説明

顔料分散液及びそれを用いたインクジェット用記録媒体

【課題】優れた耐ガス性と耐光性、及び高い色濃度を実現できるインクジェット用記録媒体、及びそれを作製するための顔料分散液を提供する。
【解決手段】分散液に無機顔料が分散されている顔料分散液であって、前記無機顔料には金属化合物が付着しており、前記顔料分散液中の前記金属化合物の金属イオン濃度は0.05mol/Lを超えないことを特徴とする顔料分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料分散液及びそれを用いたインクジェット用記録媒体に関する。特に、水性インクの発色性や画像堅牢性に優れた記録媒体に関する。より詳しくは、鮮明で高品位な記録画像が得られ、且つ印刷物を室内に保存しても退色や変色の発生がない記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
特に近年、市場に多く普及しているインクジェット記録においては、銀塩写真と同等以上の発色性及び画像堅牢性を目的として、記録媒体において多くの技術的アプローチ及び提案が開示されている。その中で、記録画像の堅牢性を向上させる目的で、インク受容層中にインク受容材の他に金属イオンや金属塩を共存させる提案が数多くある。
【0003】
特許文献1〜5には、記録画像の耐ガス性や耐光性、高いインク吸収性、インク定着性、高い色濃度等を目的として、アルミナ水和物を含有するインク受容層中に、水溶性の金属塩又は難溶性の金属化合物を単純に含ませた記録用シートが開示されている。特許文献6には、耐水性、耐光性、高い色濃度を目的として、多孔性無機顔料、カチオン性樹脂、及び常温で水への溶解度が1%以下のマグネシウム化合物を含む記録用シートを開示されている。
【0004】
また、インク受容材にシリカを用いたものでは、記録画像の堅牢性を向上させる目的で、1価以上の金属イオンの化合物や塩で表面処理したシリカに関して特許文献7〜8で開示されている。特許文献7では、発色性、耐光性及び耐水性の向上を目的として、金属の金属石鹸、水酸化物、塩又は酸化物により表面処理されたシリカを含有する被記録材が開示されている。この中では、シリカの表面処理法として、シリカ合成時の90℃の加熱条件下での金属塩を加えて20分間の熟成をするなど、表面処理のための金属化合物を添加するタイミングについて開示されている。また、特許文献8には、耐光性の向上を目的として、カルシウム、マグネシウム、バリウムで表面処理したシリカを用いたインクジェット記録シートが開示されている。この中では、シリカの表面処理法として、シリカを分散した水溶液中で金属塩を添加して90℃加熱する方法が開示されている。また、特許文献9では、多孔質酸化アルミニウムと原子番号57から71をもつ周期系の希土類金属系列元素を有する化合物の混合物をインク受容層中に含有したインクジェット記録媒体が開示されている。この中では、多孔質酸化アルミニウムの表面処理法として、多孔質酸化アルミニウムを分散した水溶液中で金属塩を添加して、90℃加熱する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2000−177235号公報
【特許文献2】特開平4−323075号公報
【特許文献3】特開平11−321090号公報
【特許文献4】特開平8−112964号公報
【特許文献5】特開2002−166640号公報
【特許文献6】特開昭61−57380号公報
【特許文献7】特開昭63−166586号公報
【特許文献8】特開平1−259982号公報
【特許文献9】特開平10−329404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、これら従来技術について検討したところ、高い色濃度を維持しながら、十分な堅牢性の効果を得ることは困難であることが分かった。
【0006】
特許文献1〜5の記録媒体においては、水溶性の金属塩を単に含浸又は分散しているだけであるため、印字すると水溶性の金属塩は、インク受容層表面に留まらずに、溶液と共にインク受容層内に浸透することが分かった。そのために、耐ガス性と耐光性は僅かによくなる程度であり、高い色濃度については確認できなかった。さらには、元素の周期律表でのIIA族やIIIA族の元素を含む化合物に関しては、これら化合物を加えた顔料分散液はゲル化し易くなるために微量しか添加できないことが分かった。
【0007】
特許文献6の記録媒体においては、常温で水への溶解度が1%以下のマグネシウム化合物を顔料分散液中に添加した記録媒体では耐ガス性と耐光性の効果は確認できたが、その効果は十分ではなかった。これは、印字しても必ずしも染料がマグネシウム化合物粒子の近傍に存在しているとは限らず、マグネシウム化合物添加の効果が十分に得られないと考えられる。また、シリカやアルミナなどの無機顔料の表面に酸点が存在し、この酸点に依存する固体酸強度とインクの耐ガス性や耐光性に相関関係があると考えられているが、この方法では固体酸強度を弱めることは困難であると考えられる。
【0008】
また、特許文献7〜9に記載されている表面処理方法では、金属が水に溶解しやすい状態で存在しているために、顔料分散液中に担持させた金属が溶出して、顔料分散液が増粘しやすい問題があった。
【0009】
本発明は、上記の開示されている技術に対して優れた耐ガス性と耐光性、及び高い色濃度を実現できるインクジェット用記録媒体、及びそれを作製するための顔料分散液を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、分散液に無機顔料が分散されている顔料分散液であって、前記無機顔料には金属化合物が付着しており、前記顔料分散液中の前記金属化合物の金属イオン濃度は0.05mol/Lを超えないことを特徴とする顔料分散液である。ここで、金属イオン濃度が0.05mol/Lを超えないとは、前記顔料分散液中に前記金属化合物が溶解していない場合も含むものである。
【0011】
また、本発明は、上記顔料分散液を基材に塗工して形成されたインク受容層を有することを特徴とするインクジェット用記録媒体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の顔料分散液は、分散している無機粒子が強く凝集して、増粘することがない。又、本発明のインクジェット用記録媒体は、印字画像における色濃度が高くなり、さらには優れた耐ガス性と耐光性を有する記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。
【0014】
本発明者らは、無機顔料に染着した色材のガス劣化メカニズムを以下のように推測した。推測したメカニズムを、図を用いて、以下に説明する。
【0015】
アルミナ水和物やシリカ等の無機顔料は、表面に付着水が存在しない場合、図1に示すように、ルイス酸点(501)及び塩基点(502)が存在している。しかしながら、大気中の水分や染色するための色材溶液等を付与すると、図1中のルイス酸点(501)に水分子が吸着して、図2に示すようにブレンステッド酸点(601)に変化する。このブレンステッド酸点に吸着している水分子がオゾン等のガスの影響を受けると、オゾンと付着水との相互作用によりラジラルが発生する。そして、該ラジカルがアルミナ水和物やシリカ等の無機顔料表面に染着している色材に対し、強い酸化作用を行い、色材が分解、即ち色材劣化が生じると推測した。
【0016】
次に、前記推測より、色材の分解抑制のために、オゾンガス等の作用で、アルミナ水和物やシリカ等の無機顔料の表面や結晶層間に存在する付着水分子や結晶水分子の活性酸素やヒドロキシラジカルへの変化抑制について鋭意検討を行った。
【0017】
そこで、本発明者らは、無機顔料表面の酸点に吸着している水分子とオゾンガスの相互作用によるラジカル発生反応をいかに抑えるかがポイントと考えた。すなわち、インクジェット記録等の写真印刷用記録媒体の色材受容材として用いられ、高い発色性を示すアルミナ水和物やシリカ等の無機顔料に吸着した色材の耐ガス性向上のために、無機顔料表面の反応点を遮蔽させる手段を鋭意検討した。具体的には、アルミナ水和物やシリカ等の無機顔料表面の付着水を包摂又は捕捉し得る化合物をアルミナ水和物やシリカ等の無機顔料表面に存在させることを検討した。
【0018】
その結果、アルミナ水和物やシリカ等の酸機能を有する無機顔料の表面に、金属化合物を付着させると、耐ガス性が向上することを見出した。なお、本発明におけるアルミナ水和物やシリカ等の無機顔料の表面とは、無機顔料の表面の他、多孔質化した無機顔料の空孔の内壁面も含むものである。
【0019】
また、本発明で用いる金属化合物は、酸機能を有さない化合物、さらには、無機顔料表面の付着水を包摂又は捕捉し得る化合物であることが好ましい。特に、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれる1以上の元素を含む化合物が好ましい。これらの化合物を用いることで飛躍的に耐ガス性を向上することができる。
【0020】
無機顔料表面の酸機能は、昇温脱離試験(TPD測定)等のガス吸着法により調べることができる。例えば、アンモニアを用いた昇温脱離試験(TPD)の測定結果を図3と図4に示す。図3はアンモニアに由来する質量スペクトル(m/z=16)の測定データである。図中のaは、アルミナ水和物のチャートであり、bは酢酸マグネシウム・4水和物が付着したアルミナ水和物である。t=約200℃弱でaとbに違いが見られる。t=約200℃弱のピークは、物理吸着したアンモニアを示すものと考えられる。本発明のbは物理吸着したアンモニアが確認できないことから、アンモニア分子の物理吸着の元になる化学吸着点である酸点(酸機能を有する部分)が低減したことを推測できる。これより、酢酸マグネシウム・4水和物が付着したアルミナ水和物は、アルミナ水和物表面に付着した酢酸マグネシウム・4水和物により、アルミナ水和物の酸点が潰れて、アルミナ水和物表面の酸機能が低下したと考えられる。また、t=約400℃強のピークが、aとb共にピークが観察された。しかし、このピークは、水に由来する質量スペクトル(m/z=18)の挙動を示す図4のピークと対応していることより、アルミナ水和物の結晶構造変化(アルミナ水和物→γアルミナ)に伴う脱水に因るものと考えられる。
【0021】
図5は、本発明のメカニズムのイメージを示したものである。(8−1)は、金属化合物が付着していない無機顔料を用いた場合で、金属化合物が付着していない無機顔料(801)の表面に存在する酸点には、水分子(802)が付着又は吸着している。この水分子(802)とオゾンガス(803)が作用する(R−A)と、ラジカル(804)が発生(R−B)し、該ラジカル(804)が有機物(805)にアタックして有機物(805)を分解(R−C)する。これに対し、(8−2)は、本発明の金属化合物が付着した無機顔料を用いた場合である。金属化合物が付着した無機顔料(801)の表面に存在する酸点には、水分子(802)が付着又は吸着しているが、その水分子(802)を金属化合物(806)が包摂又は捕捉(R−D)により水和物(807)を形成する。このように、金属化合物が付着した無機顔料(801)の表面に存在する水分子(802)を安定状態にするために、オゾンガス(803)が来ても作用しない(R−E)のでラジカル(804)は発生せず、有機物が分解されない傾向となると考えている。
【0022】
また、金属化合物が付着している無機顔料は、耐光性においても効果があることが分かった。
【0023】
前記金属化合物を構成する金属としては、Mg、Ca、Sr及びBa等のアルカリ土類金属が好ましい。金属化合物としては、これら金属と、酢酸イオン、シュウ酸イオンなどの有機酸イオン;硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、ハロゲンイオン、水酸化イオンなど無機酸イオンとの塩、あるいは上記金属の酸化物が好適である。このような金属化合物を無機顔料に付着させることで、飛躍的に耐ガス性と耐光性を向上することができる。
【0024】
一般に無機顔料を水等の溶剤に均一に分散させるためには分散剤を用いる。例えば、アルミナ水和物を水に分散させるためには、分散剤として酢酸を用いると均一に分散させることができる。これは、アルミナ水和物表面がプラスの電荷を帯びているために、酢酸イオンがアルミナ表面に吸着してアルミナ水和物粒子表面に電気二重層を形成し、アルミナ水和物粒子間の電気的な斥力が作用して凝集を防ぐことができるためである。しかし、Mg、Ca、Sr又はBaイオンが溶液中に存在すると、アルミナ水和物粒子表面の電気二重層が壊れて、粒子間の電気的な斥力が十分に働かなくなるために凝集が起こると考えられる。そのために分散しているアルミナ水和物粒子が強く凝集して、顔料分散液の粘度が高くなりやすい。又、この分散液をインクジェット用の支持体、又は記録媒体に塗布した場合は、増粘により塗工特性が低下する。しかも、塗工層の安定製造も難しくなる。さらに、インク受容層として利用した場合は、インク受容層のヘイズが増加して(透明性が低下して)、印字濃度が低下する。
【0025】
そこで、本発明では、顔料分散液中に金属化合物が溶解していないか、又は顔料分散液中に金属化合物が溶解して存在している金属イオンの濃度が0.05mol/Lを超えないことを要件とする。該金属イオンの濃度は、0mol/L以上、0.03mol/L以下が好ましい。こうすることで、顔料分散液の増粘を抑制し、高い色濃度を有する記録媒体を作製することができる。
【0026】
図6に、金属化合物として酢酸マグネシウム・4水和物又は酢酸カルシウム・1水和物、無機顔料としてアルミナ水和物を用いて、金属イオン濃度の異なる顔料分散液を作製し、これら顔料分散液中の無機顔料の平均分散粒子径を調べた結果を示す。なお、分散媒としては純水を用い、上記の成分の他に、アルミナ水和物を分散させるための解膠剤として酢酸を用いている。図6より、顔料分散液中に金属化合物が溶解して存在している金属イオンの濃度が0.05mol/Lよりも高くなると、無機顔料の粒子が凝集して、分散粒子径が大きくなることが確認できた。
【0027】
また、これら上記顔料分散液に、バインダーとしてポリビニルアルコールを加えた塗工液を用いてインクジェット用記録媒体を作製した。そして、その記録媒体にインクジェット方式を用いたフォト用プリンタを用いて印字したブラックのベタ画像の色濃度について調べた結果を図7に示す。なお、顔料分散液中に金属化合物が溶解して存在している金属イオンの濃度が0.15mol/L以上の顔料分散液は、粘度が高いために記録媒体を作製することができなかった。図7より、顔料分散液中に金属化合物が溶解して存在している金属イオンの濃度が0.05mol/Lよりも高くなると、印字濃度が低下することが確認できた。
【0028】
本発明で使用する無機顔料としては、染料定着性、透明性、印字濃度、発色性、及び光沢性の点で、特にアルミナ水和物を主成分とすることが好ましいが、インクジェット用の記録媒体として使用可能なものなら特に限定されるものではない。具体的には、アルミナ、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、及びこれらを含む複合酸化物、等が挙げられる。顔料の平均粒子径は1μm以下である微粒子顔料を主成分として用いることが好ましい。
【0029】
なお、本発明において好適なアルミナ水和物は、例えば、下記一般式(1)により表されるものである。
【0030】
Al23-n(OH)2n・mH2O (1)
上記式中、nは0、1、2又は3のいずれかを表し、mは0〜10、好ましくは0〜5の範囲にある値を表す。ただし、mとnは同時に0にはならない。mH2Oは、多くの場合、結晶格子の形成に関与しない脱離可能な水相を表すものであるため、mは整数又は整数でない値をとることができる。又、この種の材料を加熱するとmは0の値に達することがあり得る。
【0031】
アルミナ水和物は、公知の方法で製造することができる。一般的な例として、アルミニウムアルコキシドの加水分解やアルミン酸ナトリウムの加水分解を行う方法が挙げられる(米国特許4,242,271号明細書、米国特許4,202,870号明細書)。また、他の例として、アルミン酸ナトリウムの水溶液に硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム等の水溶液を加えて中和を行う方法が挙げられる(特公昭57−447605号公報)。
【0032】
本発明において好適なアルミナ水和物は、X線回折法による分析でアルミナ水和物構造若しくは非晶質を示すものが好ましい。特に、特開平7−232473号公報、特開平8−132731号公報、特開平9−66664号公報、特開平9−76628号公報等に記載されているアルミナ水和物が好ましい。
【0033】
また、アルミナ水和物は、製造過程において細孔物性の調整がなされる。例えば、アルミナ水和物をインク受容材として用いるためには、細孔容積が0.3〜1.0ml/gであるアルミナ水和物を用いることが好ましく、より好ましくは0.35〜0.9ml/gである。また、BET法で求められるBET比表面積が50〜350m2/gであるアルミナ水和物を用いることが好ましく、より好ましくは100〜250m2/gである。前記BET法とは、気相吸着法による粉体の表面積測定法の一つであり、吸着等温線から1gの試料のもつ総表面積、即ち比表面積を求める方法である。通常吸着気体としては、窒素ガスが多く用いられ、吸着量を被吸着気体の圧、又は容積の変化から測定する方法が最も多く用いられている。多分子吸着の等温線を表すのに最も著名なものは、Brunauer、Emmett、Tellerの式であってBET式と呼ばれ比表面積決定に広く用いられている。BET式に基づいて吸着量を求め、吸着分子1個が表面で占める面積をかけて、比表面積が得られる。
【0034】
また、アルミナ水和物の平均粒子径が1nm以上であることが好ましい。また、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。ここでの平均粒子径は、アルミナ水和物を電子顕微鏡によって観察したときの一次粒子の投影面積と等しい面積を有する円の直径の、数平均粒子径を示すものである。
【0035】
また、本発明の顔料分散液に用いる金属化合物が付着した無機顔料において、無機顔料を構成する金属元素(A)に対する金属化合物を構成する金属元素(B)の原子数比率(B/A)は0.001以上であることが好ましい。この比率が0.001よりも小さい場合には、十分な耐ガス性、耐光性の効果が得られない場合がある。また、0.003以上が好ましく、0.05以下が好ましい。
【0036】
また、本発明の顔料分散液に含まれる金属化合物が付着した無機顔料濃度は、5〜30質量%の範囲が好ましい。
【0037】
次に、本発明で用いる金属化合物が付着した無機顔料を作製する方法について、無機顔料としてアルミナ水和物を用いた場合を例にとって説明する。
【0038】
本発明で用いる金属化合物が付着した無機顔料は、例えば、金属化合物存在下で水酸化アルミニウム又はアルミナ水和物を水熱合成処理する工程を有する方法で作製することができる。こうすることで、アルミナ水和物の結晶を成長させながら金属化合物を結晶構造中に取り込むことができ、付着した金属化合物の溶出を抑制できる。なお、水熱合成における温度、圧力の条件に関しては、Al23−H2O系状態図でアルミナ水和物相の安定な領域である条件が好ましく、水熱処理の温度は100℃以上、圧力は100気圧以下であることが望ましい。温度を100℃以上とすることで、アルミナ水和物を得ることができる。特に上限については、限定していないが、350℃以上の温度に長時間処理するとアルミナ水和物相はα−アルミナ相に変化する。したがって、温度条件は100℃以上、350℃未満が好ましい。また、圧力が100気圧を越えた場合、得られる粒子の形状が肉厚の大きな粗大なものとなる傾向があるため、100気圧以下が好ましい。また、開放系では、水熱系が成り立たないので、好ましくは10気圧以上が好ましい。
【0039】
本発明で用いる金属化合物が付着した無機顔料は、金属化合物の存在下でアルミナ水和物を乾燥する工程を有する方法で作製することもできる。具体的には、アルミナ水和物と金属化合物を含む分散液を攪拌器で混合する。また、必要に応じて、各種の酸、アルカリ等のpH調整剤、非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤等の分散安定化剤等を添加してもよい。次いで、これらの混合状態の分散液を乾燥する。乾燥する方法としては、炉を用いる方法やスプレードライ法等があるが、無機顔料表面に金属化合物が均一に付着するため、スプレードライ法がより好ましい。スプレードライ法による加熱温度、即ち環境温度(気相温度)は、用いた溶剤を蒸発させる温度が好ましく、100℃以上が好ましい。また、350℃以上の温度ではアルミナ水和物相がα−アルミナ相に変化するため、300℃以下が好ましい。
【0040】
また、本発明で用いる金属化合物が付着した無機顔料は、金属イオンとアルミナ水和物を含む分散液に、アンモニア水等のアルカリを加えて中和する工程を有する方法で作製することもできる。
【0041】
本発明で用いる金属化合物が付着した無機顔料は、上記のような方法で作製した後、必要に応じて水等の溶剤により洗浄することで、無機顔料表面に付着せずに残っている過剰な金属化合物を除去することが好ましい。この洗浄の程度により、顔料分散液中に金属化合物が溶解していない、又は顔料分散液中に金属化合物が溶解して存在している金属イオンの濃度が0.05mol/Lを超えないように調整することができる。
【0042】
さらに、本発明において無機顔料は、カップリング剤を用いて表面が疎水化されていることが好ましい。こうすることで耐湿性を向上させることができる。
【0043】
無機顔料表面をカップリング剤で処理すると、無機顔料表面にカップリング剤の金属、例えばSi、Ti、Al又はZrを介して疎水基を結合させることができる。これらのカップリング剤の好ましい例として以下のものが挙げられる。
【0044】
シラン系カップリング剤は一般式RpSiX4-p(Rは置換されていても良いアルキル基、アルケニル基又はアリール基等の炭化水素基を、Xは加水分解基を、pは1〜3の整数を示す。ただしpが2及び3の場合のRは同一でも異なっていても良く、pが1及び2場合のXは同一でも異なっていてもよい。)で表される。Rはアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキニル基、アラルキル基、アミノ基、ジアミノ基、エポキシ基、メルカプト基、グリシドキシ基、メタクリロキシ基、ウレイド基、クロル基、シアノ基等を有する炭化水素基が挙げられる。Xとしては、アルコキシル基、アルコキシアルコキシル基、ハロゲン又はアシルオキシ基から選択される加水分解可能な置換基、例えばメトキシ基、エトキシ基、クロル基等が挙げられる。
【0045】
さらにシラン系カップリング剤の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジクロロシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、オクタデシルジメチル[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライドなどのジアルコキシシラン化合物、ジアシルオキシシラン化合物、トリアルコキシシラン化合物、トリアシルオキシシラン化合物、トリフェノキシシラン化合物又はその加水分解物が挙げられる。
【0046】
また、トリメチルメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルエトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシランなどのアルコキシシラン化合物及びその加水分解物、トリメチルクロロシラン、メチルビニルクロロシラン、フェニルトリクロロシランなどのクロロシラン化合物、ヘキサメチルジシラザン、N−トリメチルシリルアセトアミド、トリメチルシリルイミダゾールなどのシラザン類及びその加水分解物も好適に無機顔料の表面処理に使用することができる。
【0047】
チタネート系カップリング剤としては、例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネートが好ましい。
【0048】
また、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシルメチル−1−ブチル)−ビス(ジトリデシル)ホスフェートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、チタンアセチルアセトネート、ポリチタンアセチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテートエチルエステル、チタントリエタノールアミネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタニウムジプロポキシビスアセチルアセトネート等のチタンのアルコキシド又はキレート化合物ならびにそれらの加水分解物が挙げられる。
【0049】
アルミニウム系カップリング剤としては、例えば、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、アルミニウムジイソプロポキシビスアセチルアセトネート、モノ−sec−ブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリブトキシド等のアルミニウムのアルコキシド又はキレート化合物ならびにそれらの加水分解物を挙げることができる。
【0050】
ジルコニウム系カップリング剤としては、例えば、ジルコニウムアセチルアセトネート、アセチルアセトンジルコニウムブチレート、ステアリン酸ジルコニウムブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムジブトキシビスアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート、ジルコニウムテトラキスエチルラクテート、ジルコニウムジブトキシビスエチルラクテート等のジルコニウムのアルコキシド又はキレート化合物ならびにそれらの加水分解物が挙げられる。
【0051】
これらのカップリング剤は単独であるいは2種以上混合して使用しても良い。
【0052】
カップリング剤の添加量は、無機顔料の諸物性とカップリング剤の種類によって種々異なるものであるが、概して無機顔料に対して0.1〜20質量%、好ましくは0.5〜5質量%の範囲で使用すれば、本発明における表面処理の効果が得られる。
【0053】
本発明におけるアルミナ水和物表面のカップリング処理方法は、大きく分けて乾式法、湿式法、スプレー法の3種類の方法がある。
【0054】
乾式法とは、無機顔料粉体を市販のヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、Vブレンダーなどの混合機に投入し、よく攪拌されている中へ、カップリング剤の水溶液(または溶剤希釈液あるいは原液)を噴霧あるいは点滴により添加する方法である。
【0055】
湿式法とは、無機顔料を水などの媒体中に分散させ、高速攪拌を行ってスラリー状態になったところへカップリング剤溶液を添加し、乾燥させて処理する方法である。
【0056】
スプレー法とは、高温状態の無機顔料にカップリング剤の水溶液をスプレーにより噴霧添加する方法であり、100℃以上、300℃以下で乾燥する工程を有する。
【0057】
いずれの方法においても、所望の被覆割合のカップリング処理した無機顔料が得られるが、湿式法により、水系中で加水分解しながら表面処理する方法が、均一処理が可能であることから好ましい。
【0058】
より具体的にこの湿式法を説明する。まず、無機顔料粉体とカップリング剤及び、水、又はメタノール、エタノール、ブタノールなどの有機溶媒、あるいは水とこれら有機溶媒の混合物を加える。その後、ホモミキサー、アジテーター、湿式ボールミル、超音波分散機、HEIDONスリーワンモーター(新東科学製)等を用い、懸濁せしめる。必要であれば、無機酸などの酸触媒を添加しても良い。
【0059】
カップリング剤による表面処理を容易ならしめるための条件によっては、カップリング剤の沸点あるいは分解点を下回る温度で加温してもよい。この温度はカップリング剤の種類によって異なるが、一般に20〜200℃の範囲の温度であり、その時間は0.05〜6時間である。
【0060】
次いで、懸濁後の無機顔料及び溶媒の乾燥は、20〜200℃の範囲の温度でロータリー式エバポレーターなどを用いて加熱排気処理するか、懸濁液の上澄みを分別あるいは濾過する。さらに得られた無機顔料スラリーを20〜300℃の範囲の温度で、温度プログラム式乾燥器やエバポレーターなどで加熱処理するか、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥することによって乾燥させられる。無機顔料のカップリング剤による表面処理の加熱温度は、好ましくは40℃以上、より好ましくは80以上である。また、好ましくは200℃以下であり、より好ましくは150℃以下である。また加熱時間は温度や処理量によって異なるが、0.05〜6時間が好ましい。
【0061】
次に、本発明の顔料分散液について説明する。本発明の顔料分散液は、先に説明した金属化合物が付着した無機顔料が分散媒に分散した分散体である。分散媒としては、水が好ましい。
【0062】
一般に、金属化合物が付着した無機顔料などの顔料を分散させるにあたり、酸を用いることで顔料が容易に解膠され、均一な分散体となり得る。したがって、本発明の顔料分散液に酸を添加することが好ましい。解膠剤となる酸としては、一般に知られている酸の中で、酢酸、蟻酸、シュウ酸などの有機酸;硝酸、塩酸、硫酸などの無機酸が挙げられる。
【0063】
さらに、バインダーを含むことが好ましい。バインダーとしては、ポリビニルアルコール又はその変性体;澱粉又はその変性体;ゼラチン又はその変性体;カゼイン又はその変性体;アラビアゴム;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース誘導体;SBRラテックス、NBRラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体などの共役ジエン系共重合体ラテックス;官能基変性重合体ラテックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのビニル系共重合体ラテックス;ポリビニルピロリドン;無水マレイン酸又はその共重合体;アクリル酸エステル共重合体等の従来公知のバインダーを使用することができる。なお、本発明においては、バインダーとしてポリビニルアルコールを使用することが好ましく、ポリビニルアルコールと他の従来公知のバインダーを併用することも好ましい。
【0064】
バインダーの配合量は、無機顔料に対して、3〜50質量%とすることが好ましい。
【0065】
本発明の顔料分散液には、必要に応じて、その他の添加剤を添加することもできる。その他の添加剤として、架橋剤、増粘剤、pH調整剤、潤滑剤、流動性変性剤、界面活性剤、消泡剤、離型剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを挙げることができる。
【0066】
なお、本発明の顔料分散液をインクジェット用記録媒体のインク受容層形成用塗工液として用いる場合、架橋剤としてホウ酸化合物を1種以上含有させることは、インク受容層の形成上極めて有効である。ホウ酸化合物としては、オルトホウ酸(H3BO3)、メタホウ酸、ジホウ酸、及びホウ酸塩等が使用できる。ホウ酸塩としては、上記ホウ酸の水溶性の塩であることが好ましい。具体的には、例えば、ホウ酸のナトリウム塩(Na247・10H2O、NaBO2・4H2O等)、カリウム塩(K247・5H2O、KBO2等)等のアルカリ金属塩;ホウ酸のアンモニウム塩(NH449・3H2O、NH4BO2等)等を挙げることができる。顔料分散液の経時安定性と、クラック発生の抑制効果の点から、オルトホウ酸を用いることが好ましい。
【0067】
ホウ酸化合物の配合量は、バインダーに対して、オルトホウ酸として1.0〜15.0質量%とすることが好ましい。ただし、この範囲内でも製造条件等によってはクラックが発生する場合があるので、適宜調整をする。又、上記範囲を超える場合は、顔料分散液の経時安定性が低下する場合がある。即ち、インクジェット用記録媒体の生産時には顔料分散液を長時間に渡って使用するので、ホウ酸化合物の含有量が多いとその間に顔料分散液の粘度の上昇やゲル化物の発生が起こすことがある。したがって、場合によっては、顔料分散液の交換やコーターヘッドの清掃等が頻繁に必要となり、生産性が著しく低下してしまう。
【0068】
次に、本発明のインクジェット用記録媒体について説明する。本発明のインクジェット用記録媒体は、上記の顔料分散液を基材に塗工して形成されたインク受容層を有するものである。
【0069】
基材としては、例えば、フィルム、キャストコート紙、バライタ紙、レジンコート紙(両面がポリオレフィンなどの樹脂で被覆された樹脂皮膜紙)などの紙類からなるものなどが好ましく使用される。フィルムとしては、例えば、透明な熱可塑性樹脂フィルムを使用することができる。透明な熱可塑性樹脂フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ乳酸、ポリスチレン、ポリアセテート、ポリ塩化ビニル、酢酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネートなどが挙げられる。
【0070】
また、上記以外にも、適度なサイジングが施された紙である無サイズ紙やコート紙、無機物の充填若しくは微細な発泡により不透明化されたフィルムからなるシート状物質(合成紙など)を使用することもできる。また、ガラス又は金属などからなるシートなどを使用しても良い。さらに、これらの基材とインク受容層との接着強度を向上させるため、基材の表面にコロナ放電処理や各種アンダーコート処理を施すことも可能である。
【0071】
このような基材に、上記の顔料分散液を塗工してインク受容層が形成される。高いインク吸収性を考慮して、顔料分散液の乾燥塗工量は30g/m2以上であることが好ましく、また60g/m2以下であることが好ましい。乾燥塗工量が30g/m2未満の場合は、特に、シアン、マゼンタ、イエローの3色のインクに、ブラックインクの他、複数の淡色インクが加えられているようなプリンタに用いた場合に、十分なインク吸収性が得られない場合がある。即ち、インク溢れが生じ、ブリーディングとなる場合が発生したりする場合がある。一方、乾燥塗工量が60g/m2を超える場合には、クラックの発生を抑え切れないことが生じる恐れがある。なお、乾燥塗工量が30g/m2以上であると高温高湿環境下においても十分なインク吸収性を示すインク受容層が得られ、乾燥塗工量が60g/m2以下であるとインク受容層の塗工ムラがさらに生じにくくなり、安定した厚みのインク受容層を製造できる。
【0072】
このように形成されるインク受容層は、高インク吸収性、高定着性等の目的及び効果を達成する上から、その細孔物性が、下記の条件を満足するものであることが好ましい。まず、インク受容層の細孔容積は0.1〜1.0ml/gであることが好ましい。即ち、細孔容積が上記範囲に満たない場合は十分なインク吸収性能が得られず、インク吸収性の劣ったインク受容層となり、場合によっては、インクが溢れ、画像に滲みが発生する恐れがある。一方、細孔容積が上記範囲を超える場合は、インク受容層にクラックや粉落ちが生じ易くなるという傾向がある。又、インク受容層のBET比表面積は20〜450m2/gであることが好ましい。上記範囲にない場合は十分な光沢性が得られないことがあり、又ヘイズが増加するため(透明性が低下するため)、画像が「白もや」がかかったようになる恐れがある。さらに、この場合には、インク中の染料吸着性の低下を生じる恐れもある。一方、上記範囲を超えると、インク受容層にクラックが生じ易くなる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例、比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0074】
(基材の作製例)
下記のようにして基材を作製した。まず、下記組成の紙料を調整した。
・パルプスラリー(濾水度450mlCSF(Canadian Standarad Freeness)の広葉樹晒しクラフトパルプ(LBKP)80質量部と、濾水度480mlCSFの針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)20質量部との混合物)
100質量部
・カチオン化澱粉 0.6質量部
・重質炭酸カルシウム 10質量部
・軽質炭酸カルシウム 15質量部
・アルキルケテンダイマー 0.1質量部
・カチオン性ポリアクリルアミド 0.03質量部
次に、この紙料を長網抄紙機で抄造し3段のウエットプレスを行った後、多筒式ドライヤーで乾燥した。この後、サイズプレス装置で、固形分が1.0g/m2となるように酸化澱粉水溶液を含浸させ、乾燥させた。この後、マシンカレンダー仕上げをして、坪量170g/m2、ステキヒトサイズ度100秒、透気度50秒、ベック平滑度30秒、ガーレー剛度11.0mNの基紙Aを得た。
【0075】
基紙A上に、低密度ポリエチレン(70質量部)と、高密度ポリエチレン(20質量部)と、酸化チタン(10質量部)からなる樹脂組成物を25g/m2塗布した。さらに、裏面に、高密度ポリエチレン(50質量部)と、低密度ポリエチレン(50質量部)からなる樹脂組成物を25g/m2塗布することにより、樹脂被覆した基材を得た。
【0076】
(実施例)
(無機顔料1の作製)
無機顔料としてアルミナ水和物(Sasol社製、商品名:Disperal HP14)60gと純水800gを混合し、この混合物に水酸化マグネシウム0.71gを添加した。なお、このアルミナ水和物は、疑アルミナ水和物構造を有するものであって、BET比表面積は180m2/g、平均1次粒子径14nmである。得られた分散液を、内容積1Lのオートクレーブに入れ、撹拌回転数50rpm、温度200℃、時間24時間の条件で水熱合成処理を行った。内容物を冷却し、取り出した後に、スプレードライ法で乾燥して、水酸化マグネシウムが付着したアルミナ水和物(無機顔料1)を得た。乾燥温度(気相温度)は170℃とした。誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)により、得られた無機顔料1中のアルミニウム元素に対するマグネシウム元素の原子数比率(Mg/Al)は0.011であることが確認できた。また、無機顔料1の酸機能評価を、アンモニアガスを用いた昇温脱離試験(TPD測定)で測定した結果、水酸化マグネシウムが付着していないアルミナ水和物に比べて酸機能が低下したことが確認できた。
【0077】
(無機顔料2の作製)
無機顔料としてアルミナ水和物(Sasol社製、商品名:Disperal HP14)60gと純水800gを混合し、この混合物に酢酸カルシウム・1水和物0.71gを添加した。得られた分散体に0.1Nアンモニア水を滴下してpHが約8になるように中和して、洗浄した。洗浄は、固形分と純水1Lを混合し、この混合物を遠心分離機により固液分離して固体を回収する方法で行った。洗浄は合計3回行った。さらに固形分を純水に分散し、この分散液をスプレードライ法で乾燥して、水酸化カルシウムが付着したアルミナ水和物(無機顔料2)を得た。乾燥温度(気相温度)は170℃とした。誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)により、得られた無機顔料2中のアルミニウム元素に対するカルシウム元素の原子数比率(Ca/Al)は0.004であることが確認できた。また、無機顔料2の酸機能評価を、アンモニアガスを用いた昇温脱離試験(TPD測定)で測定した結果、水酸化カルシウムが付着していないアルミナ水和物に比べて酸機能が低下したことが確認できた。
【0078】
(無機顔料3の作製)
無機顔料としてアルミナ水和物(Sasol社製、商品名:Disperal HP14)60gと純水800gを混合し、この混合物に酢酸マグネシウム・4水和物2.75gを添加した。得られた分散体をスプレードライ法で乾燥した。乾燥温度(気相温度)は170℃とした。次に、乾燥した粉末と純水1Lを混合し、この混合物を遠心分離機により固液分離して固体を回収する方法で洗浄を行った。洗浄は合計3回行い、酢酸マグネシウムが付着したアルミナ水和物(無機顔料3)を得た。誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)により、得られた無機顔料3中のアルミニウム元素に対するマグネシウム元素の原子数比率(Mg/Al)は0.003であることが確認できた。また、無機顔料3の酸機能評価を、アンモニアガスを用いた昇温脱離試験(TPD測定)で測定した結果、酢酸マグネシウムが付着していないアルミナ水和物に比べて酸機能が低下したことが確認できた。
【0079】
(無機顔料4の作製)
無機顔料としてアルミナ水和物(Sasol社製、商品名:Disperal HP14)60gと純水800gを混合し、この混合物に酢酸マグネシウム・4水和物0.7gを添加した。得られた分散体をスプレードライ法で乾燥して、酢酸マグネシウムが付着したアルミナ水和物(無機顔料4)を得た。乾燥温度(気相温度)は170℃とした。誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)により、得られた無機顔料4中のアルミニウム元素に対するマグネシウム元素の原子数比率(Mg/Al)は0.003であることが確認できた。また、無機顔料4の酸機能評価を、アンモニアガスを用いた昇温脱離試験(TPD測定)で測定した結果、酢酸マグネシウムが付着していないアルミナ水和物に比べて酸機能が低下したことが確認できた。
【0080】
(無機顔料5〜7の作製)
無機顔料3の作製において、酢酸マグネシウム・4水和物2.75gを、酢酸ストロンチウム・0.5水和物1g、酢酸ランタン・1.5水和物10g、オキシ塩化ジルコニウム・8水和物15gに各々変更して、金属化合物が付着した無機顔料5〜7を作製した。誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)により、得られた無機顔料5〜7中のアルミニウム元素に対するストロンチウム元素、ランタン元素、ジルコニウム元素の原子数比率は各々0.005、0.022、0.046であることが確認できた。また、無機顔料5〜7の酸機能評価を、アンモニアガスを用いた昇温脱離試験(TPD測定)で測定した結果、金属化合物が付着していないアルミナ水和物に比べて酸機能が低下したことが確認できた。
【0081】
(無機顔料8の作製)
無機顔料3の作製において、無機顔料としてアルミナ水和物を気相法シリカ(商品名:アエロジル380、日本アエロジル株式会社製)に変更し、酢酸マグネシウム・4水和物2.75gを酢酸バリウム1.28gに変更して、無機顔料8を作製した。なお、この気相法シリカのBET比表面積は380m2/g、平均1次粒子径7nmであり、無機顔料8は、酢酸バリウムが付着した気相法シリカである。誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)により、得られた無機顔料8中のケイ素元素に対するバリウム元素の原子数比率(Ba/Si)は0.005であることが確認できた。また、無機顔料8の酸機能評価を、アンモニアガスを用いた昇温脱離試験(TPD測定)で測定した結果、酢酸バリウムが付着していない気相法シリカに比べて酸機能が低下したことが確認できた。
【0082】
(無機顔料9の作製)
無機顔料4の作製において、酢酸マグネシウム・4水和物の添加量を4gに変更して、酢酸マグネシウムが付着したアルミナ水和物(無機顔料9)を作製した。誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)により、得られた無機顔料9中のアルミニウム元素に対するマグネシウム元素の原子数比率(Mg/Al)は0.019であることが確認できた。また、無機顔料9の酸機能評価を、アンモニアガスを用いた昇温脱離試験(TPD測定)で測定した結果、酢酸マグネシウムが付着していないアルミナ水和物に比べて酸機能が低下したことが確認できた。
【0083】
(無機顔料10の作製)
無機顔料4の作製において、酢酸マグネシウム・4水和物の添加量を5.5gに変更して、酢酸マグネシウムが付着したアルミナ水和物(無機顔料10)を作製した。誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)により、得られた無機顔料10中のアルミニウム元素に対するマグネシウム元素の原子数比率(Mg/Al)は0.026であることが確認できた。また、無機顔料10の酸機能評価を、アンモニアガスを用いた昇温脱離試験(TPD測定)で測定した結果、酢酸マグネシウムが付着していないアルミナ水和物に比べて酸機能が低下したことが確認できた。
【0084】
(顔料分散液1の作製)
まず、純水中に、無機顔料1をアルミナ水和物として23質量%となるように添加した。さらに、酢酸を、アルミナ水和物に対して2.0質量%となるように酢酸を加え攪拌し、顔料分散液1を作製した。
【0085】
(顔料分散液2〜7、9及び10の作製)
顔料分散液1の作製と同様にして、無機顔料2〜7、9及び10を用いて、顔料分散液2〜7、9及び10を作製した。
【0086】
(顔料分散液8の作製)
まず、純水中に、無機顔料8を気相法シリカとして10質量%となるように添加した。さらに、ジメチルジアリルアンモニウムクロライドホモポリマー(商品名:シャロールDC902P、第一工業製薬株式会社製)を、気相法シリカの固形分に対して4.0質量%となるように加え、高圧ホモジナイザーで分散し、顔料分散液8を作製した。
【0087】
(顔料分散液11の作製)
顔料分散液1において、無機顔料1にかえて、無機顔料としてアルミナ水和物(Sasol社製、商品名:Disperal HP14)を用いた以外は顔料分散液1と同様にして顔料分散液11を作製した。
【0088】
(顔料分散液12の作製)
顔料分散液8において、無機顔料8にかえて、無機顔料としてアルミナ水和物を気相法シリカ(商品名:アエロジル380、日本アエロジル株式会社製)を用いた以外は顔料分散液8と同様にして顔料分散液12を作製した。
【0089】
(顔料分散液13の作製)
顔料分散液1において、さらにビニルトリメトキシシランをアルミナ水和物に対して2.0質量%加えて、顔料分散液13を作製した。
【0090】
〔顔料分散液の評価〕
1)顔料分散液中に存在している金属イオンの濃度
顔料分散液1〜10、及び13中の金属イオンの量を誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)で調べた。なお、金属イオンの量は、顔料分散液を遠心分離機により固体と液体を分離し、液体中の金属イオンの量を誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)で分析した。その結果を表1にまとめた。
【0091】
2)粘度
粘度の測定は、顔料分散液1〜13を粘度計(東機産業製、商品名:PB80型粘度計)を用い、25℃環境下で行った。その結果を表1にまとめた。
【0092】
3)分散平均粒子径
分散平均粒子径の測定は、顔料分散液1〜13を純水で固形分濃度が0.5質量%になるように希釈して、濃厚系粒径アナライザー(大塚電子製、商品名:FPAR−3000)を用い、25℃環境下で行った。その結果を表1にまとめた。
【0093】
【表1】

【0094】
表1より、無機顔料に金属化合物が付着し、顔料分散液中に溶解している金属イオン濃度が0.05mol/Lを超えない顔料分散液1〜8、及び13は、粘度が全て50mPa・s以下であることが分かった。これらは、分散平均粒子径が150nm以下で、金属化合物が付着していない無機顔料を用いた顔料分散液である顔料分散液11や顔料分散液12と同等であった。それに対し、顔料分散液中に溶解している金属イオン濃度が0.05mol/Lを超える顔料分散液9と10は、無機顔料が強く凝集して、分散平均粒子径が大きくなり増粘した。また、顔料分散液10はゲル化するために、基材に塗工してインクジェット用記録媒体を作製するのは困難であった。
【0095】
(実施例1〜7、9:インクジェット用記録媒体1〜7、16の作製)
ポリビニルアルコールPVA235(商品名、クラレ(株)製、重合度:3500、ケン化度:88%)をイオン交換水中に溶解させて、固形分8.0質量%のPVA水溶液を得た。そして、顔料分散液1〜7、13に、前記作製したPVA溶液を、アルミナ水和物の固形分に対してPVA固形分換算で10質量%となるように混合した。さらに、3.0質量%ホウ酸水溶液を、アルミナ水和物の固形分に対してホウ酸固形分換算で1.7質量%となるように混合して顔料分散液を作製した。得られた顔料分散液をダイコーターにより乾燥塗工量35g/m2になるように基材に塗工して、実施例1〜7、9のインクジェット用記録媒体1〜7、16を作製した。
【0096】
(実施例8:インクジェット用記録媒体8の作製)
ポリビニルアルコールPVA235(商品名、クラレ(株)製、重合度:3500、ケン化度:88%)をイオン交換水中に溶解させて、固形分8.0質量%のPVA水溶液を得た。そして、顔料分散液8に前記作製したPVA溶液を、気相法シリカの固形分に対してPVA固形分換算で20質量%となるように混合した。さらに、3.0質量%ホウ酸水溶液を、気相法シリカの固形分に対してホウ酸固形分換算で6.0質量%となるように混合して顔料分散液を作製した。得られた顔料分散液をダイコーターにより乾燥塗工量35g/m2になるように基材に塗工して、実施例8のインクジェット用記録媒体8を作製した。
【0097】
(比較例1:インクジェット用記録媒体9の作製)
顔料分散液1にかえて、顔料分散液11を用いた以外はインクジェット用記録媒体1と同様にして、比較例1のインクジェット用記録媒体9を作製した。
【0098】
(比較例2:インクジェット用記録媒体10の作製)
顔料分散液8にかえて、顔料分散液12を用いた以外はインクジェット用記録媒体8と同様にして、比較例2のインクジェット用記録媒体10を作製した。
【0099】
(比較例3:インクジェット用記録媒体11の作製)
アルミナ水和物を含む溶液に水酸化マグネシウムを添加した顔料分散液を用いて、インクジェット用記録媒体を作製した。
【0100】
まず、純水中に、アルミナ水和物(Sasol社製、商品名:Disperal HP14)を23質量%となるように添加した。さらに、水酸化マグネシウムを、アルミニウム元素に対するマグネシウム元素の原子数比率(Mg/Al)が0.011になるように加え攪拌した。さらに、アルミナ水和物に対して2.0質量%となるように酢酸を加え攪拌し、アルミナ水和物分散体を得た。
【0101】
次いで、ポリビニルアルコールPVA235(商品名、クラレ(株)製、重合度:3500、ケン化度:88%)をイオン交換水中に溶解させて、固形分8.0質量%のPVA水溶液を得た。そして、上記で調製したアルミナ水和物分散体に、前記作製したPVA溶液を、アルミナ水和物の固形分に対してPVA固形分換算で10質量%となるように混合した。さらに、3.0質量%ホウ酸水溶液を、アルミナ水和物の固形分に対してホウ酸固形分換算で1.7質量%となるように混合して、顔料分散液を作製した。
【0102】
得られた顔料分散液をダイコーターにより乾燥塗工量35g/m2になるように基材に塗工して、比較例3のインクジェット用記録媒体11を作製した。即ち、インクジェット用記録媒体11は、水に難溶性の化合物をアルミナ水和物に接触させずにインク受容層に含有させたものである。
【0103】
(比較例4〜5:インクジェット用記録媒体12〜13の作製)
インクジェット用記録媒体11の作製において、水酸化マグネシウムにかえて、酢酸カルシウム・1水和物、酢酸ストロンチウム・0.5水和物を用いた以外は同様にして、比較例4〜5のインクジェット用記録媒体12〜13を作製した。なお、比較例4において、アルミニウム元素に対するカルシウム元素の原子数比率(Ca/Al)は0.004とし、比較例5において、アルミニウム元素に対するストロンチウム元素の原子数比率(Sr/Al)は0.005とした。即ち、インクジェット用記録媒体12〜13は、水溶性の化合物をインク受容層に含有させたものである。
【0104】
(比較例6:インクジェット用記録媒体14の作製)
シリカを含む溶液に酢酸バリウムを添加した顔料分散液を用いて、インクジェット用記録媒体を作製した。
【0105】
まず、純水中に、気相法シリカ(商品名:アエロジル380、日本アエロジル株式会社製)を10質量%となるように添加した。さらに、酢酸バリウムを、ケイ素元素に対するバリウム元素の原子数比率(Ba/Si)が0.005になるように加えた。さらに、ジメチルジアリルアンモニウムクロライドホモポリマー(商品名:シャロールDC902P、第一工業製薬株式会社製)を、気相法シリカの固形分に対して4.0質量%となるように加え、高圧ホモジナイザーで分散し、シリカ微粒子分散体を作製した。
【0106】
次いで、ポリビニルアルコールPVA235(商品名、クラレ(株)製、重合度:3500、ケン化度:88%)をイオン交換水中に溶解させて、固形分8.0質量%のPVA水溶液を得た。そして、上記で調製したシリカ微粒子分散体に前記作製したPVA溶液を、気相法シリカの固形分に対してPVA固形分換算で20質量%となるように混合した。さらに、3.0質量%ホウ酸水溶液を、気相法シリカの固形分に対してホウ酸固形分換算で6.0質量%となるように混合して、顔料分散液を作製した。
【0107】
得られた顔料分散液をダイコーターにより乾燥塗工量35g/m2になるように基材に塗工して、比較例6のインクジェット用記録媒体14を作製した。即ち、インクジェット用記録媒体14は、水溶性の化合物をインク受容層に含有させたものである。
【0108】
(比較例7:インクジェット用記録媒体15の作製)
顔料分散液1にかえて、顔料分散液9を用いた以外はインクジェット用記録媒体1と同様にして、比較例7のインクジェット用記録媒体15を作製した。
【0109】
〔インクジェット用記録媒体の評価〕
上記実施例1〜9及び比較例1〜7で作製したインクジェット用記録媒体1〜16を用い、4)記録物の画像保存性(耐ガス性、耐光性、及び耐湿性)、5)画像濃度、の2項目を評価した。また、得られた評価結果を表2にまとめた。
【0110】
4)記録物の画像保存性
(耐ガス性と耐光性評価のための記録物の作製)
上記実施例、比較例で作製したインクジェット用記録媒体1〜16の記録面に、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー各色の単色パッチを、印字濃度(OD)がそれぞれほぼ1.0になるに印字して、記録物を作製した。なお、印字は、インクジェット方式を用いたフォト用プリンタ(商品名:PIXUS IP8600、インク:BCI−7、キヤノン製)を用いた。
【0111】
(耐ガス性試験)
上記の記録物に対して、オゾンウエザオメーター(型式:OMS−HS、スガ試験機社製)を用いて、オゾン暴露試験を行った。
・試験条件
暴露ガス組成:オゾン10ppm
試験時間:8時間
試験槽内温湿度条件:23℃、50%RH
・耐オゾン性の評価方法
上記の記録物の試験前後の画像濃度を分光光度計(商品名:スペクトリノ、グレタグマクベス社製)を用いて測定し、次の式より濃度残存率を求め、以下に記述する判定基準に基づき判定した。
【0112】
濃度残存率(%)=(試験後の画像濃度/試験前の画像濃度)×100
[判定基準]
A シアン濃度残存率80%以上。
B シアン濃度残存率60%以上80%未満。
C シアン濃度残存率60%未満。
【0113】
(耐光性試験)
上記の記録物に対して、キセノンフェザーメーター(型式:XL−750、スガ試験機(株)製)を用いて、キセノン暴露試験を行った。
・試験条件
積算照射:40000KLX
試験槽内温湿度条件:23℃、50%RH
・耐キセノン性の評価方法
上記の記録物の試験前後の画像濃度を分光光度計(商品名:スペクトリノ、グレタグマクベス社製)を用いて測定し、次の式より濃度残存率を求め、以下に記述する判定基準に基づき判定した。
【0114】
濃度残存率(%)=(試験後の画像濃度/試験前の画像濃度)×100
[判定基準]
A シアン濃度残存率80%以上。
B シアン濃度残存率60%以上80%未満。
C シアン濃度残存率60%未満。
【0115】
(耐湿性評価)
上記実施例、比較例で作製したインクジェット用記録媒体1〜16の記録面に、インク打ち込み量200%の黒色パッチを印字した印画物を、気温30℃、湿度80%の環境に1週間保管し、黒色パッチ周囲のマイグレーションの状態を目視で観察した。なお、印字は、インクジェット方式を用いたフォト用プリンタ(商品名:PIXUS IP8600、インク:BCI−7、キヤノン製)を用いた。
【0116】
[判定基準]
A にじみがほぼ視認できない。
B にじみは視認できるが、僅かであり実用レベルである。
C にじみが大きく、実用に適さない。
【0117】
5)画像濃度
上記実施例、比較例で作製したインクジェット用記録媒体1〜16の記録面に、インクジェット方式を用いたフォト用プリンタ(商品名:PIXUS IP8600、インク:BCI−7、キヤノン製)を用いて、ブラックのベタ画像の印字を行った。この後、ブラック印字部の反射濃度をX−Rite社製310TR(商品名)で測定した。
【0118】
【表2】

【0119】
表2の結果より、Mg、Ca、Sr、Ba、La又はZrを含む金属化合物が付着した無機顔料を用いた実施例1〜9では、該金属化合物を含まない無機顔料を用いた比較例1、及び2に比べて、記録媒体の耐ガス性と耐光性が良好で、画像濃度も同等であった。なお、実施例1〜9で基材上に塗工した顔料分散液中に溶解している金属イオン濃度は0.05mol/L以下である。
【0120】
一方、水に難溶性の化合物をアルミナ水和物を含むインク受容層に含有させた比較例3や、水溶性の化合物をインク受容層に含有させた比較例4〜6では、記録媒体の耐ガス性と耐光性は確認できるものの不十分であり、画像濃度は低下した。
【0121】
また、Mg含む金属化合物が付着した無機顔料を含み、溶解している金属イオン濃度が0.05mol/Lを超える顔料分散液を塗工した比較例7では、記録媒体の耐ガス性と耐光性は確認できたが、画像濃度は低下した。
【0122】
以上より、金属化合物が付着した無機顔料を含み、金属イオンの濃度が0.05mol/L以下である顔料分散液を用いることで、色濃度が高く、優れた耐ガス性と耐光性を有する記録媒体が得られることが分かった。特に、無機顔料がMg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれる1以上の元素を含む化合物が付着することで、優れた耐ガス性と耐光性を有する記録媒体が得られることが分かった。
【0123】
なお、表2に示した耐ガス性と耐光性の評価はシアンについて行ったものであるが、ブラック、マゼンタ、イエローインクにおいても、シアンと同様に実施例1〜9の記録媒体は比較例1〜7の記録媒体に比べて向上することが確認できた。
【0124】
また、さらにカップリング剤を用いて表面を疎水化した無機顔料を用いた実施例9において耐湿性が向上することが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】アルミナ水和物の表面に付着水が存在しない場合の状態を示す模式図である。
【図2】アルミナ水和物の表面に付着水が存在する場合の状態を示す模式図である。
【図3】アンモニアを用いた昇温脱離試験(TPD)におけるアンモニアに由来する質量スペクトル(m/z=16)の測定結果である。aはアルミナ水和物のチャートであり、bは酢酸マグネシウム4水和物が付着したアルミナ水和物のチャートである。
【図4】アンモニアを用いた昇温脱離試験(TPD)における水に由来する質量スペクトル(m/z=18)の測定結果である。aはアルミナ水和物のチャートであり、bは酢酸マグネシウム4水和物が付着したアルミナ水和物のチャートである。
【図5】本発明のメカニズムのイメージを示す模式図である。(8−1)は金属化合物が付着していない無機顔料にオゾンガスが作用した時の表面状態をイメージした図であり、(8−2)は本発明の金属化合物が付着した無機顔料にオゾンガスが作用した時の表面状態をイメージした図である。
【図6】顔料分散液中に金属化合物が溶解して存在している金属イオンの濃度と、その顔料分散液中の無機顔料の平均分散粒子径との関係を示す図である。
【図7】顔料分散液中に金属化合物が溶解して存在している金属イオンの濃度と、その顔料分散液を用いて作製したインクジェット用記録媒体に印字した際の色濃度との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0126】
501 ルイス酸点
502 塩基点
601 ブレンステッド酸点
801 無機顔料
802 水分子
803 オゾンガス
804 ラジカル
805 有機物
806 金属化合物
807 水和物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散液に無機顔料が分散されている顔料分散液であって、前記無機顔料には金属化合物が付着しており、前記顔料分散液中の前記金属化合物の金属イオン濃度は0.05mol/Lを超えないことを特徴とする顔料分散液。
【請求項2】
前記金属化合物が付着した無機顔料は、
無機顔料を、金属化合物存在下で、100℃以上、350℃未満、の条件で水熱合成処理する工程
を有する方法により得られるものである請求項1に記載の顔料分散液。
【請求項3】
前記金属化合物が付着した無機顔料は、
無機顔料と金属化合物を含む分散液をスプレードライ法により100℃以上、300℃以下で乾燥する工程
を有する方法により得られるものである請求項1に記載の顔料分散液。
【請求項4】
前記金属化合物が付着した無機顔料は、
金属イオンと無機顔料を含む分散液にアルカリを加えて中和する工程
を有する方法により得られるものである請求項1に記載の顔料分散液。
【請求項5】
前記金属化合物が、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれる1以上の元素を含む請求項1乃至4のいずれか1項に記載の顔料分散液。
【請求項6】
前記無機顔料が、カップリング剤を用いて表面が疎水化されたものである請求項1乃至5のいずれか1項に記載の顔料分散液。
【請求項7】
前記無機顔料が、アルミナ水和物である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の顔料分散液。
【請求項8】
前記顔料分散液が、バインダーを含む顔料分散液である請求項1乃至7のいずれか1項に記載の顔料分散液。
【請求項9】
請求項8に記載の顔料分散液を基材に塗工して形成されたインク受容層を有するインクジェット用記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−173912(P2009−173912A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330717(P2008−330717)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】