説明

非線形誘電率を有する誘電材

ポリマー材と、このポリマー材中に分散させたフィラー材(このフィラー材は、無機粒子と不連続な配列の導電材とを含み、前記導電材の少なくとも一部は、前記無機粒子と耐久性のある電気的接続状態にある)と、前記ポリマー材中に分散させた導電材と、を含む、組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2009年12月14日に出願された米国特許仮出願第61/286,247号の利益を主張し、その開示内容の全体を参照として本明細書に援用する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、非線形誘電率と、電気的ストレスの緩和に有用な他の特性を有する誘電材に関する。
【背景技術】
【0003】
高誘電率(Hi−K)のエラストマー複合材は、接合部及び終端の場所に蓄積される電界ストレスを制御する目的で、ケーブルアクセサリーで広く用いられている。典型的には、これらの材料は、ストレス緩和のために特定範囲の誘電率(K)値を付与するカーボンブラック充填エラストマー(EPDM及びシリコーンなど)である。これらのエラストマー複合材は、非常に高い誘電率(Hi−k)を有するチタン酸バリウム(BT)、すなわち無機フィラーも含む。これらの複合材の高い誘電率を得るためには、典型的には、高いフィラー充填量(>50体積パーセント)が必要となる。これらの高充填量は、得られる複合材の加工性と機械的特性を大幅に低下させる。多くのポリマーマトリックスでは、上記のレベルの充填量はあまり実用的でない。炭素充填複合材では、炭素粉末の体積充填量は、制御するのが非常に難しい浸透閾値に近くなければならない。いくつかのシリコーンベースの系では、得られる複合材の誘電率を向上させる目的で、エピクロロヒドリンのようなHi−Kポリマー添加物が用いられている。これらのタイプの複合材は一般に、誘電損失(損失係数)が高い。その結果、このような複合材は、誘電材の温度の上昇を引き起こす場合があり、コネクターとケーブルの熱負荷容量を超える場合がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の1つの実施形態は、ポリマー材と、このポリマー材中に分散させたフィラー材(このフィラー材は、無機粒子と不連続な配列の導電材とを含み、この導電材の少なくとも一部は、無機粒子と耐久性のある電気的接続状態にある)と、ポリマー材中に分散させた導電材と、を含む、新規組成物を特徴とする。
【0005】
本発明の別の実施形態は、ポリマー材中に分散させたフィラー材(このフィラー材は、無機粒子と不連続な配列の導電材とを含み、この導電材の少なくとも一部は、前記無機粒子と耐久性のある電気的接続状態にある)と、前記ポリマー材中に分散させた導電材と、を含む、電気的ストレス制御デバイスを含む新規物品を特徴とする。
【0006】
本発明の別の実施形態は、電気的ストレス制御デバイスを作製する新規方法であって、
無機粒子と不連続な配列の導電材とを含むフィラー材であって、その導電材の少なくとも一部が、前記無機粒子と耐久性のある電気的接続状態にあるフィラー材を形成する工程と、
前記フィラー材をポリマー材中にブレンドして、ポリマー組成物を形成する工程と、
前記ポリマー組成物をストレス制御デバイスに形成する工程と、を含む、方法を特徴とする。
【0007】
本発明で用いられる場合、
導電材と無機粒子との「電気的接続」は、導電材と無機粒子との間を電荷が移動して、それによって、電流を直接流すことができるようにするか、又はポリマー材の耐圧よりも低い印加電圧電界下で、オーミックコンタクト、ホッピング効果、若しくはトンネル効果を形成できるように、導電材の一部が無機粒子と接触しているか、又は十分に物理的に近接していることを意味する。
「耐久性のある電気的接続」は、組成物処理工程中に受ける力を混合及び共有することによって、電気的接続が実質的に変わらないことを意味する。
「浸透閾値」は、無限に連続する導電路を最初に作り出すために充填しなければならない格子点の臨界的割合を意味する。
【0008】
本発明の上述の「課題を解決するための手段」は、本発明の開示される各実施形態又は全ての実施を記載することを目的としていない。以下の添付図面及び詳細な説明により、例示的な実施形態をより具体的に例示する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態による、炭素粉末が固着されているチタン酸バリウム粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)デジタル画像。
【図2】図1に示されている粒子を含むポリマー組成物の断面のSEMデジタル画像。
【図3】本発明の実施形態による、ナノシリカ粒子で変性させたチタン酸バリウム粒子のSEMデジタル画像。
【図4】図3に示されている粒子を含むポリマー組成物の断面のSEMデジタル画像。
【図5】本発明の材料と比較材料の、電界に対する誘電率の変動。
【図6】本発明の材料の、電界に対する誘電率の変動。
【図7】本発明の材料と比較材料との、電界に対する誘電率の変動。
【図8】本発明の材料の、電界に対する誘電率の変動。
【図9】本発明の材料の25kVにおける電界に対する誘電率の変動。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の好適な実施形態の詳細な説明では、その一部をなす添付の図面を参照する。添付の図面は、本発明を実施することが可能な具体的な実施形態を例として示す。他の実施形態を使用してもよいこと、及び本発明の範囲から逸脱することなく構造的又は論理的変更を行ってもよいことが理解される。したがって、以下の詳細な説明は限定的な意味で解釈されるべきものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって定義されるものである。
【0011】
本発明の実施形態としては、図1に示されているもののような新規フィラー材が挙げられる。このフィラー材としては、導電性粒子のような導電材が耐久性のある電気的接続状態で固着されている無機粒子が挙げられる。後で更に詳細に説明するように、取扱中、及びその後の材料処理工程中に、導電材が無機粒子から離れないようにするのに十分な電気的な引力、例えば、静電引力又は化学的引力を無機粒子と導電材との間にもたらす形で、導電材を無機粒子に加える。続いて、耐久性のある電気的接続状態で導電材を固着させた無機粒子をポリマー材に添加して、誘電性組成物を形成してよい。これらの組成物は、従来の炭素充填ポリマーよりも電気的特性がかなり優れている。
【0012】
いくつかの実施形態では、ENSACO 250Gという商品名でTimCal Graphite & Carbon Corp.(Bodio、Switzerland)から入手できるもののように、空隙容量が大きく伝導性が高く、公称粒径が40nmの高度構造化形状の導電性炭素粒子と、チタン酸バリウム(無機の強誘電体セラミックス)粒子の表面を耐久性のある電気的接続状態で固着させてから、図2に示されているように、シリコーンポリマー(SiO骨格を有するポリマー)マトリックス中に分散させることによって、上記の組成物を最初に調製した。得られたエラストマー組成物は硬化後、高い誘電率(>20)、低い損失(<0.04)、及び高い誘電破壊強度(>140V/ミル(5,511.81kV/mm))を有していたと共に、予想外にも、電界に依存する誘電率(非線形性)を示した。これらの非導電性(低損失)組成物は、電界の上昇に応じて漸増する誘電率という独自の非線形特性を示した。いくつかの好ましい実施形態では、この組成物中のチタン酸バリウムの体積充填量は20体積パーセント超であり、炭素に対するチタン酸バリウムの体積パーセント比は約6〜約12である。しかしながら、これらの組成物の破断までの伸び率は約150%未満であるので、優れた機械的特性を必要としない用途に最も適している。
【0013】
本発明の別の実施形態では、独自の非線形の電気的特性と共に、良好な機械的特性が得られる。これらの実施形態では、本発明の組成物は、(a)高誘電率フィラー、例えば、ナノシリカ(すなわち、ナノメートルサイズのシリカ粒子)で変性したチタン酸バリウム(25体積%)、(b)炭素粉末(3.0体積%)、及び(c)シリコーンゴムマトリックス中のシリコーン油(SiO骨格を有するオリゴマーを含む油)(10体積%)からなるエラストマー複合材を含む。ナノシリカ変性チタン酸バリウムとシリコーン油添加物という独自の組み合わせが、フィラー(チタン酸バリウム)の分散と、シリコーンマトリックスによる補強を実質的に高めた。その結果、この組成物は、機械的特性の向上(破断までの伸び率>300%、引張り強度372〜500psi(2564.8〜3585.3kPa))と、電気的特性の向上(誘電率23〜30、損失係数<0.05、及び破壊強度180〜210V/ミル(7,086.61〜8,267.72kV/mm))と、を示すと共に、インパルス性能の向上をもたらす好ましい伝導度プロファイルを有していた。これらの特性の向上によって、本発明の組成物及び物品の少なくともいくつかの実施形態が、常温収縮用途のように優れた機械的特性を必要とする高電圧ケーブルアクセサリーにおけるストレス制御に特に有用なものとなる。
【0014】
これらの特性の向上のいくつかは、ナノシリカ変性フィラー(チタン酸バリウム)とシリコーン油添加物との独自の組み合わせを用いて、フィラーの分散と、シリコーンゴムによる補強を高めることによって実現した。ナノシリカ変性フィラーの例は、図3に示されている。この複合材は、図4に示されているように、シリコーンマトリックス全体にわたって均一な粒子分散を示すと共に、電気的特性も実質的に向上した。
【0015】
本発明の無機粒子に適した材料としては、例えば、BaTiO粒子、BaSrTiO粒子、CaCu3Ti12粒子(例えば、800℃の温度でか焼又は焼結した粒子を含む)、並びにSrTiO粒子、又はこれらの混合物が挙げられる。このような粒子は、純粋なものであっても、ドーピング、すなわち他の成分の添加などによって変性させたものであってもよい。この無機粒子の比誘電率は、80超であるのが好ましい。本発明の無機粒子は、球体、板状、小さな板状、立方体、針状、偏球、回転楕円体、角錐、角柱、薄片、棒状、繊維状、小片、髭状など、及びこれらの混合体といったいずれかの好適な形を有してよい。本発明の無機粒子の好適なサイズ、例えば、寸法の下限値は約0.7μm〜約1.0μmであり、上限値は約0.8μm〜約2.1μmである。
【0016】
本発明の組成物の少なくともいくつかの実施形態の機械的特性は、本発明の無機粒子をナノシリカで変性させることによって高めることができることを本発明者は発見した。例えば、ナノシリカ変性チタン酸バリウムをシリコーン油と組み合わせると、チタン酸バリウムの分散と、シリコーンポリマー材のマトリックスの補強力を実質的に高めることが分かった。チタン酸バリウムを疎水性変性ナノ粒子とトルエン中で混合して、トルエンを蒸発させることによって、チタン酸バリウムをナノシリカで変性させた。乾燥したこの材料をセラミック大理石と共に振とうして、粒子の凝集を低減した。続いて、ナノシリカ変性チタン酸バリウムを炭素粉末と共に粉砕した。ナノシリカ粒子の無機粒子に対する好適な重量%は、約0.5〜約1.0、好ましくは約0.75である。ナノシリカ粒子の好適な粒径は、約1〜約50nm、好ましくは約5nmである。典型的には、ナノシリカ粒子が加えられる無機粒子の直径は約0.8μm〜約2.1μmである。
【0017】
本発明の導電材に適した材料としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、導電性コーティングを有する絶縁粒子、金属及び金属粉末、例えば、アルミニウム、金、銀、クロム、銅、パラジウム、ニッケル、及びこれらの合金が挙げられる。本発明の導電材は、無機粒子上にコーティング又は堆積することができるクラスター、例えば、炭素粒子のクラスター、個別の粒子、及び気化固体などのいずれかの好適な形状であってよい。導電材が微粒子である場合、導電材は、球体、板状、小さな板状、立方体、針状、偏球、回転楕円体、角錐、角柱、薄片、棒状、繊維状、小片、髭状など、又はこれらの混合体といったいずれかの好適な形を有してよい。
【0018】
導電材の無機粒子への付加又は付着は、例えば、導電材と無機粒子を合わせて粉砕、ボールミリング、衝撃コーティング、及び磁気による衝撃コーティングするか、導電材を無機粒子上にコーティング、溶媒コーティング、蒸着、及び液分散させるか、又は導電材が不連続な配列を形成するように(この際、導電材の少なくとも一部は、無機粒子と耐久性のある電気的接続状態にある)、いずれかの他の既知及び好適な方法を用いるなどのいずれかの好適な方法で行うことができる。導電材は、無機粒子の表面の狭い面積に付加しても、広い面積に付加してもよい。無機粒子に付加する導電材の適量の決定は、組成物中の材料、例えば、導電材、無機粒子、ポリマー、添加物の組み合わせ、及び材料の使用目的といった様々な要因に左右される。
【0019】
母材ポリマー材は、広範なポリマーから選択してよい。場合によっては、2種以上のポリマーのブレンドが望ましいこともあり、選択するポリマーは、少なくともある程度、その材料が用いられる目的に左右されることになる。単独、又はブレンド中の好適なポリマーの例としては、エラストマー材(例えば、シリコーン又はEPDM)、熱可塑性ポリマー(例えば、ポリエチレン又はポリプロピレン)、接着剤(例えば、エチレンビニルアセテートベースのもの)、熱可塑性エラストマー、ゲル、熱硬化性材(例えば、エポキシ樹脂)、又はコポリマーを含むこれらの材料の組み合わせ(例えば、ポリイソブチレンと非晶質ポリプロピレンの組み合わせ、エピクロロヒドリンポリマー、フルオロエラストマーポリマー、並びにエピクロロヒドリンポリマーとフルオロエラストマーポリマーとのブレンド)が挙げられる。
【0020】
本発明の組成物は、例えば、特定の用途に対する加工性及び/又は適合性を向上させる目的で、上記の材料用の他の周知の添加物も含んでもよい。適合性の向上に関しては、例えば、電源ケーブルアクセサリーとして用いられる材料は、屋外環境条件に耐えなければならない場合がある。したがって、好適な添加物としては、加工剤、安定剤、酸化防止剤、及び可塑剤、例えば、シリコーン油のような油を挙げてよい。本発明の組成物は、導電材が固着されている無機粒子をポリマー及びいずれかの所望の添加物と混合することによって作製する。本発明の組成物の多くの実施形態では、導電材(無機粒子にコーティングされている導電材と同じか、又は異なる導電材)をポリマー材中に分散させる。
【0021】
本発明の少なくとも1つの実施形態では、本発明の組成物は、無機粒子上の不連続な配列の導電材であって、無機粒子と電気的接続状態にある導電材を含み、更には、ポリマー材中に分散された導電材を含む。本発明の組成物中の導電材の総量は、その組成物の浸透閾値をもたらすのに必要な導電材の量の約40〜70体積%である。
【0022】
本発明の少なくとも1つの実施形態では、本発明の組成物の比誘電率は15超、好ましくは約18超であり、誘電損失は約0.12未満、好ましくは約0.05未満である。
【0023】
本発明の少なくとも1つの実施形態では、本発明の組成物の誘電破壊強度は約4キロボルト/ミリメートル(kV/mm)超、好ましくは約7.2kV/mm超である。
【0024】
本発明の少なくとも1つの実施形態では、本発明の組成物の比誘電率値は、図5〜9に示されているように、印加電圧の変化に応じて非線形に変化する。
【0025】
本発明の少なくとも1つの実施形態では、ポリマー材はエラストマー材であり、組成物の破断点伸び率は約150%超、好ましくは約300%超であり、組成物の永久歪(ASTM D412−06aによる場合)は約25未満、好ましくは約20未満、より好ましくは約10未満である。
【0026】
本発明の少なくとも1つの実施形態では、本発明の弾性率は約150ポンド/平方インチ(1034.2kPa)超、好ましくは約230ポンド/平方インチ(1585.5kPa)超、より好ましくは約300ポンド/平方インチ(2068.4kPa)超である。
【0027】
本発明の組成物は、様々な用途の様々な物品、例えば、スプレー、コーティング、マスチックス、テープ、一定の形体を有する成形体で用いることができる。本発明の組成物は、高電圧ケーブルアクセサリーのようなストレス制御素子又はデバイスで用いるのに特に適しており、この場合、本発明の組成物の非線形特性が有用である。それぞれの印加部位に存在する電界の望ましい修正に従って、誘電特性及び幾何学的形体について設計されている誘電ストレス制御デバイスを作製することができる。これらのストレス制御デバイスは少なくとも部分的に、本発明の組成物からなる。特に有用なのは、ケーブル絶縁体及び/又はシールドの末端に配置することができる成形体、好ましくはスリーブからなる誘電ストレス制御デバイス又は素子である。他の幾何学的形体を有するストレス制御デバイス又は素子は、例えば、高圧ケーブルのブレークエルボー、遷移又は完全接続部(transition or throughgoing connections)、フィードスルー、及び分枝部における許容できないほど高い局所的な電界集中を防止するのに有用であることがある。
【0028】
少なくとも1つの実施形態では、本発明の組成物は、エラストマー特性を有する。これにより、様々な寸法又はサイズの電気的構造のコンポーネントに適している常温収縮誘電ストレス制御デバイスを製造できるようになる。例えば、スリーブの場合には、ケーブル絶縁体及び/又は様々な厚みの寸法と共に適用可能であるのに十分な弾性を有することができる。
【0029】
本発明の物品は、例えば、下記の用途で用いてよい。
(i)電気ケーブル用の絶縁体(この絶縁体は、伝導体と主要誘電体との間、又はケーブルのスクリーンと主要誘電体との間に位置する)。
(ii)米国特許第3,666,876号に記載されている層状構成体にあるような電気ケーブル用の絶縁体。
(iii)電気ケーブル端末用のストレス制御カバー。このようなストレス制御手段は、スプレー、コーティング、マスチックス、成形パーツ、チューブ、又はテープの形状であってよく、必要に応じて、外側の保護層と共に用いても、外側の保護層なしで用いてもよい。
(iv)機械のステータバー末端部、又は絶縁電気伝導体の末端部、例えば、モータ巻線用のストレス制御カバー。
(v)避雷器のストレス制御コンポーネント。
(vi)材料が使用中に非トラッキング性である場合には、材料が外層又は内部コンポーネントであってよい絶縁体本体のコンポーネントとして。したがって、かさ又はチューブに用いて、引張懸垂用の絶縁体、ポスト又はブッシング絶縁体をもたらすことができる。
【0030】
好ましい実施形態の説明の目的のために、特定の実施形態を本明細書において例示し記述したが、種々多様な代替的な及び/又は同等の実施が、本発明の範囲を逸脱することなく、図示及び説明された特定の実施形態に置き換わり得ることを、当業者は理解するであろう。本出願は、本明細書で考察した好適な実施形態のあらゆる適合形態又は変形例を含むものである。したがって、本発明が特許請求の範囲及びその均等物によってのみ限定される点を明示するものである。
【実施例】
【0031】
以下の実施例及び比較例は、本発明の理解を補助するために提供されるが、本発明の範囲を制限するものとして解釈されるべきではない。特に断らない限り、部及び百分率は全て重量基準である。別段の指定がない限り、部及び百分率は全て、重量基準である。
【0032】
材料リスト
【表1】

【0033】
試験方法
1.比誘電率と損失係数(損失)の測定:ASTM D150−98(2004)
2.破壊強度:ASTM D149−09
3.非線形比誘電率:電源を1.2マイクロ秒/50マイクロ秒のインパルス波形に変えることによって修正したASTM D150−98(2004)。
4.破断までの伸び:Standard Test Methods for Vulcanized Rubber and Thermoplastic Elastomers−Tension、ASTM D 412−06a(2007年1月発行)
5.永久歪:ゴムの伸長永久歪(100℃で22時間)、Electrical Products Standars、3M Test Method TM−86D(発行日:11/22/1994)
6.体積固有抵抗(電気伝導度の逆数):ASTM 257−07
【0034】
実施例1〜5及び比較例C1〜C5
実施例1〜5では、無機粒子の表面に導電性粒子を蒸着することによって、まず無機フィラー材を調製した(このケースでは強誘電体セラミックス)。これらの実施例では、チタン酸バリウム(BT)を無機粒子として用い(粒径0.8〜2.1マイクロメートル)、高度構造化炭素粉末(ENSACO 250G)(C)を導電材として用いた。乳鉢と乳棒で炭素粉末とチタン酸バリウム粒子を合わせて混合し、均一な分散体が得られるまで(裸眼で判断)、5〜10分、押圧又は粉砕することによって、炭素粉末をチタン酸バリウム粒子の表面に蒸着した。続いて、得られたフィラー材を液体シリコーンゴムマトリックス中にブレンドした。各実施例の最終混合物中のBT及びCの体積パーセントと、BT:Cの比は表2に示されている。
【0035】
得られた混合物を成形型のキャビティ(深さ100ミル(2.54mm)、内径1.25インチ(3.18cm))に注入し、160℃で8分間、部分的にプレス硬化させた。続いて、成形型から外し、対流式オーブンで200℃にて4時間、更に硬化させた。次いで、これらの成形したディスクの誘電率、損失係数、及び誘電破壊強度のような電気的特性を周囲条件で測定した。比較例C1は、炭素粉末を含まないチタン酸バリウム(40体積パーセント)の対照サンプルを示している。比較例C2及びC3は、2つの充填レベルの炭素粉末(3及び5体積パーセント)を含み、チタン酸バリウムを含まない対照サンプルを示している。DAC 150FVZという商品名でFlackTek,Inc.(Landrum,SC)から入手可能な「スピードミキサー」を用いて、3000rpmで30秒間、チタン酸バリウムと炭素粉末をそれぞれ別々に液体シリコーンゴム中にブレンドした。得られた混合物を実施例1〜5と同様の方法で成形した。
【0036】
比較例C4では、チタン酸バリウムと炭素粉末を合わせて混合したが、粉砕しなかった。比較例C5では、炭素をシリコーンゴムマトリックス中に分散させてから、チタン酸バリウム粒子を加えた。全ての比較例を実施例1〜5について説明されているようにしてディスクに成形し、硬化させた。
【0037】
実施例1〜5、及び比較例C1〜C5の得られた成形ディスクの電気的特性は表2に列挙されている。
【0038】
【表2】

【0039】
非線形比誘電率試験を用いて、表2の所定の実施例の、電界に対する誘電率の変動(非線形特性)を測定した。これらの試験結果は、図5に示されている。図5に見られるように、実施例1及び3は、電界の上昇に伴い、誘電率値が非線形的に上昇する。電界強度が5.5kV/mmまで上昇すると、誘電率値は、実施例1では24.1から140に上昇し、実施例2では21.7から120に上昇する。これらの実験条件では、比較例C1、C2及びC3は、非線形誘電特性を示さない。
【0040】
図6は、実施例1、3、4、及び5の誘電率データを示している。図6に見られるように、実施例1及び3と共に実施例4は、非線形誘電特性を示し、実施例5は、印加電解の範囲において非線形誘電特性を示さない。
【0041】
表2に見られるように、比較例C4は同じBT及びC含有量を有する実施例3よりも、比較例C5は同じBT及びC含有量を有する実施例1よりも、いずれも低い電気的破壊強度値を有する。比較例C4の破壊強度は3.84kV/mm(97.6V/ミル)であり、比較例C5の誘電破壊強度は2.60kV/mm(66V/ミル)である。加えて、誘電率は、これらの比較例では、電界に対して、実施例1及び3よりも早く上昇する。対照的に、実施例1及び3は、誘電率が徐々に上昇すると共に、材料の誘電破壊に達するまで、極めて高い電解強度に耐えることができる(実施例1の誘電破壊は5.79V/mmであり、実施例3の誘電破壊は7.10kV/mmである)。
【0042】
実施例6〜8−異なるK値を有するフィラー
これらの実施例では、チタン酸バリウム粒子をシリカ、二酸化チタン、チタン酸カルシウム、及びチタン酸ストロンチウム粒子で置換した。各タイプの無機粒子30体積パーセントを炭素粉末3体積パーセントと粉砕した後、実施例1〜5について説明したようにしてシリコーンゴムディスクを調製した。続いて、これらのディスクのそれぞれの電気的特性を測定した。試験結果は、実施例3の試験結果と共に表3にまとめられている。加えて、実施例6〜8の非線形誘電特性を測定した。当該試験の結果を、図8に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
実施例9
この実施例では、炭素粉末を18体積パーセントのアルミニウム粉末(サイズ10マイクロメートル)(1.5g/ccの密度を用いて計算)で置換した。Al粉末を24.5体積パーセントのチタン酸バリウムと粉砕した後に、実施例1〜5で説明したようにしてシリコーンゴムディスクを調製した。得られたディスクの誘電率(K)は20.8で、損失係数は0.022であった。
【0045】
実施例10
疎水性変性ナノシリカ粒子の調製:
コロイドシリカ(水中に固体16.06重量%、サイズ5nm)100グラムと、イソオクチルトリメトキシシラン(isoctyltrimethoxy silane)7.54グラムと、メチルトリメトキシシラン0.81グラムと、エタノールとメタノール(80:20重量/重量%)の溶媒ブレンド112.5グラムとの混合物を、500mLの三つ口フラスコ(Ace Glass(Vineland,NJ))に加えた。80℃に設定した油浴に、この混合物を含むフラスコを攪拌しながら4時間入れて、疎水性変性ナノシリカ粒子を調製した。この疎水性変性ナノシリカ粒子を結晶皿に移し、対流式オーブンで150℃にて2時間乾燥させた。
【0046】
チタン酸バリウムフィラーのナノシリカ粒子による変性:
疎水性変性ナノシリカ粒子(0.75重量%)と(スパチュラを用いて)混合し、過剰なトルエンに分散させることによって、チタン酸バリウム粒子(粒径0.8〜2.1マイクロメートル)を変性させた。このチタン酸バリウムとナノシリカ粒子との混合物を一晩圧延してから、トルエンを150℃で蒸発させた。得られた粉末を大きなナルゲンボトルに移し、この粉末に4つの大きなセラミック大理石を加え、手で数分間振とうした。この手順によって、粒子の凝集が大きく低減したフィラー組成物が得られた。ナノシリカ粒子変性チタン酸バリウムの走査電子顕微鏡写真(SEM)は図3に示されている。
【0047】
実施例11:シリコーンゴム複合材の調製:
実施例1〜5で説明されているようにして、ナノシリカ粒子変性チタン酸バリウム(NS BT)に炭素粉末を蒸着させた。約25体積パーセントのNS BTと3.0体積パーセントの炭素粉末を合わせて、均一な分散体が得られるまで(裸眼で判断)、乳鉢と乳棒で5〜10分間粉砕した。DAC 150FVZという商品名でFlackTek,Inc.(Landrum、SC)から入手可能な「スピードミキサー」を用いて、粉砕した粉末混合物を62体積パーセントの液体シリコーンゴムと10体積パーセントのシリコーン油中で、3000rpmにて30秒間ブレンドした。続いて、得られたシリコーンゴム複合材を成形型(3×6×.07インチ(7.6cm×15.2cm×0.18cm))に注入し、160℃で10分間、部分的にプレス硬化させた。次いで、部分硬化させたスラブを成形型から外し、200℃で4時間、更に硬化させた。硬化スラブの断面のSEMには、NS BT粒子がシリコーンマトリックス全体にわたって均一に分布していることが示されている(図4)。
【0048】
電気的及び機械的特性を割り出す目的で行う各試験では、3つのサンプルを用いた。これらの3つのサンプルの試験結果の範囲を以下に示す。
【0049】
電気的特性:
100HzにおいてASTM D150−98(2004)の試験手順に従うことによって、誘電率と損失係数の測定を行った。100HzにおいてASTM 257−07の試験手順に従うことによって、体積固有抵抗の測定を行った。ASTM D149−09の試験手順に従うことによって、誘電破壊強度の測定を行った。試験結果の範囲は以下のとおりである。
誘電率23〜30
損失係数<0.05
固有抵抗:1.4 E8〜E9オーム/m
誘電破壊強度180〜210V/ミル(7,086.61〜8,267.72kV/mm)の範囲
非線形比誘電率試験を用いて、インパルス状態における電界依存の比誘電率を25kVで測定した。当該試験の結果を、図9に示す。
【0050】
機械的特性:
ASTM D412−06aの試験手順を用いることによって、引張り強度、破断までの伸び率、弾性率及び伸長永久歪を測定する。試験結果の範囲は以下のとおりである。
引張り強度:372〜498psi(2564.8〜3433.6kPa)
破断までの伸び:320〜410%
弾性率:
232〜255psi(1599.6〜1758.2kPa)@ 100%の伸び率
285〜429psi(1965.0〜2957.9kPa)@ 200%の伸び率
300〜479psi(2068.4〜3302.6kPa)@ 300%の伸び率
伸長永久歪9.4〜10.10%
【0051】
実施例11の320〜410%という破断までの伸び率と比較すると、実施例3(NS BT及びシリコーンオイルを含めずに作製)の破断までの伸び率は166%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー材と、
前記ポリマー材中に分散させたフィラー材であって、前記フィラー材が無機粒子と不連続な配列の導電材とを含み、
前記導電材の少なくとも一部が、前記無機粒子と耐久性のある電気的接続状態にあるフィラー材と、
前記ポリマー材中に分散させた導電材と、を含む、組成物。
【請求項2】
前記導電材が、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、炭素粒子のクラスター、グラファイト、導電性コーティングを有する絶縁粒子、銀、金、パラジウム、及びアルミニウムのような金属、このような金属の合金、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記フィラーの前記導電材と、前記ポリマー材中に分散させた前記導電材が異なる、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物中の導電材の合計量が、前記組成物の浸透閾値をもたらすのに必要な導電材の量の約40〜70体積%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
印加電圧の変化に応じて非線形に変化する比誘電率値を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記無機粒子の前記導電材に対する体積比が約6〜約12である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物中の前記無機粒子の体積充填量が約20〜約40体積パーセントである、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記ポリマー材がシリコーンであり、前記フィラー材がナノシリカ変性チタン酸バリウムであり、前記導電材が炭素であり、前記組成物がシリコーン油を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
ポリマー材中に分散させたフィラー材であって、前記フィラー材が無機粒子と不連続な配列の導電材とを含み、
前記導電材の少なくとも一部が、前記無機粒子と耐久性のある電気的接続状態にあるフィラー材と、前記ポリマー材中に分散させた導電材と、を含む、電気的ストレス制御デバイスを含む、物品。
【請求項10】
前記エラストマー材がシリコーンである、請求項9に記載の物品。
【請求項11】
前記無機粒子がナノシリカ変性チタン酸バリウムである、請求項10に記載の物品。
【請求項12】
前記フィラーの前記導電材と、前記ポリマー材中に分散させた前記導電材が異なる、請求項9に記載の物品。
【請求項13】
前記導電材が、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、炭素粒子のクラスター、グラファイト、導電性コーティングを有する絶縁粒子、銀、金、パラジウム、及びアルミニウムのような金属、このような金属の合金、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項9に記載の物品。
【請求項14】
前記物品中の導電材の合計量が、前記物品の浸透閾値をもたらすのに必要な導電材の量の約40〜約70体積%である、請求項9に記載の物品。
【請求項15】
印加電圧の変化に応じて非線形に変化する比誘電率値を更に含む、請求項9に記載の物品。
【請求項16】
前記無機粒子の前記導電材に対する体積比が約6〜約12である、請求項9に記載の物品。
【請求項17】
前記組成物中の前記無機粒子の体積充填量が約20〜約40体積パーセントである、請求項9に記載の物品。
【請求項18】
印加電圧が線形的に増加するのに応じて非線形的に増加する容量値を有する、請求項9に記載の物品。
【請求項19】
電気的ストレス制御デバイスを作製する方法であって、
無機粒子と不連続な配列の導電材とを含むフィラー材であって、前記導電材の少なくとも一部が、前記無機粒子と耐久性のある電気的接続状態にあるフィラー材を形成する工程と、
前記フィラー材をポリマー材中にブレンドして、ポリマー組成物を形成する工程と、
前記ポリマー組成物をストレス制御デバイスに形成する工程と、を含む、方法。
【請求項20】
前記エラストマー材がシリコーンであり、前記無機粒子がナノシリカ変性チタン酸バリウムであり、前記導電材が炭素であり、前記ポリマー組成物がシリコーン油を更に含む、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2013−513715(P2013−513715A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−544606(P2012−544606)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【国際出願番号】PCT/US2010/059213
【国際公開番号】WO2011/081795
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】