説明

非水電解質二次電池及びその製造方法

【課題】この発明は、電極材料の厚みを50μmより厚くしても電極材料に不都合なひび割れが生じない大容量の非水電解質二次電池、その電極および製造方法を提供することを目的としている。
【解決手段】電極材料に、活物質粒子の平均粒径の2倍以上の平均粒径を有するヒビ割れ防止剤を含ませる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大容量の非水電解質二次電池、その電池の製造方法、二次電池用電極及びその電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記した非水電解質二次電池、例えばリチウムイオン二次電池は、よく知られているように正極と負極とを有し、当該電極は、少なくとも活物質粒子と導電剤粒子とを含む電極材料を集電体上に被着した構造となっている。
そして、上記導電材粒子は、活物質粒子の導電性を向上させるために用いるもので、特に正極においては、当該活物質の粒径と同等以下の粒径にすることで、導電性の向上効果を得ている。即ち、導電材粒子の径が大きいと、導電性の向上が不十分であり、通常、正極活物質より大きい粒径を有する粒子は導電材として用いられていない。
例えば代表的なものとして、正極活物質としてコバルト酸リチウムを用いたものがあるが、この場合の導電材としては主にアセチレンブラックが用いられており、各々の平均粒径は約20μm及び0.1μmとなっている。また、最近では、安全性、コスト性の観点から15〜0.05μm程度の小粒径のリン酸鉄リチウムが多く使われるようになってきたが、この場合も導電材としては、それよりも小粒径のものが用いられている。
また、負極活物質としては天然黒鉛を用いる場合が多く、これらに導電材としての黒鉛を加えるが、これらの代表的な粒径としては20〜30μmおよび4〜20μmを組み合わせることが一般的である。
【0003】
ところで、上記のようなリチウムイオン二次電池は、大きなエネルギー密度を有し、またサイクル特性に優れているため、各種機器の電源に用いられているが、更に用途が広がり、家庭用電力の電源としても期待されている。
しかしながら、現状では大きな出力を得ることが難しくその大容量化が強く望まれており、例えば、電極活物質として高分子ラジカル材料を用いて大容量化を図ることなどが提案されている。(特許文献1)
特許文献1のものは大容量化が図れる反面、高分子ラジカル材料という特定の材料を用いなければならず、しかも電極作製時においてヒビ割れ、そりが生じないように、電極内に平均繊維径0.01〜0.5μm、繊維長15〜100μmの実質的に分岐構造を持たない特殊な炭素繊維を含ませることが必要であるという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−114042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、上記のような特殊な炭素繊維を用いることなく、非水電解質二次電池の大容量化を図ることが本発明の課題であり、特に、これまで積極的に試みられることが無かった、電極の単位面積あたりの塗布量を増加すること、即ち電極材料の厚みを厚くすることにより大容量化を図ることを目的とするものである。
即ち、従来の非水電解質二次電池の電極材料の厚みは最も厚いものでも50μmまでであり、それ以上の厚さのものはないが、例えば、正極の電極材料を50μm以上にすると、電極単位面積当たりの容量はこの厚さに比例して大きくすることが可能となり、例えば2倍の100μm以上にすると、電極の容量もこれに比例して2倍以上となる。しかし、電極材料を厚くすると、電極作製時の塗装工程、乾燥工程において、或いは乾燥後において、正極集電体に被着した電極材料表面に従来では生じないヒビが生じ、電極として十分な作用をしないという問題があることが判明した。特に活物質がナノ粒子のように小径である場合、この現象は顕著に現れ、厚膜塗工を用いることが困難になる。
それ故、この発明は、電極材料の厚みを50μmより厚くしても電極材料に不都合なひび割れが生じない大容量の非水電解質二次電池、その電極および製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明者は鋭意研究を進め、その結果、電極材料に、活物質粒子の平均粒径の2倍以上の平均粒径を有するヒビ割れ防止剤を含ませることにより、上記課題が解決できることを発見した。
【0007】
すなわち、上記発見に基づき、本発明は、正極と負極とを有し、当該電極は、少なくとも活物質粒子と導電剤粒子とを含む電極材料を集電体上に被着した非水電解質二次電池において、前記電極材料の少なくとも一方の厚みを50μm以上とすると共に、当該電極材料には、前記活物質粒子の粒径の2倍以上の粒径を有するヒビ割れ防止剤を含ませることを特徴とする。
【0008】
第1の局面による非水電解質二次電池では、電極材料を50μmよりも厚くしても、電極材料にヒビ割れが生じないので、大容量の非水電解質二次電池を得ることが出来る。
【0009】
また、第1の局面による非水電解質二次電池では、単に電極材料を厚くするだけであるから、当該電池構造の複雑化を防止することが出来る。
【0010】
また、本発明は、活物質、導電材及び、前記活物質粒子の粒径の2倍以上の粒径のヒビ割れ防止剤を含む電極材料を溶剤を用いてスラリー状とし、集電体上に50μm以上塗布し、乾燥させることを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法である。
【0011】
第2の局面による非水電解質二次電池の製造方法によれば、スラリー状の電極材料を例えば塗布により被着するだけで、後は従来と同様に乾燥させるだけで良いので、製造が簡単である。
【0012】
また、本発明は、少なくとも活物質粒子と導電剤粒子とを含む電極材料を集電体上に被着した非水電解質二次電池の電極であって、前記電極材料の厚みを50μm以上とすると共に、当該電極材料には、前記活物質粒子の粒径の2倍以上の粒径を有するヒビ割れ防止剤を含ませたことを特徴とする非水電解質二次電池用電極である。
【0013】
この第3の局面による非水電解質二次電池用電極によれば、電極材料の厚さを50μm以上としても、ヒビ割れが生じることがなく、大容量の非水電解質二次電池の電極に用いて好適である。
【0014】
また、本発明は、活物質、導電材及び、前記活物質粒子の粒径の2倍以上の粒径のヒビ割れ防止剤を含む電極材料を、溶剤を用いてスラリー状とし、集電体上に50μm以上塗布し、乾燥させることを特徴とする非水電解質二次電池用電極の製造方法である。
【0015】
この第4の局面による非水電解質二次電池用電極の製造方法によれば、スラリー状の電極材料を例えば塗布により被着し、乾燥させるだけで良いので、電極の製造が簡単である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来よりも高容量の非水電解質二次電池を容易に得ることができ、また、電極の厚みを厚くしてもヒビ割れが生じない歩留まりの良い当該二次電池の製造方法を得ることができる。
【0017】
また、本発明によれば、電極材料の厚さを50μm以上としても、ヒビ割れが生じることのない、大容量の非水電解質二次電池用の電極を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の非水電解質二次電池の構造を示す説明図である。
【図2】本発明の実施形態の電極材料の組成を示す組成説明図である。
【図3】電極材料の乾燥前後の断面の状態を模式的に示す説明図である。
【図4】本発明の実施例1−15、および比較例1−6の活物質、ヒビ割れ防止剤の粒子径、その粒子径比とヒビ割れとの関係を表わす説明図である。
【図5】乾燥後における電極材料表面の状態を5段階に分けたヒビ割れレベル説明図である。
【図6】ヒビ割れ防止剤を用いない電極材料を使った実験例1−4におけるヒビ割れレベルの説明図である。
【図7】実施例1,6における放電容量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図1において、本発明のリチウムイオン二次電池1は、正極4と負極3とをセパレータ2を介して対向するように重ね合わせた構成を有している。この正極4はリード8を有するアルミ箔等からなる正極集電体5上に、厚さ50μm以上の厚さの正極材料9(電極材料)が被着され、また負極3は、負極リード7を有する金属箔等からなる負極集電体6上、20μm以上の厚さの負極材料10(電極材料)が形成されている。
これらは外装用フィルム11(アルミラミネート外装体等)で封止される。ただし、実際には電解液が外装体11内部に充填されるが、図示はしていない。
【0020】
上記正極4の正極材料9の組成は、図2の電極組成表に示すように、活物質としてリン酸鉄リチウムが100重量比、導電材として粒子径が0.1μmのアセチレンブラックが9重量比、結着材としてスチレンブタジエンゴムが6.2重量比、増粘材としてカルボキシメチルセルロースが3.5重量比、更にヒビ割れ防止剤として所定の粒径を有するカーボン粒子が10重量比の割合で含まれている。
このカーボン粒子は、上記活物質粒子の平均粒径の2倍以上の平均粒径を有しており、これにより後述するように正極材料9のヒビ割れを防止する。
【0021】
上記ヒビ割れ防止剤としては、上記のように導電剤としても働くカーボン粒子が好適であるが、導電剤の作用を積極的にしなくても、上記平均粒径の条件を満たすものであって、且つ平均粒子径が5〜180μmの粒子であればよい。このような粒子の例としては、例えばポリエチレン樹脂粒子や、アルミ金属粉、リン酸鉄リチウムなどが例示できる。ただし、これらヒビ割れ防止剤の活物質に対する重量比は5重量部〜30重量部が好ましく、更には10重量部〜20重量部であることが好ましい。5重量部以下では十分なヒビ割れ防止機能が得られず、30重量部以上では十分なエネルギー体積密度が得られないためである。また、この粒子の形状としては、球状に限らず、平板状、馬蹄形状などでも良い。なお、リン酸鉄リチウムの粒径、カーボンの粒子径についての詳細は後述する。
【0022】
上記ヒビ割れ防止剤の効果は負極材料10に対しても正極材料9と同様に生じるが、通常、負極活物質粒子は主に20μm程度の粒径の炭素粒子を用いているため通常仕様の電極においてヒビ割れの問題は生じにくい。これに対して、正極活物質の好適な粒子径は、0.05μm〜15μmという小径であるため、電極の厚みを厚くすると、ヒビ割れが生じる。特に、正極4は大容量化のために厚みが100〜2000μmと厚くなるので、ヒビ割れが生じやすい。
ただし、負極材料であっても、Si,Sn,またはこれらの金属酸化物を用いた際には粒径が0.05μm〜15μmに含まれることもあるので、負極材料の厚みを正電極の厚みの増加に対応させて厚くしていくと、ヒビ割れが生じることになる。その際においては、ヒビ割れ防止剤は正電極と同様の効果を発揮する。
【0023】
上記ヒビ割れ防止剤がヒビ割れ防止効果を発揮する理由を推測ではあるが図3を用いて説明する。まず、電極材料例えば上記正極材料9は、溶剤例えば水によりスラリー状になった状態で正極集電体5の表面に塗布されるので、乾燥によってヒビが入ると考えられる。図3に乾燥前後の正極材料9(電極材料)の断面の様子を模式的に示す。
図3の⇒Aは正極材料9にヒビ割れ防止剤が含まれていない場合を表している。正極集電体5に塗布されたスラリー状の電極材料9は乾燥時に液体成分(結着材・増粘材水溶液)がなくなることで体積収縮が起こるが、特に活物質粒子径が小さい場合、それら粒子が密になるため、体積収縮率が大きく、複数個所にヒビ割れが生じる。
これに対し、⇒Bは正極材料9にヒビ割れ防止材が含まれている場合を示している。ヒビ割れ防止剤は活物質粒子に比べ体積が圧倒的に大きく、活物質とヒビ割れ防止材との間には、液体成分がなくなっても大きい隙間が維持されるので、ヒビ割れが生じるほどの収縮が起こらず、結果的にヒビ割れが生じないと考えられる。
【0024】
なお、ここで本実施形態中の粒径の定義は、ナノ粒子径分布測定装置SALD−1100(島津製作所)を用いて測定した平均粒径を示す。その際得られる粒径とは球相当径であり、粒子の最長辺と同程度となる場合が一般的である。
【0025】
以下、上記リチウムイオン二次電池の各構成要素について更に詳しく説明する。
【0026】
(集電体)
図1に示す正負各極の集電体5,6は、リチウムイオン二次電池の公知の材料が用いられる。正極集電体5としては、例えば、SUS、アルミニウム等の導電性金属の箔や薄板が挙げられる。負極集電体6としては、例えば、銅のような金属の箔が挙げられる。活物質層を塗工することで電極となる。集電体は平面とは限らず、表面に凹凸が加工されたものであってもよい。
【0027】
(電極材料)
電極材料は、リチウムイオン二次電池の公知の材料が用いられる。リチウムイオン二次電池の場合、正極活物質としては、リチウムを含有した酸化物を用いることができる。例えばチタン、モリブデン、銅、ニオブ、バナジウム、マンガン、クロム、ニッケル、鉄、コバルトもしくはリン等とリチウムの複合酸化物、硫化物またはセレン化物などが好ましく、具体的には、LiMnO2、LiMn2O4、LiNiO2、LiCoO2、LiCrO2、LiFeO2、LiVO2およびLiMPO4(MはCo、Ni、Mn、Feから選ばれる少なくとも1種以上の元素)のうちの1つ以上を単独または複数種組み合わせて用いることができる。
【0028】
また、負極活物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、高結晶黒鉛等の黒鉛系物質、非晶質炭素系物質、Si、Sn、Nb2O5およびLiTiO4等の金属酸化物うちの少なくとも1つ以上を単独または複数種組み合わせて用いることができる。
【0029】
さらに、正負各極の活物質層には、後述の導電剤、結着剤、フィラー、分散剤、イオン導電剤、圧力増強剤およびその他の各種添加剤を用いることができる。なお、電池組立時において、積層方向両端に位置する電極の最外層の活物質層は省略してもよい。
正負各極の集電体上に形成された電極材料の厚みとしては20〜500μm程度が適当であり、100〜400μm程度が好ましい。
【0030】
導電剤としては、一般的に電池材料として用いられるものであり、かつ構成された電池において、化学変化を起こさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛など)、人工黒鉛などのグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類、気相成長黒鉛繊維(VGCF)、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉類、酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物あるいはポリフェニレン誘導体等の有機導電性材料などを単独またはこれらの混合物として用いることができる。これらの導電剤のなかで、アセチレンブラック、VGCF、グラファイトとアセチレンブラックの併用が特に好ましい。
【0031】
結着剤としては、一般的に電池材料として用いられるものであり、かつ多糖類、熱可塑性樹脂およびゴム弾性を有するポリマーのうちの一種またはこれらの混合物として用いることができる。好ましい例としてはでんぷん、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ジアセチルセルロース、ポリビニルクロリド、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ弗化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム、ポリブタジエン、フッ素ゴムおよびポリエチレンオキシドを挙げることができる。
増粘材としては、例えば、でんぷん、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ジアセチルセルロース、ポリビニルクロリド等が挙げられる。
【0032】
フィラーは、一般的に電池材料として用いられるものであり、かつ構成されたリチウム二次電池において、化学変化を起こさない繊維状材料であれば特に限定されず、例えばポリプロピレン、ポリエチレンなどのオレフィン系ポリマー、ガラス、炭素などの繊維を用いることができる。
イオン導電剤は、無機および有機の固体電解質として一般的に知られている、例えばポリエチレンオキサイド誘導体あるいは該誘導体を含むポリマー、ポリプロピレンオキサイド誘導体、該誘導体を含むポリマー、リン酸エステルポリマー等を用いることができる。
【0033】
圧力増強剤は、電池の内圧を上げる化合物であり、炭酸塩を代表例に挙げることができる。
【0034】
(セパレータ)
図1に示すセパレータ2は、イオン透過度が大きく、所定の機械的強度を持ち、絶縁性の薄膜を使用できる。セパレータを構成する材質としては、非水電解質によって侵されないものであればよく、特に限定するものではない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、6ナイロン、66ナイロン、全芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド系樹脂、セルロース系樹脂、アラミド系樹脂、ガラス繊維等が挙げられる。これら樹脂は、2種類以上混合してもよい。セパレータの形態としては、不織布、織布、微多孔性フィルム等が挙げられる。
【0035】
特に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等からなる不織布、微多孔質膜が品質の安定性等の点から好ましい。これら合成樹脂の不織布、微多孔質膜では二次電池が異常発熱した場合に、セパレータが熱により溶解し、正負極間を遮断する機能(シャットダウン)が二次電池に付加される。
【0036】
またポリイミド、ポリアミド、アラミド系樹脂においては、形状安定性に優れており、温度が高くなっても形状が安定しているという長所を有する。
【0037】
(非水電解質)
非水電解質としては、特に限定されないが、電解質塩を有機溶媒に溶解してなる溶液が挙げられる。
電解質塩としては、リチウムイオン二次電池に使用する場合、例えば、リチウムをカチオン成分とし、ホウフッ化リチウム、六フッ化リン酸リチウム、過塩素酸リチウム、フッ素置換有機スルホン酸等の有機酸をアニオン成分とするリチウム塩が挙げられる。
【0038】
有機溶媒は、上記電解質塩を溶解するものであれば、どのようなものでも使用できる。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステル類、γ―ブチロラクトン等の環状エステル類、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状炭酸エステル類等が挙げられる。これらの有機溶媒は、単独で、又は2種類以上の混合物として用いられる。
【0039】
(電極の製造方法)
電極3,4の製造方法としては特に限定されず、材料に応じて適宜選択した方法を用いることができるが、最も一般的な製造方法としては、各材料に水あるいはNMPなどの溶剤を混合し、さらに攪拌することによりスラリー状の均一な分散液とし、これを電極集電体5,6に塗布し、加熱もしくは常温で溶剤を揮発させることにより電極を得る方法が挙げられる。
【0040】
以下、本発明に用いられる電極材料の詳細、特に活物質、ヒビ割れ防止剤の粒径、及び膜厚と、ヒビ割れの程度との関係について実施例を用いてより具体的に説明する。
(実施例)
実施例で用いられる正極材料の組成は、図2の電極組成表に示すように、活物質にリン酸鉄リチウムを100重量比、導電材に粒子径が0.1umのアセチレンブラックを9重量比、結着材にスチレンブタジエンゴムを6.2重量比、増粘材にカルボキシメチルセルロースを3.5重量比、更にヒビ割れ防止剤として所定の粒径を有するカーボン粒子を10重量比である。
これらを用いて水系の正極スラリーを作製し、正極集電体5であるアルミ箔上に塗布し、100℃の熱風乾燥を行い、当該正極集電体5に被着する。なお、前記リン酸鉄リチウムの粒子径(以下粒径と同じ意味で用いる)、ヒビ割れ防止剤であるカーボン粒子の粒子径、粒子径比(粒径比とも言う)については、各実施例の中で説明する。
【0041】
図4は活物質、ヒビ割れ防止剤についての具体的な実施例1−15をわかりやすく表にしたものである。即ち、正極材料の重量組成比は、図2の通りであり、正極材料9の膜厚が400μmであることは同じであるが、活物質(リン酸鉄リチウム)の粒径と、ヒビ割れ防止剤(カーボン)の粒径との組み合わせが異なるものである。
まず、実施例1−6は、活物質(リン酸鉄リチウム)の粒子径が0.5μmで、ヒビ割れ防止剤(カーボン)の粒子径は、それより大きい4、10、20、50、60、150μmである。なお、カーボン粒子の形状は一定ではない。
比較例1は、カーボンの粒径(0.1μm)が活物質の粒子径(0.5μm)より小さい点で、実施例1−6と区別される。
また、実施例7−11、および比較例2,3は、活物質(リン酸鉄リチウム)の粒子径を5μmとしたものであって、比較例2,3は、カーボンの粒子径が活物質の粒子径(5μm)より小さい点で実施例7−11と区別される。
更に比較例4,5,6、実施例12−15は、活物質(リン酸鉄リチウム)の粒子径が全て10μmで、比較例4,5,6は、カーボンの粒子径が活物質の粒子径より小さい点で実施例12−15と区別される。
電極材料の厚さは全て400μmと共通である。また、粒径比はヒビ割れ防止剤の粒径を活物質の粒子径で割った値で、例えば、実施例2の場合であれば、4÷0.5の値である“8”ということになる。
【0042】
また、本実施例における電極材料のヒビ割れの程度は、表面状態を図5に示したレベル0からレベル4までの5段階に目視レベルで区分け定義している。また、ヒビ割れがレベル2までであれば電極として用いることのできる条件としている。ヒビ割れレベルが2までは、剥がれが見られないことと、塗工乾燥後の圧縮工程においてヒビを埋め合わせることで補修が可能であることより、電極として十分に作用するためである。レベル3以上になると、ヒビが多数出来るため、電極として使用できなくなる。
【0043】
上記図4における結果を評価する前に、ヒビ割れ防止剤を用いない場合、換言すれば、従来技術のままで、膜厚を厚くすると、どの程度のヒビ割れが生じるのかについて実験した。
(実験例)
実験例1−4は、図6に示すように、活物質として粒径20μmの天然黒鉛、粒径がそれぞれ10μm、5μm、0.5μmのリン酸鉄リチウムを用い、電極材料9の厚さを400μmにしたものである。
そのヒビ割れ状態は、図6のヒビ割れレベルでわかるように、活物質として粒径20μmの天然黒鉛を用いた場合に関しては、重大なひび割れは生ないが、粒径が10μm以下のリン酸鉄リチウム粒子では、全てがレベル4以上となり、電極として十分に作用しなくなる。このように、ヒビ割れ防止剤を用いない場合は、膜厚を厚くした場合、活物質の粒子径が小さいとヒビ割れが生じることが解った。
【0044】
これを踏まえて、図4に示す実施例1−15のヒビ割れ防止効果を見ると、実用上で不都合なヒビ割れを起こすものは、比較例1−6であり、実施例1−15は、実用上で不都合なヒビ割れは生じていない。
比較例1−6と、実施例1−15との相違は、その粒子径比が1以下か、2以上かの点にある。つまり、活物質との粒子径比が2以上となる粒子径のヒビ割れ防止剤を用いてこそ、効果的にヒビ割れを防止に効果があることが解る。
このヒビ割れ防止剤の上限粒子径は、少なくとも形成される膜厚と同じである。それ以上にすることは実質的にないからである。
【0045】
また、これらヒビ割れ防止剤を加えた電極の放電容量について、代表的なものを図7に示す。図7は実施例1,6の電極密度と放電容量を示したものであるが、これによれば、ヒビ割れ防止剤の粒子径が大きく変化しても、従来の活物質の能力から推測される放電容量と同程度であったため、ヒビ割れ防止剤を加えることによる電極特性への影響は小さいことがわかる。
【符号の説明】
【0046】
1 リチウムイオン二次電池
2 セパレータ
3 負極
4 正極
5 正極集電体
6 負極集電体
7 負極リード
8 正極リード
9 正極材料(電極材料)
10 負極材料(電極材料)
11 外装体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極とを有し、当該電極は、少なくとも活物質粒子と導電剤粒子とを含む電極材料を集電体上に被着した非水電解質二次電池において、
前記電極材料の少なくとも一方の厚みを50μm以上とすると共に、当該電極材料には、前記活物質粒子の平均粒径の2倍以上の平均粒径を有するヒビ割れ防止剤を含ませたことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記ヒビ割れ防止剤を、前記活物質100に対して5〜30重量比含ませたことを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記活物質粒子の粒径が0.5〜15μmである請求項1または2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記ヒビ割れ防止剤の粒径が5〜180μmである請求項1−3の何れかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記ヒビ割れ防止剤が導電性粒子である請求項1−4の何れかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記ヒビ割れ防止剤が活物質粒子であることを特徴とする請求項1−5の何れかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記活物質粒子がリン酸鉄リチウムである請求項1−6の何れかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
前記活物質はSi,Sn,またはこれらを含む金属酸化物であることを特徴とする請求項1−6の何れかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項9】
請求項1に記載の電極材料を溶剤を用いてスラリー状とし、集電体上に塗布した後に乾燥して電極を製造する非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項10】
少なくとも活物質粒子と導電剤粒子とを含む電極材料を集電体上に被着した非水電解質二次電池の電極であって、
前記電極材料の厚みを50μm以上とすると共に、当該電極材料には、前記活物質粒子の平均粒径の2倍以上の平均粒径を有するヒビ割れ防止剤を、含ませたことを特徴とする非水電解質二次電池用電極。
【請求項11】
前記ヒビ割れ防止剤を、前記活物質100に対して5〜30重量比含ませたことを特徴とする請求項10に記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項12】
前記活物質粒子の粒径が0.5〜15μmである請求項10または11に記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項13】
前記ヒビ割れ防止剤の平均粒径が5〜180μmである請求項10―12に記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項14】
前記ヒビ割れ防止剤が導電性粒子である請求項10−13の何れかに記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項15】
前記ヒビ割れ防止剤が活物質粒子であることを特徴とする請求項10−14の何れかに記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項16】
前記活物質粒子がリン酸鉄リチウムである請求項10−15の何れかに記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項17】
前記活物質は、Si,Sn,またはこれらを含む金属酸化物であることを特徴とする請求項10−15何れかに記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項18】
請求項10に記載の電極材料を溶剤を用いてスラリー状とし、集電体上に塗布した後に乾燥することを特徴とする非水電解質二次電池用電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−216322(P2012−216322A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79358(P2011−79358)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】