説明

非電源無人消火装置

【課題】家庭内に廉価に設置できるとともに、火災が発生する際、温度の上昇で確実に消火剤を噴射することができる消火装置を提供すること。
【解決手段】消火装置10は、消火剤13を収納するタンク部11と、膨張した風船22を収納する風船収納部20と、消火剤13を噴射する噴射ノズル30と、を備えている。風船収納部20には、円環状に形成された本体部221と本体部221の外側で本体部221から突出する複数の触覚部222と、を有する風船22と、風船22の膨張によって作動する作動弁26と、作動弁26によって分断又は開放される消火剤通路24を有する連結通路23を配置している。火災の発生で室内の温度が上昇すると、触覚部222が溶融し風船22が破裂する。そして、作動弁26を移動させて消火剤通路24を開放する。噴射ノズル30から消火剤13を噴射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は火災の発生時に、人がいなくても自動的に消火できる非電源無人消火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、改正消防法において各家庭における火災警報器の取り付けが義務付けられてきた。火災警報器は、煙を感知するタイプと、火災による熱を感知する二つのタイプに分けられる。火災が発生すると、火災警報器で警報された住人は身近にある消火器による初期消火やその他の消火方法で初期消火を行うことになる。この消火器は、消火剤と圧縮ガスをボンベに封入したものや、消火剤を詰めた容器を火元に向かって投入するタイプに分けられる。いずれも火災発生時における初期消火を目的としたものであるが、火災警報器の警報時に無人状態であったり、要介護者や幼児だけが在宅していたりする場合には、折角の初期消火装置であっても使用することはできない。現実に年間数万件にも及ぶ火災の中には、初期消火ができない状況が報告されている。
【0003】
一方、超高層集合住宅や高層集合住宅等は多様化し、一定面積における密集度が飛躍的に増してきた。このような建物は類焼こそは少ないが、気密性が高いことから、一旦、火災が発生すると室内に溢れる化学製品に燃え移り、有毒ガスによる被害が発生してしまう。
【0004】
また、神社仏閣や大型販売店等は、大きな予算で大規模なスプリンクラーを設置することができるものの、小規模の寺院や商店、又は、家庭においては高価な消火装置を設置することはできなかった。そのため、家庭内で簡単に設置できる簡易的な消火装置が求められていた。従来において、簡易な消火装置に関しては、特許文献1、2によって開示されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−201961公報
【特許文献2】特開2011−45483公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、消火剤を充填した合成樹脂製の消火剤容器と、消火剤容器を支持する支持プレートと、を備える感応式アクチュエータからなる自動消火装置であって、感応式アクチュエータは、待機位置から動作位置に変位可能にばね付勢されたノック部材と、ノック部材を待機位置に係止し且つこれを開放するべく変位可能な係止部材と、周囲温度の変化で長さを収縮させる形状記憶合金ワイヤとを備えている。火災の発生により火災の熱で記憶合金ワイヤが収縮して係止部材が変位すると、ノック部材がばね付勢力で動作位置に瞬間的に移動して消火剤容器に衝突し、これを破壊して消火剤を散布させ消火を行なうように構成されていた。しかし、この消火装置は、軸方向に直線状に延びた1個の消火剤容器が、ノック部材で衝突されることによって破壊されて消火剤を散布することになるから、消火剤の散布状態によっては、確実に火元を消火することにはならない。また、ノック部材が衝突したとしても、消火剤容器が確実に破壊されるかどうか不安定である。
【0007】
また、特許文献2の消火用具は、火災時に不活性ガスを封入する風船と、風船を取り付ける消火補助板と消火補助板に設けた把持部とにより構成されている。しかし、この消火用具は、火災が発生したときにガスボンベから風船に不活性ガスを封入することから、非常時に、落ち着いて作業することができず、ガスボンベから風船に不活性ガスを封入する作業に手間取ってしまう虞がある。風船の膨張が遅れることによって初期消火ができない虞がある。また、この消火用具では、ガスボンベから風船に不活性ガスを封入する作業、及び消火する際に、火元に消火用具を持ち運ぶ作業等があり無人ではできない。そのため、住人が留守の場合に火災が発生すると、消火そのものができなくなってしまうことになっていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、一般家庭において廉価で容易に設置することができ、さらに確実に初期消火のできる非電源無人消火装置を提供することを目的とする。そのため、以下のように構成するものである。
【0009】
本発明に係る請求項1記載の発明は、家屋に設置されて家屋の火災に対して初期消火可能に構成された非電源無人消火装置であって、圧縮されたエアと消火剤が収納されるタンクと、前記消火剤を噴射可能な噴射ノズルと、前記タンクの排出口と前記噴射ノズルとを連結する連結通路と、前記連結通路を開閉可能に作動する作動弁と、前記連結通路の開閉を行なうために前記作動弁を作動するバルブ駆動手段と、を備えて構成され、前記バルブ駆動手段は、前記作動弁の一端を押圧可能な風船と、前記作動弁を前記風船側に付勢する付勢手段を備えて構成され、前記風船は円環状に形成され、前記風船の外周面には、前記外周面から突出して配設されるとともに所定温度に達すると溶融可能に形成された複数の触覚部を備え、前記風船の内周面の一部には、前記作動弁の一端を押圧する押圧部が形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1の発明に係るものであって、前記風船の内周部側には、前記作動弁と干渉しない位置に、伸張状態を記憶した形状記憶合金で形成された針体が屈曲して配設され、前記針体が加熱することによって伸張され、前記伸張状態で前記風船を突き刺すように配設されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1の発明によれば、一般家庭において、非電源無人消火装置は、例えば、火災が発生しやすい部屋の天井に設置されている。本発明の非電源無人消火装置において、風船には空気が注入されて膨張した状態で設置されている。つまり、風船内に空気を注入することによって風船が膨らみ、風船の内周面の一部に形成された押圧部で作動弁を押圧している。一方、圧縮されたエアとともに消火剤が収納されているタンクに、消火剤を噴射する噴射ノズルに連結する連結通路が配設されている。風船の押圧部で押圧された作動弁は連結通路を塞ぎ、タンク内の消火剤の噴射を規制している。
【0012】
火災が発生すると、風船の外周面から突出して配設された複数の触覚部の一つまたは多数が、所定温度に加熱されることによって溶融する。触覚部は風船の一部であることから、触覚部が溶融することによって風船が破裂する。風船が破裂すると、作動弁は付勢手段により連結通路を開放する方向に移動する。作動弁が移動して連結通路を開放すると、タンク内の消火剤が圧縮された空気によって噴射ノズルから外部に噴射することになる。本発明の非電源無人消火装置は、例えば天井に吊下されていれば、噴射された消火剤は噴射ノズルを通って下方に向かうことになり、初期消火できることとなる。しかも廉価に設置できるので、家庭内において火を扱う部屋に複数個所置けば、火の元に向かって消火剤を噴射でき、初期消火がさらに可能となる。
【0013】
請求項2の発明によれば、屈曲して配設された形状記憶合金材の針体は、加熱されることによって徐々に伸張方向に変形する。伸張方向には風船があり、針体が風船の内周面に衝突することから、火災の発生時に、万が一、風船の触覚部が溶融変化しないで風船が破裂しない場合であっても、針体が風船を突き刺すことによって風船を破裂させることができ、消火剤を噴射させることができる。従って、本発明の非電源無人消火装置では、火災の発生時に、確実に初期消火を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の消火装置の実施形態を示す正面図である。
【図2】風船を示す平面図である。
【図3】本発明の消火装置の実施形態を示す分解正面一部断面図である。
【図4】風船で作動弁を押圧している状態(a)と風船が破裂した状態(b)を示す作用図である。
【図5】風船内に配置された針体を示す平面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の非電源無人消火装置(以下、消火装置とも言う)の実施形態を図面に基づいて説明する。図1〜5は、天井に吊下した第1の実施形態の消火装置を示すものである。
【0016】
図1〜3に示すように、消火装置10は、消火剤13が収納されたタンク部11と、タンク部11の下方に配置される風船収納部20と、風船収納部20から下方に向かって噴射可能に配置された噴射ノズル30と、を備えて構成されている。
【0017】
タンク部11には、圧縮された空気と消火剤13が収納されている。実施形態における消火剤13は、通常、消火弾や投擲式消火器内に使用されているリン酸アンモニウム、塩化ナトリウム、尿素、重炭酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、界面活性剤等からなる混合液体で形成され、タンク部11内には消火剤13とは別に2.5〜3.0気圧程度の圧縮された空気が封入されている。したがって、消火剤13にはタンク部11内において空気の圧力がかけられていることになる。なお、タンク部11には外周部の一部に空気を加圧するための加圧弁15が装着され、下面には、消火剤を排出する排出口16が形成されている。排出口16には、後述の連結通路23にねじ締結するための雌ねじが形成されたキャップ17が装着されている。
【0018】
風船収納部20は、タンク部11の下面側に装着されて風船22を収納するケース21と、タンク部11の排出口16に連結する連結通路23と連結通路23内を水平方向に移動する作動弁26とを備えている。ケース21は内部を中空にした円盤状に形成され、図3に示すように、外周面に複数個の孔(実施形態では8個)211が形成されている。この孔211には、風船22に形成された触角部222がケース21内から突出するように挿入されている。
【0019】
風船22は、浮き輪のように円環状に形成され、空気が注入されて膨張した状態を維持している。風船22は円環状の本体部221と本体部221の外周面から本体部221と一体的に突出して形成された触角部222が複数箇所(実施形態では8箇所)に形成されている。また、本体部221の内周面の一部には、作動弁26と対向する位置に平面視平面状の押圧部223(図2参照)が形成されている。風船22は、加熱すると溶融する樹脂材、例えば、ポリプロピレンや塩化ビニル等で形成されている。
【0020】
図3に示すように、連結通路23は、タンク部11内の消火剤13を噴射ノズル30に流通させるためにタンク部11と噴射ノズル30とを連結するものであり、実施形態では上下方向と左右方向に通路を形成した十字状に形成されている。図3における上下方向に形成された通路は、消火剤13が通る消火剤通路24として形成され、左右方向に形成された通路は、作動弁26が摺動する作動弁移動通路25として形成されている。
【0021】
連結通路23の消火剤通路24の上方側における外周面及び下方側における外周面には、それぞれ雄ねじ231、232が形成され、元部側の消火剤通路24の外周面に形成された雄ねじ231は、タンク部11の排出口16に形成されたキャップ17の雌ねじにパッキン18を介して締結されている。作動弁移動通路25における風船22の押圧部223側に対向する一端には作動弁移動通路25の外周面より大径のフランジ部233が形成されている。
【0022】
作動弁26は円柱棒状に形成され、連結通路23の消火剤通路24を上下に分断して消火剤通路24を閉鎖する位置と、消火剤通路24を開通させる位置との間を摺動可能に形成されている。作動弁26における風船22の押圧部223側の一端には、膨張した風船22の押圧部223によって押圧されるフランジ状の被押圧面261が形成されている。そして、連結通路23の作動弁移動通路25のフランジ部233と、作動弁26の被押圧面261との間に圧縮コイルばね28が装着されて、作動弁26を風船26の押圧部223側に付勢している。従って、作動弁26は、風船22の押圧部222と、圧縮コイルばね28の付勢力によって構成された作動弁駆動手段により作動弁移動通路25内を摺動することとなる。
【0023】
図1に示すように、噴射ノズル30は、下方が小径の円錐状に形成される透明なカバー35で覆われ、図3に示すように、連結通路23の消火剤通路24に連結する円筒状の連結部31と連結部31の先端に配置されて、先端が下方に広がるように突出した円弧状部を有する中空円錐状の噴射口部32とを備えて構成されている。噴射口部32には消火剤16を下方に向けて噴射する多数の小孔321が形成されている。連結部31における消火剤通路24側端部の外周面には、内部に雌ねじが形成されたキャップ33が装着され、消火剤通路24の外周面に形成された雄ねじ232にパッキン34を介して締結されている。
【0024】
図5に示すように、ケース21内における風船22内には、作動弁26と干渉しない位置に風船26を突き刺すための針体37がケース21に支持されて配置されている。針体37は、形状記憶合金で形成されたワイヤ部371と、ワイヤ部371の先端に配置された針部372とを有して構成されている。ワイヤ部371は、ケース21のいずれかに支持されて風船22の押圧部223に向かって延設され、ワイヤ部371の先端部で、押圧部223に向かう方向に対して屈曲して配置されている。そのため、針部372は、押圧部223に対して屈曲した方向に延設されている。ワイヤ部371は、加熱されることによって押圧部223に向かって伸張する方向に変形するように記憶されている。針部372が屈曲位置から伸張位置に達する際には、針部372の先端は、押圧部223に衝突して押圧部を突き刺す位置にあるように屈曲位置が設定されている。
【0025】
次に、実施形態の消火装置10の作用について説明する。
【0026】
消火装置10を火災報知器を設置した位置付近に複数個、例えば、火災の発生し易い台所の天井に吊下するように装着する。風船22は予め空気を注入して膨張させた状態にして風船収納部20内に収納されている。風船22は8個の触覚部222がケース21の孔から突出した状態で支持されている。
【0027】
風船22が膨張している状態では、図4(a)に示すように、本体部221の内周面に形成された押圧部223で作動弁26を押圧し、連結通路23の消火剤通路24を分断して塞いだ状態にある。また、圧縮コイルばね28は、押圧部223側に付勢力を有して圧縮された状態にある。
【0028】
この状態で火災が発生すると、室内が加熱され、温度が所定温度(例えば65℃程度)に達すると、図4(b)に示すように、風船22の一部又は複数の触覚部222が溶融する。これは、本体部221と触覚部222が同じ材料で一体的に形成されたものであっても、本体部221から突出して先に熱しやすいことから溶融することになる。一部又は複数の触覚部222が溶融して破裂することによって、触覚部222と一体的に形成された本体部221(風船22)が破裂する。風船22が破裂すると、作動弁26を押圧する力がなくなるので、作動弁26は、圧縮コイルばね28の付勢力によって、作動弁移動通路25内を図における右方に移動する。そして、作動弁26の先端が、消火剤通路24を越えて、塞いでいた消火剤通路24の上下通路を繋ぐ。これによって、タンク部11内に充填されていた消火剤13は圧縮された空気によって消火剤通路24を通り、噴射ノズル30の小孔321から下方に向かって噴射することになる。消火剤13が火元に到達すると、飛び散った液体が炎の熱で気化し、二酸化炭素を発生させて燃焼物を覆い燃焼物と酸素を遮断する。これにより火災発生時の初期消火を行うことができる。
【0029】
また、風船22の触覚部222が所定温度(65℃程度)で溶融できる材料で形成されていても、万が一、加熱された温度によって溶融変化しない場合に備えて、形状記憶合金で形成された針体37で風船22を突き刺すことができるように構成しているから、風船22を確実に破裂させて、消火剤13を噴射させることができる。従って、確実な初期消火を行なうことが可能となる。しかも、噴射ノズル30の先端部は下方に広がるように突出し、先端部に多数の小孔を形成しているから、消火剤を広い範囲で噴射させることができる。
【0030】
なお、本発明の消火装置は、上述の形態に限定するものではない。例えば、風船22に形成された触角部222は8箇所でなくても6箇所でも良く、また1箇所以上であればよい。触覚部222を円筒状の本体部221の外周面に等間隔に形成しておけば、火元がどこにあってもいずれかの触覚部222が溶融するように反応することができる。
【0031】
上述のように、実施形態の消火装置10では、火災の発生時に本体部221から突出して配置された複数の触覚部222が溶融することにより、風船22を破裂できるように構成しているから、作動弁26を作動させてタンク部11内の消火剤13を噴射することができる。このため、住人が留守で無人であっても火災に対して自動的に消火することができる。しかも、膨らませた風船22を破裂させるだけの構造であるから、家庭内のどこにでも簡単にまた廉価に設置することができる。
【符号の説明】
【0032】
10、消火装置
11、タンク部
13、消火剤
20、風船収納部
22、風船
23、連結通路
26、作動弁
28、圧縮コイルばね(付勢手段)
30、噴射ノズル
37、針体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
家屋に設置されて家屋の火災に対して初期消火可能に構成された非電源無人消火装置であって、
圧縮されたエアと消火剤が収納されるタンクと、前記消火剤を噴射可能な噴射ノズルと、前記タンクの排出口と前記噴射ノズルとを連結する連結通路と、前記連結通路を開閉可能に作動する作動弁と、前記連結通路の開閉を行なうために前記作動弁を作動するバルブ駆動手段と、を備えて構成され、
前記バルブ駆動手段は、前記作動弁の一端を押圧可能な風船と、前記作動弁を前記風船側に付勢する付勢手段を備えて構成され、
前記風船は円環状に形成され、前記風船の外周面には、前記外周面から突出して配設されるとともに所定温度に達すると溶融可能に形成された複数の触覚部を備え、前記風船の内周面の一部には、前記作動弁の一端を押圧する押圧部が形成されていることを特徴とする非電源無人消火装置。
【請求項2】
前記風船の内周部側には、前記作動弁と干渉しない位置に、伸張状態を記憶した形状記憶合金で形成された針体が屈曲して配設され、前記針体が加熱することによって伸張され、前記伸張状態で前記風船を突き刺すように配設されていることを特徴とする請求項1記載の非電源無人消火装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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