説明

非水電解液およびその利用

【課題】難燃性およびイオン伝導性を高レベルで両立させた非水電解液を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表わされる含フッ素エステルを溶媒として含む非水電解液。


ここで、Rは、フッ素置換されていてもよい炭素原子数1〜3のアルキレン基である。Rは、アルキル基で置換されていてもよい炭素原子数3〜6のアルキレン基である。Rfは、炭素原子数1〜3のパーフルオロアルキル基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池(例えばリチウム二次電池)その他の電気化学デバイスの構成要素として有用な非水電解液に関する。
【背景技術】
【0002】
電池等の電気化学デバイスに具備される電解液の溶媒として、該電解液が水の分解電圧と同程度以上の電圧を受ける場合には、上記溶媒として水を用いることができないため、非水溶媒(非プロトン性溶媒ともいう。)が用いられる。例えば、従来、リチウム二次電池の電解液としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート系溶媒(非水溶媒)に、電荷担体となる化学種(ここではリチウムイオン)を供給可能な電解質(支持電解質、典型的にはリチウム塩)を溶解させた非水電解液が用いられている。非水電解液に関する技術文献として、例えば特許文献1および特許文献2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−276517号公報
【特許文献2】特開2005−268094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、通常、非水電解液を構成する非水溶媒としては可燃性の有機溶媒(例えば、上記のようなカーボネート系溶媒)が用いられるため、一般に非水電解液は、水系電解液とは異なり可燃性を有する。そこで、非水電解液の高性能化の一環として、該非水電解液に難燃性または不燃性の性質を付与することが望まれている。非水電解液の難燃性を高める一つの手法として、該電解液の構成成分として難燃性の高い材料を用いる手法が挙げられる。例えば特許文献1には、従来の一般的な非プロトン性溶媒に所定のフッ素化ケトンを配合することで難燃性を高めた非水性混合溶媒が記載されている。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の技術は、上記フッ素化ケトンが単独で非水電解液の主溶媒となり得るようなものではないことから、一般的な(可燃性の)非プロトン溶媒をある程度高い含有割合(典型的には、上記フッ素化ケトンよりも高割合)で用いることを前提としている。可燃性溶媒の使用量をより低減可能な非水電解液、あるいは可燃性溶媒の使用を不要とし得る非水電解液が提供されれば有用である。本発明は、かかる非水電解液の提供を一つの目的とする。関連する他の目的は、上記非水電解液を用いた電気化学デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この明細書により開示される一つの非水電解液は、下記一般式(I)で表わされる含フッ素エステルを溶媒として含む。
【0007】
【化1】

【0008】
ここで、式(I)中のRは、フッ素置換されていてもよいアルキレン基であり、その炭素原子数は典型的には1〜3である。また、式(I)中のRは、アルキル基で置換されていてもよいアルキレン基であり、その炭素原子数は典型的には3〜6である。また、式(I)中のRfはパーフルオロアルキル基であり、その炭素原子数は典型的には1〜3である。
【0009】
上記式(I)で表わされる含フッ素エステルは、環状アミド(ラクタム)部分とパーフルオロアルキルエステル部分とを合わせもつ分子構造を有することにより、支持電解質(例えば、後述するLiTFSI等のリチウム塩)を溶解しやすい性質を有する。また、上記含フッ素エステルを比較的高い割合で含む組成とした場合にも、良好なイオン伝導性を示す非水電解液となり得る。そして、式(I)で表わされる含フッ素エステルは、この化合物自体が良好な難燃性を示す。したがって、かかる含フッ素エステルを含む非水電解液は、可燃性溶媒の使用量を低減し(あるいは無くし)得ることにより難燃性が高く、かつ良好なイオン伝導性を示すものとなり得る。このような非水電解液は、例えば、リチウムイオン電池その他の電池の構成要素として用いられて、難燃性と電池性能とを高レベルで両立させた電池を実現し得る。
【0010】
なお、ここで「難燃性」とは、後述する実施例に記載の難燃性評価試験を3回行った場合において、3回とも、炎を接触させてから20秒経過しても発火が認められないことをいうものとする。
【0011】
上記含フッ素エステルは、例えば、下記式(II)で表わされる化合物(以下、「化合物A」ともいう。)であり得る。
【0012】
【化2】

【0013】
ここに開示される技術は、前記含フッ素エステルを主溶媒(溶媒のなかの主成分、すなわち50体積%以上を占める成分)として含む態様で実施され得る。かかる組成の非水電解液は、特に難燃性が高く、かつ良好なイオン伝導性を示すものとなり得る。このような非水電解液によると、難燃性と電池性能とをより高いレベルで両立させた電池(例えばリチウムイオン電池)が実現され得る。
【0014】
ここに開示される非水電解液の一態様では、該非水電解液が、支持電解質として、下記一般式(III)で表わされる構造部分を有する化合物(典型的には塩、例えばリチウム塩)を含む。
−SO−Rf (III)
ここで、式(III)中のRfはパーフルオロアルキル基であり、その炭素原子数は典型的には1〜4である。かかる構造部分を有する化合物(以下、「化合物E」ということもある。)は、ここに開示されるいずれかの含フッ素エステルに対して良好な溶解性を示すものであり得る。したがって、上記含フッ素エステルを含む溶媒(実質的に上記含フッ素エステルからなる溶媒であり得る。)と化合物Eとを組み合わせた非水電解液は、より良好なイオン伝導性を示すものとなり得る。後述するLiTFSI、LiBETIおよびLitrifは、式(III)で表わされる化合物に該当する好適例である。
【0015】
ここに開示される非水電解液は、該電解液を構成する溶媒1kgに対して前記支持電解質0.1〜1.5モルを含む(すなわち、支持電解質を0.1〜1.5モル/kgの濃度で含む)組成であり得る。かかる非水電解液によると、難燃性と電池性能とをより高いレベルで両立させた電池(例えばリチウムイオン電池)が実現され得る。
【0016】
この明細書によると、また、ここに開示されるいずれかの非水電解液を備えるリチウムイオン電池が提供される。かかるリチウムイオン電池によると、難燃性および電池性能が高レベルで両立され得る。
【0017】
なお、本明細書において「リチウム二次電池」とは、電解質イオンとしてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。一般にリチウムイオン電池と称される電池は、本明細書におけるリチウム二次電池に包含される典型例である。
【0018】
この明細書によると、また、上記式(II)で表わされる化合物(化合物A)が開示される。かかる化合物は、ピロリドン(γ−ラクタム)部分とトリフルオロメチルエステル部分とを合わせもつ分子構造を有することにより、電池(例えばリチウムイオン電池)その他の電気化学デバイス用の非水電解液等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】式(II)で表わされる含フッ素エステルを主溶媒とする電解液のイオン伝導度を示すグラフである。
【図2】一実施形態に係る円筒型リチウム二次電池の構成を模式的に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0021】
ここに開示される非水電解液は、上記式(I)で表わされる含フッ素エステルを溶媒として含むことによって特徴づけられる。上記式(I)で表わされる含フッ素エステルの一種を単独で含む非水電解液であってもよく、該含フッ素エステルの二種以上を組み合わせて含む非水電解液であってもよい。式(I)中のRは、フッ素置換されていてもよいアルキレン基である。すなわち、Rは、無置換のアルキレン基であってもよく、その水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換(フッ素置換)されたアルキレン基であってもよい。Rは、直鎖状であってもよく、分岐を有してもよい。Rの炭素原子数は、典型的には1〜3である。この炭素原子数が大きすぎると、含フッ素エステルの粘度が上昇しやすく、支持電解質の溶解性が低下しやすく、また難燃性が低下しやすくなる。上記粘度、溶解性、難燃性等の点から、Rの炭素原子数は1または2であることが好ましく、またRが無置換のアルキレン基であることが好ましい。原料の入手しやすさや、含フッ素エステルの製造(合成)しやすさを考慮すると、Rが無置換のエチレン基(−CHCH−)である含フッ素エステルが特に好ましい。
【0022】
上記式(I)中のRは、アルキル基で置換されていてもよいアルキレン基である。すなわち、Rは、無置換のアルキレン基であってもよく、その水素原子の一部がアルキル基で置換されたアルキレン基であってもよい。Rは、直鎖状であってもよく、分岐を有してもよい。Rの炭素原子数は、典型的には3〜6である。式(I)で表わされる含フッ素エステルは、Rおよびこれに隣接するCとNとが4〜7員環(好ましくは5〜6員環)を構成する化合物であることが好ましい。3員環以下では化合物が不安定であり、8員環以上では粘度が上昇しやすくなる。このヘテロ環は、環を構成する炭素原子に結合したアルキル基(例えばメチル基)を有してもよいが、通常は、粘度やイオン伝導性の観点から、かかる置換基を有しない(すなわち、Rが直鎖のアルキレン基である)ことがより好ましい。好ましい一態様では、Rが直鎖のプロピレン基(−CHCHCH−)である。すなわち、式(I)で表わされる化合物が、その一部にピロリドン構造を有する。かかる構造の含フッ素エステルを溶媒(好ましくは主溶媒)として含む非水電解液は、支持電解質の溶解性やイオン伝導性のよいものとなり得る。
【0023】
上記式(I)中のRfはパーフルオロアルキル基である。そのパーフルオロアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐を有してもよい。粘度やイオン伝導性の観点からは、分岐を有しないパーフルオロアルキル基がより好ましい。Rfの炭素原子数は、典型的には1〜3である。この炭素原子数が大きすぎると、含フッ素エステルの粘度が上昇しやすく、支持電解質の溶解性が低下しやすく、また難燃性が低下しやすくなる。上記粘度、溶解性、難燃性等の点から、Rfの炭素原子数は1または2であることが好ましく、トリフルオロメチル基(−CF)であることが特に好ましい。
【0024】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、上記含フッ素エステルが、式(II)であらわされる化合物(化合物A)である。これは、式(I)におけるRがエチレン基であり、Rが直鎖のプロピレン基であり、Rfがトリフルオロメチル基である化合物に該当する。この化合物Aは、一般式(I)により表わされる化合物のなかでも比較的低粘度である。このことはイオン伝導性にとって有利である。また、化合物Aは、分子構造のうち低極性の部分が比較的小さい(換言すれば、極性官能基の影響が大きく、分子の極性が高い)ので、支持電解質を溶解しやすい。そして、化合物Aは、該化合物自体が高い難燃性を示す。したがって、かかる化合物を溶媒として含む非水電解液は、可燃性溶媒の使用量を抑え(あるいは無くし)得ることにより難燃性が高く、かつ良好なイオン伝導性を示すものとなり得る。
【0025】
ここに開示される技術における非水電解液は、典型的には、非水溶媒(非プロトン性溶媒と称されることもある。)と、該溶媒に溶解可能な支持電解質とを含む。好ましい一態様では、上記非水溶媒のうち式(I)で表わされる含フッ素エステルの量(該化合物を二種以上含む場合にはそれらの合計量)の占める割合が50体積%以上である。ここに開示される技術は、上記割合が75体積%以上である態様、90体積%以上である態様、95体積%以上である態様、のいずれの態様でも実施され得る。また、上記割合が実質的に100体積%である態様(すなわち、非水溶媒が上記含フッ素エステルの一種または二種以上から実質的に構成される態様)で好ましく実施され得る。好ましい一態様として、非水溶媒が実質的に化合物Aからなる非水電解液が挙げられる。
【0026】
なお、式(I)で表わされる含フッ素エステルは、例えば、目的とする含フッ素エステルに対応する構造のアルコールと、対応する構造のカルボン酸またはその誘導体(無水カルボン酸、酸ハロゲン化物)とのエステル化反応を利用することにより、容易に合成することができる。
【0027】
ここに開示される非水電解液は、式(I)で表わされる含フッ素エステルに加えて、該含フッ素エステル以外の溶媒(任意溶媒)を含有し得る。かかる任意溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の非プロトン性溶媒を用いることができる。例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン等の、一般にリチウムイオン電池の電解質に使用し得るものとして知られている非水溶媒から選択される一種または二種以上を用いることができる。任意溶媒を使用する場合における使用量(二種以上の任意溶媒を含む場合にはそれらの合計量)は、上記含フッ素エステルよりも少ない体積割合とすることが好ましい。任意溶媒の種類および使用量は、かかる任意溶媒の使用により非水電解液の難燃性が顕著に損なわれないように設定することが好ましく、また上記含フッ素エステルと均一に混合し得るように設定することが好ましい。
【0028】
ここに開示される非水電解液の好ましい一態様では、該電解液に含まれる非水溶媒のうち、可燃性溶媒の含有量(かかる溶媒を二種以上含む場合には、それらの合計量)が25体積%以下である。ここで「可燃性溶媒」とは、後述する難燃性評価試験を3回行った場合において、10秒間の炎接触により1回でも発火する溶媒を指す。非水溶媒に占める可燃性溶媒の割合が10体積%以下である非水電解液が好ましく、さらに好ましくは5体積%以下である。かかる可燃性溶媒を実質的に含有しない(該可燃性溶媒を少なくとも意図的には配合しないことをいう。)非水電解液であってもよい。
【0029】
上記支持電解質としては、非水電解液を構成する溶媒に溶解するものであればよく、特に限定されない。ここに開示される非水電解液は、その用途に応じて適切な支持電解質を含有するものであり得る。例えば、各種のリチウム塩、ナトリウム塩、四級アンモニア塩等を支持電解質として用いることができる。非水電解液にリチウムイオンを供給し得るリチウム化合物(典型的にはリチウム塩)を支持電解質として含む非水電解液が特に好ましい。かかる組成の電解液は、リチウム二次電池(リチウムイオン電池等)の電解液として有用なものであり得る。
【0030】
上記リチウム塩としては、リチウム二次電池等の電解液において支持電解質として機能し得ることが知られている各種のリチウム塩を用いることができる。ここに開示される電解液は、例えば、LiN(SOCF[リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド。以下、「LiTFSI」と表記することがある。]、LiN(SO[リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド。以下、「LiBETI」と表記することがある。]、LiCFSO[トリフルオロメタンスルホン酸リチウム。以下、「Litrif」と表記することがある。]、LiCSO、LiC(SOCF等の有機リチウム塩;LiPF、LiBF、LiClO等の無機リチウム塩;等から選択される一種または二種以上のリチウム塩を支持電解質として含む電解液であり得る。上記含フッ素エステルに対する溶解性の点から、通常は、有機リチウム塩を用いることがより好ましい。ここに開示される技術の好ましい一態様では、上記支持電解質が、LiTFSI、LiBETIおよびLitrifから選択される一種または二種以上(典型的にはいずれか一種)である。
【0031】
支持電解質の濃度は特に限定されないが、通常は、少なくとも25℃において支持電解質が安定して溶解し得る(例えば、該電解質の析出等が認められない)程度の濃度とすることが好ましい。例えば、1kgの非水溶媒に対して支持電解質を0.1モル以上含有する電解液が好ましく、0.2モル以上含有する電解液がより好ましい。また、1kgの非水溶媒に対する支持電解質の含有量は、例えば3モル以下とすることができ、通常は1.5モル以下とすることが適当であり、1.2モル以下(例えば0.8モル以下)としてもよい。支持電解質の濃度が低すぎると、非水電解液の用途によっては(例えば、リチウム二次電池用電解液の場合)、該電解液に含まれるリチウムイオンの量が不足して、イオン伝導性が低下しやすくなることがある。支持電解質の濃度が高すぎると、非水電解液の粘度が高くなりすぎて、イオン伝導性が低下しやすくなることがある。
【0032】
ここに開示される非水電解液は、各種の電気化学デバイス(電池、センサ等)の電解液として利用され得る。好ましくは電池用の電解液として使用される。ここで「電池」とは、電気エネルギーを取り出し可能な蓄電デバイス一般を指す用語であって、一次電池および二次電池を含む概念である。また、「二次電池」とは、リチウム二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等のいわゆる蓄電池ならびに電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を包含する概念である。特に、リチウム二次電池(典型的にはリチウムイオン電池)の電解液として好適である。
【0033】
上記リチウム二次電池は、一般に、リチウムを可逆的に吸蔵および放出可能な電極活物質を備えた正極および負極が非水電解液とともに容器(ラミネートフィルム製の容器等であり得る。)に収容された構成を有する。
【0034】
正極活物質としては、リチウムイオン電池の電極活物質として使用し得ることが知られている各種材料(例えば、層状構造の酸化物やスピネル構造の酸化物)の一種または二種以上を、特に限定なく使用することができる。例えば、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムマグネシウム系複合酸化物等のリチウム含有複合酸化物が挙げられる。正極活物質の他の例としてオリビン型リン酸リチウム等のポリアニオン系材料が挙げられる。
【0035】
ここで、リチウムニッケル系複合酸化物とは、リチウム(Li)とニッケル(Ni)とを構成金属元素とする酸化物のほか、リチウムおよびニッケル以外に他の少なくとも一種の金属元素(すなわち、LiとNi以外の遷移金属元素および/または典型金属元素)を、原子数換算でニッケルと同程度またはニッケルよりも少ない割合(典型的にはニッケルよりも少ない割合)で構成金属元素として含む酸化物をも包含する意味である。上記LiおよびNi以外の金属元素は、例えば、コバルト(Co),アルミニウム(Al),マンガン(Mn),クロム(Cr),鉄(Fe),バナジウム(V),マグネシウム(Mg),チタン(Ti),ジルコニウム(Zr),ニオブ(Nb),モリブデン(Mo),タングステン(W),銅(Cu),亜鉛(Zn),ガリウム(Ga),インジウム(In),スズ(Sn),ランタン(La)およびセリウム(Ce)からなる群から選択される一種または二種以上の金属元素であり得る。なお、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物およびリチウムマグネシウム系複合酸化物についても同様の意味である。
【0036】
上記正極は、このような正極活物質を、必要に応じて使用される導電材、結着剤(バインダ)等とともに、正極合材として正極集電体に付着させた形態であり得る。導電材としては、カーボンブラック(アセチレンブラック等)のような炭素材料、ニッケル粉末等の導電性金属粉末等を用いることができる。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)等のフッ素系樹脂を好ましく用いることができる。正極集電体としては、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレススチール等を主体とする棒状体、板状体、箔状体、網状体等を使用することができる。
【0037】
負極活物質としては、従来からリチウムイオン電池に用いられる材料の一種または二種以上を特に限定なく使用することができる。好適例として、少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)が挙げられる。いわゆる黒鉛質のもの(グラファイト)、難黒鉛化炭素質のもの(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質のもの(ソフトカーボン)、これらを組み合わせた構造を有するもののいずれの炭素材料も好ましい。例えば、天然黒鉛等の黒鉛粒子を好ましく使用することができる。負極活物質の他の例として、リチウム、スズ等の単体または合金のような金属材料が挙げられる。さらに他の例として、金属酸化物(例えばLiTi12等のチタン酸リチウム)、金属硫化物、金属窒化物のような金属化合物が挙げられる。上記負極は、このような負極活物質を、必要に応じて使用される結着剤(バインダ)等とともに、負極合材として負極集電体に付着させた形態であり得る。結着剤としては、正極と同様のもの等を使用することができる。負極集電体としては、銅、ニッケル、アルミニウム、ステンレススチール等を主体とする棒状体、板状体、箔状体、網状体等を使用することができる。
【0038】
ここに開示されるリチウム二次電池の代表的な構成では、上記正極と上記負極との間にセパレータが介在されている。セパレータとしては、一般的なリチウム二次電池に用いられるセパレータと同様のものを用いることができ、特に限定されない。例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂からなる多孔質シート、不織布等を用いることができる。リチウム二次電池の形状(容器の外形)は特に限定されず、例えば、円筒型、角型、コイン型等の形状であり得る。
【0039】
一例として、ここに開示される非水電解液を備えた円筒型リチウムイオン電池の構造例を図2に示す。このリチウムイオン電池10は、正極12および負極14を具備する電極体11が、ここに開示されるいずれかの非水電解液20とともに、該電極体を収容し得る形状の電池ケース15に収容された構成を有する。非水電解液20は、少なくともその一部が電極体11に含浸されている。電池ケース15は、有底円筒状のケース本体152と、上記開口部を塞ぐ蓋体154とを備える。蓋体154およびケース本体152はいずれも金属製であって相互に絶縁されており、それぞれ正負極の集電体122,142と電気的に接続されている。すなわち、このリチウムイオン電池10では、蓋体154が正極端子、ケース本体152が負極端子を兼ねている。
【0040】
電極体11は、正極活物質を含む正極合材層124が長尺シート状の正極集電体(例えばアルミニウム箔)122上に設けられた構成の正極(正極シート)12と、負極活物質を含む負極合材層144が長尺シート状の負極集電体(例えば銅箔)142上に設けられた構成の負極(負極シート)14とを、二枚の長尺シート状セパレータ13と重ね合わせ、これらを円筒状に捲回することにより形成される。セパレータ13としては、従来のリチウムイオン電池と同様の材料を用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂からなる多孔質樹脂シート(フィルム)を好ましく使用し得る。上記多孔質樹脂シートの構造は、単層であってもよく、多層であってもよい。
【0041】
正極集電体122の長手方向に沿う一方の縁には、正極合材層が設けられずに集電体122が露出した部分(正極合材層非形成部)が設けられている。同様に、負極集電体142の長手方向に沿う一方の縁には、負極合材層が設けられずに集電体142が露出した部分(負極合材層非形成部)が設けられている。この露出した部分に蓋体154およびケース本体152がそれぞれ接続されている。
【0042】
以下、本発明に関するいくつかの実験例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0043】
<含フッ素エステルの合成>
反応容器に、1−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドン(HEP)6.02g、ジエチルエーテル30mL、炭酸水素ナトリウム4.67g、およびモレキュラーシーブ3A 7.0gを仕込んだ。ここに無水トリフルオロ酢酸10.71gを滴下し、室温で一晩攪拌した。その後、反応液を減圧蒸留することにより、目的とする含フッ素エステル(以下、「化合物A」という。)を無色の液体として得た。合成スキームを以下に示す。
【0044】
【化3】

【0045】
得られた含フッ素エステルの同定は、FT−IR測定およびH−NMR測定により行った。スペクトルデータを以下に示す。
[FT−IR]
2968cm−1:C−H伸縮振動、1789cm−1:C=O伸縮振動、
1157cm−1:C−O伸縮振動、1220cm−1:C−F伸縮振動。
H−NMR(CDCl)]
4.50ppm(NCH2CH2O)、3.66ppm(NCH2CH2O)、
3.50ppm(NCH2CH2CH2)、2.08ppm(NCH2CH2CH2)、
2.44ppm(NCH2CH2CH2)。
【0046】
<難燃性評価>
表1に示す4種類の溶媒サンプルを用意した。ここで、サンプル1は化合物Aからなる溶媒、サンプル2はエチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)との体積比1/1の混合溶媒であり、サンプル3はジメチルカーボネート(DMC)からなる溶媒、サンプル4は1−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドン(HEP)からなる溶媒である。各溶媒を時計皿に注ぎ、液面の上方からライター(株式会社東海製、「チャッカマン(登録商標)」を使用した。)の炎を近づけた。ライターの炎を液面に接触させた状態(炎口から液面までの距離は2〜3mm)に保ち、溶媒が発火したかどうかを、10秒後および20秒後に目視により確認した。各溶媒につき3回づつ試験を行った(すなわちn=3)。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表に示すように、サンプル1(化合物A)は、炎を接触させた状態で20秒間経過しても、3回の試験のうち1回も発火が認められなかった。一方、サンプル2〜4は、いずれも、10秒間の炎接触により3回とも発火が認められた。
【0049】
<非水電解液の調整>
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内において、化合物AにLiTFSIを、1kgの化合物Aに対するLiTFSIの添加量が0.3モル,0.5モルおよび1モルとなるように加えた。これを24時間攪拌混合して、LiTFSIの濃度が異なる3種類の非水電解液を調製した。
【0050】
<イオン伝導性評価>
上記で調製した電解液のイオン伝導度[mS/cm]を測定した。測定は、東洋システム製の密閉二電極セルを使用して、交流インピーダンス法により行った。電解液は、ポリテトラフルオロエチレン製のスペーサによって一定の大きさおよび厚さに制御し、これを一対のステンレススチール電極で挟んだ。このセルに10mVの電圧を印加し、周波数を1MHzから10mVへと変化させたときに得られたCole−Coleプロットについて、等価回路を用いてカーブフィットすることによりバルク抵抗を求め、イオン伝導度を算出した。測定温度を段階的に上げ、各測定温度においてイオン伝導度を測定した。なお、測定は、恒温槽の温度を測定温度にしてから一定時間放置した後に行った。得られた結果を表2および図1に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
これらの図表に示されるように、この試験条件では、−20℃から80℃に至る全ての測定温度において、1kgの化合物Aに対して0.5モルのLiTFSIを含有する電解液が最も高いイオン伝導度を示した。
【0053】
なお、LiTFSIに代えてLitrif(トリフルオロメタンスルホン酸リチウム)を支持電解質に用い、該支持電解質を上記と同様に化合物Aに溶解させて調整した非水電解液につき、同様にイオン伝導性を測定したところ、1モルの化合物A当たり0.3モルのLitrifを含む電解液が最も高いイオン伝導度を示した。
【0054】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0055】
10 リチウム二次電池
11 電極体
12 正極
13 セパレータ
14 負極
15 電池ケース
20 非水電解液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
【化1】

(ここで、Rはフッ素置換されていてもよい炭素原子数1〜3のアルキレン基であり、Rはアルキル基で置換されていてもよい炭素原子数3〜6のアルキレン基であり、Rfは炭素原子数1〜3のパーフルオロアルキル基である。);
で表わされる含フッ素エステルを溶媒として含む、非水電解液。
【請求項2】
前記含フッ素エステルは、下記式(II)
【化2】

で表わされる、請求項1に記載の非水電解液。
【請求項3】
前記含フッ素エステルを主溶媒として含む、請求項1または2に記載の非水電解液。
【請求項4】
さらに、下記一般式(III):
−SO−Rf (III)
(ここで、Rfは炭素原子数1〜4のパーフルオロアルキル基である。);
で表わされる構造部分を有する化合物を支持電解質として含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の非水電解液。
【請求項5】
前記支持電解質の濃度が0.1〜1.5モル/kgである、請求項4に記載の非水電解液。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の非水電解液を備える、リチウムイオン電池。
【請求項7】
下記式(II)
【化3】

で表わされる化合物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−124073(P2011−124073A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280315(P2009−280315)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】