説明

非水系顔料分散体

【課題】初期分散性及び経時安定性に優れた、複素環系顔料の非水系分散体を提供することである。
【解決手段】(A)式(1)で表される分散剤、(B)溶解度パラメーター(SP値)が8.0〜10.0(cal/cm0.5である有機溶媒、および(C)複素環を有する有機顔料を必須成分として含有する非水系顔料分散体を提供する。前記分散剤においては、ペンチトールの5つの水酸基のうち1つの水酸基のみに炭素数3〜4のオキシアルキレン基を特定の割合でアルキレンオキシド付加させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系顔料分散体に関する。さらに詳しくは、初期分散性及び経時安定性に優れた非水系顔料分散体に関するものであり、特にカラーフィルター製造の際に使用されるインクジェット用カラーレジストとして有用な非水系顔料分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より非水系印刷インクは、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷、インクジェット印刷等の様々な印刷用途で広く使用されている。
また、近年、大画面テレビやパソコン用モニタの分野では、従来のブラウン管に替わり、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイに代表されるフラットパネルディスプレイが主流になっている。これらフラットパネルディスプレイに用いられるカラーフィルターを製造する際のカラーレジストの塗布方法として、フォトリソ法とインクジェット法が知られているが、生産性や製造装置の小型化の観点からインクジェット法が注目されている。
【0003】
これら非水系印刷インクやカラーレジストの着色剤としては、顔料・染料が使用されているが、染料は耐候性が低いため、顔料インクが主流になりつつある。顔料を使用する場合、顔料は溶剤に溶解せず、且つそのままでは一次粒子の凝集した二次粒子の状態であるため、顔料分散体においては、顔料粒子が一次粒子あるいはそれに近い状態にまで微細化され、その状態が維持されている必要がある。
【0004】
特に、インクの印刷方法やカラーレジストの塗布方法においてインクジェット法を用いる場合、微細なノズルでの目詰まり防止、及びカラー表示装置に対する可視光の高透過率化と高コントラスト化の観点から、印刷方法においてはオフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷を使用する場合、また、カラーレジストの塗布方法としてはフォトリソ法を使用する場合よりも、さらに一次粒子径の小さい顔料を用いる、または顔料の二次粒子を、より一次粒子近くまで微細化する必要がある。
【0005】
しかし、顔料粒子は一次粒子径が小さくなる、または一次粒子に近づくに従い、単位体積あたりの表面積が大きくなることで高い表面自由エネルギーを有するようになるため、表面積を減少させてより安定な状態を得ようとして、凝集しやすくなる。その結果、顔料分散体において、顔料粒子が一次粒子あるいはそれに近い二次粒子にまで微細化された状態で維持できない、つまり、経時安定性が不十分となるという問題が生じる。
【0006】
例えば、フラットパネルディスプレイ用の青色や緑色の表示素子として、フタロシアニン系顔料が使用されているが、フタロシアニン系顔料は分子間の水素結合により強固な二次粒子状態になっているため、顔料粒子を一次粒子あるいはそれに近い二次粒子にまで微細化すること(初期分散性)が困難であり、また、微細化できたとしても上記の理由から顔料分散体の経時安定性が十分でない問題がある。
【0007】
これらの問題を解決するために、例えば、トリメリット酸のモノ(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)エステルとネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパンの脱水縮合させたポリエステル樹脂を用いたインクジェット記録用組成物が提案されている(特許文献1:特開平10−77432号公報)。しかし、この樹脂は顔料への吸着部位の分子量制御が困難であり、顔料粒子同士にまたがって吸着することで顔料が凝集する、いわゆる橋架け凝集を起こし易いため、初期分散性及び経時安定性が十分でなかった。
【0008】
また、ポリ(低級アルキレンイミン)と、遊離のカルボン酸基を有するポリエステルとの反応により形成されたアミドまたは塩より成り、その中でそれぞれのポリ(低級ポリアルキレンイミン)連鎖に最低2つのポリエステル連鎖が結合されている分散剤を用いた分散液が提案されている(特許文献2:特公昭63−30057号公報)。しかし、この分散剤においても、顔料への吸着部位であるポリ(低級アルキレンイミン)の分子量制御が困難であるため、初期分散性及び経時安定性が十分でなかった。
【0009】
さらに、顔料への吸着部位としてフタロシアニン骨格を用い、樹脂相溶性鎖としてプロピレンオキシド/エチレンオキシド共重合体を有する顔料型分散剤が提案されている(特許文献3:特開2009−91480号公報)。しかし、この分散剤は顔料への吸着部位としてフタロシアニンを用いており、分散剤自体が凝集し易いために初期分散性に劣ることから、分散工程時に分散剤を徐々に添加する必要があった。また、オキシプロピレン基のプロペニル転位等の副反応による生成物の影響により、樹脂相溶性鎖の鎖長が短くなった副生成物が多く含有されているため、初期分散性及び経時安定性が十分でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−77432号公報
【特許文献2】特公昭63−30057号公報
【特許文献3】特開2009−91480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のことから、初期分散性及び経時安定性に優れた、複素環系顔料の非水系分散体が望まれていた。
【0012】
本発明の課題は、初期分散性及び経時安定性に優れた、複素環系顔料の非水系分散体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ペンチトールの5つの水酸基のうち1つの水酸基のみに炭素数3〜4のオキシアルキレン基を特定の割合で含有するアルキレンオキシドを付加させた化合物を分散剤として用いることで、4つの局在化した水酸基により、橋架け凝集を起こすことなく顔料への吸着性を向上させることができ、且つ、ポリアルキレンオキシド部位による立体反発効果により、初期分散性及び経時安定性に優れることを見出し、本発明に至ったものである。
【0014】
すなわち、本発明は、
(A) 式(1)で表される分散剤、
(B) 溶解度パラメーター(SP値)が8.0〜10.0(cal/cm0.5である有機溶媒、および
(C) 複素環を有する有機顔料
を必須成分とする非水系顔料分散体である。
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、AOは、炭素数3〜4のオキシアルキレン基であり、nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数であって、n=15〜60であり、(AO)部分に占めるオキシブチレン基の割合が70〜100重量%である。また、Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数1〜4のアシル基である。)
【0017】
また、(C)複素環を有する有機顔料が、フタロシアニン系顔料である非水系顔料分散体である。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、初期分散性及び経時安定性に優れた非水系顔料分散体を提供することができるため、大変有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[(A)式(1)で表される分散剤について]
本発明の非水系顔料分散体に用いられる分散剤は、式(1)で表される構造を有する。
式(1)におけるAOは、炭素数3〜4のオキシアルキレン基であり、具体的にはオキシプロピレン基、オキシブチレン基が挙げられる。オキシプロピレン基はプロピレンオキシド由来、オキシブチレン基はブチレンオキシド由来であり、これらは単一でもブロック付加物またはランダム付加物でも良い。
【0020】
なお、オキシブチレン基は、1,2−ブチレンオキシド、テトラヒドロフラン由来の基が挙げられるが、1,2−ブチレンオキシド由来の基が特に好ましい。また、オキシブチレン基は、オキシ(1−エチルエチレン)基、オキシテトラメチレン基が好ましく、オキシ(1−エチルエチレン)基が特に好ましい。
【0021】
また、nは、オキシアルキレン基(AO)の平均付加モル数であり、AOが2種以上の場合は合計平均付加モル数を示す。nの範囲は15〜60とする。nは、25〜55が好ましく、25〜50がさらに好ましく、25〜40が最も好ましい。nが15より小さい場合は(AO)部分の立体反発力が小さくなり、nが60より大きい場合は有機溶剤への溶解性が高くなり顔料への吸着力が低下し、いずれも初期分散性及び経時安定性が低下する。
【0022】
さらに、(AO)部分に占めるオキシブチレン基の割合は、70〜100重量%が好ましく、90〜100重量%がより好ましく、100重量%がさらに好ましい。(AO)部分に占めるオキシブチレン基の割合が70重量%未満では、オキシプロピレン基のプロペニル転位等の副反応による生成物の影響により、(AO)部分の鎖長が短くなった副生成物の含有量が増加することが原因で立体反発力が小さくなり、初期分散性及び経時安定性が低下する。
【0023】
Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアシル基のいずれかである。(A)式(1)で表される分散剤と溶媒との親和性の観点や、アルキル基やアシル基の導入時における末端2級水酸基の(AO)部分との反応性の観点から、アルキル基やアシル基の炭素数は1〜4が好ましい。これら炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアシル基は、直鎖であっても分岐であっても良い。炭素数1〜4のアルキル基は、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、1−メチルプロピル基、tert−ブチル基が挙げられ、炭素数1〜4のアシル基は、具体的には、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等が挙げられる。これら水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアシル基のうち、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基が特に好ましい。
【0024】
式(1)で表される分散剤のペンチトール部位は、AOの付加に関与しない4つの水酸基が顔料への吸着部位として作用するため、必須である。出発原料となるペンチトールとしては、D−アラビトール、L−アラビトール、キシリトール、リビトールが挙げられ、キシリトールが特に好ましい。なお、キシリトールを用いた場合、後述のアセタール化反応の際に副生物が生成することにより、(AO)が導入される位置としてキシリトールの1位と3位が挙げられ、その比が約90:10質量%の混合物として得られる。顔料への吸着性の観点から4つの水酸基は隣接している方が好ましいため、キシリトールの1位に(AO)が導入された構造が特に好ましいが、この場合、大部分はキシリトールの1位に(AO)が導入された構造であるため、これら混合物のままであっても良い。もちろん、蒸留やカラムクロマトグラフィー等により純度を向上させてもよい。ペンチトール以外の骨格を有する水酸基、例えば、グリセリンのように隣接する水酸基が2つの場合や、トリグリセリン誘導体のように4つの水酸基を有してもこれらがすべての水酸基が隣接していない場合は、顔料への吸着性が低下し、初期分散性及び経時安定性が低下するため好ましくない。
【0025】
出発原料としてキシリトールを用いた場合、本発明の式(1)に示されるポリアルキレングリコール誘導体は、通常、以下の工程(I)〜(III)の手順により製造することができる。
【0026】
(I) キシリトールを酸触媒の存在下、アセタール化剤と反応させ、式(2)に示すキシリトールジアセタール化合物を得る。
【化2】

【0027】
式(2)のキシリトールジアセタール化物は、必要に応じて、蒸留等で精製しても構わない。
【0028】
(II) 続いてアルカリ触媒下、炭素数3〜4のアルキレンオキシドを付加反応し、さらに必要に応じて、アルカリ触媒下にて、アルキルハライド、アシルハライド、酸無水物などと反応させ、末端水酸基をエーテル化もしくはエステル化することもできる。
(III) その後、酸の存在下で脱ケタール化もしくは脱アセタール化を行う。
【0029】
式(2)において、RおよびRは、それぞれ水素原子もしくは炭素数1〜4のアルキル基であり、RおよびRが同時に水素原子になることはない。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、1−メチルプロピル基、tert−ブチル基が例示できるが、好ましくはメチル基、エチル基である。アセタール化剤としては、アセトアルデヒド、アセトン、2,2−ジメトキシプロパンが好ましく、2,2−ジメトキシプロパンがさらに好ましい。
【0030】
アセタール化の触媒としては、酸触媒、例えば硫酸、パラトルエンスルホン酸等が挙げられる。通常、アセタール化剤の仕込み量は、キシリトールに対して、200〜400モル%であり、酸触媒の仕込み量はキシリトールに対して5×10−6〜15×10−3モル%が、反応温度は30〜90℃で行うのが一般的である。
【0031】
なお、工程(I)で得られるキシリトールジアセタールは、キシリトールの1位に水酸基を有するものと、3位に水酸基を有するものが約90質量%:10質量%の混合物として得られるが、これらをそのまま使用しても、蒸留やカラムクロマトグラフィー等により、キシリトールの1位に水酸基を有するものの純度を向上させてもよい。
【0032】
式(2)のキシリトールジアセタール化物を、次工程(II)のアルキレンオキシド付加反応で使用する場合、特に触媒除去処理などをしなくても差し支えないが、必要であれば、アルカリによる中和処理や酸吸着処理、濾過等を行うことができる。例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウムなどの中和剤や、協和化学工業(株)製のキョーワード300、キョーワード500、キョーワード1000、富田製薬(株)製のトミックスAD−500等の吸着剤、その他ゼオライト等が使用できる。
【0033】
工程(II)のアルカリ触媒の存在下でのアルキレンオキシド付加反応は、通常、オートクレーブなどの加圧反応釜において、40〜180℃で反応を行う。このときアルカリ触媒としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、アルコラート等を使用することができる。触媒の使用量は特に限定されないが、付加反応終了後の生成物の質量に対して0.01〜5.0質量%が一般的である。
【0034】
アルキレンオキシドの付加反応後、必要に応じて、アルカリ存在下、炭素数1〜4のアルキルハライド等を反応させ、アルキルエーテル化することもできる。アルキルハライドの例としては、塩化メチル、塩化エチル、塩化プロピル、塩化ブチル、臭化メチル、臭化エチル、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル等が挙げられる。また、このときのアルカリとしては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、アルコラート等を使用することができる。アルカリハライドの仕込み量は、反応する水酸基数に対して100〜400モル%、アルカリ量は、反応する水酸基数に対して100〜500モル%、反応温度は60〜180℃で行うのが一般的である。
【0035】
また、式(2)の化合物について、必要に応じて、アルカリもしくは酸触媒の存在下、炭素数1〜4のカルボン酸、カルボン酸ハライド、カルボン酸無水物等のアシル化剤にて、エステル化することもできる。カルボン酸の例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸等、カルボン酸ハライドとしては、酢酸クロライド、プロピオン酸クロライド、酪酸クロライド、酸無水物としては、無水酢酸、無水プロピオン酸等が例示できる。アシル化剤の仕込み量は、反応する水酸基数に対して100〜400モル%、アルカリもしくは酸触媒量は、反応する水酸基数に対して0.01〜500モル%、反応温度は60〜180℃で行うのが一般的である。
【0036】
工程(III)の脱アセタール化物反応は、酸の存在下で行う。酸としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、炭酸、酢酸、クエン酸、コハク酸、酒石酸、パラトルエンスルホン酸、その他固体酸、陽イオン交換樹脂、酸性白土等が挙げられる。酸の使用量としては、式(2)の化合物のオキシアルキレン化物に対して0.01〜6質量%である。また、必要に応じて水を添加して反応もできる、使用量としては、0.01〜100質量%である。反応温度は60〜150℃で行うのが一般的である。
【0037】
脱アセタール化反応終了後は、アルカリによる中和処理や酸吸着剤処理、濾過等を行うことができる。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム等の中和剤や、協和化学工業(株)製のキョーワード300、キョーワード500、キョーワード1000、富田製薬(株)製のトミックスAD−500等の吸着剤、その他ゼオライト等が使用できる。
【0038】
[(B) 溶解度パラメーター(SP値)が8.0〜10.0(cal/cm0.5である有機溶媒について]
有機溶媒の溶解度パラメーター(SP値)は、Hansenの式により算出されたものであり、その詳細は「SP値 基礎・応用と計算方法」(山本秀樹著 情報機構社刊、2006年発行)に記載されており、この記載に基づいて求められる。また、有機溶媒を複数種類混合した場合の混合溶媒のSP値は、各有機溶媒のモル分率とSP値との積の総和により算出することができる。
【0039】
有機溶媒の溶解度パラメーター(SP値)は8.0〜10.0(cal/cm0.5が好ましく、8.0〜9.5(cal/cm0.5がより好ましく、8.3〜8.8(cal/cm0.5がさらに好ましい。また、上記の溶解度パラメーター(SP値)を満たす有機溶媒のうち、トルエン、キシレン、テトラリン等の芳香族系溶媒;シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル系溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート等のグリコールエーテルエステル系溶媒;亜麻仁油、大豆油、ひまし油等の植物油が好ましい。これらのうち(A)式(1)で表される分散剤と、(C)複素環を有する有機顔料との親和性の観点から、カルボニル基を有し水酸基を持たない有機溶剤が好ましい。具体的に例示すると、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテートがより好ましく、メチルイソブチルケトン、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートが特に好ましい。また、上記の有機溶剤は、単独でも2種以上の混合物でも良い。
【0040】
溶解度パラメーター(SP値)が8.0〜10.0(cal/cm0.5を外れた場合、初期分散性及び経時安定性が低下するため好ましくない。
【0041】
[(C)複素環を有する有機顔料について]
複素環とは、炭素原子とヘテロ原子とを含む環のことである。有機顔料は、構造中に複素環を含む必要がある。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。また、複素環は、芳香族複素環であることが特に好ましい。
【0042】
複素環を有する有機顔料としては、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ピラロゾン系顔料、アントラピリミジン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、キノフタロン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、イソインドリン系顔料等が挙げられる。
【0043】
(A)式(1)で表される分散剤は、有機顔料の複素環上のヘテロ原子、主に窒素原子との水素結合により吸着されるため、密に詰まった複素環を有するフタロシアニン系顔料が特に好ましい。複素環を有さない有機顔料では、(A)式(1)で表される分散剤が吸着しにくくなり、初期分散性及び経時安定性が低下するため好ましくない。
【0044】
[分散体の配合]
(A)式(1)で表される分散剤の含有量は、初期分散性及び経時安定性、使用量の観点から、1〜60重量%が好ましく、2〜50重量%がより好ましく、2〜40重量%がさらに好ましい((A)、(B)、(C)成分の合計重量を100重量%とする)。
【0045】
(B)溶解度パラメーター(SP値)が8.0〜10.0(cal/cm0.5である有機溶媒の含有量は、分散体の製造時のハンドリング性の観点から、20〜98重量%が好ましく、25〜95重量%がより好ましく、30〜95重量%がさらに好ましい((A)、(B)、(C)成分の合計重量を100重量%とする)。
【0046】
(C)複素環を有する有機顔料の含有量は、顔料分散体の生産性や分散工程時のハンドリング性の観点から1〜60重量%が好ましく、2〜50重量%がより好ましく、2〜40重量%がさらに好ましい((A)、(B)、(C)成分の合計重量を100重量%とする)。
【0047】
[バインダー樹脂について]
本発明の非水系顔料分散体に対して、更にバインダー樹脂を添加することができる。使用できる樹脂としては、ライムロジン、マレイン化ロジン等の変性ロジン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン、ロジン重合体、ロジンエステル、水添ロジン等のロジン誘導体、アクリル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、スチレン−マレイン酸系樹脂、エチレン−酢ビ系樹脂、クマロンインデン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ系樹脂、セルロース系樹脂、塩酢ビ系樹脂、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂等が挙げられる。
【0048】
バインダー樹脂を添加する場合、バインダーの量は、分散体中における(A)式(1)で表される分散剤および(C)複素環を有する有機顔料の合計重量を100重量部としたときに、20〜80重量部とすることが好ましい。
【0049】
(他の添加剤)
本発明の非水系顔料分散体の使用形態は特に限定されず、必要に応じて前述の有機溶剤や樹脂、及び後述の光重合性モノマーやそのオリゴマー、光重合開始剤、その他添加剤を添加することにより印刷インクやカラーフィルター用カラーレジストとして使用できるが、カラーフィルター用カラーレジストが特に好ましい。また、印刷インクとして利用する場合、印刷方法としてインクジェット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷、オフセット印刷用等が挙げられるが、インクジェット印刷が特に好ましい。カラーフィルター用カラーレジストとして使用する場合、カラーフィルターの製造方法としてフォトリソ法とインクジェット法が挙げられるが、インクジェット法が特に好ましい。
【0050】
本発明の非水系顔料分散体を用いて印刷インクやカラーフィルター用カラーレジストを製造する際に添加する前述のバインダー樹脂の含有量は、印刷インクやカラーフィルター用カラーレジスト中の有機溶媒を除いた合計重量を100重量部としたときに、20〜80重量%とすることが好ましい。
【0051】
また、光重合性モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、β−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、1, 6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、エステルアクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタンアクリレート等の各種アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、スチレン、酢酸ビニル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル、ペンタエリスリトールトリビニルエーテル、(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、アクリロニトリル等が挙げられる。
【0052】
これら光重合性モノマーおよびそのオリゴマーの合計含有量は、印刷インクやカラーフィルター用カラーレジスト中の有機溶媒を除いた合計重量を100重量部としたときに、10〜60重量部とすることが好ましい。
【0053】
また、光重合開始剤としては、例えば、4−フェノキシジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−ジクロロアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、及び2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン等のアセトフェノン系光重合開始剤、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、及びベンジルジメチルケタール等のベンゾイン系光重合開始剤、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、及び4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド等のベンゾフェノン系光重合開始剤、チオキサンソン、2−クロルチオキサンソン、2−メチルチオキサンソン、イソプロピルチオキサンソン、及び2,4−ジイソプロピルチオキサンソン等のチオキサンソン系光重合開始剤、2,4,6−トリクロロ−s−トリアジン、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−トリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−ピペロニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4−ビス(トリクロロメチル)−6−スチリル−s−トリアジン、2−(ナフト−1−イル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−メトキシ−ナフト−1−イル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4−トリクロロメチル−(ピペロニル)−6−トリアジン、及び2,4−トリクロロメチル(4’−メトキシスチリル)−6−トリアジン等のトリアジン系光重合開始剤等が挙げられる。
【0054】
これら光重合開始剤の含有量は、印刷インクやカラーフィルター用カラーレジスト中の光重合性モノマーやそのオリゴマー重量の合計重量を100重量部としたときに、0.2〜10重量部とすることが好ましい。
【0055】
さらに、必要に応じて可塑剤、表面調整剤、紫外線防止剤、酸化防止剤、加水分解防止剤、乾燥促進剤等の種々の添加剤を使用することができる。これら添加剤の含有量は、印刷インクやカラーフィルター用カラーレジスト中の有機溶媒を除いた合計重量を100重量部としたときに、0.2〜10重量部とすることが好ましい。
【0056】
(分散体の製造方法について)
本発明の非水系顔料分散体の製造方法に特に限定は無く、(A)式(1)で表される分散剤、(B)SP値が8.0〜10.0(cal/cm0.5である有機溶媒、(C)複素環を有する有機顔料、必要に応じてバインダー樹脂より成る混合物を公知の分散機や混練機等を用いて製造することができる。
【0057】
例えば、ペイントシェーカー、ニーダー、ロールミル、ビーズミル、サンドミル、アトライター、ディゾルバー、エクストルーダー、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー等により、(A)式(1)で表される分散剤、(B)溶解度パラメーター(SP値)が8.0〜10.0(cal/cm0.5である有機溶媒、(C)複素環を有する有機顔料、必要に応じてバインダー樹脂より成る混合物を分散させることにより得ることができる。これら分散機や混練機等のうち、サンドミル、ビーズミル等のメディア式分散機が特に好ましい。
【0058】
メディア式分散機は、分散室(ミル)内にメディア粒子を滞留させ、そこを流通する顔料の予備分散体にメディア粒子による粉砕、剪断、衝突という分散エネルギーを与えながら分散を行い、必要に応じて、メディア粒子と分散処理物とを遠心分離等により分離し、分散処理物のみを分散室外に流出させるものである。サンドミルとしては、連続式が好ましく、ローラミルタイプ、ニーダータイプ、ピンミキサータイプ等を用いることができる。
【0059】
メディア式分散機に用いるメディア粒子の材質としては、例えば、ガラス、スチール、クロム合金等の高硬度金属、アルミナ、ジルコニア、ジルコン、チタニア等の高硬度セラミックス、超高分子量ポリエチレン、ナイロンなどの高分子材料等が挙げられる。メディア粒子の粒径(直径)は、ジケトピロロピロール系顔料の分散性向上の観点から、50μm〜500μmが好ましく、80μm〜400μmがより好ましい。
【0060】
分散時における、メディア粒子/分散液((A)式(1)で表される分散剤、(B)溶解度パラメーター(SP値)が8.0〜10.0(cal/cm0.5である有機溶媒、(C)複素環を有する有機顔料、必要に応じて添加したバインダー樹脂)の重量比は、10/1〜4/6が好ましく、5/1〜1/1がより好ましい。分散時間は1〜15時間が好ましく、1〜5時間がより好ましい。分散時の温度は0〜80℃が好ましく、5〜40℃がより好ましい。メディア式分散機を用いて得られた顔料分散体からメディア粒子を除去すれば、本発明の顔料分散体を得ることができる。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。なお、合成品の分析は下記に記す方法で行った。
水酸基価:JIS K1557
6.4
(ガスクロマトグラフィー−質量分析(以下、GC−MSと省略する)による化合物の同定およびガスクロマトグラフィー測定による純度(以下、GC純度と省略する)の測定条件)
サンプル:0.1質量%トルエン溶液
サンプル注入量:1μL
カラム:J&W 123−7033 DB−WAX(30m×320μm×0.5μm)
キャリヤーガス:He 3mL/min
カラム温度:160℃、30分後、5℃/minで240℃まで昇温
検出器:FID
(IRスペクトルの測定条件)
装置:JASCO FT/IR−410
測定方法:液膜法
測定範囲:400〜4000cm−1
分解能:2cm−1
積算回数:16回
(GPCの測定条件)
装置:SHODEX GPC SYSTEM−11
標準物質:ポリエチレングリコール
サンプルサイズ:10%×100×0.001mL
溶離液:THF
流速:1.0mL/min
カラム:SHODEX KF804L
カラムサイズ:I.D.8mm×30cm×3
カラム温度:40℃
検出器:RI×8
(吸光度の測定条件)
装置:JASCO V−530 UV/VIS Spectrophotometer
【0062】
本発明にかかる(A)式(1)で表される分散剤の合成例を示す。
合成例1:モノ(ポリオキシブチレン(40モル))キシリトール(化合物1)
(I)アセタール化反応
撹拌羽根、窒素吹き込み管、熱電対、冷却管及び油水分離管を取り付けた3リットルの四つ口フラスコに、キシリトール700g、2,2−ジメトキシプロパン1291g、パラトルエンスルホン酸一水和物27mgを仕込み、反応系内を60〜90℃に保持し、2時間反応させた。反応終了後、副生したメタノール及び過剰分の2,2−ジメトキシプロパンを除去し、1014gの反応物を得た。水酸基価は、240KOHmg/gであった。IRスペクトルの測定を行い原料のキシリトールと比較したところ、反応物は3500cm−1付近の水酸基のピークが小さくなっており、代わりに2,2−ジメトキシプロパン由来の2960cm−1、2870cm−1、1460cm−1、1380cm−1付近のピークが出現していることを確認した。また、GC−MS測定の結果より化合物1a及び化合物1bで表されるジイソプロピリデンキシリトールの生成を確認し、GC測定の結果、化合物1a:86%、化合物1b:9%含有していることを確認した。
【0063】
【化3】

【0064】
【化4】

【0065】
(II)オキシブチレン化反応
工程(I)で得られたジイソプロピリデンキシリトール(以下、代表構造として式1aを基にした化合物を表す)を235g、水酸化カリウム15.5gをオートクレーブ中に仕込み、オートクレーブ中の空気を乾燥窒素で置換した後、撹拌しながら140℃で触媒を完全に溶解した。次に滴下装置によりブチレンオキシド2900gを滴下させ、2時間撹拌した。その後、オートクレーブ内から、反応物を取り出し、塩酸で中和して、pH6〜7とし、含有する水分を除去するため、100℃、1時間、減圧処理を行い、最後に濾過をして塩を除去して、2850gの化合物1cで表されるポリオキシブチレン(40モル)ジイソプロピリデンキシリトールを得た。水酸基価は、18.1KOHmg/gであった。
【0066】
【化5】

【0067】
(III)脱ケタール化反応
撹拌羽根、窒素吹き込み管、熱電対、冷却管を取り付けた1リットルの四つ口フラスコに、式(5)で表される化合物を700g、水70g、36%塩酸10gを仕込み、密閉状態で80℃、2時間脱ケタール化反応を行った後、窒素バブリングで水及びアセトンを系外に留去した。続いて10%水酸化カリウム水溶液でpH6〜7に合わせ、含有する水分を除去するために、100℃、1時間、減圧処理した。さらに処理後生成した塩を除去するため濾過を行い、650gの化合物1で表されるモノ(ポリオキシブチレン(40モル))キシリトールを得た。
【0068】
【化6】

【0069】
なお、以上によって得られた化合物1についてGPC分析を行ったところ、メインピークの分子量は2989であった。また、化合物1cと化合物1のIR分析を比較すると、化合物1では3500cm−1付近の水酸基のピークが大きくなっていることから、目的物質が得られていることを確認した。
【0070】
化合物2〜5の合成
上記合成例1に準じて、下記の表1に示すキシリトール誘導体を合成した。
【0071】
【表1】

【0072】
顔料分散体について、経時安定性試験として吸光度の測定を行った。分散剤は、表1および表2に示す化合物1〜12を用いた。
【0073】
【表2】

【0074】
(顔料分散試験−1、実施例1〜5、及び比較例1〜9)
200mLビーカーに、表3および表4に示す分散剤1g、顔料1g、有機溶剤35gを秤量し、ディゾルバーにて30分間撹拌して顔料分散体を得た。この顔料分散体全量を50mLスクリュー管に移し、蓋をして室温にて静置した。静置1週間後、顔料分散体の上澄み液1gを採取し、これを顔料分散体を製造した際と同じ有機溶剤を使用して、50倍に希釈した。得られた希釈液について、吸光度の測定を行った。なお、吸光度が高い程、経時安定性に優れることを示す。結果を表3、4に示す。
【0075】
【表3】

【0076】
【表4】



【0077】
(参考試験、比較例10〜12)
200mLポリビーカーに分散剤1gと有機溶剤35gを入れてよく混合したものに、顔料1gを入れ、ディゾルバーにて30分間撹拌して顔料分散体を得た。この顔料分散体全量を50mLスクリュー管に移し、蓋をして室温にて静置した。静置1週間後、顔料分散体の上澄み液2gを採取し、これを顔料分散体を製造した際と同じ有機溶剤を使用して、5倍に希釈した。得られた希釈液について、吸光度の測定を行った。なお、吸光度が高い程、経時安定性に優れることを示す。結果を表5〜7に示す。
【0078】
【表5】

【0079】
【表6】

【0080】
【表7】

【0081】
本発明の(A)式(1)で表される分散剤、(B)溶解度パラメーター(SP値)が8.0〜10.0(cal/cm0.5である有機溶媒、(C)複素環を有する有機顔料を必須成分とした実施例1〜5は、いずれも良好な経時安定性を示した。
【0082】
比較例1、及び比較例4は、式(1)で表される化合物のオキシアルキレン基の平均付加モル数が、本発明の範囲より小さいため、経時安定性に乏しい。
【0083】
比較例2、比較例5、及び比較例6では、吸着基がグリセリン骨格、もしくは、トリグリセリン骨格由来であり、本発明の隣接した4つの水酸基を有するペンチトール誘導体よりも有機顔料への吸着性に劣るため、経時安定性に乏しい。
比較例3、及び7〜9では、ポリマー型の吸着基を有する化合物を分散剤に用いたため、経時安定性に乏しい。
【0084】
比較例10では有機溶剤の溶解度パラメーター(SP値)が本発明の範囲外のため、分散体が得られなかった。
比較例11では、有機顔料が複素環を有さず、比較例12では複素環を有する有機顔料ではないため、顔料へ分散剤が吸着しにくくなり、いずれも分散体が得られなかった。
【0085】
(顔料分散試験−2、実施例6、7、比較例13)
200mLステンレス製ビーカーに、分散剤30gとプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート40gを入れてよく混合したものに、フタロシアニングリーン(PG36)30gを入れ、30分間予備分散を行った。続いて、予備分散後のミルベースに、同体積の0.5mmのジルコニアビーズを入れ、バッチ式ビーズミル(アイメックス(株)製、RMB)にて4時間本分散を行い、金属メッシュにてジルコニアビーズを除去することにより、顔料分散体を得た。
【0086】
得られた各顔料分散体について、平均粒径(D50:散乱強度の頻度分布における、小粒子側から計算した累積50%の値)の測定と、粘度の測定を顔料分散体の調整直後及び1週間後に行った。平均粒径の測定は、顔料分散体を、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートにて30倍に希釈し、レーザードップラー式粒度分布計(大塚電子(株)製FPER−1000)を用いて、25℃でのD50を測定した。粘度の測定は、BM型回転粘度計(回転数6rpm、25℃)にて測定した。結果を表8に示す。なお、分散直後の顔料分散体の平均粒径が小さい程初期分散性に優れることを示し、1週間後の平均粒径及び粘度の変化が小さい程、経時安定性に優れることを示す。
【0087】
【表8】

【0088】
本発明の(A)式(1)で表される分散剤、(B)SP値が8.0〜10.0(cal/cm0.5である有機溶媒、(C)複素環を有する有機顔料を必須成分とした実施例6、7は、いずれも良好な初期分散性と経時安定性を示した。
【0089】
比較例13では、ポリエステルアミン系の吸着基を有する化合物を分散剤に用いており、顔料の粒径が本発明の構造の分散剤を用いた場合より大きくなるため、初期分散性及び経時安定性に乏しい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A) 下記式(1)で表される分散剤、
(B) 溶解度パラメーター(SP値)が8.0〜10.0(cal/cm0.5である有機溶媒、および
(C) 複素環を有する有機顔料
を必須成分として含有することを特徴とする、非水系顔料分散体。
【化1】

(式中、AOは、炭素数3〜4のオキシアルキレン基であり、nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数であって、n=15〜60であり、(AO)部分に占めるオキシブチレン基の割合が70〜100重量%である。Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数1〜4のアシル基である。)
【請求項2】
前記有機顔料がフタロシアニン系顔料であることを特徴とする、請求項1記載の非水系顔料分散体。

【公開番号】特開2012−67198(P2012−67198A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213430(P2010−213430)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】