面形状計測装置および面形状計測方法
【課題】光学系にアラインメント誤差が存在しても、被検面の形状を高精度に計測する。
【解決手段】面形状計測装置は、光源1からの光を被検面に照射する投光光学系6と、被検面で反射された光を結像させる結像光学系6と、結像光学系により結像された光を受光するセンサ11と、該センサからの出力を用いて被検面の形状を計測する計測手段12とを有する。計測手段は、光源から投光光学系を介して校正基準面8に照射され、該校正基準面で反射されて結像光学系を介してセンサに入射した光の波面の曲率半径を該センサからの出力を用いて算出し、該曲率半径を用いて結像光学系の焦点距離を算出し、該焦点距離を用いて、結像光学系に対してセンサと共役関係となる共役位置を算出し、焦点距離と共役位置とから結像光学系の結像倍率を算出する。さらに、共役位置に被検面を配置したときのセンサからの出力と該結像倍率とを用いて被検面の形状を計測する。
【解決手段】面形状計測装置は、光源1からの光を被検面に照射する投光光学系6と、被検面で反射された光を結像させる結像光学系6と、結像光学系により結像された光を受光するセンサ11と、該センサからの出力を用いて被検面の形状を計測する計測手段12とを有する。計測手段は、光源から投光光学系を介して校正基準面8に照射され、該校正基準面で反射されて結像光学系を介してセンサに入射した光の波面の曲率半径を該センサからの出力を用いて算出し、該曲率半径を用いて結像光学系の焦点距離を算出し、該焦点距離を用いて、結像光学系に対してセンサと共役関係となる共役位置を算出し、焦点距離と共役位置とから結像光学系の結像倍率を算出する。さらに、共役位置に被検面を配置したときのセンサからの出力と該結像倍率とを用いて被検面の形状を計測する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非球面レンズ等の光学素子の面形状を計測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子の面形状を計測する方法としては、シャック・ハルトマンセンサを用いた計測方法が特許文献1にて開示されている。この方法では、投光光学系を介して光学素子の被検面に球面波の光を照射し、該被検面にて反射して結像光学系により結像された光束の角度分布をセンサにより計測する。この際、被検面の曲率や結像光学系を構成する複数のレンズの焦点距離から、センサと被検面とを結像光学系に対して共役となる位置に配置して計測を行う。また、精度良く光学素子を配置するために、結像光学系を構成するそれぞれのレンズの焦点距離については、別途計測を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7,455,407号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1にて開示された面形状計測方法では、結像光学系を構成するそれぞれのレンズの焦点距離を精度良く計測しても、これらレンズを結像光学系として組み上げる際のアラインメント誤差によって、結像光学系の焦点距離や結像倍率が変化する。そして、この変化が、面形状の計測誤差となって現れ、面形状を高精度に計測することができない。
【0005】
本発明は、組み上げられた状態の光学系にアラインメント誤差が存在しても、被検面の形状を高精度に計測することができるようにした装置および方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面としての面形状計測装置は、光源からの光を被検面に照射する投光光学系と、被検面で反射された光を結像させる結像光学系と、結像光学系により結像された光を受光するセンサと、該センサからの出力を用いて被検面の形状を計測する計測手段とを有する。計測手段は、光源から投光光学系を介して校正基準面に照射され、該校正基準面で反射されて結像光学系を介してセンサに入射した光の波面の曲率半径を該センサからの出力を用いて算出し、該曲率半径を用いて結像光学系の焦点距離を算出し、該焦点距離を用いて、結像光学系に対してセンサと共役関係となる共役位置を算出し、焦点距離と共役位置とから結像光学系の結像倍率を算出する。そして、共役位置に被検面を配置したときのセンサからの出力と該結像倍率とを用いて被検面の形状を計測することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の他の一側面としての面形状計測方法は、光源からの光を被検面に照射する投光光学系と、被検面で反射された光を結像させる結像光学系と、結像光学系により結像された光を受光するセンサとを用いて、被検面の形状を計測する。該方法は、光源から投光光学系を介して校正基準面に照射され、該校正基準面で反射されて結像光学系を介してセンサに入射した光の波面の曲率半径を該センサからの出力を用いて算出し、該曲率半径を用いて結像光学系の焦点距離を算出し、該焦点距離を用いて、前記結像光学系に対して前記センサと共役関係となる共役位置を算出し、焦点距離と共役位置とから結像光学系の結像倍率を算出する。そして、共役位置に被検面を配置したときのセンサからの出力と該結像倍率とを用いて被検面の形状を計測することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
光学系にアラインメント誤差が存在しても、被検面の形状を高精度に計測することができるようにした面形状計測装置および面形状計測方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例1である面形状計測装置の構成を示す図。
【図2】実施例1における面形状の計測原理を示す図。
【図3】実施例1において平面である校正基準面を用いた校正方法を示す図。
【図4】図3の状態から校正基準面をD1だけ移動させた状態を示す図。
【図5】図3の状態から校正基準面をD2だけ移動させた状態を示す図。
【図6】実施例1における被検面の面形状の計測手順を示すフローチャート。
【図7】本発明の実施例2において球面である校正基準面を用いた校正方法を示す図。
【図8】図7の状態から校正基準面をD1だけ移動させた状態を示す図。
【図9】図7の状態から校正基準面をD2だけ移動させた状態を示す図。
【図10】本発明の実施例3において曲率半径Qaの校正基準面を用いた校正方法を示す図。
【図11】実施例3において曲率半径Qbの校正基準面を用いた校正方法を示す図。
【図12】実施例3において曲率半径Qcの校正基準面を用いた校正方法を示す図。曲率半径Qcのミラーを設置した状態を示す図。
【図13】実施例1における装置の校正手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0011】
図1には、本発明の実施例1である面形状計測装置の構成を示している。この図において、1は光源であり、2はコリメータレンズである。3,4,5はレンズであり、光学系6を構成する。7は校正用原器(以下、単に原器という)であり、8は原器7の反射面(以下、校正基準面という)である。校正基準面8としては、その曲率半径が既知の曲面(例えば、球面)や平面が用いられる。
【0012】
9は原器7を光軸方向に移動させる駆動部である。10はハーフミラーであり、11は光束角度分布センサ(以下、単にセンサという)である。12は解析演算部(計測手段)である。ここでのセンサ11は、光学系(結像光学系)によって結像された光を受光するものであって、この結像された光の波面を計測するためのものである。
【0013】
光源1は単色レーザまたはレーザダイオードにより構成されている。光源1からの発散光束は、コリメータレンズ2により平行光束に変換され、ハーフミラー10にて反射されて光学系6に入射する。光学系6では、入射した光束をレンズ3,4により拡大し、レンズ5で収束させる。光学系6から射出した収束光束は、校正基準面8にて反射して再び光学系6を通り、ハーフミラー10を透過してセンサ11に入射する。
【0014】
センサ11は、シャック・ハルトマンセンサと称されるセンサであり、多数の微小集光レンズをマトリックス状に集合したマイクロレンズアレイと、CCD等の受光素子(光電変換素子)とにより構成される。マイクロレンズアレイに入射した光は、受光素子上に集光する。入射波面の傾斜に応じて、受光素子上での集光スポットの位置が変化する。解析演算部12は、受光素子上での集光スポットの位置から入射波面の傾斜(波面傾斜)を算出し、該波面傾斜の2次元分布から2次元入射波面の位相分布を算出する。また、解析演算部12は、後述するように、受光素子上での集光スポットの位置から入射光束の角度分布も算出する。
【0015】
駆動部9は、不図示のアクチュエータによって、原器7が固定されたステージを光軸方向に移動させる。ステージの移動量は、エンコーダ等の移動量検出器を用いて精度良く測定されているものとする。解析演算部12は、CPU等を含むマイクロコンピュータにより構成され、センサ11からの出力に基づいて後述する演算を行う。
【0016】
図2には、原器7に代えてステージ上に配置された被検物71の反射面(以下、被検面という)70の形状を計測する状態とした面形状計測装置の構成を示している。この図では、被検面70の一点から発した光束20がセンサ11上の1点に収束し、センサ11と被検面70とが光学系6に対して共役関係となる位置に配置された状態を示している。
【0017】
本実施例では、光学系6が、光源1からの光束を被検面70に照射する投光光学系と、被検面70で反射された光束をセンサ11上に結像させる結像光学系として用いられている。ただし、投光光学系と、結像光学系とを分けて構成してもよい。
【0018】
また、光学系6の主点Hは、被検面70よりも外側(被検面70に対して光学系6とは反対側)に位置する。
【0019】
次に、原器7を用いた面形状計測装置の校正方法について、図3〜図5の概略図および図13のフローチャートを用いて説明する。図3〜図5には、校正基準面8が平面である場合を示している。
【0020】
装置の校正においては、まずセンサ11に平行光束が入射するように校正基準面8の光軸方向での位置を調整する(図13のステップS−11)。図3には、光学系6からの光束が校正基準面8上の1点(仮想点光源)Pに向かって収束し、該1点Pにて反射して光学系6から射出した平行光束がセンサ11に入射している状態を示している。
【0021】
図3に示した状態において、駆動部9内の不図示のコントローラは、センサ11による波面計測結果に基づいてアクチュエータを制御し、校正基準面8の位置を、光学系6の焦点位置に設定する。光学系6の焦点位置と校正基準面8の位置とが一致するときに、センサ11に平行光束が入射する。このとき、校正基準面8からの反射光束は、仮想点光源Pからの球面波と等価とみなすことができる。このように、センサ11に平行光束が入射するときの校正基準面8の位置を「原点位置」とする。原点位置は、主点Hから光学系6側にF(光学系6の焦点距離)だけ離れた位置である。
【0022】
次に、図4に示すように、駆動部9内のコントローラがアクチュエータを制御することにより、校正基準面8を原点位置から光軸方向(光学系6に接近する側)にD1だけ離れた位置に移動させる(ステップS−12)。図4に示す状態では、校正基準面8で反射した光束は、校正基準面8よりも光学系6側に位置する仮想点光源P1からの球面波と等価とみなすことができる。仮想点光源PからP1への移動量M1は、校正基準面8の移動量D1を用いて、次式(1)のように表わされる。
【0023】
M1=2・D1 (1)
仮想点光源P1からの光束は、光学系6を介して発散光束としてセンサ11に入射する。このときのセンサ11上での波面収差W(r,θ)は、Zernike多項式を用いて級数展開することができ、次式(2)のように表わされる。
【0024】
【数1】
【0025】
但し、rは瞳面の半径で規格化された半径方向の位置であり、θは角度である。Ciはi項のZernike多項式によって表わされる収差の大きさを表す係数である。ここでは、波面収差は9項までで表わされるとする。
【0026】
表1に、1〜9項までのZernike多項式を示す。
【0027】
【表1】
【0028】
センサ11に入射する波面の曲率半径Rは、Zernike多項式のデフォーカス項(Z4項)を用いて次式(3)により表わされる。
【0029】
【数2】
【0030】
但し、XはCiを計算する際に用いるセンサ11上での解析半径である。
【0031】
解析演算部12は、センサ11からの出力を用いた波面計測結果と式(3)とから、図4に示す波面の曲率半径R1を算出する(ステップS−13)。
【0032】
次に、図5に示すように、駆動部9内のコントローラがアクチュエータを制御することにより、校正基準面8を原点位置から光軸方向(光学系6にさらに接近する側)にD2(≠D1であり、D2>D1)だけ離れた位置に移動させる(ステップS−14)。このとき、校正基準面8にて反射した光束は、仮想点光源P2からの球面波と等価とみなすことができる。仮想点光源PからP2への移動量M2は、式(1)と同様に次式(4)により表わされる。
【0033】
M2=2・D2 (4)
そして、解析演算部12は、センサ11からの出力を用いた波面計測結果と式(3)とから、図5に示す波面の曲率半径R2を算出する(ステップS−15)。
【0034】
次に、解析演算部12は、以下のように、光学系6の焦点距離Fを算出する(ステップS−16)。光学系6の焦点距離Fは、仮想点光源P1,P2の原点位置からの移動量M1,M2(または校正基準面8の移動量D1,D2)とセンサ11を通して計測される波面の曲率半径R1,R2とを用いて次式(5)により表わされる。
【0035】
【数3】
【0036】
図4および図5に示されるように、光学系6の主点Hから仮想点光源P1,P2までの距離Am(m=1,2)は、光学系6の焦点距離Fと仮想点光源の移動量Mmとを用いて次式(6)により表わされる。
【0037】
Am=F+Mm (m=1,2) (6)
光学系6に対して仮想点光源Amと共役関係となる位置Bmは、結像公式から次式(7)により表わされる。
【0038】
【数4】
【0039】
図4および図5に示すように、光学系6のもう一方の主点H′からセンサ11までの距離Lは、仮想点光源Amの位置Bmと波面の曲率半径Rmとを用いて次式(8)により表わされる。
【0040】
L=Bm−Rm (8)
次に、解析演算部12は、光学系6に対してセンサ11と共役関係となる位置(光学系6に対するセンサ11との共役位置)を算出する(ステップS−17)。結像公式と式(7),(8)とから、主点Hから光学系6に対するセンサ11との共役位置(図2に示す被検面70)までの距離SAは、次式(9)により表わされる。
【0041】
【数5】
【0042】
そして、被検面70の計測を行うために、図2に示すように、共役位置に被検面70を配置する(ステップS−18)。
【0043】
また、解析演算部12は、このときの光学系(結像光学系)6の結像倍率βを、次式(10)により算出する(ステップS−19)。
【0044】
【数6】
【0045】
以上により、光学系6に対するセンサ11との共役位置と、該共役位置に被検面70を配置したときの光学系6の結像倍率βとを算出することができる。光学系6の焦点距離Fは、式(5)を用いて、計測値から求められる。このため、光学系6に対するセンサ11との共役位置と光学系6の結像倍率βもまた、式(9),(10)を用いて、計測値から算出できる。
【0046】
次に、被検面70を光学系6に対するセンサ11との共役位置に配置する方法について説明する。
【0047】
図3において、主点Hから校正基準面8までの距離Sは、光学系6の焦点距離Fと等しい。上述したように、主点Hから光学系6に対するセンサ11との共役位置までの距離SAと、主点Hから校正基準面8までの距離S(=F)が求められたので、(SA−S)だけ校正基準面8を移動させる。これにより、校正基準面8を光学系6に対するセンサ11との共役位置に配置することができる。
【0048】
このときのレンズ5から校正基準面8までの間隔d1を、不図示の面間隔測定器を用いて計測しておく。
【0049】
次に、原器7を被検物71と交換し、被検面70とレンズ5の間隔が、間隔d1に一致するように被検面70の位置を調整する。このようにして、被検面70を高精度に光学系6に対するセンサ11との共役位置に配置することができる。
【0050】
本実施例では、校正基準面8を原点位置から2回移動させ、それらの移動量とセンサ11による波面計測の結果を用いて装置の校正を行った。しかし、校正基準面8を3回以上移動させ、それらの移動量とセンサ11による波面計測の結果の平均値を用いることで、より高精度な装置の校正を行ってもよい。
【0051】
次に、本実施例における被検面70の面形状の計測手順(面形状計測方法)を、図6のフローチャートを参照しながら説明する。被検面70は、球面や非球面等の曲面である。ここでは、図2に示すように、光軸方向をz軸とし、該光軸に直交する面をxy面とする。そして、被検面70のxy面上での絶対座標を(x,y)とする。
【0052】
ステップS−1では、解析演算部12は、被検面70で反射されてセンサ11に入射した光束の受光素子上でのスポット位置であるセンサ11上の光線計測位置(X,Y)を計測する。前述したようにシャック・ハルトマンセンサは入射波面の位相分布を計測するために用いられるが、受光素子上のスポット位置からの計算によって入射光束の角度分布を求めることもできる。そこで、本ステップでは、解析演算部12は、センサ11からの出力を用いて、被検面70で反射されてセンサ11に入射する光束の角度分布(Vx,Vy)を該センサ11上の光線計測位置(X,Y)にて計測する。
【0053】
次に、ステップS−2では、解析演算部12は、上述した式(10)により算出した、つまりは装置の校正により得られた光学系6の結像倍率βを用いて、センサ11上の計測光線位置(X,Y)を被検面70上の光線位置(x,y)に変換する。
【0054】
次に、ステップS−3では、解析演算部12は、結像倍率βから算出される角倍率1/βを用いて、センサ11上の計測光線位置(X,Y)における光線角度(Vx,Vy)を被検面70上の光線位置(x,y)における光線角度(vx,vy)に変換する。
【0055】
そして、ステップS−4では、解析演算部12は、被検面70上の光線位置(x,y)と光線角度(vx,vy)とを用いて積分演算を行うことにより、被検面70の形状を求める。ここで行う積分演算としては、面の中心近傍から外側に向かって、光線位置間隔と角度とから求められる面積を加算していく方法を用いてもよい。また、光線位置(x,y)のサンプリングを持つ基底関数の微分関数を用いて、傾斜(tan(vx),tan(vy))に対してフィッティングを行い、得られた係数と基底関数を掛け合わせる方法を用いてもよい。
【0056】
以上により、装置の校正により高精度に求めた結像倍率βを用いて、すなわちレンズ3〜5により組み上げられた状態の結像光学系(光学系6)にアラインメント誤差が存在しても、被検面70の形状を高精度に計測することができる。
【0057】
センサ11としては、上述したシャック・ハルトマンセンサに限らず、入射光束の波面あるいは角度分布を計測できる他のセンサ、例えば回折格子と受光素子とを用いたシアリング干渉計あるいはタルボ干渉計を用いてもよい。
【実施例2】
【0058】
本発明の実施例2について図7〜図9を用いて説明する。本実施例では、図1に示した実施例1の面形状測定装置において、測定基準面8として、曲率半径が既知であり、光学系6に向かって凸の形状を有する曲面(球面)を用いる場合の装置の校正について説明する。
【0059】
まず、センサ11に平行光束が入射するように測定基準面8の光軸方向での位置を調整する。図7には、光学系6からの光束が校正基準面8よりも主点H側にある光学系6の焦点位置(仮想点光源)Pに向かって収束し、該校正基準面8にて反射して光学系6から射出した平行光束がセンサ11に入射している状態を示している。校正基準面8の曲率中心は、光学系6の焦点位置Pに一致している。このときの校正基準面8からの反射光束は、仮想点光源Pからの球面波と等価とみなすことができる。このように、センサ11に平行光束が入射するときの校正基準面8の位置を「原点位置」とする。原点位置は、主点Hから光学系6側にF(光学系6の焦点距離)だけ離れた位置である。
【0060】
次に、図8に示すように、図1に示した駆動部9内のコントローラがアクチュエータを制御することにより、校正基準面8を原点位置から光軸方向(光学系6から遠ざかる側)にD1だけ離れた位置に移動させる。図8に示す状態では、校正基準面8で反射した光束は、図7に示した仮想点光源Pよりも主点H側に位置する仮想点光源P1からの球面波と等価とみなすことができる。仮想点光源PからP1への移動量M1は、校正基準面8の移動量D1と校正基準面8の曲率半径Qとを用いて次式(11)により表わされる。
【0061】
【数7】
【0062】
そして、図1に示した解析演算部12は、センサ11からの出力を用いた波面計測結果と式(3)とから、図8に示す波面の曲率半径R1を算出する。
【0063】
次に、駆動部9内のコントローラがアクチュエータを制御することにより、校正基準面8を原点位置から光軸方向(図7とは反対側であって光学系6に接近する側)にD2(≠D1)だけ離れた位置に移動させる。|D2|と|D1|は同じであってもよいし、異なっていてもよい。このとき、校正基準面8にて反射した光束は、仮想点光源Pよりも主点Hとは反対側(光学系6側)に位置する仮想点光源P2からの球面波と等価とみなすことができる。仮想点光源PからP2への移動量M2は、式(11)と同様に次式(12)により表わされる。
【0064】
【数8】
【0065】
そして、解析演算部12は、センサ11からの出力を用いた波面計測結果と式(3)とから、図9に示す波面の曲率半径R2を算出する。
【0066】
さらに、解析演算部12は、実施例1と同様に、式(5)〜(10)を用いて、光学系6に対してセンサ11と共役関係となる位置(光学系6に対するセンサ11との共役位置)と、該共役位置に被検面を配置したときの光学系6の結像倍率βとを算出する。
【0067】
次に、被検面70を光学系6に対するセンサ11との共役位置に配置する方法について説明する。
【0068】
図7において、主点Hから校正基準面8までの距離Sは、光学系6の焦点距離Fと校正基準面8の曲率半径Qとを用いて次式(13)により表わされる。
【0069】
S=F+Q (13)
上述したように、主点Hから光学系6に対するセンサ11との共役位置までの距離SAと、主点Hから校正基準面8までの距離Sが求められたので、(SA−S)だけ校正基準面8を移動させる。これにより、校正基準面8を光学系6に対するセンサ11との共役位置に配置することができる。この後、実施例1と同様にして、被検面70を高精度に光学系6に対するセンサ11との共役位置に配置する。
【0070】
以上により、装置の校正により高精度に求めた結像倍率βを用いて、すなわちレンズにより組み上げられた状態の結像光学系(光学系6)にアラインメント誤差が存在しても、被検面70の形状を高精度に計測することができる。
【0071】
本実施例では、校正基準面8として光学系6に向かって凸の形状を有する球面を用いることで、実施例1のように光学系6の焦点位置まで校正基準面8を移動させる必要をなくている。このため、計測装置をコンパクトに構成することができる。
【0072】
また、本実施例では、被検面とは別の校正基準面8を用いる場合について説明したが、被検面の曲率半径が既知であれば、該被検面を校正基準面として用いて装置の校正を行うことも可能である。これにより、装置の校正時と被検面の形状計測時とで反射面を交換する必要をなくせるため、より短時間で高精度に装置の校正から被検面の形状計測までを行うことができる。
【実施例3】
【0073】
本発明の実施例3について図10〜図12を用いて説明する。実施例1,2では、装置の校正時に校正基準面8を光軸方向における互いに異なる複数の位置に移動させる場合について説明したが、本実施例では、校正基準面8を、互いに異なる既知の曲率半径を有する複数の球面(または平面)に交換して装置の校正を行う。
【0074】
まず、センサ11に平行光束が入射するように曲率半径Qaの測定基準面8aの光軸方向での位置を調整する。図10には、光学系6からの光束が校正基準面8aよりも主点H側にある光学系6の焦点位置(仮想点光源)Pに向かって収束し、該校正基準面8にて反射して光学系6から射出した平行光束がセンサ11に入射している状態を示している。校正基準面8aの曲率中心は、光学系6の焦点位置Pに一致している。このときの校正基準面8aからの反射光束は、仮想点光源Pからの球面波と等価とみなすことができる。このように、センサ11に平行光束が入射するときの校正基準面8の位置を「原点位置」とする。原点位置は、主点Hから光学系6側にF(光学系6の焦点距離)だけ離れた位置である。
【0075】
次に、図11に示すように、校正基準面8aを、曲率半径Qb(≠Qa)の校正基準面8bと交換する。この際、校正基準面8bの位置を、校正基準面8aの位置と一致させる。このとき、校正基準面8bで反射した光束は、図10に示した仮想点光源Pよりも主点H側に位置する仮想点光源P1からの球面波と等価とみなすことができる。仮想点光源PとP1との間の距離(移動量)M1は、曲率半径QaとQbを用いて、次式(14)により表わされる。
【0076】
【数9】
【0077】
そして、図1に示した解析演算部12は、センサ11からの出力を用いた波面計測結果と式(3)とから、図11に示す波面の曲率半径R1を算出する。
【0078】
次に、図12に示すように、校正基準面8bを、曲率半径Qc(≠Qa,Qb)の校正基準面8cと交換する。この際、校正基準面8cの位置を、校正基準面8a(8b)の位置と一致させる。このとき、校正基準面8cにて反射した光束は、仮想点光源Pよりも主点Hとは反対側(光学系6側)に位置する仮想点光源P2からの球面波と等価とみなすことができる。仮想点光源PとP2との間の距離(移動量)M2は、曲率半径QaとQcを用いて、次式(15)により表わされる。
【0079】
【数10】
【0080】
そして、解析演算部12は、センサ11からの出力を用いた波面計測結果と式(3)とから、図12に示す波面の曲率半径R2を算出する。
【0081】
この後は、実施例2と同様にして、装置の校正と被検面の形状計測とが可能となる。
【0082】
本実施例では、例えば、校正基準面8a,8b,8cを同一の保持部材により光軸に直交する方向に並べて保持しておき、1つの校正基準面を用いた計測の終了後に該保持部材を光軸に直交する方向にスライドさせる。これにより、同一位置に対して容易に校正基準面の交換を行うことができる。
【0083】
なお、交換可能な複数の校正基準面を、4つ以上用いてもよい。また、交換する複数の校正基準面の曲率半径を大きく異ならせる(例えば、校正基準面の1つを平面にする)ことで、仮想点光源の移動量を大きくすることができる。これにより、校正基準面の光軸方向での位置調整可能量が小さい装置であっても、高精度に装置の校正を行うことができる。
【0084】
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0085】
被検面の形状を高精度に計測することができる面形状計測装置を提供できる。
【符号の説明】
【0086】
1 光源
6 光学系(投光光学系、結像光学系)
7 校正用原器
8 校正基準面
11 センサ
12 解析演算部
【技術分野】
【0001】
本発明は、非球面レンズ等の光学素子の面形状を計測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子の面形状を計測する方法としては、シャック・ハルトマンセンサを用いた計測方法が特許文献1にて開示されている。この方法では、投光光学系を介して光学素子の被検面に球面波の光を照射し、該被検面にて反射して結像光学系により結像された光束の角度分布をセンサにより計測する。この際、被検面の曲率や結像光学系を構成する複数のレンズの焦点距離から、センサと被検面とを結像光学系に対して共役となる位置に配置して計測を行う。また、精度良く光学素子を配置するために、結像光学系を構成するそれぞれのレンズの焦点距離については、別途計測を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7,455,407号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1にて開示された面形状計測方法では、結像光学系を構成するそれぞれのレンズの焦点距離を精度良く計測しても、これらレンズを結像光学系として組み上げる際のアラインメント誤差によって、結像光学系の焦点距離や結像倍率が変化する。そして、この変化が、面形状の計測誤差となって現れ、面形状を高精度に計測することができない。
【0005】
本発明は、組み上げられた状態の光学系にアラインメント誤差が存在しても、被検面の形状を高精度に計測することができるようにした装置および方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面としての面形状計測装置は、光源からの光を被検面に照射する投光光学系と、被検面で反射された光を結像させる結像光学系と、結像光学系により結像された光を受光するセンサと、該センサからの出力を用いて被検面の形状を計測する計測手段とを有する。計測手段は、光源から投光光学系を介して校正基準面に照射され、該校正基準面で反射されて結像光学系を介してセンサに入射した光の波面の曲率半径を該センサからの出力を用いて算出し、該曲率半径を用いて結像光学系の焦点距離を算出し、該焦点距離を用いて、結像光学系に対してセンサと共役関係となる共役位置を算出し、焦点距離と共役位置とから結像光学系の結像倍率を算出する。そして、共役位置に被検面を配置したときのセンサからの出力と該結像倍率とを用いて被検面の形状を計測することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の他の一側面としての面形状計測方法は、光源からの光を被検面に照射する投光光学系と、被検面で反射された光を結像させる結像光学系と、結像光学系により結像された光を受光するセンサとを用いて、被検面の形状を計測する。該方法は、光源から投光光学系を介して校正基準面に照射され、該校正基準面で反射されて結像光学系を介してセンサに入射した光の波面の曲率半径を該センサからの出力を用いて算出し、該曲率半径を用いて結像光学系の焦点距離を算出し、該焦点距離を用いて、前記結像光学系に対して前記センサと共役関係となる共役位置を算出し、焦点距離と共役位置とから結像光学系の結像倍率を算出する。そして、共役位置に被検面を配置したときのセンサからの出力と該結像倍率とを用いて被検面の形状を計測することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
光学系にアラインメント誤差が存在しても、被検面の形状を高精度に計測することができるようにした面形状計測装置および面形状計測方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例1である面形状計測装置の構成を示す図。
【図2】実施例1における面形状の計測原理を示す図。
【図3】実施例1において平面である校正基準面を用いた校正方法を示す図。
【図4】図3の状態から校正基準面をD1だけ移動させた状態を示す図。
【図5】図3の状態から校正基準面をD2だけ移動させた状態を示す図。
【図6】実施例1における被検面の面形状の計測手順を示すフローチャート。
【図7】本発明の実施例2において球面である校正基準面を用いた校正方法を示す図。
【図8】図7の状態から校正基準面をD1だけ移動させた状態を示す図。
【図9】図7の状態から校正基準面をD2だけ移動させた状態を示す図。
【図10】本発明の実施例3において曲率半径Qaの校正基準面を用いた校正方法を示す図。
【図11】実施例3において曲率半径Qbの校正基準面を用いた校正方法を示す図。
【図12】実施例3において曲率半径Qcの校正基準面を用いた校正方法を示す図。曲率半径Qcのミラーを設置した状態を示す図。
【図13】実施例1における装置の校正手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0011】
図1には、本発明の実施例1である面形状計測装置の構成を示している。この図において、1は光源であり、2はコリメータレンズである。3,4,5はレンズであり、光学系6を構成する。7は校正用原器(以下、単に原器という)であり、8は原器7の反射面(以下、校正基準面という)である。校正基準面8としては、その曲率半径が既知の曲面(例えば、球面)や平面が用いられる。
【0012】
9は原器7を光軸方向に移動させる駆動部である。10はハーフミラーであり、11は光束角度分布センサ(以下、単にセンサという)である。12は解析演算部(計測手段)である。ここでのセンサ11は、光学系(結像光学系)によって結像された光を受光するものであって、この結像された光の波面を計測するためのものである。
【0013】
光源1は単色レーザまたはレーザダイオードにより構成されている。光源1からの発散光束は、コリメータレンズ2により平行光束に変換され、ハーフミラー10にて反射されて光学系6に入射する。光学系6では、入射した光束をレンズ3,4により拡大し、レンズ5で収束させる。光学系6から射出した収束光束は、校正基準面8にて反射して再び光学系6を通り、ハーフミラー10を透過してセンサ11に入射する。
【0014】
センサ11は、シャック・ハルトマンセンサと称されるセンサであり、多数の微小集光レンズをマトリックス状に集合したマイクロレンズアレイと、CCD等の受光素子(光電変換素子)とにより構成される。マイクロレンズアレイに入射した光は、受光素子上に集光する。入射波面の傾斜に応じて、受光素子上での集光スポットの位置が変化する。解析演算部12は、受光素子上での集光スポットの位置から入射波面の傾斜(波面傾斜)を算出し、該波面傾斜の2次元分布から2次元入射波面の位相分布を算出する。また、解析演算部12は、後述するように、受光素子上での集光スポットの位置から入射光束の角度分布も算出する。
【0015】
駆動部9は、不図示のアクチュエータによって、原器7が固定されたステージを光軸方向に移動させる。ステージの移動量は、エンコーダ等の移動量検出器を用いて精度良く測定されているものとする。解析演算部12は、CPU等を含むマイクロコンピュータにより構成され、センサ11からの出力に基づいて後述する演算を行う。
【0016】
図2には、原器7に代えてステージ上に配置された被検物71の反射面(以下、被検面という)70の形状を計測する状態とした面形状計測装置の構成を示している。この図では、被検面70の一点から発した光束20がセンサ11上の1点に収束し、センサ11と被検面70とが光学系6に対して共役関係となる位置に配置された状態を示している。
【0017】
本実施例では、光学系6が、光源1からの光束を被検面70に照射する投光光学系と、被検面70で反射された光束をセンサ11上に結像させる結像光学系として用いられている。ただし、投光光学系と、結像光学系とを分けて構成してもよい。
【0018】
また、光学系6の主点Hは、被検面70よりも外側(被検面70に対して光学系6とは反対側)に位置する。
【0019】
次に、原器7を用いた面形状計測装置の校正方法について、図3〜図5の概略図および図13のフローチャートを用いて説明する。図3〜図5には、校正基準面8が平面である場合を示している。
【0020】
装置の校正においては、まずセンサ11に平行光束が入射するように校正基準面8の光軸方向での位置を調整する(図13のステップS−11)。図3には、光学系6からの光束が校正基準面8上の1点(仮想点光源)Pに向かって収束し、該1点Pにて反射して光学系6から射出した平行光束がセンサ11に入射している状態を示している。
【0021】
図3に示した状態において、駆動部9内の不図示のコントローラは、センサ11による波面計測結果に基づいてアクチュエータを制御し、校正基準面8の位置を、光学系6の焦点位置に設定する。光学系6の焦点位置と校正基準面8の位置とが一致するときに、センサ11に平行光束が入射する。このとき、校正基準面8からの反射光束は、仮想点光源Pからの球面波と等価とみなすことができる。このように、センサ11に平行光束が入射するときの校正基準面8の位置を「原点位置」とする。原点位置は、主点Hから光学系6側にF(光学系6の焦点距離)だけ離れた位置である。
【0022】
次に、図4に示すように、駆動部9内のコントローラがアクチュエータを制御することにより、校正基準面8を原点位置から光軸方向(光学系6に接近する側)にD1だけ離れた位置に移動させる(ステップS−12)。図4に示す状態では、校正基準面8で反射した光束は、校正基準面8よりも光学系6側に位置する仮想点光源P1からの球面波と等価とみなすことができる。仮想点光源PからP1への移動量M1は、校正基準面8の移動量D1を用いて、次式(1)のように表わされる。
【0023】
M1=2・D1 (1)
仮想点光源P1からの光束は、光学系6を介して発散光束としてセンサ11に入射する。このときのセンサ11上での波面収差W(r,θ)は、Zernike多項式を用いて級数展開することができ、次式(2)のように表わされる。
【0024】
【数1】
【0025】
但し、rは瞳面の半径で規格化された半径方向の位置であり、θは角度である。Ciはi項のZernike多項式によって表わされる収差の大きさを表す係数である。ここでは、波面収差は9項までで表わされるとする。
【0026】
表1に、1〜9項までのZernike多項式を示す。
【0027】
【表1】
【0028】
センサ11に入射する波面の曲率半径Rは、Zernike多項式のデフォーカス項(Z4項)を用いて次式(3)により表わされる。
【0029】
【数2】
【0030】
但し、XはCiを計算する際に用いるセンサ11上での解析半径である。
【0031】
解析演算部12は、センサ11からの出力を用いた波面計測結果と式(3)とから、図4に示す波面の曲率半径R1を算出する(ステップS−13)。
【0032】
次に、図5に示すように、駆動部9内のコントローラがアクチュエータを制御することにより、校正基準面8を原点位置から光軸方向(光学系6にさらに接近する側)にD2(≠D1であり、D2>D1)だけ離れた位置に移動させる(ステップS−14)。このとき、校正基準面8にて反射した光束は、仮想点光源P2からの球面波と等価とみなすことができる。仮想点光源PからP2への移動量M2は、式(1)と同様に次式(4)により表わされる。
【0033】
M2=2・D2 (4)
そして、解析演算部12は、センサ11からの出力を用いた波面計測結果と式(3)とから、図5に示す波面の曲率半径R2を算出する(ステップS−15)。
【0034】
次に、解析演算部12は、以下のように、光学系6の焦点距離Fを算出する(ステップS−16)。光学系6の焦点距離Fは、仮想点光源P1,P2の原点位置からの移動量M1,M2(または校正基準面8の移動量D1,D2)とセンサ11を通して計測される波面の曲率半径R1,R2とを用いて次式(5)により表わされる。
【0035】
【数3】
【0036】
図4および図5に示されるように、光学系6の主点Hから仮想点光源P1,P2までの距離Am(m=1,2)は、光学系6の焦点距離Fと仮想点光源の移動量Mmとを用いて次式(6)により表わされる。
【0037】
Am=F+Mm (m=1,2) (6)
光学系6に対して仮想点光源Amと共役関係となる位置Bmは、結像公式から次式(7)により表わされる。
【0038】
【数4】
【0039】
図4および図5に示すように、光学系6のもう一方の主点H′からセンサ11までの距離Lは、仮想点光源Amの位置Bmと波面の曲率半径Rmとを用いて次式(8)により表わされる。
【0040】
L=Bm−Rm (8)
次に、解析演算部12は、光学系6に対してセンサ11と共役関係となる位置(光学系6に対するセンサ11との共役位置)を算出する(ステップS−17)。結像公式と式(7),(8)とから、主点Hから光学系6に対するセンサ11との共役位置(図2に示す被検面70)までの距離SAは、次式(9)により表わされる。
【0041】
【数5】
【0042】
そして、被検面70の計測を行うために、図2に示すように、共役位置に被検面70を配置する(ステップS−18)。
【0043】
また、解析演算部12は、このときの光学系(結像光学系)6の結像倍率βを、次式(10)により算出する(ステップS−19)。
【0044】
【数6】
【0045】
以上により、光学系6に対するセンサ11との共役位置と、該共役位置に被検面70を配置したときの光学系6の結像倍率βとを算出することができる。光学系6の焦点距離Fは、式(5)を用いて、計測値から求められる。このため、光学系6に対するセンサ11との共役位置と光学系6の結像倍率βもまた、式(9),(10)を用いて、計測値から算出できる。
【0046】
次に、被検面70を光学系6に対するセンサ11との共役位置に配置する方法について説明する。
【0047】
図3において、主点Hから校正基準面8までの距離Sは、光学系6の焦点距離Fと等しい。上述したように、主点Hから光学系6に対するセンサ11との共役位置までの距離SAと、主点Hから校正基準面8までの距離S(=F)が求められたので、(SA−S)だけ校正基準面8を移動させる。これにより、校正基準面8を光学系6に対するセンサ11との共役位置に配置することができる。
【0048】
このときのレンズ5から校正基準面8までの間隔d1を、不図示の面間隔測定器を用いて計測しておく。
【0049】
次に、原器7を被検物71と交換し、被検面70とレンズ5の間隔が、間隔d1に一致するように被検面70の位置を調整する。このようにして、被検面70を高精度に光学系6に対するセンサ11との共役位置に配置することができる。
【0050】
本実施例では、校正基準面8を原点位置から2回移動させ、それらの移動量とセンサ11による波面計測の結果を用いて装置の校正を行った。しかし、校正基準面8を3回以上移動させ、それらの移動量とセンサ11による波面計測の結果の平均値を用いることで、より高精度な装置の校正を行ってもよい。
【0051】
次に、本実施例における被検面70の面形状の計測手順(面形状計測方法)を、図6のフローチャートを参照しながら説明する。被検面70は、球面や非球面等の曲面である。ここでは、図2に示すように、光軸方向をz軸とし、該光軸に直交する面をxy面とする。そして、被検面70のxy面上での絶対座標を(x,y)とする。
【0052】
ステップS−1では、解析演算部12は、被検面70で反射されてセンサ11に入射した光束の受光素子上でのスポット位置であるセンサ11上の光線計測位置(X,Y)を計測する。前述したようにシャック・ハルトマンセンサは入射波面の位相分布を計測するために用いられるが、受光素子上のスポット位置からの計算によって入射光束の角度分布を求めることもできる。そこで、本ステップでは、解析演算部12は、センサ11からの出力を用いて、被検面70で反射されてセンサ11に入射する光束の角度分布(Vx,Vy)を該センサ11上の光線計測位置(X,Y)にて計測する。
【0053】
次に、ステップS−2では、解析演算部12は、上述した式(10)により算出した、つまりは装置の校正により得られた光学系6の結像倍率βを用いて、センサ11上の計測光線位置(X,Y)を被検面70上の光線位置(x,y)に変換する。
【0054】
次に、ステップS−3では、解析演算部12は、結像倍率βから算出される角倍率1/βを用いて、センサ11上の計測光線位置(X,Y)における光線角度(Vx,Vy)を被検面70上の光線位置(x,y)における光線角度(vx,vy)に変換する。
【0055】
そして、ステップS−4では、解析演算部12は、被検面70上の光線位置(x,y)と光線角度(vx,vy)とを用いて積分演算を行うことにより、被検面70の形状を求める。ここで行う積分演算としては、面の中心近傍から外側に向かって、光線位置間隔と角度とから求められる面積を加算していく方法を用いてもよい。また、光線位置(x,y)のサンプリングを持つ基底関数の微分関数を用いて、傾斜(tan(vx),tan(vy))に対してフィッティングを行い、得られた係数と基底関数を掛け合わせる方法を用いてもよい。
【0056】
以上により、装置の校正により高精度に求めた結像倍率βを用いて、すなわちレンズ3〜5により組み上げられた状態の結像光学系(光学系6)にアラインメント誤差が存在しても、被検面70の形状を高精度に計測することができる。
【0057】
センサ11としては、上述したシャック・ハルトマンセンサに限らず、入射光束の波面あるいは角度分布を計測できる他のセンサ、例えば回折格子と受光素子とを用いたシアリング干渉計あるいはタルボ干渉計を用いてもよい。
【実施例2】
【0058】
本発明の実施例2について図7〜図9を用いて説明する。本実施例では、図1に示した実施例1の面形状測定装置において、測定基準面8として、曲率半径が既知であり、光学系6に向かって凸の形状を有する曲面(球面)を用いる場合の装置の校正について説明する。
【0059】
まず、センサ11に平行光束が入射するように測定基準面8の光軸方向での位置を調整する。図7には、光学系6からの光束が校正基準面8よりも主点H側にある光学系6の焦点位置(仮想点光源)Pに向かって収束し、該校正基準面8にて反射して光学系6から射出した平行光束がセンサ11に入射している状態を示している。校正基準面8の曲率中心は、光学系6の焦点位置Pに一致している。このときの校正基準面8からの反射光束は、仮想点光源Pからの球面波と等価とみなすことができる。このように、センサ11に平行光束が入射するときの校正基準面8の位置を「原点位置」とする。原点位置は、主点Hから光学系6側にF(光学系6の焦点距離)だけ離れた位置である。
【0060】
次に、図8に示すように、図1に示した駆動部9内のコントローラがアクチュエータを制御することにより、校正基準面8を原点位置から光軸方向(光学系6から遠ざかる側)にD1だけ離れた位置に移動させる。図8に示す状態では、校正基準面8で反射した光束は、図7に示した仮想点光源Pよりも主点H側に位置する仮想点光源P1からの球面波と等価とみなすことができる。仮想点光源PからP1への移動量M1は、校正基準面8の移動量D1と校正基準面8の曲率半径Qとを用いて次式(11)により表わされる。
【0061】
【数7】
【0062】
そして、図1に示した解析演算部12は、センサ11からの出力を用いた波面計測結果と式(3)とから、図8に示す波面の曲率半径R1を算出する。
【0063】
次に、駆動部9内のコントローラがアクチュエータを制御することにより、校正基準面8を原点位置から光軸方向(図7とは反対側であって光学系6に接近する側)にD2(≠D1)だけ離れた位置に移動させる。|D2|と|D1|は同じであってもよいし、異なっていてもよい。このとき、校正基準面8にて反射した光束は、仮想点光源Pよりも主点Hとは反対側(光学系6側)に位置する仮想点光源P2からの球面波と等価とみなすことができる。仮想点光源PからP2への移動量M2は、式(11)と同様に次式(12)により表わされる。
【0064】
【数8】
【0065】
そして、解析演算部12は、センサ11からの出力を用いた波面計測結果と式(3)とから、図9に示す波面の曲率半径R2を算出する。
【0066】
さらに、解析演算部12は、実施例1と同様に、式(5)〜(10)を用いて、光学系6に対してセンサ11と共役関係となる位置(光学系6に対するセンサ11との共役位置)と、該共役位置に被検面を配置したときの光学系6の結像倍率βとを算出する。
【0067】
次に、被検面70を光学系6に対するセンサ11との共役位置に配置する方法について説明する。
【0068】
図7において、主点Hから校正基準面8までの距離Sは、光学系6の焦点距離Fと校正基準面8の曲率半径Qとを用いて次式(13)により表わされる。
【0069】
S=F+Q (13)
上述したように、主点Hから光学系6に対するセンサ11との共役位置までの距離SAと、主点Hから校正基準面8までの距離Sが求められたので、(SA−S)だけ校正基準面8を移動させる。これにより、校正基準面8を光学系6に対するセンサ11との共役位置に配置することができる。この後、実施例1と同様にして、被検面70を高精度に光学系6に対するセンサ11との共役位置に配置する。
【0070】
以上により、装置の校正により高精度に求めた結像倍率βを用いて、すなわちレンズにより組み上げられた状態の結像光学系(光学系6)にアラインメント誤差が存在しても、被検面70の形状を高精度に計測することができる。
【0071】
本実施例では、校正基準面8として光学系6に向かって凸の形状を有する球面を用いることで、実施例1のように光学系6の焦点位置まで校正基準面8を移動させる必要をなくている。このため、計測装置をコンパクトに構成することができる。
【0072】
また、本実施例では、被検面とは別の校正基準面8を用いる場合について説明したが、被検面の曲率半径が既知であれば、該被検面を校正基準面として用いて装置の校正を行うことも可能である。これにより、装置の校正時と被検面の形状計測時とで反射面を交換する必要をなくせるため、より短時間で高精度に装置の校正から被検面の形状計測までを行うことができる。
【実施例3】
【0073】
本発明の実施例3について図10〜図12を用いて説明する。実施例1,2では、装置の校正時に校正基準面8を光軸方向における互いに異なる複数の位置に移動させる場合について説明したが、本実施例では、校正基準面8を、互いに異なる既知の曲率半径を有する複数の球面(または平面)に交換して装置の校正を行う。
【0074】
まず、センサ11に平行光束が入射するように曲率半径Qaの測定基準面8aの光軸方向での位置を調整する。図10には、光学系6からの光束が校正基準面8aよりも主点H側にある光学系6の焦点位置(仮想点光源)Pに向かって収束し、該校正基準面8にて反射して光学系6から射出した平行光束がセンサ11に入射している状態を示している。校正基準面8aの曲率中心は、光学系6の焦点位置Pに一致している。このときの校正基準面8aからの反射光束は、仮想点光源Pからの球面波と等価とみなすことができる。このように、センサ11に平行光束が入射するときの校正基準面8の位置を「原点位置」とする。原点位置は、主点Hから光学系6側にF(光学系6の焦点距離)だけ離れた位置である。
【0075】
次に、図11に示すように、校正基準面8aを、曲率半径Qb(≠Qa)の校正基準面8bと交換する。この際、校正基準面8bの位置を、校正基準面8aの位置と一致させる。このとき、校正基準面8bで反射した光束は、図10に示した仮想点光源Pよりも主点H側に位置する仮想点光源P1からの球面波と等価とみなすことができる。仮想点光源PとP1との間の距離(移動量)M1は、曲率半径QaとQbを用いて、次式(14)により表わされる。
【0076】
【数9】
【0077】
そして、図1に示した解析演算部12は、センサ11からの出力を用いた波面計測結果と式(3)とから、図11に示す波面の曲率半径R1を算出する。
【0078】
次に、図12に示すように、校正基準面8bを、曲率半径Qc(≠Qa,Qb)の校正基準面8cと交換する。この際、校正基準面8cの位置を、校正基準面8a(8b)の位置と一致させる。このとき、校正基準面8cにて反射した光束は、仮想点光源Pよりも主点Hとは反対側(光学系6側)に位置する仮想点光源P2からの球面波と等価とみなすことができる。仮想点光源PとP2との間の距離(移動量)M2は、曲率半径QaとQcを用いて、次式(15)により表わされる。
【0079】
【数10】
【0080】
そして、解析演算部12は、センサ11からの出力を用いた波面計測結果と式(3)とから、図12に示す波面の曲率半径R2を算出する。
【0081】
この後は、実施例2と同様にして、装置の校正と被検面の形状計測とが可能となる。
【0082】
本実施例では、例えば、校正基準面8a,8b,8cを同一の保持部材により光軸に直交する方向に並べて保持しておき、1つの校正基準面を用いた計測の終了後に該保持部材を光軸に直交する方向にスライドさせる。これにより、同一位置に対して容易に校正基準面の交換を行うことができる。
【0083】
なお、交換可能な複数の校正基準面を、4つ以上用いてもよい。また、交換する複数の校正基準面の曲率半径を大きく異ならせる(例えば、校正基準面の1つを平面にする)ことで、仮想点光源の移動量を大きくすることができる。これにより、校正基準面の光軸方向での位置調整可能量が小さい装置であっても、高精度に装置の校正を行うことができる。
【0084】
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0085】
被検面の形状を高精度に計測することができる面形状計測装置を提供できる。
【符号の説明】
【0086】
1 光源
6 光学系(投光光学系、結像光学系)
7 校正用原器
8 校正基準面
11 センサ
12 解析演算部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの光を被検面に照射する投光光学系と、
前記被検面で反射された光を結像させる結像光学系と、
前記結像光学系により結像された光を受光するセンサと、
該センサからの出力を用いて前記被検面の形状を計測する計測手段とを有し、
前記計測手段は、
前記光源から前記投光光学系を介して校正基準面に照射され、該校正基準面で反射されて前記結像光学系を介して前記センサに入射した光の波面の曲率半径を該センサからの出力を用いて算出し、
該曲率半径を用いて前記結像光学系の焦点距離を算出し、
該焦点距離を用いて、前記結像光学系に対して前記センサと共役関係となる共役位置を算出し、
前記焦点距離と前記共役位置とから前記結像光学系の結像倍率を算出し、
前記共役位置に前記被検面を配置したときの前記センサからの出力と前記結像倍率とを用いて前記被検面の形状を計測することを特徴とする面形状計測装置。
【請求項2】
前記校正基準面が、前記投光光学系および前記結像光学系に向かって凸の形状を有する曲面であることを特徴とする請求項1に記載の面形状計測装置。
【請求項3】
光源からの光を被検面に照射する投光光学系と、前記被検面で反射された光を結像させる結像光学系と、前記結像光学系により結像された光を受光するセンサとを用いて、前記被検面の形状を計測する面形状計測方法であって、
前記光源から前記投光光学系を介して校正基準面に照射され、該校正基準面で反射されて前記結像光学系を介して前記センサに入射した光の波面の曲率半径を該センサからの出力を用いて算出し、
該曲率半径を用いて前記結像光学系の焦点距離を算出し、
該焦点距離を用いて、前記結像光学系に対して前記センサと共役関係となる共役位置を算出し、
前記焦点距離と前記共役位置とから前記結像光学系の結像倍率を算出し、
前記共役位置に前記被検面を配置したときの前記センサからの出力と前記結像倍率とを用いて前記被検面の形状を計測することを特徴とする面形状計測方法。
【請求項1】
光源からの光を被検面に照射する投光光学系と、
前記被検面で反射された光を結像させる結像光学系と、
前記結像光学系により結像された光を受光するセンサと、
該センサからの出力を用いて前記被検面の形状を計測する計測手段とを有し、
前記計測手段は、
前記光源から前記投光光学系を介して校正基準面に照射され、該校正基準面で反射されて前記結像光学系を介して前記センサに入射した光の波面の曲率半径を該センサからの出力を用いて算出し、
該曲率半径を用いて前記結像光学系の焦点距離を算出し、
該焦点距離を用いて、前記結像光学系に対して前記センサと共役関係となる共役位置を算出し、
前記焦点距離と前記共役位置とから前記結像光学系の結像倍率を算出し、
前記共役位置に前記被検面を配置したときの前記センサからの出力と前記結像倍率とを用いて前記被検面の形状を計測することを特徴とする面形状計測装置。
【請求項2】
前記校正基準面が、前記投光光学系および前記結像光学系に向かって凸の形状を有する曲面であることを特徴とする請求項1に記載の面形状計測装置。
【請求項3】
光源からの光を被検面に照射する投光光学系と、前記被検面で反射された光を結像させる結像光学系と、前記結像光学系により結像された光を受光するセンサとを用いて、前記被検面の形状を計測する面形状計測方法であって、
前記光源から前記投光光学系を介して校正基準面に照射され、該校正基準面で反射されて前記結像光学系を介して前記センサに入射した光の波面の曲率半径を該センサからの出力を用いて算出し、
該曲率半径を用いて前記結像光学系の焦点距離を算出し、
該焦点距離を用いて、前記結像光学系に対して前記センサと共役関係となる共役位置を算出し、
前記焦点距離と前記共役位置とから前記結像光学系の結像倍率を算出し、
前記共役位置に前記被検面を配置したときの前記センサからの出力と前記結像倍率とを用いて前記被検面の形状を計測することを特徴とする面形状計測方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−208012(P2012−208012A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73855(P2011−73855)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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