説明

非水電解質二次電池及びその製造方法

【課題】 充電終止電圧を高くして電池の高容量化を図った場合であっても、高温下での保存特性を飛躍的に向上させることができる非水電解質二次電池を提供することを目的としている。
【解決手段】 正極活物質の表面における少なくとも一部は、リン酸化合物から成る表面処理層で被覆されており、且つ、上記リン酸化合物には、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテチウムから成る群から選択される少なくとも1つの元素が含まれていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解質二次電池及びその製造方法の改良に関し、特に、高容量を特徴とする電池構成においても高い信頼性を引き出すことができる非水電解質二次電池及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン、PDA等の移動情報端末の小型・軽量化が急速に進展しており、その駆動電源としての電池にはさらなる高容量化が要求されている。この要求に応える二次電池として、リチウムイオンを吸蔵・放出し得る合金、若しくは炭素材料等を負極活物質とし、リチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質とする非水電解質二次電池が、高エネルギー密度を有する電池として注目されている。
【0003】
ここで、従来の非水電解質二次電池の高容量化は、容量に関与しない電池缶、セパレータ、集電体(アルミ箔や銅箔)等の部材の薄型化や、活物質の高充填化(電極充填密度の向上)により図られていた。しかしながら、これらの高容量化手段を用いても、非水電解質二次電池の飛躍的な高容量化を図ることはできない。そこで、充電終止電圧を高くすることにより、高容量化、高エネルギー密度化を図ることが考えられる。しかし、充電終止電圧を高くした場合には、高めるにしたがって正極活物質が劣化したり、電解液が酸化分解したりするため、電池特性が低下するという課題を有していた。
【0004】
このようなことを考慮して、正極活物質の構造安定化や表面処理に関する開発が活発に行なわれている。例えば、以下に示す提案がされている。
(1)リチウムとコバルトとを含有し、層状構造有するリチウム遷移金属酸化物に、Zr元素を含有させることにより、充電終止電圧を高くした場合であっても、正極活物質の構造安定化を図っている(下記特許文献1参照)。
【0005】
(2)MPO(Mは3価の価数をとりうる少なくとも1つの元素、kは2〜4の範囲の整数)で表されるリン酸塩化合物からなる表面処理層で、正極活物質における表面の少なくとも一部を被覆する技術が紹介されている。当該技術によれば、電解液と正極との反応を抑制することにより、初期効率を低下させることなくサイクル特性を向上させる旨記載されている(下記特許文献2参照)。
(3)(NHHPO等の二重結合を有するリン化合物とAl(NO・9HO等のAlを含む化合物と水とを混合したコーティング液に活物質前駆体を滴下して混合し、これにリチウム源を加えて熱処理することにより得た正極活物質を用いることで、高温スウェリング特性の優れた(高温でも膨れない)電池を提供できる旨記載されている(下記特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4307962号公報
【特許文献2】特開2005−243301号公報
【特許文献3】特開2005−166656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、充電終止電圧を高くした場合に、正極活物質の構造を、ある程度安定化することができるものの、安定化度合いが不十分である。したがって、高温下で保存した場合に電池容量が大きく低下する。また、上記特許文献2、3に記載の技術は、アルミニウムやランタンの化合物で正極活物質を被覆する構成であるが、充電終止電圧が4.2Vの場合には改善効果がある程度発揮されるが、充電終止電圧を更に高めた場合(例えば、充電終止電圧を4.4Vとした場合)には、上述した作用効果が十分に発揮されない。
【0008】
本発明の目的は、充電終止電圧を高くして電池の高容量化を図った場合であっても、高温下での保存特性を飛躍的に向上させることができる非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するために、正極活物質を含む正極活物質層が正極集電体の表面に形成された正極と、負極と、これら両正負極間に配置されたセパレータとから成る電極体を有し、この電極体と非水電解質とが外装体内に収納された非水電解質二次電池であって、上記正極活物質の表面における少なくとも一部は、リン酸化合物から成る表面処理層で被覆されており、且つ、上記リン酸化合物には、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)から成る群から選択される少なくとも1つの元素が含まれていることを特徴とする。
【0010】
上記構成の如く、正極活物質の表面における少なくとも一部は表面処理層で被覆されているので、正極活物質と電解液との反応面積が減少する。加えて、表面処理層は、ネオジム等に限定された元素を含むリン酸化合物から構成されており、当該リン酸化合物は、アルミニウムやランタンを含むリン酸化合物とは異なり、触媒毒的な作用を特異的に示すと考えられる。したがって、正極活物質と電解液との反応を抑制することができる。このように、正極活物質と電解液との反応面積を減少させると共に当該反応を抑制することができるので、充電終止電圧を高くした場合であっても、高温下での保存特性を飛躍的に向上させることができる。
【0011】
また、触媒毒的な作用を特異的に示し、正極活物質と電解液との反応を抑制するので、負荷特性を損なうことなく上記効果が発揮される。通常、正極活物質の表面を被覆する表面処理層の面積が増加すると、正極活物質と電解液との反応抑制効果は十分に発揮されるが、正極活物質と電解液との反応面積は減少することから、負荷特性が低下する。一方、正極活物質の表面を被覆する表面処理層の面積が減少すると、正極活物質と電解液との反応面積はあまり減少しないので、負荷特性の低下は抑制されるが、正極活物質と電解液との反応抑制効果は十分に発揮されない。即ち、高温下での保存特性と負荷特性とはトレードオフの関係となる。しかしながら、上記構成であれば、正極活物質の表面のごく一部を被覆するだけで、正極活物質と電解液との反応抑制効果が得られるので、負荷特性を損なうことなく、高温下での保存特性を向上させることができる。
【0012】
上記リン酸化合物に含まれる元素が、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、エルビウム、イッテルビウム、及びルテチウムから成る群から選択される少なくとも1つであることが望ましい。
【0013】
上記正極活物質に対する上記リン酸化合物の割合が、ネオジム元素、サマリウム元素、ユウロピウム元素、エルビウム元素、イッテルビウム元素、又はルテチウム元素換算で、0.010質量%以上0.25質量%以下であることが望ましい。
上記割合が0.010質量%未満であると、リン酸化合物の量が少な過ぎて十分な効果が得られない。一方、当該割合が0.25質量%を超えると、正極活物質の表面が表面処理層によって過剰に覆われしまうため、高い高温保存特性は得られるものの、抵抗が大きくなるため、十分な初期容量が得られず、しかも負荷特性が低下する。
【0014】
本発明に用いる正極活物質としては、リチウムを吸蔵、放出でき、その電位が貴な材料であれば特に制限なく用いることができる。例えば、層状構造、スピネル型構造、オリビン型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を使用することができる。具体的には、コバルト酸リチウムの他、ニッケル−コバルト−マンガンのリチウム複合酸化物、ニッケル−アルミニウム−マンガンのリチウム複合酸化物、ニッケル−コバルト−アルミニウムの複合酸化物等のニッケルを含むリチウム複合酸化物が例示される。
ただし、上記正極活物質の中でも、層状構造を有するリチウム遷移金属酸化物を用いることが望ましい。層状構造を有するリチウム遷移金属酸化物は大きな放電容量を得られるが、熱安定性が悪い。したがって、当該正極活物質をリン酸化合物から成る表面処理層で被覆すれば、熱安定性の向上を図りつつ、大きな放電容量を得ることができる。
なお、上記正極活物質は単独で用いても良いし、他の正極活物質材料と混合して用いても良い。
【0015】
正極活物質を含む溶液中に、リン酸塩と、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテチウムから成る群から選択される少なくとも1つの元素が含まれている塩とを添加して、上記正極活物質の表面における少なくとも一部を、リン酸化合物から成る表面処理層で被覆するステップと、上記リン酸化合物から成る表面処理層で被覆された正極活物質を含む正極活物質層を正極集電体の表面に形成して、正極を作製するステップと、上記正極と負極との間にセパレータを配置して電極体を作製するステップと、上記電極体と非水電解質とを外装体内に収納するステップと、を有することを特徴とする。
このような製造方法により、上述した非水電解質二次電池を作製できる。
【0016】
正極活物質の表面を表面処理層で被覆するステップにおいて、正極活物質を含む溶液に酸又は塩基を添加して、当該溶液のpHを2〜7となるように規制することが望ましい。
pHが2未満になると、リン酸化合物が溶解してしまい、表面処理層で被覆できないことがある。一方、pHが7を超えると、リン酸化合物のみならず水酸化物の析出も生じることがあるため、リン酸化合物特有の作用効果が十分に得られなくなる。
【0017】
上記リン酸塩が、リン酸水素2ナトリウム12水和物、リン酸2水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム、リン酸2水素ナトリウム、リン酸無水リン酸、リン酸、リン酸リチウム、及び、リン酸カリウムから成る群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
リン酸塩としては上記塩が例示されるが、これらに限定するものではなく、水に溶解するリン酸塩であれば、どのようなものであっても用いることができる。
【0018】
(その他の事項)
(1)本発明に用いる負極活物質としては、リチウムを吸蔵、放出可能な材料であれば特に限定なく使用することができる。負極活物質としては、黒鉛及びコークス等の炭素材料、酸化錫等の金属酸化物、ケイ素及び錫等のリチウムと合金化してリチウムを吸蔵することができる金属、金属リチウム等が挙げられる。中でも黒鉛系の炭素材料は、リチウムの吸蔵、放出に伴う体積変化が少なく、可逆性に優れることから好ましい。
【0019】
(2)本発明に用いる非水電解液の溶媒としては、非水電解質二次電池に従来から用いられてきた溶媒を使用することができる。例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ガンマブチロラクトン(GBL)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジメチルカーボネート(DMC)等の炭酸エステル系溶媒や、これらのHの一部がFにより置換されているカーボネート系溶媒が好ましく用いられる。更には、環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルの組合せた溶媒を用いることが特に好ましい。
【0020】
一方、非水電解液の溶質としては、LiPF、LiBF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiPF6−x(C2n−1[但し、1<x<6、n=1又は2]等が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上を混合しても使用できる。溶質の濃度は特に限定されないが、電解液1リットル当り0.8〜1.5モルであることが望ましい。
【0021】
(3)また、pHを調整する際に用いる酸としては、硝酸、硫酸、塩酸等が例示され、塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が例示される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、充電終止電圧を高くして電池の高容量化を図った場合であっても、高温下での保存特性を飛躍的に向上させることができるといった優れた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明に係る非水電解質二次電池を、以下に説明する。尚、この発明における非水電解質二次電池は、下記の形態に示したものに限定されず、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0024】
(正極の作製)
先ず、正極活物質であるコバルト酸リチウム(LiCoOで表され、Al及びMgがそれぞれ1.5mol%固溶されており、且つZrが0.05mol%表面に付着されたもの)500gを3リットルの純水に投入し攪拌した。次に、攪拌状態の純水中に、リン酸水素2ナトリウム12水和物0.77gと、硝酸ネオジム6水和物0.90gを溶解した水溶液とを加えて、コバルト酸リチウムの表面にリン酸ネオジムを析出させた。この際、当該溶液に10質量%の硝酸と、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液とを適宜加え、当該溶液のpHを6.5に保持した。このような状態を保持した後、吸引濾過、水洗した。この後、得られた粉末を120℃にて乾燥し、更に、空気中において300℃で5時間焼成することにより、表面にリン酸ネオジムから成る表面処理層が形成されたコバルト酸リチウムを得た。尚、当該正極活物質をSEMにて観察したところ、コバルト酸リチウムの表面にリン酸ネオジムが分散された状態にて付着しており、コバルト酸リチウムに対するリン酸ネオジムの付着量は、ネオジム元素換算で、0.059質量%であった。
【0025】
次に、上記正極活物質と、導電剤であるAB(アセチレンブラック)と、結着剤であるPVDF(ポリフッ化ビニリデン)とを95:2.5:2.5の質量比となるように調製した後、溶剤であるNMP(N−メチル−ピロリドン)と共に混錬して正極活物質スラリーを調製した。次に、上記正極活物質スラリーをアルミニウム箔から成る正極集電体の両面に塗布し、更に、乾燥、圧延して正極を作製した。尚、正極活物質の充填密度は3.6g/ccとした。
【0026】
(負極の作製)
負極活物質としての黒鉛と、結着剤としてのSBR(スチレンブタジエンゴム)と、増粘剤としてのCMC(カルボキシメチルセルロース)とを、98:1:1の質量比となるように調整した後、水溶液中で混練して負極スラリーを調製した。次に、この上記負極活物質スラリーを、銅箔からなる負極集電体の両面に塗布し、これを乾燥させた後、圧延することにより負極を作製した。尚、負極活物質の充填密度は1.7g/ccとした。
【0027】
(非水電解液の調製)
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とが体積比で3:7となるように混合した溶媒に、LiPFを1.0モル/リットルの割合で加えて、更に、上記溶媒に対する割合が1質量%となるようにビニレンカーボネート(VC)を添加して非水電解液を調製した。
【0028】
(電池の組立)
先ず、上記正極及び上記負極にそれぞれリード端子を取り付けた後、セパレータを介して渦巻状に巻き取り、更にこれをプレスして扁平状に押し潰すことにより電極体を作製した。次に、この電極体を、電池外装体としてのアルミニウムラミネート内に挿入した後、上記非水電解液を注入して試験用の電池を作製した。尚、当該電池を4.4Vまで充電した場合の設計容量は750mAhである。
【実施例】
【0029】
〔第1実施例〕
(実施例1)
実施例1では、上記発明を実施するための形態と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A1と称する。
【0030】
(実施例2)
コバルト酸リチウムの表面にリン酸化合物を析出させる際、硝酸ネオジム6水和物の代わりに硝酸サマリウム6水和物を使用し、コバルト酸リチウムの表面に、リン酸サマリウムを均一に分散させ付着させた正極活物質を用いた以外は、上記実施例1と同様にして電池を作製した。尚、コバルト酸リチウムに対するリン酸サマリウムの割合は、サマリウム元素換算で0.062質量%であり、モル数換算では実施例1のリン酸ネオジムと同量となっていた。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A2と称する。
【0031】
(実施例3)
コバルト酸リチウムの表面にリン酸化合物を析出させる際、硝酸ネオジム6水和物の代わりに硝酸ユウロピウム6水和物を使用し、コバルト酸リチウムの表面に、リン酸ユウロピウムを均一に分散させ付着させた正極活物質を用いた以外は、上記実施例1と同様にして電池を作製した。尚、コバルト酸リチウムに対するリン酸ユウロピウムの割合は、ユウロピウム元素換算で0.063質量%であり、モル数換算では実施例1のリン酸ネオジムと同量となっていた。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A3と称する。
【0032】
(実施例4)
コバルト酸リチウムの表面にリン酸化合物を析出させる際、硝酸ネオジム6水和物の代わりに硝酸エルビウム5水和物を使用し、コバルト酸リチウムの表面に、リン酸エルビウムを均一に分散させ付着させた正極活物質を用いた以外は、上記実施例1と同様にして電池を作製した。尚、コバルト酸リチウムに対するリン酸エルビウムの割合は、エルビウム元素換算で0.070質量%であり、モル数換算では実施例1のリン酸ネオジムと同量となっていた。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A4と称する。
【0033】
(実施例5)
コバルト酸リチウムの表面にリン酸化合物を析出させる際、硝酸ネオジム6水和物の代わりに硝酸イッテルビウム3水和物を使用し、コバルト酸リチウムの表面に、リン酸イッテルビウムを均一に分散させ付着させた正極活物質を用いた以外は、上記実施例1と同様にして電池を作製した。尚、コバルト酸リチウムに対するリン酸イッテルビウムの割合は、イッテルビウム元素換算で0.071質量%であり、モル数換算では実施例1のリン酸ネオジムと同量となっていた。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A5と称する。
【0034】
(実施例6)
コバルト酸リチウムの表面にリン酸化合物を析出させる際、硝酸ネオジム6水和物の代わりに硝酸ルテチウム3水和物を使用し、コバルト酸リチウムの表面に、リン酸ルテチウムを均一に分散させ付着させた正極活物質を用いた以外は、上記実施例1と同様にして電池を作製した。尚、コバルト酸リチウムに対するリン酸ルテチウムの割合は、ルテチウム元素換算で0.071質量%であり、モル数換算では実施例1のリン酸ネオジムと同量となっていた。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A6と称する。
【0035】
(比較例1)
コバルト酸リチウムの表面にリン酸ネオジムを付着させないこと以外は、上記実施例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池Z1と称する。
【0036】
(比較例2)
コバルト酸リチウムの表面にリン酸化合物を析出させる際、硝酸ネオジム6水和物の代わりに硝酸アルミニウム9水和物を使用し、コバルト酸リチウムの表面に、リン酸アルミニウムを均一に分散させ付着させた正極活物質を用いた以外は、上記実施例1と同様にして電池を作製した。尚、コバルト酸リチウムに対するリン酸アルミニウムの割合は、アルミニウム元素換算で0.012質量%であり、モル数換算では実施例1のリン酸ネオジムと同量となっていた。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池Z2と称する。
【0037】
(比較例3)
コバルト酸リチウムの表面にリン酸化合物を析出させる際、硝酸ネオジム6水和物の代わりに硝酸ランタン6水和物を使用し、コバルト酸リチウムの表面に、リン酸ランタンを均一に分散させ付着させた正極活物質を用いた以外は、上記実施例1と同様にして電池を作製した。尚、コバルト酸リチウムに対するリン酸ランタンの割合は、ランタン元素換算で0.057質量%であり、モル数換算では実施例1のリン酸ネオジムと同量となっていた。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池Z3と称する。
【0038】
(実験)
上記本発明電池A1〜A6及び比較電池Z1〜Z3を、下記条件で充放電、及び高温での連続充電を行い、下記式(1)で示す容量残存率を算出したので、その結果を表1に示す。
各電池を、1.0It(750mA)の電流で電池電圧4.4Vまで定電流充電を行った後、4.4Vの定電圧で電流1/20It(37.5mA)になるまで充電した。次に、10分間放置した後、1.0It(750mA)の電流で電池電圧2.75Vまで定電流放電を行って、その際の放電容量(連続充電試験前の放電容量)を測定した。次いで、60℃の恒温槽に1時間放置した後、60℃の環境のまま、1.0It(750mA)の電流で電池電圧4.4Vまで定電流充電を行い、さらに4.4Vの定電圧で60時間充電した。その後、60℃の環境から取り出し、室温にまで冷却してから、1.0It(750mA)の電流で2.75Vまで定電流放電を行って、その際の放電容量(連続充電試験後1回目の放電容量)を測定した。しかる後、下記式(1)を用いて容量残存率を算出した。
【0039】
容量残存率(%)=
(連続充電試験後1回目の放電容量/連続充電試験前の放電容量)×100・・・(1)
上記容量残存率は、充電状態で高温に曝されているときの電池の劣化の度合いを示すものであり、数値が高いほど熱安定性に優れた電池であるといえる。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すように、コバルト酸リチウムの表面が、Nd,Sm、Eu、Er、Yb、又はLuのリン酸化合物から成る表面処理層で被覆された正極活物質を用いた本発明電池A1〜A6は、連続充電後の容量残存率が87.8〜88.9%であって、コバルト酸リチウムの表面が表面処理層で被覆されていない正極活物質を用いた比較電池Z1(連続充電後の容量残存率は80.3%)に比べて極めて高くなっている(正極活物質の劣化が少ない)ことが認められる。
【0042】
また、公知文献に示されるように、コバルト酸リチウムの表面がリン酸アルミニウムやリン酸ランタンから成る表面処理層で被覆された正極活物質を用いた比較電池Z2、Z3では、連続充電後の容量残存率が81.6%、81.2%であって、比較電池Z1よりは若干高くなっているものの、本発明電池A1〜A6に比べて、極めて低くなっていることが認められる。
【0043】
この理由についての詳細は不明であるが、本発明電池A1〜A6の場合、コバルト酸リチウムの表面の一部は、本発明で選択したリン酸化合物から成る表面処理層で被覆されているので、コバルト酸リチウムと電解液との反応面積が減少する。加えて、上記Nd等のリン酸化合物から成る表面処理層は、触媒毒的な作用を特異的に示すと考えられ、正極活物質と電解液との反応を抑制する。
これに対して、比較電池Z2、Z3の場合、コバルト酸リチウムと電解液との反応面積は減少するが、リン酸アルミニウムやリン酸ランタンから成る表面処理層は、触媒毒的な作用を示さず、正極活物質と電解液との反応は抑制されない。
以上のように、本発明電池A1〜A6の場合には、正極活物質と電解液との反応面積を減少させると共に当該反応を抑制することができるので、上述した実験結果となったものと考えられる。
【0044】
尚、第1実施例に例示したリン酸化合物に用いたネオジム、サマリウム、ユウロピウム、エルビウム、イッテルビウム、及びルテチウムは、いずれも希土類元素における原子番号60(Nd)から71(Lu)に含まれている。ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、及びツリウム(Tm)も、希土類元素における原子番号60(Nd)から71(Lu)に含まれるため、これらのリン酸化合物であっても、同様の効果が発揮されるものと考えられる。
【0045】
〔第2実施例〕
(実施例)
コバルト酸リチウムの表面をリン酸エルビウムから成る表面処理層で被覆する際、コバルト酸リチウムに対するリン酸エルビウムの割合を、エルビウム元素換算で0.17質量%に増やしたこと以外は、前記第1実施例の実施例4と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池Bと称する。
【0046】
(実験)
上記本発明電池Bを、上記第1実施例で示した条件で充放電、及び保存し、上記式(1)で示す容量残存率を算出したので、その結果を表2に示す。尚、表2には、上記本発明電池A4及び比較電池Z1の結果についても記載している。
【0047】
【表2】

【0048】
コバルト酸リチウムに対するリン酸エルビウムの割合がエルビウム元素換算で0.17質量%の本発明電池Bは、連続充電後の容量残存率が88.8%であって、当該割合がエルビウム元素換算で0.070質量%の本発明電池A4と同等の容量残存率を示し、コバルト酸リチウムに表面処理層が形成されていない正極活物質を用いた比較電池Z1に比べて極めて高くなっていることが認められる。したがって、コバルト酸リチウムに対するリン酸エルビウムの割合は、エルビウム元素換算で0.070質量%以上0.17質量%以下の範囲では容量残存率が高く、正極活物質の劣化が抑制されていることがわかる。
【0049】
また、本発明者らが詳細に検討したところ、コバルト酸リチウムに対するリン酸エルビウムの割合は、エルビウム元素換算で0.010質量%以上0.25質量%以下の範囲が好ましいことがわかった。これは、当該割合が0.010質量%未満の場合には、リン酸エルビウムの割合が少な過ぎて添加効果を十分に発揮することができない。一方、当該割合が0.25質量%を超えると、添加効果は十分に発揮されるものの、添加量が0.25質量%の場合と比べて効果はさほど上昇しないばかりか、逆に界面抵抗が大きくなって負荷特性が悪化する恐れがある。
【0050】
更に、このことは、リン酸エルビウムのみならず、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテチウムのリン酸化合物であれば、同様の傾向を示すと考えられる。これは、第1実施例に示したようにリン酸エルビウム以外のリン酸化合物を採用することによっても容量残存率の改善が見られることから、リン酸エルビウムと同様、リン酸化合物の割合が少な過ぎると添加効果を十分に発揮することができず、一方、リン酸化合物の割合が多過ぎると界面抵抗が大きくなって負荷特性が悪化する恐れがあることには、変わりないと考えられるためである。
また、正極活物質がコバルト酸リチウムの場合のみならず、如何なる正極活物質を用いた場合であっても同様である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、例えば携帯電話、ノートパソコン、PDA等の移動情報端末の駆動電源や、電気自動車や電動工具といった高出力向けの駆動電源に展開が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極活物質層が正極集電体の表面に形成された正極と、負極と、これら両正負極間に配置されたセパレータとから成る電極体を有し、この電極体と非水電解質とが外装体内に収納された非水電解質二次電池であって、
上記正極活物質の表面における少なくとも一部は、リン酸化合物から成る表面処理層で被覆されており、且つ、上記リン酸化合物には、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテチウムから成る群から選択される少なくとも1つの元素が含まれていることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
上記リン酸化合物に含まれる元素が、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、エルビウム、イッテルビウム、及びルテチウムから成る群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
上記正極活物質に対する上記リン酸化合物の割合が、ネオジム元素、サマリウム元素、ユウロピウム元素、エルビウム元素、イッテルビウム元素、又はルテチウム元素換算で、0.010質量%以上0.25質量%以下である、請求項2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
上記正極活物質は層状構造を有するリチウム遷移金属酸化物である、請求項1〜3の何れか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
正極活物質を含む溶液中に、リン酸塩と、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテチウムから成る群から選択される少なくとも1つの元素が含まれている塩とを添加して、上記正極活物質の表面における少なくとも一部を、リン酸化合物から成る表面処理層で被覆するステップと、
上記リン酸化合物から成る表面処理層で被覆された正極活物質を含む正極活物質層を正極集電体の表面に形成して、正極を作製するステップと、
上記正極と負極との間にセパレータを配置して電極体を作製するステップと、
上記電極体と非水電解質とを外装体内に収納するステップと、
を有することを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項6】
正極活物質の表面を表面処理層で被覆するステップにおいて、正極活物質を含む溶液に酸又は塩基を添加して、当該溶液のpHを2〜7となるように規制する、請求項5に記載の非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項7】
上記リン酸塩が、リン酸水素2ナトリウム12水和物、リン酸2水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム、リン酸2水素ナトリウム、リン酸無水リン酸、リン酸、リン酸リチウム、及び、リン酸カリウムから成る群から選択される少なくとも1種である、請求項5又は6に記載の非水電解質二次電池の製造方法。

【公開番号】特開2011−192449(P2011−192449A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55874(P2010−55874)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】