説明

非音響モデム及びそれを用いた通信システム

【課題】水中においても伝搬可能かつ海底からの残響(反射音)の影響を受けない非音響信号によるデータの送受信を行うことができ、音響を用いる場合と比較して安定して通信することの可能な、非音響モデム及びそれを用いた通信システムを提供する。
【解決手段】端末又は計測機器等1から一方の非音響モデム筐体2へ元データである元データ電気信号3を入力する。変調器4は、元データ電気信号3を受信し、元データ電気信号3を所定の変調方式により変調後電気信号5に変換する。信号増幅器6は、変調後電気信号5を、十分な磁界を発生させることができる増幅後電気信号7に変換する。増幅後電気信号7をソレノイドコイル8に通電し、磁界信号9として他方の非音響モデムに向けて送信する。磁界信号9は、例えば周波数1kHz以下の交流信号である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中等で使用可能な非音響モデム及びそれを用いた通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のモデムは、コンピュータ等の端末や計測機器のデータ送受信を行うために、端末等に接続して、電話回線や光回線等を用いた有線あるいは電波を用いた無線といった手段によりデータの送受信を行うものである。
【0003】
水中においてデータの送受信を行うためには、まずモデムや端末等に防水処理を施した上で陸上と同様に有線で通信することが考えられるが、通信範囲は有線が敷設できる範囲に限定され、例えば移動体からの通信は不可能である。また、電波等無線での通信については、水中では電波が使用不可能である。
【0004】
他に水中における電波以外の無線での通信手段としては、海底探査等広く使用されている音響を用いたモデムがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−107049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の手段では、特に浅海域において海底からの反射音の影響により、安定して通信できなくなる問題点がある。
【0007】
本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、その目的は、水中においても伝搬可能かつ海底からの残響(反射音)の影響を受けない非音響信号によるデータの送受信を行うことができ、音響を用いる場合と比較して安定して通信することの可能な、非音響モデム及びそれを用いた通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、非音響モデムである。この非音響モデムは、
外部から入力した電気信号を非音響信号に変換して送信する送信部と、
非音響信号を受信し、電気信号に変換して外部に出力する受信部と、
を備えることを特徴としている。
【0009】
ある態様の非音響モデムにおいて、前記非音響信号が水中電界信号であるとよい。
【0010】
この場合、前記受信部は電界センサを含むとよい。
【0011】
ある態様の非音響モデムにおいて、前記非音響信号が磁界信号であり、前記送信部はコイルを含み、前記受信部は磁界センサを含むとよい。
【0012】
ある態様の非音響モデムにおいて、
前記送信部及び前記受信部に電力を供給する電源部をさらに備え、
前記送信部と前記受信部と前記電源部とが筐体の内部に収納された構造であるとよい。
【0013】
本発明の別の態様は、通信システムである。この通信システムは、
第1の送信部及び第1の受信部を備える第1の非音響モデムと、
第2の送信部及び第2の受信部を備える第2の非音響モデムとを備え、
前記第1の送信部は、外部から入力した電気信号を非音響信号に変換して送信し、
前記第2の受信部は、前記第1の送信部から送信された非音響信号を受信し、電気信号に変換して外部に出力し、
前記第2の送信部は、外部から入力した電気信号を非音響信号に変換して送信し、
前記第1の受信部は、前記第2の送信部から送信された非音響信号を受信し、電気信号に変換して外部に出力することを特徴とする。
【0014】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法やシステムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、水中においても伝搬可能かつ海底からの残響(反射音)の影響を受けない非音響信号によるデータの送受信を行うことができ、音響を用いる場合と比較して安定して通信することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る非音響モデム及びそれを用いた通信システムの機能ブロック図。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る非音響モデム及びそれを用いた通信システムの機能ブロック図。
【図3】実施の形態の非音響モデム及びそれを用いた通信システムの実際の使用例を示す模式的説明図その1。
【図4】実施の形態の非音響モデム及びそれを用いた通信システムの実際の使用例を示す模式的説明図その2。
【図5】実施の形態の非音響モデム及びそれを用いた通信システムの実際の使用例を示す模式的説明図その3。
【図6】実施の形態の非音響モデム及びそれを用いた通信システムの実際の使用例を示す模式的説明図その4。
【図7】実施の形態の非音響モデム及びそれを用いた通信システムの実際の使用例を示す模式的説明図その5。
【図8】実施の形態の非音響モデム及びそれを用いた通信システムの実際の使用例を示す模式的説明図その6。
【図9】実施の形態の非音響モデム及びそれを用いた通信システムの実際の使用例を示す模式的説明図その7。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を詳述する。なお、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は発明を限定するものではなく例示であり、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0018】
(第1の実施の形態:磁界信号による通信)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る非音響モデム及びそれを用いた通信システムの機能ブロック図である。ここでは、2つの非音響モデム間で磁界信号により通信する場合について説明する。なお、各ブロックは、ハードウエアやソフトウエア又はそれらの協働によって実現される。
【0019】
各々の非音響モデムは、変調器4と、信号増幅器6と、ソレノイドコイル8と、磁界センサ10と、信号処理器12と、復調器14とを備え、それらが不図示の電源部と共に防水性の非音響モデム筐体2内に収納されたものである。変調器4と信号増幅器6とソレノイドコイル8とが送信部を構成し、磁界センサ10と信号処理器12と復調器14とが受信部を構成し、電源部は送信部及び受信部に電力を供給する。
【0020】
通信の流れは次のとおりである。端末又は計測機器等1から一方の非音響モデム筐体2へ元データである元データ電気信号3を入力する。変調器4は、元データ電気信号3を受信し、元データ電気信号3を所定の変調方式により変調後電気信号5に変換する。信号増幅器6は、変調後電気信号5を、十分な磁界を発生させることができる増幅後電気信号7に変換する。増幅後電気信号7をソレノイドコイル8に通電し、磁界信号9として他方の非音響モデムに向けて送信する。磁界信号9は、水中での減衰が少ない周波数領域、例えば周波数1kHz以下の交流信号である。
【0021】
他方の非音響モデムにおいては、磁界センサ10により磁界信号9を受信し、雑音補償前電気信号11に変換する。信号処理器12は、雑音補償前電気信号11から地磁気雑音等を除去してデータ部分のみ抽出し、雑音補償後電気信号13へと変換する。復調器14は、変調器4における変調方式に対応した復調方式により雑音補償後電気信号13を復調後電気信号15へ変換し、非音響モデム筐体2の外部にある端末又は計測機器等1に送信する。
【0022】
磁界センサ10としては1軸もしくは2軸磁界センサを用いることも可能であるが、3軸ベクトル磁界センサ又はスカラー全磁界センサを用いることで、非音響モデムの動揺又は移動等により互いの非音響モデムの向きや相対位置が変化しても、非音響モデムのソレノイドコイル8から出力される磁界信号9を確実に検出することができる。
【0023】
信号処理器12における地磁気雑音の除去方法としては例えば、地磁気測定用の磁界センサを別に設けて差分を取る方法や、角度センサによって北向きとの角度を導出し地磁気を計算して差し引く方法が挙げられる。
【0024】
本実施の形態によれば、水中においても伝搬可能かつ海底からの残響(反射音)の影響を受けない磁界信号9によるデータの送受信を行うことができ、音響を用いる場合と比較して安定して通信することが可能となる。
【0025】
なお、磁界信号の伝搬特性は水中、地中及び空中で違いがないことから、本実施の形態の非音響モデムについては、水中水中間だけではなく、水中空中間、水中地中間、空中地中間においても利用可能である。このことは、水中空中間、水中地中間、空中地中間での通信では音響信号は伝搬特性が大きく異なるために用いることが不可能である点と比較したメリットである。
【0026】
(第2の実施の形態:水中電界信号による通信)
図2は、本発明の第2の実施形態に係る非音響モデム及びそれを用いた通信システムの機能ブロック図である。ここでは、2つの非音響モデム間で水中電界信号により通信する場合について説明する。なお、各ブロックは、ハードウエアやソフトウエア又はそれらの協働によって実現される。
【0027】
各々の非音響モデムは、図1に示される第1の実施の形態のものと比較して、ソレノイドコイル8が電極対16となり、非音響信号としての磁界信号9が水中電界信号17となり、磁界センサ10が電界センサ18となった点において相違し、その他の点で一致している。
【0028】
通信の流れは次のとおりである。端末又は計測機器等1から一方の非音響モデム筐体2へ元データである元データ電気信号3を入力する。変調器4は、元データ電気信号3を受信し、元データ電気信号3を所定の変調方式により変調後電気信号5に変換する。信号増幅器6は、変調後電気信号5を、十分な電界を発生させることができる増幅後電気信号7に変換する。増幅後電気信号7を電極対16に通電し、水中電界信号17として他方の非音響モデムに向けて送信する。水中電界信号17は、水中での減衰が少ない周波数領域、例えば周波数1kHz以下の交流信号である。
【0029】
他方の非音響モデムにおいては、電界センサ18により水中電界信号17を受信し、雑音補償前電気信号11に変換する。信号処理器12は、雑音補償前電気信号11から環境雑音等を除去してデータ部分のみ抽出し、雑音補償後電気信号13へと変換する。復調器14は、変調器4における変調方式に対応した復調方式により雑音補償後電気信号13を復調後電気信号15へ変換し、非音響モデム筐体2の外部にある端末又は計測機器等1に送信する。
【0030】
電界センサ18としては1軸もしくは2軸電界センサを用いることも可能であるが、3軸電界センサを用いることで、非音響モデムの動揺又は移動等により互いの非音響モデムの向きや相対位置が変化しても、非音響モデムの電極対16から出力される水中電界信号17を確実に検出することができる。
【0031】
本実施の形態によれば、水中においても伝搬可能かつ海底からの残響(反射音)の影響を受けない水中電界信号17によるデータの送受信を行うことができ、音響を用いる場合と比較して安定して通信することが可能となる。
【0032】
なお、各実施の形態で、変調器4及び復調器14における変復調方式は、陸上の有線回線の通信で用いられる各種変復調方式を利用できる。例えば水中における磁界又は電界の雑音状況や送受信したいデータの種類等により最適な変復調方式を用いればよい。
【0033】
以下、実施の形態で説明した非音響モデム及びそれを用いた通信システムの実際の使用例を図面に従って説明する。
【0034】
図3〜図9は、実施の形態で説明した非音響モデム及びそれを用いた通信システムの実際の使用例を示す模式的説明図である。図3は、非音響モデム21を用いて水中移動体23と海面19に浮かぶ船体24との間で非音響信号22によりデータを通信しているものである。図4は、非音響モデム21を用いて水中移動体23同士で非音響信号22によりデータを通信しているものである。図5は、非音響モデム21を用いて水中移動体23と海底20上の海底計測機器25との間で非音響信号22によりデータを通信しているものである。図6は、非音響モデム21を用いて船体24と海底計測機器25との間で非音響信号22によりデータを通信しているものである。図7は、非音響モデム21を用いて海底計測機器25と航空機26との間で非音響信号22によりデータを通信しているものである。図8は、非音響モデム21を用いて海底計測機器25同士で非音響信号22によりデータを通信しているものである。図9は、非音響モデム21を用いて水中移動体23と航空機26との間で非音響信号22によりデータを通信しているものである。なお、上記使用例のうち、図7及び図9のケースでは、非音響信号として水中電界信号を用いることはできず、第2の実施の形態で説明した磁界信号による通信のみ可能である。
【0035】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスには請求項に記載の範囲で種々の変形が可能であることは当業者に理解されるところである。
【0036】
第2の実施の形態では、水中電界信号17を電界センサ18で受信する場合を説明したが、電界センサ18に替えて又は加えて磁界センサを設け、水中電界信号17によって発生する磁界信号を受信する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 端末又は計測機器等
2 非音響モデム筐体
3 元データ電気信号
4 変調器
5 変調後電気信号
6 信号増幅器
7 増幅後電気信号
8 ソレノイドコイル
9 磁界信号
10 磁界センサ
12 信号処理器
14 復調器
16 電極対
17 水中電界信号
18 電界センサ
19 海面
22 非音響信号
20 海底
21 非音響モデム
23 水中移動体
24 船体
25 海底計測機器
26 航空機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から入力した電気信号を非音響信号に変換して送信する送信部と、
非音響信号を受信し、電気信号に変換して外部に出力する受信部と、
を備えることを特徴とする、非音響モデム。
【請求項2】
請求項1に記載の非音響モデムにおいて、前記非音響信号が水中電界信号である、非音響モデム。
【請求項3】
請求項2に記載の非音響モデムにおいて、前記受信部は電界センサを含む、非音響モデム。
【請求項4】
請求項1に記載の非音響モデムにおいて、前記非音響信号が磁界信号であり、前記送信部はコイルを含み、前記受信部は磁界センサを含む、非音響モデム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の非音響モデムにおいて、
前記送信部及び前記受信部に電力を供給する電源部をさらに備え、
前記送信部と前記受信部と前記電源部とが筐体の内部に収納された構造である、非音響モデム。
【請求項6】
第1の送信部及び第1の受信部を備える第1の非音響モデムと、
第2の送信部及び第2の受信部を備える第2の非音響モデムとを備え、
前記第1の送信部は、外部から入力した電気信号を非音響信号に変換して送信し、
前記第2の受信部は、前記第1の送信部から送信された非音響信号を受信し、電気信号に変換して外部に出力し、
前記第2の送信部は、外部から入力した電気信号を非音響信号に変換して送信し、
前記第1の受信部は、前記第2の送信部から送信された非音響信号を受信し、電気信号に変換して外部に出力することを特徴とする、通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−97275(P2011−97275A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247961(P2009−247961)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(390014306)防衛省技術研究本部長 (169)
【Fターム(参考)】