説明

音響導波モードの制御

【課題】音響導波路内のトランスデューサの配置を決定するための方法及びその方法を取り入れた音響導波路システムを提供する。
【解決手段】二つの開端を有する第一音響導波路と;第二音響導波路と;第一放射面が第一導波路内に放射し、第二放射面が第二導波路内に放射するように配置された第一及び第二放射面を有する音響ドライバとを含む音響装置を提供する。音響ドライバと、二つの開端を備えた音響導波路とを含む音響装置を提供する。また、この音響装置の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、音響導波路内のトランスデューサの配置を決定するための方法及びその方法を取り入れた音響導波路システムに関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】米国特許第6278789号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
一側面において、装置は、モードによって特徴付けられる音響導波路を含む。本装置はそれぞれが直径によって特徴付けられる複数の音響ドライバを更に含む。音響ドライバは、この音響ドライバの少なくとも二つが少なくとも直径一つ分だけ離隔して固定されるように、また、それぞれの音響ドライバからの放射が一つのモードをこのモードに対応するモード関数がゼロではない導波路内の位置において励起するように音響ドライバが導波路内に放射するように、また、一つのモードの全励起が実質的にゼロであるように、音響ドライバは導波路内に固定される。複数の音響ドライバは二つの音響ドライバであり得、第一音響ドライバの位置でのモード関数の大きさは第二音響ドライバの位置でのモード関数の大きさに等しいが、第一音響ドライバと第二音響ドライバとの位置でのモード関数の値の符号は逆である。複数の音響ドライバは二つよりも多くの音響ドライバであり得る。それぞれの音響ドライバからの放射が他のモードをこの他のモードに対応するモード関数がゼロではない位置で励起するように、そして、他のモードの全励起が実質的にゼロであるように、複数の音響ドライバが導波路内に固定され、導波路内に放射し得る。音響導波路は開‐閉型音響導波路であり得て、音響ドライバは、以下の式
【数1】

に従って配置され得る。ここで、nは奇数3,5,7…、aは音響ドライバの数、lは音響導波路の有効長であり、x…xは導波路の開端からの比例的な距離を示す。音響導波路は開‐開型導波路でもあり得て、音響ドライバは、以下の式
【数2】

に従って配置され得る。ここで、nは1よりも大きな整数、aは音響ドライバの数、lは一端から測定された音響導波路の有効長であり、x…xは導波路の一端からの比例的な距離を示す。本装置は、音響ドライバの少なくとも二つに送信されるオーディオ信号に対して異なる増幅率を与えるための回路を含む、それぞれの音響ドライバにオーディオ信号を送信するための回路を更に備え得る。回路は複数の音響ドライバに対して共通のオーディオ信号を送信し得る。音響導波路は開‐閉型導波路であり得て、以下の式
【数3】

に従って、音響ドライバが配置され、増幅率が選択され得る。ここで、nは奇数3,5,7…、aは音響ドライバの数、lは音響導波路の有効長であり、x…xは導波路の開端からの比例的な距離を示し、Gは対応する音響ドライバに与えられる増幅率である。音響導波路は開‐開型導波路でもあり得て、以下の式
【数4】

に従って、音響ドライバが配置され、増幅率が選択され得る。ここで、nは1よりも大きな整数、aは音響ドライバの数、lは一端から測定された導波路の有効長であり、x…xは導波路の一端からの比例的な距離を示し、Gは対応する音響ドライバに与えられる増幅率である。導波路は円錐形の導波路であり得て、音響ドライバは、それぞれのモードに対して以下の式
【数5】

に従って配置され得る。ここで、Lは導波路の有効長を表し、fはモードに対応する周波数を表し、Aは開端での断面積を表し、Aは閉端での断面積を表し、xは開端からの比例的な位置を表し、dは
【数6】

によって与えられ、aは音響ドライバの数である。
【0004】
他の側面において、音響導波路を作動させるための方法は、その内の少なくとも二つの音響ドライバが直径一つ分以上離隔して配置されている複数の音響ドライバによって、一つのモードに対応するモード関数がゼロではないがその一つのモードの全励起が実質的にゼロであるような位置において音響導波路内に放射する段階を含む。放射する段階は、複数の音響ドライバによって、他のモードに対応するモード関数がゼロではないがその他のモードの全励起が実質的にゼロであるような導波路内の位置において放射する段階を含み得る。導波路は開‐閉型導波路であり得て、放射する段階は、以下の式
【数7】

に従った位置で導波路内に放射する段階を含み得る。ここで、nは励起されないモードを示す1よりも大きな奇数、aは音響ドライバの数、lは開端から測定された導波路の有効長、x…xは導波路に沿った比例的な位置を示す。導波路は開‐開型導波路でもあり得て、放射する段階は、以下の式
【数8】

に従った位置で導波路内に放射する段階を備える。ここで、nは1よりも大きな整数、aは音響ドライバの数、lは一端から測定された導波路の有効長、x…xは導波路に沿った比例的な位置を示す。本方法は、それぞれの音響ドライバにオーディオ信号を提供する段階と、少なくとも二つの音響ドライバにオーディオ信号に対する異なる増幅率を与える段階とを更に備え得る。導波路は円錐形の導波路でもあり得て、放射する段階は、それぞれのモードに対して以下の式
【数9】

に従った位置で導波路内に放射する段階を含み得る。ここで、Lは導波路の有効長を表し、fはモードに対応する周波数を表し、Aは開端での断面積を表し、Aは閉端での断面積を表し、xは閉端からの比例的な位置を表し、dは
【数10】

によって与えられ、aは音響ドライバの数である。
【0005】
他の側面において、音響装置は、二つの開端を有する第一音響導波路と;第二音響導波路と:第一放射面が第一音響導波路内に放射し、第二放射面が第二音響導波路内に放射するように配置された第一及び第二放射面を有する音響ドライバとを含む。第一導波路の二つの開端は共通の出口を共有し得る。第一導波路は第二導波路を取り囲み得る。本音響装置は、第一放射面が第一導波路内に音響エネルギーを放射するように配置された第一及び第二放射面を有する第二音響ドライバを更に含み得る。第二音響ドライバは、この第二音響ドライバの第二放射面が第二導波路内に放射するように配置され得る。第二音響ドライバは、この第二音響ドライバの第二放射面が第三導波路内に放射するように配置され得る。
【0006】
他の側面において、音響装置は、音響ドライバと、二つの開端を備えた音響導波路とを含む。二つの開端は共通の出口を共有し得る。本音響装置は、一つの放射面が導波路内に放射し、第二放射面が第二音響導波路内に放射するように配置された二つの放射面を有する音響ドライバを更に含み得る。音響導波路は第二音響導波路を取り囲み得る。音響導波路は第三音響導波路を取り囲み得る。第二音響導波路及び第三音響導波路は共通の出口を共有し得る。
【0007】
他の側面において、音響構造体は、第一閉チャネル及開チャネルを形成する押し出し部材と;第一エンドプレートと;第二エンドプレートと;バックプレートを含み、第一エンドプレート及び第二エンドプレートは押し出し部材に取り付け可能であり導波路を形成し得る。押し出し部材は第二閉チャネルを形成し得て、本構造体は、第三エンドプレート及び第四エンドプレートを更に含み得る。第三エンドプレート及び第四エンドプレートは押し出し部材に取り付け可能であり第二導波路を形成し得る。
【0008】
他の側面において、音響導波路を形成するための方法は、第一閉チャネル及び開チャネルを形成する部材を押し出す段階と;押し出された部材に対して音響ドライバを固定する段階と;第一ペアのエンドプレートとバックプレートを取り付けて音響導波路を形成する段階とを含み得る。押し出す段階は、第二閉チャネルを形成するために部材を押し出す段階と第二ペアのエンドプレートを取り付けて第二音響導波路を形成する段階とを更に含み得る。
【0009】
他の特徴、目的、及び利点は、添付図面を参照して以下の詳細な説明を読むことによって明らかになるものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A】導波路構造の概略図である。
【図1B】導波路構造の概略図である。
【図1C】図1Aまたは1Bまたはその両方の導波路の音響的側面のコンピュータシミュレーションである。
【図1D】図1Aまたは1Bまたはその両方の導波路の音響的側面のコンピュータシミュレーションである。
【図1E】図1Aまたは1Bまたはその両方の導波路の音響的側面のコンピュータシミュレーションである。
【図2A】導波路システムの概略図と、対応する導波路システムの一つ以上のモード関数に対する一つ以上の音響ドライバの配置の関係を示す関連したダイアグラムとである。
【図2B】導波路システムの概略図と、対応する導波路システムの一つ以上のモード関数に対する一つ以上の音響ドライバの配置の関係を示す関連したダイアグラムとである。
【図2C】導波路システムの概略図と、対応する導波路システムの一つ以上のモード関数に対する一つ以上の音響ドライバの配置の関係を示す関連したダイアグラムとである。
【図3】導波路システムの概略図と、対応する導波路システムの一つ以上のモード関数に対する一つ以上の音響ドライバの配置の関係を示す関連したダイアグラムとである。
【図4】導波路システムの概略図と、対応する導波路システムの一つ以上のモード関数に対する一つ以上の音響ドライバの配置の関係を示す関連したダイアグラムとである。
【図5A】導波路システムの概略図と、対応する導波路システムの一つ以上のモード関数に対する一つ以上の音響ドライバの配置の関係を示す関連したダイアグラムとである。
【図5B】図5Aの導波路の音響的側面のコンピュータシミュレーションである。
【図5C】図5Aの導波路の音響的側面のコンピュータシミュレーションである。
【図6】導波路システムの概略図と、対応する導波路システムのモード関数に対する音響ドライバの配置の関係を示す関連したダイアグラムとである。
【図7A】複数の音響ドライバ配置原理を具現化し、また複数の追加的な要素を含む導波路システムの概略図である。
【図7B】図7Aの導波路システムの音響的側面のコンピュータシミュレーションである。
【図8A】複数の追加的な要素を含む図7Aの導波路システムの概略図である。
【図8B】図8Aの導波路システムの音響的側面のコンピュータシミュレーションである。
【図9】図8Aの導波路システムの実装の概略図である。
【図10】図9の導波路システムを取り入れた実際のラウドスピーカーの図である。
【図11】図9の導波路システムを取り入れた実際のラウドスピーカーの図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1Aは音響導波路システム10Aを示す。音響ドライバ(トランスデューサ)12は、二つの開端16及び18を有する音響導波路14A内に固定されている(以下、二つの開端を有する導波路を“開‐開型導波路”と称す)。音響ドライバは、導波路に沿った他の位置に配置可能である。音響ドライバは直接周囲に、また、導波路内にも音響エネルギーを放射する。導波路14A内に放射された音響エネルギーは、開端16及び18を介して、周囲に放射される。音響導波路システムによって周囲に放射される全音響エネルギーは、音響ドライバによって直接周囲に放射される音響エネルギーと導波路の開端によって周囲に放射される音響エネルギーとの和である。
【0012】
図1Bは音響導波路システム10Bを示す。音響ドライバ12は一つの開端20及び一つの閉端22を有する音響導波路14B内に固定されている(以下、一つの開端及び一つの閉端を有する導波路を“開‐閉型導波路”と称す)。音響ドライバは導波路に沿った他の位置に配置されてもよく、または、導波路の閉端22の一部または全部と交換してもよい。音響ドライバは直接周囲にエネルギーを放射し、また、導波路内にも音響エネルギーを放射する。導波路14B内に放射された音響エネルギーは、開端20を介して、周囲に放射される。音響導波路システムによって周囲に放射される全音響エネルギーは、音響ドライバによって直接周囲に放射される音響エネルギーと導波路の開端によって周囲に放射される音響エネルギーとの和である。
【0013】
導波路の音響上の有効長は、導波路の物理的な長さとは異なり得る。導波路の長さは、物理的な長さでも、同等な音響上の有効長でもあり得て、終端効果の補正を含む。
【0014】
音響導波路は“モード”によって特徴付けられる。後述するように、モードは“モード関数”によって記述される。開‐閉型導波路のモードは、f=(2n−1)c/4L(以下、モード周波数)において生じる。ここで、nは正の整数、cは大気中の音速(この明細書の目的のために一定)、Lは終端効果を含む導波路の有効長である。開‐開型導波路のモードはf=nc/2L(以下、モード周波数)において生じる。ここで、cは大気中の音速(この明細書の目的のために一定)、nは正の整数、Lは終端効果を含む導波路の有効長である。モードは、導波路の閉端での圧力最大つまり腹と、導波路の開端またはその近傍での圧力最小つまり節とを有する定常波によって特徴付けられる。典型的には、音響ドライバが導波路に音響的に結合されると、音響ドライバからの放射は導波路のモードを励起する。後述するように、導波路に沿った特定の位置での一つ以上の音響ドライバの音響的な結合は、それぞれのモードの励起の量に影響する。
【0015】
図1Cは、導波路の端20からの放射と音響ドライバ12からの放射との位相差の曲線30を示す。図1Dは、導波路の開端20の出力のdB SPL(sound pressure level,音圧レベル)の曲線31Aと、音響ドライバからの直接放射のdB SPLの曲線31Bを示す。図1Eは、音響導波路の開端20の出力及び音響ドライバ12の出力の組み合わせの振幅の曲線33を示す。出力のピーク(例えば25及び27)はモード周波数で生じ、出力のくぼみ(例えば26及び28)は、導波路の開端及び音響ドライバの出力の位相が一致しておらず(180度、540度)、略等しい振幅である周波数において生じる。
【0016】
ピーク及びくぼみは音響的に望ましくなく、ピーク及びくぼみを除去して平坦な周波数応答曲線を与えることによって、周波数応答を滑らかにすることが望ましい。位相の一致から位相の不一致への、また、位相の不一致から位相の一致への動作の移り変わりを除去する方法の一つは、周波数f=(2n−1)c/4L(nは>1の整数、cは音速、Lは導波路の長さ)で開‐閉型導波路において生じる励起モードを回避することである。nが2または3のモードを最小化することが特に望ましい。何故ならば、これらの波長は、大抵の導波路システムの動作の有効範囲内の対応する周波数を有するからである。
【0017】
=(2n−1)c/4Lの周波数での励起モードを回避する方法の一つは、モード関数(f=(2n−1)c/4Lという特定のモード周波数での音圧の空間分布を記述する関数)の値がゼロに近い導波路内の位置に音響ドライバを配置することである。図2Aでは、音響ドライバ12は、3c/4Lであるn=2のモード周波数での曲線29によって表されるモード関数の値がゼロに近い開‐閉型導波路14B内の位置に存在している。
【0018】
一つの音響ドライバでは十分な出力が提供されないのであれば、単一の音響ドライバを二つ以上の音響ドライバに置き換えてもよく、モード関数の値がゼロ近くである導波路内の位置に、音響ドライバの音響中心で、実際的な近さに配置される。例えば、図2B及び2Cはそれぞれ、モード関数の値がゼロ近くである位置に、音響ドライバの音響中心で、実際的な近さに配置された二つ及び三つの音響ドライバ(それぞれ12A、12B、及び、12A、12B、12C)を示す。
【0019】
一つよりも多くの音響ドライバが、十分な音響出力を提供するために必要とされる場合、音響ドライバを互いに近くに配置することが不都合となり得る。音響ドライバを互いに近くに配置する必要なくモードの励起を制御する他の方法は、二つの音響ドライバを離隔して配置して、導波路に沿った位置において、例えば、二つの音響ドライバの周囲間の距離を音響ドライバの直径よりも大きくして、二つの音響ドライバの位置での特定のモード(または複数の特定のモード)に対応するモード関数の大きさ(絶対値)が等しいが逆符号であるようにすることである。モード(または複数のモード)の全励起は、音響ドライバの位置でのモード関数の和であり、この場合、モード関数の値の大きさは同じであるが逆符号であるためにゼロである。
【0020】
例えば、図3において、音響ドライバ12A及び12Bは、3c/4L(つまりn=2でのモード)の周波数でのモード関数の値が略等しい大きさを有するが逆符号である開‐閉型導波路内の位置に存在する。例えば音響ドライバの直径よりも大きく、音響ドライバが離隔されると、一つより多くの周波数f=(2n−1)c/4Lに対応するモード関数の値が実質的に等しい大きさであるが逆符号であるように、音響ドライバを配置することができる。例えば、図4の配置では、音響ドライバからの放射が、周波数3c/4Lに対応するモード関数の値が略等しい大きさであるが逆符号である位置と、周波数5c/4Lに対応するモード関数の値が略等しい大きさであるが逆符号である位置とで導波路に入射するような位置に、音響ドライバ12A及び12Bが存在している。従って、音響ドライバのこの空間配置では、n=2及びn=3のモードは励起されず、対応するモード周波数でのピークが回避され、このモード周波数近くでの位相変化が回避される。
【0021】
モード関数をゼロにする他の方法では、音響ドライバのペアが等しい大きさであるが逆符号を有するようにする必要がなく、和がゼロになる大きさ及び符号の他の組み合わせを有する。
【0022】
開‐閉型導波路内のモード関数は以下にように表される:
【数11】

ここで、nは奇数3、5、7…、aは音響ドライバの数、lは開端から測定した導波路の有効長である。値x…xは導波路の開端からの導波路に沿った比例的な位置を示し、例えば、x=.32lは、音響ドライバが導波路の開端から0.32lに配置されるということを示す。aに対する値が選択可能であり(例えば、音響出力の要求や励起されないモードの数に基づいて)、x…xに対する値が、例えばコンピュータシミュレーションによって、モード関数の値を最小にするように数学的に計算または選択され、好ましくは、モード関数の値をゼロにする。モード関数の値をゼロにすることが、困難または数学的に不可能であり得る。しかしながら、この式をゼロ近くにするxの値を導出することによって、有益な効果を得ることができる。開‐開型導波路に対しては、モード関数は以下のように表される。
【数12】

ここで、nは1よりも大きな整数、aは音響ドライバの数、lは導波路の有効長である。値x…xは導波路の端からの導波路に沿った比例的な位置を示し、例えば、x=.32lは、音響ドライバが導波路の一端から0.32lに配置されるということを示す。aに対する値が選択可能であり、x…xに対する値が、例えばコンピュータシミュレーションによって、モード関数の値を最小にするように数学的に計算または選択され、好ましくは、モード関数の値をゼロにする。モード関数の値をゼロにすることが、困難または数学的に不可能であり得る。しかしながら、この式をゼロ近くにするxの値を導出することによって、有益な効果を得ることができる。
【0023】
モード関数をゼロにする一方法が図5Aに示されている。図5Aの例では、周波数3c/4Lに対応するモード関数の値が略ゼロになり、周波数5c/4Lに対応するモード関数の値が略ゼロになり、周波数7c/4Lに対応するモード関数の値が略ゼロになり、周波数9c/4Lに対応するモード関数の値が略ゼロになるように、音響ドライバ12A、12B、12C及び12Dが配置されている。
【0024】
ここに示した数式においては、音響ドライバが音響放射の点源であると仮定している。実際の実施においては、音響ドライバは有限の寸法を持つ放射面を有し、全ての周波数において点源としては機能しない。しかしながら、音響ドライバの放射面の一部が導波路の上述の部分に配置されると、モードの励起の有益な減少が得られ、従って出力のピーク及びくぼみの効果を減少させることができる。例えば、音響ドライバが直径10cm(半径5cm)の円形の放射面を有し、音響ドライバの指定された位置が導波路の端から0.32lで、l=1.7m=170cmとして、つまり0.32l=54.4cmであり、放射面の中心が導波路の端から53.9cmと54.9cmとの間であり、つまり音響ドライバの放射面の一部が導波路の端から54.4cmに位置していると、出力のピーク及びくぼみの効果を減少させることに関して有益な効果がある。
【0025】
図5Bは、図5Aの配置の一メートルでのdB SPLのプロット32である。ほぼ4オクターブの範囲である略40Hzから略550Hzの範囲にわたって、顕著なくぼみまたはピークは存在しない。この広い範囲は、少なくとも二つの方法において利用可能である。一方法は、低音モジュールの範囲を、典型的にはミッドレンジまたはツイーターのスピーカーによって放射される周波数へと拡張することである。他の方法は、低音モジュールの範囲を下方に拡張して、低音を、他の低音モジュールによって提供可能なものよりも低い周波数にすることである。
【0026】
図5Cは、いくつかの小さなずれを除いては、周波数の非常に広い範囲にわたって、導波路の出口と音響ドライバの放射との間の位相差34がゼロ(またはゼロと同等、例えば360度、720度等)である様子を示す。
【0027】
先程示したモード関数の大きさが等しくない位置に音響ドライバを配置することによって、開‐閉型導波路内の音響ドライバの配置の柔軟性を増大させることが可能である。上述のシステムにおいては、二つの音響トランスデューサに加えられる電子的な増幅率は等しいと仮定されていた。音響ドライバ12A及び12Bに与えられた信号に対してモード周波数での増幅率G1及びG2を割り当てることによって、モード関数は以下の形をとる。即ち、
【数13】

及び
【数14】

である。図6は図3の構成と同様の構成を示すが、音響ドライバが、増幅率付きのモード関数をゼロに等しくする位置に存在する。また、図6は、G=1(曲線90)及びG=1.5(曲線92)の増幅率付きのn=2のモード関数の二つの項を示す。増幅率Gが与えられた音響ドライバの位置でのモード関数(曲線90に等しい)の大きさ94は、増幅率Gが与えられた音響ドライバの位置でのモード関数の大きさ96よりも小さい。しかしながら、増幅率Gが増幅率Gよりも大きいので、増幅率Gが与えられた音響ドライバの位置での増幅率付きのモード関数の大きさ98は、増幅率Gが与えられた音響ドライバの位置での増幅率付きのモード関数の大きさ96に等しい。符号が逆であるので、n=2のモードの正味の励起は略ゼロである。必要であれば、それぞれのドライバの増幅率Gが、それぞれのモード周波数で異なってもよい。開‐閉型導波路のそれぞれのモードnに対する以下の一般的なモード関数の式を用いることによって、異なる増幅率を有する任意の数の音響ドライバへと、この方法を拡張可能である:
【数15】

同様に、音響ドライバが異なる増幅率を有する開‐開型導波路に対するモード関数は以下の形をとる:
【数16】

更なる改良においては、音響ドライバの感度を考慮することが可能である。
【0028】
音響ドライバの配置の決定は、既知のモード周波数での圧力分布を記述する既知のモード関数を有する音響導波路またはシステムに限定されるものではない。モード周波数及びモード関数は、モデリング法(集中要素モデリング、有限要素モデリング等)を用いて、または実験的に求めることができる。モード関数(典型的には圧力分布の参照表として表される)がモデリングまたは他の方法によって求まると、上述の方法を用いて、音響ドライバを位置決めすることができる。
【0029】
励起モードを回避する原理を、下記の式を満たす周波数であるモード周波数fをまず求めることによって、円錐形に漸減する導波路に対して拡張可能である:
【数17】

ここで、cは音速、Aは(より大きな)閉端での導波路の面積、Aは(より小さな)開端での導波路の面積、Lは導波路の有効長である。円錐形の導波路に対しては、それぞれの音響ドライバに対するn番目のモード周波数でのモード関数は次のように表される:
【数18】

ここで、xは0とLとの間の比例的な位置を表し、L及びdは
【数19】

によって与えられる。二つの音響ドライバ(xに一つ、xに一つ)に対しては、この式は次のようになる:
【数20】

ここで、x及びxは開端からの比例的な位置を表し、dは
【数21】

によって与えられる。例えば、2:1に漸減する導波路(A/A=2)に対しては、0.491l及び0.911lに配置された二つの音響ドライバが、n番目のモードの励起を最小にする。それぞれのモードに対して、この式はより一般的に次のように表される:
【数22】

ここで、aはドライバの数である。この方法は上述の方法と同様に拡張可能であり、4つの音響ドライバ及び4つのモードまたはそれ以上をカバーする。
【0030】
図7Aは、上述の原理の導波路システムの実施例を示すが、いくつかの特徴が付加されている。音響ドライバ12A、12B、12C、12Dは、図に示される位置に、開‐開型導波路14内に放射するように、固定されている。この導波路は二つの開端16及び18を有する。導波路14は、位置37及び39において急に細くなる二つの部分を有する。急に細くなることによって、導波路のn=1のモードの同調周波数が下げられる。図7Bの一メートルでのdB SPLのシミュレーションのプロット36は、60Hzから略480Hzまで、導波路システムによって放射されたSPLは略平坦であることを示す(少量だけモード関数が励起された周波数でのいくつかの小さなずれを除く)。
【0031】
図8Aは、付加的な特徴及び上述の一実施例の寸法を備えた図7Aのアセンブリを示す。周囲に直接放射する代わりに、音響ドライバ12A及び12Bは、開‐閉型導波路38内に放射する。音響ドライバ12C及び12Dは、開‐閉型導波路40内に放射する。開‐閉型導波路38及び40は、共通の出口42を共有する。図8Bは、図8Aのアセンブリの一メートルでのdB SPLを示す。図8Bのプロット44は、少量だけモード関数が励起された周波数でのいくつかの小さな摂動とともに、略220Hzにおいてロールオフを示す。このロールオフは実際のラウドスピーカーにおいて有利である。何故ならば、これによってクロスオーバー回路網の設計が単純化され、また、これによって均等化回路の設計が単純化されるからである。高周波数のピーク46及び48は、高周波数でのゼロではないモード関数の値に繋がるドライバの配置によって生じるものであるが、特許文献1に開示された方法によって、顕著に減少させることが可能である。
【0032】
図9は、図8Aの実施例の実装を示す。導波路14は、導波路38及び40を取り囲むように、また、二つの開端16及び18が共通の出口50を共有するように折り畳まれている。(導波路38及び40の)共通の出口42は、開口部が紙面に対して垂直になるように向けられている。
【0033】
図10は、図9の実装による実際のラウドスピーカーを示し、参照符号は、上述の図の対応する要素の物理的な実装を表す。音響ドライバ52は高周波数音響ドライバであり、導波路システムに対して高周波数放射を提供するが、前には説明されていない。導波路構造は、押し出し部分54、バックパネル56と、この図には示されていないエンドプレートで形成され得る。
【0034】
図11は、図10のラウドスピーカーの構造要素を実装する構造を示す。導波路14、38、40は、例えばアルミニウムの押し出し部分54で形成されている。押し出し部分54は、開チャネル68及び閉チャネル70及び72を規定する。チャネル70は押し出し部分54の全長には及ばず、チャネル72は押し出し部分54の全長に及ぶ。バックパネル56は押し出し部分に機械的に固定されていてもよい。開口部42及び50は、機械的ルータによって押し出し部分54内に形成されてもよい。音響ドライバは、所定の位置のホール内で押し出し部分に対して配置されて固定されてもよい。バックプレート56及びエンドプレートが押し出し部分に取り付けられて、導波路14を形成してもよい。図11のアセンブリによって、押し出し部分への音響ドライバの挿入及び機械的な固定が可能になる。ダンピング材66を挿入して、上述のように高周波数のピークを減衰させてもよい。
【0035】
複数の図面における要素は、別段の指摘がなければ、ブロックダイアグラム内の離散的な要素として示されて説明され、“回路”と称されることもあるが、要素が、アナログ回路、デジタル回路、ソフトウェア命令を実行する一つ以上のマイクロプロセッサのいずれか一つまたはこれらの組み合わせとして実装され得る。ソフトウェア命令は、デジタル信号処理(digital signal processing,DSP)命令を含み得る。別段の指摘がなければ、信号線は、離散的なアナログまたはデジタル信号線として、オーディオ信号の別々のストリームを処理する適切な信号処理を有する単一の離散的なデジタル信号線として、または、無線通信システムの要素として実装可能である。いくつかの処理動作は、係数の計算及び適用に関係して表され得る。係数の計算及び適用と同等のことは、他のアナログまたはデジタル信号処理方法によって実行可能であり、本願の範囲内に含まれる。別段の指摘がなければ、オーディオ信号またはビデオ信号またはその両方は、デジタルまたはアナログ形式にエンコーディングされて送信され得る。従来のデジタル‐アナログ変換器またはアナログ‐デジタル変換器は図において省略され得る。言い回しを簡単にするため、“チャネルxのオーディオ信号に対応する音響エネルギーの放射”を、“チャネルxの放射”と称する。本明細書では、“周波数”及び“波長”は交換可能に用いられている。何故ならばλ=c/f、f=c/λだからである。ここで、fは音波の周波数、λは音波の波長であり、cは音速であるが、本明細書の目的のため一定である。従って、例えば、“100Hzの波長”は“100Hzの周波数に対応する波長”を意味する。また、“導波路の長さの四倍の周波数”は“導波路の長さの四倍の波長に対応する周波数”を意味する。別段の指摘がなければ、図の曲線はコンピュータシミュレーションによるものである。
【0036】
他の実施例は特許請求の範囲内に存する。
【符号の説明】
【0037】
10 音響導波システム
12 音響ドライバ
14 導波路
16,18,20 開端
22 閉端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モードによって特徴付けられる音響導波路と、
直径によってそれぞれ特徴付けられる複数の音響ドライバとを備え、
前記音響ドライバの少なくとも二つが少なくとも直径一つ分だけ離隔して配置されるように、また、前記音響ドライバが、該音響ドライバのそれぞれからの放射が一つのモードを、該一つのモードに対応するモード関数がゼロではない前記導波路内の位置に励起するように、前記導波路内に放射するように、そして、前記一つのモードの全励起が実質的にゼロであるように、前記音響ドライバが前記導波路内に固定されている装置。
【請求項2】
前記複数の音響ドライバは二つの音響ドライバであり、
第一音響ドライバの位置でのモード関数の大きさは第二音響ドライバの位置でのモード関数の大きさに等しく、該第一音響ドライバの位置と該第二音響ドライバの位置でのモード関数の値の符号は逆である請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記複数の音響ドライバは二つよりも多くの音響ドライバである請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記音響ドライバのそれぞれからの放射が他のモードを該他のモードに対応するモード関数がゼロではない前記導波路内の位置に励起するように、そして、前記他のモードの全励起が実質的にゼロであるように、前記複数の音響ドライバは前記導波路内に固定され、前記導波路内に放射する請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記音響導波路は開‐閉型音響導波路であり、
前記音響導波路が以下の式
【数1】

ここで、nは奇数3,5,7…、aは前記音響ドライバの数、lは前記導波路の有効長であり、x…xは前記導波路の開端からの比例的な距離を示す;
に従って配置されている請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記音響導波路は開‐開型導波路であり、
前記音響導波が以下の式
【数2】

ここで、nは1よりも大きな整数、aは前記ドライバの数、lは一端から測定された前記音響導波路の有効長であり、x…xは前記導波路の一端からの比例的な距離を示す;
に従って配置されている請求項1に記載の装置。
【請求項7】
それぞれの前記音響ドライバにオーディオ信号を送信するための回路であり、前記音響ドライバの少なくとも二つに送信される前記オーディオ信号に対して異なる増幅率を与えるための回路を含む回路を更に備えた請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記回路は前記複数の音響ドライバに対して共通のオーディオ信号を送信する請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記音響導波路は開‐閉型導波路であり、以下の式
【数3】

ここで、nは奇数3,5,7…、aは前記音響ドライバの数、lは前記導波路の有効長であり、x…xは前記導波路の開端からの比例的な距離を示し、Gは対応する前記音響ドライバに与えられる増幅率である;
に従って、前記音響ドライバが配置され、前記増幅率が選択されている請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記音響導波路は開‐開型導波路であり、以下の式
【数4】

ここで、nは1よりも大きな整数、aは前記音響ドライバの数、lは一端から測定された前記導波路の有効長であり、x…xは前記導波路の一端からの比例的な距離を示し、Gは対応する前記音響ドライバに与えられる増幅率である;
に従って、前記音響ドライバが配置され、前記増幅率が選択されている請求項8に記載の装置。
【請求項11】
前記導波路は円錐形の導波路であり、前記音響ドライバが、それぞれのモードに対して以下の式
【数5】

ここで、Lは前記導波路の有効長を表し、fは前記モードに対応する周波数を表し、Aは開端での断面積を表し、Aは閉端での断面積を表し、xは前記開端からの比例的な位置を表し、dは
【数6】

によって与えられ、aは前記音響ドライバの数である;
に従って配置されている請求項1に記載の装置。
【請求項12】
複数の音響ドライバであり、該音響ドライバの少なくとも二つが直径一つ分以上に離隔して配置されている複数の音響ドライバによって、一つのモードに対応するモード関数がゼロではなく、前記一つのモードの全励起が実質的にゼロであるような位置で音響導波路内に放射する段階を備えた、音響導波路を作動させるための方法。
【請求項13】
前記放射する段階は、他のモードに対応するモード関数がゼロでなく、前記他のモードの全励起が実質的にゼロであるような前記導波路内の位置で、前記複数の音響ドライバによって放射する段階を備えた請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記導波路は開‐閉型導波路であり、前記放射する段階は以下の式
【数7】

ここで、nは励起されないモードを示す1よりも大きな奇数、aは前記音響ドライバの数、lは開端から測定された前記導波路の有効長、x…xは前記導波路に沿った比例的な位置を示す;
に従った位置で前記導波路内に放射する段階を備えた請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記導波路は開‐開型導波路であり、前記放射する段階は以下の式
【数8】

ここで、nは1よりも大きな整数、aは前記音響ドライバの数、lは一端から測定された前記導波路の有効長、x…xは前記導波路に沿った比例的な位置を示す;
に従った位置で前記導波路内に放射する段階を備えた請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記音響ドライバのそれぞれにオーディオ信号を提供する段階と、
前記音響ドライバの少なくとも二つに、前記オーディオ信号に対して異なる増幅率を与える段階とを更に備えた請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記導波路は円錐形の導波路であり、前記放射する段階は、それぞれのモードに対して以下の式
【数9】

ここで、Lは前記導波路の有効長を表し、fは前記モードに対応する周波数を表し、Aは開端での断面積を表し、Aは閉端での断面積を表し、xは前記閉端からの比例的な位置を表し、dは
【数10】

によって与えられ、aは前記音響ドライバの数である;
に従った位置で前記導波路内に放射する段階を備えた請求項12に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−31214(P2013−31214A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−206674(P2012−206674)
【出願日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【分割の表示】特願2007−311233(P2007−311233)の分割
【原出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(591009509)ボーズ・コーポレーション (121)
【氏名又は名称原語表記】BOSE CORPORATION
【Fターム(参考)】