頭蓋内圧と脳温の同時制御装置とその制御方法
【課題】 恒温動物の頭蓋内圧を所望の圧力範囲に早期に正確に調節でき、かつ同時に脳温を常に安全な温度範囲に保持することができ、これにより経験の少ない従事者であっても頭蓋内圧と脳温を同時にかつ安全に制御することができる装置とその制御方法を提供する。
【解決手段】 恒温動物1の頭蓋内圧及び脳温をそれぞれ測定する頭蓋内圧センサ12及び脳温センサ14と、恒温動物の体を所定の冷却温度Tで冷却する冷却装置20と、測定された頭蓋内圧及び脳温に基づき冷却温度Tを制御する制御装置30とを備える。制御装置30は、頭蓋内圧と脳温の安全範囲と、体温変化による頭蓋内圧のゲイン、時定数及びむだ時間の各基準値を記憶する記憶装置を備え、頭蓋内圧と脳温をオーバシュートを十分小さく抑えて頭蓋内圧の目標値に到達するように、各基準値から冷却温度Tの制御係数を設定し制御する。
【解決手段】 恒温動物1の頭蓋内圧及び脳温をそれぞれ測定する頭蓋内圧センサ12及び脳温センサ14と、恒温動物の体を所定の冷却温度Tで冷却する冷却装置20と、測定された頭蓋内圧及び脳温に基づき冷却温度Tを制御する制御装置30とを備える。制御装置30は、頭蓋内圧と脳温の安全範囲と、体温変化による頭蓋内圧のゲイン、時定数及びむだ時間の各基準値を記憶する記憶装置を備え、頭蓋内圧と脳温をオーバシュートを十分小さく抑えて頭蓋内圧の目標値に到達するように、各基準値から冷却温度Tの制御係数を設定し制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頭部外傷患者にみられる頭蓋内圧亢進症による頭蓋内圧と脳温を安全範囲に管理するための頭蓋内圧と脳温の同時制御装置とその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
頭蓋内圧亢進症は、頭蓋内圧が異常に上昇する症状であり、頭部外傷患者の術後によくみられる合併症の一つである。この頭蓋内圧亢進症が進行すると脳虚血や脳ヘルニアを引き起こし、患者予後を悪化させるおそれがある。そのため、頭蓋内圧亢進症は、脳神経外科の臨床において非常に重要視されており、頭蓋内圧の安定制御は脳障害の治療と術後管理の基本となっている。
【0003】
頭蓋内圧を降下させる手段としては、頭位挙上、浸透圧利尿、過換気療法、髄液誘導術、減圧開頭術等の他に、脳低温療法が知られている。脳低温療法は難治性の頭蓋内圧亢進症にその効果が認められており、時には最後の選択(治療手段)ともなる。かかる脳低温療法は、例えば非特許文献1に開示されている。
【0004】
また、頭蓋内圧の測定手段は、特許文献1〜3に、本発明に関連する小動物用体温保持装置は、特許文献4に開示されている。
【0005】
特許文献1の「頭蓋内圧検出装置」は、図11に示すように、被検体としての人体の頭部に取り外し可能に装着される装着体51と、装着体の内側に取り付けられており、所定圧の空気が封入されて、装着体の頭部への装着時において、頭部の頭蓋内圧変動に伴って封入された空気の圧力を変化させる受圧体52と、受圧体内部の空気圧力変化を検出して電気信号として出力する圧力検出器55とを備えるものである。
【0006】
特許文献2の「頭蓋内圧計」は、図12に示すように、頭皮63の下に設けられて脳室62から脳脊髄液を排出するシャント経路60から脳脊髄液を頭皮63の外に取り出す針状パイプ64と、この針状パイプにより取り出された脳脊髄液を導入して頭蓋内圧力を測定する検出部65とを備えたものである。
【0007】
特許文献3の「頭蓋内圧力を測定又は監視又は検出するための方法及び機器」は、図13に示す磁気共鳴適合カテーテル72の先端部、側部表面又は複数の位置に設けられた圧力検出隔膜に結合された磁気共鳴適合マイクロセンサ圧力変換器を磁気共鳴映像法による誘導により側脳室、脳槽、クモ膜下腔、硬膜下腔又は硬膜外腔、静脈洞、又は実質内組織位置へ挿入し、頭蓋内圧力を記録するものである。
【0008】
特許文献4の「小動物用体温保持装置」は、図14に示すように、小動物を搭載する平面を温度むらなく加熱するヒーター発熱体81を有するヒーター装置85と、このヒーター装置の中央部の表面に配置される温度センサ87と、ヒーター装置の表面に接する小動物の腹部温度を検出すると同時に、設定温度を維持するヒーターコントロール装置とを備えるものである。
【0009】
【非特許文献1】新井達潤編集、「脳蘇生と低体温療法」、真興交易医書出版部、2000年8月改訂
【0010】
【特許文献1】特開平8−84704号公報、「頭蓋内圧検出装置」
【特許文献2】特開平10−276993号公報、「頭蓋内圧計」
【特許文献3】特開2001−346767号公報、「頭蓋内圧力を測定又は監視又は検出するための方法及び機器」
【特許文献4】特開2002−51662号公報、「小動物用体温保持装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、脳低温療法は難治性の頭蓋内圧亢進症にその効果が認められているが、以下の問題点があった。
(1)従来の脳低温療法による頭蓋内圧の管理は、医療従事者が経験に基づき、手動で冷却温度の調節を行っていた。しかし、頭蓋内圧は、脳温、体温、代謝(水産生と熱産生)、利尿剤や麻酔薬等の影響を受けるため、経験的に頭蓋内圧を管理することは、熟練者にとっても困難であった。
(2)また、患者の体温を低く維持しても、頭蓋内圧低下の遅れ時間は非常に長い(例えば通常8時間以上)ため、医療従事者は長時間の間、体温と頭蓋内圧を監視しつづける必要があり、医療従事者の負担が非常に大きかった。
(3)さらに、脳温は、33℃以下に下がると心機能の低下や不整脈を誘発するため、頭蓋内圧を低下させるため急速に体温を下げると、脳温が心機能障害等をきたす32℃以下の危険温度になるおそれがある。
(4)また、このような頭蓋内圧亢進症の原因や治療法を確立するために、実験動物を用いた頭蓋内圧の制御が不可欠であるが、従来は実験動物の体温を正確に調整することは容易ではなく、そのため、脳低温療法による頭蓋内圧亢進症への治療効果等を実験動物で検証することが極めて困難であった。
【0012】
本発明は上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、恒温動物(人や実験動物)の頭蓋内圧を所望の圧力範囲に早期に正確に調節でき、かつ同時に脳温を常に安全な温度範囲に保持することができ、これにより経験の少ない従事者であっても頭蓋内圧と脳温を同時にかつ安全に制御することができる装置とその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、恒温動物の頭蓋内圧及び脳温をそれぞれ測定する頭蓋内圧センサ及び脳温センサと、
恒温動物の体を所定の冷却温度Tで冷却する冷却装置と、
測定された頭蓋内圧及び脳温に基づき前記冷却温度Tを制御する制御装置とを備え、
該制御装置は、前記頭蓋内圧と脳温の安全範囲と、体温変化による頭蓋内圧のゲイン、時定数及びむだ時間の各基準値を記憶する記憶装置を備え、
制御装置により頭蓋内圧と脳温をオーバシュートを十分小さく抑えて目標値に到達するように、前記各基準値から冷却温度Tの制御係数を設定し制御する、ことを特徴とする頭蓋内圧と脳温の同時制御装置が提供される。
【0014】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記制御係数は、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eによる冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDであり、
前記制御装置は、前記各基準値から求めた冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを用いて冷却温度TをPIDフィードバック制御する。
【0015】
また、前記制御装置は、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eに基づき、前記各基準値から求めた冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを補正する補正演算機能を有する。
【0016】
また、恒温動物の脳に供給される血液温度を測定する血液温度センサを備え、
前記制御装置は、測定された血液温度が脳温の安全範囲の最低温度以上になるように 冷却装置の冷却温度Tを制御する。
【0017】
前記冷却装置は、恒温動物の体を囲む包囲体と、該包囲体内に冷却媒体を供給する冷媒供給装置と、該冷却媒体の温度を所定の冷却温度Tに冷却し保持する媒体冷却器とからなる。
【0018】
また、前記冷却装置は、恒温動物の体を載せる冷却プレートと、該冷却プレートの下面の一部に接触し冷却プレートを冷却する冷却用ペルチェ素子と、冷却プレートの下面の一部に接触し冷却プレートを加熱する加熱用ペルチェ素子と、冷却用ペルチェ素子又は加熱用ペルチェ素子に電流を流し、冷却プレートの温度を所定の冷却温度Tに冷却し保持する冷却制御装置とからなる、ことが好ましい。
【0019】
また本発明によれば、恒温動物の頭蓋内圧及び脳温をそれぞれ測定する頭蓋内圧センサ及び脳温センサと、恒温動物の体を所定の冷却温度Tで冷却する冷却装置とを備えた装置の制御方法であって、
前記頭蓋内圧と脳温の安全範囲と、体温変化による頭蓋内圧のゲイン、時定数及びむだ時間の各基準値を記憶する記憶ステップと、
頭蓋内圧と脳温をオーバシュートを十分小さく抑えて目標値に到達するように、前記各基準値から冷却温度Tの制御係数を設定する設定ステップと、
頭蓋内圧センサ及び脳温センサで測定された頭蓋内圧及び脳温に基づき、前記設定された制御係数を用いて前記冷却温度Tを制御する制御ステップとを有する、ことを特徴とする頭蓋内圧と脳温の同時制御方法が提供される。
【0020】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記設定ステップにおいて、前記各基準値から、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eによる冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを設定し、
前記制御ステップにおいて、設定した前記比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを用いて冷却温度TをPIDフィードバック制御する。
【0021】
また、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eに基づき、前記各基準値から求めた冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを補正する補正ステップを有する。
【0022】
また恒温動物の脳に供給される血液温度を測定する血液温度センサを備え、
前記制御ステップにおいて、測定された血液温度が脳温の安全範囲の最低温度以上になるように 冷却装置の冷却温度Tを制御する、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
上記本発明の装置及び方法によれば、恒温動物(人や実験動物)の頭蓋内圧と脳温をオーバシュートを十分小さく抑えて目標値に到達するように、体温変化による頭蓋内圧のゲイン、時定数及びむだ時間の各基準値から冷却温度Tの制御係数を設定し制御するので、頭蓋内圧を所望の圧力範囲に早期に正確に調節でき、かつ同時に脳温を常に安全な温度範囲に保持することができる。
【0024】
また、体温変化による頭蓋内圧のゲイン、時定数及びむだ時間の各基準値から、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eによる冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを求め、これらの制御係数を用いて冷却温度TをPIDフィードバック制御するので、頭蓋内圧と脳温のオーバシュートを十分小さく抑え、早期に頭蓋内圧を所望の圧力範囲に正確に調節できる。
【0025】
また、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eに基づき、前記各基準値から求めた冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを補正するので、初期設定値が対象とする恒温動物にマッチしていない場合でも、実際に測定された頭蓋内圧から学習して適性化することができ、オーバシュートを抑えながた早期に頭蓋内圧を所望の圧力範囲に調節できる。
【0026】
また、脳に供給される血液温度センサを備え、測定された血液温度が、脳温の安全範囲の最低温度以上になるように 冷却装置の冷却温度Tを制御することにより、脳に供給される血液温度は脳温より常に低く脳内の熱エネルギーをwashoutするので、脳温をその安全範囲の最低温度以上に本質的に安定して制御することができる。
【0027】
また、冷却装置を、包囲体、冷媒供給装置、及び媒体冷却器で構成することにより、恒温動物(例えば人)の体全体を効果的に冷却することができる。
また、冷却装置を、冷却プレート、冷却用ペルチェ素子、加熱用ペルチェ素子、及び冷却制御装置で構成することにより、恒温動物が実験用の小動物であっても、小動物の体を容易に冷却及び加熱して温度保持することができる。
【0028】
上記本発明の装置及び方法により、従来、熟練した医療従事者にとっても困難であった脳低温療法による頭蓋内圧の管理を、経験の少ない従事者であっても安全に行うことができ、体温と頭蓋内圧を長時間継続して監視しつづける必要性を無くして、医療従事者の負担を大幅に低減でき、脳温が心機能障害等をきたす危険温度になることを本質的に防止でき、実験動物の体温を正確に調整することができ、脳低温療法による頭蓋内圧亢進症への治療効果等を実験動物で検証することが簡単にできる、等の効果が得られる。
【0029】
従って、総合的には医療上最も困難な部分の自動化に資することができ、頭蓋内圧の計測と制御を自動化して、頭蓋内圧管理や脳温管理を精度よく自動化でき、脳低温療法の脳神経保護作用に有益なだけではなく、脳低温療法の頭蓋内圧降下に役立つことができる。
また同時に、このような生理状態の管理の自動化により、臨床における医療従事者の労力を軽減し、脳低温療法の医療コストの低減につながり、また煩雑な温度調整から医療従事者を解放し、医療従事者は、他のより専門的医療処理に集中することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面に基づき説明する。なおこの発明において被検体である恒温動物とは、人(例えば頭蓋内圧亢進症の頭部外傷患者)や動物(実験用小動物)を意味する。
【0031】
図1は、本発明による装置の第1実施形態図である。この図において、本発明の頭蓋内圧と脳温の同時制御装置は、人の脳低温治療用であり、頭蓋内圧センサ12、脳温センサ14、血液温度センサ16、冷却装置20、及び制御装置30を備える。
【0032】
頭蓋内圧センサ12及び脳温センサ14は、恒温動物の頭蓋内圧及び脳温をそれぞれ測定する。頭蓋内圧センサ12及び脳温センサ14は、恒温動物1の脳膜やくも膜下腔に挿入され、恒温動物1の脳脊髄液の静水圧と温度を直接検出する圧力センサと温度センサであるのが好ましい。このような圧力センサと温度センサを用いることにより、頭蓋内圧及び脳温を高い精度で検出することができる。
なお、頭蓋内圧センサ12及び脳温センサ14は、脳脊髄液の静水圧と温度を直接検出するセンサに限定されず、その他の形式のセンサであってもよい。
これらの圧力センサと温度センサは、検出された圧力と温度を電気信号として出力し、その電気信号は制御装置30に入力される。
【0033】
血液温度センサ16は、恒温動物1の脳に供給される血液温度を検出する温度センサであるのが好ましい。このような温度センサを用いることにより、脳の血管に供給される血液温度を高い精度で検出することができる。
なお、血液温度センサ16は、恒温動物1の体温を計測する体温センサであってもよい。脳に供給される血液(脳血流)は、脳の局所的熱エネルギーをwashoutする機能を有しており、脳温より常に温度が低い。また体温は、血液温度とほぼ同一又はわずかに低い値を示す。従って、後述する制御において、血液温度の代わりに体温を用いても、制御上安全サイドとなる。
【0034】
冷却装置20は、恒温動物1の体を所定の冷却温度Tで冷却する。図1の例において、冷却装置20は、包囲体21、冷媒供給装置22、及び媒体冷却器23からなる。
包囲体21は、恒温動物1の少なくとも胴体の大部分を囲むように寝袋状又は布団状に構成されている。包囲体21の内部には、冷却媒体(水や空気)を通す可撓性のチューブが内蔵されており、冷媒供給装置22により、包囲体21内に冷却媒体を供給するようになっている。なお、包囲体21の内部を通過し温度上昇した冷却媒体は、冷媒供給装置22に戻り再循環するのがよい。
媒体冷却器23は、冷却媒体(水や空気)を冷却する冷却ユニットとその温度を制御する温度コントローラからなり、冷却媒体の温度を所定の冷却温度Tに冷却し保持する。所定の冷却温度Tは、恒温動物1の脳温の安全範囲(例えば33〜36℃)よりも5〜6℃程度低い、例えば27〜31℃であるのが好ましい。
【0035】
制御装置30は、入力装置31、記憶装置32、演算装置33、及び入出力装置(A/D変換器34、D/A変換器35)を備えたPC(コンピュータ)であり、測定された頭蓋内圧及び脳温に基づき冷却装置20の冷却温度Tを制御する。
入力装置31は、例えばキーボードであり、恒温動物1の頭蓋内圧と脳温の安全範囲、恒温動物1の体温変化による頭蓋内圧のゲイン、時定数及びむだ時間の各基準値、及び頭蓋内圧の目標値を入力し、これらの各データを記憶装置32に記憶する。
これらの安全範囲や各基準値のデータは、恒温動物1の種類(人間、マウス、その他の実験用小動物)及びその特性(性別、年齢、体重、等)により、予めシミュレーション等で求めておくのがよい。
例えば、恒温動物1が人の場合、頭蓋内圧の正常範囲は、約5〜15mmHgであり、安全範囲は、約20mmHg以下である。また、脳温の正常範囲は、約36〜37℃であり、安全範囲は、約33℃以上である。また、頭蓋内圧のゲイン、時定数及びむだ時間は、後述する実施例で示すように恒温動物1を対象とするシミュレーションで求めることができる。さらに、頭蓋内圧の目標値は、その安全範囲内において、医療従事者等が適宜設定する。
【0036】
制御装置30は、演算装置33により、記憶装置32に記憶された体温変化による頭蓋内圧のゲイン、時定数及びむだ時間の各基準値から、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eによる冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを求める。
さらに制御装置30は、これらを用いて、頭蓋内圧と脳温をオーバシュートを十分小さく抑えて頭蓋内圧の目標値に到達するように、冷却温度TをPIDフィードバック制御する。頭蓋内圧のオーバシュート量は、約2mmHg以下、脳温のオーバシュート量は、0.5℃以下であるのがよい。
【0037】
また、この制御装置30は補正演算機能を有し、PIDフィードバック制御中に測定された頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eを0に近づけるように、各基準値から求めた冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを補正する。
【0038】
さらに制御装置30は、上述した血液温度センサ16により測定された血液温度が脳温の安全範囲の最低温度以上になるように 冷却装置の冷却温度Tを制御するようになっている。
【0039】
図2は、人の脳低温療法における脳温と経過時間との関係図である。この図において、横軸は経過時間(時間:h、日数:d、週数:w)、縦軸は脳温(℃)である。
脳温は、35℃になると低体温侵襲に対するシバリングによる体内熱発生などの生体防御反応が生じ、ついで33℃以下になると心機能の低下や不整脈が発生する。また、冷却速度が速すぎると心機能障害等をきたす危険温度(32℃以下)になることがある。
従って、脳温が35℃に達したところで生体の慣らし時間を設けしばらく35℃に保った後、ゆっくりと脳温を33〜34℃まで下げるのが好ましい。シバリングの出現に対して、これを抑制するために筋弛緩薬、臭化パンクロニュームを投与してもよい。
また、脳温を33〜34℃に保つ期間は、脳の急性期病態形成の経過(約6日間)と免疫防止機構の機能低下開始時期(2〜4日)を考慮して6日以内とするのがよい。
その後、頭蓋内圧が正常範囲内に安定し、トレンド脳波がδ波からθ波へ改善された後に復温を開始する。
【0040】
本発明において、「脳温の安全範囲」とは、上述した温度範囲と冷却速度及び復温速度を含む。すなわち、恒温動物1が人の場合、脳温の正常範囲は、約36〜37℃であり、安全範囲は、約33℃以上であるが、脳温が35℃に達したところで2〜3時間の慣らし時間を設け、次いで、約0.5℃/h未満の冷却速度で脳温を33〜34℃まで下げるのがよい。
また、脳温を33〜34℃に保つ期間は、最長で6日以下であり、復温時には、約34℃、約35℃において、1〜3日の慣らし期間を設けながら、4日以上の日数をかけて約36℃の正常温度までゆっくりと復温するのがよい。
【0041】
また、本発明において、頭蓋内圧と脳温は常時測定しており、脳温が上述した安全範囲にあり、かつ頭蓋内圧が目標値に到達するように冷却装置の冷却温度Tを制御する。
【0042】
図3は、本発明による装置の第2実施形態図である。この図において、本発明の装置は、小動物実験用であり、頭蓋内圧センサ12、脳温センサ14、血液温度センサ16、冷却装置20、及び制御装置30を備える。
【0043】
この例において、冷却装置20は、冷却プレート24、冷却用ペルチェ素子25、加熱用ペルチェ素子26、及び冷却制御装置27からなる。
冷却プレート24は、恒温動物1(この例では実験動物)の体を載せる熱伝導性の高い金属板である。
【0044】
冷却用ペルチェ素子25は、冷却プレート24の下面の一部に接触し冷却プレートを冷却する。加熱用ペルチェ素子26は、冷却プレート24の下面の一部に接触し冷却プレートを加熱する。
冷却用ペルチェ素子25及び加熱用ペルチェ素子26は、異金属の接合面を電流が流れると熱の発生又は吸収が起こるペルチェ効果を利用したものであり、冷却用ペルチェ素子25に電流を流すことにより冷却プレート24を冷却し、加熱用ペルチェ素子26に電流を流すことにより冷却プレート24を加熱するようになっている。
ペルチェ素子25、26はそれぞれ1つでも複数でもよい。また複数の場合には、それぞれ冷却プレート24の下面に分散して貼付け、冷却プレート24の全面を均一温度に冷却又は加熱できるようにする。
【0045】
冷却制御装置27は、この例では切替回路を有し、制御装置30からの指令により、ペルチェ素子25、26のどちらかに直流電源28からの電源を切り替え、冷却又は加熱を制御して、冷却プレート24の温度を所定の冷却温度Tに冷却し保持するようになっている。
【0046】
さらにこの例では、恒温動物1を内部に収納する断熱ケース41を有し、実験動物用の麻酔薬や呼吸ガスを断熱ケース41内に供給できるようになっている。またこの例では恒温動物1に投与する薬を供給する微量ポンプ42を備え、その供給量を制御装置30で制御する。
その他の構成は、図1の構成と同様である。
【0047】
図4は、本発明による頭蓋内圧と脳温の同時制御方法のフロー図である。本発明の方法は、恒温動物1の頭蓋内圧及び脳温をそれぞれ測定する頭蓋内圧センサ12及び脳温センサ14と、恒温動物の体を所定の冷却温度Tで冷却する冷却装置20とを備えた装置の制御方法であり、この図に示すように、入力ステップS1、記憶ステップS2、設定ステップS3、制御ステップS4、及び補正ステップS5の各ステップを有する。
【0048】
入力ステップS1では、恒温動物1の頭蓋内圧と脳温の安全範囲、恒温動物1の体温変化による頭蓋内圧のゲイン、時定数及びむだ時間の各基準値、及び頭蓋内圧の目標値をPC(コンピュータ)に入力する。
記憶ステップS2では、入力された安全範囲、ゲイン、時定数及びむだ時間の各基準値及び頭蓋内圧の目標値を記憶する。
設定ステップS3では、頭蓋内圧と脳温をオーバシュートを十分小さく抑えて目標値に到達するように、各基準値から、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eによる冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを設定する。
【0049】
制御ステップS4では、頭蓋内圧センサ及び脳温センサで測定された頭蓋内圧及び脳温に基づき、設定された比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを用いて冷却温度TをPIDフィードバック制御する、
また、この制御ステップにおいて、血液温度センサ16で測定された血液温度が脳温の安全範囲の最低温度以上になるように 冷却装置の冷却温度Tを制御する。
【0050】
補正ステップS4では、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eに基づき、前記各基準値から求めた冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを補正する
【0051】
上述した本発明の装置及び方法によれば、恒温動物1(人や動物)の頭蓋内圧と脳温をオーバシュートを十分小さく抑えて目標値に到達するように、体温変化による頭蓋内圧のゲイン、時定数及びむだ時間の各基準値から冷却温度Tの制御係数を設定し制御するので、頭蓋内圧を所望の圧力範囲に早期に正確に調節でき、かつ同時に脳温を常に安全な温度範囲に保持することができる。
【0052】
また、体温変化による頭蓋内圧のゲイン、時定数及びむだ時間の各基準値から、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eによる冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを求め、これらの制御係数を用いて冷却温度TをPIDフィードバック制御するので、頭蓋内圧と脳温のオーバシュートを十分小さく抑え、早期に頭蓋内圧を所望の圧力範囲に正確に調節できる。
【0053】
また、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eに基づき、前記各基準値から求めた冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを補正するので、初期設定値が対象とする恒温動物にマッチしていない場合でも、実際に測定された頭蓋内圧から学習して適性化することができ、オーバシュートを抑えながら早期に頭蓋内圧を所望の圧力範囲に調節できる。
【0054】
また、脳に供給される血液温度センサを備え、測定された血液温度が、脳温の安全範囲の最低温度以上になるように 冷却装置の冷却温度Tを制御することにより、脳に供給される血液温度は脳温より常に低く脳内の熱エネルギーをwashoutするので、脳温をその安全範囲の最低温度以上に本質的に安定して制御することができる。
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0055】
[仮定条件]
人(患者生体)の循環温熱系をモデル化するために、脳低温療法の臨床実際に基づき、以下の仮定条件を設けた。
(1)脳低温療法の患者は全身麻酔下に置かれているため、生体内の神経性・体液性調節機能を無視し、患者の循環温熱系を完全な受動系とする。
(2)解剖生理学に対応して、図5に示すように、患者生体を頭蓋1a(脳脊髄液、脳実質、脳血管)、心血管1b(動脈部、静脈部)、肺1c(実質、血管)、内臓1d(実質、血管)、筋肉1e(実質、血管)、その他1f(実質、血管)の6つのセグメント(13のコンパートメント)により近似し、図6に示す循環温熱系モデルを作成した。
【0056】
(3)脳脊髄液の静水圧と温度を頭蓋内圧と脳温の代表とする。その理由は、これらの生理状態量が脳室やくも膜下腔に置かれるセンサにより正確に測れるからである。
(4)臨床の冷却作用に対応して、筋肉セグメントの環境温度が変化可能とし、その他のセグメントが断熱されているとする。内臓セグメントにおける人工補液と尿排泄による熱収支がない。呼吸系による熱と水の損失を無視する。
(5)セグメント同士の間の水と熱の流れは血流とリンパ流による。セグメント内の実質と血管のコンパートメント同士の間には水濾過と熱伝導がある。代謝性水産生と熱産生が実質のみに生じる。各コンパートメントの浸透圧は一定とする。
(6)心拍出力に対応して、心血管セグメントの動脈部と静脈部に圧力ポンプを取り入れ、それぞれ体循環と肺循環に一定の圧力上昇を与える。よって、各コンパートメントの静水圧は生理的に正常な範囲に設定可能となる。
これらの仮定の下で、冷却温度を入力、頭蓋内圧を出力とする患者生体の循環温熱系モデルを構築する。
【0057】
[循環温熱系モデル]
物質とエネルギーの保存則に従い、各コンパートメントにおける静水圧と温度に関する微分方程式を作成することができる。かかる微分方程式はここでは省略する。
また、脳脊髄液分泌、代謝性水産生と熱産生、コンパートメント同士間の水濾過係数は温度依存性を考慮する。
【0058】
[パラメータの設定]
循環温熱モデルの生理的と物理的パラメータは基本的には文献に基づき、必要に応じて、推測値や仮定値も利用する。なお、温度と圧力依存性は非線形的であり、患者生体の循環温熱モデルも非線形的であるため、その理論解は、例えばRunge−Kuttaの数値解析法を用いるのがよい。
【0059】
[モデルの検証]
[ステップ状冷却に対する脳温変化特性]
図7は、ステップ状の冷却入力に対する循環温熱モデルの脳温応答図である。この図において、横軸は経過時間、縦軸は脳温である。
この図からわかるように、冷却温度の変化(30℃から29℃へ)に対し、最初は脳温がほとんど変化せず、しばらくして急に変化する。その後はゆっくりとした変化となり、最後に一定値となる。すなわち、脳温変化はむだ時間と一次遅れの特性を有する。
この図より、脳温のステップ応答特性として、時定数が9.2h、むだ時間が0.6h、ゲインが2.0℃/℃と推定される。
【0060】
脳低温療法の臨床では、目標の低温までに患者の脳温を冷却させるには3〜11hを要することが報告されている。臨床にはステップ応答や時定数などの厳密な定義がないが、「数時間」の概念において、循環温熱モデルの脳温変化は臨床の患者脳温の冷却特性に一致している。
また、環境温度変化に対する生体深部温度変化に0.5〜0.75hのむだ時間があることが報告されており、この図による0.6hの推定むだ時間と一致している。 なお、代謝性熱産生が体温低下により減少され、体温調節機構がなければ、さらなる体温の低下が起こることが考えられる。2.0℃/℃の推定ゲインはこの生理事実に矛盾しないことが明らかである。
これらのことから、循環温熱モデルの温熱系部分は妥当であるといえる。
【0061】
[インパルス状容積増加に対する頭蓋内圧変化特性]
脳脊髄液の循環障害の検査法として、インフュージョンテストが臨床において行われる。この検査法は循環温熱モデルの脳脊髄液に一定容積の水を短時間に注入することに相当する。
図8は、脳脊髄液の増加に対する頭蓋内圧の応答特性図である。この図において、横軸は経過時間、縦軸は頭蓋内圧の変化である。このシミュレーションでは、2mlの水を10〜12秒の間に0.66ml/sの速度で脳脊髄液コンパートメントに与えた。
この図から分かるように、頭蓋内圧は水注入の間に上昇し、注入終了時点で、約3.6mmHgの最大圧変化が生じる。その後、頭蓋内圧が注入以前の圧力状態に復帰する。
これらの結果は、従来報告されている研究結果とよく一致しており、循環温熱モデルの循環系部分も妥当であるといえる。
【0062】
[モデルの適用]
[頭蓋内圧亢進症のモデル化]
術後の頭部外傷患者に見られる頭蓋内圧亢進症は血管原性脳浮腫によるものが多いと考えられる。
ここでは血管原性脳浮腫をシミュレートする。そのために、頭蓋セグメントにおける血液脳関門と血液脳脊髄液関門の水濾過係数を正常値の1000倍に設定し、それにより、循環温熱モデルの頭蓋内圧が20mmHgになる。
本発明はこれを頭蓋内圧亢進症の患者モデルとする。
【0063】
[ステップ状冷却に対する頭蓋内圧亢進症の応答特性]
図9は、ステップ状冷却入力による頭蓋内圧の応答特性図である。この図において、横軸は経過時間、縦軸は頭蓋内圧である。
この図から分かるように、冷却温度に対する頭蓋内圧のステップ応答には、脳温のステップ応答と同様に、むだ時間と一次遅れの特性をもっている。臨床の実用性を念頭に、頭蓋内圧応答の非線形性を無視すると、この図の頭蓋内圧降下曲線から、ゲインが5.0mmHg/℃、時定数が9.9h、むだ時間が1.0hと特性近似することができる。
すなわち、冷却による頭蓋内圧亢進症への降下作用はこれらのデータにより定量化することができ、頭蓋内圧管理のための冷却温度調整の定量指標として、臨床への応用が期待できる。
【0064】
[頭蓋内圧亢進症の定値制御]
上述した特性近似データを用いて、PIDフィードバック制御による頭蓋内圧亢進症の自動制御の実現可能性を示す。
具体的には、先の頭蓋内圧亢進症の患者モデルを実際の患者生体の代わりとして用い、その頭蓋内圧を予め設定した頭蓋内圧管理目標値に追従させる。そのための冷却温度設定は数1の式(1)により与える。
【0065】
【数1】
【0066】
ここで、eは頭蓋内圧の目標値と循環温熱モデルによる推定値との差である。KP、KI、KDはそれぞれPIDフィードバック制御のパラメータである。
シミュレーションでは、正常範囲にある頭蓋内圧値9.9mmHgを目標値とし、頭蓋内圧亢進症の特性近似データにより、KP=1.2℃/mmHg、KI=1.2h、KD=0.5hと設定した。
【0067】
図10は、本発明による頭蓋内圧及び脳温のシミュレーション結果を示す図である。この図において、横軸は経過時間、縦軸は脳温、冷却温度、頭蓋内圧である。
この図から分かるように、本発明により与えた冷却入力(冷却温度変化)により、頭蓋内圧を亢進状態から目標値までに低下させ、安定制御することができた。またこの間、脳温も安全範囲に維持されている。
具体的には、冷却から4h以内に、目標値に頭蓋内圧を降下させ、1.7hにおいて、最大頭蓋内圧降下速度4.2mmHg/hが得られた。冷却から6hにおいて、極めて小さいオーバシュート(約1.2mmHg)の後、頭蓋内圧は目標値(誤差0.2%以内)に収められた。
【0068】
また、脳温は頭蓋内圧降下と同様な時間スケールで低下し、最後に約33℃に維持されていた。このことから、脳低温療法の脳温管理と頭蓋内圧管理の一致性が考えられる。頭蓋内圧を降下させるための冷却温度については、はじめに低く設定し、その後上昇させ、最後に28℃以下に維持することが示された。このような温度調整は現在臨床に施行されている脳低温療法の温度管理にほぼ一致している。
併せて、線形特性近似データにより、臨床に応用可能なPIDフィードバック制御が適用でき、冷却温度の自動調整による頭蓋内圧の自動制御が実現可能であることが明らかとなった。
【0069】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明による装置の第1実施形態図である。
【図2】人の脳低温療法における脳温と経過時間との関係図である。
【図3】本発明による装置の第2実施形態図である。
【図4】本発明による頭蓋内圧と脳温の同時制御方法のフロー図である。
【図5】人の循環温熱系の説明図である。
【図6】人の循環温熱系のモデル図である。
【図7】冷却入力に対する循環温熱モデルの脳温応答図である。
【図8】脳脊髄液の増加に対する頭蓋内圧の応答特性図である。
【図9】冷却入力による頭蓋内圧の応答特性図である。
【図10】本発明による頭蓋内圧及び脳温のシミュレーション結果を示す図である。
【図11】特許文献1の「頭蓋内圧検出装置」の模式図である。
【図12】特許文献2の「頭蓋内圧計」の模式図である。
【図13】特許文献3の装置の模式図である。
【図14】特許文献4の「小動物用体温保持装置」の模式図である。
【符号の説明】
【0071】
1 恒温動物、12 頭蓋内圧センサ、14 脳温センサ、16 血液温度センサ、
20 冷却装置、21 包囲体、22 冷媒供給装置、23 媒体冷却器、
24 冷却プレート、25 冷却用ペルチェ素子、26 加熱用ペルチェ素子、
27 冷却制御装置、28 直流電源、
30 制御装置(コンピュータ)、31 入力装置、32 記憶装置、
33 演算装置、34 A/D変換器、35 D/A変換器、
41 断熱ケース、42 微量ポンプ
【技術分野】
【0001】
本発明は、頭部外傷患者にみられる頭蓋内圧亢進症による頭蓋内圧と脳温を安全範囲に管理するための頭蓋内圧と脳温の同時制御装置とその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
頭蓋内圧亢進症は、頭蓋内圧が異常に上昇する症状であり、頭部外傷患者の術後によくみられる合併症の一つである。この頭蓋内圧亢進症が進行すると脳虚血や脳ヘルニアを引き起こし、患者予後を悪化させるおそれがある。そのため、頭蓋内圧亢進症は、脳神経外科の臨床において非常に重要視されており、頭蓋内圧の安定制御は脳障害の治療と術後管理の基本となっている。
【0003】
頭蓋内圧を降下させる手段としては、頭位挙上、浸透圧利尿、過換気療法、髄液誘導術、減圧開頭術等の他に、脳低温療法が知られている。脳低温療法は難治性の頭蓋内圧亢進症にその効果が認められており、時には最後の選択(治療手段)ともなる。かかる脳低温療法は、例えば非特許文献1に開示されている。
【0004】
また、頭蓋内圧の測定手段は、特許文献1〜3に、本発明に関連する小動物用体温保持装置は、特許文献4に開示されている。
【0005】
特許文献1の「頭蓋内圧検出装置」は、図11に示すように、被検体としての人体の頭部に取り外し可能に装着される装着体51と、装着体の内側に取り付けられており、所定圧の空気が封入されて、装着体の頭部への装着時において、頭部の頭蓋内圧変動に伴って封入された空気の圧力を変化させる受圧体52と、受圧体内部の空気圧力変化を検出して電気信号として出力する圧力検出器55とを備えるものである。
【0006】
特許文献2の「頭蓋内圧計」は、図12に示すように、頭皮63の下に設けられて脳室62から脳脊髄液を排出するシャント経路60から脳脊髄液を頭皮63の外に取り出す針状パイプ64と、この針状パイプにより取り出された脳脊髄液を導入して頭蓋内圧力を測定する検出部65とを備えたものである。
【0007】
特許文献3の「頭蓋内圧力を測定又は監視又は検出するための方法及び機器」は、図13に示す磁気共鳴適合カテーテル72の先端部、側部表面又は複数の位置に設けられた圧力検出隔膜に結合された磁気共鳴適合マイクロセンサ圧力変換器を磁気共鳴映像法による誘導により側脳室、脳槽、クモ膜下腔、硬膜下腔又は硬膜外腔、静脈洞、又は実質内組織位置へ挿入し、頭蓋内圧力を記録するものである。
【0008】
特許文献4の「小動物用体温保持装置」は、図14に示すように、小動物を搭載する平面を温度むらなく加熱するヒーター発熱体81を有するヒーター装置85と、このヒーター装置の中央部の表面に配置される温度センサ87と、ヒーター装置の表面に接する小動物の腹部温度を検出すると同時に、設定温度を維持するヒーターコントロール装置とを備えるものである。
【0009】
【非特許文献1】新井達潤編集、「脳蘇生と低体温療法」、真興交易医書出版部、2000年8月改訂
【0010】
【特許文献1】特開平8−84704号公報、「頭蓋内圧検出装置」
【特許文献2】特開平10−276993号公報、「頭蓋内圧計」
【特許文献3】特開2001−346767号公報、「頭蓋内圧力を測定又は監視又は検出するための方法及び機器」
【特許文献4】特開2002−51662号公報、「小動物用体温保持装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、脳低温療法は難治性の頭蓋内圧亢進症にその効果が認められているが、以下の問題点があった。
(1)従来の脳低温療法による頭蓋内圧の管理は、医療従事者が経験に基づき、手動で冷却温度の調節を行っていた。しかし、頭蓋内圧は、脳温、体温、代謝(水産生と熱産生)、利尿剤や麻酔薬等の影響を受けるため、経験的に頭蓋内圧を管理することは、熟練者にとっても困難であった。
(2)また、患者の体温を低く維持しても、頭蓋内圧低下の遅れ時間は非常に長い(例えば通常8時間以上)ため、医療従事者は長時間の間、体温と頭蓋内圧を監視しつづける必要があり、医療従事者の負担が非常に大きかった。
(3)さらに、脳温は、33℃以下に下がると心機能の低下や不整脈を誘発するため、頭蓋内圧を低下させるため急速に体温を下げると、脳温が心機能障害等をきたす32℃以下の危険温度になるおそれがある。
(4)また、このような頭蓋内圧亢進症の原因や治療法を確立するために、実験動物を用いた頭蓋内圧の制御が不可欠であるが、従来は実験動物の体温を正確に調整することは容易ではなく、そのため、脳低温療法による頭蓋内圧亢進症への治療効果等を実験動物で検証することが極めて困難であった。
【0012】
本発明は上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、恒温動物(人や実験動物)の頭蓋内圧を所望の圧力範囲に早期に正確に調節でき、かつ同時に脳温を常に安全な温度範囲に保持することができ、これにより経験の少ない従事者であっても頭蓋内圧と脳温を同時にかつ安全に制御することができる装置とその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、恒温動物の頭蓋内圧及び脳温をそれぞれ測定する頭蓋内圧センサ及び脳温センサと、
恒温動物の体を所定の冷却温度Tで冷却する冷却装置と、
測定された頭蓋内圧及び脳温に基づき前記冷却温度Tを制御する制御装置とを備え、
該制御装置は、前記頭蓋内圧と脳温の安全範囲と、体温変化による頭蓋内圧のゲイン、時定数及びむだ時間の各基準値を記憶する記憶装置を備え、
制御装置により頭蓋内圧と脳温をオーバシュートを十分小さく抑えて目標値に到達するように、前記各基準値から冷却温度Tの制御係数を設定し制御する、ことを特徴とする頭蓋内圧と脳温の同時制御装置が提供される。
【0014】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記制御係数は、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eによる冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDであり、
前記制御装置は、前記各基準値から求めた冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを用いて冷却温度TをPIDフィードバック制御する。
【0015】
また、前記制御装置は、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eに基づき、前記各基準値から求めた冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを補正する補正演算機能を有する。
【0016】
また、恒温動物の脳に供給される血液温度を測定する血液温度センサを備え、
前記制御装置は、測定された血液温度が脳温の安全範囲の最低温度以上になるように 冷却装置の冷却温度Tを制御する。
【0017】
前記冷却装置は、恒温動物の体を囲む包囲体と、該包囲体内に冷却媒体を供給する冷媒供給装置と、該冷却媒体の温度を所定の冷却温度Tに冷却し保持する媒体冷却器とからなる。
【0018】
また、前記冷却装置は、恒温動物の体を載せる冷却プレートと、該冷却プレートの下面の一部に接触し冷却プレートを冷却する冷却用ペルチェ素子と、冷却プレートの下面の一部に接触し冷却プレートを加熱する加熱用ペルチェ素子と、冷却用ペルチェ素子又は加熱用ペルチェ素子に電流を流し、冷却プレートの温度を所定の冷却温度Tに冷却し保持する冷却制御装置とからなる、ことが好ましい。
【0019】
また本発明によれば、恒温動物の頭蓋内圧及び脳温をそれぞれ測定する頭蓋内圧センサ及び脳温センサと、恒温動物の体を所定の冷却温度Tで冷却する冷却装置とを備えた装置の制御方法であって、
前記頭蓋内圧と脳温の安全範囲と、体温変化による頭蓋内圧のゲイン、時定数及びむだ時間の各基準値を記憶する記憶ステップと、
頭蓋内圧と脳温をオーバシュートを十分小さく抑えて目標値に到達するように、前記各基準値から冷却温度Tの制御係数を設定する設定ステップと、
頭蓋内圧センサ及び脳温センサで測定された頭蓋内圧及び脳温に基づき、前記設定された制御係数を用いて前記冷却温度Tを制御する制御ステップとを有する、ことを特徴とする頭蓋内圧と脳温の同時制御方法が提供される。
【0020】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記設定ステップにおいて、前記各基準値から、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eによる冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを設定し、
前記制御ステップにおいて、設定した前記比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを用いて冷却温度TをPIDフィードバック制御する。
【0021】
また、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eに基づき、前記各基準値から求めた冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを補正する補正ステップを有する。
【0022】
また恒温動物の脳に供給される血液温度を測定する血液温度センサを備え、
前記制御ステップにおいて、測定された血液温度が脳温の安全範囲の最低温度以上になるように 冷却装置の冷却温度Tを制御する、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
上記本発明の装置及び方法によれば、恒温動物(人や実験動物)の頭蓋内圧と脳温をオーバシュートを十分小さく抑えて目標値に到達するように、体温変化による頭蓋内圧のゲイン、時定数及びむだ時間の各基準値から冷却温度Tの制御係数を設定し制御するので、頭蓋内圧を所望の圧力範囲に早期に正確に調節でき、かつ同時に脳温を常に安全な温度範囲に保持することができる。
【0024】
また、体温変化による頭蓋内圧のゲイン、時定数及びむだ時間の各基準値から、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eによる冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを求め、これらの制御係数を用いて冷却温度TをPIDフィードバック制御するので、頭蓋内圧と脳温のオーバシュートを十分小さく抑え、早期に頭蓋内圧を所望の圧力範囲に正確に調節できる。
【0025】
また、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eに基づき、前記各基準値から求めた冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを補正するので、初期設定値が対象とする恒温動物にマッチしていない場合でも、実際に測定された頭蓋内圧から学習して適性化することができ、オーバシュートを抑えながた早期に頭蓋内圧を所望の圧力範囲に調節できる。
【0026】
また、脳に供給される血液温度センサを備え、測定された血液温度が、脳温の安全範囲の最低温度以上になるように 冷却装置の冷却温度Tを制御することにより、脳に供給される血液温度は脳温より常に低く脳内の熱エネルギーをwashoutするので、脳温をその安全範囲の最低温度以上に本質的に安定して制御することができる。
【0027】
また、冷却装置を、包囲体、冷媒供給装置、及び媒体冷却器で構成することにより、恒温動物(例えば人)の体全体を効果的に冷却することができる。
また、冷却装置を、冷却プレート、冷却用ペルチェ素子、加熱用ペルチェ素子、及び冷却制御装置で構成することにより、恒温動物が実験用の小動物であっても、小動物の体を容易に冷却及び加熱して温度保持することができる。
【0028】
上記本発明の装置及び方法により、従来、熟練した医療従事者にとっても困難であった脳低温療法による頭蓋内圧の管理を、経験の少ない従事者であっても安全に行うことができ、体温と頭蓋内圧を長時間継続して監視しつづける必要性を無くして、医療従事者の負担を大幅に低減でき、脳温が心機能障害等をきたす危険温度になることを本質的に防止でき、実験動物の体温を正確に調整することができ、脳低温療法による頭蓋内圧亢進症への治療効果等を実験動物で検証することが簡単にできる、等の効果が得られる。
【0029】
従って、総合的には医療上最も困難な部分の自動化に資することができ、頭蓋内圧の計測と制御を自動化して、頭蓋内圧管理や脳温管理を精度よく自動化でき、脳低温療法の脳神経保護作用に有益なだけではなく、脳低温療法の頭蓋内圧降下に役立つことができる。
また同時に、このような生理状態の管理の自動化により、臨床における医療従事者の労力を軽減し、脳低温療法の医療コストの低減につながり、また煩雑な温度調整から医療従事者を解放し、医療従事者は、他のより専門的医療処理に集中することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面に基づき説明する。なおこの発明において被検体である恒温動物とは、人(例えば頭蓋内圧亢進症の頭部外傷患者)や動物(実験用小動物)を意味する。
【0031】
図1は、本発明による装置の第1実施形態図である。この図において、本発明の頭蓋内圧と脳温の同時制御装置は、人の脳低温治療用であり、頭蓋内圧センサ12、脳温センサ14、血液温度センサ16、冷却装置20、及び制御装置30を備える。
【0032】
頭蓋内圧センサ12及び脳温センサ14は、恒温動物の頭蓋内圧及び脳温をそれぞれ測定する。頭蓋内圧センサ12及び脳温センサ14は、恒温動物1の脳膜やくも膜下腔に挿入され、恒温動物1の脳脊髄液の静水圧と温度を直接検出する圧力センサと温度センサであるのが好ましい。このような圧力センサと温度センサを用いることにより、頭蓋内圧及び脳温を高い精度で検出することができる。
なお、頭蓋内圧センサ12及び脳温センサ14は、脳脊髄液の静水圧と温度を直接検出するセンサに限定されず、その他の形式のセンサであってもよい。
これらの圧力センサと温度センサは、検出された圧力と温度を電気信号として出力し、その電気信号は制御装置30に入力される。
【0033】
血液温度センサ16は、恒温動物1の脳に供給される血液温度を検出する温度センサであるのが好ましい。このような温度センサを用いることにより、脳の血管に供給される血液温度を高い精度で検出することができる。
なお、血液温度センサ16は、恒温動物1の体温を計測する体温センサであってもよい。脳に供給される血液(脳血流)は、脳の局所的熱エネルギーをwashoutする機能を有しており、脳温より常に温度が低い。また体温は、血液温度とほぼ同一又はわずかに低い値を示す。従って、後述する制御において、血液温度の代わりに体温を用いても、制御上安全サイドとなる。
【0034】
冷却装置20は、恒温動物1の体を所定の冷却温度Tで冷却する。図1の例において、冷却装置20は、包囲体21、冷媒供給装置22、及び媒体冷却器23からなる。
包囲体21は、恒温動物1の少なくとも胴体の大部分を囲むように寝袋状又は布団状に構成されている。包囲体21の内部には、冷却媒体(水や空気)を通す可撓性のチューブが内蔵されており、冷媒供給装置22により、包囲体21内に冷却媒体を供給するようになっている。なお、包囲体21の内部を通過し温度上昇した冷却媒体は、冷媒供給装置22に戻り再循環するのがよい。
媒体冷却器23は、冷却媒体(水や空気)を冷却する冷却ユニットとその温度を制御する温度コントローラからなり、冷却媒体の温度を所定の冷却温度Tに冷却し保持する。所定の冷却温度Tは、恒温動物1の脳温の安全範囲(例えば33〜36℃)よりも5〜6℃程度低い、例えば27〜31℃であるのが好ましい。
【0035】
制御装置30は、入力装置31、記憶装置32、演算装置33、及び入出力装置(A/D変換器34、D/A変換器35)を備えたPC(コンピュータ)であり、測定された頭蓋内圧及び脳温に基づき冷却装置20の冷却温度Tを制御する。
入力装置31は、例えばキーボードであり、恒温動物1の頭蓋内圧と脳温の安全範囲、恒温動物1の体温変化による頭蓋内圧のゲイン、時定数及びむだ時間の各基準値、及び頭蓋内圧の目標値を入力し、これらの各データを記憶装置32に記憶する。
これらの安全範囲や各基準値のデータは、恒温動物1の種類(人間、マウス、その他の実験用小動物)及びその特性(性別、年齢、体重、等)により、予めシミュレーション等で求めておくのがよい。
例えば、恒温動物1が人の場合、頭蓋内圧の正常範囲は、約5〜15mmHgであり、安全範囲は、約20mmHg以下である。また、脳温の正常範囲は、約36〜37℃であり、安全範囲は、約33℃以上である。また、頭蓋内圧のゲイン、時定数及びむだ時間は、後述する実施例で示すように恒温動物1を対象とするシミュレーションで求めることができる。さらに、頭蓋内圧の目標値は、その安全範囲内において、医療従事者等が適宜設定する。
【0036】
制御装置30は、演算装置33により、記憶装置32に記憶された体温変化による頭蓋内圧のゲイン、時定数及びむだ時間の各基準値から、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eによる冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを求める。
さらに制御装置30は、これらを用いて、頭蓋内圧と脳温をオーバシュートを十分小さく抑えて頭蓋内圧の目標値に到達するように、冷却温度TをPIDフィードバック制御する。頭蓋内圧のオーバシュート量は、約2mmHg以下、脳温のオーバシュート量は、0.5℃以下であるのがよい。
【0037】
また、この制御装置30は補正演算機能を有し、PIDフィードバック制御中に測定された頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eを0に近づけるように、各基準値から求めた冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを補正する。
【0038】
さらに制御装置30は、上述した血液温度センサ16により測定された血液温度が脳温の安全範囲の最低温度以上になるように 冷却装置の冷却温度Tを制御するようになっている。
【0039】
図2は、人の脳低温療法における脳温と経過時間との関係図である。この図において、横軸は経過時間(時間:h、日数:d、週数:w)、縦軸は脳温(℃)である。
脳温は、35℃になると低体温侵襲に対するシバリングによる体内熱発生などの生体防御反応が生じ、ついで33℃以下になると心機能の低下や不整脈が発生する。また、冷却速度が速すぎると心機能障害等をきたす危険温度(32℃以下)になることがある。
従って、脳温が35℃に達したところで生体の慣らし時間を設けしばらく35℃に保った後、ゆっくりと脳温を33〜34℃まで下げるのが好ましい。シバリングの出現に対して、これを抑制するために筋弛緩薬、臭化パンクロニュームを投与してもよい。
また、脳温を33〜34℃に保つ期間は、脳の急性期病態形成の経過(約6日間)と免疫防止機構の機能低下開始時期(2〜4日)を考慮して6日以内とするのがよい。
その後、頭蓋内圧が正常範囲内に安定し、トレンド脳波がδ波からθ波へ改善された後に復温を開始する。
【0040】
本発明において、「脳温の安全範囲」とは、上述した温度範囲と冷却速度及び復温速度を含む。すなわち、恒温動物1が人の場合、脳温の正常範囲は、約36〜37℃であり、安全範囲は、約33℃以上であるが、脳温が35℃に達したところで2〜3時間の慣らし時間を設け、次いで、約0.5℃/h未満の冷却速度で脳温を33〜34℃まで下げるのがよい。
また、脳温を33〜34℃に保つ期間は、最長で6日以下であり、復温時には、約34℃、約35℃において、1〜3日の慣らし期間を設けながら、4日以上の日数をかけて約36℃の正常温度までゆっくりと復温するのがよい。
【0041】
また、本発明において、頭蓋内圧と脳温は常時測定しており、脳温が上述した安全範囲にあり、かつ頭蓋内圧が目標値に到達するように冷却装置の冷却温度Tを制御する。
【0042】
図3は、本発明による装置の第2実施形態図である。この図において、本発明の装置は、小動物実験用であり、頭蓋内圧センサ12、脳温センサ14、血液温度センサ16、冷却装置20、及び制御装置30を備える。
【0043】
この例において、冷却装置20は、冷却プレート24、冷却用ペルチェ素子25、加熱用ペルチェ素子26、及び冷却制御装置27からなる。
冷却プレート24は、恒温動物1(この例では実験動物)の体を載せる熱伝導性の高い金属板である。
【0044】
冷却用ペルチェ素子25は、冷却プレート24の下面の一部に接触し冷却プレートを冷却する。加熱用ペルチェ素子26は、冷却プレート24の下面の一部に接触し冷却プレートを加熱する。
冷却用ペルチェ素子25及び加熱用ペルチェ素子26は、異金属の接合面を電流が流れると熱の発生又は吸収が起こるペルチェ効果を利用したものであり、冷却用ペルチェ素子25に電流を流すことにより冷却プレート24を冷却し、加熱用ペルチェ素子26に電流を流すことにより冷却プレート24を加熱するようになっている。
ペルチェ素子25、26はそれぞれ1つでも複数でもよい。また複数の場合には、それぞれ冷却プレート24の下面に分散して貼付け、冷却プレート24の全面を均一温度に冷却又は加熱できるようにする。
【0045】
冷却制御装置27は、この例では切替回路を有し、制御装置30からの指令により、ペルチェ素子25、26のどちらかに直流電源28からの電源を切り替え、冷却又は加熱を制御して、冷却プレート24の温度を所定の冷却温度Tに冷却し保持するようになっている。
【0046】
さらにこの例では、恒温動物1を内部に収納する断熱ケース41を有し、実験動物用の麻酔薬や呼吸ガスを断熱ケース41内に供給できるようになっている。またこの例では恒温動物1に投与する薬を供給する微量ポンプ42を備え、その供給量を制御装置30で制御する。
その他の構成は、図1の構成と同様である。
【0047】
図4は、本発明による頭蓋内圧と脳温の同時制御方法のフロー図である。本発明の方法は、恒温動物1の頭蓋内圧及び脳温をそれぞれ測定する頭蓋内圧センサ12及び脳温センサ14と、恒温動物の体を所定の冷却温度Tで冷却する冷却装置20とを備えた装置の制御方法であり、この図に示すように、入力ステップS1、記憶ステップS2、設定ステップS3、制御ステップS4、及び補正ステップS5の各ステップを有する。
【0048】
入力ステップS1では、恒温動物1の頭蓋内圧と脳温の安全範囲、恒温動物1の体温変化による頭蓋内圧のゲイン、時定数及びむだ時間の各基準値、及び頭蓋内圧の目標値をPC(コンピュータ)に入力する。
記憶ステップS2では、入力された安全範囲、ゲイン、時定数及びむだ時間の各基準値及び頭蓋内圧の目標値を記憶する。
設定ステップS3では、頭蓋内圧と脳温をオーバシュートを十分小さく抑えて目標値に到達するように、各基準値から、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eによる冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを設定する。
【0049】
制御ステップS4では、頭蓋内圧センサ及び脳温センサで測定された頭蓋内圧及び脳温に基づき、設定された比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを用いて冷却温度TをPIDフィードバック制御する、
また、この制御ステップにおいて、血液温度センサ16で測定された血液温度が脳温の安全範囲の最低温度以上になるように 冷却装置の冷却温度Tを制御する。
【0050】
補正ステップS4では、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eに基づき、前記各基準値から求めた冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを補正する
【0051】
上述した本発明の装置及び方法によれば、恒温動物1(人や動物)の頭蓋内圧と脳温をオーバシュートを十分小さく抑えて目標値に到達するように、体温変化による頭蓋内圧のゲイン、時定数及びむだ時間の各基準値から冷却温度Tの制御係数を設定し制御するので、頭蓋内圧を所望の圧力範囲に早期に正確に調節でき、かつ同時に脳温を常に安全な温度範囲に保持することができる。
【0052】
また、体温変化による頭蓋内圧のゲイン、時定数及びむだ時間の各基準値から、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eによる冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを求め、これらの制御係数を用いて冷却温度TをPIDフィードバック制御するので、頭蓋内圧と脳温のオーバシュートを十分小さく抑え、早期に頭蓋内圧を所望の圧力範囲に正確に調節できる。
【0053】
また、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eに基づき、前記各基準値から求めた冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを補正するので、初期設定値が対象とする恒温動物にマッチしていない場合でも、実際に測定された頭蓋内圧から学習して適性化することができ、オーバシュートを抑えながら早期に頭蓋内圧を所望の圧力範囲に調節できる。
【0054】
また、脳に供給される血液温度センサを備え、測定された血液温度が、脳温の安全範囲の最低温度以上になるように 冷却装置の冷却温度Tを制御することにより、脳に供給される血液温度は脳温より常に低く脳内の熱エネルギーをwashoutするので、脳温をその安全範囲の最低温度以上に本質的に安定して制御することができる。
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0055】
[仮定条件]
人(患者生体)の循環温熱系をモデル化するために、脳低温療法の臨床実際に基づき、以下の仮定条件を設けた。
(1)脳低温療法の患者は全身麻酔下に置かれているため、生体内の神経性・体液性調節機能を無視し、患者の循環温熱系を完全な受動系とする。
(2)解剖生理学に対応して、図5に示すように、患者生体を頭蓋1a(脳脊髄液、脳実質、脳血管)、心血管1b(動脈部、静脈部)、肺1c(実質、血管)、内臓1d(実質、血管)、筋肉1e(実質、血管)、その他1f(実質、血管)の6つのセグメント(13のコンパートメント)により近似し、図6に示す循環温熱系モデルを作成した。
【0056】
(3)脳脊髄液の静水圧と温度を頭蓋内圧と脳温の代表とする。その理由は、これらの生理状態量が脳室やくも膜下腔に置かれるセンサにより正確に測れるからである。
(4)臨床の冷却作用に対応して、筋肉セグメントの環境温度が変化可能とし、その他のセグメントが断熱されているとする。内臓セグメントにおける人工補液と尿排泄による熱収支がない。呼吸系による熱と水の損失を無視する。
(5)セグメント同士の間の水と熱の流れは血流とリンパ流による。セグメント内の実質と血管のコンパートメント同士の間には水濾過と熱伝導がある。代謝性水産生と熱産生が実質のみに生じる。各コンパートメントの浸透圧は一定とする。
(6)心拍出力に対応して、心血管セグメントの動脈部と静脈部に圧力ポンプを取り入れ、それぞれ体循環と肺循環に一定の圧力上昇を与える。よって、各コンパートメントの静水圧は生理的に正常な範囲に設定可能となる。
これらの仮定の下で、冷却温度を入力、頭蓋内圧を出力とする患者生体の循環温熱系モデルを構築する。
【0057】
[循環温熱系モデル]
物質とエネルギーの保存則に従い、各コンパートメントにおける静水圧と温度に関する微分方程式を作成することができる。かかる微分方程式はここでは省略する。
また、脳脊髄液分泌、代謝性水産生と熱産生、コンパートメント同士間の水濾過係数は温度依存性を考慮する。
【0058】
[パラメータの設定]
循環温熱モデルの生理的と物理的パラメータは基本的には文献に基づき、必要に応じて、推測値や仮定値も利用する。なお、温度と圧力依存性は非線形的であり、患者生体の循環温熱モデルも非線形的であるため、その理論解は、例えばRunge−Kuttaの数値解析法を用いるのがよい。
【0059】
[モデルの検証]
[ステップ状冷却に対する脳温変化特性]
図7は、ステップ状の冷却入力に対する循環温熱モデルの脳温応答図である。この図において、横軸は経過時間、縦軸は脳温である。
この図からわかるように、冷却温度の変化(30℃から29℃へ)に対し、最初は脳温がほとんど変化せず、しばらくして急に変化する。その後はゆっくりとした変化となり、最後に一定値となる。すなわち、脳温変化はむだ時間と一次遅れの特性を有する。
この図より、脳温のステップ応答特性として、時定数が9.2h、むだ時間が0.6h、ゲインが2.0℃/℃と推定される。
【0060】
脳低温療法の臨床では、目標の低温までに患者の脳温を冷却させるには3〜11hを要することが報告されている。臨床にはステップ応答や時定数などの厳密な定義がないが、「数時間」の概念において、循環温熱モデルの脳温変化は臨床の患者脳温の冷却特性に一致している。
また、環境温度変化に対する生体深部温度変化に0.5〜0.75hのむだ時間があることが報告されており、この図による0.6hの推定むだ時間と一致している。 なお、代謝性熱産生が体温低下により減少され、体温調節機構がなければ、さらなる体温の低下が起こることが考えられる。2.0℃/℃の推定ゲインはこの生理事実に矛盾しないことが明らかである。
これらのことから、循環温熱モデルの温熱系部分は妥当であるといえる。
【0061】
[インパルス状容積増加に対する頭蓋内圧変化特性]
脳脊髄液の循環障害の検査法として、インフュージョンテストが臨床において行われる。この検査法は循環温熱モデルの脳脊髄液に一定容積の水を短時間に注入することに相当する。
図8は、脳脊髄液の増加に対する頭蓋内圧の応答特性図である。この図において、横軸は経過時間、縦軸は頭蓋内圧の変化である。このシミュレーションでは、2mlの水を10〜12秒の間に0.66ml/sの速度で脳脊髄液コンパートメントに与えた。
この図から分かるように、頭蓋内圧は水注入の間に上昇し、注入終了時点で、約3.6mmHgの最大圧変化が生じる。その後、頭蓋内圧が注入以前の圧力状態に復帰する。
これらの結果は、従来報告されている研究結果とよく一致しており、循環温熱モデルの循環系部分も妥当であるといえる。
【0062】
[モデルの適用]
[頭蓋内圧亢進症のモデル化]
術後の頭部外傷患者に見られる頭蓋内圧亢進症は血管原性脳浮腫によるものが多いと考えられる。
ここでは血管原性脳浮腫をシミュレートする。そのために、頭蓋セグメントにおける血液脳関門と血液脳脊髄液関門の水濾過係数を正常値の1000倍に設定し、それにより、循環温熱モデルの頭蓋内圧が20mmHgになる。
本発明はこれを頭蓋内圧亢進症の患者モデルとする。
【0063】
[ステップ状冷却に対する頭蓋内圧亢進症の応答特性]
図9は、ステップ状冷却入力による頭蓋内圧の応答特性図である。この図において、横軸は経過時間、縦軸は頭蓋内圧である。
この図から分かるように、冷却温度に対する頭蓋内圧のステップ応答には、脳温のステップ応答と同様に、むだ時間と一次遅れの特性をもっている。臨床の実用性を念頭に、頭蓋内圧応答の非線形性を無視すると、この図の頭蓋内圧降下曲線から、ゲインが5.0mmHg/℃、時定数が9.9h、むだ時間が1.0hと特性近似することができる。
すなわち、冷却による頭蓋内圧亢進症への降下作用はこれらのデータにより定量化することができ、頭蓋内圧管理のための冷却温度調整の定量指標として、臨床への応用が期待できる。
【0064】
[頭蓋内圧亢進症の定値制御]
上述した特性近似データを用いて、PIDフィードバック制御による頭蓋内圧亢進症の自動制御の実現可能性を示す。
具体的には、先の頭蓋内圧亢進症の患者モデルを実際の患者生体の代わりとして用い、その頭蓋内圧を予め設定した頭蓋内圧管理目標値に追従させる。そのための冷却温度設定は数1の式(1)により与える。
【0065】
【数1】
【0066】
ここで、eは頭蓋内圧の目標値と循環温熱モデルによる推定値との差である。KP、KI、KDはそれぞれPIDフィードバック制御のパラメータである。
シミュレーションでは、正常範囲にある頭蓋内圧値9.9mmHgを目標値とし、頭蓋内圧亢進症の特性近似データにより、KP=1.2℃/mmHg、KI=1.2h、KD=0.5hと設定した。
【0067】
図10は、本発明による頭蓋内圧及び脳温のシミュレーション結果を示す図である。この図において、横軸は経過時間、縦軸は脳温、冷却温度、頭蓋内圧である。
この図から分かるように、本発明により与えた冷却入力(冷却温度変化)により、頭蓋内圧を亢進状態から目標値までに低下させ、安定制御することができた。またこの間、脳温も安全範囲に維持されている。
具体的には、冷却から4h以内に、目標値に頭蓋内圧を降下させ、1.7hにおいて、最大頭蓋内圧降下速度4.2mmHg/hが得られた。冷却から6hにおいて、極めて小さいオーバシュート(約1.2mmHg)の後、頭蓋内圧は目標値(誤差0.2%以内)に収められた。
【0068】
また、脳温は頭蓋内圧降下と同様な時間スケールで低下し、最後に約33℃に維持されていた。このことから、脳低温療法の脳温管理と頭蓋内圧管理の一致性が考えられる。頭蓋内圧を降下させるための冷却温度については、はじめに低く設定し、その後上昇させ、最後に28℃以下に維持することが示された。このような温度調整は現在臨床に施行されている脳低温療法の温度管理にほぼ一致している。
併せて、線形特性近似データにより、臨床に応用可能なPIDフィードバック制御が適用でき、冷却温度の自動調整による頭蓋内圧の自動制御が実現可能であることが明らかとなった。
【0069】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明による装置の第1実施形態図である。
【図2】人の脳低温療法における脳温と経過時間との関係図である。
【図3】本発明による装置の第2実施形態図である。
【図4】本発明による頭蓋内圧と脳温の同時制御方法のフロー図である。
【図5】人の循環温熱系の説明図である。
【図6】人の循環温熱系のモデル図である。
【図7】冷却入力に対する循環温熱モデルの脳温応答図である。
【図8】脳脊髄液の増加に対する頭蓋内圧の応答特性図である。
【図9】冷却入力による頭蓋内圧の応答特性図である。
【図10】本発明による頭蓋内圧及び脳温のシミュレーション結果を示す図である。
【図11】特許文献1の「頭蓋内圧検出装置」の模式図である。
【図12】特許文献2の「頭蓋内圧計」の模式図である。
【図13】特許文献3の装置の模式図である。
【図14】特許文献4の「小動物用体温保持装置」の模式図である。
【符号の説明】
【0071】
1 恒温動物、12 頭蓋内圧センサ、14 脳温センサ、16 血液温度センサ、
20 冷却装置、21 包囲体、22 冷媒供給装置、23 媒体冷却器、
24 冷却プレート、25 冷却用ペルチェ素子、26 加熱用ペルチェ素子、
27 冷却制御装置、28 直流電源、
30 制御装置(コンピュータ)、31 入力装置、32 記憶装置、
33 演算装置、34 A/D変換器、35 D/A変換器、
41 断熱ケース、42 微量ポンプ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
恒温動物の頭蓋内圧及び脳温をそれぞれ測定する頭蓋内圧センサ及び脳温センサと、
恒温動物の体を所定の冷却温度Tで冷却する冷却装置と、
測定された頭蓋内圧及び脳温に基づき前記冷却温度Tを制御する制御装置とを備え、
該制御装置は、前記頭蓋内圧と脳温の安全範囲と、体温変化による頭蓋内圧のゲイン、時定数及びむだ時間の各基準値を記憶する記憶装置を備え、
制御装置により頭蓋内圧と脳温をオーバシュートを十分小さく抑えて目標値に到達するように、前記各基準値から冷却温度Tの制御係数を設定し制御する、ことを特徴とする頭蓋内圧と脳温の同時制御装置。
【請求項2】
前記制御係数は、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eによる冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDであり、
前記制御装置は、前記各基準値から求めた冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを用いて冷却温度TをPIDフィードバック制御する、ことを特徴とする請求項1に記載の頭蓋内圧と脳温の同時制御装置。
【請求項3】
前記制御装置は、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eに基づき、前記各基準値から求めた冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを補正する補正演算機能を有する、ことを特徴とする請求項2に記載の頭蓋内圧と脳温の同時制御装置。
【請求項4】
恒温動物の脳に供給される血液温度を測定する血液温度センサを備え、
前記制御装置は、測定された血液温度が脳温の安全範囲の最低温度以上になるように 冷却装置の冷却温度Tを制御する、ことを特徴とする請求項1に記載の頭蓋内圧と脳温の同時制御装置。
【請求項5】
前記冷却装置は、恒温動物の体を囲む包囲体と、該包囲体内に冷却媒体を供給する冷媒供給装置と、該冷却媒体の温度を所定の冷却温度Tに冷却し保持する媒体冷却器とからなる、ことを特徴とする請求項1に記載の頭蓋内圧と脳温の同時制御装置。
【請求項6】
前記冷却装置は、恒温動物の体を載せる冷却プレートと、該冷却プレートの下面の一部に接触し冷却プレートを冷却する冷却用ペルチェ素子と、冷却プレートの下面の一部に接触し冷却プレートを加熱する加熱用ペルチェ素子と、冷却用ペルチェ素子又は加熱用ペルチェ素子に電流を流し、冷却プレートの温度を所定の冷却温度Tに冷却し保持する冷却制御装置とからなる、ことを特徴とする請求項1に記載の頭蓋内圧と脳温の同時制御装置。
【請求項7】
恒温動物の頭蓋内圧及び脳温をそれぞれ測定する頭蓋内圧センサ及び脳温センサと、恒温動物の体を所定の冷却温度Tで冷却する冷却装置とを備えた装置の制御方法であって、
前記頭蓋内圧と脳温の安全範囲と、体温変化による頭蓋内圧のゲイン、時定数及びむだ時間の各基準値を記憶する記憶ステップと、
頭蓋内圧と脳温をオーバシュートを十分小さく抑えて目標値に到達するように、前記各基準値から冷却温度Tの制御係数を設定する設定ステップと、
頭蓋内圧センサ及び脳温センサで測定された頭蓋内圧及び脳温に基づき、前記設定された制御係数を用いて前記冷却温度Tを制御する制御ステップとを有する、ことを特徴とする頭蓋内圧と脳温の同時制御方法。
【請求項8】
前記設定ステップにおいて、前記各基準値から、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eによる冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを設定し、
前記制御ステップにおいて、設定した前記比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを用いて冷却温度TをPIDフィードバック制御する、ことを特徴とする請求項7に記載の頭蓋内圧と脳温の同時制御方法。
【請求項9】
頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eに基づき、前記各基準値から求めた冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを補正する補正ステップを有する、ことを特徴とする請求項8に記載の頭蓋内圧と脳温の同時制御方法。
【請求項10】
恒温動物の脳に供給される血液温度を測定する血液温度センサを備え、
前記制御ステップにおいて、測定された血液温度が脳温の安全範囲の最低温度以上になるように 冷却装置の冷却温度Tを制御する、ことを特徴とする請求項7に記載の頭蓋内圧と脳温の同時制御方法。
【請求項1】
恒温動物の頭蓋内圧及び脳温をそれぞれ測定する頭蓋内圧センサ及び脳温センサと、
恒温動物の体を所定の冷却温度Tで冷却する冷却装置と、
測定された頭蓋内圧及び脳温に基づき前記冷却温度Tを制御する制御装置とを備え、
該制御装置は、前記頭蓋内圧と脳温の安全範囲と、体温変化による頭蓋内圧のゲイン、時定数及びむだ時間の各基準値を記憶する記憶装置を備え、
制御装置により頭蓋内圧と脳温をオーバシュートを十分小さく抑えて目標値に到達するように、前記各基準値から冷却温度Tの制御係数を設定し制御する、ことを特徴とする頭蓋内圧と脳温の同時制御装置。
【請求項2】
前記制御係数は、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eによる冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDであり、
前記制御装置は、前記各基準値から求めた冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを用いて冷却温度TをPIDフィードバック制御する、ことを特徴とする請求項1に記載の頭蓋内圧と脳温の同時制御装置。
【請求項3】
前記制御装置は、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eに基づき、前記各基準値から求めた冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを補正する補正演算機能を有する、ことを特徴とする請求項2に記載の頭蓋内圧と脳温の同時制御装置。
【請求項4】
恒温動物の脳に供給される血液温度を測定する血液温度センサを備え、
前記制御装置は、測定された血液温度が脳温の安全範囲の最低温度以上になるように 冷却装置の冷却温度Tを制御する、ことを特徴とする請求項1に記載の頭蓋内圧と脳温の同時制御装置。
【請求項5】
前記冷却装置は、恒温動物の体を囲む包囲体と、該包囲体内に冷却媒体を供給する冷媒供給装置と、該冷却媒体の温度を所定の冷却温度Tに冷却し保持する媒体冷却器とからなる、ことを特徴とする請求項1に記載の頭蓋内圧と脳温の同時制御装置。
【請求項6】
前記冷却装置は、恒温動物の体を載せる冷却プレートと、該冷却プレートの下面の一部に接触し冷却プレートを冷却する冷却用ペルチェ素子と、冷却プレートの下面の一部に接触し冷却プレートを加熱する加熱用ペルチェ素子と、冷却用ペルチェ素子又は加熱用ペルチェ素子に電流を流し、冷却プレートの温度を所定の冷却温度Tに冷却し保持する冷却制御装置とからなる、ことを特徴とする請求項1に記載の頭蓋内圧と脳温の同時制御装置。
【請求項7】
恒温動物の頭蓋内圧及び脳温をそれぞれ測定する頭蓋内圧センサ及び脳温センサと、恒温動物の体を所定の冷却温度Tで冷却する冷却装置とを備えた装置の制御方法であって、
前記頭蓋内圧と脳温の安全範囲と、体温変化による頭蓋内圧のゲイン、時定数及びむだ時間の各基準値を記憶する記憶ステップと、
頭蓋内圧と脳温をオーバシュートを十分小さく抑えて目標値に到達するように、前記各基準値から冷却温度Tの制御係数を設定する設定ステップと、
頭蓋内圧センサ及び脳温センサで測定された頭蓋内圧及び脳温に基づき、前記設定された制御係数を用いて前記冷却温度Tを制御する制御ステップとを有する、ことを特徴とする頭蓋内圧と脳温の同時制御方法。
【請求項8】
前記設定ステップにおいて、前記各基準値から、頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eによる冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを設定し、
前記制御ステップにおいて、設定した前記比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを用いて冷却温度TをPIDフィードバック制御する、ことを特徴とする請求項7に記載の頭蓋内圧と脳温の同時制御方法。
【請求項9】
頭蓋内圧Pの目標値と測定値との差eに基づき、前記各基準値から求めた冷却温度Tの比例係数KP、積分係数KI及び微分係数KDを補正する補正ステップを有する、ことを特徴とする請求項8に記載の頭蓋内圧と脳温の同時制御方法。
【請求項10】
恒温動物の脳に供給される血液温度を測定する血液温度センサを備え、
前記制御ステップにおいて、測定された血液温度が脳温の安全範囲の最低温度以上になるように 冷却装置の冷却温度Tを制御する、ことを特徴とする請求項7に記載の頭蓋内圧と脳温の同時制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−288568(P2006−288568A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−111508(P2005−111508)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】
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