説明

頭部用放射線断層撮影装置

【課題】簡便に被検体をセッティングすることができ、安全な放射線断層撮影装置を提供する。
【解決手段】実施例1の構成では、被検体Mの前頭部を保持するヘッドレスト8aを備えている。これにより、被検体Mを仰臥させなくても頭部検査を行うことができるので、被検体Mの載置が楽である。また、被検体Mを椅子10に座らせて前頭部をヘッドレスト8aに当接させるだけで、被検体Mの頭部の位置決めが完了となるので、ガントリ11に被検体Mが干渉することのない安全性の高い頭部用放射線断層撮影装置が提供できる。また、被検体Mが突発的に移動したとしても、従来構成のように天板から落ちてしまうことがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体から放射される消滅放射線を検出して、被検体内の放射性薬剤分布のイメージングを行う放射線断層撮影装置に係り、特に、頭部診断用の頭部用放射線断層撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療機関には、放射性薬剤の分布をイメージングする放射線断層撮影装置が配備されている。このような放射線断層撮影装置の具体的な構成について説明する。従来の放射線断層撮影装置は、放射線を検出する放射線検出器が円環状に並んで構成される検出器リングが備えられている。この検出器リングは、被検体内の放射性薬剤から互いに反対方向に発する一対の放射線(消滅放射線対)を検出する(特許文献1,特許文献2,特許文献3,特許文献4,特許文献5,特許文献6参照)。
【0003】
従来の放射線断層撮影装置の具体的な構成について説明する。従来の放射線断層撮影装置50は、図11に示すように被検体Mを載置する天板52と、消滅放射線対を検出する検出器リング62とを備えている。検出器リング62の開口は天板52ごと被検体Mを挿入できるようになっている。
【0004】
従来の放射線断層撮影装置50を用いて、被検体Mの頭部における放射性薬剤の分布を知ろうとする場合は、被検体Mの頭部が検出器リング62の開口の内部に存する位置に移動される。そして、被検体Mの頭部から放出された消滅放射線対の発生位置をイメージングして放射線断層画像が取得される。この様な放射線断層撮影装置をPET(positron emission tomography)装置と呼ぶ。
【0005】
検査中は被検体Mが天板52に仰臥された状態となっているので、従来の放射線断層撮影装置50においては、検査開始前に術者が被検体Mを天板52に仰臥させておく必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−000570号公報
【特許文献2】特開2001−46439号公報
【特許文献3】特開2000−20190号公報
【特許文献4】特開2007−519451号公報
【特許文献5】特開2007−209405号公報
【特許文献6】特開2003−289974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の放射線断層撮影装置には次のような問題点がある。すなわち、従来の放射線断層撮影装置には、被検体Mを長時間仰臥させなければならず、それにより、撮影作業が困難になる場合がある。
【0008】
すなわち、被検体Mを天板52に載置させようとする場合、被検体Mによっては、自力で天板52に仰臥できない場合がある。この場合、術者等が被検体Mを天板52に載置することになり、かなりの手間と労力が必要となる。また、肺機能に障害がある被検体Mにとっては、仰臥位は負担がかかる体位である。放射線断層撮影装置では、放射線の検出に90分程度の時間がががるので、このような被検体Mにとって、放射線断層撮影は、かなり負担の大きなものとなってしまう。
【0009】
また、装置の安全性の上でも従来の放射線断層撮影装置には問題がある。すなわち、従来の放射線断層撮影装置では、天板52を長手方向に移動させることで被検体Mの頭部を検出器リング62の内部に導入する。このとき、被検体Mの頭部が検出器リング62(正確にはそれを覆うガントリ51)に干渉しないように術者が気を配る必要がある。また、被検体Mが突発的に動いてしまうと、被検体Mが天板52から落下してしまうこともありえる。
【0010】
また、取得される断層像の視認性の上でも従来の放射線断層撮影装置には問題がある。すなわち、従来の放射線断層撮影装置50では、被検体Mの体動により頭部の位置が検査中にズレてしまうことがある。すると、断層像には、検査開始時と終了時で位置が違う被検体Mの頭部が写り込んでいることになるので、断層像はボケる。しかも、断層像のボケは特に被検体Mの前頭部において顕著である。天板52は、被検体Mの頭部を後頭部側から支持する。従って、被検体Mの前頭部は、後頭部に比べて動きやすいのである。また、被検体Mの首は、頭部のより後頭部側に位置している。従って、被検体Mが首をひねって頭部を動かそうとすると、被検体Mの後頭部よりも前頭部の方がより大きく動くのである。このように、被検体Mの前頭部は、検査中に位置がズレやすいのである。
【0011】
この発明は、この様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、簡便に被検体をセッティングすることができ、安全で視認性の優れた断層像を取得することができる放射線断層撮影装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上述の課題を解決するために次のような構成をとる。
すなわち、本発明に係る頭部用放射線断層撮影装置は、被検体の頭部から透過してきた放射線を検出する放射線検出手段と、放射線検出手段から出力される検出信号を基に画像を生成する画像生成手段と、座位状態の被検体を載置する保持手段とを備え、保持手段が、被検体が座る椅子と、被検体の前頭部を保持するヘッドレストとを備えることを特徴とするものである。
【0013】
[作用・効果]本発明によれば、座位状態の被検体の頭部について放射線の検出を行う頭部用放射線断層撮影装置となっている。つまり、椅子に座した状態の被検体の頭部が放射線検出手段によって検査されることになる。本発明では、被検体の前頭部を保持するヘッドレストを備えている。これにより、被検体の頭部が保持されが検査中にズレることがない。
【0014】
また、被検体を仰臥させなくても頭部検査を行うことができるので、被検体の載置が楽である。また、肺機能に障害がある被検体について測定を行おうとする場合に被検体の負担が軽減される。また、被検体を椅子に座らせて前頭部をヘッドレストに当接させるだけで、被検体の頭部の位置決めが完了となるので、ガントリに被検体が干渉することのない安全性の高い頭部用放射線断層撮影装置が提供できる。また、被検体が突発的に移動したとしても、従来構成のように天板から落ちてしまうことがない。
【0015】
また、上述の構成にすれば、検査中に被検体の前頭部の位置がズレてしまうことがないので、取得される断層像はボケることがない。従って視認性の優れた断層像を取得することができる頭部用放射線断層撮影装置が提供できる。
【0016】
また、上述の頭部用放射線断層撮影装置において、椅子を回転させる椅子回転手段と、椅子をヘッドレストに対して接近・離反させる椅子移動手段と、椅子回転手段を制御する椅子回転制御手段と、椅子移動手段を制御する椅子移動制御手段とを備えればより望ましい。
【0017】
[作用・効果]上述の構成によれば、椅子が回転、およびヘッドレストに対して接近・離反する構成となっている。この様な構成とすれば、被検体を頭部用放射線断層撮影装置にセッティングする際に便利である。
【0018】
また、上述の頭部用放射線断層撮影装置において、椅子移動手段は、椅子をヘッドレストに接近させる際に、椅子を椅子の上部がヘッドレストに近づくように傾斜させて被検体を前傾させ、保持手段が、前頭部がヘッドレストに保持された前傾状態の被検体における胸部を支持する胸部支持部材を更に備えればより望ましい。
【0019】
[作用・効果]上述の構成によれば、被検体が前傾姿勢の状態で検査が行われる。この様にすると、検査中、被検体の視線は下を向くことになる。仰臥位の場合、被検体の視線は天井を向くことになり、この場合は、被検体の視線が定まらず、被検体が不安に陥りやすい。上述の構成のように、被検体の視線を下に向けるようにすれば、被検体が不安に陥ることなく、被検体の負担の少ない頭部用放射線断層撮影装置が提供できる。また、上述の構成においては、胸部支持部材が設けられているので、被検体が前傾姿勢となっても、胸部支持部材が確実に被検体を支えるので被検体を確実に支持することができる。
【0020】
また、上述の頭部用放射線断層撮影装置において、保持手段が、前頭部がヘッドレストに保持された被検体の腕部を支持する腕部支持部材を更に備えればより望ましい。
【0021】
また、上述の頭部用放射線断層撮影装置において、保持手段が、前頭部がヘッドレストに保持された被検体の脛部を支持する脛部支持部材を更に備えればより望ましい。
【0022】
[作用・効果]上述の構成は、本発明の具体的な態様を表したものとなっている。すなわち、上述のように保持手段に被検体の腕部、脛部を支持する部材を設けるようにすれば、検査中に被検体がこれら部材にもたれることができるので、被検体の負担の少ない頭部用放射線断層撮影装置が提供できる。
【0023】
また、上述の頭部用放射線断層撮影装置において、椅子が、被検体が寄りかかるための背もたれを備えればより望ましい。
【0024】
[作用・効果]上述の構成は、本発明の具体的な態様を表したものとなっている。すなわち、上述のように椅子に背もたれを有するようにすれば、被検体を椅子に座らせて待機させる際に被検体がこの背もたれを利用することができるので、被検体の負担の少ない頭部用放射線断層撮影装置が提供できる。
【0025】
また、上述の頭部用放射線断層撮影装置において、放射線検出手段は、被検体の頭部から発した消滅放射線対を検出する放射線検出器が円環状に配列した検出器リングであればより望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例1に係る放射線断層撮影装置の構成を説明する機能ブロック図である。
【図2】実施例1に係る各部保持部材の構成を説明する斜視図である。
【図3】実施例1に係る椅子の回転を説明する模式図である。
【図4】実施例1に係る椅子の回転を説明する模式図である。
【図5】実施例1に係る椅子の移動を説明する模式図である。
【図6】実施例1に係る椅子の移動を説明する模式図である。
【図7】実施例1に係る放射線検出器の構成を説明する斜視図である。
【図8】実施例1に係る検出器リングの構成を説明する模式図である。
【図9】実施例1に係る検出器リングの構成を説明する模式図である。
【図10】実施例1に係る放射線断層撮影装置の動作を説明するフローチャートである。
【図11】従来構成の放射線断層撮影装置を模式図である。
【実施例1】
【0027】
<放射線断層撮影装置の構成>
以下、本発明に係る放射線断層撮影装置の各実施例を図面を参照しながら説明する。実施例1におけるγ線は、本発明の放射線の一例である。図1は、実施例1に係る放射線断層撮影装置の構成を説明する機能ブロック図である。実施例1に係る放射線断層撮影装置9は、被検体Mが座る椅子10と、椅子10の背もたれ10aをその長手方向(z方向:垂直方向)から導入させる開口を有するガントリ11と、ガントリ11の内部に設けられた背もたれ10aをz方向に導入させるリング状の検出器リング12とを備えている。検出器リング12に設けられた開口は、z方向に伸びた円筒形となっている。したがって、検出器リング12自身もz方向に延伸している。検出器リング12は、被検体Mの頭部から発し、透過してきた消滅γ線対を検出する目的で設けられている。検出器リング12は、本発明の放射線検出手段に相当する。
【0028】
ガントリ移動機構13は、ガントリ11をz方向に移動させる目的で設けられている。ガントリ移動制御部14は、ガントリ移動機構13を制御する目的で設けられている。
【0029】
椅子10は、被検体Mが寄りかかるための背もたれ10aと被検体Mが座るための座板10bとからなっている。ヘッドレスト8aは、検査中の被検体Mの前頭部を保持する目的で設けられている部材であり、胸部支持部材8bは、検査中の被検体Mの胸部を保持する目的で設けられている部材である。そして、腕部支持部材8cは、検査中の被検体Mの腕部を保持する目的で設けられている部材であり、脛部支持部材8dは、検査中の被検体Mの脛部を保持する目的で設けられている部材である。椅子10,ヘッドレスト8a,胸部支持部材8b,腕部支持部材8c,脛部支持部材8dは、座位状態の被検体Mを載置する保持具7となっている。保持具7のうち、椅子10以外のヘッドレスト8a,胸部支持部材8b,腕部支持部材8c,脛部支持部材8dをまとめて各部保持部材8と呼ぶことにする。実施例1の構成において、各部保持部材8を構成する各部材8a,8b,8c,8dの位置関係は、検査中は変更されない構成となっている。保持具7は、本発明の保持手段に相当する。
【0030】
図2は、各部保持部材8の外観を示す斜視図である。腕部支持部材8cは、右腕用と左腕用の2つが設けられており、同様に脛部支持部材8dは、右足用と左足用の2つが設けられている。被検体Mの体格に合わせて各部材8a,8b,8c,8dの位置関係は、検査開始前に微調整できるようになっている。ヘッドレスト8aと胸部支持部材8bとの間には隙間が空いており、この隙間を通じて術者の視界が解放されている。
【0031】
椅子回転機構15は、椅子10をz軸を回転軸として回転させる目的で設けられている。図3は、椅子10が各部保持部材8に対して90度の向きになっている状態を示している。椅子回転機構15により椅子10が回転されると、図4に示すように、椅子10の背もたれ10aが各部保持部材8から遠ざかるように椅子10が回転される。この図4の状態の椅子10に被検体Mが座っているとすれば、被検体Mは、各部保持部材8に向き合うことになる。椅子回転制御部16は、椅子回転機構15を制御する目的で設けられている。椅子回転制御部16は、本発明の椅子回転制御手段に相当し、椅子回転機構15は、本発明の椅子回転手段に相当する。
【0032】
椅子移動機構17は、椅子10を各部保持部材8に対して接近・離反させる目的で設けられている。椅子移動制御部18は、椅子移動機構17を制御する目的で設けられている。図5は、椅子10と各部保持部材8とが互いに離反した状態を図示している。この状態において椅子10の座板10bは、検査室の床面と平行となっている。椅子移動制御部18は、本発明の椅子移動制御手段に相当し、椅子移動機構17は、本発明の椅子移動手段に相当する。
【0033】
椅子移動機構17により、椅子10が各部保持部材8に対して接近すると、図6に示すように、椅子10は、各部保持部材8に接近するとともに、椅子10に座っている被検体Mが前のめりになるように椅子10が傾斜される。すなわち、椅子移動機構17は、椅子10を各部保持部材8に接近させる際に、椅子10を背もたれ10aの上部がヘッドレスト8aに近づくように傾斜させて被検体Mを前傾させる。このとき、胸部支持部材8bが前傾状態の被検体Mにおける胸部を支持するので、前傾状態の被検体Mは、確実に各部保持部材8に支持されることになる。
【0034】
次に、同時計数部20について説明する。同時計数部20には、検出器リング12から出力された検出信号が送られてきている。検出器リング12に同時に入射した2つのγ線は、被検体内の放射性薬剤に起因する消滅γ線対である。同時計数部20は、検出器リング12を構成するシンチレータ結晶Cのうちの2つの組み合わせ毎に消滅γ線対が検出された回数をカウントし、この結果を画像生成部21に送出する。なお、同時計数部20による検出データの同時性の判断は、クロック19によって検出データに付与された時刻情報が用いられる。画像生成部21は、本発明の画像生成手段に相当する。
【0035】
画像生成部21では、同時計数部20の出力を基に消滅γ線対の発生位置がマッピングされた断層画像を取得する。同時計数部20の出力した検出データは、消滅γ線対を検出した2つのシンチレータ結晶Cの位置関係と、2つのシンチレータ結晶Cの組合せ毎に記憶される消滅放射線対検出の回数およびの消滅放射線対エネルギー強度を表している。画像生成部21は、これらの情報から被検体Mの内部における消滅γ線対の発生強度をマッピングして断層画像を生成するのである。
【0036】
検出器リング12を構成する放射線検出器1の構成について簡単に説明する。図7は、実施例1に係る放射線検出器の構成を説明する斜視図である。放射線検出器1は、図7に示すように放射線を蛍光に変換するシンチレータ2と、蛍光を検出する光検出器3とを備えている。そして、シンチレータ2と光検出器3との介在する位置には、蛍光を授受するライトガイド4が備えられている。
【0037】
シンチレータ2は、シンチレータ結晶Cが3次元的に配列されて構成されている。シンチレータ結晶Cは、Ceが拡散したLu2(1−X)2XSiO(以下、LYSOとよぶ)によって構成されている。そして、光検出器3は、どのシンチレータ結晶Cが蛍光を発したかという蛍光発生位置を特定することができるようになっているとともに、蛍光の強度や、蛍光の発生した時刻をも特定することができる。また、実施例1の構成のシンチレータ2は、採用しうる態様の例示にすぎない。したがって、本発明の構成は、これに限られるものではない。
【0038】
検出器リング12の構成について説明する。実施例1によれば、図8に示すように複数個の放射線検出器1がz方向に垂直な平面上の仮想円に配列することで1つの単位リング12bが形成される。この単位リング12bが図9に示すように、z方向に配列されて検出器リング12が構成される。
【0039】
なお、放射線断層撮影装置9は、各部を統括的に制御する主制御部41を備えている。この主制御部41は、CPUによって構成され、各種のプログラムを実行することにより、各部14,16,18,19,20,21を実現している。なお、上述の各部はそれらを担当する制御装置に分割されて実現されてもよい。操作卓35は、術者の放射線断層撮影装置に関する種々の指示を入力させる目的で設けられている。表示部36は、術者の指示、および断層画像を表示する目的で設けられている。また、設定記憶部37は、放射線断層撮影装置9の制御に関するパラメータ等の一切を記憶する。
【0040】
<放射線断層撮影装置の動作>
次に、実施例1に係る放射線断層撮影装置の動作について説明する。実施例1の放射線断層撮影装置9で検査を行うには、図10に示すように、まず被検体Mが椅子10の座板10bに座り、被検体Mが椅子10に載置され(被検体載置ステップS1),椅子10が回転され、被検体Mと各部保持部材8とが対面する(椅子回転ステップS2)。そして、椅子10が各部保持部材8に向けて移動され、被検体Mの前頭部がヘッドレスト8aに当接し(椅子移動ステップS3),ガントリ11を下向きに移動させることで被検体Mの頭部を検出器リング12の内部に導入させる(ガントリ移動ステップS4)。その後、術者の指示により消滅γ線対の検出が開始され(検出開始ステップS5),断層画像が表示部36に表示される(表示ステップS6)。以下、各ステップの詳細について順を追って説明する。
【0041】
<被検体載置ステップS1,椅子回転ステップS2>
被検体Mは、図3に示すように各部保持部材8に対して90度の向きになっている椅子10の座板10bに座す。このとき、椅子10には背もたれ10aが設けられているので、被検体Mは椅子10に楽に座ることができる。術者が操作卓35を通じて椅子10の回転の指示を行うと、椅子回転機構15は、椅子10をz軸を中心軸として回転させ、図5に示すように椅子10の座板10bが各部保持部材8側に向く。このとき被検体Mは、各部保持部材8に向き合うことになる。
【0042】
<椅子移動ステップS3>
術者が操作卓35を通じて椅子10の移動の指示を行うと、椅子移動機構17は、椅子10を各部保持部材8に向けて移動させるとともに、椅子10に座っている被検体Mが前のめりになるように椅子10を傾斜される。すると、図6に示すように、被検体Mの前頭部、胸部、腕部、および脛部がヘッドレスト8a,胸部支持部材8b,腕部支持部材8c,および脛部支持部材8dのそれぞれに当接して支持される。なお、このときのガントリ11は、被検体Mの上部に位置しているので、被検体Mが椅子10の移動によりガントリ11に衝突することはない。
【0043】
このとき、被検体Mの頭部は、ヘッドレスト8aによって前頭部側で支持されているので、被検体Mの頭部の位置が変更されにくい。つまり、被検体Mが首をひねって頭部を動かそうとしても、ヘッドレスト8aが被検体Mの前頭部を押さえ込んでいるので、頭部は動かない。また、被検体Mの首は、頭部のより後頭部側に位置しているので被検体Mが首をひねるとの後頭部よりも前頭部の方がより大きく動く。しかしながら、ヘッドレスト8aが大きく動きやすい前頭部の動きを規制しているのであるから、頭部の位置は変更されることはない。
【0044】
<ガントリ移動ステップS4>
術者が操作卓35を通じてガントリ11の移動を支持すると、被検体Mの頭部の上方に位置しているガントリ11がガントリ移動機構13によってz方向に沿って被検体Mの頭部に近づくように移動される。そして、被検体Mの頭部はガントリ11の開口に導入され、頭部が検出器リング12の内部に存することになる。
【0045】
このとき、ガントリ11の移動はヘッドレスト8aの位置を基準に行われる。すなわち、ガントリ移動機構13は、ガントリ11とヘッドレスト8aの位置関係が所定の位置関係となるようにガントリ11をヘッドレスト8aに対して移動させる。このようにヘッドレスト8aの位置を基準にガントリ11を移動させれば、被検体Mの頭部とガントリ11とは、ある定まった位置関係となる。被検体Mの頭部がヘッドレスト8aに当接することで、被検体Mの頭部の位置がヘッドレスト8aの位置によって定まるからである。
【0046】
<検出開始ステップS5,表示ステップS6>
術者が操作卓35を通じて消滅γ線対の検出の開始を指示すると、検出器リング12は、被検体Mの頭部から発し、透過してきた消滅γ線対の検出を開始する。検出器リング12は、同時計数部20を通じ画像生成部21に検出信号を送出する。画像生成部21は、この検出信号を基に頭部における放射性薬剤の分布がマッピングされた断層画像を生成する。この断層画像が表示部36に表示されて検査は終了となる。
【0047】
以上のように、実施例1の構成は、座位状態の被検体Mの頭部について放射線の検出を行う頭部用放射線断層撮影装置となっている。つまり、椅子10に座した状態の被検体Mの頭部が検出器リング12によって検査されることになる。実施例1の構成では、被検体Mの前頭部を保持するヘッドレスト8aを備えている。これにより、被検体Mの頭部が保持され検査中にズレることがない。
【0048】
また、被検体Mを仰臥させなくても頭部検査を行うことができるので、被検体Mの載置が楽である。また、肺機能に障害がある被検体Mについて測定を行おうとする場合に被検体Mの負担が軽減される。また、被検体Mを椅子10に座らせて前頭部をヘッドレスト8aに当接させるだけで、被検体Mの頭部の位置決めが完了となるので、ガントリ11に被検体Mが干渉することのない安全性の高い頭部用放射線断層撮影装置が提供できる。また、被検体Mが突発的に移動したとしても、従来構成のように天板から落ちてしまうことがない。
【0049】
また、上述の構成にすれば、検査中に被検体Mの前頭部の位置がズレてしまうことがないので、取得される断層像はボケることがない。従って視認性の優れた断層像を取得することができる頭部用放射線断層撮影装置が提供できる。
【0050】
上述の構成によれば、椅子10が回転、およびヘッドレスト8aに対して接近・離反する構成となっている。この様な構成とすれば、被検体Mを頭部用放射線断層撮影装置にセッティングする際に便利である。
【0051】
そして、上述の構成によれば、被検体Mが前傾姿勢の状態で検査が行われる。この様にすると、検査中、被検体Mの視線は下を向くことになる。仰臥位の場合、被検体Mの視線は天井を向くことになり、この場合は、被検体Mの視線が定まらず、被検体Mが不安に陥りやすい。上述の構成のように、被検体Mの視線を下に向けるようにすれば、被検体Mが不安に陥ることなく、被検体Mの負担の少ない頭部用放射線断層撮影装置が提供できる。また、上述の構成においては、胸部支持部材8bが設けられているので、被検体Mが前傾姿勢となっても、胸部支持部材8bが確実に被検体Mを支えるので被検体Mを確実に支持することができる。
【0052】
上述のように保持具7に被検体Mの腕部、脛部を支持する部材を設けるようにすれば、検査中に被検体Mがこれら部材にもたれることができるので、被検体Mの負担の少ない頭部用放射線断層撮影装置が提供できる。
【0053】
上述のように椅子に背もたれを有するようにすれば、被検体Mを椅子に座らせて待機させる際に被検体Mがこの背もたれを利用することができるので、被検体Mの負担の少ない頭部用放射線断層撮影装置が提供できる。
【0054】
本発明は上述の構成に限られることなく、下記のように変形実施することもできる。
【0055】
(1)実施例の構成における腕部支持部材8cの先端に被検体Mが握るグリップを有する構成としてもよい。これにより、被検体はより安心して検査に臨むことができる。また、このグリップに脈拍を測定する機能、β線を検出する機能を持たせるようにしてもよい。
【0056】
(2)実施例の構成のように、ヘッドレスト8aおよび胸部支持部材8bの間に隙間が空いていることを利用して、被検体Mにガスマスクを装着させることもできる。術者にガスマスクを装着する検査としては、放射性酸素を被検体Mの吸気に導入して、そのトレースを観察する検査などがある。術者にとっては、ガスマスクを水平に移動させることで着脱を行うことができるので被検体が仰臥位となっている場合と比べて、ガスマスクの着脱が容易となる。
【0057】
(3)実施例の構成のように、ヘッドレスト8aおよび胸部支持部材8bの間に隙間が空いていることを利用して、被検体Mの視線の先にモニタなどを設置し、被検体Mがモニタを見ながら検査に臨むようにしてもよい。
【0058】
(4)実施例の構成は、PET装置に限らず、頭部用MRI,頭部用CT装置、頭部用SPECTなどにも適用できる。
【符号の説明】
【0059】
7 保持具(保持手段)
8a ヘッドレスト
8b 胸部支持部材
8c 腕部支持部材
8d 脛部支持部材
10 椅子
10a 背もたれ
12 検出器リング(放射線検出手段)
15 椅子回転機構(椅子回転手段)
16 椅子回転制御部(椅子回転制御手段)
17 椅子移動機構(椅子移動手段)
18 椅子移動制御部(椅子移動制御手段)
21 画像生成部(画像生成手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の頭部から透過してきた放射線を検出する放射線検出手段と、
前記放射線検出手段から出力される検出信号を基に画像を生成する画像生成手段と、
座位状態の被検体を載置する保持手段とを備え、
前記保持手段が、被検体が座る椅子と、
被検体の前頭部を保持するヘッドレストとを備えることを特徴とする頭部用放射線断層撮影装置。
【請求項2】
請求項1に記載の頭部用放射線断層撮影装置において、
前記椅子を回転させる椅子回転手段と、前記椅子を前記ヘッドレストに対して接近・離反させる椅子移動手段と、前記椅子回転手段を制御する椅子回転制御手段と、前記椅子移動手段を制御する椅子移動制御手段とを備えることを特徴とする頭部用放射線断層撮影装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の頭部用放射線断層撮影装置において、
前記椅子移動手段は、前記椅子を前記ヘッドレストに接近させる際に、前記椅子を椅子の上部が前記ヘッドレストに近づくように傾斜させて被検体を前傾させ、
前記保持手段が、前頭部が前記ヘッドレストに保持された前傾状態の被検体における胸部を支持する胸部支持部材を更に備えることを特徴とする頭部用放射線断層撮影装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の頭部用放射線断層撮影装置において、
前記保持手段が、前頭部が前記ヘッドレストに保持された被検体の腕部を支持する腕部支持部材を更に備えることを特徴とする頭部用放射線断層撮影装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の頭部用放射線断層撮影装置において、
前記保持手段が、前頭部が前記ヘッドレストに保持された被検体の脛部を支持する脛部支持部材を更に備えることを特徴とする頭部用放射線断層撮影装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の頭部用放射線断層撮影装置において、
前記椅子が、被検体が寄りかかるための背もたれを備えることを特徴とする頭部用放射線断層撮影装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の頭部用放射線断層撮影装置において、
前記放射線検出手段は、被検体の頭部から発した消滅放射線対を検出する放射線検出器が円環状に配列した検出器リングであることを特徴とする頭部用放射線断層撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−224162(P2011−224162A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97002(P2010−97002)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】