説明

顔料捺染パイル敷物

【課題】パイルの先端と先端の間からパイル繊維の生地色がパイル面に露顕しない顔料捺染パイル敷物を得る。
【解決手段】パイル敷物のパイル面11に顔料インク12による印捺図柄を描出し、その顔料インクによる印捺図柄の全面に樹脂溶液13を付与し、その樹脂溶液をパイル根元付近14まで滲み込ませる。パイル面に印捺した顔料インクの浸透深さhが1mm未満であっても、その顔料18がパイル繊維10に付着した樹脂溶液に移行し、パイル繊維に沿ってパイル根元付近14まで樹脂溶液と共に移行した顔料によって着色され、パイルの先端と先端の間からパイル繊維の生地色がパイル面に露顕せず、又、顔料インクが樹脂溶液の塗膜によって被覆されて容易には剥離脱落せず、染料捺染パイル敷物と同程度に耐変褪色性と耐摩耗性に優れた顔料捺染パイル敷物が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイル布帛のパイル面に顔料インクを印捺して図柄を描出した顔料捺染パイル敷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パイル面に染料インクを印捺して図柄を描出した染料捺染パイル布帛は公知である。
パイル面に印捺した染料インクの浸透深さは、概してパイル面から2mm前後であり、更に深く浸透させるために、親水性・疎水性バランスHLBが11〜19の界面活性剤をパイル面に予め付与する方法(例えば、特許文献1参照)や、パイル面にガイドロールを当ててパイル面を割り、その割り開かれたパイルとパイルの隙間に染料インクを噴射し飛着させる方法(例えば、特許文献2参照)等がとられる。
【0003】
染料インクに代えて顔料インクをパイル面に印捺することは知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
パイルを尖端形(所謂ペンシルポイント)にするために、或いは、パイルを補強して押し倒され難くするためにパイル面に樹脂溶液を付与することは知られている(例えば、特許文献4、5、6参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平07−119046号公報(特許第3240776号)
【特許文献2】特開昭61−006363号公報(特公昭62−050592)
【特許文献3】特開2001−040586号公報(特許第3686555号)
【特許文献4】特開昭55−08536号公報
【特許文献5】特開平04−018171号公報
【特許文献6】特開平03−152276号公報(特公平07−006138)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
染料捺染において、染料インクは、その印捺された布帛を加熱して染料を発色させる加熱発色処理後に水洗除去され、その際、染料インクの印捺前後に付与した界面活性剤その他の浸透剤も水洗除去されるので、染料インクの浸透性を高めるために界面活性剤等の浸透剤をパイル布帛に付与しても格別問題は生じない。
【0007】
しかし、染料捺染とは異なり、加熱発色処理を必要としない顔料捺染では、顔料インクの印捺後に水洗処理は行われないので、顔料インクの浸透性を高めるために界面活性剤等の浸透剤をパイル布帛に付与することは無意味であって行われない。
【0008】
又、染料捺染とは異なり、染着性を有しない顔料を使用する顔料捺染では、その顔料を繊維に固着するために一種の接着剤であるバインダー樹脂が、顔料と共に顔料インクの必須成分になる。
そのバインダー樹脂は一種の接着剤であり、印刷インクが裏面に滲み出ることなく薄葉紙の表面に印刷された印刷物を見ても明らかなように、印刷インクの一種でもある顔料インクは、バインダー樹脂によって増粘されており、染料インクに比して著しくパイル層に対する浸透性を欠き、パイル面に印捺した顔料インクの浸透深さはパイル面から1mm未満になる。
そのように顔料インクが浸透し難いので、顔料捺染パイル敷物では、パイルの先端と先端の間から顔料インクに着色されていない未着色のパイルの生地色が露顕し易く、その露顕する生地色によってパイル面の美観が損なわれる。
そして、顔料は、バインダー樹脂を介してパイル繊維の先端の1mm未満の部分に接着しているに過ぎないので、擦られて脱落し易く、顔料捺染パイル敷物は、耐摩擦堅牢度を欠く。
【0009】
そして、顔料捺染では、一種の接着剤であるバインダー樹脂が顔料インクに配合されているので、顔料捺染パイル敷物のパイル面に樹脂溶液を付与し、パイルを補強すると言うことは行われない。
【0010】
しかし、本発明者は、顔料インクの剥離脱落を防ぎ、耐摩擦堅牢度や耐洗濯性を高めるために、顔料捺染パイル敷物に塩化ビニル系樹脂溶液を付与したところ、その付与した塩化ビニル系樹脂を介して顔料がパイル繊維の長さ方向に沿ってパイル層内部に奥深く移行し、パイルの先端と先端の間からパイルの生地色が露顕しない顔料捺染パイル敷物が得られ、その顔料のパイル層内部への移行が、その付与した塩化ビニル系樹脂溶液の含有する可塑剤によって促される、との知見を得て本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る顔料捺染パイル敷物は、出入口床敷きマット、水回りマット、足踏み健康マット、ダストコントロールマット、タイルカーペット、コントラクトカーペットに使用されるものであり、(イ) パイル敷物のパイル面11に顔料インク12による印捺図柄が描出されており、(ロ) そのパイル面11に描出された印捺図柄の全面に樹脂溶液13が付与されており、(ハ) パイル面11に印捺された顔料インク12が、その樹脂溶液13によって被覆されていることを第1の特徴とする。
【0012】
本発明に係る顔料捺染パイル敷物の第2の特徴は、上記第1の特徴に加え、(ニ) パイル面11の印捺図柄の全面に付与される樹脂溶液13が可塑剤を含有しており、(ホ) その樹脂溶液13が、パイル面11を構成しているパイル繊維10に沿ってパイル面11から3mm以上入り込んだ部分(k)まで滲み込んでいる点にある。
【0013】
本発明に係る顔料捺染パイル敷物の第3の特徴は、上記第1と第2の何れかの特徴に加え、(ヘ) パイル繊維10が、樹脂溶液13に被覆されている顔料インク12の顔料18によって、パイル面11から2mm以上入り込んだ部分(k)まで着色されている点にある。
【0014】
本発明に係る顔料捺染パイル敷物の第4の特徴は、上記第1と第2と第3の何れかの特徴に加えて、(ト) パイル層15を構成しているパイル17が、単繊維繊度が15〜30dtexの太手の繊維16を有する点にある。
【0015】
本発明に係る顔料捺染パイル敷物の第5の特徴は、上記第1と第2と第3と第4の何れかの特徴に加えて、(チ) パイル17がカットパイルであり、(リ) パイル面11からパイル根元14に至るパイル層15の厚みが6mm以下である点にある。
【0016】
本発明に係る顔料捺染パイル敷物の第6の特徴は、上記第1と第2と第3と第4の何れかの特徴に加えて、(ヌ) パイル17がループパイルであり、(ル) パイル面11からパイル根元14に至るパイル層15の厚みが4mm以下である点にある。
【0017】
本発明に係る顔料捺染パイル敷物の第7の特徴は、上記第1と第2と第3と第4と第5と第6の何れかの特徴に加えて、(オ) 樹脂溶液13が塩化ビニル系樹脂溶液である点にある。
【0018】
本発明に係る顔料捺染パイル敷物の第8の特徴は、上記第7の特徴に加えて、(ワ)
塩化ビニル系樹脂溶液が塩化ビニル系樹脂ペーストゾルである点にある。
【0019】
本発明に係る顔料捺染パイル敷物の第9の特徴は、上記第1と第2と第3と第4と第5と第6と第7と第8の何れかの特徴に加えて、(カ) パイル面11からパイル根元14に至るパイル層15の嵩比重が0.03〜0.07であり、(ヨ) パイル繊維間10・10の空隙の容積がパイル層全体の容積に占める繊維間空隙容積比率が93〜97容積%である点にある。
【0020】
本発明に係る顔料捺染パイル敷物の第10の特徴は、上記第1と第2と第3と第4と第5と第6と第7と第8と第9の特徴に加えて、(タ) パイル面11に付与された樹脂溶液13の固形分の容積がパイル層全体の容積に占める樹脂占有容積比率が6〜12容積%であり、(レ) 樹脂溶液13の付与されたパイル層15に介在する空隙の容積が樹脂溶液13の付与されたパイル層全体の容積に占めるパイル層内残存空隙容積比率が80〜92容積%である点にある。
【発明の効果】
【0021】
本発明(第1の特徴)によると、顔料インク12の顔料18が、樹脂溶液13の塗膜によって被覆されてパイル繊維10に固着するので、容易には剥離脱落することがなく、印捺図柄の変褪色が抑えられ、染料捺染パイル敷物に比して耐洗濯堅牢度と耐摩耗性に優れた顔料捺染パイル敷物が得られる。
【0022】
本発明(第2と第3の特徴)によると、印捺された顔料インク12の浸透深さhが1mm未満であっても、その顔料18がパイル繊維10に付着した樹脂溶液13の塗膜に移行し、パイル根元14の近く(k)まで移行した顔料18によって着色されるので、パイルの先端と先端の間からパイル繊維10の生地色がパイル面11に露顕しない。
【0023】
このように、本発明によると、染料捺染と同様にパイル面11から3mm以上深く沈んだ部分までパイル繊維10が顔料インク12の顔料18によって着色されるが、本発明では、染料捺染と異なり加熱発色処理や水洗処理を必要としないので、パイル面11への顔料インク12による図柄の印捺から樹脂溶液13の塗布と加熱処理仕上げまでの連続した一工程で、染料捺染パイル敷物と同等の美観を備え、而も、染料捺染パイル敷物に比して耐洗濯堅牢度と耐摩耗性に優れた顔料捺染パイル敷物19が経済的に得られる。
【0024】
本発明(第4の特徴)によると、パイル17に含まれている単繊維繊度が15〜30dtexの太手の繊維16を伝って樹脂溶液13がパイル層15に深く含浸し易く、又、樹脂溶液13によってパイル面11が固めに仕上がっても、元々単繊維繊度が15〜30dtexの太手の固い繊維16の先端がパイル面11に突き出ているので、格別パイル面11が固めに仕上がったとの印象を与えない。
パイル17は、その単繊維繊度が15〜30dtexの太手の繊維16だけで構成されていてもよく、そのように太手の繊維16だけで構成されたパイル面11は指圧感があって足裏の血行を促し健康にもよく、出入り口に使用するときはダストコントロールマットとして高いダスト捕捉効果を発揮することにもなる。
【0025】
パイル繊維10に付着した顔料18がパイル根元付近14まで移行するとしても自ずと限度があり、移行するパイル面11からの距離は7mm前後が限度となる。
パイル層15の厚みが10mmを超える場合には、パイルが押し倒され易くなり、押し倒されたパイルの未着色の根元部分が露顕してパイル面の美観が損なわれ易くなる。
この点、本発明(第5の特徴)では、パイル層15の厚みを6mm以下にしたので、パイルが押し倒されるとしてもパイル根元付近の未着色部分がパイル面に露顕することはない。
【0026】
更に本発明(第6の特徴)では、パイル層15の厚みを4mm以下にすると共に、パイル17をカットパイルに比して形態が安定していて押し倒され難いループパイルとしたので、パイル根元付近の未着色部分がパイル面に露顕することはない。
又、ループパイルは、カットパイルに比して形態が安定しており、カットパイルのようにパイル先端が開毛していないので、ループパイルの先端に顔料インク12や樹脂溶液13が塗着しても、カットパイルの場合のように、パイル先端がバインダー樹脂成分20や樹脂溶液固形分13によって固められたと言う印象を与えることはない。
特に、素足が触れることのないコントラクトカーペット用のパイル敷物では、パイル面の触感や風合いは格別重視されず、代わってパイル面の耐摩耗性が重視される。
この点で、本発明の顔料捺染パイル敷物は、パイル面がバインダー樹脂成分20や樹脂溶液固形分13に保護されて耐摩耗性に優れ、特に、パイル長が4mm前後となるループパイルになる顔料捺染パイル敷物は、そのパイルの形態が安定している点でも、タイルカーペットに好適である。
【0027】
本発明(第7の特徴)によると、塩化ビニル系樹脂は、パイル面に印捺した顔料インク12の種々のバインダー樹脂成分20に馴染み易く、顔料インク12の顔料18が塩化ビニル系樹脂13の塗膜を介してパイル根元14の近く(k)まで移行し易く、パイル繊維10の生地色がパイル面11に露顕しない顔料捺染パイル敷物19を容易に得ることが出来る。
【0028】
本発明(第8の特徴)によると、塩化ビニル系樹脂ペーストゾルには可塑剤を多量に配合することが出来、その可塑剤に促されて顔料インク12の顔料18がパイル根元14の近く(k)まで移行し易くなる。
そして、塩化ビニル系樹脂ペーストゾルの皮膜(13)は、塩化ビニル系樹脂水分散液(エマルジョン)や塩化ビニル系樹脂有機溶剤溶液による皮膜に比して種々のパイル繊維10に馴染み易く、パイル繊維10に強固に接着し、洗濯時に剥離脱落することがなく、耐久性に富む顔料捺染パイル敷物19が得られる。
【0029】
慣用されるパイル敷物のパイル面からパイル根元に至るパイル層の嵩比重は概して0.03〜0.10となっており、そのパイル繊維間の空隙がパイル層に占める繊維間空隙容積比率は概して90〜97容積%となっており、パイル層には防汚剤や帯電防止剤、難燃剤等の機能性物質を含浸させるために必要とされる繊維間空隙がある。
この点で、本発明(第9の特徴)では、その在来のパイル敷物よりもパイル層の嵩比重を低く抑え、パイル層の嵩比重を0.03〜0.07とし、繊維間空隙容積比率を93〜97容積%としたので、樹脂溶液13がパイル層15に深く含浸し、パイル繊維10のパイル面11から3mm以上深く沈んだ部分まで顔料インク12の顔料18によって着色することが出来る。
又、そのように、パイル層15の嵩比重を0.03以上にすると、パイルが押し倒されることがあっても、パイル根元付近の未着色部分がパイル面に露顕し難くなる。
従って、パイル根元付近の未着色部分がパイル面に露顕し難くするためには、パイル層15の嵩比重を0.03以上にすると共に、パイル層15の厚みを6mm以下にするとよく、特に、パイル17をループパイルとし、そのパイル層の厚みを4mm以下にすると効果的である。
ここに、パイル層の嵩比重は、パイル層の質量をパイル層の容積で除して示されるパイル層の嵩密度(単位;g/cm3 )をパイル繊維の嵩比重(単位;g/cm3 )で除して示される。
【0030】
本発明(第9の特徴)において、パイル層の嵩比重を0.03以上とし、繊維間空隙容積比率を97容積%以下とするのは、パイル層の嵩比重が0.03未満になり、繊維間空隙容積比率が97容積%を超える場合には、パイル密度が粗くなってパイルが押し倒され易く、パイル根元付近がパイル面に露顕し易くなるためである。
従って、本発明は、タオル織機によって得られるパイル密度の粗いパイル布帛には適用されない。
又、本発明(第9の特徴)において、パイル層の嵩比重を0.07以下とし、繊維間空隙容積比率を93容積%以上とするのは、パイル層の嵩比重が0.07を超え、繊維間空隙容積比率が93容積%未満となる場合には、パイル層が緻密で樹脂溶液をパイル層に均一に含浸し難く、又、顔料捺染パイル敷物が硬く仕上がってパイル敷物としての風合いが損なわれ易くなるためである。
【0031】
本発明(第10の特徴)によると、樹脂溶液13の固形分の容積がパイル層全体の容積に占める樹脂占有容積比率が6容積%以上であれば、樹脂溶液13の塗膜がパイル面11に対する防汚効果を発揮し、その付着率が12容積%以下であれば、樹脂溶液13によってパイル面の風合いが格別損なわれることがなく、汚れが洗い流し易くなり、パイル面に零れた水がパイル根元14へと沈み込み易くなり、炊事場等の水回りマットに適した顔料捺染パイル敷物19が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
前記のように、パイル層15の厚みは3〜7mmに、好ましくは5mm前後(4〜6mm)にする。
パイル層15の厚みが7mm以下であれば、顔料18がパイル根元付近14まで移行し、パイル根元付近14が未着色の生地色のまま残されず、又、パイル17が直立し易く、パイル17が倒れてもパイル根元付近14がパイル面11に露になり難いためである。
パイル17を倒れ難くする上ではパイル層15の嵩比重を0.04以上にし、又、塩化ビニル系樹脂溶液13をパイル根元付近14まで含浸させる上では嵩比重を0.07以下することが望ましい。
【0033】
本発明は、染料捺染と異なり加熱発色処理や水洗処理を必要とせず、染料捺染パイル敷物と同等のパイル層内奥深くパイル繊維が着色された顔料捺染パイル敷物19が経済的に得られることを特徴とする。
従って、本発明において、「顔料」とは、金属錯体酸化鉄その他の金属酸化物系顔料(Zn−Fe,Zn−Fe−Cr,Co−Al,Co−Al−Cr,Cu−Cr,Cu−Fe−Mn等)、パール(雲母)顔料、体質顔料(酸化チタン,カーボンブラック)等の着色固体微粒子のほか、アルコールやグリコールエーテル等の有機溶剤に溶解されて筆記具の着色剤に使用されているフタロシアニン系染料、キサンテン系染料、アゾ系その他の金属錯体系染料等の加熱発色処理を必要としない着色剤を意味する。
【0034】
これらの顔料18のバインダー樹脂には、塩化ビニル系樹脂、アクリル酸エステル系樹脂、ケトン系樹脂、フェノール系樹脂、テルペンフェノール系樹脂、ロジン系樹脂、キシレン系樹脂、ブチラール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ウレタン系樹脂、合成ゴム系樹脂などが使用される。
【0035】
それらのバインダー樹脂は、樹脂溶液13に適用することも出来る。好ましい樹脂溶液13は、塩化ビニル系樹脂溶液とアクリル系樹脂溶液である。なかでも、塩化ビニル系樹脂溶液13は、塩化ビニル系樹脂水分散液(エマルジョン)、塩化ビニル系樹脂有機溶剤溶液、塩化ビニル系樹脂ペーストゾルの何れのタイプのものであってもよいが、可塑剤が顔料の移行促進作用をなす点でも、可塑剤の混練された塩化ビニル系樹脂ペーストゾルの適用が推奨される。
塩化ビニル系樹脂溶液13を付与したパイル敷物を加圧ロール等によって加圧することは、塩化ビニル系樹脂溶液13をパイル根元付近14まで含浸させる上で有効である。
【0036】
塩化ビニル系樹脂ペーストゾルやアクリル系樹脂ペーストゾルの可塑剤には、フタル酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤、安息香酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤、ポリアクリル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤等が使用される。
【0037】
樹脂溶液(固形分)13のパイル層15への付与量は、パイル層15の質量の100〜200質量%にし、塩化ビニル系樹脂13のパイル層15の容積に占める樹脂占有容積比率が8〜10容積%となり、パイル層15に介在する空隙のパイル層内残存空隙容積比率が83〜89容積%となり、塩化ビニル系樹脂13によってパイル17が毛玉状に固まらないようにする。
樹脂溶液13によってパイル17が毛玉状に固まらないようにするためには、単繊維繊度が15dtexの太手の繊維16だけでパイル17を構成するとよく、又、そのように太手の繊維16だけでパイル17を構成することは、パイル層に占める繊維間空隙容積比率を高めて塩化ビニル系樹脂13をパイル層15に深く浸透するようにするために有効であり、塩化ビニル系樹脂13を付与したパイル層15に残存する空隙のパイル層内残存空隙容積比率を高め、水がパイル面に溜まり難い水回りマットを得る上でも効果的である。
【実施例】
【0038】
単繊維繊度20dtex、総繊度2900dtexのナイロンマルチフィラメント糸をパイル糸とするパイル層厚み5mm、パイル目付け300g/m2 、パイル層嵩比重が0.052、パイル層内繊維間空隙容積比率が95容積%のタフテッドパイル布帛のパイル面11に、アクリル系樹脂をバインダー樹脂20とする顔料インク12を印捺して加熱乾燥後、塩化ビニル系ペースト樹脂100重量部、可塑剤(DOP)80重量部、バリウム・亜鉛系安定剤2重量部に成る比重1.16塩化ビニル系樹脂ペーストゾル13を500g/m2 塗布し、加圧ロールに通してパイル層15を押圧し、パイル17を掻き起こして180℃にて10分間加熱し、塩化ビニル系樹脂ペーストゾル13をゲル化させ、パイル層内樹脂占有容積比率が8.6容積%、パイル層内残存空隙容積比率が86.2容積%の顔料捺染パイル敷物19を得る。
【0039】
この顔料捺染パイル敷物19の塩化ビニル系樹脂13を付与する前の顔料インク12のパイル面11からの含浸深さhは1mm未満であったが、塩化ビニル系樹脂13の付与後においてはパイル面11から4mm沈んだパイル根元14付近まで顔料18によってパイル繊維16が着色されていた。
パイル面11には単繊維繊度20dtexのナイロンパイル繊維16の先端が突出し、そのナイロンパイル繊維16の先端が塩化ビニル系樹脂13に支えられており、パイル面11にザラツキによる指圧感が感じられ、足裏の血行が促され、又、パイル面11にはダストコントロールマットとしてのダスト捕捉機能が認められ、パイル面11に垂らした水はパイル根元14へと沈み込み易く、パイル面に水が溜まりが出来ず、足裏の血行を促す足踏み健康マット、出入口床敷きマットやダストコントロールマット、炊事場等の水回りマット等に適した顔料捺染パイル敷物19が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る顔料捺染パイル敷物の斜視図であり、一部を円で囲んで拡大して図示している。
【符号の説明】
【0041】
10:パイル繊維
11:パイル面
12:顔料インク
13:塩化ビニル系樹脂
14:パイル根元
15:パイル層
16:太手のパイル繊維
17:パイル
18:顔料
19:顔料捺染パイル敷物
20:バインダー樹脂
h :顔料インクの浸透深さ
k :顔料の浸透深さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ) パイル敷物のパイル面に顔料インク(12)による印捺図柄が描出されており、
(ロ) そのパイル面(11)に描出された印捺図柄の全面に、樹脂溶液(13)が付与されており、
(ハ) パイル面(11)に印捺された顔料インク(12)が、その樹脂溶液(13)によって被覆されていることを特徴とする顔料捺染パイル敷物。
【請求項2】
(ニ) パイル面(11)の印捺図柄の全面に付与される樹脂溶液(13)が可塑剤を含有しており、
(ホ) その樹脂溶液(13)が、パイル面(11)を構成しているパイル繊維(10)に沿ってパイル面(11)から3mm以上入り込んだ部分(k)まで滲み込んでいる前掲請求項1に記載の顔料捺染パイル敷物。
【請求項3】
パイル繊維(10)が、樹脂溶液(13)に被覆されている顔料インク(12)の顔料(18)によって、パイル面(11)から2mm以上入り込んだ部分(k)まで着色されている前掲請求項1と2の何れかに記載の顔料捺染パイル敷物。
【請求項4】
パイル層(15)を構成しているパイル(17)が、単繊維繊度が15〜30dtexの太手の繊維(16)を有することを特徴とする前掲請求項1と2と3の何れかに記載の顔料捺染パイル敷物。
【請求項5】
パイル(17)がカットパイルであり、パイル面(11)からパイル根元(14)に至るパイル層(15)の厚みが6mm以下である前掲請求項1と2と3と4の何れかに記載の顔料捺染パイル敷物。
【請求項6】
パイル(17)がループパイルであり、パイル面(11)からパイル根元(14)に至るパイル層(15)の厚みが4mm以下である前掲請求項1と2と3と4の何れかに記載の顔料捺染パイル敷物。
【請求項7】
樹脂溶液(13)が塩化ビニル系樹脂溶液であることを特徴とする前掲請求項1と2と3と4と5と6の何れかに記載の顔料捺染パイル敷物。
【請求項8】
塩化ビニル系樹脂溶液が塩化ビニル系樹脂ペーストゾルであることを特徴とする前掲請求項7に記載の顔料捺染パイル敷物。
【請求項9】
パイル面(11)からパイル根元(14)に至るパイル層(15)の嵩比重が0.03〜0.07であり、パイル繊維間(10・10)の空隙の容積がパイル層全体の容積に占める繊維間空隙容積比率が93〜97容積%であることを特徴とする前掲請求項1と2と3と4と5と6と7と8の何れかに記載の顔料捺染パイル敷物。
【請求項10】
パイル面(11)に付与された樹脂溶液(13)の固形分の容積がパイル層全体の容積に占める樹脂占有容積比率が6〜12容積%であり、樹脂溶液(13)の付与されたパイル層(15)に介在する空隙の容積が樹脂溶液(13)の付与されたパイル層全体の容積に占めるパイル層内残存空隙容積比率が80〜92容積%であることを特徴とする前掲請求項1と2と3と4と5と6と7と8と9の何れかに記載の顔料捺染パイル敷物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−215668(P2009−215668A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58836(P2008−58836)
【出願日】平成20年3月8日(2008.3.8)
【出願人】(391019131)株式会社岡長 (2)
【Fターム(参考)】