説明

非晶質シリカジルコニウム複合体

【課題】白金族金属等の貴金属触媒の担持に適した細孔を有しているとともに、極めて安価に製造し得る新規な多孔質体を提供する。
【解決手段】Zr/(Si+Zr)が0.5乃至15.0モル%の範囲内にあると共に、2乃至50nmの細孔直径での細孔容積が0.2乃至1.0cm/gであり、且つNH−TPD法で測定したNH脱着量が0.05mmol/g以上であることを特徴とする非晶質シリカジルコニウム複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質シリカジルコニウム複合体に関するものであり、より詳細には、ディーゼル排ガス浄化用触媒担体として好適に使用される非晶質シリカジルコニウム複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
白金、パラジウム、ロジウムに代表される白金族金属は、排ガス浄化用触媒としての機能を有しており、このような白金族金属を多孔質担体に担持させたものは、例えば自動車の排ガス中に含まれる炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)を浄化するための触媒として使用されている(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、上記のような白金族金属は貴金属であり、非常に高価であるため、その触媒機能が効率よく発揮されるように多孔質担体(触媒担体)に保持しなければならない。従って、触媒担体として好適に使用される多孔質担体についても種々の提案がなされている。
【0004】
例えば、上記の特許文献1には、アルミナ、セリア、ジルコニア、チタニア、シリカ、ゼオライト及びメソポーラスシリカからなる群より選択された少なくとも1種を、上記白金族金属を担持させる触媒担体として用いることが提案されている。
また、特許文献2には、SiOとZrOとの複合酸化物を焼結したものを排ガス浄化用触媒の触媒担体として用いることが提案されている。
さらに、特許文献3には、規則的周期構造を有する均一なメソ孔を備え且つ一定割合でSi−O−Zr結合を有するメソポーラスシリカを触媒担体として用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−148166号公報
【特許文献2】特開平7−108137号公報
【特許文献3】特開2002−241123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した種々の触媒担体の中では、規則的周期構造を有する均一なメソ孔を備えたメソポーラスシリカは、白金族金属の粒子を凝集することなく均一に分散して保持することができるため、特に注目されている。
【0007】
しかしながら、この種のメソポーラスシリカは、均一なメソ孔を形成するために、高価な界面活性剤を使用しなければならず、しかも、この界面活性剤は熱分解により除去されてしまうため、再利用することもできないという問題がある。即ち、このようなメソポーラスシリカは、極めて高価なものであり、これに白金族金属を担持させた排ガス浄化用触媒は、著しく高価なものとなってしまい、その実用化を妨げているのが難点である。
【0008】
従って、本発明の目的は、白金族金属等の貴金属触媒の担持に適した細孔を有しているとともに、極めて安価に製造し得る新規な多孔質体を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記の多孔質体からなる排ガス浄化用触媒担体及び該担体に白金族金属を担持してなり、従来公知のメソポーラスシリカを担体として用いたものと同等の排ガス浄化特性を示す排ガス浄化用触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、Zr/(Si+Zr)が0.5乃至15.0モル%の範囲内にあると共に、2乃至50nmの細孔直径での細孔容積が0.2乃至1.0cm/gであり、且つNH−TPD法で測定したNH脱着量が0.05mmol/g以上であることを特徴とする非晶質シリカジルコニウム複合体が提供される。
本発明の非晶質シリカジルコニウム複合体は、一般に、窒素吸着法で測定した平均細孔直径が2.0乃至12.0nmである。
【0010】
本発明によれば、また、上記非晶質シリカジルコニウム複合体から成る排ガス浄化用触媒担体が提供される。
本発明によれば、さらに、上記触媒担体に白金族金属を担持してなる排ガス浄化用触媒が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の非晶質シリカジルコニウム複合体には、一定の大きさの細孔(細孔直径が2.0乃至50nm)が一定容積(0.2乃至1.0cm/g)で形成されているため、例えば排ガス浄化用触媒として好適に機能する白金族金属触媒を効率よく担持させることができる。
【0012】
また、この複合体は、NH−TPD法で測定したNH脱着量が大きい値(0.05mmol/g以上)を示すことから理解されるように、粒子表面に酸点が多く形成されており、この結果、この複合体に白金族金属を担持させた排ガス浄化用触媒は、優れた炭化水素分解特性を示す。即ち、白金族金属上で分解し活性化された炭化水素が酸点に吸着し、その分解が促進されるものと考えられる。
【0013】
また、本発明の非晶質シリカジルコニウム複合体に白金族金属を担持させてなる排ガス浄化用触媒は、その耐熱性も良好であり、750℃、50時間のエージング処理後においても優れた触媒活性を示す。即ち、後述する実施例に示されているように、デカンについての酸化活性を示す転化率50%を達成する温度(T50)が、エージング処理後においてもほとんど上昇しておらず、従って、優れた触媒活性がエージングにより損なわれていないことが判る。このように、この非晶質シリカジルコニウム複合体に白金族金属を担持させてなる排ガス浄化触媒が優れた耐熱性を示す理由は、明確に解明されているわけではないが、おそらく、ZrがSi−O−Si結合の一部に導入されていることに関連して細孔の熱収縮が抑制されているためではないかと推定している。
【0014】
このように、本発明の非晶質シリカジルコニウム複合体に白金族金属を担持させてなる排ガス浄化用触媒は、優れた触媒活性を示し、例えば公知のメソポーラスシリカ等の担体に白金族金属を担持させた排ガス浄化用触媒と同等、あるいはそれ以上の触媒活性を示す。
【0015】
本発明の最大の利点は、この非晶質シリカジルコニウム複合体が非晶質であるため、結晶化のための著しい高温での加熱を必要とせず、しかも、公知のメソポーラスシリカのように高価な界面活性剤等を用いる必要は全く無く、極めて安価に製造できるという点にあり、これにより、排ガス浄化用触媒についての大幅なコスト低減を実現することができる。
【0016】
さらに、本発明の非晶質シリカジルコニウム複合体は、非晶質であり且つ界面活性剤を用いて形成されていないため、そのX線回折測定では、結晶構造に由来する回折ピークや周期的に規則正しく配列したメソ孔に由来する回折ピークは観測されない。例えば、特許文献3に開示されているメソポーラスシリカには、本発明の非晶質シリカジルコニウム複合体と同様、SiO成分中にZr成分が導入されていて、周期的なメソ孔に由来する回折ピークが観測されるが、本発明では、このような回折ピークは全く観測されないのである。
【0017】
尚、本発明の非晶質シリカジルコニウム複合体は、SiO成分とZr成分とが複合化しており、例えばSiOゾルとZrOゾルとの単なる混合物とは異なっている。このことは、後述する実施例及び比較例との対比から理解される。即ち、ジルコニウムを添加していないSiOゲルを触媒担体として用いた比較例1やSiOゾルとZrOゾルとの混合物を触媒担体として用いた比較例2では、NH−TPD法で測定したNH脱着量が極めて少なく、酸点がほとんど形成されておらず、またエージング処理後のデカン転化率50%達成温度(T50)もエージング処理前から著しく増大しており、耐熱性が低い。一方、本発明の非晶質シリカジルコニウム複合体を触媒担体として用いた実施例では、NH−TPD法で測定したNH脱着量が多く、しかも、T50もエージング処理の前後でほとんど差が無く、かかる事実は、本発明の非晶質シリカジルコニウム複合体は、SiOゾルとZrOゾルとの単なる混合物ではなく、Si−O−Si結合の一部にZrが組み込まれて複合化していることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の非晶質シリカジルコニウム複合体(実施例3)のX線回折図。
【図2】本発明の非晶質シリカジルコニウム複合体(実施例3)のX線回折小角散乱図。
【図3】本発明の非晶質シリカジルコニウム複合体(実施例3)の窒素吸着法(BJH法脱離枝側)による細孔分布を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<非晶質シリカジルコニウム複合体の製造>
上記で説明したように、本発明の非晶質シリカジルコニウム複合体は、界面活性剤等の高価な剤を使用せず、且つ極度の高温(例えば500℃以上)での加熱を行うことなく製造される。
具体的には、ケイ酸の酸性ゾルとジルコニウム塩とを混合してゲル化を行い、得られたゲルをアンモニア水で処理し水洗することにより、ジルコニウムをゲル化物に固定し、次いで塩化アンモニウム処理によってのイオン交換によりNa等のアルカリ金属を除去し、最後に水熱処理によって細孔の調整を行うことにより製造される。
【0020】
1.酸性ゾル及びジルコニウム塩;
上記の方法で用いるケイ酸の酸性ゾルは、工業製品としてJISに規格されている水ガラスのケイ酸ソーダやケイ酸カリが使用される。
【0021】
また、この酸性ゾルは、酸性白土等の粘土質原料より回収した易反応性のシリカにアルカリ金属の水酸化物溶液を反応させてケイ酸アルカリを調製し、このケイ酸アルカリに塩酸や硫酸等の鉱酸を添加することによって製造することもできる。
例えば、SiO分を21乃至23重量%含むケイ酸ソーダ水溶液と、42乃至45重量%の濃度の硫酸水溶液を、容積比で約4:1になる量で連続的に高速混合してpHが1.6乃至2.2の範囲になるように調整することにより、本発明で用いる酸性ゾルを得ることができる。
【0022】
また、上記の酸性ゾルに混合するジルコニウム塩としては、硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム等を使用することができるが、反応性やコスト等の観点から硝酸ジルコニウムが最も好適である。
かかるジルコニウム塩は、酸性ゾル中のSiと添加するZrの総和に対して、Zrが0.5乃至15.0モル%、特に3.0乃至6.0モル%の範囲となるような割合で使用される。即ち、この範囲にZr/(Si+Zr)のモル%を設定することにより、最終的に得られる非晶質シリカジルコニウム複合体の細孔分布や平均細孔直径を所定の範囲とし、かつ一定量以上のNH脱着量が発現するような固体酸量を確保することが可能となる。
【0023】
2.ゲル化及びアンモニウム処理;
酸性ゾル中に上記の量でジルコニウム塩を添加混合してゲル化を行い、次いでアンモニウム水で処理し、水洗する。これにより、ジルコニウム塩の沈澱を回避し、ジルコニウムイオンをゲル中に固定することができる。このゲル中に一定量のジルコニウムイオンが存在しているため、後述する水熱処理によって、所定の触媒担体としての特性を示すように細孔を形成することができる。
尚、ゲル化の反応温度は、一般に、10乃至50℃の温度でよい。
【0024】
3.イオン交換処理;
次いで、塩化アンモニウム水溶液を用いて上記で得られたゲルについてイオン交換処理を行い、水洗を行う。これにより、Na分が除去され、最終的に得られる非晶質シリカジルコニウム複合体の耐熱性を向上させることができ、例えば高温でのエージング処理による触媒活性の低下(T50の上昇)を抑制することが可能となる。即ち、Na分が多く含まれていると、高温での熱処理によって細孔収縮の程度が大きくなり、この結果、耐熱性の低下を生じるが、塩化アンモニウム処理によるイオン交換によってNa分を除去することにより、高温での熱処理による細孔収縮を効果的に抑制することができ、耐熱性を高めることができるのである。
【0025】
上記のイオン交換処理に用いる塩化アンモニウム水溶液は、通常、1乃至10重量%濃度のものが使用され、SiO100重量部当りのNaO量が0.3重量部以下となる程度にイオン交換処理を行うことが好適である。
【0026】
4.水熱処理;
上記のイオン交換処理によるNa分の除去後には、水熱処理が行われる。これは細孔調節のために行われるものであり、一般に80乃至180℃の温度で行われ、オートクレーブ等の密閉下で行うのがよい。通常、6乃至120時間程度の処理時間で、触媒担体として好適な細孔分布を得ることができる。
水熱処理後は、乾燥を行い、目的とする非晶質シリカジルコニウム複合体を得ることができる。
【0027】
<非晶質シリカジルコニウム複合体>
上記のようにして得られる非晶質シリカジルコニウム複合体は、前述した酸性ゾルとジルコニウム塩との使用量にしたがい、Zr/(Si+Zr)が0.5乃至15.0モル%、特に3.0乃至6.0モル%の範囲であり、このような組成に基づき、所定の細孔分布や固体酸量等の特性を示す。
【0028】
さらに、この非晶質シリカジルコニウム複合体は、耐熱性の観点から、SiO100重量部当りのNaO量が0.3重量部以下に調整されていることが好適である。このNaO量は、既に述べたように塩化アンモニウムを用いたイオン交換処理によって調整することができ、NaO量が低減されていることにより優れた耐熱性が発現し、高温での熱処理による細孔の収縮が抑制され、触媒担体として優れた特性を示すことになる。
【0029】
また、かかる非晶質シリカジルコニウム複合体は、2乃至50nmの細孔直径での細孔容積が0.2乃至1.0cm/g、特に0.4乃至0.8cm/gの範囲にある。さらに、一般に、窒素吸着法で測定した平均細孔直径が2.0乃至12.0nm、特に2.5乃至7.5nmの範囲にある。
即ち、上記のような細孔分布から理解されるように、本発明の非晶質シリカジルコニウム複合体は、細孔直径が50nm以上のマクロ孔に加え、細孔直径が2〜50nmのメソ孔を多く含んでおり、この結果、白金族金属等の貴金属触媒を担持する担体としての特性に優れている。このような貴金属を凝集せしめることなく、均一に分散して保持せしめることができ、その触媒機能を最大限に発揮させることができるからである。
【0030】
また、この非晶質シリカジルコニウム複合体は、非晶質であると共に、界面活性剤の如き、細孔を形成するための剤を使用せずに製造されているため、上記のような細孔は規則正しく周期的に形成されているわけではない。したがって、この複合体のX線回折測定では、結晶構造や周期的な細孔に由来する回折ピークは、図1に示されているように、全く形成されていない。(図1において、2θ=20〜30度の領域に形成されているブロードなピークは、非晶質シリカについて観測される特有のピークであることが知られており、結晶構造及び細孔の規則的配列に由来するものではない。)即ち、このようなX線回折特性から、この非晶質シリカジルコニウム複合体は、シリカとジルコニアとの複合酸化物の焼結体とは明確に異なり、また、界面活性剤を用いて製造されたメソポーラスシリカとも異なったものであることが理解される。
【0031】
本発明の非晶質シリカジルコニウム複合体は、上記のような多孔質構造を有していることに関連して大きな比表面積を有しており、一般に、BET比表面積が300乃至650m/g、好ましくは430乃至650m/gの範囲にある。
【0032】
さらに、本発明の非晶質シリカジルコニウム複合体は、固体酸としての特性を有しており、NH−TPD法で測定したNH脱着量が0.05mmol/g以上、特に0.07mmol/g以上の範囲にある。即ち、NH脱着量が多いということは、NHを吸着する酸点が多いことを示している。このような固体酸としての特性は、この複合体の粒子表面には、Si−O−Si結合、Zr−O−Si結合或いはZr−O−Zr結合以外に、電荷のバランスが崩れて形成されたSi−OH等の固体酸としての特性を示す基が存在していることを示している。
尚、このようなNH脱着量はZr含有量の増大と共に増加する傾向があるが、必要以上にZr含有量が増大することは細孔分布に悪影響を与えるため、Zr/(Si+Zr)のモル%は前述した範囲内とすべきである。
【0033】
<用途>
上記のような特性を有する非晶質シリカジルコニウム複合体は、極めて安価であり、しかも効率よく均一に触媒を分散して担持することができるため、特に白金族金属等の貴金属触媒用の担体として極めて好適であり、貴金属触媒を担持させて排ガス浄化用触媒として使用されることにより、大幅なコストダウンを図ることができる。
特に、上述した細孔分布は、貴金属触媒を凝集させること無く、均一且つ安定に分散して担持させる上で有利であり、また、固体酸としての特性は、炭化水素の分解特性を向上させ得るため、排ガス浄化の触媒機能を高める上で有利である。
【0034】
触媒担体として使用される非晶質シリカジルコニウム複合体は、例えば押出成形、造粒成形等の公知の方法によって、円筒状、粒状、錠剤等の種々の形態に成形し、これに触媒を担持させて触媒としての使用に供される。
【0035】
担持させる貴金属触媒としては、特に排ガス浄化用触媒として公知の白金族金属、例えば白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウムを例示することができる。本発明は、従来の担持量に比して少ない担持量で高い効果を有するため、触媒使用量を削減でき、引いてはコストの低減がもたらされることから、特に高価な貴金属触媒だけを担持させる場合に最も有利である。勿論、水素化精製触媒、水素化脱硫触媒、水素化脱窒素触媒等の触媒としての機能を有する他の金属、例えば、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、コバルト、ニッケル、オスミウム、モリブデン−コバルト、モリブデン−ニッケル、タングステン−ニッケル、モリブデン−コバルト−ニッケル、タングステン−コバルト−ニッケルまたはモリブデン−タングステン−コバルト−ニッケル等を必要に応じて担持させることもできる。
【0036】
金属触媒の担持方法としては、上述した非晶質シリカジルコニウム複合体の成形体(担体)を触媒金属の可溶性塩の溶液に浸漬し、該金属成分を担体中に導入する含浸法、或いは担体の製造の際、金属成分を同時に沈殿させる共沈法等、公知の方法を採用することができるが、操作上容易であり、触媒特性の安定化維持に好都合な含浸法によることが好ましい。例えば、担体を常温または常温以上で含浸溶液に浸漬して所望成分が十分担体中に含浸する条件下で保持するのがよい。含浸溶液の量および温度は、所望量の触媒金属成分が担持されるように適宜調整することができる。また、触媒金属成分の所望担持量により含浸溶液に浸漬する担体の量を決定することができる。
【0037】
尚、二種以上の触媒金属成分を担持するには、二種以上の触媒金属成分をあらかじめ混合し、その混合溶液から同時に含浸する一液含浸法を採用することができるし、また、二種以上の金属成分の溶液を別々に調製し、逐次含浸していく二液含浸法を採用することもできる。
【0038】
このように、本発明の非晶質シリカジルコニウム複合体は、白金族金属を担持させての排ガス浄化用触媒として特に好適に使用され、白金族金属を効率よく均一に担持させ、その触媒活性を効率よく発現させることができ、例えば炭化水素の分解、NOx及びカーボンの酸化等により、自動車等の排ガスをクリーンに浄化することができる。特に、本発明の非晶質シリカジルコニウム複合体に白金族金属を担持させた排ガス浄化用触媒は、耐熱性が良好であり、後述する実施例に示されているように、デカン酸化活性について、T50(転化率50%となる温度)が、750℃でのエージング処理後においても安定に保持される。
【0039】
また、本発明の非晶質シリカジルコニウム複合体は、特有の多孔質構造(細孔分布)を有していると同時に、極めて安価であるため、上記のような触媒用途以外にも種々の用途に使用することができる。
例えば、前述した多孔質構造及び固体酸特性からいって、水分や各種ガス(特にアンモニア等の悪臭の塩基性ガス)に対する吸着特性に優れているため、調湿剤、消臭剤としても好適に使用することができるし、樹脂用或いは製紙用填料等として使用することもでき、その使用形態に応じて、適宜、粒度調整、成形等により、粉末、顆粒、棒状、ペレット状、ハニカム状等の形態とし、種々の材料に、塗布、含浸、ねりこみ等で添加することもできる。
【実施例】
【0040】
本発明を、次の実験例により詳細に説明する。
尚、以下の実験に用いた各種の測定方法は次の通りである。
【0041】
(1)化学分析
Siの測定はJIS.M.8852に準拠して測定した。Zrの測定はサーモフィッシャーサイエンティフィック社製のiCAP6300Duoを用いてICPによる分析から求めた。ICPに用いる試料の調製は、硫酸、フッ化水素酸、塩酸を用いて不純物を除去し、液性を1%塩酸酸性となるようにして行った。
【0042】
(2)BET比表面積、細孔容積及び細孔分布
Micromeritics社製TriStarII 3020を用いて窒素吸着法にて測定を行った。細孔容積は、脱離枝側窒素吸着等温線からBJH法で求めた細孔分布において細孔直径2.0nm〜50nmまでの細孔容積を積算して求めた。比表面積は比圧が0.05から0.20の吸着枝側窒素吸着等温線からBET法で解析した。細孔直径はP/Po=0.975未満の窒素吸着量をVとし、比表面積をAとして4V/Aより計算して求めた。
【0043】
(3)X線回折
X線回折測定はリガク社製のSmartLabを用いて、Cu−Kαにて下記の条件で2θ=5〜70degの範囲で測定を行った。
ターゲット:Cu
フィルター:Kβ
検出器:SC
電圧:40kV
電流:30mA
ステップサイズ:0.01°
計数時間:連続 1°/min
スリット:DS1/10° RS0.3mm SS1/10°
【0044】
(4)X線回折(小角散乱)
リガク社製のX線回折装置SmartLabを用いて、Cu−Kαにて下記の条件で2θ=0.5〜5degの範囲で測定を行った。
ターゲット:Cu
フィルター:Kβ
検出器:D/tex(半導体検出器)
電圧:40kV
電流:30mA
ステップサイズ:0.01°
計数時間:連続 10°/min
スリット:IS 1/3°(0.1°=0.3mm)、RS1 8°、RS2 16
mm
【0045】
(5)NH脱着量(NH−TPD法)
He雰囲気で試料を、500℃、1時間処理した後、100℃まで冷却し、0.1%NH/Heに暴露後、Heパージを行い、5℃/minの速度で昇温し、脱離するNH量を測定した。
【0046】
(6)触媒調製
非晶質シリカジルコニウム複合体に対して1wt%Ptとなるようにジニトロジアンミン白金硝酸溶液を含浸担持し、水素中400℃で還元し空気中500℃、1時間処理したものをエージング前試料とし、これを空気中750℃、50時間のエージング処理を行ったものをエージング後試料とした。
【0047】
(7)デカン酸化活性(T50
常圧固定床流通反応法により行った。触媒調整後試料40mgに模擬排ガスとして200ppmNO+200ppmデカン+10体積%H2O+5体積%O2(N2希釈)を400mL・min−1流通させ、500℃から階段状に降温し、各温度での活性を測定し、転化率50%の温度をT50とした。
【0048】
(実施例1)
原料としてケイ酸ソーダ(SiO2 22.5重量%、Na2O 7.2重量%、SG 1.295/15℃)と45重量%濃度の硫酸水溶液(SG 1.343/25℃)を用い、両者が瞬時に接触可能な装置に、該ケイ酸ソーダ7.5L/min、該硫酸水溶液2.0L/minを供給し、酸性シリカゾルを生成させた。このシリカゾル1.5kgを43.8重量%硝酸ジルコニウム溶液22.8gへ注加し、シリカジルコニウムゾルを生成させた。このシリカジルコニウムゾルを静置しゲル化したのち、アンモニア水で処理し、続いて純水で洗浄した。次に2.3重量%塩化アンモニウム溶液でイオン交換処理を行い、再度純水で洗浄した。このシリカジルコニウムゲルに対して1.1倍量の純水を加えて水熱処理を130℃12時間行った。続いて110℃で乾燥し、非晶質シリカジルコニウム複合体を得た。得られた試料について物性測定を行い、結果を表1に示す。
【0049】
(実施例2)
43.8重量%硝酸ジルコニウム溶液の量を45.6gにした以外は実施例1と同様にし、試料を得た。物性測定の結果を表1に示す。
【0050】
(実施例3)
43.8重量%硝酸ジルコニウム溶液の量を91.2gにした以外は実施例1と同様にし、試料を得た。物性測定の結果を表1に示す。また、X線回折の結果を図1に、X線回折(小角散乱)の結果を図2に、BJH法(脱離側)による細孔分布図を図3にそれぞれ示す。
【0051】
(実施例4)
43.8重量%硝酸ジルコニウム溶液の量を182.4gにした以外は実施例1と同様にし、試料を得た。物性測定の結果を表1に示す。
【0052】
(実施例5)
43.8重量%硝酸ジルコニウム溶液の量を364.8gにした以外は実施例1と同様にし、試料を得た。物性測定の結果を表1に示す。
【0053】
(比較例1)
実施例1で酸性シリカゾルを生成するまでの工程を同様に行った。この酸性シリカゾルを静置しゲル化したのち、純水洗浄を行い、この酸性シリカゲルに対して1.1倍量の純水を加えて水熱処理を130℃12時間行った。続いて110℃で乾燥を行い、試料を得た。物性測定の結果を表1に示す。
【0054】
(比較例2)
実施例1で43.8重量%硝酸ジルコニウム溶液ではなく40重量%ジルコニアゾルを26.9g使ったこと以外は、実施例1と同様にして試料を得た。物性測定の結果を表1に示す。
【0055】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zr/(Si+Zr)が0.5乃至15.0モル%の範囲内にあると共に、2乃至50nmの細孔直径での細孔容積が0.2乃至1.0cm/gであり、且つNH−TPD法で測定したNH脱着量が0.05mmol/g以上であることを特徴とする非晶質シリカジルコニウム複合体。
【請求項2】
窒素吸着法で測定した平均細孔直径が2.0乃至12.0nmである請求項1記載の非晶質シリカジルコニウム複合体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の非晶質シリカジルコニウム複合体から成る、排ガス浄化用触媒担体。
【請求項4】
請求項3に記載の触媒担体に白金族金属を担持してなる排ガス浄化用触媒。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−201553(P2012−201553A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67496(P2011−67496)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔研究集会名〕 「第107回触媒討論会」 〔主催者名〕 主催 触媒学会 〔発行日〕 平成23年3月18日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「希少金属代替材料開発プロジェクト/排ガス浄化向け白金族使用量低減技術開発及び代替材料開発/ディーゼル排ガス浄化触媒の白金族使用量低減化技術の開発」委託研究 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000193601)水澤化学工業株式会社 (50)
【Fターム(参考)】