説明

顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子の安定性のある水溶液

【課題】GS-CSFを含む組成物であって、キレート剤がN末端を変性させないようGS-CSFを安定にするための方法の提供。
【解決手段】組み換え型顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子がサラグラモスティム(sargramostim)であり、0.05mM乃至50mMのEDTAを含む水溶液に対して、さらに前記溶液がpH7.4を有し、そして10mMのTRIS-HCL、40mg/mlのマニトール(mannitol)及び10mg/mlのサッカローズを含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定化されたGM-CSFの生成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子(GM-CSF)は、骨髄系における種々の造血前駆細胞の増殖及び分化を刺激し、さらに成熟した好中球、単球、樹状細胞、及びマクロファージの多くの機能的作用を活性化又は強化する造血増殖因子(サイトカイン)である。GM-CSFが、たとえばT細胞、マクロファージ、繊維芽細胞、及び内皮細胞により産生される天然の生成糖タンパク質である。
【0003】
それが、好中球、単球、及び樹状細胞の供給性と機能性とに影響することから、このサイトカインが、免疫応答を行う人体における能力に重要な役割をはたしている。さらにGM-CSFが他のサイトカインを伴い作用し、巨核球及び赤血球の前駆細胞の増殖及び分化を促進させる。GM-CSFが、成熟した好中球、単球、樹状細胞、及びマクロファージの走化性、細胞食性、及び細胞毒性による抗体を含む多くの機能的作用を活性化又は強化する。
【0004】
ヒトGM-CSFをコードするcDNAがクローン化され、そしてその組み換え型タンパク質が、酵母、細菌(モルグラモスティム(molgramostim)),及び中国ハムスターの卵巣細胞(レグラモスティム(regramostim))を含む種々の発現系にて産生されてきた。LEUKINETM(Immunex Corporation,Seattle,Washington,U.S.A.)は、サッカロマイセツ・セレビシエ(Saccharomyces cerevisae)にて産生されるGM-CSFの変異形である。このGM-CSFの変異形は、通常「サルグラモスティム(sargramostim)」と呼ばれている。
【0005】
LEUKINETMには、内在性GM-CSFにより誘発されるものと血液形成に同じ影響を呈すること、すなわち、好中球、単球、マクロファージ、及び好酸球を形成するための、顆粒球-マクロファージ経路に沿って運命付けられた(committed)前駆細胞を刺激することが示されている(Technical Product Report: LEUKINETM Liquid,Immunex Corp.,Seattle,WA,1997,これが本明細書に引例として組み入れられる)。さらに内在性GM-CSFと同様LEUKINETMが、赤血球及び巨核球を生成するように、前駆細胞の分化を促進する。造血の刺激に加えて(前記)、LEUKINETMが、走化性、増殖因子の分泌性、抗腫瘍作用、抗細菌(antibacterial)及び抗菌(antifungal)作用など、成熟した好中球、単球、及びマクロファージの多くの機能活性を増強する(前記)。
【0006】
LEUKINETMの共通的な使用では、自己骨髄移植のレシペントの治療(非Hodgkin'sリンパ腫;急性リンパ芽球白血病の治療;Hodgkin's疾患)、異種同型又は自己の骨髄移植後に移植組織片化が遅いか、又は移植組織片化のできない患者への使用、HLAに合ったドナーからの異種同型骨髄移植の受容者における治療;及び非Hodgkin'sリンパ腫、Hodgkin's疾患、及び胸部ガン患者の末梢血液前駆細胞を分離(mobilizing)することが、含まれる。
【0007】
GM-CSFは、Crohn's疾患(WO 00/47195)を含む炎症性腸疾患の有効な治療として提示されてきた。
【0008】
LEUKINETMの安定な溶液、又は生物的に活性なGM-CSFの他の形態が、多様に使用するために非常に要望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本明細書に提供されるものは、水溶液に保存されたGM-CSFの長期安定化のための方法である。安定化は、2価カチオンと錯体を形成できるキレート剤を添加することにより行われる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
注入の準備可能な注射器(syringes)に保存されたGM-CSFにて、長期間の安定性に関する研究を行う時、長期経過後にそのタンパク質が、そのアミノ末端において1部変性することが、観察された(実施例1を参照)ことは驚きである。In vitro試験におけるGM-CSF感受性細胞株を使用すると、1部変性化した調製物が、高レベルな生物的活性(実施例1を参照)を保持していることを示した。それでさえ、GM-CSFのN-末端にて変性された形状では、in vivoにおける薬理的特性に望ましくない変化となる可能性がある。たとえば、それぞれ変性した生成物が、患者の体内に何か異なる代謝作用をする可能性がある。
【0011】
たとえば、N末端の変性形状のin vivoにおける半減期が、全長タンパク質の半減期と異なる場合がある。薬剤の療法的な有効レベルが、治療の過程を通し患者の体内に確実に保持されるように、一般的には療法構成における投与の用量及び頻度が、調節される。しかしながら、変性形状が存在した場合、必要レベルの薬剤が行われなく、これにより治療の有効性が低減する場合がある。さらに、タンパク質の変性形状が、GM-CSFに対する抗体を誘発することが、理論的に可能性がある。したがって、N-末端の変性化が、生じないGM-CSFの生成物を有することが、好適なことである。この目標に取り組むために、研究では、GM-CSFの医薬調製物を安定化する手段の改良が行われた。
【0012】
本発明は、2乃至8℃の保存下にてN-末端の変性に対し高い耐性の安定なGM-CSFの生成物を提供する。GM-CSFの溶液にキレート化剤を付加することにより、最大2年間、GM-CSFのN-末端の変性を防止することが本明細書において実証されている。本発明の生成物は、GM-CSFに関与するあらゆる医薬又は研究目的として有益である。
【0013】
この安定化された生成物が、ヒト又は他の哺乳動物に療法的な投与のためである場合、GM-CSFを安定化するため使用されるキレート剤が、生理的に受け入れ可能な、つまり安定化の実現に必要な濃度にて、ヒトの使用に安全にする必要がある。
【0014】
キレート化剤が、カルシウム、マンガン、マグネシウム、鉄、亜鉛、鉛、水銀、アルミニウム、カドミウム、銅などのイオンの形状を含む、2価又は3価のカチオンとの錯体を形成できるはずである。2価カチオンとキレートできるキレート化剤が、本発明の1つの観点において用いられる。2価カチオンをキレートする適切なキレート剤は、エチレンジアミン4酢酸で、いわゆる「EDTA」又は「エデテート(edetate)」とも称する。EDTAは、たとえば鉛中毒の患者を治療するための治療剤として、医薬的に用いられる。
【0015】
別の適切なキレート剤が、EDTAの誘導体であるデクスラドクサン(dexrazoxane)であり、細胞膜を容易に貫通し、そしてアントラサイクリン(anthracycline)にて誘発される心筋症に対する心臓保護剤として使用される。さらに本題の生成物に使用するための適切なキレート剤は、ジメルカプロール((dimercaprol)BAL)又はBAL-グリコシド誘導体、デフェロキサン・メシレート、デフェリプロン及びペニシルアミン(ジメチルシステイン)を含む。選択肢として、EGTA又はクエン酸が、本発明による2価のカチオンのキレート剤として使用することができる。
【0016】
本生成物としてのキレート剤の適切な濃度が、0.05乃至50mMの範囲である。適切な範囲としては、0.5乃至10mM、0.05乃至1mM、及び0.1乃至5mMが含まれる。本発明の1つの実施例において、キレート剤は、5mMの濃度にて加えられるEDTAである。選択肢として、0.1mM濃度のEDTAを使用することができる。EDTAの形状としては、たとえば、EDTAの2ナトリウム塩の2水和物として使用することができる。CaNa2EDTAを使用することができる。
【0017】
本発明の水溶性生成物を、ウイアル(vials)又は容易に注射のできるシリンジ(syrinnges)にて充填することができる。1つの例における水溶液状にてのGM-CSFが、注入のため標準的なウイアル(vials)に含まれる。1つの適切な成生物における、そのウイアル(vials)には、500μg/mlのGM-CSF(LEUKINE LiquidTM、Immunex Corporation)、1.2mg/mlのTRIS-HCl(又は「トロメタミン」と称す)、40mg/mlのマニトール及び10mg/mlのサッカローズを、pH7.4にて含む1mlの液体が含まれる。
【0018】
さらに前記生成物は、防腐剤として1.1%のベンジルアルコールを含むが、別の生理的に受け入れ可能な防腐剤は、所望されればベンジルアルコールと置き換えることができる。本発明の別の例おけるGM-CSFが、注射により準備できるシリンジに保存のため充填され、それには、500μg/ml にて10mMのTRIS-HCl、40mg/mlのマニトール、及び10mg/mlのサッカローズを、pH7.4にしたGM-CSF(LEUKINETMなど)を含む生成物が含まれる。シリンジに充填されたGM-CSFには、さらに1.1%のベンジルアルコール又は他の医薬的に受け入れ可能な防腐剤を含むことができる。所望であれば、こうした生成物のGM-CSFの濃度は、500乃至1000μg/ml、あるいはそれ以上の濃度に増大させることができる。
【0019】
生成物を調製する所望の工程において、キレート剤がGM-CSFの溶液に加えられる。たとえば、GM-CSFの濃縮溶液をくわえて、それぞれのウイアル(vials)又はシリンジに充填される直前、又は凍結乾燥する直前に、水、TRIS-HCl、マニトール、サッカローズ及びキレート剤を適切な量にて加えることにより、所望の最終濃度を実現することができる。この目的のため凍結乾燥の標準的な方法を用いることができる。
【0020】
本発明の実施に用いられるGM-CSFは、医薬的に安全で有効なヒトGM-CSF、又はヒトGM-CSFの生物的活性を有するその誘導体を含む。生物的活性は、たとえば実施例1にて記載されたTF-1細胞アッセイ又は先行技術として周知な他の適切な生物アッセイを用いることにより、確かめることができる。好ましくは、組み換え型GM-CSFが用いられる。本生成物に使用するための適切なGM-CSFが、ヒトGM-CSFであり、そのアミノ酸配列が配列ID番号1にて提供されている。本明細書に用いられるように、「組み換え型GM-CSF」という用語は、外在性GM-CSFをコードする核酸が導入された細胞、又は内在性GM-CSFの転写を高い割合にて誘導する調節配列の導入により、内在性GM-CSF遺伝子が、GM-CSFを過剰に産生するよう刺激された細胞のいずれかにて合成されるGM-CSFを言及している。
【0021】
本発明の1つの例において、本生成物に用いられるGM-CSFは、LEUKINETM (Immunex Corporation,Seattle,Washington) などの組み換え型ヒトGM-CSF(rhu GM-CSF)である。LEUKINETM (一般「サラグラモスティム」と称す)が、位置23におけるアルギニンに換えてレウシンを有し、配列ID番号1に示される内在性ヒトGM-CSFと異なる単一の127アミノ酸の糖タンパク質から成る、生物的な合成、酵母由来の組み換え型ヒトGM-CSFである。LEUKINETMは、酵母Saccharomyces cerevisiaeにて生成される。他の天然及び合成のGM-CSFs、及び天然のヒトGM-CSFの生物的活性を有するその誘導体が、本発明の実施に同じく有益となることができる。
【0022】
LEUKINETMの液体は、一般に注射の可能な滅菌水溶液であり、500μg/ml(2.8x106IU)サラグラモスティム(sargramostim)、40mg/mlのマニトール、10mg/mlのサッカローズ、1.2mg/mlのトロメタミン(trometamine)、滅菌水、及び1.1%のベンジルアルコールを含む1mlのウイアルにて販売されている。さらに凍結乾燥されたLEUKINETMも、販売され(Immunex Corporation)、そして典型的には1mlの滅菌水にて再構成できるよう滅菌された凍結乾燥粉末を含むウイアルに充填されている。
【0023】
凍結乾燥されたLEUKINETMは、250μg又は500μgのサラグラモスティム(sargramostim)(1.4又は2.8x106IU)、40mg/mlのマニトール、10mg/mlのサッカローズ、1.2mgのトロメタミン(trometamine)を含むことができる。LEUKINETMの液体、及び凍結乾燥されたLEUKINETMの再構成溶液が、冷蔵庫にて2-8℃で冷凍保存されている。これらの生成物を安定化するために、上記のようにキレート剤を付加する。たとえば、EDTA(又は別の適切なキレート剤)は、それがウイアルに充填される前に液体生成物に所望の濃度にて付加される。固体EDTA又は別の適切なキレート剤は、その粉末が注射のため水和化される場合、所望の最終濃度を提供する量にて凍結乾燥された生成物に付加することができる。
【0024】
本発明の1つの側面において提供されるのは、顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子の安定化された水溶液を調製するための方法である。この方法は、500μg/mlの顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子、10mMのTRIS-HCl、40mg/mlのマニトール、及び10mg/mlのサッカローズと0.1乃至50mM濃度のEDTAとを共に混合することを含む。この混合物の幾つかの成分を、同時に又は順次水溶液に付加することができる。混合物には、所望であれば、他の生理的に受け入れ可能な成分を含むことができる。
【0025】
さらに、LEUKINETM又はモルグラモスティムなどのGM-CSFは、米国特許第6,120,807に記載されたヒドロゲルなど、局所的に適用するようハイドロゲル状に生成することも可能である。適切なハイドロゲルを生成するために用いられる重合体は、ポリサッカライド、ポリアクリル酸、ポリホスファゼン、ポリエチレン・グリコール-PLGAとの共重合体、及び他の合成による生物的に分解可能な重合体を含む。こうしたハイドロゲル内に分散されるGM-CSFを安定化するために、EDTAなどのキレート剤を、0.05乃至50mMの濃度、又は0.1乃至5mMの濃度にて付加する。特定の例における0.1乃至5mMの濃度が用いられる。
【0026】
本発明の例における、サラグラモスティムが、EDTAが5mMの濃度にて付加されることを除いて、LEUKINETM・Liquidとして上記のように生成される。選択肢として、サラグラモスティムが、5mMのEDTAを凍結乾燥する前の溶液に付加することを除いて、LEUKINETM・Lyophilizedとして上記のように生成する。さらに他の例における、適切な量の乾燥EDTA粉末を、それが充填される前に凍結乾燥されたLEUKINETMと混合することが出来る。
【0027】
本発明のGM-CSFを安定化できる生成物には、何らかの所望の手段により投与することのできる水溶液が含まれる。たとえば、GM-CAFの安定化された生成物は、注射により投与される。注入としては、皮下、筋肉内、静脈内の注入で良い。
【0028】
さらにEDTAを含むGM-CSFの生成物は、エアロゾル噴霧を吸入することにより投与することができる。生成物が、最初エアロゾル導出装置に充填されるか又はこの導出する形状と適合性の良好な容器に移し変えることができる。エアロゾル導出方法を、最初液体の状態にて充填された生成物、又は投与される前に再構成を必要とする凍結乾燥の粉末として最初に充填される生成物を調合するため使用することができる。エアロゾルによる導出法は、鼻腔又は肺にサラグラモスティムを導出するには特に有効であるが、安定化されたGM-CSFの全身系投与に対しても使用することができる。本発明の1つの例におけるエアロゾル噴霧式により投与されたGM-CSFが、サラグラモスティムである。
【0029】
生物的合成によるGM-CSFsのグリコシル化の程度が、半減期、分布、及び排除に影響を及ぼすと見られるが、GM-CSFの最も有効な用量は、用いられる供給源に依存して変化することができる(Lieschke and Burgess,N.Engl.J.Med.327:28-35,1992;Dorr,R.T.,Clin.Ther.15:19-29,1993;Horgaard et al.,Eur.J.Hematol.50:32-36,1993を参照)。最も有効な用量及び投与の頻度が、医薬的な実施による患者の生理の必要性に応じて調整され、そしてそれが、患者の年齢、体重及び治療を受けている状態に依存している。
【0030】
GM-CSFの有効な用量は、用量当り約50から250μgの範囲で良い。本発明の一つの観点において、その用量が100μgに等しいか、約100μgである。他の例にて用いられる用量は、100と125μgの間である。別の例において、125から250μgの範囲のフラット用量(flat dose)が投与される。適切なフラット用量には、100μg、150μg、200μg、及び250μgのGM-CSFが含まれる。所望であれば、用量は、たとえば125から250μg/m2など、体の表面積の関数として計算することができる。
【0031】
明細書に記載されている改良されたGM-CSF生成物が、その症状の厳密性を評価するため一般的に用いられる少なくとも1つの指示計における計測可能な改良を実現することにより、GM-CSFの投与が効果性のある前記医薬的症状を治療するために有益である。たとえば、本発明の安定化された生成物が、LEUKINETM(サラグラモスティム(sargramostim))、LEUCOMAXTM(モルグラモスティム(molgramostim)、レグラモスティム(regramostim)、PEG化された(pegylated)GM-CSF、又は野生型、又は生物的に活性なGM-CSFの任意の生理的に受け入れ可能な生成物を利用する任意の療法的な構成に置き換えることができる。
【0032】
本明細書に記載される安定化されたGM-CSF生成物には、HIVの感染、又は他のウイルスの感染、細菌の感染、ガン、治癒の遅い傷又は潰瘍(床ずれ潰瘍又は糖尿病による潰瘍など)、Crohn's病を含む炎症性腸疾患、及び肺胞タンパク症が含まれる。さらにガンは本生成物により治療することができ、それには、黒色腫、胸部ガン、脳腫瘍、白血病、リンパ腫、悪性腫瘍、及び腺ガンが含まれるが限定されるものでない。さらに本発明の生成物は、投与することのできるワクチン・アジュバントとして、たとえば感染症に対するワクチンと結びつけて、又は黒色腫、胸部ガン、脳腫瘍又は他のガンに対するペプチド・ワクチンを含む腫瘍ワクチンと結びつけて使用することができる。
【0033】
さらに本安定化されたGM-CSFの生成物は、骨髄抑制の化学療法を受けているガン患者の発現率を減少させるため、骨髄除去の化学療法をした後、非Hodgkin'リンパ腫、急性リンパ芽球白血病、Hodgkin'疾患又は他のガンなどガン治療として、自己又は同種異型の骨髄移植を受けているガン患者の骨髄性細胞の回復を促進させるため、移植前に白血球除去輸血による収集のための末梢血前駆細胞の代謝を促進するため、同種異型又は自己の骨髄移植を受けたガン患者の好中球減少症、及び好中球減少症関連の臨床による続発症の期間を減少させるため、及び急性骨髄性白血病患者など、化学療法に従うガン患者における好中球を回復に必要な時間を減少させるために、使用することができる。さらに、本明細書に記載され、安定化された生成物が、培養された造血幹細胞の体外での拡張を刺激するためにも使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下の実施例は本発明の有益な観点を示している。
実施例1. 保存されたGM-CSFのN-末端の変性
1mlのLEUKINETMLiquidにて負荷された、注射用シリンジとして用意したCARPUJECTTM(AMTEST Laboratories,Redmond,WA)に約6ヶ月のLEUKINETMの保存を以下のようにGM-CSFの逆相HPLCのプロファイルの変化を記載した。これらの分析のため逆相HPLCが、Vydac Protein及びPeptide C18(#218TP54)カラム、5μm、4.6x250mmを用いて行われた。逆相クロマトグラフィ用緩衝液Aは、水/TFA0.1%であり、緩衝液Bは、アセトニトリル/ TFA0.1%で、緩衝液Cは、1MのNaCl/水/ TFA0.1%であった。カラムに展開するため用いられる勾配は、25-65%に対し1%B/分にて、Bが一定として20%、Cが1ml/分で40分間であった。注入量が50μlであった。保存されたLEUKINETMの溶離図では、この図の主要なピークに関しショルダーを落としていることを示している。
【0035】
質量分析では、N-末端の程度を変えて切り取られたGM-CSFとしてのショルダーを同定した。塩化ナトリウムを緩衝液から除外することを除いて、質量分析(Sciex API350)を、上記のようにC18逆相カラム上に試料を展開することにより行った。C18カラムからの溶離液を質量分析装置に電気的噴霧にて行われる。質量スペクトルを解析のための質量/電荷(m/z)スペクトルを、完全に溶離されたGM-CSFピークから取り出し、BioMultiViewソフトウエアを用いて質量に対する脱回旋(deconvoluted)が行われた。
【0036】
その未修飾生成物におけるLEUKINETMが、そのアミノ末端にて不均一であり、典型的に全長タンパク質が65%、そしてAla3で始まるわずかに小さい形状が35%を含む。
【0037】
シリンジに保存された生成物の質量スペプトルの結果が、成熟Ala1種及び、Ala3、Arg4、Ser5、Ser7、Ser9、及びThr10まで切り取られた(clipped)追加種の存在を指示した。2乃至8℃に保存された生成物において、全長タンパク質の割合が変化しない状態においt、この温度による保存により誘発される変性に対して感受性の容易な種が、Ala3の種であることを示している。しかしながら、30℃にてAla1の種でさえ変性した。なお注意すべきことは、後の研究で示されいるが、グリコシル化の形状も切り出されて(clipped)いるにも拘わらず、これらの質量スペクトロ分析では、非グリコシル化種のみに焦点をあてることである。この方法(LOQ)により全長と切り出された(clipped)種の割合(%)を決定する際の定量化の限界が、約5%であると推定される。
【0038】
この切り出し(clipping)が、金属イオンを触媒とする方法に起因するという特徴付けが示唆された。この決定には以下の観察が裏付けられる。第1には、変性が、N-末端にて分離される。第2は、逆相のショルダーを、外在性α-アミノペプチダーゼの付加によってシュミレートすることができる。このシュミレーションのための、5単位のα-アミノペプチダーゼ(Sigma A8299)を、LEUKINETMLiquidに付加し、そしてこれを3日間37℃にてインキュベートした。質量分析にて付加されたα-アミノペプチダーゼを伴う生成物が、以下のN-末端、つまりSer5,Gln11及びpGln11(Gln11の安定な環化生成物)にて見出された。インキュベートが7日間に限り延長されると、変性がGln11を越えて進むことがなかった。さらに変性が、Gln11の環化により停止される場合があった。第3には、生成物にmMのEDTAを付加することにより、本発明者は、GM-CSFの観察されたN-末端の変性を停止することができた。
【0039】
アミノ酸末端の変性を触媒するカチオンが、明確に同定されなかった。このカチオンを同定する作業において、金属イオンを、ソックスレイ抽出器(soxhelet extraction)を用い、CARPUJECTTMシリンジから取り出されたラバー・ストッパーにより完全に抽出した。抽出された最も豊富な2価カチオンは亜鉛であり、したがってこれは触媒としてのカチオンである可能性を示唆している。Zn2+をLEUKINETMの生成物に添加してN-末端の変性を加速させるという実験を行ったが、添加したZn2+が、コントロール試料と比較して実質的効果がなかった。しかしながら、これらの試料を、分析前に約1ヶ月間だけ保存し、その結果が結論的であるとは考えられない。CARPUJECTTMの製造業者により提供された情報によれば、多くの異なる金属イオンが、ラバー・ストッパーに少量存在し、カルシウム、銅、鉄、鉛、クロム、マグネシウム、マンガン、モリブデンなどを含む。
【0040】
ヒトGM-CSFに感受性があり、そしてこのサイトカインを培養培地に添加すると急速に増殖する細胞株TF-1(たとえば、Kitamura et al.,J Cell Physiol 140:323-334(1989)を参照)を用いて、生物アッセイ(bioassay)を行った。生物活性を、GM-CSF(1ng/ml)の周知の量をH3-チミジン存在下の細胞に添加することにより評価した。GM-CSFに応答した細胞の増殖量が、細胞によりDNAに組み込まれたトリチウム化されたチミジン量を測定することにより定量化される。サラグラモスティムの切り取られた形状の生物アッセイの結果が示すことは、その形状が、Gln11まで完全に切り取られた場合と同様、中間の位置(Arg4,Ser5,Ser7,Ser9及びThr10)まで切り取られた場合、生物的活性の有意な変化が全く観察されなかった。
【0041】
実施例2. 長期間の安定性試験
EDTAの存在下保存の長期にわたる影響を試験するための、全部で7ロットのLEUKINETMを、CARPUJECTTMシリンジにおいて、5mMのEDTAを付加する場合としない場合にて設定した。このシリンジを2乃至8℃(通常の保存温度)、か30℃(変性化の加速を誘発するために)のいずれかにて保存した。各シリンジは、500μgのLEUKINETM及び10mMのTRIS-HCl(1.2mg/ml)、40mg/mlのマニトール、及び10mg/mlのサッカローズを含む液体を、pH7.4にて1mg含んだ。時間長を変え、インキュベートした後、保存試料をN-末端の変性に関し分析した。6ヶ月の時点にて、試料を、SDS-PAGE、逆相HPLC、TF-1生物アッセイ、還元及び非還元トリプシン・ペプチド・マッピング、及び質量分析法(Sciex API350)により分析した。
【0042】
SDS-PAGEでは試料の負荷が、Novex 16%のTRIS-グリシン・ゲル上、2Xリン酸非還元試料緩衝液に1μg/レーンであった。ゲルを、TRIS-グリシンSDS実施用緩衝液にて試験を行い、Novex silver Xpress staining kitを用いて染色した。逆相HPLCでは、発明者はVydac Protein and Peptide C18(#218TP54)カラム、5μm、4.6x250mmを使用した。
【0043】
緩衝液Aは水/TFA0.1%であり、緩衝液Bは、アセトニトリル/TFA0.1%であり、緩衝液Cは、1MのNaCl/水/TFA0.1%である。勾配は、25-65%にわたり1%B/分にてBが20%一定、そして緩衝液Cは、40分間1mL/分である。注入の容量は50μであった。TF-1アッセイを実施例1記載のようにして行った。質量分析法に対しては、試料を、塩化ナトリウムのない上記のように展開されるC18逆相カラムに展開し、その後電気噴霧式(electrosprayed)にて質量分析装置に導入した。質量スペクトルの結果を用いて、この方法が検証されなかったが、N-末端の変性程度に関する半定量的データを提供した。全長とこの方法による切断種とのパーセントの決定における定量化の限界が約5%であると推定される。還元式トリプシン・ペプチドマッピングは、二硫化物にて結合されたC末端ペプチドを同定する。ペプチド・マッピングを、トリプシン化されたタンパク質のC18で、逆相分析により行った。
【0044】
6ヶ月の実験結果では、EDTAのない状態で6ヶ月間2-8℃か30℃のいずれかにて、LEUKINETMが保存されている場合に、N-末端の変性が明らかであることを実証している。変性の程度は、ロットによりかなり変化する。0.1か5mMのいずれかのEDTA存在下、2乃至8℃にてインキュベートされた試料に対し、N-末端変性が取り除かれた。0.1か5mMのいずれかのEDTA存在下、30℃にてインキュベートされた試料に対し、N-末端の変性が実質的に減少された。さらに、高濃度のEDTA(5mM)の存在下、30℃にてインキュベートされた試料、単一ロットのLEUKINETMに対し、説明できない約17Daの質量損失を示したが、試験が行われた他の6ロットのいずれも発生していなかった。
【0045】
12ヶ月の時点における2-8℃にてEDTAのある場合とない場合、あるいは30℃にてEDTAのある場合とない場合にて保存された7ロットの試料を分析した。さらにこうしたバッチによる試料が、0.1mMのEDTAにて生成された1ロットを含んだ。これらの試料を、SDS-PAGE(非還元試料緩衝液を使用する4-20%のNovexゲル、及び34Aにて実施)、6ヶ月の試料の場合と同様に行われた逆相HPLC、TF-1生物アッセイ(下記を参照)、及び質量分析法により分析した。EDTAのない状態にて12ヶ月間保存された試料における、両方の温度にて6ヶ月の結果と比較される、N-末端の変性が、継続したという結果を示した。EDTAをいずれかの濃度(0.1又は5mM)にて含む生成物を2-8℃にて保存された場合の変性より保護した。N-末端の変性が、付加EDTAを有する場合、とない場合、30℃にて保存される12ヶ月試料して発生した。
【0046】
試験ロットの1つを、1,3,6及び12ヶ月にて分析した。この特定ロットにおいて、EDTAのない2-8℃にて保存された試料が、変性の時間依存過程を呈し、そしてAla3種が12ヶ月まで完全に行った。試験された7個のロットの1つにおいて、Ala3種の損失は、この理由が知られていないが、EDTAのない状態にて全く観察されなかった。簡単にいうと試験された7ロットのうち6ロットが、EDTAがない状態にて2-8℃にてシリンジ保存された場合のN-末端の変性を呈した。
【0047】
24ヶ月の時点として、EDTAの有する場合としない場合の2-8℃にて保存された4ロット、及びEDTAが存在する30℃にて保存された4ロットを分析した。これらの試料を、実施例1又は6ヶ月試料として、上に記載のようにSDS-PAGE、RP-HPLC、SEC、TF-1生物アッセイ、及び質量分析法により分析した。24ヶ月、2-8℃保存された試料として、Ala種のN-末端の完全な変性が、EDTAの存在しない状態にて観察された。5mMのEDTAの存在下2-8℃にて保存された試料が、こうした変性を呈さなかった。全長(Ala1)種の変性は、試料がEDTAを有す30℃にて保存された場合に、示された。5mMのEDTAを含むLEUKINETM生成物が、2-8℃にて保存された場合2年間安定性を保持することができる。
【0048】
実施例3. GM-CSFの安定化におけるEDTA濃度の影響
レウキン(Leukine)を、0、0.1、1.5、5、10、又は50mMのEDTAの存在下、CARPUJECTTMシリンジに14ヶ月間、2-8℃、又は30℃にて保存した。
【0049】
6週間後、幾つかの試料を、前の実施例において記載されたように、非還元SDS-PAGE、逆相HPLC、質量分析法、及び還元及び非還元ペプチドマッピングにより分析した。14ヶ月後、残りの試料を、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)のため、各試料20μlを、Biorad Biosil 125のカラムに注入し、そして100mMのリン酸ナトリウム、150mMのNaClを用いて、pH6.8にて、移動相として1ml/分にて無勾配的に溶離させたことを除いて、記載されたようにSDS-PAGE、BIORADTMBiosilカラム上のサイズ排除クロマトグラフィ(SEC)、Vydac Protein及びペプチドC18カラムを用いる逆相HPLC、TF-1生物アッセイ、及び質量分析法によって分析した。14ヶ月の分析では、EDTAの存在する場合としない場合2-8℃にて保存された試料、及びEDTAのない30℃にて保存された試料が含まれる。
【0050】
その結果EDTAが、2-8℃にて、14ヶ月保存された試料において切り出したN-末端に対してLEUKINETMを保存するよう作用することが確認された。この時間において、10mMのEDTAの存在下、30℃にて保存された試料が、もはや分析として利用することができなかったが、他の試料の全てを、ペプチド・マッピング分析を除いて上記全ての方法により分析した。30℃にて保存された試料が、2-8℃にて保存された試料と比較して全長(Ala1)の割合が減少することを示し、そしてN-末端の変性が、30℃でEDTAのない状態にて保存された試料において最悪であった。さらに30℃にて保存された試料は、広範囲な酸化を示し、逆相HPLCによって示される大部分の早期溶離物質により実証した。2-8℃で保存された試料に対して、0.1と低いEDTAの濃度が、GM-CSFにおけるN-末端の変性の阻害に有効であった。
【0051】
表1は、14ヶ月間保存した後質量分析法に基づいた想定値を提示する。表1の数値は、表に記載されるそれぞれの種により表される。EDTAがなく、2-8℃にて保存された24%のGM-CSFが、Arg4又はSer5にて短縮された。2-8℃にてEDTAの存在下保存された全ての試料において、EDTAの濃度に関係なくArg4より小さい種が全く観察されず、そしてArg4にて終端となる、わずか5%かそれ以下のロイキン(Leukine)である。EDTAの存在下、2-8℃にて保存される試料が、57-71%の全長(Ala1)GM-CSFを構成した。0.1mMのEDTAが、試験される濃度が高いほど保護性であることから、0.1mMより少ないEDTAの濃度でも、N-末端変性の防止に有効である可能性がある。
【0052】
30℃にて保存された全ての試料において、EDTAが存在してもしなくとも(表1を参照)多量のN-末端の切り込みがあった。たとえば、30℃にてEDTAの存在しない状態にて保存された試料において、61%のタンパク質が、Arg4又はそれ以上に切り取られた。Trp13から外の切り取られた種が見出された。対照的に、EDTAの存在下この温度で保存された試料が、Thr10を越えて切り取られていない状態にて、Arg4又はそれを越えて切り取られた種をわずか20-30%しか示さなかった。その変性が全長(Ala1)種における有意な減少を含む、30℃にて、14ヶ月後に残っている全長種がわずか28-39%である。
【0053】
試料を、GM-CSFの標準試料と比較して生物活性を評価すべきTF-1生物アッセイデータにて分析した。EDTAは存在しなく、30℃にて保存された試料が、特異的に高い活性を示した。結果は、EDTAの存在下30℃で保存された試料における生物活性かわずかに減少したが、いずれの場合においてもEDTAの量が増大するにつれ、このグループの試料の生物活性が、増大することを示している明らかな傾向がなかった。EDTAが存在する場合としない場合、2-8℃にて保存される全ての試料が、LEUKINETMの標準試料と比較できる生物活性を示した。
【0054】
上記研究により、0.1から50mM範囲の濃度のEDRAが、最大14ヶ月間2-8℃保存された試料にN-末端の切り取りに対しGM-CSFを保護するよう作用する。30℃にて保存された試料が、2-8℃にて保存された試料と比較して全長(Ala1)種の割合に減少を示し、N-末端の変性が、EDTAが存在しない状態にて30℃にて保存された試料にて最も顕著であった。さらに30℃で保存された試料が、逆相HPLCにより示される大部分の早期溶離物質にて実証されたように、広範囲な酸化を示した。
【0055】
【表1】

【0056】
本発明の例示的実施例が、上に示され記載されているが、種々の変化が、本発明の精神及び範囲から逸脱することなくここに作成できることが理解できよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組み換え型顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子及び0.05mM乃至50mMのEDTAを含む水溶液。
【請求項2】
前記EDTAの濃度が0.1乃至5mMである請求項1記載の水溶液。
【請求項3】
前記組み換え型顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子がサラグラモスティム(sargramostim)である請求項1記載の水溶液。
【請求項4】
前記EDTAの濃度が5mM、さらに前記溶液がpH7.4を有し、そして10mMのTRIS-HCL、40mg/mlのマニトール(mannitol)及び10mg/mlのサッカローズを含む請求項3記載の水溶液。
【請求項5】
500μg/mlの顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子、10mMのTRIS-HCl、40mg/mlのマニトール(mannitol)及び10mg/mlのサッカローズに濃度0.1乃至50mMにEDTAを混合することを含む、顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子の安定化した水溶液を調製するための方法。
【請求項6】
前記EDTAが5mMの濃度である請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子が、サラグラモスティム(sargramostim)である請求項5記載の方法。
【請求項8】
水溶液を乾燥凍結する工程をさらに含む請求項7記載の方法。
【請求項9】
請求項4記載の顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子の水溶液を、それが必要な患者に投与することを含む治療方法。

【公開番号】特開2009−161538(P2009−161538A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−14633(P2009−14633)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【分割の表示】特願2002−569171(P2002−569171)の分割
【原出願日】平成14年3月4日(2002.3.4)
【出願人】(300049958)バイエル・シエーリング・ファーマ アクチエンゲゼルシャフト (357)
【Fターム(参考)】