説明

非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池

【課題】4V領域の高電位を示し、高容量、安全性、サイクル特性に優れているとともに、高温特性にも優れた非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】非水電解質二次電池用正極に、オリビン型燐酸マンガンリチウムとスピネル型マンガン酸リチウムとが混合されたものを用いるものであり、オリビン型燐酸マンガンリチウムの混合割合が、10〜90質量%である。該正極と負極活物質に高黒鉛化炭素材料又はハードカーボンを用いた非水電解質二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電位、高容量、安全性であると共に、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池で代表される非水電解質二次電池は、最も小型・軽量且つ高容量で充放電ができるため、小型・軽量化が要求される携帯電話、パソコン、ビデオカメラ等の携帯用電子機器や通信機器の電源として実用化されており、電気自動車(EV)、ハイブリット電気自動車(HEV)用のモータ駆動用バッテリー、あるいは夜間電力の保存による有効利用手段として期待されている。
【0003】
上記非水電解質二次電池の正極材料の具体例としては、主にコバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn24)等のリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。
【0004】
ここで、コバルト酸リチウムやニッケル酸リチウムを用いた電池では、高い充放電容量が得られるものの、コバルト酸リチウムやニッケル酸リチウム自体の熱安定性が低いため、発熱等の電池異常時における安全性が十分ではなかった。特に、ニッケル酸リチウムについては、Liの脱離量が多くなった場合に電池として機能しなくなるばかりでなく、酸素を放出し、これが電解液と反応して電池破裂の危険が生ずる等の問題がある。また、コバルト酸リチウムの場合、その原材料となるコバルトの産出地が限られており、また、資源量が少量であるため、大型の電池を作製した場合、非常に高価になるという問題点があり、また、マンガン酸リチウムと比較すると出力密度が小さいという問題があった。
【0005】
一方、マンガン酸リチウムを用いた電池では、資源量が豊富で、安価で安全性に優れたスピネル型マンガン酸リチウムを主に用いるため、コバルト酸リチウムやニッケル酸リチウムと比較して、大型の電池を安価に作製できるとともに、電池異常時の安全性も向上させることができる。
【0006】
しかしながら、マンガン酸リチウムを用いた電池では、コバルト酸リチウムやニッケル酸リチウムを用いた電池と比較して充放電容量が低いため、十分な電池特性が得られないだけでなく、高温下における容量低下が著しいという問題があった。容量低下の原因の一つとして、電池系内において以下の現象の発生が想定される。即ち、電解液として例えばLIPF6系電解液を用いて作製した非水電解質二次電池の場合、特に高温下においては系内でHFが発生し、これによりマンガン酸リチウムから一部のMnが溶出すると考えられ、正極活物質の劣化、並びに負極活物質への悪影響が引き起こるために、前述のような高温下における容量低下等の不具合が引き起こさせると想定される。
【0007】
以上の問題点を解決するため、Mnの一部を他の金属元素で置換する方法、マンガン酸リチウムの表面コートする方法が検討されており、近年では、コバルト酸リチウムやニッケル酸リチウムをマンガン酸リチウムと混合して非水電解質二次電池の正極活物質とする方法が提案されている(特許文献1〜3参照)。しかしながら、現段階では、必ずしも十分な効果が得られていないのが実状であった。
【0008】
また、最近では、LiFePO4に代表されるようなオリビン型構造の燐酸塩化合物が非水電解質二次電池の正極活物質として用いる研究がされるようになり、次世代の非水電解質二次電池用の正極活物質として注目されている。燐酸塩化合物中のリン(P)と酸素(O)は非常に強固な共有結合を有しており、前述のニッケル酸リチウムのように、Liの離脱量が多くなった場合でもリン(P)と酸素(O)は容易に離れないため、酸素(O)が電解液と反応することはなく、熱的な安定性が非常に高い。前記燐酸塩化合物の中で、LiFePO4が3V容量を有するのに対し、オリビン型燐酸マンガンリチウム(LiMnPO4)は4V容量を示し、スピネル型マンガン酸リチウムに対し、Mn当たり1.5倍近くの容量に相当する。しかしながら、燐酸塩化合物自体は電気伝導性が低いため、それを単独で正極活物質として用いて電池を作製した場合に、電池の内部抵抗が高くなり、レート特性が極めて低くなるという問題があった。
【特許文献1】特開2003−197180号公報
【特許文献2】特開2001−143705号公報
【特許文献3】特開2000−215884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、4V領域の高電位を示し、高容量、安全性、サイクル特性に優れているとともに、高温特性にも優れた非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明は、以下の非水電解質二次電池を提供するものである。
【0011】
[1] オリビン型燐酸マンガンリチウムとスピネル型マンガン酸リチウムとが混合された非水電解質二次電池用正極。
【0012】
[2] オリビン型燐酸マンガンリチウムの一般式が、LiM1xMn1-xPO4(M1:マンガン以外の1種以上の金属元素、0≦x(置換量)≦0.5)で表される[1]に記載の非水電解質二次電池用正極。
【0013】
[3] M1が、少なくともLi、Fe、Ni、Mg、Zn、Co、Cr、Al、B、V、Si、Sn、Nb、Ta、Cu、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種以上である[2]に記載の非水電解質二次電池用正極。
【0014】
[4] スピネル型マンガン酸リチウムの一般式が、LiM2xMn2-x4(M2:マンガン以外の1種以上の金属元素、0≦x(置換量)≦0.5)で表される[1]〜[3]のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極。
【0015】
[5] M2が、Li、Fe、Ni、Mg、Zn、Co、Cr、Al、B、V、Si、Sn、Nb、Ta、Cu、Mo、Ti及びWから選ばれる少なくとも1種以上である[4]に記載の非水電解質二次電池用正極。
【0016】
[6] 置換量が、0≦x≦0.3の範囲内である[2]〜[5]のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【0017】
[7] オリビン型燐酸マンガンリチウムの混合割合が、10〜90質量%である[1]〜[6]のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極。
【0018】
[8] リチウムイオンを挿入・脱離可能な正極活物質を含有する正極と、前記リチウムイオンを挿入・脱離可能な負極活物質を有する負極と、電解質を含む非水溶媒と、を備えた非水電解質二次電池であって、前記正極が、[1]〜[7]のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極である非水電解質二次電池。
【0019】
[9] 電解質が、LiPF6、LiBF4、LiClO4のいずれか1種以上を含有する[8]に記載の非水電解質二次電池。
【0020】
[10] 負極活物質が、高黒鉛化炭素材料又はハードカーボンである[8]又は[9]に記載の非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0021】
本発明の非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池は、4V領域の高電位を示し、高容量、安全性、サイクル特性に優れているとともに、高温特性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池について詳細に説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0023】
本発明に係る非水電解質二次電池用正極の主な特徴は、非水電解質二次電池の正極活物質が、オリビン型燐酸マンガンリチウムとスピネル型マンガン酸リチウムとが混合されたものであることにある。
【0024】
ここで、本発明で用いる正極活物質を主に構成するオリビン型燐酸マンガンリチウムとスピネル型マンガン酸リチウムは、共にマンガンを中心金属とする正極であり、放電電圧も同じであるが、オリビン型燐酸マンガンリチウムとスピネル型マンガン酸リチウムを混合することにより、前者オリビン型燐酸マンガンリチウムの短所であるレート特性の低さを、後者スピネル型マンガン酸リチウムの高レート特性の良さで補完することができるとともに、また、後者スピネル型マンガン酸リチウムの短所である理論容量の低さ及び高温保存寿命の短さを、前者オリビン型燐酸マンガンリチウムの長所である理論容量の大きさ及び高温特性の良さで補完することができるため、それらの混合比を変えることで、非水電解質二次電池の正極の性能を大容量型にするか、高レート型にするかの選択を、充放電時の電圧カーブを変えることなく、自由にチューニングすることができる。
【0025】
また、本発明で用いる正極活物質は、リサイクルに際し、従来、異金属分離の手間とコストが嵩む懸念があったが、本発明で用いる正極活物質の場合、ともにマンガンを中心金属とする材料(オリビン型燐酸マンガンリチウムとスピネル型マンガン酸リチウム)であるため、材料コストが安いだけでなく、分離コストも削減することが期待できる。
【0026】
本発明で用いるオリビン型燐酸マンガンリチウムの一般式は、LiM1xMn1-xPO4(M1:マンガン以外の1種以上の金属元素、0≦x(置換量)≦0.5(より好ましくは、0≦x≦0.3)で表されるものであることが好ましい。これは、置換量xが0.5より大きいと、正極活物質の合成において異相の生成が粉末X線回折法(XRD)により認められ、単相物質が得られ難いからである。このため、電池において、このような異相は正極活物質の重量を増すだけで電池反応に寄与しないことから、異相の生成を防止することが望ましい。
【0027】
このとき、上記M1は、少なくともLi、Fe、Ni、Mg、Zn、Co、Cr、Al、B、V、Si、Sn、Nb、Ta、Cu、Mo及びWから選ばれる1種以上であることが好ましい。これは、オリビン型燐酸マンガンリチウムの結晶構造をより安定化させることができるからである。
【0028】
また、本発明で用いるスピネル型マンガン酸リチウムの一般式は、LiM2xMn2-x4(M2:マンガン以外の1種以上の金属元素、0≦x(置換量)≦0.5(より好ましくは、0≦x≦0.3))で表されるものであることが好ましい。
【0029】
このとき、上記M2は、Li、Fe、Ni、Mg、Zn、Co、Cr、Al、B、V、Si、Sn、Nb、Ta、Cu、Mo、Ti及びWから選ばれる1種以上であることが好ましく。これは、マンガン酸リチウムの結晶構造をより安定化させることができるからである。
【0030】
本発明の非水電解質二次電池用正極は、オリビン型燐酸マンガンリチウムの混合割合が、10〜90質量%、より好ましくは、20〜80質量%、更に好ましくは、30〜70質量%であることが好ましい。
【0031】
これは、オリビン型燐酸マンガンリチウムの混合割合が10質量%未満である場合、スピネル型マンガン酸リチウムの短所である理論容量の低さ及び高温保存寿命の短さを補完することができないからである。一方、オリビン型燐酸マンガンリチウムの混合割合が90質量%を超過する場合、オリビン型燐酸マンガンリチウムの短所であるレート特性の低さを、後者スピネル型マンガン酸リチウムの高レート特性の良さで補完することができない。
【0032】
次に、本発明の非水電解質二次電池の基本構成について説明する。本発明の非水電解質二次電池は、リチウムイオンを挿入・脱離可能な正極活物質を含有する正極と、リチウムイオンを挿入・脱離可能な負極活物質を有する負極と、電解質を含む非水溶媒と、を備えたものである。
【0033】
本発明の非水電解質二次電池用正極に用いられる正極活物質の一つであるスピネル型マンガン酸リチウムは、所定比に調整された各元素の塩及び/又は酸化物の混合物を、酸化雰囲気、600〜1000℃の範囲で、5〜50時間かけて焼成することにより、単相の生成物として得ることができる。ここで、酸化雰囲気とは、一般に炉内試料が酸化反応を起こす酸素分圧を有する雰囲気を指す。また、焼成温度としては600〜1000℃が好ましい。焼成温度が600℃未満と低い場合には、焼成物のXRDチャートに原料の残留を示すピーク、例えばリチウム源として炭酸リチウム(Li2CO3)を用いた場合には、Li2CO3のピークが観察され、単相生成物が得られ難い。仮に、単相生成物が得られたとしても結晶性が低い。一方、焼成温度が1000℃よりも高い場合には、酸素欠損が生じ易かったり、あるいは目的とする結晶系の化合物以外に、高温相が生成し易く、単相生成物が得られ難い。
【0034】
また、焼成回数は1回でも、2回以上でも構わない。但し、結晶性をより向上させるのであれば、焼成回数は2回以上であることがより好ましい。この場合には、次段階での焼成温度を前段階の焼成温度よりも高くして行うことが好ましく、最終焼成の焼成条件を、酸化雰囲気、600〜1000℃、5〜50時間とする。こうして、例えば、2回焼成の場合に、2回目の焼成温度を1回目の焼成温度以上として合成を行った場合に得られる生成物は、この2回目の焼成温度及び焼成時間という条件を用いて1回の焼成を行って得られる生成物よりも、XRDチャート上でのピーク形状が鋭く突出し、結晶性の向上が図られる。
【0035】
もう一方の正極活物質であるオリビン型燐酸マンガンリチウムは、アルゴン雰囲気のグローブボックス中で所定比に調整された各元素の塩及び/又は酸化物の混合物を、酸化雰囲気、400℃〜900℃の範囲で、5〜50時間かけて焼成し、その後、急冷することにより、単相の生成物として得ることができる。焼成温度が400℃未満と低い場合には、焼成物のXRDチャートに原料の残留を示すピーク、又は分解生成物の示すピークが観察され、単相生成物が得られ難い。一方、焼成温度が900℃よりも高い場合には、目的とする結晶系の化合物以外に、高温相が生成し易く、単相生成物が得られ難い。
【0036】
各元素の塩は、特に限定されるものではないが、原料として純度が高く、しかも安価なものを使用することが好ましいことはいうまでもない。従って、昇温時や焼成時に有害な分解ガスが発生しない炭酸塩、水酸化物、有機酸塩を用いることが好ましい。但し、硝酸塩や塩酸塩、硫酸塩等を用いることができないわけではない。
【0037】
本発明で用いる負極活物質は、特に限定されるものではなく、従来公知の種々の材料を用いることができるが、例えば、ソフトカーボンやハードカーボンといったアモルファス系炭素質材料や、人造黒鉛、天然黒鉛等の高黒鉛化炭素材料を用いることができる。
【0038】
また、本発明で用いる非水溶媒は、有機溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート(PC)といった炭酸エステル系溶媒や、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル等の単独溶媒又は混合溶媒が好適に用いることができる。
【0039】
更に、本発明で用いる電解質としては、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)やホウフッ化リチウム(LiBF4)等のリチウム錯体フッ素化合物、又は過塩素酸リチウム(LiClO4)といったリチウムハロゲン化物やリチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)などを挙げることができ、1種類又は2種類以上を前記溶媒に溶解して用いる。特に、酸化分解が起こり難く、非水電解液の導電性の高いLiPF6を用いることが好ましい。
【0040】
本発明の非電解質二次電池の電池構造は、板状に成形された正極活物質と負極活物質の間にセパレータを配して電解液を充填させたコイン型の電池や、金属箔の表面に正極活物質を塗工してなる正極板と、同様に金属箔の表面に負極活物質を塗工してなる負極板とを、セパレータを介して捲回又は積層してなる電極体を用いた円筒型や箱型といった各種電池を挙げることができる。
【実施例】
【0041】
本発明を実施例に基づいて、更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0042】
(燐酸マンガンリチウムの合成)
出発原料として、Li2CO3、P25、Mn23粉末を用い、LiMnPO4、Li1.1Mn0.9PO4の組成となるように、それぞれをアルゴン雰囲気のグローブボックス中で秤量し、混合した。次いで酸化雰囲気中、500℃で15時間仮焼成し、その後800℃で48時間本焼成を行った後、急冷することで、オリビン構造を有する燐酸マンガンリチウムを合成した。得られた試料は、共に図1のX線回折図に示すようICDD33−0803のオリビン構造を有するPmnb斜方晶燐酸マンガンリチウムと同定された。
【0043】
また、LiM1xMn1-xPO4(M1:マンガン以外の1種以上の金属元素)については、以下に示す置換種M1を用いた。周期率表VIII族に属するNi、Fe、CoについてはNiを、周期率表VIB族に属するCr、Mo、WについてはCrを代表種として、周期率表IIIA族に属するAl、BについてはAlを代表種として、周期率表VB族に属するV、Nb、TaについてはVを代表種として、周期率表IVA族に属するSi、SnについてはSnを代表種として用い、それ以外の置換元素にはLi、Mg、Zn、Tiを用いた。これらにより、前述の出発原料以外に、NiO粉末を用いてLiMn0.9Ni0.1PO4、MgO粉末を用いてLiMn0.9Mg0.1PO4、ZnO粉末を用いてLiMn0.9Zn0.1PO4、Cr34を用いてLiMn0.9Cr0.1PO4、Al23を用いてLiMn0.9Al0.1PO4、V25を用いてLiMn0.90.1PO4、SnO2を用いてLiMn0.9Sn0.1PO4、TiO2を用いてLiMn0.9Ti0.1PO4を同様の条件でそれぞれ合成した。
【0044】
(マンガン酸リチウムの合成)
出発原料として、市販のLi2CO3、MnO2粉末を用い、LiMn24、Li1.1Mn1.94の組成となるようにそれぞれ秤量し、混合した。次いで酸化雰囲気中、800℃、24時間の焼成を行い、スピネル構造を有するマンガン酸リチウムを合成した。得られた試料は、共に図2のX線回折図に示すようICDD35−0782のスピネル構造を有するFd3m立方晶マンガン酸リチウムと同定された。
【0045】
また、LiM2xMn2-x4(M2:マンガン以外の1種以上の金属元素)については、以下に示す置換種M2を用いた。周期率表VIII族に属するNi、Fe、CoについてはNiを、周期率表VIB族に属するCr、Mo、WについてはCrを代表種として、周期率表IIIA族に属するAl、BについてはAlを代表種として、周期率表VB族に属するV、Nb、TaについてはVを代表種として、周期率表IVA族に属するSi、SnについてはSnを代表種として用い、それ以外の置換元素にはLi、Mg、Zn、Ti、Cuを用いた。これらにより、前述の出発原料以外に、NiO粉末を用いてLiMn1.9Ni0.14、MgO粉末を用いてLiMn1.9Mg0.14、ZnO粉末を用いてLiMn1.9Zn0.1O4、Cr34を用いてLiMn1.9Cr0.14、Al23を用いてLiMn1.9Al0.14、V25を用いてLiMn1.90.14、SnO2を用いてLiMn1.9Sn0.14、TiO2を用いてLiMn1.9Ti0.14、CuOを用いてLiMn1.9Cu0.14を同様の条件でそれぞれ合成した。
【0046】
(正極活物質の調製1)
合成した燐酸マンガンリチウムとマンガン酸リチウムを表1に示す割合(質量%)となるように乾式混合して、正極活物質をそれぞれ調製した。
【0047】
【表1】

【0048】
(正極活物質の調整2)
合成したLiM1xMn1-xPO4(正極活物質1)と、LiM2xMn2-x4(正極活物質2)を、表5〜7に示す配合及び割合(質量%)となるように乾式混合して、正極活物質をそれぞれ調製した。
【0049】
(電池の作製)
前述の正極材料である正極活物質を使用し、導電材であるアセチレンブラック粉末と結着材であるポリフッ化ビニリデンを、質量比で70:25:5で添加・混合した。得られた混合物を300kg/cm2の圧力で直径10mmφの円板状にプレス成形して正極とした。次に、ECとDECが等体積比(1:1)で混合された有機溶媒に電解質としてLiPF6を1mol/Lの濃度となるように溶解して調製した電解液と、カーボンからなる負極、正極と負極を隔てるセパレータ、及び、前述通り作製した正極を用いてコインセルをそれぞれ作製した(実施例1〜31、比較例1及び比較例2)。
【0050】
(室温初期充電容量の評価)
作製したコインセル(実施例1〜7、比較例1及び比較例2)を室温にて正極活物質の容量に応じて、0.02、0.1、0.5mA/cm2レートの定電流で4.5Vまで充電後、同じレートの定電流で3Vまで放電した際の放電容量を求めた。その結果を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
(高温初期充電容量の評価)
次に、上記実施例と同じ要領で作製したコインセル(実施例1〜7、比較例1及び比較例2)を内温60℃に設定した恒温槽内に設置し、前述と同じ試験条件で充放電試験した際の放電容量を求めた。その結果を表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
(サイクル特性の評価1)
次に、上記実施例と同じ要領で作製したコインセル(実施例1〜7、比較例1及び比較例2)を内温60℃と室温に設定した恒温槽内に設置し、0.1mA/cm2の充放電電流で3〜4.5V間の電圧規制条件で充放電サイクルを100サイクルまで行い、100サイクル経過後の放電容量維持率(%)を測定した。尚、本評価における「放電容量維持率(%)」とは、100サイクル経過後の放電容量を、初回の放電容量で除して得た数値(%)のことである。結果を表4に示す。
【0055】
【表4】

【0056】
(サイクル特性の評価2)
また、上記実施例と同じ要領で作製したコインセル(実施例8〜31)を内温60℃に設定した恒温槽内に設置し、0.1mA/cm2の充放電電流で3〜4.5V間の電圧規制条件で充放電サイクルを100サイクルまで行い、100サイクル経過後の放電容量維持率(%)を測定した。結果を表5〜7に示す。
【0057】
【表5】

【0058】
【表6】

【0059】
【表7】

【0060】
(考察:実施例1〜7、比較例1及び比較例2)
表2〜4の結果から、マンガン酸リチウムに対する燐酸マンガンリチウムの混合割合が増えるにつれて、表4に示すように60℃の容量維持率が増える傾向にあるが、一方で表2に示すように室温では電流値が大きくなると容量が小さくなる傾向にあった。
【0061】
また、比較例1と実施例1〜7を比べると、表2に示すように室温の初期放電容量は、比較例1が最も大きいが、表4に示すように、60℃の容量維持率は最も小さい。一方、比較例2と実施例1〜7を比べると、表4に示すように60℃の容量維持率は、比較例2が最も大きいが、表2に示すように、室温の初期放電容量は最も小さい。これらは、燐酸マンガンリチウム、マンガン酸リチウムのそれぞれの特性によるものと考えられる。
【0062】
以上のことから、総合的な評価として、マンガン酸リチウムに対する燐酸マンガンリチウムの混合割合が10質量%〜90質量%、より好ましくは20質量%〜80質量%、更に好ましくは30質量%〜70質量%であるとき、比較例1と比較例2の欠点を補完することを確認した。
【0063】
(考察:実施例8〜31)
表5及び表6に示すように、燐酸マンガンリチウム、マンガン酸リチウムのMnの一部をLi、Fe、Ni、Mg、Zn、Co、Cr、Al、B、V、Si、Sn、Nb、Ta、Cu、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種で置換したものを混合して正極活物質に用いると、60℃の容量維持率が更に向上することが分かった。この理由として、置換することで燐酸マンガンリチウム、マンガン酸リチウムの結晶構造がより安定化し、また、混合電子価により、バルクの導電性が向上したためと考えられる。
【0064】
また、表7の結果から、燐酸マンガンリチウム及びマンガン酸リチウムの置換量xは0.5以下であることが好ましく、更には0.3以下であることが好ましいことが分かった。この理由として、他元素による置換量が多くなると、結晶構造が安定化する一方で、結晶内に歪が生じ易くなるためと考えられる。
【0065】
以上の結果から、実施例1〜31は、比較例1と比較例2の欠点を補完し合うことにより、より実使用に適した非水電解質二次電池を得ることができることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の非水電解質二次電池は、コバルト酸リチウムとほぼ同等の4V領域にプラトーな電位を有し、かつ放電容量が大きく、比較的安価な混合正極活物質材料を用いることにより、例えば、現在実用化されている4V領域を使用するコバルト酸リチウムを正極活物質として用いる非水電解質二次電池の用途に直接置き換えることができるため、産業上有益に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の正極活物質で用いたオリビン型LiMnPO4のX線プロファイルを示すX線回析図である。
【図2】本発明の正極活物質で用いたスピネル型LiMn24のX線プロファイルを示すX線回析図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリビン型燐酸マンガンリチウムとスピネル型マンガン酸リチウムとが混合された非水電解質二次電池用正極。
【請求項2】
前記オリビン型燐酸マンガンリチウムの一般式が、LiM1xMn1-xPO4(M1:マンガン以外の1種以上の金属元素、0≦x(置換量)≦0.5)で表される請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項3】
前記M1が、Li、Fe、Ni、Mg、Zn、Co、Cr、Al、B、V、Si、Sn、Nb、Ta、Cu、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種以上である請求項2に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項4】
前記スピネル型マンガン酸リチウムの一般式が、LiM2xMn2-x4(M2:マンガン以外の1種以上の金属元素、0≦x(置換量)≦0.5)で表される請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項5】
前記M2が、Li、Fe、Ni、Mg、Zn、Co、Cr、Al、B、V、Si、Sn、Nb、Ta、Cu、Mo、Ti及びWから選ばれる少なくとも1種以上である請求項4に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項6】
前記置換量が、0≦x≦0.3である請求項2〜5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項7】
前記オリビン型燐酸マンガンリチウムの混合割合が、10〜90質量%である請求項1〜6のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項8】
リチウムイオンを挿入・脱離可能な正極活物質を含有する正極と、前記リチウムイオンを挿入・脱離可能な負極活物質を有する負極と、電解質を含む非水溶媒と、を備えた非水電解質二次電池であって、前記正極が、請求項1〜7のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極である非水電解質二次電池。
【請求項9】
前記電解質が、LiPF6、LiBF4、LiClO4のいずれか1種以上を含有する請求項8に記載の非水電解質二次電池。
【請求項10】
前記負極活物質が、高黒鉛化炭素材料又はハードカーボンである請求項8又は9に記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−278256(P2006−278256A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−99096(P2005−99096)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】