説明

音場形成装置

【課題】複数の音場を形成する際に、複数のスピーカを推奨配置できない場合でも、設計者が意図したような音場効果が得られる音場形成装置を提供する。
【解決手段】音場形成装置では、複数のスピーカの設置位置情報、聴取位置の情報、及び前記複数の音場を形成する仮想音源の定位位置情報に基づいて、聴取位置に対する各仮想音源と各スピーカの位置関係に基づいて、各スピーカに供給する音声信号の分配比を仮想音源毎に算出するので、複数のスピーカが推奨配置でない場合にでも、複数の仮想音源をユーザの周囲に定位させて、問題なく音場を形成することができるので、ユーザはスピーカの配置にかかわらず複数の音場による立体感を楽しむことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、利用者の周囲に音場を形成する音場形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、マルチチャンネルサラウンドサウンドを再生できるAVシステムをリビングルームやリスニングルームなどに設けて、家の中で映画や音楽等のコンテンツを楽しむユーザが増加している。映画や音楽等のDVDをこのAVシステムで再生すると、複数のスピーカからマルチチャンネルのサラウンドサウンドが再生されるので、ユーザは周囲から音に包まれる感覚を体感しながら映画や音楽等を楽しむことができる。
【0003】
また、従来のAVシステムには、単にマルチチャンネルサラウンドサウンドを再生するだけでなく、マルチチャンネルサラウンドサウンドから複数の反射音を生成して複数の音場を形成することで、さらに立体感のあるサウンドを再生する音場制御装置があった(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特許第2755208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1は、従来の仮想音源の定位処理を説明するための概念図である。従来の音場制御装置では、音場制御用スピーカの推奨配置が決められている。例えば、図1(A)に示すように、音場制御用スピーカを部屋の四隅に設置するように推奨されている場合、音場制御装置は、音場形成用の仮想音源Yをスピーカs2の後ろ側に定位させるために、スピーカs1とs2に対して音声を一定の出力レベル比で配分していた。すなわち、図1(A)に示すように、聴取位置Uに対するスピーカs1とスピーカs2の間の角度をa、聴取位置に対するスピーカs1と仮想音源Yの間の角度をbとすると、スピーカs1,s2への出力係数c1,c2は、
c1=cos((a/b)*90),c2=sin((a/b)*90)
となる。このc1,c2に仮想音源の大きさに応じた係数を乗じたものを出力レベルとしている。
【0005】
このようにして仮想音源を分解することで、音場制御用のスピーカが推奨配置の場合には、適正な音場環境が得られる。
【0006】
しかしながら、ユーザによっては、家具の配置や部屋の間取りの関係で、必ずしも推奨配置位置に全スピーカを設置できない場合があった。
【0007】
一方、従来の音場制御装置では、スピーカは推奨配置の位置に取り付けられているものとして、仮想音源の設定を行っていた。
【0008】
そのため、図1(B)に示すように、音場制御用のスピーカの配置が推奨配置と異なる場合でも、従来の音場制御装置は、図1(C)に示すように推奨配置に各音場制御用スピーカが設置されているものとして、出力係数を演算していた。
【0009】
しかし、このように演算を行うと、図1(D)に示すように、仮想音源を、本来あるべき位置Y1ではなく、不適切な位置Y2に定位させてしまうという問題があった。
【0010】
また、音場制御装置では、複数の音場を形成するために、複数の仮想音源を聴取位置の周囲に定位させる。図2は、スピーカ配置に応じた複数の仮想音源の配置状態を示す図である。音場制御用のスピーカが推奨配置の場合には、図2(A)に示すように、一部に密集することなく、設定通りに複数の仮想音源が定位する。しかし、上記のように、従来の音場制御装置では、推奨配置に各音場制御用スピーカが設置されているものとして、出力係数を演算していた。そのため、図2(B)に示すように、前方のスピーカs1,s2の角度(間隔)が狭まり、後方のスピーカs3,s4の角度(間隔)が広がった場合には、前方のスピーカs1,s2の間の仮想音源の密度が高くなり、後方のスピーカs3,s4の間の仮想音源の密度が低くなり、真横に設定した仮想音源は前方に移動する。また、図2(C)に示すように、後方のスピーカs3,s4の角度(間隔)をさらに広げた場合には、後方の仮想音源はまばらになる。この場合には、多くの反射音が前方に偏り、後方の包囲感の薄い響きとなり、設計者の意図した音場とは異なるものになってしまう。
【0011】
そこで、本発明は、複数の音場を形成する際に、複数のスピーカを推奨配置できない場合でも、設計者が意図したような音場効果が得られる音場形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、上記の課題を解決するための手段として、以下の構成を備えている。
【0013】
(1)複数チャンネルの音声信号から生成した反射音及び残響音の信号を、聴取位置の周囲に配置した複数のスピーカに供給し、聴取位置の周囲に複数の仮想音源を定位させて、複数の音場を形成する音場形成装置であって、
複数の音場の生成指示を受け付ける操作手段と、
前記複数のスピーカの設置位置情報、前記聴取位置の情報、及び前記複数の音場を形成する各仮想音源の定位位置情報を記憶する記憶手段と、
前記操作手段が複数の音場の生成指示を受け付けると、前記記憶手段から各情報を読み出して、聴取位置に対する各仮想音源とスピーカの位置関係に基づいて、各スピーカに供給する反射音及び残響音の信号の分配比を仮想音源毎に算出する演算手段と、
前記複数チャンネルの音声信号から各仮想音源に対応する反射音及び残響音の信号を生成して前記分配比で分配し、分配した各信号をスピーカ毎に加算して各スピーカに供給する反響音生成手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0014】
この構成においては、音場形成装置は、複数のスピーカの設置位置情報、聴取位置の情報、及び前記複数の音場を形成する仮想音源の定位位置情報に基づいて、聴取位置に対する各仮想音源と各スピーカの位置関係に基づいて、各スピーカに供給する音声信号の分配比を算出する。したがって、複数のスピーカが推奨配置でない場合にでも、複数の仮想音源をユーザの周囲に定位させて、問題なく音場を形成することができる。これにより、ユーザは、スピーカの配置にかかわらず複数の音場による立体感を楽しむことができる。
【0015】
(2)前記複数のスピーカに放音させるテスト音信号を生成するテスト音源手段と、
ユーザの聴取位置における少なくとも異なる3カ所で、前記スピーカが放音したテスト音を収音してテスト収音信号を出力するマイクロフォンが接続されるマイク端子と、
前記マイク端子から入力されたテスト音信号を解析し、その結果に基づいて前記複数のスピーカの設置位置情報、及び前記聴取位置の情報を算出して、前記記憶手段に記憶させる解析手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0016】
この構成においては、テスト音源手段により生成されたテスト音声をマイクロフォンで収音して解析することで、複数のスピーカの設置位置情報、及び聴取位置の情報を算出できる。また、ユーザの聴取位置における少なくとも異なる3カ所でテスト音声を収音することで、聴取位置に対するスピーカの方向(角度)を算出できる。したがって、ユーザの聴取位置にマイクロフォンを設置することで、容易に複数のスピーカの設置位置情報、及び聴取位置の情報を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、音場形成装置では、複数のスピーカの設置位置情報、聴取位置の情報、及び前記複数の音場を形成する仮想音源の定位位置情報に基づいて、聴取位置に対する各仮想音源と各スピーカの位置関係に基づいて、各スピーカに供給する音声信号の分配比を算出するので、複数のスピーカが推奨配置でない場合にでも、複数の仮想音源をユーザの周囲に定位させて、問題なく音場を形成することができるので、ユーザはスピーカの配置にかかわらず複数の音場による立体感を楽しむことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図3は、音場形成装置の概略構成及びリスニングルームでのスピーカの配置状態を示す図である。図4は、音場形成装置により4つの音場を形成した状態のイメージを示す斜視図、及び仮想音源の定位方法を説明するための図である。
【0019】
音場形成装置1は、一例として、5チャンネルのサラウンド音を出力するとともに、図4に示すように、プレゼンス音場93、左サラウンド(LS)音場95、右サラウンド(RS)音場97、及び背面サラウンド(BS)音場99の4つの音場を形成する。プレゼンス音場93は、聴取位置90のユーザUの前方に奥行き感及び立体感を与え、ユーザUを前方から包み込む音場である。左サラウンド音場95及び右サラウンド音場97は、聴取位置90のユーザUの左右に奥行き感及び立体感を与え、ユーザUを側方から包み込む音場である。背面サラウンド音場99は、聴取位置90のユーザUの後方にサラウンド感を与え、ユーザUを後方から包み込む音場である。
【0020】
図3に示すように、音場形成装置1は、信号入力端子31、DSP(Digital Signal Processor)デコーダ39、テスト音生成部41、パラメータメモリ43、信号処理部45、遅延処理部46、パラメトリックイコライザ47、D/Aコンバータ49、電子ボリューム51、パワーアンプ53、スピーカ端子55、マイク端子57、マイクアンプ59、A/Dコンバータ61、制御部63、メモリ65、操作部67、及び表示部69を備えている。また、音場形成装置1の信号入力端子31には、デジタルテレビチューナ5及びCDプレーヤ7が接続され、スピーカ端子55には、スピーカ11〜18が接続されている。マイク端子57には、オプティマイザマイク3(以下、単にマイク3と称する。)が接続されている。
【0021】
また、リスニングルーム91内には、聴取位置90の前方左・前方中央・前方右に、それぞれ左チャンネル(Lch)用のスピーカ11・センタチャンネル(Cch)用のスピーカ12・右チャンネル(Rch)用のスピーカ13が設置されている。また、聴取位置90の前方に、低音用のスピーカとしてサブウーハチャンネル(LFEch)用のスピーカ18が設置されている。さらに、聴取位置90の前左右上方に音場制御用スピーカとして、それぞれプレゼンス左チャンネル(PLch)用のスピーカ14・プレゼンス右チャンネル(PRch)用のスピーカ15が設置されている。加えて、聴取位置90の後左右にサラウンド左チャンネル(SLch)用のスピーカ16・サラウンド右チャンネル(SRch)用のスピーカ17が設置されている。また、聴取位置90には、マイク3が設置されている。
【0022】
DSPデコーダ39は、信号入力端子31を介して接続されたデジタルテレビチューナ5やCDプレーヤ7などのAV機器から出力されたアナログ音信号やデジタルビットストリームを、Lch、Rch、Cch、SLch、及びSRchの5チャンネルのデジタル音信号(PCM信号)に変換して、信号処理部45へ出力する。また、DSPデコーダ39は、例えばデジタルテレビチューナ5から5チャンネルのデジタル音信号(PCM信号)が直接入力された場合には、これらの信号をそのまま信号処理部45へ出力する。
【0023】
信号処理部45は、主信号線71、反響音生成部73、テスト音解析部75、係数演算部76、及び加算器77・79を備えている。また、反響音生成部73は、プレゼンス(P)反射音生成部80、左サラウンド(LS)反射音生成部81、右サラウンド(RS)反響音生成部82、背面サラウンド(BS)反響音生成部83、及びリバーブ音生成部84を備えている。
【0024】
主信号線71は、DSPデコーダ39が出力した5.1チャンネルのデジタル音信号をパラメトリックイコライザ47へ送出するラインであり、途中に設けた加算器77・79で、反射音生成部73で生成されたEBL信号・EBR信号が加算される。
【0025】
反響音生成部73は、ユーザUが選択した音場プログラムに応じたパラメータをパラメータメモリ43から読み出して、プレゼンス音場93、左サラウンド音場95、右サラウンド音場97、及び背面サラウンド音場99を形成するための反射音及び残響音の信号を仮想音源毎に生成し、さらに、これらの反射音及び残響音の信号を出力するスピーカ毎に加算してEFL信号・EFR信号・EBL信号・EBR信号を生成する。このとき、反射音生成部73は、仮想音源が音場を形成するのに最適な位置に各仮想音源が定位するように、係数演算部76の演算結果に基づいて、各信号の出力レベル比を調整する。そして、反響音生成部73は、EFL信号をPLch用のスピーカ14から放音させる信号として遅延処理部46に出力し、EFR信号をPRch用のスピーカ15から放音させる信号して遅延処理部46に出力し、EBL信号をSLch用のスピーカ16から放音させる信号として加算器77に出力し、EBR信号をSRch用のスピーカ17から放音させる信号として加算器79に出力する。さらに、詳細な構成は後述する。
【0026】
パラメータメモリ43は、複数の音場プログラムに応じた音場を反射音及び残響音により形成するためのパラメータを記憶している。また、パラメータメモリ43は、各音場プログラムにおいて反射音や残響音の仮想音源の定位位置情報等を記憶している。パラメータメモリ43は、例えば、コンサートホールやライブハウスや教会等で実測したデータに基づいて世界の著名なコンサートホールやライブハウスや教会等の音場がリアルに再現される音楽再生用の音場プログラムや、映画のジャンル毎に異なる音響効果が得られるできる映画再生用の音場プログラムを複数記憶している。これらの音場プログラムのパラメータは、4つの音場制御用のスピーカ14〜17から反射音を放音してリスニングルーム91内に4つの音場93・95・97・99を形成するように、遅れ時間とゲインの組み合わせにより構成されている。
【0027】
加算器77は、反響音生成部73が出力したEBL信号と、入力信号であるSLch用の音声信号と、を加算して遅延処理部46へ出力する。
【0028】
加算器79は、反響音生成部73が出力したEBR信号と、入力信号であるSRch用の音声信号と、を加算して遅延処理部46へ出力する。
【0029】
遅延処理部46は、後述する視聴空間自動設定モードによる設定に基づいて、信号処理部45が出力したLFEch、Lch、Rch、Cch、SLch、SRch、PLch、PRchの合計8(7.1)チャンネルの音声信号を遅延させる。
【0030】
パラメトリックイコライザ47は、周波数、レベル、Qファクタの3つのパラメータをそれぞれ独立して可変することで、遅延処理部46が出力した8チャンネルの各音声信号の周波数特性を補正する。
【0031】
D/Aコンバータ49は、パラメトリックイコライザ47が出力した8チャンネルの各デジタル音信号をそれぞれアナログ音信号に変換する。
【0032】
電子ボリューム51は、操作部67で設定されたボリューム量に応じてパワーアンプ53の増幅量を調整する。また電子ボリューム51は、現在設定されているボリューム値を出力する。
【0033】
パワーアンプ53は、D/Aコンバータ49が出力した8チャンネルの各アナログ音信号を増幅して各スピーカ11〜18へ出力する。
【0034】
スピーカ11〜18は、パワーアンプ53から出力されたアナログ音信号に応じた音を放音する。すなわち、スピーカ11はLch、スピーカ12はCch、スピーカ13はRch、スピーカ14はPLch、スピーカ15はPRch、スピーカ16はSLch、スピーカ17はSRch、及びスピーカ18はLFEchの音をそれぞれ放音する。
【0035】
制御部63は、操作部67で行われた操作に応じて各部を制御する。例えば、操作部67で音量の調整操作が行われると、制御部63はこの操作に応じた制御信号を電子ボリューム51に出力して、各スピーカ11〜18から放音する音の音量を変更する。制御部63としては、CPUやMPUが好適である。
【0036】
メモリ65は、制御部63で行うプログラムや、聴取位置情報や、スピーカ11〜18の設置位置情報等を記憶している。
【0037】
操作部67は、音場形成装置1に対してユーザが各種の操作・設定などの入力を行うためのものである。
【0038】
表示部69は、音場形成装置1からユーザに対する伝達事項等を表示するためのものである。
【0039】
また、音場形成装置1は、テスト音生成部41で生成して各スピーカ11〜18から放音させたテスト音をマイク3で収音し、このテスト音を放音してからマイク3で収音するまでの時間を計測したり、マイク3で収音したテスト音の音圧や周波数特性等を測定・解析したりすることで、各スピーカ11〜18の配置、能力、リスニングルーム91の音響特性を測定し、最適な視聴空間を自動的に設定する機能を備えている。
【0040】
テスト音生成部41は、操作部67が操作されて、視聴空間自動設定モードが設定されると、テスト音信号を生成してDSPデコーダ39に出力する。このテスト音信号は、信号処理部45、パラメトリックイコライザ47、D/Aコンバータ49、パワーアンプ53、スピーカ端子55を介して、各スピーカ11〜18に出力されて、各スピーカ11〜18からテスト音が放音される。
【0041】
マイク3は、各スピーカ11〜18から放音されたテスト音を収音して、マイク端子57を介してマイクアンプ59に収音信号を出力する。
【0042】
マイク端子57は、マイク3を接続するための端子である。
【0043】
マイクアンプ59は、マイク3が出力した収音信号を増幅する。
【0044】
A/Dコンバータ61は、マイクアンプ59が出力したアナログ収音信号をデジタル収音信号に変換する。
【0045】
テスト音解析部75は、各スピーカ11〜18からテスト音を放音してからマイク3で収音するまでの時間を計測したり、マイク3で収音したテスト音の音圧や周波数特性等を測定したりして、測定結果を制御部63に出力する。
【0046】
係数演算部76は、制御部63を介してメモリ65から読み出した聴取位置情報、スピーカ11〜18の設置位置情報と、パラメータメモリ43から読み出した仮想音源の定位位置情報に基づいて、聴取位置の周囲の適正な位置に各仮想音源を定位させるための出力係数(パラメータ)の演算を行い、演算結果を反響音生成部73に出力する。
【0047】
制御部63は、テスト音解析部75が出力した解析結果に基づいて、遅延処理部46及びパラメトリックイコライザ47に対して、各チャンネルの信号に対するパラメータを設定する。
【0048】
ユーザUは、音楽を聴取したり映画を視聴したりする際に、操作部67を操作して好みの音場プログラムを選択・設定することで、図3(A)に示すように、音場形成装置1は、ユーザUの周囲にプレゼンス音場93・左サラウンド音場95・右サラウンド音場97・背面サラウンド音場99を形成するので、ユーザUは、立体的に音場に包まれるような感覚を味わいながら、音楽や映画を楽しむことができる。
【0049】
次に、音場形成装置1における仮想音源の設定動作について図3、4を参照して説明する。音場形成装置1は、視聴環境を自動的に最適化する視聴空間自動設定モードを備えている。ユーザUは、リスニングルーム91に音場形成装置1や各スピーカ11〜18を設置した後に、図3に示すように、聴取位置90の周囲の異なる3点に対して順番にマイク3を設置する。この際、マイク3は、ユーザUの耳の高さに設置する。そして、操作部67を操作して、視聴空間自動設定モードを選択する。音場形成装置1は、視聴空間自動設定モードが選択されると、各スピーカ11〜18から順番にテスト音声を放音して、マイク3でこのテスト音声を収音して、テスト音解析部75及び制御部63で、解析を行って、各スピーカ11〜18の結線、位相、サイズ、距離、周波数特性、チャンネル間レベル等を調整して、リスニングルーム91の音響特性に合った再生環境を自動的に設定する。また、音場形成装置1は、上記のように異なる3点にマイク3を設置して視聴空間自動設定モードを実行するので、解析の際に、聴取位置90の位置情報や各スピーカ11〜18の位置情報を算出することができ、これらの情報をメモリ65に記憶させる。
【0050】
続いて、ユーザUが、操作部67を操作して好みの音場プログラムを選択すると、制御部63は、聴取位置90の位置情報や各スピーカ11〜18の位置情報をメモリ65から読み出して、係数演算部76にこれらの位置情報を出力する。また、制御部63は、選択された音場プログラム情報を信号処理部45に出力する。
【0051】
係数演算部76は、制御部63から位置情報を取得すると、音場プログラム情報に基づいて、パラメータメモリから、仮想音源の定位位置情報を読み出す。そして、仮想音源の定位位置情報と、聴取位置90の位置情報や各スピーカ11〜18の位置情報に基づいて、聴取位置の周囲の適正な位置に各仮想音源を定位させるための出力係数(パラメータ(分配比))の演算を仮想音源毎に行い、演算結果を反響音生成部73に出力する。
【0052】
図3、図4(A)に示したように、音場制御用のスピーカが4つの場合には、図3に示したように、各スピーカを平面(底面)に投影することで、設置高さをパラメータに含めずに、聴取位置に対する仮想音源の方向、聴取位置に対する各スピーカ14〜17の方向を求める。そして、仮想音源がどの2つのスピーカの間に位置するかを確認する。
【0053】
例えば、図4(B)に示すように、各音場制御用スピーカが推奨配置ではなく、前方のスピーカs1,s2の角度(間隔)が狭まり、後方のスピーカs3,s4の角度(間隔)が広がった配置の場合に、仮想音源Yはスピーカs2とスピーカs3の間に位置する。そのため、係数演算部76は、聴取位置Uに対するスピーカs2とスピーカs3の間の角度をa、聴取位置に対するスピーカs2と仮想音源Yの間の角度をbとして、スピーカs1,s2の出力係数c1,c2は、
c1=cos((a/b)*90),c2=sin((a/b)*90)
により求める。そして、係数演算部76は、このc1,c2に仮想音源の大きさに応じた係数を乗じたものを出力レベルとして反射音生成部73に出力する。これにより、音場を形成する際には、図4(B)に示した位置に仮想音源Yを定位させることができる。
【0054】
また、音場形成装置1は、音場を形成する複数の仮想音源について、図4(B)に基づいて説明した手順と同様の手順で処理を行うことで、音場制御用スピーカの配置にかかわらず、各仮想音源を決められた位置に定位させることができる。
【0055】
図5は、音場制御用スピーカを図2と同様に配置した場合の複数の仮想音源の配置状態を示す図である。音場形成装置1では、前記のように、複数の音場を形成する仮想音源毎に各スピーカに供給する音声信号の分配比を係数演算部76で演算して、仮想音源毎に演算した分配比で音声信号を各スピーカに供給する。したがって、図5(A)に示すように、推奨配置に音場制御用スピーカs1〜s4を設置した場合には、当然、複数の仮想音源は、一部に密集することなく設定通りに定位する。一方、図5(B)に示すように、前方のスピーカs1,sの角度(間隔)が狭まり、後方のスピーカs3,s4の角度(間隔)が広がった場合や、図5(C)に示すように、後方のスピーカs3,s4の角度(間隔)をさらに広げた場合でも、複数の仮想音源は、一部に密集することなく設定通りに定位する。
【0056】
次に、以上の説明では、音場制御用のスピーカが4つの場合について説明したが、これに限るものではなく、さらに複数のスピーカにより音場を形成した場合でも、本願発明を適用することができる。
【0057】
図6は、音場形成装置の概略構成を示すブロック図である。図7は、図6に示した音場形成装置により4つの音場を形成した状態のイメージを示す斜視図である。音場形成装置1Aは、図6,図7に示すように、8つの音場制御用スピーカ14h(FLh)、14l(FLl)、15h(FRh)、15l(FRl)、16h(BLh)、16l(BLl)、17h(BRh)、17l(BRl)により、複数の音場を形成する構成であり、音場を形成するための仮想音源を三次元で定位させることができる。
【0058】
音場形成装置1Aは、反響音生成部73Aのプレゼンス(P)反射音生成部80、左サラウンド(LS)反射音生成部81、右サラウンド(RS)反響音生成部82、背面サラウンド(BS)反響音生成部83、及びリバーブ音生成部84(不図示)において、EFLh、EFLl、EFRh、EFRl、EBLh、EBLl、EBRh、EBRlの8つの信号を生成して出力する。そして、EBLh信号を加算器77に出力し、EBRh信号を加算器79に出力する。また、反響音生成部73Aは、EFLl、EFRl、EBLl、EBRlの4つの信号を、遅延処理部46等を経由してスピーカ14l、15l、16l、17lへ出力する。
【0059】
音場形成装置1Aは、これ以外の基本的な処理は音場形成装置1と同様であり、また各部の構成も同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0060】
次に、音場形成装置1Aにおける仮想音源の定位処理について説明する。図8は、音場制御用スピーカのレイアウトを線図化して方向領域を説明するための図である。図9は、各スピーカのレベル比を算出するための各種の角度を示す図である。
【0061】
音場形成装置1Aでは、音場形成装置1と同様に、リスニングルーム91に音場形成装置1Aや各スピーカを設置した後に、視聴空間自動設定モードを実行することで、8つの音場制御用スピーカ14h(FLh)、14l(FLl)、15h(FRh)、15l(FRl)、16h(BLh)、16l(BLl)、17h(BRh)、17l(BRl)の設置位置情報、及び聴取位置情報を取得して、メモリに記憶させておくことができる。音場形成装置1Aで、視聴空間自動設定モードを実行する際には、異なる4点であって、少なくとも1点は他の3点と高さが異なる4点に対して、順番にマイク3を設置する。これにより、各スピーカの三次元の設置位置情報を取得できる。
【0062】
図8において隣接するスピーカ位置を直線でつなぐと、8個のスピーカを頂点とする六面体に類似した形状の立体となる。ここで、六面体(多面体)は各面が平面で構成される立体を言うが,図8に示した8個のスピーカを直線で結んだ立体の各面は平面であるとは限らないため,六面体類似の立体となる。この立体の内部に受音点(聴取位置)Uが設定されている。
【0063】
この空間において、図8の六面体類似の立体の一辺の両端の2つのスピーカと受音点Uとを含み、これらを直線で結んだ三角形を境界とする平面を想定する。六面体類似の立体には辺が12あるため、12の平面が想定される。
【0064】
なお、この2つのスピーカの選択は、そのスピーカに付されている記号のうち2文字が共通のものを抽出すればよい。すなわち、スピーカには、例えばFLhのように3つの文字からなる記号が付されているが、1文字目が前後(F/B)を表し、2文字目が左右(L/R)を表し、3文字目が上下(h/l)を表している。
【0065】
このうち2文字が共通な2つを選択すると12の組み合わせが得られ、以下の12の平面が想定される。
【0066】
平面p1: FLh,FRh,U(受音点)
平面p2: FRh,BRh,U
平面p3: BRh,BLh,U
平面p4: BLh,FLh,U
平面p5: FLl,FRl,U
平面p6: FRl,BRl,U
平面p7: BRl,BLl,U
平面p8: BLl,FLl,U
平面p9: FLh,FLl,U
平面p10: FRh,FRl,U
平面p11: BRh,BRl,U
平面p12: BLh,BLl,U
そして、これら12の平面で区切られた6つの方向領域を設定する。
【0067】
平面p1、平面p2、平面p3及び平面p4で囲まれる方向領域「上」
平面p5、平面p6、平面p7及び平面p8で囲まれる方向領域「下」
平面p9、平面p1、平面p10及び平面p5で囲まれる方向領域「前」
平面p11、平面p7、平面p12及び平面p3で囲まれる方向領域「後」
平面p4、平面p9、平面p8及び平面p12で囲まれる方向領域「左」
平面p2、平面p10、平面p6及び平面p11で囲まれる方向領域「右」
仮想音源Yの音声信号を出力するとき、受音点Uから見た仮想音源Yの方向、すなわち、受音点Uから仮想音源Yに向けた方向線yが、これら方向領域「前、後、右、左上、下」のうち、どの領域を通過するかによって、この仮想音源Yの音声信号を出力するためのスピーカを選択する。すなわち、各方向領域はそれぞれ4つのスピーカで区切られており、前記方向線yが含まれる方向領域を区切る4つのスピーカを、その仮想音源の音声信号を振り分けるスピーカとして選択する。図8の例では、方向線yは方向領域「右」を通過しているため、スピーカFRh、FRI、BRh、BRIが音声信号を出力するスピーカとして選択される。
【0068】
なお、上記方向領域「前、後、右、左、上、下」は、8個のスピーカで形成される略六面体形状の立体のそれぞれの面で区切られた領域とも言えるものであり、ある方向領域を通過する方向線は、対応する面に向かう線とも言える。例えば、方向領域「前」を通過する方向線は、FLh、FRh、FRI、FLIを頂点とする面に向かう方向線とも言えるものである。
【0069】
音声信号を振り分ける4つのスピーカが決定されると、受音点Uから見た各スピーカと仮想音源Yとの角度比に基づき、各スピーカに割り当てる信号レベルを決定する。これにより、受音点Uにおいて、仮想音源位置情報に従った位置に仮想音源の音像を定位させる。
【0070】
以下、図9(A)、(B)を参照して、このレベル比の決定方式すなわち信号パワーの配分方式について詳細に説明する。ここでは、前記方向線yを含む方向領域を区切る4つの平面をそれぞれ以下のように呼ぶ。
【0071】
Pf:受音点Uから仮想音源Yを見て、領域の上方(前方)を区切る平面
Pb:受音点Uから仮想音源Yを見て、領域の下方(後方)を区切る平面
Pl:受音点Uから仮想音源Yを見て、領域の左方を区切る平面
Pr:受音点Uから仮想音源Yを見て、領域の右方を区切る平面
図8の例では、平面p2を三角形の境界を越えて拡張したものがPfであり、平面6を拡張したものがPbであり、平面10を拡張したものPlであり、平面11を拡張したものがPrである。
【0072】
また、この領域を区切る4つのスピーカ、すなわち、音声信号を出力するべく選択された4つのスピーカを図9に示すようにS1〜S4と呼ぶ。図8の例では、スピーカFRhがS1、スピーカBRhがS2、スピーカFRlがS3、スピーカBRlがS4となる。
【0073】
図9(A)は、受音点Uから仮想音源Yを見て領域の上方を区切る平面Pfと、受音点Uから仮想音源Yを見て領域の下方を区切る平面Pbを示す図である。この図において、PfとPbとの交線と仮想音源Yとを含む平面PVを想定し、
av1:PfとPVの間の角度
av2:PbとPVの間の角度
を求める。
【0074】
図9(B)は、受音点Uから仮想音源Yを見て領域の左方を区切る平面Plと、受音点Uから仮想音源Yを見て領域の右方を区切る平面Prを示す図である。この図において、PlとPrとの交線と仮想音源Yとを含む平面Phを想定し、
ah1:PlとPhの間の角度
ah2:PrとPhの間の角度
を求める。
【0075】
このレベル比算出処理において、av1は受音点Uから見た仮想音源Yの方向とスピーカS1、S2の方向との縦方向の角度成分とされる。av2は受音点Uから見た仮想音源Yの方向とスピーカS3、S4の方向との縦方向の角度成分とされる。ah1は受音点Uから見た仮想音源Yの方向とスピーカS1、S3の方向との横方向の角度成分とされる。ah2は受音点Uから見た仮想音源Yの方向とスピーカS2、S4の方向との横方向の角度成分とされる。このようにして求めた角度成分に基づいて各スピーカS1〜S4に分配する信号のレベル比であるレベル係数SS1〜SS4を求める。
【0076】
SS1 = cos((av1/(av1+av2))*90)*cos((ah1/(ah1+ah2))*90)
SS2 = cos((av1/(av1+av2))*90)*cos((ah2/(ah1+ah2))*90)
SS3 = cos((av2/(av1+av2))*90)*cos((ah1 /(ah1+ah2))*90)
SS4 = cos((av2/(av1+av2))*90)*cos((ah2 /(ah1+ah2))*90)
入力された音声信号にこれらのレベル係数SS1〜SS4を乗じたものを各スピーカS1〜S4に供給することにより、仮想音源定位情報で指示される方向に仮想音源を定位させることができる。仮想音源の受音点Uからの距離感は、後段の遅延部16やアンプ17によって制御される。
【0077】
ここで、レベル係数SS1〜SS4を全て2乗して加算した値は常に1であるため、入力された音声信号のパワーが保存され、仮想音源の定位方向によって音量が大きくなったり小さくなったりすることがない。
【0078】
ここで、これらの算出式は、av1十av2及びah1十ah2をともに90度に正規化して、信号レベルを分配する式である。すなわち、「av1/(av1十av2)*90」の演算により、av1とav2の角度比を保存しつつav1十av2が90度であった場合のcos値を求めている。これは、av1十av2、ah1十ah2が90度以外であった場合に音声信号の全体パワーを保存しつつ分配する演算が複雑であるため、若干の誤差を生じるが、90度に正規化して計算を容易にしている。
【0079】
以上のように、音場形成装置1では、音場形成用のスピーカの設置位置にかかわらず、音場を形成するための複数の仮想音源の定位位置を設計者が意図した位置に定位させることができるので、家具の配置や部屋の間取りを気にせずにスピーカを配置して、音場プログラムを選択・設定して、複数の音場によるサラウンドサウンドを楽しむことができる。
【0080】
なお、以上の説明では、視聴空間自動設定モードにより、各スピーカの位置情報や聴取位置情報を算出する構成としたが、これに限るものではなく、例えば、ユーザは、聴取位置から各スピーカに対する方向(角度)を分度器等で測定し、操作部を操作してこれらの値を入力することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】従来の仮想音源の定位処理を説明するための概念図である。
【図2】スピーカ配置に応じた複数の仮想音源の配置状態を示す図である。
【図3】音場形成装置の概略構成及びリスニングルームでのスピーカの配置状態を示す図である。
【図4】音場形成装置により4つの音場を形成した状態のイメージを示す斜視図、及び仮想音源の定位方法を説明するための図である。
【図5】音場制御用スピーカを図2と同様に配置した場合の複数の仮想音源の配置情報を示す図である。
【図6】音場形成装置の概略構成を示すブロック図である。
【図7】図6に示した音場形成装置により4つの音場を形成した状態のイメージを示す斜視図である。
【図8】音場制御用スピーカのレイアウトを線図化して方向領域を説明するための図である。
【図9】各スピーカのレベル比を算出するための各種の角度を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
1…音場形成装置 3…オプティマイザマイク(マイク) 9…操作部 11〜18…スピーカ 31…信号入力端子 39…DSPデコーダ 41…テスト音生成部 43…パラメータメモリ 45…信号処理部 46…遅延処理部 47…パラメトリックイコライザ 49…D/Aコンバータ 51…電子ボリューム 53…パワーアンプ 55…スピーカ端子 57…マイク端子 59…マイクアンプ 61…A/Dコンバータ 63…制御部 65…メモリ 67…操作部 69…表示部 71…主信号線 73…反響音生成部 75…テスト音解析部 76…係数演算部 80…プレゼンス反射音生成部 81…左サラウンド反射音生成部 82…右サラウンド反響音生成部 83…背面サラウンド反響音生成部 84…リバーブ音生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数チャンネルの音声信号から生成した反射音及び残響音の信号を、聴取位置の周囲に配置した複数のスピーカに供給し、聴取位置の周囲に複数の仮想音源を定位させて、複数の音場を形成する音場形成装置であって、
複数の音場の生成指示を受け付ける操作手段と、
前記複数のスピーカの設置位置情報、前記聴取位置の情報、及び前記複数の音場を形成する各仮想音源の定位位置情報を記憶する記憶手段と、
前記操作手段が複数の音場の生成指示を受け付けると、前記記憶手段から各情報を読み出して、聴取位置に対する各仮想音源とスピーカの位置関係に基づいて、各スピーカに供給する反射音及び残響音の信号の分配比を仮想音源毎に算出する演算手段と、
前記複数チャンネルの音声信号から各仮想音源に対応する反射音及び残響音の信号を生成して前記分配比で分配し、分配した各信号をスピーカ毎に加算して各スピーカに供給する反響音生成手段と、
を備えたことを特徴とする音場形成装置。
【請求項2】
前記複数のスピーカに放音させるテスト音信号を生成するテスト音源手段と、
ユーザの聴取位置における少なくとも異なる3カ所で、前記スピーカが放音したテスト音を収音してテスト収音信号を出力するマイクロフォンが接続されるマイク端子と、
前記マイク端子から入力されたテスト音信号を解析し、その結果に基づいて前記複数のスピーカの設置位置情報、及び前記聴取位置の情報を算出して、前記記憶手段に記憶させる解析手段と、
を備えた請求項1に記載の音場形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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