説明

面発光素子

【課題】 光の取り出し効率を向上することのできる面発光素子を提供する。
【解決手段】 面発光素子10は、透明基板11と、透明基板11上に順に形成された、第1の電極12、正孔および電子を注入することにより発光する発光層13および第2の電極14とを備える。第1の電極12は、透明基板11の法線方向に対して垂直な方向に周期構造を持ち、発光層13に正孔を注入する。発光層13の正孔が注入される部分が、透明基板11の法線方向に対して垂直な方向に周期構造を持つため、発光層13に周期構造を持つ屈折率分布が形成される。この屈折率分布によって発光層13が回折格子を形成し、発光層13から発光した光が透明基板11方向に回折する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光層を有する有機EL素子や無機EL素子等の面発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来各種の面発光素子が提案されている。例えば、有機EL素子や無機EL素子等のエレクトロルミネッセンス(Electroluminescence;EL)を利用する面発光素子は、ガラス基板に形成されたITO(Indium Tin Oxide)等から成る透明電極上に電圧の印加により発光する発光層が形成される。発光層上にはアルミニウム等から成る背面電極が形成される。
【0003】
発光層は有機化合物等から成り、透明電極から注入された正孔と背面電極から注入された電子とが再結合して発光する。発光層で発光した光は透明電極およびガラス基板を透過してガラス基板の出射面から出射される。また、一部の光は背面電極で反射して透明電極に到達し、出射面から出射される。
【0004】
この面発光素子は、発光層と透明電極との界面、透明電極とガラス基板との界面、および出射面で入射角が臨界角以下である光が全反射して導波モードとなり、発光層内、透明電極内およびガラス基板内を導波する。このため、出射面から出射される光が少なく、光の取り出し効率が低いという問題があった。特に、有機EL素子は、寿命等の観点から光の取り出し効率の一層の向上が求められている。光の取り出し効率の向上は、他の面発光素子(例えば、LEDも一種の面発光素子である)にも求められる共通の課題である。
【0005】
上記問題を解決するために、特許文献1には回折格子を有した面発光素子が開示されている。この面発光素子は、回折格子が透明電極とガラス基板との境界または発光層と金属電極との境界に設けられている。発光層で発光した光は、導波モードの光も含めて回折格子で回折し、ガラス基板の出射面に到達する光の入射角を臨界角よりも大きく可変する。これにより、透明電極とガラス基板との界面および出射面で全反射する光を低減して、光の取り出し効率を向上させることができる。
【0006】
また、特許文献2では、基板に屋根型の傾斜を有する凹凸形状を設け、発光層や電極をこの基板の凹凸形状に対して平行に構成した面発光素子が開示されている。この面発光素子では、発光層で発光した光で直接出射面方向に向かわなかったものは、この凹凸形状で反射して出射面から出射することができる。これにより、光の取り出し効率を向上させることができる。
【特許文献1】特許2991183号公報(第5頁−第7頁、図7)
【特許文献2】特許3584575号公報(第5頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1で開示された面発光素子は、発光層で発光した光を、全反射を回避するような方向に回折させる回折格子を備えているが、発光位置と回折位置とが離れているため回折の効果は大きくなく、光の取り出し効率もあまり大きく向上しない。
【0008】
また、特許文献2で開示された面発光素子では、電極や発光層の凹凸形状の角が、発光層へ注入した電荷が集中するため傷みやすく、素子の寿命が短くなってしまう。
【0009】
そこで、本発明は、光の取り出し効率を更に向上することができ、また電荷の集中による素子の劣化の少ない面発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、基板と、前記基板上に順に形成された、第1の電極、正孔および電子を注入することにより発光する発光層および第2の電極とを備えた面発光素子において、前記第1の電極および前記第2の電極に電圧を印加し、前記発光層に正孔および電子を注入している状態において、前記発光層が前記基板の法線方向に対して垂直な方向に周期構造を持つ屈折率分布を有することを特徴とする。この構成によると、少なくとも第1の電極および第2の電極に電圧を印加している状態において、発光層が屈折率分布によって回折格子を形成する。
【0011】
また本発明は、基板と、前記基板上に順に形成された、第1の電極、正孔および電子を注入することにより発光する発光層および第2の電極とを備えた面発光素子において、前記第1の電極および前記第2の電極のうち少なくとも一方が、前記基板の法線方向に対して垂直な方向に周期構造を持ち、前記第1の電極および前記第2の電極に電圧を印加して前記発光層に正孔および電子を注入することにより前記発光層が前記周期構造と同様の周期構造を持つ屈折率分布を有することを特徴とする。この構成によると、第1の電極および第2の電極に電圧を印加している状態において、発光層が屈折率分布によって回折格子を形成する。
【0012】
また本発明は、上記構成の面発光素子において、前記周期構造のピッチが0.2μm以上10μm以下であることを特徴とする。
【0013】
また本発明は、上記構成の面発光素子において、前記周期構造が二次元的配置であることを特徴とする。
【0014】
また本発明は、上記構成の面発光素子において、前記発光層が平坦であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、少なくとも第1の電極と第2の電極に電圧を印加し、発光層が発光している状態において、発光層が周期構造を持つ屈折率分布を有することによって回折格子を形成する。これによって、発光した光が導波モードとなることなく透明な基板方向に回折するため、発光した光の取り出し効率を向上させることができる。
【0016】
また、本発明によると、周期構造のピッチを0.2μm以上10μm以下としたため、様々な種類の発光材料を用いた場合でも、発光した光を透明基板11方向に回折させることが容易に可能となる。
【0017】
また、本発明によると、周期構造が二次元的な配置であるため、より多くの方向の光を外部に取り出すことができる。
【0018】
また、本発明によると、発光層が平坦であるため、第1の電極および第2の電極の正孔および電子を注入する面も平坦である。よって、第1の電極および第2の電極には局部的に電荷が集中することがないため、面発光素子の劣化を起こりにくくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態を図面を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施形態に係る面発光素子である有機EL素子の正面図、図2は透明基板および第1の電極の斜視図、図3は透明基板および第1の電極の平面図である。以下、面発光素子が有機EL素子の場合について説明するが、これに限らず各種の面発光型の発光素子であってもよい。例えば、面発光素子は、無機EL素子やLEDであってもよい。
【0020】
まず、有機EL素子10の構成について説明する。有機EL素子10は、ガラス基板から成る透明基板11上に第1の電極12が二次元的な周期をもって形成されており、透明基板11の第1の電極12が形成された面上に、発光層13、第2の電極14が順に形成されている。透明基板11および第1の電極12の構造については後述する。
【0021】
透明基板11としては、透明であればガラスや樹脂などの材料を用いることができる。ガラス、プラスチック等の種類には特に限定はないが、好ましく用いられるものとしては、ガラス、石英、透明樹脂フィルムを挙げることができる。特に好ましいものは、有機EL素子10にフレキシブル性を与えることが可能な樹脂フィルムである。樹脂フィルムの表面には、無機物、有機物の被膜またはその両者のハイブリッド被膜が形成されていてもよく、水蒸気透過度が0.01g/m2・day・atm以下のバリア性フィルムであることが好ましく、更には、酸素透過度10-3g/m2/day以下、水蒸気透過度10-5g/m2/day以下の高バリア性フィルムであることが好ましい。
【0022】
このバリア性フィルムを形成する材料としては、水分や酸素など素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素などを用いることができる。更に該膜の脆弱性を改良するためにこれら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることがより好ましい。無機層と有機層の積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。
【0023】
このバリア性フィルムの形成方法については特に限定はなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスタ−イオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法などを用いることができるが、特開2004−68143号に記載されているような大気圧プラズマ重合法によるものが特に好ましい。
【0024】
陽極である第1の電極12の電極物質としては、仕事関数の大きい(4eV以上)電気伝導性化合物が好ましく用いられる。このような電気伝導性化合物の具体例としてはITO(Indium Tin Oxide)、やIZO(Indium Zinc Oxide)、SnO2およびZnO等の導電性透明材料が挙げられる。第1の電極12はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により、透明基板11上に薄膜を形成させ、フォトリスグラフィ等の手法で所望の形状のパターンを形成する。発光層13で発光した光を第1の電極12から取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、またシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。更に膜厚は材料にもよるが、通常10〜1000nm、好ましくは10〜200nmの範囲で選ばれる。
【0025】
陰極である第2の電極14としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al23)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。第2の電極14はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、第2の電極の陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。
【0026】
発光層13は、有機化合物の発光材料、例えばAlq3(Tris−(8−hydroxyquinoline) aluminum)から成っている。発光層13は、第1の電極12と第2の電極14に電圧を印加し、陽極である第1の電極12から注入されてくる正孔と陰極である第2の電極14から注入されてくる電子とが再結合してリン光もしくは蛍光を発する層であり、発光する部分は発光層13の層内であっても発光層13と隣接層との界面であってもよい。
【0027】
発光層13は、機能分離された複数の有機物層を積層して構成されていてもよいし、発光層13と各電極との間に電荷注入層、電荷輸送層、バッファー層等の他の機能層を設けてもよい。
【0028】
近年、プリンストン大から励起三重項からのリン光発光を用いる有機EL素子の報告がされて以来(M.A.Baldo et al.,nature、395巻、151〜154頁(1998年))、室温でリン光を示す材料の研究が活発になってきている(例えば、M.A.Baldo et al.,nature、403巻、17号、750〜753頁(2000年)、米国特許第6,097,147号明細書等)。励起三重項を使用すると、内部量子効率の上限が100%となるため、励起一重項の場合に比べて原理的に発光効率が最大4倍となり、発光効率を著しく向上させることができる。
【0029】
The 10th International Workshop on Inorganic and Organic Electroluminescence(EL’00、浜松)では、リン光性化合物についていくつかの報告がなされている。例えば、Ikaiらはホール輸送性の化合物をリン光性化合物のホストとして用いている。また、M.E.Tompsonらは各種電子輸送性材料をリン光性化合物のホストとして、これらに新規なイリジウム錯体をドープして用いている。更に、Tsutsuiらはホールブロック層の導入により高い発光効率を得ている。
【0030】
リン光性化合物のホスト化合物については、例えば、C.Adachi et al.,Appl.Phys.Lett.,77巻、904頁(2000年)等に詳しく記載されている。
【0031】
また、ホスト化合物、及びドーパント化合物としてリン光性化合物を各々含有する発光層を有する素子において、前記ホスト化合物としてカルバゾール誘導体を適用した例としては、4,4′−N,N′−dicarbazole−biphenyl(CBP)等が最も一般的である。CBP以外のカルバゾール誘導体としては、特開2001−257076号公報、同2002−105445号公報等に高分子タイプが、同2001−313179号公報、同2002−75645号公報等、中でも特定構造を有するカルバゾール誘導体が記載されている。
【0032】
これら従来の化合物においては、発光輝度および耐久性を両立しうる構成が課題で、特に、緑色より短波な発光については緑より長波長に比べて発光効率が低いことが課題となっている。
【0033】
本発明の有機EL素子10の発光層13においても、以下に示すホスト化合物とリン光性化合物(リン光発光性化合物ともいう)が含有されることが好ましい。
【0034】
公知のホスト化合物の具体例としては、以下の文献に記載されている化合物が挙げられる。特開2001−257076号公報、特開2002−308855号公報、同2001−313179号公報、同2002−319491号公報、同2001−357977号公報、同2002−334786号公報、同2002−8860号公報、同2002−334787号公報、同2002−15871号公報、同2002−334788号公報、同2002−43056号公報、同2002−334789号公報、同2002−75645号公報、同2002−338579号公報、同2002−105445号公報、同2002−343568号公報、同2002−141173号公報、同2002−352957号公報、同2002−203683号公報、同2002−363227号公報、同2002−231453号公報、同2003−3165号公報、同2002−234888号公報、同2003−27048号公報、同2002−255934号公報、同2002−260861号公報、同2002−280183号公報、同2002−299060号公報、同2002−302516号公報、同2002−305083号公報、同2002−305084号公報、同2002−308837号公報等。
【0035】
リン光性化合物は、有機EL素子の発光層に使用される公知のものの中から適宜選択し
て用いることができるが、好ましくは元素の周期表で8族〜10族の金属を含有する錯体系化合物であり、更に好ましくはイリジウム化合物、オスミウム化合物、または白金化合物(白金錯体系化合物)、希土類錯体であり、中でも最も好ましいのはイリジウム化合物である。
【0036】
発光層13は上記化合物を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法、インクジェット法等の公知の薄膜化法により製膜して形成することができる。
【0037】
本発明においては、発光層13は発光極大波長が各々430〜480nm、510〜550nm、600〜640nmの範囲にある発光スペクトルの異なる少なくとも3層以上の層を含む。発光極大波長が430〜480nmにある層を青発光層、510〜550nmにある層を緑発光層、600〜640nmの範囲にある層を赤発光層と以下称する。発光層の積層順としては、特に制限はなく、また各発光層間に非発光性の中間層を有していてもよい。本発明においては、少なくとも一つの青発光層が、全発光層中最も第1の電極12に近い位置に設けられていることが好ましい。
【0038】
発光層13の膜厚の総和は特に制限はないが、通常2nm〜5μm、好ましくは2〜200nmの範囲で選ばれる。本発明においては、更に10〜20nmの範囲にあるのが好ましい。
【0039】
個々の発光層の膜厚は、好ましくは2〜100nmの範囲で選ばれ、2〜20nmの範囲にあるのが更に好ましい。青、緑、赤の各発光層の膜厚の関係については、特に制限はないが、3発光層中、青発光層(複数層ある場合はその総和)が最も厚いことが好ましい。
【0040】
また、本発明に用いられる封止手段としては、例えば封止部材(不図示)と、透明基板11、第1の電極12および第2の電極14とを接着剤で接着する方法を挙げることができる。封止部材としては、有機EL素子10の表示領域を覆うように配置されておればよく、凹板状でも、平板状でもよい。また、透明性、電気絶縁性は特に問わない。具体的には、ガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等が挙げられる。
【0041】
また、本発明にかかる有機EL素子10の構成として、上記のものの他に、例えば陽極/発光層ユニット/電子輸送層/陰極からなるもの、陽極/正孔輸送層/発光層ユニット/電子輸送層/陰極からなるもの、陽極/正孔輸送層/発光層ユニット/正孔阻止層/電子輸送層/陰極からなるもの、陽極/正孔輸送層/発光層ユニット/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極からなるもの、陽極/陽極バッファー層/正孔輸送層/発光層ユニット/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極からなるものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、正孔注入層、中間層、電子輸送層、電子注入層等のその他の層を備えていてもよい。
【0042】
ここで、本発明の有機EL素子の構成層として用いられる、注入層、阻止層、電子輸送層等について説明する。
【0043】
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、必要に応じて設けられる。電子注入層(陰極バッファー層)と正孔注入層(陽極バッファー層)があり、上記の如く陽極と発光層または正孔輸送層の間、及び陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。
【0044】
陽極バッファー層(正孔注入層)は、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファー層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファー層、アモルファスカーボンバッファー層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子バッファー層等が挙げられる。
【0045】
陰極バッファー層(電子注入層)は、ストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。上記バッファー層(注入層)はごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるがその膜厚は0.1nm〜5μmの範囲が好ましい。
【0046】
正孔阻止(ホールブロック)層は、上記の如く、有機化合物薄膜の基本構成層の他に必要に応じて設けられるものである。正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有し、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい正孔阻止材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、後述する電子輸送層の構成を必要に応じて、本発明に係わる正孔阻止層として用いることができる。
【0047】
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよいが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。
【0048】
正孔輸送層は上記正孔輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。正孔輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。この正孔輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0049】
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
【0050】
発光層に対して陰極側に隣接する電子輸送層に用いられる電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、キノキサリン誘導体、等を用いることができる。更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。また、8−キノリノール誘導体の金属錯体、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、GaまたはPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送材料として用いることができる。
【0051】
電子輸送層は上記電子輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。電子輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。電子輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0052】
また、図1では有機EL素子として、いわゆるボトムエミッションタイプのものを示しているが、トップエミッションタイプのものであってもよい。
【0053】
第1の電極12には、図2および図3に示すように、円柱状の突起12aが正方格子を形成するように設けられている。突起12aの間には第1の電極12が埋め込まれており、これによって第1の電極12が二次元的な周期をもって配置されている。第1の電極12は図2に示すように分断されず一体であるため、同一の電位とすることができる。
【0054】
次に第1の実施形態に係る有機EL素子10の作製方法を説明する。まず、透明基板11の表面に感光性樹脂であるレジストを塗布する。塗布したレジストに、干渉露光によりレジストパターニングを行い、レジストに円が正方格子を形成するように並んだパターンを作製する。レジストのパターンが形成された透明基板11を、ドライエッチングにより所定の深さまでエッチングして、レジストの形状と同じ配置の円柱状の突起12aを透明基板11に作製した後、透明基板11からレジストを剥離する。続いて、透明基板11の突起12aが形成された面に、第1の電極12の材料であるITOを、突起12aの隙間を完全に埋め、突起12aが隠れるようにマグネトロンスパッタで成膜する。この成膜されたITOを、透明基板11の突起12aが露出するまで研磨すると、図2に示す構造が得られる。この突起12aが現れた第1の電極12上に、Alq3を蒸着して発光層13を形成し、発光層13の上にアルミニウムを蒸着して第2の電極14を形成し、有機EL素子10が完成する。
【0055】
このようにして得られた有機EL素子10は、第1の電極12と第2の電極14に電圧を印加すると、発光層13には第1の電極12からの正孔が注入されない部分が、正方格子を構成するように並んだ円柱形に現れる。発光層13は、正孔または電子が注入されると屈折率がAlq3の場合で約0.1%変化するため、電圧を印加した有機EL素子10では、発光層13に正方格子の周期的構造を持つ屈折率分布が形成される。すなわち、第1の電極12と第2の電極14に電圧を印加することにより発光層13が回折格子となる。
【0056】
有機EL素子10の第1の電極12と第2の電極14に電圧を印加することによって第1の電極12から注入された正孔と第2の電極14から注入された電子とが再結合して発光した光は、発光と同時にこの回折格子により透明基板11の方向に回折され、透明基板11を通じて有機EL素子10の外部に取り出される。また、第2の電極14側に回折された一部の光も、第2の電極14で反射し、透明基板11を通じて有機EL素子10の外部に取り出される。したがって、第1の電極12を二次元的な周期構造をもって形成していない場合と比べて、発光した光の取り出し効率が向上する。また、第1の電極12、第2の電極14および発光層13は、平坦であり、角を持った部分がなく、電子、正孔が集中することがないため、傷みにくく、有機EL素子10全体としての寿命を長くすることができる。
【0057】
第1の実施形態において、発光層13として、屈折率が1.8、発光波長が約520nmであるAlq3を用いている。波長が520nmの光はAlq3中における波長が520÷1.8≒289nmであるため、図3に示す正方格子のピッチaもこれに合わせて289nm周辺の値、例えば300nmとすれば、Alq3を用いた発光層13の発光する光の取り出し効率を向上させることができる。
【0058】
また、第1の実施形態において、第1の電極12の突起12aの配置を図4に示すように三角格子としてもよい。この場合、三角格子のピッチbも約300nmとすることによって、Alq3を用いた発光層13の発光する光の取り出し効率を向上させることができる。なお、第1の電極12の突起12aの配置は正方格子、三角格子に限られるものではなく、二次元的な周期構造をもつものであれば、斜交格子、長方格子などでもよい。また、周期構造が一次元的なもの、例えば第1の電極12の突起12aが一方向に延びた棒状であり、発光層13に形成される回折格子が縞状であってもよい。
【0059】
なお、発光層13にAlq3以外の発光材料を用いた場合、発光層13の発光する光の空気中での波長がλ、屈折率がnである場合、発光層13の構成する回折格子のピッチdを、d≒λ/nとすることにより、発光層13の発光する光の取り出し効率を向上させることができる。例えばピッチdを、0.2μm以上10μmとすることにより、様々な種類の発光材料を用いた場合でも、発光した光を透明基板11方向に回折させることが容易に可能となる。
【0060】
<第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態について図を用いて説明する。図5は第2の実施形態に係る面発光素子である有機EL素子の正面図、図6は第2の電極および絶縁体を裏返した状態の斜視図である。第2の実施形態は、二次元的な周期構造を有するのが第1の電極ではなく第2の電極である点が異なる以外は第1の実施形態と同じであり、実質上同一の部分には同一の符号を付してある。
【0061】
第2の実施形態において、有機EL素子10は、透明基板11上に第1の電極12、発光層13が順に形成されている。また、発光層13の上には絶縁体15が正方格子を形成するように配置され、発光層13および絶縁体15の上から第2の電極14が形成されている。よって、第2の電極14は二次元的な周期構造をもつ。
【0062】
次に、第2の実施形態に係る有機EL素子10の作製方法を説明する。まず、透明基板11上にマグネトロンスパッタでITOからなる第1の電極12を形成し、その上にAlq3を蒸着して発光層13を形成する。この発光層13上に、インクジェットによってPMMA(ポリメタクリル酸メチル)を円盤状にした絶縁体15を、正方格子を形成するように配置する。絶縁体15が配置された発光層13上に、アルミニウムを蒸着して第2の電極を形成し、有機EL素子10が完成する。
【0063】
このようにして得られた有機EL素子10は、第1の電極12と第2の電極14に電圧を印加すると、発光層13には第2の電極14からの電子が注入されない部分が、正方格子を構成するように並んだ円柱形に現れる。したがって、第1の実施形態と同様に、電圧を印加した有機EL素子10では、発光層13に正方格子の周期的構造を持つ屈折率分布が形成され、発光層13が回折格子となる。
【0064】
第2の実施形態においても、発光層13としてAlq3を用いている場合、絶縁体15の形成する正方格子のピッチを約300nmとすることにより、発光層の発光する光の取り出し効率を向上させることができる。また、絶縁体15が三角格子を構成する場合も第1の実施形態と同様にピッチを約300nmとすれば、発光層13の発光する光の取り出し効率を向上させることができる。
【0065】
また、第2の実施形態において、第1の実施形態と同様に透明基板11に突起11aを設け、第1の電極12を周期的に配列させてもよい。この場合、突起11aは、発光層13を挟んで絶縁体15に対向する位置に設ける。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、有機EL素子、無機EL素子、LED等の面発光素子に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る面発光素子である有機EL素子の正面図
【図2】本発明の第1の実施形態に係る透明基板および第1の電極の斜視図
【図3】本発明の第1の実施形態に係る透明基板および第1の電極の平面図
【図4】本発明の第1の実施形態の別の態様に係る透明基板および第1の電極の平面図
【図5】本発明の第2の実施形態に係る面発光素子である有機EL素子の正面図
【図6】本発明の第2の実施形態に係る第2の電極および絶縁体を裏返した状態の斜視図
【符号の説明】
【0068】
10 有機EL素子(面発光素子)
11 透明基板
12 第1の電極
13 発光層
14 第2の電極
15 絶縁体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に順に形成された、第1の電極、正孔および電子を注入することにより発光する発光層および第2の電極とを備えた面発光素子において、
前記第1の電極および前記第2の電極に電圧を印加し、前記発光層に正孔および電子を注入している状態において、前記発光層が前記基板の法線方向に対して垂直な方向に周期構造を持つ屈折率分布を有することを特徴とする面発光素子。
【請求項2】
基板と、前記基板上に順に形成された、第1の電極、正孔および電子を注入することにより発光する発光層および第2の電極とを備えた面発光素子において、
前記第1の電極および前記第2の電極のうち少なくとも一方が、前記基板の法線方向に対して垂直な方向に周期構造を持ち、前記第1の電極および前記第2の電極に電圧を印加して前記発光層に正孔および電子を注入することにより前記発光層が前記周期構造と同様の周期構造を持つ屈折率分布を有することを特徴とする面発光素子。
【請求項3】
前記周期構造のピッチが0.2μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の面発光素子。
【請求項4】
前記周期構造が二次元的配置であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の面発光素子。
【請求項5】
前記発光層が平坦であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の面発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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