説明

非水電解質二次電池用負極材料

【課題】放電容量が高く、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用の負極材料を提供する。
【解決手段】Liを可逆的に吸蔵・放出することができる金属間化合物からなる2種以上の活性相のみからなるか、それにさらにLiを吸蔵しない不活性相を含む負極材料であって、体積で量的に上位2種の活性相の体積当たりの放電容量の差が2倍以上、18.8倍以内の範囲内にあり、かつそのうちの放電容量が大きい方の活性相が負極材料の80体積%以下を占めるようにする。量的に上位2種の活性相は同じ結晶系に属する金属間化合物であることが好ましく、それらが負極材料の50体積%以上を占めることがより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Li等のアルカリ金属を可逆的に吸蔵・放出することができる非水電解質二次電池用負極材料に関し、さらに詳しくは、放電容量が高く、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池用負極材料に関するものである。
【0002】
非水電解質二次電池の代表例はリチウム二次電池、特にリチウムイオン二次電池であり、本発明の負極材料はその負極材料に適しているが、今後の開発が期待される他の非水電解質二次電池の負極材料としても使用可能である。以下では、リチウムイオン二次電池に関して本発明を説明する
【背景技術】
【0003】
携帯用の小型電気・電子機器の普及に伴い、その電源となる小型二次電池にも高エネルギー密度化が求められてきた。特に電池電圧がNi−水素電池の3倍程度あるリチウムイオン二次電池に関しては、その高エネルギー密度という特長をさらに伸ばすため、正負極材料の高容量化に対して様々な検討が行われてきた。
【0004】
リチウムイオン二次電池の負極材料としては、炭素材料、とりわけ高結晶性の炭素材料、即ち、グラファイトを用いるのが主流となっている。高結晶性の炭素材料はおおよそ330〜350mAh/gの重量当たりの容量を持つものが多く、比重を掛け合わせた体積当たりの容量は660〜750mAh/cc程度である。
【0005】
この炭素材料の改良としては、難黒鉛化炭素などの低結晶性炭素を用いることによって高容量を実現する試みや、高結晶性炭素の表面に低結晶性の炭素材料を付着または担持させることによって高容量を実現する試みなどがなされている。しかし、炭素材料はいずれも比重が小さいため、たとえ重量あたりの容量で高容量を示したとしても、体積あたりの容量は小さくなり、高容量化を目指す電極材料としては満足できないものであった。
【0006】
これを解決するため、比重が大きく、Liと化合物を形成した際に高体積エネルギー密度が期待できる様々な負極材料が提案されている。
例えば、特許文献1に示される結晶構造がCaF型、ZnS型、AlLiSi型のいずれかに属するものや、特許文献2に示される立方晶と斜方晶の混合相からなる材料が例示される。これらは、Li侵入サイトが非常に大きく、大きな放電容量が期待でき、さらに高比重のため、高い体積エネルギー密度が期待できる負極材料である。
【0007】
また、Ni、Feなどの金属の硅化物も負極材料として提案されている(特許文献3、特許文献4、特許文献1参照)。さらに、Snなどの金属の酸化物を用いるもの、Co、Mnなどの金属の窒化物を用いるものなど、リチウムイオン二次電池の負極材料の開発は多岐にわたって行われている。
【0008】
これらの多様な開発の結果、放電容量が非常に大きい負極材料が現れた。しかし、それらは充放電中の材料の膨張・収縮が大きいため、サイクル特性が炭素材料に比べて著しく劣り、繰り返しの使用を強いられる二次電池の材料としては改良が必要である。
【0009】
この点を改良するため、特許文献5および特許文献6では、活物質となる金属間化合物を非晶質化もしくは低結晶化することで、充放電中の負極材料の膨張・収縮によって起こる応力変化を極力抑えようとする試みが行われているが、効果はまだ十分ではなく、改良の余地が残されている。
【特許文献1】特開平9−63651号公報
【特許文献2】特開2001−118575号公報
【特許文献3】特開平5−159780号公報
【特許文献4】特開平7−240201号公報
【特許文献5】特開平10−223221号公報
【特許文献6】特開平11−102699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、放電容量が高く、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池用の負極材料を提供することである。より具体的な目的は、Liを可逆的に吸蔵・放出することができる金属間化合物を利用した放電容量の高い負極材料において、そのサイクル特性を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
Liを可逆的に吸蔵・放出することができる金属間化合物を利用した、放電容量が高い負極材料のほとんどは、サイクル特性に問題がある。その原因は、充放電中に負極材料が繰り返し受ける膨張・収縮が大きく、そのため粒子破壊を起こすことにあると考えられる。粒子破壊を起こした負極材料の破片は、極板からの電子伝導性を失い、電気的に遊離した状態となり、次回の充電からはこの破片に充電されず、充電容量が減少する。この繰り返しによってサイクル特性は悪化していくと考えられ、サイクル特性の改善には、負極材料の粒子破壊を抑制することが求められる。
【0012】
金属間化合物がLiを吸蔵して膨張することは不可避である。従って、大きな放電容量を持つ負極材料の1つ1つの結晶粒が大きく膨張することは避けられない。例えば、Siで約3.2倍、Snでは約2.6倍の体積膨張が最低でも見積もられ、Li吸蔵時に金属間化合物が受ける応力は数トンにもなると見積もることができる。膨張する割合は用いる金属元素によって異なるが、放電容量の大きな負極材料は大きな膨張・収縮を繰り返し、割れを発生しやすいことは明らかである。
【0013】
今、単一の金属間化合物がLiを吸蔵する場合を考えると、化合物内に存在する結晶粒界で膨張・収縮の応力を受けることとなり、放電容量が大きい金属間化合物の場合、この粒界の界面で割れが発生しやすいと推測される。
【0014】
これまで考えられてきたリチウムイオン二次電池用の負極材料の多くは、Liを吸蔵する活性相とLiを吸蔵しない不活性相の2種類から構成される。不活性相は、活性相の体積変化を周囲から抑制するために存在させる。このようにしても、活性相と不活性相とが接している界面に大きな応力がかかり、破壊が進行すると考えられ、単に不活性相を存在させるだけでは、サイクル特性の改善効果には限界がある。
【0015】
この間題を解決するため、本発明者らが鋭意検討した結果、あたかも傾斜材料の如く、
(1)「Liを多く吸蔵・放出できる放電容量が大きい活性相」+「Liを吸蔵・放出できるが放電容量は小さい活性相」、または
(2)「Liを多く吸蔵・放出できる放電容量が大きい活性相」+「Liを吸蔵・放出できるが放電容量は小さい活性相」+「Liを吸蔵できない不活性相」、
という組合わせによって、粒子破壊が大きく軽減できることを見出した。
【0016】
また、上記2種類の活性相を構成する金属間化合物の結晶構造(結晶系)が同一である時、Li吸蔵・放出による合金の膨張・収縮に関して粒界の接合性が良く、粒子破壊が生じにくいことも見出した。さらに、これら活性相の結晶の粒子径が小さい時、この効果が非常に大きいことも見出した。
【0017】
上記知見に基づく本発明は、2種以上の金属間化合物の混合物からなり、その少なくとも2種はLiを可逆的に吸蔵・放出することができる活性相をなす金属間化合物であり、それら活性相をなす金属間化合物のうち体積で量的に上位2種の金属間化合物の体積当たりの放電容量の差が2倍以上、18.8倍以内の範囲内にあり、かつ前記量的に上位2種の金属間化合物のうち放電容量が大きい方の金属間化合物が負極材料の80体積%以下を占めることを特徴とする、非水電解質二次電池用負極材料である。
【0018】
好ましくは、活性相をなす金属間化合物のうち少なくとも2種が同じ結晶系に属するものである。その場合、同じ結晶系に属する金属間化合物からなる少なくとも2種の活性相が負極材料の50体積%以上を占めることがより好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、従来よりリチウムイオン二次電池の負極材料として使用されているグラファイトと同等のサイクル特性を示し、体積当たりの放電容量はグラファイトの2倍以上も高い、高性能のリチウムイオン二次電池用負極材料の提供が可能となる。従って、本発明はリチウムイオン二次電池の小型化ないし高エネルギー密度化に寄与する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、放電容量が大きく、サイクル特性にも優れた、非水電解質二次電池用、特にリチウムイオン二次電池用の負極材料に関する。以下、特に記述がなければ、%は質量%を示す。
【0021】
本発明の負極材料は2種以上の金属間化合物の混合物からなり、その少なくとも2種は、Liを可逆的に吸蔵・放出することができる(Li吸蔵性の)、活性相をなす金属間化合物である。つまり、本発明の負極材料は、2種以上のLi吸蔵性の金属間化合物(活性相)のみから構成されるものでもよく、またはこれら2種以上のLi吸蔵性の金属間化合物(活性相)に加えて、1種または2種以上のLiを実質的に吸蔵しない金属間化合物(不活性相)を含有するものでもよい。
【0022】
活性相をなすLi吸蔵性の金属間化合物の例として、各結晶系ごとに下記が例示されるが、これらに限られるものではない。
立方晶:AlP,InP,InSb,MgSi,FeS
正方晶:In,InSn,MnSn,FeSn,Al11Mn14,NiSn
斜方晶:PdSn,MnC,FeC,PdSn,AgSn;
六方晶:CuP,CuSn,AuSn,MnSn,MnSn,Al10Mn,Al23,InSn,CoSn
三方晶:TiS,ZrS,Cr
【0023】
Liを実質的に吸蔵しない不活性相の金属間化合物の例としては、これらに限定されないが、下記を挙げることができる。
立方晶:CoSi,SiC,TiCo
正方晶:TiSi,AlCu
斜方晶:CuSn,CuTi、PdSi
六方晶:TiSn,FeTi,MnSn
三方晶:WC,NiAl
以上に例示するように、本発明における金属間化合物は、硫化物、リン化物、炭化物、および硅化物をも包含する。
【0024】
本発明によると、活性相をなす2種のLi吸蔵性の金属間化合物は、体積当たりの放電容量の差が2倍以上、20倍以内となる組合わせとする。活性相の金属間化合物が3種類以上存在する場合には、体積比率で量的に上位2種(即ち、最大量と次に多い量)の金属間化合物について、放電容量の差が上記のようになればよい。しかし、量的により少ない他の活性相の金属間化合物についても、量的に上位2種のいずれか少なくとも一方の金属間化合物との放電容量の差が、上記のように2倍以上、20倍以内となることが好ましい。
【0025】
異なる活性相の放電容量の差が2倍より小さいと、膨張・収縮の差が少なすぎて、単一の金属間化合物である場合と大きな差異がなくなり、充放電中の膨張・収縮による応力緩和がしづらい。一方、放電容量の差が20倍より大きい金属間化合物の組み合わせでは、膨張率が大きく異なるため、粒子破壊が起き易く、結果としてサイクル特性が悪化する。
【0026】
傾斜材料のように「放電容量が大きい相」+「放電容量が小さい相」の組合わせであることが望ましいので、活性相の放電容量の差は好ましくは3〜8倍、より好ましくは3〜4倍である。
【0027】
上述した2種以上の活性相に加えて、Liを実質的に吸蔵しない不活性相を導入すると、粒子破壊をさらに抑制することができ、サイクル特性が高くなる。この時、不活性相と放電容量が小さい活性相との容量差は小さい方が好ましい。不活性相の放電容量は実質的に0であるので、放電容量が小さい方の活性相の放電容量は、不活性相との容量差が小さくなるよう、1500mAh/cc以下であることが好ましい。
【0028】
「放電容量が大きい相」と「放電容量が小さい相」との体積比率は特に限定されないが、「放電容量が大きい相」の割合は負極材料全体の80体積%以下とする。活性相の金属間化合物が3種以上存在する場合には、上記と同様に、量的に上位2種の金属間化合物のうち放電容量が大きい方の金属間化合物を「放電容量が大きい相」とし、その割合が80体積%以下であればよい。量的に上位2種の第1および第2の活性相に加えて、それより高容量の第3の活性相が1相以上存在する場合には、第1および第2のうちの容量が大きい方の活性相と第3の活性相との合計量が80体積%となることが好ましい。放電容量の大きい相の割合が80体積%を超えると、サイクル特性の改善が不十分となる。放電容量が大きい相の割合は、好ましくは70体積%以下である。
【0029】
各相の放電容量の差が大きいときは、放電容量の小さい相を多めにする方が、サイクル特性の改善効果が高くなる。しかし、放電容量が小さい相が多くなると負極材料の放電容量は小さくなる。その意味で、放電容量の大きい相(活性相が3種以上の場合は、量的に上位2種の活性相のうち、放電容量が大きい相と、この相より高容量の相の合計)の割合は、負極材料全体の30体積%以上であることが好ましく、より好ましくは40体積%以上である。
【0030】
本発明の好適態様によると、活性相をなすLi吸蔵性の金属間化合物は、その少なくとも2種が同じ結晶系に属する結晶構造を持つことが好ましい。より好ましくは、体積で量的に上位2種の活性相の金属間化合物の結晶構造が同じ結晶系に属する。それにより、粒子破壊がより効果的に抑制され、サイクル特性の向上効果が高まる。
【0031】
同じ結晶系の化合物同士であると、結晶粒界の接合性が高く、粒界に存在する歪みも少ないと考えられる。従って、充放電中に起こる体積膨張による応力の緩和がしやすく、充放電中の粒子破壊が軽減される。材料全体のうち、同じ結晶系に属する2種以上の活性相が50体積%以上の量で存在することが好ましい。この体積比率が50%未満であると、
粒子破壊を防止する応力緩和が不十分となり、サイクル特性の改善効果が低下する。
【0032】
Liを実質的に吸蔵しない不活性相の金属間化合物が存在する場合、この不活性相も2種以上の活性相と同じ結晶系に属するものであると、応力緩和によるサイクル特性の改善効果がさらに高まる。
【0033】
Li吸蔵性の2種以上の金属間化合物からなる活性相は、平均結晶粒径が10μm以下であることが好ましい。それにより膨張・収縮による発生応力の緩和効果が一層大きくなる。但し、特許文献5に提案されるような非晶質または低結晶(X線回折で測定した最強ピークの半値幅が0.6°以上)とする必要はない。平均結晶粒径の好ましい範囲は50nm〜1μmの範囲である。
【0034】
負極材料の活性相の結晶粒径は、EDX(エネルギー分散型特性X線)を併用して、SEM(走査型電子顕微鏡)などによる断面観察によって測定することができる。さらに詳細な材料の組織についてはTEM(透過型電子顕微鏡)で、主な生成相についてはX線回析などで決定することができる。負極材料の組織は、金属の組成と製造方法の組み合わせで決まってくる。
【0035】
上記負極材料の製造方法は限定されるものではない。好ましくは、微細な結晶粒径を持つ材料を製造できる方法を採用する。そのような方法の例としては、アトマイズ法、ロール急冷法、回転電極法などに代表される急冷凝固法、冷却速度を高めた鋳造法(例、薄鋳片鋳造法)、固相反応を用いたMA(メカニカルアロイング)法およびMG (メカニカルグラインディング)法などが挙げられる。
【0036】
この時の溶解は、不活性ガス中または真空中で、アーク溶解、プラズマ溶解、高周波誘導加熱、抵抗加熱といった適当な方法で行うことができる。冷却速度が100℃/sec以上の急冷凝固法は、例えばガスアトマイズ法、油アトマイズ法、水アトマイズ法、回転電極法、双ロール急冷法、単ロール急冷法、回転ドラム上への鋳込み、水冷などで急冷凝固の効果をもたらす鋳型への鋳込みなど適宜手段で行うことができる。100 ℃/sec以上の冷却速度を実現できる方法が好ましいが、より好ましい冷却速度は1×10℃/sec以上である。
【0037】
上記の負極材料は、負極材料の構成元素の粉末を予め混合しておき、その混合粉末を機械的に混合・粉砕・造粒して固相反応により合金化し、2種以上の金属間化合物を形成するMA法、或いは2種以上の金属間化合物を予め作製しておき、それらの混合物を機械的に混合・粉砕・造粒するMG法によっても製造できる。これらの機械的な方法に使用できる装置としては、回転型ボールミル、遊星型ボールミル、振動型ボールミル、アトライタなどが挙げられる。
【0038】
MA法では、粉末状態で合金化を行うため、均質な合金組織を得るには非常に長い処理時間が必要となる。回転型ボールミルのように付与エネルギーが低い装置の場合、一般に何日という処理時間を要することになり、生産性が低いため、量産時のコストが高くなる。従って、MA法を用いるときには、高エネルギー型の混合機を用いることが望ましい。最初から金属間化合物を使用するMG法は、MA法に比べるとより効率がよいが、MG法でも高エネルギー型の混合機を使用する方が、より高い生産性を得ることができ、望ましい。
【0039】
鋳造法、急冷凝固法、MA法、MG法などで作製した負極材料を、必要に応じて熱処理することも可能である。特に、急冷凝固で作製した材料の場合、部分的に非常に急冷が効いており、量産時の材料の均質化という意味では、微弱な熱処理を施す方が良い場合もあ
る。
【0040】
熱処理温度は特に制限しないが、急冷凝固法がアトマイズ法である場合は、生成した粉体の凝集を防止する意味でも、材料中に存在する2種以上の各活性相の固相線より低い温度とすることが好ましい。この温度より高い温度で熱処理を施すと、徐冷されてしまい、急冷凝固法、MA法、MG法などによって得られた組織微細化効果が失われる。それにより、活性相の粗大化が起こり、平均粒径が10μmを超える大きさになる可能性がある。負極材料中の活性相の固相線温度は、DTAなどの熱分析装置を用いることで簡単に求めることができる。熱処理雰囲気は、Ar等の不活性雰囲気もしくは1.0×10−3Torr以下の真空とすることが好ましい。
【0041】
非水電解質二次電池用の負極材料は一般に粉末状態で使用されるので、上記方法で得られた負極材料を必要に応じて粉砕し、場合により分級して粒度調整し、粉末状態の負極材料を得る。
【0042】
上記のようにして作製した粉末状の負極材料に対して、電子伝導性の向上を促すような表面処理を行うと、サイクル特性をさらに向上させることができる。例えば、酸洗による表面皮膜の除去、メカノフュージョンなどの物理的手法による導電性付与材(例、炭素、Cu、Ni等の粉末)の付着が効果的と考えられる。
【0043】
本発明の負極材料からのリチウムイオン二次電池用負極の製造は、当業者に周知の方法で行うことができる。
例えば、本発明の負極材料の粉末にPVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、SBR(スチレンブタジエンラバー)などから選んだバインダーを混合し、さらに十分に導電性を付与するため、天然黒鉛、人造黒鉛、アセチレンブラックなどから選んだ炭素材料粉末を混合するのが通常である。これにNMP(N−メチルピロリドン)、DMF(ジメチルホルムアミド)、水などから選んだ溶媒を加えてバインダーを溶解した後、必要であればホモジナイザー、ガラスビーズを用いて十分に攪拌し、スラリー状にする。このスラリーを圧延銅箔、電析銅箔などの活物質支持体に塗布し、乾燥した後、プレスを施すことで負極を製造することができる。
【0044】
混合するバインダーの重量比は、負極の機械的強度や電池特性の観点から5〜10%程度が好ましい。支持体は銅箔に限定されるものではなく、ステンレス、ニッケル等の他の金属の薄箔や、ネット状のシートパンチングプレートなどでも良い。
【0045】
このような負極の製造において、負極材料の粉末の粒径は電極厚みや電極密度、従って、電極容量に影響を及ぼすことになる。電極の厚みは薄い程良く、電池中に含まれる電池活物質の総面積を大きくすることができる。そのため、負極材料の粉末は、平均粒径が100μm以下であることが好ましい。粉末が細かいほど反応面積が増大し、レート特性に優れるが、一方、細かすぎると、酸化などで粉末表面の性状が変化し、リチウムイオンが進入しにくくなり、経時的にはレート特性や充放電効率などに悪影響を及ぼす。これらを考慮して好ましい粉末の平均粒径は5〜100μm、より好ましくは10〜50μmである。
【0046】
こうして作製された負極を組み込むリチウムイオン二次電池は、基本構造として負極、正極、セパレーター、電解液もしくは電解質を含む構成であれば、特に制限されない。形状は、円筒型、角形をはじめ、コイン型、シート型等も可能である。また、ポリマー電池等の固体電解質を利用した電池にも適用できる。
【0047】
本発明の負極材料を用いたリチウムイオン二次電池において、正極は、Li含有遷移金属化合物を活物質とするものが好ましい。Li含有遷移金属化合物の例は、LiM1−xM’またはLiM2yM’O(式中、0≦x、y≦1、M とM’はそれぞれBa、Co、Ni、Mn、Cr、Ti、V、Fe、Zn、Al、In、Sn、Sc、Yの少なくとも1種)で示される化合物である。
【0048】
但し、遷移金属カルコゲン化物;バナジウム酸化物およびそのLi化合物;ニオブ酸化物およびそのLi化合物;有機導電性物質を用いた共役系ポリマー;シェプレル相化合物;活性炭、活性炭素繊維等といった他の正極材料を用いることも可能である。
【0049】
リチウムイオン二次電池の電解液は、一般に支持電解質としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水系電解液である。リチウム塩の例としては、LiClO,LiBF,LiPF,LiAsF,LiB(C),LiCFSO,LiCHSO,Li(CFSON,LiCSO,Li(CFSO,LiCl,LiBr,LiIが挙げられ、1種もしくは2種以上を使用することができる。有機溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの炭酸エステル類が好ましい。但し、カルボン酸エステル、エーテルをはじめとする他の各種の有機溶媒も使用可能である。有機溶媒は1種または2種以上を使用できる。
【0050】
セパレーターは、正極・負極の間に設置した絶縁体としての役割を果たす他、電解質の保持にも大きく寄与する。通常は、ポリプロピレン、ポリエチレン、またはその両者の混合布、ガラスフィルターなどの多孔体が一般に使用される。
【実施例】
【0051】
以下の参考例および実施例における負極材料の放電容量およびサイクル特性は下記の方法により求めた。
【0052】
負極材料の粉末(平均粒径20μm)に、導電性付与剤のアセチレンブラックとバインダーのPVDFを10%ずつ添加した後、溶媒のNMPを加えてスラリーにした。このスラリーをドクターブレードで銅箔に塗布し、乾燥した。これを直径13mmに打ち抜き、プレスして、負極を作製した。
【0053】
この負極の性能を正極と参照極に金属Liを用いた3極式セルにより評価した。0.5mA/cmの定電流で0Vまでの充電と、0.5mA/cmの定電流で2V vs Li/Liまでの放電を繰り返し、1サイクル目と20サイクル目の負極の放電容量を測定した。測定した負極容量から、アセチレンブラックの容量とバインダーの量を考慮して、本発明の負極材料単独の体積当たりの放電容量を算出した。こうして求めた1サイクル目の放電容量を放電容量として記録すると共に、20サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量×100(%)としてサイクル特性を求めた。サイクル特性は80%以上を合格とした。
【0054】
(参考例1)
まず、各金属間化合物の容量を測定した。
CuSn、CoSn、FeSn、NiSn、MnSn、AuSn、Al23は、溶解原料からロール急冷法により鋳造し、粉砕して得た粉末にAr中で500℃×24hrの熱処理を施して均質化した後、XRD(X線回折法)にて単相であることを確認したものを用いた。
【0055】
InP、CuP、AlP、MgSiについては、試薬で購入したものを用いた。
これらの各金属間化合物の単体での放電容量とサイクル特性を表1にまとめて示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示す通り、体積当たりの放電容量(mAh/cc)の値は、CuSn=3000、CoSn=1000、FeSn=4800、MnSn=3800、NiSn=5300、AuSn=3500、Al23=690、InP=4300、CuP=1500、AlP=760、MgSi=160であった。これらの単一の金属間化合物のサイクル特性は、多くが目標値(80%)を下回っていたが、サイクル特性が目標値を上回るものは、従来の負極材料であるグラファイトと放電容量の差がほとんどないか、それより低容量であり、しかもサイクル特性がグラファイトより低かった。従って、単一の金属間化合物からなる負極材料では、サイクル特性と放電容量の総合評価がグラファイトを上回るものはない。
【0058】
なお、表1に示していないが、CuSnおよびTiSnについても、上記と同様に単相であることを確認した材料を用いて試験したところ、放電容量の値はいずれも0であり、不活性相の金属間化合物であることが判明した。
【0059】
(実施例1)
表2に示すように、(活性相1〜2)、(活性相1〜3)、(活性相1〜2 +不活性相)、または(活性相1〜3+不活性相)の混合物からなる組成を有する負極材料を製造した。ここで、活性相1と2が量的に多い相であって、活性相1は放電容量が大きい相、活性相2は放電容量が小さい相である。活性相3は、活性相1よりさらに高容量の相であるが、量的には少量の相である。
【0060】
負極材料の製造は、InP、MgSi、またはAlPを含む材料については、各金属間化合物の単体を用意して所定の比率に秤量した後、MG法により処理することにより行
った。それ以外の負極材料は、溶解原料を秤量し、ロール急冷法にて試料を製造した。また、MG法とロール急冷法とで負極材料に差異が出るかどうかを確認するため、CuSnとCoSnの2相を持つ材料だけ、両方の方法で試料作製を行った(試験No.6と7)。
【0061】
MG法は、直径150mm、高さ200mmのステンレス製ポットに直径10mmのステンレス製ボールを粉末に対して5倍投入し、遊星ボールミルで240時間処理することにより行った。ロール急冷法は、周速600m/min程度の単ロール法にて鋳造を行い、熱処理を行わずに、粉砕・分級して、負極性能を評価した。
【0062】
表2に示す各試料に対してそれぞれXRD図を作製したところ、最強ピークの半値幅は0.6°以下であった。またTEMを用いて観察した活性相の結晶粒径のうち、長径部を粒径として10個の結晶粒径の平均を求めたところ、ロール急冷法とMG法のいずれについても、約50nmであった。これらの負極材料の試料の放電容量とサイクル特性を、現行負極材料であるグラファイトの値と一緒に表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表2の試験No.1〜9は、放電容量の異なる2種類の活性相の混合物からなる負極材料について、体積当たりの放電容量の差の倍率(大きい方の放電容量/小さい方の放電容量の比)を変化させた場合の結果を示す。ここに示すように、2種の金属間化合物を組み合わせた場合、放電容量の比が2倍より小さいか、20倍より大きいと、サイクル特性が
目標値を満たさないことが確認できた。また、これらの例のうち、活性相1と活性相2の結晶系が同じである本発明例、即ち、No.6、7が、サイクル特性が特に高いこともわかった。No.6、7は同組成の負極材料を異なる方法で製造した例であるが、MG法とロール急冷法のいずれで製造しても、ほぼ同性能の負極材料が得られた。
【0065】
表2の試験No.10〜15は、試験No.5および7に示した製造方法の異なる負極材料に対して、放電容量が大きい金属間化合物(活性相1)の割合(体積%)を増大させた場合の結果を示す。試験No.5と試験No.10〜11の比較、および試験No.7と試験No.12〜15との比較からわかるように、放電容量が大きい活性相1の割合を増大させると、負極材料の放電容量は当然高くなる。しかし、その割合が80%を超えると、サイクル特性が目標値より低くなることは、MG法とロール急冷法のいずれでも確認できた。
【0066】
表2の試験No.16〜18は、Liを吸蔵しない不活性相を負極材料に導入した場合の結果を示す。ロール急冷法とMG法のいずれの場合も、不活性相を導入すると、放電容量は低下するが、サイクル特性を95%以上まで著しく高めることができることが確認できた。それにより、グラファイトに比べて体積当たりの放電容量は2倍以上高く、しかもサイクル特性もグラファイトと同等以上の負極材料を得ることが可能となる。
【0067】
表2の試験No.19〜21は、同じ結晶系の2種類の活性相と不活性相とからなる表2の試験No.16の負極材料において、放電容量が高い活性相1の一部を異なる結晶系のより高容量の活性相で置換した場合の結果を示す。より高容量の活性相3を導入することで放電容量はさらに増大したが、活性相3の結晶系が他の活性相と異なることから、サイクル特性はやや低下した。
【0068】
(実施例2)
実施例1で表2に試験No.7として示した負極材料に対してAr中で表3に示した条件で熱処理を行った。熱処理後の負極材料の活性相の平均結晶粒径を、実施例1に記載したのと同様の方法でTEM観察により求めた。その結果を負極特性の結果と共に表3に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
表3からわかるように、熱処理により活性相の平均結晶粒径は増大し、熱処理温度が高くなるか、または熱処理時間が長くなると、結晶粒径の増大が大きくなった。熱処理によ
る結晶粒の成長により、放電容量は著しく変化しないが、サイクル特性は低下した。しかし、平均結晶粒径が10μm程度まではサイクル特性は目標値を超えていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上の金属間化合物の混合物からなり、その少なくとも2種はLiを可逆的に吸蔵・放出することができる活性相をなす金属間化合物であり、それら活性相をなす金属間化合物のうち体積で量的に上位2種の金属間化合物の体積当たりの放電容量の差が2倍以上、18.8倍以内の範囲内にあり、かつ前記量的に上位2種の金属間化合物のうち放電容量が大きい方の金属間化合物が負極材料の80体積%以下を占めることを特徴とする非水電解質二次電池用負極材料。
【請求項2】
活性相をなす金属間化合物のうち少なくとも2種が同じ結晶系に属するものである、請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極材料。
【請求項3】
同じ結晶系に属する金属間化合物からなる少なくとも2種の活性相が負極材料の50体積%以上を占める、請求項2に記載の非水電解質二次電池用負極材料。

【公開番号】特開2011−77055(P2011−77055A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283277(P2010−283277)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【分割の表示】特願2007−220200(P2007−220200)の分割
【原出願日】平成14年9月11日(2002.9.11)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】