音響シミュレータ、音響コンサルティング装置及びそれらの処理方法
【課題】音響システムのCADデータが無い環境において、マイクロホンやスピーカの配置等を環境に合わせて最適する作業を支援する。
【解決手段】音響システムを構築する空間内で実際に収録された音響データと、当該音響データの収録時に使用した音響機器の実測に基づく位置情報と、システム構築後に想定される音源、マイクロホン及びスピーカの位置情報等に基づいて、当該マイクロホンの設置位置における音響特性を推定し、推定結果をユーザーに提示する。
【解決手段】音響システムを構築する空間内で実際に収録された音響データと、当該音響データの収録時に使用した音響機器の実測に基づく位置情報と、システム構築後に想定される音源、マイクロホン及びスピーカの位置情報等に基づいて、当該マイクロホンの設置位置における音響特性を推定し、推定結果をユーザーに提示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用環境に応じた音響機器の適切な設置を支援するためのシミュレーション技術及び当該シミュレーション結果を使用するコンサルティング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テレビ会議システムの普及が進んでいる。テレビ会議システムを用いれば、遠隔地間においても、音声と映像による双方向のコミュニケーションを実現することができる。
【0003】
当該システムにおいて、音声はマイクロホンを通じて収録された後、遠方側に送信され、スピーカを通じて再生される。ところが、マイクロホンで収録される音声には、様々な雑音が混入する可能性があり、当該雑音の混入がスピーカから再生される音声の品質劣化の要因となっている。
【0004】
一般には、空調機やプロジェクタが発生する風音を含む周囲雑音や音響エコーが問題にされやすい。音響エコーとは、マイクロホンと同じ室内に設置されたスピーカから再生された音がマイクロホンに混入することで発生する。
【0005】
ところが、マイクロホンで収録された音が何ら処理されることなく遠方に送信されることになると(音響エコーも送信されると)、遠方側の話者には、自分の発した声が遅れて戻ってくるように感じられる。この場合、会話の容易さが大きく損なわれてしまう。このため、周囲雑音や音響エコーを除去する機能を備える音響信号処理システムが従来より提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
また、周囲雑音や音響エコーの他、発話者の残響成分も一種の雑音である。このため、これら残響成分の抑圧も求められている。ところが、この残響成分は、発話者の声との相関が高い。このため、残響成分を除去する際に誤って発話者の声まで抑圧してしまう可能性がある。特に、初期反射音の除去は困難である。もっとも、発話者の口元からマイクロホンに直接伝わる音に対し、マイクホンまでの到来が数百ms程度遅れる後部残響成分を除去する技術が近年開発されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0007】
これら課題の解決には、テレビ会議システムを使用する前のチューニングや最適化が必要となる。これらの作業には、実際の現場で収録した音響特性を用いることが多い。例えば、音響環境を一種のシステムとみなし、音響環境に入った入力音(話者の口元やスピーカから出た瞬間の音)と、システムから出る出力音(マイクロホンに入った音)との間の関係をインパルス応答として計測し、チューニング及び最適化に活用することが多い。例えばインパルス応答の測定には、TSP(Time Stretched Pulse)が用いられている。
【0008】
なお、これまで提案されているチューニングや最適化に関する技術は、いずれも主に音響信号処理で使用するパラメータの変更であり、収録したインパルス応答を使って該当環境における発話音声をシミュレートし、評価に用いている。
【0009】
因みに、コンサートホールその他建物の設計時や建築時における音響設計の用途では、対象建物のCADデータから音響環境をシミュレーションし、音の聞こえ方を事前に知ることができるシステムが開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第2846162号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】戸上真人他著、「垂直配置マイクロホンアレーを利用した卓上突発音除去機能を備える遠隔会議システム」、電子情報通信学会論文誌 D,Vol.J93-D No.10 pp. 2069-2084、2010/10.
【非特許文献2】K. Kinoshita, M. Delcroix, T. Nakatani and M. Miyoshi, “Suppression of late reverberation effect on speech signal using long-term multiple-step linear prediction”, IEEE Transactions on Audio, Speech and Language processing, 17(4), pp.534-545, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが、前述した音響信号処理技術は、室内の環境(音響条件)の影響を受け易い。具体的には残響時間、雑音の種類及び発生位置、スピーカとマイクロホンの位置関係、スピーカの再生音量等の影響を受け易い。
【0013】
このため、テレビ会議システム等のチューニング及び最適化には、音響信号処理で使用するパラメータを単にチューニングするだけでなく、マイクロホンとスピーカの位置関係やマイクロホンの数を使用環境に応じて最適化する必要がある。
【0014】
また、既存の音響シミュレータは、事前に現場のCADデータが取得されていることが必要であり、CADデータが存在しない場合には、そもそも音響特性をシミュレーションすることができなかった。
【0015】
これらの技術課題を鋭意検討した本発明者は、CADデータが存在しない又は利用できない環境下でも、マイクロホンとスピーカの位置関係等を使用環境に応じて最適化することができるシミュレーション技術及び当該処理結果を使用する音響コンサルティング技術を発明した。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る音響シミュレータは、音響システムを構築する空間内で実際に収録された音響データと、当該音響データの収録時に使用したマイクロホン及びスピーカの実測に基づく位置情報と、システム構築後に想定される音源、マイクロホン及びスピーカの位置情報等に基づいて、当該マイクロホンの設置位置における音響特性を推定する。
【0017】
また、本発明に係る音響コンサルティング装置は、音響シミュレータにより推定された音響特性が所定の性能を満たすか否かを評価し、評価結果をユーザーに提示する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、音響システムを構築する空間に関するCADデータが存在しない場合や利用できない場合でも、空間に適した音響環境の構築を支援することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】形態例に係るテレビ会議システムの設置環境を説明する図。
【図2】形態例に係る音響コンサルティング装置(音響シミュレータ)のハードウェア構成を示す図。
【図3】形態例に係る音響シミュレータで実行される処理手順を示すフローチャート。
【図4】マイクロホン情報テーブルの例を示す図。
【図5】スピーカ情報テーブルの例を示す図。
【図6】仮想話者位置に関するテーブル例を示す図。
【図7】音響特性計測部の構成例を示す図。
【図8】周囲雑音測定部の構成例を示す図。
【図9】音響シミュレーション部の構成例を示す図。
【図10】インパルス応答の直接音成分と残響成分を説明する図。
【図11】形態例に係る音響コンサルティング装置で実行される処理手順を示すフローチャート。
【図12】所望性能テーブルの例を示す図。
【図13】性能評価部の構成例を示す図。
【図14】マイクロホンの数及び配置とスピーカの配置を自動的に最適化する際に実行される処理手順を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明の実施の態様は、後述する形態例に限定されるものではなく、その技術思想の範囲において、種々の変形が可能である。
【0021】
以下、CADデータが存在しない空間にテレビ会議システムを構築する場合に使用して好適な音響コンサルティング装置の仕組みを説明する。図1に、音響コンサルティング装置を適用するテレビ会議システムの設置環境例を示す。なお、本明細書における「テレビ会議システム」は、ビデオ会議システムやWeb会議システムも含む意味で使用する。
【0022】
(テレビ会議システムの構成要素と配置)
本形態例において、テレビ会議システムは、マイクロホンとスピーカを備える汎用のテレビ会議システムを想定する。もっとも、特定の用途に最適化されたテレビ会議システムであっても構わない。
【0023】
テレビ会議システム設置環境101は、テレビ会議システムを構築する空間(環境)であれば、特に制約はない。ここでは、会議室を想定する。この形態例の場合、会議室に配置された机102の上には会議用マイクロホン104が設置されているものとする。また、会議用スピーカ103は、同じ会議室内に配置されているものとする。会議用スピーカ103と会議用マイクロホン104は、汎用のテレビ会議システムに常に接続されていても良い。
【0024】
図1に係るテレビ会議システムは、発話者が2人の場合を想定する。図1では、想定する発話者の位置を、想定話者位置105−1及び105−2で表している。もっとも、システム的には発話者は1人でも3人以上でも良い。また、会議用スピーカ103や会議用マイクロホン104も、システム的には1台に限らず、複数台であっても良い。
【0025】
図1には、テレビ会議システムを使用する際の音響条件を与える会議用スピーカ103、会議用マイクロホン104及び想定話者位置105−1及び105−2の他、音響特性の実測時に使用する4台の測定用マイクロホンアレイ106と2台の測定用スピーカアレイ107を描いている。
【0026】
この形態例の場合、測定用マイクロホンアレイ106及び測定用スピーカアレイ107は、テレビ会議システム設置環境101の音響特性の測定時に測定ユーザーによって配置される。図1の場合、測定用マイクロホンアレイ106は机102の四隅に配置されている。また、測定用スピーカアレイ107は、想定話者位置105−1及び105−2の背後に配置されている。
【0027】
ここで、測定用スピーカアレイ107は、音響特性を測定する際の参照音の放出に使用される。この形態例の場合、測定用スピーカアレイ107は、複数のスピーカの集合体であるが、1台のスピーカにより構成されていても良い。
【0028】
なお、図1の場合、測定用マイクロホンアレイ106と測定用スピーカアレイ107はいずれも複数ずつ配置されているが、いずれも1台だけ配置しても良い。また、測定用マイクロホン106及び測定用スピーカアレイ107は、音響コンサルティング装置による音響特性の測定及び最適条件の出力の後、会議室から取り外される。もっとも、一部は、会議用スピーカ103や会議用マイクロホン104と兼用しても良い。
【0029】
(音響コンサルティング装置のハードウェア構成)
図2に、形態例に係る音響コンサルティング装置のハードウェア構成を示す。なお、音響シミュレーション装置は、音響コンサルティング装置の機能の一部として実現される。従って、音響コンサルティング装置のハードウェア構成は、音響シミュレーション装置と共通である。以下では、音響コンサルティング装置のハードウェア構成として説明する。
【0030】
形態例に係る音響コンサルティング装置は、測定用マイクロホンアレイ106と測定用スピーカアレイ107を、コンピュータに接続することにより構成される。
【0031】
測定用マイクロホンアレイ106で取り込んだ音響信号は、多チャンネルAD(Analog to Digital)変換装置202により、アナログ信号からデジタル信号に変換される。変換後のデジタル信号は中央演算装置203に与えられる。
【0032】
中央演算装置203は、各種のプログラムを実行する。この形態例の場合、中央演算装置203は、会議室内の任意の位置に会議用マイクロホン104や会議用スピーカ103を配置した場合の音響特性をシミュレーションする処理やその処理結果を評価する処理等を実行する。当該処理機能を実現するプログラムを、本明細書では、「音響信号処理プログラム」ということにする。なお、音響信号処理プログラムは、不揮発性メモリ204に記憶されており、必要に応じて中央演算装置203に読み出される。因みに、当該プログラムを実行するためのワークメモリは、揮発性メモリ205上に確保される。
【0033】
前述したように、形態例に係る音響コンサルティング装置は、テレビ会議システム設置環境101の音響特性を測定用マイクロホンアレイ106及び測定用スピーカアレイ107で実測し、音響シミュレーションのための基礎データとする。ここでの音響特性は、インパルス応答特性や周囲雑音である。
【0034】
音響特性の測定時、中央演算装置203は、多チャンネルDA(Digital to Analog)変換装置206にインパルス応答測定用の参照信号をデジタル信号として送信する。当該参照信号は、多チャンネルDA変換装置206においてアナログ信号に変換され、測定用スピーカアレイ107に出力される。測定用スピーカアレイ107は、入力された参照信号に対応する音をテレビ会議システム設定環境101に放射する。
【0035】
中央演算装置203には、ユーザーのためのインターフェースとして、マウス208及びキーボード209が用意されている。ユーザーは、これらのインターフェースを使用し、中央演算装置203に情報を入力する。また、音響シミュレーションの結果は、ディスプレイ210に表示され、ユーザーはシミュレーション結果や評価結果を目視により確認することができる。
【0036】
(音響シミュレータとしての処理)
まず、本形態例に係る音響コンサルティング装置の基本機能(音響シミュレーション機能)について説明する。ここで、音響シミュレーション機能とは、会議用スピーカ103と会議用マイクロホン104をテレビ会議システム設置環境101内の任意の位置に仮想的に設定した場合に収録される音響特性をシミュレーションする機能である。
【0037】
ただし、本形態例では、テレビ会議システム設置環境101のCADデータが存在しないことを前提とする。このため、音響シミュレータとして動作する音響コンサルティング装置は、テレビ会議システム設置環境101の音響特性を測定用マイクロホンアレイ106と測定用スピーカアレイ107を用いて測定し、当該測定結果を使用して仮想位置における音響特性を演算する。以下では、音響シミュレーション機能の提供主体を音響シミュレータと呼ぶ。
【0038】
図3に、音響シミュレータの処理手順の概略を示す。音響シミュレータは、処理301〜処理303において、テレビ会議システム設置環境101に設置されている会議用マイクロホン104、会議用スピーカ103の位置情報及び想定話者位置105−1、105−2の登録処理を実行する。なお、処理301〜処理303の実行順序は一例であり、どのような順序で実行されても構わない。
【0039】
処理301において、音響シミュレータは、会議用マイクロホン104に関する情報の登録処理を実行する。ここでの情報は、中央演算装置203による処理が可能なように、マウス208、キーボード209その他の入力装置を通じて入力される。CADデータが存在しないため、登録(設定)作業は手作業で行われる。他の音響機器の位置情報の登録についても同様である。
【0040】
なお、会議用マイクロホン104の情報には、テレビ会議システム設置環境101内の設置場所、マイクロホンの指向特性、マイクロホンの向き等が含まれる。
【0041】
図4に、会議用マイクロホン104の情報の登録例を示す。なお、後述するように、図4に示す登録項目は、測定用マイクロホンの情報の場合にも共通である。ただし、会議用の情報と測定用の情報は別テーブルで管理される。
【0042】
図4の各行が、各マイクロホンの情報に対応する。図4の場合、3台のマイクロホンの使用が想定されている。各行には、マイクロホンを一意に特定するマイクロホンIDが付与されている。また、各行には、マイクロホンの三次元的な位置(x,y,z)及び向きが記憶されている。単位に一貫性があれば、任意の単位系を使用できる。座標系は絶対座標とし、テレビ会議システム設置環境101毎に同じ座標系を使用することを想定する。
【0043】
なお、会議用マイクロホン104が未設定の場合、設置予定の座標値を入力しても良い。会議用マイクロホン104の場所を指定する座標値には、例えば実測値を入力する。設置位置に関する情報を参照可能な場合には、その情報を手入力しても良い。この形態例の場合、会議用マイクロホン104は既設であり、測定用マイクロホンアレイ106や測定用スピーカアレイ107の設置位置を実測する際の基準点として使用する。
【0044】
この他、各行には、マイクロホンの指向特性の情報が付与されている。指向特性の情報から、正面に対する方位角毎の音圧レベルが一意に定まる。指向特性は、一般的には、マイクロホンのカタログ等から知ることができる。
【0045】
処理302において、音響シミュレータは、会議用スピーカ103に関する情報の登録処理を実行する。ここでの情報も、中央演算装置203におる処理が可能なように、マウス208、キーボード209その他の入力装置を通じて入力される。
【0046】
会議用スピーカ103の情報には、テレビ会議システム設置環境101内の設置場所、スピーカの放射特性、スピーカの向き等が含まれる。
【0047】
図5に、会議用スピーカ103の情報の登録例を示す。なお、後述するように、図5に示す登録項目は、測定用スピーカアレイの情報の登録にも使用できる。ただし、会議用の情報と測定用の情報とは別テーブルで管理される。
【0048】
図5の各行が、各スピーカの情報に対応する。図5の場合、3台のスピーカの使用が想定されている。各行には、スピーカを一意に特定するスピーカIDが付与されている。また、各行には、スピーカの三次元的な位置(x,y,z)及び向きが記憶される。単位系は任意であるが、マイクロホンと同じ座標系を使用する。
【0049】
なお、会議用スピーカ103が未設の場合には設置予定の座標値を入力しても良い。会議用スピーカ103の場所を指定する座標値には、例えば実測値を入力する。設置位置に関する情報を参照可能な場合には、その情報を手入力しても良い。なお、会議用スピーカ103が既設の場合には、当該設定位置を、測定用マイクロホンアレイ106や測定用スピーカアレイ107の設置位置を実測する際の基準点に使用しても良い。
【0050】
この他、各行には、スピーカの放射特性の情報が付与されている。放射特性の情報から、正面に対する方位角ごとの音圧レベルが一意に定まる。放射特性は、一般的には、スピーカのカタログ等から知ることができる。
【0051】
処理303において、音響シミュレータは、想定話者位置に関する情報の登録処理を実行する。想定話者位置とは、テレビ会議の参加者の着席位置として想定される範囲を指定する情報である。ここでの情報も、中央演算装置203におる処理が可能なように、マウス208、キーボード209その他の入力装置を通じて入力される。
【0052】
図6に、想定話者位置の登録例を示す。図6の各行が、想定話者位置の情報に対応する。想定話者位置が複数であれば、複数の話者位置が設定される。図6は想定話者位置が3つの場合を表している。各行には、想定話者位置を一意に特定する想定話者位置IDが付与されている。また、各行には、想定話者位置の中心位置を与える三次元的な位置(x,y,z)と当該中心位置に対する範囲を与える半径Rが記憶されている。座標系は絶対座標であり、マイクロホンと同じ座標系を使用する。
【0053】
次に、音響シミュレータは、処理304〜処理305において、テレビ会議システム設置環境101の音響特性を測定するための計測機器(音響機器)の位置情報等を設定する。処理304と処理305の実行順序は一例であり、いずれが先に実行されても構わない。
【0054】
処理304において、音響シミュレータは、測定用マイクロホン106に関する情報の登録処理を実行する。ここでの情報は、中央演算装置203による処理が可能なように、マウス208、キーボード209その他の入力装置を通じて入力される。
【0055】
測定用マイクロホン106の情報には、テレビ会議システム設置環境101内の設置場所、マイクロホンの指向特性、マイクロホンの向き等が含まれる。前述の通り、測定用マイクロホン106に関する情報は、会議用マイクロホン104に関する情報とは別のテーブルに記録される。なお、座標系は絶対座標であり、マイクロホンと同じ座標系を使用する。ここで、測定用マイクロホン106の座標値は、テレビ会議システム設置環境101内に設定された基準点(例えば会議用マイクロホン104)に対する相対的な位置情報として入力しても良い。この入力手法を採用する場合、中央演算装置203によって絶対座標に変換する処理が実行される。
【0056】
処理305において、音響シミュレータは、測定用スピーカアレイ107に関する情報の登録処理を実行する。ここでの情報は、中央演算装置203による処理が可能なように、マウス208、キーボード209その他の入力装置を通じて入力される。
【0057】
測定用スピーカアレイ107の情報には、テレビ会議システム設置環境101内の設置場所、スピーカの放射特性、スピーカの向き等が含まれる。前述の通り、測定用スピーカアレイ107に関する情報は、会議用スピーカ103に関する情報とは別のテーブルに記録される。なお、座標系は絶対座標であり、マイクロホンと同じ座標系を使用する。やはり、測定用スピーカアレイ107の座標値は、テレビ会議システム設置環境101内に設定された基準点(例えば会議用マイクロホン104)に対する相対的な位置情報として入力しても良い。この入力手法を採用する場合、中央演算装置203によって絶対座標に変換する処理が実行される。
【0058】
処理306において、音響シミュレータは、テレビ会議システム設置環境101内に設置された測定用マイクロホンアレイ106と測定用スピーカアレイ107を用い、テレビ会議システム設定環境101に固有の音響特性を計測する。処理306において、音響シミュレータは、測定用スピーカアレイ107と測定用マイクロホンアレイ106間の伝達特性(インパルス応答)の測定と周囲雑音の測定を実行する。
【0059】
図7に、処理306に対応する処理機能を実現するプログラムの機能ブロック構成を示す。以下の説明では、当該プログラムを音響特性計測部701と呼ぶ。音響特性計測部701は、インパルス応答測定部702と周囲雑音測定部703で構成される。
【0060】
インパルス応答測定部702は、テレビ会議システム設定環境101におけるインパルス応答を、例えばTSP法(例えば特許文献1参照)を用いて測定する。この他、測定用スピーカアレイ107から白色雑音などの全周波数成分を含んだ音を放射して測定用マイクロホンアレイ106で収録し、マイクロホンで収録された信号と放射音の原信号の相関係数を調べることでインパルス応答を測定しても良い。
【0061】
図7に示すように、インパルス応答の測定時には、測定用マイクロホンアレイ106に接続された多チャンネルAD変換装置202と、測定用スピーカアレイ107に接続された多チャンネルDA変換装置206を使用する。
【0062】
多チャンネルDA変換装置206は、インパルス応答測定に用いる白色信号やTSP信号(音響信号S3)をインパルス応答測定部702から入力し、当該音響信号S3をデジタル信号からアナログ信号に変換する。多チャンネルAD変換装置202は、多チャンネルDA変換装置206と同期制御され、インパルス応答測定中の音声信号をアナログ信号からデジタル信号(音響信号S1、S2)に変換する。変換後のデジタル信号は、インパルス応答測定部702及び周囲雑音測定部703に与える。
【0063】
インパルス応答測定部702は、与えられた信号に相関係数推定処理やTSP(Time Stretched Pulse)逆変換処理を適用し、インパルス応答S4を得る。これらの処理自体は既知であるため、詳細な説明は省略する。
【0064】
一方、周囲雑音測定部703は、与えられた信号からテレビ会議システム設置環境101内の周囲雑音を測定する。周囲雑音の収録は、実際のテレビ会議中の雑音にできる限り近い雑音が生じるように、テレビ会議システム設置環境101の機器を制御する。例えばテレビ会議システム設置環境101に空調機やプロジェクタが配備されている場合、それら機器を動作させた状態で周囲雑音を収録する。勿論、周囲雑音の収録時には、測定用スピーカアレイ107から音は出力されない。同じく、周囲雑音の収録時には、話者音も誤って収録されないように注意する。ただし、周囲雑音として紙が擦れる音や卓上をたたく音等を想定する場合には、これらの音が収録中に生じるように収録環境を工夫しても良い。
【0065】
図8に、周囲雑音測定部703の詳細ブロック構成を示す。周囲雑音測定部703は、測定用マイクロホンアレイ106で集音された音響信号S2を音源毎の信号S11、S12、…、S1Nに分離する音源分離部802と、音源毎の信号から各音源の音量と空間的な場所を推定する音源定位部803−1、803−2、…、803−Nとで構成される。ここで、音源定位部803−1、803−2、…、803−Nは、各音源の音量と音源位置の情報S5(S21、S22、…S2N)を出力する。
【0066】
音源分離部802は、独立成分分析や最小分散ビームフォーマ、非負行列分解その他の一般的な音源分離処理技術を用い、複数チャンネルのマイクロホン入力信号を各音源に対応する信号S11、S12、…、S1Nに分離する。
【0067】
音源定位部803−1、803−2、…、803−Nは、位相差に基づいたSRP-PHAT(Steered Response Power-Phase Transform)方式等を使用して各音源の位置を求める。この他、測定用マイクロホンアレイ106を分散的に配置する場合には、マイクロホン間の振幅比から音源位置を推定する方式を用いても良い。
【0068】
処理307において、音響シミュレータは、音響シミュレーションのための会議用マイクロホン104と会議用スピーカ103に関する仮想情報の登録処理を実行する。この処理で登録された情報に基づいて、音響シミュレータは、音響シミュレーションを実行する。ユーザーは、会議用マイクロホン104と会議用スピーカ103について登録されている情報に対し、仮想値をそれぞれ登録することができる。すなわち、設置位置、向き及び性能等に関する仮想値をそれぞれ登録することができる。例えば、処理301及び302で登録された位置と向きの情報をそのまま使用し、会議用マイクロホン104の指向特性だけを仮想的に変更しても良い。
【0069】
この形態例の場合、ユーザーは、これら情報の登録(設定)を、例えばGUI(Graphical User Interface)を用いて実行する。情報の登録は、数値等の直接入力することにより行っても良いし、予め定義されたリストの中から選択する方式を採用しても良い。
【0070】
処理308において、音響シミュレータは、テレビ会議システム設定環境101について実測された音響特性と、仮想的に設定された会議用マイクロホン104や会議用スピーカ103に関する情報とに基づいて音響シミュレーションを実行し、シミュレーション結果を出力して処理を終了する。
【0071】
図9に、処理308に対応する処理機能を実現するプログラムの機能ブロック構成を示す。以下の説明では、当該プログラムを音響シミュレーション部901と呼ぶ。音響シミュレーション部901は、会議参加者の発話のインパルス応答を推定する機能と、会議用スピーカ104において集音される残留エコー量を推定する機能と、シミュレーション上仮想的に設定されたマイクロホン位置における騒音をシミュレーションする機能を有している。
【0072】
音響シミュレーション部901は、直接音/残響音分割部902、想定話者位置のインパルス応答推定部903、残留エコー推定部904、想定マイク位置の騒音シミュレーション部905で構成される。
【0073】
直接音/残響音分割部902は、インパルス応答測定部702で測定されたインパルス応答S4を直接音成分と残響音成分とに分割する。図10に、インパルス応答S4の一例を示す。図中上段は、測定用スピーカ107と測定用マイクロホン106の距離が1mの場合に取得されるインパルス応答の波形であり、図中下段は、同距離が3mの場合に取得されるインパルス応答の波形である。ここで、横軸は時間であり、縦軸は信号強度である。
【0074】
図に破線で囲んで示すように、インパルス応答の先頭付近に出現する波形が直接音成分に対応し、それ以後に出現する波形が残響成分に対応する。2つの波形を見比べて分かるように、直接音成分は明らかに距離の影響を受けている。直接音成分のピーク値は、1mの方が3mの場合よりも大きいことが分かる。一方、残響成分については音量が大きくは変化しないことが分かる。
【0075】
本例の場合、距離が1mと3mにおける直接音の比率は約9.5dB、残響音の比率は約2dBであった。距離が1mから3mに3倍変化した場合に、約9.5dBだけ音量が小さくなっているので、直接音成分は距離の2乗に反比例して音量が変化していると考えることができる。一方、残響の音量は、距離の変化に対してほぼ無関係に決まると考えられる。
【0076】
まず、直接音/残響音分割部902は、インパルス応答S4の直接音の開始ポイントsmaxを、以下の式を用いて求める。
【0077】
【数1】
【0078】
なお、直接音の終了ポイントは、smax+wで与えられる。ここで、wは窓幅であり、固定値に設定する。
【0079】
次に、直接音/残響音分割部902は、開始ポイントSmaxを用い、インパルス応答の直接音成分hdirectを、以下の関係式を用いて求める。
【0080】
【数2】
【0081】
一方、直接音/残響音分割部902は、残響成分hreverbを、以下の式を用いて求める。
【数3】
【0082】
想定話者位置のインパルス応答推定部903は、インパルス応答の直接音成分hdirectと残響成分hreverbを使用し、想定話者位置からの発話を仮想的に配置された会議用マイクロホンで受音する場合におけるインパルス応答を推定する。なお、インパルス応答推定部903には、想定話者位置の情報と想定する会議マイクロホンの情報が与えられている。図9では、これらの情報をS41で示す。インパルス応答hsynthは次式で与えられる。
【0083】
【数4】
【0084】
ここで、αは直接音成分の減衰率とし、次式で与えられる。
【数5】
【0085】
ここで、rpreは、インパルス応答を測定した際に用いた測定用スピーカアレイ107と測定用マイクロホンアレイ106間の距離とする。rpostは、想定話者位置と会議用マイクロホン104間の距離とする。想定話者位置は、一点ではなく大きさを持っている。このため、設定された想定話者位置の範囲の中で最も大きなrpostを与えるrpostを設定する。
【0086】
βpreはインパルス応答の測定に用いた測定用マイクロホンアレイ106の指向特性に依存して決まる係数とする。この形態例の場合、測定用マイクロホンアレイ106が向いている方向を基準方向とし、当該方向に対する測定用スピーカアレイ107の相対的な方向に対応する測定用マイクロホンアレイ106の指向特性をβpreとする。
【0087】
βpostは、仮想的に配置した会議用マイクロホンの指向特性に依存して決まる係数とする。この形態例の場合、会議用マイクロホンの向いた方向を基準方向とし、当該方向に対する相対話者位置の相対的な方向に対応する測定用マイクロホンアレイ106の指向特性をβpostとする。
【0088】
γpreはインパルス応答の測定に使用した測定用スピーカアレイ107の放射特性に依存して決まる係数とする。この形態例の場合、測定用スピーカアレイ107の向いた方向を基準方向とし、当該方向に対する測定用マイクロホンアレイ106の相対的な方向に対応する測定用スピーカアレイ107の放射特性をγpreとする。
【0089】
γpostは仮想的に配置した想定話者位置の放射特性に依存して決まる係数とする。この形態例の場合、想定話者の向いている方向を基準方向とし、当該方向に対する会議用マイクロホンの相対的な方向に対応する想定話者の放射特性をγpostとする。
【0090】
一般に、想定話者は、会議室内に設置されたディスプレイを目視できる方向に向いていると考えられる。このため、この形態例の場合、想定話者位置を、ディスプレイの対面位置に設定する。また、想定話者の放射特性は、予めダミーヘッド等で測定し、データベースに保持しておくことが望ましい。
【0091】
想定話者位置のインパルス応答推定部903は、想定話者位置毎に生成したインパルス応答hsynthを出力して処理を終了する。測定されたインパルス応答が複数存在する場合、インパルス応答推定部903は、rpreとrpostの差が最小となるようなインパルス応答を選択する。
【0092】
残留エコー推定部904は、仮想的に配置した会議用マイクロホンの位置における残留エコーを推定する。この前処理として、残留エコー推定部904は、仮想的に配置した会議用スピーカから仮想的に配置した会議用マイクロホンまでのインパルス応答を、インパルス応答S4の直接音成分と残響成分に基づいて生成する。この残留エコー推定部904によるインパルス応答の生成は、想定話者位置のインパルス応答推定部903と同様の処理手順により行う。生成したインパルス応答をhechoとする。なお、残留エコー推定部904には、想定話者位置、想定する会議用マイクロホンと会議用スピーカの情報が与えられている。図9では、これらの情報をS42で示す。
【0093】
次に、残留エコー推定部904は、残留エコーのインパルス応答hresidualを次式より算出する。
【0094】
【数6】
【0095】
ここで、λ及びtspecは、使用するエコーキャンセラの仕様に基づいて決まるパラメータである。例えばエコー消去時間T秒、20dBという性能を有するエコーキャンセラの場合、λは0.1、tspecはT秒に相当する。これらの情報を図9ではS43で示す。残留エコー推定部904は、hechoとhresidualを出力して処理を終了する。
【0096】
想定マイク位置の騒音シミュレーション部905は、音源分離により分離された音源の音量と位置の情報S21〜S2Nを利用し、想定マイク位置の騒音レベルPnoiseを推定する。
【0097】
【数7】
【0098】
ここで、Nは音源の数とする。Pobserved(i)は、音源分離により分離されたi番目の音源の音量とする。rpre(i)は、i番目の音源位置と音響特性測定用マイクロホンまでの距離とし、rpost(i)は、i番目の音源位置と仮想的に配置した会議用マイクロホンまでの距離とする。なお、図9では、想定する会議用マイクロホンの情報をS44で示す。騒音シミュレーション部905は、推定した騒音レベルPnoiseを出力して処理を終了する。
【0099】
なお、必要に応じ、音響シミュレータは、シミュレーションの結果として算出されたインパルス応答hsynth、hecho、hresidual及び騒音レベルPnoiseを文字や図形によりディスプレイ210上に表示する。ユーザーは、この画面表示の内容を確認することにより、会議用マイクロホン104や会議用スピーカ103をシミュレーションの対象となった仮想位置で使用した場合にどのような音響特性が得られるかを事前に判断することができる。
【0100】
このように、本形態例に係る音響シミュレータは、設置位置の仮想的な調整によりシミュレーションを実行する点において、音声信号処理のパラメータを調整する従来技術とは明らかに異なっている。
【0101】
(音響コンサルティング装置としての処理1)
続いて、本形態例に係る音響コンサルティング装置としての処理動作を説明する。ここでは、ユーザーにより仮想的に入力された会議用マイクロホンとスピーカの使用条件が所望の性能を満たしているか否かを入力の都度判定し、判定結果をユーザーに通知する場合について説明する。
【0102】
音響コンサルティング装置は、前述した音響シミュレーションの処理結果(すなわち、推定音響信号)を評価し、テレビ会議システム設定環境101に適した会議用マイクロホン104や会議用スピーカ103の最適な配置であるか否かの評価結果を出力する。勿論、形態例に係る音響コンサルティング装置では、テレビ会議システム設定環境101に関するCADデータを使用できないことが前提である。
【0103】
図11に、音響コンサルティング装置の処理手順の概略を示す。なお、図11には、図3との対応部分に同一符号を付して示している。図11と図3の違いは、処理309、処理310及び処理311である。
【0104】
処理309では、音響シミュレーションの結果を評価するための評価性能の設定が実行される。ここでの所望性能の入力も、ユーザーが、マウス208、キーボード209その他の入力装置の操作を通じて入力する。図12に、所望性能の一例を示す。図12においては、会議用マイクロホン104で集音される話者発話の残響比量、環境雑音比量、音響エコーキャンセラ後の残留エコー比量が定義されている。いずれもSNR(Signal To Noise Ratio)の形式で定義されている。
【0105】
なお、図11の場合、処理309は、音響特性の計測処理(処理306)とマイクロホン及びスピーカの仮想情報の設定処理(処理307)の間に配置されているが、シミュレーション結果の判定処理(処理310)を実行する前であれば、どの時点に配置しても良い。
【0106】
また、図11に示す音響コンサルティング装置の場合、処理307で登録される会議用マイクロホン104と会議用スピーカ103の仮想情報は、シミュレーション結果を評価するための初期条件を与えているのに過ぎない。このため、本形態例の場合には、処理301と処理302で登録された情報をそのまま読み出して仮想情報として登録しても良い。
【0107】
処理310において、音響コンサルティング装置は、仮想的な会議用マイクロホンと会議用スピーカについて実行された音響環境のシミュレーション結果が、ユーザーが予め設定した所望の性能を満たしているか否か判定する。
【0108】
ここで、性能を満たすと判定された場合、音響コンサルティング装置は、会議用マイクロホン103と会議用スピーカ104について仮想的に設定されている情報を、所望の性能を満たす条件として出力し、処理を終了する。例えば所望の性能が得られる会議用マイクロホン104と会議用スピーカ103の位置と向き情報を出力する。
【0109】
これに対し、性能を満たさないと判定された場合、音響コンサルティング装置は、処理311に進む。当該処理311において、音響コンサルティング装置は、シミュレーション用に仮想的に登録された会議用マイクロホン104と会議用スピーカ103の情報に対する変更を受付ける処理を実行する。登録情報に対する変更の入力には、処理307で用いたユーザーインターフェースを用いる。なお、登録情報の変更の入力は、ユーザーが個別に手入力する方法と自動設定する方法が考えられる。自動設定については後述する。いずれにしても、設定情報の変更の完了がユーザーから指示入力されると、音響コンサルティング装置は、処理308に戻り、変更後の情報に基づいて音響シミュレーションを実行する。
【0110】
図13に、音響シミュレーション結果が所望の性能を満たしているか否かを判定するために使用するプログラムの機能ブロック構成を示す。以下の説明では、当該プログラムを性能評価部1301と呼ぶ。性能評価部1301は、以下に示す3つの評価部と1つの比較部で構成される。
【0111】
直接音/残響音比率評価部1302は、想定話者位置のインパルス応答hsynthから直接音成分hdirectと残響音成分hreverbの比率を評価する。まず、音響コンサルティング装置は、入力のあったインパルス応答hsynthを式2と式3を用いて直接音成分hdirect(t)と残響音成分hreverb(t)に分離する。これらの成分が得られると、直接音/残響音比率評価部1302は、次式に基いて直接音成分と残響音性分の比率Preverbを算出する。
【0112】
【数8】
【0113】
直接音/残響音比率評価部1302は、算出した比率Preverbのうち最小値を出力する。
話者発話/残留エコー比率評価部1303は、想定話者位置毎に式9に基づいて比率Pechoを推定する。
【0114】
【数9】
【0115】
ここでのρは、式10で求める。
【数10】
【0116】
なお、h1,directは、仮想的に設定された会議用マイクロホンの位置と想定話者位置の距離が1mの場合におけるインパルス応答を表している。また、Aは1mの距離における想定話者音量である。μは、式11により求められる。
【0117】
【数11】
【0118】
ここで、hspは、仮想的に設定された会議用スピーカの位置から想定話者位置までのインパルス応答を表している。Bは、想定話者位置におけるスピーカ出力信号の音圧レベルである。
【0119】
話者発話/残留エコー比率評価部1303は、Pechoの最小値を求めて出力する。
話者発話/騒音比率評価部1304は、想定話者位置毎に式12で定義されるPnを求め、Pnの最小値を求めて出力する。
【0120】
【数12】
【0121】
所望性能比較部1305は、ユーザーにより設定された所望性能S51と、前段の各部で算出されたPreverb、Pecho及びPnとを比較して、各値が所望性能に収まっているか否かを判定する。各値についての比較結果が判定結果S52として出力される。
【0122】
音響コンサルティング装置は、当該判定結果を文字や図形によりディスプレイ210上に表示する。ユーザーは、この画面表示の内容を確認することにより、仮想的に指定した条件を満たす会議用マイクロホン104や会議用スピーカ103の使用が所望の性能を満たすか否かの判定結果を知ることができる。また、所望の性能を満たさない場合には、新たな候補の指定を繰り返すことで、所望の性能が得られる条件を検索することができる。
【0123】
(音響コンサルティング装置としての処理2)
ここでも、本形態例に係る音響コンサルティング装置の処理動作例を説明する。ここでは、音響コンサルティング装置が、会議用マイクロホンとスピーカの仮想条件が所望の性能を満たすように自動的に修正する機能を搭載する場合について説明する。
【0124】
図14に、音響コンサルティング装置の処理手順の概略を示す。なお、図14には、図11との対応部分に同一符号を付して示しており、処理308までの処理内容は図11と同様である。従って、以下では、処理308の音響シミュレーションが実行された後の時点から説明を開始する。
【0125】
処理311において、音響コンサルティング装置は、予めユーザーが設定した所望性能とシミュレーション結果との誤差を確認する。この処理は、図13に示す所望性能比較部1305において実行される。この処理311の後、音響コンサルティング装置は、処理312に進む。
【0126】
処理312において、音響コンサルティング装置は、1つ前のシミュレーション実行回における誤差と今回のシミュレーション実行回における誤差との差分が、所定の閾値以下か否か(すなわち、収束条件を満たすか否か)判定する。この処理312において否定結果が得られた場合、音響コンサルティング装置は、処理313に進む。
【0127】
処理313において、音響コンサルティング装置は、例えば式13に定義する評価関数Cが最小勾配方向に遷移するように、会議用マイクロホンとスピーカの仮想情報を変更する。
【0128】
【数13】
【0129】
ここで、a,b,cはそれぞれ性能評価尺度の重みを表している。
なお、本明細書の場合、マイクロホンの位置とスピーカの位置をそれぞれ微小方向だけずらした場合におけるコスト関数Cの変化値をΔCとする。また、最小勾配方向に動かす場合の微小方向をそれぞれΔM及びΔSとする。
【0130】
ΔMは三次元ベクトルで与えられ、会議用マイクロホンの位置を特定する座標値x,y,zそれぞれの変化量を表している。ΔSは同様に三次元ベクトルで与えられ、会議用スピーカの位置を特定する座標値x,y,zそれぞれの変化量を表している。
【0131】
また、行列[M S]newは、次式に示すように、最小勾配方向に動かした後の仮想的な会議用マイクロホンの配置とスピーカの配置を示し、行列[M S]oldは、最小勾配方向に動かす前の仮想的な会議用マイクロホンの配置及びスピーカの配置を示している。
【0132】
【数14】
【0133】
このように仮想情報を自動的に変更した後、音響コンサルティング装置は、処理308の音響シミュレーションの実行に戻る。
【0134】
なお、処理312において肯定結果が得られた場合(誤差が所定の閾値より小さく、収束条件を満たす場合)、音響コンサルティング装置は、処理310に進む。すなわち、音響コンサルティング装置は、シミュレーション結果が所望の性能を満たすか否かを判定する。この判定処理自体は、図11の場合と同様である。なお、シミュレーション結果が所望の性能を満たしている場合、音響コンサルティング装置は、その時点で処理を終了する。
【0135】
一方、否定結果が得られた場合、音響コンサルティング装置は、処理314において会議用マイクロホンの数を一つ増やし、その後、処理308の音響シミュレーションの実行に戻る。
【0136】
このように、本形態例の場合に、音響コンサルティング装置が、自動的にテレビ会議に最適な会議用マイクロホンの位置と会議用マイクロホンの位置(必要に応じて会議用マイクロホンの数)を設定することができる。勿論、当該判定結果は、文字や図形によりディスプレイ210上に表示される。このため、ユーザーは、テレビ会議システム設置環境101のCADデータを有していない場合でも、会議用マイクロホンとスピーカの最適な数と位置に関する情報を自動的に得ることができる。
【0137】
なお、前述の形態例においては、所望の性能を満たす条件が発見された時点でその情報を出力し、仮想情報の変更処理と変更後の情報に基づくシミュレーションの実行及び評価を停止しているが、ユーザーによって予め設定された可変範囲内で仮想情報の変更と変更後の情報に基づくシミュレーションの実行及び評価を繰り返し、可変可能な範囲のうちで所望の性能を満たす空間配置やその他の条件を画面上に表示しても良い。この場合、所望の性能を満たす範囲内でもユーザーの希望を反映した配置を選択的に導入することができ、使い勝手を向上することができる。
【0138】
(他の形態例)
なお、本発明は上述した形態例に限定されるものでなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した形態例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある形態例の一部を他の形態例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある形態例の構成に他の形態例の構成を加えることも可能である。また、各形態例の構成の一部について、他の構成を追加、削除又は置換することも可能である。
【0139】
また、上述した各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路その他のハードウェアとして実現しても良い。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することにより実現しても良い。すなわち、ソフトウェアとして実現しても良い。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリやハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、ICカード、SDカード、DVD等の記憶媒体に格納することができる。
【0140】
また、制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示すものであり、製品上必要な全ての制御線や情報線を表すものでない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えて良い。
【符号の説明】
【0141】
101…テレビ会議システム設置環境、102…机、103…会議用スピーカ、104…会議用マイクロホン、105−1…想定話者位置、105−2…想定話者位置、106…測定用マイクロホンアレイ、107…測定用スピーカアレイ、202…多チャンネルAD変換装置、203…中央演算装置、204…不揮発性メモリ、205…揮発性メモリ、206…多チャンネルDA変換装置、208…マウス、209…キーボード、210…ディスプレイ、701…音響特性計測部、702…インパルス応答測定部、703…周囲雑音測定部、802…音源分離部、803−1、803−2、803−N…音源定位部、901…音響シミュレーション部、902…直接音/残響音分割部、903…想定話者位置のインパルス応答推定部、904…残留エコー推定部、905…想定マイク位置の騒音シミュレーション部、1301…性能評価部、1302…直接音/残響音比率評価部、1303…話者発話/残留エコー比率評価部、1304…話者発話/騒音比率評価部、1305…所望性能比較部
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用環境に応じた音響機器の適切な設置を支援するためのシミュレーション技術及び当該シミュレーション結果を使用するコンサルティング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テレビ会議システムの普及が進んでいる。テレビ会議システムを用いれば、遠隔地間においても、音声と映像による双方向のコミュニケーションを実現することができる。
【0003】
当該システムにおいて、音声はマイクロホンを通じて収録された後、遠方側に送信され、スピーカを通じて再生される。ところが、マイクロホンで収録される音声には、様々な雑音が混入する可能性があり、当該雑音の混入がスピーカから再生される音声の品質劣化の要因となっている。
【0004】
一般には、空調機やプロジェクタが発生する風音を含む周囲雑音や音響エコーが問題にされやすい。音響エコーとは、マイクロホンと同じ室内に設置されたスピーカから再生された音がマイクロホンに混入することで発生する。
【0005】
ところが、マイクロホンで収録された音が何ら処理されることなく遠方に送信されることになると(音響エコーも送信されると)、遠方側の話者には、自分の発した声が遅れて戻ってくるように感じられる。この場合、会話の容易さが大きく損なわれてしまう。このため、周囲雑音や音響エコーを除去する機能を備える音響信号処理システムが従来より提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
また、周囲雑音や音響エコーの他、発話者の残響成分も一種の雑音である。このため、これら残響成分の抑圧も求められている。ところが、この残響成分は、発話者の声との相関が高い。このため、残響成分を除去する際に誤って発話者の声まで抑圧してしまう可能性がある。特に、初期反射音の除去は困難である。もっとも、発話者の口元からマイクロホンに直接伝わる音に対し、マイクホンまでの到来が数百ms程度遅れる後部残響成分を除去する技術が近年開発されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0007】
これら課題の解決には、テレビ会議システムを使用する前のチューニングや最適化が必要となる。これらの作業には、実際の現場で収録した音響特性を用いることが多い。例えば、音響環境を一種のシステムとみなし、音響環境に入った入力音(話者の口元やスピーカから出た瞬間の音)と、システムから出る出力音(マイクロホンに入った音)との間の関係をインパルス応答として計測し、チューニング及び最適化に活用することが多い。例えばインパルス応答の測定には、TSP(Time Stretched Pulse)が用いられている。
【0008】
なお、これまで提案されているチューニングや最適化に関する技術は、いずれも主に音響信号処理で使用するパラメータの変更であり、収録したインパルス応答を使って該当環境における発話音声をシミュレートし、評価に用いている。
【0009】
因みに、コンサートホールその他建物の設計時や建築時における音響設計の用途では、対象建物のCADデータから音響環境をシミュレーションし、音の聞こえ方を事前に知ることができるシステムが開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第2846162号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】戸上真人他著、「垂直配置マイクロホンアレーを利用した卓上突発音除去機能を備える遠隔会議システム」、電子情報通信学会論文誌 D,Vol.J93-D No.10 pp. 2069-2084、2010/10.
【非特許文献2】K. Kinoshita, M. Delcroix, T. Nakatani and M. Miyoshi, “Suppression of late reverberation effect on speech signal using long-term multiple-step linear prediction”, IEEE Transactions on Audio, Speech and Language processing, 17(4), pp.534-545, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが、前述した音響信号処理技術は、室内の環境(音響条件)の影響を受け易い。具体的には残響時間、雑音の種類及び発生位置、スピーカとマイクロホンの位置関係、スピーカの再生音量等の影響を受け易い。
【0013】
このため、テレビ会議システム等のチューニング及び最適化には、音響信号処理で使用するパラメータを単にチューニングするだけでなく、マイクロホンとスピーカの位置関係やマイクロホンの数を使用環境に応じて最適化する必要がある。
【0014】
また、既存の音響シミュレータは、事前に現場のCADデータが取得されていることが必要であり、CADデータが存在しない場合には、そもそも音響特性をシミュレーションすることができなかった。
【0015】
これらの技術課題を鋭意検討した本発明者は、CADデータが存在しない又は利用できない環境下でも、マイクロホンとスピーカの位置関係等を使用環境に応じて最適化することができるシミュレーション技術及び当該処理結果を使用する音響コンサルティング技術を発明した。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る音響シミュレータは、音響システムを構築する空間内で実際に収録された音響データと、当該音響データの収録時に使用したマイクロホン及びスピーカの実測に基づく位置情報と、システム構築後に想定される音源、マイクロホン及びスピーカの位置情報等に基づいて、当該マイクロホンの設置位置における音響特性を推定する。
【0017】
また、本発明に係る音響コンサルティング装置は、音響シミュレータにより推定された音響特性が所定の性能を満たすか否かを評価し、評価結果をユーザーに提示する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、音響システムを構築する空間に関するCADデータが存在しない場合や利用できない場合でも、空間に適した音響環境の構築を支援することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】形態例に係るテレビ会議システムの設置環境を説明する図。
【図2】形態例に係る音響コンサルティング装置(音響シミュレータ)のハードウェア構成を示す図。
【図3】形態例に係る音響シミュレータで実行される処理手順を示すフローチャート。
【図4】マイクロホン情報テーブルの例を示す図。
【図5】スピーカ情報テーブルの例を示す図。
【図6】仮想話者位置に関するテーブル例を示す図。
【図7】音響特性計測部の構成例を示す図。
【図8】周囲雑音測定部の構成例を示す図。
【図9】音響シミュレーション部の構成例を示す図。
【図10】インパルス応答の直接音成分と残響成分を説明する図。
【図11】形態例に係る音響コンサルティング装置で実行される処理手順を示すフローチャート。
【図12】所望性能テーブルの例を示す図。
【図13】性能評価部の構成例を示す図。
【図14】マイクロホンの数及び配置とスピーカの配置を自動的に最適化する際に実行される処理手順を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明の実施の態様は、後述する形態例に限定されるものではなく、その技術思想の範囲において、種々の変形が可能である。
【0021】
以下、CADデータが存在しない空間にテレビ会議システムを構築する場合に使用して好適な音響コンサルティング装置の仕組みを説明する。図1に、音響コンサルティング装置を適用するテレビ会議システムの設置環境例を示す。なお、本明細書における「テレビ会議システム」は、ビデオ会議システムやWeb会議システムも含む意味で使用する。
【0022】
(テレビ会議システムの構成要素と配置)
本形態例において、テレビ会議システムは、マイクロホンとスピーカを備える汎用のテレビ会議システムを想定する。もっとも、特定の用途に最適化されたテレビ会議システムであっても構わない。
【0023】
テレビ会議システム設置環境101は、テレビ会議システムを構築する空間(環境)であれば、特に制約はない。ここでは、会議室を想定する。この形態例の場合、会議室に配置された机102の上には会議用マイクロホン104が設置されているものとする。また、会議用スピーカ103は、同じ会議室内に配置されているものとする。会議用スピーカ103と会議用マイクロホン104は、汎用のテレビ会議システムに常に接続されていても良い。
【0024】
図1に係るテレビ会議システムは、発話者が2人の場合を想定する。図1では、想定する発話者の位置を、想定話者位置105−1及び105−2で表している。もっとも、システム的には発話者は1人でも3人以上でも良い。また、会議用スピーカ103や会議用マイクロホン104も、システム的には1台に限らず、複数台であっても良い。
【0025】
図1には、テレビ会議システムを使用する際の音響条件を与える会議用スピーカ103、会議用マイクロホン104及び想定話者位置105−1及び105−2の他、音響特性の実測時に使用する4台の測定用マイクロホンアレイ106と2台の測定用スピーカアレイ107を描いている。
【0026】
この形態例の場合、測定用マイクロホンアレイ106及び測定用スピーカアレイ107は、テレビ会議システム設置環境101の音響特性の測定時に測定ユーザーによって配置される。図1の場合、測定用マイクロホンアレイ106は机102の四隅に配置されている。また、測定用スピーカアレイ107は、想定話者位置105−1及び105−2の背後に配置されている。
【0027】
ここで、測定用スピーカアレイ107は、音響特性を測定する際の参照音の放出に使用される。この形態例の場合、測定用スピーカアレイ107は、複数のスピーカの集合体であるが、1台のスピーカにより構成されていても良い。
【0028】
なお、図1の場合、測定用マイクロホンアレイ106と測定用スピーカアレイ107はいずれも複数ずつ配置されているが、いずれも1台だけ配置しても良い。また、測定用マイクロホン106及び測定用スピーカアレイ107は、音響コンサルティング装置による音響特性の測定及び最適条件の出力の後、会議室から取り外される。もっとも、一部は、会議用スピーカ103や会議用マイクロホン104と兼用しても良い。
【0029】
(音響コンサルティング装置のハードウェア構成)
図2に、形態例に係る音響コンサルティング装置のハードウェア構成を示す。なお、音響シミュレーション装置は、音響コンサルティング装置の機能の一部として実現される。従って、音響コンサルティング装置のハードウェア構成は、音響シミュレーション装置と共通である。以下では、音響コンサルティング装置のハードウェア構成として説明する。
【0030】
形態例に係る音響コンサルティング装置は、測定用マイクロホンアレイ106と測定用スピーカアレイ107を、コンピュータに接続することにより構成される。
【0031】
測定用マイクロホンアレイ106で取り込んだ音響信号は、多チャンネルAD(Analog to Digital)変換装置202により、アナログ信号からデジタル信号に変換される。変換後のデジタル信号は中央演算装置203に与えられる。
【0032】
中央演算装置203は、各種のプログラムを実行する。この形態例の場合、中央演算装置203は、会議室内の任意の位置に会議用マイクロホン104や会議用スピーカ103を配置した場合の音響特性をシミュレーションする処理やその処理結果を評価する処理等を実行する。当該処理機能を実現するプログラムを、本明細書では、「音響信号処理プログラム」ということにする。なお、音響信号処理プログラムは、不揮発性メモリ204に記憶されており、必要に応じて中央演算装置203に読み出される。因みに、当該プログラムを実行するためのワークメモリは、揮発性メモリ205上に確保される。
【0033】
前述したように、形態例に係る音響コンサルティング装置は、テレビ会議システム設置環境101の音響特性を測定用マイクロホンアレイ106及び測定用スピーカアレイ107で実測し、音響シミュレーションのための基礎データとする。ここでの音響特性は、インパルス応答特性や周囲雑音である。
【0034】
音響特性の測定時、中央演算装置203は、多チャンネルDA(Digital to Analog)変換装置206にインパルス応答測定用の参照信号をデジタル信号として送信する。当該参照信号は、多チャンネルDA変換装置206においてアナログ信号に変換され、測定用スピーカアレイ107に出力される。測定用スピーカアレイ107は、入力された参照信号に対応する音をテレビ会議システム設定環境101に放射する。
【0035】
中央演算装置203には、ユーザーのためのインターフェースとして、マウス208及びキーボード209が用意されている。ユーザーは、これらのインターフェースを使用し、中央演算装置203に情報を入力する。また、音響シミュレーションの結果は、ディスプレイ210に表示され、ユーザーはシミュレーション結果や評価結果を目視により確認することができる。
【0036】
(音響シミュレータとしての処理)
まず、本形態例に係る音響コンサルティング装置の基本機能(音響シミュレーション機能)について説明する。ここで、音響シミュレーション機能とは、会議用スピーカ103と会議用マイクロホン104をテレビ会議システム設置環境101内の任意の位置に仮想的に設定した場合に収録される音響特性をシミュレーションする機能である。
【0037】
ただし、本形態例では、テレビ会議システム設置環境101のCADデータが存在しないことを前提とする。このため、音響シミュレータとして動作する音響コンサルティング装置は、テレビ会議システム設置環境101の音響特性を測定用マイクロホンアレイ106と測定用スピーカアレイ107を用いて測定し、当該測定結果を使用して仮想位置における音響特性を演算する。以下では、音響シミュレーション機能の提供主体を音響シミュレータと呼ぶ。
【0038】
図3に、音響シミュレータの処理手順の概略を示す。音響シミュレータは、処理301〜処理303において、テレビ会議システム設置環境101に設置されている会議用マイクロホン104、会議用スピーカ103の位置情報及び想定話者位置105−1、105−2の登録処理を実行する。なお、処理301〜処理303の実行順序は一例であり、どのような順序で実行されても構わない。
【0039】
処理301において、音響シミュレータは、会議用マイクロホン104に関する情報の登録処理を実行する。ここでの情報は、中央演算装置203による処理が可能なように、マウス208、キーボード209その他の入力装置を通じて入力される。CADデータが存在しないため、登録(設定)作業は手作業で行われる。他の音響機器の位置情報の登録についても同様である。
【0040】
なお、会議用マイクロホン104の情報には、テレビ会議システム設置環境101内の設置場所、マイクロホンの指向特性、マイクロホンの向き等が含まれる。
【0041】
図4に、会議用マイクロホン104の情報の登録例を示す。なお、後述するように、図4に示す登録項目は、測定用マイクロホンの情報の場合にも共通である。ただし、会議用の情報と測定用の情報は別テーブルで管理される。
【0042】
図4の各行が、各マイクロホンの情報に対応する。図4の場合、3台のマイクロホンの使用が想定されている。各行には、マイクロホンを一意に特定するマイクロホンIDが付与されている。また、各行には、マイクロホンの三次元的な位置(x,y,z)及び向きが記憶されている。単位に一貫性があれば、任意の単位系を使用できる。座標系は絶対座標とし、テレビ会議システム設置環境101毎に同じ座標系を使用することを想定する。
【0043】
なお、会議用マイクロホン104が未設定の場合、設置予定の座標値を入力しても良い。会議用マイクロホン104の場所を指定する座標値には、例えば実測値を入力する。設置位置に関する情報を参照可能な場合には、その情報を手入力しても良い。この形態例の場合、会議用マイクロホン104は既設であり、測定用マイクロホンアレイ106や測定用スピーカアレイ107の設置位置を実測する際の基準点として使用する。
【0044】
この他、各行には、マイクロホンの指向特性の情報が付与されている。指向特性の情報から、正面に対する方位角毎の音圧レベルが一意に定まる。指向特性は、一般的には、マイクロホンのカタログ等から知ることができる。
【0045】
処理302において、音響シミュレータは、会議用スピーカ103に関する情報の登録処理を実行する。ここでの情報も、中央演算装置203におる処理が可能なように、マウス208、キーボード209その他の入力装置を通じて入力される。
【0046】
会議用スピーカ103の情報には、テレビ会議システム設置環境101内の設置場所、スピーカの放射特性、スピーカの向き等が含まれる。
【0047】
図5に、会議用スピーカ103の情報の登録例を示す。なお、後述するように、図5に示す登録項目は、測定用スピーカアレイの情報の登録にも使用できる。ただし、会議用の情報と測定用の情報とは別テーブルで管理される。
【0048】
図5の各行が、各スピーカの情報に対応する。図5の場合、3台のスピーカの使用が想定されている。各行には、スピーカを一意に特定するスピーカIDが付与されている。また、各行には、スピーカの三次元的な位置(x,y,z)及び向きが記憶される。単位系は任意であるが、マイクロホンと同じ座標系を使用する。
【0049】
なお、会議用スピーカ103が未設の場合には設置予定の座標値を入力しても良い。会議用スピーカ103の場所を指定する座標値には、例えば実測値を入力する。設置位置に関する情報を参照可能な場合には、その情報を手入力しても良い。なお、会議用スピーカ103が既設の場合には、当該設定位置を、測定用マイクロホンアレイ106や測定用スピーカアレイ107の設置位置を実測する際の基準点に使用しても良い。
【0050】
この他、各行には、スピーカの放射特性の情報が付与されている。放射特性の情報から、正面に対する方位角ごとの音圧レベルが一意に定まる。放射特性は、一般的には、スピーカのカタログ等から知ることができる。
【0051】
処理303において、音響シミュレータは、想定話者位置に関する情報の登録処理を実行する。想定話者位置とは、テレビ会議の参加者の着席位置として想定される範囲を指定する情報である。ここでの情報も、中央演算装置203におる処理が可能なように、マウス208、キーボード209その他の入力装置を通じて入力される。
【0052】
図6に、想定話者位置の登録例を示す。図6の各行が、想定話者位置の情報に対応する。想定話者位置が複数であれば、複数の話者位置が設定される。図6は想定話者位置が3つの場合を表している。各行には、想定話者位置を一意に特定する想定話者位置IDが付与されている。また、各行には、想定話者位置の中心位置を与える三次元的な位置(x,y,z)と当該中心位置に対する範囲を与える半径Rが記憶されている。座標系は絶対座標であり、マイクロホンと同じ座標系を使用する。
【0053】
次に、音響シミュレータは、処理304〜処理305において、テレビ会議システム設置環境101の音響特性を測定するための計測機器(音響機器)の位置情報等を設定する。処理304と処理305の実行順序は一例であり、いずれが先に実行されても構わない。
【0054】
処理304において、音響シミュレータは、測定用マイクロホン106に関する情報の登録処理を実行する。ここでの情報は、中央演算装置203による処理が可能なように、マウス208、キーボード209その他の入力装置を通じて入力される。
【0055】
測定用マイクロホン106の情報には、テレビ会議システム設置環境101内の設置場所、マイクロホンの指向特性、マイクロホンの向き等が含まれる。前述の通り、測定用マイクロホン106に関する情報は、会議用マイクロホン104に関する情報とは別のテーブルに記録される。なお、座標系は絶対座標であり、マイクロホンと同じ座標系を使用する。ここで、測定用マイクロホン106の座標値は、テレビ会議システム設置環境101内に設定された基準点(例えば会議用マイクロホン104)に対する相対的な位置情報として入力しても良い。この入力手法を採用する場合、中央演算装置203によって絶対座標に変換する処理が実行される。
【0056】
処理305において、音響シミュレータは、測定用スピーカアレイ107に関する情報の登録処理を実行する。ここでの情報は、中央演算装置203による処理が可能なように、マウス208、キーボード209その他の入力装置を通じて入力される。
【0057】
測定用スピーカアレイ107の情報には、テレビ会議システム設置環境101内の設置場所、スピーカの放射特性、スピーカの向き等が含まれる。前述の通り、測定用スピーカアレイ107に関する情報は、会議用スピーカ103に関する情報とは別のテーブルに記録される。なお、座標系は絶対座標であり、マイクロホンと同じ座標系を使用する。やはり、測定用スピーカアレイ107の座標値は、テレビ会議システム設置環境101内に設定された基準点(例えば会議用マイクロホン104)に対する相対的な位置情報として入力しても良い。この入力手法を採用する場合、中央演算装置203によって絶対座標に変換する処理が実行される。
【0058】
処理306において、音響シミュレータは、テレビ会議システム設置環境101内に設置された測定用マイクロホンアレイ106と測定用スピーカアレイ107を用い、テレビ会議システム設定環境101に固有の音響特性を計測する。処理306において、音響シミュレータは、測定用スピーカアレイ107と測定用マイクロホンアレイ106間の伝達特性(インパルス応答)の測定と周囲雑音の測定を実行する。
【0059】
図7に、処理306に対応する処理機能を実現するプログラムの機能ブロック構成を示す。以下の説明では、当該プログラムを音響特性計測部701と呼ぶ。音響特性計測部701は、インパルス応答測定部702と周囲雑音測定部703で構成される。
【0060】
インパルス応答測定部702は、テレビ会議システム設定環境101におけるインパルス応答を、例えばTSP法(例えば特許文献1参照)を用いて測定する。この他、測定用スピーカアレイ107から白色雑音などの全周波数成分を含んだ音を放射して測定用マイクロホンアレイ106で収録し、マイクロホンで収録された信号と放射音の原信号の相関係数を調べることでインパルス応答を測定しても良い。
【0061】
図7に示すように、インパルス応答の測定時には、測定用マイクロホンアレイ106に接続された多チャンネルAD変換装置202と、測定用スピーカアレイ107に接続された多チャンネルDA変換装置206を使用する。
【0062】
多チャンネルDA変換装置206は、インパルス応答測定に用いる白色信号やTSP信号(音響信号S3)をインパルス応答測定部702から入力し、当該音響信号S3をデジタル信号からアナログ信号に変換する。多チャンネルAD変換装置202は、多チャンネルDA変換装置206と同期制御され、インパルス応答測定中の音声信号をアナログ信号からデジタル信号(音響信号S1、S2)に変換する。変換後のデジタル信号は、インパルス応答測定部702及び周囲雑音測定部703に与える。
【0063】
インパルス応答測定部702は、与えられた信号に相関係数推定処理やTSP(Time Stretched Pulse)逆変換処理を適用し、インパルス応答S4を得る。これらの処理自体は既知であるため、詳細な説明は省略する。
【0064】
一方、周囲雑音測定部703は、与えられた信号からテレビ会議システム設置環境101内の周囲雑音を測定する。周囲雑音の収録は、実際のテレビ会議中の雑音にできる限り近い雑音が生じるように、テレビ会議システム設置環境101の機器を制御する。例えばテレビ会議システム設置環境101に空調機やプロジェクタが配備されている場合、それら機器を動作させた状態で周囲雑音を収録する。勿論、周囲雑音の収録時には、測定用スピーカアレイ107から音は出力されない。同じく、周囲雑音の収録時には、話者音も誤って収録されないように注意する。ただし、周囲雑音として紙が擦れる音や卓上をたたく音等を想定する場合には、これらの音が収録中に生じるように収録環境を工夫しても良い。
【0065】
図8に、周囲雑音測定部703の詳細ブロック構成を示す。周囲雑音測定部703は、測定用マイクロホンアレイ106で集音された音響信号S2を音源毎の信号S11、S12、…、S1Nに分離する音源分離部802と、音源毎の信号から各音源の音量と空間的な場所を推定する音源定位部803−1、803−2、…、803−Nとで構成される。ここで、音源定位部803−1、803−2、…、803−Nは、各音源の音量と音源位置の情報S5(S21、S22、…S2N)を出力する。
【0066】
音源分離部802は、独立成分分析や最小分散ビームフォーマ、非負行列分解その他の一般的な音源分離処理技術を用い、複数チャンネルのマイクロホン入力信号を各音源に対応する信号S11、S12、…、S1Nに分離する。
【0067】
音源定位部803−1、803−2、…、803−Nは、位相差に基づいたSRP-PHAT(Steered Response Power-Phase Transform)方式等を使用して各音源の位置を求める。この他、測定用マイクロホンアレイ106を分散的に配置する場合には、マイクロホン間の振幅比から音源位置を推定する方式を用いても良い。
【0068】
処理307において、音響シミュレータは、音響シミュレーションのための会議用マイクロホン104と会議用スピーカ103に関する仮想情報の登録処理を実行する。この処理で登録された情報に基づいて、音響シミュレータは、音響シミュレーションを実行する。ユーザーは、会議用マイクロホン104と会議用スピーカ103について登録されている情報に対し、仮想値をそれぞれ登録することができる。すなわち、設置位置、向き及び性能等に関する仮想値をそれぞれ登録することができる。例えば、処理301及び302で登録された位置と向きの情報をそのまま使用し、会議用マイクロホン104の指向特性だけを仮想的に変更しても良い。
【0069】
この形態例の場合、ユーザーは、これら情報の登録(設定)を、例えばGUI(Graphical User Interface)を用いて実行する。情報の登録は、数値等の直接入力することにより行っても良いし、予め定義されたリストの中から選択する方式を採用しても良い。
【0070】
処理308において、音響シミュレータは、テレビ会議システム設定環境101について実測された音響特性と、仮想的に設定された会議用マイクロホン104や会議用スピーカ103に関する情報とに基づいて音響シミュレーションを実行し、シミュレーション結果を出力して処理を終了する。
【0071】
図9に、処理308に対応する処理機能を実現するプログラムの機能ブロック構成を示す。以下の説明では、当該プログラムを音響シミュレーション部901と呼ぶ。音響シミュレーション部901は、会議参加者の発話のインパルス応答を推定する機能と、会議用スピーカ104において集音される残留エコー量を推定する機能と、シミュレーション上仮想的に設定されたマイクロホン位置における騒音をシミュレーションする機能を有している。
【0072】
音響シミュレーション部901は、直接音/残響音分割部902、想定話者位置のインパルス応答推定部903、残留エコー推定部904、想定マイク位置の騒音シミュレーション部905で構成される。
【0073】
直接音/残響音分割部902は、インパルス応答測定部702で測定されたインパルス応答S4を直接音成分と残響音成分とに分割する。図10に、インパルス応答S4の一例を示す。図中上段は、測定用スピーカ107と測定用マイクロホン106の距離が1mの場合に取得されるインパルス応答の波形であり、図中下段は、同距離が3mの場合に取得されるインパルス応答の波形である。ここで、横軸は時間であり、縦軸は信号強度である。
【0074】
図に破線で囲んで示すように、インパルス応答の先頭付近に出現する波形が直接音成分に対応し、それ以後に出現する波形が残響成分に対応する。2つの波形を見比べて分かるように、直接音成分は明らかに距離の影響を受けている。直接音成分のピーク値は、1mの方が3mの場合よりも大きいことが分かる。一方、残響成分については音量が大きくは変化しないことが分かる。
【0075】
本例の場合、距離が1mと3mにおける直接音の比率は約9.5dB、残響音の比率は約2dBであった。距離が1mから3mに3倍変化した場合に、約9.5dBだけ音量が小さくなっているので、直接音成分は距離の2乗に反比例して音量が変化していると考えることができる。一方、残響の音量は、距離の変化に対してほぼ無関係に決まると考えられる。
【0076】
まず、直接音/残響音分割部902は、インパルス応答S4の直接音の開始ポイントsmaxを、以下の式を用いて求める。
【0077】
【数1】
【0078】
なお、直接音の終了ポイントは、smax+wで与えられる。ここで、wは窓幅であり、固定値に設定する。
【0079】
次に、直接音/残響音分割部902は、開始ポイントSmaxを用い、インパルス応答の直接音成分hdirectを、以下の関係式を用いて求める。
【0080】
【数2】
【0081】
一方、直接音/残響音分割部902は、残響成分hreverbを、以下の式を用いて求める。
【数3】
【0082】
想定話者位置のインパルス応答推定部903は、インパルス応答の直接音成分hdirectと残響成分hreverbを使用し、想定話者位置からの発話を仮想的に配置された会議用マイクロホンで受音する場合におけるインパルス応答を推定する。なお、インパルス応答推定部903には、想定話者位置の情報と想定する会議マイクロホンの情報が与えられている。図9では、これらの情報をS41で示す。インパルス応答hsynthは次式で与えられる。
【0083】
【数4】
【0084】
ここで、αは直接音成分の減衰率とし、次式で与えられる。
【数5】
【0085】
ここで、rpreは、インパルス応答を測定した際に用いた測定用スピーカアレイ107と測定用マイクロホンアレイ106間の距離とする。rpostは、想定話者位置と会議用マイクロホン104間の距離とする。想定話者位置は、一点ではなく大きさを持っている。このため、設定された想定話者位置の範囲の中で最も大きなrpostを与えるrpostを設定する。
【0086】
βpreはインパルス応答の測定に用いた測定用マイクロホンアレイ106の指向特性に依存して決まる係数とする。この形態例の場合、測定用マイクロホンアレイ106が向いている方向を基準方向とし、当該方向に対する測定用スピーカアレイ107の相対的な方向に対応する測定用マイクロホンアレイ106の指向特性をβpreとする。
【0087】
βpostは、仮想的に配置した会議用マイクロホンの指向特性に依存して決まる係数とする。この形態例の場合、会議用マイクロホンの向いた方向を基準方向とし、当該方向に対する相対話者位置の相対的な方向に対応する測定用マイクロホンアレイ106の指向特性をβpostとする。
【0088】
γpreはインパルス応答の測定に使用した測定用スピーカアレイ107の放射特性に依存して決まる係数とする。この形態例の場合、測定用スピーカアレイ107の向いた方向を基準方向とし、当該方向に対する測定用マイクロホンアレイ106の相対的な方向に対応する測定用スピーカアレイ107の放射特性をγpreとする。
【0089】
γpostは仮想的に配置した想定話者位置の放射特性に依存して決まる係数とする。この形態例の場合、想定話者の向いている方向を基準方向とし、当該方向に対する会議用マイクロホンの相対的な方向に対応する想定話者の放射特性をγpostとする。
【0090】
一般に、想定話者は、会議室内に設置されたディスプレイを目視できる方向に向いていると考えられる。このため、この形態例の場合、想定話者位置を、ディスプレイの対面位置に設定する。また、想定話者の放射特性は、予めダミーヘッド等で測定し、データベースに保持しておくことが望ましい。
【0091】
想定話者位置のインパルス応答推定部903は、想定話者位置毎に生成したインパルス応答hsynthを出力して処理を終了する。測定されたインパルス応答が複数存在する場合、インパルス応答推定部903は、rpreとrpostの差が最小となるようなインパルス応答を選択する。
【0092】
残留エコー推定部904は、仮想的に配置した会議用マイクロホンの位置における残留エコーを推定する。この前処理として、残留エコー推定部904は、仮想的に配置した会議用スピーカから仮想的に配置した会議用マイクロホンまでのインパルス応答を、インパルス応答S4の直接音成分と残響成分に基づいて生成する。この残留エコー推定部904によるインパルス応答の生成は、想定話者位置のインパルス応答推定部903と同様の処理手順により行う。生成したインパルス応答をhechoとする。なお、残留エコー推定部904には、想定話者位置、想定する会議用マイクロホンと会議用スピーカの情報が与えられている。図9では、これらの情報をS42で示す。
【0093】
次に、残留エコー推定部904は、残留エコーのインパルス応答hresidualを次式より算出する。
【0094】
【数6】
【0095】
ここで、λ及びtspecは、使用するエコーキャンセラの仕様に基づいて決まるパラメータである。例えばエコー消去時間T秒、20dBという性能を有するエコーキャンセラの場合、λは0.1、tspecはT秒に相当する。これらの情報を図9ではS43で示す。残留エコー推定部904は、hechoとhresidualを出力して処理を終了する。
【0096】
想定マイク位置の騒音シミュレーション部905は、音源分離により分離された音源の音量と位置の情報S21〜S2Nを利用し、想定マイク位置の騒音レベルPnoiseを推定する。
【0097】
【数7】
【0098】
ここで、Nは音源の数とする。Pobserved(i)は、音源分離により分離されたi番目の音源の音量とする。rpre(i)は、i番目の音源位置と音響特性測定用マイクロホンまでの距離とし、rpost(i)は、i番目の音源位置と仮想的に配置した会議用マイクロホンまでの距離とする。なお、図9では、想定する会議用マイクロホンの情報をS44で示す。騒音シミュレーション部905は、推定した騒音レベルPnoiseを出力して処理を終了する。
【0099】
なお、必要に応じ、音響シミュレータは、シミュレーションの結果として算出されたインパルス応答hsynth、hecho、hresidual及び騒音レベルPnoiseを文字や図形によりディスプレイ210上に表示する。ユーザーは、この画面表示の内容を確認することにより、会議用マイクロホン104や会議用スピーカ103をシミュレーションの対象となった仮想位置で使用した場合にどのような音響特性が得られるかを事前に判断することができる。
【0100】
このように、本形態例に係る音響シミュレータは、設置位置の仮想的な調整によりシミュレーションを実行する点において、音声信号処理のパラメータを調整する従来技術とは明らかに異なっている。
【0101】
(音響コンサルティング装置としての処理1)
続いて、本形態例に係る音響コンサルティング装置としての処理動作を説明する。ここでは、ユーザーにより仮想的に入力された会議用マイクロホンとスピーカの使用条件が所望の性能を満たしているか否かを入力の都度判定し、判定結果をユーザーに通知する場合について説明する。
【0102】
音響コンサルティング装置は、前述した音響シミュレーションの処理結果(すなわち、推定音響信号)を評価し、テレビ会議システム設定環境101に適した会議用マイクロホン104や会議用スピーカ103の最適な配置であるか否かの評価結果を出力する。勿論、形態例に係る音響コンサルティング装置では、テレビ会議システム設定環境101に関するCADデータを使用できないことが前提である。
【0103】
図11に、音響コンサルティング装置の処理手順の概略を示す。なお、図11には、図3との対応部分に同一符号を付して示している。図11と図3の違いは、処理309、処理310及び処理311である。
【0104】
処理309では、音響シミュレーションの結果を評価するための評価性能の設定が実行される。ここでの所望性能の入力も、ユーザーが、マウス208、キーボード209その他の入力装置の操作を通じて入力する。図12に、所望性能の一例を示す。図12においては、会議用マイクロホン104で集音される話者発話の残響比量、環境雑音比量、音響エコーキャンセラ後の残留エコー比量が定義されている。いずれもSNR(Signal To Noise Ratio)の形式で定義されている。
【0105】
なお、図11の場合、処理309は、音響特性の計測処理(処理306)とマイクロホン及びスピーカの仮想情報の設定処理(処理307)の間に配置されているが、シミュレーション結果の判定処理(処理310)を実行する前であれば、どの時点に配置しても良い。
【0106】
また、図11に示す音響コンサルティング装置の場合、処理307で登録される会議用マイクロホン104と会議用スピーカ103の仮想情報は、シミュレーション結果を評価するための初期条件を与えているのに過ぎない。このため、本形態例の場合には、処理301と処理302で登録された情報をそのまま読み出して仮想情報として登録しても良い。
【0107】
処理310において、音響コンサルティング装置は、仮想的な会議用マイクロホンと会議用スピーカについて実行された音響環境のシミュレーション結果が、ユーザーが予め設定した所望の性能を満たしているか否か判定する。
【0108】
ここで、性能を満たすと判定された場合、音響コンサルティング装置は、会議用マイクロホン103と会議用スピーカ104について仮想的に設定されている情報を、所望の性能を満たす条件として出力し、処理を終了する。例えば所望の性能が得られる会議用マイクロホン104と会議用スピーカ103の位置と向き情報を出力する。
【0109】
これに対し、性能を満たさないと判定された場合、音響コンサルティング装置は、処理311に進む。当該処理311において、音響コンサルティング装置は、シミュレーション用に仮想的に登録された会議用マイクロホン104と会議用スピーカ103の情報に対する変更を受付ける処理を実行する。登録情報に対する変更の入力には、処理307で用いたユーザーインターフェースを用いる。なお、登録情報の変更の入力は、ユーザーが個別に手入力する方法と自動設定する方法が考えられる。自動設定については後述する。いずれにしても、設定情報の変更の完了がユーザーから指示入力されると、音響コンサルティング装置は、処理308に戻り、変更後の情報に基づいて音響シミュレーションを実行する。
【0110】
図13に、音響シミュレーション結果が所望の性能を満たしているか否かを判定するために使用するプログラムの機能ブロック構成を示す。以下の説明では、当該プログラムを性能評価部1301と呼ぶ。性能評価部1301は、以下に示す3つの評価部と1つの比較部で構成される。
【0111】
直接音/残響音比率評価部1302は、想定話者位置のインパルス応答hsynthから直接音成分hdirectと残響音成分hreverbの比率を評価する。まず、音響コンサルティング装置は、入力のあったインパルス応答hsynthを式2と式3を用いて直接音成分hdirect(t)と残響音成分hreverb(t)に分離する。これらの成分が得られると、直接音/残響音比率評価部1302は、次式に基いて直接音成分と残響音性分の比率Preverbを算出する。
【0112】
【数8】
【0113】
直接音/残響音比率評価部1302は、算出した比率Preverbのうち最小値を出力する。
話者発話/残留エコー比率評価部1303は、想定話者位置毎に式9に基づいて比率Pechoを推定する。
【0114】
【数9】
【0115】
ここでのρは、式10で求める。
【数10】
【0116】
なお、h1,directは、仮想的に設定された会議用マイクロホンの位置と想定話者位置の距離が1mの場合におけるインパルス応答を表している。また、Aは1mの距離における想定話者音量である。μは、式11により求められる。
【0117】
【数11】
【0118】
ここで、hspは、仮想的に設定された会議用スピーカの位置から想定話者位置までのインパルス応答を表している。Bは、想定話者位置におけるスピーカ出力信号の音圧レベルである。
【0119】
話者発話/残留エコー比率評価部1303は、Pechoの最小値を求めて出力する。
話者発話/騒音比率評価部1304は、想定話者位置毎に式12で定義されるPnを求め、Pnの最小値を求めて出力する。
【0120】
【数12】
【0121】
所望性能比較部1305は、ユーザーにより設定された所望性能S51と、前段の各部で算出されたPreverb、Pecho及びPnとを比較して、各値が所望性能に収まっているか否かを判定する。各値についての比較結果が判定結果S52として出力される。
【0122】
音響コンサルティング装置は、当該判定結果を文字や図形によりディスプレイ210上に表示する。ユーザーは、この画面表示の内容を確認することにより、仮想的に指定した条件を満たす会議用マイクロホン104や会議用スピーカ103の使用が所望の性能を満たすか否かの判定結果を知ることができる。また、所望の性能を満たさない場合には、新たな候補の指定を繰り返すことで、所望の性能が得られる条件を検索することができる。
【0123】
(音響コンサルティング装置としての処理2)
ここでも、本形態例に係る音響コンサルティング装置の処理動作例を説明する。ここでは、音響コンサルティング装置が、会議用マイクロホンとスピーカの仮想条件が所望の性能を満たすように自動的に修正する機能を搭載する場合について説明する。
【0124】
図14に、音響コンサルティング装置の処理手順の概略を示す。なお、図14には、図11との対応部分に同一符号を付して示しており、処理308までの処理内容は図11と同様である。従って、以下では、処理308の音響シミュレーションが実行された後の時点から説明を開始する。
【0125】
処理311において、音響コンサルティング装置は、予めユーザーが設定した所望性能とシミュレーション結果との誤差を確認する。この処理は、図13に示す所望性能比較部1305において実行される。この処理311の後、音響コンサルティング装置は、処理312に進む。
【0126】
処理312において、音響コンサルティング装置は、1つ前のシミュレーション実行回における誤差と今回のシミュレーション実行回における誤差との差分が、所定の閾値以下か否か(すなわち、収束条件を満たすか否か)判定する。この処理312において否定結果が得られた場合、音響コンサルティング装置は、処理313に進む。
【0127】
処理313において、音響コンサルティング装置は、例えば式13に定義する評価関数Cが最小勾配方向に遷移するように、会議用マイクロホンとスピーカの仮想情報を変更する。
【0128】
【数13】
【0129】
ここで、a,b,cはそれぞれ性能評価尺度の重みを表している。
なお、本明細書の場合、マイクロホンの位置とスピーカの位置をそれぞれ微小方向だけずらした場合におけるコスト関数Cの変化値をΔCとする。また、最小勾配方向に動かす場合の微小方向をそれぞれΔM及びΔSとする。
【0130】
ΔMは三次元ベクトルで与えられ、会議用マイクロホンの位置を特定する座標値x,y,zそれぞれの変化量を表している。ΔSは同様に三次元ベクトルで与えられ、会議用スピーカの位置を特定する座標値x,y,zそれぞれの変化量を表している。
【0131】
また、行列[M S]newは、次式に示すように、最小勾配方向に動かした後の仮想的な会議用マイクロホンの配置とスピーカの配置を示し、行列[M S]oldは、最小勾配方向に動かす前の仮想的な会議用マイクロホンの配置及びスピーカの配置を示している。
【0132】
【数14】
【0133】
このように仮想情報を自動的に変更した後、音響コンサルティング装置は、処理308の音響シミュレーションの実行に戻る。
【0134】
なお、処理312において肯定結果が得られた場合(誤差が所定の閾値より小さく、収束条件を満たす場合)、音響コンサルティング装置は、処理310に進む。すなわち、音響コンサルティング装置は、シミュレーション結果が所望の性能を満たすか否かを判定する。この判定処理自体は、図11の場合と同様である。なお、シミュレーション結果が所望の性能を満たしている場合、音響コンサルティング装置は、その時点で処理を終了する。
【0135】
一方、否定結果が得られた場合、音響コンサルティング装置は、処理314において会議用マイクロホンの数を一つ増やし、その後、処理308の音響シミュレーションの実行に戻る。
【0136】
このように、本形態例の場合に、音響コンサルティング装置が、自動的にテレビ会議に最適な会議用マイクロホンの位置と会議用マイクロホンの位置(必要に応じて会議用マイクロホンの数)を設定することができる。勿論、当該判定結果は、文字や図形によりディスプレイ210上に表示される。このため、ユーザーは、テレビ会議システム設置環境101のCADデータを有していない場合でも、会議用マイクロホンとスピーカの最適な数と位置に関する情報を自動的に得ることができる。
【0137】
なお、前述の形態例においては、所望の性能を満たす条件が発見された時点でその情報を出力し、仮想情報の変更処理と変更後の情報に基づくシミュレーションの実行及び評価を停止しているが、ユーザーによって予め設定された可変範囲内で仮想情報の変更と変更後の情報に基づくシミュレーションの実行及び評価を繰り返し、可変可能な範囲のうちで所望の性能を満たす空間配置やその他の条件を画面上に表示しても良い。この場合、所望の性能を満たす範囲内でもユーザーの希望を反映した配置を選択的に導入することができ、使い勝手を向上することができる。
【0138】
(他の形態例)
なお、本発明は上述した形態例に限定されるものでなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した形態例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある形態例の一部を他の形態例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある形態例の構成に他の形態例の構成を加えることも可能である。また、各形態例の構成の一部について、他の構成を追加、削除又は置換することも可能である。
【0139】
また、上述した各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路その他のハードウェアとして実現しても良い。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することにより実現しても良い。すなわち、ソフトウェアとして実現しても良い。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリやハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、ICカード、SDカード、DVD等の記憶媒体に格納することができる。
【0140】
また、制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示すものであり、製品上必要な全ての制御線や情報線を表すものでない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えて良い。
【符号の説明】
【0141】
101…テレビ会議システム設置環境、102…机、103…会議用スピーカ、104…会議用マイクロホン、105−1…想定話者位置、105−2…想定話者位置、106…測定用マイクロホンアレイ、107…測定用スピーカアレイ、202…多チャンネルAD変換装置、203…中央演算装置、204…不揮発性メモリ、205…揮発性メモリ、206…多チャンネルDA変換装置、208…マウス、209…キーボード、210…ディスプレイ、701…音響特性計測部、702…インパルス応答測定部、703…周囲雑音測定部、802…音源分離部、803−1、803−2、803−N…音源定位部、901…音響シミュレーション部、902…直接音/残響音分割部、903…想定話者位置のインパルス応答推定部、904…残留エコー推定部、905…想定マイク位置の騒音シミュレーション部、1301…性能評価部、1302…直接音/残響音比率評価部、1303…話者発話/残留エコー比率評価部、1304…話者発話/騒音比率評価部、1305…所望性能比較部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響システムを構築する空間内で実際に収録された音響データを格納する第1の記憶装置と、
前記音響データの収録時に使用した第1のマイクロホン及び第1のスピーカの性能及び前記音響システム内の実測位置に関する第1の情報を格納する第2の記憶装置と、
音響システム構築時に想定される音源の位置に関する第2の情報を格納する第3の記憶装置と、
音響システム構築時に使用する第2のマイクロホン及び第2のスピーカの位置及び性能に関する第3の情報の設定を受付ける第1の設定受付部と、
前記第3の情報を格納する第4の記憶装置と、
前記音響データと前記第1、第2及び第3の情報に基づいて、前記第2のマイクロホンを前記音響システムで使用する際の音響特性を推定するシミュレーション部と
を有する音響シミュレータ。
【請求項2】
請求項1に記載の音響シミュレータにおいて、
前記第1のマイクロホン及び前記第1のスピーカによる前記音響データの測定を実行する音響特性計測部と、
前記第1及び第2の情報の設定を受け付ける第2の設定受付部と、
前記第3の情報の設定の変更を受け付ける変更受付部と
を有することを特徴とする音響シミュレータ。
【請求項3】
請求項2に記載の音響シミュレータにおいて、
前記第1の設定受付部は、第2のマイクロホンの数に対する仮想的な変更を受け付ける
ことを特徴とする音響シミュレータ。
【請求項4】
請求項2に記載の音響シミュレータにおいて、
前記第1の設定受付部は、第2のマイクロホンの位置に対する仮想的な変更を受け付ける
ことを特徴とする音響シミュレータ。
【請求項5】
請求項1に記載の音響シミュレータにおいて、
前記音響システムは、テレビ会議システムである
ことを特徴とする音響シミュレータ。
【請求項6】
音響システムを構築する空間内で実際に収録された音響データを格納する第1の記憶装置と、
前記音響データの収録時に使用した第1のマイクロホン及び第1のスピーカの性能及び前記音響システム内の実測位置に関する第1の情報を格納する第2の記憶装置と、
音響システム構築時に想定される音源の位置に関する第2の情報を格納する第3の記憶装置と、
音響システム構築時に使用する第2のマイクロホン及び第2のスピーカの位置及び性能に関する第3の情報を格納する第4の記憶装置と、
前記音響データと前記第1、第2及び第3の情報に基づいて、前記第2のマイクロホンを前記音響システムで使用する際の音響特性を推定するシミュレーション部と、
推定された前記音響特性が所望の性能を満たすか否か判定する判定部と、
前記判定部の判定結果をユーザーインターフェースに出力する提示部と
を有する音響コンサルティング装置。
【請求項7】
請求項6に記載の音響コンサルティング装置において、
前記判定部において、推定された前記音響特性が所望の性能を満たしていないと判定された場合に、前記第3の情報の少なくとも一部を自動的に変更する設定変更部を有し、
前記シミュレーション部は、変更後の前記第3の情報と使用して、前記第2のマイクロホンを前記音響システムで使用する際の音響特性を新たに推定する
ことを特徴とする音響コンサルティング装置。
【請求項8】
請求項7に記載の音響コンサルティング装置において、
前記設定変更部は、第2のマイクロホンの数を変更する
ことを特徴とする音響コンサルティング装置。
【請求項9】
請求項7に記載の音響コンサルティング装置において、
前記設定変更部は、第2のマイクロホンの位置を変更する
ことを特徴とする音響コンサルティング装置。
【請求項10】
音響システムを構築する空間内で実際に収録された音響データを記憶装置に格納する処理と、
前記音響データの収録時に使用した第1のマイクロホン及び第1のスピーカの性能及び前記音響システム内の実測位置に関する第1の情報の設定を、入力装置を通じて受け付ける処理と、
音響システム構築時に想定される音源の位置に関する第2の情報の設定を、前記入力装置を通じて受け付ける処理と、
音響システム構築時に使用する第2のマイクロホン及び第2のスピーカの位置及び性能に関する第3の情報の設定を、前記入力装置を通じて受け付ける処理と、
前記音響データと前記第1、第2及び第3の情報に基づいて、前記第2のマイクロホンを前記音響システムで使用する際の音響特性を推定する処理と
を有する音響シミュレーション方法。
【請求項11】
音響システムを構築する空間内で実際に収録された音響データを記憶装置に格納する処理と、
前記音響データの収録時に使用した第1のマイクロホン及び第1のスピーカの性能及び前記音響システム内の実測位置に関する第1の情報の設定を、入力装置を通じて受け付ける処理と、
音響システム構築時に想定される音源の位置に関する第2の情報の設定を、前記入力装置を通じて受け付ける処理と、
音響システム構築時に使用する第2のマイクロホン及び第2のスピーカの位置及び性能に関する第3の情報と、前記音響データと、前記第1及び第2の情報とに基づいて、前記第2のマイクロホンを前記音響システムで使用する際の音響特性を推定する処理と、
推定された前記音響特性が所望の性能を満たすか否か判定する処理と、
前記判定部の判定結果をユーザーインターフェースに出力する処理と
を有する音響コンサルティング方法。
【請求項1】
音響システムを構築する空間内で実際に収録された音響データを格納する第1の記憶装置と、
前記音響データの収録時に使用した第1のマイクロホン及び第1のスピーカの性能及び前記音響システム内の実測位置に関する第1の情報を格納する第2の記憶装置と、
音響システム構築時に想定される音源の位置に関する第2の情報を格納する第3の記憶装置と、
音響システム構築時に使用する第2のマイクロホン及び第2のスピーカの位置及び性能に関する第3の情報の設定を受付ける第1の設定受付部と、
前記第3の情報を格納する第4の記憶装置と、
前記音響データと前記第1、第2及び第3の情報に基づいて、前記第2のマイクロホンを前記音響システムで使用する際の音響特性を推定するシミュレーション部と
を有する音響シミュレータ。
【請求項2】
請求項1に記載の音響シミュレータにおいて、
前記第1のマイクロホン及び前記第1のスピーカによる前記音響データの測定を実行する音響特性計測部と、
前記第1及び第2の情報の設定を受け付ける第2の設定受付部と、
前記第3の情報の設定の変更を受け付ける変更受付部と
を有することを特徴とする音響シミュレータ。
【請求項3】
請求項2に記載の音響シミュレータにおいて、
前記第1の設定受付部は、第2のマイクロホンの数に対する仮想的な変更を受け付ける
ことを特徴とする音響シミュレータ。
【請求項4】
請求項2に記載の音響シミュレータにおいて、
前記第1の設定受付部は、第2のマイクロホンの位置に対する仮想的な変更を受け付ける
ことを特徴とする音響シミュレータ。
【請求項5】
請求項1に記載の音響シミュレータにおいて、
前記音響システムは、テレビ会議システムである
ことを特徴とする音響シミュレータ。
【請求項6】
音響システムを構築する空間内で実際に収録された音響データを格納する第1の記憶装置と、
前記音響データの収録時に使用した第1のマイクロホン及び第1のスピーカの性能及び前記音響システム内の実測位置に関する第1の情報を格納する第2の記憶装置と、
音響システム構築時に想定される音源の位置に関する第2の情報を格納する第3の記憶装置と、
音響システム構築時に使用する第2のマイクロホン及び第2のスピーカの位置及び性能に関する第3の情報を格納する第4の記憶装置と、
前記音響データと前記第1、第2及び第3の情報に基づいて、前記第2のマイクロホンを前記音響システムで使用する際の音響特性を推定するシミュレーション部と、
推定された前記音響特性が所望の性能を満たすか否か判定する判定部と、
前記判定部の判定結果をユーザーインターフェースに出力する提示部と
を有する音響コンサルティング装置。
【請求項7】
請求項6に記載の音響コンサルティング装置において、
前記判定部において、推定された前記音響特性が所望の性能を満たしていないと判定された場合に、前記第3の情報の少なくとも一部を自動的に変更する設定変更部を有し、
前記シミュレーション部は、変更後の前記第3の情報と使用して、前記第2のマイクロホンを前記音響システムで使用する際の音響特性を新たに推定する
ことを特徴とする音響コンサルティング装置。
【請求項8】
請求項7に記載の音響コンサルティング装置において、
前記設定変更部は、第2のマイクロホンの数を変更する
ことを特徴とする音響コンサルティング装置。
【請求項9】
請求項7に記載の音響コンサルティング装置において、
前記設定変更部は、第2のマイクロホンの位置を変更する
ことを特徴とする音響コンサルティング装置。
【請求項10】
音響システムを構築する空間内で実際に収録された音響データを記憶装置に格納する処理と、
前記音響データの収録時に使用した第1のマイクロホン及び第1のスピーカの性能及び前記音響システム内の実測位置に関する第1の情報の設定を、入力装置を通じて受け付ける処理と、
音響システム構築時に想定される音源の位置に関する第2の情報の設定を、前記入力装置を通じて受け付ける処理と、
音響システム構築時に使用する第2のマイクロホン及び第2のスピーカの位置及び性能に関する第3の情報の設定を、前記入力装置を通じて受け付ける処理と、
前記音響データと前記第1、第2及び第3の情報に基づいて、前記第2のマイクロホンを前記音響システムで使用する際の音響特性を推定する処理と
を有する音響シミュレーション方法。
【請求項11】
音響システムを構築する空間内で実際に収録された音響データを記憶装置に格納する処理と、
前記音響データの収録時に使用した第1のマイクロホン及び第1のスピーカの性能及び前記音響システム内の実測位置に関する第1の情報の設定を、入力装置を通じて受け付ける処理と、
音響システム構築時に想定される音源の位置に関する第2の情報の設定を、前記入力装置を通じて受け付ける処理と、
音響システム構築時に使用する第2のマイクロホン及び第2のスピーカの位置及び性能に関する第3の情報と、前記音響データと、前記第1及び第2の情報とに基づいて、前記第2のマイクロホンを前記音響システムで使用する際の音響特性を推定する処理と、
推定された前記音響特性が所望の性能を満たすか否か判定する処理と、
前記判定部の判定結果をユーザーインターフェースに出力する処理と
を有する音響コンサルティング方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−242597(P2012−242597A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112427(P2011−112427)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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