説明

非水電解質二次電池用正極活物質並びに非水電解質二次電池

【課題】電気伝導度が優れていると共に樹脂への充填性及び分散性が優れた正極活物質を提供する。
【解決手段】ポリアニオン系化合物と炭素とからなる粒子を親油化処理剤で被覆した平均粒径が1〜50μmである非水電解質二次電池用正極活物質に関し、好ましくは吸油量が20ml/100g以下である正極活物質である。正極活物質は樹脂との馴染みがよく、樹脂への充填性及び分散性が優れているため、正極活物質が高密度に充填された電極シートを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂への充填性及び分散性が優れたポリアニオン系正極活物質およびそれを用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、AV機器やパソコン等の電子機器のポータブル化、コードレス化が急速に進んでおり、これらの駆動用電源として小型、軽量で高エネルギー密度を有する二次電池への要求が高くなっている。また、近年地球環境への配慮から、電気自動車、ハイブリッド自動車の開発及び実用化がなされ、大型用途として保存特性の優れたリチウムイオン二次電池への要求が高くなっている。このような状況下において、充放電容量が大きく、安全性が高いという長所を有するリチウムイオン二次電池が注目されている。
【0003】
最近、3.5V級の電圧をもつ高エネルギー型のリチウムイオン二次電池に有用な正極活物質として、ポリアニオン系化合物が高い充放電容量を有する材料として注目されてきている。しかし、この材料は、電気抵抗が本質的に大きく、電極としての充填性が悪い為、特性改善が求められている。
【0004】
例えば、ポリアニオン系化合物であるオリビン型LiFePOは強固なりん酸4面体骨格と酸化還元に寄与する鉄イオンを中心にもつ酸素8面体とリチウムイオンから構成される。この結晶構造のため、充放電反応を繰り返すことによっても結晶構造は安定であり、サイクル特性は劣化しない特長がある。しかしリチウムイオンの移動経路が一次元的であることや自由電子が少ないという欠点が存在する。
【0005】
またポリアニオン系化合物は、粉末を構成する一次粒子径が小さいほど、高レートでの充放電特性がよい特徴があるので、優れた特性のポリアニオン系正極活物質を得るにはそれらが密に凝集した二次粒子で、かつ炭素のような低電気抵抗物質でネットワークを形成するように集合状態を制御する必要がある。しかし、炭素等と複合化された正極はかさ高く、単位体積当たりに充填できる実質的なリチウムイオン密度が低くなるといった欠点がある。そこで、単位体積当たりの充放電容量を確保するためには、小さな結晶子サイズの一次粒子が電気抵抗の小さな導電性補助剤を介して高い密度を持った二次集合体を形成することが必要とされている。
【0006】
従来、正極活物質の電気伝導性及び電極への活物質の充填密度を高めるために、種々の改良が行われている。例えば、導電性炭素材料を含む正極活物質材料を乾式で混合、粉砕して得た反応前駆体を焼成して導電性炭素材料で被覆されたリチウム鉄リン酸系複合酸化物を得る技術(特許文献1)、導電性炭素材料の先駆材料を正極活物質粒子表面に堆積させ、熱分解によって導電性炭素材料で被覆されたリチウム鉄リン酸系複合酸化物を得る技術(特許文献2)、LiFePOと炭素との複合体の粒子形状を球形状として正極活物質の充填密度を高める技術(特許文献3)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003‐292308号公報
【特許文献2】特開2001‐15111号公報
【特許文献3】特開2006‐32241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非水電解質二次電池用の正極活物質として樹脂への充填性及び分散性が優れている正極活物質は、現在最も要求されているところであるが、未だこれら諸特性を満足する正極活物質は得られていない。
【0009】
即ち、特許文献1〜3に記載の技術は、導電性炭素材料で被覆されているため、バインダー樹脂との馴染みが悪く、粘度の高い活物質含有塗料となり電極への正極活物質の充填性が低くなるという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、樹脂への充填性及び分散性が優れ、シートへの塗工性のよい正極活物質を得ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0012】
即ち、本発明は、ポリアニオン系化合物と炭素とからなる粒子を親油化処理剤で被覆した平均粒径が1〜50μmである非水電解質二次電池用正極活物質である(本発明1)。
【0013】
また、本発明は、ポリアニオン系化合物が、一般式LiXOで表されるリチウム化合物(MはFe、Co、Mnから選ばれる少なくとも1種以上の遷移金属、XはSi、Pから選ばれる少なくとも1種以上の元素であり、M元素はFe、Mg、Zr、Mn、Ti、Ce、Cr、Co、Niから選ばれる1種以上の他の元素で置換されていてもよい)である本発明1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質である(本発明2)。
【0014】
また、本発明は、親油化処理剤が、Al、Ti、Zr及びSiから選択される金属を含み、無機物と作用する親水性の官能基もしくは加水分解して親水性の官能基生成する官能基と、有機物と作用する疎水性の有機官能基を備えた化合物または界面活性剤である本発明1〜2のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質である(本発明3)。
【0015】
また、本発明は、正極活物質のタップ密度が0.5g/cc〜3.6g/ccである本発明1〜3の何れかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質である(本発明4)。
【0016】
また、本発明は、吸油量が20ml/100g以下である本発明1〜4の何れかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質である(本発明5)。
【0017】
また、本発明は、正極活物質中の全炭素量が0を超えて15重量%以下である本発明1〜5の何れかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質である(本発明6)。
【0018】
また、本発明は、親油化処理剤の処理量がポリアニオン系化合物に対して0.1〜10重量%である本発明1〜6の何れかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質である(本発明7)。
【0019】
また、本発明は、上記親油化処理剤で被覆したポリアニオン系化合物と炭素とからなる粒子が、上記親油化処理剤によって結着されて造粒体を形成している本発明1〜7の何れかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質である(本発明8)。
【0020】
また、本発明は、本発明1〜8の何れかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質を含有する正極を用いたことを特徴とする非水電解質二次電池である(本発明9)。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る非水電解質二次電池用正極活物質は、炭素を含む微粒子でありながら、粒子表面が親油化処理剤で被覆されているために樹脂との馴染みがよく、樹脂への充填性及び分散性が優れている。また、本発明に係る非水電解質二次電池用正極活物質は、炭素を含む微粒子が親油化処理剤によって結着され、高密度に造粒された造粒体を含む場合には、そのため、電極シートを作製する際に正極活物質が高密度に充填された電極シートを得ることができ、非水電解質二次電池の正極活物質として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1で得られた正極活物質を用いた電極シートの表面の電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例1で得られた正極活物質を用いた電極シートの断面の電子顕微鏡写真である。
【図3】比較例1で得られた正極活物質を用いた電極シートの表面の電子顕微鏡写真である。
【図4】比較例1で得られた正極活物質を用いた電極シートの断面の電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例4で得られた正極活物質の断面の電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例4で得られた正極活物質の断面の電子顕微鏡写真である。
【図7】実施例4で得られた正極活物質の粒子表面の電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例4で得られた正極活物質の粒子表面の電子顕微鏡写真である。
【図9】本発明に係る正極活物質を用いたコインセルの電池特性である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0024】
本発明に係る非水電解質二次電池用正極活物質は、ポリアニオン系化合物と炭素とからなる。
【0025】
本発明におけるポリアニオン系化合物とは、リン酸イオンやケイ酸イオン等のポリアニオンを有する化合物であって、一般式LiXO(MはFe、Co、Mnから選ばれる少なくとも1種以上の遷移金属、XはSi、Pから選ばれる少なくとも1種以上の元素)で表されるリチウム化合物である。また、酸素の一部をFで置換したものであってもよい。例えば、LiFePO、LiCoPO、LiMnPO、LiFePOF、LiFeSiO等が挙げられる。また、前記M元素はFe、Mg、Zr、Mn、Ti、Ce、Cr、Co、Niから選ばれる1種以上の他の元素で置換されていてもよい。
【0026】
例えば、本発明におけるポリアニオン系化合物の一種であるLiFePOは下記式で表されるものが好適に用いられる。
【0027】
LiFe1‐yM′PO(0.90<x<1.30、0≦y<0.3、M′:Mg、Zr、Mn、Ti、Ce、Cr、Co、Ni)
【0028】
xが前記範囲外の場合には、高い電池容量のLiFePO複合酸化物を得ることができない。より好ましくは0.98≦x≦1.10である。
【0029】
yが前記範囲外の場合には、初期充放電容量の低下が著しくなる。置換元素M′は、Mg、Zr、Mn、Ti、Ce、Coがより好ましい。置換元素M′の置換量は、より好ましくは0.001<y≦0.25であり、更により好ましくは0.005≦y≦0.20である。
【0030】
本発明に係る正極活物質におけるポリアニオン系化合物の結晶子サイズは、1〜1000nmであることが好ましい。結晶子サイズが1000nmを超える場合には、高充放電レートにおける充放電容量が小さくなる。より好ましくは20〜200nmである。
【0031】
本発明に係る正極活物質におけるポリアニオン系化合物は、炭素、ハロゲン化合物等の低電気抵抗物質を含んだものでも良い。
【0032】
本発明に係る正極活物質の平均粒径(D50:体積基準の平均二次粒子径)は、1〜50μmである。平均粒径が1μm未満の場合には、充填密度の低下や電解液との反応性の増加が起こるため好ましくない。また、平均粒径が50μmを超えると電極化する上で樹脂への分散性が悪化するため好ましくない。より好ましくは1〜40μm、更により好ましくは1〜30μm、特に好ましくは1〜20μmである。
【0033】
本発明に係る正極活物質が、ポリアニオン系化合物と炭素とからなる粒子が該粒子を被覆する親油化処理剤によって結着された造粒体を含む場合には、本発明に係る正極活物質の平均粒径(D50:体積基準の平均二次粒子径)は、10〜50μm、好ましくは10〜40μm、更に好ましくは10〜30μmである。すなわち、本発明に係る正極活物質の平均粒径の上限は、造粒体の有無に係わらず50μmである。
【0034】
本発明に係る正極活物質中の全炭素量は0を超えて15重量%以下である。炭素を含まない場合には、得られる正極活物質の電気伝導度が不十分となる。15重量%を超える場合には、得られる正極活物質の樹脂への充填性及び分散性が不十分となる。好ましくは1〜10重量%である。
【0035】
本発明に係る正極活物質中の炭素は、正極活物質の表面を被覆しているものであってもよく、粒子内部に内包されたものであってもよい。
【0036】
本発明に係る正極活物質は、ポリアニオン系化合物と炭素とからなる粒子が親油化処理剤によって被覆されたものであり、炭素で被覆されたポリアニオン系化合物粒子の表面を親油化処理剤によって被覆されたものであることが好ましい。
【0037】
本発明に係る正極活物質は、ポリアニオン系化合物と炭素とからなる粒子が親油化処理剤によって被覆されるとともに、該粒子を被覆する親油化処理剤によって結着された造粒体を含むことが好ましい。より好ましくは、炭素で被覆されたポリアニオン系化合物粒子の表面が親油化処理剤によって被覆され、さらに該粒子を被覆する親油化処理剤によって粒子が結着された造粒体を含むものである。
【0038】
本発明に係る正極活物質のタップ密度は0.5g/cc〜3.6g/ccであることが好ましい。0.5g/cc未満の場合には、シート化する際の樹脂への充填量を高くすることが困難となる。より好ましくは0.7g/cc〜3.5g/ccである。
【0039】
本発明に係る正極活物質の吸油量は20ml/100g以下であることが好ましい。吸油量が20ml/100gを超える場合には、正極活物質の樹脂への馴染みが悪く、充填性が不十分となる。好ましくは10〜20ml/100gである。
【0040】
次に、本発明に係る正極活物質の製造方法について述べる。
【0041】
本発明に係る正極活物質は、ポリアニオン系化合物と親油化処理剤とを複合化させて得ることができる。
【0042】
本発明におけるポリアニオン系化合物は、常法に従って製造できるものであればよく、例えばLiFePOは、リチウム化合物、鉄化合物及びリン化合物を混合して焼成する方法、鉄化合物とリン酸リチウム化合物と還元性化合物とを混合して焼成する方法など、いずれの方法で製造したものでも良い。
【0043】
親油化処理剤としては、金属(Al、Ti、Zr及びSiから選択される金属)を含み、無機物と作用する親水性の官能基もしくは加水分解して親水性の官能基生成する官能基と、有機物と作用する疎水性の有機官能基を備えた化合物または界面活性剤を用いることができ、具体的には、アルミ系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、ジルコネート系カップリング剤、シラン系カップリング剤などのカップリング剤、シリル化剤、界面活性剤などが挙げられ、特にアルミ系カップリング剤、シラン系カップリング剤やチタネート系カップリング剤等のカップリング剤が好ましい。
【0044】
アルミ系カップリング剤としては、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムジイソプロポキシモノエチルアセトアセテート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムトリスアセチルアセトネート等が挙げられる。
【0045】
チタネート系カップリング剤としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート、ビス(ジオクチルピロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルピロホスフェート)エチレンチタネート等が挙げられる。
【0046】
ジルコネート系カップリング剤としては、ジルコニウムテトラキスアセチルアセトネート、ジルコニウムジブトキシビスアセチルアセトネート、ジルコニウムテトラキスエチルアセトアセテート、ジルコニウムトリボトキシモノエチルアセトアセテート、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート等が挙げられる。
【0047】
シラン系カップリング剤としては、N‐β(アミノエチル)γ‐アミノプロピルトリメトキシシラン、N‐β(アミノエチル)γ‐アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ‐アミノプロピルトリエトキシシラン、N‐フェニル‐γ‐アミノプロピルトリメトキシシラン、γ‐グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β‐(3,4‐エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β‐メトキシエトキシ)シラン等が挙げられる。
【0048】
シリル化剤としては、ヘキサメチルジシラザン、トリアルキルアルコキシシラン、トリメチルエトキシシラン等が、シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチル水素シリコーンオイル等が挙げられる。
【0049】
界面活性剤としては、市販の界面活性剤を使用することができ、ポリアニオン系化合物や該粒子表面に有する水酸基と結合が可能な官能基を有するものが望ましく、イオン性はカチオン性又はアニオン性のものが好ましい。具体的にはポリビニルアルコールやトリオクチルアミンオレイン酸塩等が挙げられる。
【0050】
前記親油化処理剤の処理量はポリアニオン系化合物に対して0.1〜10重量%が好ましく、更に好ましくは0.7〜5重量%である。処理量が多すぎると親油化処理剤による結着が強くなりすぎ、処理量が少なすぎると粒子表面を被覆して得られる効果が低くなる。特に、造粒体を得る場合は、0.7〜3重量%であることが好ましい。
【0051】
ポリアニオン系化合物と親油化処理剤を複合化する方法としては、エッジランナー(「ミックスマーラー」、「シンプソンミル」、「サンドミル」と同義語である)、マルチミル、ストッツミル、ウエットパンミル、コナーミル、リングマラー等の処理装置を用いて複合化すればよい。その他、ハイスピードミキサー(深江パウテック(株)製)、ヘンシェルミキサー(三井三池(株)製)、CFグラニュレーター(フロイント産業(株)製)、バーチカル・グラニュレーター((株)パウレック製)、フロージェットグラニュレーター((株)大川原製作所製)、万能攪拌機((株)ダルトン製)、ナウタミキサー((株)ホソカワミクロン製)等のいわゆる攪拌機能を有した処理機を用いて攪拌してもよい。
【0052】
ポリアニオン系化合物と炭素とからなる粒子を親油化処理剤によって被覆する場合には、ポリアニオン系化合物と炭素とからなる粒子と親油化処理剤とを前記処理装置を用いて複合化すればよい。
【0053】
また、ポリアニオン系化合物と炭素とからなる粒子が該粒子を被覆する親油化処理剤によって結着された造粒体を含む正極活物質を得る場合には、加圧機能を有する処理装置を用いて圧密処理を行い、ポリアニオン系化合物と親油化処理剤の複合化と同時に造粒を行うことが好ましい。
【0054】
特に、造粒する場合には、親油化処理剤による被覆処理に対して、より荷重をかけて処理することが好ましい。例えば、後述するようなミックスマーラーを用いるときには、被覆処理のみの場合には荷重を10〜40kg/cmとすることが好ましく、造粒まで行う場合には30〜60kg/cmが好ましく、より好ましくは40〜60kg/cmとすることが好ましい。
【0055】
また、ポリアニオン系化合物と親油化処理剤の複合化を先に行い、その後に更に親油化処理剤を添加して造粒を行ってもよい。すなわち、ポリアニオン系化合物と炭素からなる粒子と親油化処理剤とを前記処理装置を用いて複合化した粒子に、更に親油化処理剤を添加して、加圧機能を有する処理装置を用いて圧密処理を行うことで、親油化処理剤で被覆したポリアニオン系化合物と炭素とからなる粒子が親油化処理剤によって結着された造粒体を含む正極活物質を得ることができる。このとき、ポリアニオン系化合物と炭素とからなる粒子に被覆される親油化処理剤と、親油化処理剤で被覆したポリアニオン系化合物と炭素とからなる粒子を造粒する際に用いられる親油化処理剤とは、同じでも、異なっていてもよい。
【0056】
ポリアニオン系化合物と炭素とからなる粒子が該粒子を被覆する親油化処理剤によって結着された造粒体を含む正極活物質を得る場合には、親油化処理剤による結着を強固なものとするために、造粒後に熱処理または乾燥を行うことが好ましい。熱処理または、乾燥条件は、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下または真空雰囲気下80℃以上で行う。より好ましくは80℃以上200℃以下で親油化処理剤が分解しない温度範囲で行うのが望ましい。
【0057】
また、本発明に係る正極活物質は、フッ素ガスによるフッ素処理を行ってもよい。フッ素は正極活物質中に存在していればよい。フッ素化合物として正極活物質粒子の表面に存在していてもよく、ポリアニオン系化合物の酸素原子の一部を置換していてもよいが、正極活物質粒子の表面に存在する親油化処理剤に由来する金属元素と反応してフッ素化合物を形成することが好ましい。
【0058】
次に、本発明に係る正極活物質を用いた正極について述べる。
【0059】
本発明に係る正極活物質を用いて正極を製造する場合には、常法に従って、導電剤と結着剤とを添加混合する。導電剤としてはアセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛等が好ましく、結着剤としてはポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等が好ましい。
【0060】
本発明に係る正極活物質を用いた正極の電極密度は1.8g/cm以上であることが好ましい。
【0061】
本発明に係る正極活物質を用いて製造される二次電池は、前記正極、負極及び電解質から構成される。
【0062】
負極活物質としては、リチウム金属、リチウム/アルミニウム合金、リチウム/スズ合金、グラファイトや黒鉛等を用いることができる。
【0063】
また、電解液の溶媒としては、炭酸エチレンと炭酸ジエチルの組み合わせ以外に、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル等のカーボネート類や、ジメトキシエタン等のエーテル類の少なくとも1種類を含む有機溶媒を用いることができる。
【0064】
さらに、電解質としては、六フッ化リン酸リチウム以外に、過塩素酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム等のリチウム塩の少なくとも1種類を上記溶媒に溶解して用いることができる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。評価方法を以下に示す。
【0066】
正極活物質の平均粒径(D50:体積基準の平均二次粒子径)は、日機装(株)MICROTRAC HRA‐9320型 粒度分布計を用いて測定した。
【0067】
炭素量は、炭素・硫黄測定装置 EMIA‐520FA[(株)堀場製作所製]を用いて測定した。
【0068】
タップ密度は、(株)セイシン企業製 タップデンサーKYT‐3000を用いて測定した。
【0069】
吸油量は、JISK5101‐13‐2:2004に従って試料にアマニ油を滴下してヘラで練り、一つの塊状となった点を終点として測定を行った。
【0070】
電極密度は、下記の電極シート化条件で作製したシートを16mmφに打ち抜いた重さからアルミ箔の重さを引いた値を、打ち抜いたシートの面積とアルミ箔の厚みを引いたシートの厚さから算出した体積で割って算出した。計算式は下記のとおりである。
【0071】
電極密度(g/cm3)=(打ち抜きシート重量−アルミ箔重量)
/(打ち抜きシート面積×(打ち抜きシート厚さ−アルミ箔の厚さ))
【0072】
<電極シート化試験条件>
本発明における実施例で得られた正極活物質を用い、活物質:アセチレンブラック:PVdF=9:1:1(wt%)になるよう調整して、ギャップ150μmのドクターブレードで電極スラリーをAl箔集電体上に塗布した。シート乾燥後、3t/cmに加圧しシート表面を目視で観察し、下記2段階で評価した。
【0073】
良:シート表面に塗布ムラが確認されない
悪:シート表面に塗布ムラが確認される
【0074】
本発明に係る正極活物質を用いて作製したシートを用いてCR2032型コインセルによる二次電池特性を評価した。
【0075】
2cmに打ち抜いた正極シート、17mmφに打ち抜いた厚さ0.15mmLi負極、19mmφにセパレーター(セルガード#2400)、1mol/lのLiPFを溶解したECとDEC(体積比3:7)で混合した電解液(キシダ化学製)用いて、CR2032型コインセル((株)宝泉製)を作製した。
【0076】
体積放電容量の測定は、充電を0.1Cで行い、放電を0.1C、1C、2C、5Cで2.0−4.1Vの範囲で測定を行った。
【0077】
比較例1:
1リットルの円筒型ポリボトル瓶にα―FeOOH88g、水酸化リチウム一水和物40g、リン酸110g、ポリビニルアルコール5g入れ、5mmのZrボールを用いて混合・解砕を行った。上記で得られたスラリーの乾燥を行い、その乾燥物を平均粒径(D50)が2μm以下になるまで粉砕を行い、還元性雰囲気中(N)で650℃、2時間焼成を行ってLiFePO粒子粉末を得た。得られた正極活物質を用いて電極シートを作製した。
【0078】
比較例2:
表1に示す粉体特性を有するLiFePO粒子粉末を用いて電極シートを作製した。
【0079】
実施例1:
ミックスマーラー内に比較例1のLiFePO粒子粉末1.5kgと、エポキシ基を有するアルミカップリング剤プレンアクト(味の素ファインテクノ株式会社)4質量%を入れ、1時間混合して親油化処理を行い、表面処理LiFePO粒子粉末を得た。得られた正極活物質を用いて電極シートを作製した。
【0080】
実施例2:
表面処理剤としてエポキシ基を有するシランカップリング剤KBM‐403(信越化学工業株式会社)を用いたほかは実施例1と同様にして表面処理LiFePO粒子粉末を得た。得られた正極活物質を用いて電極シートを作製した。
【0081】
実施例3:
ニッケル製反応容器に実施例1で得られた表面処理LiFePO粒子粉末を入れ、容器内にNをパージする。続いて、Fガス及びNガスを流し、反応容器内で反応を行ってフッ素処理LiFePO粒子粉末からなる正極活物質を得た。
【0082】
実施例1〜3及び比較例1〜2の正極活物質及び電極シートの諸特性を表1に示す。表1より、本発明における実施例で得られた正極活物質を用いた電極シートは高密度に充填されていることが認められた。
【0083】
【表1】

【0084】
実施例1で得られた正極活物質を用いて作製したシートの表面の電子顕微鏡写真を図1に、シート断面の電子顕微鏡写真を図2に示す。また、比較例1で得られた正極活物質を用いて作製したシートの表面の電子顕微鏡写真を図3に、シート断面の電子顕微鏡写真を図4に示す。図に示すとおり、実施例1の正極活物質を用いて作製した電極シートは、充填性に優れることが確認された。
【0085】
実施例4:
ミックスマーラー内に比較例2のLiFePO粒子粉末1kgの粉末と、エポキシ基を有するアルミカップリング剤プレンアクト(味の素ファインテクノ株式会社)1質量%を入れ、27Hz、53kg/cmで3時間混合して親油化処理及び圧密処理を行った。圧密処理を行った試料に流速1L/minの窒素ガス雰囲気で200℃、1時間で熱処理を行い、表面処理LiFePO粒子粉末からなる正極活物質を得た。
【0086】
実施例5:
親油化処理剤の添加量を3質量%としたほかは実施例4と同様にして表面処理LiFePO粒子粉末からなる正極活物質を得た。得られた正極活物質を用いて電極シートを作製した。
【0087】
実施例6:
比較例1のLiFePO粒子粉末を用いたほかは実施例4と同様にして表面処理LiFePO粒子粉末からなる正極活物質を得た。得られた正極活物質を用いて電極シートを作製した。
【0088】
実施例4〜6の正極活物質及び電極シートの諸特性を表2に示す。表2より、本発明における実施例で得られたポリアニオン系化合物と炭素とからなる粒子が親油化処理剤によって結着され、造粒された造粒体を含む正極活物質を用いた電極シートはより高密度に充填されていることが認められた。
【0089】
【表2】

【0090】
実施例4で得られた正極活物質の断面の写真を図5、6に示す。また、正極活物質の粒子表面の写真を図7に、粒子の全体像の写真を図8に示す。図5〜8に示すとおり、微細な粒子が結着して造粒体を構成していることが確認された。
【0091】
また、図9に示すとおり、実施例4で得られた親油化処理剤によって結着され、高密度に造粒された正極活物質を用いた電極シートで作製された電池の特性は、比較例2で得られた親油化処理を施されていない正極活物質を用いた電極シートで作製された電池よりも、単位体積あたりの容量が優れていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明に係る非水電解質二次電池用正極活物質は、炭素を含む微粒子でありながら、粒子表面が親油化処理剤で被覆されているために樹脂との馴染みがよく、樹脂への充填性及び分散性が優れている。また、本発明に係る非水電解質二次電池用正極活物質は、炭素を含む微粒子が親油化処理剤によって結着され、高密度に造粒された造粒体を含む正極活物質である。そのため、電極シートを作製する際に正極活物質が高密度に充填された電極シートを得ることができ、非水電解質二次電池の正極活物質として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアニオン系化合物と炭素とからなる粒子を親油化処理剤で被覆した平均粒径が1〜50μmである非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
ポリアニオン系化合物が、一般式LiXOで表されるリチウム化合物(MはFe、Co、Mnから選ばれる少なくとも1種以上の遷移金属、XはSi、Pから選ばれる少なくとも1種以上の元素であり、M元素はFe、Mg、Zr、Mn、Ti、Ce、Cr、Co、Niから選ばれる1種以上の他の元素で置換されていてもよい)である請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
親油化処理剤が、Al、Ti、Zr及びSiから選択される金属を含み、無機物と作用する親水性の官能基もしくは加水分解して親水性の官能基生成する官能基と、有機物と作用する疎水性の有機官能基を備えた化合物または界面活性剤である請求項1〜2のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
正極活物質のタップ密度が0.5g/cc〜3.6g/ccである請求項1〜3の何れかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項5】
吸油量が20ml/100g以下である請求項1〜4の何れかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項6】
正極活物質中の全炭素量が0を超えて15重量%以下である請求項1〜5の何れかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項7】
親油化処理剤の処理量がポリアニオン系化合物に対して0.1〜10重量%である請求項1〜6の何れかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項8】
上記親油化処理剤で被覆したポリアニオン系化合物と炭素とからなる粒子が、上記親油化処理剤によって結着されて造粒体を形成している請求項1〜7の何れかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項9】
請求項1〜8の何れかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質を含有する正極を用いたことを特徴とする非水電解質二次電池。

【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−49161(P2011−49161A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171158(P2010−171158)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】