説明

非水電解液二次電池用コバルト酸リチウム粒子粉末及びその製造方法、並びに非水電解液二次電池

【課題】 本発明は、負荷特性、サイクル特性に優れたコバルト酸リチウム粒子粉末を提供する。
【解決手段】 一次粒子の平均粒子径が1.0μm以下の酸化コバルト、ジルコニウム原料、リチウム原料を混合、焼成して得ることができる、Zr化合物が粒子内部に存在せず表面に局在しており、且つ、前記Zr化合物の化学式がLix(Zr1−yAy)Oz(x、y及びzは、2.0≦x≦8.0、0≦y≦1.0、2.0≦z≦6.0)で表され、Zr含有率が0.05〜1.0wt%であるコバルト酸リチウム粒子粉末を正極活物質として用いることにより、熱安定性、負荷特性、サイクル特性に優れたリチウムイオン電池を製造することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷特性、サイクル特性及び熱安定性に優れたコバルト酸リチウム粒子粉末を提供する。
【0002】
近年、AV機器やパソコン等の電子機器のポータブル化、コードレス化が急速に進んでおり、これらの駆動用電源として小型、軽量で高エネルギー密度を有する二次電池への要求が高くなっている。このような状況下において、充放電電圧が高く、充放電容量も大きいという長所を有するリチウムイオン二次電池が注目されている。
【0003】
従来、4V級の電圧をもつ高エネルギー型のリチウムイオン二次電池に有用な正極活物質としては、スピネル型構造のLiMn、ジグザグ層状構造のLiMnO、層状岩塩型構造のLiCoO、LiCo1−XNi、LiNiO等が一般的に知られており、なかでもLiCoOを用いたリチウムイオン二次電池は高い充放電電圧と充放電容量を有する点で優れているが、更なる特性改善が求められている。
【0004】
即ち、LiCoOはリチウムを引き抜いた際に、Co3+がCo4+となりヤーンテラー歪を生じ、Liを0.45引き抜いた領域で六方晶から単斜晶へ、さらに引き抜くと単斜晶から六方晶と結晶構造が変化する。そのため、充放電反応を繰り返すことによって、結晶構造が不安定となり、酸素放出や電解液との反応などが起こる。
【0005】
更に、高温になると電解液との反応が活性になるため、二次電池としての安全性を確保するためには、高温下でも正極活物質の構造が安定であって熱安定性向上が必要とされている。
【0006】
そこで、負荷特性やサイクル特性、高温高電圧で安定なコバルト酸リチウム(LiCoO)が要求されている。
【0007】
従来、コバルト酸リチウムの安定化に対してZr化合物による置換や被覆する技術が提案されており、あらかじめコバルト原料にZrを含有させる方法(特許文献1〜5)、コバルト原料、ジルコニウム原料、リチウム原料を同時に混合し、焼成する方法(特許文献6〜11)、コバルト酸リチウム粒子粉末にZr化合物を被覆する方法(特許文献12)が知られている。
【0008】
【特許文献1】特開2004−200101号公報
【特許文献2】特開2004−299975号公報
【特許文献3】特開2004−311408号公報
【特許文献4】特開2005−129489号公報
【特許文献5】特開2005−190900号公報
【特許文献6】特開平4−319260号公報
【特許文献7】特開2001−68167号公報
【特許文献8】特開2002−356330号公報
【特許文献9】特開2002−358963号公報
【特許文献10】特開2005−50779号公報
【特許文献11】特開2005−85635号公報
【特許文献12】特開2003−221234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記諸特性を満たす正極活物質及びコバルト酸化物粒子粉末は現在最も要求されているところであるが、未だ得られていない。
【0010】
前出特許文献1〜5に記載されたようなコバルト原料にZr元素を含有させた場合、コバルト酸リチウム粒子内にZr化合物が存在しやすくなり、表面改質効果が十分とは言い難い。
【0011】
また、前出特許文献6〜11に記載されたようなリチウム原料と混合する際にZr化合物を添加する場合、酸化コバルト原料の粒径が大きすぎると、Zr化合物が単独で生成し、コバルト酸リチウムの表面改質効果が不十分となる。また、Zr化合物を微粒子化した場合には前記特許文献1〜5の先行技術が示すようにZr化合物が粒子内部に残りやすくなる。
粒子内部に均一に分布させた場合、Zrはコバルト酸リチウム結晶構造の中に置換されることがないためコバルト酸リチウムの結晶性が低くなり、熱的な安定性が低下するばかりでなく、表面の活性も抑制されることがないためにサイクル特性や高電圧での耐久性が改善されない。
【0012】
また、前出特許文献12に記載されたようなコバルト酸リチウム粒子粉末にZr化合物を混合して200〜700℃で焼成する方法では、コバルト酸リチウム粒子の界面とZr化合物の結合が弱く、十分な表面改質効果を得ることが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0014】
即ち、本発明は、Zr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末であって、Zr化合物が粒子内部に存在せず表面に局在しており、且つ、前記Zr化合物の化学式がLix(Zr1−yAy)Oz(x、y及びzは、2.0≦x≦8.0、0≦y≦1.0、2.0≦z≦6.0)で表され、Zr含有率が0.05〜1.0wt%であることを特徴とするZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末である(本発明1)。
【0015】
また、本発明は、粒子表面に局在するZr化合物の一次粒子の平均粒径が1.0μm以下である前記Zr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末である(本発明2)。
【0016】
また、本発明は、粒子表面に局在するZr化合物において、x=2である本発明1又は2記載のZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末である(本発明3)。
【0017】
また、本発明は、本発明1乃至3のいずれかに記載のコバルト酸リチウム粒子粉末において、粒子表面に局在する前記Zr化合物のA元素が、Mg、Al、Ca、Y、Ce、Sn、Tiから選ばれる少なくとも1種であるZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末である(本発明4)。
【0018】
また、本発明は、コバルト原料、ジルコニウム原料、リチウム原料を混合、焼成するZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末の製造方法において、前記コバルト原料の挙動粒子の平均粒径が1.0μm以下の酸化コバルトであることを特徴とする本発明1〜4のいずれかに記載のZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末の製造方法である(本発明5)。
【0019】
また、本発明は、コバルト原料、ジルコニウム原料、リチウム原料を混合、焼成するZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末の製造方法において、前記コバルト原料の挙動粒子の平均粒径が1.0μm以下の酸化コバルトであり、且つ、前記ジルコニウム原料の挙動粒子の平均粒径が1.0μm以下の酸化ジルコニウムであることを特徴とする本発明5記載のZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末の製造方法である(本発明6)。
【0020】
また、本発明は、コバルト原料の挙動粒子の平均粒径が0.5μm以下の酸化コバルトであり、且つ、ジルコニウム原料の挙動粒子の平均粒径が0.8μm以下の酸化ジルコニウムであることを特徴とする本発明6記載のZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末の製造方法である(本発明7)。
【0021】
また、本発明は、コバルト原料が、Ni、Mn、Si、Sn、Ti、Mg、Alから選ばれる少なくとも1つの元素を含有する酸化コバルトであることを特徴とする本発明5〜7のいずれかに記載されたZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末の製造方法である(本発明8)。
【0022】
また、本発明は、請求項1〜3のいずれかに記載のZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末を正極活物質またはその一部として用いた非水電解液二次電池である(本発明9)。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るコバルト酸リチウム粒子粉末は、負荷特性、サイクル特性及び熱安定性に優れているので、非水電解質二次電池用の正極活物質として好適である。
【0024】
Zr化合物による安定化について検討した結果、コバルト酸リチウムの生成から成長段階において、コバルト酸リチウム表面にZr化合物が析出することにより、コバルト酸リチウムの電気化学特性を損なうことなく、表面活性を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0026】
先ず、本発明に係るZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末について述べる。
【0027】
本発明に係るZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末は、コバルト酸リチウム粒子の粒子内部にZr化合物が存在せず、粒子表面にZr化合物が存在する。
粒子内部にZr化合物が存在する場合には、Zrはコバルト酸リチウム粒子の結晶構造の中に置換されることがないためコバルト酸リチウムの結晶性が低くなり、熱的な安定性が低下するばかりでなく、表面の活性も抑制されることがないためにサイクル特性や高電圧での耐久性が改善されない。
【0028】
なお、コバルト酸リチウム粒子粉末の粒子内部には、Ni、Mn、Si、Sn、Ti、Mg又はAlから選ばれる1種以上の元素をCoに対して0.05〜5.0mol%含有してもよい。
【0029】
粒子表面に存在させるZr化合物は、化学式がLix(Zr1−yAy)Oz(x、y及びzは、2.0≦x≦8.0、0≦y≦1.0、2.0≦z≦6.0)で表される。
x、y、zが前記範囲外の場合には、表面改質効果が十分とは言い難い。Zr化合物は好ましくは化学式:LiZrO(空間群:C2/c)、LiZr、LiZrO、LiZrOである。より好ましくはxが2のLiZrOである。
【0030】
粒子表面に存在するZr化合物は、A元素が、Mg、Al、Ca、Y、Ce、Sn、Tiから選ばれる少なくとも1種である元素を含有してもよい。前記A元素を含有することによって、よりサイクル特性が向上する。
【0031】
本発明に係るZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末における前記Zr化合物のZr含有率が粒子全体に対して0.05〜1.0wt%である。Zr含有量が0.05wt%未満の場合、サイクル特性が改善されない。Zr含有量が1.0wt%を超える場合、初期放電容量が減少する。より好ましくは0.05〜0.8wt%である。
【0032】
粒子表面に存在するZr化合物の一次粒子の平均粒径は1.0μm以下であることが好ましい。Zr化合物の平均粒径が1.0μmを超える場合には、表面改質効果が十分とは言い難い。より好ましくは0.1〜0.8μmである。
【0033】
本発明に係るZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末の挙動粒子の平均粒径(D50)は1.0〜30μmが好ましい。平均粒径が1μm未満の場合には、充填密度の低下と安全性が低下する。30μmを超える場合には、工業的に生産することが困難となる。より好ましい挙動粒子の平均粒径(D50)は2.0〜25μm、更により好ましくは10〜20μmである。
【0034】
なお、本発明に係るZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末のBET比表面積は、1.0m/g以下が好ましい。1.0m/gを超える場合には充填密度の低下や電解液との反応性が増加するため好ましくない。
【0035】
次に、本発明に係るZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末の製造法について述べる。
【0036】
本発明に係るZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末は、コバルト原料、ジルコニウム原料、リチウム原料を混合、焼成して得られるものであり、前記コバルト原料は、挙動粒子の平均粒径が1.0μm以下の酸化コバルトである(本発明5)。
【0037】
酸化コバルトの挙動粒子の平均粒径が1.0μmを超える場合、Zr化合物が単独で生成し、コバルト酸リチウムの表面改質効果が不十分となる。より好ましい平均粒径は0.1〜0.5μmである。
【0038】
なお、コバルト原料である酸化コバルトには、Ni、Mn、Si、Sn、Ti、Mg、Alから選ばれる少なくとも1つの元素を含有していてもよい。
【0039】
また、ジルコニウム原料は、挙動粒子の平均粒径が1.0μm以下の酸化ジルコニウムであることが好ましい(本発明6)。
【0040】
酸化ジルコニウムの挙動粒子の平均粒径が1.0μmを超える場合、Zr化合物が単独で生成し、コバルト酸リチウムの表面改質効果が不十分となる。より好ましい平均粒径は0.1〜0.8μmである。
【0041】
コバルト酸リチウム粒子粉末の粒子表面に、Mg、Al、Ca、Y、Ce、Sn、Tiから選ばれる少なくとも1種であるA元素を含有するLix(Zr1−yAy)Ozを存在させる場合には、ジルコニウム原料とともに、前記A元素の化合物を添加・混合すればよい。
【0042】
リチウムの混合比は、コバルト酸化物中の金属元素(Co、Mg、異種金属)の総モル数に対して0.95〜1.05であることが好ましい。
【0043】
焼成温度は、高温規則相であるLiCoOが生成する600℃〜1100℃であることが好ましい。600℃以下の場合には擬スピネル構造を有する低温相であるLiCoOが生成し、1100℃以上の場合にはリチウムとコバルトの位置がランダムである高温不規則相のLiCoOが生成する。焼成時の雰囲気は酸化性ガス雰囲気が好ましい。反応時間は5〜20時間が好ましい。
【0044】
次に、本発明に係る非水電解質二次電池用Zr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末からなる正極活物質を用いた正極について述べる。
【0045】
本発明に係る正極活物質を用いて正極を製造する場合には、常法に従って、導電剤と結着剤とを添加混合する。導電剤としてはアセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛等が好ましく、結着剤としてはポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等が好ましい。
【0046】
本発明に係る正極活物質を用いて製造される二次電池は、前記正極、負極及び電解質から構成される。
【0047】
負極活物質としては、リチウム金属、リチウム/アルミニウム合金、リチウム/スズ合金、グラファイトや黒鉛等を用いることができる。
【0048】
また、電解液の溶媒としては、炭酸エチレンと炭酸ジエチルの組み合わせ以外に、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル等のカーボネート類や、ジメトキシエタン等のエーテル類の少なくとも1種類を含む有機溶媒を用いることができる。
【0049】
さらに、電解質としては、六フッ化リン酸リチウム以外に、過塩素酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム等のリチウム塩の少なくとも1種類を上記溶媒に溶解して用いることができる。
【0050】
本発明に係る正極活物質を用いて製造した二次電池は、初期放電容量が150〜170mAh/gであり、後述する評価法で測定した高負荷容量維持率が95%以上、熱安定性(発熱開始温度)は180℃以上、サイクル容量維持率85%以上の優れた特性を示す。
【0051】
<作用>
本発明において重要な点は、コバルト酸リチウム粒子の粒子表面にLix(Zr1−yAy)OzからなるZr化合物を存在させることによって、該コバルト酸リチウム粒子粉末を二次電池の正極活物質として用いた場合には、負荷特性、サイクル特性及び熱安定性に優れた二次電池が得られるという事実である。
【0052】
本発明に係るZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末が二次電池の正極活物質として優れた特性を有する理由として、コバルト酸リチウム粒子粉末の粒子表面に前記Zr化合物が存在することによって、コバルト酸リチウムの電気化学特性を損なうことなく、表面活性を抑制できるためであると本発明者は推定している。
【実施例】
【0053】
本発明の代表的な実施の形態は次の通りである。
【0054】
挙動粒子の平均粒径(D50)はレーザー式粒度分布測定装置マイクロトラックHRA[日揮装(株)製]を用いて湿式レーザー法で測定した体積基準の平均粒径である。
尚、試料にはヘキサメタリン酸ソーダーを添加し、超音波分散した後に測定を行った。
【0055】
一次粒子径は、SEM像から平均値を読み取った。
【0056】
被覆又は存在させる粒子の存在状態はエネルギー分散型X線分析装置付き走査電子顕微鏡SEM−EDX[(株)日立ハイテクノロジーズ製]を用いて観察した。
【0057】
被覆又は存在させる粒子の平均一次粒子径はエネルギー分散型X線分析装置付き走査電子顕微鏡SEM−EDX[(株)日立ハイテクノロジーズ製]を用いて観察し、確認した。
【0058】
試料の同定は、粉末X線回折(RIGAKU Cu-Kα 40kV 40mA)を用いた。
【0059】
比表面積はMacsorb HM model−1208(マウンテック社製)を用いて、BET法にて測定した。
【0060】
正極活物質の電池特性は、下記製造法によって正極、負極及び電解液を調整しコイン型の電池セルを作製して評価した。
【0061】
<正極の作製>
正極活物質としてLi−Co複合酸化物を93重量%、導電材としてアセチレンブラックを2重量%及びグラファイトKS−16を2重量%、バインダーとしてN−メチルピロリドンに溶解したポリフッ化ビニリデン3重量%とを混合した後、Al金属箔に塗布し150℃にて乾燥した。このシートをφ16mmに打ち抜いた後、1t/cmで圧着し、電極厚みを50μmとした物を正極板とした。
【0062】
<負極の作製>
金属リチウム箔をφ16mmの円板状に打ち抜いて負極を作製した。
【0063】
<電解液の調整>
電解液は1mol/lのLiPFを溶解したECとDECを体積比で3:7に混合した溶液を用いた。
【0064】
<コイン型電池セルの組み立て>
アルゴン雰囲気のグローブボックス中でSUS316製のケースを用い、上記正極と負極の間にポリプロピレン製のセパレータを介し、さらに電解液を注入してCR2032型のコイン電池を作製した。
【0065】
<電池評価>
初期充放電特性は、室温で充電は4.3Vまで0.1Cの電流密度にて行った後、90分間低電圧充電を行い、放電を3.0Vまで0.1Cの電流密度にて行い、その時の初期充電容量、初期放電容量及び初期効率を測定した。
【0066】
高負荷特性は0.1Cでの放電容量測定(a)を行なった後に再度0.1Cで充電を行ない、その後に1.0Cで放電容量を測定(b)して、b/a×100(%)として決定した。
【0067】
また、サイクル容量維持率については、カットオフ電圧が3.0Vから4.3Vの間で1.0Cのレートで充放電を繰り返し、初回放電容量に対する30サイクル目の放電容量の割合とした。
【0068】
<熱安定性評価>
前記コイン型電池を用いて、4.5Vの電圧まで充電し、電池内の正極活物質を取り出し熱分析用の容器に詰め封をし、昇温速度10℃/minで、示差熱分析装置(DSC、セイコーインスツルメンツ社製 DSC6200)を用いてDSC測定を行った。測定結果から発熱開始温度を熱安定性とした。操作温度は300〜400℃の間で行い、また、上記した容器に詰めるまでの作業は全て露点−60℃以下のグローブボックス中で行った。
【0069】
実施例1
Mg含有量が1.0mol%、Al含有量が0.3mol%及びZr含有量が0.2mol%のコバルト酸リチウムを用意した。該コバルト酸リチウムは、下記製造法によって製造した。
即ち、0.5mol/lのコバルトを含有する溶液に、硫酸マグネシウムを添加し、コバルト及びマグネシウムの中和分に対して1.05当量の水酸化ナトリウム水溶液を添加し中和反応させた。次いで、空気を吹き込みながら90℃で20時間酸化反応を行ってマグネシウム含有コバルト酸化物粒子粉末を得た。
得られたコバルト酸化物粒子粉末は、挙動粒子の平均粒径が0.2μmであった。
得られたコバルト酸化物粒子粉末、酸化ジルコニウム(挙動粒子の平均粒径D50μm)と炭酸リチウムとを、混合した後、大気雰囲気1000℃で10時間焼成を行った。
【0070】
得られたコバルト酸リチウム粒子粉末は、組成がLiCo0.987Mg0.01Al0.003であり、平均粒径が15.0μm、BET比表面積は0.22m/gであった。X線回折の結果、異相は存在せず、コバルト酸リチウム単相であることが確認された。
得られたコバルト酸リチウム粒子粉末のSEM像(a)とZrマッピングした写真(b)を図1に、また、コバルト酸リチウム粒子粉末の粒子破断面のSEM像(a)とZrマッピングした写真(b)を図2に示す。Zrマッピングした写真(b)は、SEM像(a)に対してZrが存在する部分をEDXで検出して色分け(緑色)したものである。図1の(b)は、Zrが検出され、Zrが存在する部分(緑色の部分)を○で囲んでいる。図2の(b)では、Zrが検出されなかった。
図1及び図2から、実施例1で得られたコバルト酸化物粒子粉末は、粒子内部にはZrが存在せず、粒子表面にZr化合物が存在することが確認された。
【0071】
実施例1で得られたコバルト酸リチウム粒子粉末のZr部の電子線回折像を図3に示す。電子線回折パターン解析プログラム(EDA)の計算結果より、Zr化合物がLiZrOであることを確認した。
【0072】
前記正極活物質を用いて作製したコイン型電池は、初期放電容量が158mAh/g、熱安定性は183℃であった。また、高負荷容量維持率は97%、サイクル容量維持率は92%であった。
【0073】
実施例2〜6、比較例1〜4
酸化コバルトと酸化ジルコニウムの挙動粒子の平均粒径及びZrの含有量、異種金属の種類及び添加量を種々変化させた以外は、前記実施例1と同様にして、コバルト酸リチウムからなる正極活物質を得た。
【0074】
このときの製造条件、及び得られた正極活物質の諸特性を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
実施例2〜6で得られたコバルト酸リチウム粒子粉末について、実施例1と同様にしてZr化合物の存在状態及び結晶構造を確認したところ、粒子内部にはZrが存在せず、粒子表面にLiZrOで存在することを確認した。
【0078】
比較例2で得られたコバルト酸リチウム粒子粉末のSEM像(a)とZrマッピングした写真(b)を図4に、比較例3で得られたコバルト酸リチウム粒子粉末のSEM像(a)とZrマッピングした写真(b)を図5に示す。図4及び図5の(b)の写真において、○で囲まれた部分がZrが存在する部分である。図4、図5から、比較例2、3で得られたコバルト酸リチウム粒子粉末は、粒子表面の一部にZr化合物が存在することが確認された。
比較例4で得られたコバルト酸リチウム粒子粉末の破断面のSEM像(a)とZrマッピングした写真(b)を図6に、比較例6で得られたコバルト酸リチウム粒子粉末のSEM像(a)とZrマッピングした写真(b)を図7に示す。図6の二つの直線が交差する点がZrが存在する部分である。図7の(b)の写真において、○で囲まれた部分がZrが存在する部分である。図6、7から比較例4で得られたコバルト酸化物粒子粉末は、粒子内部にZrが存在するとともに、粒子表面の一部にZr化合物が存在することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係るコバルト酸化物粒子粉末は、負荷特性、サイクル特性及び熱安定性に優れるので、二次電池用の正極活物質として好適である。

【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】実施例1で得られたコバルト酸リチウム粒子粉末の(a)SEM像と(b)Zrマッピングした図である。
【図2】実施例1で得られたコバルト酸リチウム粒子粉末の粒子破断面の(a)SEM像と(b)Zrマッピングした図である。
【図3】実施例1で得られたコバルト酸リチウム粒子粉末のZr部の電子線回折図形である。
【図4】比較例2で得られたコバルト酸リチウム粒子粉末の(a)SEM像と(b)Zrマッピングした図である。
【図5】比較例3で得られたコバルト酸リチウム粒子粉末の(a)SEM像と(b)Zrマッピングした図である。
【図6】比較例4で得られたコバルト酸リチウム粒子粉末の破断面の(a)SEM像と(b)Zrマッピングした図である。
【図7】比較例4で得られたコバルト酸リチウム粒子粉末の(a)SEM像と(b)Zrマッピングした図である。
【図8】Zr量と負荷特性の関係を示すグラフである。
【図9】Zr量と熱安定性の関係を示すグラフである。
【図10】Zr量とサイクル特性の関係を示すグラフである。
【図11】実施例1と比較例4の30サイクル後の放電曲線を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末であって、Zr化合物が粒子内部に存在せず表面に局在しており、且つ、前記Zr化合物の化学式がLix(Zr1−yAy)Oz(x、y及びzは、2.0≦x≦8.0、0≦y≦1.0、2.0≦z≦6.0)で表され、Zr含有率が0.05〜1.0wt%であることを特徴とするZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末。
【請求項2】
粒子表面に局在するZr化合物の一次粒子の平均粒径が1.0μm以下である請求項1記載のZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末。
【請求項3】
粒子表面に局在するZr化合物において、x=2である請求項1又は2記載のZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のコバルト酸リチウム粒子粉末において、粒子表面に局在する前記Zr化合物のA元素が、Mg、Al、Ca、Y、Ce、Sn、Tiから選ばれる少なくとも1種であるZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末。
【請求項5】
コバルト原料、ジルコニウム原料、リチウム原料を混合、焼成するZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末の製造方法において、前記コバルト原料の挙動粒子の平均粒径が1.0μm以下の酸化コバルトであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末の製造方法。
【請求項6】
コバルト原料、ジルコニウム原料、リチウム原料を混合、焼成するZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末の製造方法において、前記コバルト原料の挙動粒子の平均粒径が1.0μm以下の酸化コバルトであり、且つ、前記ジルコニウム原料の挙動粒子の平均粒径が1.0μm以下の酸化ジルコニウムであることを特徴とする請求項5記載のZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末の製造方法。
【請求項7】
コバルト原料の挙動粒子の平均粒径が0.5μm以下の酸化コバルトであり、且つ、ジルコニウム原料の挙動粒子の平均粒径が0.8μm以下の酸化ジルコニウムであることを特徴とする請求項6記載のZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末の製造方法。
【請求項8】
コバルト原料が、Ni、Mn、Si、Sn、Ti、Mg、Alから選ばれる少なくとも1つの元素を含有する酸化コバルトであることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載のZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載のZr化合物で被覆されたコバルト酸リチウム粒子粉末を正極活物質またはその一部として用いた非水電解液二次電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−311132(P2008−311132A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158942(P2007−158942)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】