説明

非接触温度センサ

【課題】組み立てた後でも温度検出誤差を容易に補正することができ、検知視野角も一定に保つことができる非接触温度センサを提供する。
【解決手段】
赤外線検知用感温素子20aおよび温度補償用感温素子20bを備えている。赤外線を遮蔽する天板部34と、内部に赤外線を導く導光部40が設けられた筐体14を備える。フレキシブルプリント回路基板12上に各感温素子20a,20bが実装され、赤外線検知用感温素子20aが筺体の導光部40の開口領域に配置され、温度補償用感温素子20bが遮蔽面34aに隠れた位置に配置されている。赤外線遮蔽部18bが一体設けられた感度調整部材18が、フレキシブルプリント回路基板12と筺体14の天板部34の間にスライド可能に位置する。赤外線遮蔽部18bは、導光部40の開口領域内で任意の一定面積部分を遮蔽し、赤外線検知用感温素子20aの感度調整可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、赤外線を検知して温度を測定する非接触温度センサに関し、特に、赤外線検知用感温素子と温度補償用感温素子を備えた非接触温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
被測定物の温度を接触式で測定する温度センサは、一般に接触部分が摩耗しやすく、被測定物に接触する感熱素子自体の熱容量が測定誤差を生じさせ、さらに被測定物が回転動作などしている場合に温度センサを取り付けることが困難である、などの問題点があり、使い勝手のよい非接触式の温度センサの需要が高まっている。
【0003】
従来、非接触で温度を検出する方法として、被測定物が放射する赤外線を赤外線吸収体で吸収してエネルギーに変換し、赤外線吸収体自体の温度上昇を感温素子で検出し、電気信号に変換する方式が用いられている。そして、近年、赤外線検知用感温素子と温度補償用感温素子を組み合わせ、温度測定の精度を向上させた非接触温度センサが提案されている。
【0004】
この種の非接触温度センサとして、例えば、特許文献1に開示されているように、赤外線検知用感温素子と温度補償用感熱素子が2枚の樹脂フィルムに個々に密着固定され、その樹脂フィルムが所定の熱伝導性を有した枠体に張り渡されて筺体内部に収容され、2つの感温素子のうち、赤外線検知用感温素子の方は筺体に設けられた導光部(赤外線の入射窓)の開口領域に配置され、温度補償用感温素子の方は筺体の遮蔽面(遮蔽部)によって赤外線が遮蔽される位置に配置された赤外線検出器がある。
【0005】
また、特許文献2に開示されているように、赤外線検知用感温素子と温度補償用感熱素子が樹脂フィルムに取り付けられ、その樹脂フィルムが筺体内部に収容され、2つの感温素子のうち、赤外線検知用感温素子の方は筺体に設けられた導光部の開口領域に配置され、温度補償用感温素子の方は筺体の壁面に囲まれて遮蔽された空間部に配置され、さらに、導光部から入射する赤外線量を調整する手段として、導光部の開口部面積を調整する遮蔽部が設けられた赤外線温度センサがある。そして、遮蔽部が、導光部の内壁面から内側に突出するネジのような可変突起部である構成が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−260579号公報
【特許文献2】特開2003−156284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の赤外線検出器は、筺体の外形寸法のばらつき等によって温度検出に誤差が生じ、センサ製造時の歩留まりが悪いという問題があった。この筺体は、金属材料を鋳造して大量生産されるので安価に効率よく製作できる半面、外形寸法にある程度のばらつきが生じる。このばらつきの影響は、同一ロット内の比較的小さなばらつきであっても無視できるものではなく、例えば、筺体の導光部の開口部面積や開口部高さ寸法がばらつくと、赤外線の入射量が変動して検出温度に大きな誤差が生じる。また、筺体の外形寸法のばらつき以外に、感温素子の外形寸法、樹脂フィルムの厚み、導体パターンの断面積などのばらつきも、検出温度に誤差を生じさせる要因になる。そして、この赤外線検出器は、誤差を補正する手段を備えていないので、誤差の大きい製品は不良品として廃棄せざるを得なかった。
【0008】
一方、特許文献2の赤外線温度センサは、ネジのような可変突起部の突出量を調節することによって、上記のような検出温度の誤差を製品個々に補正することができる。しかし、可変突起部の突出量を調節すると開口部面積が変化するので、赤外線を受光可能な検知視野角が変化し、製品によって赤外線の検出可能範囲が異なってしまう。例えば、特定の位置にある被測定物が赤外線を放射したとき、可変突起部の突出量が小さい製品を使用すると検知できるが、可変突出部の突出量が大きな製品を使用すると検知できないという現象が起こり、このような製品性能の不安定さは好ましくない。
【0009】
この発明は、上記背景技術に鑑みて成されたもので、組み立てた後でも温度検出誤差を容易に補正することができ、検知視野角も一定に保つことができる非接触温度センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は赤外線検知用感温素子および温度補償用感温素子を備えた非接触温度センサであって、赤外線を遮蔽する遮蔽面を成す天板部と、前記天板部の一部を開口して内部に赤外線を導く導光部とが設けられた筐体と、裏面側の導体パターンに前記赤外線検知用感温素子および前記温度補償用感温素子が実装され、表面側を前記天板部に対向させて前記筺体内に収容されたフレキシブル回路基板と、赤外線遮蔽部と前記赤外線遮蔽部を保持する保持部とが設けられ、前記フレキシブルプリント回路基板と前記天板部及び前記導光部との間で、前記赤外線検知用感温素子に対する位置を調節可能に設けけられた感度調節部材とを備え、前記赤外線検知用感温素子は、前記筺体の前記導光部の開口領域に配置され、前記温度補償用感温素子は、前記遮蔽面に隠れた位置に配置され、前記感度調節部材の前記赤外線遮蔽部は、前記筺体の前記導光部の開口領域内で任意の一定面積部分を遮蔽するとともに前記赤外線検知用感温素子に対する位置を調節し、前記赤外線検知用感温素子の感度調整可能に設けられた非接触温度センサである。
【0011】
前記赤外線遮蔽部は、移動方向に対して垂直方向に前記導光部の開口領域を横切って赤外線を遮蔽するものである。
【0012】
また、前記赤外線遮蔽部の表面に、赤外線反射用の鏡面処理、又は、赤外線領域の電磁波反射用のコーティング剤等による表面処理が施されている。
【0013】
また、前記感度調節部材に、前記筺体の外部から操作可能な可動調整用つまみが設けられている。また、互いに対向する前記フレキシブルプリント回路基板と前記筺体の前記天板部との間にスペーサ手段が配置され、前記スペーサ手段は、前記フレキシブルプリント回路基板と前記天板部及び前記導光部との間に、前記感度調節部材がスライド可能な空間を確保する。
【発明の効果】
【0014】
この発明の非接触温度センサは、生産工程で各部材を組み立てた後、動作確認試験の中で感度調節部材を調節すれば、容易に感度の補正を行うことができ、製品個々の温度検出精度を一定の範囲内に調整することができる。また、導光部の開口部の輪郭形状及び開口面積を一定に保ったまま温度検出の感度を補正するため、検知の視野角を一定に保つことができる。
【0015】
また、感度調節部材の赤外線遮蔽部に赤外線反射の処理を施し、感度調節部材が赤外線を吸収するのを防止することにより、赤外線遮蔽部による感度補正の効果をより高めることができる。
【0016】
また、この発明の非接触温度センサの構造は、従来の非接触温度センサの構造に、薄型の感度調節部材が追加されただけなので、外形が大きくなることはない。また、感度調節部材に可動調整用つまみ設け、筺体の外部に突出させるという構造についても、筺体の構造を複雑にすることなく容易に実現することができる。
【0017】
さらに、フレキシブルプリント回路基板と天板部との間にスペーサを設けることによって、感度調節部材が円滑にスライドするための適正な空間を容易に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の一実施形態である非接触温度センサを示す部分断面斜視図である。
【図2】感度調節部材を示す斜視図である。
【図3】この実施形態の長手方向の縦断面図である。
【図4】この実施形態の感度調節部材の動作を説明する平面図である。
【図5】この実施形態を使用した温度検出システムの構成を示す回路ブロック図である。
【図6】この実施形態の赤外線遮蔽部の位置と検出温度の関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の一実施形態について、図面に基づいて説明する。この実施形態の非接触温度センサ10は、被測定物から放射された赤外線を受光し、その赤外線が有するエネルギーを、赤外線検知用感温素子20aと温度補償用感温素子20bを用いて電気信号に変換するセンサモジュールである。非接触温度センサ10は、図1に示すように、フレキシブルプリント回路基板12と、フレキシブルプリント回路基板12を収容する筺体14と、フレキシブルプリント回路基板12から筺体14の外部に電気信号を取り出すリード線16と、スライド式の感度調節部材18を備え、さらに、フレキシブルプリント回路基板12には、図示しない赤外線検知用感温素子20aと温度補償用感温素子20bが取り付けられている。
【0020】
フレキシブルプリント回路基板12は、被測定物が放射した赤外線を吸収する赤外線吸収体の働きをする樹脂フィルムである。樹脂フィルムの外形は略長方形で、表面には図示しない電気配線用の導体パターンが形成されている。樹脂フィルムの厚みは、赤外線の吸収量の変化に対する熱応答性を良好にするため熱容量の小さい薄いものが好ましく、ここでは、組み立て工程における取り扱いの容易性等も考慮して、20μm程度のものが選択されている。また、樹脂フィルムの素材は、ポリイミドの様な耐熱材料が用いられており、後述する面実装型の赤外線検知用感温素子20aと温度補償用感温素子20bをハンダ付け実装するのに好適である。また、赤外線の吸収能力を向上させるため、カーボンブラックまたは無機顔料を分散させた高分子材料を用いてもよい。
【0021】
赤外線検知用感温素子20a及び温度補償用感温素子20bは、環境温度に応じて自己の回路インピーダンスが変化する素子であって、同一の特性のものを一対にして使用する。ここでは、自身の温度の変化に応じて電気抵抗値が変化するサーミスタであって、負の温度特性を備えたNTCサーミスタが使用されている。また、各感温素子20a,20bは、端子長さの短い面実装型の素子が使用され、フレキシブルプリント回路基板12に実装したときに、感温素子20a,20bの感温部分とフレキシブルプリント回路基板12との熱結合が密になるように考慮されている。
【0022】
筺体14は、ケース部分22と蓋部分24で構成されている。ケース部分22は、図1に示すように、略長方形の底板部26と、底板部26の一方の短辺から上向きに立設された後壁部30と、底板部26の左右一対の長辺から上向きに立設された一対の側壁部32とを有している。底板部26は、フレキシブルプリント回路基板12の外形に対して、長さ寸法が十分に長く、幅寸法はほぼ等しい。後壁部30の上部には、水平な上端面30aが形成されている。一対の側壁32の上部にも、僅かに段差が設けられた水平な上端面32a,32bが形成されており、後壁部30から離れた側の上端面32aの高さは、後壁部30の上端面30aよりも、フレキシブルプリント回路基板12及び後述するスペーサ44の厚みの分だけ低く設定されている。また、後壁部30側の上端面32bの高さは、後壁部30の上端面30aと同じ高さに設定されている。
【0023】
一方、蓋部分24は、図1に示すように、平坦な略長方形の天板部34と、天板部34の一方の短辺から下向きに立設された前壁部36と、天板部26の左右一対の長辺から下向きに立設された側壁部38と、天板部34の中央部分から上向きに立設された導光部40を有している。天板部34は、上側の面が被測定物が放射した赤外線を遮蔽する遮蔽面34aであり、また、導光部40の根元付近に、後述する感度調節部材18の可動調整用つまみ18cが突出する矩形のスライド孔34bが設けられている。天板部34、前壁部36及び側壁部38で囲まれる内側の空間は、ケース部分22全体を上方から覆うように収めることができる広さになっている。また、導光部40は、天板34の中央付近に長穴状に開口された開口部42の周縁から立設された筒状の壁である。また、導光部40の内壁面には、赤外線領域の電磁波を吸収するコーティングが施されている。さらに、天板部34の外表面である遮蔽面34aには、赤外線領域の電磁波反射用のコーティング処理が施されていてもよい。
【0024】
また、蓋部分24には、天板部14の内側の面に、後述する感度調節部材18の厚みとほぼ等しい厚みのスペーサ44が4箇所に貼り付けられている。スペーサ44が貼り付けられている位置は、蓋部分24にケース部分22を収めたとき、ケース部分22の左右一対の上端面32aに当接する位置である。
【0025】
感度調節部材18は、コの字形の薄板である保持部18aと、保持部18aの2つの先端部の間に設けられた薄板状の赤外線遮蔽部18bと、赤外線遮蔽部18bと対向する保持部18aの中央部分から延設され、途中で上向きに屈曲したL字形の可動調整用つまみ18cとで構成されている。赤外線遮蔽部18bの表面は、赤外線反射用の鏡面処理、又は、赤外線領域の電磁波反射用のコーティング処理が施されている。
【0026】
リード線16は、フレキシブルプリント回路基板12の導体パターンであって各感温素子20a,20bが実装された面の導体パターンに、はんだ付け等によって一端が接続され、筺体14の外部に引き出すための十分な長さを有している。ここでは、リード線16は3本で、赤外線検知用感温素子20aの一端の電位、温度補償用感温素子20の一端の電位、そして、赤外線検知用感温素子20a及び温度補償用感温素子20bの他の一端が接続されたグランド電位を出力する。
【0027】
次に、組み立てられた状態の非接触温度センサ10の内部構造について、図1、図3及び図4に基づいて説明する。フレキシブルプリント回路基板12は、図1、図3に示すように、実装された2つの感温素子20a,20bを下方に向け、リード線16がケース部分22の後壁部30の側に向けて配置され、一対の長辺側の端部が、ケース部分22の上端面32aと天板部34に貼り付けられたスペーサ44の間に挟持されて張り渡されている。従って、フレキシブルプリント回路基板12の内側の部分(筺体14で挟持されていない部分)は、図3に示すように、天板部34の内側の面からスペーサ44の厚み分だけ下方に配置され、隙間の空間に感度調節部材18が収容されている。
【0028】
また、フレキシブルプリント回路基板12及び感度調節部材18が筺体14内に収容された状態で、赤外線検知用感熱素子20aは、導光部40を通って赤外線が入射する開口部42の中央に配置され、温度補償用感温素子20bは、赤外線が遮光される天板部34の下方に配置される。また、感度調節部材18の可動調整用つまみ18cは、上板部34のスライド孔34bから上方に突出している。
【0029】
さらに、筺体14のケース部分22と蓋部分24は、上板部34の内側の面に、後壁部30の上端面30a及び側壁部32の上端面32bが当接し、図示しないネジ等によって固定される。また、後壁部30の上端面30aには透孔30bが3つ設けられており、フレキシブルプリント回路基板12に接続されたリード線16は、この透孔30bを通って筺体14の外側に引き出されている。
【0030】
組み立てられた非接触温度センサ10を上方から見ると、図4に示すように、導光部40内の開口部42から、感度調節用部材18の赤外線遮蔽部18bが露出する。そして、可変調整つまみ18cをスライド孔34b内で左右にスライドさせることによって、赤外線遮蔽部18bの位置をX1〜X2の範囲で可変することができる。感度調節部材18をスライドさせるとき、スペーサ44の存在によってフレキシブルプリント回路基板12と天板部34の間に適正な空間が確保されているので、感度調節部材18がフレキシブルプリント回路基板12を傷つけることなく円滑に移動することができる。スペーサ44は、感度調節部材18の保持部18aと赤外線遮蔽部18bの厚みが厚い場合に有効であるが、当該各部の厚みが薄く、スライドに支障がなければ、スペーサ44を設けなくてもよい。
【0031】
次に、非接触温度センサ10の動作回路である温度検出回路46について、図5に基づいて説明する。非接触温度検出回路46は、直流電源48の両端に非接触温度センサ10の赤外線検知感温素子20a及び基準抵抗49の直列回路を接続し、赤外線検知感温素子20aの両端電圧を電圧信号Vaとして取り出す。同様に、直流電源48の両端に、非接触温度センサ10の温度補償用感温素子20b及び基準抵抗50の直列回路を接続し、温度補償用感温素子20bの両端電圧を電圧信号Vbとして取り出す。この基準抵抗49,50は互いに抵抗値が等しく、温度依存性が小さく高精度の抵抗が用いられる。
【0032】
アナログの電圧信号Va,Vbは、アナログ・デジタル変換器52によってデジタルの電圧信号Va(d),Vb(d)に変換され、マイクロコンピュータ54に送られる。そして、マイクロコンピュータ54は、記憶装置56に格納されている電圧信号と温度との関係を示す特性テーブルデータと,電圧信号Va(d),Vb(d)を用いて所定の演算処理行い、2つの電圧信号の差分に基づいて被測定物の温度情報を得る。
【0033】
次に、非接触温度センサ10と温度検出システム46の実際の動作について説明する。導光部40から赤外線が入射しないときは、フレキシブルプリント回路基板12の温度が一様なので、2つの感温素子20a,20bの抵抗値が等しく、回路が平衡するので電圧信号Va,Vbが等しくなり、差分(Vb−Va)はゼロになる。
【0034】
また、2つの感温素子20a,20bは、使用環境や周辺雰囲気の温度が変化すると、非接触温度センサ10に赤外線が入射しなくとも、抵抗値が互いに等しく変化する。しかし、2つの感温素子20a,20bの抵抗値が等しく増減するので、平衡状態は維持され差分(Vb−Va)はゼロを維持し、温度補償が適正に行われる。
【0035】
一方、被測定物が放射した赤外線が導光部40から入射し、フレキシブルプリント回路基板12の開口部42の位置にある部分に吸収されると、その部分の熱エネルギーにより赤外線検知用感温素子20aの温度が変化し、自身の抵抗値が変化する。すると、上記の平衡状態が崩れ、2つの電圧信号の差分(Vb−Va)が生じる。そして、マイクロコンピュータは、電圧信号Va(d),Vb(d)の差分と、温度補償情報である電圧信号Vb(d)に基づき、記憶装置56にあらかじめ記録されている特性テーブルデーダによって温度換算し、被測定物の表面温度を算出する。
【0036】
次に、この非接触温度センサ10の生産工程または出荷試験工程での感度のばらつき補正について説明する。例えば、黒体炉など一定の放射率を持つ被測定物の既知の温度を非接触温度センサ10を用いて検出し、温度検出回路46で処理して得られた温度検出結果が、所定の規格を満たしているか否かを判定する。そして、規格を満たしていないときは、可動調節用つまみ18cを操作して赤外線遮蔽部18bの位置を可変し、赤外線検知用感温素子20aの出力である電圧信号Vaを変化させて調整する。
【0037】
この実施形態では、赤外線遮蔽部18bは、図4に示すように、X1〜X2の範囲で位置を可変することができ、フレキシブルプリント回路基板12の赤外線遮蔽部18bが位置する部分は、赤外線を吸収することができないので、赤外線遮蔽部18bの位置と検出温度の関係は、例えば、図6のグラフのように表される。すなわち、赤外線遮蔽部18bの位置を赤外線検知用感温素子20aに近くすると、フレキシブルプリント回路基板12から赤外線検知用感温素子20aに伝わる熱量が抑えられてその抵抗値の変化が小さくなり、赤外線検知用感温素子20aの感度を等価的に低くすることができる。同様に、赤外線遮蔽部18bの位置を赤外線検知用感温素子20aから離すと、赤外線検知用感温素子20aの感度を等価的に高くすることができる。感度の調整方法は、赤外線遮蔽部18bの位置を少しずつ移動させ、温度検出システム46で算出した温度検出結果が所定の規格を満たしたところで停止させ、スライド孔34b部分に接着剤を塗布する等して赤外線遮蔽部18bを固定する。このような方法で、非接触温度センサ10の製品個々の感度を一律に調整することができる。
【0038】
以上説明したように、非接触温度センサ10は、生産工程で各部材を組み立てた後、動作確認試験の中に感度調節部材18の赤外線遮蔽部18bの位置を調節することによって、温度検出の感度を容易に補正することができ、各部材の外形寸法等のばらつきの影響をキャンセルし、製品個々の温度検出精度を一律に設定することができる。さらに、この補正方法は、導光部40内の開口部42の輪郭形状と開口面積が変化しないので、検出の視野角を一定に保つことができる。また、赤外線遮蔽部18bは、その移動方向に対してほぼ垂直方向に前記導光部内の開口部を横切って赤外線を遮蔽する構造のため、位置をX1〜X2の範囲で変化させたとき、電圧信号Vaがなだらかに変化し、赤外線遮蔽部18bの位置調整が容易である。
【0039】
また、感度調節部材18の赤外線遮蔽部18bに赤外線反射の表面処理を施すことによって、赤外線遮蔽部18bによる感度補正の効果をより高めることができる。
【0040】
また、非接触温度センサ10の構造は、従来の非接触温度センサの構造に、薄型の感度調節部材18が追加されただけなので、さほど外形が大きくなることはない。また、感度調節部材18に可動調整用つまみ18cを設けスライド孔34bから筺体14の外部に突出させる、という構造についても、筺体14の構造を複雑にすることなく容易に実現することができる。
【0041】
さらに、フレキシブルプリント回路基板12と蓋部分24の天板部34との間にスペーサ44を設けることによって、感度調節部材18が円滑にスライドするための適正な空間を容易に確保することができる。
【0042】
なお、この発明の非接触温度センサは、上記実施形態に限定されるものではなく、導光部内の開口部の形状は、両端が半円状の長穴、長方形、正方形などであってもよい。また、感度調節用部材の赤外線遮蔽部の形状についても、開口部の任意の一定面積部分を遮蔽し、その位置を変化させたときの電圧信号Vaの変化の具合が適正であれば、センサの用途や被測定物の形態に応じて、自由に設定することができる。また、スペーサは、蓋部分の内側の面に一体に形成された突起や、フレキシブル回路基板の表面に設けた突起等によるスペーサ手段で代用してもよい。また、2つの感温素子と接続されてブリッジ回路を構成する基準抵抗などの回路素子は、非接触温度センサのフレキシブルプリント回路基板上に実装してもよい。
【符号の説明】
【0043】
10 非接触温度センサ
12 フレキシブルプリント回路基板
14 筺体
16 リード線
18 感度調節部材
18a 保持部材
18b 赤外線遮蔽部
18c 可変調整用つまみ
20a 赤外線検知用感温素子
20b 温度補償用感温素子
22 ケース部分
24 蓋部分
34 天板部
34a 遮蔽面
40 導光部
42 開口部
44 スペーサ
46 温度検出システム
49,50 基準抵抗


【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線検知用感温素子および温度補償用感温素子を備えた非接触温度センサにおいて、
赤外線を遮蔽する遮蔽面を成す天板部と、前記天板部の一部を開口して内部に赤外線を導く導光部とが設けられた筐体と、
裏面側の導体パターンに前記赤外線検知用感温素子および前記温度補償用感温素子が実装され、表面側を前記天板部に対向させて前記筺体内に収容されたフレキシブル回路基板と、
赤外線遮蔽部と前記赤外線遮蔽部を保持する保持部とが設けられ、前記フレキシブルプリント回路基板と前記天板部及び前記導光部との間で、前記赤外線検知用感温素子に対する位置を調節可能に設けけられた感度調節部材とを備え、
前記赤外線検知用感温素子は、前記筺体の前記導光部の開口領域に配置され、前記温度補償用感温素子は、前記遮蔽面に隠れた位置に配置され、
前記感度調節部材の前記赤外線遮蔽部は、前記筺体の前記導光部の開口領域内で任意の一定面積部分を遮蔽するとともに前記赤外線検知用感温素子に対する位置を調節し、前記赤外線検知用感温素子の感度調整可能に設けられたことを特徴とする非接触温度センサ。
【請求項2】
前記赤外線遮蔽部は、移動方向に対して垂直方向に前記導光部の開口領域を横切って赤外線を遮蔽する請求項1記載の非接触温度センサ。
【請求項3】
前記赤外線遮蔽部の表面に、赤外線領域の電磁波を反射する表面処理が施された請求項1記載の非接触温度センサ。
【請求項4】
前記感度調節部材に、前記筺体の外部から操作可能な可動調整用つまみが設けられた請求項1乃至3のいずれか記載の非接触温度センサ。
【請求項5】
互いに対向する前記フレキシブルプリント回路基板と前記筺体の前記天板部との間にスペーサ手段が配置され、前記スペーサ手段は、前記フレキシブルプリント回路基板と前記天板部及び前記導光部との間に、前記感度調節部材がスライド可能な空間を確保する請求項1乃至3のいずれか記載の非接触温度センサ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−141216(P2011−141216A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2490(P2010−2490)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【特許番号】特許第4567806号(P4567806)
【特許公報発行日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(591020445)立山科学工業株式会社 (71)
【Fターム(参考)】