説明

非水電解液一次電池用正極およびそれを用いた非水電解液一次電池

【課題】導電剤としてグラファイトのみを用いることで、良好な高率放電特性を実現し、さらには電解液の使用量減量を図ることを目的とする。
【解決手段】正極活物質である二酸化マンガンと、結着剤と、導電剤と、を含む非水電解液一次電池用正極であって、導電剤はDBP吸油量が90ml/100g以上120ml/100g以下であり、かつ、二酸化マンガンに対する平均粒径の比が0.1以上1.0以下であるグラファイトを用いたことを特徴とする非水電解液一次電池用正極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解液一次電池用正極およびそれを用いた非水電解液一次電池、特に二酸化マンガンを正極活物質とする非水電解液リチウム一次電池用正極に用いる導電剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非水電解液リチウム一次電池は、極めて高い起電力を示すなど優れた特性を有しており、この特性を活かした多くの用途に使用されている。特に正極に二酸化マンガンを使用した非水電解液リチウム一次電池は、高率放電特性及び低温放電特性に優れているため、カメラ用、メモリーバックアップ用、メータ用などの種々の用途に使用されている。
【0003】
従来の二酸化マンガンを正極活物質とする非水電解液リチウム一次電池の正極に用いられる導電剤には、求められる特性として、導電性が高いこと、高比表面積を有していること、分散性が良いことが挙げられる。中でも高比表面積を持つケッチェンブラックやアセチレンブラックなどのカーボンブラックが添加された正極を用いた非水電解液リチウム一次電池は放電特性が良好である。その理由の一つとして、これらの導電剤はその比表面積が大きく、DBP吸油量が300ml/100g以上であり、電解液を多く保持でき放電に十分なイオン導電パスを築くことができるためである。
【0004】
また、上記カーボンブラックにグラファイトを併用することにより正極の電導度が高められ、高率放電特性が改善されることが報告がされている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−211863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の二酸化マンガンを正極活物質とする非水電解液リチウム一次電池に用いられる導電剤では、DBP吸油量が300ml/100g以上のカーボンブラックが用いられており、DBP吸油量が120ml/100g以下のグラファイトに比べて2.5倍以上もの電解液を吸液するために、グラファイトを用いた場合よりも多くの電解液を必要とする課題を有していた。電解液は高価であるため、高率放電特性を維持したまま、電解液の使用量を減らすことは工業的に価値がある。
【0007】
また、DBP吸油量が300ml/100g以上のカーボンブラックでは、その高比表面積のために導電剤/電解液界面での電解液の分解が促進されガスが多く発生する。そのため、電解液量を減量し、ガス発生を減少させることができれば、リチウム負極上の被膜形成を抑制することができ、内部抵抗の減少に繋がる。その結果、放電特性の向上にも繋がる。
【0008】
しかし、二酸化マンガンを正極活物質とする非水電解液リチウム一次電池ではグラファイトのみを導電剤として添加した場合、若しくは、電解液量を減らして使用した場合にはどちらも放電特性は低下してしまう。
【0009】
電解液は正極内の空隙に存在するが、その空隙はカーボンブラック、グラファイトおよ
び正極活物質などの粉体間の空隙と、その粉体間の空隙よりも小さなこれら粉体内部の細孔に分けられる。電解液はまず優先的にこれらの細孔に吸液され、その後、粉体間の空隙に吸液される。従って、上記リチウム一次電池において電解液量を減らして使用した場合には、粉体間の電解液量が減少し、イオン導電パスが減少する。その結果、放電特性は低下する。
【0010】
また、DBP吸油量が120ml/100g以下の低比表面積を有するグラファイトのみを使用した場合には、単位質量あたりの導電剤に対する電解液量も高比表面積の導電剤に比べて少なくなるために、正極内の空隙に十分な電解液が存在したとしても、放電に十分なイオン導電パスを築くことできない。その結果、放電特性は同様に低下してしまう。
【0011】
従って、従来の技術では二酸化マンガンを正極活物質とする非水電解液リチウム一次電池においてDBP吸油量が300ml/100g以上の高比表面積を有するカーボンブラックを添加しなければ、良好な放電特性を得ることはできなかった。
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、従来の二酸化マンガンを正極活物質とする非水電解液リチウム一次電池の正極に添加されている、DBP吸油量が300ml/100g以上であるケッチェンブラックやアセチレンブラックなどの高比表面積を有するカーボンブラックを用いずに、グラファイトのみを用いることで、良好な高率放電特性を実現し、さらには電解液の使用量減量を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明は、正極活物質である二酸化マンガンと、導電剤と、結着剤と、を含む非水電解液一次電池用正極であって、導電剤としてDBP吸油量が90ml/100g以上120ml/100g以下であり、かつ、二酸化マンガンに対する平均粒径の比が0.1以上1.0以下であるグラファイトを用いたことを特徴とする非水電解液一次電池用正極である。
【0014】
また、本発明は、上記の非水電解液一次電池用正極と、負極と、正極と負極の間に介在するセパレータと、非水電解液を備えた非水電解液一次電池である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、放電特性を維持したまま、高価な電解液の使用量を減らすことができる。また、導電剤/電解液界面での電解液分解による負極の被膜形成を抑制し、放電特性を向上させた非水電解液一次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態に係る非水電解液一次電池の半断面正面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明による第1の発明は、正極活物質である二酸化マンガンと、導電剤と、結着剤と、を含む非水電解液一次電池用正極であって、導電剤としてDBP吸油量が90ml/100g以上120ml/100g以下であり、かつ、二酸化マンガンに対する平均粒径の比が0.1以上1.0以下であるグラファイトを用いたことを特徴とする非水電解液一次電池用正極である。上記の吸油量を有するグラファイトを用い、二酸化マンガンに対する平均粒径の比を0.1以上1.0以下で規定すれば、十分なイオン伝導パスが築ける電解液量を正極内に保持できるとともに、粒子の界面抵抗は低く、かつ、二酸化マンガンとの接触点も多いので電子伝導性は高くなり、さらに、充填効率も向上するので放電特性は良好となる。この非水電解液一次電池用正極を用いることにより、放電特性を維持したまま、高価な電解液の使用量を減らすことができ、かつ、導電剤/電解液界面での電解液分解
による負極の被膜形成を抑制し、放電特性を向上させた非水電解液一次電池が得られる。
【0018】
本発明による第2の発明は、第1の発明において、上記導電剤は、銅を含有していることを特徴とする非水電解液一次電池用正極である。この構成により、導電剤の電子伝導性が高められ放電特性を向上させた非水電解液一次電池が得られる。
【0019】
本発明による第3の発明は、第1の発明である非水電解液一次電池用正極と、負極と、正極と負極の間に介在するセパレータと、非水電解液を備えた非水電解液一次電池である。
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に示す実施の形態は本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0021】
図1は、本発明の一実施の形態によるリチウム一次電池の半断面正面図である。
【0022】
このリチウム一次電池は二酸化マンガンを活物質とした正極1と、リチウムを活物質とした負極2とを有する。正極1と、負極2と、これらの間に介在するセパレータ3とを渦巻状に捲回することで電極群を構成している。この電極群は、非水電解液(図示せず)とともにケース9に収納されている。ケース9の開口部には封口板8が装着されている。封口板8には、正極1の芯材に接続されたリード4が連結されている。負極2に接続されたリード5は、ケース9に連結されている。また、電極群の上部と下部とには、内部短絡防止のためにそれぞれ上部絶縁板6、下部絶縁板7が配備されている。
【0023】
ここで正極1は以下のようにして作製される。二酸化マンガンと導電剤とを混合した後、結着剤と水とを添加して混練することにより正極合剤を調製する。
【0024】
次に、この正極合剤を、エキスパンドメタル、ネット、パンチングメタルなどの網目状あるいは細孔を有する芯材に充填、圧延する。その後、定寸に裁断し、正極合剤の一部分を剥離しその部分にリード4を溶接することで帯状の正極1を作製する。
【0025】
帯状の負極2は金属リチウムまたは、Li−Al、Li−Sn、Li−NiSi、Li−Pbなどのリチウム合金で構成する。
【0026】
非水電解液に用いる溶媒としては、通常、リチウム電池の非水電解液に用いられる有機溶媒であれば特に限定されるものではない。γ−ブチルラクトン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、1,2−ジメトキシエタンなどを単独または混合して使用することができる。
【0027】
非水電解液を構成する支持電解質には、ホウフッ化リチウム、リチウム六フッ化リン、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、および分子構造内にイミド結合を有するLiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)などを用いることができる。
【0028】
セパレータ3にはポリオレフィンの不織布、織布、あるいは微多孔膜などを用いる。
【0029】
本発明は上記のように、二酸化マンガンを正極活物質とする正極に用いる導電剤にDBP吸油量が90ml/100g以上120ml/100g以下で、かつ、二酸化マンガンに対する平均粒径の比が0.1以上1.0以下であるグラファイトを用いると、電解液の使用量を減らしても高い放電特性を実現することを見出したものである。
【0030】
その際、前記導電剤のDBP吸収量が90ml/100gよりも小さいと、電解液の保液性が低いために十分なイオン伝導パスが築けず、良好な放電特性が得られない。また、DBP吸収量が120ml/100gより大きいと電解液を減量できる効果が少なくなる。
【0031】
その際、二酸化マンガンに対する平均粒径の比が0.1より小さい場合にはグラファイトの粒子界面が増大するために電子伝導性が低減し、また、正極活物質の充填密度が減少してしまうため、放電特性は悪化する。一方、二酸化マンガンに対する平均粒径の比が1.0より大きい場合では、二酸化マンガンとの接触点が低減し電子伝導性の低下を招き、また、二酸化マンガンよりも大きいために充填効率が減少してしまうため、同様に放電特性は悪化する。
【0032】
また、導電剤に銅が含まれていると電子伝導性が向上する点で好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、具体的な例を用いて本実施の形態の効果を説明する。図1に示すリチウム一次電池に本発明を適用した。
【0034】
(電池1の作製)
正極1は以下のようにして作製した。平均粒径27μmの二酸化マンガンに対し、JIS
K−6217−4「ゴム用カーボンブラック−基本特性−第4部:DBP吸収量の求め方」に規定されているDBP(ジブチルフラレート)吸収量A法に準拠したアブソープトメータを用い、試薬液体を定速度ビュレットで適定し、その際の粘度特性の変化をトルク検出器によって測定、記録し、発生した最大トルクの70%時点のトルクに対応する試薬液体の添加量を吸油量としたDBP吸油量が100ml/100gで、かつ、二酸化マンガンに対する平均粒径の比が0.6であるグラファイト(導電剤1)を5質量%、結着剤としてポリテトラフルオロエチレン2質量%を混合する。その後、この混合物に対し純水35質量%を加えて混練し、湿潤状態の正極合剤を調製する。この湿潤状態の正極合剤を厚み0.1mmのステンレス製エキスパンドメタルとともに等速回転する2本の回転ロール間を通し、正極合剤をエキスパンドメタルに充填し、合剤シートを作製する。得られた合剤シートを乾燥後、圧延ローラプレスにより合剤シートを圧延する。これを所定の寸法(厚み0.40mm、幅26mm、長さ235mm)に切断し、二酸化マンガンを6.5g含んだ正極1を作製した。
【0035】
負極2には、リチウム金属板を用い、この金属板を所定の寸法(厚み0.18mm、幅24mm、長さ260mm)に切断して使用した。このようにして準備した正極1と負極2との間にポリエチレン製微多孔膜のセパレータ3を介在させて渦巻状に巻き取って電極群を作製する。この電極群をケース9内に挿入した。その後、正極1の芯材に接続されたステンレス製のリード4を封口板8の正極端子に接続し、負極2に接続されたニッケル製のリード5をケース9に接続した。この後、図示しない非水電解液1.8mlをケース9内に注液し、ケース9の開口部を封口して図1に示す直径17mm、高さ33.5mmの円筒形二酸化マンガンリチウム一次電池を10個作製した。なお非水電解液は、非水溶媒としてのプロピレンカーボネートとジメトキシエタンとを体積比1:1で混合した混合溶媒に、支持電解質としてのトリフルオロメタンスルホン酸リチウムを0.5モル/リットルの濃度で溶解させて調製した。このようにして作製した二酸化マンガンリチウム一次電池を電池1とする。
【0036】
(電池2〜6の作製)
二酸化マンガンの平均粒径に対する導電剤の平均粒径の比を(表1)のように変えた導電剤2〜6を用いた以外は電池1と同様にして電池2〜6を作製した。
【0037】
(電池7〜12の作製)
DBP吸油量を(表1)のように変えた導電剤7〜12を用いた以外は電池1と同様にして電池7〜12を作製した。
【0038】
(電池13〜15の作製)
銅含有量を(表1)のように変えた導電剤13〜15を用いた以外は電池1と同様にして電池13〜15を作製した。
【0039】
(電池16の作製)
電解液量を2.2mlに変えた以外は電池1と同様にして電池16を作製した。
【0040】
(電池17の作製)
DBP吸油量が315ml/100gのカーボンブラックを用いた以外は電池1と同様にして電池17を作製した。
【0041】
(電池18の作製)
電解液量を2.2mlに変えた以外は電池17と同様にして電池18を作製した。
【0042】
【表1】

【0043】
以上のようにして作製した電池1〜18をそれぞれ5個用いて、室温にて1000mA定電流放電を行った。その結果を(表1)に合わせて示す。なお、この結果はそれぞれ5個の電池の平均値を示しており、電池1の1.0V到達時の放電容量を100とした放電性能として示す。
【0044】
電池5、6、11、12は、放電特性が低い。これは、以下の理由によると考えられる。
【0045】
電池5は、二酸化マンガンに対する平均粒径の比が0.04と小さいため、グラファイトの粒子界面が多くなり電子伝導性が低下し、さらに、正極活物質の充填密度の低減により放電容量が低下したため放電特性が低下したと考えられる。
【0046】
電池6は、二酸化マンガンに対する平均粒径の比が1.1と大きいために、グラファイトと二酸化マンガンの接触点が減少し、さらに、二酸化マンガンよりも大きいために充填効率が減少し、放電特性が低下したと考えられる。
【0047】
電池11は、DBP吸油量が80ml/100gと小さいために、正極内に存在できる電解液量も少なくなる。その為、高率放電に必要な電解液量が足りずイオン導電性が低減し、放電特性が低下したと考えられる。
【0048】
電池12は、DBP吸油量が130ml/100gと大きいために、導電剤が優先的に電解液を吸液し、粉体間に存在する電解液量が少なくなる。その為、高率放電に必要な電解液量が足りずイオン導電性が低減し、放電特性が低下したと考えられる。
【0049】
これらに対し、電池1〜4および電池7〜10は放電特性が良いことが分かる。これは、二酸化マンガンに対する導電剤の存在割合は十分であり電子伝導性が高いこと、導電剤が吸液する電解液量および正極内部の粉体間空隙に存在する電解液が十分でありイオン導電性が十分に高いことが考えられる。
【0050】
また、電池13〜15は電池8よりも放電特性が良い。これは、電池13〜15は銅を含むことからグラファイトの電子伝導性が高いことが考えられる。その結果、放電特性が良いと考えられる。
【0051】
電池17〜18はDBP吸油量が315ml/100gのカーボンブラックを使用しており、電池18では電解液量が2.2mlであるため放電性能が良いが、電池17では電解液量が1.8mlであるため放電性能は悪化した。電池8ではDBP吸油量が90〜120ml/100gのグラファイトを使用したため、1.8mlの電解液量でも放電性能は良好であった。
【0052】
なお、以上の説明では、平均粒径27μmの二酸化マンガンを用いた場合について述べたが、平均粒径20μmの二酸化マンガンを用いた場合でも同様の結果が得られた。また、本実施例では捲回型電極群を用いた円筒形電池を例に説明したが、本発明はこのような電極群構成や電池形状に限定されない。電極を積層した電極構成でもよく、また角形やコイン形の電池に適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の非水電解液一次電池は、高率放電特性に優れており、高い放電容量を要求される電気機器、たとえばカメラ用などの用途に対して有用である。
【符号の説明】
【0054】
1 正極
2 負極
3 セパレータ
4,5 リード
6 上部絶縁板
7 下部絶縁板
8 封口板
9 ケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質である二酸化マンガンと、結着剤と、導電剤と、を含む非水電解液一次電池用正極であって、前記導電剤としてDBP吸油量が90ml/100g以上120ml/100g以下であり、かつ、前記二酸化マンガンに対する平均粒径の比が0.1以上1.0以下であるグラファイトを用いたことを特徴とする非水電解液一次電池用正極。
【請求項2】
前記導電剤は銅を含有していることを特徴とする請求項1記載の非水電解液一次電池用正極。
【請求項3】
請求項1記載の非水電解液一次電池用正極と、負極と、正極と負極の間に介在するセパレータと、非水電解液を備えた非水電解液一次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2012−14902(P2012−14902A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148741(P2010−148741)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】