説明

音響センサ

【課題】音響検知素子をベース基板に固定させるための接着剤がバックチャンバを通って這い上がる現象を防止する。また、音響検知素子の下面からのバックチャンバのリークを防止する。さらに、音響検知素子の変形を小さくして、音響センサの感度を向上させる。
【解決手段】音響検知素子32は、その下面を熱硬化性の接着剤56によってベース基板34の上面に接着されている。音響検知素子32は、素子基板41の上面に振動電極板43と振動電極板43に対向する固定電極板44を作製されたものである。素子基板41にはバックチャンバ45が形成されている。バックチャンバ45は素子基板41の上面で開口し、バックチャンバ45の下面は素子基板41によって袋状に塞がれている。振動電極板43は、バックチャンバ45の上面開口に位置しており、固定電極板44には音響振動を通過させるための音響孔55が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS技術を利用して作製された音響検知素子(MEMSマイクチップ)と、当該音響検知素子を備えた音響センサに関する。
【背景技術】
【0002】
図1(a)は従来の音響センサの構造を示す概略断面図、図1(b)はカバーを除いた状態における音響センサの概略平面図、図1(c)はカバーを取り付けた状態における音響センサの平面図である。である。この音響センサ11にあっては、ベース基板12とカバー13からなるケーシング内に音響検知素子14と処理回路部15(ICチップ)が納められ、ベース基板12の上面に音響検知素子14の下面が熱硬化型の接着剤24で接着され、また処理回路部15が接着剤によって固定されている。音響検知素子14は、上下に貫通したバックチャンバ17を形成されたシリコン基板16を有し、バックチャンバ17の上面開口と対向させてシリコン基板16の上面には薄膜の振動電極板18が配設され、振動電極板18と対向するように配設された固定電極板19によって振動電極板18を覆っている。振動電極板18は、四隅を脚部20によって支持されており、四隅以外の部分をシリコン基板16の上面で宙空支持されている。また、カバー13には、ケーシング内に音響振動を導くための開口21があいており、固定電極板19には振動電極板18に音響振動を導くための音響孔22(アコースティックホール)が複数開口されている。そして、音響振動に共振して振動電極板18が振動することによって生じる振動電極板18と固定電極板19との間の静電容量の変化に基づいて、音響振動を電気信号に変換して出力するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−510427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
(接着剤の這い上がり)
しかしながら、上記のような音響センサ11では、上下に貫通したバックチャンバ17を有するシリコン基板16の下面を熱硬化型の接着剤24によってベース基板12の上面に接着していたので、塗布直後の流動状態にある接着剤24が表面張力によってバックチャンバ17の壁面に沿って這い上がり、シリコン基板16の上面に達しやすかった。特に、角柱状や角錐状のバックチャンバ17の場合には、谷線(すなわち、バックチャンバ17の側壁面と側壁面との間の角部分)に沿って接着剤24がシリコン基板16の上面まで這い上がりやすかった。こうして接着剤24がシリコン基板16の上面に這い上がると、シリコン基板16の上面と振動電極板18の縁部下面との間の隙間(ベントホール23)に接着剤24が入り込み、振動電極板18の本来シリコン基板16から浮いていなければならない部分がシリコン基板16に固着(スティック)して振動電極板18の振動を抑制するようになる。そのため、接着剤24の這い上がりによって振動電極板18とシリコン基板16が固着すると、固定電極板19と振動電極板18との間の距離が広がってしまい、静電容量値が低下してしまう。これにより、音響センサ11の感度が低下したり、特性が変化したりする原因となっていた。また、接着剤24の這い上がりを防止しようとすれば、接着剤24の選択の幅が狭くなるとともにコストが高くつく問題があった。
【0005】
(熱や外力によるシリコン基板の変形)
上記のような構造の音響センサ11では、ベース基板12の材質としてはシリコン基板16と線膨張係数がほぼ等しくて硬質の材料、たとえばセラミックが好ましい。しかし、セラミック基板は高価で音響センサ11のコストが高くつくため、一般的には樹脂基板や樹脂多層基板などの有機基板が用いられている。
【0006】
このような有機基板は音響検知素子14のシリコン基板16と線膨張係数がかなり異なるので、処理回路部15の発熱や外部からの熱によってシリコン基板16とベース基板12との間に熱応力が発生し、シリコン基板16とベース基板12に反りが発生するおそれがある。そのため、シリコン基板16の下面をベース基板12に接着するための接着剤24として軟質(低ヤング率)の接着剤を用い、ベース基板12とシリコン基板16の間に生じる内部応力を軟質の接着剤24で緩和させるようにしている。
【0007】
このようにシリコン基板16とベース基板12との接着部分は、柔軟な構造となっており、またシリコン基板16も上下にバックチャンバ17が貫通していて比較的剛性が低い。そのため、熱応力が発生したり、外力が加わったりすると、シリコン基板16が変形しやすい。
【0008】
こうしてシリコン基板16が変形すると、振動電極板18と固定電極板19の距離が小さくなって感度が低下したり、特性が変化することがあり、音響センサ11が使用不能になる恐れがある。そのため振動電極板18と固定電極板19のギャップ距離をあまり小さくできず、音響センサ11の感度向上のための制約となる。
【0009】
(振動電極板の脆弱性)
また、シリコン基板16が変形すると、振動電極板18に不均一な応力が発生して振動電極板18の強度が低下する。しかも、音響センサにより微弱な音響振動を検知するためには、振動電極板18の厚みは非常に薄くしなければならないので、振動電極板は非常に脆弱であり、音響センサの落下などによって振動電極板18が破損しやすい。そのため、強度を考慮すれば、振動電極板18の厚みをこれまでよりも薄くすることが難しかった。
【0010】
(接着不良によるバックチャンバのリーク)
シリコン基板16やベース基板12が変形すると、接着剤24が剥がれて接着不良を起こすおそれがある。また、シリコン基板16の下面を接着剤24によって接着する際、接着不良によってシリコン基板16の下面とベース基板12の間に隙間が生じる場合がある。そして、このような接着不良が生じると、その隙間から音響振動が入って振動電極板18の表裏における音圧差を小さくし、音響センサ11の感度を低下させていた。
【0011】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、音響検知素子をベース基板に固定させるための接着剤がバックチャンバを通って這い上がる現象を防止することにある。また、本発明の別な目的は、音響検知素子の下面からのバックチャンバのリークを防止することにある。さらに、本発明のさらに別な目的は、音響検知素子の変形を小さくして、音響センサの感度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的を達成するために、本発明に係る音響検知素子は、バックチャンバを備えた基板と、前記バックチャンバの上面開口に対向させて前記基板の表面に設けた振動電極板と、前記振動電極板に対向し、かつ、音響孔を開口された固定電極板とを備え、前記振動電極板の変位による前記振動電極板と前記固定電極板の間の静電容量の変化に基づいて電気信号を出力する音響検知素子において、前記バックチャンバの下面を前記基板によって袋状に塞いでいることを特徴としている。
【0013】
本発明の音響検知素子にあっては、バックチャンバの下面が素子基板によって塞がれているので、音響検知素子の下面を接着剤によってベース基板などに接着する場合でも、その接着剤がバックチャンバ内の壁面を這い上がることがない。そのため、接着剤により振動電極板が素子基板に固着(スティック)するのを防止できて、振動電極板の振動特性を安定させることができ、音響センサの感度低下を防ぐとともに信頼性を向上させることができる。
【0014】
また、音響検知素子をベース基板などに接着する際に音響検知素子の接着不良があっても、バックチャンバの下面から音響振動が入り込むことがなく、バックチャンバのリークによって音響センサの感度低下が起きることがない。よって、センサ製造工程における歩留まりが向上する。
【0015】
また、素子基板の剛性が向上するので、音響検知素子の耐衝撃性が向上する。特に、落下衝撃によって振動電極板が破損しにくくなるので、振動電極板を薄くでき、音響検知素子の感度が向上する。
【0016】
さらに、素子基板の剛性が向上するので、熱応力や外力によって音響検知素子が変形しにくくなるので、感度の低下や特性の変化を防ぐことができる。よって、振動電極板と固定電極板の間のギャップを狭くすることができ、音響検知素子の感度を向上させることができる。
【0017】
本発明に係る音響検知素子のある実施態様は、表裏に貫通した貫通孔を有する主基板の裏面に副基板を接合することによって前記基板を形成し、前記貫通孔の下面を前記副基板で塞ぐことにより前記貫通孔を含む空間によって前記バックチャンバを形成したことを特徴としている。かかる実施態様によれば、貫通孔を形成した主基板を副基板の裏面に接合するだけで下面側が塞がったバックチャンバを作ることができ、製造工程が容易になる。
【0018】
前記主基板と前記副基板を有する前記実施態様においては、前記副基板に前記貫通孔と連通させて凹部を形成し、前記貫通孔と前記凹部によって前記バックチャンバを形成してもよい。かかる態様によれば、バックチャンバが貫通孔だけで構成されている場合よりもバックチャンバの容積を大きくでき、音響検知素子の感度を向上させることができる。
【0019】
また、前記主基板と前記副基板を有する前記実施態様においては、前記主基板と前記副基板が接着剤を用いない方法で接合されていることが望ましい。両基板を接着剤を用いないで接合しているので、接着剤が主基板の貫通孔を這い上がって振動電極板に付着することがなく、音響検知素子の信頼性が高まるとともに製造時の歩留まりが向上する。
【0020】
また、前記主基板と前記副基板を有する前記実施態様においては、前記主基板と前記副基板が互いに線膨張係数がほぼ等しい材質によって形成されていることが望ましい。かかる態様によれば、温度変化によって主基板と副基板の間に反りが発生しにくくなり、振動電極板と固定電極板とのギャップが変化しにくくて音響検知素子の温度特性が安定する。また、反りによって振動電極板が固定電極板に固着(スティック)しにくくなる。
【0021】
本発明に係る音響センサは、本発明に係る音響検知素子の下面を、接着剤によってベース基板の上面に固着させ、前記音響検知素子を覆うようして前記ベースの上面にカバーを取り付けたことを特徴としている。
【0022】
なお、本発明における前記課題を解決するための手段は、以上説明した構成要素を適宜組み合せた特徴を有するものであり、本発明はかかる構成要素の組合せによる多くのバリエーションを可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1(a)は従来の音響センサの構造を示す断面図、図1(b)は当該音響センサの、カバーを取り除いた状態の平面図、図1(c)は当該音響センサのカバーを取り付けた状態の平面図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態1に係る音響センサの概略断面図である。
【図3】図3は、実施形態1の音響センサに用いられている音響検知素子の分解斜視図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態2に係る音響センサの概略断面図である。
【図5】図5は、実施形態2の音響センサに用いられてる音響検知素子の素子基板を示す分解斜視図である。
【図6】図6(a)〜(f)は、実施形態2に係る音響検知素子の製造工程を示す概略図である。
【図7】図7(a)〜(c)は、実施形態2に係る音響検知素子の異なる製造工程の一部を示す概略図である。
【図8】図8は、実施形態2の変形例による音響センサの概略断面図である。
【図9】図9は、本発明の実施形態3に係る音響センサの概略断面図である。
【図10】図10は、実施形態3の音響センサに用いられている音響検知素子の素子基板を示す分解斜視図である。
【図11】図11は、実施形態3における音響検知素子の素子基板の別な形状を示す分解斜視図である。
【図12】図12(a)は実施形態3の変形例による音響検知素子の概略断面図、図12(b)はその副基板を示す斜視図である。
【図13】図13(a)は実施形態3の別な変形例による音響検知素子の概略断面図、図13(b)はその副基板を示す斜視図である。
【図14】図14(a)、(b)及び(c)は、それぞれ実施形態3のさらに別な変形例による音響検知素子の概略断面図である。
【図15】図15(a)、(b)及び(c)は、それぞれ実施形態3のさらに別な変形例による音響検知素子の概略断面図である。
【図16】図16(a)、(b)及び(c)は、それぞれ実施形態3のさらに別な変形例による音響検知素子の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々設計変更することができる。
【0025】
(第1の実施形態)
以下、図2及び図3を参照して本発明の実施形態1による音響センサ31を説明する。図2は音響センサ31の概略断面図である。この音響センサ31は、主として音響検知素子32と回路素子33(ICチップ)とからなり、音響検知素子32及び回路素子33の下面は配線パターンを形成されたベース基板34の上面に熱硬化型接着剤(熱硬化性樹脂接着剤)で接着されている。音響検知素子32及び回路素子33は、ベース基板34の上面に接合された電磁シールド用のカバー35によって覆われていて、ベース基板34とカバー35によって形成された空間36内に納められている。
【0026】
図3は音響検知素子32の構造を示す分解斜視図である。この音響検知素子32はMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を利用して作製された微小な静電容量型素子(MEMSトランスデューサ)であり、シリコン基板である素子基板41の上面に絶縁被膜42を介して振動電極板43を設け、その上に微小ギャップ(空隙)を介して固定電極板44を設けたものである。
【0027】
図2及び図3に示すように、素子基板41はウェットエッチングによって表面から裏面に向けて凹設されたバックチャンバ45を有している。バックチャンバ45は素子基板41の下面にまで達しておらず、バックチャンバ45は素子基板41の上面でのみ開口し、素子基板41の下面では袋状に塞がっている。また、バックチャンバ45は内周面が垂直面となっていてもよく、テーパー状に傾斜していてもよい。素子基板41のサイズは、平面視で1〜1.5mm角程度(これよりも小さくすることも可能である。)であり、素子基板41の厚みが400〜500μm程度である。素子基板41の上面には酸化膜(SiO膜)等からなる絶縁被膜42が形成されている。
【0028】
振動電極板43は、膜厚が1μm程度のポリシリコン薄膜によって形成されている。振動電極板43はほぼ矩形状の薄膜であって、その四隅部分には対角方向外側に向けて支持脚47が延出している。さらに、支持脚47の一つからは延出部48が延びている。振動電極板43は、バックチャンバ45の上面を覆うようにして素子基板41の上面に配置され、四隅の各支持脚47と延出部48を絶縁被膜42の上に固定されている。振動電極板43のうちバックチャンバ45の上方で宙空に支持された部分(この実施形態では、支持脚47及び延出部48以外の部分)はダイアフラム49(振動膜)となっており、音響振動(空気振動)に感応して振動する。
【0029】
固定電極板44は、窒化膜からなるバックプレート50の上面に金属薄膜からなる固定電極51を設けたものである。固定電極板44は、ダイアフラム49と対向する領域においては3μm程度の微小ギャップをあけてダイアフラム49を覆っており、固定電極51はダイアフラム49と対向してキャパシタを構成している。固定電極板44の外周部、すなわちダイアフラム49と対向する領域の外側の部分は、酸化膜等からなる絶縁被膜42を介して素子基板41の上面に固定されている。
【0030】
固定電極51からは引出し部52が延出されており、引出し部52の先端には固定電極51と導通した電極パッド53(Au膜)が設けられている。さらに、固定電極板44には、振動電極板43の延出部48に接合して振動電極板43と導通させる電極パッド54(Au膜)が設けられている。電極パッド53はバックプレート50の上面に配置しており、電極パッド54はバックプレート50の開口を通して延出部48と接合されている。
【0031】
固定電極51及びバックプレート50には、上面から下面に貫通するようにして、音響振動を通過させるための音響孔55(アコースティックホール)が多数穿孔されている。なお、振動電極板43は、音響振動や機械的振動に共鳴して振動するものであるから、1μm程度の薄膜となっているが、固定電極板44は音響振動や機械的振動によって励振されない電極であるので、その厚みは例えば2μm以上というように厚くなっている。
【0032】
音響検知素子32は、熱硬化性樹脂からなる接着剤56によって裏面全体をベース基板34の上面に接合されている。また、音響検知素子32の出力信号を処理するための回路素子33も、熱硬化性樹脂によってベース基板34の上面に接着されている。音響検知素子32と回路素子33はボンディングワイヤにより、あるいはベース基板34の配線パターンを通じて接続される。
【0033】
カバー35は、外部からの電磁ノイズを遮断するために電磁シールド機能を備えている。このためには、カバー35自体を導電性金属によって形成してもよく、樹脂製のカバーの内面をメッキ等の金属被膜で覆ってもよい。また、カバー35には開口57が形成されており、開口57と音響孔55の間の空間36は音響振動を伝搬させるための経路となっている。また、ベース基板34も接地用の配線パターンの一部が電磁シールドの機能を有している。
【0034】
この音響センサ31にあっては、カバー35の開口57を通して空間36内に伝搬した音響振動は、音響孔55を通って音響検知素子32内に伝わり、ダイアフラム49が音響振動によって振動する。ダイアフラム49が振動すると、ダイアフラム49と固定電極板44との間のギャップ距離が変化するので、それによってダイアフラム49と固定電極51の間の静電容量が変化する。よって、電極パッド53、54間に直流電圧を印加しておき、この静電容量の変化を電気的な信号として取り出すようにすれば、音響振動を電気的な信号に変換して検出することができる。
【0035】
また、音響センサ31では、バックチャンバ45の下面が素子基板41によって塞がれているので、音響検知素子32の下面を熱硬化性樹脂からなる接着剤56によってベース基板34に接着する際、硬化前の流動状態の接着剤56が表面張力によってバックチャンバ45内の壁面を這い上がることがない。その結果、従来例のように素子基板41の上面と振動電極板43の間の隙間(ベントホール)に接着剤56が入り込んで振動電極板43を素子基板41に固着(スティック)させることがなくなる。よって、音響センサ31によれば、振動電極板43の素子基板41への固着(スティック)を防止してダイアフラム49の振動特性を安定させることができ、音響センサ31の感度低下を防ぐとともに信頼性を向上させることができる。また、接着剤56がバックチャンバ45を這い上がることがないので、接着剤24の選択の幅が広くなり、音響センサ31をローコスト化できる。
【0036】
さらに、バックチャンバ45の下面が塞がっているので、かりに音響検知素子32をベース基板34に接着する際の接着具合に不良があったとしても、バックチャンバ45のリークによって音響検知素子32の下面から音響振動が入り込むことがなく、リークによる音響センサ31の感度低下を防止できてセンサ製造工程における歩留まりが向上する。
【0037】
また、素子基板41に上下に開口(バックチャンバ45)が貫通していないので、従来の音響センサにおける素子基板に比較して素子基板41の剛性が高くなる。そのため、振動電極板43を剛性の高い素子基板41で支持させることができて音響検知素子32の耐衝撃性が向上し、落下衝撃によって音響検知素子32や振動電極板43が破損しにくくなる。
【0038】
さらに、素子基板41の剛性が高くなるので、熱応力が発生したり外力が加わったりした場合でも音響検知素子32が変形しにくくなる。そのため、振動電極板43と固定電極板44のギャップは変化しにくくなり、音響センサ31の感度低下や特性の変化を防ぐことができる。
【0039】
その結果、ダイアフラム49を薄膜化でき、また振動電極板43と固定電極板44の間のギャップを狭くすることができ、音響センサ31の感度向上が可能になる。
【0040】
(第2の実施形態)
図4は本発明の実施形態2による音響センサ61を示す概略断面図である。この音響センサ61は、実施形態1の音響センサ31とは素子基板41の構造が異なっている。図5は、実施形態2における素子基板41の構造を示す分解斜視図である。
【0041】
実施形態1では、一枚のシリコン基板を凹状にエッチングすることによって素子基板41に下面の塞がったバックチャンバ45を形成していたが、この実施形態2では、図5に示すように、主基板41aの裏面に副基板41bを接合して素子基板41を構成している。主基板41aはシリコン基板やSOI(Silicon On Insulator)基板からなり、主基板41aには表裏に貫通するバックチャンバ45が形成されている。副基板41bは表面が平坦な平板となっている。副基板41bは、シリコン基板、SOI基板など主基板41aと同材質のもの、あるいは、パイレックス(登録商標)や石英等のガラス基板、セラミック基板など主基板41aと同程度の線膨張係数(ほぼ2×10−6〜10×10−6/℃)を有するものを用いる。
【0042】
主基板41aと副基板41bの接合方法は、接着剤などの接合材料がバックチャンバ45を這い上がって主基板41aの上面に達しない方法であればよい。例えば、Siからなる主基板41aとSiからなる副基板41bの接合面をプラズマ処理等によって活性化し、接合面を重ね合わせた状態で圧力を加えて主基板41aと副基板41bを常温接合する方法がある。また、SOIからなる主基板41aのSiO面とSOIからなる副基板41bのSiO面とを重ね合わせた状態で加熱加圧して主基板41aと副基板41bを接合する方法がある。さらに、Siからなる主基板41aとガラスからなる副基板41bを重ね合わせ、両基板41a、41bを加熱加圧しながら電圧を印加して陽極接合する方法がある。また、Siからなる主基板41aの接合面とSiからなる副基板41bの接合面にそれぞれAu等の金属薄膜を成膜しておき、両基板41a、41bの接合面どうしを重ね合わせて加熱加圧等を行って両基板41a、41bを接合してもよい。また、Alからなる副基板41b(あるいは、接合面にAl薄膜を形成されたSi基板からなる副基板41b)の接合面(Al表面)を親水化処理した後、当該副基板41bとSiからなる主基板41aとを重ね合わせて加熱し、水素結合を用いて両基板41a、41bを接合してもよい。あるいは、エポキシ樹脂やアクリル樹脂、ゴム系接着剤など接着時ににじみ出しや這い上がりの起こりにくい接着剤を用いて主基板41aと副基板41bを接合してもよい。
【0043】
これらの方法によって主基板41aと副基板41bを接合すれば、接着剤等の接合材料などがバックチャンバ45の壁面を這い上がって主基板41aの上面に達することがない。また、バックチャンバ45の貫通した主基板41aに副基板41bを接合して素子基板41を作製するようにすれば、素子基板41の製造工程が簡単になる。すなわち、実施形態1のような構造では、バックチャンバ45をエッチングにより形成するためには、バックチャンバ45の底面にエッチングが達しないよう、エッチング深さを注意深く時間管理しなければならない。これに対し、実施形態2では、バックチャンバ45が主基板41aに貫通すればよいのでバックチャンバ45のエッチング作業が容易になり、バックチャンバ45の深さは主基板41aの厚みで決まるので、バックチャンバ45の深さを精度よく制御することができる。
【0044】
つぎに、この音響検知素子62の製造工程を説明する。図6(a)〜(f)は、音響検知素子62の製造工程の一例を示す。音響検知素子62の製造にあたっては、まず主基板41a(Siウエハ)の上面に熱酸化法などによって絶縁被膜42(SiO膜)を成膜し、図6(a)に示すように、バックチャンバ開口位置に合わせて開口63をあけ、その上に犠牲層64を積層する。さらに、図6(b)に示すように、犠牲層64の上にポリシリコン薄膜を成膜し、ポリシリコン薄膜を所定形状に形成して振動電極板43を作製し、さらに振動電極板43の上に再び犠牲層64を積層し、犠牲層64を固定電極板44内の空間形状にする。ついで、犠牲層64及び絶縁被膜42の上に固定電極板44(バックプレート50及び固定電極51)を形成し、固定電極板44に音響孔55をあける。この状態を図6(c)に示す。
【0045】
こうして、主基板41aの上に振動電極板43、犠牲層64及び固定電極板44が形成されたら、図6(d)に示すように、主基板41aの下面にSiOやSiNによってエッチング用マスク65を成膜し、当該マスク65にエッチング窓66をあける。そして、エッチング窓66を通して主基板41aを下面からウェットエッチング又はドライエッチングによって異方性エッチングし、エッチングが主基板41aの上面に達したらエッチングを停止し、主基板41aにバックチャンバ45を上下貫通させる。
【0046】
この後、図6(e)に示すように、下面のエッチング用マスク65を除去し、前記のような方法によって主基板41aの下面に副基板41b(ウエハ)を接合して素子基板41とする。ついで、上面の音響孔55等を通して犠牲層64にエッチング液を接触させ、図6(f)のように固定電極板44内の犠牲層64をエッチング除去し、ダイアフラム49を固定電極板44内で主基板41aの上面から浮かせ、1枚の主基板41a(Siウエハ)上に複数の音響検知素子62を作製する。ついで、音響検知素子62を洗浄した後、素子基板41(接合された2枚のウエハ)をダイシングして音響検知素子62を切り離し、個別の音響検知素子62を得る。
【0047】
また、音響検知素子62は、図7(a)〜(c)に示すような工程で製造してもよい。図7(a)は図6(d)と同じものであって、図6(a)〜(d)のような工程で主基板41aの上面に振動電極板43、犠牲層64及び固定電極板44が設けられ、エッチング窓66を通して主基板41aにバックチャンバ45が形成されている。
【0048】
この後、上面の音響孔55等を通して犠牲層64にエッチング液を接触させ、図7(b)のように固定電極板44内の犠牲層64をエッチング除去し、ダイアフラム49を固定電極板44内で主基板41aの上面から浮かせ、1枚の主基板41a(Siウエハ)上に複数の音響検知素子62を作製する。ついで、図7(c)に示すように、下面のエッチング用マスク65を除去し、前記のような方法によって主基板41aの下面に副基板41b(ウエハ)を接合して素子基板41とする。ついで、音響検知素子62を洗浄した後、素子基板41(接合された2枚のウエハ)をダイシングして音響検知素子62を切り離し、個別の音響検知素子62を得る。
【0049】
(第2の実施形態の変形例)
主基板41aに設けるバックチャンバ45の形状は、作製可能なものであればどのようなものであってもよい。例えば、図8に示す変形例の音響センサ68では、上半分が上方へ向かうほど狭い角錐台状となり、下半分が下方へ向かうほど狭い逆角錐台状となったバックチャンバ45が形成されている。
【0050】
(第3の実施形態)
図9は本発明の実施形態3による音響センサ71を示す概略断面図である。実施例2の音響センサ61では、主基板41aの下面に接合する副基板41bとして表面が平坦なものを用いていたが、実施形態3の音響センサ71では、図10に示すように副基板41bにも凹部45bを形成している。すなわち、この音響センサ71の素子基板41は、表裏に貫通した貫通孔45aを有する主基板41aの下面に、上面に凹部45bを形成された副基板41bを接合し、主基板41aと副基板41bによって素子基板41を形成するとともに、互いに連通した貫通孔45aと凹部45bによってバックチャンバ45を構成している。
【0051】
実施形態3の音響検知素子62も、実施形態2の場合と同様にして製造することができ、また主基板41aと副基板41bの接合方法も実施形態2と同様な方法を用いることができる。
【0052】
この音響センサ71では、副基板41bに凹部45bを設けることでバックチャンバ45の容積をさらに大きくすることができるので、音響センサ71の感度を向上させることができる。なお、凹部45bは図10のように角が角張ったものでもよく、図11のように角が丸くなったものでもよい。
【0053】
また、凹部45bの上面開口の開口径を貫通孔45aの下面開口の開口径よりも大きくすれば凹部45bを大きくでき、ひいてはバックチャンバ45の容積を大きくできるので、音響検知素子32の感度をより向上させることができる。
【0054】
(第3の実施形態の変形例)
実施形態3において主基板41aに設けた貫通孔45aや副基板41bに設けた凹部45bの形状は、種々のものが可能である。例えば、図12(a)に示した音響検知素子72では、角柱状の貫通孔45aの下面に連通させて図12(b)のような逆角錐台状の凹部45bを設けている。また、図13(a)に示した音響検知素子73では、角柱状の貫通孔45aの下面に連通させて図13(b)のような球面状の凹部45bを設けている。
【0055】
図12、図13に示した以外にも種々の変形例が可能である。図14(a)〜(c)に示した音響検知素子74〜76では、上方へ向かうほど狭くなった角錐台状の貫通孔45aの下面に連通させて、それぞれ矩形状、逆角錐台状、球面状の凹部45bを設けている。また、図15(a)〜(c)に示した音響検知素子77〜79では、上方へ向かうほど広くなった逆角錐台状の貫通孔45aの下面に連通させて、それぞれ矩形状、逆角錐台状、球面状の凹部45bを設けている。さらに、図16(a)〜(c)に示した音響検知素子80〜82では、上半分が上方へ向かうほど狭い角錐台状で、下半分が下方へ向かうほど狭い逆角錐台状の貫通孔45aの下面に連通させて、それぞれ矩形状、逆角錐台状、球面状の凹部45bを設けている。
【符号の説明】
【0056】
31、61、68、71 音響センサ
32、62、72〜82 音響検知素子
33 回路素子
34 ベース基板
41 素子基板
41a 主基板
41b 副基板
43 振動電極板
44 固定電極板
45 バックチャンバ
45a 貫通孔
45b 凹部
49 ダイアフラム
55 音響孔
56 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックチャンバを備えた基板と、
前記バックチャンバの上面開口に対向させて前記基板の表面に設けた振動電極板と、
前記振動電極板に対向し、かつ、音響孔を開口された固定電極板とを備え、
前記振動電極板の変位による前記振動電極板と前記固定電極板の間の静電容量の変化に基づいて電気信号を出力する音響検知素子において、
前記バックチャンバの下面を前記基板によって袋状に塞いでいることを特徴とする音響検知素子。
【請求項2】
表裏に貫通した貫通孔を有する主基板の裏面に副基板を接合することによって前記基板を形成し、
前記貫通孔の下面を前記副基板で塞ぐことにより前記貫通孔を含む空間によって前記バックチャンバを形成したことを特徴とする、請求項1に記載の音響検知素子。
【請求項3】
前記副基板に前記貫通孔と連通させて凹部を形成し、前記貫通孔と前記凹部によって前記バックチャンバを形成したことを特徴とする、請求項2に記載の音響検知素子。
【請求項4】
前記主基板と前記副基板は、接着剤を用いない方法で接合されていることを特徴とする、請求項2に記載の音響検知素子。
【請求項5】
前記主基板と前記副基板は、互いに線膨張係数がほぼ等しい材質によって形成されていることを特徴とする、請求項2に記載の音響検知素子。
【請求項6】
請求項1に記載した音響検知素子の下面を、接着剤によってベース基板の上面に固着させ、前記音響検知素子を覆うようして前記ベースの上面にカバーを取り付けたことを特徴とする音響センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−176531(P2011−176531A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38289(P2010−38289)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】