説明

音響共鳴体及び音響室

【課題】共鳴体の寸法を増大させないで、音圧を低減させるとともに媒質粒子の運動速度を増大させる効果を、低周波数帯域において高める。
【解決手段】管状を成している音響共鳴体10は、開口端111と閉口端112との間で延在する柱状の中空領域113を内部に有する管状部材11を備える。開口端111付近には、円柱状を成し、中心付近に円柱状の空洞が開けられた抵抗材12が設けられている。抵抗材12は、中空領域の延在方向(中心軸x方向)に対する各位置に、それよりも抵抗が小さい領域が含まれるように設けられている。中空領域113には、共鳴時に、中心軸x方向に対する位置に応じて共鳴周波数の音圧が変化する領域が含まれる。抵抗材12の作用により、管状部材11単体の場合に生じる共鳴現象とは異なる現象が生じ、管状部材11単体の場合よりも音響共鳴体10の共鳴周波数は低周波数側へシフトする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響共鳴体及び音響室に関する。
【背景技術】
【0002】
共鳴管を用いて、比較的低い周波数の音圧を低減させるための技術として、特許文献1に開示されたものがある。特許文献1には、一端が開口し、他端が閉じたそれぞれ長さが異なる複数本のパイプを、開口部どうしが隣接するように配置した吸音構造が開示されている。また、共鳴周波数を低周波側にシフトさせるための技術として、特許文献2に開示されたものがある。特許文献2には、連通部の空気をマス成分とし、共鳴室の空気をバネ成分としたバネマス共振系と等価であるヘルムホルツ型の共鳴器において、連通部の一部に吸音材を設けることが開示されている。特許文献2に開示された共鳴器では、吸音材の空気の一部がマス成分として作用し、このマス成分の増加により、吸音材を設けない場合に比べて共鳴周波数が低周波側にシフトすると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−302087号公報
【特許文献2】特開平8−121142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術では、共鳴現象により低周波数の音圧を低減させる場合には、その周波数が低いほど共鳴管の空洞を延在方向に長くしなければならず、その寸法が大きくなる。特許文献2に開示された技術では、共鳴器がヘルムホルツ型であるから、共鳴室においては、音波の入射方向(共鳴器の高さ方向)に対して実質的に音圧が一様に分布する程度の寸法や形状を確保する必要がある。つまり、ヘルムホルツ型の共鳴器では、共鳴室内の圧力が一定とみなされるように設計されるものである。また、共鳴周波数を低くするほど共鳴室の容積を大きくする必要があり、その結果共鳴室の幅方向の寸法が共鳴器の高さ方向の寸法よりも大きくなることもあるから、周辺部材との干渉により共鳴体の設置が困難になることがある。例えば、およそ160Hzで吸音効果を奏するヘルムホルツ型の共鳴器では、共鳴室の直径を約145mmとし、高さ方向の寸法を約130mmとすることが必要である。
本発明の目的は、共鳴体の寸法を増大させないで、音圧を低減させるとともに媒質粒子の運動速度を増大させる効果を、低周波数帯域において高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した目的を達成するために、本発明の請求項1に係る音響共鳴体は、開口する一端と、開口し、又は閉口する他端とを有し、前記一端と前記他端との間で延在する中空領域が構成された筐体を備え、第1の領域と、媒質粒子の運動に対する抵抗が前記第1の領域よりも大きい第2の領域とが前記中空領域に構成され、前記中空領域の延在方向に直交する平面で前記中空領域を切断した場合の断面において、前記第2の領域が含まれる断面に、当該第2の領域に接して前記第1の領域が構成され、共鳴時には、前記延在方向に対する位置に応じて共鳴周波数の音圧が変化する領域が前記中空領域に含まれることを特徴とする。
【0006】
本発明の請求項2に係る音響共鳴体は、請求項1に係る構成において、前記筐体は、前記延在方向が前記中空領域の長手方向となるよう構成されることを特徴とする。
本発明の請求項3に係る音響共鳴体は、請求項1又は2に係る構成において、前記第2の領域は、前記延在方向に対する一端が前記筐体外部の空間に接していることを特徴とする。
本発明の請求項4に係る音響共鳴体は、請求項3に係る構成において、前記第1の領域は、空間領域を内部に含み、前記第2の領域は、前記延在方向に対する他端が前記空間領域に接していることを特徴とする。
本発明の請求項5に係る音響共鳴体は、請求項4に係る構成において、前記第2の領域は、前記延在方向に対する一端と他端とを介して前記筐体外部の空間と前記空間領域とを通じさせる空間が内部に構成されることを特徴とする。
【0007】
本発明の請求項6に係る音響共鳴体は、請求項1ないし5のいずれかに係る構成において、前記第2の領域は、多孔質材が設けられた領域であることを特徴とする。
本発明の請求項7に係る音響共鳴体は、請求項1ないし6のいずれかに係る構成において、前記第1の領域は、前記一端と前記他端とを通じさせる空間であることを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項8に係る音響共鳴体は、請求項1ないし7のいずれかに係る構成において、前記第2の領域は、前記中空領域に生じる定在波の粒子速度分布の腹となる領域を含むことを特徴とする。
本発明の請求項9に係る音響共鳴体は、請求項8に係る構成において、前記第2の領域は、前記中空領域の前記一端を含む領域であることを特徴とする。
本発明の請求項10に係る音響共鳴体は、請求項1ないし9のいずれかに係る構成において、前記第2の領域は、前記筐体の内側の面に接しており、前記第2の領域が含まれる断面において、前記第1の領域の周囲が前記第2の領域に囲まれていることを特徴とする。
本発明の請求項11に係る音響室は、請求項1ないし10のいずれかに記載の音響共鳴体を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、共鳴体の寸法を増大させないで、音圧を低減させるとともに媒質粒子の運動速度を増大させる効果を、低周波数帯域において高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る音響共鳴体を示す図である。
【図2】図1中の切断線II-IIで音響共鳴体を切断したときの断面を表す図である。
【図3】管状部材の延在方向に直交する平面で音響共鳴体を切断したときの断面を表す図である。
【図4】抵抗材が設けられていない管状部材の断面を表す図である。
【図5】音響共鳴体の共鳴周波数、及び損失係数の測定の前提となる事項を説明する図である。
【図6】各共鳴体について粒子速度の周波数特性を表したグラフである。
【図7】各共鳴体と、共鳴周波数及び損失係数との関係を表したグラフである。
【図8】音響共鳴体の構成の一例を表す断面図である。
【図9】抵抗材の長さと、共鳴周波数及び損失係数との関係を表したグラフである。
【図10】音響共鳴体において生じる音響現象を説明する図である。
【図11】音響共鳴体での管位置と音圧との関係を表したグラフである。
【図12】変形例1に係る音響共鳴体を説明する図である。
【図13】変形例1に係る音響共鳴体を説明する図である。
【図14】変形例1に係る音響共鳴体を説明する図である。
【図15】変形例2に係る音響共鳴体を説明する図である。
【図16】変形例3に係る音響共鳴体を説明する図である。
【図17】変形例4に係る音響共鳴体を説明する図である。
【図18】変形例5に係る音響共鳴体を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施形態]
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、音響共鳴体10を示す図である。
音響共鳴体10の外観は、一方(図中左側)の端部で開口しており、他方(図中右側)の端部で閉じた管状を成している。音響共鳴体10の構成は、管状部材11と、抵抗材12とに大別される。管状部材11は、本発明の筐体の一例であり、材料として例えば金属やプラスチックを用いて円筒状に形成されている。管状部材11は、いわゆる一端開口の管状部材であり、ここでは1方向に延在している。抵抗材12は、円柱の両底面の中心付近を貫通するようにして、円柱状の空洞が開けられた形状の部材である。抵抗材12は、管状部材11の開口する端部付近において、円柱の外周面に相当する面が管状部材11の内側の面と接するように設けられている。抵抗材12は、材料として多孔質材の一例であるウレタンフォームを用いて形成され、気体粒子(ここでは、空気分子)の運動に対して抵抗となって、その気体粒子の運動を阻害する部材である。抵抗材12が配置される領域は、抵抗材12が配置されないときに比べて、気体粒子の運動に対する抵抗が増大する。また、この抵抗の抵抗値を定量的に表す物理量として、媒質の特性インピーダンスがある。
【0012】
図2は、図1中の切断線II-IIで音響共鳴体10を切断したときの断面を表す図である。より詳細には、図2は、管状部材11の延在方向に沿って、後述するx軸を含む平面で音響共鳴体10を切断した場合の断面図である。図3は、管状部材11の延在方向に直交する平面で音響共鳴体10を切断した場合の断面を表す図である。換言すれば、図3は、中空領域113の両端間の長さ方向に直交する平面で中空領域113を切断した場合の断面図である。図3(a)は、図2中の切断線A-Aで示すように、抵抗材12が設けられている位置で切断した場合の断面を表す。図3(b)は、図2中の切断線B-Bで示すように、抵抗材12が設けられていない位置で切断した場合の断面を表す。なお、音響共鳴体10の延在方向に対して抵抗材12が設けられている各位置を切断した場合に、管状部材11の断面形状はそれぞれ同一の形状で、且つ同一の寸法である。また、抵抗材12の断面形状もそれぞれ同一の形状で、且つ同一の寸法である。なお、管状部材11の延在方向は、中空領域113における開口端111と閉口端112との間の長さを表す方向であり、この長さ方向は、これら両端を結ぶ線分が延びる方向である。
【0013】
管状部材11は、一端に円形の開口端111を有し、他端にこれと同じ円形の閉口端112を有している。この実施形態では、閉口端112は音響的に完全反射面(つまり、剛壁)と同じ振る舞いをするものとみなす。管状部材11の内部には、開口端111と閉口端112との間で延在する、円柱状の中空領域113が構成されている。中空領域113は、開口端111を介して外部空間に通じており、閉口端112を介しては外部空間に通じていない。ここで、開口端111と閉口端112との間の距離である、中空領域113の両端間の長さをLとする。そして、中空領域113の延在方向に直交する断面の中心どうしを結ぶ中心線を「中心軸x」(一点鎖線で図示。)と定める。
なお、管状部材11の中空領域113の直径は、例えば一次元音場の場合、直径方向にたつ定在波の波長の2分の1よりも小さい。すなわち、中空領域113は、中心軸xに沿って延在するとともに、その延在方向が長手方向となる領域である。これにより、管状部材11単体である場合、中空領域113に進む音波は、中心軸xに沿った方向に進む平面波のみとみなすことができる。よって、中空領域113において、中心軸xに沿った方向に対する位置が同じ領域、すなわち中心軸xに直交する断面に含まれる領域では、実質的に音圧が一様に分布する。
【0014】
抵抗材12は、開口端111の位置を一端として、中空領域113に設けられている。ここでは、抵抗材12は中心軸xに沿って円筒軸方向を有している。この円筒軸方向に対する抵抗材12の長さであり、開口端111に位置する一端から他端までの距離をlと定める。抵抗材12は、円筒の高さ方向に相当する方向に貫く空洞を有しているから、管状部材11の開口端111と閉口端112とは、この空洞を介して通じている。この空洞は、ここでは、気体粒子の運動に対する抵抗を増大させる部材が設けられていない領域である。
【0015】
図3(a)に示すように、中空領域113の断面のうち抵抗材12が設けられている断面には、気体粒子の運動に対する抵抗が高い「高抵抗領域」T1と、高抵抗領域T1に隣接し、気体粒子の運動に対する抵抗がその高抵抗領域T1よりも低い「低抵抗領域」T2とが構成されている。高抵抗領域T1は、実際に気体粒子の運動に対して抵抗となる部材(抵抗材)が配置されている領域である。低抵抗領域T2は、この部材が配置されていない領域であり、抵抗材12の円筒の高さ方向に貫く空洞に相当する。ここでは、高抵抗領域T1が含まれる断面においては、ドーナツ形の高抵抗領域T1が、円形である低抵抗領域T2の周囲を囲むようになっている。
このように、高抵抗領域T1は、中空領域113の延在方向に対する一端である、抵抗材12の第1の面121と、中空領域113の延在方向に対する他端である、抵抗材12の第2の面122とを有している。第1の面121は、中空領域113の延在方向を向き、かつ、管状部材11の外部の空間に接する面である。第2の面122は、中空領域113の延在方向を向き、かつ、ここでは空間領域である低抵抗領域T2に接する面である。
なお、ここでは、第1の面121及び第2の面122の法線方向が中空領域113の延在方向にそれぞれ一致するが、それらが互いに交わっていてもよい。
【0016】
ところで、低抵抗領域T2は、音響共鳴体10の開口端111が面している外部の空間、及び音響共鳴体10内の抵抗材12が設けられていない空間とほぼ同じ媒質で構成されている。ここでは、低抵抗領域T2は、空気で満たされる領域である。なお、低抵抗領域T2については、中心軸xを含む領域として構成してもよいし、中心軸xの位置を中心として断面形状が点対称となるように構成してもよい。また、低抵抗領域T2を中心軸xを含まない領域としてもよい。要するに、抵抗材12の高抵抗領域T1は、中空領域113の延在方向に対して少なくとも一部に設けられ、且つ中空領域113の延在方向に直交する断面の一部のみに設けられる。一方で、中空領域113の抵抗材12が設けられていない断面は、図3(b)に示すように、低抵抗領域T2と同じ媒質(材料)で構成されている。
なお、抵抗材12が設けられ、中空領域113における抵抗が高い領域は、本発明の第2の領域の一例であり、抵抗材12が設けられておらず、抵抗が低い領域は本発明の第1の領域の一例である。
以上が、音響共鳴体10の構成の説明である。
【0017】
次に、音響共鳴体10に抵抗材12を設けた理由について説明する。
図4は、抵抗材12が設けられていない管状部材11(すなわち、管状部材11単体)を、中心軸xを含む平面で切断した場合の断面を表す図である。図4に示す二点鎖線は、管状部材11内において発生し得る定在波のうち、最も低い周波数(つまり、1次の共鳴周波数)の定在波SW1に関して、粒子速度分布(振幅の分布)を表している。
図4に示すように、管状部材11の中空領域113には、閉口端112での粒子速度がゼロとなる境界条件を満たすようにして定在波が生じる。つまり、定在波SW1にあっては、閉口端112の位置に粒子速度分布の「節」があり、粒子速度が極小となる。一方、開口端111の位置に粒子速度分布の「腹」があり、粒子速度が極大となる。なお、管状部材11が抵抗成分を有し、閉口端112が完全反射面でない場合には、この「腹」及び「節」の位置はそれぞれずれることがあるが、概ね図示の位置に存在する。また、開口端補正については、この明細書では無視する。
【0018】
定在波SW1は、中空領域113の長さLの4倍に相当する波長λc(L=λc/4)の音波に応じて、管状部材11において共鳴が生じることによって発現する。このとき、管状部材11は、共鳴によって生じる反射波であって入射波の位相と異なる位相の反射波を、開口端111を介して外部空間に放射する。このときの反射波と入射波との位相差に応じて、波長λcに相当する共鳴周波数の音波が干渉して打ち消し合って、管状部材11の共鳴周波数を中心に開口端111付近での音圧を低減させる効果を奏する。また、このときの気体粒子の振る舞いは、定在波SW1の発生によって開口端111付近において極大値を持つ振動を繰り返すため、共鳴周波数以外の周波数に対して、管状部材11の共鳴周波数を中心に開口端111付近で、気体粒子の運動速度(以下、「粒子速度」という。)を増大させる効果を奏する。また、管状部材11単体である一般の音響管と同様、音響共鳴体10の共鳴時には、図2に示す定在波SWのように、図4に示す定在波SW1で表される粒子速度分布が生じると考えられる。そうすると、管状部材11に抵抗材12を設けた音響共鳴体10においても、共鳴時には、中空領域113の延在方向(x軸方向)に対する位置に応じて共鳴周波数の音圧が変化する領域がその中空領域113に含まれる。すなわち、中空領域113には、その延在方向に対する位置が互いに異なる2以上の点で、共鳴周波数の音圧がそれぞれ異なる領域が存在する。更に換言すると、中空領域113の延在方向に対する共鳴周波数の音圧分布においては音圧が一定とならずに、変化が生じている。発明者らは、中空領域113の延在方向に対する位置に応じて共鳴周波数の音圧が変化することを確かめるための測定を行ったが、その内容については後述する。
【0019】
ところで、管状部材11などの一端開口の管状部材に共鳴体が構成される場合、中空領域113の両端間の長さLを、共鳴周波数に相当する波長λcの1/4の長さにする必要がある。よって、共鳴周波数を低く設定する場合に、長さLを大きくすることが避けられなかった。これに対し、発明者らは、音響共鳴体10の構成を採用して管状部材11に抵抗材12を適切に設けることにより、共鳴体の寸法を増大させないで、音圧を低減させるとともに粒子速度を増大させる効果を、低周波数帯域において高められることを発見した。
【0020】
発明者らは、管状部材11に対する抵抗材12の適用の態様がそれぞれ異なる複数種類の音響共鳴体を構成し、それぞれについて共鳴周波数、及び損失係数の測定(実測)を行った。
はじめに、この測定の前提となる事項について説明する。まず、各種類の音響共鳴体について、管状部材11の構成を同一のものとする。管状部材11の寸法は、計算上の共鳴周波数が223Hzとなるように、L=380mmとした。粒子速度の測定については、図5に示すように、開口端111の中心となる位置(中心軸x上の位置)に粒子速度検出センサを設け、10〜500Hzの周波数の音波を開口端111に入射して、その位置での粒子速度を周波数ごとに測定した。損失係数gについては、粒子速度の測定結果を用いて、半値幅法の演算により算出した。具体的には、損失係数gは、粒子速度のピーク値よりも3dB低い周波数f,fをそれぞれ特定し、f−fの値を共鳴周波数fの値で除した値である。損失係数gは、粒子速度のピーク値付近における周波数特性の鋭さを表す指標となる値であり、その値が小さいほど鋭い特性を示す。
【0021】
図6は、各種類の音響共鳴体について、粒子速度の周波数特性を表したグラフである。
図6のグラフにおいて、横軸は周波数[Hz]を表し、縦軸は開口端111に入射する音波の音圧で基準化した粒子速度[m/s/Pa]を表している。図7は、これら各種類の音響共鳴体について1次の共鳴周波数f及び損失係数gを表したグラフである。図7のグラフにおいて、横軸は共鳴体の種類を表し、縦軸は1次の共鳴周波数f[Hz]、及び損失係数gをそれぞれ表している。なお、共鳴周波数fについては、黒丸のプロット及び実線で図示しており、損失係数gについては白丸のプロット及び実線で図示している。図6には、図4に示す管状部材11単体である音響共鳴体の測定結果と、図1に示す音響共鳴体10の測定結果と、図8に示す音響共鳴体の測定結果を表している。図8は、中心軸xに直交する方向から開口端111を見た様子、及び中心軸xに直交する平面で管状部材11を切断した場合の断面をそれぞれ表す図である。ここでは、図8に示すように、開口端111を全部塞ぐようにして、l=30mmとなる円柱状のウレタンフォームを管状部材11に設けた。この音響共鳴体を、便宜上、「音響共鳴体300」と称する。図7においては、「音響共鳴体300(l=30mm)」と付した測定結果に対応する。なお、図7において「音響共鳴体300(l=10mm)」と示した測定結果は、音響共鳴体300において、l=10mmとした場合の測定結果を表す。音響共鳴体10については、l=30mmとした場合の測定結果を表す。
【0022】
図6に示すように、管状部材11単体の場合においては、およそ220Hz付近に粒子速度のピークがある。この粒子速度のピークとなる周波数が、音響共鳴体の共鳴周波数を表している。上述したように、1次の共鳴周波数に対応する定在波にあっては、開口端111の位置での粒子速度が極大になるからである。また、図7に示すように、損失係数gはおよそ0.02程度と小さく、図6のグラフからも分かるように粒子速度のピーク付近で鋭い特性を示している。このように、管状部材11単体である音響共鳴体では、計算上の共鳴周波数にほぼ一致する共鳴周波数を測定するとともに、粒子速度がピーク値に近い大きな値となる周波数幅は小さい。音響共鳴体300(l=30mm)の場合、粒子速度がピークとなる周波数はおよそ300Hzであった。このように、開口部付近を抵抗材で塞ぐ構成では、共鳴周波数が高周波数側にシフトしてしまう。損失係数gについては0.2近くあり、比較的大きな値であった。これにより、比較的広い周波数幅で粒子速度のピークに近い値をとるが、ピークの粒子速度は小さいから、音圧の低減、及び粒子速度の増大の効果は管状部材11単体の音響共鳴体よりも小さいと言える。また、図7に示すように、l=10mmとすると、共鳴周波数の高周波数側へのシフト、及び損失係数の増大がやや抑制されたが、管状部材11単体の音響共鳴体よりも共鳴周波数が高い。
【0023】
音響共鳴体10の場合、図6に示すように、170Hz付近に粒子速度のピークがある。この結果から、管状部材11単体の場合に比べて、音響共鳴体10の共鳴周波数が低くなっていることが分かる。また、粒子速度のピーク値は管状部材11単体の場合とほぼ同じであった。つまり、共鳴周波数で奏する音圧の低減、及び粒子速度の増大の効果は、管状部材11単体の場合と同等であると考えられる。また、図7に示すように、損失係数gはおよそ0.1程度であり、管状部材11単体の場合よりもやや大きい。これにより、管状部材11単体よりも、より低い共鳴周波数で、且つより広い周波数幅で粒子速度がピーク値に近くなり、音圧の低減及び粒子速度の増大の効果を奏することが分かる。
以上の結果から、音響共鳴体10の構成によると、管状部材11単体の場合よりも、共鳴周波数とその周波数幅に関して、音圧の低減及び粒子速度の増大の効果を増大させることができることが分かった。
【0024】
また、発明者らは、音響共鳴体10の抵抗材12の長さlを様々に変化させて、1次の共鳴周波数f及び損失係数gを測定した。図9に示すグラフは、横軸を抵抗材12の長さlとし、縦軸をそれぞれ1次の共鳴周波数f(丸印のプロット及び実線で図示する。)、及び損失係数g(正方形のプロットで図示する。)として、測定結果を表したものである。なお、ここでは、L=480mmとする。
図9に示すように、抵抗材12の長さlが大きいほど、共鳴周波数がより低周波数側にシフトしていることが分かる。例えば、l=0mmであるとき(つまり、抵抗材12が設けられていないとき)には共鳴周波数はほぼ175Hzであるが、l=262mmとすると、およそ90Hzまで低下した。損失係数gにあっては、抵抗材12の長さlが大きいほど、損失係数gが増大する傾向を示す。例えば、管状部材11単体であるl=0のときには0.02であるが、l=262mmとしたときには、およそ0.3である。このような結果から、抵抗材12の長さlが大きいほど、共鳴周波数の低周波数側へのシフト量が増大するとともに、損失係数が増大することが確認できた。
【0025】
以上のとおり、共鳴周波数fと損失係数gとが抵抗材12の長さlに応じて変化する理由について、発明者らは以下のように考えた。図10は、開口端111側から音響共鳴体10を見た様子を表した図である。図10を用いて音響共鳴体10において生じる音響現象について説明する。
上述のように、管状部材11単体の場合には、中心軸xに沿った方向に平面波が伝搬するとみなすことができるから、中心軸xに直交する方向に対しては、音圧が一様に分布するとみなすことができる。これに対し、音響共鳴体10のように、中空領域113に抵抗材12を設けた場合には、この現象に変化が生じる。図10に示すように、中空領域113には高抵抗領域T1と低抵抗領域T2とが含まれるが、開口端111側から閉口端112の方向に進む音波において、高抵抗領域T1を進む音波は、低抵抗領域T2を進む音波よりも、気体粒子の運動が妨げられる分だけその伝搬速度が小さくなる。この高抵抗領域T1と低抵抗領域T2との音波の伝搬速度の差異により、各領域を進む音波の波面に位相差が生じる。この位相差が生じると、中心軸xに直交する平面での高抵抗領域T1と低抵抗領域T2との境界における波面が不連続となるから、この位相面の異なりを解消しようとする気体分子の流れが新たに発生する。この気体分子の流れにより、例えば図10に矢印で示す方向に音波のエネルギーの流れが生じて、各音波の相互干渉によって音響エネルギーの損失が生じると考えられる。以上の理由から、高抵抗領域T1と低抵抗領域T2とは、中心軸xに直交する平面と平行な方向に気体の移動があるような隣接関係にあるとよいと考えられる。
【0026】
これと同時に、高抵抗領域T1及び低抵抗領域T2のそれぞれの領域において、開口端111側から閉口端112の方向に入射する音波と、反射する音波との重ね合わせにより、中空領域113の延在方向に定在波が生じる。特に、音響共鳴体10においては、中空領域113に生じる定在波の粒子速度分布の腹となる領域に抵抗材12を設けている。このように粒子速度が大きく、気体粒子の運動が活発である領域に抵抗材12を設けることが、上記音響現象の発現による作用をより大きくすることに寄与していと考えられる。また、抵抗材12の空洞の延在方向に対する寸法や、それに直交する方向の高抵抗領域T2の寸法(すなわち、抵抗材12の厚み)もエネルギー損失の大きさに影響を与えると考えられる。このような音響現象によって、図6、7に示した測定結果のように、音響共鳴体10の構成により、損失係数gが増大するとともに、共鳴周波数fが低周波数側にシフトしたと考えられる。
【0027】
以上の考え方によると、抵抗材12に適用可能な材料は、気体粒子の運動を妨げて、その運動に対する抵抗を発生(増大)させるものであれば、ウレタンフォーム以外の材料を用いることができる。ウレタンフォームは連続気泡の多孔質材の一例であるが、これ以外の樹脂材料(例えば、発泡樹脂)を用いた連続気泡の多孔質材を用いてもよい。なお、連続気泡の多孔質材は、連続気泡構造を有している部材であり、すなわち、多孔質材が設けられた領域において、隣り合う気泡が互いに通じており、気体の流通が可能である。また、独立気泡の多孔質材を少なくとも一部に有する材料を用いてもよく、このような多孔質材も独立気泡構造を有している。また、抵抗材12に適用可能な部材は、いわゆる多くの孔が空いた構造を有しているものに限らず、音波に対して多孔質とみなせる構造も含む。例として、グラスウールのように、ガラス繊維が絡まっていることにより多孔質材と見なせる構造を形成する部材も含む。この部材には、布類の素材を織って形成したもののほか、布類の素材を織らずに形成したもの(例えば、不織布、金属繊維版)も含まれる。また、金属(例えば、アルミ発泡金属、金属繊維板)や、木材(例えば、木片やその砕片)、紙(木質繊維、パルプ繊維)、ガラス(例えば、MPP(Microperforated Panel);微細孔パネル。エッチング処理で微細孔を形成したもの。)、動植物繊維(牛毛フェルト、反毛フェルト、羊毛、綿、不織布、布、合成繊維、木粉成形材、紙成形材)などの、種々の材料を抵抗材12に適用可能である。以上のように、内部を気体が流通するとともに、気体粒子の運動を妨げる作用を実現する材料によって、抵抗材12が構成されるとよい。すなわち、抵抗材12の高抵抗領域T1は、第1の面121及び第2の面122を介して管状部材11の外部の空間と低抵抗領域T2とを通じさせるための空間が内部に構成された領域である。これにより、図2の矢印Cで示す方向に、高抵抗領域T1の内部に構成された空間を介して入射波が伝搬し、その反対方向に反射波が伝搬する。
【0028】
また、発明者らは、音響共鳴体10の中空領域113で共鳴するときに、その延在方向に対する位置に応じて共鳴周波数の音圧が変化することを確認するための測定を行った。この測定では、音響共鳴体10を以下のように構成した。管状部材11については、直径40mm、中空領域113の長さLを380mmとした。抵抗材12については、抵抗材12の長さlを30mmとなる円筒状に形成され、その肉厚が10mmであるウレタンフォームを用いた。ここでも、管状部材11の開口端111と、抵抗材12の長手方向に対する一端との位置が揃うようにした。
【0029】
図11に示すグラフは、以上の音響共鳴体10を用いて、横軸を開口端111を基準とした中空領域113の延在方向に対する位置(管位置)[mm]とし、縦軸を音響共鳴体10における1次の共鳴周波数f(ここでは、195.75Hzとみなしている。)の音圧[dB]として測定結果を表したものである。例えば、管位置が0mmである位置は開口端111であり、管位置が380mmである位置は閉口端112である。続いて、本測定の手順は以下のとおりである。音響共鳴体10の開口端111から1m離れた位置に固定したスピーカを用いて測定音(ここでは、195.75Hzに音圧成分を持つ音)を放音させて、中空領域113における高抵抗領域T2の各位置にマイクロホンを挿入し、各管位置での音圧を測定した。
図11に示すグラフから、中空領域113において開口端111から遠ざかり、管位置の値が大きい位置であるほど、音圧が高くなる傾向にあることが分かる。この測定結果からも、音響共鳴体10で共鳴するときに、中空領域113の延在方向に対する位置に応じて共鳴周波数の音圧が変化する領域が、その中空領域113に含まれることが明らかである。このような音圧の変化は、上述したように管状部材11単体でなる共鳴体で生じることが知られているから、音響共鳴体10においても、これと同様の作用により中空領域113に対する位置に応じて共鳴周波数の音圧が変化すると考えられる。
【0030】
以上説明したように、音響共鳴体10では、管状部材11の内径(つまり、円柱状の中空領域113の直径)がその全長(つまり、中空領域113の延在方向の長さ)よりも小さく、この管状部材11の中空領域113の抵抗材12を適切に設けると、管状部材11単体により構成される共鳴体よりも、共鳴周波数が低くなる共鳴体を構成することができる。その構成として、例えば図1、2に示すように、中空領域113の延在方向に直交する平面で切断した場合の断面のうち、抵抗材12が設けられる高抵抗領域T1を含む断面において、低抵抗領域T2の周囲を囲むように高抵抗領域T1が構成されるよう、管状部材11の内側に抵抗材12を設ける。このような構成の音響共鳴体10によれば、共鳴体の長さを増大させないで、低周波数帯域で奏する音圧の低減、及び粒子速度の増大の効果を高めることができる。例えば騒音を抑制させるための構造を空間に設置する場合に、そのスペースの制約が大きいことがあるが、音響共鳴体10の構成によれば、管状部材11単体で構成される共鳴体よりも小型化が可能であるので、その設置の自由度が高まる。例えば、およそ160Hzで吸音効果を奏するようにしたい場合、音響共鳴体10では、開口端111の直径を40mmとし、中空領域113の全長を480mm程度とすればよく、例に挙げたヘルムホルツ型の共鳴体を用いる場合に比べて、容積を3分の1程度に抑えることができる。よって、音響共鳴体10の設置において、ヘルムホルツ型の共鳴体を用いる場合に比べて、周辺部材との干渉が問題になりにくくなる。
【0031】
[変形例]
本発明は、上述した実施形態と異なる形態で実施することが可能である。また、以下に示す変形例は、各々を適宜に組み合わせてもよい。
[変形例1]
上述した実施形態において、中空領域113の抵抗材12が設けられる断面において高抵抗領域T1が低抵抗領域T2の周囲を囲むようにして、管状部材11の内周面に沿って高抵抗領域T1が構成されるようにしていた。これに対し、実施形態で説明した音響現象の作用によると、中心軸xに直交する平面で切断した場合の断面であって抵抗材12が設けられた断面において、高抵抗領域T1及び低抵抗領域T2の両方が構成されており、且つそれらが互いに隣接していれば、同質の音響現象が生じて、音圧を低減させるとともに、粒子速度を増大させる効果を奏する。よって、音響共鳴体の構成を以下のようにしてもよい。
【0032】
図12〜14に、各構成の音響共鳴体を、中空領域の両端間の延在方向に延びる中心軸(中心軸x)を含む平面で切断した場合の断面図を示す。
図12に示すように、管状部材11の内周面以外の領域に抵抗材12を設ける構成としてもよい。図12(a)の左側の図は、開口端111側から音響共鳴体を見たときの様子を表している。図12(a)に示す音響共鳴体は、音響共鳴体10の高抵抗領域T1と低抵抗領域T2とを入れ替えた構成と同等である。すなわち、中空領域113の延在方向に直交する平面で切断した場合の断面において、高抵抗領域T1の周囲が低抵抗領域T2によって囲まれるように、抵抗材12が設けられている。このとき、抵抗材12は、共鳴現象の妨げとならないように、固定具などを用いて管状部材11によって支持されるとよい。なお、抵抗材12の固定に係る構成については、管状部材11によって支持する構成に限らず、例えば、音響共鳴体が設置される設置される場所付近の壁部などで支持してもよく、図12(a)に示す位置に抵抗材12が配置されていればよい。
【0033】
また、図12(b)に示すように、中空領域113以外の領域に抵抗材を設けてもよい。この例では、音響共鳴体10の開口端111に対向するように、音響共鳴体の外部空間に抵抗材121が設けられている。このとき、抵抗材121は、壁部などの外部構成により支持されてもよいし、管状部材11によって支持されてもよい。このときも、図中矢印に示すように音波が開口端111に入射するから、抵抗材12,121を通るものと通らないものとで、音波の伝搬速度にずれが生じる。これにより、実施形態と同質の音響現象が生じて、共鳴周波数の低周波数側へのシフトに寄与させることができる。図12(c)に示すように、抵抗材12は、中心軸x方向の各位置の断面において、その形状や寸法が同一でなくてもよい。この例の抵抗材12のように、開口端111から閉口端112の方向に向かって次第に断面積が小さくなる構成としてもよい。反対に、開口端111から閉口端112の方向に向かって次第に断面積が大きくなるような構成であってもよい。また、抵抗材12が管状部材11の開口端111から外部空間に飛び出した構成でもよいし、飛び出さない構成でもよい。もちろん、中心軸x方向の位置に対して断面が規則的に変化する構成でなくてもよい。
【0034】
また、管状部材11の底面となる位置に開口端を設ける構成に限らず、図12(d)に示すように、管状部材11の底面となる両端部を閉口端とした上で、管状部材11の円筒の側面の端部付近に開口端111を設けてもよい。この構成において、管状部材の内部に定在波が生じたときに、例えば1次の共鳴周波数については、管状部材11の中空領域113の延在方向に対する中心部で粒子速度が極大或いは極大に近くなる。よって、中空領域113の延在方向に対する中心部の位置に抵抗材12を設けることで、実施形態と同質の音響現象が生じ得る。
【0035】
また、音響共鳴体を構成する管状部材は、1方向のみに延在する中空領域を内部に有しているものに限らない。例えば、図13(a)に示すように、中空領域の断面形状が「U」字状となるように構成されていてもよい。このように、中空領域を湾曲させて折り返すように構成すれば、1方向に対する共鳴体の寸法を小さくすることができ、設置の自由度を高めることが期待できる。また、図13(b)に示すように、実施形態で説明したような直管ではなく、湾曲するように管状部材が構成されていてもよい。なお、図13(a)の構成の折返しの数や方向はどのような態様であってもよいし、図13(b)に示す構成の湾曲する箇所の数や方向はどのような態様であってもよい。
なお、管状部材11が延在する中空領域を有している場合、その延在方向はその方向に直交する断面の中心どうしを結ぶ中心線に沿った方向である。よって、中空領域113が湾曲していれば、中心線上の各位置における延在方向は、曲線である中心線の接線方向に等しい。また、このように、管状部材11を曲げた構成とする場合、中空領域113の断面の面積がほぼ一定であり、かつ、入射波と反射波との音波の伝搬距離の差(行路差)が問題とならない範囲とすることが好ましい。
【0036】
また、図14に示すように、中心軸xに直交する断面において、低抵抗領域T2の周囲全体を高抵抗材領域T1が囲む構成でなくてもよい。図14(a)に示すように、低抵抗領域T2の周囲の一部を囲むように、管状部材11の一部の内周面に沿って高抵抗領域T2が構成されるよう抵抗材12が設けられてもよい。この例では、図14(a)の左側の図に示すように、管状部材11の内周面のうち下半分の周面に沿って高抵抗領域T2が構成される。なお、同図に示す例では、中空領域113の一端から他端までの全体に亘って抵抗材12が設けられている(すなわち、L=l)が、上述した音響共鳴体10のように一部のみ(すなわち、L>l)に設けられてもよい。また、図14(b)に示す構成のように、抵抗材12が設けられる領域の全体で、中心軸xに直交する平面で切断した断面が、低抵抗領域T2が高抵抗材領域T1に隣接するように構成されていなくてもよい。例えば開口端111付近は抵抗材12により全体が塞がれており、それよりも閉口端112側の位置では、中心軸xに直交する断面において、低抵抗領域T2が高抵抗材領域T1に隣接するようにしてもよい。このように、本発明の音響共鳴体は、中空領域の一部において、中空領域を塞ぐ抵抗材が設けられる構成を妨げるものではない。
【0037】
[変形例2]
上述した実施形態において、開口端111の形状、及び管状部材11の中心軸xに沿った方向に直交する断面は円形であったが、これ以外の形状であってもよい。図15は、音響共鳴体を開口端側から見た様子を表す図である。図15(a)の各構成において、それぞれの管状部材11に対する抵抗材12の配置の態様は同じである。
例えば、図15(a)に示すように、開口端が正方形(長方形)に構成された管状部材11を用いてもよい。この構成においても、変形例1で説明したような、高抵抗領域T1、及び低抵抗領域T2の位置関係を採用することができる。ここでは、低抵抗領域T2が正方形(長方形)となるように抵抗材12を設けているが、管状部材11の中空領域の断面形状と、低抵抗領域T2や高抵抗領域T1の断面形状とがそれぞれ相違していてもよい。また、図15(b)に示すように、管状部材11を底面が六角形となる柱状に構成し、その形状に併せて高抵抗領域T1及び低抵抗領域T2が構成されてもよい。このとき、図15(b)に示すように、各音響共鳴体を積み重ねることが可能である。
以上説明した各部材の断面形状は一例に過ぎず、更に多くの頂点を有する多角形など、どのような形状であってもよい。また、抵抗材12の形状においても、管状部材11の内周面に合わせた形状に限らず、円筒形や角筒形のほか、ハニカム状や格子状などであってもよい。また、1つの音響共鳴体において、管状部材11に対する抵抗材12の配置の態様が、管状部材11ごとに異なっていてもよい。
また、中心軸x方向に対する各位置で音響共鳴体を切断したときに、管状部材11の形状や寸法が各位置で同じである構成に限らず、互いに相違する構成であってもよい。また、管状部材11に相当する音響共鳴体の筐体の形状は、管状に限らず、角筒形などの別の他の形状であってもよい。このように、本発明の筐体に相当するのものはいわゆる音響管に適用可能な部材であればよく、要するに、一方向に延在する中空領域と、その中空領域を外部空間に通じさせる開口端とが構成されたものであればよい。
【0038】
[変形例3]
上述した実施形態においては、管状部材11によって音響共鳴体10の筐体が構成されていたが、複数の筐体の組み合わせにより音響共鳴体の中空領域が構成されてもよい。その一例を図16に示す。図16は、この変形例の音響共鳴体を開口端側から見た様子を表す図である。この音響共鳴体は、紙面垂直方向に延びる筐体11aと、その筐体の内側に設けられた抵抗材12とにより構成された共鳴部材100を複数組み合わせてなる。図16に示すように、筐体11aは、その延在方向に沿って一方向(図中右側)に開放する側方を有しており、ここでは開口端側から見た形状が「コ」字状となっている。なお、共鳴部材100をそれぞれ区別する場合には、図中最も左側の部材を共鳴部材100−1とし、右側に向かって、共鳴部材100−2、・・・、100−n(n;自然数)とする。抵抗材12は、部材部分を開口端側から見た形状が「コ」字状となる形状であり、部材部分の内側の領域(ここでは、空間)は、その側方(図中右側)にて開放している。抵抗材12は、各筐体11aの内側の面に設けられ、部材部分の内側の領域が筐体11aと同じ方向に開放するように設けられている。また、筐体11aには、その開放側に取付部114aが設けられている。筐体11aの2つの取付部114aどうしの間に、別の筐体11aにおける開放側と反対側の側方が嵌め込まれるようにして、複数の共鳴部材100が連結される。図16の例では、共鳴部材100−1と100−2とが結合されることにより、抵抗材12の部材部分の内側の領域の開放側が塞がれる。これにより、紙面垂直方向に延在する中空領域113aが構成されて、音響共鳴体が構成される。なお、この結合がなされたときには、手動ないし自動で両者が容易に離脱しないようにされることが好ましい。また、ここでも、中空領域113aの一端側で開口し、他端側で閉口するように筐体11aは構成されている。
【0039】
この構成であれば、図16に示す矢印方向にn個の共鳴部材100を結合させることで共鳴体の数を任意のn−1個にすることができる。また、1或いは2の筐体で音響共鳴体の中空領域が構成される構成に限らず、3以上の複数の筐体によって中空領域が構成されるようにしてもよい。また、共鳴部材100を単体で用いる場合には、開放する側方が、部屋の壁部などの別の部材で塞がれることで共鳴体が構成されるようにしてもよい。
なお、上記構成において、筐体11aの開口端側から見た形状を「コ」字状にする以外に、例えば「U」字状にしてもよく、その形状については様々に変形可能である。また、筐体が、複数方向に開放した側方を有し、これら各方向に筐体を連結していくことによって音響共鳴体を構成してもよい。
【0040】
[変形例4]
共鳴管を用いた共鳴体において、或る程度広い周波数帯域で共鳴による作用効果を奏するようにするために、共鳴周波数がそれぞれ異なる複数の共鳴体を並べて配置することがある。この場合、従来においては、共鳴周波数に応じた複数の管長を設定してこれら管長の異なる複数の管を一体にするなどしていた。これに対し、本発明の音響共鳴体によれば、例えば図17に示す構成でこれと同等の音圧低減、及び粒子速度の増大の効果を奏するようにすることができる。
図17は、この変形例の音響共鳴体を示す断面図である。図17に示すように、ここでは5本の同一の管長を有する音響共鳴体が開口端111及び閉口端112の位置がそれぞれ隣接するように、一列に配置されて、音響共鳴体が構成されている。抵抗材12については、音響共鳴体ごとにそれぞれの中空領域の延在方向に対する長さが異なっている。図17の例では、音響共鳴体10b−1〜10b−5の順で長くなっている。これを図6の測定結果に照らし合わせると、管状部材11の構成は同一であるが、図中上から下へと順に次第に共鳴周波数が低くなるので、より広い周波数帯域で音圧の低減、及び粒子速度の増大の効果を奏することができる。このようにすれば、抵抗材12の構成(例えば、中空領域113の延在方向に対する長さ)で共鳴周波数を異ならせることができ、共鳴周波数に応じて管状部材11を作り分ける必要がないため、製造コストや製造の容易性の観点から好適である。また、管長に相違がないため、意匠的な観点からも好適である。また、音響共鳴体の共鳴周波数を変更したい場合などにおいても、抵抗材12を取り替えればよいだけである。
【0041】
[変形例5]
上述した実施形態では、開口端111の領域を含む位置に抵抗材12を設けていたが、これ以外の構成にすることもできる。実施形態では、開口端111に1次の共鳴周波数の定在波の粒子速度分布の腹が位置するという理由からも、開口端111に抵抗材を設けていた。これに対し、倍音ではこの「腹」の場所が異なることがある。例えば、図18(a)に示すように、2次の共鳴周波数の場合、定在波の粒子速度分布の腹は、開口端111の位置と、開口端111からL×2/3の位置とにある。よって、2次の共鳴周波数を低周波数側にシフトさせたい場合には、開口端111、及び開口端111からL×2/3の位置にある粒子速度分布の腹の位置に、抵抗材12を設けるとよい。図18(b)に示すように、3次の共鳴周波数の場合、定在波の粒子速度分布の腹は、開口端111の位置と、開口端111からL×2/5の位置と、開口端111からL×4/5の位置とにある。よって、3次の共鳴周波数を低周波数側にシフトさせたい場合には、管状部材11の開口端111、及び開口端111からL×2/5、及びL×4/5の位置にある粒子速度分布の腹の位置に、抵抗材12を設けるとよい。どのような倍音であっても、粒子速度分布の腹の位置に、抵抗材12を設けることで、その共鳴周波数を基準としてそれを低周波数側へよりシフトさせやすくすることができると考えられる。
なお、粒子速度分布の腹となる場所以外に抵抗材12を設けてもよい。粒子速度が大きいほど、上記音響現象が顕著になり、共鳴周波数のシフトや損失係数の増大の点において好適であると考えられるが、それ以外の場所であっても、同質の音響現象の発現に寄与する。
【0042】
[変形例6]
上述した実施形態では、本発明の筐体が、いわゆる一端開口の管状部材である場合について説明したが、いわゆる両端開口の管状部材であってもよい。この場合、管状部材にあっては、両端部が開かれた開端構成(いわゆる、開管)である。両端開口の管状部材の1次の共鳴周波数は、中空領域の両端間の長さの2倍の波長に相当するから、一端開口の管状部材よりも同じ周波数の共鳴周波数を実現するための寸法が大きくなってしまう。しかしながら、抵抗材12の作用により、実施形態の場合と同質の音響現象が発現するであるので、共鳴周波数を低周波数側へシフトさせつつ、損失係数を増大させることができる。
【0043】
[変形例7]
上述した実施形態において、低抵抗領域T2は、抵抗材に相当する部材が設けられて
いない空間(空洞)であったが、抵抗材などの部材で充填する構成を妨げるものではない。少なくとも、低抵抗領域T2における気体粒子の運動に対する抵抗が高抵抗領域T1における抵抗よりも小さければ、上述した実施形態の構成の場合と同質の音響現象が生じると考えられるからである。また、高抵抗領域T1は、1種類の材料からなる領域に限定されない。例えば高抵抗領域T1は、複数の抵抗材によって構成されてもよい。この場合、低抵抗領域T2に隣接する位置から遠くなるに従って、次第に抵抗が高くなる構成を採用することができる。また、高抵抗領域T1は、各位置で段階的、或いは連続的に抵抗が変化する領域であり、この領域が1種類の材料からなる抵抗材により実現されてもよい。
【0044】
[変形例8]
本発明において、粒子速度分布の腹となる領域(つまり、粒子速度が極大となる領域)の抵抗を相対的に大きくすることが好適であるが、この腹となる領域については、周知の粒子速度検出センサを用いて直接測定するほかに、以下のように特定してもよい。例えば、マイクロホンを用いて音響共鳴体10内の各場所で音圧を測定し、測定した音圧から間接的に粒子速度を特定してもよい。例えば、平面進行波において音圧を粒子速度で除して媒質の特性インピーダンスが求まることが知られているから、音圧と特性インピーダンス(抵抗値)とが既知であれば、粒子速度を一意に特定することができる。また、図18からも分かるように、音響管が一端開口であるか両端開口であるかという条件と管長とに基づいて演算により共鳴周波数を算出して、粒子速度分布の腹を理論的に特定(推測)することも可能であると考えられる。
また、中空領域113における各位置の抵抗値は、周知の測定器を用いて実測することで特定されてもよいし、又は、抵抗材の素材の種類や素材の疎密などで抵抗値が異なるから、抵抗材の素材や粗密などの条件から複数ある各領域の抵抗値の大小関係が特定可能であれば、その抵抗値を実測しなくてもよい。
【0045】
[変形例9]
上述した実施形態又は変形例に係る音響共鳴体は、各種の音響室に配置することが可能である。ここで各種音響室は、室空間を有している音響室であり、例えば防音室、ホール、劇場、音響機器のリスニングルーム、会議室等の居室、各種輸送機器の空間、スピーカや楽器などの筐体等である。
部屋などの室空間においては、二重壁の内側や、床下などへの設置が可能である。電車や航空機、船舶、自動車、宇宙ステーションなどの乗り物にあっては、乗車者が入室する車室のほか、機械室や荷物室などの室空間に音響共鳴体を設けてもよい。また、ヘッドフォン、イヤホン、補聴器などの聴取に用いられる器具に形成された室空間における共鳴を減衰させるために、これらの器具に本発明の音響共鳴体の構成を適用してもよい。また、乗り物や建造物に設けられる空調装置などのダクトの室空間に音響共鳴体を設けてもよい。また、オートバイなどの乗り物の給排気管を室空間として音響共鳴体を設けてもよい。つまり、静粛性を高めるための種々の室空間に、音響共鳴体を設けることができる。
【0046】
また、音響共鳴体の設置位置について、空間における特定の固有周波数の固有振動の音圧分布の腹となる場所の音圧を低減させ、また、粒子速度を増大させるように、その場所或いはその近傍に音響共鳴体の開口部が位置するように設けるとよい。これにより、この固有振動の音圧分布の他の場所の腹の音圧レベルも低減され、空間全体の騒音レベルを低減できるからである。空間の固有振動は、空間内での入射波が反射、吸音、回折等の伝搬を繰り返すことで、これらの重ね合わせにより生成された音場である。特に、この周波数軸上で孤立して生成された特定の固有周波数の固有振動が生成される空間は、特定の場所に固有周波数の音圧分布の腹が位置して、その音圧レベルが空間全体の静粛性に大きく影響する、という知見を発明者らは得た。このような音場に対して、ある特定の位置の腹の音圧レベルを低減させたり、粒子速度を増大させたりすると、固有振動の全体の音圧の振幅が小さくなる。従って、空間内の低音域の騒音レベルを効果的に下げることができる。
【符号の説明】
【0047】
10…音響共鳴体、100…共鳴部材、11,11b…管状部材、11a…筐体、111…開口端、112…閉口端、113,113a…中空領域、12…抵抗材、121…第1の面、122…第2の面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口する一端と、開口し、又は閉口する他端とを有し、前記一端と前記他端との間で延在する中空領域が構成された筐体を備え、
第1の領域と、媒質粒子の運動に対する抵抗が前記第1の領域よりも大きい第2の領域とが前記中空領域に構成され、前記中空領域の延在方向に直交する平面で前記中空領域を切断した場合の断面において、前記第2の領域が含まれる断面に、当該第2の領域に接して前記第1の領域が構成されており、
共鳴時には、前記延在方向に対する位置に応じて共鳴周波数の音圧が変化する領域が前記中空領域に含まれる
ことを特徴とする音響共鳴体。
【請求項2】
前記筐体は、前記延在方向が前記中空領域の長手方向となるように構成される
ことを特徴とする請求項1に記載の音響共鳴体。
【請求項3】
前記第2の領域は、前記延在方向に対する一端が前記筐体外部の空間に接している
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の音響共鳴体。
【請求項4】
前記第1の領域は、空間領域を内部に含み、
前記第2の領域は、前記延在方向に対する他端が前記空間領域に接している
ことを特徴とする請求項3に記載の音響共鳴体。
【請求項5】
前記第2の領域は、前記延在方向に対する一端と他端とを介して前記筐体外部の空間と前記空間領域とを通じさせる空間が内部に構成される
ことを特徴とする請求項4に記載の音響共鳴体。
【請求項6】
前記第2の領域は、多孔質材が設けられた領域である
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の音響共鳴体。
【請求項7】
前記第1の領域は、前記一端と前記他端とを通じさせる空間である
ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の音響共鳴体。
【請求項8】
前記第2の領域は、前記中空領域に生じる定在波の粒子速度分布の腹となる領域を含むことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の音響共鳴体。
【請求項9】
前記第2の領域は、前記中空領域の前記一端を含む領域である
ことを特徴とする請求項8に記載の音響共鳴体。
【請求項10】
前記第2の領域は、前記筐体の内側の面に接しており、
前記第2の領域が含まれる断面において、前記第1の領域の周囲が前記第2の領域に囲まれている
ことを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の音響共鳴体。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載の音響共鳴体を備えることを特徴とする音響室。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−133855(P2011−133855A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239875(P2010−239875)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】