価装置とを含んでおり、さらに、前記レーザ干渉計の測定位置を計算するための手段が設けられ、前記測定位置の計算は前記物体上の既知の1つの点の位置と前記レーザ干渉計の位置との直接または間接の較正を含んでいる。
【0013】
本発明による方法では、それゆえ、物体上の少なくとも1つの任意に前設定された既知の点の位置を用いた、レーザ干渉計の位置の少なくとも1度の較正が行われ、任意の測定位置における物体に対して相対的なレーザ干渉計の位置を算定するための変換関係が較正に基づいて作成されることで、従来の技術とは基本的に相違している。
【0014】
本発明による装置は、レーザ干渉計の測定位置を算定するための手段が設けられ、測定位置の算定には物体上の少なくとも1つの既知の点の位置とレーザ干渉計の位置との直接的または間接的な較正が含まれていることで、従来の技術とは基本的に相違している。
【0015】
物体上の少なくとも1つの任意に前設定された既知の測定点を用いたレーザ干渉計の位置の較正を少なくとも1度行うことによって、物体上の所定の既知の点に対するレーザ干渉計の相対位置が決定される。この較正によって、以降は、物体の基準系(例えば空間座標系や測地基準系で、位置や向きを規定する系)における測定点の位置が既知であることから、レーザ干渉計の位置を物体の基準系で表すことが可能となる。
【0016】
この1点に関する物体の基準系におけるレーザ干渉計の位置が既知であることから、物体に対する任意の測定位置におけるレーザ干渉計の位置も物体の基準系で計算して表されるように、前述したような較正に基づいて変換関係が作成される。
【0017】
レーザ干渉計の向きは、たとえば過去に実施した測定から既知であれば、既知の所定の点の位置に基づいて正確に較正が行われれば十分である。
【0018】
ただし、物体の基準系におけるレーザ干渉計の位置を算定するには、総計6自由度、したがって、レーザ干渉計のポジションに関して3自由度および向きに関して3自由度、が決定されなければならないことから、一般に少なくとも3つの既知の点が必要である。かくて、上述した較正のために、レーザ干渉計のポジションとそのポジション毎の既知の点との間の距離ならびにレーザ干渉計の測定ビームの向きの2つの角度が測定されるが、この場合、測定ビームはたとえばレーザ干渉計のプログラム制御式角度変更機構によって向きを変化させるとよい。こうして、既知の点を基準にしたレーザ干渉計の相対位置を直接に算定することができる。同様に、既知の点毎に対するレーザ干渉計の測定ビームの向きの角度の測定による較正も可能である。ただしこの場合、物体の基準系におけるレーザ干渉計の位置の決定には、3つの既知の点に代えて少なくとも4つの点が必要である。
【0019】
物体の基準系におけるレーザ干渉計の位置の決定精度を高めるには、さらなる物体の既知の点、たとえば、それぞれ互いの間に大きな相対距離を有する4〜10の既知の点を使用することも可能である。この場合、レーザ干渉計は、既知の点の位置とレーザ干渉計の位置との較正のために当該測定位置に移動させられる。物体の振動測定全体に必要とされる時間はわずかな追加的な較正によって著しく増加するということはない。
【0020】
移動式ホルダの基準系におけるレーザ干渉計の位置を算定するには、既知の少なくとも1つの、任意に前設定された点の位置による、レーザ干渉計の位置との少なくとも1度のさらなる較正が行われ、かつ、任意の測定位置のためのホルダの位置に対するレーザ干渉計の相対位置を算定するための変換関係がさらに行われた較正に基づいて作成されれば好適である。これによって、ホルダの基準系に基づく測定位置へのレーザ干渉計の移動を容易にすることができる。
【0021】
これには、前述したさらなる較正のための少なくとも1つの既知の点は必ずしも物体自体の上に位置している必要はなく、たとえば非常に正確に測定された既知の1点が測定ルームの壁面のものであってもよい。このさらなる較正にあたり、先ずホルダはレーザ干渉計と共に既知の点を測定するための測定位置に移動させられ、測定が実施される。較正が行われると、レーザ干渉計はホルダの3つの空間軸の1つに沿って移動させられ、新たな測定位置で再び既知の点に向けて照準され、新たに測定が実施される。新たな測定位置へのホルダの移動によってレーザ干渉計と既知の点との間の距離も角度も共に変化し、レーザ干渉計の基準系において既知の点は移動(変位)している。この変位のベクトルはレーザ干渉計がそれに沿って移動させられたホルダの空間軸の逆方向ベクトルに正確に一致している。このことから、ホルダの基準系におけるレーザ干渉計の位置を算定し、レーザ干渉計の基準系とホルダの基準系との間の変換関係を作成することができる。
【0022】
物体の基準系におけるレーザ干渉計の相対位置もホルダの基準系におけるそれも既知であることから、物体の基準系におけるホルダの相対位置もさらなる変換関係に基づいて算定することが可能である。たとえば、任意の第2の物体のさらなる振動測定にあたって該物体が同一のポジションに位置しかつ同一の方向に向いていることが保証されるならば、上記の変換関係は新たに算定される必要はなく、そのまま第2の物体の振動測定に直接使用することができる。
【0023】
好適な実施形態では、測定位置へのホルダの移動はプログラム制御によって行われる。これによって、物体の振動測定のさらなる促進が達成されるが、それはこうして自動的にさまざまな測定位置への順次移動が行われ、手間のかかる手動による測定位置の選択や個々の測定位置へのホルダあるいはレーザ干渉計のマニュアルでの移動が不要になるからである。
【0024】
好適な実施形態では、物体を捉えるために必要な測定位置の数の最適化が行われる。1つの測定位置から種々の測定点を測定し得ることから、測定位置の数はたとえばホルダが移動されなければならない測定位置ができるだけわずかであるように最適化することができる。物体の振動測定全体はこれによってかなり促進される。また、物体の振動測定の精度をさらに高めるために、それぞれ物体の1つの測定点を異なった測定位置から測定すること(捉えること)も可能である。この場合、測定位置の数は、同じく、最低限の測定位置から当該測定点が十分正確に測定し得るように選択される。1台のレーザ干渉計しか使用されない場合でも、三次元振動測定は可能である。その場合、1つの測定点がレーザ干渉計の少なくとも3つの異なった測定位置から測定される。この場合、測定位置の数は、それぞれの測定点が少なくとも3回にわたり異なった測定位置から測定されるようにして選択される。こうして得られたこの測定点における物体の異なった一次元振動データに基づいて、この測定点に関する三次元振動データを計算することができる。
【0025】
レーザ干渉計の1つの測定位置から実質的に最適な角度で測定することのできる複数の測定点を一括するには、被測定物体を複数のセグメントに細分し、各セグメントをそれぞれ1つの測定位置に対応させることが好ましい。
【0026】
さらに、物体の振動測定に要される時間を短縮するには、本来の振動測定前に、異なった測定位置またはその測定位置に対応する測定点あるいはその両方を定めるための事前シミュレーションを行うことが好適である。この場合、その事前シミュレーションは物体のコンピュータ支援モデルを用いて実施することが特に好適である。操作員は、たとえばその測定位置またはレーザ干渉計の位置あるいはその両方の選択に際し、容易かつ迅速に、場合により手動でも、補正を前もって行うことができる。加えてさらに、事前シミュレーションにより、レーザ干渉計の一定の測定位置からこの干渉計によって測定不能な測定点も認識される。この場合、操作員は手動により、この測定点のために新たな測定位置を選択ことができる。またこの選択作業もたとえば相応したコンピュータ支援プログラムにより自動的に行うことができる。
【0027】
物体のコンピュータ支援モデルが使用される場合には、コンピュータ支援モデルが評価された振動データに基づいてさらに改善され、そのモデルが該当物体の振動特性のリアルな表示を可能にすれば好適である。このため、たとえば、コンピュータ支援モデルの、該当物体の振動特性を数値の形で再現する様々なパラメータを最適化あるいは評価された振動データを用いて補正することが可能となる。
【0028】
物体の振動測定の精度を高めるには、測定ビームによって正確な測定が可能なようには捉えられない測定点が認識されるような攻勢を採用すると好適である。この場合、測定ビームによって捉えられない測定点の認識が自動的に、迅速かつ高信頼度で行なわれるとよい。
【0029】
前記認識は画像獲得による方法または距離測定による方法あるいはその両方によって行われることが好適である。これによって、本発明による振動測定の容易かつ効率的なチェックが可能となる。画像獲得による方法が使用される場合には、たとえばカメラの撮影画像に基づいて、レーザ干渉計の測定ビームが物体の測定点を十分正確に照射しているか否か(捉えているかどうか)が評価される。そのため、レーザ干渉計の1本の測定ビームが1つの測定点に向けられ、撮影画像に基づいて、この測定点がレーザ干渉計の測定ビームによって一定の所定のずれの範囲内で照射されたか否かが決定される。複数のレーザ干渉計が設けられている場合には、それぞれ1本の測定ビームに基づいて、当該測定点が照射されたか否かが個別にチェックされる。そのため、送出測定ビームおよび散乱反射測定ビームと対象レーザ干渉計との一義的な対応付けが可能となるように、その都度その他のレーザ干渉計を電源遮断するのが好ましい。
【0030】
少なくとも1つの距離測定が使用される場合には、物体の測定点のポジションとレーザ干渉計のポジションとの間の距離が当該測定距離と比較される。たとえば許容差限度に基づいた、そのときの理論的算定位置からの誤差の評価によって、測定点がレーザ干渉計の測定ビームによって捉えられなかったかあるいはどの程度不満足さで捉えられているかに関する判定が可能である。
【0031】
特に請求項1に記載の非接触式振動測定方法を実施するのに適した、物体の非接触式振動測定装置には、レーザ干渉計の測定位置を計算するための手段が設けられ、この測定位置の算定には、レーザ干渉計の位置と記物体上の任意に前設定される既知の点との間の較正を実施し、この較正に基づいて変換関係を作成して、レーザ干渉計のいっさいの測定位置を高い精度で算定し得るようにするために、物体上の既知の1つの点の位置とレーザ干渉計の位置との直接または間接の較正を含んでいる。
【0032】
好ましくは、3台のレーザ干渉計が定まった相対位置でホルダに配置されている。こうした3台のレーザ干渉計の配置により、測定点が1つの測定位置で同時に3つの異なった空間方向から測定可能であるために、測定点に関する三次元振動測定が即座に実現される。3台のレーザ干渉計間の定まった相互対応関係により、さらに、3台のレーザ干渉計で得られた振動データ間の容易な相関付けが可能である。なぜなら、3台のレーザ干渉計の種々の位置相互間の手間とコストのかかる較正は不要だからである。
【0033】
異なった測定位置からも一定数の異なった測定点を測定し得るようにするには、レーザ干渉計の測定ビームを選択された位置に集束させるための手段が配置されているのが好適である。これにより、測定位置はその測定点の位置とはほぼ無関係となり、当該測定点に対するレーザ干渉計の最適な相対位置の選択が可能になる。特にその集束を自動化することで、測定点の振動測定に要する時間をさらに著しく短縮する。総じて、こうした集束は振動測定の精度を高めるが、それは、前述した最適な測定位置のおかげで、算定された振動データの雑音が極小に抑えられるからである。
【0034】
レーザ干渉計が少なくとも1つの角度変更機構と距離計と画像取得伝送手段のうちの全てあるいはいくつかを含んでいると好適である。これによって、レーザ干渉計の1つの測定位置からさまざまな測定点が測定可能であるだけでなく、レーザ干渉計の相対位置も前述した距離や画像に基づいて算定またはチェックすることが可能である。同じく、レーザ干渉計の測定ビームによって照射されなかったか(捉えられたか)または照射が不正確であった測定点の認識も可能である。これによって、不正確に得られた振動データの事後的な、時間のかかるチェックは不要となる。
【0035】
制御ユニットはプログラマブルコントローラで構成すると好適である。これによって、完全に自動化された振動測定、したがって物体のいわゆる‘スキャンニング’が可能であり、操作員による振動測定の実施ないしは監視はもはや必要ではない。かくて、たとえば物体の振動測定全体が全面的に自動化されて一晩中実施されることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明のその他の特徴および利点は図面に基づく実施形態の以下の説明から明らかにされる。
図1は、自動車8のボディー10の振動を測定するための本発明による非接触式振動測定装置を示している。そのため、3台のレーザ干渉計6a,6b,6cがそれぞれホルダ5のアーム5’の終端部に取付けられている。ここでは、アーム5’はそれぞれの終点5a,5b,5cがほぼ基本的に正三角形の頂点を形成するようにして配置されている。ただし、本発明はこの配置に限定されるものではなく、別の配置も考えることができる。
【0037】
ホルダ5自身もまた産業用ロボット3の保持アーム4に取付けられており、ホルダ5は保持アーム4によってボディー10の振動測定のためのさまざまな測定位置M1に移動させられることができる。その際、ボディー10の表面上の測定点9に対するそれぞれの測定位置M1の相対位置は基本的に自由に選択することができ、通例、3台のレーザ干渉計6a,6b,6cの測定ビーム7a,7b,7cが最適な距離と最適な角度で測定点9に当たるように選択される。
【0038】
3台のレーザ干渉計6a,6b,6cはアーム5’を介して互いに定まった空間座標における対応関係でホルダ5に配置されていることから、測定点9の各測定の前に個々のレーザ干渉計6a,6b,6cの位置を手間とコストをかけて算定し、較正する必要はない。ここでは、単に一度、ホルダ5の基準系(例えば1つの空間座標系)におけるレーザ干渉計6a,6b,6cの位置が、たとえばさらに別の較正に基づいて、決定されるだけでよい。
【0039】
産業用ロボット3の保持アーム4を制御するための制御ユニット2は測定点9の空間座標を、個々のレーザ干渉計6a,6b,6cと接続されたデータ取得・評価装置2’に伝送する( 図2aや図2bも参照のこと; 図1には不図示である)。この場合、一般市販のコンピュータ2,2’は制御ユニット2の機能もデータ取得・評価ユニット2’の機能も引き受けることが可能である。取得され、必要に応じて評価されたデータは次いで、コンピュータ2,2’のモニタ1で視覚化されることができる。
【0040】
この場合、コンピュータ2,2’は振動データの取得および評価に使用されるだけではない。振動測定のための自動車8のコンピュータ支援モデルに基づき、実際の振動測定の前段階において自動車8の振動測定の事前シミュレーションを行なう。個々の測定位置M1はコンピュータ2,2’のモニタ1によって表される。同時にコンピュータ2,2’は、それぞれの測定位置M1から可能な自動車8のボディー10の表面上の測定点9を計算する。さらに、事前シミュレーションによって、特定の測定位置M1から測定ビーム7a,7b,7cを当てることのできない測定点9が算定される。場合により、これらの測定点9につき、これらの測定点9も実際の振動測定の進行時に測定されることができるようにするため、新たな測定位置M1,M2が算定され、設定される。
【0041】
さらに、事前シミュレーションによって、振動測定のその他のパラメータ、たとえば自動車8全体の完全な振動測定のための所要時間も算定または推定(内挿または外挿)される。最終的には、事前シミュレーションに基づき、自動車8のボディー10の表面の異なった領域もセグメント12,12(図2a,2b参照のこと。ハッチングにて図示)に区分けされ、その際、セグメント12,12の個々の測定点9はまたもそれぞれ1つの共通の測定位置M1,M2から測定される。最後に、コンピュータ2,2’に基づき、異なった測定位置M1,M2がそれぞれに対応する測定点9と結び付けられる。このようにして、プログラム制御されて自動車8、つまり全てのセグメント12,12の振動測定が完全に自動的に実施される。
【0042】
事前シミュレーションが完了すると、実際の振動測定がスタートさせられる。そのため、先ず、少なくとも1台のレーザ干渉計6a,6b,6cが間接的にコンピュータ2,2’によりホルダ5を介して較正のための1つの測定位置M1に移動させられ、こうして、ボディー10の表面上の既知の1点が測定される。この較正に基づいてコンピュータ2,2’は、任意の測定位置M1、M2におけるレーザ干渉計6a,6b,6cの位置の算定を可能にする変換関係を作成する。この変換関係が作成された後、自動車8は振動を付与される。
【0043】
自動車8、ここではそのボディー10に対する振動付与には、摩擦力を用いた結合、幾何学的な形状のかみ合せによる結合、さらには物質結合たとえば接着剤を用いた連結が採用され、これによって自動車8のボディー10とここで用いられているいわゆるシェーカ11が振動伝達可能に結合されている。この場合、シェーカ11と自動車8のボディー10との間の結合ポジションはいわゆる力伝達点と称される。シェーカ11はさらにコンピュータ2,2’と接続され、コンピュータ2,2’を用いて制御され、監視される。好ましくは、シェーカ11と力伝達点との間には少なくとも1つの不図示の加速度センサおよび不図示の力センサが配置されており、これらのセンサは直接、自動車8のボディー10への力の伝達ならびに力伝達点における加速度値を測定する。これらの加速度および力の値はコンピュータ2,2’によって検出される。伝達されたこれらの加速度および力の値を用い、測定さるべきレーザ干渉計6a,6b,6cの振動データと結び付けて、振動測定の完了後にモード解析、特に自動車8の固有振動数および固有波形の算定が実施される。さらに、コンピュータ2,2’は検出された加速度および力の値に基づいて、ボディー10はそもそもシェーカ11からボディー10に伝達される所望の励起振動数に応じた振動を受けている否かを検定する。
【0044】
事前シミュレーションにおいて全ての測定位置M1,M2が、対応する測定点9と共に決定された後、コンピュータ2,2’は産業用ロボット3つまり保持アーム4を制御し、レーザ干渉計6a,6b,6cは第1の測定位置M1に移動させられる。レーザ干渉計6a,6b,6cは測定点9の振動測定のための測定ビーム7a,7b,7cを送受信し、振動データの評価および出力を行うコンピュータ2,2’に振動データを伝送する。
【0045】
各振動測定前に、それぞれのレーザ干渉計6a,6b,6cの測定ビーム7a,7b,7cは不図示の集束装置(フォーカシング装置)によって測定点9毎に集束させられる。もちろん、時間的理由から、すでに前の測定点のために実施されたレーザ干渉計6a,6b,6cの集束調整が測定点9についても十分であれば、測定点9のための集束調整を行わずに済ますことができる。これはたとえば前の測定点と現在の測定点9との間の距離が僅かな場合に適用される。
【0046】
測定位置M1において直近の個々の測定点9の振動測定を行うために、レーザ干渉計6a,6b,6cの不図示の角度変更機構は、測定位置M1を変化させることなくさらに別の測定点9が測定できるように調節される。そのため、角度変更機構はモータまたは圧電素子あるいはその両方を駆動源として装備したミラーを含んでいる。さらに、角度変更機構はプログラム制御され、特にコンピュータ2,2’によってリモート調節可能である。
【0047】
測定位置M1やセグメント12のすべての被測定点9が測定されると、コンピュータ2,2’は次の測定位置M2を計算し、その際、産業用ロボット3の保持アーム4を適正に制御して、ホルダ5あるいはこのホルダに配置されたレーザ干渉計6a,6b,6cがさらに別の測定点9の振動測定を行うための新しい測定位置M2での姿勢をとるようにする。
【0048】
産業用ロボット3の保持アーム4は基本的に個々の測定位置M1のためだけにプログラミングされることも可能であり、つまり、保持アーム4は手動でそれぞれの測定位置M1に移動させられて、ボディー10の表面上のセレクトされた測定点9を測定することができる。物体のコンピュータ支援モデルがコンピュータ2,2’に格納されていれば、このプロセスは自動的に実施されるようにすることもできる。その場合には、操作員はモニタ1を通じてさまざまな測定点9をセレクトすることができる。
【0049】
図2と図3は、一般に事前シミュレーションの間に定められるかもしくは自動車8の実際の振動測定中に生ずるような、保持アーム4やホルダ5の基本的に2つの異なった測定位置M1,M2を示している。その際、レーザ干渉計6a,6b,6cは測定ビーム7a,7b,7cを、自動車8のボディー10の表面上に位置するそれぞれ1つの測定点9に集束させる。この場合、それぞれの測定位置M1,M2から測定可能な測定点9はそれぞれ対応するセグメント12,12に一括されて表されている。セグメント12のすべての測定点9が測定されると、保持アーム4つまり結果的にはそれぞれのレーザ干渉計6a,6b,6cはコンピュータ2,2’によってプログラム制御されて新たな測定位置M2に移動させられ、こうして、セグメント12に属するそれぞれの測定点9が自由に選択可能な順序に従って自動的に測定される。
【0050】
すべての所望の測定点9が測定されると、コンピュータ2,2’はプログラム制御されて、測定されなかったかまたは不正確にしか測定できなかった測定点を再度新たに測定することができる。そのため、ホルダ5はコンピュータ2,2’によって保持アーム4を介して再び当該測定位置M1,M2に移動させられる。この場合、測定されなかったかまたは不正確にしか測定できなかった測定点9の認識はすでに測定点9の第1の振動測定時に行われるようにすることもできる。コンピュータ2,2’は、特に、測定に問題のあった測定点9の新たな振動測定を行わなくとも、たとえば正しく測定された複数の測定点9の測定結果の補間によって測定に問題のあった測定点9の振動データを計算することができる。
【0051】
基本的に本発明の範囲内において、物体の振動測定時間の短縮を図るため、それぞれ1つまたは複数の保持アームを備えた複数の産業用ロボットを設けることも可能であり、この場合、保持アームには少なくとも1台のレーザ干渉計用のそれぞれ1つのホルダが配置されている。
【0052】
さらに、物体に対する振動の付与、つまり振動励起は本発明の範囲内で、シェーカによる以外の方法でも行うことが可能であり、特に、自動車の場合の振動励起は自動車に組み付けられたモータを介し、自動車のタイヤが転動するシミュレーション走路によって行うことも可能であり、あるいは自動車の車内に配置されたラウドスピーカによって行うことも可能である。
【0053】
さらに、同じく本発明の範囲内において、レーザ干渉計、物体および移動式ホルダの各基準系間のそれぞれ変換関係(座標変換)をそれらの基準系とは無関係のさらに別の基準系に基づいて作成することも可能である。
【0054】
最後に、さらに本発明の範囲内において、物体上の測定点を測定するための少なくとも1台のレーザ干渉計が取り付けられた移動式ホルダを設けるだけでなく、特に、物体自体を移動させるための同じくプログラム制御された移動式ホルダを設け、こうして、振動測定される物体自体がレーザ干渉計に対して当該測定位置に相対移動し得るようにすることも考えることができる。この場合、本発明の範囲内において、レーザ干渉計用の移動式ホルダと物体用の移動式ホルダの双方を設け、こうして、いずれのホルダもそれぞれプログラム制御されて移動可能であり、したがって振動測定のために互いにできる限り最適な位置9(向きも含め)をとるようにすることも可能である。
【0055】
本発明は特に、物体の非接触式振動測定がその精度の点で著しく改善されると同時に、物体の振動測定全体に必要とされる手間とコストが大幅に減少させられるという利点を与える。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明による方法を実施するための非接触式振動測定装置の1つの実施形態を模式的に示す斜視図
【図2】自動車の複数のセグメントの測定点を測定するためのレーザ干渉計の1つの測定位置を説明する斜視図
【図3】自動車の複数のセグメントの測定点を測定するためのレーザ干渉計の他の1つの測定位置を説明する斜視図
【符号の説明】
【0057】
2 制御ユニット
2’ データ取得評価装置
5 ホルダ
6a,6b,6c レーザ干渉計
7a,7b,7c 測定ビーム
8 物体
9 測定点
M1,M2 測定位置



【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の少なくとも1つの測定点を定めるステップと、
ホルダに取り付けられた少なくとも1台のレーザ干渉計を前記物体上の前記測定点を測定するための測定位置に移動させるステップと、
前記物体上の前記少なくとも1つの測定点に向かって前記レーザ干渉計の少なくとも1本の測定ビームを送出するステップと、
前記物体から散乱反射された前記測定ビームを検出するステップと、
前記送出された測定ビームおよび散乱反射された測定ビームから振動データを算定するステップと、
前記振動データを前記測定点に対応させるステップと、
前記振動データを評価して、前記測定点の評価された振動データとして出力するステップと、
からなる、物体の非接触式振動測定を行うための方法であって、
前記物体上の少なくとも1つの任意に前設定された既知の測定点を用いた前記レーザ干渉計)の位置の較正を少なくとも1度行うこと、
任意の測定位置における前記物体に対する前記レーザ干渉計の相対位置を算定するための変換関係が前記較正に基づいて作成されることを特徴とする非接触式振動測定方法。
【請求項2】
少なくとも1つの任意に前設定された既知の点の位置を用いた、前記レーザ干渉計の位置の較正が少なくとも1度行われ、かつ、
任意の測定位置のための前記ホルダの位置に対する前記レーザ干渉計の相対位置を算定するための変換関係がさらなる較正に基づいて作成されることを特徴とする請求項1に記載の非接触式振動測定方法。
【請求項3】
前記測定位置への前記ホルダの移動はプログラム制御によって行われることを特徴とする請求項1に記載の非接触式振動測定方法。
【請求項4】
前記物体を捉えるために必要な前記測定位置の数の最適化が行われることを特徴とする請求項1に記載の非接触式振動測定方法。
【請求項5】
前記物体の複数のセグメントへの細分化および前記セグメントの測定位置への対応化が行われることを特徴とする請求項1に記載の非接触式振動測定方法。
【請求項6】
異なった測定位置またはその測定位置から捉えられる測定点あるいはその両方を決定するために、前記物体のコンピュータ支援モデルを用いて事前シミュレーションが行われることを特徴とする請求項1に記載の非接触式振動測定方法。
【請求項7】
前記物体の前記コンピュータ支援モデルは前記評価された振動データに基づいて改善されることを特徴とする請求項6に記載の非接触式振動測定方法。
【請求項8】
前記測定ビームによって捉えられない測定点の自動的な認識が行われることを特徴とする請求項1に記載の非接触式振動測定方法。
【請求項9】
前記認識は画像獲得による方法または距離測定による方法あるいはその両方によって行われることを特徴とする請求項8に記載の非接触式振動測定方法。
【請求項10】
請求項1に記載の非接触式振動測定方法を実施する、物体の非接触式振動測定装置であって、
測定ビームの送出ならびに物体から散乱反射された前記測定ビームの検出を行うための手段を有した少なくとも1台のレーザ干渉計と、
前記レーザ干渉計が取り付けられた移動可能なホルダと、
前記ホルダの移動を制御するための制御ユニットと、
前記測定ビームの送出と検出を行う手段ならびに前記ホルダと連携する、振動データを記録・評価するためのデータ取得評価装置と、
を含んでいる、物体の非接触式振動測定装置において、
前記レーザ干渉計の測定位置を算定するための手段が設けられ、前記測定位置の算定は前記物体上の既知の1つの点の位置と前記レーザ干渉計の位置との直接または間接の較正を含んでいることを特徴とする非接触式振動測定装置。
【請求項11】
3台のレーザ干渉計は定まった相対位置で前記ホルダに配置されていることを特徴とする請求項10に記載の非接触式振動測定装置。
【請求項12】
前記測定ビームを集束させる手段が配置されていることを特徴とする請求項10に記載の非接触式振動測定装置。
【請求項13】
前記レーザ干渉計は少なくとも1つの角度変更機構と距離計と画像取得伝送手段のうちの全てあるいはいくつかを含んでいることを特徴とする請求項10に記載の非接触式振動測定装置。
【請求項14】
前記制御ユニットはプログラマブルコントローラであることを特徴とする請求項10に記載の非接触式振動測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−286797(P2008−286797A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132851(P2008−132851)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(598126324)ポリテック・ゲー・エム・ベー・ハー (8)
【氏名又は名称原語表記】POLYTEC GMBH
【住所又は居所原語表記】POLYTECPLATZ 1‐7, D‐76337 WALDBRONN, BUNDESREPUBLIK DEUTSCHLAND
【Fターム(参考)】