説明

音声RTP通信送受信方法及び送受信装置

【課題】モデムデータの品質を損なうことなく音声RTPストリームパケット通信によるインバンドFAX通信を行うことができる音声RTP通信送受信方法及び送受信装置を提供する。
【解決手段】モデム信号に対応する符号化データ列における先頭符号化データ及び末尾符号化データの位置を示す付加データを符号化データのうちの無音データ内に挿入し、当該符号化データを含むRTPパケットを通信網を介して送信し、当該通信網から到来したRTPパケットを順次受信及び蓄積してこれに含まれる符号化データが当該付加データを含むか否かについて当該符号化データの蓄積順に順次判定して当該付加データを検出し、当該付加データの検出に応じてデータ処理についての現在処理設定を音声データ処理設定とモデムデータ処理設定との間で切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声RTP(Real-time Transport Protocol)ストリームパケット通信により音声通信を行う音声RTP通信送受信方法及び送受信装置に関し、特に音声通信のみならずファクシミリ(以下、FAXと称する)通信も可能な音声RTP通信送受信方法及び送受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
音声RTPストリームパケット通信によりモデムデータを送受信する装置として、IP(Internet Protocol)通信専用の例えばITU-T T.37やT.38の通信プロトコルを用いてIP通信専用の通信路を介してFAX通信におけるモデムデータを送受信する装置(例えば特許文献1)の他に、モデムデータを音声データとみなし、音声用の通信路を介してモデムデータを送受信する、いわゆるインバンドFAX通信を行う例えばVoIP(Voice on Internet Protocol)ルータやFAXサーバなどの装置が知られている。後者の装置の場合には、FAX専用の通信網やゲートウェイ装置が不要であるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−225241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、インバンドFAX通信によりモデムデータを送受信する従来の装置においては以下の問題があった。一般に、受信側装置がIP通信網を介してストリームパケットを順次受信する場合には、いわゆるパケット到来時間の揺らぎにより、送信側装置のパケット送信順通り(すなわち時系列通り)に受信できないときがある。かかる場合、音声データについてはリアルタイムでの再生が要求されることから、従来の装置においては遅延パケットの破棄や損失パケットの補間などの処理を行い、聴感品質を維持できるようにしていた。しかし、モデムデータについても同様の破棄又は補間処理を行った場合には、変調データであるモデムデータが変質してしまい、変調データとしての品質が維持できなくなってしまうという問題があった。
【0005】
本発明は上記した如き問題点に鑑みてなされたものであって、モデムデータの品質を損なうことなく音声RTPストリームパケット通信によるインバンドFAX通信を可能とする音声RTP通信送受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による音声RTP通信送受信方法は、音声信号とファクシミリ通信におけるモデム信号とのうちのいずれか一方の信号を現在入力信号として受信する信号受信ステップと、前記現在入力信号に対してG.711符号化方式に従って符号化処理を施してパケット単位毎の符号化データを生成する符号化ステップと、前記符号化データをそれぞれ含むRTPパケットを生成しこれを通信網を介してRTPストリーミング送信する送信ステップと、前記通信網から到来した前記RTPパケットを順次受信してこれに含まれる符号化データを蓄積するパケット受信蓄積ステップと、前記パケット受信蓄積ステップにおいて蓄積された符号化データに対して現在処理設定に従ってG.711符号化方式による復号処理を施してPCM信号を生成する復号ステップと、前記復号ステップにおいて生成されたPCM信号を出力する信号出力ステップと、を含む音声RTP通信送受信方法であって、前記送信ステップにおける前記RTPパケットの生成に先立って前記モデム信号に対応する符号化データ列における先頭符号化データ及び末尾符号化データの位置を示す付加データを前記符号化データのうちの無音データ内に挿入する付加データ挿入ステップと、前記パケット受信蓄積ステップにおいて蓄積された符号化データが前記付加データを含むか否かについて前記パケット受信蓄積ステップにおける前記符号化データの蓄積順に順次判定して前記付加データを検出する付加データ検出ステップと、前記付加データ検出ステップにおける前記付加データの検出に応じて前記現在処理設定を音声データ処理設定とモデムデータ処理設定との間で切り替える処理設定切替ステップと、を含むことを特徴とする。
【0007】
また、本発明による音声RTP通信送信装置は、音声信号とファクシミリ通信におけるモデム信号とのうちのいずれか一方の信号を現在入力信号として受信する信号受信部と、前記現在入力信号に対してG.711符号化方式に従って符号化処理を施してパケット単位毎の符号化データを生成する符号化部と、前記符号化データをそれぞれ含むRTPパケットを生成しこれを通信網を介してRTPストリーミング送信する送信部と、を含む音声RTP通信送信装置であって、前記送信部による前記RTPパケットの生成に先立って、前記モデム信号に対応する符号化データ列における先頭符号化データ及び末尾符号化データの位置を示す付加データを前記符号化データのうちの無音データ内に挿入する付加データ挿入部を含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明による音声RTP通信受信装置は、通信網から到来したRTPパケットを順次受信してこれに含まれる符号化データを蓄積するパケット受信蓄積部と、前記パケット受信蓄積部に蓄積された前記符号化データに対して現在処理設定に従ってG.711符号化方式による復号処理を施してPCM信号を生成する復号部と、前記復号部によって生成されたPCM信号を出力する信号出力部と、を含むRTP通信受信装置であって、前記パケット受信蓄積部に蓄積された符号化データがモデムデータ処理に関する付加データを含むか否かについて前記パケット受信蓄積部への前記符号化データの蓄積順に順次判定して前記付加データを検出する付加データ検出部と、前記付加データ検出部による前記付加データの検出に応じて前記現在処理設定を音声データ処理設定とモデムデータ処理設定との間で切り替える処理設定切替部と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明による音声RTP通信送受信方法及び送受信装置によれば、モデムデータの品質を損なうことなく音声RTPストリームパケット通信によるインバンドFAX通信を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施例の音声RTP通信送受信装置(以下、単に音声RTP通信装置と称する)の構成をFAX電話端末及び通信網と共に示すブロック図である。
【図2】図1の信号処理部の構成を示すブロック図である。
【図3】図2のFAX制御情報挿入部によってFAX制御情報が挿入されたデータ列の一例を示す図である。
【図4】FAX制御情報を含むRTPパケットの一例を示す図である。
【図5】図1の信号処理部によるFAX制御情報挿入処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図6】(a)は、図2の入力信号処理部によって信号処理され出力されたパケット単位のPCM信号列の一例を示す図である。(b)は、図2の送信バッファ部23に蓄積されたパケット単位の符号化データ列の一例を示す図である。
【図7】図1の信号処理部による信号処理設定切替ルーチンを示すフローチャートである。
【図8】(a)は、送信側の音声RTP通信装置による送信順に整列した符号化データ列の一例を表わす図である。(b)は、受信側の音声RTP通信送受信装置による受信順に整列した符号化データ列の一例を表わす図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施例について添付の図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0012】
図1は本実施例の音声RTP通信装置1の構成をFAX電話端末2及び通信網3と共に示すブロック図である。音声RTP通信装置1は、音声RTPストリームパケット通信により音声通信を行う例えばVoIPルータやFAXサーバなどの装置であり、更にFAX通信におけるモデム信号を音声信号とみなし、音声用の通信路(すなわち通信網3)を介してモデム信号を送受信する、いわゆるインバンドFAX通信をも行うことができる装置である。FAX電話端末2は、ファクシミリ機能を備えた電話端末である。通信網3はインターネット網である。
【0013】
音声RTP通信装置1は、アナログ入出力部11と、信号処理部12と、RTP制御部13と、WANポート14と、を含む。
【0014】
アナログ入出力部11は、FAX電話端末2から供給されるアナログ信号(すなわち音声信号又はモデム信号)にA/D変換処理を施してPCM信号に変換し、これを信号処理部12に与える。当該アナログ信号は、例えばITUにより勧告されたV.21方式に従って変調された信号である。また、アナログ入出力部11は、信号処理部12から供給されるPCM信号にD/A変換処理を施してアナログ信号に変換し、これをFAX電話端末2に与える。
【0015】
信号処理部12は、アナログ入出力部11から供給されるPCM信号に対して信号処理を施して符号化データに変換し、これをRTP制御部13に与える。また、信号処理部12は、RTP制御部13から供給される符号化データに対して信号処理を施してPCM信号に変換し、これをアナログ入出力部11に与える。当該信号処理には、符号化処理及び復号処理が含まれる。信号処理部12は、例えばITU−Tによって策定されたG.711のμ則の規格に従って符号化処理及び復号処理を行う。以下、G.711のμ則を単にG.711と称する。信号処理部12による信号処理の詳細については後述する(図2)。
【0016】
RTP制御部13は、信号処理部12の送信バッファ部23(図2)に蓄積されているフレーム単位の符号化データを順次取り出し、取り出した符号化データを含むRTPパケットを生成して、これをWANポート14に供給する。また、RTP制御部13は、WANポート14から供給されるRTPパケットに含まれる符号化データを取り出して、これを信号処理部12に供給する。
【0017】
WANポート14は、RTP制御部13から供給されるRTPパケットを通信網3へ送出する。また、WANポート14は、通信網3から到来したRTPパケットをRTP制御部13に供給する。
【0018】
図2は、信号処理部12の構成を示すブロック図である。信号処理部12は、送信処理部20と、受信処理部30と、を含む。
【0019】
送信処理部20は、入力信号処理部21と、エンコーダ部22と、送信バッファ部23と、モデム信号監視部24と、FAX制御情報挿入部25と、を含む。
【0020】
入力信号処理部21は、アナログ入出力部11(図1)から供給されるPCM信号に対して例えば帯域制限のためのフィルタ処理やエコーキャンセラ処理などの信号処理を施し、信号処理後のPCM信号をフレーム単位にまとめて出力する。
【0021】
エンコーダ部22は、フレーム単位のPCM信号に対してG.711の規格に従って音声符号化処理(すなわちエンコード処理)を施して符号化データを生成し、当該符号化データを送信バッファ部23に供給する。
【0022】
送信バッファ部23は、エンコーダ部22から供給されるフレーム単位の符号化データを順次蓄積する。
【0023】
モデム信号監視部24は、入力信号処理部21によって信号処理されたフレーム単位のPCM信号を監視し、当該PCM信号が音声信号であるかモデム信号であるかをフレーム単位毎に判定する。モデム信号監視部24は、判定結果を表わす監視結果信号をFAX制御情報挿入部25に供給する。モデム信号監視部24は、PCM信号に対して例えば周波数分析処理やモデム復調処理を施して信号種別の切り替わりを判別する。
【0024】
以下、モデム信号監視部24が現在監視しているフレーム単位のPCM信号を現在監視PCM信号と称する。周波数分析処理により信号種別の切り替わりを検出する場合、モデム信号監視部24は、現在監視PCM信号の周波数が所定の周波数からなると判別したときに、現在監視PCM信号がモデム信号であると判別する。モデム信号の変復調方式としてITUにより勧告されたV.21方式においては、FSK(frequency shift keying)方式が採用されている。FSKにおいては、1,0の表現に各々異なる所定の周波数が割り当てられている(FAXで使用するV.21 channel2では1:1650Hz、0:1850Hz)。モデム信号監視部24は、周波数分析処理により、現在監視PCM信号が当該所定の周波数からなるものであるか否かを判別することにより、音声信号からモデム信号への切り替わりを検出できる。
【0025】
モデム復調処理により信号種別の切り替わりを検出する場合、モデム信号監視部24は、PCM信号に対して復調処理を施して得られたデジタルデータのビットパターンが特定のビットパターンであると判別したときに現在監視PCM信号がモデム信号であると判別する。通常、モデム信号の冒頭部分には、特定のビットパターンからなる同期データが含まれている。当該特定のビットパターンは、例えば所定パターンが1秒間に亘って複数回繰り返されたものである。モデム信号監視部24は、モデム復調処理により、現在監視PCM信号に対する復調処理によって得られたデジタルデータが同期データであることを示す特定のビットパターンであるか否かを判別することにより、音声信号からモデム信号への切り替わりを検出できる。なお、モデム信号監視部24が信号種別の切り替わりを判別する方法は、周波数分析処理及びモデム復調処理に限られない。
【0026】
以下、PCM信号が音声信号からモデム信号に切り替わったと判定した場合(すなわち現在監視PCM信号がモデム信号であり且つその直前のPCM信号が音声信号であると判定した場合)の判定結果を表わす監視結果信号をモデム切替り信号と称する。また、PCM信号がモデム信号から音声信号に切り替わったと判定した場合(すなわち現在監視PCM信号が音声信号であり且つその直前のPCM信号がモデム信号であると判定した場合)の判定結果を表わす監視結果信号を音声切替り信号と称する。
【0027】
FAX制御情報挿入部25は、モデム信号監視部24から供給される監視結果信号に応じて、送信バッファ部23に蓄積されている符号化データに付加データとしてFAX制御情報を挿入する。FAX制御情報は、符号化データ列におけるモデムデータの開始位置及び終了位置を示す情報である。ITU−T T.30の勧告によれば、音声通信とFAX通信が切り替わる際に一定の無音期間(75±20ms)を設けるべきことが規定されているので、FAX制御情報挿入部25は、当該無音期間に対応する無音データにFAX制御情報を挿入することができる。詳細には、FAX制御情報挿入部25は、モデム切替り信号に応じて、現在監視PCM信号に対応する符号化データの直前に送信バッファ部23に蓄積された符号化データ(無音データを含む符号化データ)に、FAX制御情報としてモデムデータ開始情報を挿入する。また、FAX制御情報挿入部25は、音声切替り信号に応じて、現在監視PCM信号に対応する符号化データ(無音データを含む符号化データ)に、FAX制御情報としてモデムデータ終了情報を挿入する。
【0028】
受信処理部は、受信バッファ部31と、デコーダ部32と、出力信号処理部33と、FAX制御情報監視部34と、FAX通信制御部35と、を含む。
【0029】
受信バッファ部31は、RTP制御部13から供給されるフレーム単位の符号化データを順次蓄積する。受信バッファ部31は、符号化データを、当該符号化データを含んでいたRTPパケットのヘッダに含まれるシーケンス番号と対応付けて蓄積する。受信バッファ部31は、音声信号を処理するための設定(以下、音声データ処理設定と称する)、及びモデム信号を処理するための設定(以下、モデムデータ処理設定と称する)のいずれか一方を現在処理設定とし、当該現在処理設定に従って符号化データを蓄積する。受信バッファ部31は、FAX通信制御部35からの設定変更信号に応じて、音声データ処理設定とモデムデータ処理設定とを相互に切り替える。
【0030】
現在処理設定が音声データ処理設定である場合、メモリ容量の過剰な使用を防止するために、受信バッファ部31は、符号化データの最大バッファリング数(すなわち最大蓄積数)を比較的小さく設定する。現在処理設定がモデムデータ処理設定である場合、パケット遅延が生じた場合でもデコーダ部32が取得すべき符号化データが不足しないようにするため、且つデコーダ部32が符号化データをシーケンス番号順に取得できるようにするために、受信バッファ部31は、符号化データの最大バッファリング数を比較的大きく設定する。
【0031】
デコーダ部32は、受信バッファ部31に蓄積されているフレーム単位の符号化データを取得し、当該符号化データに対してG.711の規格に従って音声復号処理(すなわちデコード処理)を施してPCM信号を生成する。デコーダ部32は、当該生成したPCM信号を出力信号処理部33に供給する。デコーダ部32は、音声データ処理設定及びモデムデータ処理設定のいずれか一方を現在処理設定とし、当該現在処理設定に従って符号化データのデコード処理を行う。デコーダ部32は、FAX通信制御部35からの設定変更信号に応じて、音声データ処理設定とモデムデータ処理設定とを相互に切り替える。
【0032】
現在処理設定が音声データ処理設定である場合、リアルタイムで音声を再生して音声品質を維持するために、デコーダ部32は、受信バッファ部31に蓄積されているフレーム単位の符号化データを蓄積順に取得する。また、デコーダ部32は、シーケンス番号に基づいて符号化データが欠落していると判別した場合には、欠落部分を補完するためのPCM信号を生成する。デコーダ部32は、例えば、当該欠落部分の直前の符号化データ及び/又は直後の符号化データに基づいて補完のためのPCM信号を生成する。
【0033】
現在処理設定がモデムデータ処理設定である場合、モデムデータの変調データとしての正確性を担保できるように、デコーダ部32は、受信バッファ部31に蓄積されているフレーム単位の符号化データをシーケンス番号順に取得する。また、デコーダ部32は、シーケンス番号に基づいて符号化データが欠落していると判別した場合であっても、当該符号化データに対応するPCM信号の補間処理は行わず、当該欠落部分についての符号化データの到来を待って、これを受信バッファ部31から取得する。
【0034】
出力信号処理部33は、デコーダ部32から供給されるPCM信号に対して例えば帯域制限のためのフィルタ処理やエコーキャンセラ処理などの信号処理を施し、信号処理後のPCM信号をアナログ入出力部11(図1)へ供給する。
【0035】
FAX制御情報監視部34は、受信バッファ部31に蓄積されるフレーム単位の符号化データを監視し、当該フレーム単位の符号化データにFAX制御情報が含まれるか否かを判別する。以下、FAX制御情報監視部34が現在監視している符号化データを現在監視符号化データと称する。FAX制御情報監視部34は、現在監視符号化データにFAX制御情報が含まれると判別した場合には、そのFAX制御情報をFAX通信制御部35へ供給する。
【0036】
FAX通信制御部35は、FAX制御情報監視部34から供給されたFAX制御情報に基づいて受信バッファ部31及び/又はデコーダ部32のデータ処理設定を制御する。詳細には、FAX通信制御部35は、FAX制御情報がモデムデータ開始情報である場合には、現在処理設定である音声データ処理設定からモデムデータ処理設定へ設定変更させるための設定変更信号を受信バッファ部31及び/又はデコーダ部32に供給する。また、FAX通信制御部35は、FAX制御情報がモデムデータ終了情報である場合には、現在処理設定であるモデムデータ処理設定から音声データ処理設定へ設定変更させるための設定変更信号を受信バッファ部31及び/又はデコーダ部32に供給する。
【0037】
図3は、FAX制御情報挿入部25によってFAX制御情報が挿入されたデータ列の一例を示す図である。データ列を構成するデータはフレーム単位(すなわち音声処理単位)で示されており、音声データとモデムデータに大別される。音声データには、無音データも含まれる。以下、無音データ以外の音声データを単に音声データと称する。ITU−T T.30の勧告によれば、音声通信とFAX通信が切り替わる際に一定の無音期間(75±20ms)を設けるべきことが規定されている。図3に示されるデータ列においても、先頭のモデムデータ41の直前には無音データ51が存在し、末尾のモデム信号42の直後には無音データ52が存在する。先頭のモデム信号41の直前の無音データ51には、FAX制御情報としてモデムデータ開始情報が含まれている。また、末尾のモデム信号42の直後の無音データ52には、FAX制御情報としてモデムデータ終了情報が含まれている。
【0038】
FAX制御情報挿入部25は、モデム信号監視部24から供給されるモデム切替り信号に応じて、現在監視PCM信号に対応するモデムデータ41の直前の無音データ51にFAX制御情報としてモデムデータ開始情報を挿入する。これにより、モデムデータの開始位置を示すことができる。また、FAX制御情報挿入部25は、モデム信号監視部24から供給される音声切替り信号に応じて、現在監視PCM信号に対応する無音データ52にFAX制御情報としてモデムデータ終了情報を挿入する。これにより、モデムデータの終了位置を示すことができる。
【0039】
FAX制御情報監視部34は、モデムデータ開始情報を検出したときに、受信バッファ部31及び/又はデコーダ部32の現在処理設定をモデムデータ処理設定とする。これにより、後続のモデムデータに適したデータ処理をすることができる。また、FAX制御情報監視部34は、モデムデータ終了情報を検出したときに、受信バッファ部31及び/又はデコーダ部32の現在処理設定を音声データ処理設定とする。これにより、後続の音声データに適したデータ処理をすることができる。
【0040】
図4は、FAX制御情報を含むRTPパケットの一例を示す図である。RTPパケットは、RTPヘッダとRTPペイロードとからなる。RTPヘッダの構成は一般的な構成であれば良い。RTPヘッダにはシーケンス番号が含まれる。RTPペイロードには符号化データとしてモデムデータ開始情報やモデムデータ終了情報などのFAX制御情報が含まれる。G.711音声符号化規格においては、0x7F及び0xFFが無音を示すデータとされており、FAX制御情報は、例えば当該0x7F及び0xFFのデータ列で表わすことができる。モデムデータ開始情報を例えば0x7F、0xFF、0x7F、・・・、0xFFからなるパターンにより表わし、モデムデータ終了情報を例えば0xFF、0x7F、0xFF、・・・、0x7Fからなるパターンにより表わすことができる。
【0041】
デコーダ部32で0x7F及び0xFFからなるFAX制御情報を含むデータ列をPCM信号に復号した場合には、”0”となる。一方、FAX制御情報監視部34は、例えば0x7Fを”0”、0xFFを”1”とみなして0x7F及び0xFFからなるパターンが示すFAX制御情報が得られ、モデムデータ開始情報であるかモデムデータ終了情報であるかを区別できる。
【0042】
サンプリングレートが8KHzの場合を例にとると、1フレーム(例えば10ms相当)のPCMサンプル数は80個になるので、1フレームが全て無音の場合、最大で80ビット分のデータを用いて表わされたFAX制御情報を1フレームに含めることができる。FAX制御情報を表わすデータ列は、音声信号を表わすデータ列と異なるものであれば良い。ITU−T T.30の勧告によれば、音声通信とFAX通信が切り替わる際に一定の無音期間(75±20ms)を設けるべきことが規定されているので、モデムデータの前後には必ず無音データが存在する。FAX制御情報は、当該モデムデータの前後に存在する無音データに含めることができる。
【0043】
以下、FAX電話端末2から到来したアナログ入力信号を音声RTP通信装置1が符号化データに変換してこれを通信網3へ送出する場合の動作(以下、送信動作と称する)について説明する。図5は、送信動作における信号処理部12によるFAX制御情報挿入処理ルーチンを示すフローチャートである。以下、図5を参照しつつ、FAX制御情報挿入処理について説明する。
【0044】
音声RTP通信装置1のアナログ入出力部11は、FAX電話端末2から到来するアナログ入力信号にA/D変換処理を施してPCM信号に変換し、これを信号処理部12の入力信号処理部21へ供給する。
【0045】
入力信号処理部21は、アナログ入出力部11から供給されるPCM信号に対して例えばフィルタ処理などの信号処理を施し、RTPパケットの処理周期単位(以下、フレーム単位と称する)のデータにする(ステップS10)。図6(a)は、入力信号処理部21によって信号処理され出力されたフレーム単位のPCM信号列の一例を示す図である。図6(a)には、音声信号61及び62、無音信号63及び64、モデム信号65、66及び67、無音信号68からなる部分が示されている。
【0046】
モデム信号監視部24は、入力信号処理部21によって信号処理されたフレーム単位のPCM信号が音声信号であるかモデム信号であるかをフレーム単位毎に判定し、音声信号とモデム信号との間で信号種別が切り替わったか否かを判定する(ステップS11)。モデム信号監視部24は、例えばPCM信号に周波数分析やモデム復調などの処理を施して信号種別の切り替わりを判別する。
【0047】
先ず、モデム信号監視部24は、周波数分析処理等によって現在監視PCM信号が音声信号62であると判定した場合、音声信号62の直前の信号が音声信号61であることから信号種別の切り替わりが発生していないと判定する(ステップS11)。モデム信号監視部24は、信号種別の切り替わりが発生していない旨の判定結果を表わす監視結果信号(以下、切替非発生信号と称する)をFAX制御情報挿入部25に供給する。FAX制御情報挿入部25は、FAX制御情報の挿入処理を行わない。
【0048】
エンコーダ部22は、モデム信号監視部24による現在監視PCM信号である音声信号62に対してG.711の規格に従って音声符号化処理(すなわちエンコード処理)を施して符号化データである音声データ62を生成する(ステップS12)。送信バッファ部23は、エンコーダ部22から供給される音声データ62を蓄積する(ステップS13)。現在監視PCM信号が無音信号63及び64の場合も上記したステップS11〜S13と同様の処理がなされる。
【0049】
図6(b)は、音声信号61から無音信号64までのPCM信号がエンコーダ処理後されて送信バッファ部23に蓄積された音声データ71から無音データ74までの符号化データ列の一例を示す図である。この時点までは、FAX制御情報挿入部25は、モデム信号監視部24から切替非発生信号の供給を受けているので、符号化データ列へのFAX制御情報の挿入は行わない。
【0050】
次に、モデム信号監視部24は、現在監視PCM信号がモデム信号65であると判定した場合、モデム信号65の直前の信号が無音信号64であることから信号種別の切り替わりが発生したと判定する(ステップS11)。モデム信号監視部24は、PCM信号の種別が音声信号からモデム信号に切り替わったことを示す信号(すなわちモデム切替り信号)をFAX制御情報挿入部25に供給する。
【0051】
エンコーダ部22は、モデム信号65に対してG.711の規格に従って音声符号化処理を施してモデムデータ75を生成する(ステップS14)。送信バッファ部23は、エンコーダ部22から供給されるモデムデータ75を蓄積する(ステップS15)。FAX制御情報挿入部25は、モデム信号監視部24から供給されたモデム切替り信号に応じて、モデムデータ75の直前の無音データ74にFAX制御情報であるモデムデータ開始情報を挿入する(ステップS16)。
【0052】
図6(c)は、音声信号61からモデム信号65までのPCM信号がエンコーダ処理後されて送信バッファ部23に蓄積された音声データ71からモデムデータ75までの符号化データ列の一例を示す図である。この時点においては、FAX制御情報挿入部25によって、無音データ74にFAX制御情報であるモデムデータ開始情報(図6(c)では単に「開始」と表示している)が挿入されている。
【0053】
次に、モデム信号監視部24は、現在監視PCM信号がモデム信号66であると判定した場合、モデム信号66の直前の信号がモデム信号65であることから信号種別の切り替わりが発生していないと判定する(ステップS11)。以下、モデム信号65に対して上記したステップS12及びS13と同様の処理がなされる。また、現在監視PCM信号がモデム信号67の場合もモデム信号66に対する処理と同様の処理がなされる。
【0054】
続いて、モデム信号監視部24は、現在監視PCM信号が無音信号68である場合、無音信号68の直前の信号がモデム信号67であることから信号種別の切り替わりが発生したと判定する(ステップS11)。モデム信号監視部24は、PCM信号の種別がモデム信号から音声信号に切り替わったことを示す信号(すなわち音声切替り信号)をFAX制御情報挿入部25に供給する。
【0055】
エンコーダ部22は、無音信号68に対してG.711の規格に従って音声符号化処理を施して無音データ78を生成する(ステップS14)。送信バッファ部23は、エンコーダ部22から供給される無音データ78を蓄積する(ステップS15)。FAX制御情報挿入部25は、モデム信号監視部24から供給された音声切替り信号に応じて、無音データ78にFAX制御情報であるモデムデータ終了情報を挿入する(ステップS16)。
【0056】
図6(d)は、音声信号61から無音信号68までのPCM信号がエンコーダ処理後されて送信バッファ部23に蓄積された音声データ71から無音データ78までの符号化データ列の一例を示す図である。この時点においては、FAX制御情報挿入部25によって、無音データ74にFAX制御情報であるモデムデータ終了情報(図6(c)では単に「終了」と表示している)が挿入されている。
【0057】
後続のPCM信号についても上記と同様のFAX制御情報挿入処理がなされる。このように送信動作においては、音声RTP通信装置1は、モデムデータの直前及び直後の無音データにFAX制御情報を挿入する。これにより、送信側の音声RTP通信装置1は、受信側の装置に対してモデムデータの開始位置及び終了位置を通知することができる。
【0058】
以下、通信網3から到来したRTPパケットに含まれる符号化データを音声RTP通信装置1がアナログ入力信号に変換してこれをFAX電話端末2へ供給する場合の動作(以下、受信動作と称する)について説明する。図7は、受信動作における信号処理部12による信号処理設定切替ルーチンを示すフローチャートである。図8(a)は、送信側の音声RTP通信装置1による送信順に整列した符号化データ列の一例を表わす図である。図8(b)は、受信側の音声RTP通信装置1による受信順に整列した符号化データ列の一例を表わす図である。通信網3を介したことによるいわゆるパケット到来時間の揺らぎにより、図8(b)に示される受信側の符号化データ列における音声信号82と83とは互いに時系列的に入れ替わっている。同様に、モデムデータ86と87とが互いに時系列的に入れ替わっている。以下、図7、図8(a)及び(b)を参照しつつ、信号処理部12による信号処理設定切替について説明する。
【0059】
RTP制御部13は、WANポート14から供給されるRTPパケットに含まれる符号化データを取り出して、これを信号処理部12の受信バッファ部31に順次供給する。詳細には、図8(b)に示されるように音声データ81、音声データ83、・・・、無音データ88の順に受信バッファ部31に供給される。
【0060】
先ず、受信バッファ部31は、初期設定である音声データ処理設定に従って符号化データを蓄積する(ステップS20)。詳細には、受信バッファ部31は、RTP制御部13から供給される符号化データすなわち音声データ81、音声データ83、・・・を順次蓄積する(ステップS20)。受信バッファ部31は、これらの符号化データを、当該符号化データを含んでいたパケットのヘッダに含まれるシーケンス番号と対応付けて蓄積する。以下、音声データ81、音声データ83、・・・、無音データ88のシーケンス番号をSQ1、SQ3、・・・、SQ8とする。
【0061】
現在処理設定が音声データ処理設定である場合、受信バッファ部31は、例えば50msに相当する分の符号化データを蓄積することができる。1フレームで例えば10ms分の符号化データを格納できる場合、受信バッファ部31は、5個の符号化データを蓄積可能である。
【0062】
FAX制御情報監視部34は、受信バッファ部31に蓄積されるフレーム単位の符号化データを監視し、当該フレーム単位の符号化データにFAX制御情報が含まれるか否かを判別する(ステップS21)。
【0063】
先ず、現在監視符号化データが音声データ81である場合、FAX制御情報監視部34は、音声データ81にはFAX制御情報が含まれていないと判別する(ステップS21)。この場合、FAX制御情報監視部34は、FAX通信制御部35へFAX制御情報を供給しない。また、FAX通信制御部35は、受信バッファ部31及びデコーダ部32へ設定変更信号を供給しない。
【0064】
デコーダ部32は、初期設定である音声データ処理設定に従って、シーケンス番号にかかわらず、受信バッファ部31から符号化データを蓄積順に取得する。最初に、デコーダ部32は、受信バッファ部31の先頭に蓄積されている音声データ81を取得する。そして、デコーダ部32は、音声データ81に対してG.711の規格に従って音声復号処理(すなわちデコード処理)を施してPCM信号を生成する(ステップS22)。デコーダ部32は、当該生成したPCM信号を出力信号処理部33に供給する。なお、デコーダ部32は、シーケンス番号に基づいて符号化データが欠落していると判別した場合には、当該欠落部分を補完するためのPCM信号を生成しても良い。
【0065】
出力信号処理部33は、デコーダ部32から供給されるPCM信号に対して例えばフィルタ処理などの信号処理を施し(ステップS23)、信号処理後のPCM信号をアナログ入出力部11へ供給する(ステップS24)。
【0066】
次に、現在監視符号化データが無音データ83である場合、FAX制御情報監視部34は、無音データ83にはFAX制御情報が含まれていないと判別し(ステップS21)、ステップS22に移行する。
【0067】
ここで、デコーダ部32は、無音データ83の直前に受信バッファ部31から取得した音声データ81のシーケンス番号SQ1と、無音データ83のシーケンス番号SQ3とが不連続であると判別するが、無音データ83を受信バッファ部31から取得する。そして、デコーダ部32は、無音データ83に対して音声復号処理を施してPCM信号を生成する(ステップS22)。続いて、デコーダ部32は、後続の音声データ82を受信バッファ部31から取得し、これに音声復号処理を施してPCM信号を生成する(ステップS22)。以下、これらのPCM信号に対して上記したステップS23及びS24と同様の処理がなされる。
【0068】
次に、現在監視符号化データが音声データ84である場合、FAX制御情報監視部34は、FAX制御情報であるモデムデータ開始情報が音声データ84に含まれていると判別する(ステップS21)。この場合、FAX制御情報監視部34は、FAX通信制御部35へモデムデータ開始情報を供給する。また、FAX通信制御部35は、受信バッファ部31及びデコーダ部32へ設定変更信号を供給する。
【0069】
受信バッファ部31及びデコーダ部32の各々は、FAX通信制御部35からのモデムデータ開始情報の通知に応じて、現在処理設定である音声データ処理設定からモデムデータ処理設定へ設定変更する(ステップS25)。
【0070】
受信バッファ部31は、モデムデータ処理設定により、例えば500msに相当する分の符号化データを蓄積できる。1フレームで例えば10ms分の符号化データを格納できる場合、受信バッファ部31は、50個の符号化データを蓄積可能である。これにより、より多くの符号化データを蓄積可能として、受信バッファ部31内に符号化データが存在しない状態となることを回避し且つデコーダ部32がシーケンス番号順に符号化データを受信バッファ部31から取得できるようになる。
【0071】
デコーダ部32は、モデムデータ処理設定により、シーケンス番号に基づいて符号化データの時系列順が送信順と異なっていると判別した場合には、時系列的に先の符号化データの到来を待って、シーケンス番号順に符号化データを受信バッファ部31から取得する(ステップS22)。これにより、デコーダ部32は、モデムデータを正確に復号することができ、モデムデータの変調データとしての品質を保つことができる。
【0072】
音声データ84に対しては、上記したステップS22からS24までの処理と同様の処理がなされる。次に、現在監視符号化データがモデムデータ85である場合、FAX制御情報監視部34は、モデムデータ85にはFAX制御情報が含まれていないと判別し(ステップS21)、上記したステップS22からS24と同様の処理がなされる。
【0073】
次に、現在監視符号化データがモデムデータ87である場合、FAX制御情報監視部34は、モデムデータ87にはFAX制御情報が含まれていないと判別し(ステップS21)、ステップS22に移行する。
【0074】
ここで、デコーダ部32は、モデムデータ87の直前に受信バッファ部31から取得したモデムデータ85のシーケンス番号SQ5と、モデムデータ87のシーケンス番号SQ7とが不連続であると判別し、モデムデータ87の受信バッファ部31からの取得を保留する。次に、デコーダ部32は、モデムデータ85のシーケンス番号SQ5と、モデムデータ87の後続の符号化データとして受信バッファ部31に蓄積されているモデムデータ86のシーケンス番号SQ6とが連続していると判別し、モデムデータ86を受信バッファ部31から取得する。デコーダ部32は、モデムデータ86に対して音声復号処理を施してPCM信号を生成する(ステップS22)。続いて、デコーダ部32は、モデムデータ86のシーケンス番号SQ6と連続するシーケンス番号SQ7のモデムデータ87を受信バッファ部31から取得し、モデムデータ87に対して音声復号処理を施してPCM信号を生成する(ステップS22)。モデムデータ86及び87に対しては、上記したステップS23及びS24と同様の処理がなされる。なお、モデムデータ処理設定がされている場合には、デコーダ部32は、シーケンス番号に基づいて符号化データが欠落していると判別した場合でも、当該欠落部分を補完するための補間処理は行わない。
【0075】
次に、現在監視符号化データが無音データ88である場合、FAX制御情報監視部34は、FAX制御情報であるモデムデータ終了情報が無音データ88に含まれていると判別する(ステップS21)。この場合、FAX制御情報監視部34は、FAX通信制御部35へモデムデータ終了情報を供給し、FAX通信制御部35は、受信バッファ部31及びデコーダ部32へ設定変更信号を供給する。
【0076】
受信バッファ部31及びデコーダ部32の各々は、FAX通信制御部35からのモデムデータ終了情報の通知に応じて、現在処理設定であるモデムデータ処理設定から音声データ処理設定へ設定変更する(ステップS22)。以降、受信バッファ部31及びデコーダ部32の各々は、上記した音声データ処理設定時の処理と同様の処理を行う(ステップS20〜S24)。
【0077】
このように、受信側の音声RTP通信装置1は、受信RTPパケットに含まれているFAX制御情報に基づいて音声データ処理設定とモデムデータ処理設定を切り替えるので、音声データ及びモデムデータの各々に適したデータ処理を行うことができる。詳細には、音声データをデータ処理する場合には、受信バッファのバッファリング数を比較的小さくしてメモリの使用容量を低減し且つシーケンス番号にかかわらず受信バッファ31への蓄積順に符号化データを取り出してデコードすることによりリアルタイムで音声を再生して音声品質を維持することができる。モデムデータをデータ処理する場合には、受信バッファのバッファリング数を比較的大きくしてメモリへのモデムデータの最大蓄積数を増やし且つモデムデータをシーケンス番号順に取り出してデコードすることによりモデムデータの変調データとしての品質を保つことができる。
【0078】
送信処理及び受信処理についてまとめると以下のようになる。本実施例による音声RTP通信装置1が送信側の装置である場合、外部から供給されるPCM信号を監視し、音声信号とモデム信号の切り替わり部分に対応する符号化データにFAX制御情報を挿入してRTPパケットにより送信する。通常、切り替わり部分の符号化データは無音データであるので、当該無音データにFAX制御情報を挿入する。この場合のFAX制御情報は、G.711音声符号化規格において無音を示すデータとして規定されている0x7F及び0xFFにより表わされる。0x7F及び0xFFのパターンにより、FAX制御情報としてモデムデータ開始情報及びモデムデータ終了情報を表わす。これにより、受信側の装置に対してモデムデータの開始及び終了の位置を示すことができる。
【0079】
音声RTP通信装置1が受信側の装置である場合、受信RTPパケットを監視し、FAX制御情報を検出したときに、音声データ処理設定とモデムデータ処理設定を切り替える。これにより、音声データ及びモデムデータの各々に適したデータ処理を行うことができる。音声データ処理設定の場合には、バッファリング数を比較的小さくしてメモリの使用容量を低減し且つ蓄積順に符号化データを取り出してデコードすることによりリアルタイムで音声を再生し音声品質を維持できる。モデムデータ処理設定の場合には、バッファリング数を比較的大きくしてメモリへのモデムデータの最大蓄積数を増やし且つモデムデータをシーケンス番号順に取り出してデコードすることによりモデムデータの変調データとしての品質を保つことができる。
【0080】
このように、本発明による音声RTP通信装置によれば、モデムデータの品質を損なうことなく音声RTPストリームパケット通信によるインバンドFAX通信を行うことができる。
【0081】
なお、FAX制御情報を無音データ部分に挿入するので、仮に受信側の装置が本発明による音声RTP通信装置ではない場合においても問題は生じない。
【0082】
上記した例は、音声符号化則としてG.711のμ則を適用した例であるが、G.711のA則を適用した場合にも同様の効果を奏することができる。
【0083】
また、上記した例は、FAX制御情報がモデムデータの開始位置及び終了位置を示す情報である場合の例であるが、これら以外のモデム信号処理に関する付加情報であっても良い。
【0084】
また、上記した例は、先頭モデムデータの直前の符号化データ及び末尾モデムデータの直後の符号化データにそれぞれFAX制御情報を挿入した場合の例であるが、先頭モデムデータの前の複数の符号化データ及び末尾モデムデータの後の複数の符号化データの各々にFAX制御情報を挿入するようにしても良い。
【符号の説明】
【0085】
1 音声RTP通信装置(音声RTP通信送受信装置)
2 FAX電話端末
3 通信網
11 アナログ入出力部
12 信号処理部
13 RTP制御部
14 WANポート
21 入力信号処理部(信号受信部)
22 エンコーダ部(符号化部)
23 送信バッファ部(送信部)
24 モデム信号監視部(検出部)
25 FAX制御情報挿入部(付加データ挿入部)
31 受信バッファ部(パケット受信蓄積部)
32 デコーダ部(復号部)
33 出力信号処理部(信号出力部)
34 FAX制御情報監視部(付加データ検出部)
35 FAX通信制御部(処理設定切替部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音声信号とファクシミリ通信におけるモデム信号とのうちのいずれか一方の信号を現在入力信号として受信する信号受信ステップと、
前記現在入力信号に対してG.711符号化方式に従って符号化処理を施してパケット単位毎の符号化データを生成する符号化ステップと、
前記符号化データをそれぞれ含むRTPパケットを生成しこれを通信網を介してRTPストリーミング送信する送信ステップと、
前記通信網から到来した前記RTPパケットを順次受信してこれに含まれる符号化データを蓄積するパケット受信蓄積ステップと、
前記パケット受信蓄積ステップにおいて蓄積された符号化データに対して現在処理設定に従ってG.711符号化方式による復号処理を施してPCM信号を生成する復号ステップと、
前記復号ステップにおいて生成されたPCM信号を出力する信号出力ステップと、を含む音声RTP通信送受信方法であって、
前記送信ステップにおける前記RTPパケットの生成に先立って前記モデム信号に対応する符号化データ列における先頭符号化データ及び末尾符号化データの位置を示す付加データを前記符号化データのうちの無音データ内に挿入する付加データ挿入ステップと、
前記パケット受信蓄積ステップにおいて蓄積された符号化データが前記付加データを含むか否かについて前記パケット受信蓄積ステップにおける前記符号化データの蓄積順に順次判定して前記付加データを検出する付加データ検出ステップと、
前記付加データ検出ステップにおける前記付加データの検出に応じて前記現在処理設定を音声データ処理設定とモデムデータ処理設定との間で切り替える処理設定切替ステップと、を含むことを特徴とする音声RTP通信送受信方法。
【請求項2】
前記付加データ挿入ステップは、前記入力信号が前記音声信号と前記モデム信号との間で切替わったことを検出する信号切替り検出ステップを含み、
前記付加データ挿入ステップは、前記信号切替り検出ステップにおける切替り検出がなされた際に前記付加データの挿入をなすことを特徴とする請求項1に記載の音声RTP通信送受信方法。
【請求項3】
前記付加データ挿入ステップは、前記信号切替り検出ステップにおいて前記現在入力信号の前記音声信号から前記モデム信号への切替わりが検出された場合に、前記現在入力信号に対応する前記先頭符号化データの直前の符号化データに前記付加データとしてモデムデータ開始情報データを挿入することを特徴とする請求項2に記載の音声RTP通信送受信方法。
【請求項4】
前記付加データ挿入ステップは、前記信号切替り検出ステップにおいて前記現在入力信号の前記モデム信号から前記音声信号への切替わりが検出された場合に、前記現在入力信号に対応する前記末尾符号化データの直後の符号化データに前記付加データとしてモデムデータ終了情報データを挿入することを特徴とする請求項2又は3に記載の音声RTP通信送受信方法。
【請求項5】
前記信号切替り検出ステップにおいては、前記現在入力信号の周波数の変化に基づいて前記音声信号と前記モデム信号との間の切替りを検出することを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1つに記載の音声RTP通信送受信方法。
【請求項6】
前記信号切替り検出ステップにおいては、前記現在入力信号を復号して得られたビットパターンの変化に基づいて前記音声信号と前記モデム信号との間の切替りを検出することを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1つに記載の音声RTP通信送受信方法。
【請求項7】
前記処理設定切替ステップにおいては、前記付加データ検出ステップにおいて検出された前記付加データがモデムデータ開始情報データである場合に前記現在処理設定を前記モデムデータ処理設定とし、且つ前記付加データがモデムデータ終了情報データである場合に前記現在処理設定を前記音声データ処理設定とすることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載の音声RTP通信送受信方法。
【請求項8】
前記復号ステップにおいては、前記現在処理設定が前記音声データ処理設定である場合には前記パケット受信蓄積ステップにおいて蓄積された順に前記符号化データに対して復号処理を順次施し、且つ前記現在処理設定が前記モデムデータ処理設定である場合には前記RTPパケットのシーケンス番号順に前記符号化データに対して復号処理を順次施すことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の音声RTP通信送受信方法。
【請求項9】
前記付加データは、前記G.711符号化方式における0を表す2種類のデータパターンによって表わされることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1つに記載の音声RTP通信送受信方法。
【請求項10】
音声信号とファクシミリ通信におけるモデム信号とのうちのいずれか一方の信号を現在入力信号として受信する信号受信部と、前記現在入力信号に対してG.711符号化方式に従って符号化処理を施してパケット単位毎の符号化データを生成する符号化部と、前記符号化データをそれぞれ含むRTPパケットを生成しこれを通信網を介してRTPストリーミング送信する送信部と、を含む音声RTP通信送信装置であって、
前記送信部による前記RTPパケットの生成に先立って、前記モデム信号に対応する符号化データ列における先頭符号化データ及び末尾符号化データの位置を示す付加データを前記符号化データのうちの無音データ内に挿入する付加データ挿入部を含むことを特徴とする音声RTP通信送信装置。
【請求項11】
前記付加データ挿入部は、前記入力信号が前記音声信号と前記モデム信号との間で切替わったことを検出する信号切替り検出部を含み、
前記付加データ挿入部は、前記信号切替り検出部による切替り検出がなされた際に前記付加データの挿入をなすことを特徴とする請求項10に記載の音声RTP通信送信装置。
【請求項12】
前記付加データ挿入部は、前記信号切替り検出部によって前記現在入力信号の前記音声信号から前記モデム信号への切替わりが検出された場合に、前記現在入力信号に対応する前記先頭符号化データの直前の符号化データに前記付加データとしてモデムデータ開始情報データを挿入することを特徴とする請求項11に記載の音声RTP通信送信装置。
【請求項13】
前記付加データ挿入部は、前記信号切替り検出部による前記現在入力信号の前記モデム信号から前記音声信号への切替わりが検出された場合に、前記現在入力信号に対応する前記末尾符号化データの直後の符号化データに前記付加データとしてモデムデータ終了情報データを挿入することを特徴とする請求項11又は12に記載の音声RTP通信送信装置。
【請求項14】
前記信号切替り検出部は、前記現在入力信号の周波数の変化に基づいて前記音声信号と前記モデム信号との間の切替りを検出することを特徴とする請求項11乃至13のいずれか1つに記載の音声RTP通信送信装置。
【請求項15】
前記信号切替り検出部は、前記現在入力信号を復号して得られたビットパターンの変化に基づいて前記音声信号と前記モデム信号との間の切替りを検出することを特徴とする請求項11乃至14のいずれか1つに記載の音声RTP通信送信装置。
【請求項16】
前記付加データは、前記G.711符号化方式における0を表す2種類のデータパターンによって表わされることを特徴とする請求項10乃至15のいずれか1つに記載の音声RTP通信送信装置。
【請求項17】
通信網から到来したRTPパケットを順次受信してこれに含まれる符号化データを蓄積するパケット受信蓄積部と、前記パケット受信蓄積部に蓄積された前記符号化データに対して現在処理設定に従ってG.711符号化方式による復号処理を施してPCM信号を生成する復号部と、前記復号部によって生成されたPCM信号を出力する信号出力部と、を含むRTP通信受信装置であって、
前記パケット受信蓄積部に蓄積された符号化データがモデムデータ処理に関する付加データを含むか否かについて前記パケット受信蓄積部への前記符号化データの蓄積順に順次判定して前記付加データを検出する付加データ検出部と、
前記付加データ検出部による前記付加データの検出に応じて前記現在処理設定を音声データ処理設定とモデムデータ処理設定との間で切り替える処理設定切替部と、を含むことを特徴とする音声RTP通信受信装置。
【請求項18】
前記処理設定切替部は、前記付加データ検出部によって検出された前記付加データがモデムデータ開始情報データである場合に前記現在処理設定を前記モデムデータ処理設定とし、且つ前記付加データがモデムデータ終了情報データである場合に前記現在処理設定を前記音声データ処理設定とすることを特徴とする請求項17に記載の音声RTP通信受信装置。
【請求項19】
前記復号部は、前記現在処理設定が前記音声データ処理設定である場合には前記パケット受信蓄積部に蓄積された順に前記符号化データに対して復号処理を順次施し、且つ前記現在処理設定が前記モデムデータ処理設定である場合には前記RTPパケットのシーケンス番号順に前記符号化データに対して復号処理を順次施すことを特徴とする請求項17又は18に記載の音声RTP通信受信装置。
【請求項20】
前記付加データは、前記符号化データのうちの無音データ内に含まれていることを特徴とする請求項17乃至19のいずれか1つに記載の音声RTP通信受信装置。
【請求項21】
前記付加データは、前記G.711符号化方式における0を表す2種類のデータパターンによって表わされることを特徴とする請求項17乃至20のいずれか1つに記載の音声RTP通信受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−49617(P2012−49617A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187180(P2010−187180)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【出願人】(591051645)株式会社OKIソフトウェア (173)
【Fターム(参考)】