説明

非水電解液二次電池の製造方法

【課題】本発明は、初期のガス発生量を抑制し、二次電池のサイクル特性を向上する製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】正極、負極および電解質層を含む発電要素が外装体の内部に封入されてなる非水電解液二次電池の製造方法であって、前記外装体に設けられた電解液注入口より、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、およびジフルオロエチレンカーボネートから選択される少なくとも1種を含む第1電解液を注入する第1注液工程と、前記第1注液工程後に、前記電解液注入口を仮封口して充電を行う第1充電工程と、前記第1充電工程後に、前記電解液注入口より、環式スルホン酸エステルを含む第2電解液を注入する第2注液工程と、前記第2注液工程後に、前記電解液注入口を本封口して充電を行う第2充電工程と、を含む非水電解液二次電池の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護運動の高まりを背景として、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、および燃料電池車(FCV)の開発が進められている。これらのモータ駆動用電源としては繰り返し充放電可能な二次電池が適しており、特に高容量、高出力が期待できるリチウムイオン二次電池などの非水電解液二次電池が注目を集めている。
【0003】
非水電解液二次電池は、集電体表面に形成された正極活物質(たとえば、LiCoO、LiMnO、LiNiO等)を含む正極活物質層を有する。また、非水電解液二次電池は、集電体表面に形成された負極活物質(たとえば、金属リチウム、コークスおよび天然・人造黒鉛等の炭素質材料、Sn、Si等の金属およびその酸化物材料等)を含む負極活物質層を有する。さらに、非水電解液二次電池は、この正極活物質層および負極活物質層との間に設けられ、これらの正極活物質層および負極活物質層を分離する電解液(電解質)を含む電解質層とを有している。
【0004】
このような非水電解液二次電池においては、初期充電時に正極および/または負極の表面に接する電解質層の化学反応や分解が起こりうる。その結果、それによって生成した被膜特性により、初期のガス発生や二次電池のサイクル特性の低下、さらには長期試験中の分解物によるガスの発生が生じるなどの問題があった。
【0005】
これらの問題の発生を防止するために、電解質層に含まれる電解液中に、保護被膜生成機能を有する化合物を添加することが行なわれている。具体的には、初期充電時に負極活物質表面において電解液中に添加された化合物の分解を意図的に促し、その分解物が、新たな電解質層の分解を防止するための保護機能を有する保護被膜を形成することが知られている。当該保護被膜は、固体電解質被膜(Solid Electrolyte Interface)と称されている(以下、当該被膜を、「SEI」または「被膜」とも称する。)。そして、この保護被膜が形成されることにより、負極における電極表面での電解質層の化学反応や分解が適切に抑制され、その結果、二次電池の電池性能を維持させる効果があることが種々報告されている。
【0006】
たとえば、特許文献1には、非水電解液に、ジカルボニル化合物を単独で、またはビニレンカーボネート等とともに含有させることで、電池のサイクル特性や保存特性が向上することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2006/070546号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されている非水電解液では、車載用の大型電池に用いた場合、依然として初期のガス発生量が多く、また、二次電池のサイクル特性の低下などの電気自動車などの車両用二次電池としての性能を満足することが困難であった。
【0009】
そこで本発明は、初期のガス発生量を抑制し、二次電池のサイクル特性を向上させうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、特定のカーボネート化合物を含む第1電解液を注入する第1注液工程と、第1充電工程と、環式スルホン酸エステルを含む第2電解液を注入する第2注液工程と、第2充電工程と、を含む非水電解液二次電池の製造方法により、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、特定のカーボネート化合物を含む第1電解液と、環式スルホン酸エステルを含む第2電解液とが、この順に注入されることにより、それぞれの電解液由来の固体電解質被膜が順次、負極活物質層上に形成される。このため、負極活物質層上に、サイクル特性を向上させる被膜とガス発生量を抑制する被膜とが順に形成されることとなる。その結果、初期のガス発生量が抑制され、サイクル特性に優れた非水電解液二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の電池の一実施形態である積層型電池の概要を模式的に表した断面概略図である。
【図2】本発明の電池の一実施形態における、負極が有する固体電解質被膜の具体的な配置形態を模式的に表した断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、以下では、リチウムイオン二次電池を例に挙げて説明するが、本発明はリチウムイオン二次電池以外の二次電池にも適用可能である。
【0014】
本発明は、特定のカーボネート化合物を含む第1電解液を注入する第1注液工程と、第1充電工程と、環式スルホン酸エステルを含む第2電解液を注入する第2注液工程と、第2充電工程と、を含む非水電解液二次電池の製造方法に関する。
【0015】
より詳細には、本発明は、正極、負極および電解質層を含む発電要素が外装体の内部に封入されてなる非水電解液二次電池の製造方法であって、前記外装体に設けられた電解液注入口より、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、およびジフルオロエチレンカーボネートから選択される少なくとも1種を含む第1電解液を注入する第1注液工程と、前記第1注液工程後に、前記電解液注入口を仮封口して充電を行う第1充電工程と、前記第1充電工程後に、前記電解液注入口より、環式スルホン酸エステルを含む第2電解液を注入する第2注液工程と、前記第2注液工程後に、前記電解液注入口を本封口して充電を行う第2充電工程と、を含む非水電解液二次電池の製造方法である。これにより、特定のカーボネート化合物を含む第1電解液と、環式スルホン酸エステルを含む第2電解液とが、それぞれ順に添加されることにより、電解液由来の固体電解質被膜が順次、負極活物質層上に形成される。この結果、初期のガス発生量が抑制され、サイクル特性に優れた非水電解液二次電池が得られる。当該利点が達成できるメカニズムは不明であるが、以下のように推察される。なお、本発明は、下記推論によって何ら制限されるものではない。
【0016】
電解液にカーボネート化合物が含まれることで、充電により負極上に固体電解質被膜が形成される。負極上にカーボネート化合物由来の被膜が形成されることで、負極劣化を抑制し、サイクル特性を向上することができる。この際、負極上、一面に被膜が形成されることが好ましいが、当該被膜が形成される過程で、ガスが発生する。ガスが発生すると、発生したガスにより電池の膨れが生じるため、ガス発生量は少ない方が好ましい。また、電解液中のカーボネート化合物の含有濃度が高いほど、被膜が効率的に形成されるため、負極劣化を抑制する効果が高くなる。しかしながら、電解液中のカーボネート化合物の含有濃度が高いと、カーボネート化合物の含有量が多くなり、ガス発生量が増加する。
【0017】
一方、固体電解質被膜を形成する化合物として、環式スルホン酸エステルが知られている。環式スルホン酸エステルは被膜形成に際してのガス発生量は少なく、ガス発生量という観点では優れている。しかしながら、負極劣化を抑制する効果(すなわち、サイクル特性を向上する効果)という観点では、カーボネート化合物が環式スルホン酸エステルよりも優れている。
【0018】
本発明によれば、まず、第1注液工程で第1電解液を添加することで、第1充電工程により、負極上に薄く均一なカーボネート化合物由来の被膜が形成される。第1電解液には、(好ましくは負極上一面に)被膜を形成するために必要な量のカーボネート化合物が含まれる。本発明では、カーボネート化合物を第1電解液にのみ含有させることで、電池に必要な電解液(第1電解液と第2電解液の合計量)中のカーボネート化合物含有濃度に比べて、第1電解液中のカーボネート化合物含有濃度を高くすることができる。そのため、負極上にカーボネート化合物由来の被膜を効率的に形成することができる。次に、第2注液工程で第2電解液を添加することで、第2充電工程により、負極上、カーボネート由来被膜を覆うように、環式スルホン酸エステル由来の被膜が形成される。上述のように、環式スルホン酸エステルは、ガス発生量が少ないため、第2充電工程後のガス発生量が抑制される。また、当該方法によれば、第1充電工程により、負極劣化を抑制するためのカーボネート化合物由来の被膜が負極上に形成されているため、サイクル特性も優れたものとなると推測される。よって、本発明は、特定のカーボネート化合物を含む第1電解液と、環式スルホン酸エステルを含む第2電解液と、を2段階に分けて注液することで、ガス発生量を減少させることと、サイクル特性を向上させることとを、両立して解決できたものと推測される。
【0019】
<非水電解液二次電池の製造方法>
以下、本実施形態の非水電解液二次電池の製造方法について、工程順に説明する。
【0020】
(第1注液工程の前の工程)
本発明の製造方法は、第1注液工程の前に、まず、正極、負極および電解質層を含む発電要素を外装体の内部に封入した電池前駆体を得る。
【0021】
まず、添付した図面を参照しながら、本発明の製造方法により得られるリチウムイオン二次電池の全体構造を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0022】
図1は、本発明の電池の一実施形態である積層型電池の概要を模式的に表した断面概略図である。なお、本明細書においては、図1に示す積層型のリチウムイオン二次電池を例に挙げて詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はかような形態のみに制限されない。
【0023】
本発明の非水電解液二次電池は、正極、負極および電解質層を含む発電要素17と、該発電要素17を内部に封入する外装体22と、を有する。少なくとも電解質層3および外装体22内部の空間は、後述する工程で用いられる第1電解液と第2電解液との混合電解液で満たされている。
【0024】
図1に示すように、本実施形態の積層型リチウムイオン二次電池10は、外装体22を用いて、発電要素17を収納し密封した構成を有している。ここで発電要素17は、負極集電体11の両面(発電要素の最下層および最上層用は片面)に負極活物質層12が形成された負極、電解質層13、および正極集電体14の両面に正極活物質層15が形成された正極を積層した構成を有している。積層の際、一の負極片面の負極活物質層12と前記一の負極に隣接する一の正極片面の正極活物質層15とが電解質層13を介して向き合うようにして、負極、電解質層13、正極の順に複数積層されている。
【0025】
これにより、隣接する負極活物質層12、電解質層13、および正極活物質層15は、一つの単電池層16を構成する。従って、本実施形態のリチウムイオン二次電池10は、単電池層16が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。なお、発電要素17の両最外層に位置する最外層負極集電体11aには、いずれも片面のみに負極活物質層12が形成されている。なお、図1と負極板および正極板の配置を入れ替えてもよい。その際は、発電要素17の両最外層に最外層正極集電体(図示せず)が位置するようにし、該最外層正極集電体の場合にも片面のみに正極活物質層15が形成されているようにする。
【0026】
また、前記の各電極(正極及び負極)と導通される負極集電板18および正極集電板19が、それぞれ負極端子リード20および正極端子リード21を介して各電極の負極集電体11及び正極集電体14に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられている。これにより、負極集電体11及び正極集電体14に電気的に接続された負極集電板18および正極集電板19は、外装体22の外部に露出される構造を有している。
【0027】
図1で示されるリチウムイオン二次電池を作製するために、まず、正極、負極および電解質層を含む発電要素17を準備する。
【0028】
[負極]
負極は、負極集電体11の表面に負極活物質層12が形成されてなる構成を有する。
【0029】
負極集電体11は、導電性材料から構成される。集電体を構成する導電性材料は、導電性を有するものであれば特に制限されず、例えば、金属や導電性高分子など従来公知のものを適宜利用することができる。具体的には、Fe、Cr、Ni、Mn、Ti、Mo、V、Nb、Al、Cu、Ag、Au、Ptおよびカーボンからなる群より選択されてなる少なくとも1種以上、例えば、2種以上の合金からなるステンレスなどその集電体材料が好ましく用いられうる。また本実施形態では、NiとAlのクラッド材、CuとAlのクラッド材、あるいはこれらの集電体材料の組み合わせのめっき材なども好ましく使える。また、上記集電体材料である金属(Alを除く)表面に、他の集電体材料であるAlを被覆させた集電体であってもよい。また、場合によっては、2つ以上の上記集電体材料である金属箔を張り合わせた集電体を用いてもよい。
【0030】
集電体の厚さは、特に限定されないが、いずれの集電体も通常は1〜100μm、好ましくは1〜50μm程度である。
【0031】
負極活物質層12は負極活物質を含み、必要に応じて電気伝導性を高めるための導電助剤、バインダー、電解質などをさらに含みうる。
【0032】
(負極活物質)
本実施形態で用いられる負極活物質は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出できる、カーボン系の導電性材料(カーボン材料)である。このようなカーボン材料としては、ケッチェンブラック、バルカン、アセチレンブラック、ブラックパール、予め高温で熱処理したカーボン担体、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンファイバーなどからなるカーボン粒子が挙げられる。
【0033】
場合によっては、負極活物質として、リチウム金属等の金属材料、リチウム−チタン複合酸化物(チタン酸リチウム:LiTi12)等のリチウム−遷移金属複合酸化物、およびその他の従来公知の負極活物質が併用されてもよい。
【0034】
負極活物質層に含まれる負極活物質の平均粒子径は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは1〜20μm、さらに好ましくは1〜5μmである。なお、本明細書中において、「粒子径」とは、活物質の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。他の構成成分の粒子径や平均粒子径も同様に定義することができる。
【0035】
(導電助剤)
導電助剤とは、導電性を向上させるために配合される添加物をいう。本実施形態において用いられうる導電助剤は特に制限されず、従来公知の形態が適宜参照されうる。例えば、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。活物質層が導電助剤を含むと、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。なお、本実施形態において負極活物質として用いられるカーボン材料はそれ自体が導電性を有することもあるが、かような場合には導電助剤の使用は必ずしも必要ではない。
【0036】
(バインダー)
バインダーは、活物質同士または活物質と集電体や導電助剤とを結着させて電極構造(3次元ネットワーク)を維持する目的で活物質層に加えられる。
【0037】
バインダーとしては、以下に制限されることはないが、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリイミド、およびアクリル樹脂などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、およびユリア樹脂などの熱硬化性樹脂、ならびにスチレンブタジエンゴム(SBR)などのゴム系材料が挙げられる。これらをそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。なお、これらバインダーは、製造過程では、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)など、バインダーが可溶な有機溶媒に溶解させたものを使用することもできる。
【0038】
(電解質)
負極活物質層12に含まれうる電解質の具体的な形態については、後述の[電解質層]の欄に記載のものと同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0039】
(添加剤)
本実施形態の負極活物質層12に含まれうるその他の添加剤としては、例えば、イオン伝導性ポリマー等が挙げられる。
【0040】
負極活物質層12中に含まれうる上記の成分の配合比は、特に限定されない。配合比は、非水電解液二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。負極活物質層の厚さについても特に制限はなく、電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、負極活物質層の厚さは、2〜100μm程度である。
【0041】
[正極]
正極は、正極集電体14の表面に正極活物質層15が形成されてなる構成を有する。
【0042】
正極集電体14は、導電性材料から構成される。正極集電体を構成する導電性材料の種類やその厚さについては、負極集電体11について上述したのと同様の形態が採用されうるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0043】
正極活物質層15は正極活物質を含み、必要に応じて電気伝導性を高めるための導電助剤、バインダー、電解質などをさらに含みうる。なお、正極活物質以外の成分については、負極活物質層12について上述したのと同様の形態が採用されうる。
【0044】
正極活物質は、リチウムの吸蔵放出が可能な材料であれば特に限定されず、リチウムイオン二次電池に通常用いられる正極活物質が利用されうる。具体的には、リチウム−遷移金属複合酸化物が好ましく、例えば、LiMnなどのLi−Mn系複合酸化物、LiNiOなどのLi−Ni系複合酸化物、LiNi0.5Mn0.5などのLi−Ni−Mn系複合酸化物が挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。
【0045】
正極活物質層中に含まれる上記成分の配合比は、特に限定されない。配合比は、非水電解二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。また、正極活物質層の厚さについても特に制限はなく、電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、正極活物質層の厚さは、2〜100μm程度である。
【0046】
[電解質層]
電解質層は、正極活物質層と負極活物質層との間の空間的な隔壁(スペーサ)として機能する。また、これと併せて、充放電時における正負極間でのリチウムイオンの移動媒体である電解質を保持する機能をも有する。本発明において、電解質層としては、液体電解質および高分子ゲル電解質からなる群より選択される。
【0047】
なお、本実施形態において、第1注液工程と第2注液工程とで添加される第1電解液および第2電解液は、正極と負極との間に存在する電解質層13として作用する。第1電解液および第2電解液は液体電解質であるため、電解質層は液体電解質または高分子ゲル電解質から構成される。そのため、通常は、電解質層にセパレータが用いられるが、電解質層が高分子ゲル電解質から構成される場合には、セパレータの使用は必須でない。
【0048】
セパレータの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィンやポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン(PVdF−HFP)等の炭化水素、ガラス繊維などからなる微多孔膜が挙げられる。
【0049】
ゲル電解質は、Li伝導性を有するマトリックスポリマーに、液体電解質が注入されてなる構成を有する。Li伝導性を有するマトリックスポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシドを主鎖または側鎖に持つポリマー(PEO)、ポリプロピレンオキシドを主鎖または側鎖に持つポリマー(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリル酸エステル、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体(PVdF−HFP)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ(メチルアクリレート)(PMA)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)などが挙げられる。また、上記のポリマー等の混合物、変成体、誘導体、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体なども使用できる。これらのうち、PEO、PPOおよびそれらの共重合体、PVdF、PVdF−HFPを用いることが望ましい。かようなマトリックスポリマーには、リチウム塩等の電解質塩がよく溶解しうる。
【0050】
高分子ゲル電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発揮しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合などの重合処理を施せばよい。なお、上記電解質は、電極の活物質層中に含まれていてもよい。
【0051】
なお、本発明の電解質層に含まれる電解液については、後述の第1注液工程と第2注液工程において説明する。
【0052】
[集電板]
集電板(正極集電板18および負極集電板19)の材質は、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス鋼、これらの合金などを用いることができる。これらは特に制限されず、集電板として従来用いられている公知の材質が用いられうる。なお、正極集電板と負極集電板とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
【0053】
[正極端子および負極端子リード]
正極端子リード21および負極端子リード20をそれぞれ介して、集電体は集電板と電気的に接続されている。
【0054】
正極および負極端子リードの材料は、公知のリチウムイオン電池で用いられるリードを用いることができる。なお、電池外装材から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆するのが好ましい。
【0055】
[外装材]
本実施形態のリチウムイオン二次電池10では、使用時の外部からの衝撃や環境劣化を防止するために、発電要素17全体が外装材22の内部に収容される。外装材22としては、ラミネートシートが用いられうる。ラミネートシートは、例えば、ポリプロピレン、アルミニウム、ナイロンがこの順に積層されてなる3層構造として構成されうる。なお、場合によっては、従来公知の金属缶ケースもまた、外装として用いられうる。
【0056】
(単電池層の製造方法)
本発明で用いられる負極および正極としては、例えば、活物質にバインダーなどを加えて調製したものを、溶剤に分散させて活物質スラリーを調製し(ただし、バインダーはあらかじめ溶剤などに分散または溶解させておいてから、活物質などと混合してもよい)、得られた活物質スラリーを、銅箔などからなる集電体に塗布し、乾燥して活物質層を形成し、必要に応じて活物質層を加圧成形する工程を経由することによって作製されたものが挙げられる。ただし、負極および正極の作製は、上記例示の方法のみに限られることなく、他の方法によってもよい。
【0057】
次に、負極と正極との間に電解質層を介在させ、単電池層を作製する。
【0058】
上述した電解質層のうち、液体電解質は、後述する第1注液工程および第2注液工程で添加されるため、電池前駆体を作製する際は、セパレータの一方の面に正極層(正極活物質層)を、他方の面に負極(負極活物質層)を積層させて、単電池層16を作製する。また、電解質層が高分子ゲル電解質および高分子固体電解質等のポリマー電解質の場合は、電池前駆体を作製する際は、当該電解質の一方の面に正極層(正極活物質層)を、他方の面に負極(負極活物質層)を積層させて、単電池層16を作製する。
【0059】
(電池の組み立て)
電池の組み立てについては、公知の方法で行うことができ、特に制限されないが、図1で示すように、上記で得られた単電池層を、外装体22に収容し、電池前駆体を得る。
【0060】
(第1注液工程)
次に、上記で得られた電池前駆体に、特定のカーボネート化合物を含む第1電解液を、外装体に設けられた電解液注入口から注液する。すなわち、本発明の第1注液工程は、特定のカーボネート化合物を含む第1電解液を、正極、負極およびセパレータを含む発電要素が内部に封入されてなる外装体に、注入する工程を含む。当該工程により、外装体内部の正極、負極およびセパレータを含む発電要素が、第1電解液に浸漬される。なお、当該工程において、「浸漬される」とは、発電要素の全体が浸漬されていてもよいが、発電要素の一部が浸漬されている状態であってもよい。なお、電解液の注液プロセスは、従来のリチウムイオン二次電池の製造で行われている手法と同様にして行うことができる。
【0061】
第1注液工程で用いられる第1電解液は、液体電解質である。
【0062】
液体電解質は、溶媒にリチウム塩が溶解したものである。溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、プロピオン酸メチル(MP)、酢酸メチル(MA)、ギ酸メチル(MF)、4−メチルジオキソラン(4MeDOL)、ジオキソラン(DOL)、2−メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメトキシエタン(DME)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、およびγ−ブチロラクトン(GBL)などが挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせた混合物として使用してもよい。
【0063】
また、リチウム塩としては、特に制限はないが、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiTaF、LiSbF、LiAlCl、Li10Cl10、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF、LiSCN等の無機酸陰イオン塩、LiCFSO、Li(CFSON、LiBOB(リチウムビスオキサイドボレート)、LiBETI(リチウムビス(パーフルオロエチレンスルホニルイミド);Li(CSONとも記載)等の有機酸陰イオン塩などが挙げられる。これらの電解質塩は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。電解液中における電解質濃度は通常0.05〜10M程度であり、好ましくは0.1〜5M程度である。
【0064】
第1注液工程で用いられる第1電解液は、特定のカーボネート化合物、すなわち、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、およびジフルオロエチレンカーボネートから選択される少なくとも1種のカーボネート化合物を含む。これらのち、サイクル特性を向上させるという観点から、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートが好ましい。これにより、特定のカーボネート化合物由来の被膜が効率よく負極活物質層上に形成され、サイクル特性が向上する。また、これらのカーボネート化合物は、1種単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。好ましい形態としては、第1電解液は、第1電解液が、ビニレンカーボネートおよびビニルエチレンカーボネートから選択される少なくとも1種と、フルオロエチレンカーボネートおよびジフルオロエチレンカーボネートから選択される少なくとも1種と、を含むのが好ましい。当該理由は不明だが、フルオロエチレンカーボネートおよびジフルオロエチレンカーボネートは、カーボネート化合物の反応を促進するためと推測される。なお、本発明は、上記推論によって何ら制限されるものではない。
【0065】
第1電解液の添加量としては、単電池の全空孔体積に対して、好ましくは0.7〜1.3倍量、より好ましくは0.8〜1.2倍量、さらに好ましくは0.85〜1.05倍量である。また、第1注液工程において注入される第1電解液の体積は、第2注液工程において注入される第2電解液の体積よりも大きいのが好ましい。第1電解液の添加量としては、液体電解質として添加される全量の体積(すなわち、第1電解液と第2電解液の合計の体積)に対して、好ましくは50体積%を超えて90体積%、より好ましくは55〜85体積%、さらに好ましくは60〜80体積%である。この場合、第1注液工程の第1電解液により電極の空孔内を十分に満たすことができ、電極層間で発生したガスを真空余剰空間に効率的に排出することできる。
【0066】
第1電解液に含まれる特定のカーボネート化合物の含有量としては、第1電解液100質量%に対して、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.25〜5質量%、さらに好ましくは0.5〜3質量%である。特定のカーボネート化合物の含有量が上記範囲内であれば、第1充電後に負極活物質層上に、当該カーボネート化合物由来の被膜を均一に薄く形成することができ、また充電により発生するガスの量も抑制される。
【0067】
また、第1電解液が、ビニレンカーボネートおよびビニルエチレンカーボネートから選択される少なくとも1種(以下、「(A)」)と、フルオロエチレンカーボネートおよびジフルオロエチレンカーボネートから選択される少なくとも1種(以下、「(B)」)と、を含む場合は、(A):(B)(質量比)が、好ましくは10:1〜1:10、より好ましくは8:1〜1:8、さらに好ましくは5:1〜1:5、特に好ましくは3:1〜1:3である。
【0068】
また、本発明は、第1電解液を添加した後、第1充電工程を行うことで、目的とする被膜を負極活物質層上に形成するため、第1電解液における環式スルホン酸エステルの含有量は、第1電解液100質量%に対して、0.2質量%以下であるのが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であるのがさらに好ましく、環式スルホン酸エステルを含まない(0質量%である)のがもっとも好ましい。
【0069】
(第1充電工程)
第1注液工程後、外装体22の開口部(電解液注入口)を溶接または熱融着等により封口することが好ましい。本発明の製造方法では、電解液を少なくとも2回に分けて添加するため、第1注液工程後の封口は、以下、「仮封口」と称する。なお、外装体22の開口部の封口プロセスは、従来のリチウムイオン二次電池の製造で行われている手法と同様にして行うことができる。
【0070】
外装体22の開口部を仮封口した後、第1充電工程を行う。第1充電工程としては、好ましくは0.01〜5CA、より好ましくは0.15〜3CA、さらに好ましくは0.2〜2CA、特に好ましくは0.2〜1CAの定電流充電を行う。また、好ましくは10分〜3時間、より好ましくは20分〜2時間、さらに好ましくは30分〜1.5時間充電を行うのが好ましい。第1充電工程において、上述のような定電流充電を行うことで、特定のカーボネート化合物由来の被膜が効率的に負極活物質層上に形成され、電池のサイクル特性を向上させることができる。なお、当該被膜は、負極活物質層の全面に形成されることが好ましいが、液体電解質が接している負極活物質層上に形成されることが重要である。また、充電を行う際の温度としては、好ましくは20〜70℃、より好ましくは25〜60℃、さらに好ましくは25〜50℃である。
【0071】
(第2注液工程)
第1充電工程後、仮封口した電解液注入口を開放して、第1充電工程において外装体22の内部に発生したガスを当該外装体の外部に排出することが好ましい(ガス排出工程)。本発明の製造方法は、第1充填工程後の電池前駆体に、解放された電解液注入口から、環式スルホン酸エステルを含む第2電解液を、外装体に設けられた電解液注入口から注液する。すなわち、本発明の第2注液工程は、環式スルホン酸エステルを含む第2電解液を、正極、負極およびセパレータを含む発電要素が内部に封入されてなる外装体に、注入する工程を含む。当該工程により、外装体内部の正極、負極およびセパレータを含む発電要素が、第1電解液および第2電解液に浸漬される。なお、当該工程において、「浸漬される」とは、発電要素の全体が浸漬されていてもよいが、発電要素の一部が浸漬されている状態であってもよい。なお、電解液の注液プロセスは、従来のリチウムイオン二次電池の製造で行われている手法と同様にして行うことができる
第2注液工程で用いられる第2電解液もまた、液体電解質であり、所定のカーボネート化合物に代えて環式スルホン酸エステルを含むこと以外は、上述した第1電解液と同様の構成を有する。環式スルホン酸エステルとしては、下記式(1):
【0072】
【化1】

【0073】
式中、
Oは酸素、およびSは硫黄を表し、
A、BおよびDは、それぞれ独立して、単結合、酸素、硫黄、カルボニル基、チオカルボニル基、スルフィニル基、スルホニル基、およびNR基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を表し、この際、Rは、水素原子、一価の脂肪族炭化水素基、一価の脂環式炭化水素基および一価の芳香族炭化水素基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を表し、
、R、RおよびRは、それぞれ独立して、単結合または二価の脂肪族炭化水素基を表す、
で表される化合物であるのが好ましい。当該化合物が第2電解液に含有されることで、第2充電工程で、ガス発生が少なく、サイクル特性に優れた被膜が負極活物質層上に形成される。
【0074】
式(1)において、Rは、水素原子、一価の脂肪族炭化水素基、一価の脂環式炭化水素基および一価の芳香族炭化水素基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基である。脂肪族炭化水素基としては、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜5、さらに好ましくは炭素数1〜3の直鎖または分岐のアルキル基であり、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基(アミル基)、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、i−プロピル基、sec−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、1−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、2−メチルブチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、1,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、2−エチル−2−メチルプロピル基、1−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基、1,5−ジメチルヘキシル基、t−オクチル基などが挙げられる。脂環式炭化水素基としては、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜5、さらに好ましくは炭素数1〜3のシクロアルキル基であり、たとえば、シクロプロピル基、シクロプロピルメチル基、シクロブチル基、シクロブチルメチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロヘキシルプロピル基、シクロドデシル基、ノルボルニル基(C7)、アダマンチル基(C10)、シクロペンチルエチル基などが挙げられる。芳香族炭化水素基としては、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜5、さらに好ましくは炭素数1〜3のアリール基であり、たとえば、フェニル基、アルキルフェニル基、アルキルフェニル基で置換されたフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
【0075】
、R、RおよびRは、それぞれ独立して、単結合または二価の脂肪族炭化水素基を表す。二価の脂肪族炭化水素基としては、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜5、さらに好ましくは炭素数1〜3の直鎖または分岐のアルキレン基のいずれでもよく、たとえば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、イソプロピレン基、テトラメチレン基などが挙げられる。
【0076】
また、環式スルホン酸エステルは、下記式(2):
【0077】
【化2】

【0078】
式中、Zは炭素数1〜5のアルキレン基またはスルホニルアルキレン基である、
で表されるのがより好ましい。式(2)で表される環式スルホン酸エステルとしては、Zがスルホニルアルキレン基(−SO−C2n−)であるジスルホン酸化合物も含む。ジスルホン酸化合物としては、アルキレン基としては、炭素数1〜3がより好ましい。
【0079】
式(1)または式(2)で表される環式スルホン酸エステルとしては、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、2,4−ブタンスルトンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。すなわち、式(1)または式(2)で表される環式スルホン酸エステルとして、スルホニル基を2つ有する環式ジスルホン酸エステルも好ましく用いられる。
【0080】
また、本実施形態では第2電解液に環式スルホン酸エステルが含有されているため、第2充電工程の充電により正極上に環式スルホン酸エステル由来の被膜が形成されうる。そのため、本発明の製造方法によれば、正極活物質としてLiMnOに他の金属元素(Co,Ni,Fe等)が固溶したマンガン含有固溶体を用いる場合、電池の充放電による電解質層へのマンガンの溶出を抑制することができる。
【0081】
第2電解液の添加量としては、単電池の全空孔体積に対して、好ましくは0.1〜1.00倍量、より好ましくは0.2〜0.8倍量、さらに好ましくは0.25〜0.5倍量である。
【0082】
第2電解液の添加量としては、液体電解質として添加される全量の体積(すなわち、第1電解液と第2電解液の合計の体積)に対して、好ましくは10体積%以上50体積%未満、より好ましくは15〜45体積%、さらに好ましくは20〜40体積%である。この場合、第2注液工程の第2電解液により効果的にガス発生を抑制することできる。
【0083】
第2電解液に含まれる環式スルホン酸エステルの含有量としては、第2電解液100質量%に対して、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.25〜8質量%、さらに好ましくは0.5〜6質量%である。環式スルホン酸エステルの含有量が上記範囲内であれば、第2充電後に負極活物質層上に、当該環式スルホン酸エステル由来の被膜が均一に薄く形成することができ、またサイクル特性を向上することができる。
【0084】
また、本発明は、第2電解液を添加した後、第2充電工程を行うことで、目的とする被膜を負極活物質層上に形成するため、第2電解液において、第1電解液の添加剤である特定のカーボネート化合物(ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、およびジフルオロエチレンカーボネートから選択される少なくとも1種)の含有量は、第2電解液100質量%に対して、0.2質量%以下であるのが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であるのがさらに好ましく、当該カーボネート化合物を含まない(0質量%である)のがもっとも好ましい。
【0085】
(第2充電工程)
第2注液工程後、外装体22の開口部(電解液注入口)を溶接等により封口または熱融着して、本発明のリチウムイオン二次電池の組み立てが完了する。本発明の製造方法では、第2注液工程後の封口は、以下、「本封口」と称する。なお、外装体22の開口部の封口プロセスは、従来のリチウムイオン二次電池の製造で行われている手法と同様にして行うことができる。
【0086】
外装体22の開口部を本封口した後、第2充電工程を行う。第2充電工程としては、好ましくは0.01〜5CA、より好ましくは0.15〜3CA、さらに好ましくは0.2〜2CA、特に好ましくは0.2〜1CAの定電流充電を行う。また、好ましくは2〜15時間、より好ましくは3〜12時間、さらに好ましくは5〜10時間充電を行うのが好ましい。第2充電工程において、上述のような定電流充電を行うことで、環式スルホン酸エステル由来の被膜が効率的に負極活物質層上に形成され、電池のサイクル特性を向上させることができる。なお、当該被膜は、負極活物質層上の全面に形成されることが好ましいが、液体電解質が接している負極活物質層上に形成されることが重要である。また、充電を行う際の温度としては、好ましくは20〜70℃、より好ましくは25〜60℃、さらに好ましくは25〜50℃である。また、第2充電工程としては、定電流定電圧充電が好ましく、充電電位が、好ましくは4.0〜4.20V、より好ましくは4.1〜4.15Vとなるまで第2充電工程の充電を行うのがよい。なお、本発明においては、第2充電工程を終えた状態が「初回充電」の完了状態を意味する。
【0087】
本発明において、上記のように、異なる電解液を2回に分けて添加し、それぞれの電解液を添加した後にそれぞれ充電を行うことで、目的とする被膜を負極活物質層上に形成することができる。すなわち、本発明の製造方法により得られた非水電解液二次電池は、図2に示されるように、負極活物質層12の上に、特定のカーボネート化合物由来の被膜(固体電解質被膜2)、環式スルホン酸エステル由来の被膜(固体電解質被膜3)が順に形成された負極となる。この2つの被膜により、初回充電時のガス発生量が抑制され、サイクル特性に優れた電池を得ることができる。
【0088】
また、本発明の製造方法は、正極活物質として、LiMnOに他の金属元素(Co,Ni,Fe等)が固溶したマンガン含有固溶体を用いる場合に好適に採用されうる。正極活物質として上述のようなマンガン含有固溶体を用いると、電池の充放電により電解質層にマンガンが溶出する場合がある。本発明の製造方法によれば、第2電解液に環式スルホン酸エステルが含有されているため、第2充電工程の充電により正極上に環式スルホン酸エステル由来の被膜が形成され、電解質層へのマンガンの溶出を抑制することができるのである。
【0089】
以上のようにして製造された電池は、特にモータ駆動用電源として車両に搭載する電池として好適なものとなる。ここで車両とはたとえば車輪をモータによって駆動する自動車、および他の車両(たとえば電車)が挙げられる。上記の自動車としては、たとえば、ガソリンを用いない完全電気自動車、シリーズハイブリッド自動車やパラレルハイブリッド自動車などのハイブリッド自動車、および燃料電池自動車などがある。
【0090】
以上説明した実施形態による電池は、上述した積層型電池の構造に限定されるものではない。たとえば双極型電池としても同様にインターカレーション量を均一にすることができる。また、電池自体を複数組み合わせた組電池として提供することもできる。もちろん組電池とした場合に車両に搭載されうるために好適であることはいうまでもない。
【0091】
さらに、本発明は、上述した実施形態および実施例に限定されるものではなく、当業者においてさまざまな変形が可能であることはいうまでもない。
【実施例】
【0092】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0093】
1.電解液の作製
エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒(30:30:40(体積比))を溶媒とした。また1.0MのLiPFを支持塩とした(なお、「1.0MのLiPF」とは、当該混合溶媒および支持塩の混合物における支持塩(LiPF)濃度が1.0Mであるという意味である。)。以下、当該混合溶媒および支持塩の混合物を「1.0MのLiPF含有の電解液」と称する。
【0094】
下記実施例1、2および比較例1〜9では、1.0MのLiPF含有の電解液を用いて、添加剤を、上記溶媒と上記支持塩との合計100質量%(1.0MのLiPF含有の混合溶媒100質量%)に対して、表1および表2に記載の質量比で添加して、電解液を作製した。なお、「添加剤」とは、特定のカーボネート化合物および環式スルホン酸エステルから選択される少なくとも1種以上を意味する。また、表1および表2において、添加剤として記載されている「1% VC」とは、添加される1.0MのLiPF含有の電解液(100質量%)中に1質量%のビニレンカーボネートが含有されていることを意味する。
【0095】
2.正極の作製
正極活物質としてLiMn(平均粒子径:15μm)85質量%、導電助剤としてアセチレンブラック 5質量%、およびバインダーとしてPVdF 10質量%からなる固形分を用意した。この固形分に対し、スラリー粘度調整溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を適量添加して、正極スラリーを作製した。次に、正極スラリーを、集電体であるアルミニウム箔(20μm)の両面に塗布し乾燥・プレスを行い、片面塗工量18mg/cm,厚み158μm(箔込み)の正極を作成した。
【0096】
3.負極の作製
負極活物質として人造黒鉛(平均粒子径:20μm)95質量%、導電助剤としてアセチレンブラック2質量%およびバインダーとしてSBR(スチレン−ブタジエンゴム)2質量%、CMC(カルボキシメチルセルロース)1%からなる固形分を用意した。この固形分に対し、スラリー粘度調整溶媒であるイオン交換水を適量添加して、負極スラリーを作製した。次に、負極スラリーを、集電体である銅箔(15μm)の両面に塗布し乾燥・プレスを行い片面塗工量5.4mg/cm2,厚み87μm(箔込み)負極を作製した。
【0097】
4.単電池の組み立て工程
この正極層を187×97mmの長方形状に切断し、負極層を191×101mmの長方形状に切断した(正極層2枚、負極層3枚)。この正極と負極を195×103mmのセパレータ(ポリオレフィン微多孔膜、厚さ25μm、計4枚)を介して交互に積層した。
【0098】
これらの正極と負極それぞれにタブを溶接し、アルミラミネートフィルムからなる外装中に配置し、電池前駆体を得た。
【0099】
5.注液工程および充電工程
電池前駆体に、下記表に記載の組成の第1電解液を添加した後、外装体の開口部(電解液注入口)を仮封口した。その後、第1充電工程として、0.2CAの電流値で1時間充電した。次に、電池を開口し、第1充電工程で発生したガスを電池から排出した後、第2電解液を添加した後、外装体の開口部(電解液注入口)を真空で本封口して単電池を完成させた。その後、第2充電工程として、0.2CAの電流値で8時間定電流定電圧充電し、4.15Vの電位となるまで充電した。
【0100】
6.電池の評価
(1)初期のガス発生量
上記のようにして作製した非水電解液二次電池(単電池)の初回充電後のガス発生量を調べるため、電池を開口してガス抜きを行い、ガス発生量を測定した。
【0101】
(2)サイクル特性
上記のようにして作製した非水電解液二次電池(単電池)を充放電性能試験により評価した。この充放電性能試験は、55℃に保持した恒温槽において、電池温度を55℃とした後、性能試験を行った。充電は1Cの電流レートで4.2Vまで定電流充電(CC)し、その後定電圧(CV)で、あわせて3時間充電した。その後、10分間休止時間を設けた後、1Cの電流レートで2.5Vまで放電を行い、その後に10分間の休止時間を設けた。これらを1サイクルとし、充放電試験を実施した。初回の放電容量に対して300サイクル後に放電した割合を容量維持率とした。
【0102】
(比較例1〜6)
電解液として、表に記載の添加剤を含む1.0MのLiPF含有の電解液4.81mLを電池前駆体に添加した後、真空で本封口をして、0.2CAの電流値で8時間充電を行った。
【0103】
上記のようにして作製した非水電解液二次電池(単電池)の初回充電後のガス発生量および300サイクル後の容量維持率を評価した。
【0104】
【表1】

【0105】
(実施例1、2、比較例7〜9)
第1電解液として、表に記載の添加剤を含む1.0MのLiPF含有の電解液3.848mLを電池前駆体に添加した後、仮封口を行い、第1充電工程として、0.2CAの電流値で1時間充電した。次に、電池を開口し、第1充電工程で発生したガスを電池から排出した後、第2電解液として、表に記載の添加剤を含む1.0MのLiPF含有の電解液0.962mLを添加した後、外装体の開口部(電解液注入口)を真空で本封口して単電池を完成させた。その後、第2充電工程として、0.2CAの電流値で8時間充電した。
【0106】
上記のようにして作製した非水電解液二次電池(単電池)の初回充電後のガス発生量および300サイクル後の容量維持率を評価した。
【0107】
【表2】

【0108】
【表3】

【0109】
表2および3より、実施例1、2の電池は、初回充電後のガス発生量も抑制され、また300サイクル後の容量維持率も優れているのがわかる。また、比較例2、7および8と比較し、比較例5、6および9は、フルオロエチレンカーボネートを電解液に含むことで、容量維持率が向上したことが示されている。さらに、比較例5、6および9と比較し、実施例2は、ビニレンカーボネートとフルオロエチレンカーボネートとを含む第1電解液を用いて第1注液工程を行うことで、より容量維持率が向上したことがわかる。また、実施例1と比較し、実施例2は、第1電解液にフルオロエチレンカーボネートを含むことで、初回充電後のガス発生量が抑制され、容量維持率が向上したことがわかる。
【符号の説明】
【0110】
1 負極、
2 固体電解質被膜2、
3 固体電解質被膜3、
10 積層型二次電池、
11 負極集電体、
11a 負極側の最外層集電体、
12 負極活物質層、
13 電解質層、
14 正極集電体、
15 正極活物質層、
16 単電池層、
17 発電要素、
18 負極集電板、
19 正極集電板、
20 負極端子リード、
21 正極端子リード、
22 電池外装体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極および電解質層を含む発電要素が外装体の内部に封入されてなる非水電解液二次電池の製造方法であって、
前記外装体に設けられた電解液注入口より、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、およびジフルオロエチレンカーボネートから選択される少なくとも1種を含む第1電解液を注入する第1注液工程と、
前記第1注液工程後に、前記電解液注入口を仮封口して充電を行う第1充電工程と、
前記第1充電工程後に、前記電解液注入口より、環式スルホン酸エステルを含む第2電解液を注入する第2注液工程と、
前記第2注液工程後に、前記電解液注入口を本封口して充電を行う第2充電工程と、
を含む非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項2】
前記第1注液工程において注入される前記第1電解液の体積が、前記第2注液工程において注入される前記第2電解液の体積よりも大きい、請求項1または2に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項3】
前記環式スルホン酸エステルが、下記式(1):
【化1】

式中、
Oは酸素、およびSは硫黄を表し、
A、BおよびDは、それぞれ独立して、単結合、酸素、硫黄、カルボニル基、チオカルボニル基、スルフィニル基、スルホニル基、およびNR基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を表し、この際、Rは、水素原子、一価の脂肪族炭化水素基、一価の脂環式炭化水素基および一価の芳香族炭化水素基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を表し、
、R、RおよびRは、それぞれ独立して、単結合または二価の脂肪族炭化水素基を表す、
で表される、請求項1または2に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記第1電解液が、ビニレンカーボネートおよびビニルエチレンカーボネートから選択される少なくとも1種と、フルオロエチレンカーボネートおよびジフルオロエチレンカーボネートから選択される少なくとも1種と、を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−110017(P2013−110017A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255184(P2011−255184)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】