説明

音響拡散体及び音響拡散方法

【課題】部屋に設置して音響を調整する音響拡散体を提供する。
【解決手段】複数の直径の異なる円柱を配置した柱状拡散体を、中高音域用に用いる。また、内部損失の大きな素材を用いた円筒状の筒状拡散体を、低音域用に用いる。柱状拡散体は、筒状拡散体の内側に格納して運搬又は保管を行う。また、筒状拡散体と柱状拡散体とを組み合わせ、又は分離して用いることもできる。筒状拡散体と柱状拡散体とを分離した場合、それぞれを室内の最適な箇所に配置して、広域の音響調整を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は音響拡散体及び音響拡散方法に係り、特に部屋に自在に配置して音響を調整する拡散体及び音響拡散方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、放送やパッケージメディアなどの映像ソースがHDTV(高精細テレビジョン)解像度になってきたことと同時に、オーディオ・ビジュアルブームが盛り上がっている。
これらのHDTVソースにおいては、音声についても従来よりも高度な方法で収録されている。例えば、サンプリング周波数が96KHzや192KHz、ダイナミックレンジで24ビットもあるような緻密な音声を収録している。
しかしながら、通常の家屋にあるリビングルームでは、広さや設計上の制限から、良好な音場を得ることが難しい。
特に、室内の対向する壁面間によって起こる多次回反射(フラッターエコー)や、定在波、低音の過多による壁振動を抑制することが重要である。また、良好な音場を得るために、初期反射音や残響音を調整して、有限の容積の部屋でも、音の広がりを感じられるようにすることが重要である。
このため、従来から、室内の音響を調整するために、部屋に置いたり壁や天井に取り付けたりする吸音材で構成された音響パネルが市販されている。
【0003】
ここで、従来の音響パネルとして、特許文献1を参照すると、水平方向の音環境を容易に調整できる音響拡散パネルが記載されている(以下、従来技術1とする。)。
従来技術1の音響パネルは、一定間隔に立設された2脚の支持脚と、それぞれの支持脚に支持された2枚の音響パネルとを備えている。この、音響パネルは、2枚の音響パネルが水平方向に自由に開くことができるように連結されている。また、各々の音響パネルがは、水平方向に滑動するスライド機構を介して支持脚に支持され、各々の支持脚に音響パネルを水平方向に回動させる回動機構が設けられている。そして、音響パネルの前面に音を反射し吸収する作用面が形成されており、音響パネルがその背面で支持脚に支持されている。
この従来技術1の音響パネル用いることにより、音響パネルを屏風の様に開閉させることで音の吸収及び反射する方向を微調整することができ、音響パネルがスライド機構と回動機構を介して支持脚に支持されているため、スムーズに開閉できる。よって、角度や設置場所をうまく調整することで、フラッターエコーや定在波を軽減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−300995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術1の音響パネルは、その材質や形状及び寸法から高音、中音及び低音域の特性が決定されてしまい、フラッターエコーや定在波に関わる部屋内の位置が高音と低音により異なっている場合には対応できないという問題があった。このため、1台のみの音響パネルを用いた場合には不十分な音響改善効果しか得られなかった。よって、高音と低音用に、何個もの音響パネルを部屋内に設置して音場を調整する必要があり、コストがかかるという問題があった。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の音響拡散体は、複数の直径の異なる柱を配置した中高音域用の柱状拡散体と、
筒状の低音域用の筒状拡散体とを備え、前記筒状拡散体の内側に前記柱状拡散体を格納又は分離可能に構成することを特徴とする。
本発明の音響拡散体は、前記筒状拡散体は、伸縮可能に構成し、高さを変更して低音の吸収・拡散の度合いを調整することを特徴とする。
本発明の音響拡散体は、前記筒状拡散体は、共鳴孔及び/又は音響導入口を備えることを特徴とする。
本発明の音響拡散体は、前記筒状拡散体は、吸音材を内蔵可能に構成することを特徴とする。
本発明の音響拡散体は、前記筒状拡散体は、梱包材として用いることを特徴とする。
本発明の音響拡散体は、前記柱状拡散体は、直径の異なる複数の円柱を曲線状に配置することを特徴とする。
本発明の音響拡散方法は、複数の直径の異なる柱を配置した柱状拡散体と、筒状の筒状拡散体とを、組み合わせ及び/又は分離して部屋内に配置し、前記柱状拡散体により中高音域を拡散し、前記筒状拡散体により低音域用を拡散・吸収することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、中高音域を拡散し低音域は音響的に透明な柱状拡散体と、低音域用の筒状拡散体とを分離可能に備えることにより、中高音域と低音域の周波数帯に、部屋の音響を最適に調整することができる音響拡散体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態に係る音響拡散体1における筒状拡散体10と柱状拡散体20の概念図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る音響拡散体1における筒状拡散体10と柱状拡散体20の平面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る音響拡散体1における筒状拡散体10と柱状拡散体20の正面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る音響拡散体1における筒状拡散体10と柱状拡散体20の底面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る音響拡散体1における筒状拡散体10と柱状拡散体20の側面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る筒状拡散体10の低音調整を示す概念図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る音響拡散体1の部屋への配置方法を示す概念図である。
【図8A】本発明の実施の形態に係る筒状拡散体10を用いない比較例1の音場の分布を示す図である。
【図8B】本発明の実施の形態に係る筒状拡散体10を用いた実施例1の音場の分布を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る筒状拡散体10の調整部130がない構成の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施の形態>
まず、図1の概念図を参照して、本発明の実施の形態に係る音響拡散体1の構成の概要について説明する。
本発明の実施の形態に係る音響拡散体1は、主に筒状拡散体10と、柱状拡散体20とから構成される。
筒状拡散体10は、主に数100Hz以下の周波数の低音域の音場調整を行うことができる。そして、柱状拡散体20は、主に1000Hz程度以上の周波数の中音域〜高音域(中高音域)の音場調整を行うために用いることができる。
具体的には、本発明の実施の形態に係る音響拡散体1は、筒状拡散体10の内部に柱状拡散体20を組み合わせた状態で用いることができる。
また、図1のように、筒状拡散体10と柱状拡散体20とを分離し、それぞれ部屋に配置することもできる。また、筒状拡散体10の上部円柱110と、下部円柱120とを、別々に部屋に配置することも可能である。
また、筒状拡散体10と、柱状拡散体20とは、単なる組み合わせではなく、調整できる周波数帯域を最適化するような構成としており、1台で部屋の周波数帯毎の音響を最適に調整することができる。
以下で、図面を参照して音響拡散体1の構成について、より詳しく説明する。
【0011】
図2〜図5を参照すると、音響拡散体1を筒状拡散体10と柱状拡散体20とを分離した際の、それぞれ平面図(図2)、正面図(図3)、底面図(図4)、側面図(図5)を示している。なお、右側面図と左側面図とは対称のため、省略して右側面図のみ示す。
【0012】
〔筒状拡散体10の構成〕
筒状拡散体10は、分離できる円筒状の音響拡散体であり、上部円柱110と、下部円柱120と、調整部130とを備えて構成される。
筒状拡散体10の大きさとしては、例えば、上面又は下面は43cm程度の直径に構成でき、全体の高さは146cm程度に構成することができる。また、上部円柱110の高さは73cm、下部円柱120の高さも73cm程度に構成することができる。
このように大きな直径を備えることで、円柱状拡散体は、数Hz〜数100Hz前後の低音域に関して、十分な反射と吸音性能を備えることができる。
【0013】
筒状拡散体10は、例えば筒状のダンボール等のリサイクル用紙、リサイクル用紙を樹脂で固めたもの、不織布、ガラス繊維等の、十分な表面での音波の損失や内部損失のある比較的軽い材質の素材で製造されている。筒状拡散体10は、例えば、ダンボールの場合は、2.5mm厚のダンボールの紙管を用いることができる。なお、後述するように、この紙管の厚みは、上部円柱110と、下部円柱120とで相違させることができる。
このような材質を用いて筒状に製造するため、筒状拡散体10は、柱状拡散体20よりも安価に製造することができる。
このため、筒状拡散体10は、納品するときに柱状拡散体20を入れ込んだ状態で梱包材のように用いて配達することができる。筒状拡散体10を梱包材として用いた場合でも、低音は波長が長いために、筒状拡散体10が多少傷ついたりゆがんだりしても、吸音・反射効果は殆ど変化しない。また、安価なため、返品、交換も容易である。
さらに、柱状拡散体20を筒状拡散体10の内部に格納することで、音響拡散体1を使用しない際の保管や、移動や、運搬を容易にすることができる。
なお、筒状拡散体10は、必ずしも円柱の形状をしている必要はなく、楕円柱や弓形の柱状や星形の柱状等の形状を用いることもできる。
【0014】
ここで、筒状拡散体10の各部について、より詳しく説明する。
上部円柱110と、下部円柱120とは、同様な構造の円柱であり、それぞれ、上面又は底面には、側面(周壁)と同様の素材で閉じられている。また、補強用に円形の板部を填め込んであってもよい。
調整部130は、上部円柱110や下部円柱120と同様の素材で製造された、両端が閉じられていない(空いた)円柱である。調整部130は、上部円柱110や下部円柱120よりも0.1〜0.5mm程度、直径が小さく、適度な弾力があり、上部円柱110や下部円柱120と摩擦により内側から支えるように接している。なお、この調整部130の直径においては、上部円柱110と、下部円柱120の間のがたつきが無いようなクリアランス(余裕)があればよい。また、この調整部130はエラストマーやゴムを用いて摩擦力を高めていてもよく、くさび状のロック構造を備えて上部円柱110と下部円柱120とを接続するように構成していてもよい。
また、調整部130の高さは、上部円柱110や下部円柱120よりも10cm程度高く設定するこができ、例えば、740cm程度に構成することができる。これにより、上部円柱110の下面と、下部円柱120の上面とを接するように固定可能である。また、後述するように、調整部130は、上部円柱110と下部円柱120とが固定される長さを調整し、吸音・拡散を行う低音の周波数を変更するのに用いることができる。
【0015】
〔柱状拡散体20の構成〕
柱状拡散体20は、天板部210と、複数の拡散柱220と、ベース部230とを備えて構成される。
柱状拡散体20は、例えば建築用の難燃木や無垢材等の木材、振動を抑制するプラスチック、金属等の素材で構成され、主に中・高音域の音波を拡散柱220により拡散して、自然な音場を作ることができる。柱状拡散体20は、低音域は音響的に「透明」であり、背後に低音域の音波を反射・拡散せずに通すことができる。しかしながら、低音を背後に通す際にも、低音の位相を崩すことができる効果が得られる。柱状拡散体20の大きさとしては、例えば、図2の平面図での長辺の長さが40cm程度、短辺の長さが20cm程度に形成することができる。柱状拡散体20の大きさとしては、また、図3の正面図での高さが130cm程度に構成することができる。
【0016】
この柱状拡散体20は、ランダムに配置された複数の拡散柱220を用いており、この拡散柱220から拡散・反射する音波が前後左右、あらゆる方向に放散する。このため、従来技術1の音響パネルのように主に吸音し所定の方向に反射するような音響パネルに比べて、自然な音の広がりを得ることができる。
また、この柱状拡散体20は、壁材ではなく、主に床置きして、例えばスピーカーの横などに設置して使用するように各部を調整している。このため、大きさが比較的コンパクトであり、また、スピーカーや部屋の音場環境に合わせて置く位置を自在に変更して、ユーザーのセッティングにより音響の調整を容易に行い、大きな音響改善効果を得ることができる。
【0017】
ここで、柱状拡散体20の各部の構造についてより詳しく説明する。
天板部210は、複数の拡散柱220を上部で支える部位で、木材に複数の拡散柱220を通すための穴を開けて、その穴に複数の拡散柱220を差し込むように構成する。また、図2の平面図のように、拡散柱220は、両端を丸めた楕円弧のような曲線状に複数の列状に、配置する。これにより、曲線の凸状の方向、例えば正面方向に音波を多く拡散をするような緩い方向性を与えることができ、音響調整を感覚的に行いやすくなるという効果が得られる。なお、ベース部230が十分な強度を備えて拡散柱220を固定するような構造になっている場合には、天板部210を備えない構成も可能である。
拡散柱220は、柱状拡散体20に複数備えられており、それぞれ直径が異なる円柱状の構造物である。それぞれの拡散柱220は、柱の直径に対応した周波数の音波を回折、拡散、反射させることができるものである。なお、拡散柱220の素材としては、天板部210やベース部230と同様の通常のマツやスギ等の天然の木材を用いることもできるが、バルサ材のような軽量の木材にラッカー等で着色したり樹脂を浸透させて強度を上げて用いることもできる。これにより、柱状拡散体20全体を軽量化して、倒れた際の床や物品へのダメージを抑え、取り扱いを容易にすることができる。同様に、拡散柱220について、直径が様々に異なる天然の竹を選別して用いることも可能である。
ベース部230は、複数の拡散柱220を下部で支える部位で、天板部210と同様に木材に穴を開けて複数の拡散柱220を差し込むように構成する。また、ベース部230の形状は、図2の平面図のように天板部210と同様の形状として、設置時に安定させるために、面積を少し大きく形成することができる。また、床からの振動の悪影響を抑え、設置時のがたつきを抑えるため、図3の正面図と図4の底面図を参照すると、底面部を切り欠きのように凹ませて形成することができる。この際、床と接する箇所には、振動を抑えるためのブチルゴムやシリコーンゲル等の素材を接着しておいてもよい。さらに、ジルコンサンド等を備えた錘をベース部230に備えるようにすることもできる。これにより、柱状拡散体20の設置時の安定性を増すことができる。
【0018】
さらに、複数の拡散柱220の配置について、より詳しく説明する。
拡散柱220は、基本的にランダムに配置されているものの、主に入射してくる音波に対して手前に直径が細い柱を配置し、背後には直径が太い柱を配置する。
直径が細い柱を手前に配置することに関しては、逆に太い拡散柱220を手前にすると、音響的に好ましくないためである。これは、直径が太い拡散柱220は、より低い周波数では上述のように拡散するものの、高い周波数の音の波面は、拡散する方向が均一でなくなり、指向性が強くなるためである。
よって、本発明の実施の形態に係る音響拡散体1の柱状拡散体20においては、音源からみて手前に高域用に細い拡散柱220を設置して高域の音波を拡散させるようにする。
これにより、拡散柱220の音響抵抗(インピーダンス)を緩やかに変化させ、レベルの大きな反射が柱状拡散体20の表面で起こることを回避することができる。
また、拡散柱220の各列についてランダムに配置することに関しては、規則的な配列に係る特定周波数のカラレーション(coloration、音色の変化)を回避することができるためである。
【0019】
なお、拡散柱220の形状については、単純な円柱ではなく、中央部を少し膨らませた「エンタシス」のような形状とすることも可能である。これにより、部屋の水平方向だけではなく、垂直方向に対しても音波の拡散、反射、吸収効果が得られるため、さらに自然な音場を得ることができる。また、拡散柱220の断面の形状は、必ずしも円ではなく、楕円や星形等の形状を用いることも可能である。また、上述したように、竹のような節のある構造としてもよい。
また、拡散柱220を列状(段状)に整列された配置の場合は、形成が簡単になるという効果が得られる。
また、列内の拡散柱220の間隔は、乱数を用いて5〜50%程度のランダム配置度で、間隔がバラけるようにランダムに設定する。
【0020】
また、各直径の拡散柱220の列を多段配置した場合、拡散柱220の長さ方向に垂直な投影面で、背後が見通せる割合のパラメータに従って、各柱間の間隔を調整する。
デフォルト(標準設定)としては、例えば、柱状構造体の拡散効果を高めたい場合は柱の長さ方向に対して垂直方向で拡散柱220全体の投影面積が、全体の投影面積の95%以上となるようにするのがよい。すなわち、柱群により背後が見通せなくなる程度に、配置調整を行う。
これにより、拡散柱220で拡散されなかった音波が、背後の壁面で反射してくる影響を軽減することが可能になる。また、背後に壁面がない場合でも、直接背後を見通せないようにすることで、音場に悪影響を与えない仕切り代わりに用いることもできる。
【0021】
〔低音吸収の調整〕
ここで、筒状拡散体10を用いた低音域の調整について説明する。
柱状拡散体20を上述の配置条件で配置すると、中高域の音は前列または中列の拡散柱220により大部分が反射し、主に低域の音は、後列の背後に達して透過する。この際に、位相は揃わない低域の音となっている。これにより、単なる板状の従来の音響パネルに比べて、部屋の広がり感を演出する、良好な音場を得ることが可能である。
ここで、柱状拡散体20を部屋のスピーカーの横等に設置するような寸法に形成する必要があるため、例えば1000Hz以上の中音域及び高音域に関する拡散効果が得られるが、波長の長い例えば300Hz以下の低域音を吸収、拡散する効果はそれほど大きくない。
このため、特に部屋の隅にスピーカーを設置した際の低域の定在波やフラッターエコー等の低減のためには、柱状拡散体20に加えて、筒状拡散体10を用いることで、より効果的に部屋の音響を調整することが可能になる。すなわち、筒状拡散体10により、低音がこもるといった問題を解消することが可能になる。
この際に、部屋の音響の状況に応じて、低音の周波数特性と拡散/吸音の関係や周波数帯域、反射方向、及び反射時間構造等を制御することが重要である。すなわち、特定の周波数の音が拡散される割合と吸音される割合をコントロールする必要がある。
【0022】
このため、図6を参照して説明すると、上部円柱110の下部と下部円柱120の上部とを合わせ、一体的に用いる場合には、調整部130を用いて、筒状拡散体10の全体の高さを調整することができる。
これにより、吸音・拡散する低音の強さを調整することが可能である。なお、このように高さを調整した上で、筒状拡散体10の内部に柱状拡散体20を備えることも当然可能である。通常は、筒状拡散体10の内部に柱状拡散体20を備えると、中高音域の拡散放射効果を弱めることができ、部屋の残響を抑えたい場合等に有効である。
また、筒状拡散体10の上部円柱110及び/又は下部円柱120には、共鳴孔140を開けることができる。この共鳴孔140の直径は、ユーザーの使用しているリスニングルームの「部屋鳴り」の周波数を用いることができる。すなわち、部屋の周波数帯域状の突出点に合わせることで、より低音を吸収することが可能になる。加えて、筒状拡散体10は、紙等の柔らかい素材を使用しているため、ユーザーが簡単に加工可能である。より具体的には、上部円柱110又は下部円柱120には、ミシン目にて、各低音の周波数に対応した共鳴穴が印刷又はミシン目で印刷/加工されており、ユーザーがハサミや手でその周波数に対応した穴をちぎって開けることが可能である。この穴は同心円状に形成されており、小さい穴の高い周波数から、大きい穴の低い周波数まで、少しづつ穴を大きくちぎって開けていき、最適な共鳴周波数を得ることが可能である。なお、この共鳴孔140を複数備えており、同心円状に形成せず、各周波数に対応したミシン目を別途用意することもできる。また、共鳴孔を多数あけたり、比較的大きな開口部を備えたりして、音響導入口として作用させる調整も可能である。
さらに、筒状拡散体10の上部円柱110又は下部円柱120の内部に、別途、フェルトやグラスウールやジルコンサンド等の内部損失の高い吸音材150を詰めることができる。これにより、低音の吸音効果を更に高めることができる。なお、吸音材150は、上部円柱110又は下部円柱120の内部に張り詰めることもでき、上部円柱110と下部円柱120を分離した際にも詰めることが可能である。
このように、柱状拡散体20を用いて中高音域を拡散させ、筒状拡散体10を用いて低音域の吸音や拡散をコントロールすることで、ユーザーの使用しているリスニングルームの部屋鳴り周波数にターゲットを絞った強力な吸音作用を持たせながら、低域から広域までの幅広い拡散効果を得ることができる。
【0023】
〔音響拡散体1の配置例〕
次に、図7を参照して、音響拡散体1を部屋に配置する例について説明する。
上述のように、音響拡散体1は、筒状拡散体10と柱状拡散体20とに分離しないまま、スピーカー等の横や、部屋の隅等、音場の調整に最も適した場所に設置して用いることが可能である。
これに加えて、図7の例のように、音響拡散体1は、筒状拡散体10を分離し、柱状拡散体20と共に用いることが可能である。
【0024】
図7(a)の例は、音響拡散体1を4つ用いて、スピーカー30の横に配置した例である。図7(a)においては、本発明の実施の形態に係る音響拡散体1の筒状拡散体10と柱状拡散体20とを組み合わせて用いた例を示している。ここでは、柱状拡散体20を、それぞれスピーカー30について、リスナーL側からみて手前側の左右に柱状拡散体20を配置し、それぞれの柱状拡散体20の背後に筒状拡散体10を配置している。
従来、このように、1ペアのスピーカーが部屋の短辺に配置されていると、特に部屋の隅で低音が増強されて反射して、低音過多の籠もった音になり、音場を損ねてしまうことが多い。また、中高音についても、反射波が壁に反射されて、そのままユーザーであるリスナーLに到達するため、スピーカー30の配置の幅を超えた音の広がり感を得るのは難しかった。
これに対して、図7(a)の例は、スピーカー30の、例えば、トウィーターやスコーカー等から出る中高音域の周波数のうち、球面波としてスピーカー30のスピーカーボックスの横に広がる音波を、拡散させることができる。さらに、スピーカー30の、例えば、バスレフポートから出る低音域の音波や、部屋の隅に「籠もる」音を、筒状拡散体10により吸音・拡散させることができる。
これにより、壁に反射してユーザーの耳に届く反射波に広がりを持たせることができ、フラッターエコー等を低減し、残響感を高め、よりリスナーLにとって好ましい音場環境を得ることが可能である。これにより、本来のスピーカー30から再生される音声が、部屋の余分なエコー等で「汚染」されることを防ぐことができ、例えば、ボーカルがはっきりしたり、各楽器の音を鮮明に聞き取り、より自然な音場感で視聴することができるという効果が得られる。また、低音の「籠もり」は好みにより、筒状拡散体10の配置、及び共鳴孔140や吸音材150により調整可能である。
【0025】
図7(b)の例も、音響拡散体1を4つ用いた例である。図7(b)においては、本発明の実施の形態に係る音響拡散体1の筒状拡散体10と柱状拡散体20とを分離して用いた例を示している。ここでは、柱状拡散体20をスピーカー等の横に置き、筒状拡散体10を部屋の隅に配置した例を示している。
たとえば、バスレフポートが前面にあるスピーカー30を部屋の隅に配置した場合には、低音の「籠もり」がバスレフポートが背面にあるスピーカーよりも軽微になる場合が多い。
このため、図7(b)のように、筒状拡散体10をリスナーLの背後の部屋の隅に置くといった配置により、より大きな低音域の改善効果を得ることができ、低音域のフラッターエコーや定在波を軽減することができる。さらに、低音を吸音することで、壁が共振する壁鳴りや、床鳴りを抑えることもできる。これにより、特に映画等の効果音の臨場感をより高めることが可能になる。また、バスやティンパニー等の低音を多く含む楽器の音色がより鮮明になり、生き生きとした音声を聴くことが可能になる。
【0026】
なお、図7(b)の例に加えて、筒状拡散体10だけをスピーカーの背後以外の位置に複数用いることも可能であり、その場合には上述のように筒状拡散体10は安価に製造可能であるので、ユーザーが別途注文・購入することも容易である。
また、音響拡散体1は、最低1つから用いることができる。また、音響拡散体1を2つ用いる場合には、左右のスピーカー30の、部屋の左右の壁に近い方のみに音響拡散体1を設置することができる。
さらに、上部円柱110又は下部円柱120を分離して設置して用いることもできる。すなわち、筒状拡散体10の上部円柱110と、下部円柱120とを分離して、別々に、部屋の隅や壁際に配置することが可能である。これにより、上部円柱110又は下部円柱120を、イス、スツールのような家具として用いることができ邪魔になりにくいだけでなく、更に低域の拡散・吸音部材として、室内の音響改善に役立たせることができる。
また、音響拡散体1を、図7の例のようなステレオシステムだけではなく、サラウンドシステム等の複数のスピーカーを備えたシステムにも用いることが可能である。
【実施例】
【0027】
〔筒状反射体10の配置のシミュレーションによる比較〕
ここで、音響拡散体1の配置による、部屋の音響改善効果について、シミュレーションを行った結果について説明する。
音響拡散体1のうち、柱状拡散体20は、中高音域についてスピーカーの横に置いて音波を拡散させることができる。実験結果(図示せず)によると、トールボーイ型スピーカー、フロア型スピーカー等の形状の差や、ホーン型スピーカー、静電スピーカー、ダイナミックスピーカー等の駆動方法の差に関わらず、良好に拡散を行うことが分かった。
また、筒状拡散体20を上述な図7(a)のような配置にした場合については、低音域の拡散・吸収についても、バスレフポートの形状や背面解放型であるか否かといったスピーカーの形状の差の影響を受けずに低音を拡散・吸収することができることが分かった。
【0028】
さらに、具体的に上述の図7(b)のように、筒状反射体10を分離して部屋の隅に配置した場合に、具体的に部屋の音響を改善できるのかについて、シミュレーションを行って検討した。
以下で、本発明の実施の形態に係る筒状反射体10を分離して部屋の隅に配置した際の、拡散効果を差分方で数値シミュレーションを用いてシミュレートした結果について説明する。このシミュレーションは、日東紡音響エンジニアリング社製の「comfida」ソフトウェアを用いて、2次元差分法による計算を行った。
部屋の形状となる回折対象の計算空間としては、幅7m、奥行き9mについて、コンパクト差分法による計算を行った。
音源となるスピーカー30を1つ、の座標は、対象空間の左上の座標を基にすると、左端から1.7m、奥行き1.5mの位置である。スピーカー30から出力する音源(音波の発生源)は、一般的なGausian波束を用いた。
【0029】
(比較例1)
まず、図8Aを参照して、部屋に何も配置していない場合のシミュレーション結果である比較例1について説明する。
ここでは、上述のように図8Aの四角い部屋の中にスピーカー30を1つのみを配置した場合における、100Hz帯域の音圧分布を示している。なお、壁面は通常の壁紙のように多少吸音するように構成した。また、白抜きの数字は、音圧(db)を示している。
このように、スピーカー30のみを部屋の中に配置した場合は、フラッターエコーのような音圧のピークとディップ差が、まだら模様のように大きく現れる。
【0030】
(実施例1)
次に、図8Bを参照して、部屋の四隅に筒状拡散体10を配置した場合のシミュレーション結果である実施例1について説明する。
図8Bにおいては、図8Aと同様の大きさの四角い部屋の中にスピーカー30を1つのみを配置した場合の、100Hz帯域の音圧分布を示している。そして、図8Bにおいては、部屋の各隅から横0.7m、縦0.5mの箇所に、分離した筒状拡散体10を配置している。なお、図8Aの場合と同様に、壁は多少吸音するように構成し、白抜きの数字は、音圧(db)を示している。
図8Bの実施例1と、図8Aの比較例1とを比較すると、図8Bのように隅に筒を配置したときの方が、音圧の分布が滑らかになり、音圧の大きなピークと音圧の小さなディップとの差が少ないことが分かる。これにより、フラッターエコーのような音場に悪影響を与える低音が少なく、良好な音場になっている。
よって、部屋の隅に筒状拡散体10を配置しても、部屋内に発生する低音域についてのフラッターエコー等を軽減し、良好な音場を得ることが可能になる。
【0031】
このように、本発明の実施の形態に係る音響拡散体1によれば、中高音域の反射方向/反射時間遅れ(位相)がランダムに反射する複数の反射面を形成する柱状拡散体20と、低音域の吸収と拡散を行う筒状拡散体10とを用いることによって、部屋の音響を著しく改善することができる。
【0032】
以上のように構成することで、以下のような効果を得ることができる。
まず、従来技術1の音響パネル装置では、材質や形状及び寸法から高音、中音及び低音域の特性が決定されてしまうという問題があった。よって、部屋の音響を改善するために、高音域と中低音域に分けて音響を改善することはできず、設置された位置において、音響パネル装置の周波数特性に応じた吸音と反射のみを行うだけだった。このため、音響改善効果を得るためには、効果が十分ではなかった。
これに対して、本発明の実施の形態に係る音響パネル装置は、中高音域に対応した柱状拡散体20と、低音域に対応した筒状拡散体10とを分離することができる。これにより、柱状拡散体20と、低音域に対応した筒状拡散体10の配置場所を部屋内で自在に調整でき、部屋の形状や音響特性にあった最適な音場の調整を行うことができる。すなわち、多種多様な音響特性をもつユーザーのリスニングルームにおいて、広域の音場を改善する拡散体を構成することができる。
さらに、様々な特性を持つスピーカーシステム、例えば、バスレフポートの形成位置の違いによる音場の違い等に、柔軟に対応可能である。
【0033】
また、柱状拡散体20は、円弧や弓状に形成しているため、ある程度の指向性をもって中高域の音を拡散させることができる。これにより、スピーカー等の周波数特性や位相の特性に合わせた配置が可能になる。
また、筒状拡散体10についても、スピーカー等のバスレフポートやウーファーの形状などに合わせて配置が可能であり、効果的に低音の吸収・拡散を行うことができる。
【0034】
また、従来の音響パネルにおいて、ユーザーは、音響パネルを受け取り、中身の音響パネルを取り出すと、通常であれば梱包材は廃棄する。廃棄された梱包材は、溶かしてリサイクル可能であっても、資源の無駄になっていた。
これに対して、本発明の実施の形態に係る音響拡散体1においては、筒状拡散体10を紙等の安価な素材で製造可能であるために、梱包材としても使用可能である。これにより、資源を有効活用して、梱包材のコスト自体を低減することができる。また、筒状拡散体10を紙等で形成した場合には、安価に製造でき、逆にリサイクルすることも簡単である。
【0035】
また、本発明の実施の形態に係る音響拡散体1では、柱状拡散体20は、中高音域用に形成されており、これに合わせた周波数帯の低域用の筒状拡散体10を用いることができる。
これにより、低域と中高域について、拡散や吸音の度合いを調整しやすくすることができる。
【0036】
また、柱状拡散体20は、コンパクトに薄く形成されているために、壁に埋め込んで構成する柱状拡散体よりも配置が簡単である。
さらに、柱状拡散体20は、板状の音響パネルに比べて、空気が後ろに抜けるために、部屋の空調を乱すことがなく、空調によるオーディオ的な悪影響を抑えることが可能になる。
また、柱状拡散体20は、単なる板状の音響パネルと比べて、部屋のインテリアとしても邪魔にならない。
【0037】
<調整部130がない場合の、筒状拡散体10の構造>
なお、筒状拡散体10に関して、調整部130がない構造も可能である。
図9を参照すると、筒状拡散体10の直径で切り取った断面図を示している。この例では、下部円柱120の上端の直径を少し細く形成して、上部円柱110を入れ込んで結合するように構成している。これにより、調整部130がない場合でも、上部円柱110と下部円柱120を用いて筒状拡散体10の高さの調整を行い、吸音・拡散する低音の調整を行うことができる。
また、図9の例では、上部円柱110の上端部、及び下部円柱120の下端部に、同様の素材の円状の素材を貼り付けして、縫い目115により糸を用いて縫う等の方法で固定している。これにより、上部円柱110及び下部円柱120の強度を増すことができる。よって、調整部130がない場合でも梱包材として十分な強度をもたせ、耐久性を高めることができる。
【0038】
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0039】
1 音響拡散体
10 筒状拡散体
20 柱状拡散体
30 スピーカー
110 上部円柱
115 縫い目
120 下部円柱
130 調整部
140 共鳴孔
150 吸音材
210 天板部
220 拡散柱
230 ベース部
L リスナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の直径の異なる柱を配置した中高音域用の柱状拡散体と、
筒状の低音域用の筒状拡散体とを備え、
前記筒状拡散体の内側に前記柱状拡散体を格納又は分離可能に構成する
ことを特徴とする音響拡散体。
【請求項2】
前記筒状拡散体は、伸縮可能に構成し、高さを変更して低音の吸収・拡散の度合いを調整する
ことを特徴とする請求項1に記載の音響拡散体。
【請求項3】
前記筒状拡散体は、共鳴孔及び/又は音響導入口を備える
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の音響拡散体。
【請求項4】
前記筒状拡散体は、吸音材を内蔵可能に構成する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の音響拡散体。
【請求項5】
前記筒状拡散体は、梱包材として用いる
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の音響拡散体。
【請求項6】
前記柱状拡散体は、直径の異なる複数の円柱を曲線状に配置する
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の音響拡散体。
【請求項7】
複数の直径の異なる柱を配置した柱状拡散体と、筒状の筒状拡散体とを、組み合わせ及び/又は分離して部屋内に配置し、
前記柱状拡散体により中高音域を拡散し、
前記筒状拡散体により低音域用を拡散・吸収する
ことを特徴とする音響拡散方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−189841(P2010−189841A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32130(P2009−32130)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(390029023)日東紡音響エンジニアリング株式会社 (19)
【Fターム(参考)】