説明

非水電解液用の難燃性溶媒、これを含有する難燃性非水電解液及び非引火性非水電解液

【課題】高度な難燃性を示し、且つ、電解質の溶解力が高く、良好なイオン伝導性を示す非水電解液用の難燃性溶媒、これを含有する難燃性非水電解液及び非引火性非水電解液を提供する。
【解決手段】[1]下記一般式(1)


(式中、Rf、Rf及びRfは、それぞれ独立して、炭素数1〜5の直鎖ないし分岐のアルキル基または炭素数1〜5の直鎖ないし分岐の含フッ素アルキル基を表し、Rf〜Rfの少なくとも1つは含フッ素アルキル基を表す。)で表される含フッ素リン酸エステルに、[2]含フッ素エーテル、含フッ素エステル及び含フッ素カーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種の含フッ素溶媒を共存させて用いることを特徴とする非水電解液用の難燃性溶媒、これを含有する難燃性非水電解液及び非引火性非水電解液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池、キャパシタ及び電解コンデンサ等の電気化学エネルギー変換デバイスに用いられる非水電解液用の難燃性溶媒に関する。より詳細には、含フッ素リン酸エステルと特定の含フッ素溶媒を混合することによる電解質の溶解性と粘度等の物性及び難燃性に優れた非水電解液用の難燃性溶媒、これを含む難燃性の非水電解液及び引火点を有さない非引火性非水電解液に関する。
【背景技術】
【0002】
非水系二次電池、キャパシタ、電解コンデンサ等の電気化学エネルギー変換デバイスは、ノートパソコン、携帯電話を初めとし、バックアップ電源、電源回路の平滑用など多様な用途で利用されている。
【0003】
特に非水系二次電池は、高出力密度、高エネルギー密度を有しており、電力貯蔵用電源、電気自動車用電源として近年注目を浴びている。
【0004】
非水系二次電池としては、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池、マグネシウムイオン二次電池等が知られている。例えば、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池の場合は、正極にリチウム含有遷移金属酸化物を主要構成成分とする材料が用いられ、負極には金属リチウムまたはリチウム合金が用いられる場合、あるいは、グラファイトに代表される炭素質材料を主要構成成分とする材料が用いられる場合等がある。これらは、それぞれリチウム二次電池、リチウムイオン二次電池と称される。正極、負極は、セパレータを介して設けられ、正極、負極間は、Liイオンが移動する媒体として、非水電解液が満たされる。この非水電解液としては、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等の電解質が、エチレンカーボネートやジメチルカーボネート等の高誘電率の有機溶媒に溶解されたものが広く用いられている。ここで、これら有機溶媒は、揮発性、引火性を有しており、引火性物質に分類される溶媒である。このように、引火性液体を溶媒とした非水電解液、並びにこの非水電解液を用いた非水系二次電池は生産から輸送、貯蔵にかかる間にわたり「引火性液体」とみなされ、非水電解液及び非水電解液を用いた二次電池を工場で生産したり、輸送、貯蔵したりする場合、防爆や防火対策を施した設備での取扱いが必要となっている。このため、特に電力貯蔵用電源や電気自動車用電源等の大型の非水系二次電池の用途には、電解液が難燃性もしくは自己消火性を有する難燃性の非水電解液、更には蒸気相においても引火性を有さない非引火性の非水電解液が望まれている。
【0005】
このような非水電解液の難燃化の目的にて、含フッ素リン酸エステルを溶媒として用いることが検討されている(特許文献1〜3、非特許文献1)。含フッ素リン酸エステルは、リン原子に起因する化学的な難燃化効果とフッ素原子に起因する窒息作用による難燃化の機能を併せ持つため、高度な難燃化が可能である。ところが、この含フッ素リン酸エステルを含有する電解液は、イオン伝導度等の電解液としての特性が低下する欠点がある。特に電解液を電気自動車用の二次電池に使用する際には、イオン伝導度は、急速充放電性能等に影響する重要な特性であるためその向上が課題となっている。
【0006】
また、これら含フッ素リン酸エステルを含む非水電解液においても、蒸気相における引火性に関しては検討がなされていない。
【0007】
一方、難燃化の可能性がある含フッ素リン酸エステル以外の溶媒としては、含フッ素エーテル(特許文献4、5)、含フッ素エステル(特許文献6、7)、含フッ素カーボネート(特許文献8、9)等の含フッ素溶媒が提案されている。しかし、これら含フッ素溶媒は難燃化性能が十分でない上、LiPF等の電解質塩を溶解しにくい欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−88023号公報
【特許文献2】特開2007−141760号公報
【特許文献3】特開2007−258067号公報
【特許文献4】特開平9−097627号公報
【特許文献5】特開平11−26015号公報
【特許文献6】特開平6−20719号公報
【特許文献7】特開平10−116627号公報
【特許文献8】特開平7−6786号公報
【特許文献9】特開2007−305352号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J. Electrochemical Soc., 150, A161(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこれらの課題に鑑みてなされたものである。即ち、高度な難燃性を示し、且つ、電解質の溶解力が高く、良好なイオン伝導性を示す非水電解液用の難燃性溶媒、これを含有する難燃性非水電解液及び非引火性非水電解液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、先の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、含フッ素リン酸エステルと特定の含フッ素溶媒を混合して用いることにより、高度な難燃性を示し、電解質の溶解性が高く、且つ非水電解液が良好なイオン伝導度を示すことを見出し本発明を完成させたものである。即ち、本発明は下記の要旨に係わるものである。
【0012】
(1)[1] 下記一般式(1)
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、Rf、Rf及びRfは、それぞれ独立して、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基を表し、Rf〜Rfの少なくとも1つは含フッ素アルキル基を表す。)
で表される含フッ素リン酸エステルに
[2] 下記一般式(2)
RfORf (2)
(式中、Rf及びRfは、それぞれ独立して、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基を表し、Rf及びRfの少なくとも1つは含フッ素アルキル基を表す。)
で表される含フッ素エーテル、下記一般式(3)
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、Rfは、フッ素原子または炭素数1〜3の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基を表す。Rfは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基を表す。)
で表される含フッ素エステル及び下記一般式(4)
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、Rf及びRfは、それぞれ独立に炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基を表す。Rf及びRfの少なくとも1つは含フッ素アルキル基を表す。)
で表される含フッ素カーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種の含フッ素溶媒を共存させて用いることを特徴とする非水電解液用の難燃性溶媒。
【0019】
(2) 一般式(1)において、Rf、Rf及びRfが、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基及び2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする(1)に記載の非水電解液用の難燃性溶媒。
【0020】
(3) 一般式(1)の含フッ素リン酸エステルが、リン酸トリス(2,2−ジフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)、リン酸トリス(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル)、リン酸ビス(2,2−ジフルオロエチル)2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2−ジフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)メチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エチル及びリン酸ビス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)2,2,2−トリフルオロエチルからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする(1)または(2)に記載の非水電解液用の難燃性溶媒。
【0021】
(4) 一般式(2)において、Rfが、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基及び2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基からなる群から選ばれる1種以上であり、且つRfが、ジフルオロメチル基、1,1,2,2−テトラフルオロエチル基及び1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピル基からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の非水電解液用の難燃性溶媒。
【0022】
(5) 一般式(3)において、Rfがフッ素原子、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基及びヘプタフルオロプロピル基からなる群から選ばれる1種以上であり、Rfがメチル基、エチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基及び2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の非水電解液用の難燃性溶媒。
【0023】
(6) 一般式(4)において、Rf及びRfがそれぞれ独立に、メチル基、エチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基及び2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする(1)から(3)のいずれか1項に記載の非水電解液用の難燃性溶媒。
【0024】
(7) 一般式(1)の含フッ素リン酸エステルに対する一般式(2)〜(4)の含フッ素溶媒の使用量が体積比で0.2〜5倍であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の非水電解液用の難燃性溶媒。
【0025】
(8) 電解質としてリチウム塩および/またはマグネシウム塩を含み、溶媒として、(1)〜(7)のいずれか1項に記載の難燃性溶媒を含むことを特徴とする難燃性非水電解液。
【0026】
(9) 電解質としてリチウム塩および/またはマグネシウム塩を含み、(1)〜(7)のいずれか1項に記載の難燃性溶媒を体積比で3〜80%含むことを特徴とする難燃性非水電解液。
【0027】
(10) 電解質として、リチウム塩および/またはマグネシウム塩、難燃性溶媒として、含フッ素リン酸エステルと含フッ素溶媒からなる(1)から(7)のいずれか1項に記載の難燃性溶媒を含有し、更に溶媒として、環状カーボネート及び非フッ素系鎖状カーボネートを含有することを特徴とする非水電解液。
【0028】
(11) (10)に記載の非水電解液であって、含フッ素溶媒が、一般式(2)で表される含フッ素エーテルのうちフッ素含有率が60重量%以上の含フッ素エーテルであり、且つ該含フッ素エーテルの存在量が非フッ素系鎖状カーボネートに対し体積比で0.3〜5倍であることを特徴とする非引火性非水電解液。
【0029】
(12) (10)に記載の非水電解液であって、含フッ素溶媒として、(1,1,2,2−テトラフルオロエチル)2,2,2−トリフルオロエチルエーテルまたは(1,1,2,2−テトラフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテルを非フッ素系鎖状カーボネートに対し体積比で0.3〜5倍で存在させることを特徴とする非引火性非水電解液。
【0030】
(13) 環状カーボネートの少なくとも一部がフルオロエチレンカーボネートであることを特徴とする(10)に記載の非水電解液。
【0031】
(14) 環状カーボネートの少なくとも一部がフルオロエチレンカーボネートであることを特徴とする(11)または(12)に記載の非引火性非水電解液。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、高度な難燃性を示し、電解質の溶解性が高く、且つ良好なイオン伝導度を示す非水電解液用の難燃性溶媒、これを含有する難燃性非水電解液及び非引火性非水電解液を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例13〜15及び比較例9で測定した非水電解液の温度とイオン伝導度の関係を示すグラフ。
【図2】実施例16〜19、比較例10で使用したコイン型セルのリチウム二次電池の構造を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の非水電解液用の難燃性溶媒は、第一の成分として、前記一般式(1)で表される含フッ素リン酸エステルを含有する。一般式(1)において、Rf、Rf及びRfは、それぞれ独立して、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基であり、Rf〜Rfの少なくとも1つは含フッ素アルキル基である。炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基及びn−ヘキシル基等が挙げられ、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基としては、トリフルオロメチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基、ヘキサフルオロイソプロピル基、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル基、2,2,3,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロペンチル基及び3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル基等を挙げることができる。このような含フッ素リン酸エステルとして、例えば、リン酸トリス(トリフルオロメチル)、リン酸トリス(2,2−ジフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)、リン酸(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)、リン酸トリス(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル)、リン酸トリス(ヘキサフルオロイソプロピル)、リン酸トリス(2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル)、リン酸トリス(2,2,3,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロペンチル)、リン酸トリス(3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル)、リン酸ビス(2,2−ジフルオロエチル)2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)メチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2−ジフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、リン酸ビス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)2,2,2−トリフルオロエチル及びリン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)メチル等を挙げることができる。これら含フッ素リン酸エステルのうち、リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)、リン酸トリス(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル)、リン酸ビス(2,2−ジフルオロエチル)2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2−ジフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル及びリン酸ビス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)2,2,2−トリフルオロエチルが難燃性、粘度等の物性及びイオン伝導度の点で好ましい。
【0035】
本発明の非水電解液用の難燃性溶媒は前記含フッ素リン酸エステルと第二の含フッ素溶媒を混合して用いられる。この第二の含フッ素溶媒は、一般式(2)で表される含フッ素エーテル、一般式(3)で表される含フッ素エステル及び一般式(4)で表される含フッ素カーボネートからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0036】
一般式(2)において、Rf及びRfは、それぞれ独立して、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基であり、Rf及びRfの少なくとも1つは含フッ素アルキル基である。炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基及びn−ヘキシル基等を挙げることができる。炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基としては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、1,1−ジフルオロエチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、1,1,2,2−テトラフルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基、ヘキサフルオロイソプロピル基、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピル基、4,4,4−トリフルオロブチル基及び3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル基等を挙げることができる。これらのうち、特に、Rfが、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基及び2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基のうちの1種から選ばれ、且つRfが、ジフルオロメチル基、1,1,2,2−テトラフルオロエチル基及び1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピル基のうちの1種から選ばれることが粘度等の物性、イオン伝導度の点で好ましい。このような含フッ素エーテルとして、例えば、ジフルオロメチル−2,2、2−トリフルオロエチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2−ジフルオロエチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルエーテル及び1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピル−2,2、2−トリフルオロエチルエーテル等またはこれらの混合物を挙げることができる。
【0037】
また、一般式(3)において、Rfは、フッ素原子または炭素数1〜3の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基であり、Rfは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基である。Rfとしての炭素数1〜3の直鎖ないし分岐の含フッ素アルキル基としては、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基及びヘプタフルオロプロピル基等が挙げられ、Rfとしての炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基、ヘキサフルオロイソプロピル基、4,4,4−トリフルオロブチル基及び3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル基等を挙げることができる。これらのうち、特に、Rfが、フッ素原子、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、またはヘプタフルオロプロピル基のうちの1種から選ばれ、Rfがメチル基、エチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基及び2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基からなる群から選ばれることが粘度等の物性、イオン伝導度の点で好ましい。このような含フッ素エステルとして、例えば、トリフルオロ酢酸メチル、トリフルオロ酢酸エチル、トリフルオロ酢酸2,2−ジフルオロエチル、トリフルオロ酢酸2,2,2−トリフルオロエチル、トリフルオロ酢酸2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、トリフルオロ酢酸2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル、1,1,2,2−テトラフルオロプロピオン酸エチル、1,1,2,2−テトラフルオロプロピオン酸2,2,2−トリフルオロエチル、1,1,2,2−テトラフルオロプロピオン酸2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、1,1,2,2,3,3,4,4,4−ノナフルオロペンタン酸エチル及び1,1,2,2,3,3,4,4,4−ノナフルオロペンタン酸2,2,2−トリフルオロエチル等またはこれらの混合物を挙げることができる。
【0038】
また、一般式(4)において、Rf及びRfは、それぞれ独立に炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基を表し、Rf及びRfの少なくとも1つは含フッ素アルキル基である。炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基及びn−ヘキシル基等が挙げられ、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基としては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、1,1−ジフルオロエチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、1,1,2,2−テトラフルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基、ヘキサフルオロイソプロピル基、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピル基、4,4,4−トリフルオロブチル基、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル基、2,2,3,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロペンチル基及び3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル基等を挙げることができる。これらのうち、特に、Rf及びRfがそれぞれ独立に、メチル基、エチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基及び2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基のうちから選ばれることが粘度等の物性、イオン伝導度の点で好ましい。このような含フッ素カーボネートとして、例えば、メチル−2,2−ジフルオロエチルカーボネート、メチル−2,2,2−トリフルオロエチルカーボネート、メチル−2,2,3,3−テトラフルオロプロピルカーボネート、エチル−2,2,2−トリフルオロエチルカーボネート、ビス(2,2−ジフルオロエチル)カーボネート、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート、ビス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)カーボネート、ビス(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル)カーボネート、2,2−ジフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルカーボネート及び2,2,3,3−テトラフルオロプロピル−2,2,2−トリフルオロエチルカーボネート等またはこれらの混合物を挙げることができる。
【0039】
なお、一般式(1)の含フッ素リン酸エステル、一般式(2)の含フッ素エーテル、一般式(3)の含フッ素エステル及び一般式(4)の含フッ素カーボネートは、いずれも高純度であることが望ましく、特に、水、酸、アルコール等のプロトン性化合物の含有量がそれぞれ50ppm未満、好ましくは30ppm未満であることが望ましい。
【0040】
本発明の非水系二次電池用難燃性溶媒は、一般式(1)の含フッ素リン酸エステルに一般式(2)〜(4)の含フッ素溶媒を共存させて用いられる。この際の一般式(2)〜(4)の含フッ素溶媒の使用量は含フッ素リン酸エステルに対し、体積比で0.2〜5倍である。使用量が0.2倍未満の場合は、粘度等の物性やイオン伝導度等の特性が十分でない場合があり、5倍を超える場合は、電解質の溶解性や難燃性が十分でない場合がある。
【0041】
また、本発明の非水電解液用難燃性溶媒は、前記難燃性溶媒のみの組合せで用いることもできるが、他の溶媒と混合して用いることがより好ましい。この際、一般式(1)の含フッ素リン酸エステル及び一般式(2)〜(4)の含フッ素溶媒の合計が電解液溶媒全体に占める割合が、体積比で3〜80%の範囲が、難燃性と電解液特性の面で好ましい。
【0042】
含フッ素リン酸エステルと含フッ素溶媒の合計量が3%未満の場合、非水電解液の難燃性が十分でなく、80%を超える場合、イオン伝導度等の電気化学的性能が低下する場合があるため、好ましくない。
【0043】
混合する他の溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート等の環状カーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、プロピオラクトン等の環状エステル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート等の非フッ素系鎖状カーボネート、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、メトキシエトキシエタン等のエーテル類及びアセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類等を例示することができる。
その中でもエチレンカーボネートやフルオロエチレンカーボネート等の環状カーボネート及びジメチルカーボネートやジエチルカーボネート等の非フッ素系鎖状カーボネートを組み合わせて使用することが粘度及びイオン伝導度の点で好ましい。この際、環状カーボネートの少なくとも一部にフルオロエチレンカーボネートを使用すると、より広範囲の組成で非水電解液を難燃性または非引火性とすることができ、低温においても電解質の溶解度を十分に維持できるため特に好ましい。
【0044】
一方、ジメチルカーボネートのような非フッ素系鎖状カーボネートは引火点を有し、低温でも可燃性の蒸気を発生する。この様な非フッ素系鎖状カーボネートを用いる場合は、難燃性溶媒として、第一の成分に前記一般式(1)の含フッ素リン酸エステル、第二の成分に前記一般式(2)の含フッ素エーテルのうちのフッ素含有率が60重量%以上の含フッ素エーテルを使用することが、電解液を非引火性とするために特に好ましい。フッ素含有率が60重量%以上の一般式(2)の含フッ素エーテルは、蒸気圧が高く、不燃性であるため、非フッ素系鎖状カーボネートが存在する場合でも非引火性雰囲気を形成し、更に高温の不燃性溶媒である含フッ素リン酸エステルとの共存効果により、幅広い温度領域で非引火性雰囲気を形成するものと考えられる。なお、含フッ素エーテルの存在量は、非フッ素系鎖状カーボネートに対して、容量比で0.3〜5倍とする。含フッ素エーテルの存在量が0.3倍未満の場合、電解液が引火点を有する場合があり、含フッ素エーテルの存在量が5倍を超える場合、電解質の溶解性が低下し低温で析出を招く場合がある。
【0045】
本発明の非水電解液を構成する電解質塩としては、広電位領域において安定であるリチウム塩やマグネシウム塩等が使用できる。このような電解質塩として、例えば、LiBF、LiPF、LiClO、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiC(CFSO、Mg(ClO、Mg(CFSO、Mg(N(CFSO等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。なお、電池の高率充放電特性を良好なものとするため、非水電解液における電解質塩の濃度は0.2〜2.5mol/Lの範囲とすることが望ましい。
【0046】
本発明の非水電解液を用いた非水系二次電池は、少なくとも正極、負極、セパレータから成る。負極材料としては、金属リチウム、リチウム合金あるいはリチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な炭素材料等が用いられる。正極材料としては、通常、LiCoO2、LiMnO2、LiMn24、LiNiO2、LiFeO、LiFePOなどのリチウムと遷移金属の複合酸化物等が用いられる。セパレータとしては、微多孔性膜等が用いられ、材料として、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂あるいはポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂等が用いられる。非水系二次電池の形状、形態としては、通常、円筒型、角型、コイン型、カード型等が選択される。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。
【0048】
実施例1〜4、比較例1〜5 電解質の溶解性
リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピルと1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテルを体積比1:1で混合した。この混合液に、LiPFを添加し、6時間20℃で攪拌し溶解させた。不溶のLiPFを濾別後、溶液の19F−NMR分析によりLiPF濃度を求めた。同様の操作をリン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピルと1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2−ジフルオロエチルエーテルの1:1混合液、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピルと1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテルの1:1混合液、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピルとトリフルオロ酢酸エチルの1:1混合液についても実施した。また、比較例として、各化合物それぞれについて単独溶媒で同様な操作を実施し、LiPFの溶解性を調べた。結果を表1に示す。
【0049】
本発明の含フッ素リン酸エステルと他の含フッ素溶媒が混合された溶媒は、LiPFをほとんど溶解しない含フッ素溶媒が多量に存在しているにもかかわらず、驚くべきことに含フッ素リン酸エステル単独の場合と同等以上の電解質の溶解性を示すことが確認された。
【0050】
【表1】

【0051】
実施例5〜9、比較例6 粘度
含フッ素リン酸エステルと各フッ素系溶媒の混合液の粘度を20℃の恒温槽中でウベローデ粘度計を用いて測定した。結果を表2に示す。
【0052】
本発明の含フッ素リン酸エステルと他の含フッ素溶媒が共存する溶媒は、含フッ素リン酸エステル単独溶媒に比べ顕著に低い粘度を示すことが確認された。
【0053】
【表2】

【0054】
実施例10〜12、比較例7〜8 電解液の難燃性
リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(15体積%)、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(15体積%)、エチレンカーボネート(35体積%)及びジメチルカーボネート(35体積%)の混合液に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解させた非水電解液を電解液aとした。リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(15体積%)、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2−ジフルオロエチルエーテル(15体積%)、エチレンカーボネート(35体積%)及びジメチルカーボネート(35体積%)の混合液に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解させた非水電解液を電解液bとした。リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(15体積%)、トリフルオロ酢酸エチル(15体積%)、エチレンカーボネート(35体積%)及びジメチルカーボネート(35体積%)の混合液に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解させた非水電解液を電解液cとした。また、エチレンカーボネート(50体積%)及びジメチルカーボネート(50体積%)の混合液に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解させた非水電解液を電解液d、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2−ジフルオロエチルエーテル(30体積%)、エチレンカーボネート(35体積%)及びジメチルカーボネート(35体積%)の混合液に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解させた非水電解液を電解液eとした。これらの非水電解液を使用し、下記方法により難燃性を試験した。
【0055】
直径21mmの硝子ろ紙に非水電解液0.25mlを注入し、8cmの距離からアルコールランプの炎を当て、10秒間保持し、燃焼有無を確認した。この試験を5回繰り返し燃焼確率を求めた。結果を表3に示す。
【0056】
本発明の含フッ素リン酸エステルと他の含フッ素溶媒が共存する溶媒を含む電解液が、優れた電解液の難燃化効果を示すことが確認された。
【0057】
【表3】

【0058】
実施例13〜15、比較例9 非水電解液のイオン伝導度
実施例10の電解液a、実施例11の電解液b、実施例12の電解液c及び比較の電解液として、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(30体積%)、エチレンカーボネート(35体積%)及びジメチルカーボネート(35体積%)の混合液にLiPFを1mol/Lの濃度になるように溶解させた非水電解液fについて、電気伝導率計(京都電子製CM−117型)を用いて各温度におけるイオン伝導度を計測した。結果を図1に示す。
【0059】
本発明の含フッ素リン酸エステルと他の含フッ素溶媒が共存する溶媒を含む電解液は、改善された良好なイオン伝導度を示すことが確認された。
【0060】
実施例16〜19、比較例10
実施例10の電解液a、実施例11の電解液b、実施例12の電解液c、実施例19の電解液として、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(20体積%)、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(10体積%)、エチレンカーボネート(60体積%)及びジメチルカーボネート(10体積%)の混合液に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解させた非水電解液を電解液g、及び比較例9の電解液fを使用して下記方法により放電容量比の試験を行った。
【0061】
非水系二次電池の作成
正極活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO)を用い、これに導電助剤としてカーボンブラック、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)をLiCoO:カーボンブラック:PVDF=85:7:8となるように配合し、1−メチル−2−ピロリドンを用いてスラリー化したものをアルミ製集電体上に一定の膜厚で塗布し、乾燥させて正極を得た。
【0062】
負極活物質としては天然球状グラファイトを用い、バインダーとしてPVDFをグラファイト:PVDF=9:1となるように配合し、1−メチル−2−ピロリドンを用いてスラリー化したものを銅製集電体上に一定の膜厚で塗布し、乾燥させて負極を得た。
【0063】
セパレータは無機フィラー含浸ポリオレフィン多孔質膜を用いた。
【0064】
以上の構成要素を用いて、図2に示した構造のコイン型セルを用いたリチウム二次電池を作成した。リチウム二次電池はセパレータ6を挟んで正極1、負極4を対向配置し、負極ステンレス製キャップ3にステンレス製板バネ5を設置し、負極4、セパレータ6および正極1からなる積層体をコイン型セル内に収納した。この積層体に本発明の電解液を注入した後、ガスケット7を配置後、正極ステンレス製キャップ2をかぶせ、コイン型セルケースをかしめることで作成した。
【0065】
充放電試験
上記の方法で作成したリチウムイオン二次電池を25℃の恒温条件下、0.1Cの充電電流で上限電圧を4.2Vとして充電し、続いて0.1Cの放電電流で3.0Vとなるまで放電した。この操作を3回行った後に25℃の恒温条件下、5Cの充電電流で4.2Vの定電流-定電圧充電を行い、5Cの放電電流で終止電圧3.0Vまで定電流放電を行った。上記の試験において、0.1Cの放電容量を初期放電容量とし、5Cで放電した際の放電容量を初期放電容量に対する5C放電容量比として比較を行った。結果を表4に示す。
【0066】
本発明の含フッ素リン酸エステルと含フッ素溶媒、更に非フッ素系有機溶媒として、鎖状カーボネート及び環状カーボネートが共存する溶媒を含む電解液が良好な電池特性を示すことが確認された。
【0067】
【表4】

【0068】
実施例20〜28、比較例11〜12
リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(20体積%)、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(10体積%)、エチレンカーボネート(55体積%)及びジメチルカーボネート(15体積%)の混合液に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解させた非水電解液を電解液hとした。リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(20体積%)、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(10体積%)、エチレンカーボネート(60体積%)、及びエチルメチルカーボネート(10体積%)の混合液に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解させた非水電解液を電解液iとした。
【0069】
リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(10体積%)、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(20体積%)、エチレンカーボネート(60体積%)及びジエチルカーボネート(10体積%)の混合液に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解させた非水電解液を電解液jとした。リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(20体積%)、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテル(10体積%)、エチレンカーボネート(50体積%)及びジメチルカーボネート(10体積%)の混合液に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解させた非水電解液を電解液kとした。リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(20体積%)、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(10体積%)、エチレンカーボネート(35体積%)及びジメチルカーボネート(35体積%)の混合液に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解させた非水電解液を電解液lとした。リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(20体積%)、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(10体積%)、エチレンカーボネート(35体積%)及びエチルメチルカーボネート(35体積%)の混合液に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解させた非水電解液を電解液mとした。リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(20体積%)、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(10体積%)、フルオロエチレンカーボネート(50体積%)及びジメチルカーボネート(20体積%)の混合液に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解させた非水電解液を電解液nとした。リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(10体積%)、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(20体積%)、フルオロエチレンカーボネート(25体積%)、エチレンカーボネート(25体積%)及びジメチルカーボネート(20体積%)の混合液に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解させた非水電解液を電解液oとした。1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(30体積%)、エチレンカーボネート(35体積%)及びジメチルカーボネート(35体積%)の混合液に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解させた非水電解液を電解液pとした。これらの非水電解液と比較例10の電解液f、実施例19の電解液gを使用し、下記方法により引火点を測定した。
【0070】
引火点測定には消防法の引火点測定方法に準じた方法を選択し、セタ式引火点試験器RT−1型(ERDCO Engineering Corporation製)を用いた。このRT−1試験器を所定温度まで昇温し、温度が一定になったところで、電解液4mlを注入した。2分経過後、開閉器より内部を見ながら試験炎をのぞかせ、引火の有無を観察した。これを電解液が沸騰する温度を上限として実施し、沸騰温度まで引火しなかった場合を引火点なしと判断した。
【0071】
結果を表5に示す。
【0072】
本発明の含フッ素リン酸エステルと含フッ素エーテル、非フッ素系鎖状カーボネートが共存する溶媒を含む電解液において、非フッ素系鎖状カーボネートに対する含フッ素エーテルの体積比が0.3以上の電解液が非引火性非水電解液であることが確認された。
【0073】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の非水電解液用の難燃性溶媒は、高度な難燃性を示し、電解質の溶解性が高く、且つ良好なイオン伝導度を示すので、難燃性の非水電解液用溶媒として有用である。
【符号の説明】
【0075】
1 正極
2 正極ステンレス製キャップ
3 負極ステンレス製キャップ
4 負極
5 ステンレス製板バネ
6 無機フィラー含浸ポリオレフィン多孔質セパレータ
7 ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
[1] 下記一般式(1)
【化1】

(式中、Rf、Rf及びRfは、それぞれ独立して、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基を表し、Rf〜Rfの少なくとも1つは含フッ素アルキル基を表す。)
で表される含フッ素リン酸エステルに、
[2] 下記一般式(2)
RfORf (2)
(式中、Rf及びRfは、それぞれ独立して、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基を表し、Rf及びRfの少なくとも1つは含フッ素アルキル基を表す。)
で表される含フッ素エーテル、下記一般式(3)
【化2】

(式中、Rfは、フッ素原子または炭素数1〜3の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基を表す。Rfは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基を表す。)
で表される含フッ素エステル及び下記一般式(4)
【化3】

(式中、Rf及びRfは、それぞれ独立に炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基を表す。Rf及びRfの少なくとも1つは含フッ素アルキル基を表す。)
で表される含フッ素カーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種の含フッ素溶媒を共存させて用いることを特徴とする非水電解液用の難燃性溶媒。
【請求項2】
一般式(1)において、Rf、Rf及びRfが、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基及び2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液用の難燃性溶媒。
【請求項3】
一般式(1)の含フッ素リン酸エステルが、リン酸トリス(2,2−ジフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)、リン酸トリス(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル)、リン酸ビス(2,2−ジフルオロエチル)2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2−ジフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)メチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エチル及びリン酸ビス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)2,2,2−トリフルオロエチルからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の非水電解液用の難燃性溶媒。
【請求項4】
一般式(2)において、Rfが、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基及び2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基からなる群から選ばれる1種以上であり、且つRfが、ジフルオロメチル基、1,1,2,2−テトラフルオロエチル基及び1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピル基からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の非水電解液用の難燃性溶媒。
【請求項5】
一般式(3)において、Rfがフッ素原子、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基及びヘプタフルオロプロピル基からなる群から選ばれる1種以上であり、Rfがメチル基、エチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基及び2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の非水電解液用の難燃性溶媒。
【請求項6】
一般式(4)において、Rf及びRfがそれぞれ独立に、メチル基、エチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基及び2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の非水電解液用の難燃性溶媒。
【請求項7】
一般式(1)の含フッ素リン酸エステルに対する一般式(2)〜(4)の含フッ素溶媒の使用量が体積比で0.2〜5倍であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の非水電解液用の難燃性溶媒。
【請求項8】
電解質としてリチウム塩および/またはマグネシウム塩を含み、溶媒として、請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の難燃性溶媒を含むことを特徴とする難燃性非水電解液。
【請求項9】
電解質としてリチウム塩および/またはマグネシウム塩を含み、請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の難燃性溶媒を体積比で3〜80%含むことを特徴とする難燃性非水電解液。
【請求項10】
電解質として、リチウム塩および/またはマグネシウム塩、難燃性溶媒として、含フッ素リン酸エステルと含フッ素溶媒からなる請求項1から7のいずれか1項に記載の難燃性溶媒を含有し、更に溶媒として、環状カーボネート及び非フッ素系鎖状カーボネートを含有することを特徴とする非水電解液。
【請求項11】
請求項10に記載の非水電解液であって、含フッ素溶媒が、一般式(2)で表される含フッ素エーテルのうちフッ素含有率が60重量%以上の含フッ素エーテルであり、且つ該含フッ素エーテルの存在量が非フッ素系鎖状カーボネートに対し体積比で0.3〜5倍であることを特徴とする非引火性非水電解液。
【請求項12】
請求項10に記載の非水電解液であって、含フッ素溶媒として、(1,1,2,2−テトラフルオロエチル)2,2,2−トリフルオロエチルエーテルまたは(1,1,2,2−テトラフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテルを非フッ素系鎖状カーボネートに対し体積比で0.3〜5倍で存在させることを特徴とする非引火性非水電解液。
【請求項13】
環状カーボネートの少なくとも一部がフルオロエチレンカーボネートであることを特徴とする請求項10に記載の非水電解液。
【請求項14】
環状カーボネートの少なくとも一部がフルオロエチレンカーボネートであることを特徴とする請求項11または請求項12に記載の非引火性非水電解液。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−94491(P2012−94491A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182351(P2011−182351)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(591180358)東ソ−・エフテック株式会社 (91)
【Fターム(参考)】