非膵島組織における調節された膵ホルモンの産生を誘導する方法
【課題】本出願は非膵および非内分泌細胞、特に肝細胞/組織における膵ホルモン生産を含む膵内分泌表現型および機能を誘導する方法および組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】この課題は、最終的にはニコチンアミド、EGF、アクチビンA、HGF、エキセジンGLP−1またはベータセルリンの存在下にPDX−1ポリペプチド、ニューロDポリペプチドまたはベータセルリンペプチドをコードする核酸のようなPDX−1インデューサー化合物に該非膵および非内分泌細胞を接触させることにより達成された。
【解決手段】この課題は、最終的にはニコチンアミド、EGF、アクチビンA、HGF、エキセジンGLP−1またはベータセルリンの存在下にPDX−1ポリペプチド、ニューロDポリペプチドまたはベータセルリンペプチドをコードする核酸のようなPDX−1インデューサー化合物に該非膵および非内分泌細胞を接触させることにより達成された。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は一般的には非内分泌組織における膵ホルモン生産を含む膵内分泌表現型および機能を誘導する方法、そして特に、内分泌関連疾患を治療するための方法および医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
内分泌膵臓は主にペプチドホルモングルカゴン、インスリン、ソマトスタチンおよび膵ポリペプチドを合成して分泌する島細胞よりなる。インスリン遺伝子の発現は特定の転写因子により部分的には媒介されている制御機序を介して哺乳類膵の膵島β細胞に限定されている。他の細胞においては、インスリン、他の膵ホルモンおよび特定のペプチダーゼの遺伝子は転写的にサイレントである。ホメオドメイン蛋白PDX−1(膵および十二指腸ホメオボックス遺伝子−1、別称IDX−1、IPF−1、STF−1またはIUF−1)は膵島の発生および機能の調節において中枢的な役割を果たす。PDX−1は例えばインスリン、グルカゴンソマトスタチン、プロインスリン変換酵素1/3(PC1/3)、GLUT−2およびグルコキナーゼのような種々の遺伝子の島細胞特異的発現に直接または間接的に関与している。更にまた、PDX−1はグルコースに応答したインスリン遺伝子の転写を媒介する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
(発明の要旨)
本発明は部分的には肝における膵および十二指腸のホメオボックス遺伝子(PDX−1)の異所性の発現がサイレント膵ホルモン遺伝子の発現およびプロホルモンを成熟した生物学的に活性なホルモンに変換するプロセシング機序を誘導するということの発見に基づいている。
【0004】
本発明はPDX−1インデューサー化合物を細胞内に導入することによる細胞における膵遺伝子の発現を誘導する方法を提供する。本発明は更に、PDX−1インデューサー化合物に非膵細胞を接触させることによる膵細胞に非膵細胞を変換する方法を提供する。非膵細胞を、該非膵細胞におけるC/EBPβ、アルブミンまたはADH−1の発現を抑制するような、内因性PDX−1、胚マーカー、インスリン、グルコゴンまたはソマトスタチンの発現を誘導する量のPDX−1インデューサー化合物に接触させる。胚マーカーは例えばアルファ−1フェトプロテインまたはGata−4である。
【0005】
PDX−1インデューサー化合物は内因性のPDX−1の発現を誘導する何れかの化合物である。PDX−1インデューサー化合物は核酸、ポリペプチドまたは小型分子である。例示されるPDX−1インデューサー化合物は、膵および十二指腸ホモボックス(PDX−1)ポリペプチド、ニューロDポリペプチドまたはベータセルリンポリペプチドをコードする核酸である。
【0006】
核酸は例えばサイトメガロウィルス(CMV)プロモーター、BOSプロモーター、トランスサイレチンプロモーター、グルコース6−ホスファターゼプロモーター、アルブミン腸脂肪酸結合蛋白プロモーター、チログロブリンプロモーター、界面活性剤Aプロモーター、界面活性剤cプロモーターまたはホスホグリセレートキナーゼ1プロモーターのようなプロモーターに作動可能に連結している。核酸の方法はプラスミドまたはベクターに存在する。ベクターはウィルスベクター、例えばアデノウィルスベクターまたはレンチウィルスベクターである。アデノウィルスベクターは例えばgutless組み換えアデノウィルスベクターである。
【0007】
「発現を誘導する」とは、遺伝子の発現が化合物非存在下と比較して化合物存在下において増大することを意味する。該細胞に対し、膵または十二指腸ホモボックス1(PDX−1)ポリペプチドをコードする核酸を含む組成物は該細胞において該遺伝子を誘導するのに十分な量である。「発現を抑制する」とは、化合物非存在下と比較して化合物存在下において遺伝子の発現が減少することを意味する。
【0008】
膵遺伝子は例えば、膵転写因子、例えばPDX−1、ベータ2、ISL−2、Nkx6.1、Ngn3.1またはNKx2.2、内分泌遺伝子、例えばSCG2、SGNE1、CHGN、PTPRN、AMPH、NBEA、ニューロDまたはフォリスタチン、または外分泌遺伝子、例えばセリンプロテアーゼ阻害剤、KazalI型、エラスターゼ、p48因子または再生島誘導1アルファを包含する。
【0009】
細胞は哺乳類対象からインビボ、インビトロまたはエクスビボで提供される。細胞は非膵細胞である。細胞は分化した細胞である。細胞は内胚葉細胞、外胚葉細胞または中胚葉細胞である。例えば細胞は肝細胞、皮膚細胞または骨髄細胞である。或いは、細胞は更に、トランスフェクション剤またはニコチンアミド、表皮成長因子、アクチビンA、肝成長因子、エキセンジン、GLP−1またはベータセルリンを含む組成物に接触させる。
【0010】
本発明は膵ホルモン、例えばインスリン、グルカゴンおよびソマトスタチンの対象における濃度を誘導する方法を提供する。1つの特徴において、方法は、対象において膵ホルモン生産を誘導するのに十分な量の、PDXの発現または活性を増大させる化合物を、それを必要とする対象に投与することを含む。別の特徴において、方法は膵ホルモンを発現することができる細胞を準備すること、PDXの発現または活性を増大させる化合物に細胞を接触させること、および、細胞を対象に導入することにより対象における膵ホルモン生産を誘導することを含む。
【0011】
本発明において更に提供されるものは、対象における膵関連の障害、例えば糖尿病、例えばI型またはII型の治療、症状緩解または発症遅延の方法である。方法はPDXの発現を増大させる化合物の治療有効量を対象に投与することを含む。例えば、化合物は膵および十二指腸のホモボックス1(PDX−1)ポリペプチドをコードする核酸である。糖尿病の症状は高血糖症、血中グルコース(血糖値)上昇、頻尿、飲水渇望亢進、飢餓感亢進、異常体重減少、疲労亢進、刺激感または眼のかすみを包含する。糖尿病は例えば空腹時血漿中グルコース試験またはランダム血糖値試験により診断される。
【0012】
別の特徴において、本発明は対象における膵島遺伝子発現の特徴を誘導する方法を提供する。方法は膵島遺伝子発現を誘導するのに十分な量の、PDXの発現または活性を増大させる化合物を、それを必要とする対象に投与することを含む。
【0013】
本発明の更に別の特徴は細胞における膵島細胞表現型の誘導または増強の方法である。方法は該細胞において膵島細胞表現型を誘導または増強するのに十分な量の、PDXの発現または活性を増大させる化合物に細胞を接触させることを含む。
【0014】
更にまたPDXの発現を増大させる化合物および製薬上許容しうる担体を含む医薬組成物も包含される。
本発明はまた、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
細胞における内因性PDX−1発現を誘導する方法であって、該方法は該細胞における該内因性PDX−1発現を誘導するのに十分な量のPDX−1インデューサー化合物を含む組成物を該細胞に導入することを含む方法。
(項目2)
該PDX−1インデューサー化合物が、膵および十二指腸ホメオボックス遺伝子−1(PDX−1)ポリペプチド、ニューロDポリペプチド、または、ベータセルリンポリペプチドをコードする核酸を含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
該核酸がプロモーターに作動可能に連結している項目2記載の方法。
(項目4)
該プロモーターがサイトメガロウィルス(CMV)プロモーター、BOSプロモーター、トランスサイレチンプロモーター、グルコース6−ホスファターゼプロモーター、アルブミン腸脂肪酸結合蛋白プロモーター、チログロブリンプロモーター、界面活性剤Aプロモーター、界面活性剤cプロモーターまたはホスホグリセレートキナーゼ1プロモーターである項目2記載の方法。
(項目5)
該核酸がプラスミド中に存在する項目2記載の方法。
(項目6)
該核酸がウィルスベクター中に存在する項目2記載の方法。
(項目7)
該ウィルスベクターがアデノウィルスベクターまたはレンチウィルスベクターである項目6記載の方法。
(項目8)
該アデノウィルスベクターがgutless組み換えアデノウィルスベクターである項目7記載の方法。
(項目9)
該細胞が非膵細胞である、項目1に記載の方法。
(項目10)
該細胞が内胚葉細胞、外胚葉細胞または中胚葉細胞である項目1記載の方法。
(項目11)
該内胚葉細胞が肝細胞である項目10記載の方法。
(項目12)
該外胚葉細胞が皮膚細胞である項目10記載の方法。
(項目13)
該中胚葉細胞が骨髄細胞である項目10記載の方法。
(項目14)
該細胞は哺乳類対象からインビボ、インビトロまたはエクスビボで提供される、項目1に記載の方法。
(項目15)
該細胞をトランスフェクション剤と接触させることを更に含む項目1記載の方法。
(項目16)
ニコチンアミド、表皮成長因子、アクチビンA、肝成長因子、エキセンジン、GLP−1またはベータセルリンを含む組成物に該細胞を接触させることを更に含む項目1記載の方法。
(項目17)
非膵細胞における膵遺伝子の発現を誘導する方法であって、該方法が、該細胞における該遺伝子発現を誘導するのに十分な量の膵および十二指腸ホメオボックス遺伝子−1(PDX−1)ポリペプチドをコードする核酸を含む組成物を該細胞に導入することを含む方法。
(項目18)
該膵遺伝子が膵転写因子である項目17記載の方法。
(項目19)
該膵転写因子がベータ2、ISL−2、Nkx6.1、Ngn3.1またはNKx2.2である項目18記載の方法。
(項目20)
該膵遺伝子が内分泌遺伝子または外分泌遺伝子である項目17記載の方法。
(項目21)
該内分泌遺伝子がSCG2、SGNE1、CHGN、PTPRN、AMPH、NBEA、ニューロDまたはフォリスタチンである項目20記載の方法。
(項目22)
該外分泌遺伝子がセリンプロテアーゼ阻害剤、KazalI型、エラスターゼ、p48因子または再生島誘導1アルファである項目20記載の方法。
(項目23)
該細胞が内胚葉細胞、外胚葉細胞または中胚葉細胞である項目17記載の方法。
(項目24)
該内胚葉細胞が肝細胞である項目23記載の方法。
(項目25)
該外胚葉細胞が皮膚細胞である項目23記載の方法。
(項目26)
該中胚葉細胞が骨髄細胞である項目23記載の方法。
(項目27)
該細胞は哺乳類対象からインビボ、インビトロまたはエクスビボで提供される、項目17に記載の方法。
(項目28)
非膵細胞を膵細胞に変換する方法であって、
a.該非膵細胞において内因性PDX−1、胚マーカー、インスリン、グルカゴン、またはソマトスタチンの発現を誘導するための量、または、
b.該非膵細胞においてC/EBPβ、アルブミンまたはADH−1の発現を抑制するための量
のPDX−1インデューサー化合物に該非膵細胞を接触させることを含む方法。
(項目29)
該PDX−1インデューサー化合物が、膵および十二指腸ホメオボックス遺伝子−1(PDX−1)ポリペプチド、ニューロDポリペプチド、または、ベータセルリンポリペプチドをコードする核酸を含む、項目28に記載の方法。
(項目30)
該胚マーカーがアルファ−1フェトプロテインまたはGata−4である項目28記載の方法。
(項目31)
該非膵細胞が分化した細胞である項目28記載の方法。
(項目32)
該分化した細胞が肝細胞、皮膚細胞または骨髄細胞である項目31記載の方法。
(項目33)
対象における糖尿病の緩解のための方法であって、膵および十二指腸ホメオボックス遺伝子−1(PDX−1)ポリペプチドをコードする核酸を含む組成物を対象に投与する工程を包含する、方法。
(項目34)
該糖尿病が、I型糖尿病またはII型糖尿病である、項目33に記載の方法。
【0015】
特段の記載が無い限り、本明細書において使用する全ての専門技術用語は本発明が属する技術分野で通常理解されている通りの意味を有する。本明細書に記載したものと同様または等価な方法および材料を本発明の実施または試験において使用できるが、適当な方法および材料は以下に記載するとおりである。本明細書に記載する全ての出版物、特許出願、特許および他の参考文献は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。矛盾がある場合は、定義を含む本明細書が優先する。更に、材料、方法および実施例は例示に過ぎず限定を意図しない。
【0016】
本発明の他の特徴および利点は以下の詳細な説明および請求項から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】RT−PCRで測定した場合のアデノウィルス投与後のマウスインスリンI(mI−1)、マウスインスリンII(mI−2)、ヒトインスリン、PDX−1およびβ−アクチンに関するBalb/cマウス肝組織中のmRNAの検出を示す。レーン1:DNA非存在(PCRの陰性対照);レーン2〜6:AdCMV−PDX−1投与マウスの肝;レーン7、8:AdCMV−PDX−1+AdRIP−1−hIns投与マウスの肝;レーン9〜11:対照AdCMV−β−gal+AdRIP−1−hIns投与マウスの肝;レーン12、13:AdCMV−hIns投与マウスの肝;レーン14:正常マウス膵を示す。
【図2】ネズミ組織から抽出したインスリン関連ペプチドのHPLC溶離の特徴を示している。パネルAはPDX−1投与マウスの膵の特徴である。パネルBはPDX−1投与マウスの肝の特徴である。
【図3】RT−PCRにより測定したPDX−1、ソマトスタチンSomato)、プロインスリン変換酵素PC1/3(PC1/3)、グルカゴン(Glucg)およびβ−アクチンの検出を示す。PDX−1および対照投与マウスから抽出した全RNAはPC1/3特異的プライマーを用いて逆転写した。レーン1〜3:AdCMV−PDX−1投与マウス;レーン4〜5:AdCMV−β−gal投与マウス;レーン6:膵;レーン7:cDNA非存在(PCR用対照)。
【図4】マウス肝における異所性PDX−1発現はSTZ誘導高血糖症を緩解することを示す。12〜13週齢の雄性C57BL/6にクエン酸塩緩衝液中220mg/kgSTZを投与した。STZ投与後36〜48時間にマウスにAdCMVPDX−1(n=15匹)または対照としてAdCMVβ−gal(n=22、ただしSTZ投与後3〜5日に12匹が死亡、STZ投与後6〜7日に更に3匹が死亡)を注射した。AdCMVPDX−1投与では死亡例は観察されなかった。各投与では200μl食塩水中組み換えアデノウィルス2x109PFU(プラーク形成単位)を全身投与した。グルコース濃度は眼静脈から採取した血液試料で測定した。
【図5】培養物中の成熟肝細胞における異所性PDX発現がAdRIPhInsにより同じ細胞に同時送達されたインスリンプロモーター(ラットインスリン−1プロモーター)を活性化することを示す。ヒトインスリンは図1中と同様に検出される。レーン1:AdCMVPDX−1+AdRIPhInsを投与した細胞、レーン2:AdCMVβ−ガラクトシダーゼ+AdRIPhIns、レーン3:対照。
【図6】胎仔Fisherラット(E14)肝細胞の一次単層培養におけるインスリン1およびソマトスタチン遺伝子の誘導を示す。胎仔肝細胞は妊娠第14日のFisher344ラット胚から単離し、コラーゲン被覆組織培養皿上にプレーティングした。2〜5MOI(感染多重度=細胞当たりウィルス粒子数)の段階で細胞をAdCMVPDX−1に感染させた。全RNAをウィルス投与後4日に培養物から抽出し、RT−PCRでソマトスタチン遺伝子発現を分析した。RNAはオリゴ(dT)15プライマーを用いて図1に示すとおり逆転写し、そしてPCR増幅は表1に示すプライマーおよび条件を用いて実施した。レーン1〜3:PDX−1投与細胞から得た試料、レーン4〜6:未投与試料(対照)、レーン7:DNA非存在。PCR産物は1.7%アガロースゲル電気泳動上で分割した。
【図7】インスリンプロモーターへのその結合能力の増大により顕在化するPDX−1活性化に対するグルコースの作用を示す。GLUT−2およびGKの発現は、グルコースの進入および代謝を可能にすることによりこの活性化を促進する。中間経路のRIN−38細胞はAdCMV−GLUT2またはAdCMV−GK(レーン4〜6)に感染させるか、未投与とした(レーン1〜3)。ウィルス投与の24時間後、全細胞を0.2、5および15mMグルコース上でインキュベートした。
【図8A】インビボの成熟肝における膵遺伝子発現の内分泌レパートリーを異所性PDX−1が誘導することを示すRT−PCR分析の写真である。
【図8B】インビボの成熟肝における膵遺伝子発現の外分泌レパートリーを異所性PDX−1が誘導することを示すRT−PCR分析の写真である。
【図9】インビボのAd−CMV−PDX−1の単回投与後の時間の関数としてのPDX−1投与肝における膵遺伝子発現のRT−PCR分析の写真である。
【図10】投与後4〜6ヵ月後の中央静脈(cv)の近接部にインスリンおよびグルカゴン陽性細胞が位置していることを示す一連の写真である。パネルA:インスリン;パネルB:グルカゴン120日;パネルC:インスリン陽性細胞Ad−CMV−PDX−1投与180日後;パネルD:対照群。
【図11A】Ad−CMV−PDX−1の全身投与後の時間の関数としての個々のマウスにおける肝インスリン含有量を示すスキャッタープロット:56日(PDX−1投与、n=3、対照、n=6)、120日(PDX−1投与、n=7、対照、n=3)および180日(PDX−1投与、n=4、対照、n=5)。PDX−1投与(□)または対照(◆)マウスにおける肝IRI含量を各個体別のマウスについて個別に示す。
【図11B】Ad−CMV−PDX−1投与マウスにおける肝グルカゴン含量(PDX−1投与、n=10、対照、n=10)を示す棒グラフである。
【図11C】Ad−CMV−PDX−1投与マウスにおける肝ソマトスタチン(PDX−1投与、n=9、対照、n=7)を示す棒グラフである。
【図12A】インビボのマウスへのアデノウィルス投与後の時間(日数)の関数としての投与肝におけるウィルスAd−CMV−PDX−1DNAの存在を反映するCMVプロモーターに結合した異所性ラットPDX−1cDNAのPCRを示す写真である。
【図12B】インビボのAd−CMV−PDX−1投与後の時間の関数としての肝におけるラットPDX−1(rPDX−1)、マウスPDX−1(mPDX−1)およびβ−アクチンの遺伝子発現のRT−PCR分析を示す写真である。
【図12C】リアルタイムPCRを用いた初期Ad−CMV−PDX−1投与後の時間の関数としての異所性(ラット)対内因性(マウス)PDX−1発現の定量結果を示す棒グラフである。マウスPDX−1(斜線)およびラットPDX−1(黒)。
【図13】肝インスリン生産が初期Ad−CMV−PDX−1投与後8ヶ月のSTZ誘導高血糖症からマウスを保護すること、および、肝における転移分化インスリン生産細胞がSTZに対して耐性であることを示す棒グラフである。
【図14】ヒトケラチノサイトにおけるインスリン遺伝子発現を示す棒グラフであり、ここでPDX−1投与は用量依存的に作用しており、100moi(感染多重度)ではインスリン遺伝子発現の活性化が可能であったが10moiでは不可能であった。
【図15】ヒトケラチノサイトにおけるグルカゴン遺伝子発現を示す棒グラフである。
【図16】ヒトケラチノサイトにおけるソマトスタチン遺伝子発現を示す棒グラフである。
【図17A】Ad−RIP−GFP−CMV−PDX−1コンストラクトを示しており、このコンストラクトは異所性PDX−1発現が異所性インスリンプロモーターの活性化を誘導する細胞の発見を可能にする。
【図17B】Ad−RIP−GFP−CMV−PDX−1を感染させた継代2(A、B)および継代8(C、D)の位相差顕微鏡による形態(A、C)および成熟肝細胞の緑色蛍光(B、D)を示す一連の写真である(倍率x200)。
【図17C】インビトロの継代数の関数としての緑色蛍光により顕在化されるインスリンプロモーターの活性化を示す成熟(黒)および胎仔(緑)の肝細胞の数を示す棒グラフである。(n≧20の確率場は各継代ごとに計数する)
【図17D】継代数の関数としてのAd−CMV−GFP感染(灰色、n≧10)の後の蛍光細胞によりあらわされる全細胞感染能力で割ったインスリンプロモーター活性化(Ad−RIP−GFP−CMV−PDX−1、黒色)を示す細胞のパーセントとして成熟肝細胞の転移分化能力(実線)を計算した棒グラフである。
【図18A】成長因子(GF)の存在下または非存在下におけるAd−CMV−PDX−1を投与した成熟および胎仔の肝細胞における膵ホルモン遺伝子発現を示す棒グラフである。Ad−CMV−hInsはインスリン遺伝子発現の陽性対照として使用する。Ct(閾値サイクル)値は同じRNA試料内のβ−アクチン発現について全て規格化した。
【図18B】Ad−CMV−PDX−1およびGFを投与した成熟(B)および胎児(C)ヒト肝細胞、未投与の成熟(D)および胎児(B)肝細胞におけるヒト島(RNA希釈1:50、A)の定量的RT−PCR(リアルタイム)の増幅曲線である(β−アクチン遺伝子発現については全て同じCt値)。曲線はΔRn(蛍光単位)対増幅反応のサイクル数として示す。成熟肝細胞はPDX−1に応答したインスリン遺伝子発現の活性化において、胎児ヒト肝細胞と同様に効率的であることを示している。
【図19】成長因子を添加したAd−CMV−PDX−1を投与し、48時間の静的インキュベートによりインスリン含量(黒、n≧10)、インスリン(線、n≧25)およびC−ペプチド(点、n≧25)の分泌について分析した成熟一次肝細胞におけるインスリンの含量、分泌およびプロセシングを示す棒グラフである。Ad−CMV−hIns感染細胞は非調節および非プロセシングのインスリン分泌に関する陽性対照として使用する。結果は未投与対照肝細胞と比較した場合の増大倍数値(FOI)を示す。
【図20A】PDX−1投与成熟ヒト肝細胞におけるインスリン分泌顆粒を示す一連の写真である。Ad−CMV−PDX−1および成長因子の投与(A、B)または未投与(C)の成熟ヒト肝細胞におけるインスリンイムノゴールド組織化学的電子顕微鏡観察。矢印はイムノゴールド粒子であり、PDX−1投与肝細胞中に生じる分泌顆粒内に濃縮されている。
【図20B】Ad−CMV−PDX−1およびGF投与または未投与の成熟肝細胞における同じ細胞内のβ−アクチン遺伝子発現に対して規格化した特異的な内分泌の分泌顆粒分子マーカーセクレトグラニン2(SCG2)および分泌顆粒ニューロエンドクリン1(SGNE1)について、特異的Taqmanプローブを用いて実施した定量的RT−PCR(リアルタイム)遺伝子発現分析の結果を示す棒グラフである。ヒト島は陽性対照として使用する。結果は未投与対照肝細胞と比較した場合の増大倍数値(FOI)を示す(各実験につきn≧12)。
【図21A】Ad−CMV−PDX−1およびGF投与または未投与の成熟肝細胞における同じ細胞内のβ−アクチン遺伝子発現に対して規格化した調節蛋白グルコキナーゼ、Glut−2およびプロホルモン変換酵素2(PC2)について、特異的Taqmanプローブを用いて実施した定量的RT−PCR(リアルタイム)遺伝子発現分析の結果を示す棒グラフである。ヒト島は陽性対照として使用する。結果は(未投与)対照肝細胞と比較した場合の増大倍数値(FOI)を示す(各実験につきn≧10)。
【図21B】PDX−1およびGF投与成熟ヒト肝細胞における2mM(○)または25mM(.)のグルコース濃度における経時的(15〜180分)なインスリン分泌を示すグラフである。
【図21C】PDX−1およびGF投与成熟ヒト肝細胞における2mM(○)または25mM(.)のグルコース濃度における経時的(15〜180分)なC−ペプチド分泌を示すグラフである。
【図21D】0〜25mMのグルコース(.)または2−DOG(.)の濃度におけるC−ペプチドの用量応答分泌を示すグラフである。矢印および点線は25mMグルコース投与から2mMグルコース投与への交換を示す。(b〜d):3つの異なる実験においてn=6。
【図22A】SCID−NODマウスにおいてPDX−1投与肝細胞が高血糖症を是正することを示すグラフである。糖尿病SCID−NODマウスに腎被膜下Ad−CMV−PDX−1および成長因子投与(.;n=9)および未投与(□;n=5)の成熟ヒト肝細胞を移植した。移植後の指定日数後のグルコース濃度をmg%で示す。アスタリスクはAd−CMV−PDX−1投与移植マウスと対照細胞移植マウスのグルコース濃度に有意差があることを示す(p<0.01)。
【図22B】Ad−CMV−PDX−1投与成熟肝細胞の移植後10日における腎被膜切片におけるPdx−1(A)およびインスリン(B)に関する免疫組織化学的染色を示す一連の写真である。同じSCID−NODマウスの膵のインスリン染色(C)。
【図22C】移植実験前(0日、投与前;グレー)および実験終了時(10日、投与;黒)におけるELISAにより測定した移植および対照マウスの血清中のヒトC−ペプチド濃度を示す棒グラフである。アスタリスク(*)はAd−CMV−PDX−1投与細胞移植マウスとヒト細胞移植前の同じ糖尿病マウスのヒトC−ペプチドの血清中濃度の間に有意差があることを示す(p<0.01)。
【図23】ラットPDX−1の異所性発現が肝細胞における内因性ヒトPDX−1の発現を誘導することを示す棒グラフである。成熟一次肝細胞に成長因子添加Ad−CMV−PDX−1を投与し、内因性のヒトPDX−1遺伝子発現を分析した。結果は未投与の対照肝細胞と比較した場合の増大倍数値(FOI)を示す。
【図24A】Ad−CMV−PDX−1を投与した糖尿病CAD−NODマウスにおける血中グルコース濃度を示す。対照未投与またはb−gal投与マウス▲、PDX−1投与マウス(.)。
【図24B】Ad−CMV−PDX−1投与の糖尿病CAD−NODマウスの体重を示す棒グラフである。対照未投与またはb−gal投与マウス▲、PDX−1投与マウス(.)。
【図24C】Ad−CMV−PDX−1投与糖尿病マウスのグリコーゲン保存を示す一連の写真。C1、投与マウス;C2、非投与マウス;C3、糖尿病前NODマウス。
【図25】CAD−NODマウスにおける膵臓および肝臓の免疫組織化学的染色を示す一連の写真。A、CAD−NODマウスはインスリンについて染色陰性;B、対照非糖尿病マウス;C、PDX−1投与マウスの肝臓におけるインスリン;D、非投与糖尿病マウスの肝臓。
【図26A】Ad−CMV−PDX−1投与CAD−NODマウスの血清中インスリン濃度を示す棒グラフ。
【図26B】Ad−CMV−PDX−1投与CAD−NODマウスの肝インスリン濃度を示す棒グラフ。
【図27】Ad−CMV−PDX−1投与CAD−NODマウスのグルコース耐容性を示すグラフ。
【図28】RT−PCRの写真であり、増幅された産物をアガロースゲル上で分割したものは異所性PDX−1がCAD−NODマウス肝において遺伝子発現を誘導したことを示している。
【図29】PDX−1または対照を投与したヒト肝細胞のDNAマイクロアレイチップ分析により分析した約500遺伝子における発現の変化のPDX−1誘導を示すスキャッターグラフである。
【図30A】DNAマイクロアレイ分析による、肝、膵、ヒト肝細胞対照、Ad−CMV−hインスリン投与ヒト肝細胞およびPDX−1投与ヒト肝細胞におけるC/EBPβ発現のPDX−1抑制を示す表である。
【図30B】定量的RT−PCR分析によるC/EBPβ発現のPDX−1抑制を示す棒グラフである。
【図30C】C/EBPβの細胞内蛋白濃度のPDX−1抑制を示すウエスタンブロットの写真である。
【図31A】成熟(左)および胎児(右)ヒト肝細胞における肝蛋白のPDX−1抑制および成熟ヒト肝細胞の脱分化の誘導を示すウエスタンブロットの写真である。
【図31B】肝遺伝子発現および蛋白生産のPDX−1抑制を示す棒グラフである。
【図31C】肝遺伝子発現および蛋白生産のPDX−1抑制を示す棒グラフである。
【図31D】PDX−1が胚マーカーの誘導により顕在化される成熟肝細胞の脱分化を誘導することを示す棒グラフである。
【図31E】PDX−1が胚マーカーの誘導により顕在化される成熟肝細胞の脱分化を誘導することを示す棒グラフである。
【図32A】RT−PCRの写真であり、増幅産物をアガロースゲル上で分割したものは、異所性PDX−1がインビトロのヒト肝細胞において膵遺伝子および膵転写因子の発現を誘導することを示している。
【図32B】異所性PDX−1がインビトロのヒト肝細胞における内因性のヒトPDX−1の発現を誘導することを示す棒グラフである。
【図32C】異所性PDX−1がインビトロのヒト肝細胞におけるベータ2発現を誘導することを示す棒グラフである。
【図32D】異所性PDX−1がインビトロのヒト肝細胞におけるIsl−1発現を誘導することを示す棒グラフである。
【図32E】異所性PDX−1がインビトロのヒト肝細胞におけるNkx6.1発現を誘導することを示す棒グラフである。
【図32F】異所性PDX−1がインビトロのヒト肝細胞におけるNgn3.1発現を誘導することを示す棒グラフである。
【図32G】異所性PDX−1がインビトロのヒト肝細胞におけるNkx2.2発現を誘導することを示す棒グラフである。
【図33】肝成長因子−1により増強された場合、異所性PDX−1がインスリン遺伝子発現を誘導することを示す棒グラフである。
【図34】異所性PDX−1がエラスターゼ遺伝子発現を誘導することを示す棒グラフである。
【図35】異所性ニューロD1が肝細胞において内因性Pdx−1を誘導することを示すウエスタンブロット分析である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(発明の詳細な説明)
本発明は部分的には、肝および皮膚における膵および十二指腸のホモボックス遺伝子1(PDX−1)の異所性発現が肝および皮膚細胞における膵島細胞表現型を誘導し、そして、膵ホルモンの発現、生産およびプロセシングをもたらすという発見に基づいている。PDX−1はまたIDX−1、IPF−1、STF−1およびIUF−1としても知られており、これらは全て本明細書においては「PDX」と総称する。更にまた、本発明は膵障害を治療するための方法および医薬組成物を提供する。
【0019】
糖尿病に対する臨床的膵島移植の結果における最近の進歩は血中グルコース濃度の継続的制御が膵島細胞移植により達成できることを示唆している。しかしながら、この良好な治療方法は死体ドナーからの限定された組織の供給により、そして、一生に亘る免疫抑制の必要性により多大な制約を受けている。糖尿病患者の治療としての島細胞の移植は島細胞またはβ細胞の新しい原料が発見された場合のみ広範に使用可能となる。I型自己免疫糖尿病におけるβ細胞の機能を代替するために考案された組織の最適原料は容易に単離され、広範に増殖され、そして、自己免疫の攻撃に優先して抵抗できなければならず、このような細胞は潜在的には膵臓外組織に存在すると考えられる。
【0020】
第1世代のE1欠失組み換えアデノウィルス(Ad−CMV−PDX−1)により送達されるインビボのPDX−1の異所性発現は、遺伝子発現の内分泌および外分泌の膵レパートリーおよびプロセシングされた生物学的に活性なインスリンの生産と分泌の両方を誘導した。これらの結果は、成熟し完全に分化した臓器において異所性に発現されたPDX−1、PDX−1が膵分化因子として機能することを示している。更にまた、PDX−1は第1世代の組み換えアデノウィルスを用いてインビボで送達されたが、膵ホルモンの発現および生産は投与後8ヶ月超に亘り持続している。
【0021】
機能的内分泌膵臓を発生させるための組織の潜在的原料として機能する肝臓のこの意外な能力は、異所性PDX−1遺伝子発現を用いたインビボのマウスにおいて、本発明者等により最初に明らかにされた。マウスにおけるPDX−1トランスジーンの短期間発現が肝細胞のサブ集団において包括的、非可逆的および機能的な転移分化過程を誘導(即ち1つの成熟細胞の特徴および機能を別の完全に分化した細胞に変換)したことがわかった。更に、インビトロ培養下の制御された条件下の新しく単離された成熟並びに胎児のヒト肝細胞は機能的インスリン生産組織に転移分化するように誘導できることがわかった。PDX−1トランスジーンを発現した肝細胞の約50%が他では負活性なインスリンプロモーターを活性化した。転移分化したヒト肝細胞はホルモンを生産し、これを分泌顆粒中に保存し、そしてグルコース調節態様においてプロセシングされたインスリンを放出した。インスリン生産ヒト肝細胞は機能的であり、糖尿病免疫不全マウスおよび非肥満糖尿病マウスにおいて誘導されたシクロホスファミド加速糖尿病において、正常血糖を回復した。
【0022】
その多様な特徴および実施形態において、本発明はPDXの発現または活性を増大させる化合物(本明細書においてはPDXインデューサー化合物とも称する)を対象に投与するか、これを細胞に接触させることを含む。PDX発現または活性は例えば内因性PDX発現を活性化させる化合物により増大される。化合物は例えば(i)PDX、ニューロDまたはベータセルリンポリペプチド;(ii)PDX、ニューロDまたはベータセルリンポリペプチドをコードずる核酸;(iii)PDXポリペプチドをコードする核酸の発現を増大させる核酸、および、それらの誘導体、フラグメント、類縁体および相同体であることができる。PDXポリペプチドをコードする核酸の発現を増大させる核酸は例えばプロモーター、エンハンサーを包含する。核酸は内因性または外因性のいずれかであることができる。場合により、細胞を更にニコチンアミド、表皮成長因子、アクチビンA、肝成長因子、エキセンジン、GLP−1またはベータセルリンに接触させる。
【0023】
本明細書においては、「核酸」という用語はDNA分子(例えばcDNAまたはゲノムDNA)、RNA分子(例えばmRNA)、ヌクレオチド類縁体を用いて作成されたDNAまたはRNAの類縁体、および、その誘導体、フラグメントおよび相同体を包含するものとする。核酸分子は1本鎖または2本鎖であることができる。好ましくは、核酸はDNAである。PDXポリペプチドをコードする核酸の発現を増大させる核酸は例えばプロモーター、エンハンサーを包含する。核酸は内因性または外因性の何れかであることができる。
【0024】
PDXをコードする核酸の適当な原料は例えばそれぞれゲンバンクアクセッション番号U35632およびAAA88820として入手可能なヒトPDX核酸(およびコードされる蛋白配列)を包含する。他の原料はラットPDX核酸を包含し、そして蛋白配列はそれぞれゲンバンクアクセッション番号U35632およびAAA18355に示されており、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。別の原料はカサゴPDX核酸を包含し、そして蛋白配列はそれぞれゲンバンクアクセッション番号AF036325およびAAC41260に示されており、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0025】
化合物は対象に対して直接(即ち対象を核酸または核酸含有ベクターに直接曝露する)または間接的に(即ちまずインビトロで細胞を核酸で形質転換し、次に対象に移植する)投与できる。例えば1つの実施形態において、哺乳類細胞を対象から単離し、そしてPDX核酸をインビトロで単離された細胞に導入する。細胞を適当な哺乳類対象に再導入する。好ましくは、細胞は自己由来の対象に導入する。化合物の投与経路は例えば非経口、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば吸入)、経皮(局所)、経粘膜、および直腸投与を包含する。1つの実施形態において、化合物は静脈内投与する。好ましくは化合物は腎被膜下に移植するか、または、門脈に注入する。
【0026】
細胞は膵ホルモンを生産できる何れかの細胞、例えば骨髄、筋肉、脾臓、腎臓、血液、皮膚、膵臓または肝臓のものであることができる。1つの実施形態において、細胞は膵島細胞として機能できるものであり、即ち、膵ホルモン、好ましくはインスリンを、細胞外からのトリガーにより保存、プロセシングまたは分泌できるものである。別の実施形態においては、細胞は肝細胞である。別の実施形態においては、細胞は全能または多能である。別の実施形態においては細胞は造血幹細胞、胚性幹細胞または、好ましくは肝幹細胞である。
【0027】
対象は好ましくは哺乳類である。哺乳類は例えばヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマまたはウシであることができる。
【0028】
(膵ホルモン生産を誘導する方法)
種々の特徴において、本発明は対象における膵ホルモン生産を誘導する方法を提供する。例えば、方法は対象に膵ホルモン生産を誘導するのに十分な量の、PDXの発現または活性を増大させる化合物を投与することを包含する。
【0029】
別の特徴において、方法は、対象由来の細胞を準備すること、膵ホルモン生産を増大させるのに十分な量のPDX発現を増大させる化合物に細胞を接触させること、および、細胞を対象に導入することを含む。1つの実施形態において、膵ホルモン生産は対象への細胞の導入により、インビトロまたはインビボで起こる。別の実施形態においては、膵ホルモン生産は対象への細胞の導入によりインビボで起こる。
【0030】
膵ホルモンは例えばインスリン、グルコゴン、ソマトスタチンまたは島アミロイドポリペプチド(IAPP)であることができる。インスリンは肝インスリンまたは血清インスリンであることができる。他の実施形態においては、膵ホルモンは肝インスリンである。別の実施形態においては膵ホルモンは血清インスリン(即ち例えばグルコース利用、炭水化物、脂肪および蛋白の代謝を促進することが可能なインスリンの完全にプロセシングされた形態)である。
【0031】
一部の実施形態においては、膵ホルモンは「プロホルモン」型である。他の実施形態においては、膵ホルモンはホルモンの完全にプロセシングされた生物学的に活性な形態である。他の実施形態においては、膵ホルモンは調節制御下にあり、即ち、ホルモンの分泌は内因性に生産される膵ホルモンの場合と同様に栄養およびホルモンの制御下にある。例えば、本発明の1つの特徴において、ホルモンはグルコースの調節制御下にある。
【0032】
化合物に曝露、例えば接触させる細胞集団は何れかの数量の細胞、即ち1つ以上の細胞であることができ、そして、インビトロ、インビボまたはエクスビボで提供される。
【0033】
(膵関連障害を治療または防止する方法)
本発明は更に対象における膵関連障害を治療、即ち防止、または発症を遅延または症状を緩解する方法を包含する。種々の特徴において、方法はPDXの発現または活性をモジュレートする化合物を対象に投与することを包含する。「モジュレートする」とはPDXの発現または活性を増大または低減することを包含する。好ましくは、モジュレーションにより、膵障害に罹患していない対象と同様または同一の水準まで、対象におけるPDXの発現または活性の改変が起こる。別の特徴において、方法は非膵細胞に膵島細胞機能、例えばインスリン、ソマトスタチンまたはグルカゴンの発現能力を導き出す化合物を対象に投与することを包含する。1つの実施形態において、化合物はPDXの発現または活性をモジュレートする。
【0034】
膵障害は膵に関連する何れかの障害であることができる。例えば方法は膵ホルモン不全(例えば糖尿病(I型およびII型))、インスリノーマ、および高血糖症を治療する際に有用である。基本的に、PDX活性に病因的に関連している何れかの障害が治療に感受性であると考えられる。
【0035】
糖尿病に罹患しているか発症の危険性を有する対象は血糖値の測定のような当該分野で知られた方法により識別される。例えば、少なくとも2回の機会において一夜絶食後に140mg/dLより高値の血糖値は糖尿病患者であることを意味する。糖尿病に罹患しても発症の危険性を有してもいない者は70〜110mg/dLの空腹時血糖値を有するものとして特徴付けられる。
【0036】
糖尿病の症状は疲労、嘔気、頻尿、飲水渇望亢進、体重減少、眼のかすみ、感染頻発および創傷や潰瘍の治癒緩徐、140/90以上の血圧持続、HDLコレステロール35mg/dL未満またはトリグリセリド250mg/dL超、高血糖症、低血糖症、インスリン不全または耐性を包含する。化合物を投与する糖尿病または前糖尿病の患者は当該分野で知られた診断方法を用いて識別される。
【0037】
本明細書に記載したPDXモジュレート化合物は治療に使用された場合、本明細書では「治療薬」と称する。治療薬の投与方法は、例えば皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻内、硬膜外および経口の経路を包含する。本発明の治療薬は何れかの好都合な経路、例えば注入または単回注射により、上皮または粘膜表皮ライニング(例えば口腔粘膜、直腸および腸の粘膜等)を経由する吸収により投与してよく、そして、他の生物学的に活性な薬剤と共に投与してよい。投与は全身または局所であることができる。更にまた、何れかの適当な経路、例えば脳室内およびくも膜下腔内注射により中枢神経系に治療薬を投与することが好都合な場合がある。脳室内注射はリザーバ(例えばOmmayaリザーバ)に連結した脳室内カテーテルにより容易に行える。肺投与は吸入器またはネブライザーおよびエアロゾル化剤を含有する処方を用いることにより使用してもよい。治療を要する領域に治療薬を局所投与することが望ましい場合があり、それは例えば手術中の局所注入、局所適用、注射、カテーテル使用、座薬使用またはインプラントの使用により行える。種々の送達系が知られており、本発明の治療薬の投与に使用することができ、その例は(i)リポソーム、微粒子、マイクロカプセル内への封入、(ii)治療薬を発現できる組み換え細胞、(iii)受容体媒介エンドサイトーシス(例えばWu and Wu,1987,J.Biol.Chem.262:4429−4432参照)、(iv)レトロウィルス、アデノウィルスまたは他のベクターの部分としての治療薬核酸の構築等である。本発明の1つの実施形態においては、治療薬はベシクル、特にリポソーム中で送達してよい。リポソームにおいて、本発明の蛋白は他の製薬上許容しうる担体のほかに、例えば、ミセルとして凝集した形態で存在する脂質などの両親媒性の薬剤、不溶性単層、液晶またはラメラ層などと、水溶液中で組み合わせられる。リポソーム処方に適する脂質は例えばモノグリセリド、ジグリセリド、スルファチド、リソレシチン、リン脂質、サポニン、胆汁酸等を包含する。このようなリポソーム処方の調製は当該分野で知られるとおりであり、例えば米国特許4,837,028;および米国特許4,737,323に記載されており、これらは全て参照により本明細書に組み込まれる。更に別の実施形態においては、治療薬は例えば送達ポンプ(例えばSaudek et al.,1989,New Engl.J.Med.321:572参照)および半透過性重合体物質(例えばHoward et al.,1989,J.Neurosurg.71:105参照)のような制御放出系中で送達できる。更にまた、制御放出系は治療標的(例えば脳)の近接部に入れることができ、即ち、全身用量の僅か一部を要するのみとなる。例えばGoodson、Medical Applications of Controlled Release 1984(CRC Press,Boca Raton,FL)参照。
【0038】
治療薬が蛋白をコードする核酸であるような本発明の特定の実施形態においては、治療薬核酸は、それが細胞内(例えばレトロウィルスベクターの使用による)となるように適当な核酸発現ベクターの部分として構築して投与することにより、直接注射により、微粒子衝突の使用により、脂質コーティングまたは細胞表面コーティングまたはトランスフェクション剤により、または、核内に進入することがわかっているホメオボックス様ペプチドに連結させて投与すること(例えばJoliot et al.,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA88:1864−1868参照)等により、そのコードする蛋白の発現を促進するようにインビボで投与してよい。或いは、核酸治療薬は細胞内に導入されて相同組み換えにより発現用宿主細胞DNA内に取り込まれるか、または、エピソームとしてとどまることができる。
【0039】
本明細書においては、「治療有効量」という用語は意味のある患者の利益、即ち、該当する医療状態の治療、治癒、防止または緩解、または、そのような状態の治療、治癒、防止または緩解の速度の増大を示すのに十分な医薬組成物または方法の各活性化合物の総量を意味する。単独で投与される個々の活性成分に適用する場合は、用語はその成分のみを指す。組み合わせに適用する場合は、用語は、複合、連続または同時の投与に関わらず、治療効果をもたらすような活性成分の複合量を指す。
【0040】
特定の障害または状態の治療において有効である本発明の治療薬の量は障害または状態の性質により変化し、そして当該分野における平均的な技術による標準的な臨床手法により決定してよい。更に、インビトロ試験を場合により使用することにより最適用量範囲を発見するのを助けることができる。製剤中に使用すべき厳密な用量は投与経路および疾患または障害の全体的重症度により異なり、そして、医師の判断および各患者の状況に従って決定すべきである。最終的には、担当医師が各個々の患者の治療に用いる本発明の蛋白の量を決定する。初期においては、担当医師は本発明の蛋白の少用量を投与し、そして、患者の応答を観察する。本発明の蛋白の漸増量を患者に対する最適治療効果が得られるまで投与し、その後は更に用量を増加させない。しかしながら、本発明の治療薬の静脈内投与のための適当な用量範囲は一般的にはキログラム(Kg)体重当たり活性化合物約20〜500マイクログラム(μg)である。鼻内投与の適当な用量範囲は一般的には約0.01pg/kg体重〜1mg/kg体重である。有効用量はインビトロまたは動物モデル試験系から誘導された用量−応答曲線から推定してよい。座剤は一般的には0.5%〜10重量%の範囲の活性成分を含有し、経口用製剤は好ましくは10〜95%活性成分を含有する。
【0041】
本発明の治療薬を用いた静脈内療法の期間は治療すべき疾患の重症度および状態および各個体間での潜在的な特異体質応答により変動する。本発明の蛋白の各適用の期間は連続静脈内投与の12〜24時間の範囲であると考えられる。最終的には担当医師が本発明の医薬組成物を使用する静脈内療法の適切な期間について決定する。
【0042】
細胞はまた、本発明の治療薬または蛋白の存在下にエクスビボで培養することにより、その細胞に対する所望の作用または細胞における活性を増大させる、またはもたらすことができる。
【0043】
(島細胞の表現型または機能を誘導する方法)
本発明はまた細胞における膵島細胞の表現型1つ以上を誘導または増強する方法を包含する。1つの実施形態において、膵細胞表現型は非島細胞型において誘導される。例えば、PDX−1インデューサー化合物に細胞を接触させることにより非膵細胞を膵細胞に変換(即ち転移分化)する。細胞は非膵細胞において内因性PDX−1、胚マーカー、インスリン、グルコゴンまたはソマトスタチンの発現を誘導するような量のPDXインデューサーと接触させる。或いは、非膵細胞におけるC/EBPβ、アルブミンまたはADH−1の発現を抑制する量のPDXインデューサーに細胞を接触させる。方法は、膵島細胞の表現型、例えばベータ、アルファおよびデルタ島細胞を誘導または増強するのに十分な量の、例えばPDX−1、ベータ2、ISL−2、Nkx6.1、Ngn3.1またはNkx2.2のような島細胞特異的転写因子をモジュレートする化合物に細胞を接触させることを包含する。好ましくは、化合物はPDXの発現(例えば内因性PDX−1の発現)、生産または活性を増大させる。好ましくは方法は膵島β細胞表現型を誘導する。
【0044】
「膵島細胞表現型」とは、膵島細胞に典型的な特性の1つ以上、即ち、ホルモンの生産、プロセシング、分泌顆粒中の保存、栄養的およびホルモン的に調節される分泌または特徴的な島細胞の遺伝子発現の特性を示す細胞である。膵島細胞表現型は例えば膵ホルモンの生産、例えばインスリン、ソマトスタチンまたはグルカゴンを測定することにより調べることができる。ホルモンの生産は当該分野で知られた方法、例えばイムノアッセイ、ウエスタンブロット、受容体結合試験によるか、または、糖尿病宿主への移植後に高血糖症を緩解する能力により機能的に、調べることができる。
【0045】
細胞は膵島細胞の表現型を発現することができる何れかの細胞、例えば筋肉、骨髄、脾臓、腎臓、皮膚、膵臓または肝臓のものであることができる。1つの実施形態において、細胞は膵島細胞として機能できるものであり、即ち、膵ホルモン、好ましくはインスリンを、細胞外からのトリガーにより保存、プロセシングまたは分泌できるものである。別の実施形態においては、細胞は肝細胞である。細胞は成熟細胞、即ち分化した細胞である。別の実施形態においては、全能または多能である。別の実施形態においては細胞は造血幹細胞、胚性幹細胞、または、好ましくは肝幹細胞である。
【0046】
化合物に曝露、即ち接触させられる細胞集団は何れかの数量の細胞、即ち1つ以上の細胞であることができ、そして、インビトロ、インビボまたはエクスビボで提供される。
【0047】
(膵島遺伝子発現特性を誘導する方法)
本発明はまた対象または細胞において膵島遺伝子発現特性を誘導または増強する方法を包含する。「膵遺伝子発現特性」とは非内分泌組織において通常は転写的にサイレントである遺伝子、例えば膵転写因子、内分泌遺伝子または外分泌遺伝子の1つ以上を包含するものとする。例えば、PC1/3、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチンまたは内因性PDX−1の発現である。方法は膵島または内分泌遺伝子発現特性を誘導するのに十分な量の、PDXの発現または活性を増大させる化合物を対象に投与することを包含する。1つの実施形態において、方法は対象においてPC1/3遺伝子発現を誘導する。
【0048】
膵遺伝子発現特性の誘導は、当該分野で知られた手法を用いて検出できる。例えば、膵ホルモンRNA配列はノーザンブロットハイブリダイゼーション分析、増幅系の検出方法、例えば逆転写系のポリメラーゼ連鎖反応またはマイクロアレイチップ分析による系統的検出などにおいて検出できる。或いは、発現は蛋白レベルにおいて、即ち、遺伝子によりコードされるポリペプチドの濃度を測定することによっても測定できる。特定の実施形態においては、PC1/3遺伝子または蛋白の発現はプロホルモンをその活性成熟型にプロセシングする場合のその活性により測定できる。このような方法は当該分野で知られており、そして例えば遺伝子によりコードされる蛋白に対する抗体に基づいたイムノアッセイまたはプロセシングされたホルモンのHPLCを包含する。
【0049】
(発現がPDXによりモジュレートされる遺伝子の識別方法)
本発明はまた発現がPDXによりモジュレートされる核酸を識別する方法を包含する。方法はPDXの活性または発現をモジュレートする化合物に曝露された被験細胞集団において核酸1つ以上の発現を測定することを包含する。次に被験細胞集団における核酸配列の発現を化合物に曝露されていない細胞集団、または、一部の実施形態においては化合物に曝露されている細胞集団である比較対照細胞集団における核酸配列の発現と比較する。比較は、同時に、または異なる時間に測定された被験および比較対照の試料に対して実施する。後者の例はコンパイルされた発現の情報、例えば種々の薬剤の投与後の既知配列の発現濃度に関する情報を集積した配列データベースの使用である。例えば、化合物の投与後の発現濃度の改変をPDX核酸のような対照薬剤の投与後の核酸配列において観察される発現の変化と比較する。
【0050】
化合物に曝露されていない比較対照細胞集団における核酸配列の発現と比較した場合に被験細胞集団において核酸配列の発現が改変されていることは、核酸の発現がPDXによりモジュレートされたことを示している。
【0051】
被験細胞はPDXによりモジュレートされることができる何れかの組織、例えば膵臓、肝臓、脾臓または腎臓から得ることができる。1つの実施形態において、細胞は非内分泌組織に由来する。好ましくは、細胞は肝組織である。
【0052】
好ましくは、比較対照細胞集団における細胞は被験細胞と可能な限り同じ組織型、例えば肝組織から得る。一部の実施形態においては、対照細胞は被験細胞と同じ対象から、例えば被験細胞の原料の領域に近接する領域から得る。別の実施形態においては、対照細胞集団は試験されたパラメーターまたは条件が既知である細胞から得られた分子情報のデータベースから得る。
【0053】
核酸の発現は当該分野で知られた何れかの方法を用いてRNAレベルで測定できる。例えばこれらの配列の1つ以上を特異的に認識するプローブを用いたノーザンハイブリダイゼーション分析を用いて遺伝子発現を測定できる。或いは、発現は逆転写系PCR分析を用いて測定できる。発現はまた蛋白レベルで、即ち、遺伝子産物によりコードされるポリペプチドの濃度を測定することにより測定できる。このような方法は当該分野で知られており、例えば遺伝子によりコードされる蛋白に対する抗体に基づいたイムノアッセイが挙げられる。
【0054】
遺伝子発現の改変が遺伝子の増幅または欠失に関連する場合は、被験および比較対照集団の配列の比較は被験および比較対照細胞集団における検査されたDNA配列の相対量を比較することにより行うことができる。
【0055】
本発明はまた本スクリーニング方法に従って識別されるPDXモジュレート核酸およびそのようにして識別されたPDXモジュレート核酸を含む医薬組成物を包含する。
【0056】
(PDX組み換え発現ベクターおよび宿主細胞)
本発明の別の特徴はPDX蛋白をコードする核酸またはその誘導体、フラグメント、類縁体または相同体を含有するベクター、好ましくは発現ベクターに関する。本明細書においては、「ベクター」という用語はそれが連結されている別の核酸を輸送することができる核酸分子を指す。ベクターの1つの型は「プラスミド」であり、これは、別のDNAセグメントをライゲーションすることができる線状または環状の2本鎖DNAループを指す。ベクターの別の型はウィルスベクターであり、この場合は別のDNAセグメントをウィルスゲノム内にライゲーションできる。特定のベクターはそれらが導入される宿主細胞内で自律複製が可能である(例えば細菌複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム哺乳類ベクター)。他のベクター(例えば非エピソーム哺乳類ベクター)は宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノム内に組み込まれ、これにより宿主ゲノムと共に複製される。更にまた、特定のベクターはそれらが作動可能に連結している遺伝子の発現を指向することができる。このようなベクターは本明細書においては「発現ベクター」と称する。一般的に、組み換えDNA法において使用される発現ベクターはプラスミドの形態をとる場合が多い。プラスミドは最も一般的に使用されているベクターの形態であるため、本明細書においては、「プラスミド」および「ベクター」は互換的に使用するものとする。しかしながら、本発明は等しく機能するウィルスベクター(例えば複製欠損レトロウィルス、レンチウィルス、アデノウィルスおよびアデノ関連ウィルス)のような発現ベクターの他の形態も包含するものとする。更に、一部のウィルスベクターは特異的または非特異的に特定の細胞型をターゲティングすることができる。
【0057】
本発明の組み換え発現ベクターは宿主細胞内の核酸の発現に適する形態の本発明の核酸を含み、このことは、組み換え発現ベクターが、発現すべき核酸配列に作動可能に連結された状態で、発現のために使用されることとなる宿主細胞に基づいて選択される調節配列1つ以上を含むことを意味する。組み換え発現ベクター内において、「作動可能に連結」とは、目的のヌクレオチド配列が、核酸配列の発現(例えばインビトロ転写/翻訳系において、または、ベクターを宿主細胞に導入する場合は宿主細胞において)を可能にするような態様で調節配列に連結していることを意味する。「調節配列」という用語はプロモーター、エンハンサーおよび他の発現制御エレメント(例えばポリアデニル化シグナル)を包含するものとする。このような調節配列は例えばGoeddel;Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,Calif.(1990)に記載されている。調節配列は多くの型の宿主細胞においてヌクレオチド配列の構成的発現を指向するもの、および、特定の宿主細胞においてのみヌクレオチド配列の発現を指向するもの(例えば組織特異的調節配列)を包含する。当業者の知るとおり、発現ベクターの設計は形質転換すべき宿主細胞の選択肢、所望の蛋白の発現濃度等の要因により変動する。本発明の発現ベクターは宿主細胞に導入することにより、本明細書に記載する核酸によりコードされる融合蛋白またはペプチドを含む蛋白またはペプチドを生産することができる(例えばPDX蛋白、PDXの突然変異体、融合蛋白等)。
【0058】
本発明の組み換え発現ベクターは原核細胞または真核細胞におけるPDXの発現のために設計できる。例えばPDXは細菌細胞、例えばE.coli、昆虫細胞(バキュロウィルス発現ベクターを使用)、コウボ細胞または哺乳類細胞中で発現できる。適当な宿主細胞はGoeddel;Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,Calif.(1990)にさらに記載されている。或いは、組み換え発現ベクターは例えばT7プロモーター調節配列およびT7ポリメラーゼを用いてインビトロで転写および翻訳できる。
【0059】
原核細胞における蛋白の発現は最も頻繁には融合または非融合蛋白の発現を指向する構成または誘導プロモーターを含むベクターを用いてE.coli中で行われる。融合ベクターは、通常は組み換え蛋白のアミノ末端においてそこにコードされる蛋白に多くのアミノ酸を付加する。このような融合ベクターは典型的には3つの目的、即ち(1)組み換え蛋白の発現を増大させるため、(2)組み換え蛋白の溶解度を上昇させるため、および(3)アフィニティー精製におけるリガンドとして作用することにより組み換え蛋白の精製に寄与するために機能する。多くの場合、融合発現ベクターにおいては、蛋白分解切断部位を融合部分と組み換え蛋白の接合部に導入することにより融合蛋白の精製後の融合部分からの組み換え蛋白の分離を可能にする。このような酵素およびその同属体認識配列は第Xa因子、トロンビンおよびエンテロキナーゼを包含する。典型的な融合発現ベクターはそれぞれグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合蛋白またはプロテインAを標的組み換え蛋白に融合させるpGEX(Pharmacia Biotech Inc.,Smith and Johnson(1988)Gene 67:31−40)、pMAL(New England Biolabs,Beverly,Mass.)およびpRIT5(Pharmacia,Piscataway,NJ)を包含する。
【0060】
適当な誘導非融合E.coli発現ベクターの例は、pTrc(Amrann et al.,(1988)Gene 69:301−315)およびpET 11d(Studier et al.,Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,Calif。(1990)60−89)を包含する。
【0061】
E.coli中の組み換え蛋白発現を最大限にするための1つの方法は組み換え蛋白を蛋白分解的に切断する能力が損なわれている宿主細菌中で蛋白を発現させることである。Gottesman,Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,Calif.(1990)119−128を参照できる。別の方法は各アミノ酸に対する個々のコドンがE.coliにより優先的に利用されるものであるように発現ベクター内に挿入すべき核酸の核酸配列を改変することである(Wada et al.,(1992)Nucleic Acids Res.20:2111−2118)。本発明の核酸配列のこのような改変は標準的なDNA合成手法により行うことができる。
【0062】
別の実施形態においては、PDX発現ベクターはコウボ発現ベクターである。コウボS・セレビシアエ中における発現のためのベクターの例はpYepSec1(Baldari,et al.,(1987)EMBO J6:229−234)、pMFa(Kurjan and Herskowitz,(1982)Cell 30:933−943),pJRY88(Schultz et al.,(1987)Gene 54:113−123),pYES2(Invitrogen Corporation,San Diego,Calif.)およびpicZ(InVitrogen Corp,San Diego,Calif.)を包含する。
【0063】
或いは、PDXはバキュロウィルス発現ベクターを用いて昆虫細胞内で発現できる。培養昆虫細胞(例えばSF9細胞)中の蛋白の発現のために使用できるバキュロウィルスベクターはpAcシリーズ(Smith et al.,(1983)Mol Cell Biol 3:2156−2165)およびpVLシリーズ(Lucklow and Summers(1989)Virology170:31−39)を包含する。
【0064】
更に別の実施形態においては、本発明の核酸は哺乳類発現ベクターを用いて哺乳類細胞内で発現させる。哺乳類発現ベクターの例はpCDM8(Seed(1987)Nature 329:840)およびpMT2PC(Kaufman et al.(1987)EMBO J 6:187−195)を包含する。哺乳類細胞において使用する場合は、発現ベクターの制御機能はウィルス調節エレメントにより与えられる場合が多い。例えば一般的に使用されているプロモーターはポリオーマ、アデノウィルス2、サイトメガロウィルスおよびサルウイルス40に由来する。原核細胞と真核細胞双方についての他の適当な発現系については、例えばSambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual.2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989の第16および17章を参照できる。
【0065】
別の実施形態においては、組み換え哺乳類発現ベクターは特定の細胞型において優先的に核酸発現を指向することができる(例えば組織特異的調節エレメントを使用して核酸を発現させる)。組織特異的調節エレメントは当該分野で知られている。適当な組織特異的プロモーターの非限定的な例は、アルブミンプロモーター(肝特異的;Pinkert et al.(1987)Genes Dev 1:268−277)、リンパ特異的プロモーター(Calame and Eaton(1988)Adv Immunol 43:235−275)、特にT細胞受容体のプロモーター(Winoto and Baltimore(1989)EMBO J8:729−733)および免疫グロブリン(Banerji et al.,(1983)Cell 33:729−740;Queen and Baltimore(1983)Cell 33:741−748)、ニューロン特異的プロモーター(例えばニューロフィラメントプロモーター、Byrne and Ruddle(1989)PNAS 86:5473−5477)、膵特異的プロモーター(Edlund et al.,(1985)Science 230:912−916)および乳腺特異的プロモーター(例えば乳精プロモーター、米国特許4,873,316および欧州特許出願264,166)を包含する。発生調節されたプロモーターもまた包含され、例えばネズミhoxプロモーター(Kessel and Gruss(1990)Science 249:374−379)およびα−フェトプロテインプラスミド(Campes and Tilghman(1989)Genes Dev3:537−546)が挙げられる。
【0066】
本発明は更に、アンチセンス方向に発現ベクターにクローニングされた本発明のDNA分子を含む組み換え発現ベクターを提供する。即ち、DNA分子は、PDXmRNAに対してアンチセンスであるRNA分子の発現(DNA分子の転写による)を可能にする態様で調節配列に作動可能に連結している。アンチセンス方向にクローニングされた核酸に作動可能に連結した調節配列は種々の細胞型においてアンチセンスRNA分子の持続的発現を指向するように選択でき、例えばウィルスプロモーターおよび/またはエンハンサーまたは調節配列は、構成的な、組織特異的または細胞特異的なアンチセンスRNAの発現を指向するように選択できる。アンチセンス発現ベクターは、高効率の調節領域の制御下にアンチセンス核酸が生産される組み換えプラスミド、ファージミドまたは力価低減ウィルスの形態であることができ、その活性はベクターが導入される細胞型により決定される。アンチセンス遺伝子を用いた遺伝子発現の調節に関する考察は、Weintraub et al.,”Antisense RNA as a molecular tool
for genetic analysis,”Reviews−Trends in
Genetics,Vol.1(1)1986に記載されている。
【0067】
本発明の別の特徴は、本発明の組み換え発現ベクターが導入されている宿主細胞に関する。「宿主細胞」および「組み換え宿主細胞」という用語は本明細書においては互換的に使用する。このような用語は特定の対象細胞のみならず、そのような細胞の子孫または潜在的子孫も指すものとする。突然変異または環境の影響により特定の修飾が継代の間に生じる場合があるため、そのような子孫は実際は親細胞とは同一ではない場合があるが、なお本明細書において使用する用語の範囲に包含されるものとする。更にまた、宿主細胞はPDXを発現した後にモジュレートされる場合があり、そして元の特性を維持または喪失する場合がある。
【0068】
宿主細胞は原核細胞または真核細胞であることができる。例えばPDX蛋白はE.coliのような細菌細胞、昆虫細胞、コウボまたは哺乳類の細胞(例えばチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)またはCOS細胞)中で発現されることができる。或いは、宿主細胞は未成熟の哺乳類細胞、即ち多能幹細胞であることができる。宿主細胞はまた他のヒト組織に由来することできる。他の適当な宿主細胞は当該分野で知られている。
【0069】
ベクターDNAは従来の形質転換、形質導入、感染またはトランスフェクションの手法により原核細胞または真核細胞に導入できる。本明細書においては、「形質転換」、「形質導入」、「感染」および「トランスフェクション」という用語は宿主細胞に外来の核酸(例えばDNA)を導入するための当該分野でよく知られた手法の種々のもの、例えばリン酸カルシウムまたは塩化カルシウム共沈殿、DEAEデキストラン媒介トランスフェクション、リポフェクションまたはエレクトロポレーションを指すものとする。更にまた、トランスフェクションはトランスフェクション剤により媒介することができる。「トランスフェクション剤」とは宿主細胞内へのDNAの取り込みを媒介する何れかの化合物、例えばリポソームを包含するものを意味する。宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトするための適当な方法はSambrook et al.(Molecular Cloning:A Laboratory Manual.2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989)および他の実験室マニュアルに記載されている。
【0070】
トランスフェクションは「安定」(即ち宿主細胞ゲノムへの外来DNAの組み込み)または「一過性」(即ちDNAは宿主細胞内でエピソーム発現される)であってよい。
【0071】
哺乳類細胞の安定なトランスフェクションのためには、使用する発現ベクターおよびトランスフェクション方法に応じて、細胞の僅か小区分のみが外来DNAをそのゲノム内に組み込み、DNAの残余はエピソームとなることがわかっている。これらの組み込み体を識別して選択するためには、選択可能なマーカー(例えば抗生物質への耐性)をコードする遺伝子を一般的には目的の遺伝子と共に宿主細胞に導入する。種々の選択可能なマーカーには薬剤、例えばG418、ハイグロマイシンおよびメトトレキセートへの耐性を付与するものが挙げられる。選択可能なマーカーをコードする核酸は、PDXをコードするベクターと同様のベクター上で宿主細胞に導入するか、または、別のベクター上で導入することができる。導入された核酸で安定にトランスフェクトされた細胞は薬剤選択性により識別できる(例えば選択可能なマーカーを取り込んでいる細胞は生存し、他の細胞は死滅する)。別の実施形態においては、PDXによりモジュレートされた細胞またはトランスフェクトされた細胞は内因性のレポーター遺伝子の発現の誘導により識別される。特定の実施形態においては、プロモーターは緑色蛍光蛋白(GFP)の発現を駆動するインスリンプロモーターである。
【0072】
1つの実施形態において、PDX核酸はウィルスベクター中に存在する。別の実施形態においては、PDX核酸はウィルス内に封入される。一部の実施形態においては、ウィルスは好ましくは種々の組織型の多能細胞、例えば造血幹細胞、ニューロン幹細胞、肝幹細胞または胚性幹細胞に感染し、好ましくはウィルスは肝向性である。「肝向性」とは、ウィルスが特異的または非特異的に肝臓の細胞を好ましくターゲティングする能力を有することを意味する。更に別の実施形態においては、ウィルスはモジュレートされた肝炎ウィルス、SV−40またはエプスタイン・バーウィルスである。更に別の実施形態においては、ウィルスはアデノウィルスである。
【0073】
(遺伝子療法)
本発明の1つの特徴において、核酸またはその機能的誘導体をコードする核酸は遺伝子療法により投与される。遺伝子療法は対象に特定の核酸を投与することにより実施される治療法である。本発明のこの特徴において、核酸はそのコードされたペプチドを生産し、次にこれが上記した疾患または障害、例えば糖尿病の機能をモジュレートすることにより治療効果を発揮する。当該分野で使用できる遺伝子療法に関わる何れかの方法を本発明の実施において使用してよい。例えばGoldspiel et al.,1993,Clin Pharm 12:488−505を参照できる。
【0074】
好ましい実施形態においては、治療は適当な宿主中、上記したPDXポリペプチドまたはそのフラグメント、誘導体または類縁体の1つ以上のいずれかを発現する発現ベクターの部分である核酸を含む。特定の実施形態においては、このような核酸はPDXポリペプチドのコーディング領域に作動可能に連結しているプロモーターを保有する。プロモーターは誘導型または構成型であってよく、場合により組織特異的である。プロモーターは例えばウィルスまたは哺乳類起源であってよい。別の特定の実施形態においては、コーディング配列(および何れかの他の所望の配列)がゲノム内の所望の部位において相同組み換えを誘発する領域にフランキングされており、これにより核酸の染色体内発現をもたらすような核酸分子を使用する。例えばKoller and Smithies,1989,Proc Natl Acad Sci USA 86:8932−8935を参照できる。更に別の実施形態においては、送達される核酸はエピソームにとどまり、そして内因性の、その他の面ではサイレントな遺伝子を誘導する。
【0075】
治療用の核酸の患者への送達は、直接(即ち患者を核酸または核酸含有ベクターに直接曝露する)または間接(即ち細胞をまず核酸にインビトロで接触させ、次に患者に移植する)のいずれかであってよい。これらの2つの方法はそれぞれインビボまたはエクスビボの遺伝子療法として知られている。本発明の特定の実施形態においては、核酸はインビボに直接投与し、そこで発現させてコードされた産物を生産する。これは当該分野で知られた多くの方法のいずれか、例えば該核酸を適切な核酸発現ベクターの部分として構築し、それを細胞内となるような態様で投与する(例えば欠損型または減衰型のレトロウィルスまたは他のウィルスベクターを用いた感染による;米国特許4,980,286参照);ネイキッドDNAを直接注射する;微粒子衝突を使用する(例えばGene Gun(登録商標);Biolistic,DuPont)を使用する;該核酸を脂質でコーティングする;関連する細胞表面受容体/トランスフェクション剤を使用する;リポソーム、微粒子またはマイクロカプセルに封入する;核に進入することがわかっているペプチドに連結させて投与する;または目的の受容体を特異的に発現する細胞型を「ターゲティング」するために使用できる受容体媒介エンドサイトーシスを起こしやすいリガンドに連結させて投与する(例えばWu and Wu,1987,J.Biol.Chem.262:4429−4432参照)等により達成される。
【0076】
本発明の実施における遺伝子療法の別の方法ではエレクトロポレーション、リポフェクション、リン酸カルシウム媒介トランスフェクション、ウィルス感染等の方法によりインビトロの組織培養において細胞に遺伝子を転移させる。一般的に転移の方法は細胞への選択可能なマーカーの同時転移を包含する。次に転移された遺伝子を取り込んで発現している細胞の単離を容易にするために、細胞を淘汰圧(例えば抗生物質耐性)下に付す。次にこれらの細胞を患者に送達する。特定の実施形態においては、得られた組み換え細胞のインビボの投与の前に、核酸を当該分野で知られた方法、例えば目的の核酸配列を含有するウィルスまたはバクテリオファージベクターを用いたトランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、感染、細胞融合、染色体媒介遺伝子転移、マイクロセル媒介遺伝子転移、スフェロプラスト融合、および、レシピエント細胞の必要な発生生理機能が転移により損なわれない同様の方法により、細胞内に核酸を導入する。例えばLoeffler and Behr,1993,Meth Enzymol 217:599−618を参照できる。選択された手法は、細胞により核酸が発現され得るような、細胞への核酸の安定な転移をもたらすものでなければならない。好ましくは、該転移核酸は細胞の子孫に遺伝可能であり発現され得るものである。別の実施形態においては、転移した核酸はエピソームにとどまり、その他の面ではサイレントな内因性核酸の発現を誘導する。
【0077】
本発明の好ましい実施形態においては、得られた組み換え細胞を当該分野で知られた種々の方法、例えば上皮細胞の注射(例えば皮下)、患者への皮膚移植片としての組み換え皮膚細胞の適用、および組み換え血球(例えば造血幹細胞または前駆細胞)または肝細胞の静脈内注射により患者に送達する。使用予定となる細胞の総量は所望の作用、患者の状態等により変動し、そして当業者が決定してよい。
【0078】
遺伝子療法の目的のために核酸を導入することができる細胞は何れかの所望の入手可能な細胞型を包含し、そして外因、異種、同種または自原のものであってよい。細胞型は例えば分化した細胞、例えば上皮細胞、内皮細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、筋細胞、肝細胞および血球、または、種々の幹細胞または前駆細胞、特に胚性心筋細胞、肝幹細胞(国際特許出願WO94/08598)、神経幹細胞(Stemple and Anderson,1992,Cell 71:973−985)、造血幹細胞または前駆細胞、例えば骨髄、臍帯血、末梢血、胎児肝臓から得られるもの等を包含する。好ましい実施形態においては、遺伝子療法のために使用される細胞は患者自家のものである。
【0079】
遺伝子療法のためのDNAは患者に対し、非経口的、例えば静脈内、皮下、筋肉内および腹腔内に投与できる。DNAまたは誘導剤は製薬上許容しうる担体、即ち動物への投与に適する生体適合性のあるベヒクル、例えば生理食塩水中で投与する。治療有効量は治療される動物において医療上望ましい結果、例えばPDXまたは遺伝子産物の増大または低減をもたらすことができる量である。このような量は当業者により決定できる。医療分野で知られている通り、何れかの所定の患者に対する用量は多くの要因、例えば患者の体格、体表面積、年齢、投与する特定の化合物、性別、投与の時間および経路、全身状態および同時に投与する他剤に応じて変動する。用量は変動するが、DNAの静脈内投与のための好ましい用量はDNA分子約106〜1022コピーである。例えばDNAはkg当たり約2x1012ビリオンで投与する。
【0080】
(医薬組成物)
本発明の化合物、例えばPDXポリペプチド、PDXポリペプチドをコードする核酸、PDXポリペプチドをコードする核酸の発現を増大させる核酸(本明細書においては「活性化合物」とも称する)およびその誘導体、フラグメント、類縁体および相同体は投与に適する医薬組成物に配合できる。このような組成物は典型的には核酸分子、または蛋白および製薬上許容しうる担体を含む。本明細書においては、「製薬上許容しうる担体」とは医薬品投与に適合する溶媒、分散媒体、コーティング、抗細菌剤および抗カビ剤、等張性付与および吸収遅延剤等のいずれかおよび全てを包含する。適当な担体は参照により本明細書に組み込まれるこの分野の標準的な参考書であるRemington’s Pharmaceutical Sciencesの最新版に記載されている。このような担体または希釈剤の好ましい例は、水、生理食塩水、フィンガー溶液、デキストロース溶液、および5%ヒト血清アルブミンを包含する。リポソームおよび非水性のベヒクル、例えば固定油も使用してよい。薬学的に活性な物質のためのこのような媒体および試薬の使用は当該分野でよく知られている。何れかの従来の媒体または試薬が活性化合物と非適合でない限りにおいて、組成物中のその使用が意図される。補助的な活性化合物もまた組成物に配合できる。
【0081】
本発明の医薬組成物はその投与の意図される経路に適合するように製剤される。投与経路の例は非経口、例えば静脈内、皮内、皮下、経口(例えば吸入)、経皮(局所)、経粘膜および直腸投与を包含する。非経口、経皮または皮下の適用のために使用される溶液または懸濁液は以下の成分、即ち滅菌希釈剤、例えば注射用水、生理食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成の溶媒、抗細菌剤、例えばベンジルアルコールまたはメチルパラベン、抗酸化剤、例えばアスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウム、キレート剤、例えばエチレンジアミン4酢酸、緩衝剤、例えば酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩、および、浸透圧を調節するための薬剤、例えば塩化ナトリウムまたはデキストロースを包含する。pHは酸または塩基、例えば塩酸または水酸化ナトリウムで調節できる。非経口製剤はガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジまたは多用量のバイアル中に充填できる。
【0082】
注射用に適した医薬組成物は滅菌水溶液(水溶性の場合)または分散液および滅菌注射溶液または分散液の即時調製用の滅菌粉末を含む。静脈内投与のためには、適当な担体は生理食塩水、殺菌水、CremophorEL(登録商標)(BASF,Parsippany,NJ)またはリン酸塩緩衝食塩水(PBS)を包含する。全ての場合において、組成物は滅菌されなければならず、そして注射針を容易に通過できる程度の流動性を有さなければならない。製造および保存条件下で安定であり、細菌やカビのような微生物による汚染に抵抗して保存されなければならない。担体は例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコール等)およびこれらの適当な混合物を含有する溶媒または分散媒体であることができる。適切な流動性は例えばレシチンのようなコーティングの使用により、分散液の場合は所望の粒径を維持することにより、そして、界面活性剤の使用により維持することができる。微生物の作用の防止は種々の抗細菌剤および抗カビ剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等により達成できる。多くの場合において、等張性付与剤、例えば糖類、多価アルコール、例えばマンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウムを組成物中に含有させることが好ましい。注射用組成物の長時間持続する吸収は吸収を遅延させる物質、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物に含有させることにより達成できる。
【0083】
滅菌注射用溶液は所望により上記した成分の1つまたは組み合わせと共に適切な溶媒中に必要量の活性化合物(例えばPDXポリペプチドまたはPDXコード核酸)を配合すること、ついで、濾過滅菌することにより調製できる。一般的に、分散液は基剤としての分散媒体および上記した物質のうち必要な他の成分を含有する滅菌ベヒクル内に活性化合物を配合することにより調製する。滅菌注射用溶液の調製のための滅菌粉末の場合は、調製方法は、あらかじめ滅菌濾過された溶液から得られる活性成分と別の所望の成分の粉末を与えるような真空乾燥または凍結乾燥である。
【0084】
経口用組成物は一般的に不活性希釈剤または食用担体を含有する。それらはゼラチンカプセルに封入するか、圧縮成型して錠剤とすることができる。経口投与治療の目的のためには、活性化合物は賦形剤に配合し、錠剤、トローチまたはカプセルの形態で使用する。経口用組成物はまた、液体担体中の化合物を口腔内に適用し、嗽をし、吐出または嚥下する洗口剤として使用するための液体担体を用いて調製できる。薬学的に適合する結合剤および/または補助的物質を組成物の部分として含有できる。錠剤、丸薬、カプセル、トローチ等は何れかの以下の成分または同様の性質の化合物、即ち、結合剤、例えば微結晶セルロース、トラガカントガムまたはゼラチン;賦形剤、例えば澱粉または乳糖、崩壊剤、例えばアルギン酸、プリモゲルまたはコーンスターチ;潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウムまたはSterote;滑剤、例えばコロイド状に酸化ケイ素;甘味剤、例えばスクロースまたはサッカリン;またはフレーバー剤、例えばペパーミント、サリチル酸メチルまたはオレンジフレーバーを含有できる。
【0085】
吸入による投与のためには、化合物は適当な高圧ガス、例えば二酸化炭素の入った加圧容器またはディスペンサー、または、ネブライザーからエアゾールスプレーの形態で送達される。
【0086】
全身投与は経粘膜または経皮の手段によっても達成される。経粘膜または経皮の投与のためには、浸透すべき障壁に対して適切である浸透剤を製剤中に使用する。このような浸透剤は当該分野で知られており、例えば経粘膜投与のためには、洗剤、胆汁酸塩およびフシジン酸の誘導体が挙げられる。経粘膜投与は鼻スプレーまたは座剤の使用により達成できる。経皮投与のためには、活性化合物は当該分野で一般的に知られるとおり軟膏、膏薬、ゲルまたはクリーム中に処方する。
【0087】
化合物はまた、直腸投与のための座剤(例えば従来の座剤用基剤、例えばカカオ脂または他のグリセリドを使用)または保持浣腸剤の形態に調製できる。
【0088】
1つの実施形態において、活性化合物は身体からの急速な排除に対して化合物を保護する担体と共に調製され、例えば、インプラントおよびマイクロカプセルの送達系などの制御放出製剤が挙げられる。生体分解性、生体適合性の重合体、例えばエチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸を使用できる。このような製剤の調製方法は当業者の知るとおりである。材料はまたAlza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Inc.より購入可能である。リポソーム懸濁液(ウィルス抗原に対するモノクローナル抗体を用いて感染細胞にターゲティングされたリポソームも含む)もまた製薬上許容しうる担体として使用できる。これらは当該分野で知られた方法に従って、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許4,522,811に記載の通り調製できる。
【0089】
投与の容易さおよび用量の均一性のためには、経口または非経口の組成物を単位剤型で製剤することが特に好都合である。本明細書においては単位剤型とは治療すべき対象に対する統一された用量に適する物理的に個別の単位を指し、各単位は所望の製薬上許容しうる担体と共に所望の治療効果を得るために計算された活性化合物の所定量を含有する。本発明の単位剤型の詳細は活性化合物の独特の性質および達成すべき特定の治療効果により決定され、これに直接依存している。
【0090】
本発明の核酸分子はベクター内に挿入し、遺伝子療法ベクターとして使用できる。遺伝子療法ベクターは例えば米国特許5,703,055に記載の多くの経路の何れかにより対象に送達できる。即ち送達はまた、例えば静脈注射、局所投与(米国特許5,328,470参照)または定位注射(例えばChen et al.,(1994)PNAS 91:3054−3057参照)を包含できる。遺伝子療法ベクターの医薬品調製物は適当な希釈剤中に遺伝子療法ベクターを含有するか、または、遺伝子送達ベヒクルを包埋した緩徐放出マトリックスを含むことができる。或いは、完全な遺伝子送達ベクター、例えばレトロウィルスベクターを組み換え細胞から未損傷で製造できる場合は、医薬品製剤は遺伝子送達系を与える細胞1つ以上を含むことができる。
【0091】
医薬組成物は、投与の説明書と共に、容器、パックまたはディスペンサー内に入れることができる。
【0092】
本発明は以下の実施例において更に説明するが、これは請求項に記載した本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0093】
(実施例1:一般的方法)
以下の一般的方法を用いて本明細書に記載した実験を実施した。
【0094】
(組み換えアデノウィルス)
AdCMVPDX−1はR.Seijffers et al.,Endocrinology 140:1133(1999)に記載の通り構築した。これはSTF−1 cDNA、pACCMVpLpAベクターのBamH1部位にライゲーションされたPDX−1のラット相同体を含んでいる。
【0095】
AdCMVβ−galはβ−ガラクトシダーゼの核局在化シグナルを含む。
【0096】
AdCMV−hInsは非相同のサイトメガロウィルスプロモーターの制御下のヒトインスリンcDNAを含む。
【0097】
AdRIP−1−hInsはラットインスリンプロモーター−1(RIP−1)の制御下のヒトインスリンcDNAを含む。RIP−1はラットインスリン−1遺伝子の5’フランキングDNA領域の410塩基である。
【0098】
全ての第1世代の組み換えアデノウィルスはBecker et al,39に従って構築した。目的の遺伝子はpACCMV.pLpAプラスミドにライゲーションし、その後アデノウィルスプラスミドpJM17と同時遺伝子導入し、その後HEK−293細胞から組み換えビリオンを回収した。Ad−CMV−PDX−1はPDX−1のラット相同体を有し、Ad−CMV−hInsはCMVプロモーターから遠位にヒトインスリンcDNAを有する40。Ad−RIP−GFP−CMV−PDX−1はGFP遺伝子発現を駆動するpACCMV.pLpAプラスミド内のウィルスCMVプロモーター(HindIII/PstI)の代わりにラットインスリン−1遺伝子(Dr.Larry Mossより提供)の5’−フランキング領域の410ヌクレオチド、ついで、pACCMV−PDX−1.pLpAプラスミド由来のCMV−mPDX−1(PDX−1のマウス相同体)を含むNotI/NotIインサートの挿入により調製される2官能性の組み換えアデノウィルスである40。組み換えウィルスの特定の機能は非β細胞系統と比較した場合のインスリノーマ細胞系統において分析した。ウィルス保存株の調製は以前に報告40されている通り実施した。
【0099】
(細胞培養)
マウス膵誘導細胞系統β−TC−1、α−TC−1およびラット膵細胞系統RIN1046−38を以前に報告されている条件(21,22)に従って培養した。
【0100】
(動物および組み換えアデノウィルス)
マウスを空調された環境下、12時間の照明/消灯周期の下に飼育し、研究用動物の福祉に関する規制に従って取り扱った。Balb/cマウス(8〜9週齢、24〜27gr)に対し、尾静脈内への全身投与により所定の組み換えアデノウィルス1〜5x1010moiを投与した(生理食塩水200〜300μlの容量)。尾部より採血し、グルコース濃度を測定した(Accutrend(登録商標)GC,Boehringer Mannheim,Mannheim,Germany)。免疫組織化学的染色(4%ホルムアルデヒド固定、パラフィン包埋)用、遺伝子発現分析(全RNA)用、および、肝中の膵ホルモン含量測定用に肝を採取した。後者2分析については、肝標本を即座に液体窒素中で凍結し、−70℃で保存した。
【0101】
雄性NOD/LtJおよびNOD/Scidマウスを、Weizmann Institute of ScienceのAnimal Breeding Center内において病原体非存在条件下で飼育した。実験はAnimal Welfare Committeeの監督と指針の下に実施した。マウスは実験開始時には1ヶ月齢であった。
【0102】
(ヒト肝細胞)
成熟ヒト肝組織を4〜10歳の小児に由来する異なる肝臓移植手術8例および40歳超の患者2人より得た。
【0103】
胎児ヒト肝は妊娠20〜22週の異なる中絶4例より得た。成熟および胎児の肝組織は両方ともCommittee on Clinical Investigations(施設内治験審査委員会)の許可を得て使用した。
【0104】
(細胞の採取および培養の条件)
ヒト肝細胞の単離は以前に報告41されている通り実施した。要約すれば、肝試料を冷Hanks Balanced Salt溶液(HBSS)で灌流し、薄片(厚み1〜2mm)に切り出し、37℃で20分間0.03%コラゲナーゼI型(Worthington Biochemical Corp.)で消化した。解離した細胞を採取しHBSS+EGTA(5mM)で2回洗浄し、4℃で5分間500xgで遠心分離することにより収集した。細胞を10%FCS、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンおよび250ng/mlアンホテリシンB(Biological Industries,Israel)を添加したDulbeccoの最小必須培地(1gr/Lグルコース)に再懸濁した。細胞の生存性と数を測定し、細胞をフィブロネクチン(3μg/cm2、Biological Industries,Israel)予備コーティングプレート上に、1〜2x105個/mlでプレーティングした。最初の3日間は毎日培地を交換することにより非付着細胞を除去した。コンフルエントとなった培養物は0.05%トリプシン−EDTA溶液を用いて1:3に分割した。細胞は5%CO2および95%空気の湿潤雰囲気下37℃に維持した。
【0105】
(ウィルス感染および成長因子の投与)
肝細胞を個別に示すとおり成長因子の存在下または非存在下(EGF20ng/ml,Cytolab Ltd.;ニコチンアミド10mM、Sigma)でDulbeccoの最小必須培地(1gr/Lグルコース)中培養し、5日間組み換えアデノウィルス(500moi)を感染させた。本試験で使用した組み換えアデノウィルスはAd−RIP−GFP−CMV−PDX−1、Ad−CMV−PDX−1、Ad−CMV−hIns40、Ad−CMV−GFP(Clontech,BD Biosciences)であった。
【0106】
(RNA単離およびRT−PCR分析)
全RNAをTri−Reagent(Molecular Research Center,Ohio)を用いて凍結組織から単離した。RNA試料を60分間RQ1 RNase非含有DNaseI(Promega)10単位で処理した。cDNAは4μgのDNA非含有全RNAおよび0.5μgオリゴ(dT)15を用いて逆転写(ネイティブAMV逆転写酵素、Chimerx)により調製した。PCRはT3サーモサイクラーを(Biometra,Gottingen,Germany)を用いて実施し、産物は1.8%アガロースゲル上で分離し、臭化エチジウムで可視化した。PCRのために使用したプライマーの配列および反応条件は表1および表3に示すとおりである。内因性マウスPDX−1の発現と異所性ラット相同体の間の判別のために、2セットの特異的オリゴヌクレオチドプライマーを設計した(表1および表3参照)ことに留意されたい。
【0107】
(リアルタイムPCR)
RT−PCRはSYBR−Green I染料を用いてLightCycler(Roche Applied Science, Mannheim,Germany)上で実施した。
【0108】
使用した増幅条件は初期の変性を95℃10分間、ついでマウスおよびラットPDX−1の両方につき55サイクルまたはβ−アクチンにつき30サイクルとした。両方のPDX−1相同体につき、各サイクルの内容は、変性95℃15秒、アニーリング59℃および伸長72℃15秒とした。β−アクチンのアニーリングは56℃で10分間行った。蛍光シグナルは各サイクル後に5秒間、β−アクチンでは90℃、マウスPDX−1では87℃およびラットPDX−1では88℃でモニタリングした。融解曲線プログラムは68℃で40秒行い、発生した産物の特異性を分析した。
【0109】
マウスPDX−1のRT−PCRは3回実施し、ラットPDX−1は2回実施した。
【0110】
ラットおよびマウスのPDX−1の濃度は共に同じ試料におけるそれぞれのβ−アクチンmRNA濃度に対して規格化した。
【0111】
或いは、ABI Prism 7000配列検出システム(Applied Biosystems)を用いて定量的リアルタイムRT−PCRを実施した。
【0112】
本試験において使用したTaqMan(登録商標)蛍光発生プローブ、Assay−On−Demand(Applied Biosystems)は、ヒトβ−アクチンHs99999903_ml、ヒトインスリンHs00355773_ml、ヒトグルカゴンHs00174967_ml、ヒトソマトスタチンHs00356144_ml、ヒトPDX−1Hs00173014_ml、ヒトGlut−2Hs00165775_ml、ヒトグルコキナーゼHs00175951_ml、ヒトPC2Hs00159922_ml、ヒトSCG2Hs00185761_ml、ヒトSGNE1Hs00161638_mlであった。
【0113】
増幅条件は開始時50℃2分、変性95℃10分、ついで変性95℃15分およびアニーリング60℃1分の各サイクルを40サイクルとし、TaqMan PCR Master Mix(Applied Biosystems)を用いて行った。相対的な定量分析は2^(−ΔCt)等式を用いてABIプリズム7000SDSソフトウェアに従って行った。mRNA濃度はヒトβ−アクチンmRNAに対して補正した。
【0114】
(膵ホルモン免疫組織化学)
4μmのパラフィン包埋切片のスライドを脱パラフィン化し、3%H2O2中でインキュベートし、市販のHistomouse(登録商標)−SPキット(Zymed laboratories,South San Francisco,California)を用いてブロッキング溶液(インスリンおよびグルカゴンの検出の両方)中でインキュベートした。次に切片を共に1:200の希釈度のヒトインスリンおよびヒトグルカゴンに対するモノクローナル抗体(Sigma)と共に37℃で1時間インキュベートした。スライドを室温で30分間二次ビオチニル化IgGに曝露し、次にストレプトアビジン−パーオキシダーゼ、その後、色原体パーオキシド溶液中でインキュベートした。一次抗体は使用せず二次抗体のみを使用し、その後ストレプトアビジン−パーオキシダーゼおよび色原体パーオキシド溶液を使用した対照群を設けることにより系の考えられるバックグラウンドを排除した。
【0115】
(膵ホルモンに関するラジオイムノアッセイ(RIA))
膵臓および肝臓を単離し、即座に液体窒素中に凍結し、−70℃で保存した。凍結した組織は0.18NのHCl/35%エタノール中でホモゲナイズした。ホモジネートを攪拌しながら4℃で一夜抽出し、上澄みを凍結乾燥した。試料をプロテアーゼ阻害剤カクテル添加0.8mlRIAアッセイバッファー(Sigma)に溶解した。肝インスリンおよびグルカゴン濃度をラットラジオイムノアッセイ(RIA、カタログ番号SRI−13KおよびGL−32K、Linco,Missouri,USAおよびCoat−A−Count,DPC;CA,USA)を用いて測定した。ソマトスタチン濃度はRIA(Euro−diagnostica,Sweden)により測定した。膵ホルモンの肝含量は摘出した組織の重量に対して規格化した。
【0116】
(肝機能の測定)
血清試料中のアルブミン、AST(アスパルテートアミノトランスフェラーゼ)、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)および総ビリルビンよりなる血清生化学数値をOlympus AU2700 Apparatus(Olympus,Germany)を用いて測定した。
【0117】
(インスリンおよびC−ペプチドの検出)
インスリンおよびC−ペプチドの分泌および一次成熟肝細胞中の含量を初回ウィルスおよび成長因子投与の3日後に48時間の静的インキュベーションにより測定した。インスリンの培地への分泌はUltra Sensitive Human Insulin RIAキット(Linco Research)を用いてRIAにて測定し、そして、C−ペプチドの分泌はHuman C−Peptide RIAキット(Linco Research)により測定した。
【0118】
インスリン含量は細胞ペレットを0.18NのHCl、35%エタノール中でホモゲナイズした後に測定した。ホモジネートを攪拌しながら4℃で一夜抽出し、上澄みを凍結乾燥した。試料を0.2%BSAおよびプロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma)含有PBS0.5mlに溶解した。試料100μlをRIAに使用した。インスリン含量はBio−Rad蛋白試験キットにより測定された全細胞蛋白に対して規格化した。
【0119】
(グルコース負荷試験)
成熟肝細胞にAd−CMV−PDX−1および成長因子を5日間投与した。細胞を105個/ウェルの密度で6穴プレートにプレーティングした。
【0120】
経時分析のために、細胞を0.1%BSA含有Krebs−Ringer緩衝液(KRB)中で2時間予備インキュベートし、次に2mMまたは25mMのグルコースを含有する培地中で所定時間インキュベートした。各時点において、培地試料中のインスリン(Ultra SensitiveヒトインスリンRIAキット−Linco Research)およびC−ペプチド(ヒトC−ペプチドRIAキット)を分析した。
【0121】
グルコース用量応答;細胞を0.1%BSA含有KRBで2時間予備インキュベートし、洗浄し、その後、漸増濃度のD−グルコースまたは2−デオキシグルコース(0〜25mM)を2時間負荷した。25mMグルコースにおけるインキュベート終了時に、細胞をKRBで洗浄し、2mMグルコース含有培地中更に2時間インキュベートした。
【0122】
(電子顕微鏡観察)
肝細胞を2.5%グルタルアルデヒドに固定し、オスミウム酸染色し、一連の等級のエタノールおよびプロピレンオキシドで脱水し、Araladite溶液(Polyscience Inc.)中に包埋した。ウルトラミクロトームで超薄片を切り出し、2%ウラニルアセテートおよびReynoldクエン酸鉛溶液で染色した。包埋後イムノゴールド反応のために、50〜90nmの肝切片をニッケルグリッド上においた。グリッドを一夜室温でインスリンに対する抗体(モルモットポリクローナル;7.8μg/ml、Dako)と共にインキュベートし、次に室温で1.5時間モルモットIgGに対するイムノゴールドコンジュゲート抗体(15nmゴールド;1:40希釈、Dako)と共にインキュベートした。切片を電子顕微鏡下に観察した(Jeol 1200EX2)。
【0123】
(細胞移植)
5週齢の非肥満糖尿病重度合併免疫不全(SCID−NOD)雄性マウス(Weizmann Institute,Israel)に180mg/kg体重のストレプトゾトシンを腹腔内注射することにより高血糖症とした。血中グルコース濃度が2回連続測定で約300mg/dlに達した時点で、マウスの腎皮膜下に30ゲージ針を用いてMatrigel(Sigma)50μl中、5日間に亘り、PDX−1および成長因子をあらかじめ投与した3x106ヒト肝細胞を移植した。血液を尾部から週2回採取し、グルコース濃度の測定に付した(Accutrend(登録商標)GC,Roche Applied Science)。製造元の取扱説明書に従って、マウスC−ペプチドに対して0%交差反応性のUltrasensitiveヒトC−ペプチドELISAキット(Mercodia)およびヒトインスリンに対して0%交差反応性のマウスインスリンELISAキット(Mercodia)を用いることにより、給餌マウスの血液中の血清をC−ペプチドおよびインスリン濃度の分析用に採取した。腎臓および膵臓は免疫組織化学的分析用に採取した。
【0124】
(組織学的検討および染色)
腎臓および膵臓を4%ホルムアルデヒドに固定し、パラフィン包埋した。パラフィン包埋組織の厚み5m切片を脱パラフィン化し、3%H2O2中でインキュベートし、次にブロッキング溶液中でインキュベートする前に抗原回復のためにクエン酸塩緩衝液中でマイクロウエーブ処理する(PDX−1検出)か、または、Histomouse(登録商標)−SPキット(Zymed laboratories)を用いてブロッキング溶液に即座に曝露した(インスリン検出)。PDX−1の検出のためには、切片をカエルPDX−1のN末端部分に対して構築された抗血清(1:5000、C.V.E.Wrightより入手)と共に4℃で一夜インキュベートした。インスリンの検出のためには、切片をヒトインスリンに対するモノクローナル抗体(1:100、Sigma)と共に37℃で1時間インキュベートした。スライドを二次ビオチニル化IgGに30分間曝露し、次にストレプトアビジン−パーオキシダーゼ、ついで色原体パーオキシド溶液中でインキュベートした。
【0125】
(シクロホスファミド加速糖尿病(CAD))
糖尿病の発症を前述の通り(3)シクロホスファミド(Sigma,Rehovot,Israel)により加速した。雄性NODマウスに4週齢の時点でシクロホスファミド200mg/kgを腹腔内注射した。その後2週間以内にマウスが糖尿病にならない場合は、Cyの二回目の腹腔内注射(200mg/kg)を行い、1週間後に工程を再度反復した。糖尿病マウスをSPFから除き、12時間の照明/消灯周期の下に空調環境内において飼育し、そこで72時間馴化させた後に新たに血糖値を測定して糖尿病を確認した。
【0126】
(高血糖症)
血中グルコースはAccutrend(登録商標)GC,Glucose Analyzed(Boehringer Mannheim,Mannheim,Germany)を用いて週二回測定した。血中グルコース濃度が2回の連続測定で300mg/dlより高値であればマウスを糖尿病と見なした。
【0127】
(ウィルス感染)
8〜10週齢の糖尿病NODマウス(体重20〜22gr)に対し、尾静脈内への全身投与により所定の組み換えアデノウィルス1.5x1010pfuを投与した。ウィルスはPBS中200〜300μlの容量で投与した。
【0128】
(膵臓組織の検討)
膵臓および肝臓を4%ホルムアルデヒド中に固定し、パラフィン包埋し、切り出して標準的なヘマトキシリンおよびエオシンにより染色した。免疫組織化学的に染色した4μmパラフィン包埋切片のスライドを脱パラフィン化し、ブロックして(21)に記載の通りHistomouse(登録商標)−SPキット(Zymed laboratories,South San Francisco,California)を用いて分析した。切片をヒトインスリンに対するモノクローナル抗体(Sigma,Rehovot,Israel)の1/100希釈物と共にインキュベートした。スライドをストレプトアビジン−パーオキシダーゼと組み合わせた抗マウスIgGビオチニル化抗体、ついで色原体パーオキシド溶液を用いて発色させた。対照スライドはインスリン特異的抗体を添加しない以外は同じプロトコルに従って並行して発色させた。
【0129】
(実施例2:異所性に同時送達されたインスリンプロモーターのPDX−1誘導内因性インスリン遺伝子の発現および活性化の測定)
肝における異所性PDX−1発現の作用を調べるために、雄性Balb/cおよびC57BL/6マウス(11〜14週齢)の尾部静脈にAd−CMV−PDX−1組み換えアデノウィルス2x109プラーク形成単位(0.2ml生理食塩水中)を注射した。対照として、AdCMV−β−galまたはAdCMV−hInsおよびAdRIP−I−hIns組み換えアデノウィルスをマウスに同様に注射した。動物は通常の非制限食餌において12時間照明/消灯周期下の空調環境下に飼育し、ウィルス投与後1週間に屠殺した。肝臓、脾臓、膵臓および腎臓を摘出し、迅速に液体窒素中で凍結し、−70℃で保存して全RNAの単離に付した。
【0130】
PDX−1およびインスリンの遺伝子の発現はRT−PCRで測定した。全RNAをRNAzol(CINNA−BIOTEX)を用いて凍結組織から単離した。RNA試料は10ulのDNase I(Promega)で処理した。cDNAは1μgDNA非含有全RNAおよび0.5μgオリゴ(dT)15を用いて逆転写により調製した。RT反応液1.5μlを以下の表1に示すプライマーおよびPCR条件を用いて増幅した。PCRはGeneAmp PCRシステム2400(Perkin Elmer)で行い、産物は1.7%アガロースゲル上で分離した。別のPCR反応を逆転写酵素を用いることなく各RNA試料について実施することにより増幅された産物がDNA汚染によるものではないことを確認した。プライマーはマウス相同体ではなく異所性ラットPDX−1の発現のみを検出するように設計した。mI−2増幅用のプライマーは異なるエクソン上に位置する。試料変性の第1の工程は全ての増幅遺伝子について同一であり、94℃1分とした。
【0131】
全RNAの分析によればAdCMV−PDX−1の投与により主に肝においてPDX−1の発現が起こったことがわかる。同じマウスに由来する脾臓、膵臓および腎臓はPDX−1のラット相同体についてはRT−PCRによれば陰性であった。
【0132】
異所性ラットPDX−1メッセージのついて陽性であったマウスの75%(35匹中25匹)はmI−2遺伝子を発現したのに対し、マウスの35%がmI−1遺伝子を発現した(図1)。mI−2とmI−1の間のこのような発現の相違がPDX−1発現肝細胞中に存在する転写因子の本質または量によりmI−1プロモーターが異なって影響されるためであるかどうかを明らかにするために、上記した通りマウスにAdRIP−I−hIns組み換えアデノウィルスをAdCMV−PDX−1と同時送達した。図1に示すとおり、PDX−1が内因性mI−2の発現のみを誘導した肝においては、これはラットインスリン−1プロモーター(RIP−1)も活性化した。このことはDNAメチル化の異なった水準または個別の染色質構造が肝におけるPDX−1発現による内因性mI−1発現の活性化の効率が低いことの原因である可能性を示唆している。更にまたこれらのデータはPDXと同時送達された場合の肝におけるβ細胞特異的インスリンプロモーターを活性化する能力を示している。
【0133】
内因性のマウスインスリンおよび異所性ヒトインスリンの遺伝子の発現はそれぞれ同じ濃度の対照組み換えアデノウィルスAdCMV−β−galまたはAdCMV−hInsおよびAdRIP−hInsの投与(n=20)では誘導されなかった。これらの結果はPDX−1は内因性インスリン遺伝子の発現を誘導するため、および、膵臓外の組織におけるRIP−1の活性化のために必須かつ十分であることを示している。
【0134】
(実施例3:PDX−1誘導のソマトスタチン遺伝子発現およびインビボの蛋白生産の測定)
実施例2に記載の通り動物に組み換えアデノウィルスを投与した。ソマトスタチンの遺伝子発現は表1に示す条件に従って実施例2に記載の通りRT−PCRで測定した。
【0135】
図3に示すとおり、AdCMV−PDX−1を投与したマウスの肝はソマトスタチンの遺伝子発現を示した。AdCMV−PDX−1を投与したマウスは免疫化学的分析を行った肝組織においてはソマトスタチン蛋白について陽性に染色された。AdCMV−β−galを投与したマウスはソマトスタチンを発現しなかった。
【0136】
(実施例4:PDX−1誘導グルカゴン遺伝子発現の測定)
実施例2に記載するとおりAdCMVPDX−1組み換えアデノウィルスを動物に投与した。グルカゴン遺伝子発現を表1に示す条件およびプライマーを用いて実施例2に記載の通りRT−PCRで測定した。
【0137】
図3に示すとおり、AdCMV−PDX−1を投与したマウスの肝はグルカゴン遺伝子を発現した。AdCMV−β−galを投与したマウスはグルカゴンを発現しなかった。
【0138】
(実施例5:プロホルモン変換酵素1/3誘導遺伝子発現の測定)
実施例2に記載の通り組み換えアデノウィルスを動物に投与した。プロホルモン変換酵素1/3(PC1/3)遺伝子発現はオリゴ(dT)15の代わりに遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(TCCAGGTGCCTACAGGATTCTCT)(配列番号1)を用いてcDNAを逆転写した以外は実施例2に記載の通りRT−PCRにより測定した。図3に示すとおり、PDX−1を投与した動物に由来する肝のみがKexinファミリープロテアーゼのメンバーであるPC1/3の発現を誘導し、PC1/3の発現は調節された分泌経路を有する内分泌および神経内分泌の細胞に限定されている。細胞内コンパートメント内に生産されたホルモンを貯留する能力と合わせると、ホルモンの生産、プロセシング、保存および分泌に関わる調節された経路の誘導を含む内分泌の表現型のPDX−1依存性の誘導が示唆される。
【0139】
【表1−1】
【0140】
【表1−2】
【0141】
【表3】
(実施例6:肝におけるPDX−1誘導プロインスリン合成)
実施例2に記載の通り組み換えアデノウィルスを動物に投与した。肝臓、脾臓、膵臓および腎臓を摘出した。組織の一部を4%ホルムアルデヒドに固定し、パラフィン包埋し、免疫組織化学的染色に付した。残余の肝および膵臓の組織を70%エタノール−0.18N塩酸中でホモゲナイズし、凍結乾燥し、PBS(リン酸塩緩衝食塩水)中に再懸濁してIRI含量のRIA測定に付した。
【0142】
(免疫組織化学的検討)
パラフィン包埋組織の5μm切片を脱パラフィン化し、3%H2O2中でインキュベートし、次にブロッキング溶液中でインキュベートする前に抗原回復のためにクエン酸塩緩衝液中でマイクロウエーブ処理する(PDX−1検出)か、または、ブロッキング溶液に即座に曝露した(インスリン検出)(Histomouse(登録商標)−SPキット、Zymed laboratories、CA,USA)。
【0143】
PDX−1の検出:切片をカエルPDX−1のN末端部分に対して構築された抗血清と共に4℃で一夜インキュベートした。
【0144】
インスリンの検出:切片をモノクローナル抗ヒトインスリン(Sigma,St−Louis MO)と共に37℃で1時間インキュベートした。
【0145】
スライドを二次ビオチニル化IgGに30分間曝露し、ストレプトアビジン−パーオキシダーゼ、ついで色原体パーオキシド溶液中でインキュベートした。
【0146】
PDX−1を投与したマウスの肝切片の免疫組織化学的分析によれば肝細胞核の30〜60%においてホメオプロテインの発現があり、肝細胞の0.1〜1%が(プロ)インスリンについて陽性に染色されたことがわかった。対照のAdCMVβ−gal投与肝は(プロ)インスリンについては陽性に染色されなかったが、β−ガラクトシダーゼ活性は核の50%で明らかとなった。AdCMV−hInsを投与したマウスの肝は肝切片においてはインスリンについて陽性に染色されなかったが、同じマウスの血清IRIはPDX−1投与マウスにおける血清中IRI濃度と同様、3倍高値であった。インスリンではなくPDX−1の異所性発現が(プロ)インスリンについて陽性に免疫染色されたという事実は、β細胞の表現型に移行していると考えられる、肝細胞の小さいサブ集団(肝細胞ではなく、内分泌細胞に特徴的な、調節経路に属する分泌ベシクル)におけるインスリンの貯留を支援する細胞モジュレーションの誘導を示唆している。
【0147】
(ラジオイムノアッセイ)
肝インスリンmRNAが効率的に蛋白に翻訳されるかどうかを調べるために、ラジオイムノアッセイ(RIA)により肝組織に由来する抽出液中の免疫反応性インスリン(IRI)含量を試験した。RT−PCRによりインスリン遺伝子発現について陽性であったPDX−1投与マウスの肝(図1)は対照ウィルスを投与した動物の肝臓よりも約25倍高値のIRIを含有していた(表2)。PDX−1投与肝由来抽出液中の平均IRI濃度は20.7±3.97μU/mg蛋白であり、対照肝ではIRIは僅か0.78±0.25μU/mg蛋白であった。対照肝試料中で測定したインスリンのバックグラウンド濃度はおそらくはこの臓器中に大量に存在するその受容体に結合したインスリン(膵起源)を示している可能性がある。PDX−1投与肝抽出液中に検出されたIRIは膵抽出液中に検出された濃度の<0.1%であったが(表2)、PDX−1投与マウスにおける血清中IRI濃度は対照群と比較してほぼ3倍高値であり(それぞれ323±48.4対118.2±23.7μU/ml(表2))、インスリンが合成されておりその大部分が血流中に分泌されたことを示している。これらのデータは分子操作により誘導されたインスリン遺伝子発現がプロ/ホルモンの特異的肝生産に良好に翻訳されたことを示している。
【0148】
PDX−1投与肝において検出された免疫反応性のインスリンは膵抽出液中のIRI濃度の1%未満であった(表2)。肝抽出液中のラジオイムノアッセイ(RIA)により測定されたIRI値はこの臓器における実際のインスリン生産を過小評価していると考えられる。RIAのために本発明者等が使用した抗体はプロセシングされたホルモンに優先的に結合し、肝細胞に主に存在し、膵臓にははるかに低い濃度で存在すると推定されるプロインスリンとの交差反応性は僅か60%である。
【0149】
(実施例7:血中グルコースおよび血清中インスリンの濃度)
実施例2に記載の通り組み換えアデノウィルスを動物に投与した。屠殺する前にグルコース濃度(Accutrend(登録商標)GC,Boehringer Mannheim,Mannheim,Germany)およびラジオイムノアッセイによるインスリン濃度(Coat−a−Count,DPC,Los Angeles,CA,USA,ラットインスリン標準物質(Linco)使用、使用した抗インスリン抗体はヒトプロインスリンとは交差反応性は僅か60%である)の測定用に、下大静脈より採血した。
【0150】
AdCMV−PDX−1組み換えアデノウィルスを投与したマウスは高血糖症ではなかったが、その血中グルコース濃度はAdCMV−β−galまたはAdCMV−Lucを投与したマウスよりも有意に低値であった[それぞれ197±11.2対228±15.74mg/dl、(表2)]。血漿中免疫反応性インスリン濃度は対照群と比較してPDX−1投与マウスで有意に高値であった[それぞれ323±48.4対118.2±23.7μU/ml、(表2)]。
【0151】
PDX−1投与マウスにおける血清中IRI濃度の3倍上昇は、PDX−1投与肝抽出液中に示された肝IRI含量の25倍上昇(表2)をそれ自体では説明することができない。即ち、肝プロ/インスリン含量の増大は局所的生産に起因している。
【0152】
【表2】
(実施例8:インスリン関連ペプチドのHPLC分析)
実施例2に記載するとおり組み換えアデノウィルスを動物に投与した。肝および膵臓を摘出し、70%エタノール−0.18N塩酸中でホモゲナイズし、凍結乾燥し、0.1M塩酸−0.1%BSA中に再懸濁し、HPLC分析に付した。
【0153】
肝および膵の抽出液から得たインスリン関連ペプチドをLichrospher100R−18カラム(Merck、Darmstadt,Germany)およびGross et alの溶離条件を用いた逆相HPLCにより分解した。1ml画分を水中0.1%BSA0.1mlの入った試験管中に採取し、Speed−Vac装置で乾燥し、RIA緩衝液(PBS中0.1%BSA)1ml中に希釈再調製し、RIAによるペプチド測定に付した。モルモット抗ブタインスリン抗体(Linco,St Charles,MO)とラットまたはヒトインスリン標準物質のいずれかを用いてそれぞれマウスまたはヒトIRIを測定した。
【0154】
PDX−1投与マウスの肝IRI含量のHPLC分析によれば完全にプロセシングされたmI−1およびmI−2への変換は59±7%(n=3)であった。これと比較して、膵抽出液は85±5%(n=3)の成熟インスリンを含有していた(図2)。これに対し、ヒトインスリンの異所性発現(AdCMV−hIns)は、抽出されたIRIの大部分が未成熟インスリンであった肝一例を除き、肝細胞中のIRIの貯留をもたらさなかった。このことは、インスリン遺伝子産物の貯留が観察されずその大部分が構成性の分泌経路により分泌されたトランスフェクトFAO細胞における以前の観察結果と合致している。これらのデータは肝における異所性PDX−1発現は誘導されたプロホルモンのプロセシングが可能な内分泌組織に特徴的である細胞機序を誘導し、肝においてプロインスリンのみが異所性に発現される場合には誘導されないことを示している。即ち、異所性PDX−1発現による肝細胞における拡張されたβ細胞表現型の誘導を示す。
【0155】
(実施例9:肝プロ/インスリン生産の生物学的活性)
糖尿病マウスにおける血糖値を制御するPDX−1誘導肝インスリン生産の能力を試験した。C57BL/6マウスを200mg/kgの腹腔内STZ注射の24時間後にケトアシドーシスを伴った糖尿病(>600mg/dl)とした。STZ注射の24〜48時間後に、マウスには尾部静脈から生理食塩水中のAdCMV−PDX−1またはAdCMVβ−gal(対照)組み換えアデノウィルスを投与した。図4に示すとおり、AdCMV−PDX−1投与マウスは組み換えアデノウィルス投与の2日後から開始して、約600から200〜300mg/dlまでの血中グルコース値の緩やかな低下を示した。これとは対照的に、対照のAdCMVβ−gal投与マウスにおいては、高血糖症は持続し、死亡率の増大を伴い、試験した22匹中12匹が死亡し、アデノウィルス投与の1〜3日後には重度のケトアシドーシスを有していた。更にまた、両群とも高血糖症誘導後は体重減少を示し、屠殺時前までに回復しなかった。要すれば、データは、PDX−1の発現は損なわれたβ細胞機能を有するマウスにおける高血糖症を軽減する成熟した生物学的に活性なインスリンの生産を誘導するのに十分であることを示している。
【0156】
(実施例10:異所性PDX−1発現によるインスリンプロモーターのインビトロの活性化)
PDX−1はラットインスリン−1プロモーターによりヒトインスリンの発現を送達する組み換えアデノウィルスAdRip−1hInsと共に同時送達された場合にラットインスリン−1プロモーターを活性化する(実施例2および図1参照)。PDX−1はラット肝細胞においてラットインスリンプロモーター−1をインビトロで活性化するのに十分であることがわかっている。成熟および胎児の肝細胞の一次培養物を血清非含有の化学的に明らかにされている培地中、コラーゲン−1被覆組織培養皿上で培養した。プレーティングから2日後に、細胞にAdCMV−PDX−1&AdRIP−1hInsまたはAdCMVβ−gal&AdRIP−1hInsのいずれかを投与した。アデノウィルス投与の48時間後、全RNAを抽出し、プロインスリン遺伝子の発現を実施例2に記載したとおり調べた。
【0157】
PDX−1は異所性発現されたRIP−hIns(ラットインスリンプロモーター−1、このプロモーターの410bp、ヒトインスリン駆動、組み換えアデノウィルスにより導入)を活性化し、β−galはこのような能力を保有していなかった(図5)。
【0158】
(実施例11:肝細胞における内因性ソマトスタチン遺伝子発現のインビトロの誘導)
胎児(E14−Fisher−344ラット)から単離した肝細胞の一次培養物を培養し、実施例9に記載の通り組み換えアデノウィルスを投与した。ソマトスタチン遺伝子発現は表1に示すプライマーおよびRT−PCR条件を用いて、実施例2に記載の通り逆転写全RNA試料中で検出した。
【0159】
データはインビトロの肝細胞における異所性PDX−1発現は、インビトロで、肝細胞における内因性の、その他の面ではサイレントであるソマトスタチンの遺伝子の発現を誘導することを示している(図6)。
【0160】
(実施例12:肝細胞における内因性インスリン遺伝子発現のインビトロの誘導)
実施例10に記載の通り胎児(E14−Fisher−344ラット)の一次培養物を培養し、組み換えアデノウィルスを投与した。ラットインスリン1遺伝子の発現は表1に示すプライマーおよびRT−PCR条件を用いて、実施例2に記載の通り逆転写全RNA試料中で検出した。
【0161】
データはインビトロの胎児肝細胞の一次培養物における異所性PDX−1発現は、内因性の、その他の面ではサイレントであるインスリンの遺伝子の発現を誘導することを示している(図6)。
【0162】
(実施例13:生産されたホルモンの貯留およびその調節された分泌を可能にする内分泌および神経内分泌の特徴である細胞内コンパートメントの肝細胞内異所性PDX−1発現による誘導)
実施例2に記載の通り、Ad−CMVhInsまたはAdCMVPDX−1のいずれかをマウスに投与した。投与により肝細胞によるヒトインスリンの生産を示す3倍の血清中IRI増大がもたらされた(図1)。免疫細胞化学試験によりインスリン蛋白が陽性であった細胞はAdCMVPDX投与のみで検出された。更にまた、肝抽出液のHPLC分析では肝抽出液中には僅か痕跡量のIRIのみしか検出されず、その全てはAd−CMVhIns投与マウスでは未プロセシングであり、これに対し、AdCMVPDX−1投与マウスでは25倍増大が観察された。更に、AdCMVPDX−1投与マウスにおいて生産されたインスリンの59%が、プロセシングされた。更に、AdCMVPDX−1を投与した肝のみが、インスリンのプロセシングの保存および調節された分泌のための調節された経路が可能である細胞にのみ特徴的であるプロホルモンプロセシング酵素PC1/3の誘導を示した。これらのデータは肝細胞におけるインスリンの調節された分泌をPDXが誘導することを示している。
【0163】
(実施例14:PDXにより発現がモジュレートされる核酸の識別)
PDXによりモジュレートされる核酸は異所性PDX発現により識別される。膵組織と比較した場合に、対照投与の膵外島組織において発現されない核酸はPDXによりモジュレートされる核酸である。このようにして識別されたこれらの核酸は膵関連障害を治療するための治療用化合物として使用される。
【0164】
標的遺伝子の識別はサブトラクティブのライブラリ、市販のマイクロアレイチップ(IncyteまたはAffimetrix)またはメンブレンハイブリダイゼーション(CLONTECH、Atlas(登録商標)発現アレイまたはMultiple Tissue Northern(MTN(登録商標))ブロット)の何れかにより実施する。投与組織からのRNAの単離、その精製およびcDNAプローブの合成は、製造元の取扱説明書に従って実施する。
【0165】
PDX投与非膵島組織において発現され、そして膵島プローブされたメンブレンまたはチップ中にも存在するが対照投与非膵島組織には存在しない遺伝子は直接または非直接のPDX標的遺伝子であり、これは遺伝子発現の島細胞特徴的性質を示す。直接または間接の間の判別は、図7に示す電子移動性シフト試験(EMSA)による候補標的遺伝子プロモーター分析、および、プロモーターフットプリンティング(Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989に記載)により解明される。
【0166】
(実施例15:宿主組織における所望の異所性発現遺伝子の調節発現の誘導)
本実施例はインスリン以外の何れかの受容体の調節された発現の誘導を説明する。PDXが非膵島組織においてインスリンプロモーターを活性化しそのグルコースおよび成長因子感知能力を媒介する場合、何らかの別のプロモーターがグルコースおよび成長因子により同様に調節される。即ち、本発明はインスリンプロモーターにより駆動され、これによりその転写および他の面では非内分泌性の組織からの調節された分泌を制御するインスリンプロモーターにより駆動される例えばグルカゴン、成長ホルモン、ステロイドホルモンを含む多くの分泌および/または非分泌の因子の発現を栄養的およびホルモン的に調節するために使用できる(図7)。
【0167】
(実施例16:βまたは島細胞特異的転写因子の階層構造中のPDX位置の識別)
本実施例はβ細胞または島細胞に特異的な転写因子の階層構造におけるPDXの位置の識別を説明する。膵島において発現されるが肝における異所性のPDX−1の発現により誘導されない各転写因子は、肝のような非内分泌膵臓組織中のより包括的で完全または完全に近いβ細胞表現型の誘導のためにPDXと協調すると考えられる。肝における島細胞特異的転写因子の誘導された発現の検出は、表1に例示する適切なプライマーおよび条件を用いて実施例2に記載するとおり実施される。
【0168】
転写因子の活性を分析するための別の方法はフットプリンティングにより実施され、そして以下の通り実施される。
【0169】
電子移動性シフト試験(EMSA):核抽出液(蛋白3〜4μg)を10%グリセロール、15mMHepes(pH7.9)、150mMKCl、5mMDTTおよび0.3gのポリdIdC、ポリdAdT(SIGMA St Louis MO)を含有するDNA結合混合物中10分間氷上でインキュベートした。最初のインキュベーションの後、プローブ約0.2ngを添加し、更に25分間の氷上インキュベーションに付した。結合反応はネイティブの4%ポリアクリルアミドゲル上で分析した。
【0170】
オリゴヌクレオチド(プローブ)。合成の2本鎖オリゴヌクレオチドをDNAポリメラーゼのクレノウフラグメントを用いて[α32P]ATPで末端標識する。インスリンプロモーター上のPDX−1結合部位(の1つ)に関する例であるオリゴヌクレオチドA3/A4の配列は5’GATCTGCCCCTTGTTAATAATCTAATG3’(配列番号24)である。A1(インスリンプロモーター上の別のPDX−1結合部位)の配列は5’GATCCGCCCTTAATGGGCCAAACGGCA−3’(配列番号25)である。図7に示すとおり、標識されたオリゴを電子移動性シフト試験のためのプローブとして使用する。PDX−1の識別は、プロモーター上のその同属体遺伝子座へのPDX−1の結合を防止するか、または、pdx−1+標識プローブのみを含有するものと比較してPAGE(抗体+pdx−1+プローブ)上で分離される複合体の分子量を増大させる特異的抗体を用いたスーパーシフトにより二重推定される(図7における最後2レーン)。
【0171】
(実施例17:肝における膵内分泌および外分泌マーカーの異所性PDX−1発現による誘導)
インビボの成熟肝における異所性PDX−1発現は膵遺伝子の広範なレパートリーを活性化する。内分泌および外分泌の両方のマーカー、例えば外分泌膵転写因子p48は肝における異所性PDX−1発現に応答して独特の発現を示した(図8)。対照投与マウスは膵遺伝子発現に対して殆ど陰性であった。インスリン遺伝子発現は異所性PDX−1投与マウスのほぼ100%で誘導されたが、対照投与マウスの20%においても蛋白に翻訳されない極めて低い濃度で発現された。
【0172】
発生中の膵においてPDX−1は膵の関与と一時的に相関する早期分子マーカーとして作用する。このデータはPDX−1は肝のような成熟した完全に分化した組織において、膵臓器形成におけるその役割を反復していることを示している。
【0173】
(実施例18:肝から膵への発生のシフトの長時間持続過程に対するPDX−1による惹起)
マウスインビボ肝への初回単回アデノウィルス媒介PDX−1投与後6ヶ月のインスリン、グルカゴンおよびソマトスタチンの遺伝子の発現および蛋白の生産を調べた。
【0174】
8〜9週齢のマウスにAd−CMV−PDX−1、即ちCMVプロモーターの制御下にラットPDX−1遺伝子(STF−1)を担持する組み換えアデノウィルスを全身投与した。肝における膵遺伝子発現を齢マッチ対照マウス(Ad−CMV−β−ガラクトシダーゼ投与または未投与)との比較において分析した。
【0175】
肝への遺伝子のアデノウィルス媒介送達により達成される予測された一過性のPDX−1発現にもかかわらず(組み換えPDX−1の発現はウィルス注射後30日〜56日の間に減衰する)、インスリンとソマトスタチンの発現はmRNA(図9)および蛋白のレベル(図11)の両方で6ヶ月間持続した。グルカゴンの遺伝子発現は最初の4ヶ月の間に顕著となった(図9および10)。重要なことであるが、インスリンIおよびインスリンIIの遺伝子の発現は初回PDX−1投与後6〜8ヶ月の時点でもPDX−1投与マウスの80〜100%において明らかであった。
【0176】
インスリンおよびグルカゴンの遺伝子発現の間の一時的相違は成熟肝における膵臓器形成を特徴付ける独特の現象を反映しており、βおよびδ細胞の表現型に向けてより安定な相互変換があることを示唆している。グルカゴン遺伝子は直接のPDX−1標的遺伝子ではなく、肝におけるその持続的発現はPDX−1がこの臓器において分化因子として機能していることを示唆している。
【0177】
(実施例19:インスリン、グルカゴンおよびソマトスタチンの定量分析
PDX−1投与肝のホルモン生産)
免疫組織化学的分析(図10)により、PDX−1異所性遺伝子送達後4〜6ヶ月においても主に中心静脈近接部においてインスリン生産細胞の位置が特定される(図10Aおよび10C)。グルカゴン陽性細胞もまた中心静脈近接部に局在するが(図10B)、逐次的スライド上で行ったこれら2種のホルモンの免疫組織化学的分析によれば、これらのホルモンは同じ細胞内には同時に局在しないことが示唆される。肝内の中心静脈に近接する領域に存在する肝細胞は成熟細胞に相当することがわかっている。
【0178】
PDX−1投与マウスの肝内に保存された肝インスリンの定量的分析によれば、投与後4〜6ヶ月においても、肝インスリン含量は約30〜75ng/g組織であり、これに対し、齢マッチの対照肝では1〜9ng/g組織であった(図11A)。初回Ad−CMV−PDX−1投与後少なくとも4ヶ月まで肝プロ/グルカゴンおよびソマトスタチン含量の有意な2倍増量が観察された(図11BおよびC)。PDX−1投与後の他の2種の膵ホルモンと比較した場合のインスリンの肝含量の大きな相違は膵におけるこれらのホルモンの比に似ていると考えられる。肝インスリン生産にもかかわらず、正常な膵機能を有するPDX−1投与マウスにおける血清中インスリンおよびグルコースの濃度は実験期間中を通して正常であった(PDX−1投与と対照の比較において、それぞれ、インスリン:1.0±0.5対0.9±0.4ng/ml、および、グルカゴン:0.16±0.08対0.12±0.05ng/ml)。
【0179】
肝内の膵ホルモンの持続的生産は異所性PDX−1がPDX−1トランスジーンの持続的存在を必要としない事象のカスケードを惹起することを示唆している。
【0180】
(実施例20:肝における内因性の他の面ではサイレントなPDX−1遺伝子の発現の異所性PDX−1による惹起)
一過性の異所性PDX−1発現により惹起される肝における持続性発生シフトを評価するために、トランスジーンが他の面ではサイレントな膵転写因子の発現を誘導するかどうか分析した。
【0181】
異所性遺伝子による肝内における、内因性で他の面ではサイレントなPDX−1遺伝子の誘導を分析するために、ラットPDX−1相同体の発現を指向する組み換えアデノウィルスを全身送達によりマウスに投与し、そして、RT−PCRにより異所性PDX−1トランスジーン(ラット)mRNA(cDNA)と内因性マウスmRNAとを判別するために特定のオリゴヌクレオチドプライマーを使用した。
【0182】
Ad−CMV−PDX−1投与マウスの肝から単離したDNA試料のPCR分析によれば、アデノウィルス注射後30〜56日にウィルスコードトランスジーンは消失することが確認される(図12A)。
【0183】
図12Bは異所性ラットPDX−1発現は肝における送達されたウィルスDNAの観察された存在と並行し、そして1ヵ月後において消滅することも示している(図12A)。実験の全期間にわたり投与肝において発現された唯一のPDX−1の相同体は内因性でその他の面ではサイレントなマウス相同体である(図12B)。内因性PDX−1の発現はラットPDX−1トランスジーンを投与されたマウスに限定されており、異所性PDX−1投与マウスの75%(28匹中21匹)および分析した対照投与肝25例中0例で明らかとなった。リアルタイムPCRを使用して、肝におけるマウス対ラットのPDX−1遺伝子発現の識別および定量された相対量を、同一条件(ただし異なるプライマー)を用いて初回投与後の時間の関数として分析し、同じ試料内のβアクチンに対して規格化した。
【0184】
図12Cに示す通り、異所性ラットPDX−1をコードするmRNAは5日において最高値を示し、30日には85%低下し、その後は消失した。これとは対照的に、内因性マウスPDX−1は実験の全期間を通じてかなりの濃度で発現された。これらのデータを総括すると、内因性であるが他の面ではサイレントであるPDX−1の肝内における自己誘導が示唆されており、これは肝から膵への相互変換過程の長時間持続する様式を機序的に説明していることを示唆している。
【0185】
(実施例21:機能性でありSTZ誘導高血糖症を防止するPDX−1トランスジーン発現に応答した肝内で生産されるインスリン)
生物学的に活性なインスリンの長時間持続する生産をPDX−1遺伝子送達により誘導できるかどうかを調べるために、それがSTZ誘導糖尿病に対抗して保護作用をもたらすかどうかを分析した。初回のAd−CMV−PDX−1投与後8ヶ月に、マウスに220mg/kgのSTZを投与し、高血糖症の発生率を齢マッチ対照群と比較した。対照Balb/cマウスの60%(10匹中6匹)がSTZ注射後3〜5日以内に高血糖症を発症した。これとは対照的に、5匹のPDX−1投与マウスでは、それらがAd−CMV−PDX−1投与後8ヶ月に分析したという事実にもかかわらず、うち僅か1匹のみがSTZ投与に応答して高血糖症を発症していた(20%)。
【0186】
免疫組織化学的試験およびRIAによるインスリン含量の定量によれば、STZ投与に応答して膵β細胞は殆どが破壊され、そして対照糖尿病マウスと、重要なことであるが、PDX−1投与マウス(正常血糖のまま推移)の両方において、膵インスリン含量が95±1%低下したことが判った。これとは対照的に、PDX−1投与マウスにおける肝免疫反応性インスリン(IRI)含量はPDX−1を投与しなかった対照糖尿病マウスと比較して40倍高値であった(図13)。健常マウスにおいては、肝インスリンは膵内の生産量の僅か1%であったが、STZ投与に応答して肝インスリン生産は同じマウスのSTZ投与膵において生産された免疫反応性インスリンの量の25.6%となっている。
【0187】
これらの結果から、PDX−1誘導の発生シフトは長時間持続し、かつ機能的であり、肝により寄与された比較的中等度のIRI濃度は肝内で生産されたインスリンは、肝グルコース生産とグルコース廃棄の間のバランスの効率的調節によってもSTZ誘導高血糖症に対抗する保護作用を示すことが示唆される。重要な点は、これはまた肝内で発生シフトした細胞がβ細胞特異的毒素に抵抗性であることも示唆していることである。
【0188】
重要なことであるが、初回ウィルス感染の6〜8ヵ月後であっても肝内で局所的インスリン生産が継続しているにもかかわらず、肝機能は損なわれていなかった(表4a)。アデノウィルス投与に応答して肝機能の一過性の変化が起こったが、肝機能は1〜2ヶ月以内に正常値を回復した。更にまた、血清中アミラーゼ濃度は内因性PDX−1および膵ホルモン発現にも関わらず全時点において増大しなかった(表4b)。PDX−1投与マウスの体重増加率は齢マッチ対照マウスと同様であった。
【0189】
【表4−1】
PDX投与後のマウスの血液生化学的測定(平均±SEM)。ALB:アルブミン;ST:アスパルテートアミノトランスフェラーゼ;ALT:アラニンアミノトランスフェラーゼ;T.bil:総ビリルビン。データは平均±SEM;*プールした試料、分析したマウスの数はカッコ内に示す。
【0190】
【表4−2】
(実施例22:ヒトケラチノサイトの一次培養物中における転移分化のPDX−1および成長因子による誘導)
(細胞培養)
ケラチノサイトの培養は剥離厚みの皮膚の小型生検標本(2〜4cm2)から開始した。トリプシン−EDTA中一夜(ON)インキュベートした後、表皮を分離し、上皮をトリプシン−EDTA中で破砕して単細胞の懸濁液を形成した。細胞懸濁液をケラチノサイト培地(Nature 265:421−4,1977)中で培養し、細胞懸濁液をファルコン培養プレートに結合させ、2〜5継代で使用した。細胞が70%コンフルエントに達した時点で48〜96時間、以下に記載する所定の投与法により投与した。
【0191】
(遺伝子発現)
遺伝子発現分析はTaqmanリアルタイムPCR(ABI)を用いて実施した。
【0192】
(細胞の投与)
K1:EGF+KGF+NIC+PDX−1(100moi)
K2:EGF+KGF+NIC+PDX−1(10moi)
K3:EGF+KGF
K4:EGF+KGF+RGCI
全投与においてEGF、KGFは20ng/ml;NIC:10ng/ml。
【0193】
(対照群)
対照群細胞は非関連性のAd−CMV−Hインスリン、即ちCMVプロモーターの制御下にヒトインスリン遺伝子の発現を行っている組み換えアデノウィルスを投与した。RGCIは2官能性の組み換えアデノウィルスコンストラクトAd−CMV−PDX−1−RIP−GFPであり、これはインスリン遺伝子発現に向けてPDX−1媒介転移分化を起こしている細胞を識別した。このウィルスにおけるPDX−1の発現はCMVプロモーターにより駆動されたのに対し、GFP発現はインスリンに関する組織特異的プロモーター(RIP)により駆動された。
【0194】
(結果)
投与K1〜K4において、内因性の他の面ではサイレントな膵遺伝子がケラチノサイトにおいて発現された。興味深いことに、グルカゴンの遺伝子発現は低濃度のPDX−1(K4)により、そして、重要なことであるがEGF+KGF投与単独により、異所性PDX−1を必要とすることなく誘導された(図15)。
【0195】
(実施例23:ヒト肝細胞におけるインスリンプロモーターのPDX−1による活性化)
ヒト肝細胞を成人および胎児の組織から単離した。細胞は異種の表現型を示し、20継代までは培養物中効率的に増殖した。何れの事前の選別も行うことなく成人の完全に分化した肝臓から単離したヒト細胞が異所性PDX−1発現に応答して膵表現型に向けた発生再指向の過程を起こすかどうか分析した。膵特徴の第1の指標はその他の面では肝中で不活性であるインスリンプロモーターの活性化である。細胞に異種のCMVプロモーターの制御下にPDX−1を発現する2官能性組み換えアデノウィルスAd−RIP−GFP−CMV−PDX−1を投与し、インスリンプロモーターにGFP発現(図17a)を制御させ、これによりPDX−1「応答」細胞を緑色蛍光により識別した(図17b)。成人ヒト肝細胞が組み換えアデノウィルスに感染する総能力はAd−CMV−GFP感染により調べ、成人肝細胞の40±7%が継代1〜6においてAd−CMV−GFP感染に応答して緑色蛍光を示した。意外にも、これらの細胞の約半数(23±3.5%)がFACS分析(データ示さず)でも判明したとおり、膵プロモーターの活性化による異所性PDX−1発現に応答している(図17b)。部分的な応答が成人肝細胞の分化状態により影響され、制限されるかどうかを調べるために、分化程度が低くおそらくは成人ヒト肝細胞よりも多能細胞を多く含んでいる胎児ヒト肝細胞の発生再指向を誘導するPDX−1の能力を分析した。実際、培養物中の胎児ヒト肝細胞(妊娠22週で単離)の27±7.8%が膵プロモーターの活性化による異所性PDX−1発現に応答し、Ad−CMV−GFP形質導入へのその応答は成人肝から単離された細胞と同様であった(図17c)。応答細胞のこの中等度の増大は細胞の分化状態がPDX−1により誘導される発生シフト過程において限定された役割しか果たしていないことを示唆していると考えられる。
【0196】
3つの重要な観察結果がヒト肝細胞の一次培養から得られる。第1に、成人および胎児の両方の細胞はインビトロで培養した場合、6ヶ月まで効率的に増殖し、そして、PDX−1投与に応答してインスリンプロモーターを活性化することができる。しかしながら、その感染および「転移分化」の能力は継代数が増加するに従って低下する(図17cおよびd)。第2に、胎児ヒト肝組織は成人肝より単離された細胞よりも多数の多能細胞よりなるが、それらは膵への転移分化過程を起こす同様の能力を有する(図17c)。第3に、異所性にPDX−1を発現するヒト肝細胞においてインスリンプロモーターを活性化する能力は、組み換えアデノウィルスにより感染可能な細胞の半数は培養の低継代ではPDX−1依存性の態様で異所性インスリンプロモーターをやはり活性化させるため、細胞の希少な集団においては生じない(図17d)。
【0197】
(実施例24:可溶性因子によるPDX−1誘導の肝から膵への転移分化の促進)
転移分化過程の範囲をより良好に識別することはPDX−1投与肝細胞における内因性の他面ではサイレントな膵遺伝子の発現の誘導を分析することである。
【0198】
3種の主要な膵ホルモン遺伝子発現の発現は、対照の未投与の肝細胞と比較して2桁高値のPDX−1により誘導した(図18)。
【0199】
ニコチンアミドおよび表皮成長因子(EGF)は胚性膵臓器培養を含めて未分化の膵細胞の膵内分泌分化を促進することがわかっている。興味深いことに、PDX−1投与にニコチンアミドおよびEGF(総称してGFと称する)を添加した場合、膵ホルモン遺伝子発現は劇的に増大した。成人肝細胞の一次培養におけるインスリン遺伝子発現は対照未投与肝細胞と比較して7桁高値となった。ニコチンアミドおよびEGFは単独でも組み合わせた場合も肝細胞における膵遺伝子発現に対してPDX−1依存作用を示した。これらのデータはPDX−1は肝から膵への転移分化の過程に必要であるが、GFは非依存的に誘導するのには十分ではない過程に対して相乗作用を有することを示唆している。重要な点は、胎児および成人のヒト肝細胞は、両方の培養におけるインスリン遺伝子の発現のリアルタイムPCR定量により示されたとおり、異所性PDX−1発現およびGF投与に応答して膵遺伝子発現の同様の水準を示していることである(図18b)。
【0200】
PDX−1投与の前数週間に亘りGFの存在下に肝細胞を培養したところ、PDX−1およびGFを同時に投与した細胞と比較してインスリン遺伝子発現の増大はもたらされなかった。これとは対照的に、予備投与培養からGFを除去した場合、インスリン遺伝子発現がPDX−1単独の場合と同様の濃度でもたらされた。総括すると、PDX−1誘導転移分化に対してGFが有している促進作用は、この過程の影響を受けやすい希少なサブ集団の増殖を誘発することではなく、むしろ、それらはいまだ未知の態様で寄与することによりPDX−1誘導過程をもたらす細胞内シグナル伝達を増強していることが示唆されている。Ad−CMV−hIns,即ちCMVプロモーター制御下にヒトプロインスリンcDNAの構成的異所性発現を起こす組み換えアデノウィルスの同様の感染多重度はPDX−1およびGF投与細胞の場合に匹敵する濃度のインスリン遺伝子発現をもたらした(PDX−1投与の場合のようにグルカゴンとソマトスタチンの遺伝子発現の誘導を伴わない)。Ad−CMV−hInsを投与した場合にインスリンを発現する細胞の数がPDX−1誘導内因性インスリン遺伝子を発現する細胞の数の二倍であること(細胞の僅か23%のみが転移分化過程を起こし、細胞の40%が異所性ヒトインスリン遺伝子を発現するため、図17cおよび18c参照)を考慮すると、PDX−1投与肝細胞における(内因性)インスリンプロモーターは非相同のCMVプロモーターと同様の活性および力価を有することが示唆される。
【0201】
(実施例25:PDX−1による成人ヒト肝細胞への内分泌特性の付与)
既に転移分化した成人ヒト肝細胞が内分泌細胞の特徴を獲得するかどうか分析するために、これらの細胞のPDX−1誘導インスリンを貯蔵してプロセシングする能力を分析した。図19はインスリンおよびC−ペプチドの分泌およびPDX−1投与細胞におけるインスリン含量を示す。PDX−1投与単独では免疫反応性インスリン(IRI)含量は34.5±4.5倍増大、IRI分泌は38.7±8.7倍増大、そして、C−ペプチド分泌は7.5±2.1倍増大となった。GFを培地に添加したところ過程に対するPDX−1の作用が大きく増強され、未投与肝細胞と比較して、IRI含量は91.3±20.3倍増大し、その分泌は74.5±33.3倍増大し、そしてC−ペプチドの分泌は33.9±14.6倍増大した。過程に対するPDX−1の作用をヒトプロインスリンの異所性発現の作用と比較した(Ad−CMV−hIns組み換えアデノウィルスを使用)。Ad−CMV−hInsを投与した細胞においては生産されたIRIの大部分が放出されたが、PDX−1投与細胞中のIRIの大半は細胞内に貯留された。Ad−CMV−hIns投与によるC−ペプチドの中等度の分泌は肝細胞中のフリンのような既存のエンドペプチダーゼに起因するものと考えられる。重要なことであるが、プロホルモン変換酵素2の誘導はPDX−1投与の場合のみ顕著であり、Ad−CMV−hIns投与肝細胞では観察されなかった(図21a)。
【0202】
インスリンに対する抗体を用いたイムノゴールド組織化学の電子顕微鏡分析によれば、インスリンは分泌顆粒に保存された(図20a)。これらの顆粒はインビボの未損傷の膵島の場合に用に特徴的な緻密コア部を含まないが、より低濃度のインスリン保存を有するβ細胞系統に存在するものと類似していた。内分泌表現型は神経内分泌ベシクル特異的遺伝子発現の特異的誘導に関連していた。SCG−2(セクレトグラニン−2)およびSGNE1(分泌顆粒ニューロエンドクリン−1、図21b)の特異的発現はPDX−1投与細胞のみで観察され、Ad−CMV−hIns投与では観察されなかった。
【0203】
これらのデータを総括すれば、PDX−1および適当な因子を投与された成人ヒト肝細胞は、膵内分泌細胞に特徴的な多くの特性を模倣した膵ホルモン生産細胞への広範で効率的な転移分化を起こすことが示唆される。
【0204】
(実施例26:転移分化した成人ヒト肝細胞のグルコース感知能力)
グルコース感知能力およびグルコース感知とインスリン分泌との間の関連は膵β細胞機能を保証するものである。
【0205】
PDX−1誘導転移分化した肝細胞はGLUT−2およびグルコキナーゼ(GK、図21a)遺伝子を発現し、グルコース調節の態様でインスリンを分泌することが示された。25mMグルコースへのPDX−1投与成人ヒト肝細胞の曝露はインスリン分泌の即座で強度の増大をもたらす(図21b)。グルコース刺激インスリン(図21b)およびC−ペプチド(図21c)の分泌の経時的分析によれば、膵β細胞の場合と同様の2相性の動的な特徴が明らかになり、これには即座でシャープな第1のピークとそれに続く延長した第2のピークの分泌が伴っていた。グルコース惹起が排除されると、インスリン分泌は即座に低下した(図21d)。初回グルコース惹起後60〜90分の細胞外インスリン濃度の低下(図21b)はC−ペプチドの場合(図21c)よりも強度であり、異種培養物中の肝細胞による分泌インスリンの広範な取り込みを表していると考えられる。グルコース用量応答によれば、正常な膵島における8〜16mMでの最大インスリン分泌と比較して最大C−ペプチド分泌が25mMグルコースで生じ(図21d)たことから、正常膵β細胞と比較して右側へのシフトが明らかになった。重要な点は、グルコース感知能力とインスリン分泌の間の関連が正常膵β細胞と同様の様式で転移分化肝細胞中で起こったことであり、グルコースはインスリン分泌に対するその作用を発揮するためには代謝されなければならない。非代謝性のグルコース類縁体である2−デオキシ−グルコース(2DOG)は転移分化肝細胞においてC−ペプチドの分泌を惹起しなかった(図21d)。予測された通り、構成性プロモーター(Ad−CMV−hIns)により駆動されるヒトインスリンの異所性発現はプロホルモンのグルコース調節分泌をもたらさなかった。これらのデータはグルコース感知能力およびインスリン分泌との関連性が転移分化過程の結果であることを示している。
【0206】
(実施例27:糖尿病マウスにおける高血糖症の転移分化成人ヒト肝細胞による軽減)
β細胞機能を代替する転移分化成人ヒト肝細胞の能力を調べるために、STZ投与により糖尿病とされた免疫不全SCID−NODマウスに細胞を移植した。図22は対照投与マウスは高血糖症のままであったのに対し、PDX−1投与成人ヒト肝細胞を移植されたマウスは血糖値の徐々であるが有意な低下を示したことを示している。免疫組織化学的分析によれば、これらのマウスの膵臓はインスリン枯渇であったが、腎被膜下に移植したヒト肝細胞はPDX−1およびインスリンについて陽性に染色された(図18b)。ヒトC−ペプチドはPDX−1投与ヒト肝細胞を移植されたSTZ投与マウスの血清中で検出された。ヒトC−ペプチド濃度は正常SCID−NODおよびSTZ投与対照マウスにおける0.04±0.02ng/ml(p<0.01)と比較して有意な6〜7倍上昇を示し、平均は0.26±0.03ng/mlであった(図22c)。ヒト細胞移植マウスにおける血清中マウスインスリン濃度は未変化のままであり、対照の正常血糖SCID−NOCマウス(0.45±0.03ng/ml)よりも有意に低値(0.16±0.03ng/ml)であった。これらを総括すると、これらの所見は移植マウスにおける高血糖症は転移分化ヒト肝細胞から分泌されたヒトインスリンにより正常化されたことを示している。これらの結果はPDX−1投与転移分化成人ヒト肝細胞がインビボのβ細胞を代替物として機能する能力を明らかにしている。
【0207】
(実施例28:PDX−1誘導の肝から膵への転移分化によるCAD−NODマウスにおける高血糖症の退行)
明らかな自己免疫糖尿病に対するPDX−1誘導の肝から膵への転移分化の作用を調べるために、糖尿病NODマウスにAd−CMV−PDX−1またはAd−Rip−βGalを前述のとおり投与した。1群のマウスは対照として未投与のままとした。グルコース代謝の調節を調べるために血中グルコース濃度および体重をモニタリングした。未投与マウスおよびAd−Rip−βGal投与マウスは高血糖症のまま存続し、体重を減少させ、投与後最初の2週間以内に死亡した(図24)。これとは対照的に、Ad−CMV−PDX−1を投与したマウスの65%(34匹中20匹)が投与後最初の5日間以内に正常血糖となった。しかしながら、この正常血糖は一部のマウスでは一過性であった。PDX1を投与したマウスの38%(13/34)は投与の1ヶ月後に正常血糖のままであり、Ad−CMV−PDX−1を投与した他の20%(7/34)は投与の10〜14日後に高血糖症(図24a)となったが、実験の全期間を通じて安定した体重を維持した(図24b)。
【0208】
これらのデータはPDX−1により誘導された肝から膵への転移分化の過程は自己免疫糖尿病(例えば1型)を退行させることを示唆している。
【0209】
(実施例29:Ad−CMV−PDX−1投与糖尿病マウスにおけるインスリンの合成および調節)
膵および肝のインスリン発現の免疫組織化学的分析によれば、Ad−CMV−PDX−1投与マウスの肝におけるインスリン生産細胞の存在が明らかになったが、その膵には存在しなかった(図25)。肝インスリン生産細胞は前述の通り中心静脈に近接して位置していた。更にまた、肝インスリン含量および血清中インスリン濃度は対照群と比較してAd−CMV−PDX−1投与マウスでは有意に高値であった(図26)。即ちAd−CMV−PDX−1は肝におけるインスリンの発現およびその血中への分泌を誘導した。
【0210】
血中グルコースによる肝インスリン放出の調節を分析するために、Ad−CMV−PDX−1投与後正常血糖となってから2〜3週間後の糖尿病マウス5匹におけるグルコース耐容性試験を実施した。対照として、Ad−CMV−βGal投与糖尿病マウスおよび健常BALB/cマウスを使用した。健常BALB/cおよびAd−CMV−PDX−1投与マウスとの間にはグルコースクリアランス速度に差は観察されず、肝転移分化細胞によるインスリン分泌は実際にグルコースにより調節されることを示している(図27)。これとは対照的に、糖尿病Ad−CMV−βGal投与マウスはグルコースクリアランスを示さず、試験中を通じて高血糖症のまま存続した。これらのデータを総括すると、PDX−1誘導の機能的な肝から膵への転移分化は自己免疫のマウスモデルにおいても起こっている。PDX−1誘導正常血糖は肝におけるインスリン生産の誘導およびグルコース調節態様におけるその放出と関連していた。
【0211】
(実施例30:骨髄細胞の発生シフトのPDX−1による誘導)
骨髄細胞から機能的膵細胞への発生シフトを誘導する異所性PDX−1の能力を以下の通り測定する。純度90%超の新鮮凍結ヒトBMから単離したAC133+細胞を(a)24穴の組織培養プラスチックプレートまたは(b)テフロン(登録商標)バッグのいずれかにおいて、IL−6、TPO、Flt−3リガンドおよびSCFの継続的存在下、TEPAの存在下または非存在下に3週間増殖させた。前駆細胞の組成および能力は投与終了時および長期インキュベーション培養後に検査する。
【0212】
感染および実験の条件を最適化するために、2官能性のアデノウィルス(AdRIP−GFP−CMV−PDX−1)を用いて培養物を感染させる。2〜103MOI(培養物中の細胞数でウィルス粒子数を割ったもの、MOI、感染多重度)での感染後の時間の関数としてのGFP−レポーター遺伝子の発現は以下の通りである。
【0213】
応答細胞(インスリンプロモーターを活性化し、これによりGFPを発現する)を分類し、非応答細胞から分離して培養し、その後の分析に付する。対照BM細胞(TEPA投与または未投与)の分離された培養物は転移分化を伴わないインスリン生産に関する対照としてAdCMV−インスリンを投与する。
【0214】
遺伝子発現の後にRT−PCRを行う。遺伝子発現の濃度および発生シフト後の誘導後の時間を定量的試験においてリアルタイムPCR(ABI、USA)を用いてリアルタイムPCRにより分析する。膵ホルモン、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチンおよびプロホルモン変換酵素および特定の膵転写因子、即ちBETA2、Isl−1、Nkx6.1、Pax4およびPax6および内因性PDX−1の発現を分析する。
【0215】
ホルモン生産は特異的抗体、即ちモルモット抗ブタインスリン;ウサギ抗ヒトグルカゴン;ウサギ抗ヒトソマトスタチン(全てDAKO A/S、Glostrup,Denmark)を用いて免疫組織化学的に検出する。インスリンおよびグルカゴンの生産および分泌は市販のRIA特異的キットであるSensitiveヒトインスリンおよびC−ペプチドRIAキットおよびグルカゴンRIAキット(Linco resrarch ICN,Missouri、USA)により分析する。グルコースの用量応答およびプロ/インスリン合成の過程および成熟した生物学的に活性なインスリンへの変換は記載したとおり(2)逆相HPLCにより、そして、特異的ヒトc−ペプチドRIAキット(Linco)を用いた培地へのC−ペプチドの分泌を分析することにより分解する。異なるグルコース濃度における細胞内インスリン含量を分析する。
【0216】
PDX−1誘導BM細胞中のグルコースへのインスリン分泌応答の動的特徴をインビトロで分析し、異所性インスリン発現(AdCMV−hIns)の場合と比較する。細胞を6穴皿上種々の濃度のグルコース中でインキュベートし、培地へのIRI分泌の用量応答および経時変化をラジオイムノアッセイ(RIA)で測定する。フォルスコリン/IBMXによる増大したインスリン分泌はモジュレートされた肝細胞における蛋白の分泌に関わる調節の誘導を示している。2−DOCやL−グルコースに対してではなくグルコースへの感受性は、「モジュレート」された肝細胞における栄養代謝へのインスリン分泌経路の特異的な関連を示す。
【0217】
増殖および転移分化した骨髄細胞が糖尿病SCIDマウスにおいて血中グルコース濃度を制御し、糖尿病を退行させる能力を分析することにより、それらが膵β細胞機能を模倣する能力を十分に調べることができる。
【0218】
(実施例31:PDX−1投与ヒト肝細胞のDNAマイクロアレイチップ分析)
図に示すとおり、PDX−1投与ヒト肝細胞のDNAマイクロアレイ分析によれば、対照細胞と比較して500超の遺伝子がアップレギュレートまたはダウンレギュレートされたことが判った。PDX−1投与に応答してモジュレートされた遺伝子は膵転写因子(表5参照)およびカタラーゼおよび肝ジスムターゼポリペプチド(表6参照)を包含する。
【0219】
【表5】
PDX−1投与によりアップレギュレートされた膵遺伝子は表7に示す。
【0220】
【表7−1】
【0221】
【表7−2】
肝培養物におけるPDX−1投与は種々の膵遺伝子の発現をダウンレギュレートした。PDX−1投与によりダウンレギュレートされたこれらの膵遺伝子を表8に示す。
【0222】
【表8】
以下の略記法を表8の第2コラムにおいて使用する。ADH1B=アルコールデヒドロゲナーゼ1B(クラス1);GPR65=G蛋白−結合受容体65;DDO=D−アスパルテートオキシダーゼ;RDH5=レチノールデヒドロゲナーゼ5(11−シスおよび9−シス);RARRES3=レチン酸受容体レスポンダー(タザロテン誘導)3;VCAM=血管細胞接着分子1;HML2=マクロファージレクチン2(カルシウム依存性);PPP1R3C=蛋白ホスファターゼ1、調節(抑制)サブユニット3C;SULT1A1=スルホトランスフェラーゼファミリー、シトゾル性、1A,フェノール嗜好性、メンバー1;MAF=v−maf筋腱膜線維肉腫癌遺伝子相同体(トリ);BLVRB=ビリベルジン還元酵素B(フラビン還元酵素(NADPH));APOL1=アポリポ蛋白L,1;P8=p8蛋白(転移1の候補);PYGL=ホスホリラーゼ、グリコーゲン;肝;FCGRT=IgGのFcフラグメント、受容体、トランスポーター、アルファ;SULT1A3=スルホトランスフェラーゼファミリー、シトゾル性、1A、フェノール嗜好性、メンバー3;AKRIC3=アルド−ケト還元酵素ファミリー1、メンバーC3(3−アルファヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、II型);「sulfotransf−」=スルホトランスフェラーゼファミリー、シトゾル性、1A、フェノール嗜好性、メンバー2;スルホトランスフェラーゼファミリー1A,フェノール嗜好性、メンバー2[ホモサピエンス];RRAS2=関連RASウィルス(r−ras)癌遺伝子相同体2;SERPINF1=セリン(またはシステイン)プロテイナーゼ阻害剤、クレードF(アルファ−2抗プラスミン、色素上皮誘導因子);RXRA=レチノイドX受容体、α;C1R=補体成分1、rサブ成分;CARHSP1=カルシウム調節熱安定性蛋白1、24kDa;FST=フォリスタチン。
【0223】
(等価物)
本発明の特定の実施形態の上記した詳細な説明から、膵ホルモン生産を誘導する独特の方法が記載されていることは明らかである。本明細書においては特定の実施形態を詳述したが、これは説明を目的とするのみの例示であり、添付する請求項の範囲に関して制限することを意図するものではない。特に本発明者等は種々の置き換え、改変および修飾は請求項記載の本発明の精神および範囲から外れることなく本発明に対して行えることを意図している。
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は一般的には非内分泌組織における膵ホルモン生産を含む膵内分泌表現型および機能を誘導する方法、そして特に、内分泌関連疾患を治療するための方法および医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
内分泌膵臓は主にペプチドホルモングルカゴン、インスリン、ソマトスタチンおよび膵ポリペプチドを合成して分泌する島細胞よりなる。インスリン遺伝子の発現は特定の転写因子により部分的には媒介されている制御機序を介して哺乳類膵の膵島β細胞に限定されている。他の細胞においては、インスリン、他の膵ホルモンおよび特定のペプチダーゼの遺伝子は転写的にサイレントである。ホメオドメイン蛋白PDX−1(膵および十二指腸ホメオボックス遺伝子−1、別称IDX−1、IPF−1、STF−1またはIUF−1)は膵島の発生および機能の調節において中枢的な役割を果たす。PDX−1は例えばインスリン、グルカゴンソマトスタチン、プロインスリン変換酵素1/3(PC1/3)、GLUT−2およびグルコキナーゼのような種々の遺伝子の島細胞特異的発現に直接または間接的に関与している。更にまた、PDX−1はグルコースに応答したインスリン遺伝子の転写を媒介する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
(発明の要旨)
本発明は部分的には肝における膵および十二指腸のホメオボックス遺伝子(PDX−1)の異所性の発現がサイレント膵ホルモン遺伝子の発現およびプロホルモンを成熟した生物学的に活性なホルモンに変換するプロセシング機序を誘導するということの発見に基づいている。
【0004】
本発明はPDX−1インデューサー化合物を細胞内に導入することによる細胞における膵遺伝子の発現を誘導する方法を提供する。本発明は更に、PDX−1インデューサー化合物に非膵細胞を接触させることによる膵細胞に非膵細胞を変換する方法を提供する。非膵細胞を、該非膵細胞におけるC/EBPβ、アルブミンまたはADH−1の発現を抑制するような、内因性PDX−1、胚マーカー、インスリン、グルコゴンまたはソマトスタチンの発現を誘導する量のPDX−1インデューサー化合物に接触させる。胚マーカーは例えばアルファ−1フェトプロテインまたはGata−4である。
【0005】
PDX−1インデューサー化合物は内因性のPDX−1の発現を誘導する何れかの化合物である。PDX−1インデューサー化合物は核酸、ポリペプチドまたは小型分子である。例示されるPDX−1インデューサー化合物は、膵および十二指腸ホモボックス(PDX−1)ポリペプチド、ニューロDポリペプチドまたはベータセルリンポリペプチドをコードする核酸である。
【0006】
核酸は例えばサイトメガロウィルス(CMV)プロモーター、BOSプロモーター、トランスサイレチンプロモーター、グルコース6−ホスファターゼプロモーター、アルブミン腸脂肪酸結合蛋白プロモーター、チログロブリンプロモーター、界面活性剤Aプロモーター、界面活性剤cプロモーターまたはホスホグリセレートキナーゼ1プロモーターのようなプロモーターに作動可能に連結している。核酸の方法はプラスミドまたはベクターに存在する。ベクターはウィルスベクター、例えばアデノウィルスベクターまたはレンチウィルスベクターである。アデノウィルスベクターは例えばgutless組み換えアデノウィルスベクターである。
【0007】
「発現を誘導する」とは、遺伝子の発現が化合物非存在下と比較して化合物存在下において増大することを意味する。該細胞に対し、膵または十二指腸ホモボックス1(PDX−1)ポリペプチドをコードする核酸を含む組成物は該細胞において該遺伝子を誘導するのに十分な量である。「発現を抑制する」とは、化合物非存在下と比較して化合物存在下において遺伝子の発現が減少することを意味する。
【0008】
膵遺伝子は例えば、膵転写因子、例えばPDX−1、ベータ2、ISL−2、Nkx6.1、Ngn3.1またはNKx2.2、内分泌遺伝子、例えばSCG2、SGNE1、CHGN、PTPRN、AMPH、NBEA、ニューロDまたはフォリスタチン、または外分泌遺伝子、例えばセリンプロテアーゼ阻害剤、KazalI型、エラスターゼ、p48因子または再生島誘導1アルファを包含する。
【0009】
細胞は哺乳類対象からインビボ、インビトロまたはエクスビボで提供される。細胞は非膵細胞である。細胞は分化した細胞である。細胞は内胚葉細胞、外胚葉細胞または中胚葉細胞である。例えば細胞は肝細胞、皮膚細胞または骨髄細胞である。或いは、細胞は更に、トランスフェクション剤またはニコチンアミド、表皮成長因子、アクチビンA、肝成長因子、エキセンジン、GLP−1またはベータセルリンを含む組成物に接触させる。
【0010】
本発明は膵ホルモン、例えばインスリン、グルカゴンおよびソマトスタチンの対象における濃度を誘導する方法を提供する。1つの特徴において、方法は、対象において膵ホルモン生産を誘導するのに十分な量の、PDXの発現または活性を増大させる化合物を、それを必要とする対象に投与することを含む。別の特徴において、方法は膵ホルモンを発現することができる細胞を準備すること、PDXの発現または活性を増大させる化合物に細胞を接触させること、および、細胞を対象に導入することにより対象における膵ホルモン生産を誘導することを含む。
【0011】
本発明において更に提供されるものは、対象における膵関連の障害、例えば糖尿病、例えばI型またはII型の治療、症状緩解または発症遅延の方法である。方法はPDXの発現を増大させる化合物の治療有効量を対象に投与することを含む。例えば、化合物は膵および十二指腸のホモボックス1(PDX−1)ポリペプチドをコードする核酸である。糖尿病の症状は高血糖症、血中グルコース(血糖値)上昇、頻尿、飲水渇望亢進、飢餓感亢進、異常体重減少、疲労亢進、刺激感または眼のかすみを包含する。糖尿病は例えば空腹時血漿中グルコース試験またはランダム血糖値試験により診断される。
【0012】
別の特徴において、本発明は対象における膵島遺伝子発現の特徴を誘導する方法を提供する。方法は膵島遺伝子発現を誘導するのに十分な量の、PDXの発現または活性を増大させる化合物を、それを必要とする対象に投与することを含む。
【0013】
本発明の更に別の特徴は細胞における膵島細胞表現型の誘導または増強の方法である。方法は該細胞において膵島細胞表現型を誘導または増強するのに十分な量の、PDXの発現または活性を増大させる化合物に細胞を接触させることを含む。
【0014】
更にまたPDXの発現を増大させる化合物および製薬上許容しうる担体を含む医薬組成物も包含される。
本発明はまた、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
細胞における内因性PDX−1発現を誘導する方法であって、該方法は該細胞における該内因性PDX−1発現を誘導するのに十分な量のPDX−1インデューサー化合物を含む組成物を該細胞に導入することを含む方法。
(項目2)
該PDX−1インデューサー化合物が、膵および十二指腸ホメオボックス遺伝子−1(PDX−1)ポリペプチド、ニューロDポリペプチド、または、ベータセルリンポリペプチドをコードする核酸を含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
該核酸がプロモーターに作動可能に連結している項目2記載の方法。
(項目4)
該プロモーターがサイトメガロウィルス(CMV)プロモーター、BOSプロモーター、トランスサイレチンプロモーター、グルコース6−ホスファターゼプロモーター、アルブミン腸脂肪酸結合蛋白プロモーター、チログロブリンプロモーター、界面活性剤Aプロモーター、界面活性剤cプロモーターまたはホスホグリセレートキナーゼ1プロモーターである項目2記載の方法。
(項目5)
該核酸がプラスミド中に存在する項目2記載の方法。
(項目6)
該核酸がウィルスベクター中に存在する項目2記載の方法。
(項目7)
該ウィルスベクターがアデノウィルスベクターまたはレンチウィルスベクターである項目6記載の方法。
(項目8)
該アデノウィルスベクターがgutless組み換えアデノウィルスベクターである項目7記載の方法。
(項目9)
該細胞が非膵細胞である、項目1に記載の方法。
(項目10)
該細胞が内胚葉細胞、外胚葉細胞または中胚葉細胞である項目1記載の方法。
(項目11)
該内胚葉細胞が肝細胞である項目10記載の方法。
(項目12)
該外胚葉細胞が皮膚細胞である項目10記載の方法。
(項目13)
該中胚葉細胞が骨髄細胞である項目10記載の方法。
(項目14)
該細胞は哺乳類対象からインビボ、インビトロまたはエクスビボで提供される、項目1に記載の方法。
(項目15)
該細胞をトランスフェクション剤と接触させることを更に含む項目1記載の方法。
(項目16)
ニコチンアミド、表皮成長因子、アクチビンA、肝成長因子、エキセンジン、GLP−1またはベータセルリンを含む組成物に該細胞を接触させることを更に含む項目1記載の方法。
(項目17)
非膵細胞における膵遺伝子の発現を誘導する方法であって、該方法が、該細胞における該遺伝子発現を誘導するのに十分な量の膵および十二指腸ホメオボックス遺伝子−1(PDX−1)ポリペプチドをコードする核酸を含む組成物を該細胞に導入することを含む方法。
(項目18)
該膵遺伝子が膵転写因子である項目17記載の方法。
(項目19)
該膵転写因子がベータ2、ISL−2、Nkx6.1、Ngn3.1またはNKx2.2である項目18記載の方法。
(項目20)
該膵遺伝子が内分泌遺伝子または外分泌遺伝子である項目17記載の方法。
(項目21)
該内分泌遺伝子がSCG2、SGNE1、CHGN、PTPRN、AMPH、NBEA、ニューロDまたはフォリスタチンである項目20記載の方法。
(項目22)
該外分泌遺伝子がセリンプロテアーゼ阻害剤、KazalI型、エラスターゼ、p48因子または再生島誘導1アルファである項目20記載の方法。
(項目23)
該細胞が内胚葉細胞、外胚葉細胞または中胚葉細胞である項目17記載の方法。
(項目24)
該内胚葉細胞が肝細胞である項目23記載の方法。
(項目25)
該外胚葉細胞が皮膚細胞である項目23記載の方法。
(項目26)
該中胚葉細胞が骨髄細胞である項目23記載の方法。
(項目27)
該細胞は哺乳類対象からインビボ、インビトロまたはエクスビボで提供される、項目17に記載の方法。
(項目28)
非膵細胞を膵細胞に変換する方法であって、
a.該非膵細胞において内因性PDX−1、胚マーカー、インスリン、グルカゴン、またはソマトスタチンの発現を誘導するための量、または、
b.該非膵細胞においてC/EBPβ、アルブミンまたはADH−1の発現を抑制するための量
のPDX−1インデューサー化合物に該非膵細胞を接触させることを含む方法。
(項目29)
該PDX−1インデューサー化合物が、膵および十二指腸ホメオボックス遺伝子−1(PDX−1)ポリペプチド、ニューロDポリペプチド、または、ベータセルリンポリペプチドをコードする核酸を含む、項目28に記載の方法。
(項目30)
該胚マーカーがアルファ−1フェトプロテインまたはGata−4である項目28記載の方法。
(項目31)
該非膵細胞が分化した細胞である項目28記載の方法。
(項目32)
該分化した細胞が肝細胞、皮膚細胞または骨髄細胞である項目31記載の方法。
(項目33)
対象における糖尿病の緩解のための方法であって、膵および十二指腸ホメオボックス遺伝子−1(PDX−1)ポリペプチドをコードする核酸を含む組成物を対象に投与する工程を包含する、方法。
(項目34)
該糖尿病が、I型糖尿病またはII型糖尿病である、項目33に記載の方法。
【0015】
特段の記載が無い限り、本明細書において使用する全ての専門技術用語は本発明が属する技術分野で通常理解されている通りの意味を有する。本明細書に記載したものと同様または等価な方法および材料を本発明の実施または試験において使用できるが、適当な方法および材料は以下に記載するとおりである。本明細書に記載する全ての出版物、特許出願、特許および他の参考文献は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。矛盾がある場合は、定義を含む本明細書が優先する。更に、材料、方法および実施例は例示に過ぎず限定を意図しない。
【0016】
本発明の他の特徴および利点は以下の詳細な説明および請求項から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】RT−PCRで測定した場合のアデノウィルス投与後のマウスインスリンI(mI−1)、マウスインスリンII(mI−2)、ヒトインスリン、PDX−1およびβ−アクチンに関するBalb/cマウス肝組織中のmRNAの検出を示す。レーン1:DNA非存在(PCRの陰性対照);レーン2〜6:AdCMV−PDX−1投与マウスの肝;レーン7、8:AdCMV−PDX−1+AdRIP−1−hIns投与マウスの肝;レーン9〜11:対照AdCMV−β−gal+AdRIP−1−hIns投与マウスの肝;レーン12、13:AdCMV−hIns投与マウスの肝;レーン14:正常マウス膵を示す。
【図2】ネズミ組織から抽出したインスリン関連ペプチドのHPLC溶離の特徴を示している。パネルAはPDX−1投与マウスの膵の特徴である。パネルBはPDX−1投与マウスの肝の特徴である。
【図3】RT−PCRにより測定したPDX−1、ソマトスタチンSomato)、プロインスリン変換酵素PC1/3(PC1/3)、グルカゴン(Glucg)およびβ−アクチンの検出を示す。PDX−1および対照投与マウスから抽出した全RNAはPC1/3特異的プライマーを用いて逆転写した。レーン1〜3:AdCMV−PDX−1投与マウス;レーン4〜5:AdCMV−β−gal投与マウス;レーン6:膵;レーン7:cDNA非存在(PCR用対照)。
【図4】マウス肝における異所性PDX−1発現はSTZ誘導高血糖症を緩解することを示す。12〜13週齢の雄性C57BL/6にクエン酸塩緩衝液中220mg/kgSTZを投与した。STZ投与後36〜48時間にマウスにAdCMVPDX−1(n=15匹)または対照としてAdCMVβ−gal(n=22、ただしSTZ投与後3〜5日に12匹が死亡、STZ投与後6〜7日に更に3匹が死亡)を注射した。AdCMVPDX−1投与では死亡例は観察されなかった。各投与では200μl食塩水中組み換えアデノウィルス2x109PFU(プラーク形成単位)を全身投与した。グルコース濃度は眼静脈から採取した血液試料で測定した。
【図5】培養物中の成熟肝細胞における異所性PDX発現がAdRIPhInsにより同じ細胞に同時送達されたインスリンプロモーター(ラットインスリン−1プロモーター)を活性化することを示す。ヒトインスリンは図1中と同様に検出される。レーン1:AdCMVPDX−1+AdRIPhInsを投与した細胞、レーン2:AdCMVβ−ガラクトシダーゼ+AdRIPhIns、レーン3:対照。
【図6】胎仔Fisherラット(E14)肝細胞の一次単層培養におけるインスリン1およびソマトスタチン遺伝子の誘導を示す。胎仔肝細胞は妊娠第14日のFisher344ラット胚から単離し、コラーゲン被覆組織培養皿上にプレーティングした。2〜5MOI(感染多重度=細胞当たりウィルス粒子数)の段階で細胞をAdCMVPDX−1に感染させた。全RNAをウィルス投与後4日に培養物から抽出し、RT−PCRでソマトスタチン遺伝子発現を分析した。RNAはオリゴ(dT)15プライマーを用いて図1に示すとおり逆転写し、そしてPCR増幅は表1に示すプライマーおよび条件を用いて実施した。レーン1〜3:PDX−1投与細胞から得た試料、レーン4〜6:未投与試料(対照)、レーン7:DNA非存在。PCR産物は1.7%アガロースゲル電気泳動上で分割した。
【図7】インスリンプロモーターへのその結合能力の増大により顕在化するPDX−1活性化に対するグルコースの作用を示す。GLUT−2およびGKの発現は、グルコースの進入および代謝を可能にすることによりこの活性化を促進する。中間経路のRIN−38細胞はAdCMV−GLUT2またはAdCMV−GK(レーン4〜6)に感染させるか、未投与とした(レーン1〜3)。ウィルス投与の24時間後、全細胞を0.2、5および15mMグルコース上でインキュベートした。
【図8A】インビボの成熟肝における膵遺伝子発現の内分泌レパートリーを異所性PDX−1が誘導することを示すRT−PCR分析の写真である。
【図8B】インビボの成熟肝における膵遺伝子発現の外分泌レパートリーを異所性PDX−1が誘導することを示すRT−PCR分析の写真である。
【図9】インビボのAd−CMV−PDX−1の単回投与後の時間の関数としてのPDX−1投与肝における膵遺伝子発現のRT−PCR分析の写真である。
【図10】投与後4〜6ヵ月後の中央静脈(cv)の近接部にインスリンおよびグルカゴン陽性細胞が位置していることを示す一連の写真である。パネルA:インスリン;パネルB:グルカゴン120日;パネルC:インスリン陽性細胞Ad−CMV−PDX−1投与180日後;パネルD:対照群。
【図11A】Ad−CMV−PDX−1の全身投与後の時間の関数としての個々のマウスにおける肝インスリン含有量を示すスキャッタープロット:56日(PDX−1投与、n=3、対照、n=6)、120日(PDX−1投与、n=7、対照、n=3)および180日(PDX−1投与、n=4、対照、n=5)。PDX−1投与(□)または対照(◆)マウスにおける肝IRI含量を各個体別のマウスについて個別に示す。
【図11B】Ad−CMV−PDX−1投与マウスにおける肝グルカゴン含量(PDX−1投与、n=10、対照、n=10)を示す棒グラフである。
【図11C】Ad−CMV−PDX−1投与マウスにおける肝ソマトスタチン(PDX−1投与、n=9、対照、n=7)を示す棒グラフである。
【図12A】インビボのマウスへのアデノウィルス投与後の時間(日数)の関数としての投与肝におけるウィルスAd−CMV−PDX−1DNAの存在を反映するCMVプロモーターに結合した異所性ラットPDX−1cDNAのPCRを示す写真である。
【図12B】インビボのAd−CMV−PDX−1投与後の時間の関数としての肝におけるラットPDX−1(rPDX−1)、マウスPDX−1(mPDX−1)およびβ−アクチンの遺伝子発現のRT−PCR分析を示す写真である。
【図12C】リアルタイムPCRを用いた初期Ad−CMV−PDX−1投与後の時間の関数としての異所性(ラット)対内因性(マウス)PDX−1発現の定量結果を示す棒グラフである。マウスPDX−1(斜線)およびラットPDX−1(黒)。
【図13】肝インスリン生産が初期Ad−CMV−PDX−1投与後8ヶ月のSTZ誘導高血糖症からマウスを保護すること、および、肝における転移分化インスリン生産細胞がSTZに対して耐性であることを示す棒グラフである。
【図14】ヒトケラチノサイトにおけるインスリン遺伝子発現を示す棒グラフであり、ここでPDX−1投与は用量依存的に作用しており、100moi(感染多重度)ではインスリン遺伝子発現の活性化が可能であったが10moiでは不可能であった。
【図15】ヒトケラチノサイトにおけるグルカゴン遺伝子発現を示す棒グラフである。
【図16】ヒトケラチノサイトにおけるソマトスタチン遺伝子発現を示す棒グラフである。
【図17A】Ad−RIP−GFP−CMV−PDX−1コンストラクトを示しており、このコンストラクトは異所性PDX−1発現が異所性インスリンプロモーターの活性化を誘導する細胞の発見を可能にする。
【図17B】Ad−RIP−GFP−CMV−PDX−1を感染させた継代2(A、B)および継代8(C、D)の位相差顕微鏡による形態(A、C)および成熟肝細胞の緑色蛍光(B、D)を示す一連の写真である(倍率x200)。
【図17C】インビトロの継代数の関数としての緑色蛍光により顕在化されるインスリンプロモーターの活性化を示す成熟(黒)および胎仔(緑)の肝細胞の数を示す棒グラフである。(n≧20の確率場は各継代ごとに計数する)
【図17D】継代数の関数としてのAd−CMV−GFP感染(灰色、n≧10)の後の蛍光細胞によりあらわされる全細胞感染能力で割ったインスリンプロモーター活性化(Ad−RIP−GFP−CMV−PDX−1、黒色)を示す細胞のパーセントとして成熟肝細胞の転移分化能力(実線)を計算した棒グラフである。
【図18A】成長因子(GF)の存在下または非存在下におけるAd−CMV−PDX−1を投与した成熟および胎仔の肝細胞における膵ホルモン遺伝子発現を示す棒グラフである。Ad−CMV−hInsはインスリン遺伝子発現の陽性対照として使用する。Ct(閾値サイクル)値は同じRNA試料内のβ−アクチン発現について全て規格化した。
【図18B】Ad−CMV−PDX−1およびGFを投与した成熟(B)および胎児(C)ヒト肝細胞、未投与の成熟(D)および胎児(B)肝細胞におけるヒト島(RNA希釈1:50、A)の定量的RT−PCR(リアルタイム)の増幅曲線である(β−アクチン遺伝子発現については全て同じCt値)。曲線はΔRn(蛍光単位)対増幅反応のサイクル数として示す。成熟肝細胞はPDX−1に応答したインスリン遺伝子発現の活性化において、胎児ヒト肝細胞と同様に効率的であることを示している。
【図19】成長因子を添加したAd−CMV−PDX−1を投与し、48時間の静的インキュベートによりインスリン含量(黒、n≧10)、インスリン(線、n≧25)およびC−ペプチド(点、n≧25)の分泌について分析した成熟一次肝細胞におけるインスリンの含量、分泌およびプロセシングを示す棒グラフである。Ad−CMV−hIns感染細胞は非調節および非プロセシングのインスリン分泌に関する陽性対照として使用する。結果は未投与対照肝細胞と比較した場合の増大倍数値(FOI)を示す。
【図20A】PDX−1投与成熟ヒト肝細胞におけるインスリン分泌顆粒を示す一連の写真である。Ad−CMV−PDX−1および成長因子の投与(A、B)または未投与(C)の成熟ヒト肝細胞におけるインスリンイムノゴールド組織化学的電子顕微鏡観察。矢印はイムノゴールド粒子であり、PDX−1投与肝細胞中に生じる分泌顆粒内に濃縮されている。
【図20B】Ad−CMV−PDX−1およびGF投与または未投与の成熟肝細胞における同じ細胞内のβ−アクチン遺伝子発現に対して規格化した特異的な内分泌の分泌顆粒分子マーカーセクレトグラニン2(SCG2)および分泌顆粒ニューロエンドクリン1(SGNE1)について、特異的Taqmanプローブを用いて実施した定量的RT−PCR(リアルタイム)遺伝子発現分析の結果を示す棒グラフである。ヒト島は陽性対照として使用する。結果は未投与対照肝細胞と比較した場合の増大倍数値(FOI)を示す(各実験につきn≧12)。
【図21A】Ad−CMV−PDX−1およびGF投与または未投与の成熟肝細胞における同じ細胞内のβ−アクチン遺伝子発現に対して規格化した調節蛋白グルコキナーゼ、Glut−2およびプロホルモン変換酵素2(PC2)について、特異的Taqmanプローブを用いて実施した定量的RT−PCR(リアルタイム)遺伝子発現分析の結果を示す棒グラフである。ヒト島は陽性対照として使用する。結果は(未投与)対照肝細胞と比較した場合の増大倍数値(FOI)を示す(各実験につきn≧10)。
【図21B】PDX−1およびGF投与成熟ヒト肝細胞における2mM(○)または25mM(.)のグルコース濃度における経時的(15〜180分)なインスリン分泌を示すグラフである。
【図21C】PDX−1およびGF投与成熟ヒト肝細胞における2mM(○)または25mM(.)のグルコース濃度における経時的(15〜180分)なC−ペプチド分泌を示すグラフである。
【図21D】0〜25mMのグルコース(.)または2−DOG(.)の濃度におけるC−ペプチドの用量応答分泌を示すグラフである。矢印および点線は25mMグルコース投与から2mMグルコース投与への交換を示す。(b〜d):3つの異なる実験においてn=6。
【図22A】SCID−NODマウスにおいてPDX−1投与肝細胞が高血糖症を是正することを示すグラフである。糖尿病SCID−NODマウスに腎被膜下Ad−CMV−PDX−1および成長因子投与(.;n=9)および未投与(□;n=5)の成熟ヒト肝細胞を移植した。移植後の指定日数後のグルコース濃度をmg%で示す。アスタリスクはAd−CMV−PDX−1投与移植マウスと対照細胞移植マウスのグルコース濃度に有意差があることを示す(p<0.01)。
【図22B】Ad−CMV−PDX−1投与成熟肝細胞の移植後10日における腎被膜切片におけるPdx−1(A)およびインスリン(B)に関する免疫組織化学的染色を示す一連の写真である。同じSCID−NODマウスの膵のインスリン染色(C)。
【図22C】移植実験前(0日、投与前;グレー)および実験終了時(10日、投与;黒)におけるELISAにより測定した移植および対照マウスの血清中のヒトC−ペプチド濃度を示す棒グラフである。アスタリスク(*)はAd−CMV−PDX−1投与細胞移植マウスとヒト細胞移植前の同じ糖尿病マウスのヒトC−ペプチドの血清中濃度の間に有意差があることを示す(p<0.01)。
【図23】ラットPDX−1の異所性発現が肝細胞における内因性ヒトPDX−1の発現を誘導することを示す棒グラフである。成熟一次肝細胞に成長因子添加Ad−CMV−PDX−1を投与し、内因性のヒトPDX−1遺伝子発現を分析した。結果は未投与の対照肝細胞と比較した場合の増大倍数値(FOI)を示す。
【図24A】Ad−CMV−PDX−1を投与した糖尿病CAD−NODマウスにおける血中グルコース濃度を示す。対照未投与またはb−gal投与マウス▲、PDX−1投与マウス(.)。
【図24B】Ad−CMV−PDX−1投与の糖尿病CAD−NODマウスの体重を示す棒グラフである。対照未投与またはb−gal投与マウス▲、PDX−1投与マウス(.)。
【図24C】Ad−CMV−PDX−1投与糖尿病マウスのグリコーゲン保存を示す一連の写真。C1、投与マウス;C2、非投与マウス;C3、糖尿病前NODマウス。
【図25】CAD−NODマウスにおける膵臓および肝臓の免疫組織化学的染色を示す一連の写真。A、CAD−NODマウスはインスリンについて染色陰性;B、対照非糖尿病マウス;C、PDX−1投与マウスの肝臓におけるインスリン;D、非投与糖尿病マウスの肝臓。
【図26A】Ad−CMV−PDX−1投与CAD−NODマウスの血清中インスリン濃度を示す棒グラフ。
【図26B】Ad−CMV−PDX−1投与CAD−NODマウスの肝インスリン濃度を示す棒グラフ。
【図27】Ad−CMV−PDX−1投与CAD−NODマウスのグルコース耐容性を示すグラフ。
【図28】RT−PCRの写真であり、増幅された産物をアガロースゲル上で分割したものは異所性PDX−1がCAD−NODマウス肝において遺伝子発現を誘導したことを示している。
【図29】PDX−1または対照を投与したヒト肝細胞のDNAマイクロアレイチップ分析により分析した約500遺伝子における発現の変化のPDX−1誘導を示すスキャッターグラフである。
【図30A】DNAマイクロアレイ分析による、肝、膵、ヒト肝細胞対照、Ad−CMV−hインスリン投与ヒト肝細胞およびPDX−1投与ヒト肝細胞におけるC/EBPβ発現のPDX−1抑制を示す表である。
【図30B】定量的RT−PCR分析によるC/EBPβ発現のPDX−1抑制を示す棒グラフである。
【図30C】C/EBPβの細胞内蛋白濃度のPDX−1抑制を示すウエスタンブロットの写真である。
【図31A】成熟(左)および胎児(右)ヒト肝細胞における肝蛋白のPDX−1抑制および成熟ヒト肝細胞の脱分化の誘導を示すウエスタンブロットの写真である。
【図31B】肝遺伝子発現および蛋白生産のPDX−1抑制を示す棒グラフである。
【図31C】肝遺伝子発現および蛋白生産のPDX−1抑制を示す棒グラフである。
【図31D】PDX−1が胚マーカーの誘導により顕在化される成熟肝細胞の脱分化を誘導することを示す棒グラフである。
【図31E】PDX−1が胚マーカーの誘導により顕在化される成熟肝細胞の脱分化を誘導することを示す棒グラフである。
【図32A】RT−PCRの写真であり、増幅産物をアガロースゲル上で分割したものは、異所性PDX−1がインビトロのヒト肝細胞において膵遺伝子および膵転写因子の発現を誘導することを示している。
【図32B】異所性PDX−1がインビトロのヒト肝細胞における内因性のヒトPDX−1の発現を誘導することを示す棒グラフである。
【図32C】異所性PDX−1がインビトロのヒト肝細胞におけるベータ2発現を誘導することを示す棒グラフである。
【図32D】異所性PDX−1がインビトロのヒト肝細胞におけるIsl−1発現を誘導することを示す棒グラフである。
【図32E】異所性PDX−1がインビトロのヒト肝細胞におけるNkx6.1発現を誘導することを示す棒グラフである。
【図32F】異所性PDX−1がインビトロのヒト肝細胞におけるNgn3.1発現を誘導することを示す棒グラフである。
【図32G】異所性PDX−1がインビトロのヒト肝細胞におけるNkx2.2発現を誘導することを示す棒グラフである。
【図33】肝成長因子−1により増強された場合、異所性PDX−1がインスリン遺伝子発現を誘導することを示す棒グラフである。
【図34】異所性PDX−1がエラスターゼ遺伝子発現を誘導することを示す棒グラフである。
【図35】異所性ニューロD1が肝細胞において内因性Pdx−1を誘導することを示すウエスタンブロット分析である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(発明の詳細な説明)
本発明は部分的には、肝および皮膚における膵および十二指腸のホモボックス遺伝子1(PDX−1)の異所性発現が肝および皮膚細胞における膵島細胞表現型を誘導し、そして、膵ホルモンの発現、生産およびプロセシングをもたらすという発見に基づいている。PDX−1はまたIDX−1、IPF−1、STF−1およびIUF−1としても知られており、これらは全て本明細書においては「PDX」と総称する。更にまた、本発明は膵障害を治療するための方法および医薬組成物を提供する。
【0019】
糖尿病に対する臨床的膵島移植の結果における最近の進歩は血中グルコース濃度の継続的制御が膵島細胞移植により達成できることを示唆している。しかしながら、この良好な治療方法は死体ドナーからの限定された組織の供給により、そして、一生に亘る免疫抑制の必要性により多大な制約を受けている。糖尿病患者の治療としての島細胞の移植は島細胞またはβ細胞の新しい原料が発見された場合のみ広範に使用可能となる。I型自己免疫糖尿病におけるβ細胞の機能を代替するために考案された組織の最適原料は容易に単離され、広範に増殖され、そして、自己免疫の攻撃に優先して抵抗できなければならず、このような細胞は潜在的には膵臓外組織に存在すると考えられる。
【0020】
第1世代のE1欠失組み換えアデノウィルス(Ad−CMV−PDX−1)により送達されるインビボのPDX−1の異所性発現は、遺伝子発現の内分泌および外分泌の膵レパートリーおよびプロセシングされた生物学的に活性なインスリンの生産と分泌の両方を誘導した。これらの結果は、成熟し完全に分化した臓器において異所性に発現されたPDX−1、PDX−1が膵分化因子として機能することを示している。更にまた、PDX−1は第1世代の組み換えアデノウィルスを用いてインビボで送達されたが、膵ホルモンの発現および生産は投与後8ヶ月超に亘り持続している。
【0021】
機能的内分泌膵臓を発生させるための組織の潜在的原料として機能する肝臓のこの意外な能力は、異所性PDX−1遺伝子発現を用いたインビボのマウスにおいて、本発明者等により最初に明らかにされた。マウスにおけるPDX−1トランスジーンの短期間発現が肝細胞のサブ集団において包括的、非可逆的および機能的な転移分化過程を誘導(即ち1つの成熟細胞の特徴および機能を別の完全に分化した細胞に変換)したことがわかった。更に、インビトロ培養下の制御された条件下の新しく単離された成熟並びに胎児のヒト肝細胞は機能的インスリン生産組織に転移分化するように誘導できることがわかった。PDX−1トランスジーンを発現した肝細胞の約50%が他では負活性なインスリンプロモーターを活性化した。転移分化したヒト肝細胞はホルモンを生産し、これを分泌顆粒中に保存し、そしてグルコース調節態様においてプロセシングされたインスリンを放出した。インスリン生産ヒト肝細胞は機能的であり、糖尿病免疫不全マウスおよび非肥満糖尿病マウスにおいて誘導されたシクロホスファミド加速糖尿病において、正常血糖を回復した。
【0022】
その多様な特徴および実施形態において、本発明はPDXの発現または活性を増大させる化合物(本明細書においてはPDXインデューサー化合物とも称する)を対象に投与するか、これを細胞に接触させることを含む。PDX発現または活性は例えば内因性PDX発現を活性化させる化合物により増大される。化合物は例えば(i)PDX、ニューロDまたはベータセルリンポリペプチド;(ii)PDX、ニューロDまたはベータセルリンポリペプチドをコードずる核酸;(iii)PDXポリペプチドをコードする核酸の発現を増大させる核酸、および、それらの誘導体、フラグメント、類縁体および相同体であることができる。PDXポリペプチドをコードする核酸の発現を増大させる核酸は例えばプロモーター、エンハンサーを包含する。核酸は内因性または外因性のいずれかであることができる。場合により、細胞を更にニコチンアミド、表皮成長因子、アクチビンA、肝成長因子、エキセンジン、GLP−1またはベータセルリンに接触させる。
【0023】
本明細書においては、「核酸」という用語はDNA分子(例えばcDNAまたはゲノムDNA)、RNA分子(例えばmRNA)、ヌクレオチド類縁体を用いて作成されたDNAまたはRNAの類縁体、および、その誘導体、フラグメントおよび相同体を包含するものとする。核酸分子は1本鎖または2本鎖であることができる。好ましくは、核酸はDNAである。PDXポリペプチドをコードする核酸の発現を増大させる核酸は例えばプロモーター、エンハンサーを包含する。核酸は内因性または外因性の何れかであることができる。
【0024】
PDXをコードする核酸の適当な原料は例えばそれぞれゲンバンクアクセッション番号U35632およびAAA88820として入手可能なヒトPDX核酸(およびコードされる蛋白配列)を包含する。他の原料はラットPDX核酸を包含し、そして蛋白配列はそれぞれゲンバンクアクセッション番号U35632およびAAA18355に示されており、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。別の原料はカサゴPDX核酸を包含し、そして蛋白配列はそれぞれゲンバンクアクセッション番号AF036325およびAAC41260に示されており、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0025】
化合物は対象に対して直接(即ち対象を核酸または核酸含有ベクターに直接曝露する)または間接的に(即ちまずインビトロで細胞を核酸で形質転換し、次に対象に移植する)投与できる。例えば1つの実施形態において、哺乳類細胞を対象から単離し、そしてPDX核酸をインビトロで単離された細胞に導入する。細胞を適当な哺乳類対象に再導入する。好ましくは、細胞は自己由来の対象に導入する。化合物の投与経路は例えば非経口、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば吸入)、経皮(局所)、経粘膜、および直腸投与を包含する。1つの実施形態において、化合物は静脈内投与する。好ましくは化合物は腎被膜下に移植するか、または、門脈に注入する。
【0026】
細胞は膵ホルモンを生産できる何れかの細胞、例えば骨髄、筋肉、脾臓、腎臓、血液、皮膚、膵臓または肝臓のものであることができる。1つの実施形態において、細胞は膵島細胞として機能できるものであり、即ち、膵ホルモン、好ましくはインスリンを、細胞外からのトリガーにより保存、プロセシングまたは分泌できるものである。別の実施形態においては、細胞は肝細胞である。別の実施形態においては、細胞は全能または多能である。別の実施形態においては細胞は造血幹細胞、胚性幹細胞または、好ましくは肝幹細胞である。
【0027】
対象は好ましくは哺乳類である。哺乳類は例えばヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマまたはウシであることができる。
【0028】
(膵ホルモン生産を誘導する方法)
種々の特徴において、本発明は対象における膵ホルモン生産を誘導する方法を提供する。例えば、方法は対象に膵ホルモン生産を誘導するのに十分な量の、PDXの発現または活性を増大させる化合物を投与することを包含する。
【0029】
別の特徴において、方法は、対象由来の細胞を準備すること、膵ホルモン生産を増大させるのに十分な量のPDX発現を増大させる化合物に細胞を接触させること、および、細胞を対象に導入することを含む。1つの実施形態において、膵ホルモン生産は対象への細胞の導入により、インビトロまたはインビボで起こる。別の実施形態においては、膵ホルモン生産は対象への細胞の導入によりインビボで起こる。
【0030】
膵ホルモンは例えばインスリン、グルコゴン、ソマトスタチンまたは島アミロイドポリペプチド(IAPP)であることができる。インスリンは肝インスリンまたは血清インスリンであることができる。他の実施形態においては、膵ホルモンは肝インスリンである。別の実施形態においては膵ホルモンは血清インスリン(即ち例えばグルコース利用、炭水化物、脂肪および蛋白の代謝を促進することが可能なインスリンの完全にプロセシングされた形態)である。
【0031】
一部の実施形態においては、膵ホルモンは「プロホルモン」型である。他の実施形態においては、膵ホルモンはホルモンの完全にプロセシングされた生物学的に活性な形態である。他の実施形態においては、膵ホルモンは調節制御下にあり、即ち、ホルモンの分泌は内因性に生産される膵ホルモンの場合と同様に栄養およびホルモンの制御下にある。例えば、本発明の1つの特徴において、ホルモンはグルコースの調節制御下にある。
【0032】
化合物に曝露、例えば接触させる細胞集団は何れかの数量の細胞、即ち1つ以上の細胞であることができ、そして、インビトロ、インビボまたはエクスビボで提供される。
【0033】
(膵関連障害を治療または防止する方法)
本発明は更に対象における膵関連障害を治療、即ち防止、または発症を遅延または症状を緩解する方法を包含する。種々の特徴において、方法はPDXの発現または活性をモジュレートする化合物を対象に投与することを包含する。「モジュレートする」とはPDXの発現または活性を増大または低減することを包含する。好ましくは、モジュレーションにより、膵障害に罹患していない対象と同様または同一の水準まで、対象におけるPDXの発現または活性の改変が起こる。別の特徴において、方法は非膵細胞に膵島細胞機能、例えばインスリン、ソマトスタチンまたはグルカゴンの発現能力を導き出す化合物を対象に投与することを包含する。1つの実施形態において、化合物はPDXの発現または活性をモジュレートする。
【0034】
膵障害は膵に関連する何れかの障害であることができる。例えば方法は膵ホルモン不全(例えば糖尿病(I型およびII型))、インスリノーマ、および高血糖症を治療する際に有用である。基本的に、PDX活性に病因的に関連している何れかの障害が治療に感受性であると考えられる。
【0035】
糖尿病に罹患しているか発症の危険性を有する対象は血糖値の測定のような当該分野で知られた方法により識別される。例えば、少なくとも2回の機会において一夜絶食後に140mg/dLより高値の血糖値は糖尿病患者であることを意味する。糖尿病に罹患しても発症の危険性を有してもいない者は70〜110mg/dLの空腹時血糖値を有するものとして特徴付けられる。
【0036】
糖尿病の症状は疲労、嘔気、頻尿、飲水渇望亢進、体重減少、眼のかすみ、感染頻発および創傷や潰瘍の治癒緩徐、140/90以上の血圧持続、HDLコレステロール35mg/dL未満またはトリグリセリド250mg/dL超、高血糖症、低血糖症、インスリン不全または耐性を包含する。化合物を投与する糖尿病または前糖尿病の患者は当該分野で知られた診断方法を用いて識別される。
【0037】
本明細書に記載したPDXモジュレート化合物は治療に使用された場合、本明細書では「治療薬」と称する。治療薬の投与方法は、例えば皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻内、硬膜外および経口の経路を包含する。本発明の治療薬は何れかの好都合な経路、例えば注入または単回注射により、上皮または粘膜表皮ライニング(例えば口腔粘膜、直腸および腸の粘膜等)を経由する吸収により投与してよく、そして、他の生物学的に活性な薬剤と共に投与してよい。投与は全身または局所であることができる。更にまた、何れかの適当な経路、例えば脳室内およびくも膜下腔内注射により中枢神経系に治療薬を投与することが好都合な場合がある。脳室内注射はリザーバ(例えばOmmayaリザーバ)に連結した脳室内カテーテルにより容易に行える。肺投与は吸入器またはネブライザーおよびエアロゾル化剤を含有する処方を用いることにより使用してもよい。治療を要する領域に治療薬を局所投与することが望ましい場合があり、それは例えば手術中の局所注入、局所適用、注射、カテーテル使用、座薬使用またはインプラントの使用により行える。種々の送達系が知られており、本発明の治療薬の投与に使用することができ、その例は(i)リポソーム、微粒子、マイクロカプセル内への封入、(ii)治療薬を発現できる組み換え細胞、(iii)受容体媒介エンドサイトーシス(例えばWu and Wu,1987,J.Biol.Chem.262:4429−4432参照)、(iv)レトロウィルス、アデノウィルスまたは他のベクターの部分としての治療薬核酸の構築等である。本発明の1つの実施形態においては、治療薬はベシクル、特にリポソーム中で送達してよい。リポソームにおいて、本発明の蛋白は他の製薬上許容しうる担体のほかに、例えば、ミセルとして凝集した形態で存在する脂質などの両親媒性の薬剤、不溶性単層、液晶またはラメラ層などと、水溶液中で組み合わせられる。リポソーム処方に適する脂質は例えばモノグリセリド、ジグリセリド、スルファチド、リソレシチン、リン脂質、サポニン、胆汁酸等を包含する。このようなリポソーム処方の調製は当該分野で知られるとおりであり、例えば米国特許4,837,028;および米国特許4,737,323に記載されており、これらは全て参照により本明細書に組み込まれる。更に別の実施形態においては、治療薬は例えば送達ポンプ(例えばSaudek et al.,1989,New Engl.J.Med.321:572参照)および半透過性重合体物質(例えばHoward et al.,1989,J.Neurosurg.71:105参照)のような制御放出系中で送達できる。更にまた、制御放出系は治療標的(例えば脳)の近接部に入れることができ、即ち、全身用量の僅か一部を要するのみとなる。例えばGoodson、Medical Applications of Controlled Release 1984(CRC Press,Boca Raton,FL)参照。
【0038】
治療薬が蛋白をコードする核酸であるような本発明の特定の実施形態においては、治療薬核酸は、それが細胞内(例えばレトロウィルスベクターの使用による)となるように適当な核酸発現ベクターの部分として構築して投与することにより、直接注射により、微粒子衝突の使用により、脂質コーティングまたは細胞表面コーティングまたはトランスフェクション剤により、または、核内に進入することがわかっているホメオボックス様ペプチドに連結させて投与すること(例えばJoliot et al.,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA88:1864−1868参照)等により、そのコードする蛋白の発現を促進するようにインビボで投与してよい。或いは、核酸治療薬は細胞内に導入されて相同組み換えにより発現用宿主細胞DNA内に取り込まれるか、または、エピソームとしてとどまることができる。
【0039】
本明細書においては、「治療有効量」という用語は意味のある患者の利益、即ち、該当する医療状態の治療、治癒、防止または緩解、または、そのような状態の治療、治癒、防止または緩解の速度の増大を示すのに十分な医薬組成物または方法の各活性化合物の総量を意味する。単独で投与される個々の活性成分に適用する場合は、用語はその成分のみを指す。組み合わせに適用する場合は、用語は、複合、連続または同時の投与に関わらず、治療効果をもたらすような活性成分の複合量を指す。
【0040】
特定の障害または状態の治療において有効である本発明の治療薬の量は障害または状態の性質により変化し、そして当該分野における平均的な技術による標準的な臨床手法により決定してよい。更に、インビトロ試験を場合により使用することにより最適用量範囲を発見するのを助けることができる。製剤中に使用すべき厳密な用量は投与経路および疾患または障害の全体的重症度により異なり、そして、医師の判断および各患者の状況に従って決定すべきである。最終的には、担当医師が各個々の患者の治療に用いる本発明の蛋白の量を決定する。初期においては、担当医師は本発明の蛋白の少用量を投与し、そして、患者の応答を観察する。本発明の蛋白の漸増量を患者に対する最適治療効果が得られるまで投与し、その後は更に用量を増加させない。しかしながら、本発明の治療薬の静脈内投与のための適当な用量範囲は一般的にはキログラム(Kg)体重当たり活性化合物約20〜500マイクログラム(μg)である。鼻内投与の適当な用量範囲は一般的には約0.01pg/kg体重〜1mg/kg体重である。有効用量はインビトロまたは動物モデル試験系から誘導された用量−応答曲線から推定してよい。座剤は一般的には0.5%〜10重量%の範囲の活性成分を含有し、経口用製剤は好ましくは10〜95%活性成分を含有する。
【0041】
本発明の治療薬を用いた静脈内療法の期間は治療すべき疾患の重症度および状態および各個体間での潜在的な特異体質応答により変動する。本発明の蛋白の各適用の期間は連続静脈内投与の12〜24時間の範囲であると考えられる。最終的には担当医師が本発明の医薬組成物を使用する静脈内療法の適切な期間について決定する。
【0042】
細胞はまた、本発明の治療薬または蛋白の存在下にエクスビボで培養することにより、その細胞に対する所望の作用または細胞における活性を増大させる、またはもたらすことができる。
【0043】
(島細胞の表現型または機能を誘導する方法)
本発明はまた細胞における膵島細胞の表現型1つ以上を誘導または増強する方法を包含する。1つの実施形態において、膵細胞表現型は非島細胞型において誘導される。例えば、PDX−1インデューサー化合物に細胞を接触させることにより非膵細胞を膵細胞に変換(即ち転移分化)する。細胞は非膵細胞において内因性PDX−1、胚マーカー、インスリン、グルコゴンまたはソマトスタチンの発現を誘導するような量のPDXインデューサーと接触させる。或いは、非膵細胞におけるC/EBPβ、アルブミンまたはADH−1の発現を抑制する量のPDXインデューサーに細胞を接触させる。方法は、膵島細胞の表現型、例えばベータ、アルファおよびデルタ島細胞を誘導または増強するのに十分な量の、例えばPDX−1、ベータ2、ISL−2、Nkx6.1、Ngn3.1またはNkx2.2のような島細胞特異的転写因子をモジュレートする化合物に細胞を接触させることを包含する。好ましくは、化合物はPDXの発現(例えば内因性PDX−1の発現)、生産または活性を増大させる。好ましくは方法は膵島β細胞表現型を誘導する。
【0044】
「膵島細胞表現型」とは、膵島細胞に典型的な特性の1つ以上、即ち、ホルモンの生産、プロセシング、分泌顆粒中の保存、栄養的およびホルモン的に調節される分泌または特徴的な島細胞の遺伝子発現の特性を示す細胞である。膵島細胞表現型は例えば膵ホルモンの生産、例えばインスリン、ソマトスタチンまたはグルカゴンを測定することにより調べることができる。ホルモンの生産は当該分野で知られた方法、例えばイムノアッセイ、ウエスタンブロット、受容体結合試験によるか、または、糖尿病宿主への移植後に高血糖症を緩解する能力により機能的に、調べることができる。
【0045】
細胞は膵島細胞の表現型を発現することができる何れかの細胞、例えば筋肉、骨髄、脾臓、腎臓、皮膚、膵臓または肝臓のものであることができる。1つの実施形態において、細胞は膵島細胞として機能できるものであり、即ち、膵ホルモン、好ましくはインスリンを、細胞外からのトリガーにより保存、プロセシングまたは分泌できるものである。別の実施形態においては、細胞は肝細胞である。細胞は成熟細胞、即ち分化した細胞である。別の実施形態においては、全能または多能である。別の実施形態においては細胞は造血幹細胞、胚性幹細胞、または、好ましくは肝幹細胞である。
【0046】
化合物に曝露、即ち接触させられる細胞集団は何れかの数量の細胞、即ち1つ以上の細胞であることができ、そして、インビトロ、インビボまたはエクスビボで提供される。
【0047】
(膵島遺伝子発現特性を誘導する方法)
本発明はまた対象または細胞において膵島遺伝子発現特性を誘導または増強する方法を包含する。「膵遺伝子発現特性」とは非内分泌組織において通常は転写的にサイレントである遺伝子、例えば膵転写因子、内分泌遺伝子または外分泌遺伝子の1つ以上を包含するものとする。例えば、PC1/3、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチンまたは内因性PDX−1の発現である。方法は膵島または内分泌遺伝子発現特性を誘導するのに十分な量の、PDXの発現または活性を増大させる化合物を対象に投与することを包含する。1つの実施形態において、方法は対象においてPC1/3遺伝子発現を誘導する。
【0048】
膵遺伝子発現特性の誘導は、当該分野で知られた手法を用いて検出できる。例えば、膵ホルモンRNA配列はノーザンブロットハイブリダイゼーション分析、増幅系の検出方法、例えば逆転写系のポリメラーゼ連鎖反応またはマイクロアレイチップ分析による系統的検出などにおいて検出できる。或いは、発現は蛋白レベルにおいて、即ち、遺伝子によりコードされるポリペプチドの濃度を測定することによっても測定できる。特定の実施形態においては、PC1/3遺伝子または蛋白の発現はプロホルモンをその活性成熟型にプロセシングする場合のその活性により測定できる。このような方法は当該分野で知られており、そして例えば遺伝子によりコードされる蛋白に対する抗体に基づいたイムノアッセイまたはプロセシングされたホルモンのHPLCを包含する。
【0049】
(発現がPDXによりモジュレートされる遺伝子の識別方法)
本発明はまた発現がPDXによりモジュレートされる核酸を識別する方法を包含する。方法はPDXの活性または発現をモジュレートする化合物に曝露された被験細胞集団において核酸1つ以上の発現を測定することを包含する。次に被験細胞集団における核酸配列の発現を化合物に曝露されていない細胞集団、または、一部の実施形態においては化合物に曝露されている細胞集団である比較対照細胞集団における核酸配列の発現と比較する。比較は、同時に、または異なる時間に測定された被験および比較対照の試料に対して実施する。後者の例はコンパイルされた発現の情報、例えば種々の薬剤の投与後の既知配列の発現濃度に関する情報を集積した配列データベースの使用である。例えば、化合物の投与後の発現濃度の改変をPDX核酸のような対照薬剤の投与後の核酸配列において観察される発現の変化と比較する。
【0050】
化合物に曝露されていない比較対照細胞集団における核酸配列の発現と比較した場合に被験細胞集団において核酸配列の発現が改変されていることは、核酸の発現がPDXによりモジュレートされたことを示している。
【0051】
被験細胞はPDXによりモジュレートされることができる何れかの組織、例えば膵臓、肝臓、脾臓または腎臓から得ることができる。1つの実施形態において、細胞は非内分泌組織に由来する。好ましくは、細胞は肝組織である。
【0052】
好ましくは、比較対照細胞集団における細胞は被験細胞と可能な限り同じ組織型、例えば肝組織から得る。一部の実施形態においては、対照細胞は被験細胞と同じ対象から、例えば被験細胞の原料の領域に近接する領域から得る。別の実施形態においては、対照細胞集団は試験されたパラメーターまたは条件が既知である細胞から得られた分子情報のデータベースから得る。
【0053】
核酸の発現は当該分野で知られた何れかの方法を用いてRNAレベルで測定できる。例えばこれらの配列の1つ以上を特異的に認識するプローブを用いたノーザンハイブリダイゼーション分析を用いて遺伝子発現を測定できる。或いは、発現は逆転写系PCR分析を用いて測定できる。発現はまた蛋白レベルで、即ち、遺伝子産物によりコードされるポリペプチドの濃度を測定することにより測定できる。このような方法は当該分野で知られており、例えば遺伝子によりコードされる蛋白に対する抗体に基づいたイムノアッセイが挙げられる。
【0054】
遺伝子発現の改変が遺伝子の増幅または欠失に関連する場合は、被験および比較対照集団の配列の比較は被験および比較対照細胞集団における検査されたDNA配列の相対量を比較することにより行うことができる。
【0055】
本発明はまた本スクリーニング方法に従って識別されるPDXモジュレート核酸およびそのようにして識別されたPDXモジュレート核酸を含む医薬組成物を包含する。
【0056】
(PDX組み換え発現ベクターおよび宿主細胞)
本発明の別の特徴はPDX蛋白をコードする核酸またはその誘導体、フラグメント、類縁体または相同体を含有するベクター、好ましくは発現ベクターに関する。本明細書においては、「ベクター」という用語はそれが連結されている別の核酸を輸送することができる核酸分子を指す。ベクターの1つの型は「プラスミド」であり、これは、別のDNAセグメントをライゲーションすることができる線状または環状の2本鎖DNAループを指す。ベクターの別の型はウィルスベクターであり、この場合は別のDNAセグメントをウィルスゲノム内にライゲーションできる。特定のベクターはそれらが導入される宿主細胞内で自律複製が可能である(例えば細菌複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム哺乳類ベクター)。他のベクター(例えば非エピソーム哺乳類ベクター)は宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノム内に組み込まれ、これにより宿主ゲノムと共に複製される。更にまた、特定のベクターはそれらが作動可能に連結している遺伝子の発現を指向することができる。このようなベクターは本明細書においては「発現ベクター」と称する。一般的に、組み換えDNA法において使用される発現ベクターはプラスミドの形態をとる場合が多い。プラスミドは最も一般的に使用されているベクターの形態であるため、本明細書においては、「プラスミド」および「ベクター」は互換的に使用するものとする。しかしながら、本発明は等しく機能するウィルスベクター(例えば複製欠損レトロウィルス、レンチウィルス、アデノウィルスおよびアデノ関連ウィルス)のような発現ベクターの他の形態も包含するものとする。更に、一部のウィルスベクターは特異的または非特異的に特定の細胞型をターゲティングすることができる。
【0057】
本発明の組み換え発現ベクターは宿主細胞内の核酸の発現に適する形態の本発明の核酸を含み、このことは、組み換え発現ベクターが、発現すべき核酸配列に作動可能に連結された状態で、発現のために使用されることとなる宿主細胞に基づいて選択される調節配列1つ以上を含むことを意味する。組み換え発現ベクター内において、「作動可能に連結」とは、目的のヌクレオチド配列が、核酸配列の発現(例えばインビトロ転写/翻訳系において、または、ベクターを宿主細胞に導入する場合は宿主細胞において)を可能にするような態様で調節配列に連結していることを意味する。「調節配列」という用語はプロモーター、エンハンサーおよび他の発現制御エレメント(例えばポリアデニル化シグナル)を包含するものとする。このような調節配列は例えばGoeddel;Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,Calif.(1990)に記載されている。調節配列は多くの型の宿主細胞においてヌクレオチド配列の構成的発現を指向するもの、および、特定の宿主細胞においてのみヌクレオチド配列の発現を指向するもの(例えば組織特異的調節配列)を包含する。当業者の知るとおり、発現ベクターの設計は形質転換すべき宿主細胞の選択肢、所望の蛋白の発現濃度等の要因により変動する。本発明の発現ベクターは宿主細胞に導入することにより、本明細書に記載する核酸によりコードされる融合蛋白またはペプチドを含む蛋白またはペプチドを生産することができる(例えばPDX蛋白、PDXの突然変異体、融合蛋白等)。
【0058】
本発明の組み換え発現ベクターは原核細胞または真核細胞におけるPDXの発現のために設計できる。例えばPDXは細菌細胞、例えばE.coli、昆虫細胞(バキュロウィルス発現ベクターを使用)、コウボ細胞または哺乳類細胞中で発現できる。適当な宿主細胞はGoeddel;Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,Calif.(1990)にさらに記載されている。或いは、組み換え発現ベクターは例えばT7プロモーター調節配列およびT7ポリメラーゼを用いてインビトロで転写および翻訳できる。
【0059】
原核細胞における蛋白の発現は最も頻繁には融合または非融合蛋白の発現を指向する構成または誘導プロモーターを含むベクターを用いてE.coli中で行われる。融合ベクターは、通常は組み換え蛋白のアミノ末端においてそこにコードされる蛋白に多くのアミノ酸を付加する。このような融合ベクターは典型的には3つの目的、即ち(1)組み換え蛋白の発現を増大させるため、(2)組み換え蛋白の溶解度を上昇させるため、および(3)アフィニティー精製におけるリガンドとして作用することにより組み換え蛋白の精製に寄与するために機能する。多くの場合、融合発現ベクターにおいては、蛋白分解切断部位を融合部分と組み換え蛋白の接合部に導入することにより融合蛋白の精製後の融合部分からの組み換え蛋白の分離を可能にする。このような酵素およびその同属体認識配列は第Xa因子、トロンビンおよびエンテロキナーゼを包含する。典型的な融合発現ベクターはそれぞれグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合蛋白またはプロテインAを標的組み換え蛋白に融合させるpGEX(Pharmacia Biotech Inc.,Smith and Johnson(1988)Gene 67:31−40)、pMAL(New England Biolabs,Beverly,Mass.)およびpRIT5(Pharmacia,Piscataway,NJ)を包含する。
【0060】
適当な誘導非融合E.coli発現ベクターの例は、pTrc(Amrann et al.,(1988)Gene 69:301−315)およびpET 11d(Studier et al.,Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,Calif。(1990)60−89)を包含する。
【0061】
E.coli中の組み換え蛋白発現を最大限にするための1つの方法は組み換え蛋白を蛋白分解的に切断する能力が損なわれている宿主細菌中で蛋白を発現させることである。Gottesman,Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,Calif.(1990)119−128を参照できる。別の方法は各アミノ酸に対する個々のコドンがE.coliにより優先的に利用されるものであるように発現ベクター内に挿入すべき核酸の核酸配列を改変することである(Wada et al.,(1992)Nucleic Acids Res.20:2111−2118)。本発明の核酸配列のこのような改変は標準的なDNA合成手法により行うことができる。
【0062】
別の実施形態においては、PDX発現ベクターはコウボ発現ベクターである。コウボS・セレビシアエ中における発現のためのベクターの例はpYepSec1(Baldari,et al.,(1987)EMBO J6:229−234)、pMFa(Kurjan and Herskowitz,(1982)Cell 30:933−943),pJRY88(Schultz et al.,(1987)Gene 54:113−123),pYES2(Invitrogen Corporation,San Diego,Calif.)およびpicZ(InVitrogen Corp,San Diego,Calif.)を包含する。
【0063】
或いは、PDXはバキュロウィルス発現ベクターを用いて昆虫細胞内で発現できる。培養昆虫細胞(例えばSF9細胞)中の蛋白の発現のために使用できるバキュロウィルスベクターはpAcシリーズ(Smith et al.,(1983)Mol Cell Biol 3:2156−2165)およびpVLシリーズ(Lucklow and Summers(1989)Virology170:31−39)を包含する。
【0064】
更に別の実施形態においては、本発明の核酸は哺乳類発現ベクターを用いて哺乳類細胞内で発現させる。哺乳類発現ベクターの例はpCDM8(Seed(1987)Nature 329:840)およびpMT2PC(Kaufman et al.(1987)EMBO J 6:187−195)を包含する。哺乳類細胞において使用する場合は、発現ベクターの制御機能はウィルス調節エレメントにより与えられる場合が多い。例えば一般的に使用されているプロモーターはポリオーマ、アデノウィルス2、サイトメガロウィルスおよびサルウイルス40に由来する。原核細胞と真核細胞双方についての他の適当な発現系については、例えばSambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual.2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989の第16および17章を参照できる。
【0065】
別の実施形態においては、組み換え哺乳類発現ベクターは特定の細胞型において優先的に核酸発現を指向することができる(例えば組織特異的調節エレメントを使用して核酸を発現させる)。組織特異的調節エレメントは当該分野で知られている。適当な組織特異的プロモーターの非限定的な例は、アルブミンプロモーター(肝特異的;Pinkert et al.(1987)Genes Dev 1:268−277)、リンパ特異的プロモーター(Calame and Eaton(1988)Adv Immunol 43:235−275)、特にT細胞受容体のプロモーター(Winoto and Baltimore(1989)EMBO J8:729−733)および免疫グロブリン(Banerji et al.,(1983)Cell 33:729−740;Queen and Baltimore(1983)Cell 33:741−748)、ニューロン特異的プロモーター(例えばニューロフィラメントプロモーター、Byrne and Ruddle(1989)PNAS 86:5473−5477)、膵特異的プロモーター(Edlund et al.,(1985)Science 230:912−916)および乳腺特異的プロモーター(例えば乳精プロモーター、米国特許4,873,316および欧州特許出願264,166)を包含する。発生調節されたプロモーターもまた包含され、例えばネズミhoxプロモーター(Kessel and Gruss(1990)Science 249:374−379)およびα−フェトプロテインプラスミド(Campes and Tilghman(1989)Genes Dev3:537−546)が挙げられる。
【0066】
本発明は更に、アンチセンス方向に発現ベクターにクローニングされた本発明のDNA分子を含む組み換え発現ベクターを提供する。即ち、DNA分子は、PDXmRNAに対してアンチセンスであるRNA分子の発現(DNA分子の転写による)を可能にする態様で調節配列に作動可能に連結している。アンチセンス方向にクローニングされた核酸に作動可能に連結した調節配列は種々の細胞型においてアンチセンスRNA分子の持続的発現を指向するように選択でき、例えばウィルスプロモーターおよび/またはエンハンサーまたは調節配列は、構成的な、組織特異的または細胞特異的なアンチセンスRNAの発現を指向するように選択できる。アンチセンス発現ベクターは、高効率の調節領域の制御下にアンチセンス核酸が生産される組み換えプラスミド、ファージミドまたは力価低減ウィルスの形態であることができ、その活性はベクターが導入される細胞型により決定される。アンチセンス遺伝子を用いた遺伝子発現の調節に関する考察は、Weintraub et al.,”Antisense RNA as a molecular tool
for genetic analysis,”Reviews−Trends in
Genetics,Vol.1(1)1986に記載されている。
【0067】
本発明の別の特徴は、本発明の組み換え発現ベクターが導入されている宿主細胞に関する。「宿主細胞」および「組み換え宿主細胞」という用語は本明細書においては互換的に使用する。このような用語は特定の対象細胞のみならず、そのような細胞の子孫または潜在的子孫も指すものとする。突然変異または環境の影響により特定の修飾が継代の間に生じる場合があるため、そのような子孫は実際は親細胞とは同一ではない場合があるが、なお本明細書において使用する用語の範囲に包含されるものとする。更にまた、宿主細胞はPDXを発現した後にモジュレートされる場合があり、そして元の特性を維持または喪失する場合がある。
【0068】
宿主細胞は原核細胞または真核細胞であることができる。例えばPDX蛋白はE.coliのような細菌細胞、昆虫細胞、コウボまたは哺乳類の細胞(例えばチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)またはCOS細胞)中で発現されることができる。或いは、宿主細胞は未成熟の哺乳類細胞、即ち多能幹細胞であることができる。宿主細胞はまた他のヒト組織に由来することできる。他の適当な宿主細胞は当該分野で知られている。
【0069】
ベクターDNAは従来の形質転換、形質導入、感染またはトランスフェクションの手法により原核細胞または真核細胞に導入できる。本明細書においては、「形質転換」、「形質導入」、「感染」および「トランスフェクション」という用語は宿主細胞に外来の核酸(例えばDNA)を導入するための当該分野でよく知られた手法の種々のもの、例えばリン酸カルシウムまたは塩化カルシウム共沈殿、DEAEデキストラン媒介トランスフェクション、リポフェクションまたはエレクトロポレーションを指すものとする。更にまた、トランスフェクションはトランスフェクション剤により媒介することができる。「トランスフェクション剤」とは宿主細胞内へのDNAの取り込みを媒介する何れかの化合物、例えばリポソームを包含するものを意味する。宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトするための適当な方法はSambrook et al.(Molecular Cloning:A Laboratory Manual.2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989)および他の実験室マニュアルに記載されている。
【0070】
トランスフェクションは「安定」(即ち宿主細胞ゲノムへの外来DNAの組み込み)または「一過性」(即ちDNAは宿主細胞内でエピソーム発現される)であってよい。
【0071】
哺乳類細胞の安定なトランスフェクションのためには、使用する発現ベクターおよびトランスフェクション方法に応じて、細胞の僅か小区分のみが外来DNAをそのゲノム内に組み込み、DNAの残余はエピソームとなることがわかっている。これらの組み込み体を識別して選択するためには、選択可能なマーカー(例えば抗生物質への耐性)をコードする遺伝子を一般的には目的の遺伝子と共に宿主細胞に導入する。種々の選択可能なマーカーには薬剤、例えばG418、ハイグロマイシンおよびメトトレキセートへの耐性を付与するものが挙げられる。選択可能なマーカーをコードする核酸は、PDXをコードするベクターと同様のベクター上で宿主細胞に導入するか、または、別のベクター上で導入することができる。導入された核酸で安定にトランスフェクトされた細胞は薬剤選択性により識別できる(例えば選択可能なマーカーを取り込んでいる細胞は生存し、他の細胞は死滅する)。別の実施形態においては、PDXによりモジュレートされた細胞またはトランスフェクトされた細胞は内因性のレポーター遺伝子の発現の誘導により識別される。特定の実施形態においては、プロモーターは緑色蛍光蛋白(GFP)の発現を駆動するインスリンプロモーターである。
【0072】
1つの実施形態において、PDX核酸はウィルスベクター中に存在する。別の実施形態においては、PDX核酸はウィルス内に封入される。一部の実施形態においては、ウィルスは好ましくは種々の組織型の多能細胞、例えば造血幹細胞、ニューロン幹細胞、肝幹細胞または胚性幹細胞に感染し、好ましくはウィルスは肝向性である。「肝向性」とは、ウィルスが特異的または非特異的に肝臓の細胞を好ましくターゲティングする能力を有することを意味する。更に別の実施形態においては、ウィルスはモジュレートされた肝炎ウィルス、SV−40またはエプスタイン・バーウィルスである。更に別の実施形態においては、ウィルスはアデノウィルスである。
【0073】
(遺伝子療法)
本発明の1つの特徴において、核酸またはその機能的誘導体をコードする核酸は遺伝子療法により投与される。遺伝子療法は対象に特定の核酸を投与することにより実施される治療法である。本発明のこの特徴において、核酸はそのコードされたペプチドを生産し、次にこれが上記した疾患または障害、例えば糖尿病の機能をモジュレートすることにより治療効果を発揮する。当該分野で使用できる遺伝子療法に関わる何れかの方法を本発明の実施において使用してよい。例えばGoldspiel et al.,1993,Clin Pharm 12:488−505を参照できる。
【0074】
好ましい実施形態においては、治療は適当な宿主中、上記したPDXポリペプチドまたはそのフラグメント、誘導体または類縁体の1つ以上のいずれかを発現する発現ベクターの部分である核酸を含む。特定の実施形態においては、このような核酸はPDXポリペプチドのコーディング領域に作動可能に連結しているプロモーターを保有する。プロモーターは誘導型または構成型であってよく、場合により組織特異的である。プロモーターは例えばウィルスまたは哺乳類起源であってよい。別の特定の実施形態においては、コーディング配列(および何れかの他の所望の配列)がゲノム内の所望の部位において相同組み換えを誘発する領域にフランキングされており、これにより核酸の染色体内発現をもたらすような核酸分子を使用する。例えばKoller and Smithies,1989,Proc Natl Acad Sci USA 86:8932−8935を参照できる。更に別の実施形態においては、送達される核酸はエピソームにとどまり、そして内因性の、その他の面ではサイレントな遺伝子を誘導する。
【0075】
治療用の核酸の患者への送達は、直接(即ち患者を核酸または核酸含有ベクターに直接曝露する)または間接(即ち細胞をまず核酸にインビトロで接触させ、次に患者に移植する)のいずれかであってよい。これらの2つの方法はそれぞれインビボまたはエクスビボの遺伝子療法として知られている。本発明の特定の実施形態においては、核酸はインビボに直接投与し、そこで発現させてコードされた産物を生産する。これは当該分野で知られた多くの方法のいずれか、例えば該核酸を適切な核酸発現ベクターの部分として構築し、それを細胞内となるような態様で投与する(例えば欠損型または減衰型のレトロウィルスまたは他のウィルスベクターを用いた感染による;米国特許4,980,286参照);ネイキッドDNAを直接注射する;微粒子衝突を使用する(例えばGene Gun(登録商標);Biolistic,DuPont)を使用する;該核酸を脂質でコーティングする;関連する細胞表面受容体/トランスフェクション剤を使用する;リポソーム、微粒子またはマイクロカプセルに封入する;核に進入することがわかっているペプチドに連結させて投与する;または目的の受容体を特異的に発現する細胞型を「ターゲティング」するために使用できる受容体媒介エンドサイトーシスを起こしやすいリガンドに連結させて投与する(例えばWu and Wu,1987,J.Biol.Chem.262:4429−4432参照)等により達成される。
【0076】
本発明の実施における遺伝子療法の別の方法ではエレクトロポレーション、リポフェクション、リン酸カルシウム媒介トランスフェクション、ウィルス感染等の方法によりインビトロの組織培養において細胞に遺伝子を転移させる。一般的に転移の方法は細胞への選択可能なマーカーの同時転移を包含する。次に転移された遺伝子を取り込んで発現している細胞の単離を容易にするために、細胞を淘汰圧(例えば抗生物質耐性)下に付す。次にこれらの細胞を患者に送達する。特定の実施形態においては、得られた組み換え細胞のインビボの投与の前に、核酸を当該分野で知られた方法、例えば目的の核酸配列を含有するウィルスまたはバクテリオファージベクターを用いたトランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、感染、細胞融合、染色体媒介遺伝子転移、マイクロセル媒介遺伝子転移、スフェロプラスト融合、および、レシピエント細胞の必要な発生生理機能が転移により損なわれない同様の方法により、細胞内に核酸を導入する。例えばLoeffler and Behr,1993,Meth Enzymol 217:599−618を参照できる。選択された手法は、細胞により核酸が発現され得るような、細胞への核酸の安定な転移をもたらすものでなければならない。好ましくは、該転移核酸は細胞の子孫に遺伝可能であり発現され得るものである。別の実施形態においては、転移した核酸はエピソームにとどまり、その他の面ではサイレントな内因性核酸の発現を誘導する。
【0077】
本発明の好ましい実施形態においては、得られた組み換え細胞を当該分野で知られた種々の方法、例えば上皮細胞の注射(例えば皮下)、患者への皮膚移植片としての組み換え皮膚細胞の適用、および組み換え血球(例えば造血幹細胞または前駆細胞)または肝細胞の静脈内注射により患者に送達する。使用予定となる細胞の総量は所望の作用、患者の状態等により変動し、そして当業者が決定してよい。
【0078】
遺伝子療法の目的のために核酸を導入することができる細胞は何れかの所望の入手可能な細胞型を包含し、そして外因、異種、同種または自原のものであってよい。細胞型は例えば分化した細胞、例えば上皮細胞、内皮細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、筋細胞、肝細胞および血球、または、種々の幹細胞または前駆細胞、特に胚性心筋細胞、肝幹細胞(国際特許出願WO94/08598)、神経幹細胞(Stemple and Anderson,1992,Cell 71:973−985)、造血幹細胞または前駆細胞、例えば骨髄、臍帯血、末梢血、胎児肝臓から得られるもの等を包含する。好ましい実施形態においては、遺伝子療法のために使用される細胞は患者自家のものである。
【0079】
遺伝子療法のためのDNAは患者に対し、非経口的、例えば静脈内、皮下、筋肉内および腹腔内に投与できる。DNAまたは誘導剤は製薬上許容しうる担体、即ち動物への投与に適する生体適合性のあるベヒクル、例えば生理食塩水中で投与する。治療有効量は治療される動物において医療上望ましい結果、例えばPDXまたは遺伝子産物の増大または低減をもたらすことができる量である。このような量は当業者により決定できる。医療分野で知られている通り、何れかの所定の患者に対する用量は多くの要因、例えば患者の体格、体表面積、年齢、投与する特定の化合物、性別、投与の時間および経路、全身状態および同時に投与する他剤に応じて変動する。用量は変動するが、DNAの静脈内投与のための好ましい用量はDNA分子約106〜1022コピーである。例えばDNAはkg当たり約2x1012ビリオンで投与する。
【0080】
(医薬組成物)
本発明の化合物、例えばPDXポリペプチド、PDXポリペプチドをコードする核酸、PDXポリペプチドをコードする核酸の発現を増大させる核酸(本明細書においては「活性化合物」とも称する)およびその誘導体、フラグメント、類縁体および相同体は投与に適する医薬組成物に配合できる。このような組成物は典型的には核酸分子、または蛋白および製薬上許容しうる担体を含む。本明細書においては、「製薬上許容しうる担体」とは医薬品投与に適合する溶媒、分散媒体、コーティング、抗細菌剤および抗カビ剤、等張性付与および吸収遅延剤等のいずれかおよび全てを包含する。適当な担体は参照により本明細書に組み込まれるこの分野の標準的な参考書であるRemington’s Pharmaceutical Sciencesの最新版に記載されている。このような担体または希釈剤の好ましい例は、水、生理食塩水、フィンガー溶液、デキストロース溶液、および5%ヒト血清アルブミンを包含する。リポソームおよび非水性のベヒクル、例えば固定油も使用してよい。薬学的に活性な物質のためのこのような媒体および試薬の使用は当該分野でよく知られている。何れかの従来の媒体または試薬が活性化合物と非適合でない限りにおいて、組成物中のその使用が意図される。補助的な活性化合物もまた組成物に配合できる。
【0081】
本発明の医薬組成物はその投与の意図される経路に適合するように製剤される。投与経路の例は非経口、例えば静脈内、皮内、皮下、経口(例えば吸入)、経皮(局所)、経粘膜および直腸投与を包含する。非経口、経皮または皮下の適用のために使用される溶液または懸濁液は以下の成分、即ち滅菌希釈剤、例えば注射用水、生理食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成の溶媒、抗細菌剤、例えばベンジルアルコールまたはメチルパラベン、抗酸化剤、例えばアスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウム、キレート剤、例えばエチレンジアミン4酢酸、緩衝剤、例えば酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩、および、浸透圧を調節するための薬剤、例えば塩化ナトリウムまたはデキストロースを包含する。pHは酸または塩基、例えば塩酸または水酸化ナトリウムで調節できる。非経口製剤はガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジまたは多用量のバイアル中に充填できる。
【0082】
注射用に適した医薬組成物は滅菌水溶液(水溶性の場合)または分散液および滅菌注射溶液または分散液の即時調製用の滅菌粉末を含む。静脈内投与のためには、適当な担体は生理食塩水、殺菌水、CremophorEL(登録商標)(BASF,Parsippany,NJ)またはリン酸塩緩衝食塩水(PBS)を包含する。全ての場合において、組成物は滅菌されなければならず、そして注射針を容易に通過できる程度の流動性を有さなければならない。製造および保存条件下で安定であり、細菌やカビのような微生物による汚染に抵抗して保存されなければならない。担体は例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコール等)およびこれらの適当な混合物を含有する溶媒または分散媒体であることができる。適切な流動性は例えばレシチンのようなコーティングの使用により、分散液の場合は所望の粒径を維持することにより、そして、界面活性剤の使用により維持することができる。微生物の作用の防止は種々の抗細菌剤および抗カビ剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等により達成できる。多くの場合において、等張性付与剤、例えば糖類、多価アルコール、例えばマンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウムを組成物中に含有させることが好ましい。注射用組成物の長時間持続する吸収は吸収を遅延させる物質、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物に含有させることにより達成できる。
【0083】
滅菌注射用溶液は所望により上記した成分の1つまたは組み合わせと共に適切な溶媒中に必要量の活性化合物(例えばPDXポリペプチドまたはPDXコード核酸)を配合すること、ついで、濾過滅菌することにより調製できる。一般的に、分散液は基剤としての分散媒体および上記した物質のうち必要な他の成分を含有する滅菌ベヒクル内に活性化合物を配合することにより調製する。滅菌注射用溶液の調製のための滅菌粉末の場合は、調製方法は、あらかじめ滅菌濾過された溶液から得られる活性成分と別の所望の成分の粉末を与えるような真空乾燥または凍結乾燥である。
【0084】
経口用組成物は一般的に不活性希釈剤または食用担体を含有する。それらはゼラチンカプセルに封入するか、圧縮成型して錠剤とすることができる。経口投与治療の目的のためには、活性化合物は賦形剤に配合し、錠剤、トローチまたはカプセルの形態で使用する。経口用組成物はまた、液体担体中の化合物を口腔内に適用し、嗽をし、吐出または嚥下する洗口剤として使用するための液体担体を用いて調製できる。薬学的に適合する結合剤および/または補助的物質を組成物の部分として含有できる。錠剤、丸薬、カプセル、トローチ等は何れかの以下の成分または同様の性質の化合物、即ち、結合剤、例えば微結晶セルロース、トラガカントガムまたはゼラチン;賦形剤、例えば澱粉または乳糖、崩壊剤、例えばアルギン酸、プリモゲルまたはコーンスターチ;潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウムまたはSterote;滑剤、例えばコロイド状に酸化ケイ素;甘味剤、例えばスクロースまたはサッカリン;またはフレーバー剤、例えばペパーミント、サリチル酸メチルまたはオレンジフレーバーを含有できる。
【0085】
吸入による投与のためには、化合物は適当な高圧ガス、例えば二酸化炭素の入った加圧容器またはディスペンサー、または、ネブライザーからエアゾールスプレーの形態で送達される。
【0086】
全身投与は経粘膜または経皮の手段によっても達成される。経粘膜または経皮の投与のためには、浸透すべき障壁に対して適切である浸透剤を製剤中に使用する。このような浸透剤は当該分野で知られており、例えば経粘膜投与のためには、洗剤、胆汁酸塩およびフシジン酸の誘導体が挙げられる。経粘膜投与は鼻スプレーまたは座剤の使用により達成できる。経皮投与のためには、活性化合物は当該分野で一般的に知られるとおり軟膏、膏薬、ゲルまたはクリーム中に処方する。
【0087】
化合物はまた、直腸投与のための座剤(例えば従来の座剤用基剤、例えばカカオ脂または他のグリセリドを使用)または保持浣腸剤の形態に調製できる。
【0088】
1つの実施形態において、活性化合物は身体からの急速な排除に対して化合物を保護する担体と共に調製され、例えば、インプラントおよびマイクロカプセルの送達系などの制御放出製剤が挙げられる。生体分解性、生体適合性の重合体、例えばエチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸を使用できる。このような製剤の調製方法は当業者の知るとおりである。材料はまたAlza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Inc.より購入可能である。リポソーム懸濁液(ウィルス抗原に対するモノクローナル抗体を用いて感染細胞にターゲティングされたリポソームも含む)もまた製薬上許容しうる担体として使用できる。これらは当該分野で知られた方法に従って、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許4,522,811に記載の通り調製できる。
【0089】
投与の容易さおよび用量の均一性のためには、経口または非経口の組成物を単位剤型で製剤することが特に好都合である。本明細書においては単位剤型とは治療すべき対象に対する統一された用量に適する物理的に個別の単位を指し、各単位は所望の製薬上許容しうる担体と共に所望の治療効果を得るために計算された活性化合物の所定量を含有する。本発明の単位剤型の詳細は活性化合物の独特の性質および達成すべき特定の治療効果により決定され、これに直接依存している。
【0090】
本発明の核酸分子はベクター内に挿入し、遺伝子療法ベクターとして使用できる。遺伝子療法ベクターは例えば米国特許5,703,055に記載の多くの経路の何れかにより対象に送達できる。即ち送達はまた、例えば静脈注射、局所投与(米国特許5,328,470参照)または定位注射(例えばChen et al.,(1994)PNAS 91:3054−3057参照)を包含できる。遺伝子療法ベクターの医薬品調製物は適当な希釈剤中に遺伝子療法ベクターを含有するか、または、遺伝子送達ベヒクルを包埋した緩徐放出マトリックスを含むことができる。或いは、完全な遺伝子送達ベクター、例えばレトロウィルスベクターを組み換え細胞から未損傷で製造できる場合は、医薬品製剤は遺伝子送達系を与える細胞1つ以上を含むことができる。
【0091】
医薬組成物は、投与の説明書と共に、容器、パックまたはディスペンサー内に入れることができる。
【0092】
本発明は以下の実施例において更に説明するが、これは請求項に記載した本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0093】
(実施例1:一般的方法)
以下の一般的方法を用いて本明細書に記載した実験を実施した。
【0094】
(組み換えアデノウィルス)
AdCMVPDX−1はR.Seijffers et al.,Endocrinology 140:1133(1999)に記載の通り構築した。これはSTF−1 cDNA、pACCMVpLpAベクターのBamH1部位にライゲーションされたPDX−1のラット相同体を含んでいる。
【0095】
AdCMVβ−galはβ−ガラクトシダーゼの核局在化シグナルを含む。
【0096】
AdCMV−hInsは非相同のサイトメガロウィルスプロモーターの制御下のヒトインスリンcDNAを含む。
【0097】
AdRIP−1−hInsはラットインスリンプロモーター−1(RIP−1)の制御下のヒトインスリンcDNAを含む。RIP−1はラットインスリン−1遺伝子の5’フランキングDNA領域の410塩基である。
【0098】
全ての第1世代の組み換えアデノウィルスはBecker et al,39に従って構築した。目的の遺伝子はpACCMV.pLpAプラスミドにライゲーションし、その後アデノウィルスプラスミドpJM17と同時遺伝子導入し、その後HEK−293細胞から組み換えビリオンを回収した。Ad−CMV−PDX−1はPDX−1のラット相同体を有し、Ad−CMV−hInsはCMVプロモーターから遠位にヒトインスリンcDNAを有する40。Ad−RIP−GFP−CMV−PDX−1はGFP遺伝子発現を駆動するpACCMV.pLpAプラスミド内のウィルスCMVプロモーター(HindIII/PstI)の代わりにラットインスリン−1遺伝子(Dr.Larry Mossより提供)の5’−フランキング領域の410ヌクレオチド、ついで、pACCMV−PDX−1.pLpAプラスミド由来のCMV−mPDX−1(PDX−1のマウス相同体)を含むNotI/NotIインサートの挿入により調製される2官能性の組み換えアデノウィルスである40。組み換えウィルスの特定の機能は非β細胞系統と比較した場合のインスリノーマ細胞系統において分析した。ウィルス保存株の調製は以前に報告40されている通り実施した。
【0099】
(細胞培養)
マウス膵誘導細胞系統β−TC−1、α−TC−1およびラット膵細胞系統RIN1046−38を以前に報告されている条件(21,22)に従って培養した。
【0100】
(動物および組み換えアデノウィルス)
マウスを空調された環境下、12時間の照明/消灯周期の下に飼育し、研究用動物の福祉に関する規制に従って取り扱った。Balb/cマウス(8〜9週齢、24〜27gr)に対し、尾静脈内への全身投与により所定の組み換えアデノウィルス1〜5x1010moiを投与した(生理食塩水200〜300μlの容量)。尾部より採血し、グルコース濃度を測定した(Accutrend(登録商標)GC,Boehringer Mannheim,Mannheim,Germany)。免疫組織化学的染色(4%ホルムアルデヒド固定、パラフィン包埋)用、遺伝子発現分析(全RNA)用、および、肝中の膵ホルモン含量測定用に肝を採取した。後者2分析については、肝標本を即座に液体窒素中で凍結し、−70℃で保存した。
【0101】
雄性NOD/LtJおよびNOD/Scidマウスを、Weizmann Institute of ScienceのAnimal Breeding Center内において病原体非存在条件下で飼育した。実験はAnimal Welfare Committeeの監督と指針の下に実施した。マウスは実験開始時には1ヶ月齢であった。
【0102】
(ヒト肝細胞)
成熟ヒト肝組織を4〜10歳の小児に由来する異なる肝臓移植手術8例および40歳超の患者2人より得た。
【0103】
胎児ヒト肝は妊娠20〜22週の異なる中絶4例より得た。成熟および胎児の肝組織は両方ともCommittee on Clinical Investigations(施設内治験審査委員会)の許可を得て使用した。
【0104】
(細胞の採取および培養の条件)
ヒト肝細胞の単離は以前に報告41されている通り実施した。要約すれば、肝試料を冷Hanks Balanced Salt溶液(HBSS)で灌流し、薄片(厚み1〜2mm)に切り出し、37℃で20分間0.03%コラゲナーゼI型(Worthington Biochemical Corp.)で消化した。解離した細胞を採取しHBSS+EGTA(5mM)で2回洗浄し、4℃で5分間500xgで遠心分離することにより収集した。細胞を10%FCS、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンおよび250ng/mlアンホテリシンB(Biological Industries,Israel)を添加したDulbeccoの最小必須培地(1gr/Lグルコース)に再懸濁した。細胞の生存性と数を測定し、細胞をフィブロネクチン(3μg/cm2、Biological Industries,Israel)予備コーティングプレート上に、1〜2x105個/mlでプレーティングした。最初の3日間は毎日培地を交換することにより非付着細胞を除去した。コンフルエントとなった培養物は0.05%トリプシン−EDTA溶液を用いて1:3に分割した。細胞は5%CO2および95%空気の湿潤雰囲気下37℃に維持した。
【0105】
(ウィルス感染および成長因子の投与)
肝細胞を個別に示すとおり成長因子の存在下または非存在下(EGF20ng/ml,Cytolab Ltd.;ニコチンアミド10mM、Sigma)でDulbeccoの最小必須培地(1gr/Lグルコース)中培養し、5日間組み換えアデノウィルス(500moi)を感染させた。本試験で使用した組み換えアデノウィルスはAd−RIP−GFP−CMV−PDX−1、Ad−CMV−PDX−1、Ad−CMV−hIns40、Ad−CMV−GFP(Clontech,BD Biosciences)であった。
【0106】
(RNA単離およびRT−PCR分析)
全RNAをTri−Reagent(Molecular Research Center,Ohio)を用いて凍結組織から単離した。RNA試料を60分間RQ1 RNase非含有DNaseI(Promega)10単位で処理した。cDNAは4μgのDNA非含有全RNAおよび0.5μgオリゴ(dT)15を用いて逆転写(ネイティブAMV逆転写酵素、Chimerx)により調製した。PCRはT3サーモサイクラーを(Biometra,Gottingen,Germany)を用いて実施し、産物は1.8%アガロースゲル上で分離し、臭化エチジウムで可視化した。PCRのために使用したプライマーの配列および反応条件は表1および表3に示すとおりである。内因性マウスPDX−1の発現と異所性ラット相同体の間の判別のために、2セットの特異的オリゴヌクレオチドプライマーを設計した(表1および表3参照)ことに留意されたい。
【0107】
(リアルタイムPCR)
RT−PCRはSYBR−Green I染料を用いてLightCycler(Roche Applied Science, Mannheim,Germany)上で実施した。
【0108】
使用した増幅条件は初期の変性を95℃10分間、ついでマウスおよびラットPDX−1の両方につき55サイクルまたはβ−アクチンにつき30サイクルとした。両方のPDX−1相同体につき、各サイクルの内容は、変性95℃15秒、アニーリング59℃および伸長72℃15秒とした。β−アクチンのアニーリングは56℃で10分間行った。蛍光シグナルは各サイクル後に5秒間、β−アクチンでは90℃、マウスPDX−1では87℃およびラットPDX−1では88℃でモニタリングした。融解曲線プログラムは68℃で40秒行い、発生した産物の特異性を分析した。
【0109】
マウスPDX−1のRT−PCRは3回実施し、ラットPDX−1は2回実施した。
【0110】
ラットおよびマウスのPDX−1の濃度は共に同じ試料におけるそれぞれのβ−アクチンmRNA濃度に対して規格化した。
【0111】
或いは、ABI Prism 7000配列検出システム(Applied Biosystems)を用いて定量的リアルタイムRT−PCRを実施した。
【0112】
本試験において使用したTaqMan(登録商標)蛍光発生プローブ、Assay−On−Demand(Applied Biosystems)は、ヒトβ−アクチンHs99999903_ml、ヒトインスリンHs00355773_ml、ヒトグルカゴンHs00174967_ml、ヒトソマトスタチンHs00356144_ml、ヒトPDX−1Hs00173014_ml、ヒトGlut−2Hs00165775_ml、ヒトグルコキナーゼHs00175951_ml、ヒトPC2Hs00159922_ml、ヒトSCG2Hs00185761_ml、ヒトSGNE1Hs00161638_mlであった。
【0113】
増幅条件は開始時50℃2分、変性95℃10分、ついで変性95℃15分およびアニーリング60℃1分の各サイクルを40サイクルとし、TaqMan PCR Master Mix(Applied Biosystems)を用いて行った。相対的な定量分析は2^(−ΔCt)等式を用いてABIプリズム7000SDSソフトウェアに従って行った。mRNA濃度はヒトβ−アクチンmRNAに対して補正した。
【0114】
(膵ホルモン免疫組織化学)
4μmのパラフィン包埋切片のスライドを脱パラフィン化し、3%H2O2中でインキュベートし、市販のHistomouse(登録商標)−SPキット(Zymed laboratories,South San Francisco,California)を用いてブロッキング溶液(インスリンおよびグルカゴンの検出の両方)中でインキュベートした。次に切片を共に1:200の希釈度のヒトインスリンおよびヒトグルカゴンに対するモノクローナル抗体(Sigma)と共に37℃で1時間インキュベートした。スライドを室温で30分間二次ビオチニル化IgGに曝露し、次にストレプトアビジン−パーオキシダーゼ、その後、色原体パーオキシド溶液中でインキュベートした。一次抗体は使用せず二次抗体のみを使用し、その後ストレプトアビジン−パーオキシダーゼおよび色原体パーオキシド溶液を使用した対照群を設けることにより系の考えられるバックグラウンドを排除した。
【0115】
(膵ホルモンに関するラジオイムノアッセイ(RIA))
膵臓および肝臓を単離し、即座に液体窒素中に凍結し、−70℃で保存した。凍結した組織は0.18NのHCl/35%エタノール中でホモゲナイズした。ホモジネートを攪拌しながら4℃で一夜抽出し、上澄みを凍結乾燥した。試料をプロテアーゼ阻害剤カクテル添加0.8mlRIAアッセイバッファー(Sigma)に溶解した。肝インスリンおよびグルカゴン濃度をラットラジオイムノアッセイ(RIA、カタログ番号SRI−13KおよびGL−32K、Linco,Missouri,USAおよびCoat−A−Count,DPC;CA,USA)を用いて測定した。ソマトスタチン濃度はRIA(Euro−diagnostica,Sweden)により測定した。膵ホルモンの肝含量は摘出した組織の重量に対して規格化した。
【0116】
(肝機能の測定)
血清試料中のアルブミン、AST(アスパルテートアミノトランスフェラーゼ)、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)および総ビリルビンよりなる血清生化学数値をOlympus AU2700 Apparatus(Olympus,Germany)を用いて測定した。
【0117】
(インスリンおよびC−ペプチドの検出)
インスリンおよびC−ペプチドの分泌および一次成熟肝細胞中の含量を初回ウィルスおよび成長因子投与の3日後に48時間の静的インキュベーションにより測定した。インスリンの培地への分泌はUltra Sensitive Human Insulin RIAキット(Linco Research)を用いてRIAにて測定し、そして、C−ペプチドの分泌はHuman C−Peptide RIAキット(Linco Research)により測定した。
【0118】
インスリン含量は細胞ペレットを0.18NのHCl、35%エタノール中でホモゲナイズした後に測定した。ホモジネートを攪拌しながら4℃で一夜抽出し、上澄みを凍結乾燥した。試料を0.2%BSAおよびプロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma)含有PBS0.5mlに溶解した。試料100μlをRIAに使用した。インスリン含量はBio−Rad蛋白試験キットにより測定された全細胞蛋白に対して規格化した。
【0119】
(グルコース負荷試験)
成熟肝細胞にAd−CMV−PDX−1および成長因子を5日間投与した。細胞を105個/ウェルの密度で6穴プレートにプレーティングした。
【0120】
経時分析のために、細胞を0.1%BSA含有Krebs−Ringer緩衝液(KRB)中で2時間予備インキュベートし、次に2mMまたは25mMのグルコースを含有する培地中で所定時間インキュベートした。各時点において、培地試料中のインスリン(Ultra SensitiveヒトインスリンRIAキット−Linco Research)およびC−ペプチド(ヒトC−ペプチドRIAキット)を分析した。
【0121】
グルコース用量応答;細胞を0.1%BSA含有KRBで2時間予備インキュベートし、洗浄し、その後、漸増濃度のD−グルコースまたは2−デオキシグルコース(0〜25mM)を2時間負荷した。25mMグルコースにおけるインキュベート終了時に、細胞をKRBで洗浄し、2mMグルコース含有培地中更に2時間インキュベートした。
【0122】
(電子顕微鏡観察)
肝細胞を2.5%グルタルアルデヒドに固定し、オスミウム酸染色し、一連の等級のエタノールおよびプロピレンオキシドで脱水し、Araladite溶液(Polyscience Inc.)中に包埋した。ウルトラミクロトームで超薄片を切り出し、2%ウラニルアセテートおよびReynoldクエン酸鉛溶液で染色した。包埋後イムノゴールド反応のために、50〜90nmの肝切片をニッケルグリッド上においた。グリッドを一夜室温でインスリンに対する抗体(モルモットポリクローナル;7.8μg/ml、Dako)と共にインキュベートし、次に室温で1.5時間モルモットIgGに対するイムノゴールドコンジュゲート抗体(15nmゴールド;1:40希釈、Dako)と共にインキュベートした。切片を電子顕微鏡下に観察した(Jeol 1200EX2)。
【0123】
(細胞移植)
5週齢の非肥満糖尿病重度合併免疫不全(SCID−NOD)雄性マウス(Weizmann Institute,Israel)に180mg/kg体重のストレプトゾトシンを腹腔内注射することにより高血糖症とした。血中グルコース濃度が2回連続測定で約300mg/dlに達した時点で、マウスの腎皮膜下に30ゲージ針を用いてMatrigel(Sigma)50μl中、5日間に亘り、PDX−1および成長因子をあらかじめ投与した3x106ヒト肝細胞を移植した。血液を尾部から週2回採取し、グルコース濃度の測定に付した(Accutrend(登録商標)GC,Roche Applied Science)。製造元の取扱説明書に従って、マウスC−ペプチドに対して0%交差反応性のUltrasensitiveヒトC−ペプチドELISAキット(Mercodia)およびヒトインスリンに対して0%交差反応性のマウスインスリンELISAキット(Mercodia)を用いることにより、給餌マウスの血液中の血清をC−ペプチドおよびインスリン濃度の分析用に採取した。腎臓および膵臓は免疫組織化学的分析用に採取した。
【0124】
(組織学的検討および染色)
腎臓および膵臓を4%ホルムアルデヒドに固定し、パラフィン包埋した。パラフィン包埋組織の厚み5m切片を脱パラフィン化し、3%H2O2中でインキュベートし、次にブロッキング溶液中でインキュベートする前に抗原回復のためにクエン酸塩緩衝液中でマイクロウエーブ処理する(PDX−1検出)か、または、Histomouse(登録商標)−SPキット(Zymed laboratories)を用いてブロッキング溶液に即座に曝露した(インスリン検出)。PDX−1の検出のためには、切片をカエルPDX−1のN末端部分に対して構築された抗血清(1:5000、C.V.E.Wrightより入手)と共に4℃で一夜インキュベートした。インスリンの検出のためには、切片をヒトインスリンに対するモノクローナル抗体(1:100、Sigma)と共に37℃で1時間インキュベートした。スライドを二次ビオチニル化IgGに30分間曝露し、次にストレプトアビジン−パーオキシダーゼ、ついで色原体パーオキシド溶液中でインキュベートした。
【0125】
(シクロホスファミド加速糖尿病(CAD))
糖尿病の発症を前述の通り(3)シクロホスファミド(Sigma,Rehovot,Israel)により加速した。雄性NODマウスに4週齢の時点でシクロホスファミド200mg/kgを腹腔内注射した。その後2週間以内にマウスが糖尿病にならない場合は、Cyの二回目の腹腔内注射(200mg/kg)を行い、1週間後に工程を再度反復した。糖尿病マウスをSPFから除き、12時間の照明/消灯周期の下に空調環境内において飼育し、そこで72時間馴化させた後に新たに血糖値を測定して糖尿病を確認した。
【0126】
(高血糖症)
血中グルコースはAccutrend(登録商標)GC,Glucose Analyzed(Boehringer Mannheim,Mannheim,Germany)を用いて週二回測定した。血中グルコース濃度が2回の連続測定で300mg/dlより高値であればマウスを糖尿病と見なした。
【0127】
(ウィルス感染)
8〜10週齢の糖尿病NODマウス(体重20〜22gr)に対し、尾静脈内への全身投与により所定の組み換えアデノウィルス1.5x1010pfuを投与した。ウィルスはPBS中200〜300μlの容量で投与した。
【0128】
(膵臓組織の検討)
膵臓および肝臓を4%ホルムアルデヒド中に固定し、パラフィン包埋し、切り出して標準的なヘマトキシリンおよびエオシンにより染色した。免疫組織化学的に染色した4μmパラフィン包埋切片のスライドを脱パラフィン化し、ブロックして(21)に記載の通りHistomouse(登録商標)−SPキット(Zymed laboratories,South San Francisco,California)を用いて分析した。切片をヒトインスリンに対するモノクローナル抗体(Sigma,Rehovot,Israel)の1/100希釈物と共にインキュベートした。スライドをストレプトアビジン−パーオキシダーゼと組み合わせた抗マウスIgGビオチニル化抗体、ついで色原体パーオキシド溶液を用いて発色させた。対照スライドはインスリン特異的抗体を添加しない以外は同じプロトコルに従って並行して発色させた。
【0129】
(実施例2:異所性に同時送達されたインスリンプロモーターのPDX−1誘導内因性インスリン遺伝子の発現および活性化の測定)
肝における異所性PDX−1発現の作用を調べるために、雄性Balb/cおよびC57BL/6マウス(11〜14週齢)の尾部静脈にAd−CMV−PDX−1組み換えアデノウィルス2x109プラーク形成単位(0.2ml生理食塩水中)を注射した。対照として、AdCMV−β−galまたはAdCMV−hInsおよびAdRIP−I−hIns組み換えアデノウィルスをマウスに同様に注射した。動物は通常の非制限食餌において12時間照明/消灯周期下の空調環境下に飼育し、ウィルス投与後1週間に屠殺した。肝臓、脾臓、膵臓および腎臓を摘出し、迅速に液体窒素中で凍結し、−70℃で保存して全RNAの単離に付した。
【0130】
PDX−1およびインスリンの遺伝子の発現はRT−PCRで測定した。全RNAをRNAzol(CINNA−BIOTEX)を用いて凍結組織から単離した。RNA試料は10ulのDNase I(Promega)で処理した。cDNAは1μgDNA非含有全RNAおよび0.5μgオリゴ(dT)15を用いて逆転写により調製した。RT反応液1.5μlを以下の表1に示すプライマーおよびPCR条件を用いて増幅した。PCRはGeneAmp PCRシステム2400(Perkin Elmer)で行い、産物は1.7%アガロースゲル上で分離した。別のPCR反応を逆転写酵素を用いることなく各RNA試料について実施することにより増幅された産物がDNA汚染によるものではないことを確認した。プライマーはマウス相同体ではなく異所性ラットPDX−1の発現のみを検出するように設計した。mI−2増幅用のプライマーは異なるエクソン上に位置する。試料変性の第1の工程は全ての増幅遺伝子について同一であり、94℃1分とした。
【0131】
全RNAの分析によればAdCMV−PDX−1の投与により主に肝においてPDX−1の発現が起こったことがわかる。同じマウスに由来する脾臓、膵臓および腎臓はPDX−1のラット相同体についてはRT−PCRによれば陰性であった。
【0132】
異所性ラットPDX−1メッセージのついて陽性であったマウスの75%(35匹中25匹)はmI−2遺伝子を発現したのに対し、マウスの35%がmI−1遺伝子を発現した(図1)。mI−2とmI−1の間のこのような発現の相違がPDX−1発現肝細胞中に存在する転写因子の本質または量によりmI−1プロモーターが異なって影響されるためであるかどうかを明らかにするために、上記した通りマウスにAdRIP−I−hIns組み換えアデノウィルスをAdCMV−PDX−1と同時送達した。図1に示すとおり、PDX−1が内因性mI−2の発現のみを誘導した肝においては、これはラットインスリン−1プロモーター(RIP−1)も活性化した。このことはDNAメチル化の異なった水準または個別の染色質構造が肝におけるPDX−1発現による内因性mI−1発現の活性化の効率が低いことの原因である可能性を示唆している。更にまたこれらのデータはPDXと同時送達された場合の肝におけるβ細胞特異的インスリンプロモーターを活性化する能力を示している。
【0133】
内因性のマウスインスリンおよび異所性ヒトインスリンの遺伝子の発現はそれぞれ同じ濃度の対照組み換えアデノウィルスAdCMV−β−galまたはAdCMV−hInsおよびAdRIP−hInsの投与(n=20)では誘導されなかった。これらの結果はPDX−1は内因性インスリン遺伝子の発現を誘導するため、および、膵臓外の組織におけるRIP−1の活性化のために必須かつ十分であることを示している。
【0134】
(実施例3:PDX−1誘導のソマトスタチン遺伝子発現およびインビボの蛋白生産の測定)
実施例2に記載の通り動物に組み換えアデノウィルスを投与した。ソマトスタチンの遺伝子発現は表1に示す条件に従って実施例2に記載の通りRT−PCRで測定した。
【0135】
図3に示すとおり、AdCMV−PDX−1を投与したマウスの肝はソマトスタチンの遺伝子発現を示した。AdCMV−PDX−1を投与したマウスは免疫化学的分析を行った肝組織においてはソマトスタチン蛋白について陽性に染色された。AdCMV−β−galを投与したマウスはソマトスタチンを発現しなかった。
【0136】
(実施例4:PDX−1誘導グルカゴン遺伝子発現の測定)
実施例2に記載するとおりAdCMVPDX−1組み換えアデノウィルスを動物に投与した。グルカゴン遺伝子発現を表1に示す条件およびプライマーを用いて実施例2に記載の通りRT−PCRで測定した。
【0137】
図3に示すとおり、AdCMV−PDX−1を投与したマウスの肝はグルカゴン遺伝子を発現した。AdCMV−β−galを投与したマウスはグルカゴンを発現しなかった。
【0138】
(実施例5:プロホルモン変換酵素1/3誘導遺伝子発現の測定)
実施例2に記載の通り組み換えアデノウィルスを動物に投与した。プロホルモン変換酵素1/3(PC1/3)遺伝子発現はオリゴ(dT)15の代わりに遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(TCCAGGTGCCTACAGGATTCTCT)(配列番号1)を用いてcDNAを逆転写した以外は実施例2に記載の通りRT−PCRにより測定した。図3に示すとおり、PDX−1を投与した動物に由来する肝のみがKexinファミリープロテアーゼのメンバーであるPC1/3の発現を誘導し、PC1/3の発現は調節された分泌経路を有する内分泌および神経内分泌の細胞に限定されている。細胞内コンパートメント内に生産されたホルモンを貯留する能力と合わせると、ホルモンの生産、プロセシング、保存および分泌に関わる調節された経路の誘導を含む内分泌の表現型のPDX−1依存性の誘導が示唆される。
【0139】
【表1−1】
【0140】
【表1−2】
【0141】
【表3】
(実施例6:肝におけるPDX−1誘導プロインスリン合成)
実施例2に記載の通り組み換えアデノウィルスを動物に投与した。肝臓、脾臓、膵臓および腎臓を摘出した。組織の一部を4%ホルムアルデヒドに固定し、パラフィン包埋し、免疫組織化学的染色に付した。残余の肝および膵臓の組織を70%エタノール−0.18N塩酸中でホモゲナイズし、凍結乾燥し、PBS(リン酸塩緩衝食塩水)中に再懸濁してIRI含量のRIA測定に付した。
【0142】
(免疫組織化学的検討)
パラフィン包埋組織の5μm切片を脱パラフィン化し、3%H2O2中でインキュベートし、次にブロッキング溶液中でインキュベートする前に抗原回復のためにクエン酸塩緩衝液中でマイクロウエーブ処理する(PDX−1検出)か、または、ブロッキング溶液に即座に曝露した(インスリン検出)(Histomouse(登録商標)−SPキット、Zymed laboratories、CA,USA)。
【0143】
PDX−1の検出:切片をカエルPDX−1のN末端部分に対して構築された抗血清と共に4℃で一夜インキュベートした。
【0144】
インスリンの検出:切片をモノクローナル抗ヒトインスリン(Sigma,St−Louis MO)と共に37℃で1時間インキュベートした。
【0145】
スライドを二次ビオチニル化IgGに30分間曝露し、ストレプトアビジン−パーオキシダーゼ、ついで色原体パーオキシド溶液中でインキュベートした。
【0146】
PDX−1を投与したマウスの肝切片の免疫組織化学的分析によれば肝細胞核の30〜60%においてホメオプロテインの発現があり、肝細胞の0.1〜1%が(プロ)インスリンについて陽性に染色されたことがわかった。対照のAdCMVβ−gal投与肝は(プロ)インスリンについては陽性に染色されなかったが、β−ガラクトシダーゼ活性は核の50%で明らかとなった。AdCMV−hInsを投与したマウスの肝は肝切片においてはインスリンについて陽性に染色されなかったが、同じマウスの血清IRIはPDX−1投与マウスにおける血清中IRI濃度と同様、3倍高値であった。インスリンではなくPDX−1の異所性発現が(プロ)インスリンについて陽性に免疫染色されたという事実は、β細胞の表現型に移行していると考えられる、肝細胞の小さいサブ集団(肝細胞ではなく、内分泌細胞に特徴的な、調節経路に属する分泌ベシクル)におけるインスリンの貯留を支援する細胞モジュレーションの誘導を示唆している。
【0147】
(ラジオイムノアッセイ)
肝インスリンmRNAが効率的に蛋白に翻訳されるかどうかを調べるために、ラジオイムノアッセイ(RIA)により肝組織に由来する抽出液中の免疫反応性インスリン(IRI)含量を試験した。RT−PCRによりインスリン遺伝子発現について陽性であったPDX−1投与マウスの肝(図1)は対照ウィルスを投与した動物の肝臓よりも約25倍高値のIRIを含有していた(表2)。PDX−1投与肝由来抽出液中の平均IRI濃度は20.7±3.97μU/mg蛋白であり、対照肝ではIRIは僅か0.78±0.25μU/mg蛋白であった。対照肝試料中で測定したインスリンのバックグラウンド濃度はおそらくはこの臓器中に大量に存在するその受容体に結合したインスリン(膵起源)を示している可能性がある。PDX−1投与肝抽出液中に検出されたIRIは膵抽出液中に検出された濃度の<0.1%であったが(表2)、PDX−1投与マウスにおける血清中IRI濃度は対照群と比較してほぼ3倍高値であり(それぞれ323±48.4対118.2±23.7μU/ml(表2))、インスリンが合成されておりその大部分が血流中に分泌されたことを示している。これらのデータは分子操作により誘導されたインスリン遺伝子発現がプロ/ホルモンの特異的肝生産に良好に翻訳されたことを示している。
【0148】
PDX−1投与肝において検出された免疫反応性のインスリンは膵抽出液中のIRI濃度の1%未満であった(表2)。肝抽出液中のラジオイムノアッセイ(RIA)により測定されたIRI値はこの臓器における実際のインスリン生産を過小評価していると考えられる。RIAのために本発明者等が使用した抗体はプロセシングされたホルモンに優先的に結合し、肝細胞に主に存在し、膵臓にははるかに低い濃度で存在すると推定されるプロインスリンとの交差反応性は僅か60%である。
【0149】
(実施例7:血中グルコースおよび血清中インスリンの濃度)
実施例2に記載の通り組み換えアデノウィルスを動物に投与した。屠殺する前にグルコース濃度(Accutrend(登録商標)GC,Boehringer Mannheim,Mannheim,Germany)およびラジオイムノアッセイによるインスリン濃度(Coat−a−Count,DPC,Los Angeles,CA,USA,ラットインスリン標準物質(Linco)使用、使用した抗インスリン抗体はヒトプロインスリンとは交差反応性は僅か60%である)の測定用に、下大静脈より採血した。
【0150】
AdCMV−PDX−1組み換えアデノウィルスを投与したマウスは高血糖症ではなかったが、その血中グルコース濃度はAdCMV−β−galまたはAdCMV−Lucを投与したマウスよりも有意に低値であった[それぞれ197±11.2対228±15.74mg/dl、(表2)]。血漿中免疫反応性インスリン濃度は対照群と比較してPDX−1投与マウスで有意に高値であった[それぞれ323±48.4対118.2±23.7μU/ml、(表2)]。
【0151】
PDX−1投与マウスにおける血清中IRI濃度の3倍上昇は、PDX−1投与肝抽出液中に示された肝IRI含量の25倍上昇(表2)をそれ自体では説明することができない。即ち、肝プロ/インスリン含量の増大は局所的生産に起因している。
【0152】
【表2】
(実施例8:インスリン関連ペプチドのHPLC分析)
実施例2に記載するとおり組み換えアデノウィルスを動物に投与した。肝および膵臓を摘出し、70%エタノール−0.18N塩酸中でホモゲナイズし、凍結乾燥し、0.1M塩酸−0.1%BSA中に再懸濁し、HPLC分析に付した。
【0153】
肝および膵の抽出液から得たインスリン関連ペプチドをLichrospher100R−18カラム(Merck、Darmstadt,Germany)およびGross et alの溶離条件を用いた逆相HPLCにより分解した。1ml画分を水中0.1%BSA0.1mlの入った試験管中に採取し、Speed−Vac装置で乾燥し、RIA緩衝液(PBS中0.1%BSA)1ml中に希釈再調製し、RIAによるペプチド測定に付した。モルモット抗ブタインスリン抗体(Linco,St Charles,MO)とラットまたはヒトインスリン標準物質のいずれかを用いてそれぞれマウスまたはヒトIRIを測定した。
【0154】
PDX−1投与マウスの肝IRI含量のHPLC分析によれば完全にプロセシングされたmI−1およびmI−2への変換は59±7%(n=3)であった。これと比較して、膵抽出液は85±5%(n=3)の成熟インスリンを含有していた(図2)。これに対し、ヒトインスリンの異所性発現(AdCMV−hIns)は、抽出されたIRIの大部分が未成熟インスリンであった肝一例を除き、肝細胞中のIRIの貯留をもたらさなかった。このことは、インスリン遺伝子産物の貯留が観察されずその大部分が構成性の分泌経路により分泌されたトランスフェクトFAO細胞における以前の観察結果と合致している。これらのデータは肝における異所性PDX−1発現は誘導されたプロホルモンのプロセシングが可能な内分泌組織に特徴的である細胞機序を誘導し、肝においてプロインスリンのみが異所性に発現される場合には誘導されないことを示している。即ち、異所性PDX−1発現による肝細胞における拡張されたβ細胞表現型の誘導を示す。
【0155】
(実施例9:肝プロ/インスリン生産の生物学的活性)
糖尿病マウスにおける血糖値を制御するPDX−1誘導肝インスリン生産の能力を試験した。C57BL/6マウスを200mg/kgの腹腔内STZ注射の24時間後にケトアシドーシスを伴った糖尿病(>600mg/dl)とした。STZ注射の24〜48時間後に、マウスには尾部静脈から生理食塩水中のAdCMV−PDX−1またはAdCMVβ−gal(対照)組み換えアデノウィルスを投与した。図4に示すとおり、AdCMV−PDX−1投与マウスは組み換えアデノウィルス投与の2日後から開始して、約600から200〜300mg/dlまでの血中グルコース値の緩やかな低下を示した。これとは対照的に、対照のAdCMVβ−gal投与マウスにおいては、高血糖症は持続し、死亡率の増大を伴い、試験した22匹中12匹が死亡し、アデノウィルス投与の1〜3日後には重度のケトアシドーシスを有していた。更にまた、両群とも高血糖症誘導後は体重減少を示し、屠殺時前までに回復しなかった。要すれば、データは、PDX−1の発現は損なわれたβ細胞機能を有するマウスにおける高血糖症を軽減する成熟した生物学的に活性なインスリンの生産を誘導するのに十分であることを示している。
【0156】
(実施例10:異所性PDX−1発現によるインスリンプロモーターのインビトロの活性化)
PDX−1はラットインスリン−1プロモーターによりヒトインスリンの発現を送達する組み換えアデノウィルスAdRip−1hInsと共に同時送達された場合にラットインスリン−1プロモーターを活性化する(実施例2および図1参照)。PDX−1はラット肝細胞においてラットインスリンプロモーター−1をインビトロで活性化するのに十分であることがわかっている。成熟および胎児の肝細胞の一次培養物を血清非含有の化学的に明らかにされている培地中、コラーゲン−1被覆組織培養皿上で培養した。プレーティングから2日後に、細胞にAdCMV−PDX−1&AdRIP−1hInsまたはAdCMVβ−gal&AdRIP−1hInsのいずれかを投与した。アデノウィルス投与の48時間後、全RNAを抽出し、プロインスリン遺伝子の発現を実施例2に記載したとおり調べた。
【0157】
PDX−1は異所性発現されたRIP−hIns(ラットインスリンプロモーター−1、このプロモーターの410bp、ヒトインスリン駆動、組み換えアデノウィルスにより導入)を活性化し、β−galはこのような能力を保有していなかった(図5)。
【0158】
(実施例11:肝細胞における内因性ソマトスタチン遺伝子発現のインビトロの誘導)
胎児(E14−Fisher−344ラット)から単離した肝細胞の一次培養物を培養し、実施例9に記載の通り組み換えアデノウィルスを投与した。ソマトスタチン遺伝子発現は表1に示すプライマーおよびRT−PCR条件を用いて、実施例2に記載の通り逆転写全RNA試料中で検出した。
【0159】
データはインビトロの肝細胞における異所性PDX−1発現は、インビトロで、肝細胞における内因性の、その他の面ではサイレントであるソマトスタチンの遺伝子の発現を誘導することを示している(図6)。
【0160】
(実施例12:肝細胞における内因性インスリン遺伝子発現のインビトロの誘導)
実施例10に記載の通り胎児(E14−Fisher−344ラット)の一次培養物を培養し、組み換えアデノウィルスを投与した。ラットインスリン1遺伝子の発現は表1に示すプライマーおよびRT−PCR条件を用いて、実施例2に記載の通り逆転写全RNA試料中で検出した。
【0161】
データはインビトロの胎児肝細胞の一次培養物における異所性PDX−1発現は、内因性の、その他の面ではサイレントであるインスリンの遺伝子の発現を誘導することを示している(図6)。
【0162】
(実施例13:生産されたホルモンの貯留およびその調節された分泌を可能にする内分泌および神経内分泌の特徴である細胞内コンパートメントの肝細胞内異所性PDX−1発現による誘導)
実施例2に記載の通り、Ad−CMVhInsまたはAdCMVPDX−1のいずれかをマウスに投与した。投与により肝細胞によるヒトインスリンの生産を示す3倍の血清中IRI増大がもたらされた(図1)。免疫細胞化学試験によりインスリン蛋白が陽性であった細胞はAdCMVPDX投与のみで検出された。更にまた、肝抽出液のHPLC分析では肝抽出液中には僅か痕跡量のIRIのみしか検出されず、その全てはAd−CMVhIns投与マウスでは未プロセシングであり、これに対し、AdCMVPDX−1投与マウスでは25倍増大が観察された。更に、AdCMVPDX−1投与マウスにおいて生産されたインスリンの59%が、プロセシングされた。更に、AdCMVPDX−1を投与した肝のみが、インスリンのプロセシングの保存および調節された分泌のための調節された経路が可能である細胞にのみ特徴的であるプロホルモンプロセシング酵素PC1/3の誘導を示した。これらのデータは肝細胞におけるインスリンの調節された分泌をPDXが誘導することを示している。
【0163】
(実施例14:PDXにより発現がモジュレートされる核酸の識別)
PDXによりモジュレートされる核酸は異所性PDX発現により識別される。膵組織と比較した場合に、対照投与の膵外島組織において発現されない核酸はPDXによりモジュレートされる核酸である。このようにして識別されたこれらの核酸は膵関連障害を治療するための治療用化合物として使用される。
【0164】
標的遺伝子の識別はサブトラクティブのライブラリ、市販のマイクロアレイチップ(IncyteまたはAffimetrix)またはメンブレンハイブリダイゼーション(CLONTECH、Atlas(登録商標)発現アレイまたはMultiple Tissue Northern(MTN(登録商標))ブロット)の何れかにより実施する。投与組織からのRNAの単離、その精製およびcDNAプローブの合成は、製造元の取扱説明書に従って実施する。
【0165】
PDX投与非膵島組織において発現され、そして膵島プローブされたメンブレンまたはチップ中にも存在するが対照投与非膵島組織には存在しない遺伝子は直接または非直接のPDX標的遺伝子であり、これは遺伝子発現の島細胞特徴的性質を示す。直接または間接の間の判別は、図7に示す電子移動性シフト試験(EMSA)による候補標的遺伝子プロモーター分析、および、プロモーターフットプリンティング(Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989に記載)により解明される。
【0166】
(実施例15:宿主組織における所望の異所性発現遺伝子の調節発現の誘導)
本実施例はインスリン以外の何れかの受容体の調節された発現の誘導を説明する。PDXが非膵島組織においてインスリンプロモーターを活性化しそのグルコースおよび成長因子感知能力を媒介する場合、何らかの別のプロモーターがグルコースおよび成長因子により同様に調節される。即ち、本発明はインスリンプロモーターにより駆動され、これによりその転写および他の面では非内分泌性の組織からの調節された分泌を制御するインスリンプロモーターにより駆動される例えばグルカゴン、成長ホルモン、ステロイドホルモンを含む多くの分泌および/または非分泌の因子の発現を栄養的およびホルモン的に調節するために使用できる(図7)。
【0167】
(実施例16:βまたは島細胞特異的転写因子の階層構造中のPDX位置の識別)
本実施例はβ細胞または島細胞に特異的な転写因子の階層構造におけるPDXの位置の識別を説明する。膵島において発現されるが肝における異所性のPDX−1の発現により誘導されない各転写因子は、肝のような非内分泌膵臓組織中のより包括的で完全または完全に近いβ細胞表現型の誘導のためにPDXと協調すると考えられる。肝における島細胞特異的転写因子の誘導された発現の検出は、表1に例示する適切なプライマーおよび条件を用いて実施例2に記載するとおり実施される。
【0168】
転写因子の活性を分析するための別の方法はフットプリンティングにより実施され、そして以下の通り実施される。
【0169】
電子移動性シフト試験(EMSA):核抽出液(蛋白3〜4μg)を10%グリセロール、15mMHepes(pH7.9)、150mMKCl、5mMDTTおよび0.3gのポリdIdC、ポリdAdT(SIGMA St Louis MO)を含有するDNA結合混合物中10分間氷上でインキュベートした。最初のインキュベーションの後、プローブ約0.2ngを添加し、更に25分間の氷上インキュベーションに付した。結合反応はネイティブの4%ポリアクリルアミドゲル上で分析した。
【0170】
オリゴヌクレオチド(プローブ)。合成の2本鎖オリゴヌクレオチドをDNAポリメラーゼのクレノウフラグメントを用いて[α32P]ATPで末端標識する。インスリンプロモーター上のPDX−1結合部位(の1つ)に関する例であるオリゴヌクレオチドA3/A4の配列は5’GATCTGCCCCTTGTTAATAATCTAATG3’(配列番号24)である。A1(インスリンプロモーター上の別のPDX−1結合部位)の配列は5’GATCCGCCCTTAATGGGCCAAACGGCA−3’(配列番号25)である。図7に示すとおり、標識されたオリゴを電子移動性シフト試験のためのプローブとして使用する。PDX−1の識別は、プロモーター上のその同属体遺伝子座へのPDX−1の結合を防止するか、または、pdx−1+標識プローブのみを含有するものと比較してPAGE(抗体+pdx−1+プローブ)上で分離される複合体の分子量を増大させる特異的抗体を用いたスーパーシフトにより二重推定される(図7における最後2レーン)。
【0171】
(実施例17:肝における膵内分泌および外分泌マーカーの異所性PDX−1発現による誘導)
インビボの成熟肝における異所性PDX−1発現は膵遺伝子の広範なレパートリーを活性化する。内分泌および外分泌の両方のマーカー、例えば外分泌膵転写因子p48は肝における異所性PDX−1発現に応答して独特の発現を示した(図8)。対照投与マウスは膵遺伝子発現に対して殆ど陰性であった。インスリン遺伝子発現は異所性PDX−1投与マウスのほぼ100%で誘導されたが、対照投与マウスの20%においても蛋白に翻訳されない極めて低い濃度で発現された。
【0172】
発生中の膵においてPDX−1は膵の関与と一時的に相関する早期分子マーカーとして作用する。このデータはPDX−1は肝のような成熟した完全に分化した組織において、膵臓器形成におけるその役割を反復していることを示している。
【0173】
(実施例18:肝から膵への発生のシフトの長時間持続過程に対するPDX−1による惹起)
マウスインビボ肝への初回単回アデノウィルス媒介PDX−1投与後6ヶ月のインスリン、グルカゴンおよびソマトスタチンの遺伝子の発現および蛋白の生産を調べた。
【0174】
8〜9週齢のマウスにAd−CMV−PDX−1、即ちCMVプロモーターの制御下にラットPDX−1遺伝子(STF−1)を担持する組み換えアデノウィルスを全身投与した。肝における膵遺伝子発現を齢マッチ対照マウス(Ad−CMV−β−ガラクトシダーゼ投与または未投与)との比較において分析した。
【0175】
肝への遺伝子のアデノウィルス媒介送達により達成される予測された一過性のPDX−1発現にもかかわらず(組み換えPDX−1の発現はウィルス注射後30日〜56日の間に減衰する)、インスリンとソマトスタチンの発現はmRNA(図9)および蛋白のレベル(図11)の両方で6ヶ月間持続した。グルカゴンの遺伝子発現は最初の4ヶ月の間に顕著となった(図9および10)。重要なことであるが、インスリンIおよびインスリンIIの遺伝子の発現は初回PDX−1投与後6〜8ヶ月の時点でもPDX−1投与マウスの80〜100%において明らかであった。
【0176】
インスリンおよびグルカゴンの遺伝子発現の間の一時的相違は成熟肝における膵臓器形成を特徴付ける独特の現象を反映しており、βおよびδ細胞の表現型に向けてより安定な相互変換があることを示唆している。グルカゴン遺伝子は直接のPDX−1標的遺伝子ではなく、肝におけるその持続的発現はPDX−1がこの臓器において分化因子として機能していることを示唆している。
【0177】
(実施例19:インスリン、グルカゴンおよびソマトスタチンの定量分析
PDX−1投与肝のホルモン生産)
免疫組織化学的分析(図10)により、PDX−1異所性遺伝子送達後4〜6ヶ月においても主に中心静脈近接部においてインスリン生産細胞の位置が特定される(図10Aおよび10C)。グルカゴン陽性細胞もまた中心静脈近接部に局在するが(図10B)、逐次的スライド上で行ったこれら2種のホルモンの免疫組織化学的分析によれば、これらのホルモンは同じ細胞内には同時に局在しないことが示唆される。肝内の中心静脈に近接する領域に存在する肝細胞は成熟細胞に相当することがわかっている。
【0178】
PDX−1投与マウスの肝内に保存された肝インスリンの定量的分析によれば、投与後4〜6ヶ月においても、肝インスリン含量は約30〜75ng/g組織であり、これに対し、齢マッチの対照肝では1〜9ng/g組織であった(図11A)。初回Ad−CMV−PDX−1投与後少なくとも4ヶ月まで肝プロ/グルカゴンおよびソマトスタチン含量の有意な2倍増量が観察された(図11BおよびC)。PDX−1投与後の他の2種の膵ホルモンと比較した場合のインスリンの肝含量の大きな相違は膵におけるこれらのホルモンの比に似ていると考えられる。肝インスリン生産にもかかわらず、正常な膵機能を有するPDX−1投与マウスにおける血清中インスリンおよびグルコースの濃度は実験期間中を通して正常であった(PDX−1投与と対照の比較において、それぞれ、インスリン:1.0±0.5対0.9±0.4ng/ml、および、グルカゴン:0.16±0.08対0.12±0.05ng/ml)。
【0179】
肝内の膵ホルモンの持続的生産は異所性PDX−1がPDX−1トランスジーンの持続的存在を必要としない事象のカスケードを惹起することを示唆している。
【0180】
(実施例20:肝における内因性の他の面ではサイレントなPDX−1遺伝子の発現の異所性PDX−1による惹起)
一過性の異所性PDX−1発現により惹起される肝における持続性発生シフトを評価するために、トランスジーンが他の面ではサイレントな膵転写因子の発現を誘導するかどうか分析した。
【0181】
異所性遺伝子による肝内における、内因性で他の面ではサイレントなPDX−1遺伝子の誘導を分析するために、ラットPDX−1相同体の発現を指向する組み換えアデノウィルスを全身送達によりマウスに投与し、そして、RT−PCRにより異所性PDX−1トランスジーン(ラット)mRNA(cDNA)と内因性マウスmRNAとを判別するために特定のオリゴヌクレオチドプライマーを使用した。
【0182】
Ad−CMV−PDX−1投与マウスの肝から単離したDNA試料のPCR分析によれば、アデノウィルス注射後30〜56日にウィルスコードトランスジーンは消失することが確認される(図12A)。
【0183】
図12Bは異所性ラットPDX−1発現は肝における送達されたウィルスDNAの観察された存在と並行し、そして1ヵ月後において消滅することも示している(図12A)。実験の全期間にわたり投与肝において発現された唯一のPDX−1の相同体は内因性でその他の面ではサイレントなマウス相同体である(図12B)。内因性PDX−1の発現はラットPDX−1トランスジーンを投与されたマウスに限定されており、異所性PDX−1投与マウスの75%(28匹中21匹)および分析した対照投与肝25例中0例で明らかとなった。リアルタイムPCRを使用して、肝におけるマウス対ラットのPDX−1遺伝子発現の識別および定量された相対量を、同一条件(ただし異なるプライマー)を用いて初回投与後の時間の関数として分析し、同じ試料内のβアクチンに対して規格化した。
【0184】
図12Cに示す通り、異所性ラットPDX−1をコードするmRNAは5日において最高値を示し、30日には85%低下し、その後は消失した。これとは対照的に、内因性マウスPDX−1は実験の全期間を通じてかなりの濃度で発現された。これらのデータを総括すると、内因性であるが他の面ではサイレントであるPDX−1の肝内における自己誘導が示唆されており、これは肝から膵への相互変換過程の長時間持続する様式を機序的に説明していることを示唆している。
【0185】
(実施例21:機能性でありSTZ誘導高血糖症を防止するPDX−1トランスジーン発現に応答した肝内で生産されるインスリン)
生物学的に活性なインスリンの長時間持続する生産をPDX−1遺伝子送達により誘導できるかどうかを調べるために、それがSTZ誘導糖尿病に対抗して保護作用をもたらすかどうかを分析した。初回のAd−CMV−PDX−1投与後8ヶ月に、マウスに220mg/kgのSTZを投与し、高血糖症の発生率を齢マッチ対照群と比較した。対照Balb/cマウスの60%(10匹中6匹)がSTZ注射後3〜5日以内に高血糖症を発症した。これとは対照的に、5匹のPDX−1投与マウスでは、それらがAd−CMV−PDX−1投与後8ヶ月に分析したという事実にもかかわらず、うち僅か1匹のみがSTZ投与に応答して高血糖症を発症していた(20%)。
【0186】
免疫組織化学的試験およびRIAによるインスリン含量の定量によれば、STZ投与に応答して膵β細胞は殆どが破壊され、そして対照糖尿病マウスと、重要なことであるが、PDX−1投与マウス(正常血糖のまま推移)の両方において、膵インスリン含量が95±1%低下したことが判った。これとは対照的に、PDX−1投与マウスにおける肝免疫反応性インスリン(IRI)含量はPDX−1を投与しなかった対照糖尿病マウスと比較して40倍高値であった(図13)。健常マウスにおいては、肝インスリンは膵内の生産量の僅か1%であったが、STZ投与に応答して肝インスリン生産は同じマウスのSTZ投与膵において生産された免疫反応性インスリンの量の25.6%となっている。
【0187】
これらの結果から、PDX−1誘導の発生シフトは長時間持続し、かつ機能的であり、肝により寄与された比較的中等度のIRI濃度は肝内で生産されたインスリンは、肝グルコース生産とグルコース廃棄の間のバランスの効率的調節によってもSTZ誘導高血糖症に対抗する保護作用を示すことが示唆される。重要な点は、これはまた肝内で発生シフトした細胞がβ細胞特異的毒素に抵抗性であることも示唆していることである。
【0188】
重要なことであるが、初回ウィルス感染の6〜8ヵ月後であっても肝内で局所的インスリン生産が継続しているにもかかわらず、肝機能は損なわれていなかった(表4a)。アデノウィルス投与に応答して肝機能の一過性の変化が起こったが、肝機能は1〜2ヶ月以内に正常値を回復した。更にまた、血清中アミラーゼ濃度は内因性PDX−1および膵ホルモン発現にも関わらず全時点において増大しなかった(表4b)。PDX−1投与マウスの体重増加率は齢マッチ対照マウスと同様であった。
【0189】
【表4−1】
PDX投与後のマウスの血液生化学的測定(平均±SEM)。ALB:アルブミン;ST:アスパルテートアミノトランスフェラーゼ;ALT:アラニンアミノトランスフェラーゼ;T.bil:総ビリルビン。データは平均±SEM;*プールした試料、分析したマウスの数はカッコ内に示す。
【0190】
【表4−2】
(実施例22:ヒトケラチノサイトの一次培養物中における転移分化のPDX−1および成長因子による誘導)
(細胞培養)
ケラチノサイトの培養は剥離厚みの皮膚の小型生検標本(2〜4cm2)から開始した。トリプシン−EDTA中一夜(ON)インキュベートした後、表皮を分離し、上皮をトリプシン−EDTA中で破砕して単細胞の懸濁液を形成した。細胞懸濁液をケラチノサイト培地(Nature 265:421−4,1977)中で培養し、細胞懸濁液をファルコン培養プレートに結合させ、2〜5継代で使用した。細胞が70%コンフルエントに達した時点で48〜96時間、以下に記載する所定の投与法により投与した。
【0191】
(遺伝子発現)
遺伝子発現分析はTaqmanリアルタイムPCR(ABI)を用いて実施した。
【0192】
(細胞の投与)
K1:EGF+KGF+NIC+PDX−1(100moi)
K2:EGF+KGF+NIC+PDX−1(10moi)
K3:EGF+KGF
K4:EGF+KGF+RGCI
全投与においてEGF、KGFは20ng/ml;NIC:10ng/ml。
【0193】
(対照群)
対照群細胞は非関連性のAd−CMV−Hインスリン、即ちCMVプロモーターの制御下にヒトインスリン遺伝子の発現を行っている組み換えアデノウィルスを投与した。RGCIは2官能性の組み換えアデノウィルスコンストラクトAd−CMV−PDX−1−RIP−GFPであり、これはインスリン遺伝子発現に向けてPDX−1媒介転移分化を起こしている細胞を識別した。このウィルスにおけるPDX−1の発現はCMVプロモーターにより駆動されたのに対し、GFP発現はインスリンに関する組織特異的プロモーター(RIP)により駆動された。
【0194】
(結果)
投与K1〜K4において、内因性の他の面ではサイレントな膵遺伝子がケラチノサイトにおいて発現された。興味深いことに、グルカゴンの遺伝子発現は低濃度のPDX−1(K4)により、そして、重要なことであるがEGF+KGF投与単独により、異所性PDX−1を必要とすることなく誘導された(図15)。
【0195】
(実施例23:ヒト肝細胞におけるインスリンプロモーターのPDX−1による活性化)
ヒト肝細胞を成人および胎児の組織から単離した。細胞は異種の表現型を示し、20継代までは培養物中効率的に増殖した。何れの事前の選別も行うことなく成人の完全に分化した肝臓から単離したヒト細胞が異所性PDX−1発現に応答して膵表現型に向けた発生再指向の過程を起こすかどうか分析した。膵特徴の第1の指標はその他の面では肝中で不活性であるインスリンプロモーターの活性化である。細胞に異種のCMVプロモーターの制御下にPDX−1を発現する2官能性組み換えアデノウィルスAd−RIP−GFP−CMV−PDX−1を投与し、インスリンプロモーターにGFP発現(図17a)を制御させ、これによりPDX−1「応答」細胞を緑色蛍光により識別した(図17b)。成人ヒト肝細胞が組み換えアデノウィルスに感染する総能力はAd−CMV−GFP感染により調べ、成人肝細胞の40±7%が継代1〜6においてAd−CMV−GFP感染に応答して緑色蛍光を示した。意外にも、これらの細胞の約半数(23±3.5%)がFACS分析(データ示さず)でも判明したとおり、膵プロモーターの活性化による異所性PDX−1発現に応答している(図17b)。部分的な応答が成人肝細胞の分化状態により影響され、制限されるかどうかを調べるために、分化程度が低くおそらくは成人ヒト肝細胞よりも多能細胞を多く含んでいる胎児ヒト肝細胞の発生再指向を誘導するPDX−1の能力を分析した。実際、培養物中の胎児ヒト肝細胞(妊娠22週で単離)の27±7.8%が膵プロモーターの活性化による異所性PDX−1発現に応答し、Ad−CMV−GFP形質導入へのその応答は成人肝から単離された細胞と同様であった(図17c)。応答細胞のこの中等度の増大は細胞の分化状態がPDX−1により誘導される発生シフト過程において限定された役割しか果たしていないことを示唆していると考えられる。
【0196】
3つの重要な観察結果がヒト肝細胞の一次培養から得られる。第1に、成人および胎児の両方の細胞はインビトロで培養した場合、6ヶ月まで効率的に増殖し、そして、PDX−1投与に応答してインスリンプロモーターを活性化することができる。しかしながら、その感染および「転移分化」の能力は継代数が増加するに従って低下する(図17cおよびd)。第2に、胎児ヒト肝組織は成人肝より単離された細胞よりも多数の多能細胞よりなるが、それらは膵への転移分化過程を起こす同様の能力を有する(図17c)。第3に、異所性にPDX−1を発現するヒト肝細胞においてインスリンプロモーターを活性化する能力は、組み換えアデノウィルスにより感染可能な細胞の半数は培養の低継代ではPDX−1依存性の態様で異所性インスリンプロモーターをやはり活性化させるため、細胞の希少な集団においては生じない(図17d)。
【0197】
(実施例24:可溶性因子によるPDX−1誘導の肝から膵への転移分化の促進)
転移分化過程の範囲をより良好に識別することはPDX−1投与肝細胞における内因性の他面ではサイレントな膵遺伝子の発現の誘導を分析することである。
【0198】
3種の主要な膵ホルモン遺伝子発現の発現は、対照の未投与の肝細胞と比較して2桁高値のPDX−1により誘導した(図18)。
【0199】
ニコチンアミドおよび表皮成長因子(EGF)は胚性膵臓器培養を含めて未分化の膵細胞の膵内分泌分化を促進することがわかっている。興味深いことに、PDX−1投与にニコチンアミドおよびEGF(総称してGFと称する)を添加した場合、膵ホルモン遺伝子発現は劇的に増大した。成人肝細胞の一次培養におけるインスリン遺伝子発現は対照未投与肝細胞と比較して7桁高値となった。ニコチンアミドおよびEGFは単独でも組み合わせた場合も肝細胞における膵遺伝子発現に対してPDX−1依存作用を示した。これらのデータはPDX−1は肝から膵への転移分化の過程に必要であるが、GFは非依存的に誘導するのには十分ではない過程に対して相乗作用を有することを示唆している。重要な点は、胎児および成人のヒト肝細胞は、両方の培養におけるインスリン遺伝子の発現のリアルタイムPCR定量により示されたとおり、異所性PDX−1発現およびGF投与に応答して膵遺伝子発現の同様の水準を示していることである(図18b)。
【0200】
PDX−1投与の前数週間に亘りGFの存在下に肝細胞を培養したところ、PDX−1およびGFを同時に投与した細胞と比較してインスリン遺伝子発現の増大はもたらされなかった。これとは対照的に、予備投与培養からGFを除去した場合、インスリン遺伝子発現がPDX−1単独の場合と同様の濃度でもたらされた。総括すると、PDX−1誘導転移分化に対してGFが有している促進作用は、この過程の影響を受けやすい希少なサブ集団の増殖を誘発することではなく、むしろ、それらはいまだ未知の態様で寄与することによりPDX−1誘導過程をもたらす細胞内シグナル伝達を増強していることが示唆されている。Ad−CMV−hIns,即ちCMVプロモーター制御下にヒトプロインスリンcDNAの構成的異所性発現を起こす組み換えアデノウィルスの同様の感染多重度はPDX−1およびGF投与細胞の場合に匹敵する濃度のインスリン遺伝子発現をもたらした(PDX−1投与の場合のようにグルカゴンとソマトスタチンの遺伝子発現の誘導を伴わない)。Ad−CMV−hInsを投与した場合にインスリンを発現する細胞の数がPDX−1誘導内因性インスリン遺伝子を発現する細胞の数の二倍であること(細胞の僅か23%のみが転移分化過程を起こし、細胞の40%が異所性ヒトインスリン遺伝子を発現するため、図17cおよび18c参照)を考慮すると、PDX−1投与肝細胞における(内因性)インスリンプロモーターは非相同のCMVプロモーターと同様の活性および力価を有することが示唆される。
【0201】
(実施例25:PDX−1による成人ヒト肝細胞への内分泌特性の付与)
既に転移分化した成人ヒト肝細胞が内分泌細胞の特徴を獲得するかどうか分析するために、これらの細胞のPDX−1誘導インスリンを貯蔵してプロセシングする能力を分析した。図19はインスリンおよびC−ペプチドの分泌およびPDX−1投与細胞におけるインスリン含量を示す。PDX−1投与単独では免疫反応性インスリン(IRI)含量は34.5±4.5倍増大、IRI分泌は38.7±8.7倍増大、そして、C−ペプチド分泌は7.5±2.1倍増大となった。GFを培地に添加したところ過程に対するPDX−1の作用が大きく増強され、未投与肝細胞と比較して、IRI含量は91.3±20.3倍増大し、その分泌は74.5±33.3倍増大し、そしてC−ペプチドの分泌は33.9±14.6倍増大した。過程に対するPDX−1の作用をヒトプロインスリンの異所性発現の作用と比較した(Ad−CMV−hIns組み換えアデノウィルスを使用)。Ad−CMV−hInsを投与した細胞においては生産されたIRIの大部分が放出されたが、PDX−1投与細胞中のIRIの大半は細胞内に貯留された。Ad−CMV−hIns投与によるC−ペプチドの中等度の分泌は肝細胞中のフリンのような既存のエンドペプチダーゼに起因するものと考えられる。重要なことであるが、プロホルモン変換酵素2の誘導はPDX−1投与の場合のみ顕著であり、Ad−CMV−hIns投与肝細胞では観察されなかった(図21a)。
【0202】
インスリンに対する抗体を用いたイムノゴールド組織化学の電子顕微鏡分析によれば、インスリンは分泌顆粒に保存された(図20a)。これらの顆粒はインビボの未損傷の膵島の場合に用に特徴的な緻密コア部を含まないが、より低濃度のインスリン保存を有するβ細胞系統に存在するものと類似していた。内分泌表現型は神経内分泌ベシクル特異的遺伝子発現の特異的誘導に関連していた。SCG−2(セクレトグラニン−2)およびSGNE1(分泌顆粒ニューロエンドクリン−1、図21b)の特異的発現はPDX−1投与細胞のみで観察され、Ad−CMV−hIns投与では観察されなかった。
【0203】
これらのデータを総括すれば、PDX−1および適当な因子を投与された成人ヒト肝細胞は、膵内分泌細胞に特徴的な多くの特性を模倣した膵ホルモン生産細胞への広範で効率的な転移分化を起こすことが示唆される。
【0204】
(実施例26:転移分化した成人ヒト肝細胞のグルコース感知能力)
グルコース感知能力およびグルコース感知とインスリン分泌との間の関連は膵β細胞機能を保証するものである。
【0205】
PDX−1誘導転移分化した肝細胞はGLUT−2およびグルコキナーゼ(GK、図21a)遺伝子を発現し、グルコース調節の態様でインスリンを分泌することが示された。25mMグルコースへのPDX−1投与成人ヒト肝細胞の曝露はインスリン分泌の即座で強度の増大をもたらす(図21b)。グルコース刺激インスリン(図21b)およびC−ペプチド(図21c)の分泌の経時的分析によれば、膵β細胞の場合と同様の2相性の動的な特徴が明らかになり、これには即座でシャープな第1のピークとそれに続く延長した第2のピークの分泌が伴っていた。グルコース惹起が排除されると、インスリン分泌は即座に低下した(図21d)。初回グルコース惹起後60〜90分の細胞外インスリン濃度の低下(図21b)はC−ペプチドの場合(図21c)よりも強度であり、異種培養物中の肝細胞による分泌インスリンの広範な取り込みを表していると考えられる。グルコース用量応答によれば、正常な膵島における8〜16mMでの最大インスリン分泌と比較して最大C−ペプチド分泌が25mMグルコースで生じ(図21d)たことから、正常膵β細胞と比較して右側へのシフトが明らかになった。重要な点は、グルコース感知能力とインスリン分泌の間の関連が正常膵β細胞と同様の様式で転移分化肝細胞中で起こったことであり、グルコースはインスリン分泌に対するその作用を発揮するためには代謝されなければならない。非代謝性のグルコース類縁体である2−デオキシ−グルコース(2DOG)は転移分化肝細胞においてC−ペプチドの分泌を惹起しなかった(図21d)。予測された通り、構成性プロモーター(Ad−CMV−hIns)により駆動されるヒトインスリンの異所性発現はプロホルモンのグルコース調節分泌をもたらさなかった。これらのデータはグルコース感知能力およびインスリン分泌との関連性が転移分化過程の結果であることを示している。
【0206】
(実施例27:糖尿病マウスにおける高血糖症の転移分化成人ヒト肝細胞による軽減)
β細胞機能を代替する転移分化成人ヒト肝細胞の能力を調べるために、STZ投与により糖尿病とされた免疫不全SCID−NODマウスに細胞を移植した。図22は対照投与マウスは高血糖症のままであったのに対し、PDX−1投与成人ヒト肝細胞を移植されたマウスは血糖値の徐々であるが有意な低下を示したことを示している。免疫組織化学的分析によれば、これらのマウスの膵臓はインスリン枯渇であったが、腎被膜下に移植したヒト肝細胞はPDX−1およびインスリンについて陽性に染色された(図18b)。ヒトC−ペプチドはPDX−1投与ヒト肝細胞を移植されたSTZ投与マウスの血清中で検出された。ヒトC−ペプチド濃度は正常SCID−NODおよびSTZ投与対照マウスにおける0.04±0.02ng/ml(p<0.01)と比較して有意な6〜7倍上昇を示し、平均は0.26±0.03ng/mlであった(図22c)。ヒト細胞移植マウスにおける血清中マウスインスリン濃度は未変化のままであり、対照の正常血糖SCID−NOCマウス(0.45±0.03ng/ml)よりも有意に低値(0.16±0.03ng/ml)であった。これらを総括すると、これらの所見は移植マウスにおける高血糖症は転移分化ヒト肝細胞から分泌されたヒトインスリンにより正常化されたことを示している。これらの結果はPDX−1投与転移分化成人ヒト肝細胞がインビボのβ細胞を代替物として機能する能力を明らかにしている。
【0207】
(実施例28:PDX−1誘導の肝から膵への転移分化によるCAD−NODマウスにおける高血糖症の退行)
明らかな自己免疫糖尿病に対するPDX−1誘導の肝から膵への転移分化の作用を調べるために、糖尿病NODマウスにAd−CMV−PDX−1またはAd−Rip−βGalを前述のとおり投与した。1群のマウスは対照として未投与のままとした。グルコース代謝の調節を調べるために血中グルコース濃度および体重をモニタリングした。未投与マウスおよびAd−Rip−βGal投与マウスは高血糖症のまま存続し、体重を減少させ、投与後最初の2週間以内に死亡した(図24)。これとは対照的に、Ad−CMV−PDX−1を投与したマウスの65%(34匹中20匹)が投与後最初の5日間以内に正常血糖となった。しかしながら、この正常血糖は一部のマウスでは一過性であった。PDX1を投与したマウスの38%(13/34)は投与の1ヶ月後に正常血糖のままであり、Ad−CMV−PDX−1を投与した他の20%(7/34)は投与の10〜14日後に高血糖症(図24a)となったが、実験の全期間を通じて安定した体重を維持した(図24b)。
【0208】
これらのデータはPDX−1により誘導された肝から膵への転移分化の過程は自己免疫糖尿病(例えば1型)を退行させることを示唆している。
【0209】
(実施例29:Ad−CMV−PDX−1投与糖尿病マウスにおけるインスリンの合成および調節)
膵および肝のインスリン発現の免疫組織化学的分析によれば、Ad−CMV−PDX−1投与マウスの肝におけるインスリン生産細胞の存在が明らかになったが、その膵には存在しなかった(図25)。肝インスリン生産細胞は前述の通り中心静脈に近接して位置していた。更にまた、肝インスリン含量および血清中インスリン濃度は対照群と比較してAd−CMV−PDX−1投与マウスでは有意に高値であった(図26)。即ちAd−CMV−PDX−1は肝におけるインスリンの発現およびその血中への分泌を誘導した。
【0210】
血中グルコースによる肝インスリン放出の調節を分析するために、Ad−CMV−PDX−1投与後正常血糖となってから2〜3週間後の糖尿病マウス5匹におけるグルコース耐容性試験を実施した。対照として、Ad−CMV−βGal投与糖尿病マウスおよび健常BALB/cマウスを使用した。健常BALB/cおよびAd−CMV−PDX−1投与マウスとの間にはグルコースクリアランス速度に差は観察されず、肝転移分化細胞によるインスリン分泌は実際にグルコースにより調節されることを示している(図27)。これとは対照的に、糖尿病Ad−CMV−βGal投与マウスはグルコースクリアランスを示さず、試験中を通じて高血糖症のまま存続した。これらのデータを総括すると、PDX−1誘導の機能的な肝から膵への転移分化は自己免疫のマウスモデルにおいても起こっている。PDX−1誘導正常血糖は肝におけるインスリン生産の誘導およびグルコース調節態様におけるその放出と関連していた。
【0211】
(実施例30:骨髄細胞の発生シフトのPDX−1による誘導)
骨髄細胞から機能的膵細胞への発生シフトを誘導する異所性PDX−1の能力を以下の通り測定する。純度90%超の新鮮凍結ヒトBMから単離したAC133+細胞を(a)24穴の組織培養プラスチックプレートまたは(b)テフロン(登録商標)バッグのいずれかにおいて、IL−6、TPO、Flt−3リガンドおよびSCFの継続的存在下、TEPAの存在下または非存在下に3週間増殖させた。前駆細胞の組成および能力は投与終了時および長期インキュベーション培養後に検査する。
【0212】
感染および実験の条件を最適化するために、2官能性のアデノウィルス(AdRIP−GFP−CMV−PDX−1)を用いて培養物を感染させる。2〜103MOI(培養物中の細胞数でウィルス粒子数を割ったもの、MOI、感染多重度)での感染後の時間の関数としてのGFP−レポーター遺伝子の発現は以下の通りである。
【0213】
応答細胞(インスリンプロモーターを活性化し、これによりGFPを発現する)を分類し、非応答細胞から分離して培養し、その後の分析に付する。対照BM細胞(TEPA投与または未投与)の分離された培養物は転移分化を伴わないインスリン生産に関する対照としてAdCMV−インスリンを投与する。
【0214】
遺伝子発現の後にRT−PCRを行う。遺伝子発現の濃度および発生シフト後の誘導後の時間を定量的試験においてリアルタイムPCR(ABI、USA)を用いてリアルタイムPCRにより分析する。膵ホルモン、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチンおよびプロホルモン変換酵素および特定の膵転写因子、即ちBETA2、Isl−1、Nkx6.1、Pax4およびPax6および内因性PDX−1の発現を分析する。
【0215】
ホルモン生産は特異的抗体、即ちモルモット抗ブタインスリン;ウサギ抗ヒトグルカゴン;ウサギ抗ヒトソマトスタチン(全てDAKO A/S、Glostrup,Denmark)を用いて免疫組織化学的に検出する。インスリンおよびグルカゴンの生産および分泌は市販のRIA特異的キットであるSensitiveヒトインスリンおよびC−ペプチドRIAキットおよびグルカゴンRIAキット(Linco resrarch ICN,Missouri、USA)により分析する。グルコースの用量応答およびプロ/インスリン合成の過程および成熟した生物学的に活性なインスリンへの変換は記載したとおり(2)逆相HPLCにより、そして、特異的ヒトc−ペプチドRIAキット(Linco)を用いた培地へのC−ペプチドの分泌を分析することにより分解する。異なるグルコース濃度における細胞内インスリン含量を分析する。
【0216】
PDX−1誘導BM細胞中のグルコースへのインスリン分泌応答の動的特徴をインビトロで分析し、異所性インスリン発現(AdCMV−hIns)の場合と比較する。細胞を6穴皿上種々の濃度のグルコース中でインキュベートし、培地へのIRI分泌の用量応答および経時変化をラジオイムノアッセイ(RIA)で測定する。フォルスコリン/IBMXによる増大したインスリン分泌はモジュレートされた肝細胞における蛋白の分泌に関わる調節の誘導を示している。2−DOCやL−グルコースに対してではなくグルコースへの感受性は、「モジュレート」された肝細胞における栄養代謝へのインスリン分泌経路の特異的な関連を示す。
【0217】
増殖および転移分化した骨髄細胞が糖尿病SCIDマウスにおいて血中グルコース濃度を制御し、糖尿病を退行させる能力を分析することにより、それらが膵β細胞機能を模倣する能力を十分に調べることができる。
【0218】
(実施例31:PDX−1投与ヒト肝細胞のDNAマイクロアレイチップ分析)
図に示すとおり、PDX−1投与ヒト肝細胞のDNAマイクロアレイ分析によれば、対照細胞と比較して500超の遺伝子がアップレギュレートまたはダウンレギュレートされたことが判った。PDX−1投与に応答してモジュレートされた遺伝子は膵転写因子(表5参照)およびカタラーゼおよび肝ジスムターゼポリペプチド(表6参照)を包含する。
【0219】
【表5】
PDX−1投与によりアップレギュレートされた膵遺伝子は表7に示す。
【0220】
【表7−1】
【0221】
【表7−2】
肝培養物におけるPDX−1投与は種々の膵遺伝子の発現をダウンレギュレートした。PDX−1投与によりダウンレギュレートされたこれらの膵遺伝子を表8に示す。
【0222】
【表8】
以下の略記法を表8の第2コラムにおいて使用する。ADH1B=アルコールデヒドロゲナーゼ1B(クラス1);GPR65=G蛋白−結合受容体65;DDO=D−アスパルテートオキシダーゼ;RDH5=レチノールデヒドロゲナーゼ5(11−シスおよび9−シス);RARRES3=レチン酸受容体レスポンダー(タザロテン誘導)3;VCAM=血管細胞接着分子1;HML2=マクロファージレクチン2(カルシウム依存性);PPP1R3C=蛋白ホスファターゼ1、調節(抑制)サブユニット3C;SULT1A1=スルホトランスフェラーゼファミリー、シトゾル性、1A,フェノール嗜好性、メンバー1;MAF=v−maf筋腱膜線維肉腫癌遺伝子相同体(トリ);BLVRB=ビリベルジン還元酵素B(フラビン還元酵素(NADPH));APOL1=アポリポ蛋白L,1;P8=p8蛋白(転移1の候補);PYGL=ホスホリラーゼ、グリコーゲン;肝;FCGRT=IgGのFcフラグメント、受容体、トランスポーター、アルファ;SULT1A3=スルホトランスフェラーゼファミリー、シトゾル性、1A、フェノール嗜好性、メンバー3;AKRIC3=アルド−ケト還元酵素ファミリー1、メンバーC3(3−アルファヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、II型);「sulfotransf−」=スルホトランスフェラーゼファミリー、シトゾル性、1A、フェノール嗜好性、メンバー2;スルホトランスフェラーゼファミリー1A,フェノール嗜好性、メンバー2[ホモサピエンス];RRAS2=関連RASウィルス(r−ras)癌遺伝子相同体2;SERPINF1=セリン(またはシステイン)プロテイナーゼ阻害剤、クレードF(アルファ−2抗プラスミン、色素上皮誘導因子);RXRA=レチノイドX受容体、α;C1R=補体成分1、rサブ成分;CARHSP1=カルシウム調節熱安定性蛋白1、24kDa;FST=フォリスタチン。
【0223】
(等価物)
本発明の特定の実施形態の上記した詳細な説明から、膵ホルモン生産を誘導する独特の方法が記載されていることは明らかである。本明細書においては特定の実施形態を詳述したが、これは説明を目的とするのみの例示であり、添付する請求項の範囲に関して制限することを意図するものではない。特に本発明者等は種々の置き換え、改変および修飾は請求項記載の本発明の精神および範囲から外れることなく本発明に対して行えることを意図している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【図1】
【図4】
【図8A】
【図15】
【図20B】
【図22C】
【図23】
【図24A】
【図26B】
【図27】
【図31D】
【図32B】
【図32D】
【図32E】
【図32F】
【図34】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図17D】
【図18A】
【図18B】
【図19】
【図20A】
【図21A】
【図21B】
【図21C】
【図21D】
【図22A】
【図22B】
【図24B】
【図24C】
【図25】
【図26A】
【図28】
【図29】
【図30A】
【図30B】
【図30C】
【図31A】
【図31B】
【図31C】
【図31E】
【図32A】
【図32C】
【図32G】
【図33】
【図35】
【図4】
【図8A】
【図15】
【図20B】
【図22C】
【図23】
【図24A】
【図26B】
【図27】
【図31D】
【図32B】
【図32D】
【図32E】
【図32F】
【図34】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図17D】
【図18A】
【図18B】
【図19】
【図20A】
【図21A】
【図21B】
【図21C】
【図21D】
【図22A】
【図22B】
【図24B】
【図24C】
【図25】
【図26A】
【図28】
【図29】
【図30A】
【図30B】
【図30C】
【図31A】
【図31B】
【図31C】
【図31E】
【図32A】
【図32C】
【図32G】
【図33】
【図35】
【公開番号】特開2011−68660(P2011−68660A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261850(P2010−261850)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【分割の表示】特願2006−506631(P2006−506631)の分割
【原出願日】平成16年5月12日(2004.5.12)
【出願人】(501464543)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【分割の表示】特願2006−506631(P2006−506631)の分割
【原出願日】平成16年5月12日(2004.5.12)
【出願人】(501464543)
【Fターム(参考)】
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