説明

音響信号に対する情報の埋め込み装置、音響信号からの情報の抽出装置

【課題】 再生品質の劣化を低減させ、従来より遠くに伝搬可能な周波数帯を使用することにより、受信可能な距離範囲を拡大することを可能とする音響信号に対する情報の埋め込み装置、音響信号からの情報の抽出装置を提供する。
【解決手段】 音響信号を所定の大きさの音響フレーム単位で読み込み、各音響フレームについて複数の時間方向窓関数を用いて周波数変換を行い、埋め込むべきビット列の2値に応じて、所定の周波数帯(1.7〜3.4kHz)の状態を前部の成分強度が大きい“状態1”又は後部の成分強度が大きい“状態2”に変更する。この際、成分強度を大きくするために、所定の周波数帯の中央付近における値が大きくなるように周波数方向の値に応じて変化する窓関数Fを適用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CD・DVD等を用いた民生・業務用途における鑑賞用のパッケージ音楽分野、放送事業者等が商業目的で配信する放送・ネットワーク音楽配信分野における音楽著作権の保護(不正コピーの監視)および音楽属性情報の提供(楽曲タイトル検索サービス)分野、ミュージアム、イベント会場における展示説明ナレーションに連動した文字情報の提供サービス分野、放送番組やCD/DVDパッケージの音声信号からURLなどの情報を抽出し、携帯電話を用いて所定のコンテンツに関連するwebサイトにアクセスして詳細情報を抽出したり、アンケートに回答したりする非接触なインターネットのゲートウェイサービス分野に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、流れている音楽のタイトル等を知ることができる楽曲属性情報の提供サービスとして、放送された音楽に対して日時と地域を放送局に照会したり、携帯電話で流れている音楽断片を録音してデータベースに登録されているメロディーと照合したりするサービスが実用化されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1、2に記載の発明では、録音した音楽の断片と、データベースに登録されているメロディーと照合するため、データベースに登録される楽曲が増えると、処理負荷が増え、類似したメロディーを誤判定する可能性が増える。そこで、曲名やアーチスト情報などの楽曲属性情報を不可聴な電子透かしとして音響信号に埋め込む手法も提案されている(例えば、特許文献3〜6参照)。
【0004】
特許文献1〜6に記載の手法では、埋め込み可能な情報量が少なく、音質が少なからず劣化し、各種信号処理により透かし情報が消失し、またアナログコピーに対しては、透かし検出が困難であるという問題がある。そこで、本出願人は、低音域において人間の音源定位感覚が鈍いという特性を活用し、音響信号の低周波数領域における2つの低周波数帯の成分の比率を属性情報のビット値に応じて変更することにより、モノラル、ステレオのいずれの音響信号に対しても、属性情報(付加情報)を埋め込むことができる手法を提案した(特許文献7、8参照)。
【特許文献1】特開2002−259421号公報
【特許文献2】特開2003−157087号公報
【特許文献3】特開平11−145840号公報
【特許文献4】特開平11−219172号公報
【特許文献5】特許第3321767号公報
【特許文献6】特開2003−99077号公報
【特許文献7】特開2006−243340号
【特許文献8】特願2005−147743号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献7、8に記載の手法では、低周波領域を変更することにより情報を埋め込むため、以下のような問題がある。一つ目は、モノラル再生の場合には、打ち消す他チャンネル側の音が発生されないため、聴くに耐えない品質になるという問題である。二つ目は、低周波部分は、スピーカ再生能力が低く、また、低周波音波は空間伝搬上の減衰も大きいという問題である。三つ目は、低周波の場合、低音方向に対しては、スピーカ再生能やマイクロフォン感度の制約で下限を下げることができず、高音方向に対しては、ステレオ再生において音源移動が目立ってしまうため、上限を上げることができず、情報の埋め込みに利用できる周波数範囲が限られ、情報の埋め込み効率が悪いという問題である。
【0006】
ところが、そこで所定周波数以上であって、人間の聴覚感度が若干落ちる周波数範囲を埋め込み範囲とすることが考えられるが、この場合、埋め込み範囲より下側の周波数範囲は、人間の聴覚感度が高い部分であるため、原音を維持することが望ましい。ところが、原音を維持した場合、その周波数成分が埋め込み領域にも影響するため、埋め込んだ情報が正しく抽出できないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、再生品質の劣化を低減させ、従来より遠くに伝搬可能な周波数帯を使用することにより、受信可能な距離範囲を拡大することを可能とする音響信号に対する情報の埋め込み装置、音響信号からの情報の抽出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明では、時系列のサンプル列で構成される音響信号に対して、付加情報を聴取不能な状態で埋め込む装置であって、前記音響信号より、所定数のサンプルを音響フレームとして読み込む音響フレーム読込手段と、前記音響フレームに対して第1窓関数、第2窓関数、第3窓関数を用いてそれぞれ周波数変換を行い、前記第1窓関数に対応するスペクトルである第1窓スペクトル、前記第2窓関数に対応するスペクトルである第2窓スペクトル、前記第3窓関数に対応するスペクトルである第3窓スペクトルを生成する周波数変換手段と、前記生成された各窓スペクトルから、電話回線帯域上限を上限または下限とする所定の周波数帯に対応するスペクトル集合を抽出し、前記埋め込むべき付加情報の情報配列の値に基づいて、前記抽出した3セットのスペクトル集合のうち、先頭の第1窓関数と後部の第3窓関数のスペクトル強度の割合を、前記スペクトル集合の周波数範囲における中央付近における値が大きくなるように周波数方向の値に応じて変化する窓関数Fを適用して、変更すると共に、中央の第2窓関数の成分を削除する周波数成分変更手段と、前記変更されたスペクトル強度を含む各窓スペクトルに対して周波数逆変換を行って、改変音響フレームを生成する周波数逆変換手段と、前記生成された改変音響フレームを順次出力する改変音響フレーム出力手段を有する音響信号に対する情報の埋め込み装置を提供する。
【0009】
また、本発明では、音響信号から、あらかじめ聴取不能な状態で埋め込まれた付加情報を抽出する装置であって、前記音響信号の所定の区間をデジタル化して、所定数のサンプルで構成される音響フレームを獲得する音響フレーム獲得手段と、前記音響フレームに対して第1窓関数、第3窓関数を用いてそれぞれ周波数変換を行い、前記第1窓関数に対応するスペクトルである第1窓スペクトル、前記第3窓関数に対応するスペクトルである第3窓スペクトルを生成する周波数変換手段と、前記生成された各窓スペクトルから、電話回線帯域上限を上限または下限とする所定の周波数帯に対応するスペクトル集合を抽出し、各スペクトル集合ごとにスペクトル強度の総和値を、前記スペクトル集合の周波数範囲における中央付近における値が大きくなるように周波数方向の値に応じて変化する窓関数Fを適用して、算出し、その総和値のスペクトル集合間の割合に基づいて、所定の符号を出力する符号化手段と、前記出力された符号に対応する情報配列を、所定の規則により変換して付加情報を抽出する付加情報抽出手段を有する音響信号からの情報の抽出装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、音響信号を所定区間に区分し、埋め込むべき付加情報の情報配列の値に基づいて、前記所定区間における電話回線帯域上限を上限または下限とする所定の周波数帯の先頭部分と後部部分のスペクトル強度の割合を、そのスペクトル集合の周波数範囲における中央付近における値が大きくなるように周波数方向の値に応じて変化する窓関数Fを適用して、変更するようにしたので、モノラル再生時における再生品質の劣化を低減させるとともに、受信可能な距離範囲を拡大することを可能とするという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
(1.本発明の基本概念)
まず、本発明の基本概念について説明する。上述のように、本出願人は、特許文献7、8において、音響信号の低周波数領域における2つの低周波数帯の成分の比率を属性情報のビット値に応じて変更することにより、モノラル、ステレオのいずれの音響信号に対しても、付加情報を埋め込むことができる手法を提案し、特に特許文献8においては、時間方向に分割して、情報を埋め込む手法を提案している。このように、埋め込む情報に応じて、所定の周波数成分について、所定区間における前部と後部の強度を変化させる点については、本発明も特許文献8と同様である。
【0012】
しかし、特許文献8で示した手法では、所定の周波数成分として200〜300Hz程度以下の低周波成分を利用しているため、上記課題として示したような問題が生じている。
【0013】
人間の音源定位感覚は高音部では増大傾向になるが、ソース音源のエネルギーは高音になるほど小さくなる特性があり、特に電話回線帯域(300Hz〜3.4kHz)を超えると倍音成分のみとなるため、結果的に聴取可能な音源定位変異は小さい。実験の結果、400Hz〜1.5kHzの領域では聴取可能な音源定位変異は増大していくが、1.5kHzを超えると減少傾向になり、更に4kHzを超えるとほとんどなくなる。これは、4kHz以上は音声の成分はほとんどなくなり、楽器音では基音が最高音域を超えることため倍音のみの成分となるためである。
【0014】
そこで、どの周波数範囲に埋め込むべきかを具体的に検討する。音声通信として普及度の高い携帯電話機を受信端末として利用する場合、上限については、電話回線帯域および携帯電話機の上限である3.4kHzとする必要がある。そこで、下限については、上限の3.4kHzから1オクターブ下がった1.7kHzとすることとした。また、携帯電話機以外を受信端末として利用する場合には、可聴周波数の上限(22kHz)以下であれば3.4kHzより高い周波数領域を用いることができるが、10kHzを超える高音域では、圧縮・変調などの信号処理の影響を受け易く、スピーカによっては再生能力が低下するため、下限を電話回線帯域の上限である3.4kHzとし、上限を3.4kHzから1オクターブ上がった6.8kHzとすることとした。なお、“1.7kHz”“3.4kHz”“6.8kHz”という値は、代表的な値であり、必ずしも正確な値である必要はなく、そこから若干ずれた値であっても良い。なお、本明細書においては、“1.7kHz〜3.4kHz”を「電話高周波帯」、“3.4kHz〜6.8kHz”を「超電話周波帯」と呼ぶことにする。また、電話回線帯域の上限は上述のように3.4kHz近辺であるので、上記「電話高周波帯」、「超電話周波帯」はそれぞれ可聴周波数範囲で電話回線帯域の上限より若干低音側、若干高音側における所定の周波数帯に該当する。
【0015】
(2.音響信号に対する情報の埋め込み装置)
図1は、本発明に係る音響信号に対する情報の埋め込み装置の構成を示す機能ブロック図である。図1において、10は音響フレーム読込手段、20は周波数変換手段、30は周波数成分変更手段、40は周波数逆変換手段、50は改変音響フレーム出力手段、60は記憶手段、61は音響信号記憶部、62は付加情報記憶部、63は改変音響信号記憶部、70は付加情報読込手段である。なお、図1に示す装置は、ステレオ音響信号、モノラル音響信号の両方に対応可能であるが、ここでは、ステレオ音響信号に対して処理を行う場合について説明していく。
【0016】
音響フレーム読込手段10は、付加情報の埋め込み対象とする元のステレオ音響信号の各チャンネルから所定数のサンプルを1フレームとして読み込む機能を有している。周波数変換手段20は、音響フレーム読込手段10が読み込んだ音響信号のフレームをフーリエ変換等により周波数変換してフレームスペクトルを生成する機能を有している。周波数成分変更手段30は、生成されたフレームスペクトルから電話回線帯域上限を上限または下限とする所定の周波数帯に相当するスペクトル集合を3セット抽出し、付加情報記憶部62から抽出した付加情報に基づいて、各スペクトル集合の強度を変更する機能を有している。周波数逆変換手段40は、強度が変更されたスペクトル集合を含むフレームスペクトルに対して周波数逆変換を行うことにより、改変音響フレームを生成する機能を有している。改変音響フレーム出力手段50は、生成された改変音響フレームを順次出力する機能を有している。記憶手段60は、付加情報を埋め込む対象とするステレオ音響信号を記憶した音響信号記憶部61と、ビット配列として構成され、ステレオ音響信号に埋め込まれる付加情報を記憶した付加情報記憶部62と、付加情報埋め込み後の改変音響信号を記憶する改変音響信号記憶部63を有しており、その他処理に必要な各種情報を記憶するものである。付加情報読込手段70は、付加情報記憶部62から付加情報を抽出し、抽出した付加情報に対して誤り検出ビットを1ビット付加して8ビットのビット配列を作成する機能を有している。なお、付加情報とは、音響情報に付加して埋め込むべき情報であり、タイトルやアーティスト名等の属性情報、および属性情報以外の他の情報を含むものである。図1に示した各構成手段は、現実にはコンピュータおよびその周辺機器等のハードウェアに専用のプログラムを搭載することにより実現される。すなわち、コンピュータが、専用のプログラムに従って各手段の内容を実行することになる。
【0017】
(3.埋め込み装置の処理動作)
次に、図1に示した音響信号に対する情報の埋め込み装置の第1の実施形態における処理動作ついて説明する。ここでは、音響信号として、L(左)、R(右)の2チャンネルを有するステレオ音響信号に対して処理を行う場合について説明していく。音響フレーム読込手段10は、音響信号記憶部61に記憶されたステレオ音響信号の左右の各チャンネルから、それぞれ所定数のサンプルを1音響フレームとして読み込む。音響フレーム読込手段10が読み込む1音響フレームのサンプル数は、適宜設定することができるが、サンプリング周波数が44.1kHzの場合、4096サンプル程度とすることが望ましい。したがって、音響フレーム読込手段10は、左チャンネル、右チャンネルについてそれぞれ4096サンプルずつ、順次音響フレームとして読み込んでいくことになる。
【0018】
音響フレームとしては、AタイプとBタイプが存在する。Aタイプの音響フレーム、Bタイプの音響フレームは、それぞれ同タイプの先行する音響フレームの最後のサンプルの次のサンプルを先頭サンプルとして設定される。そして、AタイプとBタイプの音響フレームは互いに所定数(本実施形態では2048)のサンプルを重複して設定される。例えば、Aタイプの音響フレームを先頭からA1、A2、A3…とし、Bタイプの音響フレームを先頭からB1、B2、B3…とすると、A1はサンプル1〜4096、A2はサンプル4097〜8192、A3はサンプル8193〜12288、B1はサンプル2049〜6144、B2はサンプル6145〜10240、B3はサンプル10241〜14336となる。なお、AタイプとBタイプは相対的なものであるので、どちらが先であっても良い。すなわち、上記とは逆にA1がサンプル2049〜6144、A2がサンプル6145〜10240、A3がサンプル10241〜14336、B1がサンプル1〜4096、B2がサンプル4097〜8192、B3がサンプル8193〜12288であっても良い。
【0019】
周波数変換手段20は、音響フレーム読込手段10が読み込んだ音響フレームに対して、周波数変換を行って、その音響フレームのスペクトルであるフレームスペクトルを得る。具体的には、窓関数を利用して周波数変換を行う。周波数変換としては、フーリエ変換、ウェーブレット変換その他公知の種々の手法を用いることができる。本実施形態では、フーリエ変換を用いた場合を例にとって説明する。
【0020】
一般に、所定の信号に対してフーリエ変換を行う場合、信号を所定の長さに区切って行う必要があるが、この場合、所定長さの信号に対してそのままフーリエ変換を行うと、擬似高調波成分が発生する。そこで、一般にフーリエ変換を行う場合には、ハニング窓と呼ばれる窓関数を用いて、信号の値を変化させた後、変化後の値に対してフーリエ変換を実行する。
【0021】
本実施形態では、擬似高調波成分の発生を防止するためだけではなく、一つの音響フレームから、情報を埋め込むための複数の状態を作り出すため、複数の窓関数を用意し、一つの音響フレームに対して、各窓関数を利用してフーリエ変換を行い、複数のスペクトルを得る。複数の窓関数として、より良い効果を得るため、本実施形態では、図2(b)〜(d)に示したような第1窓関数W(1,i)、第2窓関数W(2,i)、第3窓関数W(3,i)を用意し、抽出側で認識し易いようにした。第1窓関数W(1,i)は、音響フレームの前部を抽出するためのものであり、図2(b)に示すように前部の所定のサンプル番号iの位置において、最大値1をとり、後部においては、最小値0をとるように設定されている。どのサンプル番号の場合に最大値をとるかについては、窓関数W(1,i)の設計によって異なってくるが、本実施形態では、後述する〔数式1〕で定義される。窓関数W(1,i)を乗じることにより、図2(a)に示すような音響フレームの信号波形は、図2(f)に示すように、前部に信号成分が残り、後部の信号成分が削除されたものとなり、これがフーリエ変換対象となる。
【0022】
また、第2窓関数W(2,i)は、音響フレームの中央部を抽出するためのものであり、図2(c)に示すように、中央部の所定のサンプル番号iの位置において、最大値1をとり、前部、後部においては、最小値0をとるように設定されている。どのサンプル番号の場合に最大値をとるかについては、窓関数W(2,i)の設計によって異なってくるが、本実施形態では、後述する〔数式2〕で定義される。窓関数W(2,i)を乗じることにより、図2(a)に示すような音響フレームの信号波形は、図2(g)に示すように、中央部に信号成分が残り、前部と後部の信号成分が除去されたものとなり、これがフーリエ変換対象となる。
【0023】
また、第3窓関数W(3,i)は、音響フレームの後部を抽出するためのものであり、図2(d)に示すように、前部においては最小値0をとり、後部の所定のサンプル番号iの位置において、最大値1をとるように設定されている。どのサンプル番号の場合に最大値をとるかについては、窓関数W(3,i)の設計によって異なってくるが、本実施形態では、後述する〔数式3〕で定義される。窓関数W(3,i)を乗じることにより、図2(a)に示すような音響フレームの信号波形は、図2(h)に示すように、前部の信号成分が除去され、後部に信号成分が残ったものとなり、これがフーリエ変換対象となる。このように前部、中央部、後部を抽出した後、フーリエ変換を実行するため、前部、中央部、後部に対応したスペクトルが得られることになる。1つの音響フレームにビット値を埋め込むためには、本来、前部と後部の2つに分けられれば良いのであるが、抽出側においては、必ずしも、信号を同期して読み込むことができるとは限らず、したがって、前部と後部をはっきりと区別するため、本発明では、埋め込み時に中央部の信号成分を常に除去し、前部と後部を時間的に分離することとしている(ただし、抽出時は前部と後部だけを解析すればよく、中央部は無視してよい)。本発明において用いる窓関数は、窓関数W(1,i)と窓関数W(3,i)が左右非対称であるため、抽出時において、埋め込まれていた情報の誤認識が起こりにくくなる。
【0024】
また、本発明では、音響フレームを重複させて読み込み、奇数フレーム(または偶数フレーム)については、窓関数W(1,i)、W(2,i)、W(3,i)を用い、偶数フレーム(または奇数フレーム)については、図2(e)に示したような窓関数W(4,i)を用いるようにした。
【0025】
なお、本実施形態においては、音響フレームは重複して読み込まれる。すなわち、奇数番目の音響フレームと偶数番目の音響フレームは、所定数のサンプルを重複して読み込む。上記のように、奇数フレームと偶数フレームでは、用いられる窓関数が異なるが、奇数フレームと偶数フレームは単に奇数か偶数かの違いだけであるため、どちらに対してどちらの処理を行っても良い。したがって、本明細書では、奇数フレーム、偶数フレームの一方をAタイプフレーム、他方をBタイプフレームと呼ぶことにする。本実施形態では、奇数フレームをAタイプフレーム、偶数フレームをBタイプフレームとして説明するが、逆に偶数フレームをAタイプフレーム、奇数フレームをBタイプフレームとしても良い。
【0026】
本実施形態では、窓関数W(1,i)〜W(4,i)は、以下の〔数式1〕〜〔数式4〕で定義される。なお、図2において、横軸は時間軸(i)である。iは、後述するように、各音響フレーム内のN個のサンプルに付した通し番号であるため時刻tに比例している。また、図2(a)(f)(g)(h)(i)において縦軸は信号の振幅値(レベル)を示す。図2(b)〜(e)において縦軸は窓関数W(1,i)、W(2,i)、W(3,i)、W(4,i)の値を示しており、W(1,i)、W(2,i)、W(3,i)、W(4,i)の最大値はいずれも1である。
【0027】
〔数式1〕
i≦3N/8のとき、W(1,i)=0.5−0.5cos(8πi/(3N))
3N/8<i≦N/2のとき、W(1,i)=0.5−0.5cos(8π(i−N/4)/N)
i>N/2のとき、W(1,i)=0.0
【0028】
〔数式2〕
i≦3N/8のとき、W(2,i)=0.0
3N/8<i≦N/2のとき、W(2,i)=0.5−0.5cos(8π(i−3N/8)/N)
N/2<i≦3N/4のとき、W(2,i)=0.5−0.5cos(4π(i−N/4)/N)
i>3N/4のとき、W(2,i)=0.0
【0029】
〔数式3〕
i≦N/2のとき、W(3,i)=0.0
i>N/2のとき、W(3,i)=0.5−0.5cos(4π(i−N/2)/N)
【0030】
〔数式4〕
i≦N/4のとき、W(4,i)=0.0
N/4<i≦N/2のとき、W(4,i)=0.5−0.5cos(4π(i−N/4)/N)
N/2<i≦7N/8のとき、W(4,i)=0.5−0.5cos(8π(i−N/8)/(3N))
i>7N/8のとき、W(4,i)=0.0
【0031】
なお、図2および上記〔数式1〕〜〔数式4〕から明らかなように、窓関数W(1,i)とW(3,i)は、互いに非対称な形状である。これは、後述する抽出側において、両者の識別を容易にするためである。また、窓関数W(1,i)、W(2,i)、W(3,i)は、iが所定の値のときに最大値1をとり、iがその他の値をとる場合には、iの値に応じて単調増加、または単調減少する窓関数を分割したものであるため、窓関数W(1,i)とW(3,i)が定まると、窓関数W(2,i)も必然的に定まる。このため、窓関数W(2,i)は左右非対称の形状となっている。
【0032】
本発明においては、奇数フレームと偶数フレームを、所定サンプルずつ重複して読み込むため、情報の埋め込みを行った後、音響信号に復元する際に、窓関数を乗じた奇数フレームと、窓関数を乗じた偶数フレームの重複サンプルを加算した場合に、ほぼ元の値に戻るようにしなければならない。このため、窓関数W(4,i)の形状は、窓関数W(1,i)、W(2,i)、W(3,i)の値に応じて必然的に定まる。すなわち、奇数フレームと偶数フレームの重複部分において、窓関数W(1,i)、W(2,i)、W(3,i)、W(4,i)を加算すると、全区間固定値1になるように定義されている。
【0033】
周波数変換手段20が、Aタイプの音響フレームに対してフーリエ変換を行う場合は、左チャンネル信号Xl(i)、右チャンネル信号Xr(i)(i=0,…,N−1)に対して、3つの窓関数W(1,i)、W(2,i)、W(3,i)を用いて、以下の〔数式5〕に従った処理を行い、左チャンネルに対応する変換データの実部Al(1,j)、Al(2,j)、Al(3,j)、虚部Bl(1,j)、Bl(2,j)、Bl(3,j)、右チャンネルに対応する変換データの実部Ar(1,j)、Ar(2,j)、Ar(3,j)、虚部Br(1,j)、Br(2,j)、Br(3,j)を得る。なお、窓関数W(1,i)、W(2,i)、W(3,i)は、それぞれ音響フレームの前部(先頭)付近、中央付近、後部付近において値が大きくなる関数となっている。
【0034】
〔数式5〕
Al(1,j)=Σi=0,…,N-1W(1,i)・Xl(i)・cos(2πij/N)
Bl(1,j)=Σi=0,…,N-1W(1,i)・Xl(i)・sin(2πij/N)
Al(2,j)=Σi=0,…,N-1W(2,i)・Xl(i)・cos(2πij/N)
Bl(2,j)=Σi=0,…,N-1W(2,i)・Xl(i)・sin(2πij/N)
Al(3,j)=Σi=0,…,N-1W(3,i)・Xl(i)・cos(2πij/N)
Bl(3,j)=Σi=0,…,N-1W(3,i)・Xl(i)・sin(2πij/N)
Ar(1,j)=Σi=0,…,N-1W(1,i)・Xr(i)・cos(2πij/N)
Br(1,j)=Σi=0,…,N-1W(1,i)・Xr(i)・sin(2πij/N)
Ar(2,j)=Σi=0,…,N-1W(2,i)・Xr(i)・cos(2πij/N)
Br(2,j)=Σi=0,…,N-1W(2,i)・Xr(i)・sin(2πij/N)
Ar(3,j)=Σi=0,…,N-1W(3,i)・Xr(i)・cos(2πij/N)
Br(3,j)=Σi=0,…,N-1W(3,i)・Xr(i)・sin(2πij/N)
【0035】
周波数変換手段20が、Bタイプの音響フレームに対してフーリエ変換を行う場合は、左チャンネル信号Xl(i)、右チャンネル信号Xr(i)(i=0,…,N−1)に対して、窓関数W(4,i)を用いて、以下の〔数式6〕に従った処理を行い、左チャンネルに対応する変換データの実部Al(4,j)、虚部Bl(4,j)、右チャンネルに対応する変換データの実部Ar(4,j)、虚部Br(4,j)を得る。
【0036】
〔数式6〕
Al(4,j)=Σi=0,…,N-1W(4,i)・Xl(i)・cos(2πij/N)
Bl(4,j)=Σi=0,…,N-1W(4,i)・Xl(i)・sin(2πij/N)
Ar(4,j)=Σi=0,…,N-1W(4,i)・Xr(i)・cos(2πij/N)
Br(4,j)=Σi=0,…,N-1W(4,i)・Xr(i)・sin(2πij/N)
【0037】
上記〔数式5〕〔数式6〕において、iは、各音響フレーム内のN個のサンプルに付した通し番号であり、i=0,1,2,…N−1の整数値をとる。また、jは周波数の値について、値の小さなものから順に付した通し番号であり、iと同様にj=0,1,2,…N/2−1の整数値をとる。サンプリング周波数が44.1kHz、N=4096の場合、jの値が1つ異なると、周波数が10.8Hz異なることになる。
【0038】
上記〔数式5〕〔数式6〕に従った処理を実行することにより、各音響フレームの信号成分に窓関数を作用させた信号成分についてのスペクトルが得られる。続いて、周波数成分変更手段30が、生成されたスペクトルの所定の周波数領域から3つのスペクトル集合を抽出する。上記のように、本実施形態では、“1.7kHz〜3.4kHz”の「電話高周波帯」を抽出することになる。
【0039】
ここで、図3に、本実施形態による周波数成分の状態を1音響フレーム単位で示す。図3に示す各音響フレームにおいて、横軸は時間方向、縦軸は周波数方向を示している。また、網掛けされた部分は、周波数成分が存在している(0より大)部分を示し、網掛けが濃いほど成分強度が強いことを示している。本実施形態では、電話高周波帯のうち時間的に前部の成分と後部の成分の分布により埋め込む符号の区別を行う。
【0040】
本実施形態では、図3(a)に示すような原状態の周波数成分に対して、各音響フレームの電話高周波帯における成分の状態を変更することにより、3つの状態に設定する。具体的には、前部、後部ともに成分が除去された状態(以下、「状態0」という)、前部の強度が大きい状態(以下、「状態1」という)、後部の強度が大きい状態(以下、「状態2」という)のいずれかに変更する。このうち、状態0は書込みエラーが生じた場合に用いるため、状態1と状態2により、1音響フレームに2値(1ビット)の情報を埋め込むことが可能となる。
【0041】
状態0に設定する場合、L-chの信号の電話高周波帯の成分を全て除去し、除去した成分と同等の成分をR-chの信号の電話高周波帯に加算して図3(b)に示すような状態に変更する。状態1に設定する場合、L-chの信号の電話高周波帯の前部の各スペクトル集合の強度を高め、R-chの信号の電話高周波帯の前部の各スペクトル集合の強度を弱めている。また、L-chの信号の電話高周波帯の中央部と後部の各スペクトル集合の成分を除去し、除去した成分と同等の成分をR-chの信号の電話高周波帯に加算する。このようにして図3(c)に示すような状態に変更する。
【0042】
状態2に設定する場合、L-chの信号の電話高周波帯の前部と中央部の各スペクトル集合の成分を除去し、除去した成分と同等の成分をR-chの信号の電話高周波帯に加算する。また、L-chの信号の電話高周波帯の後部のスペクトル集合の強度を高め、R-chの信号の電話高周波帯の後部のスペクトル集合の強度を弱めている。このようにして図3(d)に示すような状態に変更する。
【0043】
周波数成分変更手段30は、Aタイプの音響フレームについて、付加情報読込手段70が読み込んだビット値に応じて、スペクトル集合の強度を変更する処理を行う。本実施形態では、付加情報を1ビットずつ読み込み、2通りの値のいずれであるかを1音響フレームに対して埋め込む。周波数成分変更手段30は、読み込んだ値1、値2に応じて、電話高周波帯成分の状態を状態1、状態2のいずれかに変更する。具体的には、まず、周波数成分変更手段30は、上記〔数式5〕により求めた左チャンネルの実部Al(1,j)、Al(3,j)、虚部Bl(1,j)、Bl(3,j)、右チャンネルの実部Ar(1,j)、Ar(3,j)、虚部Br(1,j)、Br(3,j)を利用して、以下の〔数式7〕により、強度値E1、E2を算出する。
【0044】
〔数式7〕
1=Σj=m,M-1{Al(1,j)2+Bl(1,j)2+Ar(1,j)2+Br(1,j)2}・F(j−m)・C
2=Σj=m,M-1{Al(3,j)2+Bl(3,j)2+Ar(3,j)2+Br(3,j)2}・F(j−m)・C
【0045】
上記〔数式7〕中のF(j)は周波数方向の値に応じて変化する窓関数であり、以下の〔数式8〕で定義されるものである。
【0046】
〔数式8〕
F(j)=1.0−(j−Pr)2/Pr2
【0047】
上記〔数式8〕において、Pr=P/2である。なお、P=M−mである。この窓関数F(j)が描く曲線を図4に示す。図4に示すように、窓関数F(j)は、電話高周波帯における周波数の中心部分に重みを大きくした関数となっている。実際に窓関数F(j)を適用する際には、電話高周波帯の下限であるmだけjの値を補正して適用することになる。
【0048】
また、上記〔数式7〕中のCは固定係数であり、周波数窓関数を利用することにより低減する強度を補正する。この固定係数Cは、以下の〔数式9〕で定義される。
【0049】
〔数式9〕
C=1.0/Σj=0,P-1F(j)
【0050】
上記〔数式7〕において、mは電話高周波帯の下限の成分の番号、Mは電話高周波帯の上限のすぐ上の成分の番号である。本実施形態では、電話高周波帯を“1.7kHz〜3.4kHz”とするため、m=160、M=320に設定する。したがって、この場合、P=160となる。上記〔数式7〕により算出されたE1、E2は音響フレームの電話高周波帯における前部、後部のスペクトル集合の強度値を示すことになる。続いて、この強度値E1、E2がレベル下限値Lev以上であるかどうかの判定を行う。レベル下限値Levは、音響信号Xl(i)、Xr(i)の振幅最大値が1に正規化されており、M=320に設定されている場合、0.25に設定する。このLev=0.25という値は、経験的にアナログ変換への耐性が維持できるレベルであり、成分強度が小さい場合は適宜下げることになるが、その場合は、アナログ変換により検出精度も低下することになる。
【0051】
強度値E1、E2がレベル下限値Lev以上であるかどうかを判断するのは、信号の強度が小さいと、信号を変化させても、その変化を抽出側で検出することができないためである。すなわち、電話高周波帯における各スペクトル成分を十分な大きさとすることができるかどうかを判断することになる。
【0052】
1がレベル下限値Levより大きく、埋め込むべき値が“値1”である場合、以下の〔数式10〕に従った処理を実行することにより、電話高周波帯の状態を“状態1”、すなわち、図3(c)に示したような状態に変更する。
【0053】
〔数式10〕
j=m〜M−1の各成分に対して
Al´(3,j)=0
Bl´(3,j)=0
E(3,j)={Al(3,j)2+Bl(3,j)2+Ar(3,j)2+Br(3,j)21/2
Ar´(3,j)=Ar(3,j)・E(3,j)/{Ar(3,j)2+Br(3,j)21/2
Br´(3,j)=Br(3,j)・E(3,j)/{Ar(3,j)2+Br(3,j)21/2
Al´(2,j)=0
Bl´(2,j)=0
E(2,j)={Al(2,j)2+Bl(2,j)2+Ar(2,j)2+Br(2,j)21/2
Ar´(2,j)=Ar(2,j)・E(2,j)/{Ar(2,j)2+Br(2,j)21/2
Br´(2,j)=Br(2,j)・E(2,j)/{Ar(2,j)2+Br(2,j)21/2
さらに、j=m〜M−1の各成分に対して、
E(1,j)={Al(1,j)2+Bl(1,j)2+Ar(1,j)2+Br(1,j)21/2
Al´(1,j)=F(j−m)・Al(1,j)・E(1,j)/{Al(1,j)2+Bl(1,j)21/2
Bl´(1,j)=F(j−m)・Bl(1,j)・E(1,j)/{Al(1,j)2+Bl(1,j)21/2
Ar´(1,j)=(1.0−F(j−m))・Al(1,j)・E(1,j)/{Al(1,j)2+Bl(1,j)21/2
Br´(1,j)=(1.0−F(j−m))・Bl(1,j)・E(1,j)/{Al(1,j)2+Bl(1,j)21/2
【0054】
上記〔数式10〕においては、j=m〜M−1において、Al´(3,j)、Bl´(3,j)を共に0としている。これは、図3(c)の上段に示すように、L-chにおいて、電話高周波帯の後部の各成分を0にすることを示しているが、“状態1”は、電話高周波帯の前部との差を明確にすることができれば十分であるため、必ずしも0にする必要はなく、十分に小さな値であれば良い。
【0055】
2がレベル下限値Levより大きく、埋め込むべき値が“値2”である場合、以下の〔数式11〕に従った処理を実行することにより、電話高周波帯の状態を“状態2”、すなわち、図3(d)に示したような状態に変更する。
【0056】
〔数式11〕
j=m〜M−1の各成分に対して、
Al´(1,j)=0
Bl´(1,j)=0
E(1,j)={Al(1,j)2+Bl(1,j)2+Ar(1,j)2+Br(1,j)21/2
Ar´(1,j)=Ar(1,j)・E(1,j)/{Ar(1,j)2+Br(1,j)21/2
Br´(1,j)=Br(1,j)・E(1,j)/{Ar(1,j)2+Br(1,j)21/2
Al´(2,j)=0
Bl´(2,j)=0
E(2,j)={Al(2,j)2+Bl(2,j)2+Ar(2,j)2+Br(2,j)21/2
Ar´(2,j)=Ar(2,j)・E(2,j)/{Ar(2,j)2+Br(2,j)21/2
Br´(2,j)=Br(2,j)・E(2,j)/{Ar(2,j)2+Br(2,j)21/2
さらに、j=m〜M−1の各成分に対して、
E(3,j)={Al(3,j)2+Bl(3,j)2+Ar(3,j)2+Br(3,j)21/2
Al´(3,j)=F(j−m)・Al(3,j)・E(3,j)/{Al(3,j)2+Bl(3,j)21/2
Bl´(3,j)=F(j−m)・Bl(3,j)・E(3,j)/{Al(3,j)2+Bl(3,j)21/2
Ar´(3,j)=(1.0−F(j−m))・Al(3,j)・E(3,j)/{Al(3,j)2+Bl(3,j)21/2
Br´(3,j)=(1.0−F(j−m))・Bl(3,j)・E(3,j)/{Al(3,j)2+Bl(3,j)21/2
【0057】
上記〔数式11〕においては、j=m〜M−1において、Al´(1,j)、Bl´(1,j)を共に0としている。これは、図3(d)の上段に示すように、L-chにおいて、電話高周波帯の前部の各成分を0にすることを示しているが、“状態2”は電話高周波帯の後部との差を明確にすることができれば十分であるため、必ずしも0にする必要はなく、十分に小さな値であれば良い。
【0058】
値を埋め込む場合、埋め込まれる側の電話高周波帯の成分強度が小さすぎると、信号を変化させても、その変化を抽出側で検出することができない。そこで、このような場合には、情報が埋め込まれている音響フレームとの違いを明確にするため、以下の〔数式12〕に従った処理を実行し、その電話高周波帯の成分を除去する。これは、図3(b)に示すような “状態0”の状態である。
【0059】
〔数式12〕
j=0〜M−1の各成分に対して
Al´(1,j)=0
Bl´(1,j)=0
Al´(2,j)=0
Bl´(2,j)=0
Al´(3,j)=0
Bl´(3,j)=0
E(1,j)={Al(1,j)2+Bl(1,j)2+Ar(1,j)2+Br(1,j)21/2
Ar´(1,j)=Ar(1,j)・E(1,j)/{Ar(1,j)2+Br(1,j)21/2
Br´(1,j)=Br(1,j)・E(1,j)/{Ar(1,j)2+Br(1,j)21/2
E(2,j)={Al(2,j)2+Bl(2,j)2+Ar(2,j)2+Br(2,j)21/2
Ar´(2,j)=Ar(2,j)・E(2,j)/{Ar(2,j)2+Br(2,j)21/2
Br´(2,j)=Br(2,j)・E(2,j)/{Ar(2,j)2+Br(2,j)21/2
E(3,j)={Al(3,j)2+Bl(3,j)2+Ar(3,j)2+Br(3,j)21/2
Ar´(3,j)=Ar(3,j)・E(3,j)/{Ar(3,j)2+Br(3,j)21/2
Br´(3,j)=Br(3,j)・E(3,j)/{Ar(3,j)2+Br(3,j)21/2
【0060】
上記のように、Aタイプの音響フレームに対しては、埋め込むべきビット値に応じて、電話高周波帯の変更を行う必要があるため、周波数成分変更手段30は、上記〔数式10〕〔数式11〕〔数式12〕に従った処理を実行する。ところが、Bタイプの音響フレームは、Aタイプの音響フレームのみの場合に生じる両端部分の不連続性を防止するために用いられるものであるので、ビット値に応じて電話高周波帯成分の変更を行う必要はない。そこで、周波数成分変更手段30は、Bタイプの音響フレームについては、以下の〔数式13〕に従った処理を実行し、常に左信号の電話高周波帯成分を除去する。
【0061】
〔数式13〕
j=0〜M−1の各成分に対して
Al´(4,j)=0
Bl´(4,j)=0
E(4,j)={Al(4,j)2+Bl(4,j)2+Ar(4,j)2+Br(4,j)21/2
Ar´(4,j)=Ar(4,j)・E(4,j)/{Ar(4,j)2+Br(4,j)21/2
Br´(4,j)=Br(4,j)・E(4,j)/{Ar(4,j)2+Br(4,j)21/2
【0062】
周波数逆変換手段40は、上記のようにして、電話高周波帯成分の状態が変更されたフレームスペクトルを周波数逆変換して改変音響フレームを得る処理を行う。この周波数逆変換は、当然のことながら、周波数変換手段20が実行した手法に対応していることが必要となる。本実施形態では、周波数変換手段20において、フーリエ変換を施しているため、周波数逆変換手段40は、フーリエ逆変換を実行することになる。
【0063】
具体的には、Aタイプの音響フレームに対しては、周波数逆変換手段40は、上記〔数式10〕〔数式11〕〔数式12〕により得られたスペクトルの左チャンネルの実部Al´(1,j)等、虚部Bl´(1,j)等、右チャンネルの実部Ar´(1,j)等、虚部Br´(1,j)等を用いて、以下の〔数式14〕に従った処理を行い、Xl´(i)、Xr´(i)を算出する。なお、上記〔数式10〕〔数式11〕〔数式12〕において改変されていない周波数成分については、Al´(1,j)等として、元の周波数成分であるAl(1,j)等を用いる。
【0064】
〔数式14〕
Xl´(i)=1/N・{ΣjAl´(1,j)・cos(2πij/N)−ΣjBl´(1,j)・sin(2πij/N)}+1/N・{ΣjAl´(2,j)・cos(2πij/N)−ΣjBl´(2,j)・sin(2πij/N)}+1/N・{ΣjAl´(3,j)・cos(2πij/N)−ΣjBl´(3,j)・sin(2πij/N)}+Xlp(i+N/2)
Xr´(i)=1/N・{ΣjAr´(1,j)・cos(2πij/N)−ΣjBr´(1,j)・sin(2πij/N)}+1/N・{ΣjAr´(2,j)・cos(2πij/N)−ΣjBr´(2,j)・sin(2πij/N)}+1/N・{ΣjAr´(3,j)・cos(2πij/N)−ΣjBr´(3,j)・sin(2πij/N)}+Xrp(i+N/2)
【0065】
上記〔数式14〕においては、式が繁雑になるのを防ぐため、Σj=0,,N-1をΣjとして示している。上記〔数式14〕における第1式の“+Xlp(i+N/2)”、第2式の“+Xrp(i+N/2)”の項は、直前に改変された改変音響フレームのデータXlp(i)、Xrp(i)が存在する場合に、時間軸上N/2サンプル分重複することを考慮して加算するためのものである。上記〔数式14〕によりAタイプの改変音響フレームの左チャンネルの各サンプルXl´(i)、右チャンネルの各サンプルXr´(i)、が得られることになる。
【0066】
Bタイプの音響フレームに対しては、周波数逆変換手段40は、上記〔数式13〕により得られたスペクトルの左チャンネルの実部Al´(4,j)、虚部Bl´(4,j)、右チャンネルの実部Ar´(4,j)、虚部Br´(4,j)を用いて、以下の〔数式15〕に従った処理を行い、Xl´(i)、Xr´(i)を算出する。なお、上記〔数式13〕において改変されていない周波数成分については、以下の〔数式15〕においてはAl´(4,j)、Bl´(4,j)、Ar´(4,j)、Br´(4,j)として、元の値であるAl(4,j)、Bl(4,j)、Ar(4,j)、Br(4,j)を用いる。
【0067】
〔数式15〕
Xl´(i)=1/N・{ΣjAl´(4,j)・cos(2πij/N)−ΣjBl´(4,j)・sin(2πij/N)}+Xlp(i+N/2)
Xr´(i)=1/N・{ΣjAr´(4,j)・cos(2πij/N)−ΣjBr´(4,j)・sin(2πij/N)}+Xrp(i+N/2)
【0068】
上記〔数式15〕によりBタイプの改変音響フレームの左チャンネルの各サンプルXl´(i)、右チャンネルの各サンプルXr´(i)、が得られることになる。
【0069】
改変音響フレーム出力手段50は、周波数逆変換手段40の処理により得られたAタイプの改変音響フレーム、Bタイプの改変音響フレームを順次出力ファイルに出力する。
【0070】
次に、図1に示した音響信号に対する情報の埋め込み装置の処理の全体的な流れを、図5のフローチャートに従って説明する。図1に示した装置を構成する各構成要素は、連携して図5に従った処理を実行する。図5は、付加情報1ワード分の処理に対応したものとなっている。1ワードとしては、任意のビット数に設定することができるが、上述のように、本実施形態では誤り検出ビットを含めて1バイト(8ビット)に設定されている。また、情報の埋め込みは、Aタイプの音響フレームに対して行われるので、図5は、Aタイプの音響フレームについての説明となっている。Bタイプの音響フレームについては、Aタイプの音響フレームと並行して、音響フレーム読込手段10により読み込まれ、窓関数W(4,i)を利用して周波数変換手段20により周波数変換された後、周波数成分変更手段30により電話高周波帯成分が除去され、周波数逆変換手段40により周波数逆変換された後、改変音響フレーム出力手段50により出力される。
【0071】
図5においては、まず、付加情報読込手段70は、付加情報記憶部62から抽出した付加情報に対して誤り検出ビットを1ビット付加して8ビットのビット配列を作成し、これを1ワードとしてセットする(S101)。具体的には、音響信号に対する情報の埋め込み装置として用いられるコンピュータ内のレジスタに1ワード読み込むことになる。
【0072】
次に、周波数成分変更手段30が、レジスタに保持された1ワードから1ビットを読み込む処理を行う(S102)。
【0073】
続いて、音響フレーム読込手段10が、音響信号記憶部61に記憶されたステレオ音響信号の左右の各チャンネルから、それぞれ所定数のサンプルを1音響フレームとして読み込む(S103)。
【0074】
続いて、周波数変換手段20および周波数成分変更手段30が、音響フレームの電話高周波帯成分の状態を“状態1”、“状態2”のいずれかに変更する処理を行う(S104)。具体的には、読み込んだ音響フレームに対して、周波数変換を行って、その音響フレームのスペクトルであるフレームスペクトルを得る。すなわち、各音響フレームについて、3つの窓関数W(1,i)、W(2,i)、W(3,i)を用いて、上記〔数式5〕に従った処理を行うことになる。
【0075】
続いて、周波数成分変更手段30は、上記〔数式7〕によりE1〜E2を算出する。そして、付加情報読込手段70から受け取った各ビットのビット値である値1、値2に応じて上記〔数式10〕〔数式11〕に従った処理を実行し、電話高周波帯成分の状態を“状態1”、“状態2”のいずれかに変更する。
【0076】
S104において、“状態1”、“状態2”のいずれにも変更することができない場合は、電話高周波帯成分を“状態0”とする処理を行う(S105)。具体的には、上記〔数式12〕に従った処理を実行することになる。“状態1”、“状態2”のいずれにも変更することができない場合とは、埋め込むべき値に対応する強度値E1、E2のいずれかが、レベル下限値Lev以下となっている場合である。例えば、値1を埋め込む場合、E1がレベル下限値Levより大きい必要があるため、E1がLev以下である場合は、S105に進むことになる。
【0077】
上記〔数式12〕に従った処理を実行することにより、左チャンネルのフレームスペクトルの電話高周波帯成分は、前部のスペクトル集合、後部のスペクトル集合ともに“0”で同一となる。なお、上記〔数式12〕においては、j=0〜M−1の各成分に対してAl´(j)=Bl´(j)=0としているが、抽出側において、“状態1”、“状態2”のいずれでもないことを認識可能とすることを目的としているため、十分小さな値であれば、必ずしも0とする必要はない。また、必ずしも前部と後部のスペクトル成分の値が同一である必要はなく、差が小さければ良い。
【0078】
次に、周波数逆変換手段40が、上記S104、S105の処理により各スペクトル集合間の強度割合が変更されたフレームスペクトルを周波数逆変換して改変音響フレームを得る処理を行う(S106)。この周波数逆変換は、当然のことながら、周波数変換手段20がS104において実行した手法に対応していることが必要となる。本実施形態では、周波数変換手段20において、フーリエ逆変換を施しているため、周波数逆変換手段40は、フーリエ逆変換を実行することになる。具体的には、上記〔数式10〕〔数式11〕〔数式12〕のいずれかにより得られたスペクトルの左チャンネルの実部Al´(1,j)等、虚部Bl´(1,j)等、右チャンネルの実部Ar´(1,j)等、虚部Br´(1,j)等を用いて、上記〔数式14〕に従った処理を行い、Xl´(i)、Xr´(i)を算出する。
【0079】
改変音響フレーム出力手段50は、得られた改変音響フレームを順次出力ファイルに出力する。こうして1つの音響フレームに対する処理を終えたら、状態0に設定した場合には、音響フレーム読込手段10が、次の音響フレームを読み込む(S103)。一方、状態1、状態2のいずれかに設定した場合には、周波数成分変更手段30がビット配列中の次の1ビットを読み込む(S102)。以上のような処理を音響信号の両チャンネルの全サンプルに渡って実行していく。すなわち、所定数のサンプルを音響フレームとして読み込み、音響信号から読み込むべき音響フレームがなくなったら(S103)、処理を終了する。なお、S101において読み込んだ1ワードのデータの各ビットに対応する処理を終えた場合、S102からS101に戻り、付加情報の次のワードを読み込んでビット配列を作成する処理を行うことになる。付加情報の全ワードに対して処理が終了した場合は、付加情報の先頭ワードに戻って処理を行う。この結果、全ての音響フレームに対して処理を行った全ての改変音響フレームが出力ファイルに記録されて、改変音響信号として得られる。得られた改変音響信号は、記憶手段60内の改変音響信号記憶部63に出力され、記憶される。
【0080】
なお、本実施形態では、付加情報を1ワード7ビットとし、誤り検出用の1ビットを付加して1ワード8ビットとして処理する場合について説明したが、抽出側と取り決めがある限り、付加情報の1ワードを任意のビット数単位で記録することが可能である。
【0081】
上記のようにして得られた改変音響信号の左チャンネルのうち、付加情報が埋め込まれている部分については、電話高周波帯成分は、上記状態0〜状態2の3通りの分布しかないことになる。しかし、電話高周波帯以外の周波数帯における成分については、元の音響信号のままであるので、制作者の設定に基づいた種々な分布になる。また、上記の例で示したように、ステレオ音響信号を利用した場合には、左チャンネルにおいて変化させられた電話高周波帯成分は、上記〔数式10〕〔数式11〕〔数式12〕の処理からも明らかなように、必ず右チャンネルの電話高周波帯成分に付加されている。したがって、右チャンネルが左チャンネルにおいて削除された成分を補っているため、両チャンネル全体として見ると、信号の劣化がない。
【0082】
(4.音響信号からの情報の抽出装置)
次に、本発明に係る音響信号からの情報の抽出装置について説明する。図6は、本発明に係る音響信号からの情報の抽出装置の一実施形態を示す構成図である。図6において、100は音響信号入力手段、110は基準フレーム獲得手段、120は位相変更フレーム設定手段、130は周波数変換手段、140は符号判定パラメータ算出手段、150は符号出力手段、160は付加情報抽出手段、170は音響フレーム保持手段である。
【0083】
音響信号入力手段100は、流れている音声をデジタル音響信号として取得し、入力する機能を有している。現実には、マイクロフォンおよびA/D変換器により実現される。マイクロフォンとしては、電話高周波帯成分が検出可能なものであれば、モノラル無指向性のものであっても、ステレオ指向性のものであっても使用可能である。ステレオ指向性のものであっても一方のチャンネルだけ利用すれば良い。また、図2に示した装置で情報の埋め込みを行った場合には、特別精度の高いものでなく、一般的な精度のマイクロフォンを用いても情報の抽出が可能となる。基準フレーム獲得手段110は、入力されたデジタルのモノラル音響信号(あるいはステレオ音響信号の1チャンネル)から所定数のサンプルで構成される音響フレームを基準フレームとして読み込む機能を有している。位相変更フレーム設定手段120は、基準フレームと所定サンプルずつ移動させることにより位相を変更した音響フレームを位相変更フレームとして設定する機能を有している。周波数変換手段130は、図2に示した周波数変換手段20と同様の機能を有している。
【0084】
符号判定パラメータ算出手段140は、生成されたフレームスペクトルから電話高周波帯に相当する周波数成分を抽出し、各スペクトル集合に対応した強度値EC1、EC2を以下の〔数式16〕に基づいて算出し、この強度値EC1、EC2を符号判定パラメータとし、この符号判定パラメータEC1、EC2の比率等に基づいて、所定の状態であると判断する機能を有している。以下の〔数式16〕は上記〔数式7〕において右チャンネル成分を削除したもので、抽出時には右チャンネル成分を参照しないためである。
【0085】
〔数式16〕
C1=Σj=m,M-1{Al(1,j)2+Bl(1,j)2}・F(j−m)・C
C2=Σj=m,M-1{Al(3,j)2+Bl(3,j)2}・F(j−m)・C
【0086】
符号出力手段150は、1つの基準フレームに対応する音響フレーム(基準フレームおよび位相変更フレーム)の中から最適な位相であると判断されるものを判断し、その音響フレームの状態に対応する符号を出力する機能を有している。符号判定パラメータ算出手段140と符号出力手段150により符号化手段が構成される。付加情報抽出手段160は、符号出力手段150により出力された3値の配列を、所定の規則により変換して意味のある付加情報として抽出する機能を有している。音響フレーム保持手段170は、連続する2個の基準フレームを保持可能なバッファメモリである。図6に示した各構成手段は、現実には情報処理機能を有する小型のコンピュータおよびその周辺機器等のハードウェアに専用のプログラムを搭載することにより実現される。特に、本発明の目的をより簡易に達成するためには、携帯型端末装置をハードウェアとして用いることが望ましい。
【0087】
(5.抽出装置の処理動作)
次に、図6に示した音響信号からの情報の抽出装置の処理動作について図7のフローチャートに従って説明する。まず、本装置では、平均符号レベルHL1、HL2、位相判定テーブルS(p)、非符号カウンタNnを初期化する(S200)。これらについて説明する。平均符号レベルHL1、HL2は、値1、値2が埋め込まれていたと判断される音響フレーム(以下、有効フレームと呼ぶことにする)についての、上記〔数式16〕で算出される電話高周波帯成分の強度値EC1、EC2それぞれの平均値、すなわち、過去の有効フレームにおけるこれらの値の平均値で与えられるものであり、初期値は、0.1に設定されている。位相判定テーブルS(p)は、位相を判定するためのテーブルであり、pは0〜5の整数値をとる。初期値はS(p)=0に設定されている。非符号カウンタNnは、信号レベルが低く、非符号(埋め込みエラーを示す情報)であると判断されるフレーム数のカウンタであり、初期状態では、Nn=0に設定される。
【0088】
このように、初期値が設定されている状態で、利用者が流れている音楽について、その楽曲名等の属性情報を知りたいと思った場合、まず、抽出装置に対して、抽出装置としての起動の指示を行う。これは、例えば、抽出装置を携帯電話機等の携帯端末で実現している場合は、所定のボタンを操作することにより実行できる。抽出装置は、指示が入力されると、音響信号入力手段100が、流れている音楽を録音し、デジタル化してデジタル音響信号として入力する。具体的には、無指向性マイクロフォン(または指向性マイクロフォンの一方のチャンネル)から入力される音声を、A/D変換器によりデジタル化する処理を行うことになる。
【0089】
続いて、基準フレーム獲得手段110が、音響信号入力手段100から入力された音響信号から、所定数のサンプルで構成される音響フレームを基準フレームとして抽出する(S201)。具体的には、基準フレームを抽出して音響フレーム保持手段170に読み込むことになる。基準フレーム獲得手段110が基準フレームとして読み込む1音響フレームのサンプル数は、図2に示した音響フレーム読込手段10で設定されたものと同一にする必要がある。したがって、本実施形態の場合、基準フレーム獲得手段110は、4096サンプルずつ、順次基準フレームとして読み込んでいくことになる。音響フレーム保持手段170には、上述のように2個の基準フレームが格納可能となっており、新しい基準フレームが読み込まれると、古い基準フレームを破棄するようになっている。したがって、音響フレーム保持手段170には、常に基準フレーム2個分(連続する8192サンプル)が格納されていることになる。
【0090】
埋め込み装置で処理する音響フレームは、先頭から途切れることなく隣接して設定される基準フレームと、この基準フレームと位相を変更した位相変更フレームとに分けることができる。基準フレームについては、最初の基準フレームとしてサンプル番号1からサンプル番号4096までを設定したら、次の基準フレームは、サンプル番号4097からサンプル番号8192、さらに次の基準フレームは、サンプル番号8193からサンプル番号12288、というように途切れることなく設定される。そして、各基準フレームについて、1/6フレーム(約683サンプル)ずつ移動した5個の位相変更フレームを設定する。例えば、最初の基準フレームについては、サンプル番号683、1366、2049、2732、3413から始まる4096のサンプルで構成される5個の位相変更フレームが設定されることになる。続いて、周波数変換手段130、符号判定パラメータ算出手段140が、読み込んだ各音響フレームから、埋め込まれている情報を判定し、対応する符号を出力する(S202)。出力される情報の形式は、付加情報が埋め込まれる場合に対応する値1、値2の2値、および値0の計3値の形式となる。
【0091】
ここで、ステップS202の符号判定処理の詳細を図8のフローチャートに従って説明する。まず、周波数変換手段130が、読み込んだ各音響フレームに対して、周波数変換を行ってフレームスペクトルを得る(S301)。この処理は、図2に示した周波数変換手段20における処理と同様である。ただし、抽出に用いるのは、左チャンネルだけであるので、上記〔数式5〕に従った処理を行い、左チャンネルに対応する変換データの実部Al(1,j)等、虚部Bl(1,j)等を得る。
【0092】
上記周波数変換手段130における処理により、周波数に対応した成分であるスペクトルで表現されたフレームスペクトルが得られる。続いて、符号判定パラメータ算出手段140は、平均符号レベルHL1、HL2の算出を行う(S302)。具体的には、過去“状態1”であると判断された音響フレームについての強度値EC1の積算値であるv1を、過去“状態1”であると判断された音響フレームの数であるn1で除算することによりHL1を算出し、過去“状態2”であると判断された音響フレームについての強度値EC2の積算値であるv2を、過去“状態2”であると判断された音響フレームの数であるn2で除算することによりHL2を算出する。
【0093】
続いて、符号判定パラメータ算出手段140は、候補符号テーブルの初期化を行う(S303)。候補符号テーブルは、1つの基準フレームおよび5個の位相変更フレームを特定する0〜5の位相番号および、この6個の音響フレームの状態から得られる3値の符号を記録するものである。
【0094】
続いて、符号判定パラメータ算出手段140は、強度値EC1、強度値EC2を用いて、電話高周波帯成分の状態がどのような状態であるか、すなわち、1ビットの値としてどのような値が埋め込まれていたかを判断する処理を行う(S304)。具体的には、強度値EC1、EC2に対応する所定値としてそれぞれ平均符号レベルHL1、HL2に0.01を乗じた値を設定し、以下の条件に従って状態を判断し、対応する符号を出力する。
【0095】
C1>0.01HL1 かつ EC1>2・EC2の場合、 値1を出力
C2>0.01HL2 かつ EC2>2・EC1の場合、 値2を出力
【0096】
符号判定パラメータ算出手段140は、各音響フレーム単位で、上記判定結果に応じて値1、値2のいずれかを出力する(S307)。上記いずれの条件も満たさない場合は、“状態0”であると判断し、値0を出力する(S308)。この“状態0”は、強度値E1、E2が下限値Lev以下であることにより、当該フレームに値1、値2の記録が行なわれなかったことを示す埋め込みエラーを示すものとなる。
【0097】
また、上記判定の結果、値1、値2のいずれかを出力した場合には、さらに、以下の〔数式17〕に従って位相判定テーブルS(p)の更新を行う(S309)。
【0098】
〔数式17〕
“状態1”であると判断し、値1を出力した場合、S(p)←S(p)+EC1/EC2
“状態2”であると判断し、値2を出力した場合、S(p)←S(p)+EC2/EC1
【0099】
続いて、符号判定パラメータ算出手段140は、候補符号テーブルに、最適位相となる候補を保存する(S310)。具体的には、位相判定テーブルに記録されているS(p)の値が最大となる位相番号pの値、前記S307、S308により判定された3値のいずれかの符号、その音響フレームについての上記〔数式16〕に従った処理を実行することにより算出した、電話高周波帯成分に対応するEC1、EC2のいずれかを最適位相の候補として候補符号テーブルに保存する。
【0100】
続いて、全ての位相番号pに対応する処理を終えたかどうかを判定する(S311)。これは、ある基準フレームに対して全ての位相変更フレームの処理を行ったかどうかを判定している。本実施形態では、pが0〜5までの値をとるので、6回分処理していない場合は、処理していた音響フレームから所定サンプル数ずらして、位相の異なる音響フレームを設定し、S304に戻って処理を繰り返す。なお、p=0の場合が基準フレームであり、p=1〜5の場合が位相変更フレームである。全ての位相番号pに対応する処理を終えた場合は、候補保存テーブルに記録されている位相番号pに対応する位相が最適位相であると判定し、候補保存テーブルに記録されている符号を出力する(S312)。
【0101】
再び図7のフローチャートに戻って説明する。S202による処理の結果、値1、値2に相当する符号が出力された場合には、平均符号レベルのパラメータの更新処理を行う(S203)。具体的には、平均符号レベルHL1、HL2算出の際の分子となる積算値v1、v2に、それぞれ強度値EC1、EC2を加算して積算値v1、v2を更新し、分母となるフレーム数n1、n2にそれぞれ1を加算してフレーム数n1、n2を更新することにより行う。n1、n2はあらかじめ設定したnmax(例えば100)を超えないように設定する。
【0102】
続いて、非符号カウンタの初期化処理を行う(S204)。具体的には、上記S200の初期化処理における処理と同様、非符号カウンタNn=0と設定する。さらに、出力された値に対応する1ビットをバッファに保存する(S205)。次に、ビットカウンタを“1”だけカウントアップする(S206)。
【0103】
次に、ビットカウンタが7以下であるか8以上であるかを判断する。ビットカウンタが7以下の場合は、S201に戻って、次の基準フレームを抽出する処理を行う。
【0104】
ビットカウンタが8以上である場合は、バッファに保存されたビット列のうち最後の8ビットを抽出し、そのうち前7ビットでパリティ計算を行う(S207)。そして、抽出した最後の8ビットのうち8ビット目と照合を行う。この結果、不一致の場合は、S201に戻って、次の基準フレームを抽出する処理を行う。
【0105】
照合の結果、一致する場合には、付加情報抽出手段160が、前7ビットに1ビット付加して出力する(S208)。ここで、照合結果が一致する場合は、照合に用いた8ビット目が誤り検出ビットであった可能性が高いことになる。そうすると、その前の7ビットは元の付加情報における7ビットであると考えられる。このため、その先頭からの7ビットにビット0を付加することによりASCIIコードにおける1ワードとして出力するのである。逆に不一致である場合は、照合に用いた8ビット目が誤り検出ビットでない可能性が高いことになる。そうすると、その時点で保持している7ビットは、元の付加情報における7ビットからずれたものであると考えられる。この場合は、先頭の1ビットを破棄して、S201からS206の処理により新たな1ビットを得るための処理を行うのである。
【0106】
このようにパリティチェックを行い、これに合格した場合は、その部分がワードの区切りである可能性が高いので、それが本当に区切りであれば、以降は8ビットずつ抽出すれば、全て正確にワード単位で抽出を行うことができる。逆に、パリティチェックに合格したとしても、それが偶然であり、実はワードの区切りではない場合も考えられる。このような場合は、次のパリティチェックの際に不合格となる可能性が高く、何回か繰り返しているうちに正しい区切りが正確に判断できることになる。S208において、前7ビットに1ビット付加して出力した場合には、ビットカウンタを0に初期化する(S209)。そして、S201に戻って、次の基準フレームを抽出する処理を行う。
【0107】
S202による処理の結果、値0が出力された場合には、非符号カウンタのカウントアップ処理を行う(S210)。具体的には、非符号カウンタNnの値に1を加算する。そして、非符号カウンタNnの値がnmax以上である場合は、S200に戻って初期化処理を行う。非符号カウンタNnの値がnmax未満である場合は、S201に戻って符号抽出処理を継続する。図7に示す処理を各基準フレームに対して実行することにより、付加情報が抽出されることになる。S201において全ての基準フレームが抽出されたと判断された場合には、処理を終了する。
【0108】
上記S208の処理において、付加情報抽出手段160は、まず、符号出力手段150により出力された値を、所定の規則により変換して意味のある付加情報として抽出する。所定の規則としては、情報を埋め込む者が意図した情報が受け取った者に認識可能な状態とできるものであれば、さまざまな規則が採用できるが、本実施形態では、ASCIIコードを採用している。すなわち、付加情報抽出手段160は、符号判定パラメータ算出手段140が判定し、符号出力手段150から出力される符号から得られるビット値の配列を1バイト(8ビット)単位で認識し、これをASCIIコードに従って文字情報を認識する。このようにして得られた文字情報は、表示装置(図示省略)の画面に表示出力される。
【0109】
従って、埋め込み装置により音響信号に、その楽曲の曲名やアーチスト等の属性情報を文字情報として埋め込んでおけば、利用者は、その音楽が流れているのを聞いて、その曲名やアーチストを知りたいと思ったときに、抽出装置として機能する自身の携帯端末に所定の操作を行えば、自身の携帯端末の画面に曲名やアーチスト等の属性情報が文字情報として表示されることになる。
【0110】
以上の処理においては、抽出装置において正確に付加情報を抽出するために、位相を補正する処理、無効フレームであることを判断するための下限閾値を補正する処理を行っている。次に、これらの補正処理について補足説明を行う。
【0111】
(6.位相補正処理について)
上記のように、抽出時には、埋め込み時に埋め込んだ音響フレームに対応して、音響信号を読み込むことができるとは限らない。そこで、音響フレームの位相をずらして複数通り(本実施形態では6通り)で読み込み、その中で最適な位相を決定し、その位相で特定される音響フレームに対応する符号を出力することにしている。例えば、6通りで読み込む場合、先頭の音響フレームは、本来サンプル番号1〜4096のサンプルであるが、サンプル番号1、683、1366、2049、2732、3413から始まる4096のサンプルで構成される6個の各音響フレームに対して処理を行い、最適な音響フレームに対応する符号を出力することになる。この位相補正処理は、S303、S309、S310、S311、S312における処理を中心として行われることになる。
【0112】
(7.下限閾値補正処理について)
信号レベルが小さい場合には、前部、後部の強度の大小が判定できず、抽出側で誤判断することが多くなる。そこで、強度値EC1、EC2が所定の閾値以下のフレームについては、無効なフレームであると判断するようにしているが、この際の閾値を過去の有効フレームについての周波数強度の積算値を利用して補正する処理を行っている。このように閾値を変動させることにより、信号レベルが変動しても無効なフレームであるか、有効なフレームであるかを正確に判断することが可能となる。この下限閾値補正処理は、S302、S203における処理を中心として行われることになる。
【0113】
(8.モノラル音響信号の場合)
上記実施形態においては、埋め込み装置、抽出装置のいずれにおいても、左右のチャンネルを有するステレオ音響信号の左チャンネル信号に付加情報を埋め込む場合を例にとって説明したが、逆に右チャンネル信号に付加情報を埋め込むようにしても良い。本発明は、左右の特性には無関係だからである。また、1つのチャンネルしかないモノラル音響信号に対して処理を行う場合は、上記実施形態において、左チャンネル信号に対して行った処理を行うことになる。本発明は、1つのチャンネル信号に対して付加情報を埋め込み、また抽出を行うので、モノラル音響信号であってもステレオ音響信号であっても同様に行うことができる。
【0114】
(9.信号成分が小さくても情報の埋め込みを可能とする手法)
ここまで、説明してきた処理においては、上記E1、E2が所定値より大きいことが必要となり、上記E1、E2が所定値以下の場合には、情報の埋め込みを行うことができない。そこで、以下、上記E1、E2が所定値以下であっても、信号の埋め込みを可能とする手法について説明する。
【0115】
この場合、図1に示した埋め込み装置における情報の埋め込み処理は、図5のフローチャートに従って行われるが、強度値E1、E2がレベル下限値Lev以下となることがなくなるため、S104において周波数成分変更手段30がレベルの判定を行わない。これは、この処理では、信号レベルが小さくても強制的に情報を埋め込むこととしているため、情報の埋め込みが不可能な信号レベルが小さい部分が存在するかどうかを判断する必要がないからである。
【0116】
したがって、S104における状態1、状態2に設定する処理としては、まず、以下の〔数式18〕に従って算出される固定値Vを、電話高周波帯成分の強度として設定する。
【0117】
〔数式18〕
V={0.25・Lev/(M−m)}1/2
【0118】
そして、状態1とする場合は、上記〔数式10〕に従った処理を実行した後、以下の〔数式19〕に従った処理を実行する。
【0119】
〔数式19〕
j=m〜M−1の各成分に対して
Al´(1,j)=F(j−m)・Al(1,j)・V/{Al(1,j)2+Bl(1,j)21/2
Bl´(1,j)=F(j−m)・Bl(1,j)・V/{Al(1,j)2+Bl(1,j)21/2
【0120】
状態2とする場合は、上記〔数式11〕に従った処理を実行した後、以下の〔数式20〕に従った処理を実行する。
【0121】
〔数式20〕
j=m〜M−1の各成分に対して
Al´(3,j)=F(j−m)・Al(3,j)・V/{Al(3,j)2+Bl(3,j)21/2
Bl´(3,j)=F(j−m)・Bl(3,j)・V/{Al(3,j)2+Bl(3,j)21/2
【0122】
〔数式19〕〔数式20〕により算出されたAl´、Bl´の値を、上記〔数式7〕におけるAl、Blに代えて用いると、E1、E2=Levとなるため、S104において、Levとの大小関係の判断を行う必要が不要となる。
【0123】
上記のように、周波数成分が小さい場合に情報を埋め込んだ場合であっても、抽出側の、音響信号からの情報の抽出装置の構成は図6と同一であり、処理動作は図7のフローチャートに従ったものと同一である。
【0124】
上記の説明では、電話回線帯域上限を上限とする所定の周波数帯である“1.7kHz〜3.4kHz”相当の電話高周波帯に対して処理を施す場合を例にとって説明したが、音響信号からの情報の抽出装置として固定電話機または携帯電話機を利用せず、より広い周波数範囲の音声を発生、録音可能な機器を利用して音響信号からの情報の抽出装置を実現する場合には、電話回線帯域上限を上限とする所定の周波数帯である“3.4kHz〜6.8kHz”相当の超電話周波帯に対して処理を施すようにしても良い。この場合、上記〔数式7〕をはじめとする各数式で用いられるm、Mの値は、m=320、M=640に設定する。したがって、この場合、P=320となる。
【0125】
以上は全て、音響信号のサンプリング周波数が44.1kHz、音響フレームの長さNが4096である場合について説明したが、音響フレームの長さNは1/2K(Kは1以上の整数)の割合で縮小することができ、そうすると単位時間あたりの埋め込み可能な情報量(上記の説明の場合、10[bps])は2K倍に拡張させることができる。その際、音響信号のサンプリング周波数は44.1kHz固定にすると、電話高周波帯または超電話周波帯の下限mおよび上限Mも1/2K倍に縮小させるように設定する必要がある(Pも同様に1/2K倍に設定される)。具体的には、N=2048に設定すると、電話高周波帯の場合、m=80、M=160となり、超電話周波帯の場合、m=160、M=320となり、埋め込み可能な情報量は20[bps]となる。N=1024に設定すると、電話高周波帯の場合、m=40、M=80となり、超電話周波帯の場合、m=80、M=160となり、埋め込み可能な情報量は40[bps]となる。N=512に設定すると、電話高周波帯の場合、m=20、M=40となり、超電話周波帯の場合、m=40、M=80となり、埋め込み可能な情報量は80[bps]となる。更にN=256、N=128等の設定も理論上可能であるが、実験の結果、N=256以下では、埋め込み面積(時間×周波数幅)が小さ過ぎて計算誤差が発生し安定した抽出ができず、N=512が設定限界であった。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】本発明に係る音響信号に対する情報の埋め込み装置の機能ブロック図である。
【図2】本発明で用いる時間軸方向窓関数を示す図である。
【図3】図1に示した装置の処理による1音響フレームの成分変化の様子を示す図である。
【図4】本発明で用いる周波数方向窓関数Fを示す図である。
【図5】図1に示した装置の処理概要を示すフローチャートである。
【図6】本発明に係る音響信号からの情報の抽出装置の機能ブロック図である。
【図7】図6に示した装置の処理概要を示すフローチャートである。
【図8】図7のS202の符号判定処理の詳細を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0127】
10・・・音響フレーム読込手段
20・・・周波数変換手段
30・・・周波数成分変更手段
40・・・周波数逆変換手段
50・・・改変音響フレーム出力手段
60・・・記憶手段
61・・・音響信号記憶部
62・・・付加情報記憶部
63・・・改変音響信号記憶部
70・・・付加情報読込手段
100・・・音響信号入力手段
110・・・基準フレーム獲得手段
120・・・位相変更フレーム設定手段
130・・・周波数変換手段
140・・・符号判定パラメータ算出手段
150・・・符号出力手段
160・・・付加情報抽出手段
170・・・音響フレーム保持手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時系列のサンプル列で構成される音響信号に対して、付加情報を聴取不能な状態で埋め込む装置であって、
前記音響信号より、所定数のサンプルを音響フレームとして読み込む音響フレーム読込手段と、
前記音響フレームに対して第1窓関数、第2窓関数、第3窓関数を用いてそれぞれ周波数変換を行い、前記第1窓関数に対応するスペクトルである第1窓スペクトル、前記第2窓関数に対応するスペクトルである第2窓スペクトル、前記第3窓関数に対応するスペクトルである第3窓スペクトルを生成する周波数変換手段と、
前記生成された各窓スペクトルから、電話回線帯域上限を上限または下限とする所定の周波数帯に対応するスペクトル集合を抽出し、前記埋め込むべき付加情報の情報配列の値に基づいて、前記抽出した3セットのスペクトル集合のうち、先頭の第1窓関数と後部の第3窓関数のスペクトル強度の割合を、前記スペクトル集合の周波数範囲における中央付近における値が大きくなるように周波数方向の値に応じて変化する窓関数Fを適用して、変更すると共に、中央の第2窓関数の成分を削除する周波数成分変更手段と、
前記変更されたスペクトル強度を含む各窓スペクトルに対して周波数逆変換を行って、改変音響フレームを生成する周波数逆変換手段と、
前記生成された改変音響フレームを順次出力する改変音響フレーム出力手段と、
を有することを特徴とする音響信号に対する情報の埋め込み装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記周波数成分変更手段は、所定の固定値Vを、前記所定の周波数帯の強度として設定すると共に、前記固定値Vを利用して、前記第1窓関数と第3窓関数のスペクトルに所定の強度を与えることにより、前記第1窓関数と第3窓関数のスペクトル強度の割合を変更するものであることを特徴とする音響信号に対する情報の埋め込み装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記音響フレーム読込手段は、先行する音響フレームと所定数のサンプルを重複させて読み込み、読み込んだ音響フレーム全体に所定の窓関数を乗じて前記周波数変換手段に渡すものであり、
前記改変音響フレーム出力手段は、前記生成された改変音響フレームを先行する改変音響フレームと連結させて出力するものであることを特徴とする音響信号に対する情報の埋め込み装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかにおいて、
前記電話回線帯域上限は3.4kHzであり、
前記周波数成分変更手段は、前記電話回線帯域上限を上限または下限とする所定の周波数帯のうち、電話回線帯域上限を上限とする所定の周波数帯を1.7kHz以上3.4kHz以下の範囲、電話回線帯域上限を下限とする所定の周波数帯を3.4kHz以上6.8kHz以下の範囲に設定するものであることを特徴とする音響信号に対する情報の埋め込み装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記音響信号が左右2チャンネルの時系列のサンプル列で構成されるステレオ音響信号であって、
前記音響フレーム読込手段は、各チャンネルに対応する音響フレームをそれぞれ読み込み、前記周波数変換手段は、各チャンネルの音響フレームに対して周波数変換を行い、各チャンネル別の第1窓スペクトル、第2窓スペクトル、第3窓スペクトルを生成するものであり、
前記周波数成分変更手段は、一方のチャンネルの窓スペクトルから抽出した所定の周波数帯に対応する3セットのスペクトル集合に対して、前記埋め込むべき付加情報の情報配列の値に基づいて、前記第1窓関数と第3窓関数のスペクトル強度の割合を変更すると共に、第2窓関数の成分を削除し、前記一方のチャンネルにおいて行われた変更により削除された成分を補足するよう他方のチャンネルのスペクトル集合間の強度割合を変更するものであり、
前記周波数逆変換手段は、各チャンネルについて、変更されたスペクトル強度を含むフレームスペクトルに対して周波数逆変換を行って改変音響フレームを生成し、前記改変音響フレーム出力手段は、各チャンネルについて、生成された改変音響フレームを順次出力するものであることを特徴とする音響信号に対する情報の埋め込み装置。
【請求項6】
時系列のサンプル列で構成される音響信号に対して、付加情報を聴取不能な状態で埋め込む方法であって、
前記音響信号より、所定数のサンプルを音響フレームとして読み込む音響フレーム読込段階と、
前記音響フレームに対して第1窓関数、第2窓関数、第3窓関数を用いてそれぞれ周波数変換を行い、前記第1窓関数に対応するスペクトルである第1窓スペクトル、前記第2窓関数に対応するスペクトルである第2窓スペクトル、前記第3窓関数に対応するスペクトルである第3窓スペクトルを生成する周波数変換段階と、
前記生成された各窓スペクトルから、電話回線帯域上限を上限または下限とする所定の周波数帯に対応するスペクトル集合を抽出し、前記埋め込むべき付加情報の情報配列の値に基づいて、前記抽出した3セットのスペクトル集合のうち、先頭の第1窓関数と後部の第3窓関数のスペクトル強度の割合を、前記スペクトル集合の周波数範囲における中央付近における値が大きくなるように周波数方向の値に応じて変化する窓関数Fを適用して、変更すると共に、中央の第2窓関数の成分を削除する周波数成分変更段階と、
前記変更されたスペクトル強度を含む各窓スペクトルに対して周波数逆変換を行って、改変音響フレームを生成する周波数逆変換段階と、
前記生成された改変音響フレームを順次出力する改変音響フレーム出力段階と、
を有することを特徴とする音響信号に対する情報の埋め込み方法。
【請求項7】
コンピュータを、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の音響信号に対する情報の埋め込み装置として機能させるためのプログラム。
【請求項8】
音響信号から、あらかじめ聴取不能な状態で埋め込まれた付加情報を抽出する装置であって、
前記音響信号の所定の区間をデジタル化して、所定数のサンプルで構成される音響フレームを獲得する音響フレーム獲得手段と、
前記音響フレームに対して第1窓関数、第3窓関数を用いてそれぞれ周波数変換を行い、前記第1窓関数に対応するスペクトルである第1窓スペクトル、前記第3窓関数に対応するスペクトルである第3窓スペクトルを生成する周波数変換手段と、
前記生成された各窓スペクトルから、電話回線帯域上限を上限または下限とする所定の周波数帯に対応するスペクトル集合を抽出し、各スペクトル集合ごとにスペクトル強度の総和値を、前記スペクトル集合の周波数範囲における中央付近における値が大きくなるように周波数方向の値に応じて変化する窓関数Fを適用して、算出し、その総和値のスペクトル集合間の割合に基づいて、所定の符号を出力する符号化手段と、
前記出力された符号に対応する情報配列を、所定の規則により変換して付加情報を抽出する付加情報抽出手段と、
を有することを特徴とする音響信号からの情報の抽出装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記音響フレーム獲得手段は、前記音響信号から、所定数のサンプルで構成される音響フレームを基準フレームとして獲得する基準フレーム獲得手段と、前記基準フレームと所定サンプルずつ移動させることにより位相を変更して設定される複数の音響フレームを位相変更フレームとして設定する位相変更フレーム設定手段により構成され、
前記符号化手段は、前記抽出したスペクトル集合に基づいて、符号判定パラメータを算出する符号判定パラメータ算出手段と、基準フレームが異なる過去の同位相の音響フレームにおいて算出された符号判定パラメータに基づいて、前記基準フレームおよび複数の位相変更フレームのうち1つの音響フレームを位相が最適なものであると判断し、当該最適な位相の音響フレームについて判断された前記符号判定パラメータに基づいて、所定の符号を出力する符号出力手段を有するものであることを特徴とする音響信号からの情報の抽出装置。
【請求項10】
音響信号から、あらかじめ聴取不能な状態で埋め込まれた付加情報を抽出する方法であって、
前記音響信号の所定の区間をデジタル化して、所定数のサンプルで構成される音響フレームを獲得する音響フレーム獲得段階と、
前記音響フレームに対して第1窓関数、第3窓関数を用いてそれぞれ周波数変換を行い、前記第1窓関数に対応するスペクトルである第1窓スペクトル、前記第3窓関数に対応するスペクトルである第3窓スペクトルを生成する周波数変換段階と、
前記生成された各窓スペクトルから、電話回線帯域上限を上限または下限とする所定の周波数帯に対応するスペクトル集合を抽出し、各スペクトル集合ごとにスペクトル強度の総和値を、前記スペクトル集合の周波数範囲における中央付近における値が大きくなるように周波数方向の値に応じて変化する窓関数Fを適用して、算出し、その総和値のスペクトル集合間の割合に基づいて、所定の符号を出力する符号化段階と、
前記出力された符号に対応する情報配列を、所定の規則により変換して付加情報を抽出する付加情報抽出段階と、
を有することを特徴とする音響信号からの情報の抽出方法。
【請求項11】
コンピュータを、請求項8または請求項9に記載の音響信号からの情報の抽出装置として機能させるためのプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate