説明

音響場を再構成するための方法

音場を再構成する方法が本明細書に開示される。この方法は、1組の測定位置で測定された第1の音響量を示す測定値を受信することと、1組の仮想源位置を定義することと、1組の定義された仮想源位置のそれぞれの仮想源位置から生じるそれぞれの音場をそれぞれ表す1つまたは複数の波動関数から、少なくとも1つの目標位置に関して第2の音響量を計算することとを含み、1つまたは複数の波動関数が、それぞれ1つまたは複数の重み付け係数によって重み付けされ、計算が、1つまたは複数の波動関数を受信測定値に最小ノルム適合させることによって1つまたは複数の重み付け係数を決定することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響場の再構成に関する。
【背景技術】
【0002】
近距離場音響ホログラフィ(NAH)は、音放射の3D視覚化のため、および音源の近くの表面にわたる測定に基づく正確な雑音源位置特定のために非常に有用なツールである。また、このツールでエバネッセント波成分を再構成することができることにより、非常に高い空間解像度が保証される。
【0003】
既知の近距離場音響ホログラフィ法は、分離可能な(separable)座標系内でのレベル表面にわたる規則的な格子の測定に基づいており、空間離散フーリエ変換(DFT)によってNAH計算を行うことができるようにする(例えば、E.G.Williams、J.D.Maynard、およびE.J.Skudrzyk「Sound source reconstruction using a microphone array」J.Acoust.Soc.Am.68,340〜344頁(1980)参照)。DFTの使用により、処理は非常に高速であるが、DFTを使用する副作用として、測定領域が高い音圧の領域を完全にカバーしていない限り空間窓効果(spatial windowing effects)が非常に大きいことが挙げられる。いくつかの場合には、測定領域に対するこの要件は実現することができず、多くの場合、必要なサイズが法外に大きくなる。
【0004】
依然としてDFT空間処理を保持しながら空間窓効果を低減するが、複雑さおよび計算必要量の増加という代償を払う1組の技法が提案されている(例えば、J.Hald「Reduction of spatial windowing effects in acoustical holography」Proceedings of Inter−Noise 1994参照)。典型的には、最初に反復処置を使用して、測定領域の外で測定音圧を外挿し、その後、拡げられたデータ窓に対してDFTベースのホログラフィ法が適用される。
【0005】
空間DFTを使用しないようにすること、および所要の測定領域を小さくすることを目指す他の方法が提案されている。
【0006】
1つのそのような方法は、ヘルムホルツ方程式最小二乗(HELS)法であり、これは、球面波動関数に関して音場の局所モデルを使用する(例えば、米国特許第6615143号、Z.WangおよびS.F.Wu「Helmholtz equation−least−squares method for reconstructing the acoustic pressure field」J.Acoust.Soc.Am,102(4),2020〜2032頁(1997)、またはS.F.Wu「On reconstruction of acoustic fields using the Helmholtz equation−least−squares method」J.Acoust.Soc.Am,107,2511〜2522頁(2000)参照)。しかし、音場を表現するために、共通の原点を有する球面波動関数のみが使用されるので、音響源表面も球面であって同じ原点に中心合わせされていない限り、音響源表面上での音場再構成にエラーが生じる。上述した従来技術の方法の別の欠点は、それが、十分に正確なモデルを得るために多数の測定位置を必要とすることである。第3の欠点は、チホノフ(Tikhonov)正則化など従来の正則化法が適切に作用しないことである。その代わりに、上述した従来技術の方法は、正則化を用いずに、最小二乗解と組み合わされた球面波展開の最適な打切りに関する計算コストの高い反復探索を適用する。
【0007】
別の従来提案されている方法は、R.SteinerおよびJ.Hald「Near−field Acoustical Holography without the errors and limitations caused by the use of spatial DFT」Intern.J.Acoust.Vib.6,83〜89頁(2001)に開示されている統計的最適化近距離場音響ホログラフィ(SONAH)法である。しかし、この従来技術の方法は、平面波動関数に基づいており、非平面音響源表面での音場の正確な再構成は可能でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6615143号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】E.G.Williams、J.D.Maynard、およびE.J.Skudrzyk「Sound source reconstruction using a microphone array」J.Acoust.Soc.Am.68,340〜344頁(1980)
【非特許文献2】J.Hald,「Reduction of spatial windowing effects in acoustical holography」Proceedings of Inter−Noise 1994
【非特許文献3】Z.WangおよびS.F.Wu「Helmholtz equation−least−squares method for reconstructing the acoustic pressure field」J.Acoust.Soc.Am,102(4),2020〜2032頁(1997)
【非特許文献4】S.F.Wu「On reconstruction of acoustic fields using the Helmholtz equation−least−squares method」J.Acoust.Soc.Am,107,2511〜2522頁(2000)
【非特許文献5】R.SteinerおよびJ.Hald「Near−field Acoustical Holography without the errors and limitations caused by the use of spatial DFT」Intern.J.Acoust.Vib.6,83〜89頁(2001)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の態様によれば、本明細書では、少なくとも1つの測定値に基づいて音場を再構成する方法であって、
1組の測定位置で測定された第1の音響量の測定値を受信することと、
1組の仮想源位置を定義し、かつ定義された1組の仮想源位置のうちのそれぞれの仮想源位置から生じるそれぞれの音場をそれぞれ表す1組の波動関数を定義することと、
1組の波動関数にそれぞれの展開係数を乗算した積の重ね合わせから、目標位置で第2の音響量を計算することとを含み、計算が、1組の波動関数の重ね合わせを受信測定値に最小ノルム適合させることによって1つまたは複数の展開係数を決定すること
を含む方法が開示される。
【0011】
本発明者らは、音響モデルで使用される波動関数の総数よりも測定点の数が小さいときでさえ、本明細書で説明する方法および装置の実施形態が音場の正確な再構成を可能にすることに気付いた。特に、本明細書で説明する方法の実施形態は、劣決定された推定問題、すなわち未知の展開係数の数が測定の数よりも大きくなる場合を取り扱うために音響モデルの展開係数を決定するための最小ノルム解の式を使用する。したがって、比較的少数の測定で、かつ比較的低い計算コストで、複雑な表面幾何形状を有する場合でさえ音響源の詳細なモデリングを可能にする効率的な技法が提供される。
【0012】
一般に、用語「音場を再構成する」とは、1組の点において、別の(または同じ)組の点での同じまたは異なる音響量(1つまたは複数)の測定に基づいて、近似値の計算/推定によって、1つまたは複数の音響量、例えば音圧、粒子速度、強度、および/または音響パワーを予測するための任意のプロセスを表す。
【0013】
各仮想源位置は、1つまたは複数の波動関数に関する原点でよく、すなわち複数の波動関数が1つの仮想源位置を原点とすることがあることを理解されたい。
【0014】
第2の態様によれば、本明細書では、少なくとも1つの目標位置に音場を再構成する方法であって、音場が、少なくとも1つの音源によって生成され、
1組の測定位置で測定された第1の音響量の1つまたは複数の測定値を受信することと、
1組の仮想源位置を定義し、かつ定義された1組の仮想源位置のうちのそれぞれの仮想源位置から生じるそれぞれの音場をそれぞれ表す1組の波動関数を定義することと、
1組の波動関数にそれぞれの展開係数を乗算した積の重ね合わせから、少なくとも1つの目標位置に関して第2の音響量を計算することとを含み、測定位置および少なくとも1つの目標位置が、音響源を含まない第1の領域内に位置され、仮想源位置が、音響源を含まない第1の領域の外に位置され、
定義が、定義された各仮想源位置ごとに、音響源を含まない第1の領域の外に位置されるそれぞれのスケーリング表面を定義すること、および対応する仮想源位置のスケーリング表面上で所定の振幅を有するように1組の波動関数の各波動関数をスケーリングすることを含む方法が開示される。
【0015】
したがって、本明細書で説明する方法の実施形態では、波動関数、例えばそれぞれの仮想音源位置の周囲の異なる次数の多重極および/または球面波動関数が、それぞれの仮想音源の周囲のスケーリング表面上で等しいまたは少なくともほぼ等しい振幅を有するようにスケーリングされる。特に、それらの原点として同じ仮想源位置を有するすべての波動関数を、その仮想源位置の周囲の同じスケーリング表面にスケーリングすることができる。スケーリング表面は、対応する仮想源位置に中心がある球面でよい。特に、スケーリング表面が、どれも同じ半径を有する球面であるとき、波動関数は、それらそれぞれの仮想源位置(すなわち波動関数の原点)から所定の距離で同じ振幅を有するようにスケーリングされる。
【0016】
したがって、本明細書で説明する方法の実施形態は、モデル領域内でより強い減衰を有する関数が、同じ領域内で、特に測定位置でより低い振幅にスケーリングされるように、波動関数のスケーリングを適用する。本明細書で説明するスケーリング方式は、例えば、ただ1つの仮想源位置と、そのただ1つの仮想源位置を原点として定義された複数の波動関数とを用いる実施形態において、1組の波動関数が異なる次数の多重極および/または球面波動関数を備えるときに特に有用である。波動関数がそれぞれのスケーリング表面上で(ほぼ)等しい振幅を有するので、より強い減衰を伴う波動関数は、音響源を含まない第1の領域に入るとき、特に測定位置で、より弱い減衰を伴う波動関数に比べて低いレベルに達している。測定位置で、これらの速く減衰する波はより小さい振幅を有するので、展開係数の計算に関して設定される方程式の系において、より低い重み付けであり、したがって最初に正則化プロセスによって切り捨てられるものとなる。このタイプの挙動は、正則化法が、測定データのノイズフロアよりも十分に上で音場の成分を保ち、測定の不正確さが顕著になるほど低いレベルまで減衰している波成分を切り捨てることができるようにするのに望ましい。したがって、このスケーリングにより、正則化方式が最適なフィルタリングを行うことができるようになり、したがってより正確な再構成が可能になることが、このスケーリングの利点である。
【0017】
本明細書で説明するスケーリングの実施形態は、HELS法と本明細書で説明する最小ノルム法の両方に関連して使用することができることを理解されたい。
【0018】
音源は、音響放射を放出または反射するいかなる物体でもよい。物体は、任意の形状でよく、音は、いかなる種類の音でもよく、例えば雑音、可聴音、超音波や超低周波音など非可聴音、またはそれらの組合せでよい。
【0019】
測定位置での第1の音響量は、任意の適切な音響測定デバイス、例えばマイクロホン、ハイドロホン、圧力勾配トランスデューサ、粒子速度トランスデューサなど、またはそれらの組合せによって測定することができる。いくつかの実施形態では、測定は、音響測定デバイスのアレイ、例えば、規則的または不規則な格子、例えば2次元または3次元格子状に配列された1組のそのようなデバイスによって行われる。測定される第1の音響量は、音圧、音圧勾配、粒子速度、および/またはその他でよい。
【0020】
再構成音場は、音圧、音響強度、または粒子速度など第2の音響量の空間分布を示す任意の適切なデータセットによって表現することができる。第1の音響量と第2の音響量は、同じ量でも異なる量でもよい。データセットは、マップとして表現することができ、例えば、任意の表面、例えば解析すべき音/雑音放出物体の表面や、物体に近接する表面の実際の表面幾何形状の直に上での第2の音響量のマップとして表現することができる。
【0021】
固い表面の上での粒子速度は、表面自体の実際の振動に密接に対応するので、その結果を、構造モデルとの相関に関して直接使用することができる。いくつかの実施形態では、音場は、等角写像(conformal map)によって表現される。いくつかの実施形態では、音場パラメータは、表面上、典型的には音響源表面の近くに再構成されてマップされる。代替または追加として、例えば、波動関数表現の妥当性がある3D領域内の単一位置でのスペクトルを再構成することができる。
【0022】
1つまたは複数のスケーリングされた波動関数を受信測定値に最小ノルム適合させるとは、一般に、1組の線形方程式を解く1組の複素展開係数を決定する数値プロセスであって、決定される1組の係数が少なくともほぼ最小のノルムを有する数値プロセスを表し、すなわち、このプロセスは、1組の方程式が一意の解を有さない状況で、1組の可能な解の中から最小ノルムを有する解を決定する。1組の線形方程式は、測定位置で、測定値に等しくなるように各波動関数にそれぞれの展開係数が乗算された波動関数の和を必要とする。展開係数は、振幅および位相を表現する複素数である。1組の方程式に対する解が一意でないときでさえ音場の正確な再構成を実現することができ、このプロセスが最小ノルム解を決定することが、本発明者らによって認識された。
【0023】
本明細書で説明する方法の実施形態のさらなる利点は、最小ノルム解の式からの第2の音響量の計算が、測定位置のうちの第1の測定位置での1組の波動関数と、目標位置および測定位置から選択される第2の位置での1組の波動関数とのそれぞれの相関を示す相関関数の計算に基づくことがあることである。特に、最小ノルム解の式が、測定位置の数に等しい次元数を有する正方相関行列であり、正方相関行列の各要素が、それぞれの測定位置で評価された1組の波動関数の相関を示す。
【0024】
測定位置および少なくとも1つの目標位置は、音響源を含まない均質な第1の領域内に位置させることができ、仮想源位置は、音響源を含まない第1の領域の外に、典型的には音響源を含まない第1の領域の境界から所定の距離に位置させることができる。各仮想源位置は、1組の波動関数のうちの1つまたは複数の波動関数の原点となる。
【0025】
いくつかの実施形態では、音響源を含まない第1の領域が、第1の表面によって定義され、少なくとも1つの音源が、物体表面を有する物体内に備えられ、物体表面の少なくとも一部が、第1の表面の少なくとも一部を定義する。したがって、物体表面は、少なくとも部分的に、音響源を含まない、音場を再構成することができる第1の測定および再構成領域を定義することができ、それにより、少なくともいくつかの目標位置を物体表面上に位置させることができるようにする。仮想源位置は、測定および再構成領域の外に定義される。
【0026】
例えば、仮想源位置、すなわち波動関数のうちのそれぞれの波動関数の原点は、解析すべき音源の周囲の物体表面に対して所定の空間関係で定義することができる。例えば、仮想源は、すべて物体表面から所定の距離を有する位置に定義することができ、それにより表面の正確なマッピングを提供する。一般に、物体表面は、音源および仮想源位置に面する第1の側と、測定および目標位置に面する第2の側とを有することができる。しかし、いくつかの実施形態では、いくつかの仮想源位置を、音響源物体の外に、しかし音響源を含まない第1の領域の外に位置させることができる。
【0027】
波動関数は、1組の適切な初等波動関数、例えば1組の直交する初等関数でよい。初等波動関数は、それぞれ、再構成領域内で、いわゆるヘルムホルツ方程式または変形された波動方程式を満足する。いくつかの実施形態では、初等波動関数は球面波動関数である。いくつかの実施形態では、各仮想源位置ごとに、例えば有限多重極展開、すなわち、例えば多重極点関数から選択された有限数の多重極初等関数の一次結合、1組の(異なる向きを有する)二重極点関数、および/またはその他を定義するために、1組の制限されたスケーリングされた球面波動関数が使用される。特に、プロセスは、初等波動関数の一次結合から直接または間接的に第2の音響量を計算することができ、各初期波動関数は、それぞれの展開係数によって重み付けされる。例えば、計算は、波動関数の空間導関数を計算することを含むことができる。波動関数の一次結合が圧力を提供する場合、(同じ展開係数を使用し、しかし追加の周波数に依存する一定の係数を有する)波動関数の空間導関数の重み付けされた和から粒子速度を得ることができる。また、圧力および粒子速度から音響強度を計算することができる。
【0028】
上述および後述の方法の特徴は、少なくとも部分的にソフトウェアまたはファームウェアとして実装することができ、データ処理デバイスで実施することができる、またはコンピュータ実行可能命令などプログラムコード手段の実行によって引き起こされる他の処理手段で実施することができることに留意されたい。ここおよび以下で、用語「処理手段」は、上記の機能を行うように適切に適合された任意の回路および/またはデバイスを備える。特に、上の用語は、汎用または専用プログラマブル・マイクロプロセッサ、デジタル信号処理装置(DSP)、特定用途向け集積回路(ASIC)、プログラマブル・ロジック・アレイ(PLA)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、専用電子回路など、またはそれらの組合せを備える。
【0029】
本発明の実施形態は、上述および後述の方法、システム、デバイス、および製品手段を含めた様々な形で実装することができ、それらはそれぞれ、最初に述べた方法の1つに関連して説明した利益および利点の1つまたは複数をもたらし、かつそれぞれ、最初に述べた方法の1つに関連して説明した実施形態および/または従属請求項に開示する実施形態に対応する1つまたは複数の実施形態を有する。
【0030】
特に、音場を再構成するための処理デバイスの実施形態は、1組の測定位置で測定される第1の音響量の測定値を受信するためのインターフェースと、処理ユニットとを備える。
【0031】
音場を再構成するためのシステムは、上述および後述して開示するような装置と、1組の測定位置で第1の音響量を測定するための1組のトランスデューサであって、測定値を装置に転送するために装置に通信接続するように接続可能な1組のトランスデューサとを備えることができる。
【0032】
コンピュータプログラムは、プログラムコード手段がデータ処理システムで実行されるときに、上述および後述して開示する方法のステップをデータ処理システムに行わせるように適合されたプログラムコード手段を備えることができる。コンピュータプログラムは、記憶手段に記憶することができ、またはデータ信号として具現化することができる。記憶手段は、データを記憶するための任意の適切な回路またはデバイス、例えばRAM、ROM、EPROM、EEPROM、フラッシュメモリ、磁気または光記憶デバイス、例えばCD ROM、DVD、ハードディスク、および/またはその他を備えることができる。
【0033】
上述および他の態様は、図面を参照して以下に説明する実施形態から明らかになり把握されよう。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】音場を再構成するためのシステムの概略ブロック図である。
【図2】再構成音場を計算するプロセスの一実施形態の流れ図である。
【図3】再構成音場を計算するプロセスの別の実施形態の流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図面を通じて、可能であれば、同じ参照符号は同じまたは対応する要素、特徴、または構成要素を表す。
【0036】
図1は、音場を再構成するためのシステムの概略ブロック図を示す。このシステムは、1組の音響受信機108と、音響受信機に接続された解析ユニット103とを備える。
【0037】
以下、音響受信機108をトランスデューサとも呼ぶ。それにも関わらず、音響受信機は、マイクロホン、ハイドロホン、または音圧、音圧勾配、粒子速度、および/または他の線形量などの音響特性を測定するための任意の他の適切なデバイス、またはそれらの組合せでよいことを理解されたい。図1の実施形態では、トランスデューサ108はトランスデューサのアレイ102として実装され、トランスデューサ108が規則的な格子、例えば1次元、2次元、または3次元の格子状に配列される。規則的な格子状の配列は効率的な数値的実装を可能にするが、他の幾何形状を使用することもできる。いくつかの実施形態では、ただ1つのトランスデューサを使用して、様々な点で連続して測定を行うことさえもできる。そのような連続的な測定は、例えば、音源が静止している状況、および1つまたは複数の基準信号に対して位相を測定することができる状況で使用されることがある。トランスデューサの数およびアレイの幾何形状、例えばトランスデューサ間隔は、解析すべき物体のサイズおよび幾何的複雑さ、対象の周波数範囲、ならびに所望の空間解像度に従って選択することができる。
【0038】
トランスデューサ・アレイ102は解析ユニット103に接続され、それにより、トランスデューサ108は、測定された信号を、例えば有線または無線信号接続を介して解析ユニットに転送することができる。
【0039】
解析ユニット103は、測定された信号をトランスデューサ・アレイ102から受信して処理するためのインターフェース回路104、インターフェース回路104とデータ通信する処理ユニット105、および処理ユニット105とデータ通信する出力ユニット106を含む。
【0040】
インターフェース回路は、トランスデューサ108から出力信号を受信するのに適しており、かつ処理ユニット105による後の解析のために受信信号を処理するのに適している信号処理回路を備える。インターフェース回路104は、以下の構成要素のうちの1つまたは複数を備えることがある。受信信号を増幅するための1つまたは複数の前置増幅器、受信信号をデジタル信号に変換するための1つまたは複数のアナログ・デジタル(A/D)変換器、1つまたは複数のフィルタ、例えば帯域幅フィルタ、および/またはその他。例えば、インターフェース回路は、出力データとして、各トランスデューサごとに周波数の関数として振幅および位相を提供することができる。いくつかの実施形態では、インターフェース・ユニットは同時の時間データ獲得を行うことができ、次いで、処理ユニット105によって、典型的にはFFTを使用した周波数領域へのデータの変換を含めたすべてのさらなる処理を行うことができる。
【0041】
処理ユニット105は、適切にプログラムされたマイクロプロセッサ、コンピュータの中央処理装置、またはインターフェース・ユニット104から受信された信号を処理するための任意の他の適切なデバイス、例えばASIC、DSP、および/またはその他でよい。処理ユニットは、インターフェース回路104を介して受信されたトランスデューサ信号を処理して、本明細書で述べるように再構成音場を計算するように適合される。
【0042】
出力ユニット106は、再構成音場の視覚表現を提供するためのディスプレイまたは任意の他の適切なデバイスもしくは回路、例えば印刷された表現を提供するためのプリンタおよび/またはプリンタ・インターフェースを備えることができる。代替または追加として、出力ユニット106は、再構成音場を示すデータを通信および/または記憶するための任意の適切な回路またはデバイスを備えることができ、例えばRAM、ROM、EPROM、EEPROM、フラッシュメモリ、磁気または光記憶デバイス、例えばCD ROM、DVD、ハードディスク、有線または無線データ通信インターフェース、例えばコンピュータまたは遠隔通信ネットワーク、例えばLAN、広域ネットワーク、およびインターネットへのインターフェース、および/またはその他である。
【0043】
解析ユニット103は、適切にプログラムされたコンピュータ、例えば適切な信号獲得回路板または回路を含むPCとして実装することができる。
【0044】
さらに、このシステムは、例えば基準座標系に対するトランスデューサ108の位置を検出するための、解析ユニット103に接続された適切な位置検出デバイス110を備えることができる。位置検出デバイスは、テストベンチ、フレーム、または他の構造を含むことがあり、そこにトランスデューサ・アレイを所定の位置および向きで取り付けることができ、および/または例えば適切なセンサによってアレイの位置および向きを手動または自動で測定することができる。あるいは、トランスデューサ・アレイ102が、位置検出デバイスまたは少なくともその一部を含むことができる。例えば、トランスデューサ・アレイは、磁場位置検出システムのコイル、ジャイロスコープ、光学位置検出システム、および/またはその他を含むことができる。
【0045】
動作中、トランスデューサ・アレイ102は、音響放射を放出する物体100の表面101の近くに位置決めされ、その物体100に関して音場を再構成することができる。トランスデューサの数、アレイの幾何形状、例えばトランスデューサ間隔、およびアレイと物体表面101の距離は、解析すべき物体のサイズおよび幾何的複雑さ、対象の周波数範囲、および所望の空間解像度に従って選択することができる。例えば、車のエンジンの音場の再構成に関しては、例えば3cmの要素間隔を有する8×8行列アレイのマイクロホンを使用することができる。しかし、他のタイプおよびサイズのアレイを使用することもできることを理解されたい。
【0046】
アレイ102の位置は、例えば位置検出デバイス110によって決定され、解析ユニット103に提供される。アレイ102のトランスデューサ108は、決定された位置で、音圧または別の適切な音響量を測定し、得られたトランスデューサ信号が解析ユニット103に送信される。
【0047】
例えば、トランスデューサ・アレイは、一体型の位置検出デバイスを有するハンドヘルド・アレイでよく、したがって、物体の周囲に分布された様々な接近可能な位置での測定を可能にし、テストのための音響源の特別な準備にかかる時間を最小限に短縮する。例えば、テストベンチ上の音源、例えば圧縮機、ポンプ、または他の機械をマッピングするとき、妨げなく全面に接近できるようにするために燃料ラインの引き回しや電子的な配線などのテスト設定を変更するのに必要な時間は、なくなりはしないにせよ短縮される。別の典型的な適用例は、車のキャビン内部におけるものでよく、3Dアレイ格子を使用して、すべての方向で音響源を見分けることができ、例えば二層アレイ(例えば8×8×2のセンサを含む)を使用することができる。
【0048】
解析ユニット103は、入力データから、再構成音場を計算し、再構成音場の表現を記憶および/または出力する。
【0049】
次に、再構成音場を生成するためのプロセスの一実施形態を、図2を参照して説明し、かつ図1を引き続き参照する。
【0050】
ステップS1で、プロセスは、1組の位置r(i=1、2、・・・、I)の座標と、1組の位置rで測定されたそれぞれの複素時間調和音圧p(r)とを受信する。rは、適切な座標系に対する位置、例えば位置検出デバイス110から受信された入力から決定されるトランスデューサ位置の座標ベクトルを表す。本説明のために、位置rは、空気や水など均質な流体が占めている音響源を含まない領域Ω内に位置されると仮定する。複素時間調和音圧p(r)は、様々なやり方で、受信されたトランスデューサ信号から決定することができる。例えば、すべてのトランスデューサを用いて一回のみの同時記録を行うことができ、その後、すべての信号のFFTを行い、これにより、あらゆるFFTラインに関する複素(時間調和)音場が得られる。あるいは、基準信号からすべてのアレイ・トランスデューサへのクロススペクトル、および基準信号のオートスペクトルの測定を行うこともできる。このとき、クロススペクトルをオートスペクトルの平方根で割った商が、適用されるスペクトルのあらゆる周波数ラインに関する複素(時間調和)音場を提供する。図2のプロセスは、測定された音圧に基づいて、Ω内で音場の再構成を行う。
【0051】
これを行うために、ステップS2で、プロセスは、Ω内に存在しうるすべての音圧場を十分に高い精度で表現することができる1組の初等波動関数Ψ(n=1、・・・、N)を定義する。
【0052】
【数1】

ここで、aは、展開係数とも呼ばれる複素重み付け係数である。初等波動関数は、スケーリングされた球面波動関数でよく、または同等に、単極、二重極、および/または四重極など多重極音源からの音場でよく、ここで、これらの仮想源は、Ωの周囲に、しかしΩの外に分布される。したがって、このプロセスは、音場表現の領域Ωの外にある1組の仮想源位置107を定義する。例えば、プロセスは、1組の仮想源の位置を記憶していることがあり、および/または例えばユーザ入力としてそれらの位置を受信することがあり、および/または典型的には音響源表面をたどる所定の幾何形状で位置を生成することがあり、および/またはその他であることがある。いくつかの実施形態では、プロセスは、例えば単一の仮想源位置の1組の多重極展開関数を定義することによって、単一の仮想源位置を使用することができ、他の実施形態は、例えば各仮想源位置ごとに単一の波動関数を使用して、複数の仮想源位置を利用することができる。さらに、他の組合せが可能であることもある。仮想源位置は、調査中の物体の現実の物体表面と共形、または少なくともほぼ共形の表面上に位置されるように定義することができる。しかし、仮想源位置は、他のやり方で位置決めすることもできる。特に、図1の例では、音響源を含まない領域Ωが、物体表面101と一致する境界を有するように図示されている。したがって、図1の例では、仮想音源107はすべて、物体100の内部に図示されている。それにも関わらず、代替実施形態では、領域Ωは、少なくとも一部は物体表面と異なる境界表面、典型的には、一部は物体100の外にあり、一部は物体表面101と一致する表面によって定義することができる。したがって、そのような代替実施形態では、少なくともいくつかの仮想源位置を、物体100の外に、しかし依然としてΩの外に位置させることができる。例えば、二層アレイを使用するとき、プロセスは、アレイを取り囲む仮想源位置を定義することができる。そのような構成は、アレイの後方からの反射および/または音響源がある状況で有用であることがある。
【0053】
プロセスは、各仮想源位置ごとに、1組のスケーリングされた波動関数を定義する。例えば、各仮想源位置ごとに、以下のものから1組の波動関数を選択することができる。
−1組の制限された球面波動関数。周波数依存スケーリング係数は別にして、球面波動関数および多重極場が同一であることに言及することができる。
−単極点関数に対応する、多重極展開のゼロ次関数のみ。
−単極、二重極、および四重極に対応する、多重極展開の第1、第2、または第3の1次関数のみ。
【0054】
すべての初等波動関数は、再構成領域内でヘルムホルツ方程式を満たすように選択される。特に、これは、多重極からの球面波動関数および音場に関して、それらの原点が再構成領域の外にある場合に該当する。いくつかの実施形態では、唯一の境界条件は、測定される音場の値であるが、他の既知の境界条件、例えば反射表面を組み入れることもできる。
【0055】
本明細書に述べる方法の実施形態は、劣決定された場合にも、すなわち展開関数の数Nが測定点の数Iよりも大きい、すなわちN>Iであるときにも適用可能であることに留意されたい。
【0056】
各波動関数は、その関数の周波数および/または原点に依存することがあるスケーリング係数を有する。スケーリングは、例えば、すべての関数が、それらの原点となる仮想源位置からある選択された距離で、すなわちそれぞれの仮想源位置107の周囲の球面スケーリング表面112上で同一(または少なくともほぼ同一)の振幅を有するようなものであってよい。スケーリング表面112の半径は、仮想源位置107と領域Ωの境界との距離(またはすべてのそのような距離の最小距離)よりも小さくなるように選択される。上述したように、境界は物体表面101でよい。したがって、波動関数Ψは、標準の球面波動関数のスケーリングされたバージョンと定義することができる。このスケーリングが、定義された波動関数の特性を表し、一方、展開係数の決定が、スケーリングされた波動関数Ψを含む方程式に基づいて行われることは言及に値することがある。
【0057】
物体表面がプロセスへの入力パラメータでよく、これは例えば、トランスデューサ位置と同様に、例えば手動で測定された表面点から、または位置決め検出デバイスからのデータから得ることができる。代替または追加として、プロセスの一部として物体表面を測定/決定することができる。これは、考察中の物体の物理的な表面でよい。スケーリング表面および音響源モデル表面は、再構成プロセスによって定義される。音響源モデル表面は、仮想源位置107が位置される表面であり、一方、スケーリング表面112は、対応する仮想源位置を原点としたスケーリングされた波動関数がすべて等しい振幅を有する、それぞれの仮想源位置の周囲での球面である。音響源モデル表面およびスケーリング表面は、物体の内部に、すなわち測定領域と反対の物体表面の側に定義することができる。一般に、音響源モデル表面およびスケーリング表面は、スケーリング表面が、領域Ωの完全に外に、例えば物体100の内部に位置するように定義することができる。例えば、スケーリング表面の半径は、音響源モデル表面から物体表面までの距離よりも小さくすることができる。このスケーリングにより、正則化法が適切に作用するようになる。特に、正則化法は、一般に、強い減衰を伴う波動関数が、弱い減衰を伴う波動関数よりも、測定領域において低い振幅を有するモデルに関して良好に作用する。波動関数がスケーリングされていない場合、より高次の多重極(これは強い減衰を伴うものである)が、より低次の関数(これはより弱い減衰を伴う)、例えば単極や二重極よりも、再構成領域において大きな振幅を有する。正則化の目的は、測定雑音の影響を抑制することであり、これは、方程式の系に摂動を加えることによって行われる。波がスケーリングされていない場合、摂動は、より低次の波に由来する関連の行列からの有用な情報を除去し、一方、スケーリングされたバージョンは、あまり重要でないより高次の項からより多くの情報を除去する。
【0058】
音圧に対する代替または追加として、プロセスが、別の音響量、例えば粒子速度を測定することがあることを理解されたい。例えば、方向χでの粒子速度uχ(r)(例えば、デカルト座標系のx、y、またはz方向から選択される方向)は、オイラーの式を適用することによって得ることができる。
【0059】
【数2】

ここで、本発明者らは、展開関数の空間導関数を導入した。
【0060】
【数3】

ここで、ωは角周波数であり、k=ω/cは波数であり、cは音の伝播速度であり、ρは媒体(すなわち流体)の密度であり、jは虚数単位である。
【0061】
したがって、プロセスは、1組の目標点rそれぞれでの音圧および/または粒子速度を計算することができ、音場を再構成することができる。目標点の2つの例が、図1に参照番号109で表されている。多くの状況で、調査中の物体の物体表面上で音場を再構成することは興味深いことである。例えば、プロセスは、規則的な格子の1組の格子点それぞれで音圧を計算することができる。本説明において、再構成音場の値を計算することができる点を計算点とも呼ぶ。
【0062】
計算位置での展開係数および波動関数を含むべクトル
【0063】
【数4】

を定義することにより、式(1)および(2)を以下のように書き換えることができるようになる。
p(r)=aα(r)=[α(r)]a (5)
χ(r)=aβχ(r)=[βχ(r)]a (6)
ここで、上付き文字Tは、行列またはベクトルの転置を表す。
【0064】
測定位置での波動関数値の行列AおよびBを以下のように定義する。
【0065】
【数5】

さらに、測定される圧力のベクトルpを以下のように定義する。
【0066】
【数6】

【0067】
したがってステップS3で、プロセスは、それにより、以下の式に従うヘルムホルツ方程式の正則化最小ノルム解として、展開係数のベクトルaを計算することができる。
【0068】
【数7】

ここで、上付き文字Hは複素行列またはベクトルのエルミート(共役)転置を表し、Iは適切な次元の2次の単位対角行列であり、εは正則化パラメータであり、この正則化パラメータは、指定された信号対雑音比(SNR)から計算することができ、または、一般化交差検証法(GCV)、Lカーブ法、もしくは他の適切なパラメータ推定法を使用して、雑音のある測定データに基づいて自動的に計算することができる。SNRが指定されるとき、パラメータは、典型的には、行列BBの対角要素の平均に10^(SNR/10)を乗算した積として得ることができる。あるいは、最大の対角要素を使用することができる。
【0069】
式(9)で、正則化されていない解に対して、いわゆるチホノフ正則化が適用されている。
【0070】
【数8】

【0071】
しかし、他の形式の正則化を使用することもできることを理解されたい。
【0072】
式(9)は、行列式を解き、逆行列を求めるための任意の適切な技法によって解くことができる。行列BBは、|x|次元の行列であり、すなわちI<Nの場合に、本明細書で説明するプロセスが、比較的少ない計算資源しか必要としない方法を提供することを理解されたい。さらに、この劣決定された場合(I<N)でさえ、プロセスは、よく定義された解、すなわち最小ノルムを有する解、一実施形態では最小二乗ノルムを有する解を提供する。
【0073】
【数9】

【0074】
その後、プロセスは、すべての計算点を通ってループすることができ、所望の音響量、例えば、式(5)に従った音圧、または式(6)に従った粒子速度、またはそれら両方を計算することができる。特に、ステップS4で、プロセスは、現在の計算位置に関して式(5)および/または式(6)を使用する。ステップS5で、プロセスは、未処理の計算点が残っているかどうか決定する。これが当てはまる場合、プロセスはステップS4に戻り、そうでない場合には、プロセスはステップS6に進み、ステップS6では、計算された音圧および/または粒子速度の組が、例えばグラフィック表現として、数値アレイとして、および/または任意の他の適切な形式で出力される。音響強度は、音圧および粒子速度から簡単に得ることができる。
【0075】
図2の実施形態では、プロセスは、最初に展開係数を計算し、これが次いで、各計算点ごとの計算に再使用される。代替実施形態では、展開係数ベクトルaを個別に計算するのではなく、プロセスは、以下の式に従って式(5)と式(9)の組合せを使用することができる。
【0076】
【数10】

これはまた、以下のように、式(5)において他の形式を使用して書くこともできる。
【0077】
【数11】

【0078】
したがって、図3に示されるこの実施形態では、プロセスは以下のようであってよい。
【0079】
ステップS1:この初期化ステップでは、プロセスは、適切な座標系113と、1組の仮想源位置107と、上述したような1組の適切にスケーリングされた波動関数とを定義する。さらに、ステップS1の初期化は、1つまたは複数のパラメータの設定、適用する正則化方式の設定、使用する測定システムのタイプおよび特性の設定、例えばトランスデューサの数およびアレイ内でのそれらの相対位置、音場を再構成することができる目標位置の座標、計算すべき1つまたは複数の音響特性の設定などを含むことができる。例えば、これらおよび追加または代替のパラメータは、解析ユニット103の適切なユーザ・インターフェースによってユーザ定義することができる。
【0080】
ステップS2で、プロセスは、図2に関連して説明したように、1組の位置r(i=1、2、・・・、I)の座標と、1組の位置rで測定されるそれぞれの複素時間調波音圧p(r)とを受信する。
【0081】
ステップS3で、プロセスは、AAまたはBB=(AA)を計算する。
【0082】
ステップS4で、プロセスは、
【数12】

または
【数13】

としてベクトルqを計算する。ここで、εは、上述した正則化パラメータである。
【0083】
プロセスは、すべての計算点を通ってループして、所望の音響量を計算することができる。特に、ステップS5で、プロセスは、現在の計算位置rで所望の音響量を計算する。
【0084】
例えば、ステップS5で、プロセスは、現在の計算位置rに関して、(1つまたは複数の)ベクトル
φ(r)≡Aα(r)
および/または
Ψχ(r)≡Aβχ(r)
を計算して、
p(r)=qφ(r)
として圧力を、および/または
χ(r)=qΨχ(r)
として速度を得ることができる。
【0085】
ステップS6で、プロセスは、未処理の計算点が残っているかどうか決定する。これが当てはまる場合、プロセスはステップS5に戻り、そうでない場合には、プロセスはステップS7に進み、ステップS7では、計算された音圧および/または粒子速度の組が、例えば図2に関連付けて上述したように出力される。
【0086】
いくつかの実施形態を詳細に説明して図示してきたが、本発明はそれらに限定されず、添付の特許請求の範囲に定義した主題の範囲内で他のやり方で具現化することもできる。例えば、本明細書で開示した方法の実施形態は、測定される音響量が音圧である実施形態に関連して主に説明してきた。しかし、他の実施形態では、異なる音響量を測定することもできることを理解されたい。例えば、音圧ではなく、方向χでの粒子速度uχ(r)を測定位置rで測定することもできる。そのような実施形態では、展開係数ベクトルaに関して解くことができる線形方程式の系が設定されているときに、位置rに関して、式(1)ではなく式(2)を使用することができる。これは、行列AおよびBにおいて、関数Ψ(r)が、n=1、2、・・・、Nに関してΦχ,n(r)によって置き換えられ、式(8)のベクトルpにおいて、圧力p(r)が、測定された粒子速度uχ(r)によって置き換えられることを意味する。他のものはすべて変わらない。
【0087】
本明細書で説明する方法および装置は、例えば機械、モータ、エンジン、車などの車両、および/またはその他の音響特性を解析するときに、振動する物体など様々な音源/雑音源の音場を再構成するために使用することができる。
【0088】
本明細書で説明する方法の実施形態は、いくつかの異なる要素を備えるハードウェアによって、および/または少なくとも一部は、適切にプログラムされたマイクロプロセッサによって実装することができる。
【0089】
複数の手段を列挙する装置請求項では、これらの手段のいくつかは、同一の要素、構成要素、またはハードウェア要素によって具現化することができる。いくつかの手段が互いに異なる従属請求項に引用されていても、または異なる実施形態で説明されていても、それだけでは、これらの手段の組合せを有利に使用することができないことは意味しない。
【0090】
本明細書で使用するとき、用語「備える」は、記載した特徴、整数、ステップ、または構成要素の存在を特定するために用いられるが、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップ、構成要素、またはそれらの群の存在または追加を排除しないことを強調しておく。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの目標位置に音場を再構成する方法であって、
1組の測定位置で測定された第1の音響量の1つまたは複数の測定値を受信することと、
1組の仮想源位置を定義し、かつ前記定義された1組の仮想源位置のうちのそれぞれの仮想源位置から生じるそれぞれの音場をそれぞれ表す1組の波動関数を定義することと、
前記1組の波動関数にそれぞれの展開係数を乗算した積の重ね合わせから、少なくとも1つの目標位置に関して第2の音響量を計算することとを含み、計算が、前記1組の波動関数の重ね合わせを受信測定値に最小ノルム適合させることによって展開係数を決定すること
を含む方法。
【請求項2】
前記音場が、少なくとも1つの音源によって生成され、前記測定位置および前記少なくとも1つの目標位置が、音響源を含まない第1の領域内に位置され、前記仮想源位置が、前記音響源を含まない第1の領域の外に位置される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
定義が、各仮想源位置ごとに、前記音響源を含まない第1の領域の外に位置されるそれぞれのスケーリング表面を定義すること、および前記定義されたスケーリング表面のうちの対応するスケーリング表面上で所定の振幅をそれぞれ有するように前記1組の波動関数の各波動関数をスケーリングすることを含む請求項2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つの目標位置に音場を再構成する方法であって、前記音場が、少なくとも1つの音源によって生成され、
1組の測定位置で測定された第1の音響量の1つまたは複数の測定値を受信することと、
1組の仮想源位置を定義し、かつ前記定義された1組の仮想源位置のうちのそれぞれの仮想源位置から生じるそれぞれの音場をそれぞれ表す1組の波動関数を定義することと、
前記1組の波動関数にそれぞれの展開係数を乗算した積の重ね合わせから、少なくとも1つの目標位置に関して第2の音響量を計算することとを含み、前記測定位置および前記少なくとも1つの目標位置が、音響源を含まない第1の領域内に位置され、前記仮想源位置が、前記音響源を含まない第1の領域の外に位置され、
定義が、前記定義された各仮想源位置ごとに、前記音響源を含まない第1の領域の外に位置されるそれぞれのスケーリング表面を定義すること、および対応する仮想源位置の前記スケーリング表面上でそれぞれ所定の振幅を有するように前記1組の波動関数の各波動関数をスケーリングすることを含む方法。
【請求項5】
計算が、前記1組の波動関数の重ね合わせを受信測定値に最小二乗適合させることによって展開係数を決定することを含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記音響源を含まない第1の領域が、第1の表面によって定義され、前記少なくとも1つの音源が、物体表面を有する物体内に備えられ、前記物体表面の少なくとも一部が、前記第1の表面の少なくとも一部を定義する請求項2乃至5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第2の音響量を計算することが、
前記測定位置のうちの第1の測定位置での1組の波動関数と、前記目標位置および前記測定位置から選択される第2の位置での1組の波動関数との相関を各相関関数が示す、1組の相関関数それぞれを計算することと、
少なくとも前記計算された相関関数および前記1つまたは複数の測定値から、前記第2の音響量を計算することと
を含む請求項1乃至6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記1組の相関関数のうちの第1の相関関数が、測定位置の数に等しい次元数を有する正方相関行列であり、前記正方相関行列の各要素が、それぞれの測定位置で評価された前記1組の波動関数の相関を示す請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記1つまたは複数の波動関数それぞれが、ヘルムホルツ方程式の解である請求項1乃至8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記1組の波動関数それぞれが、球面波動関数、多重極波動関数、単極波動関数、二重極波動関数から選択される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
波動関数の総数が測定位置の数よりも多い請求項1乃至10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記物体表面が、前記測定位置および前記目標位置を含む第1の空間領域と、前記第1の空間領域とは異なる第2の空間領域とを定義し、前記第2の空間領域が前記仮想源位置を含む請求項6乃至11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
すべての仮想源位置が前記物体表面から同じ距離にある請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記測定位置が、規則的な格子状に配列される請求項1乃至13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の音響量が、音圧、粒子速度、音圧勾配、およびそれらの組合せから選択される請求項1乃至14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記第2の音響量が、音圧、粒子速度、および音響強度から選択される請求項1乃至15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
音場を再構成するための処理装置であって、前記処理デバイスが、1組の測定位置で測定される第1の音響量の測定値を受信するためのインターフェースと、処理ユニットとを備え、前記処理ユニットが、
1組の仮想源位置を定義し、前記定義された1組の仮想源位置のうちのそれぞれ仮想源位置から生じるそれぞれの音場をそれぞれ表す1組の波動関数を定義するように構成され、かつ
前記1組の波動関数にそれぞれの展開係数を乗算した積の重ね合わせから、少なくとも1つの目標位置に関して第2の音響量を計算するように構成され、計算が、前記1組の波動関数の重ね合わせを受信測定値に最小ノルム適合させることによって展開係数を決定することを含む
処理装置。
【請求項18】
少なくとも1つの目標位置に音場を再構成するための処理装置であって、前記音場が、少なくとも1つの音源によって生成され、前記処理デバイスが、
1組の測定位置で測定された第1の音響量の測定値を受信するためのインターフェースと、
処理ユニットとを備え、前記処理ユニットが、
1組の仮想源位置を定義し、かつ前記定義された1組の仮想源位置のそれぞれの仮想源位置から生じるそれぞれの音場をそれぞれ表す1組の波動関数を定義するように構成され、かつ
1組の波動関数にそれぞれの展開係数を乗算した積の重ね合わせから、少なくとも1つの目標位置に関して第2の音響量を計算するように構成され、前記測定位置および前記少なくとも1つの目標位置が、音響源を含まない第1の領域内に位置され、前記仮想源位置が、前記音響源を含まない第1の領域の外に位置され、
前記処理ユニットが、前記定義された各仮想源位置ごとに、前記音響源を含まない第1の領域の外に位置されるそれぞれのスケーリング表面を定義するように適合され、かつ対応する仮想源位置の前記スケーリング表面上でそれぞれ所定の振幅を有するように前記1組の波動関数の各波動関数をスケーリングするように適合される
処理装置。
【請求項19】
請求項17または18に記載の処理装置と、1組の測定位置で第1の音響量を測定するための1組のトランスデューサであって、前記測定された音響量を前記処理装置に転送するために前記処理装置に通信接続するように接続可能な1組のトランスデューサとを備える、音場を再構成するためのシステム。
【請求項20】
車両の雑音源によって生成される音場を再構成するための請求項17または18に記載の装置の使用。
【請求項21】
プログラムコード手段がデータ処理システムで実行されるときに、請求項1乃至16のいずれか1項に記載の方法のステップをデータ処理システムに行わせるように適合されたプログラムコード手段を備えるコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−527421(P2011−527421A)
【公表日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517084(P2011−517084)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【国際出願番号】PCT/EP2009/058036
【国際公開番号】WO2010/003836
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(504349973)ブリュエル アンド ケアー サウンド アンド ヴァイブレーション メジャーメント エー/エス (6)
【Fターム(参考)】