非線形超音波による介在物検出方法及び装置
【課題】 より正確に介在物の存在有無を判定できるようにした超音波探傷方法および装置を提供すること。
【解決手段】 検査対象物16の一側面を臨むように超音波送信子18aと超音波受信子18bとを配置し、検査対象物16へ向けて超音波パルス波を照射しその反射波を処理して検査対象物16の内部欠陥からの反射波が含まれていないか否かを判定し、内部欠陥からの反射波が含まれている場合に、超音波送信子16bから超音波バースト波を照射しその反射波を処理して、反射波振幅の超音波バースト入射波振幅に対する二次高調波の振幅の比を得るようにし、前記入力電圧と前記入射波振幅に対する二次高調波の振幅の比との間に線形関係がある場合に介在物が存在すると判定する。
【解決手段】 検査対象物16の一側面を臨むように超音波送信子18aと超音波受信子18bとを配置し、検査対象物16へ向けて超音波パルス波を照射しその反射波を処理して検査対象物16の内部欠陥からの反射波が含まれていないか否かを判定し、内部欠陥からの反射波が含まれている場合に、超音波送信子16bから超音波バースト波を照射しその反射波を処理して、反射波振幅の超音波バースト入射波振幅に対する二次高調波の振幅の比を得るようにし、前記入力電圧と前記入射波振幅に対する二次高調波の振幅の比との間に線形関係がある場合に介在物が存在すると判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材中に超音波を送信して該鋼材中の介在物を検出する超音波探傷方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2002-323481号公報には、非金属介在物と、略球形など平坦でない形状のボイド、および平坦な形状の未圧着のボイドとを識別するようにした超音波探傷方法および装置が開示されている。該公報に開示された超音波探傷装置では、超音波集束ビームを被検材に送信し、受信した反射波に基づいて、被検材中の異物からの反射波を抽出し、その反射波の振幅を測定して異物を検査する超音波探傷方法において、異物が存在する深さ方向の位置でビーム径が異なる複数の超音波集束ビームによって被検材中の異物からの反射波の振幅を測定し、その差をとることにより異物の種類を判別するようになっている。
【特許文献1】特開2002-323481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
鋼材スラブは可能な限り均質に製造されるべきであるが、結晶粒径を完全に統一することは不可能であり、非金属介在物が含まれていないとしても、一定の不均性を有している。不均質な材料に対して超音波探傷試験を行った場合、観測される波形には検出すべき介在物からの応答だけでなく、同時に材料中に存在する不均質性に基づくノイズや結晶粒界での散乱ノイズが含まれている。上記公報に開示された装置および方法では、こうしたノイズに有意な信号が紛れて介在物の検出ができない問題がある。
【0004】
このノイズの特性を調べ応答波形からノイズを取り除くことができれば、超音波探傷試験の精度向上につながると考えられる。
そこで本発明は、超音波探傷方法および装置において、被検査対象物、例えば鋼材スラブに向けて照射した超音波の反射波に含まれるノイズを分離して正確に介在物の存在有無を判定できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の本発明は(a)検査対象物の一側面を臨むように超音波送信子と超音波受信子と配置する段階と、(b)前記超音波送信子から超音波バースト波を前記検査対象物に送信する段階と、(c)前記検査対象物から反射した超音波バースト波を前記超音波受信子により受信する段階と、(d)前記超音波受信子から送出される信号を処理して、入射波振幅に対する前記反射した超音波バースト波の二次高調波の振幅の比を得る段階と、(e)前記超音波送信子へ印加する入力電圧を変化させる段階と、(f)前記段階(b)〜(e)を繰り返して前記入力電圧の変化と前記入射波振幅に対する二次高調波の振幅の比の変化とを関連づける段階とを具備した検査対象物に含まれる介在物を検出する超音波探傷方法を要旨とする。
【0006】
請求項4に記載の本発明は、超音波探傷装置において、検査対象物を固定する手段と、前記検査対象物の一面を臨むように位置決めされて超音波バースト波を送信する超音波送信子と、前記検査対象物の前記一面を臨むように位置決めされて前記検査対象物から反射した超音波バースト波を受信する超音波受信子と、前記超音波受信子から送出される信号を処理して、入射波振幅に対する前記反射した超音波バースト波の二次高調波の振幅の比を得るための信号処理手段と、前記超音波送信子へ印加する入力電圧の変化と前記入射波振幅に対する二次高調波の振幅の比の変化とを関連づける手段と、を具備した検査対象物に含まれる介在物を検出する超音波探傷装置を要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本願発明によれば、超音波バースト波を照射してその反射波を処理して、入力電圧の変化と入射波振幅に対する反射波の二次高調波の振幅の比の変化とを関連づけることにより、前記反射波が介在物からの反射波であるように見えるときに、該反射波が欠陥信号であるかノイズ信号であるかを判定可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1を参照すると、探傷装置10は、走査装置20により水槽12内において直交三軸方向に移動自在に配設された超音波素子18を具備している。超音波素子18は、水槽12内に配設されたテーブル14上に固定された検査対象材料として例えば鋼製スラブ16の一側面を臨むように配置され、中心部に配置され超音波信号を照射するハイドロフォンまたは超音波受信子18aと、その周囲に配置された超音波探触子または超音波送信子18bとから成る(図2参照)。超音波送信子18bは、超音波受信子18aの中心軸線に沿って該超音波受信子18aの端面から所定の距離の位置に焦点を結ぶように凹面を形成している。
【0009】
超音波素子18は、超音波送信子18bのための発振子(図示せず)を備えた制御装置24に接続されており、超音波送信子18bから送信された超音波は、スラブ16の表面、スラブ16の内部欠陥およびスラブ16の裏面で反射して超音波受信子18aにより受信され、超音波受信子18aが受信した信号が制御装置24に送信される。また、走査装置20の駆動装置22もまた制御装置24に接続されており、制御装置24において超音波素子18の位置決めが制御される。制御装置24には、更に、制御装置24に送信された信号を、超音波素子18の位置情報と共に処理するための信号処理手段としてのパーソナルコンピュータ26や、制御装置24が受信した信号をモニターするためのオシロスコープ28が接続されている。
【0010】
以下、本実施形態の作用を説明する。
図3を参照すると、検査対象物16の典型例として板厚60mmの鋼材スラブ16′が示されており、該鋼材スラブ16′は、ドリルにより小孔16aを該鋼材スラブ16′の裏面から形成してスラブ内部の欠陥を模擬している。
【0011】
鋼材スラブは、一般的に溶融した鋼材を連続鋳造法等により鋳造し、冷却、凝固させた金属部材であり、精錬の段階で溶鋼中に取り込まれたスラグ、特に粒径0.5〜1mm程度の酸化アルミニウム(Al2O3)が介在物として混入している。こうした介在物は、鋼材と比較して比重が非常に小さいために、冷却過程において鋼材表面から内部へ凝固が進むときに浮力により鋼材内で浮上し、鋼材の表面から50mm程度の深さに存在することが多い。そこで、超音波送信子18bは、鋼材スラブの冷却過程において上側に配置された一側面を臨むように配置し、かつ、鋼材の表面から50mm程度の深さの位置に焦点を結ぶように形成することが好ましい。
【0012】
図3に示した鋼材スラブ16′を検査対象物16として、図1に示した実験装置10で超音波送信子18bから超音波パルス信号を照射して行った実験結果を図4〜図8に示す。なお、図4は、小孔16aを備えない鋼材スラブ16′の場合であり、図3〜図8は、鋼材スラブ16′にドリルにより深さ14mm、直径0.5mm、1mm、2mm、3mmの小孔16aを夫々形成した部材を検査対象物16とした場合の実験結果である。
【0013】
図4〜図8を参照すると、超音波送信子18bから照射されたパルス波の鋼材スラブ16′の表面における反射波Iと、裏面における反射波IIとの間に欠陥、つまり小孔16aの底面での反射波IIIが現われることが理解されよう。特に、小孔16aの直径が大きくなると、欠陥での反射波IIIが大きくなり、裏面における反射波IIが小さくなっている。これは、小孔16aの直径が大きくなると、超音波送信子18bからの超音波が小孔16aの底面で反射してしまい、鋼材スラブ16′の裏面に到達できなくなっていることを示していると考えられ、鋼材の表面から50mm程度の深さの位置に焦点を結ぶように凹面を形成している効果であると考えられる。
【0014】
図1の構成では、超音波送信子18bはパルス状の超音波信号を照射するので、検査時間は比較的短くて済む。一般に、鋼材スラブ中には介在物に加えて気泡が取り込まれていることもあるが、気泡は多くの場合、鋳造工程の後の圧延工程において圧潰されて問題となることは少ない。然しながら、鋼材スラブ中に介在物が存在する場合には、圧延工程で鋼帯の割れを生じたり、鋼材の出荷先である例えば自動車製造者において塑性加工を行う際に製品の割れを生じたりする。
【0015】
ここで、図9を参照すると、鋼材の母相と非金属介在物との間の結合剛性は圧縮相と引張(希薄)相で異なり、引張側が圧縮側よりも低くなっている。超音波の伝播速度はヤング率の平方根に比例するので、伝播速度は圧縮相において引張相よりも高くなる。そのため、送信子18bから検査対象物16へ向けてバースト波を照射することにより、該バースト波が検査対象物16に入射し介在物において反射した後の波形に歪みを生じ、この歪みは高調波(入射波周波数の2以上の整数倍の周波数を持つ波)の振幅で定量化することが可能である(図10参照)。従って、入射波振幅に対する反射波の高調波成分、特に二次高調波の振幅の比を得ることにより、非金属介在物の存在の有無が判定可能となる。
【0016】
非線形応力歪みの関係は以下の式にて与えられる。
σ=E1ε+E2ε2 (E2:負)…(1)
式(1)に従う弾性体の一次元波動方程式の解は以下の式にて与えられる。
【数1】
【0017】
ここで、
u:変位
A1:入射波振幅
E1:鋼材ヤング率
E2:非金属介在物ヤング率
i:虚数単位
k:波数(2π/λ(波長))
x:距離
ω:2πf(周波数)
である。
【0018】
二次高調波成分の振幅をA2とすると、
【数2】
で表される。
従って、入射波振幅に対する二次高調波振幅の比は以下の式にて得られる。
【数3】
【0019】
式(4)から、入射波振幅に対する二次高調波振幅の比は、入射振幅、伝播距離x、および波数の二乗に比例することが理解される。なお、鋼結晶粒間では、結晶方位の差による弾性係数の異方性が存在するが、鋼材結晶粒と結晶粒との界面では、引張相と圧縮相による剛性の差が無いので、測定装置で検出できる高調波は励起されない。また、鋼材結晶粒と気泡との界面でも、引張相と圧縮相による剛性の差が無いので、測定装置で検出できる高調波は励起されない。従って、入射超音波バースト波の反射波の高調波、特に二次高調波を求めることにより、検査対象物16の内部欠陥が気泡によるものか介在物によるものかの判定も可能となる。
【0020】
然しながら、超音波受信子が受信する反射波には、介在物からの反射波(欠陥信号)に加えて、介在物からの反射波とは無関係の反射波(ノイズ信号)が含まれている。このノイズ信号は、材料中に存在する不均質性に基づくノイズや結晶粒界での散乱ノイズ等、種々の原因によって発生するが、本発明は、このノイズ信号と欠陥信号と分離することを主眼としている。
【0021】
以下、図11、12を参照して、ノイズ信号と欠陥信号とを分離する方法について説明する。
図11は、実験に用いたサンプルスラブを示している。サンプルスラブ30は、円柱状の下部32と、接合面36で下部32に接合された上部34とを有し、接合面34に介在物として、0.8mm、0.7mm、0.6mm、0.5mmの直径を有した4つのアルミナ系材料から成る小球38が配置されている。上部34は、下部32と同一直径の円柱部34aと該円柱部34aの上面に連結され上方に広がる円錐部34bとから成り、超音波素子18から円錐部34bの上面に向け集束する超音波を照射した。
【0022】
実験は、超音波送信子へ印加する入力電圧Viを変化させて、上述した方法で入射波振幅に対する二次高調波振幅の比A2/A1を測定した。図12は、測定結果を示したグラフであり、縦軸はA2/A1をパーセント表示した値であり、横軸は最大入力電圧Vmaxに対する入力電圧Viをパーセント表示した値である。なお、図12において、図11(b)に示している球形介在物を配置した以外の、ある測定箇所の一例が測定箇所Aとして示されている。また、図12のグラフにおいて、0.8mmの小球からの信号は実線で示され、0.7mmの小球からの信号は破線で示され、0.6mmの小球からの信号は一点鎖線で示され、0.5mmの直径の小球からの信号は二点鎖線で示されている。点線は、小球38を外して超音波バースト波を照射した場合のA2/A1を示している。
【0023】
図12を参照すると、小球38の各々へ向けて超音波バースト波を照射した場合には、A2/A1の値は入力電圧Viに概ね比例しているが、小球38を外して超音波バースト波を照射した場合には、A2/A1の値は入力電圧Viに比例していないことが理解される。これは、入射振幅A1が入力電圧Viに比例し、かつ、式(4)からA2/A1が入射振幅A1に比例するからである。
【0024】
従って、本実施形態によれば、既述した超音波パルス波または超音波バースト波をスラブに向けて照射して介在物の存在を示す信号を得た部分(欠陥候補)に関して、更に、入力電圧Viを変化させつつA2/A1の値を求めることにより、ノイズ信号を除去することができ、より正確に介在物の存在を検知可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明による超音波探傷装置の一例を示すブロック図である。
【図2】超音波素子の略示断面図である。
【図3】実験に用いた検査対象物としての鋼材の構造を示す模式図である。
【図4】実験結果を示すグラフである。
【図5】実験結果を示すグラフである。
【図6】実験結果を示すグラフである。
【図7】実験結果を示すグラフである。
【図8】実験結果を示すグラフである。
【図9】鋼材と非金属介在物との間の結合剛性を示すグラフである。
【図10】超音波受信子からの信号に含まれる入射波振幅と、高調波を示すグラフである。
【図11】実験に用いたサンプルスラブの略示図であり、(a)は側面図、(b)はサンプルスラブの下部の接合面に配置した球形介在物を示す端面図である。
【図12】実験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0026】
10 探傷装置
12 水槽
14 テーブル
16 検査対象物
18 超音波素子
18a 超音波受信子
18b 超音波送信子
20 走査装置
22 駆動装置
24 制御装置
26 パーソナルコンピュータ
28 オシロスコープ
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材中に超音波を送信して該鋼材中の介在物を検出する超音波探傷方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2002-323481号公報には、非金属介在物と、略球形など平坦でない形状のボイド、および平坦な形状の未圧着のボイドとを識別するようにした超音波探傷方法および装置が開示されている。該公報に開示された超音波探傷装置では、超音波集束ビームを被検材に送信し、受信した反射波に基づいて、被検材中の異物からの反射波を抽出し、その反射波の振幅を測定して異物を検査する超音波探傷方法において、異物が存在する深さ方向の位置でビーム径が異なる複数の超音波集束ビームによって被検材中の異物からの反射波の振幅を測定し、その差をとることにより異物の種類を判別するようになっている。
【特許文献1】特開2002-323481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
鋼材スラブは可能な限り均質に製造されるべきであるが、結晶粒径を完全に統一することは不可能であり、非金属介在物が含まれていないとしても、一定の不均性を有している。不均質な材料に対して超音波探傷試験を行った場合、観測される波形には検出すべき介在物からの応答だけでなく、同時に材料中に存在する不均質性に基づくノイズや結晶粒界での散乱ノイズが含まれている。上記公報に開示された装置および方法では、こうしたノイズに有意な信号が紛れて介在物の検出ができない問題がある。
【0004】
このノイズの特性を調べ応答波形からノイズを取り除くことができれば、超音波探傷試験の精度向上につながると考えられる。
そこで本発明は、超音波探傷方法および装置において、被検査対象物、例えば鋼材スラブに向けて照射した超音波の反射波に含まれるノイズを分離して正確に介在物の存在有無を判定できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の本発明は(a)検査対象物の一側面を臨むように超音波送信子と超音波受信子と配置する段階と、(b)前記超音波送信子から超音波バースト波を前記検査対象物に送信する段階と、(c)前記検査対象物から反射した超音波バースト波を前記超音波受信子により受信する段階と、(d)前記超音波受信子から送出される信号を処理して、入射波振幅に対する前記反射した超音波バースト波の二次高調波の振幅の比を得る段階と、(e)前記超音波送信子へ印加する入力電圧を変化させる段階と、(f)前記段階(b)〜(e)を繰り返して前記入力電圧の変化と前記入射波振幅に対する二次高調波の振幅の比の変化とを関連づける段階とを具備した検査対象物に含まれる介在物を検出する超音波探傷方法を要旨とする。
【0006】
請求項4に記載の本発明は、超音波探傷装置において、検査対象物を固定する手段と、前記検査対象物の一面を臨むように位置決めされて超音波バースト波を送信する超音波送信子と、前記検査対象物の前記一面を臨むように位置決めされて前記検査対象物から反射した超音波バースト波を受信する超音波受信子と、前記超音波受信子から送出される信号を処理して、入射波振幅に対する前記反射した超音波バースト波の二次高調波の振幅の比を得るための信号処理手段と、前記超音波送信子へ印加する入力電圧の変化と前記入射波振幅に対する二次高調波の振幅の比の変化とを関連づける手段と、を具備した検査対象物に含まれる介在物を検出する超音波探傷装置を要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本願発明によれば、超音波バースト波を照射してその反射波を処理して、入力電圧の変化と入射波振幅に対する反射波の二次高調波の振幅の比の変化とを関連づけることにより、前記反射波が介在物からの反射波であるように見えるときに、該反射波が欠陥信号であるかノイズ信号であるかを判定可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1を参照すると、探傷装置10は、走査装置20により水槽12内において直交三軸方向に移動自在に配設された超音波素子18を具備している。超音波素子18は、水槽12内に配設されたテーブル14上に固定された検査対象材料として例えば鋼製スラブ16の一側面を臨むように配置され、中心部に配置され超音波信号を照射するハイドロフォンまたは超音波受信子18aと、その周囲に配置された超音波探触子または超音波送信子18bとから成る(図2参照)。超音波送信子18bは、超音波受信子18aの中心軸線に沿って該超音波受信子18aの端面から所定の距離の位置に焦点を結ぶように凹面を形成している。
【0009】
超音波素子18は、超音波送信子18bのための発振子(図示せず)を備えた制御装置24に接続されており、超音波送信子18bから送信された超音波は、スラブ16の表面、スラブ16の内部欠陥およびスラブ16の裏面で反射して超音波受信子18aにより受信され、超音波受信子18aが受信した信号が制御装置24に送信される。また、走査装置20の駆動装置22もまた制御装置24に接続されており、制御装置24において超音波素子18の位置決めが制御される。制御装置24には、更に、制御装置24に送信された信号を、超音波素子18の位置情報と共に処理するための信号処理手段としてのパーソナルコンピュータ26や、制御装置24が受信した信号をモニターするためのオシロスコープ28が接続されている。
【0010】
以下、本実施形態の作用を説明する。
図3を参照すると、検査対象物16の典型例として板厚60mmの鋼材スラブ16′が示されており、該鋼材スラブ16′は、ドリルにより小孔16aを該鋼材スラブ16′の裏面から形成してスラブ内部の欠陥を模擬している。
【0011】
鋼材スラブは、一般的に溶融した鋼材を連続鋳造法等により鋳造し、冷却、凝固させた金属部材であり、精錬の段階で溶鋼中に取り込まれたスラグ、特に粒径0.5〜1mm程度の酸化アルミニウム(Al2O3)が介在物として混入している。こうした介在物は、鋼材と比較して比重が非常に小さいために、冷却過程において鋼材表面から内部へ凝固が進むときに浮力により鋼材内で浮上し、鋼材の表面から50mm程度の深さに存在することが多い。そこで、超音波送信子18bは、鋼材スラブの冷却過程において上側に配置された一側面を臨むように配置し、かつ、鋼材の表面から50mm程度の深さの位置に焦点を結ぶように形成することが好ましい。
【0012】
図3に示した鋼材スラブ16′を検査対象物16として、図1に示した実験装置10で超音波送信子18bから超音波パルス信号を照射して行った実験結果を図4〜図8に示す。なお、図4は、小孔16aを備えない鋼材スラブ16′の場合であり、図3〜図8は、鋼材スラブ16′にドリルにより深さ14mm、直径0.5mm、1mm、2mm、3mmの小孔16aを夫々形成した部材を検査対象物16とした場合の実験結果である。
【0013】
図4〜図8を参照すると、超音波送信子18bから照射されたパルス波の鋼材スラブ16′の表面における反射波Iと、裏面における反射波IIとの間に欠陥、つまり小孔16aの底面での反射波IIIが現われることが理解されよう。特に、小孔16aの直径が大きくなると、欠陥での反射波IIIが大きくなり、裏面における反射波IIが小さくなっている。これは、小孔16aの直径が大きくなると、超音波送信子18bからの超音波が小孔16aの底面で反射してしまい、鋼材スラブ16′の裏面に到達できなくなっていることを示していると考えられ、鋼材の表面から50mm程度の深さの位置に焦点を結ぶように凹面を形成している効果であると考えられる。
【0014】
図1の構成では、超音波送信子18bはパルス状の超音波信号を照射するので、検査時間は比較的短くて済む。一般に、鋼材スラブ中には介在物に加えて気泡が取り込まれていることもあるが、気泡は多くの場合、鋳造工程の後の圧延工程において圧潰されて問題となることは少ない。然しながら、鋼材スラブ中に介在物が存在する場合には、圧延工程で鋼帯の割れを生じたり、鋼材の出荷先である例えば自動車製造者において塑性加工を行う際に製品の割れを生じたりする。
【0015】
ここで、図9を参照すると、鋼材の母相と非金属介在物との間の結合剛性は圧縮相と引張(希薄)相で異なり、引張側が圧縮側よりも低くなっている。超音波の伝播速度はヤング率の平方根に比例するので、伝播速度は圧縮相において引張相よりも高くなる。そのため、送信子18bから検査対象物16へ向けてバースト波を照射することにより、該バースト波が検査対象物16に入射し介在物において反射した後の波形に歪みを生じ、この歪みは高調波(入射波周波数の2以上の整数倍の周波数を持つ波)の振幅で定量化することが可能である(図10参照)。従って、入射波振幅に対する反射波の高調波成分、特に二次高調波の振幅の比を得ることにより、非金属介在物の存在の有無が判定可能となる。
【0016】
非線形応力歪みの関係は以下の式にて与えられる。
σ=E1ε+E2ε2 (E2:負)…(1)
式(1)に従う弾性体の一次元波動方程式の解は以下の式にて与えられる。
【数1】
【0017】
ここで、
u:変位
A1:入射波振幅
E1:鋼材ヤング率
E2:非金属介在物ヤング率
i:虚数単位
k:波数(2π/λ(波長))
x:距離
ω:2πf(周波数)
である。
【0018】
二次高調波成分の振幅をA2とすると、
【数2】
で表される。
従って、入射波振幅に対する二次高調波振幅の比は以下の式にて得られる。
【数3】
【0019】
式(4)から、入射波振幅に対する二次高調波振幅の比は、入射振幅、伝播距離x、および波数の二乗に比例することが理解される。なお、鋼結晶粒間では、結晶方位の差による弾性係数の異方性が存在するが、鋼材結晶粒と結晶粒との界面では、引張相と圧縮相による剛性の差が無いので、測定装置で検出できる高調波は励起されない。また、鋼材結晶粒と気泡との界面でも、引張相と圧縮相による剛性の差が無いので、測定装置で検出できる高調波は励起されない。従って、入射超音波バースト波の反射波の高調波、特に二次高調波を求めることにより、検査対象物16の内部欠陥が気泡によるものか介在物によるものかの判定も可能となる。
【0020】
然しながら、超音波受信子が受信する反射波には、介在物からの反射波(欠陥信号)に加えて、介在物からの反射波とは無関係の反射波(ノイズ信号)が含まれている。このノイズ信号は、材料中に存在する不均質性に基づくノイズや結晶粒界での散乱ノイズ等、種々の原因によって発生するが、本発明は、このノイズ信号と欠陥信号と分離することを主眼としている。
【0021】
以下、図11、12を参照して、ノイズ信号と欠陥信号とを分離する方法について説明する。
図11は、実験に用いたサンプルスラブを示している。サンプルスラブ30は、円柱状の下部32と、接合面36で下部32に接合された上部34とを有し、接合面34に介在物として、0.8mm、0.7mm、0.6mm、0.5mmの直径を有した4つのアルミナ系材料から成る小球38が配置されている。上部34は、下部32と同一直径の円柱部34aと該円柱部34aの上面に連結され上方に広がる円錐部34bとから成り、超音波素子18から円錐部34bの上面に向け集束する超音波を照射した。
【0022】
実験は、超音波送信子へ印加する入力電圧Viを変化させて、上述した方法で入射波振幅に対する二次高調波振幅の比A2/A1を測定した。図12は、測定結果を示したグラフであり、縦軸はA2/A1をパーセント表示した値であり、横軸は最大入力電圧Vmaxに対する入力電圧Viをパーセント表示した値である。なお、図12において、図11(b)に示している球形介在物を配置した以外の、ある測定箇所の一例が測定箇所Aとして示されている。また、図12のグラフにおいて、0.8mmの小球からの信号は実線で示され、0.7mmの小球からの信号は破線で示され、0.6mmの小球からの信号は一点鎖線で示され、0.5mmの直径の小球からの信号は二点鎖線で示されている。点線は、小球38を外して超音波バースト波を照射した場合のA2/A1を示している。
【0023】
図12を参照すると、小球38の各々へ向けて超音波バースト波を照射した場合には、A2/A1の値は入力電圧Viに概ね比例しているが、小球38を外して超音波バースト波を照射した場合には、A2/A1の値は入力電圧Viに比例していないことが理解される。これは、入射振幅A1が入力電圧Viに比例し、かつ、式(4)からA2/A1が入射振幅A1に比例するからである。
【0024】
従って、本実施形態によれば、既述した超音波パルス波または超音波バースト波をスラブに向けて照射して介在物の存在を示す信号を得た部分(欠陥候補)に関して、更に、入力電圧Viを変化させつつA2/A1の値を求めることにより、ノイズ信号を除去することができ、より正確に介在物の存在を検知可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明による超音波探傷装置の一例を示すブロック図である。
【図2】超音波素子の略示断面図である。
【図3】実験に用いた検査対象物としての鋼材の構造を示す模式図である。
【図4】実験結果を示すグラフである。
【図5】実験結果を示すグラフである。
【図6】実験結果を示すグラフである。
【図7】実験結果を示すグラフである。
【図8】実験結果を示すグラフである。
【図9】鋼材と非金属介在物との間の結合剛性を示すグラフである。
【図10】超音波受信子からの信号に含まれる入射波振幅と、高調波を示すグラフである。
【図11】実験に用いたサンプルスラブの略示図であり、(a)は側面図、(b)はサンプルスラブの下部の接合面に配置した球形介在物を示す端面図である。
【図12】実験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0026】
10 探傷装置
12 水槽
14 テーブル
16 検査対象物
18 超音波素子
18a 超音波受信子
18b 超音波送信子
20 走査装置
22 駆動装置
24 制御装置
26 パーソナルコンピュータ
28 オシロスコープ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)検査対象物の一面を臨むように超音波送信子と超音波受信子と配置する段階と、
(b)前記超音波送信子から超音波バースト波を前記検査対象物に送信する段階と、
(c)前記検査対象物から反射した超音波バースト波を前記超音波受信子により受信する段階と、
(d)前記超音波受信子から送出される信号を処理して、入射波振幅に対する前記反射した超音波バースト波の二次高調波の振幅の比を得る段階と、
(e)前記超音波送信子へ印加する入力電圧を変化させる段階と、
(f)前記段階(b)〜(e)を繰り返して前記入力電圧の変化と前記入射波振幅に対する二次高調波の振幅の比の変化とを関連づける段階を具備した検査対象物に含まれる介在物を検出する超音波探傷方法。
【請求項2】
(g)前記入力電圧と前記入射波振幅に対する二次高調波の振幅の比との間に線形関係がある場合に介在物が存在すると判断する段階を更に含む請求項1に記載の超音波探傷方法。
【請求項3】
前記超音波送信子は、前記超音波受信子の周囲を包囲するように同心に配置されている請求項1または2に記載の超音波探傷方法。
【請求項4】
超音波探傷装置において、
検査対象物を固定する手段と、
前記検査対象物の一面を臨むように位置決めされて超音波バースト波を送信する超音波送信子と、
前記検査対象物の前記一面を臨むように位置決めされて前記検査対象物から反射した超音波バースト波を受信する超音波受信子と、
前記超音波受信子から送出される信号を処理して、入射波振幅に対する前記反射した超音波バースト波の二次高調波の振幅の比を得るための信号処理手段と、
前記超音波送信子へ印加する入力電圧の変化と前記入射波振幅に対する二次高調波の振幅の比の変化とを関連づける手段と、
を具備した検査対象物に含まれる介在物を検出する超音波探傷装置。
【請求項5】
前記入力電圧と前記入射波振幅に対する二次高調波の振幅の比との間に線型関係がある場合に介在物が存在すると判断する手段を更に含む請求項4に記載の超音波探傷装置。
【請求項6】
前記超音波送信子は、前記超音波受信子の周囲を包囲するように同心に配置されている請求項4または5に記載の超音波探傷装置。
【請求項7】
更に水を貯留するための貯水手段を具備し、前記検査対象物および超音波素子を前記貯水手段により貯留された水中に浸漬するようにした請求項4から6の何れか1項に記載の記載の超音波探傷装置。
【請求項8】
前記超音波素子は、少なくとも向かい合う前記検査対象物の平面に沿って該検査対象物に対して相対的に移動可能に設けられている請求項4から7の何れか1項に記載の超音波探傷装置。
【請求項9】
前記検査対象物は溶融鋼材を鋳造した鋼材であり、前記超音波素子は、前記鋼材を検査対象物として配置されている請求項4から8の何れか1項に記載の超音波探傷装置。
【請求項1】
(a)検査対象物の一面を臨むように超音波送信子と超音波受信子と配置する段階と、
(b)前記超音波送信子から超音波バースト波を前記検査対象物に送信する段階と、
(c)前記検査対象物から反射した超音波バースト波を前記超音波受信子により受信する段階と、
(d)前記超音波受信子から送出される信号を処理して、入射波振幅に対する前記反射した超音波バースト波の二次高調波の振幅の比を得る段階と、
(e)前記超音波送信子へ印加する入力電圧を変化させる段階と、
(f)前記段階(b)〜(e)を繰り返して前記入力電圧の変化と前記入射波振幅に対する二次高調波の振幅の比の変化とを関連づける段階を具備した検査対象物に含まれる介在物を検出する超音波探傷方法。
【請求項2】
(g)前記入力電圧と前記入射波振幅に対する二次高調波の振幅の比との間に線形関係がある場合に介在物が存在すると判断する段階を更に含む請求項1に記載の超音波探傷方法。
【請求項3】
前記超音波送信子は、前記超音波受信子の周囲を包囲するように同心に配置されている請求項1または2に記載の超音波探傷方法。
【請求項4】
超音波探傷装置において、
検査対象物を固定する手段と、
前記検査対象物の一面を臨むように位置決めされて超音波バースト波を送信する超音波送信子と、
前記検査対象物の前記一面を臨むように位置決めされて前記検査対象物から反射した超音波バースト波を受信する超音波受信子と、
前記超音波受信子から送出される信号を処理して、入射波振幅に対する前記反射した超音波バースト波の二次高調波の振幅の比を得るための信号処理手段と、
前記超音波送信子へ印加する入力電圧の変化と前記入射波振幅に対する二次高調波の振幅の比の変化とを関連づける手段と、
を具備した検査対象物に含まれる介在物を検出する超音波探傷装置。
【請求項5】
前記入力電圧と前記入射波振幅に対する二次高調波の振幅の比との間に線型関係がある場合に介在物が存在すると判断する手段を更に含む請求項4に記載の超音波探傷装置。
【請求項6】
前記超音波送信子は、前記超音波受信子の周囲を包囲するように同心に配置されている請求項4または5に記載の超音波探傷装置。
【請求項7】
更に水を貯留するための貯水手段を具備し、前記検査対象物および超音波素子を前記貯水手段により貯留された水中に浸漬するようにした請求項4から6の何れか1項に記載の記載の超音波探傷装置。
【請求項8】
前記超音波素子は、少なくとも向かい合う前記検査対象物の平面に沿って該検査対象物に対して相対的に移動可能に設けられている請求項4から7の何れか1項に記載の超音波探傷装置。
【請求項9】
前記検査対象物は溶融鋼材を鋳造した鋼材であり、前記超音波素子は、前記鋼材を検査対象物として配置されている請求項4から8の何れか1項に記載の超音波探傷装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−284428(P2006−284428A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−106149(P2005−106149)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】
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