説明

非破壊測定装置

【課題】ワークの所定部位の寸法を非破壊に測定する非破壊測定装置において、前記所定部位の寸法を短時間に測定し、製品品質評価精度を向上することができる非破壊測定装置を提供する。
【解決手段】ワーク50の所定部位55の寸法を非破壊に測定する非破壊測定装置100において、ワーク50に対してX線を照射するX線照射手段3と、前記ワーク50の所定部位を透過したX線を一列に配列された受光素子で受光し、ライン単位でX線透過輝度を検出するラインセンサカメラ4と、前記ラインセンサカメラ4により検出されたX線透過輝度に基づいて、少なくとも前記所定部位55におけるX線透過方向の寸法を算出する算出手段6とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定部位の寸法を非破壊に測定する非破壊測定装置に関し、特にX線の透過量に基づき寸法測定を行う非破壊測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の助手席側に対するメインのエアバッグモジュールは、インストゥルメントパネル(以下、インパネと呼ぶ)の裏側に収納されている。自動車の衝突時等には、エアバッグモジュールに対し所定信号が伝達され、インフレータ(ガス発生装置)によりエアバッグが膨張する。そして、膨張したエアバッグの圧力により図5に示すインパネ50の所定領域(破断予定部51と呼ぶ)が破断し、座席側に展開するように構成されている。
【0003】
従来、エアバッグ展開時にインパネ50において圧力により外れる破断予定部51には、破断を容易にするためにインパネ50本体とは別部材の蓋状のものが取り付けられていた。しかしながら、意匠上好ましくないため、近年ではインパネ50本体を直接加工することにより前記破断予定部51を形成している。
【0004】
具体的には、例えば図5の破断予定部51に波線で示すライン形状に沿って、そのインパネ裏側に波線状の溝部55が割り線として設けられ、破断予定部51が形成される。
前記破断予定部51の加工方法としては、インパネ50裏側から図6(a)に示すような成形治具53による成型時に刃54を突出させ、図6(b)の断面図に示すような切り込み(溝部55)をインパネ50裏面に波線状に入れて割り線を形成する型内加工がある。
【0005】
前記型内加工にあっては、図6(b)に示すように溝部55の幅が狭いため、エアバッグ展開時にその溝部55から破断するよう深溝に形成されている。
しかしながら、そのように溝部55が深溝に形成されると、溝部の残厚tが周囲の肉厚に対して急激な薄肉となるため、加工時の熱が表面側に影響して、表面側の光沢が周縁部と異なり、外観上好ましくないという問題があった。
【0006】
このような課題を解決するものとして、インパネ50本体を成型後、図7(a)に示すようにドリル状の刃56等により図7(b)に示すような広幅の溝部55を削って形成するエンドミル加工が広まってきている(特許文献1参照)。
このエンドミル加工によれば、周囲の板厚に対して極端な薄肉の残厚tとする必要がなく、また、加工時の熱が表面側に影響することがないため、表面側に外観上の悪影響が及ぶことがない。
【特許文献1】特開2004−141830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、このエンドミル加工により形成される溝部55は図8に示すように幅w、残厚t、つなぎ部dが所定寸法となるような検査基準に基づき形成される。
即ち、インパネ50の製品品質を保証する評価基準として溝部寸法の検査基準が設けられ、溝部の形成加工後に、例えば溝部55の残厚t、幅w、つなぎ部寸法dが測定され、全てが検査基準値を満たしていれば合格となされる。
【0008】
溝部55の諸寸法を測定する方法のうち、例えば残厚wを測定する方法として、図9に示すように針測定子57を溝部55に挿入し、その深さを測定する触針式測定方法や、図10に示すように溝部55の裏側(インパネ表面側)から超音波を発する深触子58を当て、その反射波の音波データを解析することで残厚tを測定する超音波式測定法等がある。
【0009】
しかしながら、いずれの方法であっても、測定の際、1つの溝部55の寸法測定に手間が掛かり、数十点(例えば80点)からなる溝部55の全点について測定すると、非常に長い時間を要するという課題があった。このため、実際には1点から数点の溝部55の測定しか行われず、完全に製品品質を保証できないという課題があった。
【0010】
本発明は、前記したような事情の下になされたものであり、ワークの所定部位の寸法を非破壊に測定する非破壊測定装置において、前記所定部位の寸法を短時間に測定し、製品品質評価精度を向上することができる非破壊測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を解決するために、本発明に係る非破壊測定装置は、ワークの所定部位の寸法を非破壊に測定する非破壊測定装置において、前記ワークに対してX線を照射するX線照射手段と、前記ワークの所定部位を透過したX線を一列に配列された受光素子で受光し、ライン単位でX線透過輝度を検出するラインセンサカメラと、前記ラインセンサカメラにより検出されたX線透過輝度に基づいて、少なくとも前記所定部位におけるX線透過方向の寸法を算出する算出手段とを備えることに特徴を有する。
【0012】
また、前記ラインセンサカメラに対し、前記ワークを所定速度で一方向に移動させる移動手段を備え、前記ラインセンサカメラは、前記移動手段により移動するワークの所定部位を透過するX線のX線透過輝度を所定時間間隔毎にライン単位で検出し、前記算出手段は、前記ラインセンサカメラにより検出されたX線透過輝度に基づいて、前記所定部位における移動方向の寸法を算出することが望ましい。
【0013】
このように構成することにより、ワークの所定部位の寸法測定において、厚さや幅等の寸法を短時間に得ることができる。
したがって、破断予定部における全ての溝部に対しても諸寸法の測定を短時間に行うことができ、製品品質評価精度を向上することができる。
【0014】
また、前記ワークの所定部位を形成する材料の厚さ変化と、それに対するX線透過輝度との関係を記録した変換テーブルを備え、前記算出手段は、前記ラインセンサカメラにより検出されたX線透過輝度を前記変換テーブルを参照することにより寸法に変換することが望ましい。
このように構成することにより、検出したX線透過輝度を容易に寸法に変換することができる。
【0015】
また、前記算出手段は、測定された所定部位の寸法が適正であるか否かの判断基準となる基準値データに基づき、ワークの所定部位の寸法が適正か否かの結果を出力することが望ましい。
このように構成することにより、測定を行う各ワークについて即座に製品品質を評価することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ワークの所定部位の寸法を非破壊に測定する非破壊測定装置において、前記所定部位の寸法を短時間に測定し、製品品質評価精度を向上することができる非破壊測定装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る非破壊測定装置の実施の形態について図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係る非破壊測定装置の全体構成を模式的に示す図である。この非破壊測定装置100は、ワークであるインストゥルパネル(以下、インパネと呼ぶ)50において、エアバッグ展開により破断する破断予定部51を形成する溝部55の諸寸法(図8に示す残厚t、溝幅w、つなぎ部d等)を測定し、その寸法が基準値を満たしているか否かを判定するための装置である。
【0018】
非破壊測定装置100は、ワークの移動手段としてのベルトコンベア1を備え、このベルトコンベア1が有する循環駆動式の搬送ベルト2上にインパネ50が載置され、インパネ50を所定速度で一方向(水平方向が好ましい)に移動させるようになされている。
【0019】
また、非破壊測定装置1は、ベルトコンベア1の上方に固定して設けられ、搬送ベルト2上で移動するインパネ50の所定部位、即ち破断予定部51に対しX線Rを照射するX線源3(X線照射手段)を備える。
また、移動するインパネ50よりも下方に固定して設けられ、X線源3から照射されてインパネ50を透過したX線Rの透過量(輝度)を検出するラインセンサカメラ4を備える。
【0020】
即ち、所定方向(好ましくは垂直下方)にX線を照射するX線源3と、所定方向(好ましくは垂直上方)に対する受光を行うラインセンサカメラ4との間の空間を、ワークであるインパネ50の破断予定部51がベルトコンベア1により一方向(好ましくは水平方向)に所定速度で移動するように構成されている。
【0021】
ラインセンサカメラ4は、例えば数千個の受光素子を一列に並べて検出部4aを構成したカメラであって、所定の時間間隔毎にライン単位でX線Rを受光し、その受光輝度を出力するようになされている。
尚、前記X線源3とラインセンサカメラ4との間の空間は外部からの光線を遮蔽するため遮蔽ボックス5により覆われる。
【0022】
さらに、非破壊測定装置100は、前記ベルトコンベア1、X線源3、ラインセンサカメラ4の夫々の駆動及び動作の制御を行うコンピュータ6(算出手段)と、検査状況を表示するためのモニタ7等を備えている。
コンピュータ6は、ラインセンサカメラ4により検出された結果に基づき溝部55の諸寸法を求めるための測定プログラムPが記録された記憶部8と、測定プログラムPを実行させ、演算等を行うCPU10等を有している。
【0023】
また、記憶部8には、演算プログラムPによって寸法算出の際に用いられるキャリブレーションデータ9(変換テーブル)が記録されている。このキャリブレーションデータ9は、図3に示すグラフを変換テーブルとしたもので、インパネを形成する樹脂材料の厚さ変化に対するX線透過量(輝度)の関係を予め記録したものである。
【0024】
即ち、ラインセンサカメラ4により検出されたX線透過輝度値をキャリブレーションデータ9に照らし合わせることで測定したい所定部位の寸法が求められる。
尚、このキャリブレーションデータ9を予め求める際に使用するX線の波長、強度等の特性条件は、ワーク(インパネ50)に対してX線源3から照射するX線Rの特性と同じものである。
【0025】
続いて、このように構成された非破壊測定装置1における破断予定部51の溝部55の寸法測定手順の例について図1及び図2を用いて説明する。尚、図2は、コンピュータ6においてCPU10により実行される測定プログラムPの処理の流れを示すフローである。
【0026】
先ず、遮蔽ボックス5内においてベルトコンベア1の搬送ベルト2上にワークであるインパネ50が載置される。そして、ベルトコンベア1が駆動され、インパネ50が所定速度で搬送ベルト2上を水平方向に移動開始する。
インパネ50が移動開始するとX線源3からX線Rが垂直下方に向けて放射状に照射され、その放射されるX線Rの中をベルト2上のインパネ50が水平方向に移動する。
【0027】
ここで、インパネ50の破断予定部51を透過したX線Rの受光輝度(X線透過輝度)がラインセンサカメラ4の検出部4aにより所定時間間隔毎に検出され、複数ラインの画像データとしてコンピュータ6に取り込まれる(図2のステップS1)。
尚、ラインセンサカメラ4による1ラインの受光輝度の検出は瞬時に行われるため、所定時間間隔毎に検出を行うことにより、一方向に移動する破断予定部51の全体について透過したX線の受光輝度の検出結果が短時間に得られる。
【0028】
コンピュータ6では、測定プログラムPが実行され、検出した受光輝度値を記憶部8に記憶しているキャリブレーションデータ9に照らし合わせ、各溝部55についての寸法が求められる(図2のステップS2)。
尚、X線Rが照射される中を破断予定部51(の溝部55)が一方向に移動し、ラインセンサカメラ4により所定時間間隔毎にライン単位での透過輝度検出が行われるため、溝部55に係る縦方向(X線透過方向)並びに横方向(溝部55の移動方向)の諸寸法が得られ、図4に示すような溝部55についての3次元計測モデルが形成されるだけの測定結果が得られる。
【0029】
そして、測定プログラムPでは、各溝部55について、図8に示したような溝部55の残厚t、幅w、つなぎ部寸法dが基準値を満たしているか、即ち適正か否かを判定し(図2のステップS3)、その結果をモニタ7に出力する(図2のステップS4、S5)。
【0030】
以上のように本発明に係る実施の形態によれば、ワーク(インパネ50の破断予定部51)に対してX線Rを照射し、その透過量をラインセンサカメラ4で受光し、受光輝度をキャリブレーションデータ9に基づき寸法変換することにより、図8に示した溝部55に係る残厚t等(X線透過方向の寸法)を瞬時に得ることができる。
また、ラインセンサカメラ4に対し、ワークをベルトコンベア1により所定速度で一方向に移動させながら、X線Rの透過量をラインセンサカメラ4で所定時間間隔毎に検出するため、図8に示した溝部55に係る幅寸法w、つなぎ部寸法d等(溝部55の移動方向の寸法)を短時間に得ることが出来る。
したがって、本発明に係る非破壊測定装置100を用いることにより、破断予定部51における全ての溝部55の諸寸法の測定を短時間に行うことができ、製品品質評価精度を向上することができる。
【0031】
尚、前記実施の形態においては、インパネ50における破断予定部51の溝部55について測定を行う例を示したが、本発明の非破壊測定装置100においては、その測定対象に限定されず、要測定箇所を多数有する他の測定対象の測定にも用いることができる。
【0032】
また、前記実施の形態においては、ベルトコンベア1により横方向に移動するインパネ50に対し、上方から下方に向けてX線を照射し、下方においてラインセンサカメラ4によりX線透過輝度を検出するようにしたが、本発明においては、それら構成要素の配置を限定するものではなく、構成要素間の相対的関係を保つことができるならば、他の配置形態を採用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、所定部位の寸法を非破壊に測定する非破壊測定装置に関し、例えば自動車部品の製造業において好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、本発明に係る非破壊測定装置の全体構成を模式的に示す図である。
【図2】図2は、図1の非破壊測定装置が備えるコンピュータにおいて実行される測定プログラムの処理の流れを示すフローである。
【図3】図3は、インパネを形成する樹脂材料の厚さ変化に対するX線透過量(輝度)の関係を示したグラフである。
【図4】図4は、測定結果から得られた溝部についての3次元計測モデルである。
【図5】図5は、インパネ及びその予定破断部を示す図である。
【図6】図6は、型内加工を説明するための図である。
【図7】図7は、エンドミル加工を説明するための図である。
【図8】図8は、溝部において検査基準が設けられる測定部位を示す図である。
【図9】図9は、触針式測定方法による残厚測定を説明するための図である。
【図10】図10は、超音波式測定法による残厚測定を説明するための図である。
【符号の説明】
【0035】
1 ベルトコンベア(移動手段)
2 搬送ベルト
3 X線源(X線照射手段)
4 ラインセンサカメラ
4a 検出部
5 遮蔽ボックス
6 コンピュータ(算出手段)
7 モニタ
8 記憶部
9 キャリブレーションデータ(変換テーブル)
10 CPU
100 非破壊測定装置
P 測定プログラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの所定部位の寸法を非破壊に測定する非破壊測定装置において、
前記ワークに対してX線を照射するX線照射手段と、
前記ワークの所定部位を透過したX線を一列に配列された受光素子で受光し、ライン単位でX線透過輝度を検出するラインセンサカメラと、
前記ラインセンサカメラにより検出されたX線透過輝度に基づいて、少なくとも前記所定部位におけるX線透過方向の寸法を算出する算出手段とを備えることを特徴とする非破壊測定装置。
【請求項2】
前記ラインセンサカメラに対し、前記ワークを所定速度で一方向に移動させる移動手段を備え、
前記ラインセンサカメラは、前記移動手段により移動するワークの所定部位を透過するX線のX線透過輝度を所定時間間隔毎にライン単位で検出し、
前記算出手段は、前記ラインセンサカメラにより検出されたX線透過輝度に基づいて、前記所定部位における移動方向の寸法を算出することを特徴とする請求項1に記載された非破壊測定装置。
【請求項3】
前記ワークの所定部位を形成する材料の厚さ変化と、それに対するX線透過輝度との関係を記録した変換テーブルを備え、
前記算出手段は、前記ラインセンサカメラにより検出されたX線透過輝度を前記変換テーブルを参照することにより寸法に変換することを特徴とする請求項1または請求項2に記載された非破壊測定装置。
【請求項4】
前記算出手段は、測定された所定部位の寸法が適正であるか否かの判断基準となる基準値データに基づき、ワークの所定部位の寸法が適正か否かの結果を出力することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載された非破壊測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−156620(P2009−156620A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332449(P2007−332449)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】