説明

面発光体及び表示装置

【課題】面発光素子を備えた面発光体から出射される光の正面輝度を大きく向上させる。
【解決手段】光出射側の表面に回折格子が形成された面発光素子と、片面に規則的な凹凸がある調光シートとを備え、回折格子により偏向した光を調光シートにより正面方向に屈折させる面発光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、面発光素子を備えた面発光体及び表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報機器の多様化等にともなって、消費電力が少なく、容積が小さい面発光素子のニーズが高まり、このような面発光素子として、有機エレクトロルミネッセンス素子や、無機エレクトロルミネッセンス素子といった面発光素子が存在する。しかし、このような面発光素子は発光した光のうち、空気中に出射される割合が高くないことが知られている。その理由を、有機エレクトロルミネッセンス素子を例にとって説明する。
【0003】
有機エレクトロルミネッセンス素子の構造の概略図を図1に示す。ボトムエミッション型の有機エレクトロルミネッセンス素子100は透明基板101の光出射側面とは反対側の面上に透明電極102、有機層103、金属電極104が順次積層されており、有機層103には発光層が含まれている。有機層103から発光した光は透明電極102、透明基板101を通過して空気中へ出射される。
【0004】
有機層103から発光した光は透明電極102と透明基板101の屈折率の違いにより、臨界角以上の角度で両者の界面に達すると全反射を起こし透明基板内へ入ることができない。同様に透明基板101と空気の屈折率の違いにより、両者の界面に臨界角以上の角度で達した光は全反射を起こすため、外部に取り出すことができない。このため、一般に有機エレクトロルミネッセンス素子のような面発光素子では、発光層で発生した光のうち、20〜30%は透明基板、40%〜60%は透明電極や有機層に閉じこめられ、結果として残りの20〜30%しか空気中に取り出すことが出来ないと言われている。よって、面発光素子においては、発光層で発光した光を有効利用することが重要な項目となっている。
【0005】
発光層で発光した光を有効利用するための手段の1つとしては、全反射によって素子内部に閉じこめられている光を取り出すこと(光取り出し効率を改善すること)が挙げられる。特許文献1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、発光素子の発光側表面、すなわち発光素子の発光表面と大気との界面である光取り出し面に、特定形状の透過型微細凹凸構造を設け、該構造の回折現象により、全反射により透明基板内に閉じこめられている光を取り出し、光取り出し効率を向上させている。
【0006】
発光層で発光した光を有効利用するためのその他の手段としては、出射された光を集光して特定の方向の輝度を向上させることが挙げられる。特許文献2では、有機ELデバイスの光取り出し側に、光取り出し面に対して凸の断面が三角形状の第一の凸部が複数設けられた光取り出しシートと、光取り出しシート上に、光取り出し面と概略平行に設定された光入射面と、光出射側に光入射面に対して凸の断面が三角形状の第2の凸部を複数有するプリズムシートを設けることが提案されている。特許文献2に記載のデバイスでは、従来の有機ELデバイスでは臨界角以上のため全反射していた入射角の光を、光取り出しシートに設けた凸部の斜面に入射させることで、入射角を変化させ、屈折によって外部へと取り出し(光取り出し効率向上)、前記光取り出しシートによって取り出された光のうち、斜め方向に進む光をプリズムシートの凸部の斜面に入射させることで、屈折により概ね発光面に対して垂直な方向(正面方向)に集めて(集光)、正面方向の輝度を向上するとされている。
【0007】
さらに、光取り出し効率を向上させるその他の手段として、特許文献3においては、発光体の光取り出し面に、フィルムにそのフィルムとは屈折率の異なる微粒子を添加した拡散器(体積拡散器、表面拡散器等)を設けることが提案されている。これによって本来全反射する角度で光取り出し面に入射した光は、拡散器内の粒子にあたり、散乱されることで角度が変わり、そのうち全反射を起こさない角度に変換された光を取り出すことで光取り出し効率を向上させている。
【特許文献1】特開2004−31221号公報
【特許文献2】特開2005−63926号公報
【特許文献3】特表2004−513484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されている有機エレクトロルミネッセンス素子では、素子の光の存在場所とその割合から考えると、仮に透明基板内の光を全て取り出したとしても、その効率は2倍程度であり、実験例においても1.5倍程度の効率しか得られない。
【0009】
また、特許文献2に記載の発光デバイスのように屈折を利用して光取出しを行うと、従来の有機ELデバイスでは発光層から正面方向に出射した光はそのまま空気中へ取り出せていたものが、発光層から正面方向に出射した光は逆に全反射を起こし、利用できなくなってしまうという問題がある。つまり、発光層において発生した光のうち斜め方向に進む成分をある程度取り出すことはできても、かえって正面方向への出射光取出しを妨げることになり十分に効率を向上させることができない。
【0010】
さらに、特許文献3においては文献1、2における問題は生じにくいが、ランダムに添加された粒子によって光の光路が変わるため、波長選択性がなく、特定の波長の輝度を特に高めることに不向きである。
【0011】
このように従来の面発光体では光を有効利用し、特定波長の光の特に正面方向の輝度を向上させるという点においては、まだその効果は十分ではなかった。
【0012】
従って、本発明の課題は、面発光素子で発生する意図した特定波長の光をより簡単に、効果的に有効利用し、特に正面方向の輝度を従来の素子に比べて格段に向上させ得る面発光体およびこれを用いた表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者は、鋭意研究を重ねたところ、以下の記載の何れかの構成により、前記課題を解決することができた。
【0014】
1.
光出射側の表面に回折格子が形成された面発光素子と、該回折格子に空間を介して向き合うように配置させた少なくとも片面に規則的な凹凸がある調光シートとを備え、
前記回折格子は、前記面発光素子から出射する光の方向を回折により、前記面発光素子の発光面に対して垂直な方向とは異なる所定の方向に偏らせ、前記調光シートは、前記回折格子によって偏った前記光のうち、強く出射する方向の光を屈折によって前記発光面に対して垂直な方向に出射させることを特徴とする面発光体。
【0015】
2.
前記回折格子の周期は、回折させようとする光の波長の1〜10倍であることを特徴とする1に記載の面発光体。
【0016】
3.
前記回折格子は単位格子が周期的に2次元的に配置されていることを特徴とする1又は2に記載の面発光体。
【0017】
4.
前記回折格子と前記調光シートの回転対称性が同じであることを特徴とする1乃至3の何れか1項に記載の面発光体。
【0018】
5.
前記単位格子は略角柱若しくは略円柱の構造体を含むことを特徴とする1乃至4の何れか1項に記載の面発光体。
【0019】
6.
前記単位格子は略角錐若しくは略円錐の構造体を含むことを特徴とする1乃至4の何れか1項に記載の面発光体。
【0020】
7.
前記調光シートは複数枚のシートを重ね合わせたものであることを特徴とする1乃至6の何れか1項に記載の面発光体。
【0021】
8.
前記調光シートは何れか1方の面に周期が10μm以上1mm以下の規則的な凹凸を有することを特徴とする1乃至7の何れか1項に記載の面発光体。
【0022】
9.
表示素子と1乃至8の何れか1項に記載の面発光体とを備え、該面発光体を前記表示素子のバックライトとして用いることを特徴とする表示装置。
【0023】
10.
1乃至8の何れか1項に記載の面発光体を備え、該面発光体を構成する面発光素子が、平面状にマトリクス配置された複数の画素を備えていることを特徴とする表示装置。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、光出射側の表面に回折格子が形成された面発光素子と、該回折格子に空間を介して向き合うように配置させた少なくとも片面に規則的な凹凸がある調光シートとを備え、前記回折格子は、前記発光素子から出射する光の方向を回折により、前記発光素子の発光面に対して垂直な方向とは異なる所定の方向に偏らせ、前記調光シートは、前記回折格子によって偏った前記光のうち、強く出射する方向の光を屈折によって前記発光面に対して垂直な方向に出射させる面発光体を用いることにより、面発光素子で発生する意図した特定波長の光をより簡単に、効果的に有効利用し、特に正面方向の輝度を従来の素子に比べて格段に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、この発明の実施形態に係る面発光体を添付図面に基づいて具体的に説明する。なお、この発明に係る面発光体は、下記の実施形態に示したものに限定されず、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0026】
(第1の実施形態)
以下に本発明の第1の実施形態である面発光体20の構成を説明する。図2は第1の実施形態に用いた構成を示しており、面発光の機能を有する発光層を備えた発光素子201の光出射側表面に回折格子202が形成されている。回折格子202は円柱が2次元的に周期的に配置された構造をしている。また、前記回折格子202上には、光出射側表面に周期的な三角屋根構造をもった調光シート203が空間を介して向き合うように配置されており、さらに前記調光シート上には、光出射側表面に周期的な三角屋根構造をもった調光シート204が、前記調光シートと三角屋根構造の向きが概略直交するように、空間を介して向き合うように配置されている。
【0027】
ここで本実施形態において、デバイスの正面輝度が格段に向上する理由を説明する。まず、発光層で発光した光は回折格子202に達する。回折格子の効果は、簡単のために、1次元の回折格子を例にとって説明すると、例えば図3のように入射して、ある回折格子でθ方向に回折された光と次の回折格子でθ方向に回折された光の光路差が入射した光の波長λnの整数倍になるとき、その方向に出射される光は干渉によって強めあう。特に図3の場合は強めあう光の方向θと、回折格子の周期d、入射する光の波長λnの関係は、
(1−cosθ)d=N・λn (Nは自然数) (1)
の式であらわされる。この結果、回折格子を通過した光はある特定の方向に配向特性が偏る。配向特性が偏る方向は前記の式で示したように回折格子の周期と屈折率、空気中に出射される光の波長から簡単に求めることができる。逆に素子設計において、特定の波長の配向特性を意図した方向に偏らせたい場合は、空気中に出射される光の波長は設計によって決定され、回折格子の屈折率も回折格子の材質によって決まるため、回折格子の周期を変化させることで簡単に意図した方向に配向特性を偏らせることが可能となる。
【0028】
ここで、配向特性を偏らせるとは、出射する光を特定の方向に偏らせることを意味し、以下同様に用いている。
【0029】
よって特許文献3の拡散器のようなランダムな拡散を利用したデバイスよりも意図した調光機能を持つデバイスを容易に得ることができ、取り出したい光の波長の制御も容易である。また、この回折現象は種々の方向から入射する光に対して起こるため、従来の面発光素子では、全反射していた角度で入射した光も回折によって取り出せる。そのため、光取り出し効率も向上する。さらに、回折により特定方向に偏らせた光を正面方向に向けて屈折させるので、屈折による光取出しを利用した特許文献2のデバイスのように、ある方向に進む光を取り出せるようになるかわりに他の方向に進む光が逆に取り出せなくなるということは原理的に生じない。そのため、屈折による光取りだしよりも、光取出し効率を向上させることができる。このように、回折格子202を通過した光は、回折格子により光の利用効率が向上し、さらに特定の方向に配向特性が偏っているため、配向特性が偏った方向の光の強度は非常に大きくなる。そして、図2のような構造の回折格子を用いた場合は図4の(a)、(b)に示すように4回対称性を持つ4方向に出射される光の強度が大きくなる。
【0030】
次に、回折格子202を通過した光は、回折格子202上に設けられた調光シート203に達する。調光シート203は図5に示すように、斜め方向に入射した光を、光出射側表面に設けられた三角屋根構造の斜面に当て、光を屈折させることで、光の進む方向を変化させる。このため、回折格子202を通過して配向特性が4方向に偏った光が調光シート203に入射すると、調光シート203が1次元的に周期的な構造をしており、屋根が2方向についているため、図6に示すように4方向の光のうち、2方向ずつが同じ方向に出射され、配向特性が2方向に偏ることになる。この時、この2方向の光は先程の4方向の光の2方向が集光されているため、1方向ごとの強度は調光シート通過前より大きくなっている。
【0031】
最後に調光シート204に達した光は、先程と同様に調光シートによって光の進む向きが変換される。この時、調光シート204は調光シート203に対して三角屋根構造の向きが概略直交するように配置されているため、光の向きを変化させる効果が調光203に対して90°異なる。この結果、調光シート203によって配向特性が2方向に偏った光は、図7のように調光シート204によって正面方向に向きが変化される。この時、この光は2方向の光が集光されているので、その強度がさらに増大する。以上の結果により、正面方向の輝度が格段に向上する。
【0032】
調光シートに用いられる規則的な凹凸は、前記三角屋根構造に限らず、屈折により配向特性の偏った光を正面方向に変えられる形状であればよい。また、この調光シートの凹凸の周期は、10μm以上1mm以下が好ましい。本実施形態で用いる発光素子の発光波長は可視域を想定しているため、10μm以下では凹凸の周期が発光波長の10数倍程度となり、調光シートで回折現象が起こり始め、好ましくない。また、1mm以上では、面発光体自身の大きさが大きくなるため、小型化、軽量化、薄型化の面で好ましくない。
【0033】
(第2の実施形態)
次に第2の実施形態である面発光体30の構成を説明する。図8は、第2の実施形態に用いた構成を示す。面発光の機能を有する発光層を備えた発光素子301の光出射側表面に回折格子302が形成されている。回折格子は円柱が2次元的に周期的に配置された構造をしている。また、前記回折格子上には、光出射側表面に周期的な四角錘の構造をもった調光シート303が空間を介して向き合うように配置されている。ここで、調光シート303に入射するまでの光の振る舞いは前記第1の実施形態と同様なので省略する。ここで調光シート303は前記第1の実施形態で用いた三角屋根構造をもった調光シートと同様に出射される光の向きを変換させる効果を持っているが、調光シート303は2次元的な四角錘の構造を有しており、斜面が4方向に存在している。これによって図9に示すように調光シート303を用いると、回折格子302で配向特性が4方向に偏った光の進む向きを、一度に正面方向に変換することが出来る。この時も、出射される光が4方向の光が集光されているので、その強度は非常に大きくなる。
【0034】
次に、各構成要件の詳細について説明する。
【0035】
発光素子としては有機エレクトロルミネッセンス素子や、無機エレクトロルミネッセンス素子などの面発光の機能を有する素子であればよい。
【0036】
回折格子の形状は単位格子が周期的に1次元的に配置されている形状としてもよいが、好ましくは単位格子が周期的に2次元的に配置されている形状とする。これは発光体が2次元的に発光するため、単位格子が周期的に2次元的に配置されている方が効率よく光を取り出せるためである。例えば正方格子状に円錐や円柱、角錐や角柱が配置された形状や三角格子状に円錐や円柱、角錐や角柱が配置された形状が考えられる。
【0037】
また、回折格子の周期構造の周期は回折させたい光の波長の1〜10倍が好ましい。これは屈折ではなく回折の効果が得られる周期が、おおよそ前記の範囲だからである。また、さらに好ましくは回折格子の周期構造の周期は回折させたい光の波長の1〜2倍がよい。これは回折現象が起こった際、高次の回折光が発生しないため、後述する調光シートの設計が1次の回折光に対してのみに絞って行えるので、設計が簡単になるからである。
【0038】
回折格子の形成方法は発光素子の光出射側表面のドライエッチング加工やインプリンティング等の従来の微細加工プロセスを用いて形成しても良い。また、回折格子を形成したフィルムや基板を粘着性のテープや硬化性の樹脂によって発光体表面に接着しても構わない。ただし、接着する場合は回折格子を形成した材料の屈折率が発光体の光出射側表面の材料の屈折率に対して±0.5以内であることが好ましい。さらに好ましくは回折格子を形成した材料の屈折率が発光体の光出射側表面の材料の屈折率に対して±0.1以内であることが好ましい。また、接着面に気泡を残さないことが好ましい。これは屈折率の異なる部分が存在すると全反射によって空気中に取り出せない光が発生するためである。
【0039】
回折格子と調光シートとの間隔は1〜200μmが好ましい、さらに好ましくは1〜10μmがよい。これは、回折格子の端面付近から素子外側へ向けて出射された光であっても、なるべく調光シートに入射させるためである。
【0040】
調光シートの凹凸は、例えば片面に三角屋根が周期的に設けられた形状や、片面に四角錐や三角錐が周期的に設けられた形状、また片面に四角錐や三角錐の頂角付近が丸くなった構造体が周期的に設けられた形状などが挙げられる。また、調光シートの上にはさらに空間を介して調光シートを乗せてもよい。この場合の調光シート同士の間隔は前記回折格子と調光シートの間隔と同様、1〜200μmが好ましく、さらに好ましくは1〜10μmがよい。
【0041】
回折格子と調光シートの対応関係については、まず回折格子と調光シートが同じ回転対称性をもっていることが好ましい。これは例えば実施形態で説明に用いた回折格子は4回対称性をもっており、この場合、回折格子を通過した光の配向特性は、4回対称性を反映して4方向に偏る。これに対して第2の実施形態で用いた四角錘の構造をもった調光シートも4回対称性をもっており、この場合4方向の光を集光することが可能となる。よって、回折格子と調光シートが同じ回転対称性をもっていると、配向特性が偏る方向と、集光できる方向を一致させることができるため、非常に効率よく正面輝度を向上させることができる。
【0042】
また、調光シートは、第1の実施形態で2回対称性の調光シートを概略直交させて用いて4方向の光を集光させたように、複数枚のシートを用いて擬似的に回折格子と同一の回転対称性を実現しても構わない。もちろん、回転対称性については前記の4回対称性以外にも2回対称性や6回対称性等の他の対称性に置き換えても構わない。
【0043】
また、本発明においては回折格子で配向特性が偏った光のうち、強く出射される方向の光を調光シートで正面方向に集光させることを特徴としているが、その設計方法については例えば以下のように行うことができる。まず、回折させたい光の波長を決定する。決定方法は例えば単色のデバイスを作製する場合はその発光波長に合わせればよいし、他の例として有機エレクトロルミネッセンス素子において、赤、緑、青に発光する発光層を積層し白色のデバイスを作製する場合、発光強度を補うために、発光強度の低い色の波長に合わせたり、素子の寿命を延ばすために、劣化が激しい発光体の発光波長に合わせればよい。次に回折格子によって強く出射される方向を決定するために、回折格子の周期を決定する。回折格子の周期と、強く出射される光の方向の関係は式(1)より簡単に求めることができる。次に回折格子によって強く出射される光の方向が、正面方向に変換されるように、調光シートの屈折率と凸部の頂角の角度を決定する。この場合正面方向とは好ましくは発光面に対して垂直な方向に対して±5°以内、さらに好ましくは±2°以内がよい。また、複数枚の調光シートを用いた場合は、全ての調光シートの屈折の効果を足し合わせた結果、前記の効果が得られるようにそれぞれの屈折率と凸部の頂角を設計すればよい。なお、屈折率は材料の物性によって決まり、頂角の角度についてはスネルの法則を用いれば光の入射角と出射角の関係が簡単に求まるので、そこから求めることができる。
【0044】
(第3の実施形態)
図10に、本発明の第3の実施形態である表示装置60を示す。この表示装置60は、第1及び第2の実施形態で説明したいずれかの構成(ここでは第1実施形態の構成を図示してある)を持つ面発光体20と光変調素子50とで構成される。光変調素子50としては、それぞれ透明電極が形成された一対の透光性基板間に液晶層を挟持してなる透過型又は半透過型の液晶表示素子を採用している。ここでは、面発光体20は光変調素子50のバックライトとして用いられる。面発光体20から光変調素子50に向けて出射された光は、光変調素子によってきた光は、光変調素子を駆動回路によって画素単位でスイッチングさせることにより変調され、観察者に画像として認識される。
【0045】
(第4の実施形態)
図11に、本発明の第4の実施形態である表示装置70を示す。この表示装置70は、面発光素子である有機EL素子201の透明電極又は対向電極のうちの少なくとも一方をパターニングすることで、2次元的にマトリクス状に配列された画素を形成し、任意の画像を表示できるようにした表示素子を面発光素子として用いたものである。この面発光素子201の光の出射面に第1又は第2実施形態で説明した回折格子202を形成し、さらに調光シートを取り付けることで面発光体20(ここでは第1実施形態の構成を図示してある)を作製している。このような表示装置は公共の場所に設置される大型ディスプレイなど比較的画素サイズの大きな用途に適している。
【実施例】
【0046】
次に、この発明の実施例に係る面発光体と比較例の面発光体とを比較し、この発明の実施例に係る面発光体においては、面発光体から出射される光の正面輝度が大きく向上することを明らかにする。
【0047】
(実施例1〜8)
実施例1においては、上記の第1の実施形態(図2参照)に示す構成のものを用いた。有機EL素子としては、透明基板の上面に透明な陽極が形成されており、この陽極の上面に有機EL層を設け、透明基板側に光を出射する、いわゆるボトムエミッション型の有機EL素子である。陽極の上面には、正孔輸送層が設けられている。さらにこの正孔輸送層の上面に発光層が設けられ、その上面に正孔阻止層が設けられている。正孔阻止層の上面に電子輸送層が設けられ、さらに電子輸送層の上面に陰極が設けられている。透明基板として、無アルカリガラス(厚み0.7mm、サイズ40mm×52mm)を用い、その上に陽極としてITOを150nm成膜した基板に一般的なフォトリソグラフィー法によって電極形状のパターニングを行った。この時の陽極の抵抗は、三菱化学社製ロレスタを用いて測定し、20Ω/□であった。また、陽極の大きさは、35×46mmとした。正孔輸送材料とし、トリアゾール誘導体を用い、真空蒸着法により、薄陽極の上面に厚さ100nmに形成した。発光層として、トリス(8−キノリノラト)アルミニウムを真空蒸着法により100nmの厚さに形成した。正孔阻止層として、トリアジン誘導体を真空蒸着法により100nmの厚さに形成した。電子輸送層として、ニトロ置換フルオレン誘導体を真空蒸着法により100nmの厚さに形成した。陰極としては、アルミニウムを100nmの厚さにスパッタ法で形成した。この面発光素子20の出射面における屈折率は1.517であった。
【0048】
この面発光素子201の出射面側に回折格子202を形成したシートを貼り付けた。このシートは屈折率が1.52で、その表面に、高さ400nm、直径560nmの円柱が表1に示す各実施例に応じて400nmから6000nmの周期(d)で正方格子状に配置されている(図12参照)。このシートを面発光素子の出射面側に熱硬化樹脂により接着した。次にこの回折格子202の上に三角屋根構造の調光シートを2枚、互いに三角屋根構造の向きが概略直交するように配置して実施例1〜8を作製した。図13に用いた調光シートの構造を示す。この調光シートは屈折率が1.5で、頂角100°、三角屋根の周期は50μmである。
【0049】
(実施例9)
実施例2においては、上記の第2の実施形態(図8参照)に示す構成のものを用い、調光シートを図14に示す調光シート303を用いた他は、実施例1と同様に作製した。調光シート303の断面図を図14(a)、構造図を図14(b)に示す。頂角90°の四角錘の構造をしている。屈折率1.5で四角錘の周期は50μmである。
【0050】
(比較例1)
比較例1においては、実施例1に用いた面発光素子20をその出射面に回折格子を設けず、また、調光シートも用いずに、図15に示すようにそのまま面発光体として用いるようにした他は、実施例1と同様に作製した。
【0051】
(比較例2)
比較例2においては、実施例1に用いた面発光素子20の出射面の回折格子に替えて、四角錘状の光取りだしシート90を接着した図16に示す構成とした他は、実施例1と同様に作製した。図17、図18は光取り出しシート90の断面図と構造図で、四角錘の周期は50μm、頂角は90°である。
【0052】
上記の実施例1〜9及び比較例1、2の各面発光体における面発光素子を発光させて、それぞれの面発光体における配光特性を調べると共に、上記の比較例1の面発光体の正面輝度を1とした場合における、各面発光体の正面輝度を求めた。なお、配向特性は、角度−輝度測定器により面発光体の法線方向を0°とした場合に、法線方向を含む面内において法線に対して所定の角度をなす方向における輝度を、角度を変化させながら測定して求めた。
【0053】
測定波長550nmにおける実施例1の配向特性の測定結果を図19に示し、比較例1の配向特性の測定結果を図20、比較例2の配向特性の測定結果を図21に示す。実施例1〜9及び比較例1、2の測定波長550nmでの正面輝度の測定結果を表1にまとめて示す。また、実施例1において、測定波長を変化させたときの正面輝度を表2に示す。
【0054】
評価結果は、正面輝度が1.5倍以上1.7倍未満を△、1.7倍以上1.9倍未満を○、1.9倍以上を◎とした。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
表1の結果から、発光素子の出射面に回折格子を設け、回折された光を調光シートにより正面方向に屈折させることにより、正面輝度を大幅に向上できることが分かる。また、回折格子の周期を得ようとそする光の波長(この場合550nm)の1〜10倍であればその効果が大きく、さらには1から2倍であれば大幅に正面輝度が向上することが分かる。また、表2は第1の実施例と同じ構成において回折格子の周期は800nmで固定し、測定波長を変化させた場合の正面輝度を示したものである。この場合、波長585nmの光に対する正面輝度が一番大きくなっている。このことは回折格子の設定条件により正面輝度を高くできる波長を選択できることを示しており、例えば有機エレクトロルミネッセンス素子で白色デバイスを作製する際、発光体自身の発光強度が585nmだけ低ければ、本発明を用いれば、その強度を補えることがわかる。また、強度の弱い光が他の波長の場合は、回折格子の周期を変化させることで、その波長の強度を最も補えるように最適化可能なことは言うまでもない。
【0058】
(実施例10)
実施例10においては、実施例1と同様に作製した面発光体20と、液晶表示素子50とを用いて、図10に示す構成の表示装置60を作製した。液晶表示素子50は、それぞれ透明電極が形成された一対の透光性基板間に液晶層を挟持してなる透過型のものである。面発光体から出射したバックライトとしての光は、観察側に設けられた液晶表示素子50に向けて出射される。液晶表示素子50に入ってきた光は、図示していない駆動回路により、液晶層を画素単位でスイッチングさせて変調され、観察者によって画像として認識される。ここで、面発光体から出射する光の配向特性は、図19における配向特性となる。この配向特性は、液晶表示素子を通過後も同じ配向特性の傾向を示す。このように面発光素子の光出射面に回折格子を設け、この回折格子で偏向した光を正面方向に屈折させる調光シートを用いることにより、表示装置に求められる正面輝度の高い配向特性を持つ表示装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】有機エレクトロルミネッセンス素子の一般的な構造の概略図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る面発光体を示した概略図である。
【図3】1次元の回折格子の回折の様子を示した概略図である。
【図4】本発明の第1の実施形態において回折格子を通過した光が特定の方向に偏ることを示した概略図である。
【図5】調光シートの効果によって光の進む向きが変換されることを示した概略図である。
【図6】本発明の第1の実施形態において1枚目の調光シートの集光の効果を示した概略図である。
【図7】本発明の第1の実施形態において2枚目の調光シートの集光の効果を示した概略図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る面発光体を示した概略図である。
【図9】本発明の第2の実施形態において調光シートの集光の効果を示した概略図である。
【図10】本発明の第3の実施形態に係る表示素子の構成を示した概略図である。
【図11】本発明の第4の実施形態に係る表示素子の構成を示した概略図である。
【図12】本発明の実施例に用いた回折格子の概略図である。
【図13】本発明の実施例に用いた調光シートの概略断面図である。
【図14】本発明の実施例に用いた調光シートの概略構造図である。
【図15】比較例1に用いた面発光体を示す概略断面図である。
【図16】比較例2に用いた面発光体を示す概略構成である。
【図17】比較例2に用いた光取りだしシートの概略断面図である。
【図18】比較例2に用いた光取りだしシートの概略図である。
【図19】実施例1によって得られた配向特性を表した図である。
【図20】比較例1によって得られた配向特性を表した図である。
【図21】比較例2によって得られた配向特性を表した図である。
【符号の説明】
【0060】
100 有機エレクトロルミネッセンス素子
101 透明基板
102 透明電極
103 有機層
104 金属電極
20、30 面発光体
201、301 発光素子
202、302 回折格子
203、204、303 調光シート
50 光変調素子
60、70 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光出射側の表面に回折格子が形成された面発光素子と、該回折格子に空間を介して向き合うように配置させた少なくとも片面に規則的な凹凸がある調光シートとを備え、
前記回折格子は、前記面発光素子から出射する光の方向を回折により、前記面発光素子の発光面に対して垂直な方向とは異なる所定の方向に偏らせ、前記調光シートは、前記回折格子によって偏った前記光のうち、強く出射する方向の光を屈折によって前記発光面に対して垂直な方向に出射させることを特徴とする面発光体。
【請求項2】
前記回折格子の周期は、回折させようとする光の波長の1〜10倍であることを特徴とする請求項1に記載の面発光体。
【請求項3】
前記回折格子は単位格子が周期的に2次元的に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の面発光体。
【請求項4】
前記回折格子と前記調光シートの回転対称性が同じであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の面発光体。
【請求項5】
前記単位格子は略角柱若しくは略円柱の構造体を含むことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の面発光体。
【請求項6】
前記単位格子は略角錐若しくは略円錐の構造体を含むことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の面発光体。
【請求項7】
前記調光シートは複数枚のシートを重ね合わせたものであることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の面発光体。
【請求項8】
前記調光シートは何れか1方の面に周期が10μm以上1mm以下の規則的な凹凸を有することを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の面発光体。
【請求項9】
表示素子と請求項1乃至8の何れか1項に記載の面発光体とを備え、該面発光体を前記表示素子のバックライトとして用いることを特徴とする表示装置。
【請求項10】
請求項1乃至8の何れか1項に記載の面発光体を備え、該面発光体を構成する面発光素子が、平面状にマトリクス配置された複数の画素を備えていることを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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