説明

顔料分散液、インクジェット記録用インク組成物、これを用いたインクカートリッジ、記録方法、記録システム及び記録物

【課題】 本発明は、高固形分含有インクの場合であっても、長期間放置しても粘度等の物性が変化することなく、インクジェット吐出特性が安定で信頼性に優れたインクジェット記録用インク組成物及び該インク組成物に有用な顔料分散液の提供を目的とする。
【解決手段】 本発明は、自己分散型顔料を含み且つ分散樹脂を含まない水系顔料分散体に、加熱処理を施してなる顔料分散液を提供する。また、本発明は、上記顔料分散液を用いてなるインクジェット記録用インク組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期にわたり物性の変化が小さく、吐出安定性等の信頼性にも優れたインク組成物、これを用いたインクカートリッジ、記録方法、記録システム及び記録物並びに該インク組成物を構成する顔料分散液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂を含む顔料分散体に加熱処理を施すこと、または塩基性物質を加えて加熱する技術等が開発され、このような加熱処理されて得られた顔料分散液がインク組成物に利用されている(特許文献1〜4等)。
【0003】
しかし、従来の技術では、インク組成物を長期間放置すると粘度が変化し、インクジェット吐出物性に影響を及ぼすことがある。特に、顔料を高濃度で用いたインク組成物は、上記の傾向が顕著である。
【特許文献1】特開2000−345093号公報
【特許文献2】特開2003−64292号公報
【特許文献3】特開2003−26972号公報
【特許文献4】特開2003−253178号公報
【特許文献5】特表2003−535949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、高固形分含有インクの場合であっても、長期間放置しても粘度等の物性が変化することなく、インクジェット吐出特性が安定で信頼性に優れたインクジェット記録用インク組成物を提供することを目的の一つとする。
【0005】
また、本発明の他の目的は、前記の優れたインクジェット記録用インク組成物を用いたインクカートリッジ、記録方法、記録システム及び記録物並びに該インク組成物を構成する顔料分散液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記1.の発明を提供することにより、前記目的の一つを達成したものである。
1.自己分散型顔料を含み且つ分散樹脂を含まない水系顔料分散体に、加熱処理を施してなる顔料分散液。
【0007】
また、本発明は、下記2〜18の発明をそれぞれ提供するものである。
2.自己分散型顔料と水とからなる顔料分散体に加熱処理を施し、その後有機溶剤を添加してなるか、又は、自己分散型顔料と水と有機溶剤を含み且つ分散樹脂を含まない顔料分散体に加熱処理を施してなる、前記1記載の顔料分散液。
【0008】
3.前記有機溶剤が、グリセリン、グリコールエーテル、アルカンジオール、アセチレングリコール及びピロリドンからなる群より選択された1種以上を含む、前記2記載の顔料分散液。
【0009】
4.前記加熱処理は、温度50〜100℃で、2〜72時間の条件下に行う、前記1〜3の何れかに記載の顔料分散液。
【0010】
5.顔料濃度が顔料分散液中10重量%以上である、前記1〜4の何れかに記載の顔料分散液。
【0011】
6.自己分散型顔料を含み且つ分散樹脂を含まない水系顔料分散体に加熱処理を施す工程を含む、顔料分散液の製造方法。
【0012】
7.自己分散型顔料と水とからなる顔料分散体に加熱処理を施し、その後、有機溶剤を添加する、前記6記載の顔料分散液の製造方法。
【0013】
8.自己分散型顔料と水と有機溶剤を含み且つ分散樹脂を含まない顔料分散体に、加熱処理を施す、前記6記載の顔料分散液の製造方法。
【0014】
9.前記1〜5の何れかに記載の顔料分散液、又は前記6〜8の何れかに記載の顔料分散液の製造方法により得られる顔料分散液を用いてなるインクジェット記録用インク組成物。
【0015】
10.顔料の含有量が、インク組成物中、6重量%以上である、前記9記載のインクジェット記録用インク組成物。
【0016】
11.更に、アセチレングリコール系界面活性剤を含有する、前記9又は10記載のインクジェット記録用インク組成物。
【0017】
12.更に、浸透剤を含有する、前記9〜11の何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
【0018】
13.前記浸透剤が、アルカンジオール及び/又はグリコールエーテルである、前記12記載のインクジェット記録用インク組成物。
【0019】
14.更に、固体湿潤剤を含有する、前記9〜12の何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
【0020】
15.前記9〜14の何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物を含むインクカートリッジ。
【0021】
16.前記9〜14の何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物を用いて画像を形成する記録方法。
【0022】
17.前記9〜14の何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物を用いて画像を形成する記録システム。
【0023】
18.前記9〜14の何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物を用いて画像が形成されてなる記録物。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、高固形分含有インクの場合であっても、長期間放置しても粘度等の物性が変化することなく、インクジェット吐出特性が安定で信頼性に優れたインクジェット記録用インク組成物が提供される。
【0025】
また、本発明によれば、前記の優れたインクジェット記録用インク組成物を用いたインクカートリッジ、記録方法、記録システム及び記録物並びに該インク組成物に有用な顔料分散液が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に本発明に係る顔料分散液及びインクジェット記録用インク組成物について、それらの好ましい実施態様に基づき説明する。
【0027】
本発明の顔料分散液は、既述の通り、自己分散型顔料を含み且つ分散樹脂を含まない水系顔料分散体に、加熱処理を施してなるものである。ここで、水系顔料分散体とは、水その他の水性媒体を主たる溶媒とした顔料の分散体をいう。
【0028】
本発明の顔料分散液は、かかる構成からなるため、高固形分含有インクの場合であっても、長期間放置しても粘度等の物性が変化することなく、インクジェット吐出特性が安定で信頼性に優れたインクジェット記録用インク組成物に有用なものである。
【0029】
本発明の顔料分散液の好適な態様としては、次のものが挙げられる。
(1)自己分散型顔料と水とからなる顔料分散体に加熱処理を施し、その後有機溶剤を添加してなる顔料分散体。
(2)自己分散型顔料と水と有機溶剤を含み且つ分散樹脂を含まない顔料分散体に加熱処理を施してなる顔料分散液。
上記態様、特に好適には(2)の態様によれば、粘度の安定化による保存安定性が優れたインク組成物が得られるため好ましい。
【0030】
本発明の顔料分散液に用いられる自己分散型顔料は、顔料の表面に−COOH、−CHO、−OH、−SO3H及びこれらの塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上等の官能基(分散性付与基)を有するように処理された顔料であって、分散剤を別途配合せずとも、水系インク組成物中で均一に分散し得るものである。尚、ここでいう「分散」とは、自己分散型顔料が分散剤なしに水中に安定に存在している状態をいい、分散している状態のもののみならず、溶解している状態のものも含むものとする。自己分散型顔料が配合されたインク組成物は、自己分散型顔料以外の自己分散型ではない顔料及び分散剤の配合された通常のインク組成物と比べて、分散安定性が高く、また、インク組成物の粘度が適度なものとなるので、顔料をより多く含有させることが可能となり、特に普通紙に対して発色性に優れた文字や図形等の画像を形成することができる。更に、自己分散型顔料が配合されたインク組成物は、印字品質の向上に有効な浸透剤(後述する)を配合しても流動性の低下を生じることがないので、該浸透剤を併用することにより印字品質も高められる。
【0031】
自己分散型顔料を形成し得る顔料としては、通常のインクジェット記録用インク組成物におけるものと同様のものが用いられ、例えば、カーボンブラック、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、キナクリドン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料、ジオキサジン顔料、アントラキノン顔料、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等の有機顔料、チタン白、亜鉛華、鉛白、カーボンブラック系、ベンガラ、朱、カドミウム赤、黄鉛、群青、コバルト青、コバルト紫、ジンクロメート等の無機顔料が挙げられる。また、カラーインデックスに記載されていない顔料であっても水相に分散可能なら、何れも使用できる。これらのうち、特にアゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、キナクリドン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料、ジオキサジン顔料、及びアントラキノン顔料系を用いることが好ましい。尚、「顔料」とは、水や溶剤、油等に通常不溶の粒子状の固体をいう。
【0032】
自己分散型顔料を調製するには、真空プラズマ等の物理的処理や化学的処理により、官能基又は官能基を含んだ分子を顔料の表面に配位、グラフト等の化学的結合をさせること等によって得ることができる。例えば、特開平8−3498号公報に記載の方法によって得ることができる。また、自己分散型顔料は、市販品を利用することも可能であり、好ましい例としては、オリエント化学工業(株)製の「マイクロジェットCW1」、キャボット社製の「CAB−O−JET 200」、「CAB−O−JET 300」等が挙げられる。
【0033】
自己分散型顔料は、例えば、次のようにして調製される。
〔自己分散型顔料の一調製方法例(顔料の表面酸化処理−スルホン化処理)〕
溶剤に顔料を添加し、これをハイスピードミキサー等で高速剪断分散するか、又はビーズミルやジェットミル等で衝撃分散してスラリー状の顔料分散液を得る。該顔料分散液をゆっくり攪拌しながら、硫黄を含む処理剤(スルファミン酸、発煙硫酸、硫酸、クロロ硫酸、フルオロ硫酸、アミド硫酸等)を添加し、該顔料分散液を60〜200℃に加熱処理して、前記顔料表面に前記分散性付与基を導入する。該顔料分散液から溶剤を除去した後、水洗、限外濾過、逆浸透、遠心分離、濾過等を繰り返して前記硫黄を含む処理剤を取り除いて、自己分散型顔料を得る。
【0034】
自己分散型顔料のその他の例としては、次亜塩素酸化処理法や、オゾン酸化処理法(特表2003−535949号公報:特許文献5等参照)等によって表面酸化処理した顔料が挙げられる。
【0035】
また、自己分散型顔料は、インクの保存安定性の向上や、ノズルの目詰まり防止の観点から、その平均粒径が10〜300nmであることが好ましく、40〜150nmであることが更に好ましい。
【0036】
自己分散型顔料の含有量は、本発明の顔料分散液を用いてインク組成物とした際に十分なOD値が得られる点で、該インク組成物中に好ましくは6重量%以上、更に好ましくは6〜13重量%、更に一層好ましくは7〜10重量%となるように調整される。
【0037】
本発明の顔料分散液における顔料濃度(加熱処理後の自己分散型顔料の含有量)は、顔料分散液中に10重量%以上、特に12〜20重量%であることが好ましい。
【0038】
本発明の顔料分散液に用いられる有機溶剤としては、加熱処理による分散の劣化が無いこと、粘度の安定化の点で、グリセリン、グリコールエーテル、アルカンジオール、アセチレングリコール及びピロリドンからなる群より選択された1種以上を含むことが好ましい。これらの中でも、特に粘度の安定化に優れる点で、グリセリン、グリコールエーテルがより好ましい。
【0039】
有機溶剤として用いることのできるグリコールエーテルとしては、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等が好ましく挙げられ、アルカンジオールとしては、1,2−ヘキサンジオール等が好ましく挙げられ、アセチレングリコールとしては、界面活性剤で具体的に商品としてサーフィノール465(Air Products and Chemicals.Inc.社製)等が好ましく挙げられ、ピロリドンとしては、2−ピロリドン等が好ましく挙げられる。
【0040】
有機溶剤の含有量は、本発明の顔料分散液を調製するための分散体中に2〜20重量%であることが好ましく、本発明の顔料分散液を用いてインク組成物とした際の該インク組成物における後述の好ましい量となるように調整される。
【0041】
本発明においては、前記自己分散型顔料と前記有機溶剤を含み且つ分散樹脂を含まない顔料分散体に、加熱処理を施すことにより、顔料分散液とされる。本発明においては、このように前記自己分散型顔料を用いて分散樹脂を用いないことで、高顔料固形分を含みながら低粘度を実現し、更に高発色性を得ることができる。
【0042】
顔料分散体の加熱処理は、分散を劣化させないこと及び粘度低下の抑制に対する効率化の点で、温度50〜100℃で、2〜72時間の条件下に行うことが好ましい。
例えば、温度60〜80℃(好適には65〜70℃)の条件で加熱する場合には、加熱時間を10〜48時間、特に15〜24時間とすることが好ましい。
また、温度80〜100℃(好適には95〜100℃)の条件で加熱する場合には、加熱時間を2〜15時間、特に5〜7時間とすることが好ましい。
【0043】
また、本発明によれば、自己分散型顔料を含み且つ分散樹脂を含まない水系顔料分散体に加熱処理を施す工程を含む顔料分散液の製造方法が提供できる。かかる製造方法は、前述した顔料分散液を得るための好適な製造方法である。
【0044】
本発明に係る顔料分散液の製造方法は、その好適な態様として次の方法が挙げられる。
(1)自己分散型顔料と水とからなる顔料分散体に加熱処理を施し、その後、有機溶剤を添加する方法。
(2)自己分散型顔料と水と有機溶剤を含み且つ分散樹脂を含まない顔料分散体に、加熱処理を施す方法。
上記態様、特に好適には(2)の態様によれば、得られる顔料分散液をインク組成物に用いた場合に、粘度の安定化による保存安定性が優れたインク組成物が得られるため好ましい。
【0045】
本発明のインクジェット記録用インク組成物は、前述した顔料分散液を用いてなるものである(以下、本発明のインクジェット記録用インク組成物を、単に「本発明のインク組成物」ということもある)。
【0046】
本発明のインク組成物は、かかる構成からなるため、高固形分含有インクの場合であっても、長期間放置しても粘度等の物性が変化することなく、インクジェット吐出特性が安定で信頼性に優れたものである。
【0047】
本発明のインク組成物は、いわゆるインクジェット記録方式によって、紙等の記録媒体に文字や図形等の画像を記録形成するためにインクジェットプリンタのプリンタヘッドから液滴として吐出するための記録液として用いられるものである。
【0048】
本発明のインク組成物には、前記顔料分散液が用いられるため、前記自己分散型顔料が含有される。特に、自己分散型顔料は、十分なOD値が得られる点で、インク組成物中に好ましくは6重量%以上、更に好ましくは6〜13重量%、更に一層好ましくは7〜10重量%の範囲内で含有される。
【0049】
本発明のインク組成物は、通常、溶剤として水、好ましくはイオン交換水を含有する水系のインク組成物である。
【0050】
本発明のインク組成物は、溶剤として、水以外に、以下の有機系の溶剤を併用することもできる。即ち、該有機系の溶剤としては、水と相溶性を有し、記録媒体へのインク組成物の浸透性及びノズルの目詰まり防止性を向上させると共に、後述する浸透剤等のインク組成物中の成分の溶解性を向上させるものが好ましく、例えば、エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜4のアルキルアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテルなどのグリコールエーテル類、2−ピロリドン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルホキシド、ソルビット、ソルビタン、アセチン、ジアセチン、トリアセチン、スルホラン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を、本発明のインク組成物中に好ましくは0〜10重量%で用いることができる。
【0051】
本発明のインク組成物には、印字品質を向上させる点から、顔料分散液とともに、更に、アセチレングリコール系界面活性剤を含有することが好ましい。
【0052】
このようなアセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オール、又はこれらの物質それぞれにおける複数の水酸基それぞれにエチレンオキシ基若しくはプロピレンオキシ基を平均1〜30個付加してなる物質等が挙げられる。また、アセチレングリコール系界面活性剤としては、市販品を用いることもでき、例えば、「サーフィノール104PG50」、「サーフィノール465」(何れも、商品名、Air Products and Chemicals.Inc.社製)等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0053】
アセチレングリコール系界面活性剤の含有量は、本発明のインク組成物中、好ましくは0.1〜3重量%であり、更に好ましくは0.5〜1.5重量%である。
【0054】
本発明のインク組成物には、記録媒体への定着性を更に向上させて記録する文字や図形等の画像の耐擦性を高めるために、浸透剤を含有させることが好ましい。このような浸透剤としては、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール等の1,2−アルカンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の1,6−アルカンジオール(二価のアルコール)、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル(DEGmBE)、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル(DEGmtBE)、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル(TEGmBE)、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル(PGmBE)、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル(DPGmBE)等のグリコールエーテル及び下記一般式(I)で表される化合物からなる群から選ばれる1種又は2以上が好ましく、特に、DEGmBE、TEGmBE、DPGmBEが好ましい。尚、下記一般式(I)において、mとnは系中の存在を示し、PO及びEOは、ブロック付加でもよく、ランダム付加でもよい。
RO−(PO)m−(EO)n−H …(I)
(式中、Rは炭素数4〜10のアルキル基を示し、POはプロピレンオキシ基を示し、EOはエチレンオキシ基を示す。m≧1、n≧0、m+n≦20。)
【0055】
浸透剤の含有量は、インク組成物の浸透性及び速乾性を向上させてインクの滲み発生を有効に防止できる点で、本発明のインク組成物中、好ましくは1〜20重量%である。
【0056】
本発明のインク組成物には、ノズルの目詰まりを防止して信頼性をより高めるために、水溶性グリコール類を含有させることが好ましい。このような水溶性グリコール類としては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール、トリメチレングリコール、イソブチレングリコール等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。特に目詰まり回復性向上の点から、グリセリンが好ましい。
【0057】
水溶性グリコール類の含有量は、本発明のインク組成物中に好ましくは1〜30重量%である。
【0058】
本発明のインク組成物には、目詰まり回復性が向上する点で、尿素及びその誘導体、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の固体湿潤剤を含有することが好ましい。特にトリメチロールプロパンが好ましい。
【0059】
固体湿潤剤の含有量は、本発明のインク組成物中、好ましくは1〜10重量%、更に好ましくは2〜8重量%である。
【0060】
本発明のインク組成物においては、樹脂粒子を用いることができる。樹脂粒子としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられるが特に限定されない。これらの樹脂は、使用に際して1種又は2種以上で用いられる。
【0061】
樹脂粒子は、不飽和単量体の乳化重合によって得られた樹脂粒子のエマルジョン(例えば、いわゆる「アクリルエマルジョン」)の形態でインク組成物中に配合されることが好ましい。その理由は、樹脂粒子のままインク組成物中に添加しても該樹脂粒子の分散が不十分となる場合があるため、インク組成物の製造上エマルジョンの形態が好ましいからである。また、エマルジョンとしては、インク組成物の保存安定性の観点から、アクリルエマルジョンが好ましい。
【0062】
樹脂粒子のエマルジョン(アクリルエマルジョン等)は、公知の乳化重合法により得ることができる。例えば、不飽和単量体(不飽和ビニルモノマー等)を重合開始剤、及び界面活性剤を存在させた水中において乳化重合することによって得ることができる。
【0063】
不飽和単量体としては、一般に乳化重合で使用されるアクリル酸エステル単量体類、メタクリル酸エステル単量体類、芳香族ビニル単量体類、ビニルエステル単量体類、ビニルシアン化合物単量体類、ハロゲン化単量体類、オレフィン単量体類、ジエン単量体類等が挙げられる。さらに、具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−へキシルアクリレート、2−エチルへキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、シクロへキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート等のアクリル酸エステル類、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類、及び酢酸ビニル等のビニルエステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物類;塩化ビニリデン、塩化ビニル等のハロゲン化単量体類;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、4−t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル単量体類;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、クロロプレン等のジエン類;ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルピロリドン等のビニル単量体類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド類;2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等の水酸基含有単量体類等が挙げられ、これらを単独または二種以上混合して使用することができる。
【0064】
また、重合可能な二重結合を二つ以上有する架橋性単量体も使用することができる。重合可能な二重結合を二つ以上有する架橋性単量体の例としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2’−ビス(4−アクリロキシプロピロキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジアクリレート化合物、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート等のトリアクリレート化合物、ジトリメチロールテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のテトラアクリレート化合物、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のヘキサアクリレート化合物、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリブチレングリコールジメタクリレート、2,2’−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート化合物、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物、メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼン等が挙げられ、これらを単独または二種以上混合して使用することができる。
【0065】
また、乳化重合の際に使用される重合開始剤及び界面活性剤の他に、連鎖移動剤、さらには中和剤等も常法に準じて使用してよい。特に中和剤としては、アンモニア、無機アルカリの水酸化物、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等が好ましい。
【0066】
樹脂粒子は、微粒子粉末としてインク組成物の他の成分と混合されてもよいが、好ましくは樹脂粒子を水媒体に分散させ、エマルジョン(ポリマーエマルジョン)の形態とした後、インク組成物の他の成分と混合されるのが好ましい。
【0067】
また、樹脂粒子としては、単相構造及び複相構造(コアシェル型)の何れのものも使用できる。
【0068】
樹脂粒子は、本発明のインク組成物中に、均一なインクを調整するというインク調整の点とインクの安定性の点で、エマルジョンとして配合されることが好ましい。
本発明において、「樹脂粒子」とは、水に不溶性の樹脂が主として水からなる分散媒中に粒子状に分散しているもの、あるいは水に不溶性の樹脂を主として水からなる分散媒中に粒子状に分散させたもの、更にはその乾燥物をも包含したものを意味する。
また、本発明において、「エマルジョン」というときは、ディスパージョン、ラテックス、サスペンジョンと呼ばれる固/液の分散体をも包含したものを意味するものとする。
【0069】
また、エマルジョンは、前述した自己分散型顔料の分散安定性向上の観点から、アニオン性であることが好ましい。尚、同様の観点から、表面がカチオン性の顔料(例えば、表面処理によりカチオン基で分散させたもの)を用いる場合は、エマルジョンはカチオン性であることが好ましい。
【0070】
エマルジョンは、例えば、次のようにして製造される。
〔エマルジョンの一製造方法例〕
滴下装置、温度計、水冷式還流コンデンサー及び攪拌機を備えた反応容器に、イオン交換水100部を入れ、窒素雰囲気下、温度70℃で攪拌しながら、重合開始剤0.2部を添加する。これに、別途調製したモノマー溶液を滴下し重合反応させて、1次物質を調製する。その後、温度70℃で、該1次物質に、重合開始剤の10%水溶液2部を添加して攪拌し、更に別途調製した反応液を添加し攪拌して重合反応させ、重合反応物を得る。該重合反応物を、中和剤で中和してpHが8〜8.5になるように調整した後、0.3μmのフィルターでろ過し粗大粒子を除去して、樹脂粒子を分散質とするエマルジョンを得る。
【0071】
重合開始剤としては、通常のラジカル重合に用いられるものと同様のものが用いられ、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、過酸化ジブチル、過酢酸、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロキシパーオキシド、パラメンタンヒドロキシパーオキシド等が挙げられる。特に、前述の如く、重合反応を水中で行う場合には、水溶性の重合開始剤が好ましい。
【0072】
また、重合反応で用いられる乳化剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウムの他、一般にアニオン界面活性剤、非イオン界面活性剤又は両性界面活性剤として用いられているもの等が挙げられる。
【0073】
また、重合反応で用いられる連鎖移動剤としては、例えば、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、キサントゲン類であるジメチルキサントゲンジスルフィド、ジイソブチルキサントゲンジスルフィド、ジペンテン、インデン、1,4−シクロヘキサジエン、ジヒドロフラン、キサンテン等が挙げられる。
【0074】
また、本発明のインク組成物には、前記浸透剤と同様に、文字や図形等の画像の耐擦性を高めるために、前記アセチレングリコール系界面活性剤以外の界面活性剤を含有させることもできる。そのような界面活性剤としては、例えば、両性界面活性剤として、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシンその他イミダゾリン誘導体等、非イオン界面活性剤として、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどのエーテル系、ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系、ジメチルポリシロキサン等のシリコン系界面活性剤、その他フッ素アルキルエステル、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等の含フッ素系界面活性剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0075】
また、本発明のインク組成物には、前記水溶性グリコール類と同様に、ノズルの目詰まり防止のために、糖類や、防黴剤・防腐剤を含有させることもできる。
【0076】
糖類としては、例えば、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ラクトース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトース、マルトース、セロビオース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース、アルギン酸及びその塩、シクロデキストリン類、セルロース類等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を、本発明のインク組成物中に好ましくは0〜15重量%で用いることができる。
【0077】
また、防黴剤・防腐剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン(AVECIA社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を、本発明のインク組成物中に好ましくは0.01〜0.5重量%で用いることができる。
【0078】
本発明のインク組成物には、目詰まり防止や吐出安定性といった信頼性確保の点で、EDTA等のキレート剤を含有させることが好ましく、本発明のインク組成物中に好ましくは0.01〜0.5重量%で用いることができる。
【0079】
本発明のインク組成物は、自己分散型顔料の表面がアニオン性である場合、印字濃度の向上及び液安定性の観点から、そのpHを6〜11とすることが好ましく、7〜10とすることが更に好ましい。インク組成物のpHを前記範囲内とするためには、pH調整剤として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の無機アルカリ類、アンモニア、トリエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリプロパノールアミン等の炭素数6〜10の3級アミン類等を含有させることが好ましい。pH調整剤は、その1種又は2種以上を、本発明のインク組成物中に好ましくは0.01〜2重量%で用いることができる。
【0080】
本発明のインク組成物には、更に必要に応じて、表面張力調整剤、粘度調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、酸素吸収剤等の各種添加剤を含有させることができ、これらの1種又は2種以上が用いられる。
【0081】
本発明のインク組成物は、吐出安定性を向上させて信頼性をより高める観点から、その表面張力を20〜40mN/mとすることが好ましく、25〜34mN/mとすることが更に好ましい。表面張力を前記範囲内とするために、前記表面張力調整剤を含有させることもできる。インク組成物の表面張力は、JIS K 3211に従い、測定される。
【0082】
本発明のインク組成物は、吐出安定性を向上させて信頼性をより高める観点から、その20℃における粘度を2〜10mPa・s、特に3〜6mPa・sとすることが好ましい。インク組成物の粘度を前記範囲内とするために、前記粘度調整剤を含有させることもできる。前記粘度調整剤としては、ロジン類、アルギン酸類、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、アラビアゴムスターチ等が挙げられる。
【0083】
本発明のインク組成物の調製に際しては、粗大粒子を除去することが好ましい。例えば、前述の各成分を配合して得られた混合物(インク)を、金属フィルターやメンブランフィルター等のフィルターにてろ過することにより、300nm以上の粒子を除去する。このような処理を行うことによって、ノズルに目詰まりしない信頼性のより高いインク組成物が得られる。
【0084】
本発明のインク組成物は、その色の種類等に制限されるものではなく、種々のカラーインク組成物(シアン、マゼンタ、イエロー、ライトシアン、ライトマゼンタ、ダークイエロー、レッド、グリーン、ブルー、オレンジ、バイオレット等)、ブラックインク組成物、ライトブラックインク組成物等として使用できる。使用に際しては、本発明のインク組成物を単独で、若しくはその複数種からなるインクセットとして、又は、本発明のインク組成物の一種若しくは複数種とその他のインク組成物の一種若しくは複数種とからなるインクセットとして用いることができる。
【0085】
本発明のインク組成物は、その画像を形成するための記録媒体として、特に制限されることなく、普通紙、インクジェット用専用紙、プラスチック、フィルム、金属等の種々の記録媒体に適用することができる。
【0086】
また、本発明によれば、前述したインク組成物を備えたインクカートリッジが提供される。本発明のインクカートリッジにより、前記インク組成物の使用性、取扱い性を担保できる。
【0087】
また、本発明によれば、前述したインク組成物を使用して記録媒体に画像を形成する記録方法が提供される。本発明の記録方法の一実施形態は、インクジェット記録方式によって、前述のインク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて印字を行うものである。本発明の記録方法を実施することによって、長期間放置してもインク粘度等の物性が変化することなく、インクジェット吐出特性が安定で信頼性を確保できる。
【0088】
また、本発明によれば、前述したインク組成物を使用して記録媒体に画像が形成されてなる記録物が提供される。本発明の記録物は、インクジェット吐出特性が安定に記録されたものであるため、高品質のものである。
【0089】
また、本発明によれば、前述したインク組成物を用いて画像を形成する記録システムを提供でき、特に、前述した実施形態に係るインク組成物を用いるインクジェットプリンタ等の記録装置その他の記録システムを好適に提供できる。
【0090】
本発明は、前述した各実施形態を好適に提供するものであるが、これらの実施形態に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
【0091】
以下に、本発明の実施例および試験例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はかかる実施例により何等制限されるものではない。
【0092】
以下の各処理法によって顔料表面に酸化処理を施し、顔料分散体A、B及びCを得た。
(顔料の表面酸化処理−スルホン化処理法)
溶剤に顔料を添加し、これをハイスピードミキサー等で高速剪断分散するか、又はビーズミルやジェットミル等で衝撃分散してスラリー状の顔料分散体を得る。該顔料分散体をゆっくり攪拌しながら、硫黄を含む処理剤(スルファミン酸、発煙硫酸、硫酸、クロロ硫酸、フルオロ硫酸、アミド硫酸等)を添加し、該顔料分散体を60〜200℃に加熱処理して、前記顔料表面に前記分散性付与基を導入する。該顔料分散体から溶剤を除去した後、水洗、限外濾過、逆浸透、遠心分離、濾過等を繰り返して前記硫黄を含む処理剤を取り除いて、顔料濃度が15重量%になる自己分散型顔料分散体を得る。(顔料分散体A)
例えば、オリエント化学工業(株)製の「マイクロジェットCW1」がこれに相当する。
【0093】
(顔料の表面酸化処理−次亜塩素酸化処理法)
市販のカーボンブラックであるカラーブラックS170(デグサ・ヒュルス社製) 100gを水1kgに混合して、ジルコニアビーズによるボールミルにて粉砕した。この粉砕原液に次亜塩素酸ナトリウム(有効塩素濃度 12%)1400gを滴下して、ボールミルで粉砕しながら5時間反応させ、さらに攪拌しながら4時間煮沸して湿式酸化を行った。得られた分散原液をガラス繊維ろ紙GA−100(商品名:アドバンテック東洋社製)で濾過して、さらに水で洗浄した。得られたウェットケーキを水5kgに再分散して、逆浸透膜により電導度が2mS/cmになるまで脱塩および精製し、さらに顔料濃度が18重量%になるまで濃縮して自己分散型顔料分散体を得る。(顔料分散体B)
【0094】
(顔料の表面酸化処理−オゾン酸化処理法)
市販のカーボンブラックである#3350(三菱化学社製)20gを水500gに混合して、家庭用ミキサーで5分間分散した。得られた液を攪拌装置のついた3リットルのガラス容器に入れ、攪拌機で攪拌しながら、オゾン濃度8重量%のオゾン含有ガスを500cc/分で導入した。この際、オゾン発生器はペルメレックス電極社の電解発生型のオゾナイザーを用いてオゾンを発生させた。得られた分散原液をガラス繊維濾紙GA−100(商品名:アドバンテック東洋社製)で濾過し、さらに顔料濃度が20重量%になるまで0.1Nの水酸化カリウム溶液を添加しpH9に調整しながら濃縮を行い、自己分散型顔料分散体を得る。(顔料分散体C)
【0095】
(溶剤添加工程)
(1) 1,2−ヘキサンジオールを分散体に対し、全量で10重量%の割合になるよう添加する。
(2) グリセリンを分散体に対し全量で10重量%、トリエチレングリコールモノブチルエーテルを分散体に対し全量で5重量%の割合になるよう添加する。
(3) グリセリンを分散体に対し全量で15重量%、トリエチレングリコールモノブチルエーテルを分散体に対し全量で5重量%、サーフィノール465(Air Products and Chemicals. Inc.社製)を分散体に対し全量で2重量%の割合になるよう添加する。
(4) グリセリンを分散体に対し全量で10重量%、トリエチレングリコールモノブチルエーテルを分散体に対し全量で2重量%、2−ピロリドンを分散体に対し、全量で8重量%の割合になるよう添加する。
【0096】
(加熱工程)
加熱工程A;分散体に対して、70℃にて20時間の加熱を行い、顔料分散液とする。
加熱工程B;分散体に対して、100℃にて7時間の加熱を行い、顔料分散液とする。
【0097】
表1に示す工程を経て得られたものを、実施例1〜8の顔料分散液とする。
【0098】
【表1】

【0099】
(比較例)
溶剤添加及び加熱工程を行わない以外は実施例1と同様にして得たもの、即ち、実施例1の顔料の表面酸化処理工程で得た自己分散型顔料分散体を、比較例1の顔料分散液とする。
【0100】
<インク組成物の調製>
以下に示す配合組成で各成分を加えて全量を100gとした。その後、室温にて2時間攪拌し、孔径5μmのメンブランフィルタ(商品名、日本ミリポア・リミテッド製)にて濾過して、インク組成物(水性インク)を調製した。
【0101】
・上記で得た顔料分散液 :7重量%(顔料固形分)
・サーフィノール104PG50 :0.5重量%
(商品名、Air Products and Chemicals. Inc.社製)
・サーフィノール465 :1重量%
(商品名、Air Products and Chemicals. Inc.社製)
・トリメチロールプロパン(固体湿潤剤) :5重量%
・グリセリン :7重量%
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル:2重量%
(浸透剤)
・1,2−ヘキサンジオール :4重量%
・超純水 :残量
【0102】
調製した各インク組成物について、物性測定(粘度)及びインクジェットプリンターPX−V700(セイコーエプソン(株)製)で360dpiの解像度で各種印字を行うことにより、下記に示す評価・試験項目について評価した。
【0103】
評価・試験:(1)保存安定性
各インク組成物についてインク製造直後と常温(25℃)にて1年間放置した後の粘度(20℃)変化を以下の基準に基づいて判定した。
評価AA:粘度変化量0.1mPa・s未満
評価A:粘度変化量0.1mPa・s以上、粘度変化量0.2mPa・s未満
評価B:粘度変化量0.2mPa・s以上
【0104】
評価・試験:(2)吐出安定性
各インク組成物を常温(25℃)にて1年間放置した後、以下の評価を行う。
40℃環境にてベタ及び罫線パターンの連続印字を行った。
連続印字前にノズルチェックを行い、充填性を確認した後に評価を開始した。その後印字中にドット抜け又はインクの飛び散りや曲がり等による乱れが生じた際、回復動作としてクリーニングを都度行った。A4サイズで連続印刷100ページ内に要した前記クリーニング回数を結果とし、以下の基準に基づいて判定した。
【0105】
評価A:クリーニング回数ゼロ。
評価B:クリーニング回数1又は2回。
評価C:クリーニング回数3回以上。
【0106】
評価結果を、表2に示す。
【0107】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、高固形分含有インクの場合であっても、長期間放置しても粘度等の物性が変化することなく、インクジェット吐出特性が安定で信頼性に優れたインクジェット記録用インク組成物、該インク組成物を用いたインクカートリッジ、記録方法、記録システム及び記録物、並びに該インク組成物に有用な顔料分散液として、産業上の利用可能性を有する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己分散型顔料を含み且つ分散樹脂を含まない水系顔料分散体に、加熱処理を施してなる顔料分散液。
【請求項2】
自己分散型顔料と水とからなる顔料分散体に加熱処理を施し、その後有機溶剤を添加してなるか、又は、自己分散型顔料と水と有機溶剤を含み且つ分散樹脂を含まない顔料分散体に加熱処理を施してなる、請求項1記載の顔料分散液。
【請求項3】
前記有機溶剤が、グリセリン、グリコールエーテル、アルカンジオール、アセチレングリコール及びピロリドンからなる群より選択された1種以上を含む、請求項2記載の顔料分散液。
【請求項4】
前記加熱処理は、温度50〜100℃で、2〜72時間の条件下に行う、請求項1〜3の何れかに記載の顔料分散液。
【請求項5】
顔料濃度が顔料分散液中10重量%以上である、請求項1〜4の何れかに記載の顔料分散液。
【請求項6】
自己分散型顔料を含み且つ分散樹脂を含まない水系顔料分散体に加熱処理を施す工程を含む、顔料分散液の製造方法。
【請求項7】
自己分散型顔料と水とからなる顔料分散体に加熱処理を施し、その後、有機溶剤を添加する、請求項6記載の顔料分散液の製造方法。
【請求項8】
自己分散型顔料と水と有機溶剤を含み且つ分散樹脂を含まない顔料分散体に、加熱処理を施す、請求項6記載の顔料分散液の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜5の何れかに記載の顔料分散液、又は請求項6〜8の何れかに記載の顔料分散液の製造方法により得られる顔料分散液を用いてなるインクジェット記録用インク組成物。
【請求項10】
顔料の含有量が、インク組成物中、6重量%以上である、請求項9記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項11】
更に、アセチレングリコール系界面活性剤を含有する、請求項9又は10記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項12】
更に、浸透剤を含有する、請求項9〜11の何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項13】
前記浸透剤が、アルカンジオール及び/又はグリコールエーテルである、請求項12記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項14】
更に、固体湿潤剤を含有する、請求項9〜12の何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項15】
請求項9〜14の何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物を含むインクカートリッジ。
【請求項16】
請求項9〜14の何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物を用いて画像を形成する記録方法。
【請求項17】
請求項9〜14の何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物を用いて画像を形成する記録システム。
【請求項18】
請求項9〜14の何れかに記載のインクジェット記録用インク組成物を用いて画像が形成されてなる記録物。


【公開番号】特開2006−307130(P2006−307130A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230023(P2005−230023)
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】