説明

音響特性測定システムおよび音響特性測定方法

【課題】 広い周波数帯域で安定した音響特性データを得ることができる音響特性測定システムおよび音響特性測定方法を提供すること。
【解決手段】 音響管11の音源14と試験体15との間に、音響管11内の音圧を計測する第1乃至第4の測定用マイクロホン16−1〜16−4を音響管11の長手方向に並列的に配置し、計測した4点の長手方向位置間の第1乃至第4の音圧信号P1〜P4に基づいて第1乃至第3の特性インピーダンスを算出する。そして、予め定めた基準値以上外れた演算値を検出し、他の2つの演算値の平均値と入れ替え、第1乃至第3の特性インピーダンスの平均値を算出して出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2キャビティ法を用いた音響管で試験体の音響特性を計測する音響特性測定システムおよび音響特性測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、音響特性測定装置は、例えば図7に示すように構成されている(特許文献1参照)。図7において、1は定在波を発生させるための音響管で、この音響管1内に測定対象の試験体(吸音材)2が収容されている。音響管1の一端側には音源としてのスピーカ3が設けられており、他端側には剛壁4に接続されたピストン5が設けられている。剛壁4は、試験体2との間に背後空気層6を形成するためのもので、ピストン5を音響管1の長手方向に移動させ、試験体2と剛壁4を規定した距離に調整可能になっている。
【0003】
上記音響管1におけるスピーカ3と試験体2との間には、音響管1内の音圧を計測するための2本の測定用マイクロホン7−1、7−2が設けられている。これらの測定用マイクロホン7−1、7−2は、音響管1の長手方向に離れた2カ所に設置されており、それぞれの位置での音圧の計測を行う。
【0004】
そして、上記スピーカ3から定常のランダム音波、例えばホワイトノイズ(入射波)を発生させ、音響管1内を平面波として伝搬させて試験体2に当てる。入射波は試験体2を透過して剛壁4で反射し、音響管1内部に入射波(前進波)と反射波(後進波)の重ね合わせによって定在波干渉パターンが発生する。上記測定用マイクロホン7−1、7−2で音響管1の2点の音圧を計測し、FFT(Fast Fourier Transform)アナライザに入力して複素音圧伝達関数を計算する。この伝達関数から2点マイク法による音響インピーダンスの式を用いて、試験体2前面の音響インピーダンスを求める。また、試験体2後面の音響インピーダンスは解析的に算出できる。これらにより、試験体2の特性インピーダンスと伝播定数を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−233649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のような構成では、測定用マイクロホン7−1、7−2を音響管1に接続する部分で音響管1の内部の断面形状が変化するため、平面波が乱れることによって、マイクロホン間距離ΔM1に依存した特定の周波数で、試験体2の特性とは関係のない測定上のピークが生じる、という問題があった。特に、使用する測定用マイクロホン7−1、7−2のサイズが決まっている場合には、音響管1の内径φ1が細くなるほど相対的に内部の断面形状の変化が大きくなり、その結果、データの乱れが大きくなる。
【0007】
本発明は、上記のことに鑑み提案されたもので、その目的とするところは、広い周波数帯域で安定した音響特性データを得ることができる音響特性測定システムおよび音響特性測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に係る本発明の音響特性測定システムは、測定対象の試験体15を収容した音響管11と、前記音響管の一端に設けられる音源14と、前記音響管11の前記音源14と前記試験体15との間に並列的に配置され、前記音響管11内の長手方向に異なる位置の音圧を計測する第1乃至第4の測定用マイクロホン16−1〜16−4と、これら第1乃至第4の測定用マイクロホン16−1〜16−4で計測した第1乃至第4の音圧信号P1〜P4から第1乃至第3の特性インピーダンスを算出し、予め定めた基準値以上外れた演算値を検出し、他の2つの演算値の平均値と入れ替え、前記第1乃至第3の特性インピーダンスの平均値を算出する演算手段35、41とを具備することを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に係る本発明は、請求項1記載の音響特性測定システムにおいて、前記第1乃至第4の測定用マイクロホン16−1〜16−4で計測した第1乃至第4の音圧信号P1〜P4が入力される入力手段31、39、40と、前記入力手段から入力された第1乃至第4の音圧信号P1〜P4、前記演算手段35による演算値、および前記基準値を記憶する記憶手段32と、前記演算手段35、41による演算結果を出力する出力手段33、42とをさらに具備することを特徴とする。
【0010】
さらに、請求項3に係る本発明は、請求項2記載の音響特性測定システムにおいて、前記入力手段は、マイクロホンアンプ39とサウンドカード40を含み、前記演算手段はパーソナルコンピュータ41を含み、前記出力手段はモニタ42を含むことを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る本発明の音響特性測定方法は、音響管11内に測定対象の試験体15を収容するステップと、この音響管11の一端側の音源14から平面波を発生させて試験体15を透過させ他端側の剛壁20−1で反射させるステップと、前記音響管11の前記音源14と前記試験体15との間に並列的に配置された第1乃至第4の測定用マイクロホン16−1〜16−4で、前記音響管11の長手方向に異なる位置の音圧を計測するステップと、前記第1乃至第4の測定用マイクロホン16−1〜16−4で計測した第1乃至第4の音圧信号P1〜P4から第1乃至第3の特性インピーダンスを算出するステップと、算出した前記第1乃至第3の特性インピーダンスにおける予め定めた基準値以上外れた演算値を検出するステップと、検出した基準値以上外れた演算値を、他の2つの演算値の平均値と入れ替えるステップとを具備することを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に係る本発明は、請求項4記載の音響特性測定方法において、前記第1乃至第3の特性インピーダンスを算出するステップは、前記第1、第2の測定用マイクロホン16−1、16−2で計測した第1、第2の音圧信号P1、P2から第1の音圧伝達関数、前記第1、第3の測定用マイクロホン16−1、16−3で計測した第1、第3の音圧信号から第2の音圧伝達関数P1、P3、および前記第1、第4の測定用マイクロホン16−1、16−4で計測した第1、第4の音圧信号P1、P4から第3の音圧伝達関数をそれぞれ算出するステップと、前記第1乃至第3の音圧伝達関数から第1乃至第3の音響インピーダンスを算出するステップと、前記第1乃至第3の音響インピーダンスから第1乃至第3の特性インピーダンスを算出するステップとを含むことを特徴とする。
【0013】
さらに、請求項6に係る本発明は、請求項4記載の音響特性測定方法において、前記基準値以上外れた演算値は、前記各第1乃至第3の特性インピーダンスの移動平均と予め設定された基準値とを比較して検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の本発明では、音響管の長手方向に配置した第1乃至第4の測定用マイクロホンを用いて異なる点の音圧を測定し、各々の複素音圧伝達関数を同時に算出する。これらの伝達関数を比較し、一通りのデータだけがマイクロホン間距離に依存した周波数でデータの乱れが生じている帯域を、他の正常なデータの平均値を用いて補完することによって、広い周波数帯域で機器に依存した乱れのない、安定した音響特性データを得ることができる。
【0015】
また、請求項2記載のように、記憶手段を設けることで、制御プログラム、制御データ、演算式、演算用の各種パラメータ、基準値および算出した特性インピーダンスを記憶できる。
【0016】
さらに、請求項3記載のように、入力手段、算術論理ユニットおよび出力手段としてパーソナルコンピュータを用いることでシステムの低コスト化が図れる。
【0017】
さらにまた、請求項4記載の本発明では、音響管の長手方向に配置した第1乃至第4の測定用マイクロホンを用いて異なる点の音圧を測定し、各々の複素音圧伝達関数を同時に算出する。これらの伝達関数を比較し、一通りのデータだけがマイクロホン間距離に依存した周波数でデータの乱れが生じている帯域を、他の正常なデータの平均値を用いて補完することによって、広い帯域で機器に依存した乱れのない、安定したデータを得ることができる。
【0018】
請求項5記載のように、第1乃至第3の特性インピーダンスの算出は、第1乃至第3の複素音圧伝達関数から第1乃至第3の音響インピーダンスを求め、これら第1乃至第3の音響インピーダンスから算出することができる。
【0019】
また、請求項6記載のように、第1乃至第3の特性インピーダンスの移動平均と予め設定された基準値とを比較することで、データの乱れが生じている帯域を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例に係る音響特性測定システムの概略図である。
【図2】図1に示す音響特性測定システムで用いられる音響特性測定装置の外観を示す斜視図である。
【図3】図2に示す音響特性測定装置の縦断面図である。
【図4】図2および図3に示す音響特性測定装置における音響管の拡大断面図である。
【図5】本発明の実施例に係る音響特性測定方法について説明するためのもので、図1に示した音響特性測定システムの動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の他の実施例に係る音響特性測定システムの概略図である。
【図7】従来の音響特性測定装置の断面図である。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0022】
図1は本発明の実施例に係る音響特性測定システムの概略図であり、図2は図1のシステムで用いられる音響特性測定装置の外観を示す斜視図、図3は図2に示す音響特性測定装置の縦断面図である。また、図4は図2および図3に示す音響特性測定装置における音響管の拡大断面図である。図2に示す如く、音響特性測定装置は、定在波を発生させるための音響管11の一端側に、アダプタ12を介してスピーカボックス13が装着された構成になっている。本例では、音響管11を透明なアクリル製パイプで形成しており、内径φ2を14mmにしている。音響管11を透明な材料で形成することで、試験体のセット後に試験体の状態(変形や位置等)や、マイクロホンの位置が正しい状態にあるのか容易に確認できる。
【0023】
上記スピーカボックス13には、図3に示すように音響管11内に平面波を励起する音源として働くスピーカ14が内蔵されている。また、上記アダプタ12のスピーカ14に対向する内面12aは、測定対象の試験体(吸音材)15にスピーカ14からの入射波を伝えるために滑らかに内径を変化させている。
【0024】
上記音響管11の上部には、測定用マイクロホン16−1〜16−4が長手方向に離れた4カ所に並列的に設置されている。これらの測定用マイクロホン16−1〜16−4は、それぞれマイクロホンホルダ21−1〜21−4に挿入されて音響管11に装着される。また、この音響管11の両側面には留め具17−1、17−2が設けられており、音響管11から試験体15を出し入れする際に、音響管11を試験体15の収容部(サンプルホルダ)近傍で分離可能に構成されている。
【0025】
図4に示すように、上記各測定用マイクロホン16−1〜16−4は、スピーカ14と試験体15との間に、音響管11の中心軸AXに実質的に直交する方向に等間隔ΔM2(例えば13mm)で並列配置されている。
【0026】
一方、上記試験体15の背面には規定した距離の背後空気層18を形成するための中空円筒状のスペーサリング19−1が設けられ、このスペーサリング19−1の背後に剛壁として働くスペーサ20−1が設けられている。本例では、スペーサ20−1の背面に中空円筒状のスペーサリング19−2が収容され、このスペーサリング19−2の背後にスペーサ20−2が収容されている。そして、スペーサリング19−1、19−2とスペーサ20−1、20−2を選択的に入れ換えることで上記試験体15から剛壁までの距離を調整可能になっている。
【0027】
さらに、上記スペーサリングとスペーサに種々の幅のものを用意し、スペーサリングとスペーサをそれぞれ入れ換えたり、増減したりすることで上記試験体15から剛壁までの距離を自由かつ細かい幅で調整できる。
【0028】
上記測定用マイクロホン16−1〜16−4で測定された音響管11内の音圧信号P1〜P4は、図1に示すようなデータ処理装置30に取り込まれて処理され、音響管11内部の断面形状の変化に起因する音響特性データの乱れが除去される。
【0029】
当該データ処理装置30と上記図2および図3に示した音響特性測定装置とで本発明の実施例に係る音響特性測定システムが構築される。このデータ処理装置30は、入力装置31、記憶装置32、出力装置33、駆動装置34および制御装置35等を備えており、これらの装置がバスライン等の信号線38に共通接続され、種々の制御信号やデータの授受が行われるようになっている。
【0030】
上記記憶装置32はハードディスクや半導体メモリ等であり、当該データ処理装置30を制御するための種々のプログラム、制御データ、演算式、演算用の各種パラメータおよび基準値等が記憶されている。また、出力装置33は演算結果を表示あるいは印刷するモニタやプリンタであり、駆動装置34は上記スピーカ14を駆動するもので、定常のランダム音波、例えばホワイトノイズを発生させる。さらに、上記制御装置35は、中央処理装置(CPU)36と算術論理ユニット(ALU)37を備えており、信号線38を介して上記入力装置31、記憶装置32、出力装置33および駆動装置34をそれぞれ制御するとともに、上記記憶装置32に記憶されている演算式とパラメータおよび基準値等に従って種々の演算を行う。
【0031】
次に、上記のような構成において、図5のフローチャートにより本発明の実施例に係る音響特性測定方法について説明する。まず、留め具17−1、17−2を外して音響管11を試験体15の収容部近傍で分離し、音響管11の収容部内に測定対象の試験体15を収容する(STEP1)。
【0032】
次に、記憶装置32に予め記憶されたプログラムに従って、中央処理装置36の制御により駆動装置34を制御してスピーカ14を駆動し、ホワイトノイズ加振により平面波を生成する(STEP2)。
【0033】
平面波は試験体15を透過してスペーサ(剛壁)20−1で反射し、音響管11内部に入射波(前進波)と反射波(後進波)の重ね合わせによって定在波干渉パターンが生ずる。この時の音響管11の長手方向に異なる4点の音圧を上記測定用マイクロホン16−1〜16−4で計測する(STEP3)。
【0034】
上記測定用マイクロホン16−1〜16−4の計測値(音圧信号)P1〜P4は、中央処理装置36の制御により、入力装置31から信号線38を介して記憶装置32に供給されて記憶される。続いて、算術論理ユニット37を用いて、記憶装置32に記憶されている測定用マイクロホン16−1の計測値P1と測定用マイクロホン16−2の計測値P2との圧力比から第1の圧力伝達関数H12(=P2/P1)、測定用マイクロホン16−1の計測値P1と測定用マイクロホン16−3の計測値P3との圧力比から第2の圧力伝達関数H13(=P3/P1)、測定用マイクロホン16−1の計測値P1と測定用マイクロホン16−4の計測値P4との圧力比から第3の圧力伝達関数H14(=P4/P1)をそれぞれ算出し(STEP4)、算出した第1乃至第3の圧力伝達関数H12、H13、H14を信号線38を介して記憶装置32に記憶する。
【0035】
引き続き、中央処理装置36の制御により、これらの圧力伝達関数H12、H13、H14を、2点マイク法による音響インピーダンスの式にそれぞれ代入して、算術論理ユニット37で試験体15の前面の音響インピーダンスZ00、Z01、Z02を算出し(STEP5)、記憶装置32に記憶する。上記音響インピーダンスの式は記憶装置32に予め記憶されており、次式(1)〜(3)に従って演算が行われる。
【0036】
【数1】

【数2】

【数3】

【0037】
ここで、
j:虚数
ρ:空気密度
c:空気中の音速
k:波長定数
x12:測定用マイクロホン16−1と16−2間の距離
x13:測定用マイクロホン16−1と16−3間の距離
x14:測定用マイクロホン16−1と16−4間の距離
:測定用マイクロホン16−1と試験体15の前面間の距離
である。
【0038】
次に、背後空気層を変えて測定したか否か判定し(STEP6)、スペーサリング19−1、19−2とスペーサ20−1、20−2を選択的に入れ換えることで上記試験体15から剛壁までの距離を変更して(STEP7)、上述したSTEP2〜STEP5の計測と演算を実行する。そして、異なる背後空気層Lでの試験体15の前面の音響インピーダンスZ00、Z01、Z02を算出して記憶装置32に記憶する。
【0039】
このように背後空気層LとLで測定を行い、試験体15の前面の音響インピーダンスZ00、Z01、Z02、Z00、Z01、Z02を算出した後(STEP6)、試験体15の後面の音響インピーダンスZ10(試験体15の背後に空気層Lを設けて剛壁で閉じた状態)と、Z10(試験体15の背後に空気層Lを設けて剛壁で閉じた状態)をそれぞれ次式(4)、(5)に従って算出する(STEP8)。算出した音響インピーダンスZ10、Z10は、記憶装置32に記憶する。
【数4】

【数5】

【0040】
その後、記憶装置32に記憶されている試験体15の前面の音響インピーダンスZ01、Z02、Z03、Z00、Z01、Z02および試験体15の後面の音響インピーダンスZ10、Z10と次式(6)〜(11)に基づいて、試験体15の第1乃至第3の特性インピーダンスW1〜W3と第1乃至第3の伝播定数γ1〜γ3を算出し、記憶装置32に記憶する(STEP9)。ここで、特性インピーダンスとは、材料内の任意点における音圧pと粒子速度uの比である。また、伝播定数とは、材料内の任意点の音圧と、伝播方向に単位長さだけ離れた点の音圧との複素自然対数比である。
【数6】

【数7】

【数8】

【数9】

【数10】

【数11】

【0041】
ここで、
00、Z01、Z02:背後空気層距離L時の試験体15の前面の第1乃至第3の音響インピーダンス
00、Z01、Z02:背後空気層距離L時の試験体15の前面の第1乃至第3の音響インピーダンス
10:背後空気層距離L時の試験体15の後面の音響インピーダンス
10:背後空気層距離L時の試験体15の後面の音響インピーダンス
である。
【0042】
次に、中央処理装置36の制御より、算出した上記第1乃至第3の特性インピーダンスと第1乃至第3の伝播定数から基準値以上外れた部分を検出する(STEP10)。基準値以上外れた部分は、例えば算術論理ユニット37で上記各第1乃至第3の特性インピーダンスの移動平均を計算し、記憶装置32に予め記憶されている基準値と比較して基準値以内か否か判定することで検出できる(STEP11)。
【0043】
そして、基準値より大きくなった部分の特性インピーダンスは異常とみなして破棄し、この特性インピーダンスの破棄した部分を残りの2つの特性インピーダンスの平均値と置き換え(STEP12)、記憶装置32に記憶する。
【0044】
基準値以内の場合には、第1乃至第3の特性インピーダンスの平均値を上記中央処理装置36の制御により算術論理ユニット37で算出し、基準値よりも大きい場合には、上記STEP12で記憶装置32に記憶した置換部分を含む第1乃至第3の特性インピーダンスの平均値を算出する。引き続き、第1乃至第3の伝播定数の平均値を演算して記憶装置32に記憶し、最終的な物性値とする(STEP13)。
【0045】
その後、中央処理装置36の制御により、算出した平均値あるいは記憶装置32に記憶した平均値を出力装置33から出力、例えばモニタに表示あるいはプリンタで印刷する(STEP14)。
【0046】
上記のような構成並びに方法によれば、音響管11の長手方向に並列的に配置した4本の測定用マイクロホン16−1〜16−4を用いて長手方向に異なる4点の音圧を同時に計測して第1乃至第3の圧力伝達関数を算出し、これらの圧力伝達関数を比較して一通りのデータだけがマイクロホン間距離に依存した周波数でデータの乱れが生じている帯域を、他の正常なデータの平均値を用いて補完することによって、広い周波数帯域で機器に依存した乱れのない、安定した音響特性データを得ることができる。
【0047】
図6は、上記図4に示した測定システムの変形例を示すもので、データ処理装置30にパーソナルコンピュータを用いるものである。すなわち、パーソナルコンピュータ41からサウンドカード40を介して定常のランダム音波、例えばホワイトノイズを発生させるための信号を出力し、スピーカ用パワーアンプ43で増幅してスピーカ14を駆動する。スピーカ14からの平面波は、この試験体15を透過してスペーサ(剛壁)20−1で反射し、音響管11内に定在波干渉パターンが生ずる。この時の音響管11内の4点の音圧を上記測定用マイクロホン16−1〜16−4で計測する。
【0048】
上記測定用マイクロホン16−1〜16−4の計測値(音圧信号)P1〜P4をマイクロホンアンプ39で増幅し、サウンドカード40を介してパーソナルコンピュータ41に取り込む。そして、このパーソナルコンピュータ41で図5と同様なアルゴリズムに従って試験体15の音響特性、すなわち特性インピーダンスと伝播定数を算出する。
【0049】
このような構成並びに方法によれば、パーソナルコンピュータ41を用いて低コストに測定システムを構築できる。
【0050】
なお、上記実施例では試験体15の背後に背後空気層18を形成するために、スペーサリング19−1、19−2とスペーサ20−1、20−2を用いる場合を例に取って説明したが、ピストンと剛壁で背後空気層を生成しても良い。また、上記スピーカ14として1/4インチサイズや1/2インチサイズのコンデンサマイクロホン、あるいはヘッドホン用等の他の小型スピーカを利用すれば装置の小型化が図れる。
【0051】
さらに、4本の測定用マイクロホン16−1〜16−4を用いる場合を例に取って説明したが、5本以上の測定用マイクロホンを設け、計測した各々の音圧信号から特性インピーダンスを算出し、予め定めた基準値以上外れた演算値を検出し、他の演算値の平均値と入れ替え、インピーダンスの平均値を算出するようにしても良いのはもちろんである。
【0052】
以上実施例を用いて本発明の説明を行ったが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、上記実施例には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件の適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば実施例に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題の少なくとも1つが解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果の少なくとも1つが得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0053】
1 音響管
2 試験体
3 スピーカ
4 剛壁
5 ピストン
6 背後空気層
7−1、7−2 測定用マイクロホン
11 音響管
12 アダプタ
12a アダプタの内面
13 スピーカボックス
14 スピーカ(音源)
15 試験体
16−1〜16−4 測定用マイクロホン
17−1、17−2 留め具
18 背後空気層
19−1、19−2 スペーサリング
20−1、20−2 スペーサ(20−1:剛壁)
21−1〜21−4 マイクロホンホルダ
30 データ処理装置
31 入力装置
32 記憶装置
33 出力装置
34 駆動装置
35 制御装置
36 中央処理装置(CPU)
37 算術論理ユニット(ALU)
38 信号線
39 マイクロホンアンプ
40 サウンドカード
41 パーソナルコンピュータ
42 モニタ
43 スピーカ用パワーアンプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の試験体(15)を収容した音響管(11)と、
前記音響管の一端に設けられる音源(14)と、
前記音響管(11)の前記音源(14)と前記試験体(15)との間に並列的に配置され、前記音響管(11)内の長手方向に異なる位置の音圧を計測する第1乃至第4の測定用マイクロホン(16−1〜16−4)と、
これら第1乃至第4の測定用マイクロホン(16−1〜16−4)で計測した第1乃至第4の音圧信号(P1〜P4)から第1乃至第3の特性インピーダンスを算出し、予め定めた基準値以上外れた演算値を検出し、他の2つの演算値の平均値と入れ替え、前記第1乃至第3の特性インピーダンスの平均値を算出する演算手段(35、41)と
を具備することを特徴とする音響特性測定システム。
【請求項2】
前記第1乃至第4の測定用マイクロホン(16−1〜16−4)で計測した第1乃至第4の音圧信号(P1〜P4)が入力される入力手段(31、39、40)と、前記入力手段から入力された第1乃至第4の音圧信号(P1〜P4)、前記演算手段(35)による演算値、および前記基準値を記憶する記憶手段(32)と、前記演算手段(35、41)による演算結果を出力する出力手段(33、42)とをさらに具備することを特徴とする請求項1記載の音響特性測定システム。
【請求項3】
前記入力手段は、マイクロホンアンプ(39)とサウンドカード(40)を含み、前記演算手段はパーソナルコンピュータ(41)を含み、前記出力手段はモニタ(42)を含むことを特徴とする請求項2記載の音響特性測定システム。
【請求項4】
音響管(11)内に測定対象の試験体(15)を収容するステップと、
この音響管(11)の一端側の音源(14)から平面波を発生させて試験体(15)を透過させ他端側の剛壁(20−1)で反射させるステップと、
前記音響管(11)の前記音源(14)と前記試験体(15)との間に並列的に配置された第1乃至第4の測定用マイクロホン(16−1〜16−4)で、前記音響管(11)の長手方向に異なる位置の音圧を計測するステップと、
前記第1乃至第4の測定用マイクロホン(16−1〜16−4)で計測した第1乃至第4の音圧信号(P1〜P4)から第1乃至第3の特性インピーダンスを算出するステップと、
算出した前記第1乃至第3の特性インピーダンスにおける予め定めた基準値以上外れた演算値を検出するステップと、
検出した基準値以上外れた演算値を、他の2つの演算値の平均値と入れ替えるステップと
を具備することを特徴とする音響特性測定方法。
【請求項5】
前記第1乃至第3の特性インピーダンスを算出するステップは、前記第1、第2の測定用マイクロホン(16−1、16−2)で計測した第1、第2の音圧信号(P1、P2)から第1の音圧伝達関数、前記第1、第3の測定用マイクロホン(16−1、16−3)で計測した第1、第3の音圧信号から第2の音圧伝達関数(P1、P3)、および前記第1、第4の測定用マイクロホン(16−1、16−4)で計測した第1、第4の音圧信号(P1、P4)から第3の音圧伝達関数をそれぞれ算出するステップと、前記第1乃至第3の音圧伝達関数から第1乃至第3の音響インピーダンスを算出するステップと、前記第1乃至第3の音響インピーダンスから第1乃至第3の特性インピーダンスを算出するステップとを含むことを特徴とする請求項4記載の音響特性測定方法。
【請求項6】
前記基準値以上外れた演算値は、前記各第1乃至第3の特性インピーダンスの移動平均と予め設定された基準値とを比較して検出することを特徴とする請求項4記載の音響特性測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−202802(P2012−202802A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67264(P2011−67264)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000112565)フォスター電機株式会社 (113)
【Fターム(参考)】