説明

非水電解液二次電池用負極の製造方法

【課題】 充放電時における活物質層の膨張収縮に起因する体積変化を効果的に緩和し得る構造の非水電解液二次電池用負極を容易に製造し得る方法を提供すること。
【解決手段】 多数の開口部を有するパターンからなるレジスト11aを集電2体の一面上に形成する。該開口部内にスズからなる第1の層13及びスズと合金の形成可能な金属からなる第2の層14をこの順で形成する。レジスト11を除去して、第1の層13及記第2の層14を有する柱状体3’を多数形成する。然る後、前記金属がスズ中に拡散可能な温度下に加熱を行い、柱状体3’をスズと該金属との合金に変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池等の非水電解液二次電池用負極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は先に、集電体の表面に、スズからなる第1被覆層が形成され、その上に銅からなる第2被覆層が形成されてなる非水電解液二次電池用負極を提案した(特許文献1参照)。この負極によれば、負極の長寿命化が達成でき、しかも単位体積及び単位重量当たりのエネルギー密度を向上させることができる。特に、前記の第1被覆層及び第2被覆層を形成した後に、これらの層を熱処理してスズ−銅の合金層を形成することで、活物質であるスズがリチウムを吸脱蔵して体積変化することに起因して発生する応力を緩和できるという利点がある。
【0003】
しかし、非水電解液二次電池には一層高い性能が求められており、前記の応力緩和に関しても、これを更に一層向上させて、充放電のサイクル特性を高めることが求められている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−139954号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の目的は、充放電による活物質層の体積変化に起因して発生する応力を一層緩和し得る非水電解液二次電池用負極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、多数の開口部を有するパターンからなるレジストを集電体の一面上に形成し、
該開口部内にスズからなる第1の層及びスズと合金の形成可能な金属からなる第2の層をこの順で形成し、
前記レジストを除去して、前記第1の層及び前記第2の層を有する柱状体を多数形成し、然る後、
前記金属がスズ中に拡散可能な温度下に加熱を行い、前記柱状体をスズと該金属との合金に変化させることを特徴とする非水電解液二次電池用負極の製造方法を提供することにより前記目的を達成したものである。
【0007】
また本発明は、スズからなる第1の層及びスズと合金の形成可能な金属からなる第2の層を、集電体の一面上にこの順で形成し、
その上に、散点状のパターンからなるレジストを形成し、
レジスト間の露出部位をエッチングにより除去して、該レジストを最表層に有し且つ前記第1の層及び前記第2の層を有する柱状体を多数形成し、
前記柱状体の最表層に位置する前記レジストを除去し、然る後、
前記金属がスズ中に拡散可能な温度下に加熱を行い、前記柱状体をスズと該金属との合金に変化させることを特徴とする非水電解液二次電池用負極の製造方法を提供するものである。
【0008】
更に本発明は、スズからなる第1の層及びスズと合金の形成可能な金属からなる第2の層を、集電体の一面上にこの順で形成し、
前記金属がスズ中に拡散可能な温度下に加熱を行い、前記の各層を、スズと該金属との合金層に変化させ、
前記合金層上に、散点状のパターンからなるレジストを形成し、
レジスト間の露出部位をエッチングにより除去して、該レジストを最表層に有し且つ前記合金からなる柱状体を多数形成し、然る後、
前記柱状体の最表層に位置する前記レジストを除去することを特徴とする非水電解液二次電池用負極の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、充放電時における活物質層の膨張収縮に起因する体積変化を効果的に緩和し得る構造の非水電解液二次電池用負極を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には、本実施形態の製造方法に従い製造される非水電解液二次電池用負極の一例が示されている。負極1は、集電体2を有している。集電体2の少なくとも一面には、多数の柱状体3が所定の間隔を置いて規則的に形成されている。柱状体3は、例えば円柱又は多角柱の形状をしている。しかし、これらの形状に制限されない。例えば、円柱と多角柱とを組み合わせてもよい。
【0011】
柱状体3は、本実施形態の負極1において活物質層としての役割を有するものである。柱状体3はスズ合金から形成されている。スズ合金としては、スズ−銅合金が好適な材料として挙げられるが、これに制限されず、例えばスズ−ニッケル合金、スズ−アルミニウム合金、スズ−亜鉛合金などを用いることもできる。
【0012】
一方、集電体2は、リチウム二次電池の集電体となり得る金属から構成されていることが好ましい。そのような金属としては例えば、リチウム化合物の形成能の低い元素が挙げられる。リチウム化合物の形成能の低い元素としては銅、ニッケル、鉄、コバルト又はこれらの金属の合金などが挙げられる。「リチウム化合物の形成能が低い」とは、リチウムと金属間化合物若しくは固溶体を形成しないか、又は形成したとしてもリチウムが微量であるか若しくは非常に不安定であることを意味する。
【0013】
以上の構成を有する負極1においては、充電時に活物質層である柱状体3がリチウムを吸蔵して膨張する。膨張は、主として負極1の平面方向に生じる。負極1の平面方向、即ち、隣り合う柱状体3間には隙間が存在しているので、柱状体3は、その隙間を埋めるように膨張する。つまり、柱状体3間の隙間が、柱状体3の体積の増加分の逃げ場になる。その結果、柱状体3の膨張に起因する応力が該隙間によって緩和される。従って、負極1を備えた二次電池においては、充放電を繰り返しても、活物質層である柱状体3が崩壊及び微粉化せず、充放電のサイクル特性が向上する。
【0014】
以上の観点から、柱状体3が規則的に形成されている場合、隣り合う柱状体3間のピッチは、5〜1000μm、特に20〜500μmであることが好ましい。ピッチが小さすぎると、柱状体3間の隙間が、柱状体3の体積の増加分を十分に吸収できず、膨張に起因して発生する応力を十分に緩和できない。ピッチが大きい場合には、そのような不都合は生じないが、リチウムを吸蔵する容量を十分に大きく出来ない。
【0015】
柱状体3が規則的に形成されているか、或いは不規則に形成されているかを問わず、負極1の見かけの面積に対する、柱状体3の横断面積の総和の割合は10〜70%、特に10〜50%であることが、リチウムを吸蔵する容量を十分に確保しつつ、柱状体3の膨張に起因して発生する応力を十分に緩和する観点から好ましい。
【0016】
個々の柱状体3の寸法に関しては、柱状体3は、その充電されていない状態での柱状体3の直径が10〜1000μm2程度、特に10〜500μm2程度の微小なものであることが好ましい。またその高さは10〜200μm程度、特に10〜100μm程度であることが好ましい。柱状体3の高さhに対する直径xの比率(x/h)が小さいと、柱状体3が細長いものとなり、外力に対して変形しやすくなる。逆にx/hの比率が大きいと、リチウムを吸蔵する容量を十分に大きくすることが容易でない。これらの観点から、x(μm)/h(μm)の比率は、1〜10、特に1〜5であることが好ましい。
【0017】
一方、集電体2の構成に関しては、集電体2の表面のうち、柱状体3が形成されている面は、柱状体3を構成するスズ合金の金属成分(即ち、スズと共に合金を形成する金属成分)から構成されていることが好ましい。例えば、柱状体がスズ−銅合金である場合、集電体2の表面は銅から構成されていることが好ましい。表面が銅から構成されている集電体2の具体例としては、(イ)集電体2そのものが銅からなる場合、(ロ)集電体2の本体は銅以外の金属、例えばステンレスからなり、そのステンレスの表面に、厚み5〜10μm程度の銅の層が形成されている場合などがある。
【0018】
集電体2の厚みは本実施形態において臨界的なものでなく、負極1の強度確保と、負極1のエネルギー密度向上とのバランスの観点から適宜決定される。集電体2の厚みは一般に10〜50μm程度であることが好ましい。
【0019】
図1に示す構成の負極1は、図2(a)〜(h)に示す方法に従い好適に製造される。図2(a)〜(h)に示す製造方法は、概略すると、リソグラフィー法によって集電体上に所定パターンのレジストを形成する工程(図2(a)〜(c))、多層構造の柱状体を形成する工程(図2(d)〜(g))、スズ合金からなる柱状体を形成する工程(図2(h))を含んでいる。以下、これらの工程についてそれぞれ説明する。
【0020】
はじめに、図2(a)〜(c)に示す工程に従い、集電体上に所定パターンのレジストを形成する。先ず図2(a)に示すように集電体2を用意する。集電体2の詳細については先に述べた通りである。
【0021】
次に同図に示すように、集電体2の一面上に、感光性樹脂の層11を形成する。感光性樹脂としてはリソグラフィーの技術分野において従来用いられているものと同様のものを、特に制限なく用いることができる。例えば、ラミネータを用いて、感光性樹脂のドライフィルムを貼り付けて形成する方法や、液体の感光性樹脂を用いて形成する方法で感光性樹脂の層11を形成することができる。特にドライフィルムは、光によって反応する硬化レジスト層がポリエチレンフィルムとポリエステルフィルムとの間で扶持された構造を持つものであり、プリント配線板のエッチングレジストとして広く使用されているものである。ドライフィルムは、厚さに種々のバリエーションを持たせることが容易であり、最終的に得られる柱状体3の高さの幅の選択肢を広げることができる。そのようなドライフィルムとしては、例えばニチゴー・モートン株式会社製のALPHO NIT10,102J,LAMINAR GA(何れも商品名)や、デュポンMRCドライフィルム株式会社製のFX900,SF100(何れも商品名)などが挙げられる。
【0022】
感光性樹脂の層11の厚みは、柱状体3の高さに影響を及ぼす。詳細には、柱状体3の高さは、感光性樹脂の層11の厚みと同レベル又はそれ以下となる。このことを考慮して感光性樹脂の層11の厚みを設定する。柱状体3の高さについては、先に述べた通りである。感光性樹脂の層11の厚みは、柱状体3の高さを考慮して、10〜200μm、特に10〜100μmであることが好ましい。このような厚みを有する層11を形成するためには、例えば前記の範囲の厚みを有する感光性樹脂のフィルムを、集電体2の一面に貼り付ける方法を採用することができる。或いは、感光性樹脂を含む溶液を集電体2の一面に塗布し、溶媒を乾燥させて塗膜を形成する方法を採用することもできる。
【0023】
このようにして得られた感光性樹脂の層11の上に、図2(b)に示すようにマスク12を配置する。マスク12には、目的とする負極1に形成される柱状体3に対応するパターンが形成されている。本実施形態で用いるマスク12は図3に示すパターンを有するものである。図3に示すマスク12は、透光部12aと遮光部12bとを有している。遮光部12bは感光性樹脂の露光に用いられる光の透過を妨げる部位である。遮光部12bは例えば円形をしており、縦横方向に規則的に配置されている。尤も、遮光部12bの形状は円形に限られず、他の形状、例えば六角形や八角形等の多角形や楕円形、又はこれらの組み合わせであってもよい。透光部12aは、感光性樹脂の露光に用いられる光(例えば紫外線)の透過が可能な部位である。透光部12aは、遮光部12bを取り囲むように形成されている。このような構成のマスクとしては、リソグラフィーの技術分野において通常用いられているものと同様のものを用いることができる。
【0024】
遮光部12bの径は、柱状体3の径に影響を及ぼす。また遮光部12bのピッチは、柱状体3のピッチに影響を及ぼす。この観点から、遮光部12bの直径は10〜1000μm、特に10〜500μmであることが好ましい。遮光部12bのピッチは5〜1000μm、特に20〜500μmであることが好ましい。ピッチは、隣り合う遮光部12bの中心を結ぶ平均長さで定義される。
【0025】
感光性樹脂の層11上にマスク12が配置された状態下に、図2(b)に示すように、紫外線等の光を照射し、感光性樹脂を露光する。光はマスク12における透光部12aのみを透過する。マスク12及び感光性樹脂の層11に対して平行光が照射されるようにするため、マスク12の透光部12aに光が入射する前に、コリメータレンズ群(図示せず)を、光源(図示せず)とマスク12との間に設置する。これによって透光部12aの直下に位置する感光性樹脂のみが露光する。これによって層11は、露光した感光性樹脂からなる部位(以下、露光部位という)11aと、露光されていない感光性樹脂からなる部位(非露光部位)11bとから構成されることになる。感光性樹脂の露光に用いられる光は、当該樹脂の種類に応じて適切な波長のものが選択される。
【0026】
感光性樹脂の露光が完了したら、光の照射を停止し、マスクを除去する。次いで感光性樹脂の層11を現像し、図2(c)に示すように、該層11のうちの非露光部位11bを除去し、露光部位11aのみを残す。これによって、集電体2上には多数の円形の開口部を有するパターンからなるレジストが形成される。除去には、リソグラフィーの技術分野において通常用いられている現像液と同様のものを用いることができ、感光性樹脂の種類に応じて適切なものが選択される。例えば濃度0.5〜3重量%程度の炭酸ナトリウム水溶液を用いることができる。以上が、所定パターンのレジストの形成工程である。
【0027】
次に、露光部位11aからなるレジストの開口部に、図2(d)に示すようにスズからなる第1の層13を形成する。第1の層13の形成方法に特に制限はなく、例えば各種薄膜形成方法を用いることができる。そのような薄膜形成方法としては、電解めっき、スパッタリング、化学気相蒸着法、物理気相蒸着法などが挙げられる。
【0028】
第1の層13の厚みは、最終的に得られる柱状体3の高さとの関係で適宜調整される。具体的には、柱状体3の高さの10〜70%、特に10〜50%の厚みで第1の層13を形成することが、均一なスズ合金からなる柱状体3を形成し得る点から好ましい。
【0029】
以上の操作によって第1の層13が形成されたら、図2(e)に示すように、その上に第2の層14を形成する。第2の層14は、スズと合金の形成可能な金属から構成されている。そのような金属の例については先に述べた通りであり、その好適な一例が銅である。
【0030】
第2の層14は、第1の層13と同様の方法で形成することができる。第2の層14の厚みは、第1の層13の厚みと同様に、最終的に得られる柱状体3の高さとの関係で適宜調整される。具体的には、柱状体3の高さの10〜70%、特に10〜50%の厚みで第2の層14を形成することが、均一なスズ合金からなる柱状体3を形成し得る点から好ましい。
【0031】
第2の層14の上には、図2(f)に示すように、スズからなる第3の層15が形成される。第3の層15は、先に述べた第1の層13及び第2の層14と同様な方法で形成することができる。第3の層15の厚みは、第1の層13のそれと同様とすることができる。この場合、第3の層15の厚みは、第1の層13のそれと同じでもよく或いは異なっていてもよい。
【0032】
次いで、図2(g)に示すように、露光部位11aからなるレジストを除去し、第1、第2及び第3の層13,14,15を有する多層構造の柱状体3’を多数形成する。露光部位11aの除去には、リソグラフィーの技術分野において通常用いられている除去液(例えば1〜5重量%の水酸化ナトリウム溶液など)と同様のものを用いることができ、感光性樹脂の種類に応じて適切なものが選択される。
【0033】
最後に、図2(h)に示すように、多層構造の柱状体3’における第2の層14を構成する金属がスズ中に拡散可能な温度下に加熱を行う。これによって、該金属とスズとを相互拡散させ、多層構造の柱状体3’を、スズと該金属との合金からなる柱状体3に変化させる。このようにして、目的とする負極1が得られる。
【0034】
加熱の条件は、第2の層14を構成する金属の種類に応じて適宜調整する。一般に120〜350℃、特に160〜250℃であることが好ましい。加熱時間は、均一なスズ合金が形成されるように適宜調整され、一般に10分〜24時間、特に10分〜6時間であることが好ましい。加熱は、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うことができる。また空気中で行ってもよい。或いは真空中で行ってもよい。過剰な酸化を防止する観点からは、不活性ガス雰囲気下又は真空中で加熱を行うことが好ましい。
【0035】
以上の方法によれば、高さが十分に高いスズ合金の柱状体3を、均一な組成で以て形成することができる。従って、十分な量のリチウムを吸蔵することができる。しかも、柱状体3がリチウムを吸蔵した場合、該柱状体3はその全体が均一に膨張するので、膨張後の形状が不規則になり難く、膨張後も安定した形状を保ち得る。特に、集電体2における柱状体3が形成されている面が、第2の層14を構成する金属から構成されていると、該金属とスズとの相互拡散が一層効率的に行われ、一層均一なスズ合金を形成することができる。
【0036】
これに対して、例えば、スズと合金の形成可能な金属からなる集電体上に、スズからなる柱状体を形成し、次いで、加熱による原子拡散で該柱状体をスズと該金属との合金に変化させようとすると、柱状体中のスズ合金の組成が不均一になりやすい。特に柱状体の先端部に向かうに連れて、前記金属の量が減少していく。その結果、該柱状体がリチウムを吸蔵すると、該柱状体の膨張が不均一になりやすい。例えば膨張した柱状体は、先端部分が傘のひらいたマッシュルーム形状となり、折れ曲がりの原因になりやすい。また、膨張の結果、隣り合う柱状体と接触しやすくなり、微粉化の原因になりやすく、容量劣化の要因となる。
【0037】
次に、図1に示す負極1の製造方法の別の実施形態を図4ないし図6を参照しながら説明する。これらの実施形態に関し、特に説明しない点については、先に述べた実施形態に関する説明が適宜適用される。また図4ないし図6において、図1ないし図3と同じ部材には同じ符号を付してある。
【0038】
図4(a)〜(i)に示す製造方法は、概略すると、第1ないし第3の層を形成する工程(図4(a)〜(c))、リソグラフィー法によって第3の層上に所定パターンのレジストを形成する工程(図4(d)〜(f))、レジスト間の露出部位をエッチングにより除去する工程(図4(g))、レジストを除去する工程(図4(h))、スズ合金からなる柱状体を形成する工程(図4(i))を含んでいる。以下、これらの工程についてそれぞれ説明する。
【0039】
先ず、図4(a)〜(c)に示すように、スズからなる第1の層13、スズと合金の形成可能な金属からなる第2の層14、スズからなる第3の層15をこの順で集電体2の一面上に形成する。各層の形成方法及び各層の厚みは、先に述べた実施形態と同様とすることができる。
【0040】
第3の層15の表面上に、図4(d)に示すように、感光性樹脂の層11を形成する。感光性樹脂としては、先に述べた実施形態と同様のものを使用することができる。感光性樹脂の層11の厚みに特に制限はなく、後述するエッチングを首尾良く行い得る厚みであればよい。一般にその厚みが1〜100μm、特に3〜50μmであれば満足すべき結果が得られる。このような厚みを有する層11を形成するためには、例えば前記の範囲の厚みを有する感光性樹脂のフィルムを、第3の層15の表面に貼り付ける方法を採用することができる。或いは、感光性樹脂を含む溶液を第3の層15の表面に塗布し、溶媒を乾燥させて塗膜を形成する方法を採用することもできる。
【0041】
このようにして得られた感光性樹脂の層11の上に、図2(e)に示すようにマスク12を配置する。マスク12には、目的とする負極1に形成される柱状体に対応するパターンが形成されている。本実施形態で用いるマスク12は、先に説明した図3に示すパターンが反転した状態になっている図5に示すパターンを有するものである。マスク12は、透光部12aと遮光部12bとを有している。透光部12aは例えば円形をしており、縦横方向に規則的に配置されている。遮光部12bは透光部12aを取り囲むように形成されている。透光部12aの径及びピッチは、先に説明した図3に示すマスクにおける遮光部12bの径及びピッチと同様とすることができる。
【0042】
感光性樹脂の層11上にマスク12が配置された状態下に、図2(e)に示すように、紫外線等の光を照射し、感光性樹脂を露光する。光はマスク12における透光部12aのみを透過する。これによって透光部12aの直下に位置する感光性樹脂のみが露光する。その結果、層11は、露光した感光性樹脂からなる部位(以下、露光部位という)11aと、露光されていない感光性樹脂からなる部位(非露光部位)11bとから構成されることになる。
【0043】
感光性樹脂の露光が完了したら、光の照射を停止し、マスク12を除去する。次いで感光性樹脂の層11を現像し、図4(f)に示すように、該層11のうちの非露光部位11bを除去し、露光部位11aのみを残す。その結果、第3の層15上には、円形の散点状のパターンからなるレジストが形成される。露光部位11aからなるレジストの形状及び寸法は、マスク12における透光部12aのそれと対応している。以上が、レジストの形成工程である。
【0044】
次に、露光部位11aからなるレジスト間の露出部位(この露出部位には第3の層15が露出している)を、エッチング液を用いてエッチングし除去する。その結果、図4(g)に示すように、露光部位11aからなるレジストを最表層に有し且つ第1の層13第2の層14及び第3の層15を有する多層構造の柱状体3’が多数形成される。
【0045】
エッチング液は、各層13,14,15の構成材料を溶解し得るものであればその種類に特に制限はない。例えば塩化銅系のエッチング液を用いることができる。塩化銅系のエッチング液は、塩化銅の水溶液と塩酸の水溶液を混合して得られ、商業的に入手可能なものを特に制限なく用いることができる。
【0046】
エッチングにより多層構造の柱状体3’が形成されたら、図4(h)に示すように、露光部位11aからなるレジストパターンを除去する。その結果、多層構造の柱状体3’は、第1の層13第2の層14及び第3の層15から構成される。露光部位11aの除去には、リソグラフィーの技術分野において通常用いられている除去液(例えば1〜5重量%の水酸化ナトリウム溶液など)と同様のものを用いることができ、感光性樹脂の種類に応じて適切なものが選択される。
【0047】
最後に、多層構造の柱状体3’における第2の層14を構成する金属がスズ中に拡散可能な温度下に加熱を行う。これによって多層構造の柱状体3’を、図4(i)に示すように、スズと該金属との合金からなる柱状体3に変化させる。このようにして、目的とする負極1が得られる。
【0048】
図6(a)〜(f)に示す実施形態の製造方法は、図4(a)〜(i)に示す実施形態の変形例である。本実施形態においては、先ず図4(a)〜(c)に示す工程を行い、スズからなる第1の層13、スズと合金の形成可能な金属からなる第2の層14、スズからなる第3の層15をこの順で集電体2の一面上に形成する。次に、第2の層14を構成する金属がスズ中に拡散可能な温度下に加熱を行う。これによって、図6(a)に示すように、これら3層から単層のスズ合金層3”を形成する。
【0049】
次に、図6(b)〜(d)に示すように、リソグラフィー法によってスズ合金層3”上に円形の散点状パターンからなるレジストを形成する。この工程では、先に説明した図4(d)〜(f)に示す工程と同様の操作が行われる。先ず、図6(b)に示すように、スズ合金層3”の表面上に、感光性樹脂の層11を形成する。このようにして得られた感光性樹脂の層11の上に、図6(c)に示すようにマスク12を配置する。マスク12は、先に説明した図5に示すパターンを有するものであり、円形の透光部12aと、それを取り囲む遮光部12bから構成されている。感光性樹脂の層11上にマスク12が配置された状態下に、図6(c)に示すように、紫外線等の光を照射し、感光性樹脂を露光する。光はマスク12における透光部12aのみを透過する。これによって透光部12aの直下に位置する感光性樹脂のみが露光する。その結果、層11は、露光部位11aと、非露光部位11bとから構成されることになる。感光性樹脂の露光が完了したら、光の照射を停止し、マスク12を除去する。次いで感光性樹脂の層11を現像し、図6(d)に示すように、該層11のうちの非露光部位11bを除去し、露光部位11aのみを残す。その結果、スズ合金層3”上には、円形の散点状のパターンからなるレジストが形成される。
【0050】
次に、露光部位11aからなるレジスト間の露出部位(この露出部位にはスズ合金層13”が露出している)を、エッチング液を用いてエッチングし除去する。その結果、図6(e)に示すように、露光部位11aからなるレジストを最表層に有し且つスズ合金からなる柱状体3aが多数形成される。
【0051】
最後に、図6(f)に示すように、柱状体3aにおける露光部位11aからなるレジストパターンを除去する。このようにして、目的とする負極1が得られる。
【0052】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記の各実施形態においては、集電体2上に、スズからなる第1の層13、スズと合金の形成可能な金属からなる第2の層14及びスズからなる第3の層15を形成したが、柱状体3の高さによっては、スズからなる第1の層13及びスズと合金の形成可能な金属からなる第2の層14を形成すれば十分な場合もある。逆に、スズからなる第3の層15の上に、スズと合金の形成可能な金属からなる第4の層を形成してもよい。
【0053】
また前記実施形態においては、リソグラフィー法によって所定パターンのレジストを形成したが、これに代えてインクジェット印刷法やスクリーン印刷法、グラビア印刷法などの各種印刷法によってレジストを形成してもよい。特にインクジェット印刷法を用いる場合には、コンピュータを用い、レジストの形成パターンをマウスやタプレット等のポインティングデバイスで描画・編集し、該コンピュータからの画像処理データをインクジェットプリンターに伝送することで、自由自在にレジストを形成することができる。なお、インクジェット印刷法を用いる場合には、一回当たり噴射されるインクの量が少ないので、同一パターンで複数回印刷することで所望の厚みのレジストを得るようにすることが好ましい。
【0054】
更に、前記実施形態においては、露光された部位が現像によって残るタイプの樹脂であるネガ型の感光性樹脂を用いたが、これに代えて、露光された部位が現像によって除去されるタイプの樹脂であるポジ型の感光性樹脂を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、本発明の製造方法の一実施形態に従い製造される非水電解液二次電池用負極の一例を示す模式図である。
【図2】図2(a)〜(h)は、本発明の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【図3】図3は、図2に示す製造方法で用いられるマスクのパターンを示す図である。
【図4】図4(a)〜(i)は、本発明の製造方法の別の実施形態を示す工程図である。
【図5】図5は、図4に示す製造方法で用いられるマスクのパターンを示す図である。
【図6】図6(a)〜(f)は、本発明の製造方法の更に別の実施形態を示す工程図である。
【符号の説明】
【0056】
1 非水電解液二次電池用負極
2 集電体
3 柱状体
11 感光性樹脂の層
12 マスク
13 第1の層
14 第2の層
15 第3の層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の開口部を有するパターンからなるレジストを集電体の一面上に形成し、
該開口部内にスズからなる第1の層及びスズと合金の形成可能な金属からなる第2の層をこの順で形成し、
前記レジストを除去して、前記第1の層及び前記第2の層を有する柱状体を多数形成し、然る後、
前記金属がスズ中に拡散可能な温度下に加熱を行い、前記柱状体をスズと該金属との合金に変化させることを特徴とする非水電解液二次電池用負極の製造方法。
【請求項2】
スズからなる第1の層及びスズと合金の形成可能な金属からなる第2の層を、集電体の一面上にこの順で形成し、
その上に、散点状のパターンからなるレジストを形成し、
レジスト間の露出部位をエッチングにより除去して、該レジストを最表層に有し且つ前記第1の層及び前記第2の層を有する柱状体を多数形成し、
前記柱状体の最表層に位置する前記レジストを除去し、然る後、
前記金属がスズ中に拡散可能な温度下に加熱を行い、前記柱状体をスズと該金属との合金に変化させることを特徴とする非水電解液二次電池用負極の製造方法。
【請求項3】
スズからなる第1の層及びスズと合金の形成可能な金属からなる第2の層を、集電体の一面上にこの順で形成し、
前記金属がスズ中に拡散可能な温度下に加熱を行い、前記の各層を、スズと該金属との合金層に変化させ、
前記合金層上に、散点状のパターンからなるレジストを形成し、
レジスト間の露出部位をエッチングにより除去して、該レジストを最表層に有し且つ前記合金からなる柱状体を多数形成し、然る後、
前記柱状体の最表層に位置する前記レジストを除去することを特徴とする非水電解液二次電池用負極の製造方法。
【請求項4】
前記集電体における少なくとも前記一面が、スズと合金の形成可能な前記金属から構成されている請求項1ないし3の何れかに記載の非水電解液二次電池用負極の製造方法。
【請求項5】
前記第2層の上に、スズからなる第3の層を更に形成する請求項1ないし3の何れかに記載の非水電解液二次電池用負極の製造方法。
【請求項6】
スズと合金の形成可能な金属が銅である請求項1ないし3の何れかに記載の非水電解液二次電池用負極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−26963(P2007−26963A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−209271(P2005−209271)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】