説明

非水電解質二次電池

【課題】可逆的な充放電を行うことが可能で、高い初期放電容量密度を得ることが可能な非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】負極活物質として、c軸方向の結晶子の大きさLcが72.5nm以下である易黒鉛化性炭素を単一成分または主成分として含むものを用いる。これを含む負極活物質と、結着剤としてのポリアクリロニトリルとを重量比97:3で混合することにより負極材料を得る。次いで、この負極材料にN−メチル−2−ピロリドンを添加し、これを混練することにより負極合剤としてのスラリーを作製する。ドクターブレード法により、このスラリーを負極集電体である銅箔の両面上に塗布した後、乾燥させることにより負極活物質層を形成する。負極活物質層が形成された銅箔を所定の大きさに切り取り、負極タブを取り付けることにより負極を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極、負極および非水電解質からなる非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高エネルギー密度の二次電池として、非水電解質を使用し、例えばリチウムイオンを正極と負極との間で移動させて充放電を行うようにした非水電解質二次電池が多く利用されている。
【0003】
このような非水電解質二次電池において、一般に正極としてニッケル酸リチウム(LiNiO)、およびコバルト酸リチウム(LiCoO)等の層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が用いられ、負極としてリチウムの吸蔵および放出が可能な炭素材料、リチウム金属、リチウム合金等が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記非水電解質二次電池を用いることにより、150〜180mAh/gの放電容量、約4Vの電位および約260mAh/gの理論容量を得ることができる。
【0005】
また、非水電解質として、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート等の有機溶媒に四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等の電解質塩を溶解させたものが使用されている。
【0006】
一方、最近では、リチウムイオンの代わりにナトリウムイオンを利用した非水電解質二次電池の研究が始められている。
【0007】
このナトリウムイオンを利用した非水電解質二次電池の研究例は非常に少なく、正極に亜鉄酸ナトリウム(NaFeO)を用い、非水電解質に過酸化物である過塩素酸ナトリウム(NaClO)を用いたものが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−151549号公報
【非特許文献1】第45回電池討論会要旨集 p268−p269
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の非水電解質二次電池の充放電反応は、ナトリウムイオンの溶解および析出により行われるため、良好な初期放電容量密度、充放電効率および充放電特性(充放電サイクル特性)を得ることが困難である。
【0009】
また、充放電を繰り返すと、非水電解質中に樹枝状の析出物(デンドライト)が生成されやすくなる。そのため、上記デンドライトにより内部短絡が発生する場合があり、十分な安全性の確保が困難である。
【0010】
さらに、一般的に、リチウムイオンを利用した非水電解質二次電池では、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な実用性の高い炭素または珪素等からなる負極が用いられるが、ナトリウムイオンを利用した非水電解質二次電池において、炭素(黒鉛)からなる負極を用いた場合には、当該負極に注入されるナトリウムイオンは少量となってしまう。その結果、良好な充放電特性が得られない。
【0011】
珪素からなる負極を用いた場合には、当該負極はナトリウムイオンを吸蔵しない。その結果、可逆的な充放電を行うことができない。
【0012】
本発明の目的は、可逆的な充放電を行うことが可能で、高い初期放電容量密度を得ることが可能な非水電解質二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る非水電解質二次電池は、正極と、負極活物質を含む負極と、ナトリウムイオンを含む非水電解質とを備え、負極活物質は、c軸方向の結晶子の大きさLcが72.5nm以下である易黒鉛化性炭素を単一成分または主成分として含むものである。
【0014】
本発明に係る非水電解質二次電池においては、易黒鉛化性炭素を単一成分または主成分として含む負極活物質に対してナトリウムイオンが十分に吸蔵および放出される。それにより、可逆的な充放電を行うことができるとともに、高い初期放電容量密度を得ることができる。
【0015】
易黒鉛化性炭素のc軸方向の結晶子の大きさLcは15.5nm以下であってもよい。
【0016】
この場合、さらに高い初期放電容量密度を得ることが可能となる。
【0017】
非水電解質二次電池は、金属箔からなる集電体をさらに備え、負極活物質は、集電体上に形成されてもよい。
【0018】
この場合、負極活物質が金属箔からなる集電体上に容易に形成される。
【0019】
非水電解質は、六フッ化リン酸ナトリウムを含んでもよい。この場合、安全性が向上される。
【0020】
非水電解質は、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、エステル類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、ニトリル類およびアミド類からなる群から選択される1種または2種以上を含んでもよい。
【0021】
この場合、低コスト化が図れるとともに安全性が向上される。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る非水電解質二次電池によれば、炭素(易黒鉛化性炭素)を含む負極に対してナトリウムイオンが十分に吸蔵および放出される。それにより、可逆的な充放電を行うことが可能となり、高い初期放電容量密度を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本実施の形態に係る非水電解質二次電池について図面を参照しながら説明する。
【0024】
本実施の形態に係る非水電解質二次電池は、作用極(以下、負極と称する)、対極(以下、正極と称する)、および非水電解質により構成される。
【0025】
なお、以下に説明する各種材料および当該材料の厚さおよび濃度等は以下の記載に限定されるものではなく、適宜設定することができる。
【0026】
(1)本発明の経緯
炭素の一種であるハードカーボン(難黒鉛化性炭素)にナトリウムイオンが吸蔵および放出されることは一般的に知られている。
【0027】
ハードカーボンとは、熱処理温度が十分に高くなく黒鉛化が進行していないためにX線回折法による測定では非晶質を示すとともに、高温で熱処理しても黒鉛化しない炭素をいう。一方、熱処理温度が十分に高くなく黒鉛化が進行していないためにX線回折法による測定では非晶質を示すが、高温で熱処理することで黒鉛化する炭素のことをソフトカーボン(易黒鉛化性炭素)という。
【0028】
ハードカーボンにおいては、結晶子が無秩序な配列なため、高温で熱処理しても黒鉛化は進行しないが、ソフトカーボンにおいては、微小な結晶子がほぼ同一方向に並んでいるので、熱処理による僅かな拡散によって黒鉛化が起こる。
【0029】
同じ炭素であっても、黒鉛にはナトリウムイオンが吸蔵および放出されないことも一般的に知られている。
【0030】
本実施の形態では、このように、ナトリウムイオンを吸蔵および放出しない黒鉛がどのような物性になれば、ナトリウムイオンを吸蔵および放出することが可能となるかについての知見を得るため、メカニカルミリング法によって黒鉛(人造黒鉛)を粉砕することにより炭素材料を得た。
【0031】
そして、この炭素材料を用いて充放電試験を行ったところ、c軸方向の結晶子の大きさLcがある値以下になると、負極に対してナトリウムイオンが吸蔵および放出されることを案出した。
【0032】
(2)非水電解質二次電池の各構成
(2−1)負極の作製
本実施の形態においては、後述の負極活物質は、結晶子のc軸方向の大きさLcが、例えば72.5nm以下、好ましくは15.5nm以下である炭素材料を単一成分または主成分として含む。
【0033】
このような負極活物質を得るには、例えば1〜6時間の間、人造黒鉛に対して例えば回転数300rpmで、5分間実施および5分間停止からなるサイクルを繰り返すメカニカルミリング処理を施す。
【0034】
メカニカルミリング処理により得た上記の負極活物質と、結着剤としてのポリアクリロニトリル(PAN)とを例えば重量比97:3で混合することにより負極材料を得る。
【0035】
次いで、上記負極材料にN−メチル−2−ピロリドンを添加し、これを混練することにより負極合剤としてのスラリーを作製する。
【0036】
次に、ドクターブレード法により、上記スラリーを負極集電体である例えば厚さ11μmの銅箔上に塗布した後、乾燥させることにより負極活物質層を形成する。
【0037】
次いで、負極活物質層が形成された銅箔を2cm×2cmの大きさに切り取り、負極タブを取り付けることにより負極を作製する。
【0038】
(2−2)非水電解質の作製
非水電解質としては、非水溶媒に電解質塩を溶解させたものを用いることができる。
【0039】
非水溶媒としては、通常電池用の非水溶媒として用いられる環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、エステル類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、ニトリル類、アミド類等およびこれらの組合せからなるものが挙げられる。
【0040】
環状炭酸エステルとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられ、これらの水素基の一部または全部がフッ素化されているものも用いることが可能で、例えば、トリフルオロプロピレンカーボネート、フルオロエチルカーボネート等が挙げられる。
【0041】
鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等が挙げられ、これらの水素基の一部または全部がフッ素化されているものも用いることが可能である。
【0042】
エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。環状エーテル類としては、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1、3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、1,4−ジオキサン、1,3,5−トリオキサン、フラン、2−メチルフラン、1,8−シネオール、クラウンエーテル等が挙げられる。
【0043】
鎖状エーテル類としては、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o−ジメトキシベンゼン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1−ジメトキシメタン、1,1−ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチル等が挙げられる。
【0044】
ニトリル類としては、アセトニトリル等が挙げられ、アミド類としては、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0045】
電解質塩としては、例えば六フッ化リン酸ナトリウム(NaPF6 )、四フッ化ホウ酸ナトリウム(NaBF4 )、NaCF3 SO3 、NaBeTi等の非水溶媒に可溶な過酸化物でない安全性の高いものを用いる。なお、上記の電解質塩のうち1種を用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
本実施の形態では、非水電解質として、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比50:50の割合で混合した非水溶媒に、電解質塩としての六フッ化リン酸ナトリウムを1mol/lの濃度になるように添加したものを用いる。
【0047】
(2−3)非水電解質二次電池の作製
上記のように作製した負極、非水電解質、下記の正極および参照極を用いて、以下に示すような非水電解質二次電池を作製する。
【0048】
図1は、本実施の形態に係る非水電解質二次電池の試験セルの概略説明図である。
【0049】
図1に示すように、不活性雰囲気下において、上記負極(作用極)1にリードを取り付けるとともに、ナトリウム金属からなる正極2にリードを取り付ける。なお、ナトリウム金属からなる正極(対極)2の代わりに、ナトリウムイオンを吸蔵および放出することが可能なNaMnO等の材料を含む正極2を用いてもよい。
【0050】
次に、負極1と正極2との間にセパレータ4を挿入し、セル容器10内に負極1、正極2およびナトリウム金属からなる参照極3を配置する。そして、セル容器10内に上記非水電解質5を注入することにより試験セルとしての非水電解質二次電池を作製する。
【0051】
(3)本実施の形態における効果
本実施の形態に係る非水電解質二次電池においては、c軸方向の結晶子の大きさLcが72.5nm以下である炭素材料を単一成分または主成分として含む負極活物質を用いることによって、負極1に対してナトリウムイオンが十分に吸蔵および放出される。それにより、可逆的な充放電を行うことができるとともに、高い初期放電容量密度を得ることができる。
【0052】
また、負極活物質として、c軸方向の結晶子の大きさLcが15.5nm以下の炭素材料を用いることにより、可逆的な充放電を行うことができるとともに、さらに高い初期放電容量密度を得ることが可能となる。
【0053】
なお、可逆的な充放電が可能となる理由、および高い初期放電容量密度を得ることが可能となる理由について、本発明者は以下のように考える。
【0054】
メカニカルミリング処理により人造黒鉛に対し物理的衝撃を加えることによって、層状であった黒鉛結晶が徐々に崩壊するため、黒鉛の層が細かく分断され入り乱れた状態の炭素材料となる。その結果、c軸方向の結晶子の大きさLcが小さくなるものと考えられる。
【0055】
このような炭素材料は、内部に多くの空隙および端面部を有する。メカニカルミリング処理前の黒鉛の層間には吸蔵および放出されないナトリウムイオンでも、メカニカルミリング処理を行うことによって広がりの生じた空隙および端面部に吸蔵および放出されやすくなるものと考える。したがって、高い初期放電容量密度を得ることが可能となる。
【0056】
一方、メカニカルミリング処理により黒鉛の層があまりにも細かく分断され入り乱れすぎている場合には、上記空隙および端面部が減少する。その結果、ナトリウムイオンが吸蔵および放出されなくなり、可逆的な充放電を行うことが困難となるものと考えられる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例および比較例の非水電解質二次電池について説明する。
【0058】
(a)実施例1
上述の実施の形態に基づいて作製した非水電解質二次電池の充放電特性を調べた。
【0059】
本実施例では、人造黒鉛に対し1時間メカニカルミリング処理を行った。
【0060】
また、本実施例で用いた負極活物質としての炭素材料の層間距離dは0.3367nmであり、c軸方向の結晶子の大きさLcは72.5nmであった。なお、これらの層間距離dおよびc軸方向の結晶子の大きさLcは、X線回折装置(XRD)を用い、回折角2θが10度〜40度の範囲にある場合におけるピーク強度の値に基づいて算出した。回折角2θが10度〜40度の範囲にある場合におけるXRD測定の測定結果を図2に示す。
【0061】
X線回折装置においては、X線源(ターゲット)にCu(銅)を用い、使用電圧および使用電流をそれぞれ40kVおよび40mAとし、スキャン速度は0.6度/分とした。
【0062】
作製した上記非水電解質二次電池において、0.4mAの定電流で参照極3を基準とする負極1の電位が0Vに達するまで充電を行った。その後、0.4mAの定電流で、参照極3を基準とする負極1の電位が1.0Vに達するまで放電を行うことにより充放電特性を調べた。
【0063】
その結果、40mAh/gの初期放電容量密度を得ることができた。
【0064】
(b)実施例2
上述の実施の形態に基づいて作製した非水電解質二次電池の充放電特性を調べた。
【0065】
本実施例では、人造黒鉛に対し2時間メカニカルミリング処理を行った。回折角2θが10度〜40度の範囲にある場合におけるXRD測定の測定結果を図3に示す。本実施例で用いた負極活物質としての炭素材料の層間距離dは0.3337nmであり、c軸方向の結晶子の大きさLcは15.5nmであった。
【0066】
作製した上記非水電解質二次電池において、0.4mAの定電流で参照極3を基準とする負極1の電位が0Vに達するまで充電を行った。その後、0.4mAの定電流で、参照極3を基準とする負極1の電位が1.0Vに達するまで放電を行うことにより充放電特性を調べた。
【0067】
その結果、約61mAh/gの初期放電容量密度を得ることができた。
【0068】
(c)実施例3
上述の実施の形態に基づいて作製した非水電解質二次電池の充放電特性を調べた。
【0069】
本実施例では、人造黒鉛に対し3時間メカニカルミリング処理を行った。回折角2θが10度〜40度の範囲にある場合におけるXRD測定の測定結果を図4に示す。本実施例で用いた負極活物質としての炭素材料の層間距離dは0.3440nmであり、c軸方向の結晶子の大きさLcは1.6nmであった。
【0070】
作製した上記非水電解質二次電池において、0.4mAの定電流で参照極3を基準とする負極1の電位が0Vに達するまで充電を行った。その後、0.4mAの定電流で、参照極3を基準とする負極1の電位が1.0Vに達するまで放電を行うことにより充放電特性を調べた。
【0071】
その結果、約120mAh/gの初期放電容量密度を得ることができた。
【0072】
(d)実施例4
上述の実施の形態に基づいて作製した非水電解質二次電池の充放電特性を調べた。
【0073】
本実施例では、人造黒鉛に対し6時間メカニカルミリング処理を行った。回折角2θが10度〜40度の範囲にある場合におけるXRD測定の測定結果を図5に示す。本実施例で用いた負極活物質としての炭素材料の層間距離dは0.3542nmであり、c軸方向の結晶子の大きさLcは0.65nmであった。
【0074】
作製した上記非水電解質二次電池において、0.4mAの定電流で参照極3を基準とする負極1の電位が0Vに達するまで充電を行った。その後、0.4mAの定電流で、参照極3を基準とする負極1の電位が1.0Vに達するまで放電を行うことにより充放電特性を調べた。
【0075】
その結果、107mAh/gの初期放電容量密度を得ることができた。
【0076】
(e)比較例1
上述の実施の形態に基づいて作製した非水電解質二次電池の充放電特性を調べた。
【0077】
本比較例では、人造黒鉛に対し0.5時間メカニカルミリング処理を行った。回折角2θが10度〜40度の範囲にある場合におけるXRD測定の測定結果を図6に示す。本比較例で用いた負極活物質としての炭素材料の層間距離dは0.3366nmであり、c軸方向の結晶子の大きさLcは80.6nmであった。
【0078】
作製した上記非水電解質二次電池において、0.4mAの定電流で参照極3を基準とする負極1の電位が0Vに達するまで充電を行った。その後、0.4mAの定電流で、参照極3を基準とする負極1の電位が1.0Vに達するまで放電を試みたが、全く放電することができなかった。
【0079】
(f)比較例2
本比較例の非水電解質二次電池が、比較例1の非水電解質二次電池と異なる点は、負極である。
【0080】
本比較例では、負極活物質としてメカニカルミリング処理を行っていない人造黒鉛と、結着剤としてのポリアクリロニトリル(PAN)とを重量比97:3で混合することにより負極材料を得た。
【0081】
次いで、上記負極材料にN−メチル−2−ピロリドンを添加し、これを混練することにより負極合剤としてのスラリーを作製した。
【0082】
次に、ドクターブレード法により、上記スラリーを負極集電体である厚さ11μmの銅箔上に塗布した後、乾燥させることにより負極活物質層を形成した。
【0083】
次いで、負極活物質層が形成された銅箔を2cm×2cmの大きさに切り取り、負極タブを取り付けることにより負極を作製した。
【0084】
回折角2θが10度〜40度の範囲にある場合におけるXRD測定の測定結果を図7に示す。本比較例で用いた負極活物質としての炭素材料の層間距離dは0.3366nmであり、c軸方向の結晶子の大きさLcは80.6nmであった。
【0085】
作製した上記非水電解質二次電池において、0.4mAの定電流で参照極3を基準とする負極1の電位が0Vに達するまで充電を行った。その後、0.4mAの定電流で、参照極3を基準とする負極1の電位が1.0Vに達するまで放電を試みたが、全く放電することができなかった。
【0086】
(g)まとめ
図8は、実施例1〜4および比較例1,2における負極活物質(炭素材料)のc軸方向の結晶子の大きさLcと初期放電容量密度との関係を示すグラフである。また、図9は、実施例1〜4および比較例1,2における負極活物質(炭素材料)の層間距離dと初期放電容量密度との関係を示すグラフである。
【0087】
ナトリウムイオンを吸蔵および放出することができない負極活物質である人造黒鉛に対しメカニカルミリング処理により物理的衝撃を与えることによって、負極活物質はナトリウムイオンを吸蔵および放出することが可能となることがわかった。
【0088】
この場合、ナトリウムイオンの吸蔵および放出が可能か否かは、メカニカルミリング処理を施す時間に依存し、当該処理時間は1〜6時間であることが好ましいことがわかった。
【0089】
図8に示すように、負極活物質のc軸方向の結晶子の大きさLcが72.5nm以下である場合に、当該負極活物質はナトリウムイオンを吸蔵および放出することが可能となり、より高い初期放電容量密度を得るには、当該負極活物質のc軸方向の結晶子の大きさLcが15.5nm以下であることが好ましいことがわかった。
【0090】
このように、人造黒鉛をメカニカルミリング処理することにより得た負極活物質としての炭素材料の充放電特性は上記Lcにのみ依存し、図9に示すように、層間距離dには依存しないことが明らかになった。これにより、上記実施例で用いた負極活物質としての炭素材料は、通常のハードカーボンとは異なるものであることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明に係る非水電解質二次電池は、携帯用電源および自動車用電源等の種々の電源として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本実施の形態に係る非水電解質二次電池の試験セルの概略説明図である。
【図2】実施例1のXRD測定の測定結果を示したグラフである。
【図3】実施例2のXRD測定の測定結果を示したグラフである。
【図4】実施例3のXRD測定の測定結果を示したグラフである。
【図5】実施例4のXRD測定の測定結果を示したグラフである。
【図6】比較例1のXRD測定の測定結果を示したグラフである。
【図7】比較例2のXRD測定の測定結果を示したグラフである。
【図8】実施例1〜4および比較例1,2における負極活物質(炭素材料)のc軸方向の結晶子の大きさLcと初期放電容量密度との関係を示すグラフである。
【図9】実施例1〜4および比較例1,2における負極活物質(炭素材料)の層間距離dと初期放電容量密度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0093】
1 負極(作用極)
2 正極(対極)
3 参照極
4 セパレータ
5 非水電解質
10 セル容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極活物質を含む負極と、ナトリウムイオンを含む非水電解質とを備え、
前記負極活物質は、c軸方向の結晶子の大きさLcが72.5nm以下である易黒鉛化性炭素を単一成分または主成分として含むことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記易黒鉛化性炭素のc軸方向の結晶子の大きさLcは15.5nm以下であることを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
金属箔からなる集電体をさらに備え、
前記負極活物質は、前記集電体上に形成されたことを特徴とする請求項1または2記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記非水電解質は、六フッ化リン酸ナトリウムを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記非水電解質は、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、エステル類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、ニトリル類およびアミド類からなる群から選択される1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−234512(P2007−234512A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−57567(P2006−57567)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】