音速分布測定装置、音速分布測定方法及びプログラム
【課題】被測定体の内部音速分布の形状を仮定することなく、任意の内部音速分布を測定すること。
【解決手段】本発明に係る音速分布測定装置は、被測定体の厚み方向に超音波を放射し、被測定体の厚み方向のN次共振周波数までのN個の共振周波数を測定する共振周波数測定部と、測定されたN個の共振周波数を利用して、N個の質量体と相隣接する質量体を連結する(N−1)個のバネとからなるバネ・マス系モデルを仮定し、N個の質量体それぞれの質量と(N−1)個のバネそれぞれのバネ定数とを算出する逆解析部と、被測定体の厚み方向における超音波の音速分布が被測定体の厚みの中心に対して対称であるとして算出された質量及びバネ定数と、被測定体の既知の密度とを用いて、被測定体の厚み方向に(N−1)個のバネの長さにそれぞれ対応する厚みを有する(N−1)個の層に分割された各層の音響インピーダンス及び厚みを算出する音速分布算出部と、を備える。
【解決手段】本発明に係る音速分布測定装置は、被測定体の厚み方向に超音波を放射し、被測定体の厚み方向のN次共振周波数までのN個の共振周波数を測定する共振周波数測定部と、測定されたN個の共振周波数を利用して、N個の質量体と相隣接する質量体を連結する(N−1)個のバネとからなるバネ・マス系モデルを仮定し、N個の質量体それぞれの質量と(N−1)個のバネそれぞれのバネ定数とを算出する逆解析部と、被測定体の厚み方向における超音波の音速分布が被測定体の厚みの中心に対して対称であるとして算出された質量及びバネ定数と、被測定体の既知の密度とを用いて、被測定体の厚み方向に(N−1)個のバネの長さにそれぞれ対応する厚みを有する(N−1)個の層に分割された各層の音響インピーダンス及び厚みを算出する音速分布算出部と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音速分布測定装置、音速分布測定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属材料の材質に関する特徴量や内部応力等を測定するために、金属材料に対して超音波を放射し、金属材料の内部における超音波の音速の分布を算出することが行われている。
【0003】
例えば、以下の特許文献1では、被測定体である金属材料の厚み方向に超音波を放射し、被測定体の厚み方向の内部音速分布が2次曲線であると仮定したうえで、当該内部音速の分布を算出することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−308383号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M.L.Graham著、「Inverse Problems in Vibration(Solid Mechanics and ItsApplications)」、Kluwer Academic Publishers、P.63−92
【非特許文献2】M.T.Chu著、「Inverse Eigenvalue Problems:Theory,Algorithms and Application」、Oxford Univ.Press、P.71−145
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法は、内部音速分布が2次曲線となるという仮定のもとに解析を行っているため、実際の内部音速分布が2次曲線に近いものであれば精度良く結果が得られるものの、実際の内部音速分布が2次曲線とは異なる分布となっている場合には、解析精度が低下するという問題があった。
【0007】
そのため、被測定体の内部音速分布の形状を仮定することなく、任意の内部音速分布を測定することが可能な音速分布測定法が希求されている。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、被測定体の内部音速分布の形状を仮定することなく、任意の内部音速分布を測定することが可能な、音速分布測定装置、音速分布測定方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、被測定体の厚み方向に超音波を放射し、前記被測定体の厚み方向のN次共振周波数までのN個の共振周波数を測定する共振周波数測定部と、前記共振周波数測定部により測定されたN個の前記共振周波数を用いて、前記被測定体の厚み方向における超音波の音響インピーダンスの分布を特定する音速分布解析部と、を備え、前記音速分布解析部は、前記共振周波数測定部により測定されたN個の前記共振周波数を利用して、N個の質量体と、相隣接する前記質量体を連結する(N−1)個のバネと、からなるバネ・マス系モデルを仮定し、前記N個の質量体それぞれの質量と、前記(N−1)個のバネそれぞれのバネ定数と、を算出する逆解析部と、前記被測定体の厚み方向における超音波の音速分布が前記被測定体の厚みの中心に対して対称であるとして算出された前記質量及びバネ定数と、被測定体の既知の密度とを用いて、前記被測定体の厚み方向に前記(N−1)個のバネの長さにそれぞれ対応する厚みを有する(N−1)個の層に分割された各層の音響インピーダンス及び厚みを算出する音速分布算出部と、を有する音速分布測定装置が提供される。
【0010】
前記音速分布算出部は、前記逆解析部で算出された、前記(N−1)個の層のうちのi番目の層に対応するi番目の質量miと、当該i番目の質量miに隣り合う(i+1)番目の質量mi+1との平均値(mi+mi+1)/2を、新たにi番目の質量miとみなし、新たな当該i番目の質量とi番目のバネ定数kiとから、前記i番目の層の音響インピーダンスとして(kimi)0.5を算出し、更にi番目の層の既知の密度ρiを用いて、当該i番目の層の音速として(kimi)0.5/ρiを算出するとともに当該該i番目の層の厚みとしてmi/ρiを算出してもよい。
【0011】
前記音速分布算出部は、前記逆解析部で算出された、前記(N−1)個の層のうちのi番目の層に対応するi番目の質量miと、当該i番目の質量miに隣り合う(i+1)番目の質量mi+1との平均値(mi+mi+1)/2を新たにi番目の質量miとみなし、新たな当該i番目の質量とi番目のバネ定数kiとから、前記i番目の層の音響インピーダンスとして(kimi)0.5を算出し、更に前記被測定体の全体の既知の密度ρを用いて、当該i番目の層の音速として(kimi)0.5/ρを算出するとともに当該i番目の層の厚みとしてmi/ρを算出してもよい。
【0012】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、被測定体の厚み方向に超音波を放射し、前記被測定体の厚み方向のN次共振周波数までのN個の共振周波数を測定する共振周波数測定ステップと、前記共振周波数測定部により測定されたN個の前記共振周波数を用いて、前記被測定体の厚み方向における超音波の音響インピーダンスの分布を特定する音速分布解析ステップと、を含み、前記音速分布解析ステップは、測定されたN個の前記共振周波数を利用して、N個の質量体と、相隣接する前記質量体を連結する(N−1)個のバネと、からなるバネ・マス系モデルを仮定し、前記N個の質量体それぞれの質量と、前記(N−1)個のバネそれぞれのバネ定数と、を算出する逆解析ステップと、前記被測定体の厚み方向における超音波の音速分布が前記被測定体の厚みの中心に対して対称であるとして算出された前記質量及びバネ定数と、被測定体の既知の密度とを用いて、前記被測定体の厚み方向に前記(N−1)個のバネの長さにそれぞれ対応する厚みを有する(N−1)個の層に分割された各層の音響インピーダンス及び厚みを算出する音速分布算出ステップと、を更に有する音速分布測定方法が提供される。
【0013】
前記音速分布算出ステップでは、前記逆解析ステップにて算出された、前記(N−1)個の層のうちのi番目の層に対応するi番目の質量miと、当該i番目の質量miに隣り合う(i+1)番目の質量mi+1との平均値(mi+mi+1)/2を、新たにi番目の質量miとみなし、新たな当該i番目の質量とi番目のバネ定数kiとから、前記i番目の層の音響インピーダンスとして(kimi)0.5を算出し、更にi番目の層の既知の密度ρiを用いて、当該i番目の層の音速として(kimi)0.5/ρiを算出するとともに当該該i番目の層の厚みとしてmi/ρiを算出してもよい。
【0014】
前記音速分布算出ステップでは、前記逆解析ステップにて算出された、前記(N−1)個の層のうちのi番目の層に対応するi番目の質量miと、当該i番目の質量miに隣り合う(i+1)番目の質量mi+1との平均値(mi+mi+1)/2を新たにi番目の質量miとみなし、新たな当該i番目の質量とi番目のバネ定数kiとから、前記i番目の層の音響インピーダンスとして(kimi)0.5を算出し、更に前記被測定体の全体の既知の密度ρを用いて、当該i番目の層の音速として(kimi)0.5/ρを算出するとともに当該i番目の層の厚みとしてmi/ρを算出してもよい。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の更に別の観点によれば、被測定体の厚み方向に超音波を放射し、前記被測定体の厚み方向のN次共振周波数までのN個の共振周波数を測定する共振周波数測定手段と通信可能なコンピュータに、前記共振周波数測定手段により測定されたN個の前記共振周波数を利用して、N個の質量体と、相隣接する前記質量体を連結する(N−1)個のバネと、からなるバネ・マス系モデルを仮定し、前記N個の質量体それぞれの質量と、前記(N−1)個のバネそれぞれのバネ定数と、を算出する逆解析機能と、前記被測定体の厚み方向における超音波の音速分布が前記被測定体の厚みの中心に対して対称であるとして算出された前記質量及びバネ定数と、被測定体の既知の密度とを用いて、前記被測定体の厚み方向に前記(N−1)個のバネの長さにそれぞれ対応する厚みを有する(N−1)個の層に分割された各層の音響インピーダンス及び厚みを算出する音速分布算出機能と、を実現させるためのプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明によれば、測定して得られた共振周波数に基づいて逆解析を行うため、被測定体の内部音速分布の形状を仮定することなく、任意の内部音速分布を測定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る音速分布測定装置の構成を示したブロック図である。
【図2】同実施形態に係る音速分布解析部の構成を示したブロック図である。
【図3】同実施形態に係る逆解析処理について説明するための説明図である。
【図4】同実施形態に係る逆解析処理について説明するための説明図である。
【図5】音速分布解析を実施したモデルについて示した説明図である。
【図6】音速分布解析を実施したモデルについて示した説明図である。
【図7】条件1における解析結果を示したグラフ図である。
【図8A】条件2における解析結果を示したグラフ図である。
【図8B】条件3における解析結果を示したグラフ図である。
【図8C】条件4における解析結果を示したグラフ図である。
【図9A】共振周波数の次数と解析結果との関係を示したグラフ図である。
【図9B】共振周波数の次数と解析結果との関係を示したグラフ図である。
【図10A】共振周波数の次数と解析結果との関係を示したグラフ図である。
【図10B】共振周波数の次数と解析結果との関係を示したグラフ図である。
【図11A】共振周波数の次数と解析結果との関係を示したグラフ図である。
【図11B】共振周波数の次数と解析結果との関係を示したグラフ図である。
【図12A】共振周波数の次数と解析結果との関係を示したグラフ図である。
【図12B】共振周波数の次数と解析結果との関係を示したグラフ図である。
【図13】解析誤差について説明するためのグラフ図である。
【図14】共振周波数の次数と解析誤差との関係を示したグラフ図である。
【図15】同実施形態に係る音速分布解析方法の流れを示した流れ図である。
【図16】本発明の実施形態に係る音速分布解析部のハードウェア構成を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0019】
(第1の実施形態)
<音速分布測定装置の構成について>
まず、図1及び図2を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る音速分布測定装置の構成について、詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る音速分布測定装置の全体的な構成を示したブロック図であり、図2は、本実施形態に係る音速分布解析部の構成を示したブロック図である。
【0020】
なお、以下の例では、被測定体Sとして、板状の鋼板を用いた場合を例に挙げて説明を行うが、本発明の実施形態に係る被測定体Sが、かかる場合に限定されるわけではない。
【0021】
本実施形態に係る音速分布測定装置1は、鋼板などの被測定体S(厚みをdとする。)の厚み方向における超音波の音速分布を測定する装置である。本実施形態に係る音速分布測定装置1は、図1に例示したように、共振周波数測定部10と、音速分布解析部20と、を主に備える。
【0022】
共振周波数測定部10は、被測定体Sの厚み方向に超音波を放射して、被測定体Sの厚み方向における複数の共振周波数を測定する。その後、共振周波数測定部10は、被測定体Sの厚み方向における共振周波数の測定結果を、共振周波数情報として、後述する音速分布解析部20に出力する。
【0023】
共振周波数測定部10は、図1に示したように、超音波送受信部11と、共振周波数測定制御部13と、を更に備える。
【0024】
超音波送受信部11は、後述する共振周波数測定制御部13による制御のもとで、被測定体Sの厚み方向に超音波を送信するとともに、被測定体Sの内部において共振により生じた定在波(超音波の定在波)を受信する。ここで、超音波送受信部11が受信した定在波に関する信号は、後述する共振周波数測定制御部13に出力される。このように、本実施形態に係る超音波送受信部11は、被測定体Sの内部において発生した定在波を測定するための超音波センサとして機能するものである。
【0025】
本実施形態に係る超音波送受信部11としては、所望の精度で超音波の送受信が可能なものであれば、任意の超音波センサを使用することができるが、かかる超音波センサとして、例えば電磁超音波素子(Electro−Magnetic Acoustic Transducer:EMAT)を使用することが好ましい。
【0026】
共振周波数測定制御部13は、超音波送受信部11を制御するとともに、超音波送受信部11から出力された定在波に関する信号を利用して、被測定体Sの厚み方向における共振周波数を検出する。この共振周波数測定制御部13は、例えば、超音波センサの制御装置又は制御ユニットにより実現される。
【0027】
具体的には、共振周波数測定制御部13は、超音波送受信部11を制御して、所望の周波数の超音波を被測定体Sに放射させるとともに、取得した定在波における周波数を掃引して、共振周波数の測定を行う。この共振周波数測定制御部13は、被測定体Sの厚み方向における1次共振周波数のみならず、2次、3次・・・といった、より高次の共振周波数を検出することができる。これにより、本実施形態に係る共振周波数測定制御部13は、被測定体Sの厚み方向のN次共振周波数までのN個の共振周波数を検出することができる。
【0028】
共振周波数測定制御部13は、検出した共振周波数に関する情報(例えば、共振周波数の値を表す情報や、測定できた共振周波数の次数を表す情報等)を、共振周波数情報として、後述する音速分布解析部20に出力する。
【0029】
音速分布解析部20は、共振周波数測定部10により測定された複数の共振周波数を利用して逆解析を行い、被測定体Sの厚み方向における超音波の音速分布を特定する。この音速分布解析部20は、図2に示したように、共振周波数情報取得部201と、逆解析部203と、音速分布解析部205と、表示制御部207と、記憶部209と、を更に備える。
【0030】
共振周波数情報取得部201は、例えば、CPU、ROM、RAM、通信装置等により実現される。共振周波数情報取得部201は、共振周波数測定制御部13から出力された共振周波数に関する情報(共振周波数情報)を取得する。共振周波数情報取得部201は、取得した共振周波数情報を、後述する逆解析部203に出力する。また、共振周波数情報取得部201は、取得した共振周波数情報を、当該情報を取得した日時に関する情報等と関連付けて、後述する記憶部209に履歴情報として記録してもよい。
【0031】
逆解析部203は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。逆解析部203は、共振周波数情報取得部201から出力された共振周波数情報を利用して以下で説明するような逆解析処理を実施し、超音波の音速分布に関連する特徴量を算出する。
【0032】
より詳細には、逆解析部203は、以下で説明するバネ・マス系モデルにおける逆解析処理により、共振周波数のデータ群から、N個の質量体(すなわち、おもり)と、相隣接する質量体を連結する(N−1)個のバネと、からなるバネ・マス系モデルにおける各おもりの質量と、各バネのバネ定数を算出する。この際、逆解析部203は、超音波の音速分布が被測定体の厚みの中心に対して対称である(すなわち、板厚中心対称が成立する)として逆解析を行う。
【0033】
逆解析部203は、おもりの質量とバネのバネ定数を決定する逆解析処理が終了すると、算出したこれらの値に関する情報を、後述する音速分布算出部205に出力する。
【0034】
逆解析部203で実施される逆解析処理については、以下で改めて詳細に説明する。
【0035】
音速分布算出部205は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。音速分布算出部205は、逆解析部203による逆解析処理により算出された、音速分布に関連する特徴量(すなわち、バネ・マス系モデルにおけるバネ定数及びおもりの質量)と、被測定体Sの既知の密度とを利用して、被測定体の厚み方向における超音波の音速分布を算出する。
【0036】
より詳細には、音速分布算出部205は、逆解析部203から出力された逆解析結果であるバネ定数及びおもりの質量と、被測定体Sの既知の密度とを利用して、被測定体の厚み方向に(N−1)個のバネの長さにそれぞれ対応する厚みを有する(N−1)個の層に分割された各層の音響インピーダンス及び厚みを算出する。
【0037】
また、音速分布算出部205は、算出した音響インピーダンスと、被測定体Sの密度とを利用して、被測定体の厚み方向における音速分布そのものを算出することも可能である。
【0038】
音速分布算出部205は、算出した音響インピーダンスや音速分布を、後述する表示制御部207に出力する。また、音速分布算出部205は、算出した音響インピーダンスや音速分布を、算出した日時を表す情報と関連付けて、履歴情報として後述する記憶部209に格納してもよい。
【0039】
なお、音速分布算出部205における音響インピーダンスの算出方法等については、以下で改めて詳細に説明する。
【0040】
表示制御部207は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。表示制御部207は、音速分布算出部205から出力された被測定体Sの音速分布や音響インピーダンスに関する情報を、音速分布測定装置1の備えるディスプレイ等の表示部に表示する際の表示制御を行う。また、表示制御部207は、音速分布や音響インピーダンスに関する情報以外にも、算出したおもりの質量やバネ定数の値など、各種の情報を表示部に表示させることができる。表示制御部207が表示部に音速分布に関する各種結果を表示させることで、音速分布測定装置1の利用者は、被測定体Sの音速分布等に関する情報を、その場で把握することが可能となる。
【0041】
記憶部209は、音速分布測定装置1が備える記憶装置の一例である。記憶部209には、本実施形態に係る音速分布解析部20が、何らかの処理を行う際に保存する必要が生じた様々なパラメータや処理の途中経過等、または、各種のデータベース等が、適宜格納されている。この記憶部209は、共振周波数情報取得部201、逆解析部203、音速分布算出部205、表示制御部207等が、自由に読み書きを行うことが可能である。
【0042】
以上、本実施形態に係る音速分布測定装置1の機能の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材や回路を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。また、各構成要素の機能を、CPU等が全て行ってもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用する構成を変更することが可能である。
【0043】
なお、上述のような本実施形態に係る音速分布測定装置の各機能(特に、音速分布解析部の機能)を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、パーソナルコンピュータ等に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなどである。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
【0044】
<バネ・マス系モデルを用いた逆解析処理に基づく音速分布の算出>
以下では、本実施形態に係る逆解析部203及び音速分布算出部205で実施される、バネ・マス系モデルを用いた逆解析処理に基づく音速分布の算出方法について、詳細に説明する。
【0045】
[バネ・マス系モデルと物体内部の音速分布との関係について]
まず、以下では、本実施形態に係る音速分布解析部20で用いられるバネ・マス系モデルと、物体(被測定体)内部の音速分布との関係について、図3及び図4を参照しながら詳細に説明する。
【0046】
本実施形態に係る逆解析部203及び音速分布算出部205では、超音波による被測定体Sの内部の振動を、以下で説明するようなバネ・マス系モデルでモデル化して、音速分布に関連する特徴量を算出する。
【0047】
図3は、被測定体Sを厚み方向に沿って3層に区切った場合のモデルを示した説明図である。以下では、図3を参照しながら、物体をi=1,2,・・・,QのQ層に区切った場合について考える。なお、以下の説明で用いるパラメータを、以下にまとめて示す。
【0048】
nq:q層のおもりの個数
Tq:q層の厚み
ρq:q層の単位厚みの質量
aq:q層の1つ1つのバネの長さ
mq:q層の1つ1つのおもりの質量
kq:q層の1つ1つのバネ定数
λq:q層での波長
Kq:q層での波数(=2π/λq)
ωq:q層での振動の角周波数(=2πfq)
vq:q層での振動伝播速度(すなわち、超音波の音速)
【0049】
図3から明らかなように、各層の厚みTqは、層内に存在するバネの個数及びバネの長さを用いて、以下の式101のようにして関係づけられる。また、各層の全体質量は、おもりの質量とおもりの個数とを用いて、以下の式102のようにして関係づけられる。
【0050】
【数1】
【0051】
なお、以下では、式101における近似式が満たされるために、ここでは、q層の一つ一つのバネの長さaqが、Tqより十分小さいというモデル化を考えている。
【0052】
次に、q層のみに着目して、q層でのおもりの振動を考える。かかる場合におけるバネ・マス系モデルの振動は、おもりの運動方程式を考慮して、以下の式103で表されることが知られている。
【0053】
【数2】
【0054】
ここで、振動の波長λqがaqよりも十分大きくなる(aqがλqよりも十分小さくなる)ようなモデル化を行う。かかる場合、式103における(Kqaq)<<1となり、三角関数を以下のように近似することができ、以下の式104を得ることができる。
【0055】
【数3】
【0056】
従って、q層での振動伝播速度(すなわち、q層での超音波の音速)vqは、式104で表される振動の角周波数ωqと、波数Kqとを利用して、以下の式105のように表される。
【0057】
【数4】
【0058】
ここで、式102を変形することで、以下の式106が得られる。また、式101、式102、式105及び式106を用いることで、以下の式107を得ることができる。更に、得られた式106及び式107を用いて、以下の式108を得ることができる。
【0059】
【数5】
【0060】
物質の音速分布に関連する特徴量の一つとして、音響インピーダンスZがあるが、この音響インピーダンスZは、物質の密度ρと振動伝播速度vとの積(すなわち、Z=ρ・v)として定義される。従って、式108を用いることで、q層における音響インピーダンスZは、以下の式109のように表されることがわかる。
【0061】
【数6】
【0062】
上記式109は、着目している物質の内部の層qにおける音響インピーダンスZqを、着目している層qをバネ・マス系モデルでモデル化した場合におけるおもりの質量mqとバネ定数kqとを用いて算出することができることを意味している。
【0063】
また、式101及び式106から、バネ・マス系モデルにおけるバネの長さaqは、以下の式110のように表されることがわかる。
【0064】
【数7】
【0065】
上記式110は、着目している層qの密度ρqが既知である場合には、バネ・マス系モデルにおけるおもりの質量mqを利用して、バネの長さaqを算出可能であることを示している。従って、式110に基づいてバネの長さaqを算出することで、着目している層の厚みをも算出することが可能となる。なお、着目している層の厚みは、上記式110を用いなくとも、例えば、上記式106等を用いることで算出することが可能である。
【0066】
[おもりの質量及びバネ定数の算出方法について−共振周波数に基づく逆解析処理]
次に、物質全体(すなわち、被測定体S全体)を、図4に示したようなバネ・マス系モデルでモデル化した場合において、測定された共振周波数から、想定したバネ・マス系モデルのおもりの質量mrとバネ定数krとを算出する方法について説明する。
【0067】
今、図4に示したように、着目している被測定体Sの全体を、N個のおもりと、(N−1)個のバネとからなるバネ・マス系モデルとして取り扱うものとする。なお、かかるバネ・マス系モデルにおいて、おもりの個数Nは偶数であるものとする。
【0068】
ここで、各おもりの運動方程式がどのようになるかを考察する。
各おもりに対して作用する力は、着目しているおもりとつながっているバネから受ける力の和となっている。例えば、図4の左端に位置するおもりm1は、バネ定数がk1であるバネからうける力のみが存在するため、おもりmrの位置をurと表すこととすると、その運動方程式は、以下の式111のようになる。
【0069】
同様に、両端にバネがつながっているおもりmrに対して作用する力は、バネ定数がkr−1であるバネから受ける力と、バネ定数がkrであるバネから受ける力の和になっている。従って、その運動方程式は、以下の式112のようになる。
【0070】
【数8】
【0071】
同様にしてN個のおもりの運動方程式をそれぞれ考えてみると、被測定体Sの振動は、以下の式113に示したように、N個の運動方程式の連立方程式として規定されることがわかる。
【0072】
【数9】
【0073】
ここで、おもりの変位urが、exp(−iωt)という周期的な時間変化を示すとき、上記式113は、以下の式114で示したような行列式で表すことができる。
【0074】
【数10】
【0075】
ここで、上記式114における行列の基底を変換すると、上記式114は、下記式115のように変形することができる。ここで、以下の式115において、行列R及びベクトルuは、それぞれ以下の式116及び式117の通りである。
【0076】
【数11】
【0077】
上記式115は、上記式116で表される行列の固有ベクトルが、上記式117で表されるベクトルであり、その固有値がω2(ω=2π×共振周波数)であることを示している。ここで、上記式116で表される行列は、その成分が、着目しているバネ・マス系モデルのおもりの質量とバネ定数のみで記載されており、上記式117で表される固有ベクトルは、バネ・マス系モデルのおもりの質量を利用して定義されるベクトルとなっている。
【0078】
ここで、上記式115〜式117に記載されている各物理量のうち、特定可能な物理量は、測定される共振周波数から算出可能な振動の角周波数ωである。従って、式113で表される連立方程式の解を求める処理は、測定した共振周波数を利用して、式115〜式117で表される行列R及びベクトルuを決定する処理に帰着されることとなる。
【0079】
ここで、かかる行列R及びベクトルuは、中心対称となっているバネ・マス系モデルにおいて算出可能であることが知られている。
【0080】
ここで、図4に示したバネ・マス系モデルにおいて、中心対称が成立するということは、以下の2つの条件が成立することを意味している。かかる2つの条件が成立する場合において、被測定体Sの厚み方向に沿ってバネ及びおもりが図4のように並んでいると考えているため、結局、被測定体Sについて、厚み中心対称が成立していることを意味している。
【0081】
(条件A)m1=mN、m2=mN−1、m3=mN−2、・・・
(条件B)k1=kN−1、k2=kN−2、k3=kN−3、・・・
【0082】
このようなバネ・マス系モデル(両端が自由端となっており中心対称なバネ・マス系モデル)において、共振周波数の個数は、おもりの個数と同じN個となる。また、このような共振周波数のうち、1番目の共振周波数(1次共振周波数、f1)は、0Hzである。
【0083】
また、バネ・マス系モデルにおいて、全てのおもりの質量の和を、以下のように表すこととする。このおもりの全質量は、被測定体Sの全質量から得ることができる。
【0084】
【数12】
【0085】
以下では、バネ・マス系モデルの全質量Mと、測定されたN個の共振周波数から、おもりの質量mr(r=1,2,・・・,N)と、バネ定数kr(r=1,2,・・・,N−1)を決定する方法について、詳細に説明する。かかる方法は、N個の実測値を利用して、線形代数の手法によりN個の未知数mrと(N−1)個の未知数krを全て決定する方法であり、逆解析と呼ばれる。なお、一般的な逆解析の手法については、上記非特許文献1や非特許文献2に記載されている。
【0086】
これらの未知数を全て決定するために、まず、測定されたN個の共振周波数を利用して、以下の2種類の値α及びβを算出する。なお、以下の値において、パラメータP=N/2であり、Nは偶数である。
【0087】
【数13】
【0088】
以下では、これらの値を利用して、線形代数の手法によって、αi及びβiを固有値として持つ行列(ヤコビ行列)Jを算出する。
【0089】
【数14】
【0090】
ここで、上記行列Jは、P×Pの大きさの行列であるが、この行列Jは、式116に示した2P×2Pの大きさの行列のうち、左上に位置するP×Pの大きさの部分を抜き出して構成した行列であるといえる。従って、上記式121で表される行列Jは、式116と同じ物理的意味(すなわち、左右対称なバネ・マス系モデルの半分を表したものという物理的意味)を有している。
【0091】
ここで、行列Jを構成する行列要素a1,a2,・・・,aP、及び、b1,b2,・・・,bPは、αi及びβiを利用して、以下のような手順で算出される。
【0092】
まず、以下の式122に基づいて、パラメータxi2(i=1,2,・・・,P)が算出される。
【0093】
【数15】
【0094】
次に、上記式122により算出されるパラメータxiを利用して、以下のベクトルqを算出する。
【0095】
【数16】
【0096】
次に、算出したベクトルqPを利用して、2つのスカラー量aP及びbP−1を以下のように算出する。すなわち、算出したベクトルqPの内積を算出することでスカラー量aPを算出し、算出したスカラー量aPとベクトルqPを利用して、以下のような演算によりスカラー量bP−1を算出する。
【0097】
【数17】
【0098】
続いて、算出した2つのスカラー量aP及びbP−1と、ベクトルqPとを利用して、以下のような演算を行うことで新たにベクトルqP−1を算出する。その後、算出したベクトルqP−1を利用して、新たに2つのスカラー量aP−1及びbP−2を算出する。
【0099】
【数18】
【0100】
すなわち、かかる方法では、パラメータi=Pから順に一つずつパラメータiの値を戻しながら、スカラー量aP−j及びbP−j−1、ならびに、ベクトルqP−j−1の値を、以下の式129〜式131を利用して順に算出していく。ここで、以下の式129〜式131において、j=1,2,・・・,P−2である。
【0101】
【数19】
【0102】
上記式129〜式131で表される演算を繰り返していくと、最後に、スカラー量a1が以下の式132により算出されることとなる。
【0103】
【数20】
【0104】
その後、算出されたスカラー量biの符号を反転する(すなわち、bi=−biとする)ことで、行列Jの行列成分の算出が終了することとなる。
【0105】
次に、算出した行列Jと、バネ・マス系モデルの総質量Mとを利用して、バネ・マス系モデルで考慮した全てのmiを算出する。その手順は、以下の通りである。
【0106】
まず、以下の式133で表されるベクトルdを生成する。
【0107】
【数21】
【0108】
ここで、ベクトルdは、以下の式134〜式136で表されるため、m1,m2,・・・,mPは、算出した行列J(より詳細には、算出した行列Jの逆行列)を用いて算出することが可能である。
【0109】
【数22】
【0110】
次に、算出したベクトルdを利用して、以下の式137で表される行列Dを算出する。以下の式137に示すように、行列Dは、対角成分が(mi)0.5であり、それ以外の成分は0であるP行P列の大きさの行列である。
【0111】
【数23】
【0112】
続いて、算出した行列J及び行列Dを利用して、D・J・Dという演算で生成される行列を生成する。このD・J・Dで表される行列は、kiを要素とする以下の行列(式138)に等しくなることが知られている。
【0113】
【数24】
【0114】
そこで、算出したD・J・Dの演算結果と、上記式138の右辺に示した行列成分とを比較することで、各行列成分がどのような値となっているかを特定することができる。これらの関係式を連立することで、バネ・マス系モデルにおけるkiを全て決定することが可能である。
【0115】
以上のような方法により、バネ・マス系モデルにおけるおもりの質量miとバネ定数kiとを決定することができる。
【0116】
本実施形態に係る逆解析部203は、取得した共振周波数情報を利用して、式119及び式120に基づいてパラメータα及びβを算出し、式121〜式138に示した手順に従って、超音波の音速分布に関連する特徴量である、バネ・マス系モデルにおける各おもりの質量と、各バネのバネ定数を算出する。
【0117】
その後、本実施形態に係る音速分布算出部205は、逆解析部203により算出されたおもりの質量及びバネ定数を利用して、式109に基づいて、音響インピーダンスZの分布を少なくとも算出する。ただし、おもりの質量については、i番目の質量miと隣り合う(i+1)番目の質量mi+1の平均値(mi+mi+1)/2を新たにi番目の質量miとみなした上で、算出する。
【0118】
また、音速分布算出部205は、着目している被測定体Sの密度を更に利用して、音響インピーダンスの分布から音速分布そのものを算出してもよい。また、音速分布算出部205は、逆解析部203により算出されたおもりの質量及びバネ定数等を利用して、被測定体Sの各層の厚みを算出することもできる。この際に利用される密度は、i番目の層の既知の密度ρiであってもよく、被測定体Sの全体の既知の密度ρであってもよい。
【0119】
以上、本実施形態に係る逆解析部203及び音速分布算出部205で実施される、バネ・マス系モデルを用いた逆解析処理に基づく音速分布の算出方法について、詳細に説明した。
【0120】
なお、上記説明における逆解析法はあくまでも一例であって、本実施形態に係る音速分布解析部20で利用される逆解析法は上記方法に限定されるわけではなく、上記方法以外の逆解析法についても適宜利用することが可能である。
【0121】
<逆解析処理に基づく音速分布の算出方法の一例>
次に、内部音速分布を仮定し、計測可能な共振周波数のスペクトルデータを、順解析処理により生成した。その後、生成した共振周波数のスペクトルデータを利用して、上記で説明した逆解析処理に基づく音速分布の算出処理を実施し、仮定した内部音速分布が再現されるかどうかを確認した。
【0122】
[設定したモデル]
以下では、連続鋳造で製造中のスラブを仮定し、図5に示したような層構造を有する鋼材のモデルを考えた。
【0123】
図5に示したモデルでは、全厚みがDで表される鋼材が、厚みd1の固層1と、厚みd2の液層と、厚みd3の固層2とを有しており、固層1と液層との界面及び固層2と液層との界面に遷移層が存在しうると設定している。
【0124】
このモデルにおいて、固層1及び固層2には、2次曲線で表される温度分布があるものとし、図5に示したように、固層1及び固層2の表面温度は900℃であり、固層と遷移層との界面温度は1530℃であるとした。また、固層1及び固層2における縦波音速Vは、温度Tの関数となっており、V=5520−0.615T(T≧900℃)で表されるものとした。この縦波音速と温度との関係を表す式は、温度が低いほど縦波音速が速いという一般的な音速の挙動を反映したものとなっている。
【0125】
また、液層における縦波音速Vは、4000m/sであるものとし、遷移層における縦波音速Vは、温度Tに対して線形性を有しながら変化する(すなわち、温度Tに応じて直線的に変化する)ものとした。
【0126】
以上説明したようなモデルでは、結局、図5の左側に示したような縦波音速分布を仮定していることとなる。
【0127】
[設定したモデルにおける音速分布の算出]
以上説明したような、図5に示したモデルにおいて、以下の4つの条件下における音速分布の算出処理を実施した。
【0128】
(条件1)固層1:120mm、液層:10mm、固層2:120mmからなる全厚み250mmの構造
(条件2)固層1:107.5mm、液層:35mm、固層2:107.5mmからなる全厚み250mmの構造
(条件3)固層1:110mm、遷移層:10mm、液層:10mm、遷移層:10mm、固層2:110mmからなる全厚み250mmの構造
(条件4):固層1:105mm、遷移層:5mm、液層30mm、遷移層:5mm、固層2:105mmからなる全厚み250mmの構造
【0129】
ここで、各条件における構造を考慮して、計測される共振周波数のスペクトルデータを、上記特許文献1に記載されている順解析を利用して生成した。図6に、条件1に示した構造を有する鋼材モデルにおける共振周波数のスペクトルデータを示す。図6において、横軸が、計測される共振周波数の値[MHz]を示しており、縦軸は、波形エネルギー値である。図6に示したスペクトルにおいて、各ピークが観測される個々の共振周波数に対応している。
【0130】
続いて、生成した共振周波数スペクトルに基づいて、上記のような逆解析処理を利用した音速分布の算出処理プログラムを作成し、音速分布の算出を行った。この際、逆解析処理に利用可能なデータは共振周波数値のみとし、図6に示した共振周波数スペクトルの各ピーク値のみを入力データとした。
【0131】
図7は、計測された共振周波数の個数Nが128個であった場合(すなわち、1次共振周波数〜128次共振周波数までの共振周波数が計測された場合)における、逆解析処理を利用した音速分布の算出結果を示したグラフ図である。図7において、横軸は正規化後の厚みを示しており、図7における厚み「1」の箇所は、厚みが250mmの場所に対応している。また、図7において、縦軸は、それぞれの厚み位置における音響インピーダンスの値を示している。
【0132】
なお、本モデル解析例では、逆解析処理により算出したバネ・マス系モデルにおけるおもりの質量及びバネ定数を利用して、式109に基づいて音響インピーダンスを算出している。ここで、固層と液層との密度差は小さく、鋼材全体の密度をほぼ一定とみなせるため(鋼材の場合、密度ρ=7.8g/cm3)、図7に示した音響インピーダンスの分布は、式109から明らかなように、鋼材内部における音速の変化(すなわち、音速分布)を示していることになる。なお、本モデル解析例において、算出した音響インピーダンスと、鋼材の密度とを利用して、式109に基づいて音速そのものの値を算出することも可能である。
【0133】
図7を参照すると、算出された音響インピーダンスの分布は、包絡線が2次曲線のような形状を有している部分と、略中央に位置した音響インピーダンスがほぼ一定となっている部分の3つの部分から構成されていることがわかる。従って、図7において包絡線が2次曲線のような形状を有している部分が、図5に示した鋼材モデルの固層1及び固層2に対応しており、図7において略中央に位置した音響インピーダンスがほぼ一定となっている部分が、図5に示した鋼材モデルの液層に対応していることがわかる。
【0134】
また、固層1及び固層2に対応する部分は、図7において幅が約0.47程度となった。ここで、図7における横軸は、目盛幅0.2が50mmの厚みに対応しているため、解析の結果得られた固層1及び固層2の厚みは、約118mmと算出されたこととなる。
【0135】
同様にして得られた条件2〜条件4における音響インピーダンスの算出結果を、図8A〜図8Cに示した。
【0136】
条件1と同様に固層1、液層、固層2の3層構造を仮定した条件2の算出結果(図8A)は、包絡線が2次曲線のような形状を有している部分と、略中央に位置した、音響インピーダンスがほぼ一定となっている部分と、から構成されている。従って、図8Aに示した条件2の場合でも同様に、固層1、液層、固層2からなる図5に示した鋼材モデルが、再現されていることがわかる。また、固層1及び固層2の部分に対応する目盛幅は、約0.42程度となっており、固層1及び固層2の厚みは、約105mmと算出されたこととなる。従って、条件1と同様に条件2においても、仮定したモデルが極めて精度良く再現されていることがわかる。
【0137】
また、固層1、遷移層、液層、遷移層、固層2の5層構造を仮定した条件3及び条件4の算出結果(図8B及び図8C)は、包絡線が2次曲線のような形状を有している部分と、音響インピーダンスがほぼ直線的に変化している部分と、略中央に位置した、音響インピーダンスがほぼ一定となっている部分と、から構成されている。従って、図8B及び図8Cでは、包絡線が2次曲線のような形状を有している部分が、固層1及び固層2に対応し、音響インピーダンスが直線的に変化している部分が、遷移層に対応し、略中央部分が、液層に対応していることとなる。また、図8B及び図8Cに示した条件3及び4において、各層の厚みについても、極めて精度良く再現されている。
【0138】
このように、本実施形態に係る逆解析処理に基づく音速分布の算出方法を利用することで、図5に示したモデルを精度よく再現することができ、本方法が、共振周波数に基づいて被測定体の音速分布を算出する際に、極めて有用であることがわかる。
【0139】
[逆解析処理に用いる共振周波数の次数と解析精度との関係について]
続いて、逆解析処理に用いる共振周波数の次数と解析精度との関係について検討する。
音速分布を算出する被測定体があり、解析結果に求める音速の分解能をgとし、被測定体内部の音速変化幅(すなわち、音速の最大値−最小値で算出される幅)をhとする。この場合、被測定体の内部における音速変化のステップ数は、音速の分解能がgであるため、h/gとなる。
【0140】
ここで、被測定体内部の音速変化のステップ数h/gよりも、計測される共振周波数の最大次数Nが十分に大きい場合(すなわち、N>>h/gである場合)には、一つのステップが、十分に大きな個数からなる共振周波数群に対応することとなり、図3に示したバネ・マス系モデルが成立しているといえる。従って、かかる場合においては、上記式101〜式110の関係が成立するといえる。
【0141】
しかしながら、計測される共振周波数の最大次数Nが、被測定体内部の音速変化のステップ数h/gよりも十分に大きいとは言えない場合、すなわち、N<h/gとなる場合、又は、Nがh/gにほぼ等しい場合には、図3に示したバネ・マス系モデルが成立しているとは言えなくなってくる。従って、かかる場合においては、上記式101〜式110で表される関係には、誤差が含まれることとなってしまう。
【0142】
そのため、多くの被測定体の場合、解析結果に求める音速の分解能gを事前に決定し、被測定体内部の音速変化幅gを、活用可能な各種情報を利用してある程度予測したうえで、N>>h/gとなるように計測される共振周波数の最大次数Nを選定することが好ましい。
【0143】
例えば、本解析方法を、連続鋳造プロセスに適用する場合を考える。
この際、鋼材の表面温度は、放射温度計等で計測することが可能であり、温度と音速との間の相関関係を利用して、鋼材の表面における音速を算出することが可能である。通常、連続鋳造プロセス中の鋼材には温度分布があり、内部ほど温度が高くなっており、また、一般的に温度が低いほど縦波音速は速くなる。そのため、表面温度を利用して算出した鋼材表面における音速を、音速の最大値として利用することができる。他方、溶鋼の音速は4000m/sであることが知られており、かかる値を、音速の最小値として利用することができる。これらの値を利用することで、着目している被測定体(すなわち、連続鋳造プロセスにおける鋼材)において、音速変化幅hを見積もることができる。
【0144】
また、本解析方法を、被測定体の残留応力計測に適用する場合を考える。
被測定体の残留応力は、被測定体に超音波を放射した場合の超音波の音速に関する情報を利用して算出することが可能であり、残留応力と音速との間には、ある相関関係が成立することが知られている。そこで、本解析方法により解析を実施するサンプル、または、同種類のサンプルの微小片を切り出して、例えばサンプルの表面部や厚み中心部といった代表的な箇所の残留応力を例えばX線回折法等を利用して計測し、残留応力と音速との相関関係を利用して、音速変化幅hを見積もることができる。
【0145】
他方、解析結果に求める分解能gを例えば5%と設定した場合、h/g=100/5=20となる。そこで、計測される共振周波数の最大次数Nが200程度となるようにすることが好ましいと考えられる。
【0146】
ここで、実際に被測定体Sから計測される共振周波数の最大次数は、無限ではなく有限の値である。そこで、上記条件1〜条件4の場合それぞれについて、計測される共振周波数の次数が1次〜N次である場合に逆解析結果がどのようになるのかを算出した。
【0147】
図9A及び図9Bは、条件1のモデルにおいて、計測される共振周波数の最大次数がN=6、8、12、16、32、64、128である場合における音響インピーダンスの分布の算出結果を示したグラフ図である。同様に、図10A及び図10Bは、条件2のモデルにおける音響インピーダンスの分布の算出結果を示したグラフ図であり、図11A及び図11Bは、条件3のモデルにおける音響インピーダンスの分布の算出結果を示したグラフ図であり、図12A及び図12Bは、条件4のモデルにおける音響インピーダンスの分布の算出結果を示したグラフ図である。
【0148】
図9A〜図12Bを参照すると、各条件ともに、共振周波数の最大次数Nの数が大きくなるにつれて、グラフ図における階段の幅(グラフ図を構成する複数の段差の横軸方向の幅)は狭くなり、また、固層に対応する部分の形状は、より滑らかなものとなっていくことがわかる。
【0149】
また、図13は、条件1のN=128である場合の解析結果と、仮定した内部音速分布(内部の音響インピーダンスの分布)とを共に示したグラフ図である。図13において、細線が仮定した音響インピーダンスの分布を示しており、太線が解析の結果得られた音響インピーダンスの分布を示している。図13から明らかなように、共振周波数の最大次数N=128の場合における音響インピーダンスの分布は、仮定した音響インピーダンスの分布と極めて類似していることがわかる。
【0150】
更に、図14は、条件1の場合において、本解析方法により算出した音響インピーダンスの分布と仮定した音響インピーダンスの分布との誤差が、共振周波数の最大次数Nが変化するにつれてどのように変化したかを示したグラフ図である。図14において、横軸は、共振周波数の最大次数Nの数であり、縦軸は、鋼材の全厚みでの累積誤差である。
【0151】
図14に示した結果から明らかなように、共振周波数の最大次数Nの数が大きくなるにつれて、解析結果は仮定した音響インピーダンスの分布に近づいていくことがわかる。また、図13及び図14に示した図は、条件1における結果を検討したものであるが、条件2〜条件4についても、同様の結果を得ることができる。
【0152】
従って、図9A〜図14から明らかなように、本解析法では、共振周波数の最大次数Nの数が大きくなるにつれて、解析結果はより正確なものとなっていく。かかる結果は、共振周波数の最大次数Nの数が大きくなることで、式101〜式110に示した関係が成立していることを示している。
【0153】
そこで、例えば図13及び図14に示したような誤差解析を実施し、適用目的に応じて具体的な許容誤差範囲を予め決定することにより、解析に必要となる共振周波数の最大次数Nを決定することができ、実際の計測上必要となる最大周波数を大まかに決定することができる。すなわち、N次の共振周波数をfNとし、被測定体の全厚みをdとし、大まかな平均音速をVとすると、fNは、N・V/(2d)に近い値となるため、実際の計測上必要となる最大周波数を、fNに近い値に決定すればよいこととなる。
【0154】
このように、式101〜式110に示した関係が良好に成立するためには、N>>h/gが成立するように高次の共振周波数まで測定することが好ましいものの、実際に被測定体の解析を行う場合には、図14に示したような誤差解析を行って、許容される誤差に応じて、共振周波数の最大次数Nを決定すればよい。
【0155】
例えば、本解析方法を連続鋳造プロセスに適用する場合を考える。かかる場合において、本解析方法は、鋼材中に液層が混入しているかどうかの判定や、液層の厚みの測定を行うために、利用することが可能である。
【0156】
ここで、液層が混入しているかどうかを判別するために、本解析方法を適用する場合、図9A〜図12Bに示した一連の結果から、液層に対応する部分での音速低下の段差が明瞭となるのはN=12とした場合からである。従って、かかる目的のために本解析方法を適用する場合、N>>h/gが成立するような最大次数Nが好ましいものの、N≧12とする(すなわち、12次共振周波数以上の高次の共振周波数を測定する)ことで、液層が混入しているかどうかを有効に判別することが可能となる。
【0157】
また、液層の厚みを計測するために、本解析方法を適用する場合、図9A〜図14より、仮定した液層の厚みと解析により算出された液層に対応した部分の厚みとの差が例えば10%以下となるのは、N=128とした場合である。従って、かかる目的のために本解析方法を適用する場合、N>>h/gが成立するような最大次数Nが好ましいものの、N≧128とする(すなわち、128次共振周波数以上の高次の共振周波数を測定する)ことで、液層の厚みを精度よく算出することが可能となる。
【0158】
以上、本実施形態に係る逆解析処理に基づく音速分布の算出処理の適用例について、具体的に説明した。
【0159】
<音速分布算出方法の流れについて>
次に、図15を参照しながら、本実施形態に係る音速分布算出方法の流れを説明する。図15は、本実施形態に係る音速分布算出方法の流れを示した流れ図である。
【0160】
まず、音速分布測定装置1の共振周波数測定部10は、被測定体Sに対して超音波を放射し、被測定体の厚み方向の共振周波数を測定する(ステップS101)。共振周波数測定部10の共振周波数測定制御部13は、測定した共振周波数に関する情報(共振周波数情報)を、音速分布解析部20に出力する。
【0161】
音速分布解析部20の共振周波数情報取得部201は、共振周波数測定制御部13から出力された共振周波数情報を取得すると、取得した共振周波数情報を、逆解析部203に出力する。
【0162】
逆解析部203は、まず、共振周波数情報を参照して、測定により得られた共振周波数の最大次数Nを特定し(ステップS103)、得られた最大次数Nに基づいて、バネ・マス系モデルを設定する(ステップS105)。
【0163】
その後、逆解析部203は、上記式121〜式138に示した手順に従って、超音波の音速分布に関連する特徴量である、バネ・マス系モデルにおけるN個のおもりの質量と、N−1個のバネ定数を算出する(ステップS107)。
【0164】
逆解析部203は、このような共振周波数を利用した逆解析処理を終了すると、算出したおもりの質量及びバネ定数に関する解析結果を、音速分布算出部205に出力する。
【0165】
音速分布算出部205は、逆解析部203が算出したおもりの質量及びバネ定数に基づいて、上記式109に基づいて、音響インピーダンスZを算出する(ステップS109)。
【0166】
以上説明したような流れに則して処理を行うことで、被測定体の厚み方向における共振周波数を利用して、被測定体内部の音速分布を算出することが可能となる。
【0167】
(ハードウェア構成について)
次に、図16を参照しながら、本発明の実施形態に係る音速分布測定装置1(特に、音速分布解析部20)のハードウェア構成について、詳細に説明する。図16は、本発明の実施形態に係る音速分布解析部20のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
【0168】
音速分布解析部20は、主に、CPU901と、ROM903と、RAM905と、を備える。また、音速分布解析部20は、更に、バス907と、入力装置909と、出力装置911と、ストレージ装置913と、ドライブ915と、接続ポート917と、通信装置919とを備える。
【0169】
CPU901は、演算処理装置および制御装置として機能し、ROM903、RAM905、ストレージ装置913、またはリムーバブル記録媒体921に記録された各種プログラムに従って、音速分布解析部20内の動作全般またはその一部を制御する。ROM903は、CPU901が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM905は、CPU901が使用するプログラムや、プログラムの実行において適宜変化するパラメータ等を一次記憶する。これらはCPUバス等の内部バスにより構成されるバス907により相互に接続されている。
【0170】
バス907は、ブリッジを介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バスなどの外部バスに接続されている。
【0171】
入力装置909は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチおよびレバーなどユーザが操作する操作手段である。また、入力装置909は、例えば、赤外線やその他の電波を利用したリモートコントロール手段(いわゆる、リモコン)であってもよいし、音速分布解析部20の操作に対応したPDA等の外部接続機器923であってもよい。さらに、入力装置909は、例えば、上記の操作手段を用いてユーザにより入力された情報に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路などから構成されている。音速分布測定装置1のユーザは、この入力装置909を操作することにより、音速分布測定装置1に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
【0172】
出力装置911は、取得した情報をユーザに対して視覚的または聴覚的に通知することが可能な装置で構成される。このような装置として、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置およびランプなどの表示装置や、スピーカおよびヘッドホンなどの音声出力装置や、プリンタ装置、携帯電話、ファクシミリなどがある。出力装置911は、例えば、音速分布解析部20が行った各種処理により得られた結果を出力する。具体的には、表示装置は、音速分布解析部20が行った各種処理により得られた結果を、テキストまたはイメージで表示する。他方、音声出力装置は、再生された音声データや音響データ等からなるオーディオ信号をアナログ信号に変換して出力する。
【0173】
ストレージ装置913は、音速分布解析部20の記憶部の一例として構成されたデータ格納用の装置である。ストレージ装置913は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶部デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス、または光磁気記憶デバイス等により構成される。このストレージ装置913は、CPU901が実行するプログラムや各種データ、および外部から取得した各種のデータなどを格納する。
【0174】
ドライブ915は、記録媒体用リーダライタであり、音速分布解析部20に内蔵、あるいは外付けされる。ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録されている情報を読み出して、RAM905に出力する。また、ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録を書き込むことも可能である。リムーバブル記録媒体921は、例えば、CDメディア、DVDメディア、Blu−rayメディア等である。また、リムーバブル記録媒体921は、コンパクトフラッシュ(登録商標)(CompactFlash:CF)、フラッシュメモリ、または、SDメモリカード(Secure Digital memory card)等であってもよい。また、リムーバブル記録媒体921は、例えば、非接触型ICチップを搭載したICカード(Integrated Circuit card)または電子機器等であってもよい。
【0175】
接続ポート917は、機器を音速分布解析部20に直接接続するためのポートである。接続ポート917の一例として、USB(Universal Serial Bus)ポート、IEEE1394ポート、SCSI(Small Computer System Interface)ポート、RS−232Cポート等がある。この接続ポート917に外部接続機器923を接続することで、音速分布解析部20は、外部接続機器923から直接各種のデータを取得したり、外部接続機器923に各種のデータを提供したりする。
【0176】
通信装置919は、例えば、通信網925に接続するための通信デバイス等で構成された通信インターフェースである。通信装置919は、例えば、有線または無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、またはWUSB(Wireless USB)用の通信カード等である。また、通信装置919は、光通信用のルータ、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)用のルータ、または、各種通信用のモデム等であってもよい。この通信装置919は、例えば、インターネットや他の通信機器との間で、例えばTCP/IP等の所定のプロトコルに則して信号等を送受信することができる。また、通信装置919に接続される通信網925は、有線または無線によって接続されたネットワーク等により構成され、例えば、インターネット、家庭内LAN、赤外線通信、ラジオ波通信または衛星通信等であってもよい。
【0177】
以上、本発明の実施形態に係る音速分布解析部20の機能を実現可能なハードウェア構成の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用するハードウェア構成を変更することが可能である。
【0178】
(まとめ)
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、被測定体内部の任意の音速分布を、被測定体について計測された共振周波数を利用して算出することが可能となる。一般に、物質の内部を伝播する超音波の音速は、物質が固体である場合には温度によって変化するものであり、また物質が固体から液体に変化した場合においても変化する。従って、本発明の実施形態に係る音速分布測定方法により測定した音速分布を利用して、固体の温度分布や液体の有無評価を実施することが可能である。例えば、鉄鋼製造プロセス(連続鋳造プロセス)では、固層内に溶鋼が混入する状態があるが、液層が混入しているかどうかの判別や、液層の厚みの計測は、製造プロセスの最適化や鋳造速度のアップなどの面で重要な情報となる。
【0179】
また、残留応力は音速とは強い相関があるため、対象材内部の音速分布を計測できれば、被測定体内部の深さと残留応力の関係を計測することが可能となる。従って、本発明の実施形態に係る音速分布測定方法により測定した音速分布を、例えば厚板の矯正プロセスの制御情報として活用することができる。
【0180】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0181】
1 音速分布測定装置
10 共振周波数測定部
11 超音波送受信部
13 共振周波数測定制御部
20 音速分布解析部
201 共振周波数情報取得部
203 逆解析部
205 音速分布算出部
207 表示制御部
209 記憶部
【技術分野】
【0001】
本発明は、音速分布測定装置、音速分布測定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属材料の材質に関する特徴量や内部応力等を測定するために、金属材料に対して超音波を放射し、金属材料の内部における超音波の音速の分布を算出することが行われている。
【0003】
例えば、以下の特許文献1では、被測定体である金属材料の厚み方向に超音波を放射し、被測定体の厚み方向の内部音速分布が2次曲線であると仮定したうえで、当該内部音速の分布を算出することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−308383号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M.L.Graham著、「Inverse Problems in Vibration(Solid Mechanics and ItsApplications)」、Kluwer Academic Publishers、P.63−92
【非特許文献2】M.T.Chu著、「Inverse Eigenvalue Problems:Theory,Algorithms and Application」、Oxford Univ.Press、P.71−145
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法は、内部音速分布が2次曲線となるという仮定のもとに解析を行っているため、実際の内部音速分布が2次曲線に近いものであれば精度良く結果が得られるものの、実際の内部音速分布が2次曲線とは異なる分布となっている場合には、解析精度が低下するという問題があった。
【0007】
そのため、被測定体の内部音速分布の形状を仮定することなく、任意の内部音速分布を測定することが可能な音速分布測定法が希求されている。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、被測定体の内部音速分布の形状を仮定することなく、任意の内部音速分布を測定することが可能な、音速分布測定装置、音速分布測定方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、被測定体の厚み方向に超音波を放射し、前記被測定体の厚み方向のN次共振周波数までのN個の共振周波数を測定する共振周波数測定部と、前記共振周波数測定部により測定されたN個の前記共振周波数を用いて、前記被測定体の厚み方向における超音波の音響インピーダンスの分布を特定する音速分布解析部と、を備え、前記音速分布解析部は、前記共振周波数測定部により測定されたN個の前記共振周波数を利用して、N個の質量体と、相隣接する前記質量体を連結する(N−1)個のバネと、からなるバネ・マス系モデルを仮定し、前記N個の質量体それぞれの質量と、前記(N−1)個のバネそれぞれのバネ定数と、を算出する逆解析部と、前記被測定体の厚み方向における超音波の音速分布が前記被測定体の厚みの中心に対して対称であるとして算出された前記質量及びバネ定数と、被測定体の既知の密度とを用いて、前記被測定体の厚み方向に前記(N−1)個のバネの長さにそれぞれ対応する厚みを有する(N−1)個の層に分割された各層の音響インピーダンス及び厚みを算出する音速分布算出部と、を有する音速分布測定装置が提供される。
【0010】
前記音速分布算出部は、前記逆解析部で算出された、前記(N−1)個の層のうちのi番目の層に対応するi番目の質量miと、当該i番目の質量miに隣り合う(i+1)番目の質量mi+1との平均値(mi+mi+1)/2を、新たにi番目の質量miとみなし、新たな当該i番目の質量とi番目のバネ定数kiとから、前記i番目の層の音響インピーダンスとして(kimi)0.5を算出し、更にi番目の層の既知の密度ρiを用いて、当該i番目の層の音速として(kimi)0.5/ρiを算出するとともに当該該i番目の層の厚みとしてmi/ρiを算出してもよい。
【0011】
前記音速分布算出部は、前記逆解析部で算出された、前記(N−1)個の層のうちのi番目の層に対応するi番目の質量miと、当該i番目の質量miに隣り合う(i+1)番目の質量mi+1との平均値(mi+mi+1)/2を新たにi番目の質量miとみなし、新たな当該i番目の質量とi番目のバネ定数kiとから、前記i番目の層の音響インピーダンスとして(kimi)0.5を算出し、更に前記被測定体の全体の既知の密度ρを用いて、当該i番目の層の音速として(kimi)0.5/ρを算出するとともに当該i番目の層の厚みとしてmi/ρを算出してもよい。
【0012】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、被測定体の厚み方向に超音波を放射し、前記被測定体の厚み方向のN次共振周波数までのN個の共振周波数を測定する共振周波数測定ステップと、前記共振周波数測定部により測定されたN個の前記共振周波数を用いて、前記被測定体の厚み方向における超音波の音響インピーダンスの分布を特定する音速分布解析ステップと、を含み、前記音速分布解析ステップは、測定されたN個の前記共振周波数を利用して、N個の質量体と、相隣接する前記質量体を連結する(N−1)個のバネと、からなるバネ・マス系モデルを仮定し、前記N個の質量体それぞれの質量と、前記(N−1)個のバネそれぞれのバネ定数と、を算出する逆解析ステップと、前記被測定体の厚み方向における超音波の音速分布が前記被測定体の厚みの中心に対して対称であるとして算出された前記質量及びバネ定数と、被測定体の既知の密度とを用いて、前記被測定体の厚み方向に前記(N−1)個のバネの長さにそれぞれ対応する厚みを有する(N−1)個の層に分割された各層の音響インピーダンス及び厚みを算出する音速分布算出ステップと、を更に有する音速分布測定方法が提供される。
【0013】
前記音速分布算出ステップでは、前記逆解析ステップにて算出された、前記(N−1)個の層のうちのi番目の層に対応するi番目の質量miと、当該i番目の質量miに隣り合う(i+1)番目の質量mi+1との平均値(mi+mi+1)/2を、新たにi番目の質量miとみなし、新たな当該i番目の質量とi番目のバネ定数kiとから、前記i番目の層の音響インピーダンスとして(kimi)0.5を算出し、更にi番目の層の既知の密度ρiを用いて、当該i番目の層の音速として(kimi)0.5/ρiを算出するとともに当該該i番目の層の厚みとしてmi/ρiを算出してもよい。
【0014】
前記音速分布算出ステップでは、前記逆解析ステップにて算出された、前記(N−1)個の層のうちのi番目の層に対応するi番目の質量miと、当該i番目の質量miに隣り合う(i+1)番目の質量mi+1との平均値(mi+mi+1)/2を新たにi番目の質量miとみなし、新たな当該i番目の質量とi番目のバネ定数kiとから、前記i番目の層の音響インピーダンスとして(kimi)0.5を算出し、更に前記被測定体の全体の既知の密度ρを用いて、当該i番目の層の音速として(kimi)0.5/ρを算出するとともに当該i番目の層の厚みとしてmi/ρを算出してもよい。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の更に別の観点によれば、被測定体の厚み方向に超音波を放射し、前記被測定体の厚み方向のN次共振周波数までのN個の共振周波数を測定する共振周波数測定手段と通信可能なコンピュータに、前記共振周波数測定手段により測定されたN個の前記共振周波数を利用して、N個の質量体と、相隣接する前記質量体を連結する(N−1)個のバネと、からなるバネ・マス系モデルを仮定し、前記N個の質量体それぞれの質量と、前記(N−1)個のバネそれぞれのバネ定数と、を算出する逆解析機能と、前記被測定体の厚み方向における超音波の音速分布が前記被測定体の厚みの中心に対して対称であるとして算出された前記質量及びバネ定数と、被測定体の既知の密度とを用いて、前記被測定体の厚み方向に前記(N−1)個のバネの長さにそれぞれ対応する厚みを有する(N−1)個の層に分割された各層の音響インピーダンス及び厚みを算出する音速分布算出機能と、を実現させるためのプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明によれば、測定して得られた共振周波数に基づいて逆解析を行うため、被測定体の内部音速分布の形状を仮定することなく、任意の内部音速分布を測定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る音速分布測定装置の構成を示したブロック図である。
【図2】同実施形態に係る音速分布解析部の構成を示したブロック図である。
【図3】同実施形態に係る逆解析処理について説明するための説明図である。
【図4】同実施形態に係る逆解析処理について説明するための説明図である。
【図5】音速分布解析を実施したモデルについて示した説明図である。
【図6】音速分布解析を実施したモデルについて示した説明図である。
【図7】条件1における解析結果を示したグラフ図である。
【図8A】条件2における解析結果を示したグラフ図である。
【図8B】条件3における解析結果を示したグラフ図である。
【図8C】条件4における解析結果を示したグラフ図である。
【図9A】共振周波数の次数と解析結果との関係を示したグラフ図である。
【図9B】共振周波数の次数と解析結果との関係を示したグラフ図である。
【図10A】共振周波数の次数と解析結果との関係を示したグラフ図である。
【図10B】共振周波数の次数と解析結果との関係を示したグラフ図である。
【図11A】共振周波数の次数と解析結果との関係を示したグラフ図である。
【図11B】共振周波数の次数と解析結果との関係を示したグラフ図である。
【図12A】共振周波数の次数と解析結果との関係を示したグラフ図である。
【図12B】共振周波数の次数と解析結果との関係を示したグラフ図である。
【図13】解析誤差について説明するためのグラフ図である。
【図14】共振周波数の次数と解析誤差との関係を示したグラフ図である。
【図15】同実施形態に係る音速分布解析方法の流れを示した流れ図である。
【図16】本発明の実施形態に係る音速分布解析部のハードウェア構成を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0019】
(第1の実施形態)
<音速分布測定装置の構成について>
まず、図1及び図2を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る音速分布測定装置の構成について、詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る音速分布測定装置の全体的な構成を示したブロック図であり、図2は、本実施形態に係る音速分布解析部の構成を示したブロック図である。
【0020】
なお、以下の例では、被測定体Sとして、板状の鋼板を用いた場合を例に挙げて説明を行うが、本発明の実施形態に係る被測定体Sが、かかる場合に限定されるわけではない。
【0021】
本実施形態に係る音速分布測定装置1は、鋼板などの被測定体S(厚みをdとする。)の厚み方向における超音波の音速分布を測定する装置である。本実施形態に係る音速分布測定装置1は、図1に例示したように、共振周波数測定部10と、音速分布解析部20と、を主に備える。
【0022】
共振周波数測定部10は、被測定体Sの厚み方向に超音波を放射して、被測定体Sの厚み方向における複数の共振周波数を測定する。その後、共振周波数測定部10は、被測定体Sの厚み方向における共振周波数の測定結果を、共振周波数情報として、後述する音速分布解析部20に出力する。
【0023】
共振周波数測定部10は、図1に示したように、超音波送受信部11と、共振周波数測定制御部13と、を更に備える。
【0024】
超音波送受信部11は、後述する共振周波数測定制御部13による制御のもとで、被測定体Sの厚み方向に超音波を送信するとともに、被測定体Sの内部において共振により生じた定在波(超音波の定在波)を受信する。ここで、超音波送受信部11が受信した定在波に関する信号は、後述する共振周波数測定制御部13に出力される。このように、本実施形態に係る超音波送受信部11は、被測定体Sの内部において発生した定在波を測定するための超音波センサとして機能するものである。
【0025】
本実施形態に係る超音波送受信部11としては、所望の精度で超音波の送受信が可能なものであれば、任意の超音波センサを使用することができるが、かかる超音波センサとして、例えば電磁超音波素子(Electro−Magnetic Acoustic Transducer:EMAT)を使用することが好ましい。
【0026】
共振周波数測定制御部13は、超音波送受信部11を制御するとともに、超音波送受信部11から出力された定在波に関する信号を利用して、被測定体Sの厚み方向における共振周波数を検出する。この共振周波数測定制御部13は、例えば、超音波センサの制御装置又は制御ユニットにより実現される。
【0027】
具体的には、共振周波数測定制御部13は、超音波送受信部11を制御して、所望の周波数の超音波を被測定体Sに放射させるとともに、取得した定在波における周波数を掃引して、共振周波数の測定を行う。この共振周波数測定制御部13は、被測定体Sの厚み方向における1次共振周波数のみならず、2次、3次・・・といった、より高次の共振周波数を検出することができる。これにより、本実施形態に係る共振周波数測定制御部13は、被測定体Sの厚み方向のN次共振周波数までのN個の共振周波数を検出することができる。
【0028】
共振周波数測定制御部13は、検出した共振周波数に関する情報(例えば、共振周波数の値を表す情報や、測定できた共振周波数の次数を表す情報等)を、共振周波数情報として、後述する音速分布解析部20に出力する。
【0029】
音速分布解析部20は、共振周波数測定部10により測定された複数の共振周波数を利用して逆解析を行い、被測定体Sの厚み方向における超音波の音速分布を特定する。この音速分布解析部20は、図2に示したように、共振周波数情報取得部201と、逆解析部203と、音速分布解析部205と、表示制御部207と、記憶部209と、を更に備える。
【0030】
共振周波数情報取得部201は、例えば、CPU、ROM、RAM、通信装置等により実現される。共振周波数情報取得部201は、共振周波数測定制御部13から出力された共振周波数に関する情報(共振周波数情報)を取得する。共振周波数情報取得部201は、取得した共振周波数情報を、後述する逆解析部203に出力する。また、共振周波数情報取得部201は、取得した共振周波数情報を、当該情報を取得した日時に関する情報等と関連付けて、後述する記憶部209に履歴情報として記録してもよい。
【0031】
逆解析部203は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。逆解析部203は、共振周波数情報取得部201から出力された共振周波数情報を利用して以下で説明するような逆解析処理を実施し、超音波の音速分布に関連する特徴量を算出する。
【0032】
より詳細には、逆解析部203は、以下で説明するバネ・マス系モデルにおける逆解析処理により、共振周波数のデータ群から、N個の質量体(すなわち、おもり)と、相隣接する質量体を連結する(N−1)個のバネと、からなるバネ・マス系モデルにおける各おもりの質量と、各バネのバネ定数を算出する。この際、逆解析部203は、超音波の音速分布が被測定体の厚みの中心に対して対称である(すなわち、板厚中心対称が成立する)として逆解析を行う。
【0033】
逆解析部203は、おもりの質量とバネのバネ定数を決定する逆解析処理が終了すると、算出したこれらの値に関する情報を、後述する音速分布算出部205に出力する。
【0034】
逆解析部203で実施される逆解析処理については、以下で改めて詳細に説明する。
【0035】
音速分布算出部205は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。音速分布算出部205は、逆解析部203による逆解析処理により算出された、音速分布に関連する特徴量(すなわち、バネ・マス系モデルにおけるバネ定数及びおもりの質量)と、被測定体Sの既知の密度とを利用して、被測定体の厚み方向における超音波の音速分布を算出する。
【0036】
より詳細には、音速分布算出部205は、逆解析部203から出力された逆解析結果であるバネ定数及びおもりの質量と、被測定体Sの既知の密度とを利用して、被測定体の厚み方向に(N−1)個のバネの長さにそれぞれ対応する厚みを有する(N−1)個の層に分割された各層の音響インピーダンス及び厚みを算出する。
【0037】
また、音速分布算出部205は、算出した音響インピーダンスと、被測定体Sの密度とを利用して、被測定体の厚み方向における音速分布そのものを算出することも可能である。
【0038】
音速分布算出部205は、算出した音響インピーダンスや音速分布を、後述する表示制御部207に出力する。また、音速分布算出部205は、算出した音響インピーダンスや音速分布を、算出した日時を表す情報と関連付けて、履歴情報として後述する記憶部209に格納してもよい。
【0039】
なお、音速分布算出部205における音響インピーダンスの算出方法等については、以下で改めて詳細に説明する。
【0040】
表示制御部207は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。表示制御部207は、音速分布算出部205から出力された被測定体Sの音速分布や音響インピーダンスに関する情報を、音速分布測定装置1の備えるディスプレイ等の表示部に表示する際の表示制御を行う。また、表示制御部207は、音速分布や音響インピーダンスに関する情報以外にも、算出したおもりの質量やバネ定数の値など、各種の情報を表示部に表示させることができる。表示制御部207が表示部に音速分布に関する各種結果を表示させることで、音速分布測定装置1の利用者は、被測定体Sの音速分布等に関する情報を、その場で把握することが可能となる。
【0041】
記憶部209は、音速分布測定装置1が備える記憶装置の一例である。記憶部209には、本実施形態に係る音速分布解析部20が、何らかの処理を行う際に保存する必要が生じた様々なパラメータや処理の途中経過等、または、各種のデータベース等が、適宜格納されている。この記憶部209は、共振周波数情報取得部201、逆解析部203、音速分布算出部205、表示制御部207等が、自由に読み書きを行うことが可能である。
【0042】
以上、本実施形態に係る音速分布測定装置1の機能の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材や回路を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。また、各構成要素の機能を、CPU等が全て行ってもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用する構成を変更することが可能である。
【0043】
なお、上述のような本実施形態に係る音速分布測定装置の各機能(特に、音速分布解析部の機能)を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、パーソナルコンピュータ等に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなどである。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
【0044】
<バネ・マス系モデルを用いた逆解析処理に基づく音速分布の算出>
以下では、本実施形態に係る逆解析部203及び音速分布算出部205で実施される、バネ・マス系モデルを用いた逆解析処理に基づく音速分布の算出方法について、詳細に説明する。
【0045】
[バネ・マス系モデルと物体内部の音速分布との関係について]
まず、以下では、本実施形態に係る音速分布解析部20で用いられるバネ・マス系モデルと、物体(被測定体)内部の音速分布との関係について、図3及び図4を参照しながら詳細に説明する。
【0046】
本実施形態に係る逆解析部203及び音速分布算出部205では、超音波による被測定体Sの内部の振動を、以下で説明するようなバネ・マス系モデルでモデル化して、音速分布に関連する特徴量を算出する。
【0047】
図3は、被測定体Sを厚み方向に沿って3層に区切った場合のモデルを示した説明図である。以下では、図3を参照しながら、物体をi=1,2,・・・,QのQ層に区切った場合について考える。なお、以下の説明で用いるパラメータを、以下にまとめて示す。
【0048】
nq:q層のおもりの個数
Tq:q層の厚み
ρq:q層の単位厚みの質量
aq:q層の1つ1つのバネの長さ
mq:q層の1つ1つのおもりの質量
kq:q層の1つ1つのバネ定数
λq:q層での波長
Kq:q層での波数(=2π/λq)
ωq:q層での振動の角周波数(=2πfq)
vq:q層での振動伝播速度(すなわち、超音波の音速)
【0049】
図3から明らかなように、各層の厚みTqは、層内に存在するバネの個数及びバネの長さを用いて、以下の式101のようにして関係づけられる。また、各層の全体質量は、おもりの質量とおもりの個数とを用いて、以下の式102のようにして関係づけられる。
【0050】
【数1】
【0051】
なお、以下では、式101における近似式が満たされるために、ここでは、q層の一つ一つのバネの長さaqが、Tqより十分小さいというモデル化を考えている。
【0052】
次に、q層のみに着目して、q層でのおもりの振動を考える。かかる場合におけるバネ・マス系モデルの振動は、おもりの運動方程式を考慮して、以下の式103で表されることが知られている。
【0053】
【数2】
【0054】
ここで、振動の波長λqがaqよりも十分大きくなる(aqがλqよりも十分小さくなる)ようなモデル化を行う。かかる場合、式103における(Kqaq)<<1となり、三角関数を以下のように近似することができ、以下の式104を得ることができる。
【0055】
【数3】
【0056】
従って、q層での振動伝播速度(すなわち、q層での超音波の音速)vqは、式104で表される振動の角周波数ωqと、波数Kqとを利用して、以下の式105のように表される。
【0057】
【数4】
【0058】
ここで、式102を変形することで、以下の式106が得られる。また、式101、式102、式105及び式106を用いることで、以下の式107を得ることができる。更に、得られた式106及び式107を用いて、以下の式108を得ることができる。
【0059】
【数5】
【0060】
物質の音速分布に関連する特徴量の一つとして、音響インピーダンスZがあるが、この音響インピーダンスZは、物質の密度ρと振動伝播速度vとの積(すなわち、Z=ρ・v)として定義される。従って、式108を用いることで、q層における音響インピーダンスZは、以下の式109のように表されることがわかる。
【0061】
【数6】
【0062】
上記式109は、着目している物質の内部の層qにおける音響インピーダンスZqを、着目している層qをバネ・マス系モデルでモデル化した場合におけるおもりの質量mqとバネ定数kqとを用いて算出することができることを意味している。
【0063】
また、式101及び式106から、バネ・マス系モデルにおけるバネの長さaqは、以下の式110のように表されることがわかる。
【0064】
【数7】
【0065】
上記式110は、着目している層qの密度ρqが既知である場合には、バネ・マス系モデルにおけるおもりの質量mqを利用して、バネの長さaqを算出可能であることを示している。従って、式110に基づいてバネの長さaqを算出することで、着目している層の厚みをも算出することが可能となる。なお、着目している層の厚みは、上記式110を用いなくとも、例えば、上記式106等を用いることで算出することが可能である。
【0066】
[おもりの質量及びバネ定数の算出方法について−共振周波数に基づく逆解析処理]
次に、物質全体(すなわち、被測定体S全体)を、図4に示したようなバネ・マス系モデルでモデル化した場合において、測定された共振周波数から、想定したバネ・マス系モデルのおもりの質量mrとバネ定数krとを算出する方法について説明する。
【0067】
今、図4に示したように、着目している被測定体Sの全体を、N個のおもりと、(N−1)個のバネとからなるバネ・マス系モデルとして取り扱うものとする。なお、かかるバネ・マス系モデルにおいて、おもりの個数Nは偶数であるものとする。
【0068】
ここで、各おもりの運動方程式がどのようになるかを考察する。
各おもりに対して作用する力は、着目しているおもりとつながっているバネから受ける力の和となっている。例えば、図4の左端に位置するおもりm1は、バネ定数がk1であるバネからうける力のみが存在するため、おもりmrの位置をurと表すこととすると、その運動方程式は、以下の式111のようになる。
【0069】
同様に、両端にバネがつながっているおもりmrに対して作用する力は、バネ定数がkr−1であるバネから受ける力と、バネ定数がkrであるバネから受ける力の和になっている。従って、その運動方程式は、以下の式112のようになる。
【0070】
【数8】
【0071】
同様にしてN個のおもりの運動方程式をそれぞれ考えてみると、被測定体Sの振動は、以下の式113に示したように、N個の運動方程式の連立方程式として規定されることがわかる。
【0072】
【数9】
【0073】
ここで、おもりの変位urが、exp(−iωt)という周期的な時間変化を示すとき、上記式113は、以下の式114で示したような行列式で表すことができる。
【0074】
【数10】
【0075】
ここで、上記式114における行列の基底を変換すると、上記式114は、下記式115のように変形することができる。ここで、以下の式115において、行列R及びベクトルuは、それぞれ以下の式116及び式117の通りである。
【0076】
【数11】
【0077】
上記式115は、上記式116で表される行列の固有ベクトルが、上記式117で表されるベクトルであり、その固有値がω2(ω=2π×共振周波数)であることを示している。ここで、上記式116で表される行列は、その成分が、着目しているバネ・マス系モデルのおもりの質量とバネ定数のみで記載されており、上記式117で表される固有ベクトルは、バネ・マス系モデルのおもりの質量を利用して定義されるベクトルとなっている。
【0078】
ここで、上記式115〜式117に記載されている各物理量のうち、特定可能な物理量は、測定される共振周波数から算出可能な振動の角周波数ωである。従って、式113で表される連立方程式の解を求める処理は、測定した共振周波数を利用して、式115〜式117で表される行列R及びベクトルuを決定する処理に帰着されることとなる。
【0079】
ここで、かかる行列R及びベクトルuは、中心対称となっているバネ・マス系モデルにおいて算出可能であることが知られている。
【0080】
ここで、図4に示したバネ・マス系モデルにおいて、中心対称が成立するということは、以下の2つの条件が成立することを意味している。かかる2つの条件が成立する場合において、被測定体Sの厚み方向に沿ってバネ及びおもりが図4のように並んでいると考えているため、結局、被測定体Sについて、厚み中心対称が成立していることを意味している。
【0081】
(条件A)m1=mN、m2=mN−1、m3=mN−2、・・・
(条件B)k1=kN−1、k2=kN−2、k3=kN−3、・・・
【0082】
このようなバネ・マス系モデル(両端が自由端となっており中心対称なバネ・マス系モデル)において、共振周波数の個数は、おもりの個数と同じN個となる。また、このような共振周波数のうち、1番目の共振周波数(1次共振周波数、f1)は、0Hzである。
【0083】
また、バネ・マス系モデルにおいて、全てのおもりの質量の和を、以下のように表すこととする。このおもりの全質量は、被測定体Sの全質量から得ることができる。
【0084】
【数12】
【0085】
以下では、バネ・マス系モデルの全質量Mと、測定されたN個の共振周波数から、おもりの質量mr(r=1,2,・・・,N)と、バネ定数kr(r=1,2,・・・,N−1)を決定する方法について、詳細に説明する。かかる方法は、N個の実測値を利用して、線形代数の手法によりN個の未知数mrと(N−1)個の未知数krを全て決定する方法であり、逆解析と呼ばれる。なお、一般的な逆解析の手法については、上記非特許文献1や非特許文献2に記載されている。
【0086】
これらの未知数を全て決定するために、まず、測定されたN個の共振周波数を利用して、以下の2種類の値α及びβを算出する。なお、以下の値において、パラメータP=N/2であり、Nは偶数である。
【0087】
【数13】
【0088】
以下では、これらの値を利用して、線形代数の手法によって、αi及びβiを固有値として持つ行列(ヤコビ行列)Jを算出する。
【0089】
【数14】
【0090】
ここで、上記行列Jは、P×Pの大きさの行列であるが、この行列Jは、式116に示した2P×2Pの大きさの行列のうち、左上に位置するP×Pの大きさの部分を抜き出して構成した行列であるといえる。従って、上記式121で表される行列Jは、式116と同じ物理的意味(すなわち、左右対称なバネ・マス系モデルの半分を表したものという物理的意味)を有している。
【0091】
ここで、行列Jを構成する行列要素a1,a2,・・・,aP、及び、b1,b2,・・・,bPは、αi及びβiを利用して、以下のような手順で算出される。
【0092】
まず、以下の式122に基づいて、パラメータxi2(i=1,2,・・・,P)が算出される。
【0093】
【数15】
【0094】
次に、上記式122により算出されるパラメータxiを利用して、以下のベクトルqを算出する。
【0095】
【数16】
【0096】
次に、算出したベクトルqPを利用して、2つのスカラー量aP及びbP−1を以下のように算出する。すなわち、算出したベクトルqPの内積を算出することでスカラー量aPを算出し、算出したスカラー量aPとベクトルqPを利用して、以下のような演算によりスカラー量bP−1を算出する。
【0097】
【数17】
【0098】
続いて、算出した2つのスカラー量aP及びbP−1と、ベクトルqPとを利用して、以下のような演算を行うことで新たにベクトルqP−1を算出する。その後、算出したベクトルqP−1を利用して、新たに2つのスカラー量aP−1及びbP−2を算出する。
【0099】
【数18】
【0100】
すなわち、かかる方法では、パラメータi=Pから順に一つずつパラメータiの値を戻しながら、スカラー量aP−j及びbP−j−1、ならびに、ベクトルqP−j−1の値を、以下の式129〜式131を利用して順に算出していく。ここで、以下の式129〜式131において、j=1,2,・・・,P−2である。
【0101】
【数19】
【0102】
上記式129〜式131で表される演算を繰り返していくと、最後に、スカラー量a1が以下の式132により算出されることとなる。
【0103】
【数20】
【0104】
その後、算出されたスカラー量biの符号を反転する(すなわち、bi=−biとする)ことで、行列Jの行列成分の算出が終了することとなる。
【0105】
次に、算出した行列Jと、バネ・マス系モデルの総質量Mとを利用して、バネ・マス系モデルで考慮した全てのmiを算出する。その手順は、以下の通りである。
【0106】
まず、以下の式133で表されるベクトルdを生成する。
【0107】
【数21】
【0108】
ここで、ベクトルdは、以下の式134〜式136で表されるため、m1,m2,・・・,mPは、算出した行列J(より詳細には、算出した行列Jの逆行列)を用いて算出することが可能である。
【0109】
【数22】
【0110】
次に、算出したベクトルdを利用して、以下の式137で表される行列Dを算出する。以下の式137に示すように、行列Dは、対角成分が(mi)0.5であり、それ以外の成分は0であるP行P列の大きさの行列である。
【0111】
【数23】
【0112】
続いて、算出した行列J及び行列Dを利用して、D・J・Dという演算で生成される行列を生成する。このD・J・Dで表される行列は、kiを要素とする以下の行列(式138)に等しくなることが知られている。
【0113】
【数24】
【0114】
そこで、算出したD・J・Dの演算結果と、上記式138の右辺に示した行列成分とを比較することで、各行列成分がどのような値となっているかを特定することができる。これらの関係式を連立することで、バネ・マス系モデルにおけるkiを全て決定することが可能である。
【0115】
以上のような方法により、バネ・マス系モデルにおけるおもりの質量miとバネ定数kiとを決定することができる。
【0116】
本実施形態に係る逆解析部203は、取得した共振周波数情報を利用して、式119及び式120に基づいてパラメータα及びβを算出し、式121〜式138に示した手順に従って、超音波の音速分布に関連する特徴量である、バネ・マス系モデルにおける各おもりの質量と、各バネのバネ定数を算出する。
【0117】
その後、本実施形態に係る音速分布算出部205は、逆解析部203により算出されたおもりの質量及びバネ定数を利用して、式109に基づいて、音響インピーダンスZの分布を少なくとも算出する。ただし、おもりの質量については、i番目の質量miと隣り合う(i+1)番目の質量mi+1の平均値(mi+mi+1)/2を新たにi番目の質量miとみなした上で、算出する。
【0118】
また、音速分布算出部205は、着目している被測定体Sの密度を更に利用して、音響インピーダンスの分布から音速分布そのものを算出してもよい。また、音速分布算出部205は、逆解析部203により算出されたおもりの質量及びバネ定数等を利用して、被測定体Sの各層の厚みを算出することもできる。この際に利用される密度は、i番目の層の既知の密度ρiであってもよく、被測定体Sの全体の既知の密度ρであってもよい。
【0119】
以上、本実施形態に係る逆解析部203及び音速分布算出部205で実施される、バネ・マス系モデルを用いた逆解析処理に基づく音速分布の算出方法について、詳細に説明した。
【0120】
なお、上記説明における逆解析法はあくまでも一例であって、本実施形態に係る音速分布解析部20で利用される逆解析法は上記方法に限定されるわけではなく、上記方法以外の逆解析法についても適宜利用することが可能である。
【0121】
<逆解析処理に基づく音速分布の算出方法の一例>
次に、内部音速分布を仮定し、計測可能な共振周波数のスペクトルデータを、順解析処理により生成した。その後、生成した共振周波数のスペクトルデータを利用して、上記で説明した逆解析処理に基づく音速分布の算出処理を実施し、仮定した内部音速分布が再現されるかどうかを確認した。
【0122】
[設定したモデル]
以下では、連続鋳造で製造中のスラブを仮定し、図5に示したような層構造を有する鋼材のモデルを考えた。
【0123】
図5に示したモデルでは、全厚みがDで表される鋼材が、厚みd1の固層1と、厚みd2の液層と、厚みd3の固層2とを有しており、固層1と液層との界面及び固層2と液層との界面に遷移層が存在しうると設定している。
【0124】
このモデルにおいて、固層1及び固層2には、2次曲線で表される温度分布があるものとし、図5に示したように、固層1及び固層2の表面温度は900℃であり、固層と遷移層との界面温度は1530℃であるとした。また、固層1及び固層2における縦波音速Vは、温度Tの関数となっており、V=5520−0.615T(T≧900℃)で表されるものとした。この縦波音速と温度との関係を表す式は、温度が低いほど縦波音速が速いという一般的な音速の挙動を反映したものとなっている。
【0125】
また、液層における縦波音速Vは、4000m/sであるものとし、遷移層における縦波音速Vは、温度Tに対して線形性を有しながら変化する(すなわち、温度Tに応じて直線的に変化する)ものとした。
【0126】
以上説明したようなモデルでは、結局、図5の左側に示したような縦波音速分布を仮定していることとなる。
【0127】
[設定したモデルにおける音速分布の算出]
以上説明したような、図5に示したモデルにおいて、以下の4つの条件下における音速分布の算出処理を実施した。
【0128】
(条件1)固層1:120mm、液層:10mm、固層2:120mmからなる全厚み250mmの構造
(条件2)固層1:107.5mm、液層:35mm、固層2:107.5mmからなる全厚み250mmの構造
(条件3)固層1:110mm、遷移層:10mm、液層:10mm、遷移層:10mm、固層2:110mmからなる全厚み250mmの構造
(条件4):固層1:105mm、遷移層:5mm、液層30mm、遷移層:5mm、固層2:105mmからなる全厚み250mmの構造
【0129】
ここで、各条件における構造を考慮して、計測される共振周波数のスペクトルデータを、上記特許文献1に記載されている順解析を利用して生成した。図6に、条件1に示した構造を有する鋼材モデルにおける共振周波数のスペクトルデータを示す。図6において、横軸が、計測される共振周波数の値[MHz]を示しており、縦軸は、波形エネルギー値である。図6に示したスペクトルにおいて、各ピークが観測される個々の共振周波数に対応している。
【0130】
続いて、生成した共振周波数スペクトルに基づいて、上記のような逆解析処理を利用した音速分布の算出処理プログラムを作成し、音速分布の算出を行った。この際、逆解析処理に利用可能なデータは共振周波数値のみとし、図6に示した共振周波数スペクトルの各ピーク値のみを入力データとした。
【0131】
図7は、計測された共振周波数の個数Nが128個であった場合(すなわち、1次共振周波数〜128次共振周波数までの共振周波数が計測された場合)における、逆解析処理を利用した音速分布の算出結果を示したグラフ図である。図7において、横軸は正規化後の厚みを示しており、図7における厚み「1」の箇所は、厚みが250mmの場所に対応している。また、図7において、縦軸は、それぞれの厚み位置における音響インピーダンスの値を示している。
【0132】
なお、本モデル解析例では、逆解析処理により算出したバネ・マス系モデルにおけるおもりの質量及びバネ定数を利用して、式109に基づいて音響インピーダンスを算出している。ここで、固層と液層との密度差は小さく、鋼材全体の密度をほぼ一定とみなせるため(鋼材の場合、密度ρ=7.8g/cm3)、図7に示した音響インピーダンスの分布は、式109から明らかなように、鋼材内部における音速の変化(すなわち、音速分布)を示していることになる。なお、本モデル解析例において、算出した音響インピーダンスと、鋼材の密度とを利用して、式109に基づいて音速そのものの値を算出することも可能である。
【0133】
図7を参照すると、算出された音響インピーダンスの分布は、包絡線が2次曲線のような形状を有している部分と、略中央に位置した音響インピーダンスがほぼ一定となっている部分の3つの部分から構成されていることがわかる。従って、図7において包絡線が2次曲線のような形状を有している部分が、図5に示した鋼材モデルの固層1及び固層2に対応しており、図7において略中央に位置した音響インピーダンスがほぼ一定となっている部分が、図5に示した鋼材モデルの液層に対応していることがわかる。
【0134】
また、固層1及び固層2に対応する部分は、図7において幅が約0.47程度となった。ここで、図7における横軸は、目盛幅0.2が50mmの厚みに対応しているため、解析の結果得られた固層1及び固層2の厚みは、約118mmと算出されたこととなる。
【0135】
同様にして得られた条件2〜条件4における音響インピーダンスの算出結果を、図8A〜図8Cに示した。
【0136】
条件1と同様に固層1、液層、固層2の3層構造を仮定した条件2の算出結果(図8A)は、包絡線が2次曲線のような形状を有している部分と、略中央に位置した、音響インピーダンスがほぼ一定となっている部分と、から構成されている。従って、図8Aに示した条件2の場合でも同様に、固層1、液層、固層2からなる図5に示した鋼材モデルが、再現されていることがわかる。また、固層1及び固層2の部分に対応する目盛幅は、約0.42程度となっており、固層1及び固層2の厚みは、約105mmと算出されたこととなる。従って、条件1と同様に条件2においても、仮定したモデルが極めて精度良く再現されていることがわかる。
【0137】
また、固層1、遷移層、液層、遷移層、固層2の5層構造を仮定した条件3及び条件4の算出結果(図8B及び図8C)は、包絡線が2次曲線のような形状を有している部分と、音響インピーダンスがほぼ直線的に変化している部分と、略中央に位置した、音響インピーダンスがほぼ一定となっている部分と、から構成されている。従って、図8B及び図8Cでは、包絡線が2次曲線のような形状を有している部分が、固層1及び固層2に対応し、音響インピーダンスが直線的に変化している部分が、遷移層に対応し、略中央部分が、液層に対応していることとなる。また、図8B及び図8Cに示した条件3及び4において、各層の厚みについても、極めて精度良く再現されている。
【0138】
このように、本実施形態に係る逆解析処理に基づく音速分布の算出方法を利用することで、図5に示したモデルを精度よく再現することができ、本方法が、共振周波数に基づいて被測定体の音速分布を算出する際に、極めて有用であることがわかる。
【0139】
[逆解析処理に用いる共振周波数の次数と解析精度との関係について]
続いて、逆解析処理に用いる共振周波数の次数と解析精度との関係について検討する。
音速分布を算出する被測定体があり、解析結果に求める音速の分解能をgとし、被測定体内部の音速変化幅(すなわち、音速の最大値−最小値で算出される幅)をhとする。この場合、被測定体の内部における音速変化のステップ数は、音速の分解能がgであるため、h/gとなる。
【0140】
ここで、被測定体内部の音速変化のステップ数h/gよりも、計測される共振周波数の最大次数Nが十分に大きい場合(すなわち、N>>h/gである場合)には、一つのステップが、十分に大きな個数からなる共振周波数群に対応することとなり、図3に示したバネ・マス系モデルが成立しているといえる。従って、かかる場合においては、上記式101〜式110の関係が成立するといえる。
【0141】
しかしながら、計測される共振周波数の最大次数Nが、被測定体内部の音速変化のステップ数h/gよりも十分に大きいとは言えない場合、すなわち、N<h/gとなる場合、又は、Nがh/gにほぼ等しい場合には、図3に示したバネ・マス系モデルが成立しているとは言えなくなってくる。従って、かかる場合においては、上記式101〜式110で表される関係には、誤差が含まれることとなってしまう。
【0142】
そのため、多くの被測定体の場合、解析結果に求める音速の分解能gを事前に決定し、被測定体内部の音速変化幅gを、活用可能な各種情報を利用してある程度予測したうえで、N>>h/gとなるように計測される共振周波数の最大次数Nを選定することが好ましい。
【0143】
例えば、本解析方法を、連続鋳造プロセスに適用する場合を考える。
この際、鋼材の表面温度は、放射温度計等で計測することが可能であり、温度と音速との間の相関関係を利用して、鋼材の表面における音速を算出することが可能である。通常、連続鋳造プロセス中の鋼材には温度分布があり、内部ほど温度が高くなっており、また、一般的に温度が低いほど縦波音速は速くなる。そのため、表面温度を利用して算出した鋼材表面における音速を、音速の最大値として利用することができる。他方、溶鋼の音速は4000m/sであることが知られており、かかる値を、音速の最小値として利用することができる。これらの値を利用することで、着目している被測定体(すなわち、連続鋳造プロセスにおける鋼材)において、音速変化幅hを見積もることができる。
【0144】
また、本解析方法を、被測定体の残留応力計測に適用する場合を考える。
被測定体の残留応力は、被測定体に超音波を放射した場合の超音波の音速に関する情報を利用して算出することが可能であり、残留応力と音速との間には、ある相関関係が成立することが知られている。そこで、本解析方法により解析を実施するサンプル、または、同種類のサンプルの微小片を切り出して、例えばサンプルの表面部や厚み中心部といった代表的な箇所の残留応力を例えばX線回折法等を利用して計測し、残留応力と音速との相関関係を利用して、音速変化幅hを見積もることができる。
【0145】
他方、解析結果に求める分解能gを例えば5%と設定した場合、h/g=100/5=20となる。そこで、計測される共振周波数の最大次数Nが200程度となるようにすることが好ましいと考えられる。
【0146】
ここで、実際に被測定体Sから計測される共振周波数の最大次数は、無限ではなく有限の値である。そこで、上記条件1〜条件4の場合それぞれについて、計測される共振周波数の次数が1次〜N次である場合に逆解析結果がどのようになるのかを算出した。
【0147】
図9A及び図9Bは、条件1のモデルにおいて、計測される共振周波数の最大次数がN=6、8、12、16、32、64、128である場合における音響インピーダンスの分布の算出結果を示したグラフ図である。同様に、図10A及び図10Bは、条件2のモデルにおける音響インピーダンスの分布の算出結果を示したグラフ図であり、図11A及び図11Bは、条件3のモデルにおける音響インピーダンスの分布の算出結果を示したグラフ図であり、図12A及び図12Bは、条件4のモデルにおける音響インピーダンスの分布の算出結果を示したグラフ図である。
【0148】
図9A〜図12Bを参照すると、各条件ともに、共振周波数の最大次数Nの数が大きくなるにつれて、グラフ図における階段の幅(グラフ図を構成する複数の段差の横軸方向の幅)は狭くなり、また、固層に対応する部分の形状は、より滑らかなものとなっていくことがわかる。
【0149】
また、図13は、条件1のN=128である場合の解析結果と、仮定した内部音速分布(内部の音響インピーダンスの分布)とを共に示したグラフ図である。図13において、細線が仮定した音響インピーダンスの分布を示しており、太線が解析の結果得られた音響インピーダンスの分布を示している。図13から明らかなように、共振周波数の最大次数N=128の場合における音響インピーダンスの分布は、仮定した音響インピーダンスの分布と極めて類似していることがわかる。
【0150】
更に、図14は、条件1の場合において、本解析方法により算出した音響インピーダンスの分布と仮定した音響インピーダンスの分布との誤差が、共振周波数の最大次数Nが変化するにつれてどのように変化したかを示したグラフ図である。図14において、横軸は、共振周波数の最大次数Nの数であり、縦軸は、鋼材の全厚みでの累積誤差である。
【0151】
図14に示した結果から明らかなように、共振周波数の最大次数Nの数が大きくなるにつれて、解析結果は仮定した音響インピーダンスの分布に近づいていくことがわかる。また、図13及び図14に示した図は、条件1における結果を検討したものであるが、条件2〜条件4についても、同様の結果を得ることができる。
【0152】
従って、図9A〜図14から明らかなように、本解析法では、共振周波数の最大次数Nの数が大きくなるにつれて、解析結果はより正確なものとなっていく。かかる結果は、共振周波数の最大次数Nの数が大きくなることで、式101〜式110に示した関係が成立していることを示している。
【0153】
そこで、例えば図13及び図14に示したような誤差解析を実施し、適用目的に応じて具体的な許容誤差範囲を予め決定することにより、解析に必要となる共振周波数の最大次数Nを決定することができ、実際の計測上必要となる最大周波数を大まかに決定することができる。すなわち、N次の共振周波数をfNとし、被測定体の全厚みをdとし、大まかな平均音速をVとすると、fNは、N・V/(2d)に近い値となるため、実際の計測上必要となる最大周波数を、fNに近い値に決定すればよいこととなる。
【0154】
このように、式101〜式110に示した関係が良好に成立するためには、N>>h/gが成立するように高次の共振周波数まで測定することが好ましいものの、実際に被測定体の解析を行う場合には、図14に示したような誤差解析を行って、許容される誤差に応じて、共振周波数の最大次数Nを決定すればよい。
【0155】
例えば、本解析方法を連続鋳造プロセスに適用する場合を考える。かかる場合において、本解析方法は、鋼材中に液層が混入しているかどうかの判定や、液層の厚みの測定を行うために、利用することが可能である。
【0156】
ここで、液層が混入しているかどうかを判別するために、本解析方法を適用する場合、図9A〜図12Bに示した一連の結果から、液層に対応する部分での音速低下の段差が明瞭となるのはN=12とした場合からである。従って、かかる目的のために本解析方法を適用する場合、N>>h/gが成立するような最大次数Nが好ましいものの、N≧12とする(すなわち、12次共振周波数以上の高次の共振周波数を測定する)ことで、液層が混入しているかどうかを有効に判別することが可能となる。
【0157】
また、液層の厚みを計測するために、本解析方法を適用する場合、図9A〜図14より、仮定した液層の厚みと解析により算出された液層に対応した部分の厚みとの差が例えば10%以下となるのは、N=128とした場合である。従って、かかる目的のために本解析方法を適用する場合、N>>h/gが成立するような最大次数Nが好ましいものの、N≧128とする(すなわち、128次共振周波数以上の高次の共振周波数を測定する)ことで、液層の厚みを精度よく算出することが可能となる。
【0158】
以上、本実施形態に係る逆解析処理に基づく音速分布の算出処理の適用例について、具体的に説明した。
【0159】
<音速分布算出方法の流れについて>
次に、図15を参照しながら、本実施形態に係る音速分布算出方法の流れを説明する。図15は、本実施形態に係る音速分布算出方法の流れを示した流れ図である。
【0160】
まず、音速分布測定装置1の共振周波数測定部10は、被測定体Sに対して超音波を放射し、被測定体の厚み方向の共振周波数を測定する(ステップS101)。共振周波数測定部10の共振周波数測定制御部13は、測定した共振周波数に関する情報(共振周波数情報)を、音速分布解析部20に出力する。
【0161】
音速分布解析部20の共振周波数情報取得部201は、共振周波数測定制御部13から出力された共振周波数情報を取得すると、取得した共振周波数情報を、逆解析部203に出力する。
【0162】
逆解析部203は、まず、共振周波数情報を参照して、測定により得られた共振周波数の最大次数Nを特定し(ステップS103)、得られた最大次数Nに基づいて、バネ・マス系モデルを設定する(ステップS105)。
【0163】
その後、逆解析部203は、上記式121〜式138に示した手順に従って、超音波の音速分布に関連する特徴量である、バネ・マス系モデルにおけるN個のおもりの質量と、N−1個のバネ定数を算出する(ステップS107)。
【0164】
逆解析部203は、このような共振周波数を利用した逆解析処理を終了すると、算出したおもりの質量及びバネ定数に関する解析結果を、音速分布算出部205に出力する。
【0165】
音速分布算出部205は、逆解析部203が算出したおもりの質量及びバネ定数に基づいて、上記式109に基づいて、音響インピーダンスZを算出する(ステップS109)。
【0166】
以上説明したような流れに則して処理を行うことで、被測定体の厚み方向における共振周波数を利用して、被測定体内部の音速分布を算出することが可能となる。
【0167】
(ハードウェア構成について)
次に、図16を参照しながら、本発明の実施形態に係る音速分布測定装置1(特に、音速分布解析部20)のハードウェア構成について、詳細に説明する。図16は、本発明の実施形態に係る音速分布解析部20のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
【0168】
音速分布解析部20は、主に、CPU901と、ROM903と、RAM905と、を備える。また、音速分布解析部20は、更に、バス907と、入力装置909と、出力装置911と、ストレージ装置913と、ドライブ915と、接続ポート917と、通信装置919とを備える。
【0169】
CPU901は、演算処理装置および制御装置として機能し、ROM903、RAM905、ストレージ装置913、またはリムーバブル記録媒体921に記録された各種プログラムに従って、音速分布解析部20内の動作全般またはその一部を制御する。ROM903は、CPU901が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM905は、CPU901が使用するプログラムや、プログラムの実行において適宜変化するパラメータ等を一次記憶する。これらはCPUバス等の内部バスにより構成されるバス907により相互に接続されている。
【0170】
バス907は、ブリッジを介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バスなどの外部バスに接続されている。
【0171】
入力装置909は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチおよびレバーなどユーザが操作する操作手段である。また、入力装置909は、例えば、赤外線やその他の電波を利用したリモートコントロール手段(いわゆる、リモコン)であってもよいし、音速分布解析部20の操作に対応したPDA等の外部接続機器923であってもよい。さらに、入力装置909は、例えば、上記の操作手段を用いてユーザにより入力された情報に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路などから構成されている。音速分布測定装置1のユーザは、この入力装置909を操作することにより、音速分布測定装置1に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
【0172】
出力装置911は、取得した情報をユーザに対して視覚的または聴覚的に通知することが可能な装置で構成される。このような装置として、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置およびランプなどの表示装置や、スピーカおよびヘッドホンなどの音声出力装置や、プリンタ装置、携帯電話、ファクシミリなどがある。出力装置911は、例えば、音速分布解析部20が行った各種処理により得られた結果を出力する。具体的には、表示装置は、音速分布解析部20が行った各種処理により得られた結果を、テキストまたはイメージで表示する。他方、音声出力装置は、再生された音声データや音響データ等からなるオーディオ信号をアナログ信号に変換して出力する。
【0173】
ストレージ装置913は、音速分布解析部20の記憶部の一例として構成されたデータ格納用の装置である。ストレージ装置913は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶部デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス、または光磁気記憶デバイス等により構成される。このストレージ装置913は、CPU901が実行するプログラムや各種データ、および外部から取得した各種のデータなどを格納する。
【0174】
ドライブ915は、記録媒体用リーダライタであり、音速分布解析部20に内蔵、あるいは外付けされる。ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録されている情報を読み出して、RAM905に出力する。また、ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録を書き込むことも可能である。リムーバブル記録媒体921は、例えば、CDメディア、DVDメディア、Blu−rayメディア等である。また、リムーバブル記録媒体921は、コンパクトフラッシュ(登録商標)(CompactFlash:CF)、フラッシュメモリ、または、SDメモリカード(Secure Digital memory card)等であってもよい。また、リムーバブル記録媒体921は、例えば、非接触型ICチップを搭載したICカード(Integrated Circuit card)または電子機器等であってもよい。
【0175】
接続ポート917は、機器を音速分布解析部20に直接接続するためのポートである。接続ポート917の一例として、USB(Universal Serial Bus)ポート、IEEE1394ポート、SCSI(Small Computer System Interface)ポート、RS−232Cポート等がある。この接続ポート917に外部接続機器923を接続することで、音速分布解析部20は、外部接続機器923から直接各種のデータを取得したり、外部接続機器923に各種のデータを提供したりする。
【0176】
通信装置919は、例えば、通信網925に接続するための通信デバイス等で構成された通信インターフェースである。通信装置919は、例えば、有線または無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、またはWUSB(Wireless USB)用の通信カード等である。また、通信装置919は、光通信用のルータ、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)用のルータ、または、各種通信用のモデム等であってもよい。この通信装置919は、例えば、インターネットや他の通信機器との間で、例えばTCP/IP等の所定のプロトコルに則して信号等を送受信することができる。また、通信装置919に接続される通信網925は、有線または無線によって接続されたネットワーク等により構成され、例えば、インターネット、家庭内LAN、赤外線通信、ラジオ波通信または衛星通信等であってもよい。
【0177】
以上、本発明の実施形態に係る音速分布解析部20の機能を実現可能なハードウェア構成の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用するハードウェア構成を変更することが可能である。
【0178】
(まとめ)
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、被測定体内部の任意の音速分布を、被測定体について計測された共振周波数を利用して算出することが可能となる。一般に、物質の内部を伝播する超音波の音速は、物質が固体である場合には温度によって変化するものであり、また物質が固体から液体に変化した場合においても変化する。従って、本発明の実施形態に係る音速分布測定方法により測定した音速分布を利用して、固体の温度分布や液体の有無評価を実施することが可能である。例えば、鉄鋼製造プロセス(連続鋳造プロセス)では、固層内に溶鋼が混入する状態があるが、液層が混入しているかどうかの判別や、液層の厚みの計測は、製造プロセスの最適化や鋳造速度のアップなどの面で重要な情報となる。
【0179】
また、残留応力は音速とは強い相関があるため、対象材内部の音速分布を計測できれば、被測定体内部の深さと残留応力の関係を計測することが可能となる。従って、本発明の実施形態に係る音速分布測定方法により測定した音速分布を、例えば厚板の矯正プロセスの制御情報として活用することができる。
【0180】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0181】
1 音速分布測定装置
10 共振周波数測定部
11 超音波送受信部
13 共振周波数測定制御部
20 音速分布解析部
201 共振周波数情報取得部
203 逆解析部
205 音速分布算出部
207 表示制御部
209 記憶部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定体の厚み方向に超音波を放射し、前記被測定体の厚み方向のN次共振周波数までのN個の共振周波数を測定する共振周波数測定部と、
前記共振周波数測定部により測定されたN個の前記共振周波数を用いて、前記被測定体の厚み方向における超音波の音響インピーダンスの分布を特定する音速分布解析部と、
を備え、
前記音速分布解析部は、
前記共振周波数測定部により測定されたN個の前記共振周波数を利用して、N個の質量体と、相隣接する前記質量体を連結する(N−1)個のバネと、からなるバネ・マス系モデルを仮定し、前記N個の質量体それぞれの質量と、前記(N−1)個のバネそれぞれのバネ定数と、を算出する逆解析部と、
前記被測定体の厚み方向における超音波の音速分布が前記被測定体の厚みの中心に対して対称であるとして算出された前記質量及びバネ定数と、被測定体の既知の密度とを用いて、前記被測定体の厚み方向に前記(N−1)個のバネの長さにそれぞれ対応する厚みを有する(N−1)個の層に分割された各層の音響インピーダンス及び厚みを算出する音速分布算出部と、
を有することを特徴とする、音速分布測定装置。
【請求項2】
前記音速分布算出部は、
前記逆解析部で算出された、前記(N−1)個の層のうちのi番目の層に対応するi番目の質量miと、当該i番目の質量miに隣り合う(i+1)番目の質量mi+1との平均値(mi+mi+1)/2を、新たにi番目の質量miとみなし、新たな当該i番目の質量とi番目のバネ定数kiとから、前記i番目の層の音響インピーダンスとして(kimi)0.5を算出し、
更にi番目の層の既知の密度ρiを用いて、当該i番目の層の音速として(kimi)0.5/ρiを算出するとともに当該該i番目の層の厚みとしてmi/ρiを算出する
ことを特徴とする、請求項1に記載の音速分布測定装置。
【請求項3】
前記音速分布算出部は、
前記逆解析部で算出された、前記(N−1)個の層のうちのi番目の層に対応するi番目の質量miと、当該i番目の質量miに隣り合う(i+1)番目の質量mi+1との平均値(mi+mi+1)/2を新たにi番目の質量miとみなし、新たな当該i番目の質量とi番目のバネ定数kiとから、前記i番目の層の音響インピーダンスとして(kimi)0.5を算出し、
更に前記被測定体の全体の既知の密度ρを用いて、当該i番目の層の音速として(kimi)0.5/ρを算出するとともに当該i番目の層の厚みとしてmi/ρを算出する
ことを特徴とする、請求項1に記載の音速分布測定装置。
【請求項4】
被測定体の厚み方向に超音波を放射し、前記被測定体の厚み方向のN次共振周波数までのN個の共振周波数を測定する共振周波数測定ステップと、
前記共振周波数測定部により測定されたN個の前記共振周波数を用いて、前記被測定体の厚み方向における超音波の音響インピーダンスの分布を特定する音速分布解析ステップと、
を含み、
前記音速分布解析ステップは、
測定されたN個の前記共振周波数を利用して、N個の質量体と、相隣接する前記質量体を連結する(N−1)個のバネと、からなるバネ・マス系モデルを仮定し、前記N個の質量体それぞれの質量と、前記(N−1)個のバネそれぞれのバネ定数と、を算出する逆解析ステップと、
前記被測定体の厚み方向における超音波の音速分布が前記被測定体の厚みの中心に対して対称であるとして算出された前記質量及びバネ定数と、被測定体の既知の密度とを用いて、前記被測定体の厚み方向に前記(N−1)個のバネの長さにそれぞれ対応する厚みを有する(N−1)個の層に分割された各層の音響インピーダンス及び厚みを算出する音速分布算出ステップと、
を更に有することを特徴とする、音速分布測定方法。
【請求項5】
前記音速分布算出ステップでは、
前記逆解析ステップにて算出された、前記(N−1)個の層のうちのi番目の層に対応するi番目の質量miと、当該i番目の質量miに隣り合う(i+1)番目の質量mi+1との平均値(mi+mi+1)/2を、新たにi番目の質量miとみなし、新たな当該i番目の質量とi番目のバネ定数kiとから、前記i番目の層の音響インピーダンスとして(kimi)0.5を算出し、
更にi番目の層の既知の密度ρiを用いて、当該i番目の層の音速として(kimi)0.5/ρiを算出するとともに当該該i番目の層の厚みとしてmi/ρiを算出する
ことを特徴とする、請求項4に記載の音速分布測定方法。
【請求項6】
前記音速分布算出ステップでは、
前記逆解析ステップにて算出された、前記(N−1)個の層のうちのi番目の層に対応するi番目の質量miと、当該i番目の質量miに隣り合う(i+1)番目の質量mi+1との平均値(mi+mi+1)/2を新たにi番目の質量miとみなし、新たな当該i番目の質量とi番目のバネ定数kiとから、前記i番目の層の音響インピーダンスとして(kimi)0.5を算出し、
更に前記被測定体の全体の既知の密度ρを用いて、当該i番目の層の音速として(kimi)0.5/ρを算出するとともに当該i番目の層の厚みとしてmi/ρを算出する
ことを特徴とする、請求項4に記載の音速分布測定方法。
【請求項7】
被測定体の厚み方向に超音波を放射し、前記被測定体の厚み方向のN次共振周波数までのN個の共振周波数を測定する共振周波数測定手段と通信可能なコンピュータに、
前記共振周波数測定手段により測定されたN個の前記共振周波数を利用して、N個の質量体と、相隣接する前記質量体を連結する(N−1)個のバネと、からなるバネ・マス系モデルを仮定し、前記N個の質量体それぞれの質量と、前記(N−1)個のバネそれぞれのバネ定数と、を算出する逆解析機能と、
前記被測定体の厚み方向における超音波の音速分布が前記被測定体の厚みの中心に対して対称であるとして算出された前記質量及びバネ定数と、被測定体の既知の密度とを用いて、前記被測定体の厚み方向に前記(N−1)個のバネの長さにそれぞれ対応する厚みを有する(N−1)個の層に分割された各層の音響インピーダンス及び厚みを算出する音速分布算出機能と、
を実現させるためのプログラム。
【請求項1】
被測定体の厚み方向に超音波を放射し、前記被測定体の厚み方向のN次共振周波数までのN個の共振周波数を測定する共振周波数測定部と、
前記共振周波数測定部により測定されたN個の前記共振周波数を用いて、前記被測定体の厚み方向における超音波の音響インピーダンスの分布を特定する音速分布解析部と、
を備え、
前記音速分布解析部は、
前記共振周波数測定部により測定されたN個の前記共振周波数を利用して、N個の質量体と、相隣接する前記質量体を連結する(N−1)個のバネと、からなるバネ・マス系モデルを仮定し、前記N個の質量体それぞれの質量と、前記(N−1)個のバネそれぞれのバネ定数と、を算出する逆解析部と、
前記被測定体の厚み方向における超音波の音速分布が前記被測定体の厚みの中心に対して対称であるとして算出された前記質量及びバネ定数と、被測定体の既知の密度とを用いて、前記被測定体の厚み方向に前記(N−1)個のバネの長さにそれぞれ対応する厚みを有する(N−1)個の層に分割された各層の音響インピーダンス及び厚みを算出する音速分布算出部と、
を有することを特徴とする、音速分布測定装置。
【請求項2】
前記音速分布算出部は、
前記逆解析部で算出された、前記(N−1)個の層のうちのi番目の層に対応するi番目の質量miと、当該i番目の質量miに隣り合う(i+1)番目の質量mi+1との平均値(mi+mi+1)/2を、新たにi番目の質量miとみなし、新たな当該i番目の質量とi番目のバネ定数kiとから、前記i番目の層の音響インピーダンスとして(kimi)0.5を算出し、
更にi番目の層の既知の密度ρiを用いて、当該i番目の層の音速として(kimi)0.5/ρiを算出するとともに当該該i番目の層の厚みとしてmi/ρiを算出する
ことを特徴とする、請求項1に記載の音速分布測定装置。
【請求項3】
前記音速分布算出部は、
前記逆解析部で算出された、前記(N−1)個の層のうちのi番目の層に対応するi番目の質量miと、当該i番目の質量miに隣り合う(i+1)番目の質量mi+1との平均値(mi+mi+1)/2を新たにi番目の質量miとみなし、新たな当該i番目の質量とi番目のバネ定数kiとから、前記i番目の層の音響インピーダンスとして(kimi)0.5を算出し、
更に前記被測定体の全体の既知の密度ρを用いて、当該i番目の層の音速として(kimi)0.5/ρを算出するとともに当該i番目の層の厚みとしてmi/ρを算出する
ことを特徴とする、請求項1に記載の音速分布測定装置。
【請求項4】
被測定体の厚み方向に超音波を放射し、前記被測定体の厚み方向のN次共振周波数までのN個の共振周波数を測定する共振周波数測定ステップと、
前記共振周波数測定部により測定されたN個の前記共振周波数を用いて、前記被測定体の厚み方向における超音波の音響インピーダンスの分布を特定する音速分布解析ステップと、
を含み、
前記音速分布解析ステップは、
測定されたN個の前記共振周波数を利用して、N個の質量体と、相隣接する前記質量体を連結する(N−1)個のバネと、からなるバネ・マス系モデルを仮定し、前記N個の質量体それぞれの質量と、前記(N−1)個のバネそれぞれのバネ定数と、を算出する逆解析ステップと、
前記被測定体の厚み方向における超音波の音速分布が前記被測定体の厚みの中心に対して対称であるとして算出された前記質量及びバネ定数と、被測定体の既知の密度とを用いて、前記被測定体の厚み方向に前記(N−1)個のバネの長さにそれぞれ対応する厚みを有する(N−1)個の層に分割された各層の音響インピーダンス及び厚みを算出する音速分布算出ステップと、
を更に有することを特徴とする、音速分布測定方法。
【請求項5】
前記音速分布算出ステップでは、
前記逆解析ステップにて算出された、前記(N−1)個の層のうちのi番目の層に対応するi番目の質量miと、当該i番目の質量miに隣り合う(i+1)番目の質量mi+1との平均値(mi+mi+1)/2を、新たにi番目の質量miとみなし、新たな当該i番目の質量とi番目のバネ定数kiとから、前記i番目の層の音響インピーダンスとして(kimi)0.5を算出し、
更にi番目の層の既知の密度ρiを用いて、当該i番目の層の音速として(kimi)0.5/ρiを算出するとともに当該該i番目の層の厚みとしてmi/ρiを算出する
ことを特徴とする、請求項4に記載の音速分布測定方法。
【請求項6】
前記音速分布算出ステップでは、
前記逆解析ステップにて算出された、前記(N−1)個の層のうちのi番目の層に対応するi番目の質量miと、当該i番目の質量miに隣り合う(i+1)番目の質量mi+1との平均値(mi+mi+1)/2を新たにi番目の質量miとみなし、新たな当該i番目の質量とi番目のバネ定数kiとから、前記i番目の層の音響インピーダンスとして(kimi)0.5を算出し、
更に前記被測定体の全体の既知の密度ρを用いて、当該i番目の層の音速として(kimi)0.5/ρを算出するとともに当該i番目の層の厚みとしてmi/ρを算出する
ことを特徴とする、請求項4に記載の音速分布測定方法。
【請求項7】
被測定体の厚み方向に超音波を放射し、前記被測定体の厚み方向のN次共振周波数までのN個の共振周波数を測定する共振周波数測定手段と通信可能なコンピュータに、
前記共振周波数測定手段により測定されたN個の前記共振周波数を利用して、N個の質量体と、相隣接する前記質量体を連結する(N−1)個のバネと、からなるバネ・マス系モデルを仮定し、前記N個の質量体それぞれの質量と、前記(N−1)個のバネそれぞれのバネ定数と、を算出する逆解析機能と、
前記被測定体の厚み方向における超音波の音速分布が前記被測定体の厚みの中心に対して対称であるとして算出された前記質量及びバネ定数と、被測定体の既知の密度とを用いて、前記被測定体の厚み方向に前記(N−1)個のバネの長さにそれぞれ対応する厚みを有する(N−1)個の層に分割された各層の音響インピーダンス及び厚みを算出する音速分布算出機能と、
を実現させるためのプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−83111(P2012−83111A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226855(P2010−226855)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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