説明

非水電解液二次電池用負極板、非水電解液二次電池用負極板の製造方法、非水電解液二次電池、および電池パック

【課題】電極活物質層を備える高出入力特性の非水電解液二次電池用負極板を提供し、また樹脂製結着材を用いずとも、集電体表面に良好に負極活物質粒子を固着させて電極活物質層を形成してなる負極板を製造する方法を提供し、これによって高出入力特性の優れた非水電解液二次電池、および電池パックを提供する。
【解決手段】集電体と、上記集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層とを備える非水電解液二次電池用負極板において、リチウムイオン挿入脱離反応を示さず、且つ、金属酸化物を含まない金属化合物を結着物質として、負極活物質粒子を集電体上に固着させ、電極活物質層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池などの非水電解液二次電池に用いられる負極板、および上記負極板の製造方法、並びに非水電解液二次電池、および電池パックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池は、高エネルギー密度、高電圧を有し、また充放電時におけるメモリ効果(完全に放電させる前に電池の充電を行なうと次第に電池容量が減少していく現象)が無いことから、携帯機器、及び大型機器など様々な分野で用いられている。
【0003】
また、現在、世界規模でCO排出抑制の取り組みが行われており、石油依存度を低減し、低環境負荷で走行可能とすることで、CO削減に大いに寄与することができるプラグインハイブリッド自動車、電気自動車に代表される次世代クリーンエネルギー自動車の開発・普及が急務とされている。これらの次世代クリーンエネルギー自動車の開発・普及には、ガソリンに依存しない駆動力が必須である。上記駆動力としてリチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池が期待されている。
【0004】
上記非水電解液二次電池は、正極板、負極板、セパレータ、及び有機電解液から構成される。そして上記正極板及び負極板としては、金属箔などの集電体表面に、電極活物質層形成溶液を塗布して形成された電極活物質層を備えるものが一般的に用いられている。
【0005】
上記電極活物質層形成溶液は、リチウムイオン挿入脱離反応を示すことにより充放電可能な活物質粒子、樹脂製結着材、及び導電材(但し活物質が導電効果も発揮する場合などには、導電材は省略される場合がある)、あるいはさらに、必要に応じてその他の材料を用い、有機溶媒中で混練及び/又は分散させて、スラリー状に調製される。そして電極活物質層形成溶液を集電体表面に塗布し、次いで乾燥して集電体上に塗膜を形成し、必要に応じてプレスすることにより電極活物質層を備える電極板を製造する方法が一般的である(例えば特許文献1段落[0019]乃至[0026]、特許文献2[請求項1]、段落[0051]乃至[0055])。
【0006】
このとき、電極活物質層形成溶液に含有される活物質粒子は、該溶液中に分散する粒子状の化合物であって、集電体表面に塗布されただけでは該集電体表面に固着され難い材料である。したがって樹脂製結着材を含まない電極活物質層形成溶液を集電体に塗布して乾燥して塗膜を形成しても、該塗膜は集電体から容易に剥離してしまう。そのため、従来の電極板における電極活物質層は、樹脂製結着材を介して、電極活物質を集電体上に結着するとともに集電体表面に固着されて、電極活物質層が形成されることが一般的であり、該樹脂製結着材は実質的には、必須の構成物質であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−310010号公報
【特許文献2】特開2006−107750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述するとおり、近年、リチウムイオン二次電池は、さらに電気自動車、ハイブリッド自動車そしてパワーツールなどの高出入力特性が必要とされる分野に向けての開発が進められている。また携帯電話等の比較的小型の装置に用いられる二次電池であっても、装置が多機能化される傾向にあるために、出入力特性の向上が期待されている。これに対し、二次電池において出入力特性の向上を実現するためには、電池のインピーダンスを下げる必要がある。インピーダンスが高い電池では、高速充放電時にその容量を充分に生かすことができないなどの問題があるからである。
【0009】
二次電池のインピーダンスを下げるには、電極板のインピーダンスを下げることが効果的であり、これまでにも電極板に形成される電極活物質層を薄膜化し、電極面積を大きくする方法が知られている。また、リチウムイオン二次電池に用いられる非水電解液は、一般的に水系電解液に比べて抵抗が高いことから、開発当初から鉛蓄電池などの他の電池に比べて、薄く広い面積の電極を使用し、かつ正極と負極との極板間距離を短くする形態が検討されている。
【0010】
しかしながら、依然として望ましいインピーダンスを実現にするに至らず、その原因として、集電体上に活物質粒子を固着させるために用いられる樹脂製結着材が電極活物質層に存在することにより、電解液の浸透性、および電極導電性の妨げになっていることが考えられた。
【0011】
本発明は上記の実状に鑑みて成し遂げられたものであり、電極活物質層を備える高出入力特性の非水電解液二次電池用負極板を提供し、また樹脂製結着材を用いずとも、集電体表面に良好に負極活物質粒子を固着させて電極活物質層を形成してなる負極板を製造する方法を提供し、これによって高出入力特性の優れた非水電解液二次電池の提供を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、負極活物質粒子を、結着物質である金属化合物の存在によって集電体表面に固着させて電極活物質層を構成可能であることを見出し、また上記金属化合物が、金属酸化物を実質的に含まないことにより設計通りの望ましい出入力特性が示されること等を見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1)集電体と、上記集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層とを備える非水電解液二次電池用負極板であって、上記電極活物質層が、負極活物質粒子および結着物質を含有しており、上記結着物質が、リチウムイオン挿入脱離反応を示さない金属化合物であり、且つ、上記金属化合物が、金属酸化物を含まないことを特徴とする非水電解液二次電池用負極板、
(2)上記金属化合物が、カルボニル基を含むことを特徴とする上記(1)に記載の非水電解液二次電池用負極板、
(3)上記金属化合物が、酢酸塩を含むことを特徴とする上記(2)に記載の非水電解液二次電池用負極板、
(4)上記酢酸塩が、酢酸リチウム無水和物及び/または酢酸リチウム水和物であることを特徴とする上記(3)に記載の非水電解液二次電池用負極板、
(5)上記負極活物質粒子における炭素原子の含有量が、30重量%以上100重量%以下であることを特徴とする上記(1)乃至(4)のいずれか1つに記載の非水電解液二次電池用負極板、
(6)正極板と、負極板と、上記正極板と上記負極板との間に設けられるセパレータと、非水溶媒を含む電解液とを少なくとも備えた非水電解液二次電池であって、上記負極板が、上記(1)乃至(5)のいずれか1つに記載の非水電解液二次電池用負極板であることを特徴とする非水電解液二次電池、
(7)負極活物質粒子と、結着物質前駆体である金属化合物と、が少なくとも含有される電極活物質層形成溶液を、集電体上の少なくとも一部に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、上記塗膜に含まれる溶媒を除去するとともに、上記金属化合物または上記金属化合物が反応してなる反応物により上記負極活物質粒子を上記集電体上に固着させることによって、上記集電体上に金属化合物または上記反応物と上記負極活物質粒子とを含有する電極活物質層を形成する電極活物質層形成工程と、をこの順に備え、上記結着物質前駆体である金属化合物が金属酸化物を含まず、上記金属化合物またはその反応物が、リチウムイオン挿入脱離反応を示さないものであり、且つ、電極活物質層形成工程は、上記結着物質前駆体である金属化合物を酸化しない環境で実施することを特徴とする非水電解液二次電池用負極板の製造方法、
(8)上記電極活物質層形成工程が、減圧環境下、及び/または不活性ガス雰囲気下で実施されることを特徴とする上記(7)に記載の非水電解液二次電池用負極板の製造方法、
(9)収納ケースと、正極端子および負極端子を備える非水電解液二次電池と、過充電および過放電保護機能を有する保護回路とを少なくとも備え、上記収納ケースに上記非水電解液二次電池および上記保護回路が収納されて構成される電池パックにおいて、上記非水電解液二次電池が、正極板と、負極板と、上記正極板と上記負極板との間に設けられるセパレータと、非水溶媒を含む電解液とを少なくとも備えた非水電解液二次電池であり、上記負極板が、上記(1)乃至(5)のいずれか1つに記載の非水電解液二次電池用負極板であることを特徴とする電池パック、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、電極活物質層中における負極活物質粒子を、金属化合物により集電体上に固着させることを可能とし、これによって、非常に高い出入力特性を示す非水電解液二次電池用負極板の提供を可能とした。かかる高出入力化を可能とした要因の少なくとも1つは、当該負極板における電極活物質層が、結着物質である金属化合物により負極活物質粒子を集電体上に固着させてなることであると考えられる。
【0015】
また上記金属化合物が、リチウムイオン挿入脱離反応を示さないものであることにより、該金属化合物がリチウムイオンと電気的に反応することがない。この結果、電極活物質層中に含まれる金属化合物とリチウムイオンとの電気反応により予定しない反応物が生じる、あるいは電極活物質層中の金属化合物が劣化して結着性能が低下するなどの虞がない。あるいはまた、電極活物質層中における金属化合物が、特に、リチウムイオンを挿入し、且つ、脱離しないものである場合には、電池反応に供与されるべきリチウムイオンが無駄に消費されることにより電気容量を低下させる原因となるが、本発明における金属化合物には、リチウムイオンを挿入し、且つ、脱離しない金属化合物は含まれないため、上述する電気容量の低下の虞がない。
【0016】
さらにまた、上記金属化合物が、金属酸化物を含まないということにより、非水電解液二次電池におけるリチウムイオンを、設計どおりの電気容量を得るために作用させることが可能である。即ち、非水電解液二次電池において、電気伝導に寄与するリチウムイオンの量は、活物質量により決定される有限のものであるところ、電極活物質層中に金属酸化物が存在すると、リチウムイオンは、電気伝導に関与する前に、上記金属酸化物の還元反応に使用されてしまい、還元反応が終了した後で、残りのリチウムイオンが電気伝導に用いられる。したがって、電気伝導に利用されるリチウムイオンの量が減少することになり、結果として、電気容量を低下させることになる。ところが、本発明における結着物質である金属化合物は、金属酸化物を含まないため、上述のようにリチウムイオンが電気伝導に用いられるに先んじて、還元反応に利用されることがなく、設計どおりの、電気容量を確保することが可能である。
【0017】
また本発明の非水電解液二次電池用負極板の製造方法によれば、樹脂製結着材を使用することなく、容易な方法、且つ、汎用の材料で、非水電解液二次電池用負極板を製造することができる。本発明の製造方法によって製造された負極板における電極活物質層は、リチウムイオン挿入脱離反応を示さず、且つ、金属酸化物を含まない金属化合物によって、負極活物質粒子が集電体上に固着されたものである。したがって、従来に比べて出入力特性が向上した非水電解液二次電池用負極板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1を用いたサイクリックボルタンメトリー試験の結果を示すサイクリックボルタモグラムである。
【図2】負極活物質粒子を用いなかったこと以外は実施例1と同様に形成した積層体を用いたサイクリックボルタンメトリー試験の結果を示すサイクリックボルタモグラムである
【図3】本発明の負極板の一態様について示す、集電体面に対して略垂直に切断した際の断面模式図である。
【図4】本発明のリチウムイオン二次電池の一態様における概略断面図である。
【図5】本発明のリチウムイオン二次電池セルを用いた本発明の電池パックの一態様における概略分解図である。
【図6】6A〜6Dは、本発明に用いられる集電体の例示的態様を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の非水電解液二次電池用負極板(以下、単に「負極板」という場合がある)、非水電解液二次電池用負極板の製造方法、および非水電解液二次電池を実施するための形態について、順に説明する。
【0020】
[非水電解液二次電池用負極板]
本発明の非水電解液二次電池用負極板は、図3に本発明の一実施態様である非水電解液二次電池用負極板10として示すとおり、集電体1と、上記集電体1の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層2とを備える。そして本発明における電極活物質層は、リチウムイオン挿入脱離反応を示さず、また金属酸化物を含まない金属化合物によって、負極活物質粒子が、集電体上に固着されているものである。尚、本発明において、リチウムイオン挿入脱離反応を示さない金属化合物とは、リチウムイオンの挿入反応および挿入されたリチウムを脱離する反応のいずれも示さないものを意味する。したがって、リチウムイオンの挿入反応および脱離反応のいずれも示す金属化合物だけではなく、リチウムイオンの挿入反応を示し、一度挿入されたリチウムを脱離しない金属化合物も、本発明における金属化合物からは除外される。
【0021】
(集電体)
本発明に用いられる集電体は、一般的に非水電解液二次電池用負極板における負極集電体として用いられるものであれば、特に限定されない。例えば、アルミニウム箔、ニッケル箔、銅箔などの単体又は合金から形成されているものが好ましく用いられるが、これに限定されない。本発明に用いられる集電体は、必要に応じて、電極活物質層の形成が予定される面において、表面加工処理がなされている集電体であってもよい。表面加工処理がなされている集電体としては、導電性物質が積層されているもの、化学研磨処理、コロナ処理、酸素プラズマ処理などの表面処理がなされていてもの等が挙げられる。あるいは、上記集電体は、物理的に任意の凹凸などが表面に設けられていてもよい。
【0022】
本発明に用いられる集電体の例をより具体的に説明する。例えば、図6Aに示すとおり、非水電解液二次電池用負極板20に用いられる集電体1として、それ自体が集電機能を有する金属箔などの集電基材3のみを用いることができる。集電基材3としては、上述するアルミニウム箔、ニッケル箔、カーボンシートなどが例示される。かかる場合には、集電基材3の表面101の少なくとも一部に電極活物質層2が設けられる。
【0023】
また、異なる集電体の例としては、図6Bに示すとおり、非水電解液二次電池用負極板20’に用いられる集電体として、それ自体が集電機能を有する集電基材3の上面に、導電性を有する任意の導電性層4が設けられてなる集電体1’を用いることができる。導電性層4は、電極活物質層2と集電基材3と間の電子の移動を妨げない程度の導電性を示すものであればよい。例えば、導電性層4は、銅または銅合金からなる積層層、あるいは任意の導電性微粒子がメッキあるいはスパッタリングなどにより堆積されてなる層、あるいは一枚以上の導電性薄膜が設けられてなる層などであってよく、またこれらの例に限定されない。集電体1’において、導電性層4の表面が、集電体1’の表面102となり、電極活物質層2は、表面102の少なくとも一部に設けられる。尚、図6Bでは、任意の導電性層4が1層である態様を示した。しかし、集電体1’の構成はこれに限定されず、導電性層4は、2以上の任意の導電性層が積層された積層構成であってもよい。
【0024】
また、異なる集電体の例としては、図6Cに示すとおり、非水電解液二次電池用負極板20’’に用いられる集電体として、それ自体が集電機能を有する集電基材3の上面に、断続的に形成された任意の断続層5が設けられてなる集電体1’’を用いることができる。断続層5は、上述する導電性層4と同じく導電性の層であってもよいし、あるいは導電性を示さない層であってもよい。非水電解液二次電池用負極板20’’において、集電体1’’の表面は、断続層5の表面である表面103と、断続層5が設けられておらず集電基材3自体の表面である表面103’とからなる。このとき、電極活物質層2は、表面103および表面103’のいずれとも接するよう形成することができる。非水電解液二次電池用負極板20’’では、断続層5は、導電性を有していても、有していなくてもよい。断続層5が導電性を有していない層であっても、集電体1’’の表面103’において電極活物質層2と集電基材3とが直接接するため、電極活物質層2と集電体1’’との間において電子の移動が確保される。ただし、非水電解液二次電池用負極板20’’自体の電気抵抗をより小さいものにするという観点からは、断続層5も、導電性を示すことが好ましい。
【0025】
また、断続層5が導電性を示す場合、図6Dに示すように、集電体1’’の表面であって断続層5上にのみ、選択的に電極活物質層2’を設けて、非水電解液二次電池用負極板20’’’を構成してもよい。即ち、集電体1’’の表面のうち、表面103の少なくとも一部に、選択的に電極活物質層2’を設けても良い。あるいは、図示しないが、断続層5が導電性を示さない場合、集電体1’’の表面103’の少なくとも一部に選択的に電極活物質層2’を設けてもよい。
【0026】
尚、上述する集電体の説明は、本発明に用いられる集電体を何ら限定するものではない。本発明に用いられる集電体は、以上に例示するとおり、本発明において集電体とは、集電機能を有する集電基材のみであってもよく、かかる態様では、電極活物質層が設けられる集電体の表面とは、該集電基材の表面を指す。あるいは、本発明において、集電体とは、集電機能を有する集電基材と、該集電基材上に設けられる任意の積層層を有していてもよい。かかる態様では、電極活物質層が設けられる集電体の表面とは、集電基材と電極活物質層との間の少なくとも一領域で電子の移動が確保される範囲において、上記積層層の表面、あるいは、積層層が設けられていない集電基材表面、あるいは、上記積層層の表面および積層層が設けられていない集電基材表面の両方を指す。
【0027】
上記集電体の厚みは、一般に非水電解液二次電池用負極板の集電体として使用可能な厚みであれば特に限定されないが、3〜100μmであることが好ましく、5〜50μmであることがより好ましい。
【0028】
(電極活物質層)
本発明における電極活物質層は、少なくとも負極活物質粒子と、上記負極活物質粒子を集電体上に固着させるための結着物質とが含有されている。そして、上記結着物質は、リチウムイオン挿入脱離反応を示さない金属化合物であって、当該金属化合物が金属酸化物を含まないという特徴を有している。
【0029】
本発明の非水電解液二次電池用負極板において、電極活物質層の厚みは、当該負極板に求められる電気容量や出入力特性を勘案して、適宜設計することができる。一般的には200μm以下、より一般的には100μm以上かつ150μm以下の厚みで設計される。ただし、本発明においては、電極活物質層を非常に薄く形成することが可能であるため、特に100μm未満、さらには50μm以下の厚みで形成することができる。出入力特性を向上させつつも高容量を得ることができるという観点からは、特に電極活物質層の膜厚を50μm以下にすることが好ましい。即ち、電極活物質層の厚みが、上述の範囲のように薄い場合には、用いられる負極活物質粒子は粒子径が小さいものであり、少なくとも電極活物質層の膜厚以下の粒子径であることを意味し、これによって負極活物質粒子の表面積を増大させることができる。また、電極活物質層の厚みをより薄くすることで、電極活物質層と集電体との距離を短くすることができ負極板のインピーダンスを下げることができるからである。尚、本発明において電極活物質層の膜厚の下限は、主として用いられる負極活物質粒子の粒子径に依存し、使用可能な負極活物質粒子の粒子径の縮小化に伴い、さらに膜厚を薄くすることが可能である。
【0030】
電極活物質層は、電解液が浸透可能な程度に空隙が存在していることが好ましく、電極活物質層中の空隙率は、一般的に15〜40%、より好ましくは20〜40%である。
【0031】
負極活物質粒子:
本発明の負極板における電極活物質層に含有される負極活物質粒子としては、一般的に非水電解液二次電池用負極板において用いられるリチウムイオン挿入脱離反応を示す活物質粒子であれば、特に限定されない。たとえば、チタン酸リチウム粒子、あるいはリチウムアルミニウム合金などのリチウム含有金属化合物であってもよいし、黒鉛、コークス、有機物焼成体などの炭素材料であってもよく、リチウムイオンの電荷を授受し、充放電可能なものであればよい。
【0032】
本発明において、結着材として従来の樹脂製結着材を用いるのではなく、上記金属化合物で負極活物質粒子を集電体上に固着させることによれば、負極活物質粒子の種類を問わず、出入力性能が向上する。なかでも、炭素材料はコストが安く、取り扱い性容易な上、負極活物質粒子として炭素材料を用いたときに本発明の作用効果が有利に働くために、本発明における負極活物質粒子として非常に望ましく使用することができる。
【0033】
即ち、リチウムイオン二次電池の負極活物質粒子として用いられる炭素材料は、鱗片状炭素材料が層状に重なり、塊となった鱗状炭素材料が用いられることが一般的であり、この塊1つを負極活物質粒子の1粒子とみなすことが一般的である。ここで、電池内では、正極板における正極活物質粒子中のリチウムが非水電解液に染み出し、非水電解液と溶媒和し、リチウムイオンの状態で非水電解液中に拡散し、負極板における負極活物質層に到達する。そしてリチウムイオンは、脱溶媒和するとともに、上記鱗状炭素材料の層間へ挿入し、電子の授与が行われるものと思われる。
【0034】
上述する負極板におけるリチウムイオンの脱溶媒和のタイミング等、非水電解液に溶媒和したリチウムイオンが脱溶媒和し、電子の授与を行うメカニズムの詳細はいまだ明らかではない。ただし、電極活物質層において、界面電荷移動抵抗が小さいほど、上記脱溶媒和がスムーズにおこなわれ、この結果、負極板における出入力特性が向上する。ここにおいて、樹脂製結着材を用いた場合には、この樹脂製結着材が上記脱溶媒和反応に対し阻害的に働くことがわかった。これに対し、本発明は、結着物質として上記金属化合物を用いるために、このような脱溶媒和反応に対する阻害作用がないため、電子の授与が非常にスムーズに行われるのである。
【0035】
上記負極活物質粒子として用いられる炭素材料は、炭素原子の含有量が、30重量%以上100重量%以下であることが望ましく、45重量%以上100重量%以下であることがより望ましく、実質的に100%炭素原子からなることが最も好ましい。
【0036】
本発明に用いられる負極活物質粒子の粒子径は、特に限定されず、設計される電極活物質層の厚みや、求められる電池性能などを勘案して、任意の大きさのものを適宜選択して使用することができる。たとえば、本発明では、負極活物質粒子として、その一次粒子径(メジアン径)が20μm以下のものを使用することができる。尚、本発明および本明細書に示す負極活物質粒子の粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定により測定される平均粒径(体積中位粒径:D50)である。
【0037】
尚、電極活物質層中に含有された負極活物質粒子の粒子径は、電子顕微鏡観察結果を画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製、MAC VIEW)を用いて測定することができる。
【0038】
上記電極活物質層における炭素原子の含有量は、50重量%以上が好ましく、65重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることがさらに好ましく、95重量%以上であることが特に好ましい。上記電極活物質層における炭素原子の含有量は、負極活物質粒子として用いられる炭素材料、導電材など、該電極活物質層に含有される炭素材料に関する炭素原子の総量を意味する。
【0039】
結着物質である金属化合物:
上記電極活物質層中に含有される金属化合物は、リチウムイオン挿入脱離反応を示さず、且つ、金属酸化物を含まないものであって、負極活物質粒子を集電体上に固着することのできるものであればよく、このような条件を満たす限り、一般的に金属化合物と理解されるものであれば、特に限定されない。より具体的には、Li、Be、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Fr、Ra、およびCeなどの金属元素の1種を含む金属化合物、または2種以上を含む複合金属化合物を用いることができる。また電極活物質層中には、1種の金属化合物が結着物質として含有されていてもよいし、あるいは2種以上の金属化合物が結着物質として含有されていてもよい。尚、本発明、および本明細書において、上記結着物質としての金属化合物および複合金属化合物を、まとめて単に「金属化合物」という場合がある。上述のとおり、本発明における金属化合物は、設計どおりの、電気容量を確保するという趣旨から、金属酸化物を含まないものであると特定される。しかし上記特定は、本発明における電極活物質層に含まれる金属酸化物を組成分析した際に、微量の酸素元素を含有していることを禁止するものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、電極活物質層中に含まれる金属化合物に酸素が含まれていてもよい。
【0040】
本発明では、上記種々の金属化合物の中でも、出入力性能を向上させるという観点において、特に、カルボニル基を含む金属化合物を用いることが望ましく、中でも上記金属化合物が、酢酸塩である場合が特に好ましい。カルボニル基を含む金属化合物を用いた場合、特には金属化合物として酢酸塩を用いた場合に、出入力性能が特に向上する理由は明らかではないが、リチウムイオンの正電荷と分子中で負に帯電した酸素原子の非共有電子対とが静電的に相互作用することにより、脱溶媒和が促進されるため、負極板における電極活物質層において、リチウムイオンの脱挿入をスムーズに行うことができるためと推測される。
【0041】
上記金属化合物である酢酸塩の具体的な例としては、たとえば、酢酸リチウム、酢酸亜鉛、酢酸カルシウム、酢酸マンガン(II)、酢酸コバルト(II)などを挙げることができる。尚、上述する金属化合物は、適宜、水和物の構造であってもよい。
【0042】
また、本発明において、電極活物質層中における結着物質として、2種類以上の金属化合物が存在していてもよいし、あるいは、一種の金属化合物であって、無水和物と水和物が共に存在していてもよい。例えば、酢酸リチウム無水和物、酢酸リチウム一水和物、酢酸リチウム二水和物のうちの2以上の組合せで、電極活物質層中に混在していてもよい。
【0043】
本発明において、結着物質である金属化合物が、リチウムイオン挿入脱離反応を示すものであるか否かは、電気化学測定(サイクリックボルタンメトリー)法により確認することができる。具体的には、たとえば、金属リチウムを対極とし、一方、対象となる化合物が含有された電極活物質層を備える電極を作用極板として三極式セルを組み、セルの電圧を2V〜約0Vまで繰り返し変動させる。そして、どの程度の電圧で、どの程度の電流が流れるかを測定し、測定結果より、リチウムイオン挿入脱離反応の有無を判断する。
【0044】
図1は、後述する実施例1を作用極板として用いた際のサイクリックボルタンメトリー試験の結果を示すサイクリックボルタモグラムである。即ち、銅箔上に本発明における結着物質(金属化合物)である酢酸リチウムおよび負極活物質粒子(黒鉛)を含有する電極活物質層を形成し、該電極活物質層の構成成分についてサイクリックボルタンメトリー試験を実施した際のサイクリックボルタモグラムである。
【0045】
図2は、負極活物質粒子を用いなかったこと以外は後述する実施例1と同様に形成した積層体を作用極板として用いた際のサイクリックボルタンメトリー試験の結果を示すサイクリックボルタモグラムである。即ち、作用極板として銅箔の上に本発明における結着物質(金属化合物)のみを含有する層形成し、該層の構成成分についてサイクリックボルタンメトリー試験を実施した際のサイクリックボルタモグラムである。尚、グラフの横軸は、金属Liに対する電位を、縦軸は、各電位における電流値を表わす。また、縦軸の正の値が放電反応を、負の値が充電反応に相当する。
【0046】
図1では、0.1V以下の電圧において充電反応が、また0.3V付近の電圧において放電反応が観測され、リチウムイオン挿入脱離反応が行われていることが確認される。一方、図2では、電極の充放電反応を示すピークが検出されず、リチウムイオン挿入脱離反応が行われていないと判断することができる。即ち、本発明における結着物質はリチウムイオン挿入脱離反応を示さないことが、図2のサイクリックボルタモグラムから確認することができる。
【0047】
本発明の非水電解液二次電池用負極板を製造するにあたり、電極活物質層中に含有が予定される金属化合物のリチウムイオン挿入脱離反応の有無は、上述のとおり確認することができる。したがって、予め確認した上で、リチウムイオン挿入脱離反応を示さない金属化合物を電極活物質層中に結着物質として存在させることができる。一方、すでに完成された負極板における電極活物質層中にリチウムイオン挿入脱離反応を示さない金属化合物が含有されているか否かは、例えば、以下のとおり確認することができる。即ち、電極活物質層を削ってサンプルを作成し、該サンプルの組成分析を実施することにより、サンプル中に、いかなる金属化合物が含有されているかを推定することができる。そして、推定された金属化合物よりなる塗膜を、銅箔などの基材上に形成し、これをサイクリックボルタンメトリー試験に供することにより、当該金属化合物がリチウムイオン挿入脱離反応を示すか否かを確認することができる。
【0048】
本発明において、電極活物質層中における負極活物質粒子と金属化合物の存在比率は特に特定されず、使用される負極活物質粒子の種類や大きさ、金属化合物の種類、電極に求められる機能などを勘案して適宜決定することができる。
【0049】
本発明における電極活物質層における負極活物質粒子と、金属化合物との組み合わせは特に限定されず、適宜組み合わせて実施することができるが、特に、負極活物質粒子として、グラファイトなどの炭素材料を用い、また結着物質である金属化合物として、酢酸リチウム無水物、および/または、酢酸リチウム水和物を用いることがより望ましい。
【0050】
尚、以上において、本発明における結着物質は、リチウムイオン挿入脱離反応を示さず、且つ、金属酸化物を含まない金属化合物であることを説明したが、これは、本発明における電極活物質層中に、結着物質とは別に、金属酸化物が含まれることを禁止するものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、必要に応じて金属酸化物を添加剤として用いることも可能である。ただし、上述したとおり、電極活物質層中に金属酸化物が存在することにより、初期充電反応時に、充電反応に先んじて当該金属酸化物の還元反応が生じ、これによって、充放電に使用されるべきリチウムイオンの一部が該還元反応に用いられてしまい、電気容量を低下させる結果となる。したがって、この観点からは、電極活物質層中に金属酸化物が添加される場合であっても、その量は、少ない方がよく、具体的には電極活物質層中に20重量%未満であることが望ましく、実質的に電極活物質層中に金属酸化物が存在しないことがより望ましい。
【0051】
電極活物質層中における負極活物質粒子および結着物質である金属化合物の重量比率は、用いられる負極活物質粒子の種類や、求められる負極板の性能によって適宜決定することができるが、好ましくは、負極活物質粒子の重量比率は、50重量%以上95重量%未満であることが好ましく、60重量%以上90重量%未満であることがより好ましい。また同様に、結着物質である金属化合物の重量比率は、5重量%以上50重量%未満であることが好ましく、10重量%以上40重量%未満であることがより好ましい。
【0052】
(その他の材料)
上記電極活物質層は、上述する負極活物質粒子および結着物質である金属化合物のみから構成してもよいが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、さらなる添加剤を含有させてもよい。たとえば、本発明において導電材を使用することなく良好な導電性を発揮させることが可能であるが、より優れた導電性が望まれる場合や、負極活物質粒子の種類などによっては、導電材を使用することが望ましい。
【0053】
上記導電材としては、一般的な非水電解液二次電池用負極板に用いられるものを使用することができ、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック等の炭素材料が例示されるが、これに限定されるものではない。導電材の平均粒径は20nm〜50nm程度であることが好ましい。また異なる導電材としては炭素繊維(VGCF)が公知である。上記炭素繊維は、長さ方向に非常に良好に電気を導くことができ、電気の流動性を向上させることができる。したがって、上述するアセチレンブラックなどの粒子状の導電材に加えて、炭素繊維も併せて用いることにより、導電材添加効果を向上させることができる。上記平均粒径は、活物質粒子の粒径を測定する方法と同様に、電子顕微鏡による実測から求められる算術平均により求められる。
【0054】
導電材を電極活物質層に含有させる場合には、その含有量は特に限定されないが、一般的には、負極活物質粒子100重量部に対して、導電材の割合が5重量部以上20重量部以下となるようにすることが望ましい。
【0055】
また本発明は、樹脂製結着材を使用せずとも負極活物質粒子を集電体上に固着させることができるものであるが、これは電極活物質層に樹脂成分が含有されることを禁止する趣旨ではない。たとえば、電極活物質層を形成するために調製される電極活物質層形成溶液の粘度を調整するために、該溶液中に増粘材として少量の樹脂材料を添加してもよい。
【0056】
上記増粘材としては、たとえば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アンモニウムなどのアクリル系ポリマー、スチレンスルホン酸ナトリウム、セルロース、エチルセルロース、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ポリビニルアルコール、メタクリル酸、ポリ(オキシエチレン)=オクチルフェニルエーテル、ポリ(オキシエチレン)オクチルフェニルエーテル、ジメチルスルホキシド、ターピノール、ポリビニルピロリドンなどを挙げることができる。
【0057】
(電極の充放電レート特性評価方法)
本発明の非水電解液二次電池用負極板の出入力特性は、放電容量維持率(%)を求めることにより評価することができる。即ち、上記放電容量維持率は、放電レート特性を評価するものであり、放電レート特性が向上した電極板においては、一般的に、充電レート特性も同様に向上していると理解される。したがって、望ましい放電容量維持率が示される場合には、充放電レート特性が向上したと評価するものである。より具体的には、活物質の有する放電容量(mAh/g)の理論値を1時間で放電終了となるよう放電レート1Cを設定し、設定された1Cの放電レートにおいて実際に測定された放電容量(mAh/g)を放電容量維持率100%とする。そしてさらに放電レートを高くしていった場合の放電容量(mAh/g)を測定し、以下の数1に示す式によって放電容量維持率(%)を求めることができる。
【0058】
【数1】

【0059】
本発明の非水電解液二次電池用負極板の充放電レート特性は、用いられる負極活物質粒子の種類やその粒子径、含有される結着物質である金属化合物の量、電極活物質層の厚みなどにより異なる。
【0060】
尚、上記放電容量は、三極式コインセルにより電極自体の放電容量を測定することにより求められる。
【0061】
[非水電解液二次電池用負極板の製造方法]
次に、本発明の非水電解液二次電池用負極板の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」という場合がある)について説明する。本発明の製造方法は、集電体と、上記集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層とを備える非水電解液二次電池用負極板の製造方法であって、上記電極活物質層が、負極活物質粒子および結着物質を含有しており、上記結着物質が、リチウムイオン挿入脱離反応を示さない金属化合物であり、且つ、上記金属化合物に金属酸化物が含まれないことを特徴とする本発明の非水電解液二次電池用負極板を製造するための望ましい製造方法である。
【0062】
より詳しくは、結着物質の前駆体として、1種、あるいは2種以上の金属化合物(以下、「結着物質前駆体金属化合物」ともいう)と、負極活物質粒子とを少なくとも含む電極活物質層形成溶液を調製し、これを集電体表面の所望の領域に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、上記塗膜より電極活物質層を形成する電極活物質層形成工程と、を順に備える。上記電極活物質層形成工程は、上記塗膜に含まれる溶媒を除去するとともに、上記塗膜中に含有される金属化合物または上記金属化合物が反応してなる反応物により上記負極活物質粒子を上記集電体上に固着させることによって、上記集電体上に金属化合物または上記反応物と上記負極活物質粒子とを含有する電極活物質層を形成する工程である。尚、上記電極活物質層形成溶液には、さらに添加剤を含有させることが可能である。
【0063】
負極活物質粒子:
上記電極活物質層形成溶液に含有される負極活物質粒子は、上述において既に説明した負極活物質粒子と同様であるため、ここでは割愛する。尚、本発明に用いられる電極活物質層形成溶液は、従来の樹脂製結着材を用いた電極活物質層形成溶液に比べて、小さい粒子を用いた場合であっても粘度調整が容易であり、特に、負極活物質粒子の粒子径が20μm以下、あるいは10μm以下、さらには1μm以下の小さいサイズのものを用いても、塗布性が低下するほどの粘度の上昇がみられないという望ましい特徴を有している。したがって、用いられる負極活物質粒子の粒子径は、所望の大きさを選択することができる。
【0064】
結着物質前駆体金属化合物:
上記電極活物質層形成溶液に含有される結着物質前駆体金属化合物は、塗布工程後に実施される電極活物質層形成工程により、負極活物質粒子を抱き込んで集電体上に結着物質として積層され得るものである。上記電極活物質層形成工程は、例えば、加熱工程、減圧乾燥工程、減圧加熱工程、あるいはこれらの組み合わせなどが例示されるが、これらに限定されず、集電体上に塗布された電極活物質層形成溶液により形成された塗膜を電極活物質層として形成可能な手段を実施する工程であれば任意の手段が選択されてなる工程であってよい。例えば、上記電極活物質層形成工程は、上記塗膜中に含有される溶媒を除去する手段を実施し、次いで金属化合物を反応させる手段を実施するなど、2以上の手段を含んでもよい。
【0065】
結着物質前駆体金属化合物として用いられる金属化合物は、電極活物質層形成工程を経ても、構造が変わらずに結着物質として電極活物質層中に存在するものであってもよい。具体的な例としては、結着物質前駆体金属化合物として、酢酸リチウム二水和物を用いた場合に、形成された電極活物質層中に、上記酢酸リチウム二水和物が結着物質として存在していてもよい。
【0066】
あるいは、結着物質前駆体金属化合物として用いられる金属化合物は、電極活物質層形成工程により反応して、反応物となって電極活物質層中で結着物質として存在するものであってもよい。具体的な例としては、結着物質前駆体金属化合物として、酢酸リチウム二水和物を用いた場合に、該酢酸リチウム二水和物が、加熱工程により反応し、酢酸リチウム一水和物、または酢酸リチウム無水和物などの反応物となり、得られた電極活物質層中に結着物質として存在していてもよい。
【0067】
あるいはまた、酢酸リチウム二水和物、酢酸リチウム一水和物、酢酸リチウム無水物のいずれか2以上の組み合わせで、電極活物質層中に結着物質として存在していていもよい。
【0068】
上述する、水和物から無水和物への反応は、例えば、電極活物質層形成工程が加熱工程であって、当該加熱における加熱温度により熱分解形態が異なることによるものと推測される。また電極活物質層形成工程によって結着物質前駆体金属化合物の反応物は、上述のように水和物から無水物への反応だけではなく、たとえば1つの電極活物質層形成溶液中に、2以上の結着物質前駆体金属化合物を含有させた場合に、電極活物質層形成工程において、それらが互いに反応し、結着物質として、複合金属化合物が生成されてもよい。ただし、いずれの場合においても、結着物質としての金属化合物は、金属酸化物を含まず、且つ、リチウムイオン挿入脱離反応を示さないものであるよう留意する必要がある。ただし、本発明の製造方法あるいはその説明において、「結着物質としての金属化合物は、金属酸化物を含まない」という場合は、結着物質中に微量な酸化物が含有している場合を除外するものではなく、本発明の趣旨を勘案し、実質的に金属酸化物を含まない、ということを意味する。
【0069】
上記結着物質前駆体金属化合物は、電極活物質層形成工程を経て、上述で説明する結着物質である金属化合物となるものであればよい。具体的には、結着物質である金属化合物を構成しうる金属化合物であって、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、リン酸塩、臭素酸塩、カルボン酸塩、ステアリン酸塩等を挙げることができる。中でも、本発明においては、塩化物、硝酸塩、酢酸塩、カルボン酸塩は汎用品として入手が容易なので、結着物質前駆体金属化合物として、好ましく使用することができる。とりわけ、電極活物質層形成工程を経て、カルボニル基を含む結着物質となりうる結着物質前駆体金属化合物は、上述する脱溶媒和の促進の観点から望ましい。
【0070】
上述する電極活物質層形成溶液において、溶媒に対する、添加される1種または2種以上の結着物質前駆体金属化合物の添加量の合計の比率は、0.01〜20mol/L、特に0.1〜10mol/Lが好ましい。上記濃度を0.01mol/L以上とすることにより、集電体と該集電体表面で生成される電極活物質層とを良好に密着性させることができ、負極活物質粒子の集電体への固着が充分に図られる。また、上記濃度を、20mol/L以下とすることにより、上記電極活物質層形成溶液を集電体表面へ良好に塗布できる程度の良好な粘度を維持することができ、均一な塗膜を形成することができる。
【0071】
(その他の添加剤)
また上記電極活物質層形成溶液には、上述する負極活物質粒子および結着物質前駆体金属化合物以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、導電材などの添加剤を添加してもよい。上記導電材等の添加剤は、上述する本発明の負極板における電極活物質層の説明において記載した内容と同様のものを用いることができるため、ここでは説明を割愛する。
【0072】
(溶媒)
上記電極活物質層形成溶液を調製するために用いられる溶媒としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロパノール、ブタノール等の総炭素数が5以下の低級アルコール、アセチルアセトン、ジアセチル、ベンゾイルアセトン等のジケトン類、アセト酢酸エチル、ピルビン酸エチル、ベンゾイル酢酸エチル、ベンゾイル蟻酸エチル等のケトエステル類、トルエン、水およびこれらの混合溶媒等を挙げることができる。
【0073】
尚、上記電極活物質層形成溶液は、負極活物質粒子、結着物質前駆体金属化合物、あるいはさらに必要に応じて導電材などのその他の添加剤を必要量含まれるように勘案して、これらの配合量が決定される。その際、溶媒に添加される溶質(即ち、負極活物質粒子、結着物質前駆体金属化合物および任意の添加剤)の比率は、塗布工程において集電体上への塗布性及び、電極活物質層形成工程における溶媒の除去を勘案し、適宜調整する。一般的には、電極活物質層形成溶液を100重量%としたときに、含有される溶質の総量は、15〜80重量%となるよう調整される。
【0074】
次に、以上のとおり調製された電極活物質層形成溶液を、集電体上に塗布して塗膜を形成する。尚、本発明の製造方法において用いられる集電体は、上記非水電解液二次電池用負極板に用いられる集電体と同様であるため、ここでは割愛する。
【0075】
本発明の製造方法における塗布工程では、溶液の塗布方法として公知の塗布方法であれば、適宜選択して実施することができる。たとえば、印刷法、スピンコート、ディップコート、バーコート、スプレーコート等によって、集電体表面の任意の領域に塗布して塗膜を形成することができる。また、集電体表面が多孔質であったり、凹凸が多数設けられていたり、三次元立体構造を有したりする場合には、上記方法以外に手動で塗布することも可能である。尚、本発明において使用する集電体は、必要に応じて、予めコロナ処理や酸素プラズマ処理等を行うことで、電極活物質層の製膜性をさらに改善することができるため好ましい。上記電極活物層形成溶液の集電体への塗布量は、製造される負極板の用途等に応じて任意に決めることができる。
【0076】
次に、上記塗布工程において形成された塗膜から電極活物質層を形成するための電極活物質層形成工程として、特に加熱手段を用いる加熱工程を例に説明する。本加熱工程では、上記塗膜中に含まれる溶媒を除去するとともに、結着物質前駆体金属化合物を加熱して溶融させ、該塗膜中に存在する負極活物質粒子を抱き込んだ状態で集電体上に積層させる。上記加熱工程において実施される加熱方法は、特に限定されず、塗膜を加熱することができる加熱方法あるいは加熱装置を、適宜選択して実施することができる。具体的な例としては、ホットプレート、オーブン、加熱炉、赤外線ヒーター、ハロゲンヒーター、熱風送風機等のいずれかを使用するか、あるいは2以上を組み合わせて使用する方法を挙げることができる。用いられる集電体が平面状である場合には、ホットプレート等を使用することが好ましい。また、加熱工程における加熱温度は用いられる結着物質前駆体金属化合物の種類などによって異なるが、通常120℃〜800℃の温度範囲に加熱することにより行なわれる。
【0077】
上記電極活物質層形成工程を経た集電体上に存在する結着物質である金属化合物は、実質的に金属酸化物を含まないものである。したがって、用いられる結着物質前駆体金属化合物として金属酸化物を含まないものを用い、且つ、該結着物質前駆体金属化合物が実質的に酸化しない環境下において、電極活物質層形成工程を実施する必要がある。例えば減圧した環境下において電極活物質層形成工程を実施し、あるいは、不活性雰囲気下において電極活物質層形成工程を実施し、あるいは、上記減圧環境下であって不活性雰囲気下において電極活物質層形成工程を実施することにより、結着物質前駆体金属化合物の酸化を防止することができる。ただし、結着物質前駆体金属化合物が実質的に酸化しない環境は、上記例示に限定されるものではない。上記減圧環境は、用いられる結着物質前駆体金属化合物の種類などによって異なるが、例えば、100Pa〜10000Pa程度の減圧環境下において、好適に上記電極活物質層形成工程を実施することができる。また、上記不活性雰囲気を構成する不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどが挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0078】
[非水電解液二次電池]
本発明の非水電解液二次電池は、一般的には、正極板及び本発明の負極板と、これらの間にポリエチレン製多孔質フィルムのようなセパレータとが設けられて構成されており、これらが容器内に収納され、且つ容器内に非水電解液が充填された状態で密封されて製造される。即ち、図4に例示するように、本発明の非水電解液二次電池用負極板10およびこれに組み合わされる、集電体55の一方面側に電極活物質層54が設けられてなる非水電解液二次電池用正極板50と、これらの間にポリエチレン製多孔質フィルムのようなセパレータ70とが設けられる。そして、これらが外装81、82内に収納され、且つ、外装81、82内に非水電解液90が充填された状態で密封されて製造されて、非水電解液二次電池100を構成することができる。
【0079】
(電極板)
本発明の非水電解液二次電池は、特に、負極板を、上述する本発明の負極板を用いることを特徴とする。一方、本発明の非水電解液二次電池において、正極板は、非水電解液二次電池において使用される従来公知の正極板を適宜使用することができる。
【0080】
従来公知の正極板としては、一般的には本発明の負極板において用いられる集電体と同様の集電体表面上の少なくとも一部に、リチウム遷移金属複合酸化物などの活物質粒子、導電材、樹脂製結着材などが分散された溶液を塗布して、乾燥し、必要に応じてプレスすることにより形成されたものなどが使用されるが、これに限定されるものではない。
【0081】
(非水電解液)
本発明に用いられる非水電解液は、一般的に、非水電解液二次電池用の非水電解液として用いられるものであれば、特に限定されないが、リチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液が好ましく用いられる。
【0082】
上記リチウム塩の例としては、LiClO、LiBF、LiPF、LiAsF、LiCl、及びLiBr等の無機リチウム塩;LiB(C、LiN(SOCF、LiC(SOCF、LiOSOCF、LiOSO、LiOSO、LiOSO11、LiOSO13、及びLiOSO15等の有機リチウム塩;等が代表的に挙げられる。
【0083】
リチウム塩の溶解に用いられる有機溶媒としては、環状エステル類、鎖状エステル類、環状エーテル類、及び鎖状エーテル類等が挙げられる。上記環状エステル類としては、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2−メチル−γ−ブチロラクトン、アセチル−γ−ブチロラクトン、及びγ−バレロラクトン等が挙げられる。上記鎖状エステル類としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルブチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ブチルプロピルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、及び酢酸アルキルエステル等が挙げられる。上記環状エーテル類としては、テトラヒドロフラン、アルキルテトラヒドロフラン、ジアルキルテトラヒドロフラン、アルコキシテトラヒドロフラン、ジアルコキシテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、アルキル−1,3−ジオキソラン、及び1,4−ジオキソラン等が挙げられる。上記鎖状エーテル類としては、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、及びテトラエチレングリコールジアルキルエーテル等が挙げられる。
【0084】
上記正極板、負極板、セパレータ、非水電解液を用いて製造される電池の構造としては、従来公知の構造を適宜選択して用いることができる。例えば、正極板及び負極板を、ポリエチレン製多孔質フィルムのようなセパレータを介して渦巻状に巻き回して、電池容器内に収納する構造が挙げられる。また別の態様としては、所定の形状に切り出した正極板及び負極板を、セパレータを介して積層して固定し、これを電池容器内に収納する構造を採用してもよい。いずれの構造においても、例えば、正極板及び負極板を電池容器内に収納後、正極板に取り付けられたリード線を外装容器に設けられた正極端子に接続し、一方、負極板に取り付けられたリード線を外装容器内に設けられた負極端子に接続し、さらに電池容器内に非水電化液を充填した後、密閉することによって非水電解液二次電池を製造することができる。
【0085】
本発明の負極板を用いる非水電解液二次電池は、所謂、電池パックに用いられる非水電解液二次電池として使用することができる。即ち、本発明の電池パックは、少なくとも、本発明の負極板と任意の正極板を用い、且つ、正極端子および負極端子を備える非水電解液二次電池と過放電保護機能を有する保護回路とが収納ケースに収納されて構成される。本発明の電池パックは、例えば、過充電、過放電、過電流、電池周辺回路の短絡、正負電極間の短絡などから電池を保護するための保護機能を非水電解液二次電池自体に装備するとともに、過充電や過放電を防止するための保護回路を該非水電解液二次電池と共に容器に収容して一体化されてなる電池パックであってよい。本発明の電池パックは、ノートパソコン、カメラ、携帯電話等の携帯機器など、装置の規模に対して消費電力が大きい装置の電池電源装置として好適に使用することができる。
【0086】
図5に、本発明の電池パックの一態様として本発明の負極板と任意の正極板とが用いられて構成されるリチウムイオン二次電池31を用いた本発明の電池パック30の概略分解図を示す。電池パック30は、リチウムイオン二次電池31が樹脂容器36a、樹脂容器36b、および端部ケース37に収納されて構成される。このとき、リチウムイオン二次電池31の一端面であって、正極端子32および負極端子33を備える面と、端部ケース37との間には、過充電や過放電を防止するための保護回路基板34が、設けられる。保護回路基板34は、外部接続コネクタ35を備えており、外部接続コネクタ35は、樹脂容器36aに設けられた外部接続用窓38aおよび、端部ケース37に設けられた外部接続用窓38bに挿入され、外部端子と接続される。また、保護回路基板に34には、図示しない、充放電を制御するための充放電安全回路、外部接続端子とリチウムイオン二次電池31とを導通させるための配線回路などが搭載されている。尚、電池パック30は、本発明の電極板が用いられたリチウムイオン二次電池31を用いること以外は、従来公知の電池パックの構成を適宜採用することができる。図示省略するが、電池パック30は、リチウムイオン二次電池31と端部ケース37との間に、正極端子32と接続する正極リード板、負極端子33と接続する負極リード板、絶縁体などを、適宜備えてよい。
【0087】
尚、本発明の電極板を用いた本発明の非水電解液二次電池は、電池パックへの使用態様以外に、上記保護回路に、さらに、過大電流の遮断、電池温度モニター等の機能を備え、且つ、該保護回路を二次電池自体に一体化させて取り付けられる態様に用いられてもよい。かかる態様では、電池パックを構成することなく、保護機能および保護回路を備える二次電池として使用することができ、汎用性が高い。尚、上述するいくつかの態様は、例示に過ぎず、本発明の負極板、あるいは本発明の非水電解液二次電池の使用を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0088】
(実施例1)
メタノール溶媒100重量部に対して、結着物質前駆体金属化合物として酢酸リチウム二水和物55重量部を添加し、さらに負極活物質粒子として平均粒子径6μmのグラファイトを29重量部混合させて、電極活物質層形成溶液を調製した。
【0089】
次に、負極集電体として、厚さ10μm、25cm×30cmの電解銅箔を置き、当該負極集電体の一面側に、上記電極活物質層形成溶液を、アプリケーターで2mil塗布して塗膜を形成した。そして、上記塗膜を備える負極集電体を133Paに圧力を調整した減圧オーブン内に設置し、250℃5時間加熱し、酢酸リチウムとグラファイトが含有される厚さ約24μmの電極活物質層を備える非水電解液二次電池用負極板を作製し、これを実施例1とした。尚、上記減圧オーブン内の圧力は、東京理科器械株式会社製(EYELA製)seiVOS−300SDにて測定した。また上記電極活物質層の膜厚みは、マイクロメーターを用いて電極活物質層の厚みを任意の箇所で10点測定し、その平均値を算出することにより得た。
【0090】
<三極式コインセルの作製>
エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)混合溶媒(体積比=1:1)に、溶質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を加えて、当該溶質であるLiPFの濃度が、1mol/Lとなるように濃度調整して、非水電解液を調製した。
【0091】
上述のとおり作製した実施例1を15mmφサイズに打ち抜き、これを作用極板とした。また、対極板及び参照極板としてニッケルメッシュ上に金属リチウム箔を圧着した金属リチウム板、電解液として上記にて作製した非水電解液を用い、各電極板(作用極板、対極板、参照極板)には、予めスポット溶接機を用いてリード線(ニッケル線)を取り付けた後、三極式コインセルを組み立て、これを実施例試験セル1とした。そして実施例試験セル1を、下記CV試験および下記充放電試験に供した。
【0092】
<サイクリックボルタンメトリー試験(CV試験)>
実施例1における電極活物質層に含有される金属化合物が、リチウムイオン挿入脱離反応を示すか否かを予め確認するために、以下のとおりCV試験を行った。また参考例として、負極活物質粒子であるグラファイトを用いない以外には、実施例1と同様に負極板を作成し、これを参考例1とした。そして、上記参考例1を用いて以下のとおりCV試験を行った。
【0093】
具体的には、まず電極電位を2.0Vから0.03Vまで掃引したのち、再び2.0Vまで戻す作業を4度繰り返した。走査速度は1mV/秒とした。実施例1を用いたCV試験のボルタモグラムを図1とし、参考例1を用いたCV試験の結果であるボルタモグラムを図2として示した。図1から明らかなとおり、実施例1を用いたCV試験では、リチウムイオンの挿入脱離反応に相当する充電ピークと放電ピークとが確認された。一方、図2に示されるとおり、参考例1では、リチウムイオンの挿入脱離反応に相当する充電ピークと放電ピークは示されなかった。このことにより、図1に示される充電ピークおよび放電ピークは、負極活物質粒子であるグラファイトによりリチウムイオンの挿入脱離により示されるものであり、電極活物質層中に含有される酢酸リチウム自体は、何ら、リチウムイオンの挿入脱離反応が示されないことが確認された。尚、上記CV試験は、Bio Logic社製のVMP3を用いて実施した。
【0094】
<充放電試験>
上述のとおり作成した三極式コインセルである実施例試験セル1において、作用極板の放電試験を実施するために、まず実施例試験セル1を下記充電試験のとおり満充電させた。
【0095】
充電試験:
実施例試験セル1を、25℃の環境下で、電圧が0.03V(満充電電圧)に達するまで定電流(530μA)で定電流充電し、当該電圧が0.03Vに達した後は、電圧が0.03Vを下回らないように、当該電流(放電レート:1C)が5%以下となるまで減らしていき、定電圧で充電を行ない、満充電させた後、10分間休止させた。尚、ここで、上記「1C」とは、上記三極式コインセルを用いて定電流放電して、1時間で放電終了となる電流値(放電終止電圧に達する電流値)のことを意味する。また上記定電流は、実施例試験セル1における作用極板において、活物質であるグラファイトの理論放電量372mAh/gが1時間で放電されるよう設定された。
【0096】
放電試験:
その後、満充電された実施例試験セル1を、25℃の環境下で、電圧が0.03V(満充電電圧)から2.0V(放電終止電圧)になるまで、定電流(530μA)(放電レート:1C)で定電流放電し、縦軸にセル電圧(V)、横軸に放電時間(h)をとり、放電曲線を作成し、作用極板(実施例1である負極用電極板)の放電容量(mAh)を求め、当該作用極板の単位重量当たりの放電容量(mAh/g)に換算した。
【0097】
続いて、上述のとおり実施した定電流(530μA)(放電レート:1C、放電終了時間:1時間)での定電流放電試験を基準として、10C、20C、50C、100C
の放電レートにおいても、同様にして各々定電流放電試験を行ない、各放電レートにおける作用極板の放電容量(mAh)を求め、これより単位重量当たりの放電容量(mAh/g)を換算した。
【0098】
<放電容量維持率(%)の算出>
作用極板の出力特性(放電レート特性)を評価するため、上述のとおり得られた各放電レートにおける単位重量当たりの各放電容量(mAh/g)を用い、上述で示した数1により放電容量維持率(%)を求めた。尚、上記放電試験により得られた単位重量当たりの放電容量(mAh/g)及び放電容量維持率(%)は、いずれも表3にまとめて示す。尚、あわせて表3に示す「セル容量」は、15mmΦの作用極板の電極容量であって、ある時間までに流れた電流値を時間で積分した値を意味する。例えば、セルに1mAの一定電流を1時間流した場合、容量は、1mAhとなる。
【0099】
<密着性評価>
実施例1について、以下のとおり密着性試験を実施し、集電体に対し電極活物質層の剥離性について測定し、以下のとおり評価した。
粘着テープ(ニチバン社製、CT−15、幅15mm)を、上記電極活物質層表面に貼り、次いで剥離角度90度、引張速度1200mm/minの条件で、剥がしとった際、粘着テープ側に電極活物質層の転写量が30%未満であった場合に○(密着性が良好である)、30%以上であった場合に×(密着性不良)とし、結果を表1に示した。なお、%は、電極活物質層の総面積に対する、粘着テープに転写された電極活物質層の面積の比率を示す。
【0100】
(実施例2〜実施例37)
表1または表2に示す、負極活物質と結着物質前駆体金属化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様に非水電解液二次電池用負極板を作成し、これを実施例2〜実施例37とした。
【0101】
(実施例38)
加熱工程を1気圧のN雰囲気下で行ったこと以外は、全て実施例1と同様に非水電解液二次電池用負極板を作成し、これを実施例38とした。
【0102】
(実施例39、実施例40)
実施例1と同様に負極板を作成した。そして、以下のとおり調製した樹脂混合液の満たされた浸漬槽に実施例1を浸漬させ、実施例1の空隙に上記樹脂混合液を充分に浸透させた。その後、実施例1を上記浸漬層から取りだし、150℃に加温したオーブン内に設置して15分間乾燥させて、樹脂混合液の溶媒を除去した。これによって、電極活物質層中に、樹脂製結着材が残留する負極板を作成し、これを実施例39とした。尚、上記樹脂混合液は、樹脂材料として、PVDF樹脂を用い、PVDFの濃度が0.1%となるようNMP溶媒に混合させて調製した。また、上記樹脂混合液において、PVDF樹脂の濃度が10%となるよう調整したこと以外は実施例39と同様に負極板を作成し、これを実施例40とした。
【0103】
(比較例1)
比較例1として、酢酸リチウム二水和物を添加しないこと以外は、実施例1と同様の方法で、非水電解液二次電池用負極板を作製したが、負極活物質粒子を集電体上に固着させることができず、密着性評価において、密着性不良であることが確認された。また電極活物質層の密着性が不良であるため、三極式コインセルを作製し充放電評価するに至らなかった。
【0104】
(比較例2)
溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)100重量部に対し、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を14重量部添加した混合物を用意する。実施例1に用いたものと同様の負極活物質粒子と前記混合物とを57:43の重量比で混合し、スラリー状の電極活物質層形成溶液(塗工組成物)を調製した。
【0105】
実施例1に用いたものと同様の集電体に、上記スラリー状の電極活物質層形成溶液を塗工して塗膜を形成し、次いで、120℃、1時間の条件で乾燥させ、集電体上に電極活物質層を形成した。さらに、形成された電極活物質層の塗工密度が1.5g/cmとなるように、ロールプレス機を用いてプレスして、次いで、15mmφサイズに打ち抜き、120℃にて12時間真空乾燥させて、非水電解液二次電池用負極板を作製し、これを比較例2とした。
【0106】
(比較例3)
負極活物質粒子として、グラファイトの代わりに平均粒子径6μmのチタン酸リチウムを用いたこと以外は、比較例2と同様に非水電解液二次電池用負極板を作製し、これを比較例3とした。
【0107】
実施例2〜実施例40、比較例2および比較例3を用い、実施例1と同様に電極活物質層の膜厚みを測定した。その結果、実施例2〜実施例40における電極活物質層の膜厚は、いずれも実施例1と同様約24μmであることを確認した。比較例2および3における電極活物質層の膜厚は、約23μmであった。また実施例1と同様に密着性評価を行った。結果は、表1または表2に示す。
【0108】
また、実施例2〜40、比較例2および比較例3を用い、実施例1と同様に三極式コインセルをそれぞれ作製し、実施例1と同様にCV試験、充放電試験を実施した。結着物質のリチウム挿入脱離反応の有無の結果は表1または表2に、充放電試験により求めた放電容量維持率およびセル容量の値は表3または表4に示す。ただし、実施例29〜実施例37の充放電試験は、充放電試験における定電流を530μAh、満充電電圧を2.0V、放電終止電圧を1.0V、と変更して実施した。
【0109】
表1または表2に示す実施例1〜実施例38の結果から、本発明の負極板は、樹脂製結着材を使用せずとも、電極活物質層の密着性が良好であることが確認された。一方、樹脂製結着材を使用せず、且つ、本発明における結着物質(金属化合物)を使用しなかった比較例1では、電極活物質層の密着性が不良であり、使用に耐え得る負極板を作製することができなかった。このことから、本発明における結着物質である金属酸化物が、確実に結着作用を発揮していることが確認された。
【0110】
また、従来どおり活物質粒子のバインダとして、樹脂製結着材のみを用いて作成された比較例2および比較例3と比べて、実施例1〜38の負極板は、放電容量維持率が高かった。即ち、本発明の負極板は、高速充放電に優れ、出入力特性が向上したことが確認された。中でも、結着物質前駆体金属化合物として、酢酸リチウム無水物、あるいは酢酸リチウム水和物を用いて生成された本発明の負極板は、金属酸化物として、酢酸リチウムを電極活物質層中に含み、特に出入力特性、および電極活物質層の密着性が優れることが示された。また、電極活物質層中に結着物質として金属酸化物を含み、さらに樹脂製結着材も含む実施例39、実施例40についても、放電容量維持率が高く、良好な出入力特性が示された。
【0111】
【表1】




【0112】
【表2】



【0113】
【表3】

【0114】
【表4】



【符号の説明】
【0115】
1、1’、1’’、55 集電体
2、2’、54 電極活物質層
3 集電基材
4 導電性層
5 断続層
10 本発明の一実施態様である非水電解液二次電池用負極板
20、20’、20’’、20’’’ 非水電解液二次電池用負極板
30 電池パック
31 リチウムイオン二次電池セル
32 正極端子
33 負極端子
34 保護回路基板
35 外部接続コネクタ
36a、36b 樹脂容器
37 端部ケース
38a、38b 外部接続用窓
50 非水電解液二次電池用正極板
70 セパレータ
81、82 外装
90 非水電解液
100 リチウムイオン二次電池
101、102、103、103’ 集電体の表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、上記集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層とを備える非水電解液二次電池用負極板であって、
上記電極活物質層が、負極活物質粒子および結着物質を含有しており、
上記結着物質が、リチウムイオン挿入脱離反応を示さない金属化合物であり、且つ、上記金属化合物が、金属酸化物を含まないことを特徴とする非水電解液二次電池用負極板。
【請求項2】
上記金属化合物が、カルボニル基を含むことを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池用負極板。
【請求項3】
上記金属化合物が、酢酸塩を含むことを特徴とする請求項2に記載の非水電解液二次電池用負極板。
【請求項4】
上記酢酸塩が、酢酸リチウム無水和物及び/または酢酸リチウム水和物であることを特徴とする請求項3に記載の非水電解液二次電池用負極板。
【請求項5】
上記負極活物質粒子における炭素原子の含有量が、30重量%以上100重量%以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用負極板。
【請求項6】
正極板と、負極板と、上記正極板と上記負極板との間に設けられるセパレータと、非水溶媒を含む電解液とを少なくとも備えた非水電解液二次電池であって、
上記負極板が、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用負極板であることを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項7】
負極活物質粒子と、結着物質前駆体である金属化合物と、が少なくとも含有される電極活物質層形成溶液を、集電体上の少なくとも一部に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、
上記塗膜に含まれる溶媒を除去するとともに、上記金属化合物または上記金属化合物が反応してなる反応物により上記負極活物質粒子を上記集電体上に固着させることによって、上記集電体上に金属化合物または上記反応物と上記負極活物質粒子とを含有する電極活物質層を形成する電極活物質層形成工程と、をこの順に備え、
上記結着物質前駆体である金属化合物が金属酸化物を含まず、
上記金属化合物またはその反応物が、リチウムイオン挿入脱離反応を示さないものであり、且つ、
上記電極活物質層形成工程は、上記結着物質前駆体である金属化合物を酸化しない環境で実施することを特徴とする非水電解液二次電池用負極板の製造方法。
【請求項8】
上記電極活物質層形成工程が、減圧環境下、及び/または不活性ガス雰囲気下で実施されることを特徴とする請求項7に記載の非水電解液二次電池用負極板の製造方法。
【請求項9】
収納ケースと、正極端子および負極端子を備える非水電解液二次電池と、過充電および過放電保護機能を有する保護回路とを少なくとも備え、上記収納ケースに上記非水電解液二次電池および上記保護回路が収納されて構成される電池パックにおいて、
上記非水電解液二次電池が、正極板と、負極板と、上記正極板と上記負極板との間に設けられるセパレータと、非水溶媒を含む電解液とを少なくとも備えた非水電解液二次電池であり、
上記負極板が、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用負極板であることを特徴とする電池パック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−71105(P2011−71105A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185127(P2010−185127)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】