説明

非水電解質二次電池

【課題】正極活物質の真密度(正極充填密度)を向上するとともに、可逆的な充放電を行うことが可能でかつ高い放電容量密度を得ることが可能な非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】正極活物質は、リチウム(Li)、ニッケル(Ni)、およびビスマス(Bi)を含む。この正極活物質を得るには、出発原料として例えば炭酸リチウム(LiCO)、水酸化ニッケル(Ni(OH))、および酸化ビスマス(Bi)を用いて、リチウム、ニッケル、およびビスマスのモル数の比をこの順で表した場合に、Li:Ni:Bi=x:4:y(4<x≦10、および0.2≦y<3)となるように混合する。さらに高い真密度を有する正極活物質を得るには、正極活物質中の各元素の組成が、Li:Ni:Bi=6:4:1(mol)の関係を充足することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極、負極および非水電解質からなる非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高エネルギー密度の二次電池として、非水電解質を使用し、例えばリチウムイオンを正極と負極との間で移動させて充放電を行うようにした非水電解質二次電池が多く利用されている。
【0003】
このような非水電解質二次電池において、一般に正極としてニッケル酸リチウム(LiNiO2 )、またはコバルト酸リチウム(LiCoO2 )等の層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が用いられ、負極としてリチウムの吸蔵および放出が可能な炭素材料、リチウム金属、またはリチウム合金等が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記非水電解質二次電池を用いることにより、150〜180mAh/gの放電容量密度、約4Vの電位および約260mAh/gの理論容量密度を得ることができる。
【0005】
また、非水電解質として、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート等の有機溶媒に四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )等の電解質塩を溶解させたものが使用されている。
【0006】
近年、このような非水電解質二次電池が携帯用機器の電源等として使用されているが、携帯機器の多機能化による消費電力の増加に伴って、さらに高いエネルギー密度を得ることが可能な非水電解質二次電池の開発が望まれている。
【0007】
現在、非水電解質二次電池の正極として使用されているコバルト酸リチウム(Li1−x CoO)においては、リチウムイオンが0.5(=x)以上放出されると、結晶構造が崩れ、可逆性(吸蔵性および放出性)が低下する。その結果、得られる放電容量密度は160mAh/g程度に留まる。
【0008】
一方、LiCoOと同じ結晶構造を有するニッケル酸リチウム(Li1−y NiO)においては、リチウムイオンを0.7(=y)程度まで放出することができるので、約200mAh/gというLiCoOに比べ高い放電容量密度が得られる。
【0009】
しかしながら、リチウムイオンが放出されるにつれ、上記ニッケル酸リチウムの結晶構造(結晶系)は、六方晶系、単斜晶系、および六方晶系の順で変化する。この変化により、コバルト酸リチウムと同様にニッケル酸リチウムの結晶構造も徐々に崩壊していき、可逆性が低下する。
【0010】
非水電解質二次電池を携帯機器の電源等として用いる場合には、単位体積当りのエネルギー密度を向上することが重要とされているため、単位体積当りの正極充填密度(真密度)を高める必要がある。
【0011】
上記の正極充填密度を高めるためには、正極活物質の粒径および形態を制御する方法(例えば、特許文献1参照)が提案されているが、本方法では正極充填密度を充分に高めることは困難である。
【0012】
非水電解質二次電池に一般的に用いられる正極活物質であるLiCoOの正極充填密度は約5.0g/cmであり、LiNiOの正極充填密度は約4.8g/cmであることが報告されているが(例えば、特許文献2参照)、これ以上の正極充填密度を得ることが強く要望されている。
【特許文献1】特開2000−133249号公報
【特許文献2】特開2001−222993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、上記の正極充填密度を高める他の方法として、高密度な正極活物質を用いることが考えられる。しかしながら、高密度かつ可逆的な充放電を行うことが可能な正極活物質は知られていない。
【0014】
本発明の目的は、正極活物質の真密度(正極充填密度)を向上するとともに、可逆的な充放電を行うことが可能でかつ高い放電容量密度を得ることが可能な非水電解質二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る非水電解質二次電池は、正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質とを備え、正極活物質は、リチウム、ニッケル、およびビスマスを含むものである。
【0016】
本発明に係る非水電解質二次電池においては、リチウム、ニッケル、およびビスマスを含む正極活物質を用いることにより、当該正極活物質の正極充填密度(真密度)を向上することができる。また、可逆的な充放電を行うことができるとともに、高い放電容量密度を得ることが可能となる。これについては、以下の理由が考えられる。
【0017】
通常、リチウムおよびニッケルを含む出発原料を空気中で焼成すると、空間群R−3mに帰属する結晶構造を有するLiNiOが得られる。本発明のように、リチウム、ニッケル、およびビスマスを含む出発原料を焼成すると、空間群R−3mに帰属する結晶構造とは異なる結晶構造を有する正極活物質が得られるものと考えられる。これにより、正極活物質の真密度が向上されるとともに、可逆的な充放電を行うことが可能となりかつ高い放電容量密度を得ることが可能となる。
【0018】
正極活物質の組成は、リチウム(Li)、ニッケル(Ni)、およびビスマス(Bi)のモル数の比をこの順で表した場合に、Li:Ni:Bi=x:4:yであり、xは4より大きく10以下であり、yは0.2以上で3より小さいことが好ましい。
【0019】
この場合、正極活物質の真密度をより向上することができ、かつ可逆的な充放電を行うことができるとともに、より高い放電容量密度を得ることが可能となる。
【0020】
正極活物質の組成は、リチウム(Li)、ニッケル(Ni)、およびビスマス(Bi)のモル数の比をこの順で表した場合に、Li:Ni:Bi=6:4:1であることが好ましい。
【0021】
この場合、正極活物質の真密度をさらに向上することができ、かつ可逆的な充放電を行うことができるとともに、さらに高い放電容量密度を得ることが可能となる。
【0022】
負極は、リチウム金属、リチウム合金、炭素材料または珪素材料からなってもよい。
【0023】
このような材料を負極として用いることにより、負極にリチウムイオンが良好に吸蔵および放出される。特に、炭素材料または珪素材料からなる負極を用いることにより、より高いエネルギー密度を得ることが可能となる。
【0024】
非水電解質は、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、エステル類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、ニトリル類およびアミド類からなる群から選択される1種または2種以上を含んでもよい。
【0025】
この場合、低コスト化が図れるとともに安全性が向上される。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、正極活物質の真密度(正極充填密度)を向上することができるとともに、可逆的な充放電を行うことが可能でかつ高い放電容量密度を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本実施の形態に係る非水電解質二次電池について図面を参照しながら説明する。
【0028】
本実施の形態に係る非水電解質二次電池は、作用極(以下、正極と称する)、対極(以下、負極と称する)および非水電解質により構成される。
【0029】
なお、以下に説明する各種材料および当該材料の厚さおよび濃度等は以下の記載に限定されるものではなく、適宜設定することができる。
【0030】
(1)正極の作製
本実施の形態に係る非水電解質二次電池は、正極活物質を含み、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極と、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極と、非水電解質とを備える。
【0031】
本実施の形態においては、上記の正極活物質は、リチウム(Li)、ニッケル(Ni)、およびビスマス(Bi)を含む。
【0032】
この正極活物質を得るには、出発原料として例えば炭酸リチウム(LiCO)、水酸化ニッケル(Ni(OH))、および酸化ビスマス(Bi)を用いて、リチウム、ニッケル、およびビスマスのモル数の比をこの順で表した場合に、Li:Ni:Bi=x:4:y(4<x≦10、および0.2≦y<3)となるように混合する。
【0033】
そして、混合することにより得た粉末をペレット(小粒)状に成型し、これを例えば700℃の空気中で10時間仮焼成した後、750℃の空気中で20時間本焼成を行う。
【0034】
本焼成を行うことにより得た例えば80重量%の正極活物質、10重量%の導電剤のアセチレンブラック、および10重量%の結着剤のポリフッ化ビニリデンを混合することにより正極材料を得る。
【0035】
この正極材料を、当該正極材料に対して例えば10重量%のN−メチル−2−ピロリドン溶液に混合することにより正極合剤としてのスラリーを作製する。
【0036】
続いて、ドクターブレード法により、作製したスラリーを正極集電体のアルミニウム箔上に塗布した後、例えば110℃の真空中で乾燥させることにより正極活物質層を形成する。
【0037】
そして、正極活物質を形成しないアルミニウム箔の領域上に正極タブを取り付けることにより正極を完成させる。
【0038】
上記正極活物質を含む正極を作製する際に添加する導電剤は、導電性に優れた正極活物質を用いる場合には特に必要はないが、導電性の低い正極活物質を用いる場合には、導電剤を添加することが好ましい。
【0039】
導電剤としては、導電性を有する材料であればよく、特に導電性に優れている酸化物、炭化物、窒化物および炭素材料の少なくとも1種を用いることができる。
【0040】
導電性に優れた酸化物の例としては、酸化スズおよび酸化インジウム等が挙げられる。導電性に優れた炭化物の例としては、炭化チタン(TiC)、炭化タンタル(TaC)、炭化ニオブ(NbC)および炭化タングステン(WC)等が挙げられる。
【0041】
また、導電性に優れた窒化物の例としては、窒化チタン(TiN)、窒化タンタル(TaN)、窒化ニオブ(NbN)および窒化タングステン(WN)等が挙げられる。導電性に優れた炭素材料の例としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラックおよび黒鉛等が挙げられる。
【0042】
なお、導電剤の添加量が少ないと、正極における導電性を十分に向上させることが困難となる一方、結着剤の添加量が多いと、正極に含まれる正極活物質の割合が少なくなるため、高いエネルギー密度が得られなくなる。したがって、導電剤の添加量は、正極の全体の0〜30重量%の範囲とし、好ましくは0〜20重量%の範囲とし、より好ましくは0〜10重量%の範囲とする。
【0043】
また、正極を作製する際に添加する結着剤(バインダー)は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアセテート、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、スチレン−ブタジエンラバーおよびカルボキシメチルセルロース等からなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。
【0044】
なお、結着剤の添加量が多いと、正極に含まれる正極活物質の割合が少なくなるため、高いエネルギー密度が得られなくなる。したがって、結着剤の添加量は、正極の全体の0〜30重量%の範囲とし、好ましくは0〜20重量%の範囲とし、より好ましくは0〜10重量%の範囲とする。
【0045】
ここで、通常、リチウムおよびニッケルを含む出発原料を空気中で焼成すると、空間群R−3mに帰属する結晶構造を有するLiNiOが得られる。
【0046】
一方、本実施の形態のように、リチウム、ニッケル、およびビスマスを含む出発原料を焼成した場合には、空間群R−3mに帰属する結晶構造とは異なる結晶構造を有するとともに、真密度(正極充填密度)の高い正極活物質を得ることができる。
【0047】
本実施の形態において、高い真密度を有する正極活物質を得るには、リチウム、ニッケル、およびビスマスが全て正極活物質中に含まれていればよい。
【0048】
より高い真密度を有する正極活物質を得るには、上述のように、リチウム、ニッケル、およびビスマスのモル数の比をこの順で表した場合に、正極活物質中の各元素の組成は、Li:Ni:Bi=x:4:y(4<x≦10、および0.2≦y<3)の関係を充足することが好ましい。
【0049】
また、さらに高い真密度を有する正極活物質を得るには、正極活物質中の各元素の組成は、Li:Ni:Bi=6:4:1(mol)の関係を充足することがより好ましい。
【0050】
(2)非水電解質の作製
非水電解質としては、非水溶媒に電解質塩を溶解させたものを用いることができる。
【0051】
非水溶媒としては、通常電池用の非水溶媒として用いられる環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、エステル類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、ニトリル類、アミド類等およびこれらの組合せからなるものが挙げられる。
【0052】
環状炭酸エステルとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられ、これらの水素基の一部または全部がフッ素化されているものも用いることが可能で、例えば、トリフルオロプロピレンカーボネート、フルオロエチルカーボネート等が挙げられる。
【0053】
鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等が挙げられ、これらの水素基の一部または全部がフッ素化されているものも用いることが可能である。
【0054】
エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。環状エーテル類としては、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1、3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、1,4−ジオキサン、1,3,5−トリオキサン、フラン、2−メチルフラン、1,8−シネオール、クラウンエーテル等が挙げられる。
【0055】
鎖状エーテル類としては、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o−ジメトキシベンゼン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1−ジメトキシメタン、1,1−ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチル等が挙げられる。
【0056】
ニトリル類としては、アセトニトリル等が挙げられ、アミド類としては、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0057】
本実施の形態における電解質塩としては、従来の非水電解質二次電池の電解質塩として一般的に使用されているものを用いることができる。
【0058】
電解質塩の具体例としては、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、LiCF3 SO3 、LiCSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiAsFおよびジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム等からなる群から選択される非水溶媒に可溶な過酸化物でない安全性の高いものを用いる。なお、上記電解質塩のうち1種を用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
本実施の形態では、非水電解質として、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比30:70の割合で混合した非水溶媒に、電解質塩としての六フッ化リン酸リチウムを1mol/lの濃度になるように添加したものを用いる。
【0060】
(3)負極の構成
本実施の形態では、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な材料を用いる。この材料の例として、リチウム金属、リチウム合金、黒鉛等の炭素材料および珪素(Si)等が挙げられる。
【0061】
(4)非水電解質二次電池の作製
上記の正極、負極および非水電解質を用いて、以下に示すように、非水電解質二次電池を作製する。
【0062】
図1は、本実施の形態に係る非水電解質二次電池の試験セルの概略説明図である。
【0063】
図1に示すように、不活性雰囲気下において例えばリチウム金属からなる負極1にリード線を取り付けるとともに、上述のように作製した正極2にリード線を取り付ける。
【0064】
次に、負極1と正極2との間にセパレータ4を挿入し、セル容器10内に負極1、正極2および例えばリチウム金属からなる参照極3を配置する。
【0065】
そして、セル容器10内に、上述のように作製した非水電解質5を注入することにより試験セルとしての非水電解質二次電池を作製する。
【0066】
(5)本実施の形態における効果
本実施の形態においては、リチウム、ニッケル、およびビスマスを含む出発原料を焼成することにより、空間群R−3mに帰属する結晶構造とは異なる結晶構造を有するとともに、真密度の高い正極活物質を得ることができる。また、可逆的な充放電を行うことができるとともに、高い放電容量密度を得ることが可能となる。
【実施例】
【0067】
(a)実施例1
正極活物質の出発原料として、炭酸リチウム(LiCO)、水酸化ニッケル(Ni(OH))、および酸化ビスマス(Bi)を用いた。
【0068】
本例では、炭酸リチウム、水酸化ニッケル、および酸化ビスマスをこの順で、3:4:yのモル数の比でそれぞれ混合した。このyとしては、0.1、0.5、1.0、および1.5molの計4種を設定した。
【0069】
そして、上記の物質をそれぞれ混合することにより得た4種の正極活物質の粉末をそれぞれペレット(小粒)状に成型した。その後、これらの各正極活物質に対して700℃の空気雰囲気中で10時間仮焼成を行い、750℃の空気雰囲気中で20時間本焼成を行った。
【0070】
このように作製した80重量%の正極活物質、10重量%の導電剤のアセチレンブラック、および10重量%の結着剤のポリフッ化ビニリデンを混合することにより各正極材料をそれぞれ得た。
【0071】
これらの各正極材料をN−メチル−2−ピロリドン溶液に混合することにより正極合剤としてのスラリーをそれぞれ作製した。
【0072】
続いて、ドクターブレード法により、作製したスラリーを正極集電体上に塗布した後、110℃の真空中で乾燥させることにより正極活物質層をそれぞれ形成した。そして、正極活物質層を形成しなかった正極集電体の領域上に正極タブを取り付けることにより正極2をそれぞれ得た。なお、負極1および参照極3には、所定の大きさのリチウム金属を用いた。
【0073】
また、非水電解質5として、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比30:70の割合で混合した非水溶媒に、電解質塩としての六フッ化リン酸リチウムを1mol/lの濃度になるように添加したものを用いた。
【0074】
以上の負極1、正極2、参照極3および非水電解質5を用いて、上記実施の形態(図1)に基づいて非水電解質二次電池の試験セル(計4種)を作製した。
【0075】
作製した計4種の非水電解質二次電池において、参照極3を基準とする正極2の電位が4.5Vに達するまで充電を行った後、上記電位が2.5Vに達するまで放電を行った。その結果を表1に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
表1の結果からわかるように、炭酸リチウム、水酸化ニッケル、および酸化ビスマスのモル数の比が3:4:0.5(各元素(Li、Ni、およびBi)のモル数の比で表した場合には、Li:Ni:Bi=6:4:1)である場合の正極活物質を用いた非水電解質二次電池の初期放電容量密度が最も大きいことがわかった。
【0078】
図2は、炭酸リチウム、水酸化ニッケル、および酸化ビスマスのモル数の比が3:4:0.5である場合の正極活物質を用いた非水電解質二次電池の充放電特性を示すグラフである。
【0079】
図2に示すように、放電曲線において、3.7V領域および2.8V領域にプラトー(電位平坦部)が確認できた。LiNiOを正極活物質として用いた非水電解質二次電池の放電曲線は電位平坦部を1つしか有さないことから、本例の正極活物質は、LiNiOが有する空間群R−3mに帰属する結晶構造とは異なる結晶構造を有することが推定された。
【0080】
また、表1に示すように、酸化ビスマスの量を0.5molから増加させても(本例では、1.0および1.5mol)、減少させても(本例では、0.1mol)、初期放電容量密度はともに低下する結果となった。
【0081】
(b)実施例2
正極活物質の出発原料として、炭酸リチウム(LiCO)、水酸化ニッケル(Ni(OH))、および酸化ビスマス(Bi)を用いた。
【0082】
本例では、炭酸リチウム、水酸化ニッケル、および酸化ビスマスをこの順で、x:4:0.5のモル数の比でそれぞれ混合した。このxとしては、2、3、4、および5molの計4種を設定した。
【0083】
そして、上記の物質をそれぞれ混合することにより得た4種の正極活物質の粉末をそれぞれペレット(小粒)状に成型した。その後、これらの各正極活物質に対して700℃の空気雰囲気中で10時間仮焼成を行い、750℃の空気雰囲気中で20時間本焼成を行った。
【0084】
このように作製した正極活物質を用いて、上述の実施例1と同様にして、非水電解質二次電池の試験セル(計4種)を作製した。
【0085】
作製した計4種の非水電解質二次電池において、参照極3を基準とする正極2の電位が4.5Vに達するまで充電を行った後、上記電位が2.5Vに達するまで放電を行った。その結果を表2に示す。
【0086】
【表2】

【0087】
表2の結果から、炭酸リチウム、水酸化ニッケル、および酸化ビスマスのモル数の比が3:4:0.5である場合の正極活物質を用いた非水電解質二次電池の初期放電容量密度が最も大きいことがわかった。
【0088】
また、炭酸リチウムの量を3molから増加させても(本例では、4および5mol)、減少させても(本例では、2mol)、初期放電容量密度はともに低下する結果となった。
【0089】
(c)実施例3
実施例1および実施例2において、最も大きな初期放電容量密度を得ることができ、炭酸リチウム、水酸化ニッケル、および酸化ビスマスのモル数の比が3:4:0.5である場合の正極活物質をXRD(X線回折装置)により測定した。
【0090】
図3は、最も大きな初期放電容量密度を得ることができた正極活物質のXRD測定の測定結果を示したプロファイルである。
【0091】
図3の測定結果において、17°〜19°近傍の回折角2θにおいて鋭いピーク強度が生じた。このピーク強度に比べて、20°近傍の回折角2θおよび50°〜70°近傍の回折角2θにおけるピーク強度は小さく、これらは不純物に起因するものであると考えられる。
【0092】
この結果から、正極活物質中には不純物が多く含有されていることが予想され、この不純物を取り除くことにより初期放電容量密度の向上が期待できる。
【0093】
図4は、非水電解質二次電池に一般的に用いられる正極活物質LiNiOのXRD測定のプロファイルである。
【0094】
図4と図3とを比較すると、本例の正極活物質は、LiNiOが有する空間群R−3mに帰属する結晶構造とは異なる結晶構造を有することがわかった。
【0095】
(d)実施例4
実施例1および実施例2において、最も大きな初期放電容量密度を得ることができた正極活物質(炭酸リチウム、水酸化ニッケル、および酸化ビスマスのモル数の比が3:4:0.5)について、ガス置換方式による紛体密度測定を行った。
【0096】
正極活物質の紛体密度測定の結果、5.4g/cmの真密度を得ることができた。
【0097】
これは、非水電解質二次電池に一般的に用いられる正極活物質であるLiCoOの真密度5.0g/cm、LiNiOの真密度4.8g/cm、およびLiMnの真密度4.3g/cmよりも大きいものである。
【0098】
(e)評価
リチウム、ニッケル、およびビスマスを含む出発原料を焼成することにより、空間群R−3mに帰属する結晶構造とは異なる結晶構造を有するとともに、真密度の高い正極活物質が得られることがわかった。
【0099】
そして、得られた正極活物質を非水電解質二次電池に用いることにより、可逆的な充放電を行うことができ、高い放電容量密度を得られることがわかった。
【0100】
高い真密度を有する正極活物質を得るには、リチウム、ニッケル、およびビスマスが全て正極活物質中に含まれていればよいが、より高い真密度を有する正極活物質を得るには、リチウム、ニッケル、およびビスマスのモル数の比をこの順で表した場合に、正極活物質中の各元素の組成は、Li:Ni:Bi=x:4:y(4<x≦10、および0.2≦y<3)の関係を充足することが好ましい。
【0101】
また、さらに高い真密度を有する正極活物質を得るには、正極活物質中の各元素の組成は、Li:Ni:Bi=6:4:1(mol)の関係を充足することがより好ましいことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明に係る非水電解質二次電池は、携帯用電源および自動車用電源等の種々の電源として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本実施の形態に係る非水電解質二次電池の試験セルの概略説明図である。
【図2】炭酸リチウム、水酸化ニッケル、および酸化ビスマスのモル数の比が3:4:0.5である場合の正極活物質を用いた非水電解質二次電池の充放電特性を示すグラフである。
【図3】最も大きな初期放電容量密度を得ることができた正極活物質のXRD測定の測定結果を示したプロファイルである。
【図4】非水電解質二次電池に一般的に用いられる正極活物質LiNiOのXRD測定のプロファイルである。
【符号の説明】
【0104】
1 負極
2 正極
3 参照極
4 セパレータ
5 非水電解質
10 セル容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質とを備え、
前記正極活物質は、リチウム、ニッケル、およびビスマスを含むことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記正極活物質の組成は、リチウム(Li)、ニッケル(Ni)、およびビスマス(Bi)のモル数の比をこの順で表した場合に、Li:Ni:Bi=x:4:yであり、前記xは4より大きく10以下であり、前記yは0.2以上で3より小さいことを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記正極活物質の組成は、リチウム(Li)、ニッケル(Ni)、およびビスマス(Bi)のモル数の比をこの順で表した場合に、Li:Ni:Bi=6:4:1であることを特徴とする請求項1または2記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記負極は、リチウム金属、リチウム合金、炭素材料または珪素材料からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記非水電解質は、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、エステル類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、ニトリル類およびアミド類からなる群から選択される1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−242570(P2007−242570A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−66987(P2006−66987)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】