説明

頭蓋顔面骨密度を増大させるための方法および装置

本発明は、対象の歯および/または他の頭蓋顔面領域における骨成長を増大させるための方法に関する。この方法は、対象の顎および/または歯に、0.1〜2.00gの加速度ピークで、振動数10〜1000Hzの機械振動を適用する工程を含む。これにより、顎および/または歯において1〜50マイクロストレインの小さな歪みを生じることができる。本発明はまた、高振動数の小さな力を歯に送る装置に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2008年9月9日に出願された米国特許仮出願第61/095,434号の恩典を主張する。米国特許仮出願第61/095,434号はその全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、頭蓋顔面骨密度を増大させるための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
骨格系は、細胞適応および形態学的適応によって機械的環境と反応することができる(Omar et al.,「Effect of Low Magnitude and High Frequency Mechanical Stimuli on Defects Healing in Cranial Bones」, J. Oral Maxillofac Surg. 66 : 1104-1111 (2008)(非特許文献1), Garman et al. , 「Low-level Accelerations Applied in the Absence of Weight Bearing Can Enhance Trabecular Bone Formation」, J. Orthop. Res. 25:732-740 (2007)(非特許文献2), Rubin et al., 「Mechanical Strain, Induced Non-invasively in the High-Frequency Domain, is Anabolic to Cancellous Bone, But Not Cortical Bone 」, Bone 30:445-452(2002)(非特許文献3))。骨形成作用を有する、この機械的環境の構成要素の1つは、加えられた力の振動数である。高振動数の力は大きさが小さくても、骨形成を刺激し、骨体積を増やすことができることが分かっている。さらに、全身振動には、荷重を支える骨格部分に対して骨形成能があることが分かっている。
【0004】
高振動数の小さな力を送って、荷重を支える骨に対して骨形成能を有する全身振動を高めるように、振動板が設計されている(Garman et al., 「Low-level Accelerations Applied in the Absence of Weight Bearing Can Enhance Trabecular Bone Formation」, J. Orthop. Res. 25:732-740 (2007)(非特許文献2), Rubin et al., 「Mechanical Strain, Induced Non-invasively in the High-Frequency Domain, is Anabolic to Cancellous Bone, But Not Cortical Bone」, Bone 30:445-452(2002)(非特許文献3))。例えば、McLeod et al.への米国特許第5,273,028号(特許文献1)は、振動範囲が10〜100Hz(さらに良好には、10〜50Hz)、ピーク加速度が0.05〜0.5gの機械的刺激を生じさせて、下肢および中軸骨格の加重骨の骨密度を増やす全身振動装置を開示している。さらに快適に使用するために、McLeod et alへの米国特許第7,202,955号(特許文献2)では、同じ設計(すなわち、患者が台の上に立つ)が改善された。小規模臨床試験では全身振動が成功したにもかかわらず、明らかな制限事項は、振動板の上に立つことによって、下肢および中軸骨格の加重骨に制限されることである(Garman et al.,「Low-level Accelerations Applied in the Absence of Weight Bearing Can Enhance Trabecular Bone Formation」, J. Orthop. Res. 25:732-740(2007)(非特許文献2))。
【0005】
これらの欠陥に対処するために、非加重骨については、高振動数の小さな力ではない他のモダリティーが考慮されている。これらのモダリティーの一部には、超音波(例えば、Duarte et al.への米国特許第4,530,360号(特許文献3))、電場(例えば、全てRyaby et al.への米国特許第4,266,532号(特許文献4);同第4,266,533号(特許文献5);および同第4,315,503号(特許文献6))、ならびに磁場(例えば、Kraus et al.への米国特許第3,890,953号(特許文献7))(Rubin et al.,「Mechanical Strain, Induced Non-invasively in the High-Frequency Domain, is Anabolic to Cancellous Bone, But Not Cortical Bone」, Bone 30:445-452 (2002)(非特許文献3)、およびWard et al., 「Low Magnitude Mechanical Loading is Osteogenic in Children with Disabling Conditions」, J. Bone Miner. Res. 19:360-369(2004)(非特許文献4))が含まれる。これらの技法は、圧電効果を有し得る高振動数電場を用いているが、歯に力を全く加えない。実際には、歯科用途において骨形成を高めるために(機械的刺激ではなく)高振動数超音波を用いることが米国特許第5,496,256号(特許文献8)によって示唆されている。これらの器具に関する問題は、これらが複雑で、高価であり、一人一人についてオーダーメイドする必要があることである。これらの器具は複雑であるので、予防法および/または治療法として使用することは非現実的である。さらに、顎への高振動数機械的刺激の影響は調査されていない。歯槽骨喪失は数百万人もの人々にとって問題であるので、このことは重要である。
【0006】
さらに、歯科矯正患者に対して使用するために、高振動数の小さな力が提案されている。特に、Maoへの米国特許第7,029,276号(特許文献9)は、歯を効率的に動かすようにそれぞれの歯に取り付けられたバンドに直接、振動数8〜40Hzで非常に大きな力(5N)を加えることを提案している。しかしながら、Maoの設計は、臨床に用いるには極めて非現実的であり、このような過剰な力を加えることは、骨を含む歯周支持組織を破壊する可能性がある。
【0007】
骨折の治癒期間を改善するために、非常に複雑な設計を用いて高振動数の小さな力を送ることも用いられている(例えば、Wolf et al.,「Effects of High-Frequency, Low-Magnitude Mechanical Stimulus on Bone Healing」, Clin. Orthopaedics ReI. Res. 385:192-198 (2001)(非特許文献5); Chen et al.,「The Effects of Frequency of Mechanical Vibration on Experimental Fracture Healing」, Zhongua Wai Ke Za Zhi 32(4):217-219(1994)(中国語文献)(非特許文献6);McLeod et al.への米国特許第6,022,349号(特許文献10)を参照されたい)。しかしながら、これらの装置は、骨折の安定化および治癒のために設計されており、本発明の設計とは大きく異なる。最近、Omar et al.,によって書かれた論文である「Effect of Low Magnitude and High Frequency Mechanical Stimuli on Defects Healing in Cranial Bones」, J. Oral Maxillofac Surg. 66:1104-1111(2008)(非特許文献1)では、0.3gの加速度ピークで30Hzの振動数の振動を送るために、McLeod et al.が設計した器具が用いられた(McLeod et al.への米国特許第5,273,028号(特許文献1)を参照されたい)。Omar et al.では、頭蓋骨の欠陥に対する骨治癒プロセスを速めるために力を加えた。この論文は、高振動数の力が頭蓋骨の骨治癒を高める能力を有するという知見を支持しているが、この骨形成刺激を頭蓋骨にどのように伝達することができるかという問題に対処することができなかった。これらの研究では、Omar et al.では、マウスケージを振動板の上に置き、マウスをケージ内で横臥させた状態で、振動板は骨に高振動数の力(すなわち、30Hz、0.3gの力)を加えた。Omar et al.は骨の治癒期間を短縮することができたが、骨に欠陥が無い場合に、これが骨密度を改善できることを示さなかった。
【0008】
本発明は、当技術分野における、これらのおよび他の欠点を克服することに関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,273,028号
【特許文献2】米国特許第7,202,955号
【特許文献3】米国特許第4,530,360号
【特許文献4】米国特許第4,266,532号
【特許文献5】米国特許第4,266,533号
【特許文献6】米国特許第4,315,503号
【特許文献7】米国特許第3,890,953号
【特許文献8】米国特許第5,496,256号
【特許文献9】米国特許第7,029,276号
【特許文献10】米国特許第6,022,349号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Omar et al.,「Effect of Low Magnitude and High Frequency Mechanical Stimuli on Defects Healing in Cranial Bones」, J. Oral Maxillofac Surg. 66 : 1104-1111 (2008)
【非特許文献2】Garman et al., 「Low-level Accelerations Applied in the Absence of Weight Bearing Can Enhance Trabecular Bone Formation」, J. Orthop. Res. 25:732-740 (2007)
【非特許文献3】Rubin et al.,「Mechanical Strain, Induced Non-invasively in the High-Frequency Domain, is Anabolic to Cancellous Bone, But Not Cortical Bone」, Bone 30:445-452 (2002)
【非特許文献4】Ward et al., 「Low Magnitude Mechanical Loading is Osteogenic in Children with Disabling Conditions」, J. Bone Miner. Res. 19:360-369(2004)
【非特許文献5】Wolf et al.,「Effects of High-Frequency, Low-Magnitude Mechanical Stimulus on Bone Healing」, Clin. Orthopaedics ReI. Res. 385:192-198 (2001)
【非特許文献6】Chen et al.,「The Effects of Frequency of Mechanical Vibration on Experimental Fracture Healing」, Zhongua Wai Ke Za Zhi 32(4):217-219(1994)
【発明の概要】
【0011】
本発明の1つの局面は、対象の歯および/または他の頭蓋顔面領域における骨成長を増大させるための方法に関する。この方法は、0.1〜2.00gの加速度ピークで、振動数10〜1000Hzの機械振動を対象の顎および/または歯に適用して、顎および/または歯において1〜50マイクロストレインの小さな歪みを生じさせる工程を含む。
【0012】
本発明の別の局面は、歯ブラシである。歯ブラシは、細長い取っ手、取っ手から伸びる複数の剛毛、取っ手から伸びる硬表面突出部、および取っ手と連結している機械振動源を備える。機械振動源は、対象の歯に、0.1〜2.0gの加速度ピークで、振動数10〜1000Hzの機械振動を付与し、これにより、顎および/または歯において1〜50マイクロストレインを生じさせるのに有効な設計および位置を有する。
【0013】
本発明のさらに別の局面は、咬合床である。咬合床は、対象の口内の、相対する上歯と下歯の間に配置するのに適した表面、表面から伸びる硬表面突出部、および表面と連結している機械振動源を備える。機械振動源は、硬表面突出部が対象の歯に、0.1〜2.0gの加速度ピークで、振動数10〜1000Hzの機械振動を付与し、これにより、顎および/または歯において1〜50マイクロストレインを生じさせるのに有効な設計および位置を有する。
【0014】
本発明のさらに別の局面は、マッサージ装置である。マッサージ装置は、対象の顎または歯に対して配置するのに適した表面、表面から伸びる硬表面突出部、および表面と連結している機械振動源を備える。機械振動源は、硬表面突出部が、対象の歯に、0.1〜2.0gの加速度ピークで、振動数10〜1000Hzの機械振動を付与し、これにより、顎および/または歯において1〜50マイクロストレインを生じさせるのに有効な設計および位置を有する。
【0015】
本発明は、高振動数の小さな力を歯に加えて、歯槽骨の骨密度を増やすための独特の技法を提供する。本発明の方法および設計の独特の特徴の1つは、実用的に、(直接、骨ではなく)歯に力を加えて、歯および隣接する骨の周りの骨密度を増やすことである。
【0016】
要約すると、臨床医の関心対象である歯槽骨(すなわち、歯の周囲にある骨)の健康には、2つの側面がある。第1に、骨喪失をどのように阻止するか、第2に、骨喪失をどのように治療するかである。歯の周囲にある骨の喪失の阻止は現在の歯学における大問題であり、今までに解決策は見出されていない。骨が喪失すると最終的に歯が喪失し、さらに、インプラントなどの異なる歯科処置による歯の交換が非常に難しくなり、場合によっては、不可能になるので、これは重要である。本発明の設計は、高振動数の力の骨形成作用に関する確立した研究を初めて活用し、この科学的知識を頭蓋顔面骨格の領域に発展させる。本発明は、頭蓋顔面領域における骨の質および量を改善するための非侵襲的かつ費用対効果が大きな手法を提供する。簡単な器具を用いて毎日適用すると、歯槽骨の健康が増大し、さらなる骨喪失を阻止することができる。さらに、骨喪失が既に起こっている場合には、この非侵襲的な骨形成刺激は骨の量および質を改善するのに役立ち得る。
【0017】
骨喪失に対する現行の治療法は、主に、高価であるだけでなく侵襲的でもあり、結果が予測できない、移植片の適用による外科的処置である。さらに、超音波または磁石装置などの骨喪失を治療する他の方法は非常に複雑であり、使用するのに費用がかかる。本発明は、移植片を全く用いることなく骨密度を増やすことができるだけでなく、骨形成および好結果の可能性を高めるために、移植片材料または他の歯科処置(例えば、インプラント)と組み合わせることができる。この生理学的刺激は、骨形成細胞が最大限の骨形成作用を示すための環境を作り出す。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1Aおよび1Bは、本発明による歯ブラシの透視図である。図1Aは、歯ブラシのみを示すのに対して、図1Bは、歯ブラシを歯に使用している図を示す。
【図2】図2A〜2Cは、本発明による歯ブラシの頭部の異なる態様の透視図である。図中で、硬表面突出部は剛毛の中心にある(図2A)、一部が剛毛の中に突き出ている(図2B)、剛毛とは分かれている(図2C)。
【図3】図3Aおよび3Bは、本発明による咬合床装置の透視図である。
【図4】分解された(図4A)および組み立てられた(図4B)、本発明によるマッサージ装置の透視図である。
【図5】図5Aおよび5Bは、本発明によるマッサージ装置を歯に用いている図を示す。
【図6】図6A〜6Gは、本発明による歯ブラシ、咬合床、およびマッサージ装置の透視図である。図中、歯ブラシ、咬合床、およびマッサージ装置は、歯ブラシ、咬合床、およびマッサージ装置を動かすユニット式収納構成要素から着脱可能である。
【図7】機械振動源を示すために、部分的に切り取られた、本発明による装置の取っ手の模式図である。
【図8】図8Aおよび8Bは、シャム上顎骨および実験上顎骨からのmicroCT画像である。実験試料(図8B)の厚くかつ高密度の骨梁を示す、剥皮した(decorticortomized)上顎骨の三次元レンダリングを、シャム試料(図8A)と比較した。
【図9】シャム(すなわち、対照)試料(図9A)および実験試料(図9B)の、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した上顎の歯および骨の矢状断面の光学顕微鏡画像である。
【図10】図10A〜10Dは、上顎および下顎の歯および骨の矢状断面および横断面の蛍光顕微鏡画像である。縦方向(図10Aおよび10B)および軸方向(図10Cおよび10D)のメタクリレート切片を、固定した非脱灰試料から調製し、蛍光顕微鏡下で観察した。図10Aおよび10Cは、それぞれ、上顎骨および下顎骨のシャム試料からの切片を示す。図10Bおよび10Dは、それぞれ、上顎骨および下顎骨の実験試料からの切片を示す。実験試料における強い蛍光染色は骨形成の増加に対応することに留意のこと。図10Bおよび10Dを参照されたい。
【図11】図11A〜11Dは、microCTデータの定量分析を示す。シャム上顎骨試料および実験上顎骨試料のmicroCT分析から様々なパラメータを評価し、0日目からの変化のパーセントとしてグラフ化した。*シャムと有意差がある(p<0.05)。骨体積比(Bone Volume Fraction)(BV/TV)を図11Aに示した。骨梁数(Tb.N)を図11Bに示した。骨梁幅(Tb.Th)を図11Cに示した。骨梁間隔(Tb.Sp)を図11Dに示した。
【図12】図12A〜12Cは、microCTデータの定量分析を示す。具体的には、グラフは、対照(治療なし)と比較した、骨体積(図12A)、骨梁幅(図12B)、および骨梁間間隔(intertrabecular space)(図12C)のパーセント変化を示す。それぞれの数字は、3匹の動物からの平均±SDを表す(*は、対照と有意差があることを意味する(p<0.05))。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な説明
本発明の1つの局面は、対象の歯および/または他の頭蓋顔面領域における骨成長を増大させるための方法に関する。この方法は、0.1〜2.0gの加速度ピークおよび50〜500グラムの把持圧力で、振動数10〜1000Hzの機械振動を対象の顎および/または歯に適用して、顎および/または歯において1〜30マイクロストレインの小さな歪みを生じさせる工程を含む。
【0020】
高振動数の小さな力を歯に適用すると、欠損または損傷を全く伴うことなく、骨の質および量が改善することが発見されている。損傷または疾患の存在下で骨治癒プロセスを速めることもできる。このような力は、機械振動を歯に適用することによって加えることができる。振動は、振動数(すなわち、サイクル毎秒)および加速度(すなわち、速度変化率。ヤード・ポンド法(英国の体系)では、通常、G(地球表面での重力による平均加速度)の単位で測定される)を含む、物理的パラメータによって定義される。
【0021】
従って、本発明の1つの態様において、骨に適用される機械振動の振動数範囲は、10〜1000Hzである。別の態様において、振動は、さらに狭い範囲の振動数、例えば、50〜100Hz、30〜150Hz、または20〜250Hzを有してもよい。1つの態様において振動の加速度ピークは0.1〜2.0gである。さらに別の態様において、加速度ピークは0.1〜1.0gである。
【0022】
結果として生じる、骨における歪みは、一般的に、骨、この場合では顎および/もしくは歯が生理学的圧力によって変形する量(すなわち、骨における歪みの大きさ)によって定義される。骨において、この大きさは、マイクロストレイン(歪みx10-6)の単位で測定される。本発明の1つの態様において、骨組織において誘導される歪みの大きさは、1〜50マイクロストレインである。さらに別の態様において、骨組織において誘導される歪みは、1〜30マイクロストレインである。
【0023】
対象が機械振動を歯に適用する場合、把持力 (または適用力)もまた、歯に加えられる力に影響を及ぼす。把持力は、機械振動を適用するときに対象が歯に加える力である。従って、対象に加えられる、把持力は約50〜約500グラムでもよく、これは5cN(センチニュートン)〜5ニュートンの力に等しい。
【0024】
1つの態様において、対象は、歯周病による骨喪失を有する。歯の喪失により機械的刺激が無くなると、骨が大幅に喪失することが観察されている。この機械的刺激を適用することは、天然の刺激の喪失の代わりとなり、歯が喪失した後の骨の状態を維持/改善し、将来の歯の交換のために歯槽骨を保存することができる。
【0025】
さらに別の態様において、対象は、加齢による骨減少症を有する。本発明は、歯および他の頭蓋顔面領域の周囲にある骨の質、量、およびリモデリングを増大させるための非侵襲的な機構および装置を開示する。これは、特に、前記のように、歯周病により歯の周囲の骨を著しく喪失した患者、および加齢または骨粗鬆症により骨が減少した患者において重要である。
【0026】
別の態様において、対象は口腔インプラントを有する。さらに、1本の歯における振動の適用は、隣接する歯槽骨に対して全方向に広がることができ、その歯の下にのみ局所にとどまるということはない。この観察に基づいて、インプラントが入れられている領域に隣接する歯に機械的刺激を適用し、骨-インプラント反応(オステオインテグレーション)を改善することが可能である。これは、充填を支持するのに十分な程度まで、インプラントの周囲にある骨の質が改善するまで、現在、臨床医が待つ必要のある期間を短縮するのに役立ち得る。これは、インプラントに直接力を加えることなく達成される。
【0027】
さらに別の態様において、対象は頭蓋顔面外科手術または歯科口腔外科手術を受けたことがある。本発明の非侵襲的生理学的刺激は隣接する骨に広がることができ、手術部位を妨害することなく移植または外傷後の骨の治癒プロセスを改善する。これは、頭蓋顔面外科手術または歯科口腔外科手術(例えば、抜歯)を受けたことがある対象に有用である。
【0028】
さらに別の態様において、対象は、歯科矯正処置を受けている、または歯科矯正処置を受けたことがある。前記の方法は骨の質および量を増大できるので、骨が質の良い骨にリモデリングするまで長期間にわたり患者が維持装置を装着する必要のある歯科矯正処置後の保持時間を短くするのに役立つ。歯列矯正の速度は骨リモデリングの速度に依存することも示されている。従って、歯科矯正処置中に高振動数の小さな力を送ると歯列矯正が速まり、結果として、治療期間が短くなり、歯科矯正処置後の保持時間を短縮することができる。高振動数の小さな力を歯に送ると、歯科矯正診察後の患者の不快感を減らすこともできる。
【0029】
1つの態様において、骨成長は骨梁幅を促進する。さらなる態様において、骨成長は骨体積の増加を促進する。なおさらなる態様において、骨成長によって、骨梁突起(trabecular process)間の空間も減少する。
【0030】
なおさらなる態様において、骨成長を増大させるための方法は、下記で詳述するように歯ブラシを用いて行われる。
【0031】
別の1つの態様では、骨成長を増大させるための方法は、下記で詳述するように振動咬合床を用いて行われる。
【0032】
さらに別の態様において、骨成長を増大させるための方法は、下記で詳述するようにマッサージ装置を用いて行われる。
【0033】
本発明の別の局面は、歯ブラシである。歯ブラシは、細長い取っ手、取っ手から伸びる複数の剛毛、取っ手から伸びる硬表面突出部、および取っ手と連結している機械振動源を備える。機械振動源は、硬表面突出部が対象の歯に、0.1〜2.0gの加速度ピークで、振動数10〜1000Hzの機械振動を付与し、これにより、顎および/または歯において1〜50マイクロストレインを生じさせるのに有効な設計および位置を有する。
【0034】
振動に関して前述した範囲(すなわち、振動数、加速度ピーク、マイクロストレイン、および把持圧力の範囲)は、歯ブラシ10(下記で詳述)、咬合床100(下記で詳述)、およびマッサージ装置200(下記で詳述)を含む、本発明の任意の局面で使用できることが理解されるはずである。
【0035】
次に、図1Aを見ると、洗浄中に、硬表面突出部18(例えば、硬質ゴム表面)が同時に歯表面に触れるように、歯ブラシ10の頭部が改良されている場合に、高振動数を有する小さな力を歯Aに伝えることが発見されている。歯ブラシ10は、概して縦軸14に沿って伸びる細長い取っ手12、取っ手12から伸びる複数の剛毛16、取っ手12から伸びる硬表面突出部18、および取っ手12と連結している機械振動源20を備える。機械振動源20はオン/オフボタンまたはスイッチ22によって制御されてもよい。硬表面突出部18(図2A〜2Dに図示した)は振動の力を歯Aに伝えることができ、この力は間接的に骨に伝えられる。これにより、骨密度に対する身体活動の効果と同様に、骨形成細胞が歯の周囲にさらに強力な骨を生じるように促すのに十分な機械的刺激が得られる。骨密度を増やすための硬表面突出部18の振動および歯Aへの適用は、洗浄効率を高めるための剛毛の任意のタイプの洗浄の動き(例えば、円形、水平、垂直、またはその組み合わせ)と組み合わせることができる。
【0036】
一部の態様において、機械振動源は、取っ手12の中の中空空間に収容されるモーター駆動機構である(下記で詳述)。
【0037】
機械振動源20は、水平、円形、垂直、またはその組み合わせの振動を生じてもよい。図1Bに示したように、機械振動源20は、例えば、小さな力で高振動数の上下の動きを生じることができる。この動きは、ブラシの洗浄能力を最大限にするために、ブラシの回転運動と組み合わせることができる。
【0038】
次に、図2A〜2Cを見ると、硬表面突出部18は、複数の剛毛16と概して同じ方向であるが、剛毛16より小さい程度で、取っ手12から伸びてもよい。硬表面突出部18は、例えば、ゴム、シリコンゴム、プラスチックおよび/もしくはゴムのポリマーおよび/もしくはコポリマー、ラテックス、ならびに/または樹脂から形成されてもよく、例えば、シリコンゴムボールの形をとってもよい。硬表面突出部の特性は、歯に加えられた力が骨に伝わって、骨および歯への不快感または損傷を引き起こすことなく、1〜2500マイクロストレインを発生できるようなものでなければならない。病理学的範囲は、4,000〜5,000マイクロストレインである。
【0039】
図2A〜2Cに示したように、硬表面突出部18は、取っ手12から伸びる非常に多くの位置に配置することができる。1つの態様において、図2Aに示したように、硬表面突出部18は複数の剛毛16の中心から突き出ていてもよく、複数の剛毛16が硬表面突出部18を取り囲む、または一周している。
【0040】
別の態様において、図2Bに示したように、硬表面突出部18は一部分のみ剛毛16に取り囲まれるような配置をしてもよく、剛毛16は、細長い取っ手12の一端に配置され、硬表面突出部18は一部分のみ複数の剛毛16の中に伸びている。
【0041】
図2Cを見ると、別の態様において、硬表面突出部18は、剛毛16とは別個に、および/または剛毛16とは離れて配置される。
【0042】
剛毛16および硬表面突出部18が歯ブラシ10の同じ面にあるこれらの設計は、とりわけ、ブラッシングと、機械振動源20によって発生した力および振動数の歯への伝達とを同時に行うのに有用である。
【0043】
なおさらなる態様において、図6Dに示したように、硬表面突出部18は、細長い取っ手12の剛毛16とは反対の面または側に配置されてもよい。これらの設計は、とりわけ、最初にブラッシングを終え、次いで、これらの器具を用いて、高振動数の小さな力を歯に送りたい人に有用である。
【0044】
さらに別の態様において、複数の硬表面突出部は全て細長い取っ手の同じ面に配置されてもよく、細長い取っ手の相対する面に配置されてもよい。この態様は、取っ手の上にある硬表面突出部の前記の位置の任意の組み合わせを含んでもよい。
【0045】
さらに別の態様において、歯ブラシ10は、互いに着脱可能な第1の部分および第2の部分を有する細長い取っ手を備える。この態様において、複数の剛毛16および硬表面突出部18は第1の部分に取り付けられるのに対して、取っ手12は第2の部分を形成する。
【0046】
この態様は、歯ブラシ10が、第2の部分26(図6A)から着脱可能な第1の部分24(図6B〜6D)をさらに備える、図6A〜6Dおよび6Gに関して最も良く説明されている。この態様において、第2の部分26は、取っ手12、オン/オフスイッチ22、機械振動源20、および第2の部分26を第1の部分24に機能的に取り付けるためのシャフト28を備える。第1の部分24は、複数の剛毛16、硬表面突出部18、およびシャフト28を収容することによって第2の部分26に機能的に取り付けるための中空シャフト受け30を備える。硬表面突出部18は、例えば、剛毛16に取り囲まれる配置、または同じ面もしくは反対の面で剛毛16とは別個にある配置を含む、前記で詳述した任意の位置にあってもよい。この態様において、機械振動源20によって生じた力を、硬表面突出部18を介して歯に伝えるために、シャフト28は中空シャフト受け30に機能的に係合する。
【0047】
図6Gに図示したように、第2の部分26、126、226は、第1の部分24、124、224(下記でさらに詳述する)と機能的に係合されてもよいことが理解されるだろう。
【0048】
一部の態様において、機械振動源20は、図7に示したように、取っ手12、112(下記で説明)、212(下記で説明)の中の中空空間に収容されるモーター装置であってもよい。
【0049】
図7に関して、1つの態様において、振動源20は、電気モーター34のスピン運動を前後の動きに変換するカムおよびギアユニット32を備える。カムおよびギアユニット32はモーター34の一端に配置され、モーター34がカムおよびギアユニット32を直接駆動するように、カムおよびギアユニット32に機能的に接続される。これは、モーター34がシャフト38およびギア40の向きを変えることによって行われる。ギア40が回転すると、ギア42およびシャフト44の向きが変わる。次に、シャフト44が回転すると、アーム46が上下に動いて、ディスク48と、ホイール50の上に取り付けられてディスク52の中にある穴を通るシャフト28、128、および228とが相互回転する。ホイール50およびディスク52は、カムおよびギアユニット32の容器を形成する円筒形の壁60に強固に接続される。モーター34には、モーター34を駆動する充電式電池36が機能的に取り付けられる。電流は54aおよび54bを介して電池36とモーター34の間を通る。54aおよび54bは、それぞれ、ワイヤ56aおよび56bとつながっており、これらはスイッチ22、122、222に取り付けられる。ワイヤ58aおよび58bはスイッチ22、122、222をモーター34に連結する。機械振動源20に関して説明した特徴は機械振動源120、220(下記で説明)の特徴でもあることが理解されるはずである。
【0050】
歯ブラシ10、咬合床装置100(下記で詳述)、およびマッサージ装置200(下記で詳述)を含む本発明の任意の局面と共に、本発明による振動数および大きさの力を生じることができる任意の機械振動源を使用できることが当業者により理解されるだろう。機械振動源20は、電動歯ブラシと共に使用することが当技術分野において知られている任意のモーターでよい。
【0051】
本発明のさらに別の局面は、咬合床である。咬合床は、対象の口内の、相対する上歯と下歯の間に配置するのに適した表面、表面から伸びる硬表面突出部、および表面と連結している機械振動源を備える。機械振動源は、硬表面突出部が、対象の歯に、0.1〜2.0gの加速度ピークで、振動数10〜1000Hzの機械振動を付与し、これにより、顎および/または歯において1〜50マイクロストレインを生じさせるのに有効な設計および位置を有する。
【0052】
次に、図3Aおよび3Bを見ると、咬合床または咬合床装置100は、口内の上歯と下歯の間に配置するのに適した表面116を有する。表面116は、図3Aに示したように、概して縦軸114に沿って取っ手112から伸びる。硬表面突出部118は表面116から伸び、上歯および下歯に収容されるように、半円形構造、より具体的にはアーチ型またはU型を備えてもよい。硬表面突出部118の他の適切な形状には、上および/または下の歯列弓に大まかに一致し得る任意の形状が含まれる。咬合床100は、骨の量および質を改善するために、自宅で(毎日または毎週)短時間(例えば、5分)用いられてもよく、歯科検診の間に診察室で長時間(例えば、10〜20分)用いられてもよい。硬表面突出部118は、硬表面突出部18について前述した任意の材料で作られてもよいことが理解されるはずである。
【0053】
前記で列挙した骨成長を増大させるための方法は、歯科矯正処置を受けたことのある対象の治療において有用であるので、場合によっては、歯を全て同時に振動させることが特に重要であり得る。従って、振動咬合床100を使用することができる。
【0054】
さらに図3Aに関して、機械振動源120は表面116と連結しており、オン/オフボタンまたはスイッチ122によって制御される。機械振動源120は咬合床装置100と連結しており、機械振動源20に関して前述したのと同じ力および振動数の振動を生じさせる。例えば、図3Bに示したように、機械振動源120は、例えば、高振動の小さな力で数の上下の動きを生じることができる。
【0055】
さらに別の態様において、咬合床装置100は、互いに着脱可能な第1の部分および第2の部分を有する表面を備える。この態様において、硬表面突出部118は第1の部分に取り付けられるのに対して、取っ手112は第2の部分を形成する。この態様は、図6に関して最も良く説明されている。図6Aおよび6Eに関して、咬合床装置100の1つの態様は、取っ手112を有する第2の部分126(図6A)から着脱可能な表面116の第1の部分124(図6E)をさらに備えてもよい。この態様において、第2の部分126は、取っ手112、オン/オフスイッチ22、機械振動源120、および第1の部分124に機能的に取り付けるためのシャフト128を備える。第1の部分124は、硬表面突出部118、および第1の部分124を第2の部分126に機能的に取り付けるための中空シャフト受け130を備える。この態様において、シャフト128は、機械振動源120によって生じた力を、硬表面突出部118を介して歯に伝えるように、中空シャフト受け130と機能的に係合する。図6Gを参照されたい。
【0056】
このような振動咬合床は、例えば、様々なサイズの歯列のために、小さなサイズ、中間のサイズ、および大きなサイズを含む多くのサイズで作ることができることが当業者に理解されるだろう。
【0057】
本発明のさらに別の局面は、マッサージ装置である。マッサージ装置は、対象の顎または歯に対して配置するのに適した表面、表面から伸びる硬表面突出部、ならびに表面と連結している機械振動源であって、硬表面突出部が、対象の歯に、0.1〜2.0gの加速度ピークで、振動数10〜1000Hzの機械振動を付与し、これにより、顎および/または歯において1〜50マイクロストレインを生じさせるのに有効な設計および位置を有する、機械振動源を備える。
【0058】
頭蓋顔面骨におけるこの刺激が広範囲に用いられるために、高振動数の小さな力を有する携帯型振動マッサージ200を、骨折、外科的介入、または他の任意の骨欠損後の他の頭蓋顔面領域における骨治癒領域の周りで使用することができる。図4A〜4Bに関して、マッサージ装置200は、対象の顎または歯に対して配置するのに適した取っ手212(縦軸214に沿って伸びる)、取っ手212から伸びる硬表面突出部218、および取っ手212に連結している機械振動源220を備える。機械振動源220はマッサージ装置200と連結しており、前記と同じ力および振動数の振動を生じさせる。
【0059】
図5Aおよび5Bに示したように、マッサージ装置200は個々の歯Aに直接適用される。同じ設計を用いて、発育障害のある小児における頭蓋顔面縫合または下顎骨関節突起の成長を早めることができる。
【0060】
一部の態様において、硬表面突出部218は、硬表面突出部18、118について前述した任意の材料で作られてもよく、例えば、ゴム先端部の形をとってもよい。図4Aに関して、硬表面突出部218は、簡単に洗浄、消毒、または交換できるように着脱可能でもよい。
【0061】
マッサージ装置または器具200は、とりわけ、その時点で、例えば、他の歯を無くしている、歯科インプラントを配置する、および/または局所的な歯周病などの歯科環境のために、高振動数の小さな力を1本の歯の周りに加えたい人に有用である。図5A〜5Bに示したように、高振動数の小さな力をそれぞれの歯Aに送るために、操作中に硬表面突出部218は個々の歯Aと別々に接触する。
【0062】
さらに別の態様において、マッサージ装置200は、互いに着脱可能な第1の部分および第2の部分を有する。この態様において、硬表面突出部218は第1の部分の一部であるのに対して、取っ手212は第2の部分の一部である。この態様は、図6に関して最も良く説明されている。図6Aおよび6Fに関して、マッサージ装置200は、取っ手212を有する第2の部分226から着脱可能な、硬表面突出部218を有する第1の部分224をさらに備える。この態様において、第2の部分226は、取っ手212、オン/オフスイッチ222、機械振動源220、および第1の部分224に機能的に取り付けるためのシャフト228を備える。第1の部分224は、硬表面突出部218、および第2の部分226に機能的に取り付けるための中空シャフト受け230(概して縦軸214と平行な位置にある)を備える。この態様において、シャフト228は、機械振動源220によって生じた力を、硬表面突出部218を介して歯に伝えるように、中空シャフト受け230(概して縦軸214と平行な位置にある)と機能的に係合する。
【実施例】
【0063】
実施例1-高振動数の小さな力が歯を介して加えられると、上顎骨および下顎骨における骨形成活性を増大することができる。
以下の実施例の目的は、高振動数の小さな力を歯に加えると、歯槽骨の密度が増大するかどうかを調べることであった。48匹のSpraque-Dawleyラットをシャム(すなわち、対照)群および実験群に分けた。実験群の上顎および下顎の右第一大臼歯の咬合面に、120hzの振動数および0.3gの力の局所振動を、(吸入麻酔下で)毎日5分間、与えた。この実験は28日間行った。マイクロコンピューティッドトモグラフィー(microcomputed tomography)(microCT)および組織形態計測を用いて、上顎および下顎の歯槽骨を評価した。
【0064】
平均体重36Og(範囲296〜423g、120日齢)の成体雄Sprague-Dawleyラット(n=48)をプラスチックケージに入れ、同一の「優良実験室飼料(good laboratory diet)」および水と、毎日の獣医学的管理、実験動物の収容に関するIACUCガイドラインに従った照明および空調を与えた。
【0065】
48匹の動物を2つの群-それぞれシャム群および実験群に分けた。シャム群には、吸入麻酔(イソフルオラン(isofluorane))のみを毎日与えた。実験群には、毎日、吸入麻酔をかけ、上顎および下顎の右第一大臼歯の咬合面に、120hzの振動数および0.3gの加速度(5マイクロストレインの力でピークになる)の振動力を与えた。
【0066】
振動の大きさおよび振動数の一貫性および再現性を確実にするために、振動装置は、データ収集システム(SCXI-1000, SCXI-1531, Labview 8.0)によって統合された、加速度計(Xbow CXL10HF3)および銅-ニッケル元素歪みゲージ(東京測器研究所,FRA-1-11-3LT)を用いて較正した。
【0067】
振動は毎日行い、計28日間続いた。骨の標識は、1日目にキシレノールオレンジ(90mg/kg)、16日目にカルセイン(15mg/kg)、26日目にデメクロサイクリン(25mg/kg)を腹腔内注射することによって行った。
【0068】
28日目の後に、機械的刺激に対する完全な細胞応答を可能にするために、吸入麻酔または振動を全く伴わずに、ラットをもう4日間さらに維持した。4日の休息期間の後に、全ての群をCO2中毒により屠殺し、上顎骨および下顎骨を解剖し、ホルムアルデヒドで48時間固定した後に、70%エタノールに入れて保管した。
【0069】
試料は、microCT(Scanco 40)機械によって、HPオープンプラットフォーム(オープンVMS Alpha Version 1.3-1セッションマネージャー)にあるmicroCT V6.0ソフトウェアを用いて分析した(分析のためのパラメータは下記の表1に記載した)。標本を、上顎骨の片側部全体に対して、55KVp、中分解能、200枚のスライスでスキャンした。使用した積分時間(integration time)は150msであり、それぞれのインクリメントは36μmであった。第3歯冠部歯根(coronal root third)と第3根尖部歯根(apical root third)との接合部からの面積を、それぞれ平均26枚のスライスのスライス切片での骨変化についてスキャンした。骨体積/総体積の分析は、microCT V6.0ソフトウェアと、275の閾値を用いて計算した。シャム上顎骨および実験上顎骨からのMicroCT画像を図8Aおよび図8Bに示した。結果として、組織学的分析のために試料を調製した。
【0070】
同じ試料を脱水し、パラフィンに包埋し、5μm切片を切断し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、Scan Scope GL光学顕微鏡(Aperio, Bristol, UK)で10Xでスキャンした。上顎の歯および骨の矢状断面の光学顕微鏡画像を、図9A(シャム試料)および図9B(実験試料)に示した。
【0071】
類似の試料をメタクリレートに入れて包埋し、非脱灰切片を蛍光顕微鏡に使用した(Nikon顕微鏡観察およびNIS-Elementsソフトウェア)。図10A〜10Dは、上顎および下顎の歯および骨の矢状断面および横断面の蛍光顕微鏡を示す。上顎骨のシャム試料および下顎骨のシャム試料の切片を、それぞれ、図10Aおよび図10Cに示し、上顎骨の実験試料および下顎骨の実験試料の切片を、それぞれ、図10Bおよび図10Dに示した。図10Bおよび図10D(実験試料)に示した強い蛍光染色は、骨形成の増加に対応する。
【0072】
異なる群の分析から、実験群は、シャム群および対照群と比較して、同じ期間にわたって骨の質を大幅に増大させたことが明らかになった。
【0073】
定性分析から、骨リモデリング活性が増大して、図8Aおよび8Bに示したように、厚くかつ高密度の骨梁が生じたことが明らかになった。図8Aにおいて、microCT画像は、シャム上顎骨および実験上顎骨からの剥皮した上顎骨を示す。実験試料において、シャム試料と比較して厚くかつ高密度の骨梁が示された。
【0074】
シャム上顎骨試料および実験上顎骨試料のmicroCT分析から様々なパラメータを評価し、0日目からの変化のパーセントとしてグラフ化し、図11A〜11Dに示した(*対照と有意差がある(p<0.05))。以下の表1は、microCT定量分析によって評価したパラメータを示す。
【0075】
(表1)MicroCT定量分析によって評価したパラメータ

【0076】
0日目からの変化のパーセントとして、図11A〜11Dに示したmicroCTデータの定量分析を、以下の表2に示した。
【0077】
(表2) 図11に示したmicroCTデータの定量分析

【0078】
この結果から、大臼歯の咬合面に加えられた高振動数の小さな力によって、上顎骨の骨体積比が16%増加し、下顎骨の骨体積比が12%増加したことが証明された。この研究の結果から、高振動数の小さな力が歯を介して加えられた時に、上顎骨および下顎骨における骨形成活性を増大できることが証明された。この骨形成活性は骨体積の増加をもたらす。骨体積の増加は、主に、骨梁突起の厚さが増大したことによる。結論として、歯を介して加えられた局所的な高振動数の小さな力は、歯槽骨の骨密度を増大させる。
【0079】
実施例2-60Hz、120Hz、および200Hzの高振動数の小さな力が歯を介して加えられると、骨体積を増加させ、骨梁幅を増加させ、かつ骨梁間間隔を減少させることができる。
実施例1に記載の材料および方法を用いて、ラットを4つの群に分けた。1つの群には60Hzの高振動数の振動を与え、第2の群には120Hzの高振動数の振動を与え、第3の群には200Hzの高振動数を与えた。全ての振動力は、ラット上顎骨の上顎第一大臼歯に加えられる、同様の小さな力(5マイクロストレイン)を有した。第4の群(すなわち、対照群)には振動を全く与えなかった。5分間の振動の適用を容易にするために、全ての動物に、毎日、吸入麻酔をかけた。
【0080】
28日目の後に、機械的刺激に対する完全な細胞応答を可能にするために、吸入麻酔または振動を全く伴わずに、ラットをもう4日間さらに維持した。4日の休息期間の後に、全ての群をCO2中毒により屠殺し、上顎骨および下顎骨を解剖し、ホルムアルデヒドで48時間固定した後に、70%エタノールに入れて保管した。
【0081】
実施例1に記載のようにmicroCTスキャンから、骨体積/総体積、骨梁幅、および骨梁間間隔を評価した(これらの値は前記の表1に定義した)。図12A〜12Cに示したパーセント変化は対照群(治療なし)との比較である。それぞれの数字は、3匹の動物からの平均±SDを表す(*は対照と有意差がある (p<0.05))。
【0082】
図12Aを見ると、結果は、60Hz振動数の振動が送られた時に、骨体積が対照より約13%増加し、120Hz振動数の振動が送られた時に、骨体積が対照より19%増加し、200Hzが送られた時に、18%増加したことを示す。
【0083】
図12Bを見ると、結果は、60Hz振動数の振動が送られた時に、骨梁幅が対照より約25%増加し、120Hz振動数の振動が送られた時に、骨梁幅が対照より45%増加し、200Hzが送られた時に、46%増加したことを示す。
【0084】
図12Cを見ると、結果は、60Hz振動数の振動が送られた時に、骨梁間間隔が対照と比較して約21%減少し、120Hz振動数の振動が送られた時に、骨梁間間隔が対照と比較して39%減少し、200Hzが送られた時に、37%減少したことを示す。
【0085】
この実験の結果から、高振動数の小さな力が歯を介して加えられると、骨体積を増加、骨梁幅を増加、骨梁間間隔を減少できることが証明された。
【0086】
好ましい態様が本明細書において詳細に図示および説明されたが、本発明の精神から逸脱することなく様々な変更、付加、置換などが可能であり、従って、添付の特許請求の範囲に定義されたように、これらは本発明の範囲内とみなされることが関連分野の当業者に明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、対象の歯および/または他の頭蓋顔面領域における骨成長を増大させるための方法:
0.1〜2.0gの加速度ピークで、振動数10〜1000Hzの機械振動を対象の顎および/または歯に適用して、顎および/または歯において1〜50マイクロストレインの小さな歪みを生じさせる工程。
【請求項2】
振動の振動数が20〜250Hzである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
加速度ピークが0.1〜1.0gである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
小さな歪みが1〜30マイクロストレインである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
振動が水平、円形、垂直、またはその組み合わせである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
対象が歯周病を有する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
対象が加齢による骨減少症を有する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
対象が口腔インプラントを有する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
対象が頭蓋顔面外科手術または歯科口腔外科手術を受けたことがある、請求項1記載の方法。
【請求項10】
対象が歯科矯正処置を受けている、または歯科矯正処置を受けたことがある、請求項1記載の方法。
【請求項11】
骨成長が骨梁幅を促進する、請求項1記載の方法。
【請求項12】
骨成長が骨体積の増加を促進する、請求項1記載の方法。
【請求項13】
骨成長が骨梁突起間の空間の減少を達成する、請求項 1記載の方法。
【請求項14】
歯ブラシを用いて行われる、請求項1記載の方法。
【請求項15】
咬合床を用いて行われる、請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記適用に供されるための、歯または他の頭蓋顔面領域における骨成長を必要とする対象を選択する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
細長い取っ手と、
該取っ手から伸びる複数の剛毛と、
該取っ手から伸びる硬表面突出部と、
該取っ手と連結している機械振動源であって、該硬表面突出部が、対象の歯に、0.1〜2.0gの加速度ピークで、振動数10〜1000Hzの機械振動を付与し、これにより、顎および/または歯において1〜50マイクロストレインを生じさせるのに有効な設計および位置を有する、機械振動源と
を備える、歯ブラシ。
【請求項18】
機械振動源が、対象の歯に、振動数20〜250Hzの機械振動を付与する、請求項17記載の歯ブラシ。
【請求項19】
機械振動源が、対象の歯に、0.1〜1.0gの加速度ピークで機械振動を付与する、請求項17記載の歯ブラシ。
【請求項20】
機械振動源が、1〜30マイクロストレインの小さな歪みを生じさせる、請求項17記載の歯ブラシ。
【請求項21】
硬表面突出部がゴムである、請求項17記載の歯ブラシ。
【請求項22】
機械振動源が、水平、円形、垂直、またはその組み合わせの振動を生じさせる、請求項 17記載の歯ブラシ。
【請求項23】
硬表面突出部が、複数の剛毛と概して同じ方向に取っ手から伸びているが、該複数の剛毛より小さい程度に伸びている、請求項17記載の歯ブラシ。
【請求項24】
細長い取っ手が、互いに着脱可能な第1の部分および第2の部分を有し、複数の剛毛および硬表面突出部が第1の部分に取り付けられている、請求項17記載の歯ブラシ。
【請求項25】
対象の口内の、相対する上歯と下歯の間に配置するのに適した表面と、
該表面から伸びる硬表面突出部と、
該表面と連結している機械振動源であって、該硬表面突出部が、対象の歯に、0.1〜2.0gの加速度ピークで、振動数10〜1000Hzの機械振動を付与し、これにより、顎および/または歯において1〜50マイクロストレインを生じさせるのに有効な設計および位置を有する、機械振動源と
を備える、咬合床。
【請求項26】
機械振動源が、対象の歯に、振動数20〜250Hzの機械振動を付与する、請求項25記載の咬合床。
【請求項27】
機械振動源が、対象の歯に、0.1〜1.0gの加速度ピークで機械振動を生じさせる、請求項25記載の咬合床。
【請求項28】
機械振動源が1〜30マイクロストレインの小さな歪みを生じさせる、請求項25記載の咬合床。
【請求項29】
硬表面突出部が硬質ゴムである、請求項25記載の咬合床。
【請求項30】
機械振動源が、水平、円形、垂直、またはその組み合わせの振動を生じさせる、請求項25記載の咬合床。
【請求項31】
前記表面が、一対の相対する上歯と下歯の間に合うように構成されている、請求項25記載の咬合床。
【請求項32】
前記表面が、複数の相対する上歯と下歯の間に合うように構成されている、請求項25記載の咬合床。
【請求項33】
前記表面が、互いに着脱可能な第1の部分および第2の部分を有し、硬表面突出部が第1の部分に取り付けられている、請求項25記載の咬合床。
【請求項34】
対象の顎または歯に対して配置するのに適した表面と、
該表面から伸びる硬表面突出部と、
該表面と連結している機械振動源であって、該硬表面突出部が、対象の顎または歯に、0.1〜2.0gの加速度ピークで、振動数10〜1000Hzの機械振動を付与し、これにより、顎および/または歯において1〜50マイクロストレインを生じさせるのに有効な設計および位置を有する、機械振動源と
を備える、マッサージ装置。
【請求項35】
機械振動源が、対象の歯に、振動数20〜250Hzの機械振動を付与する、請求項34記載のマッサージ装置。
【請求項36】
機械振動源が、対象の歯に、0.1〜1.0gの加速度ピークで機械振動を付与する、請求項34記載のマッサージ装置。
【請求項37】
機械振動源が、1〜30マイクロストレインの小さな歪みを生じさせる、請求項34記載のマッサージ装置。
【請求項38】
硬表面突出部がゴムである、請求項34記載のマッサージ装置。
【請求項39】
機械振動源が、水平、円形、垂直、またはその組み合わせの振動を生じさせる、請求項34記載のマッサージ装置。
【請求項40】
前記表面が、互いに着脱可能な第1の部分および第2の部分を有し、硬表面突出部が第1の部分に取り付けられている、請求項34記載のマッサージ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図6F】
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【図6G】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【公表番号】特表2012−501760(P2012−501760A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526295(P2011−526295)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【国際出願番号】PCT/US2009/056313
【国際公開番号】WO2010/030630
【国際公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(511060836)ニューヨーク・ユニバーシティ (2)
【Fターム(参考)】